本発明の一実施形態について、[1]では、磁気抵抗効果素子の一例であるMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子について説明し、[2]では、このMTJ素子を記憶素子として備えた磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetic Random Access Memory)について説明する。尚、この説明に際し、図面を参照し、全図にわたり共通する部分には共通する参照符号を付す。
[1]MTJ素子
まず、本発明の一実施形態に係るMTJ素子について説明する。ここでは、[1−1]MTJ素子の概要、[1−2]平面形状、[1−3]断面形状、[1−4]トンネル接合構造、[1−5]層間交換結合構造、[1−6]材料、[1−7]実施例、[1−8]製造方法例について説明する。
[1−1]MTJ素子の概要
図1(a)乃至(c)は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の平面図、断面図及び斜視図を示す。以下に、MTJ素子の概要について説明する。
図1(a)乃至(c)に示すように、本発明の一実施形態に係るMTJ素子10は、少なくとも、磁化の方向が固定された固定層(ピン層)11と、磁化の方向が反転する記録層(フリー層)13と、固定層11及び記録層13に挟まれた非磁性層(例えばトンネル絶縁層)12とを有する。さらに、固定層11の下には、固定層11の磁化を固定するための反強磁性層14が設けられている。
このMTJ素子10は、X方向に延在する延在部10aと、この延在部10aの両側面の例えば中央付近からY方向(X方向に対して垂直な方向)にそれぞれ突出する突出部10b,10cとで構成されており、いわゆる十字型形状となっている。換言すると、MTJ素子10の平面形状において、中央部付近におけるY方向の幅Wが端部におけるY方向の幅W’よりも広くなっている。尚、図1(a)乃至(c)の形状の場合、延在部10aの延在方向であるX方向は、MTJ素子10の磁化容易軸方向であり、突出部10b,10cの突出方向であるY方向は、MTJ素子10の磁化困難軸方向である。
また、MTJ素子10の記録層13の膜厚Tは、式(1)に示すように、5nm乃至20nmであることが望ましい。また、MTJ素子10のアスペクト比L/Wは、式(2)に示すように、1.5乃至2.2であることが望ましい。
5nm≦T≦20nm…(1)
1.5≦L/W≦2.2…(2)
上記式(1)、(2)は、いわゆる十字形状のMTJ素子10のTEG(Test Element Group)における書き込み磁場Hswなどを考慮し、以下のような理由から導き出した。
まず、MTJ素子10のアスペクト比L/Wは、次のように規定する。すなわち、図1(a)の平面形状を例にあげると、X方向の最大の長さをLとし、Y方向の最大の幅をWとし、L/Wをアスペクト比と規定する。ここで、図示する形状のMTJ素子10の場合、長さLは、延在部10aにおけるX方向の両端の側面と側面とをX方向(磁化容易軸方向)で結んだときの最大距離である。また、幅Wは、突出部10bのY方向の端部の側面と突出部10cのY方向の端部の側面とをY方向(磁化困難軸方向)で結んだときの最大距離である。
次に、書き込み磁場の比Hsw/Hcは、次のように規定する。図2に示すように、原点から45度傾いた直線Lとアステロイド曲線Aとが交わる点Pにおける磁化反転に必要な書き込み磁場(容易軸及び困難軸方向における合成磁場)をHswとし、点Qにおける磁化反転に必要な書き込み磁場(容易軸方向のみの磁場)をHcとする。そして、Hsw/Hcを書き込み磁場の比と規定する。
次に、Hcばらつきを考慮すると、1Mビットの素子アレイを実現するためには、Hsw/Hcは0.41以下が望ましいと考えられる。これは、次の理由からである。図3に示すように、まず、基本アステロイド曲線Abaseを基準として、±10%のHcばらつきを考慮し、最大アステロイド曲線Amax、最小アステロイド曲線Aminをそれぞれ規定する。次に、最小アステロイド曲線Aminから求められるX軸切片とY軸切片からそれぞれ垂直な直線L1,L2を引き、これらの直線L1,L2が交わる交点Aを求める。この交点Aが、最大アステロイド曲線Amax上の点Pmaxよりも外側に位置すれば、書き込み動作が実現できる。つまり、図3中の斜線領域Rの面積が書き込みマージンとなり、書き込み動作を実現するには、この書き込みマージンがゼロよりも大きいことが必要となる。そこで、書き込み磁場の比Hsw/Hcに対する書き込みマージンをそれぞれ調べた。その結果、図4に示すように、書き込み磁場の比Hsw/Hcが0.43になると、書き込みマージン(図3の領域Rの面積)は−0.01、すなわち0以下となることが分かった。さらに、書き込み磁場の比Hsw/Hcが0.42の場合、書き込みマージンは0.01となり、非常にマージンが少なく、誤書き込みの恐れがある。このため、書き込みマージンが0.02以上となる0.41以下が最も望ましい書き込み磁場の比Hsw/Hcであると言える。
次に、アスペクト比L/WとHsw/Hcとの関係から、式(1)の下限値及び式(2)の上限値は、次のように導かれる。図5において、記録層13の膜厚Tが3.5nmの場合、アスペクト比L/Wがどの値のときも、Hsw/Hcが0.41より大きくなる。記録層13の膜厚Tが5.0nmの場合及び8.0nmの場合、アスペクト比L/Wが2.2程度まではHsw/Hcが0.41以下となっているが、アスペクト比L/Wが2.2を超えるとHsw/Hcが0.41を超えてしまう。このような結果から、Hsw/Hcが0.41以下である条件を満たすには、記録層13の膜厚Tを5nm以上とし(式(1)の下限値)、アスペクト比L/Wが2.2以下である(式(2)の上限値)ことが望ましいと言える。
次に、式(1)の上限値である、記録層13の膜厚Tが20nm以下であることは、次の理由から導かれる。すなわち、磁性体の特徴によると、膜厚が20nmより厚くなると還流磁区(Vortex)が生じ、ある方向性をもった磁化の向きが変わってしまうので、“0”、“1”を記録する磁気抵抗効果素子としては使用できないことが分かっている(Jing Shi, S. Tehrani and M.R. Schieinfein App. Phys. Lett. 76. 2588-2590 (2000)参照)。このことから、磁気抵抗効果素子として機能させるためには、記録層13の膜厚Tは、20nm以下であることが望ましいと言える。
最後に、式(2)の下限値である、アスペクト比L/Wが1.5以上であることは、次の理由から導かれる。図6は、Hcばらつきとアスペクト比L/Wとの関係を示した実験結果である。図6に示すように、アスペクト比L/Wが1.5よりも小さいと、Hcばらつきが10%を超え、半選択セルの誤書き込みが生じてしまう。従って、Hcばらつきを10%よりも小さくするには、アスペクト比L/Wは1.5以上であることが望ましいと言える。
以上のことから、本発明の一実施形態では、MTJ素子10(少なくとも記録層13)がいわゆる十字型形状であり、MTJ素子10のアスペクト比L/Wが1.5以上で2.2以下であり、記録層13の膜厚Tが5nm以上で20nm以下であることが望ましい。
尚、アスペクト比L/Wは、上述するように、1.5乃至2.2であることが望ましいが、図6の実験結果に着目した場合、次のように規定することも可能である。図6に示すように、アスペクト比L/Wが1.8から2.0までが最もHcばらつきを抑制できていることに着目すれば、アスペクト比L/Wは1.8乃至2.0程度を望まし範囲と規定することも可能である。さらに、図6に示すように、アスペクト比L/Wが2.5以下であれば、Hcばらつきを抑制できていることに着目すれば、アスペクト比L/Wは1.5乃至2.5程度でもよいとも考えられる。
また、記録層13の膜厚Tは、上述するように、5nm乃至20nmが望ましいが、5nm乃至8nmの範囲がさらに望ましい。これは、8nm以下にすると、還流磁区の発生をさらに抑制できるからである。
また、記録層13の膜厚Tが均一でない場合(例えば、中央の膜厚が端部の膜厚よりも厚い場合など)は、最も厚い部分の厚さを式(1)の関係を満たすように規定するのが望ましい。
また、MTJ素子10の全体に対して突出部10b,10cが占める大きさも種々変更することが可能である。例えば、各突出部10b,10cのY方向の最大の長さ(高さ)は、突出部10b,10cとつながる延在部10aのY方向の幅の1/7以上1/3以下とすることができる。また、各突出部10b,10cのX方向の最大の長さ(幅)は、延在部10aのX方向の最大の長さの1/4以上1/2以下とすることができる。
[1−2]平面形状
図7乃至図21は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の平面図を示す。本発明の一実施形態に係るMTJ素子の平面形状は、図1(a)に示すいわゆる十字型形状に限定されず、例えば以下のように種々変更することが可能である。
図7に示すように、MTJ素子10は、X方向に延在する延在部10aと、この延在部10aの一方の側面の例えば中央付近からY方向に突出する突出部10bとで構成されており、いわゆる凸型形状となっている。このように、MTJ素子10の突出部10bは、延在部10aの一方の側面にのみ設けることも可能である。尚、図7の平面形状の場合、アスペクト比L/Wを規定する長さLは、延在部10aにおけるX方向の両端の側面と側面とをX方向(磁化容易軸方向)で結んだときの最大距離で規定され、幅Wは、突出部10bのY方向における端部の側面と延在部10aのY方向における端部の側面とをY方向(磁化困難軸方向)で結んだときの最大距離で規定される。
図8に示すように、MTJ素子10は、X方向に延在する延在部10aと、この延在部10aの両側面からY方向にそれぞれ突出する突出部10b,10cとで構成されており、突出部10b,10cが延在部10aに対して非対称な位置に設けられている。このように、MTJ素子10の突出部10b,10cは、延在部10aに対して対称な位置に設けることに限定されない。但し、できるだけ十字型形状に近づくように、突出部10b,10cは延在部10aの中央付近の側面から突出していることが望ましい。尚、図8の平面形状の場合、アスペクト比L/Wを規定する長さLは、延在部10aにおけるX方向の両端の側面と側面とをX方向(磁化容易軸方向)で結んだときの最大距離で規定され、幅Wは、突出部10bのY方向における端部の側面と突出部10cのY方向における端部の側面とを斜めに結んだ最大距離ではなく、Y方向(磁化困難軸方向)で結んだ最大距離で規定される。
図9に示すように、MTJ素子10は、X方向に延在する延在部10aと、この延在部10aの両側面からY方向にそれぞれ突出する突出部10b,10c,10dとで構成されており、延在部10aの一つの側面に複数の突出部10b,10dが設けられている。このように、MTJ素子10の突出部10b,10c,10dは、延在部10aの両側面にそれぞれ1つずつ設けることに限定されず、また、延在部10aの両側面に同じ数だけ必ずしも設ける必要はない。但し、できるだけ十字型形状に近づくように、突出部10b,10c,10dは延在部10aの中央付近の側面から突出していることが望ましい。尚、図9の平面形状の場合、アスペクト比L/Wを規定する長さLは、延在部10aにおけるX方向の両端の側面と側面とをX方向(磁化容易軸方向)で結んだときの最大距離で規定され、幅Wは、突出部10b,10dのY方向における端部の側面と突出部10cのY方向における端部の側面とを斜めに結んだ最大距離ではなく、Y方向(磁化困難軸方向)で結んだ最大距離で規定される。
図10(a)、(b)、(c)乃至図18(a)、(b)、(c)に示すように、MTJ素子10の延在部10aが楕円形状であってもよく、延在部10a及び突出部10b,10cのコーナーや突出部10b,10cの根元などが丸まっていてもよく、さらに、MTJ素子10の各辺が曲線で構成されていてもよい。尚、図10(a)、(b)、(c)乃至図18(a)、(b)、(c)の平面形状の場合、アスペクト比L/Wを規定する長さLは、延在部10aにおけるX方向の両端の先端と先端とをX方向(磁化容易軸方向)で結んだときの最大距離で規定され、幅Wは、突出部10bのY方向における端部の先端と突出部10cのY方向における端部の先端とをY方向(磁化困難軸方向)で結んだときの最大距離で規定される。
図19に示すように、MTJ素子10の延在部10aが平行四辺形で、突出部10b,10cのコーナーが丸まっていてもよい。尚、図19の平面形状の場合、アスペクト比L/Wを規定する長さLは、延在部10aにおけるX方向の最大距離で規定され、幅Wは、突出部10bのY方向における端部の先端と突出部10cのY方向における端部の先端とをY方向(磁化困難軸方向)で結んだときの最大距離で規定される。ここで、平行四辺形からなる延在部10aの頂点をA,B,C,Dとした場合、長さLは、辺ABの中点Mabと辺CDの中点Mcdとを結んだ距離で規定され、換言すると、辺AD又は辺BCで規定される。
図20に示すように、MTJ素子10の延在部10aが平行四辺形で、突出部10b,10cのコーナーが角張っていてもよい。尚、図20の平面形状の場合、アスペクト比L/Wを規定する長さLは、延在部10aにおけるX方向の最大距離で規定され、幅Wは、突出部10bのY方向における端部の側面と突出部10cのY方向における端部の側面とをY方向(磁化困難軸方向)で結んだときの最大距離で規定される。ここで、平行四辺形からなる延在部10aの頂点をA,B,C,Dとした場合、長さLは、辺ABの中点Mabと辺CDの中点Mcdとを結んだ距離で規定され、換言すると、辺AD又は辺BCで規定される。
図21(a)及び(b)に示すように、図19の形状の延在部10aの一部(例えば、頂点Aの1箇所、頂点A,Cの対向する2箇所)が欠けた形状であってもよいし、図21(c)に示すように、延在部10aのコーナーが丸まっていてもよい。このように、平行四辺形からなる延在部10aの一部が欠けた場合や延在部10aのコーナーが丸まった場合も、図19と同様に、長さLと幅Wを規定することが可能である。
尚、図7乃至図18の形状の場合、磁化容易軸方向はX方向であり、磁化困難軸方向はY方向である。一方、図19乃至図21の形状の場合、すなわち延在部10aが平行四辺形の場合、磁化困難軸方向はY方向であるが、磁化容易軸方向はX方向のときもあるし、平行四辺形の形状によっては頂点A,Cを結ぶ方向に近づくときもある。
[1−3]断面形状
図22(a)及び(b)乃至図24(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の断面図及び斜視図を示す。本発明の一実施形態に係るMTJ素子の断面形状は、例えば以下のように種々変更することが可能である。
MTJ素子10は、反強磁性層14、固定層11、非磁性層12及び記録層13の全ての側面が連続的に一致する断面形状となっていてもよい。このような構造として、例えば次のようなものがある。図22(a)及び(b)に示すように、反強磁性層14、固定層11、非磁性層12及び記録層13の全ての平面形状が同じである、長方形の断面となっていてもよい。また、図23(a)及び(b)に示すように、反強磁性層14、固定層11、非磁性層12及び記録層13のうち上層ほど小さな平面形状となる、台形の断面となっていてもよい。
一方、MTJ素子10は、反強磁性層14、固定層11、非磁性層12及び記録層13の一部の側面が非連続な断面形状となっていてもよい。このような構造として、例えば次のようなものがある。図24(a)及び(b)に示すように、記録層13の平面形状はいわゆる十字型形状となっており、反強磁性層14、固定層11及び非磁性層12の平面形状は四角形状となっていてもよく、一部が凸型の断面形状となっている。この構造の場合、上記図22(a)及び(b)及び図23(a)及び(b)に比べて、固定層11と記録層13とがショートすることを抑制できる。
[1−4]トンネル接合構造
図25(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子のトンネル接合構造の断面図を示す。本発明の一実施形態に係るMTJ素子の構造は、例えば以下のように種々変更することが可能である。
図25(a)及び(b)に示すように、MTJ素子10は、1重トンネル接合構造又は2重トンネル接合構造のいずれでもよい。
図25(a)に示すように、1重トンネル接合構造のMTJ素子10は、トンネル接合層として機能する非磁性層12を1層有する。
図25(b)に示すように、2重トンネル接合構造のMTJ素子10は、トンネル接合層として機能する非磁性層12a,12bを2層有する。従って、記録層13の一端には、第1の非磁性層12aを介して第1の固定層11aが設けられ、記録層13の他端には、第2の非磁性層12bを介して第2の固定層11bが設けられている。この2重トンネル接合構造の場合、1重トンネル接合構造と比べて、1つのトンネル接合あたりのバイアス電圧が印加電圧の1/2になるので、バイアス電圧の増大に伴うMR(Magneto Resistive)比の減少を抑制できるという効果が得られる。
[1−5]層間交換結合構造
図26(a)乃至(h)は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の層間交換結合構造の断面図を示す。本発明の一実施形態に係るMTJ素子の構造は、例えば以下のように種々変更することが可能である。
図26(a)乃至(h)に示すように、MTJ素子10は、固定層11及び記録層13のうち少なくとも一方が、反強磁性結合構造又は強磁性結合構造となっていてもよい。ここで、反強磁性結合構造は、非磁性層を挟む2枚の強磁性層の磁化方向が反平行となるように層間交換結合した構造であり、強磁性結合構造は、非磁性層を挟む2枚の強磁性層の磁化方向が平行となるように層間交換結合した構造である。
図26(a)に示すMTJ素子10は、記録層13が反強磁性結合構造となっている。すなわち、記録層13は、強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層からなり、強磁性層13−f1,13−f2の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合している。
図26(b)に示すMTJ素子10は、固定層11が反強磁性結合構造となっている。すなわち、固定層11は、強磁性層11−f1/非磁性層11−n/強磁性層11−f2の3層からなり、強磁性層11−f1,11−f2の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合している。
図26(c)に示すMTJ素子10は、記録層13が強磁性結合構造となっている。すなわち、記録層13は、強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層からなり、強磁性層13−f1,13−f2の磁化方向が平行状態となるように磁気結合している。
図26(d)に示すMTJ素子10は、固定層11が強磁性結合構造となっている。すなわち、固定層11は、強磁性層11−f1/非磁性層11−n/強磁性層11−f2の3層からなり、強磁性層11−f1,11−f2の磁化方向が平行状態となるように磁気結合している。
図26(e)に示すMTJ素子10は、記録層13及び固定層11の両方が反強磁性結合構造となっている。すなわち、記録層13は、強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層からなり、強磁性層13−f1,13−f2の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合している。また、固定層11は、強磁性層11−f1/非磁性層11−n/強磁性層11−f2の3層からなり、強磁性層11−f1,11−f2の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合している。
図26(f)に示すMTJ素子10は、記録層13及び固定層11の両方が強磁性結合構造となっている。すなわち、記録層13は、強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層からなり、強磁性層13−f1,13−f2の磁化方向が平行状態となるように磁気結合している。また、固定層11は、強磁性層11−f1/非磁性層11−n/強磁性層11−f2の3層からなり、強磁性層11−f1,11−f2の磁化方向が平行状態となるように磁気結合している。
図26(g)に示すMTJ素子10は、記録層13が反強磁性結合構造となっており、固定層11が強磁性結合構造となっている。すなわち、記録層13は、強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層からなり、強磁性層13−f1,13−f2の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合している。また、固定層11は、強磁性層11−f1/非磁性層11−n/強磁性層11−f2の3層からなり、強磁性層11−f1,11−f2の磁化方向が平行状態となるように磁気結合している。
図26(h)に示すMTJ素子10は、記録層13が強磁性結合構造となっており、固定層11が反強磁性結合構造となっている。すなわち、記録層13は、強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層からなり、強磁性層13−f1,13−f2の磁化方向が平行状態となるように磁気結合している。また、固定層11は、強磁性層11−f1/非磁性層11−n/強磁性層11−f2の3層からなり、強磁性層11−f1,11−f2の磁化方向が反平行状態となるように磁気結合している。
上記のように、固定層11及び記録層13の少なくとも一方が層間交換結合したMTJ素子10によれば、固定層11及び記録層13が単層の場合に比べて、漏れ磁場を低減することができる。
尚、記録層13の膜厚Tは上記式(1)の関係を満たすことが望ましいが、層間交換結合構造のように記録層13が多層の場合は、記録層13を構成する多層の合計膜厚T(層間交換結合構造の場合は強磁性層13−f1/非磁性層13−n/強磁性層13−f2の3層の合計膜厚T)が、式(1)の関係を満たすように、5nm以上20nm以下であることが望ましい。
また、図26(a)乃至(h)では、1重トンネル接合構造のMTJ素子10を例にあげて説明したが、2重トンネル接合構造のMTJ素子10にも勿論適用できる。また、固定層11及び記録層13は、強磁性層/非磁性層/強磁性層の3層からなることに限定されず、さらに層数を増やすことも可能である。また、固定層11及び記録層13は、複数の強磁性体からなる積層で形成されてもよい。
[1−6]材料
固定層11及び記録層13の材料には、次のような強磁性材料が用いられる。例えば、Fe,Co,Ni、それらの積層膜、又はそれらの合金、スピン分極率の大きいマグネタイト、CrO2,RXMnO3−Y(R;希土類、X;Ca,Ba,Sr)などの酸化物の他、NiMnSb,PtMnSbなどのホイスラー合金などを用いることが好ましい。また、これら磁性体には、強磁性を失わないかぎり、Ag,Cu,Au,Al,Mg,Si,Bi,Ta,B,C,O,N,Pd,Pt,Zr,Ir,W,Mo,Nbなどの非磁性元素が多少含まれていてもよい。
反強磁性層14の材料には、例えば、Fe−Mn,Pt−Mn,Pt−Cr−Mn,Ni−Mn,Ir−Mn,NiO,Fe2O3などを用いることが好ましい。
非磁性層12の材料には、例えば、Al2O3,SiO2,MgO,AlN,Bi2O3,MgF2,CaF2,SrTiO2,AlLaO3などの様々な誘電体を使用することができる。これらの誘電体には、酸素、窒素、フッ素欠損が存在していてもかまわない。
上述する層間交換結合構造の場合、2枚の強磁性層で挟む非磁性層の材料としては、例えば、Cu,Au,Ru,Al等の金属非磁性材料が望ましい。
[1−7]実施例
(a)実施例1
図27は、本発明の実施例1に係るMTJ素子の平面図を示す。以下に、実施例1のMTJ素子について説明する。
図27に示すように、MTJ素子10は、延在部10aと突出部10bとからなる、いわゆる十字型形状である。そして、MTJ素子10において、Y方向(磁化困難軸方向)における最大の幅Wは0.48μm、X方向(磁化容易軸方向)における最大の長さLは0.79μmであり、アスペクト比L/Wは約1.65である。また、記録層13の膜厚Tは、5nm又は8nmである。
図28は、図27に示す平面形状を有するメモリセルにおいて、記録層13の膜厚Tを3.5nm、5nm、8nmと変化させた場合のアステロイド曲線を示す。ここで、アステロイド曲線は、容易軸方向の反転磁場を1として規格化した。また、図中の破線は、一斉回転モデルにおける理論アステロイド曲線を示している。また、記録層13の材料としてはNiFe合金を用いた。
図28に示すように、記録層13の膜厚Tが3.5nmであるメモリセルのアステロイド曲線は、理論曲線(破線)より外側にプロットされる。これに対して、本発明で規定する記録層13の膜厚Tの範囲(式(1))である5nmと8nmのメモリセルのアステロイド曲線は、理論曲線(破線)の内側にプロットされる。従って、この結果から、容易軸書き込み磁場Hcに比べて十分小さい書き込み磁場Hswが実現されることが確認できる。
(b)実施例2
図29は、本発明の実施例2に係るMTJ素子の平面図を示す。以下に、実施例2のMTJ素子について説明する。
図29に示すように、MTJ素子10は、実施例1と同様にいわゆる十字型形状であるが、実施例1よりも細長い形状となっている。そして、MTJ素子10において、Y方向(磁化困難軸方向)における最大の幅Wは0.35μm、X方向(磁化容易軸方向)における最大の長さLは0.72μmであり、アスペクト比L/Wは約2.06である。また、記録層13の膜厚Tは、5nm又は8nmである。
図30は、図29に示す平面形状を有するメモリセルにおいて、記録層13の膜厚Tを3.5nm、5nm、8nmと変化させた場合のアステロイド曲線を示す。ここで、アステロイド曲線は、容易軸方向の反転磁場を1として規格化した。また、図中の破線は、一斉回転モデルにおける理論アステロイド曲線を示している。また、記録層13の材料としてはNiFe合金を用いた。
図30に示すように、記録層13の膜厚Tが3.5nmであるメモリセルのアステロイド曲線は、理論曲線(破線)より外側にプロットされる。これに対して、本発明で規定する記録層13の膜厚Tの範囲(式(1))である5nmと8nmのメモリセルのアステロイド曲線は、理論曲線(破線)の内側にプロットされる。従って、この結果から、いわゆる十字型形状のMTJ素子10において、幅Wや長さLを変化させても、記録層12の膜厚Tを本発明で規定する範囲(式(1))に設定することで、容易軸書き込み磁場Hcに比べて十分小さい書き込み磁場Hswが実現されることが確認できる。
さらに、上記実施例1、2のいずれの場合においても、記録層13の膜厚Tが5nm、8nmの場合では、3.5nmの場合に比べて、熱揺らぎ定数がそれぞれ1.5倍、2倍になり、熱安定性が向上したことが確認できた。
[1−8]製造方法例
上述するような形状のMTJ素子10を作製するための製造方法例を以下に述べる。
(a)製造方法例1
製造方法例1では、一般的な大きさのMTJ素子10の製造方法を説明する。
まず、スパッタ法でMTJ材料層を形成し、このMTJ材料層上にレジストを塗布する。そして、光、電子ビーム、X線のいずれかを用いてパターンを形成し、現像してレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして、MTJ材料層をイオンミリング又はエッチングし、所望形状のMTJ素子10を形成する。その後、レジストを剥離する。
(b)製造方法例2
製造方法例2では、比較的大きなサイズ、例えばミクロンオーダーのMTJ素子10の製造方法を説明する。
まず、スパッタ法でMTJ材料層を形成する。次に、このMTJ材料層上に、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン等のハードマスクを形成する。そして、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)によりハードマスクをエッチングし、所望形状のハードマスクパターンを形成する。このハードマスクパターンを用いて、MTJ材料層をイオンミリングすることで、所望形状のMTJ素子10を形成する。
(c)製造方法例3
製造方法例3では、より小さい素子、例えば、2〜3μm程度から0.1μm程度のサブミクロンサイズのMTJ素子10の製造方法を説明する。このようなサイズのMTJ素子の加工には、以下のように、光リソグラフィを用いることが可能である。
まず、スパッタ法でMTJ材料層を形成する。次に、このMTJ材料層上に、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン等のハードマスクを形成する。そして、反応性イオンエッチング(RIE)によりハードマスクをエッチングし、所望形状のハードマスクパターンを形成する。このハードマスクパターンをマスクとして、光リソグラフィを用いて、MTJ材料層をエッチングことで、所望形状のMTJ素子10を形成する。
(d)製造方法例4
製造方法例4では、さらに小さなサイズ、例えば0.5μm程度以下のサイズのMTJ素子10の製造方法を説明する。このような非常に小さなサイズのMTJ素子の加工には、電子ビーム露光を用いることが可能である。
しかし、この場合は素子自体が非常に小さいため、本発明の一実施形態におけるエッジドメイン領域を広げるための形状部分はさらに小さくなるので、MTJ素子10の作製が大変困難になる。
そこで、本発明の一実施形態に係る所望形状を作製するために、電子ビームの近接効果補正を利用する。この近接効果補正は、通常、電子ビームの基板からの後方散乱により生じる図形内の近接効果を補正し、正しいパターンを形成するために用いられるものである。この近接効果補正は、例えば次のように行われる。例えば長方形のパターンを形成する場合、長方形の頂点付近では蓄積電荷量が不足し、長方形の頂点が丸くなるという現象がみられる。この頂点をはっきりさせるために、頂点付近、特に0.5μm程度以下の素子の場合には図形の外側に、補正点ビームを打ち込んで蓄積電荷量を増やすことで、正常なパターンを得ることができる。
この製造方法例4では、上述する電子ビームの近接効果補正の方法を用いて、素子端部の幅が広がった形状を次のように形成する。例えばいわゆる十字形状を形成する場合、長方形を基本パターンとし、相対する2頂点付近にそれぞれ補正点ビームを打ち込むことで、素子端部の幅が広い形状を形成することが可能となる。この時、通常の近接効果補正の場合に比べて、打ち込む電荷量を多くするか、補正点ビームの打ち込み位置を適当に調節するか、又はその両方を用いて、頂点を回復する以上に形状を補正するとよい。さらに、例えばいわゆる十字形状を形成するために、複数点の補正点ビームを照射することも可能である。
[2]磁気ランダムアクセスメモリ
次に、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリについて説明する。
上述した本発明の一実施形態に係るMTJ素子10は、磁気ランダムアクセスメモリにおけるメモリセルの記憶素子として用いるのに好適である。一般に、磁性体を記録層として用いる磁気ランダムアクセスメモリでは、隣接セルへの誤書き込みがなく、メモリセルを微細化した場合においても、記録情報を長期間保持するために熱的に安定な記録層をもつことが必要になる。そこで、上述した本発明の一実施形態に係るMTJ素子10を用いることにより、スイッチング磁場を低減でき、かつ熱揺らぎ定数が十分大きなメモリセルを提供できるため、記憶ビットの書き込みの際に必要な書き込み電流が小さくできる。
尚、ここでは、磁気ランダムアクセスメモリのメモリセル構造の一例である、[2−1]選択トランジスタ型、[2−2]選択ダイオード型、[2−3]クロスポイント型、[2−4]トグル(Toggle)型のセルについて説明する。
[2−1]選択トランジスタ型
図31(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリの選択トランジスタ型のメモリセルを示す。以下に、選択トランジスタ型におけるセル構造について説明する。
図31(a)及び(b)に示すように、選択トランジスタ型の1セルMCは、1つのMTJ素子10と、このMTJ素子につながるトランジスタ(例えばMOSトランジスタ)Trと、ビット線(BL)28と、ワード線(WWL)26とを含んで構成されている。そして、このメモリセルMCをアレイ状に複数個配置することで、メモリセルアレイMCAを構成する。
具体的には、MTJ素子10の一端は、ベース金属層27、コンタクト24a,24b,24c及び配線25a,25bを介して、トランジスタTrの電流経路の一端(ドレイン拡散層)23aに接続されている。一方、MTJ素子10の他端は、ビット線28に接続されている。MTJ素子10の下方には、MTJ素子10と電気的に分離された書き込みワード線26が設けられている。トランジスタTrの電流経路の他端(ソース拡散層)23bは、コンタクト24d及び配線25cを介して、例えばグランドに接続されている。トランジスタTrのゲート電極22は、読み出しワード線(RWL)として機能する。
尚、ベース金属層27側のMTJ素子10の一端は、例えば固定層12であり、ビット線28側のMTJ素子10の他端は、例えば記録層14であるが、その逆の配置でも勿論よい。また、MTJ素子10とビット線28との間に、例えばハードマスクが介在してもよい。また、MTJ素子10は、磁化容易軸方向を書き込み配線の延在方向に対して種々の向きに配置することが可能であり、例えば、ビット線28の延在方向に磁化容易軸方向を向けて配置することも可能であるし、ワード線26の延在方向に磁化容易軸方向を向けて配置することも可能であるし、さらに、ビット線28及びワード線26の延在方向に対して磁化容易軸方向を例えば45度傾けて配置することも可能である。
上記のような選択トランジスタ型のメモリセルにおいて、データの書き込み/読み出しは、以下のように行われる。
まず、書き込み動作は、次のように行われる。複数のMTJ素子10のうち選択されたMTJ素子10に対応するビット線28及び書き込みワード線26が選択される。この選択されたビット線28及び書き込みワード線26に書き込み電流Iw1,Iw2をそれぞれ流すと、これら書き込み電流Iw1,Iw2による合成磁界HがMTJ素子10に印加される。これにより、MTJ素子10の記録層13の磁化を反転させ、固定層11及び記録層13の磁化方向が平行となる状態又は反平行となる状態をつくる。ここで、例えば、平行状態を“1”状態、反平行状態を“0”状態と規定することで、2値のデータの書き込みが実現する。
次に、読み出し動作は、読み出し用スイッチング素子として機能するトランジスタTrを利用して、次のように行われる。選択されたMTJ素子10に対応するビット線28及び読み出しワード線(RWL)を選択し、MTJ素子10の非磁性層12をトンネルする読み出し電流Irを流す。ここで、接合抵抗値は固定層11及び記録層13の磁化の相対角の余弦に比例して変化し、MTJ素子10の磁化が平行状態(例えば“1”状態)の場合は低抵抗となり、反平行状態(例えば“0”状態)の場合は高抵抗となる、トンネル磁気抵抗(TMR)効果が得られる。このため、この抵抗値の違いを読み取ることで、MTJ素子10の“1”、“0”状態を判別する。
[2−2]選択ダイオード型
図32(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリの選択ダイオード型のメモリセルを示す。以下に、選択ダイオード型におけるセル構造について説明する。
図32(a)及び(b)に示すように、選択ダイオード型の1セルMCは、1つのMTJ素子10と、このMTJ素子につながるダイオードDと、ビット線(BL)28と、ワード線(WL)26とを含んで構成されている。そして、このメモリセルMCをアレイ状に複数個配置することで、メモリセルアレイMCAを構成する。
ここで、ダイオードDは、例えばPN接合ダイオードであり、P型半導体層とN型半導体層とで構成されている。このダイオードDの一端(例えばP型半導体層)は、MTJ素子10に接続されている。一方、ダイオードDの他端(例えばN型半導体層)は、ワード線26に接続されている。そして、図示する構造では、ビット線28からワード線26へ電流が流れるようになっている。
尚、ダイオードDの配置箇所や向きは、種々に変更することが可能である。例えば、ダイオードDは、ワード線26からビット線28へ電流が流れる向きに配置してもよい。また、ダイオードDは、半導体基板21内に形成することも可能である。また、ダイオードDは、MTJ素子10と同じ形状(例えばいわゆる十字型)にすることも可能である。
上記のような選択ダイオード型のメモリセルにおいて、データの書き込み動作は、上記選択トランジスタ型と同様で、ビット線28及びワード線26に書き込み電流Iw1,Iw2を流して、MTJ素子10の磁化を平行又は反平行状態にする。
一方、データの読み出し動作も、上記選択トランジスタ型とほぼ同じであるが、選択ダイオード型の場合、ダイオードDを読み出し用スイッチング素子として利用する。すなわち、ダイオードDの整流性を利用し、非選択のMTJ素子は逆バイアスとなるようにビット線28及びワード線26のバイアスを制御し、選択したMTJ素子10にのみ読み出し電流Irが流れるようにする。
[2−3]クロスポイント型
図33(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリのクロスポイント型のメモリセルを示す。以下に、クロスポイント型におけるセル構造について説明する。
図33(a)及び(b)に示すように、クロスポイント型の1セルMCは、1つのMTJ素子10と、ビット線28と、ワード線26とを含んで構成されている。そして、このメモリセルMCをアレイ状に複数個配置することで、メモリセルアレイMCAを構成する。
具体的には、MTJ素子10は、ビット線28及びワード線26の交点付近に配置され、MTJ素子10の一端はワード線26に接続され、MTJ素子10の他端はビット線28に接続されている。
上記のようなクロスポイント型のメモリセルにおいて、データの書き込み動作は、上記選択トランジスタ型と同様で、ビット線28及びワード線26に書き込み電流Iw1,Iw2を流して、MTJ素子10の磁化を平行又は反平行状態にする。一方、データの読み出し動作は、選択されたMTJ素子10に接続するビット線28及びワード線26に読み出し電流Irを流すことで、MTJ素子10のデータを読み出す。
[2−4]トグル型
図34は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリのトグル型のメモリセルの平面図を示す。以下に、トグル型におけるセル構造について説明する。
図34に示すように、トグル型のセルでは、MTJ素子10の磁化容易軸が、ビット線28の延在方向(X方向)又はワード線26の延在方向(Y方向)に対して傾くように、換言すると、ビット線28に流す書き込み電流Iw1の方向又はワード線26に流す書き込み電流Iw2の方向に対して傾くように、MTJ素子10を配置する。ここで、MTJ素子10の傾きは、例えば30度乃至60度程度であり、45度程度が望ましい。尚、MTJ素子10は、上述する種々の構造を利用することができるが、少なくとも記録層13が反強磁性結合構造であるのが望ましい。
上記のようなトグル型のメモリセルにおいて、データの書き込み/読み出しは、以下のように行われる。
まず、書き込み動作は、次のように行われる。トグル書き込みでは、選択セルに任意のデータを書き込む前にその選択セルのデータを読み出す。従って、選択セルのデータを読み出した結果、任意のデータが既に書き込まれていた場合は書き込みを行わず、任意のデータと異なるデータが書き込まれていた場合はデータを書き換えるために書き込みが行われる。
上記のような確認サイクルの後、選択セルにデータを書き込む必要がある場合は、2本の書き込み配線(ビット線28,ワード線26)を順にONし、先にONした書き込み配線を先にOFFしてから、後にONした書き込み配線をOFFする。例えば、ワード線26をONして書き込み電流Iw2を流す→ビット線28をONして書き込み電流Iw1を流す→ワード線26をOFFして書き込み電流Iw2を流すのをやめる→ビット線28をOFFして書き込み電流Iw1を流すのをやめるという4サイクルの手順となる。
一方、データの読み出し動作は、選択されたMTJ素子10に接続するビット線28及びワード線26に読み出し電流Irを流すことで、MTJ素子10のデータを読み出せばよい。
以上、上記本発明の一実施形態によるMTJ素子10及びこのMTJ素子10を備えた磁気ランダムアクセスメモリによれば、次のような効果を得ることができる。
第1に、固定層11、非磁性層12及び記録層13のうち少なくとも記録層13の平面形状をいわゆる十字型のように困難軸方向に突出する部分を有する形状にすることで、容易軸反転磁場Hcに比べてスイッチング磁場Hswを十分小さくできるため、隣接するメモリセルへの誤書込みを低減することができる。
第2に、上記のようにMTJ素子10の平面形状をいわゆる十字型にしたことでMTJ素子10が小さくなっても、記録層13の膜厚Tを5nmから20nmに規定し、アスペクト比L/Wを1.5から2.2と規定することで、記録層13の体積を十分大きくできる。このため、微細化されたMTJ素子10においても、十分な熱揺らぎ定数を保持でき、熱安定性が高い特性を実現することができる。
尚、特許文献1には、MTJ素子10の平面形状をいわゆる十字型にする点が開示されている。しかし、この特許文献1には、熱安定性を高めるために記録層13の膜厚とアスペクト比との関係を規定することについては着目していない。このため、記録層13の膜厚が薄い状態で、いわゆる十字型のMTJ素子10を現実に作成した場合には、周囲に形成される膜材料の不均一性による乱雑な磁気異方性や作成プロセスの不均一性による有限の形状ばらつきが存在するために、形状に起因した磁気的構造の形成が抑制され、目的とする反転特性を示さないことが課題として残されている。
これに対して、本発明の一実施形態では、十字形状を持つ記録層13の膜厚を5nmから20nmと規定し、記録層13のアスペクト比を1.5から2.2と規定する。この両者を用いることで、形状に特有の磁気的構造、特にエッジドメインの制御を容易にすることができ、書き込みに必要な磁場が十分小さく、半選択セルへの誤書込みがない磁気ランダムアクセスメモリを歩留まりよく提供できる。
その他、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
10…MTJ素子、10a…延在部、10b,10c,10d…突出部、11…固定層、12…非磁性層、13…記録層、14…反強磁性層、21…半導体基板、22…ゲート電極、23a…ドレイン拡散層、23b…ソース拡散層、24a,24b,24c,24d…コンタクト、25a,25b,25c…配線、26…ワード線、27…ベース金属層、28…ビット線、MC…メモリセル、MCA…メモリセルアレイ、Tr…トランジスタ、D…ダイオード。