JP2013255925A - 中空ばね用シームレス鋼管の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法は、C:0.2〜0.7%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.5〜3%、Mn:0.1〜2%、Cr:3%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含まない)、およびN:0.02%以下(0%を含まない)を夫々含有し、鋼管内表層部における残留オーステナイト含有率が5体積%以下であると共に、鋼管内表層部に存在する円相当直径で500nm以上の炭化物の個数密度が1.8×10-2個/μm2以下である鋼管に、減面率15〜60%の冷間加工を施すこと。
【選択図】なし
Description
まず中空化手法としては、熱間押出しによって素管を作製した後、圧延または抽伸等の冷間加工、および軟化焼鈍、酸洗処理を複数回繰り返し、所定のサイズ(外径、内径、長さ)まで成形する。
上記の熱間押出しにおいて、その加熱温度は1050℃未満とすることが推奨される。このときの加熱温度が1050℃以上となると、トータル脱炭が多くなる。加熱温度は好ましくは、1020℃以下、より好ましくは1000℃以下である。好ましい加熱温度の下限は特に限定されないが、加熱温度が低すぎると押出しが困難となるため、好ましくは900℃以上である。
上記のような条件で、熱間押出しを行なった後、720℃までを比較的速やかに冷却することによって、冷却中の脱炭を軽減することができる。こうした冷却効果を発揮させるためには、720℃までの平均冷却速度を1.5℃/秒以上、好ましくは2℃/秒以上とする。720℃までの平均冷却速度の上限は特に限定されないが、製造コストや制御容易性の観点から工業的には5℃/秒以下が好ましい。なお、720℃以降の冷却は特に限定されず、例えば0.1〜3℃/秒程度で冷却すればよい。
上記のように熱間押出しによって素管を作製した後、冷間加工を施すが、このときの冷間加工としては、抽伸や冷間圧延を繰り返し実施し、所定寸法の鋼管を製造してもよいし、1回の冷間加工で所定寸法の鋼管を製造してもよい。
上記冷間加工によって所定寸法の鋼管を製造した後、更に焼鈍を行って、粗大炭化物の個数密度や残留オーステナイト量を制御する。また焼鈍を行うことによって、材料の硬度低減を図ることができる。上記の冷間加工後は、材料の硬度が高くなり加工し難くなるため焼鈍を行なう。この際、焼鈍をArや窒素、水素などの非酸化性雰囲気で実施することで、焼鈍中に発生する脱炭を顕著に軽減できる。また、生成スケールが極めて薄くなるため、焼鈍後に実施する酸洗時の浸漬時間を短縮でき、深い酸洗ピット生成抑制に有利である。
上記温度域での焼鈍後の冷却速度を制御して所定の温度域まで冷却することが望ましい。冷却速度を制御することで、耐久性に悪影響を及ぼす残留オーステナイトの生成を更に抑制することができる。具体的には750℃〜600℃の温度域を1℃/秒未満の平均冷却速度で徐冷することにより、高温域で十分に変態を進行させて残留オーステナイトの生成を抑制できる。好ましい平均冷却速度は、0.1℃/秒以上である。なお、本発明では焼鈍終了温度から750℃までの冷却速度、および600℃以降の冷却速度の組み合わせについては特に限定されず、生産性を考慮して適宜設定することができる。したがって750〜600℃以外の温度域では本発明の上記組織等に影響を及ぼさない限り、急冷・徐冷・放冷のいずれでもよい。例えば焼鈍終了後、750℃までを0.5℃/秒〜10℃/秒程度(平均冷却速度)で冷却した後、750℃〜600℃までを上記所定の平均冷却速度で冷却し、その後、放冷してもよい。
上記のような焼鈍を行った後は、材料表層に少なからずスケールが生成しており、圧延、抽伸等の次工程に悪影響を及ぼすため、硫酸や塩酸等を用いて酸洗処理を実施する。ただし、酸洗処理が長くなると、大きな酸洗ピットが生成し、疵として残存することになる。こうした観点から、酸洗時間を短くすることが有利であり、具体的には30分以内とすることが好ましい。
また本発明では、高疲労強度が要求される場合など、必要に応じて、内表面の疵や脱炭層を除去する目的で内表層を研磨・研削する工程を採用してもよい。内表層の研磨・研削量は0.05mm以上、好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.15mm以上とするのがよい。更に必要に応じて脱脂工程や皮膜処理工程などを行ってもよい。
上記工程によって、粗大炭化物、及び残留オーステナイト量が制御された鋼管を作製した後、減面率15〜60%の冷間加工(例えば圧延や抽伸なの加工)を施す。上記耐久性向上効果を得るには、上記所定の粗大炭化物量と残留オーステナイト量を有する鋼管に対して、少なくとも15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上の減面率で冷間加工する必要がある。一方、冷間加工率を高くし過ぎると、耐久性向上効果がかえって減少すると共に、加工硬化によって加工性が低下することから、減面率は60%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下とする。
Cは、高強度を確保するのに必要な元素であり、そのためには0.2%以上含有させる必要がある。C含有量は、好ましくは0.30%以上であり、より好ましくは0.35%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると、延性の確保が困難になので、0.7%以下とする必要がある。C含有量は、好ましくは0.65%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
Siは、ばねに必要な耐へたり性の向上に有効な元素であり、本発明で対象とする強度レベルのばねに必要な耐へたり性を得るには、Si含有量を0.5%以上とする必要がある。好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上である。しかしながら、Siは脱炭を促進させる元素でもあるため、Siを過剰に含有させると鋼材表面の脱炭層形成を促進させる。その結果、脱炭層削除のためのピーリング工程が必要となるので、製造コストの面で不都合である。こうしたことから、本発明ではSi含有量の上限を3%以下とした。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.2%以下である。
Mnは、脱酸元素として利用されると共に、鋼材中の有害元素であるSとMnSを形成して無害化する有益な元素である。このような効果を有効に発揮させるには、Mnは0.1%以上含有させる必要がある。好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.20%以上である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、偏析帯が形成されて材質のばらつきが生じる。こうしたことから、本発明ではMn含有量の上限を2%以下とした。好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。
冷間加工性を向上させる観点からは、Cr含有量は少ない程好ましいが、Crは焼戻し後の強度確保や耐食性向上に有効な元素であり、特に高レベルの耐食性が要求される懸架ばねに重要な元素である。こうした効果は、Cr含有量が増大するにつれて大きくなるが、こうした効果を優先的に発揮させるためには、Crは0.2%以上含有させることが好ましい。更に好ましくは0.5%以上とするのがよい。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、過冷組織が発生し易くなると共に、セメンタイトに濃化して塑性変形能を低下させ、冷間加工性の劣化を招く。またCr含有量が過剰になると、セメンタイトとは異なるCr炭化物が形成されやすくなり、強度と延性のバランスが悪くなる。こうしたことから、本発明で用いる鋼材では、Cr含有量を3%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは2.0%以下、更に好ましくは1.7%以下である。
Alは、主に脱酸元素として添加される。また、NとAlNを形成して固溶Nを無害化すると共に組織の微細化にも寄与する。特に固溶Nを固定させるには、N含有量の2倍を超えるようAlを含有させることが好ましい。しかしながら、AlはSiと同様に脱炭を促進させる元素でもあるため、Siを多く含有するばね鋼ではAlの多量添加を抑える必要があり、本発明では0.1%以下とした。好ましくは0.07%以下、より好ましくは0.05%以下である。
Pは、鋼材の靭性や延性を劣化させる有害元素であるため、極力低減することが重要であり、本発明ではその上限を0.02%以下とする。好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.008%以下に抑えるのが良い。なお、Pは鋼材に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%にすることは工業生産上困難である。
Sは、上記Pと同様に鋼材の靭性や延性を劣化させる有害元素であるため、極力低減することが重要であり、本発明では0.02%以下に抑える。好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.008%以下である。なお、Sは鋼に不可避的に含まれる不純物であり、その量を0%とすることは工業生産上困難である。
Nは、Al、Ti等が存在すると窒化物を形成して組織を微細化させる効果があるが、固溶状態で存在すると、鋼材の靭延性及び耐水素脆化特性を劣化させる。本発明では、N量の上限を0.02%とする。好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.0050%以下である。
Bは、鋼材の焼入れ・焼戻し後において旧オーステナイト粒界からの破壊を抑制する効果がある。このような効果を発現させるには、Bを0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、粗大な炭硼化物を形成して鋼材の特性を害する。またBは、必要以上に含有させると圧延材の疵の発生原因にもなる。こうしたことから、B含有量の上限を0.015%以下とした。より好ましくは0.010%以下、更に好ましくは0.0050%以下とするのが良い。
V,TiおよびNbは、C,N,S等と炭・窒化物(炭化物、窒化物および炭窒化物)、或は硫化物等を形成して、これらの元素を無害化する作用を有する。また上記炭・窒化物を形成して中空鋼管製造時の焼鈍工程やばね製造時の焼入れ工程における加熱時にオーステナイト組織を微細化する効果も発揮する。更に、耐遅れ破壊特性を改善するという効果も有する。これらの効果を発揮させるには、Ti,VおよびNbの少なくとも1種を0.02%以上(2種以上含有させるときは合計で0.2%以上)含有させることが好ましい。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、粗大な炭・窒化物が形成されて靭性や延性が劣化する場合がある。よって本発明では、V,TiおよびNbの含有量の上限を、夫々1%以下、0.3%以下、0.3%以下とすることが好ましい。より好ましくは、V:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下である。更には、コスト低減の観点からして、V:0.3%以下、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下とすることが好ましい。
Niは表層脱炭を抑制したり、耐食性を向上するのに有効な元素である。Niは、コスト低減を考慮した場合には、添加を控えるためその下限を特に設けないが、表層脱炭を抑制したり耐食性を向上させる場合には、0.1%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、圧延材に過冷組織が発生したり、焼入れ後に残留オーステナイトが存在し、鋼材の特性が劣化する場合がある。こうしたことから、Niを含有させる場合には、その上限を3%以下とする。コスト低減の観点からは、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下とするのが良い。
Moは焼戻し後の強度確保、靭性向上に有効な元素である。しかしながら、Mo含有量が過剰になると靭性が劣化する。こうしたことからMo含有量の上限は2%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.5%以下とするのが良い。
Ca、MgおよびREM(希土類元素)は、いずれも硫化物を形成し、MnSの伸長を防ぐことで、靭性を改善する効果を有し、要求特性に応じて添加することができる。しかしながら、夫々上記上限を超えて含有させると、逆に靭性を劣化させる。夫々の上限は、Caで0.005%以下、好ましくは0.0030%以下、Mgで0.005%以下、好ましくは0.0030%以下、REMで0.02%以下、好ましくは0.010%以下である。なお、本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
これの元素は、Nと結びついて窒化物を形成し、中空鋼管製造時の焼鈍工程やばね製造時の焼入れ工程における加熱時にオーステナイト組織を微細化する効果がある。但し、いずれも0.1%を超えて過剰に含有させると窒化物が粗大化し、疲労特性を劣化させるため好ましくない。こうしたことから、いずれもその上限を0.1%以下とした。より好ましい上限はいずれも0.050%以下であり、更に好ましい上限は0.025%以下である。
鋼管内表層部の炭化物の個数密度に関しては、任意の横断面(パイプの軸直角断面)を観察するため、切断、樹脂埋め込み、鏡面研磨した後、ピクラール腐食にてエッチングした観察試料を作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)で、内周面の最表面から深さ100μm位置の表層部を観察(倍率3000倍)した。SEM写真に基づき(測定箇所:3箇所)、画像解析ソフト(Image−Pro)を用いて炭化物面積を測定し、円相当直径に換算した。そして円相当直径で500nm以上の炭化物について、個数密度を測定し、平均した。
鋼管内表層の残留オーステナイト量に関しては、任意の横断面(パイプの軸直角断面)を観察するため、切断、樹脂埋め込み、湿式研磨の後、電解研磨仕上げを施した観察試料を作製した。X線回折によって残留オーステナイト量(単位は体積%)を測定した。残留オーステナイト量が5%以下の場合を○、5%超の場合を×と評価した。
上記各シームレス鋼管(2)を中空ばねに付与される熱処理を想定した下記条件で焼入れ・焼き戻しを行い、JIS試験片(JIS Z2274疲労試験片)に加工した。
焼入れ条件:925℃で10分間保持し、その後、油冷
焼戻し条件:390℃で40分間保持し、その後、水冷
上記試験片(焼入れ・焼戻しした試験片)に、応力:900MPa、回転速度:1000rpmで回転曲げ疲労試験を行なった。破断までの繰り返し数が1.0×105回以上を疲労強度が良好(「○」)、1.0×105回までに破断したものを疲労強度が不十分(「×」)として評価した。そして、この評価結果を、表2(「耐久試験結果」)に示す。
Claims (8)
- C:0.2〜0.7%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.5〜3%、Mn:0.1〜2%、Cr:3%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.02%以下(0%を含まない)、およびN:0.02%以下(0%を含まない)を夫々含有し、鋼管内表層部における残留オーステナイト含有率が5体積%以下であると共に、鋼管内表層部に存在する円相当直径で500nm以上の炭化物の個数密度が1.8×10-2個/μm2以下である鋼管に、減面率15〜60%の冷間加工を施すことを特徴とする中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
- 前記化学成分組成を有する鋼材を熱間押し出しした後に冷間加工し、更に焼鈍して冷却することによって前記減面率15〜60%の冷間加工を施す前の前記鋼管を製造する工程を含み、
前記熱間押出しを、加熱温度が1050℃未満、および押出後から720℃までの平均冷却速度が1.5℃/秒以上の条件で行うと共に、
前記焼鈍を、加熱温度900℃〜1100℃の温度域で行い、
前記焼鈍後の冷却を、750℃〜600℃の温度域における平均冷却速度が1℃/秒未満の条件で行うものである請求項1に記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。 - さらに、B:0.015%以下(0%を含まない)を含有する鋼材からなるものである請求項1または2に記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
- さらに、V:1%以下(0%を含まない)、Ti:0.3%以下(0%を含まない)及びNb:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する鋼材からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
- さらに、Ni:3%以下(0%を含まない)および/またはCu:3%以下(0%を含まない)を含有する鋼材からなるものである請求項1〜4のいずれかに記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
- さらに、Mo:2%以下(0%を含まない)を含有する鋼材からなるものである請求項1〜5のいずれかに記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
- さらに、Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)及びREM:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する鋼材からなるものである請求項1〜6のいずれかに記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
- さらに、Zr:0.1%以下(0%を含まない)、Ta:0.1%以下(0%を含まない)及びHf:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する鋼材からなるものである請求項1〜7のいずれかに記載の中空ばね用シームレス鋼管の製造方法。
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