以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置の概念的な構成を示す図である。図1において、光ヘッド装置100は、所定の波長の光束を出射する光源1と、光源1が出射した光束の一部を回折させてメインビームと2つのサブビームからなる3つのビームにする可変回折素子2と、可変回折素子2から出射した上記の3つのビームを透過させると共に、光ディスク7の情報記録面7aから反射して戻ってくる3つのビームの戻り光を反射して光検出器8へ導くビームスプリッタ3と、入射する光束を略平行光に変換するコリメータレンズ4と、絞り5と、対物レンズ6と、上記の3つのビームの戻り光を検出する光検出器8とを備える。
光源1が出射した光束は、一部が可変回折素子2で回折してメインビームと2つのサブビームからなる3つのビームになり、ビームスプリッタ3、コリメータレンズ4、絞り5、対物レンズ6の順に透過し、光ディスク7の情報記録面7aに集光する。光ディスク7の情報記録面7aに集光した上記の3つのビームは、それぞれ、情報記録面7aで反射され、対物レンズ6、絞り5、コリメータレンズ4を透過し、ビームスプリッタ3で反射され、光検出器8に入る。
ここで、光検出器8の出力信号は、光ディスク7の情報記録面7aに記録された情報の、読み取り信号、フォーカスエラー信号およびトラッキングエラー信号の生成に用いられる。なお、光ヘッド装置100は、上記のフォーカスエラー信号に基づいてレンズを光軸方向に制御する機構(フォーカスサーボ)、および、上記のトラッキングエラー信号に基づいてレンズを光軸にほぼ垂直な方向に制御する機構(トラッキングサーボ)を備えるが、図1に示す構成では省略されている。
光源1は、例えば、半導体レーザで構成され、波長660nm近傍の波長かつ直線偏光の発散光束を出射するようになっている。なお、上記では光源1が波長660nm近傍の波長の光束を出射するように構成されているものとしたが、本発明の適用は、光源1が波長660nm近傍の波長の光束を出射する構成に必ずしも限定されるものではなく、400nm近傍の波長の光束、780nm近傍の波長の光束を出射する構成でも、その他の波長の光束を出射する構成でもよい。ここで、400nm近傍、波長650nm近傍および780nm近傍の波長とは、それぞれ、385nm〜430nm、630nm〜670nmおよび760nm〜800nmの範囲にある波長を意味する。
なお、光源1を2つまたは3つの波長の光束を出射する構成とし、同一パッケージ内の同一基板上に2個または3個の半導体レーザチップがマウントされ、所謂、ハイブリッド型の2波長レーザ光源または3波長レーザ光源をなすように、光源1が構成されるのでもよい。光源1は、また、異なる波長を発光する2個の発光点を持ったモノリシック型の2波長レーザ光源(例えば、特開2004−39898号公報参照。)または3個の発光点を持ったモノリシック型の3波長レーザ光源によって構成されるのでもよい。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置を構成する可変回折素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図2において、可変回折素子2は、可変回折素子2aとして示されている。以下、本発明の第1の実施の形態では、光ヘッド装置を構成する可変回折素子2を可変回折素子2aとする。
図2において、可変回折素子2aは、一対の透明基板21、22と、透明基板21、22の対向する各面上に形成された透明電極23、24と、第1の透明電極23上にストライプ状の周期的な凹凸を形成するために設けられた第1の部材25と、第2の透明電極24上にストライプ状の周期的な凹凸を形成するために設けられた第2の部材26と、透明基板21、22によって挟持された液晶27と、透明基板21、22間に液晶27を密閉して液晶セルを形成するためのシール材28、透明電極23、24に電圧を印加するためのフレキシブル回路基板29とを有する。
ここで、液晶27は、透明基板21、22上に形成された透明電極23、24および部材25、26間に挟持される。図3は、透明電極23、24上に形成される部材25、26の平面パターンを説明するための説明図である。各部材25、26は、相互に異なる平面パターンを有する。以下では、第1の部材25が図3(a)に示す平面パターンを有し、第2の部材26が図3(b)に示す平面パターンを有するものとする。
部材25、26は、図3に示すように、ストライプ状の周期的な凹凸の平面パターンを有する。ただし、各部材25、26のストライプ状の凹凸の周期(以下、回折格子のピッチという。)は、相互に異なる。また、第1の部材25が有するストライプ状の凹凸の平面パターンと、第2の部材26が有するストライプ状の凹凸の平面パターンとは、第1の透明基板21と第2の透明基板22とを対向させた状態で、所定の角度(以下、対向傾斜角という。)をなすように各透明電極23、24上に形成される。
図3に、第1の透明基板21と第2の透明基板22とを対向させた状態で、第1の透明電極23の第1の部材25が形成された面と対向する第2の透明電極24の面方向から見たときの各部材25、26の平面パターンの様子が概念的に表されている。ここで、第1の部材25と第2の部材26とがなす対向傾斜角は、0.2度から5度までの範囲内に設定されるものとする。好適には、上記の対向傾斜角を、0.5度から1.5度までの範囲内に設定するのがよい。
ここで、各部材25、26の回折格子のピッチは、相互に異なってもよいが、それぞれ5μmから30μmまでの範囲内に設定されるものとする。好適には、各部材25、26の回折格子のピッチを、10μmから20μmまでの範囲内に設定するのがよい。各部材25、26の回折格子のピッチを上記のように設定することによって、上記の3つのビームが光ディスク7上に集光して形成される上記の3つのスポットの間隔を5μmから20μmまでの範囲内にすることができ、安定したトラッキング特性を実現することができる。
透明基板21、22は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート等の有機物質からなるものを用いてもよいが、耐久性等の点からガラス基板が好適である。
透明電極23、24は、可変回折素子2aの光学的に有効な全領域に形成される。透明電極23、24の形成は、透明基板21、22の面上にITO、SnO2等からなる導電性薄膜を堆積し、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることによって行われる。導電性薄膜の堆積方法および電極のパターニング方法については、公知であり、更なる説明を省略する。なお、図2に示す構成では省略されているが、透明電極23、24の表面には絶縁膜を堆積することが好ましく、さらには、透明電極23、24および部材25、26と液晶27との界面に配向膜を堆積することが好ましい。
各部材25、26は、硝子、SiO2、SiOxNy、Ta2O5等の無機材料またはこれらの無機材料の混合物からなる膜、その他の有機膜等を透明電極23、24上に堆積し、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることによって行われる。薄膜の堆積方法および電極のパターニング方法については、公知であり、更なる説明を省略する。また、第1の部材25の形成に用いる材料の屈折率n1と、第2の部材26の形成に用いる材料の屈折率n2とは、異なるものとする。
ここで、第1の部材25および第2の部材26のうち、屈折率がそれぞれn1およびn2であることが求められる部分は凸部であり、凹部の屈折率を限定するものではない。具体的には、部材25、26の構造を簡単化して平板上にストライプ状の凸部が設けられたものと考えると、このストライプ状の凸部の屈折率がそれぞれn1およびn2であることが求められるが、平板の屈折率に関しては、係る制限はない。
液晶27は、透明基板21、22に平行、かつ、透明電極23、24および部材25、26と液晶27との界面に設けられた配向膜等によって、部材25、26と概ね平行になる方向に配向している。また、光源1と可変回折素子2aとは、光源1が出射する光束の偏光方向が液晶27の入射面での配向方向と一致するように配置される。液晶27の配向方向は、配向膜のラビングを調節することによって設定できるほか、SiO等を斜め蒸着すること、イオンビームを照射すること等によっても設定することができる。以下、透明電極23、24および部材25、26と液晶27との界面には、配向膜が形成されているものとする。
液晶27としては、誘電率異方性が正のものでも負のものでもよい。ここで、液晶は誘電率異方性を有し、液晶分子の長軸方向の比誘電率ε//と液晶分子の短軸方向の比誘電率ε⊥とが異なる。誘電率異方性△ε(=ε//−ε⊥)が正の液晶とは、電界を印加したときに電界の方向に液晶分子が平行になるように動くものであり、誘電率異方性が負の液晶とは、印加された電界の方向に液晶分子が垂直になるように動くものをいう。
誘電率異方性△εが正の場合、電圧が印加されていない状態で基板面に平行な方向に配向したホモジニアス配向液晶は、電圧印加に伴い配向方向が透明基板21、22に垂直な方向に変化し、部材25、26のストライプ方向に偏光方向を有する入射光に対して、液晶27の実質的な屈折率が常光屈折率noから異常光屈折率neまで変化する。以下、液晶27の常光屈折率noおよび異常光屈折率neのうちのいずれか低い方を第1の屈折率nbといい、高い方を第2の屈折率naという。
一方、誘電率異方性△εが負の場合、電圧が印加されていない状態で透明基板21、22に垂直な方向に配向した垂直配向液晶は、電圧印加に伴い配向方向が、基板面に平行な方向に変化し、液晶27の実質的な屈折率が第1の屈折率nbから第2の屈折率naまで変化する。液晶27としては、印加電圧に応じて実質的に屈折率変化が生じる材料で構成されていればよく、ネマティック液晶、スメクティック液晶等の液晶の他に、さらには、液晶27の代わりにLiNbO3等の電気光学結晶等を用いるのでもよい。
ただし、液晶27として誘電率異方性が負の液晶を用いることは、電圧を印加しないときに液晶分子が透明基板21、22に垂直に配向しているため、部材25、26が形成する凹凸により液晶の配向方向が乱されず、透過する光による迷光の発生を低減できて好ましい。ここで、迷光とは、意図して発生させようとしている回折光以外の回折光または散乱光をいう。
液晶27の厚さは、透明基板21、22の厚さに比してできるだけ薄くする。具体的には、液晶27の平均的な厚さは、透明基板21、22の平均的な厚さの100分の1以下とするのが好適である。これは、液晶27の厚さに比例して、熱膨張による体積変化量が大きくなることにより素子の変形が大きくなり、液晶27が厚い素子ほど基板の剛性を高くする必要があるからである。そして、各透明基板21、22の平均の厚さを液晶27の厚さの100倍以上にすることによって、液晶27とシール材28との膨張係数の相違による影響を解消できる。さらに、液晶27の厚さを、各透明基板21、22の平均的な厚さの150分の1以下とするのは、基板の剛性を高める観点から好適である。
以下に詳細に説明する。液晶27は液体であり、シール材28は固体であるため、膨張係数が大幅に異なる。そのため、透明基板21、22が液晶27の温度変化の影響を受けて変形しやすい構成では、温度上昇に伴い可変回折素子2が凸レンズ化していき、逆に温度低下と共に可変回折素子2が凹レンズ化していく。その結果、光ディスク7上に集光されるべきビームの焦点は、温度変化の影響を受けて位置ずれしてしまう。
ここで、各透明基板21、22の平均の厚さを液晶27の厚さの100倍以上にすることによって、各透明基板21、22の剛性が高まり、実用に耐えうる形状変化に抑えることができた。また、各透明基板21、22の平均の厚さを液晶27の厚さの150倍以上にすることによって、さらに高い効果を得ることができ、好ましい。
シール材28は、透明基板21、22間の間隔を一定に保持すると共に、液晶27を透明基板21、22間に閉じ込めて液晶セルを構成する。シール材28は、エポキシ樹脂等の熱硬化型高分子、紫外線硬化型樹脂等でよく、所望のセル間隔を得るためにガラスファイバ等のスペーサを数%混入させてもよい。
可変回折素子2aの液晶27に電圧を印加するための透明電極23、24には、フレキシブル回路基板29に設けられた配線を介して、上記の電気信号が図示しない電気信号切り替え手段によって印加されるようになっている。
なお、上記では透明電極23、24上に部材25、26が形成される例について説明したが、本発明の適用は、必ずしもこのような構成に限定されるものではなく、透明基板21、22上に部材25、26が形成され、透明基板21、22および部材25、26上に透明電極23、24が形成される構成にも同様に適用される。この場合、図示しない配向膜は、透明電極23、24と液晶27との界面に形成される。
ビームスプリッタ3は、可変回折素子2aから出射した、メインビームと2つのサブビームからなる3つのビームをコリメータレンズ4側に透過させると共に、光ディスク7の情報記録面7aからの戻り光を反射させて、光検出器8側に導くようになっている。なお、ビームスプリッタ3の代わりに、ハーフミラー、回折素子等を用いるのでもよい。
コリメータレンズ4は、可変回折素子2aから出射する、メインビームと2つのサブビームからなる3つのビームをほぼ平行光に変換するようになっている。
絞り5は、光源1からの光束を選択的に開口制限することによって、開口数NAを設定するようになっている。絞り5を設けることによって、開口数の異なる2種類の光ディスクを対象に記録または再生を行う際、開口数を調整できる。具体的には、波長660nm近傍の波長の光束に対しては開口数NAが0.65となるようにし、波長780nm近傍の波長の光束に対しては開口数NAが0.50となるようにする。なお、絞り5には、機械的絞り、光学的絞り等があり、特に限定されないものとする。
対物レンズ6は、光源1から出射される光束の波長で使用可能な程度に収差補正された単レンズであり、コリメータレンズ4からの平行光を光ディスク7の情報記録面7aに集光させるようになっている。係る対物レンズ6として、例えば、特開2001−344798号公報に開示された対物レンズ等を用いることができる。
光ディスク7は、記録および再生を行うための記録媒体であり、例えば、波長660nm近傍の波長の光束に対しては、例えば、0.6mmの保護層厚を有し、波長780nm近傍の波長の光束に対しては、例えば、1.2mmの保護層厚を有する。
光検出器8は、光ディスク7の情報記録面7aからの3つのビームの戻り光を受光し、この情報記録面7aに記録された情報に応じた、読み取り信号、フォーカスエラー信号およびトラッキングエラー信号の各信号を生成し、外部に出力するようになっている。
以下、可変回折素子2aの光学特性について、図面を用いて説明する。図4は、可変回折素子2aを構成する透明電極23、24間に印加する電圧(液晶27に印加される電圧)と、液晶27の屈折率との関係の一例を示す図である。ここで、図4に示す特性は、誘電率異方性△εが正の液晶に対して得られたものである。また、図4において、横軸にとった透明電極23、24間に印加する電圧(液晶27に印加される電圧)を実効値で表示している。液晶27に電圧が印加されない状態では、液晶27の屈折率nLは、第2の屈折率naであり、印加する電圧を増加させるにつれて第1の屈折率nbに近づく。
このように、透明電極23、24間に印加する電圧(液晶27に印加される電圧)を変化させることによって、液晶の屈折率nLを第1の屈折率nbから第2の屈折率naまでの範囲で変化させることができるため、部材25、26の屈折率n1、n2と液晶27の屈折率nLとの差は透明電極23、24間に印加する電圧(液晶27に印加される電圧)に応じて変化し、その結果、回折効率を変化させることができる。
さらに、それぞれ異なる電圧V1、V2で、液晶27の屈折率nLを部材25、26の屈折率n1、n2に一致させることまたは近傍に設定すること(以下、このように屈折率を調整することを「マッチング」という。)ができるようにするため、部材25、26または液晶27は、部材25、26の異なる各屈折率n1、n2が第1の屈折率nbから第2の屈折率naまでの範囲内となる材料を用いて形成される。
上記の電圧V1で、液晶27の屈折率nLを第1の部材25の屈折率n1に一致させることによって、第1の部材25と液晶27との屈折率の差がなくなるため、第1の部材25が構成するストライプ状の周期的な凹凸による回折は起こらなくなる。一方、液晶27の屈折率nLを第2の部材26の屈折率n2に一致させることによって、第2の部材26と液晶27との屈折率の差がなくなるため、第2の部材26が構成するストライプ状の周期的な凹凸による回折は起こらなくなる。
ここで、第1の透明基板21上の第1の部材25の屈折率n1を、液晶27の第1の屈折率nbより大きくかつnb+0.4×Δn以下の範囲内のいずれかとし、第2の透明基板22上の第2の部材26の屈折率n2を、na−0.4×Δn以上かつna−0.1×Δn以下の範囲内のいずれかとすることが好適である。この理由は、以下のとおりである。
一般に、液晶27の第2の屈折率naは、温度が高くなるにつれて低下し、第1の屈折率nbは逆に高くなる。この温度変化は、第2の屈折率naに関する方が大きい。このため、使用温度範囲の温度変化があったとしても、部材25、26の屈折率n1、n2と、液晶27の屈折率とのマッチングがとれるように、第1の屈折率nbおよび第2の屈折率naに対する部材25、26の屈折率n1、n2の値を上記の範囲にとるものとする。
部材25、26と液晶27とが構成する回折格子の回折効率は、部材25、26の凹凸の深さd1、d2と、部材25、26の屈折率と液晶27の屈折率の差との積に応じて決定される。
[実施例]
以下、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100の実施例について説明する。図1において、光ヘッド装置100は、660nm近傍の波長の光束を出射する光源1と、光源1が出射した光束の一部を回折させてメインビームと2つのサブビームからなる3つのビームにする可変回折素子2と、可変回折素子2から出射した上記の3つのビームを透過させると共に、光ディスク7の情報記録面7aから反射して戻ってくる3つのビームの戻り光を反射して光検出器8へ導くビームスプリッタ3と、入射する光束を略平行光に変換するコリメータレンズ4と、絞り5と、対物レンズ6と、上記の3つのビームの戻り光を検出する光検出器8とを備える。
光源1は、半導体レーザで構成され、波長660nm近傍の波長かつ直線偏光の発散光束を出射するようになっている。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置を構成する可変回折素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。図2において、可変回折素子2aは、一対の透明基板21、22と、透明基板21、22の対向する各面上に形成された透明電極23、24と、第1の透明電極23上にストライプ状の周期的な凹凸を形成するために設けられた第1の部材25と、第2の透明電極24上にストライプ状の周期的な凹凸を形成するために設けられた第2の部材26と、透明基板21、22によって挟持された液晶27と、透明基板21、22間に液晶27を密閉して液晶セルを形成するためのシール材28、透明電極23、24に電圧を印加するためのフレキシブル回路基板29とを有する。
ここで、液晶27は、透明基板21、22上に形成された透明電極23、24および部材25、26間に挟持される。図3は、透明電極23、24上に形成される部材25、26の平面パターンを説明するための説明図である。各部材25、26は、相互に異なる平面パターンを有する。以下では、第1の部材25が図3(a)に示す平面パターンを有し、第2の部材26が図3(b)に示す平面パターンを有するものとする。
部材25、26は、図3に示すように、ストライプ状の周期的な凹凸の平面パターンを有する。ただし、各部材25、26の回折格子のピッチは、相互に異なり、それぞれ12μm、18μmにする。また、第1の部材25が有するストライプ状の凹凸の平面パターンと、第2の部材26が有するストライプ状の凹凸の平面パターンとは、第1の透明基板21と第2の透明基板22とが対向させた状態で、1度の対向傾斜角をなすように各透明電極23、24上に形成される。図3に、第1の透明基板21と第2の透明基板22とを対向させた状態で、第1の透明電極23の第1の部材25が形成された面と対向する第2の透明電極24の面方向から見たときの各部材25、26の平面パターンの様子が概念的に表されている。
透明基板21、22は、厚さ0.5mmのガラス基板を用いる。
透明電極23、24は、可変回折素子2aの光学的に有効な全領域に形成される。透明電極23、24は、透明基板21、22の面上にITO膜を堆積し、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることによって形成する。導電性薄膜の堆積方法および電極のパターニング方法については、公知であり、更なる説明を省略する。なお、図2に示す構成では省略されているが、透明電極23、24の表面には絶縁膜を堆積し、さらには、透明電極23、24および部材25、26と液晶27との界面に配向膜を堆積する。透明電極23、24には、フレキシブル回路基板29を介して、図示しない電気信号切り替え手段によって、所定の矩形交流の電気信号が出力される。
各部材25、26は、SiOxNyを透明電極23、24上に堆積し、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることによって行われる。薄膜の堆積方法および電極のパターニング方法については、公知であり、更なる説明を省略する。ここで、第1の部材25の形成に用いる材料の屈折率n1、および、第2の部材26の形成に用いる材料の屈折率n2は、それぞれ1.57および1.64であり、第1の部材25の凹凸の深さd1および第2の部材26の凹凸の深さd2は、それぞれ1.14μmおよび1.14μmである。なお、上記では、d1とd2とを等しくしたときの例について説明したが、d1とd2とを相違させることによって、回折効率を変えられるようにすることもできる。
液晶27は、透明基板21、22に平行、かつ、透明電極23、24および部材25、26と液晶27との界面に設けられた配向膜等によって、部材25、26と概ね平行になる方向に配向している。また、光源1と可変回折素子2aとは、光源1が出射する光束の偏光方向が液晶27の入射面での配向方向とほぼ一致するように配置される。液晶27の配向方向は、配向膜を格子ストライプ方向に概ね平行にラビングして設定した。
このように配置することによって、液晶27に入射する光束の透明電極23、24間に電圧が印加されたときの屈折率の変化に対する感度を鋭くすることができる。光源1と可変回折素子2aとの配置によって、入射する光束の偏光方向が液晶27の配向方向からずれてしまうときは、1/2波長板を光源1と可変回折素子2との間に入れることによって偏光方向を回転させ、所望の偏光方向を得ることができる。その際、上記の1/2波長板と可変回折素子2とを一体化できる。一体化することによって、部品点数を削減でき、好適である。さらに、可変回折素子2からの出射光の偏光方向を元に戻す必要があるときは、可変回折素子2と光ディスク7との間に、さらに別の1/2波長板を入れることが好ましい。
この1/2波長板も、上記と同様に可変回折素子2と一体化できる。
液晶27としては、ネマティック液晶を用い、3.5μmの厚さとした。これによって、各透明基板の平均の厚さを液晶の厚さの100倍以上としたため、固体に比して大きな膨張係数を有する液晶の体積変化によって、可変回折素子が凸レンズ化または凹レンズ化するのを抑制し、実用可能な範囲内にすることができる。用いた液晶27の第1の屈折率nbおよび第2の屈折率naは、それぞれ1.52および1.67である。
シール材28は、透明基板21、22間の間隔を一定に保持すると共に、液晶27を透明基板21、22間に閉じ込めて液晶セルを構成する。シール材28として、エポキシ樹脂等の熱硬化型高分子を用い、所望のセル間隔を得るためにガラスファイバからなるスペーサを数%混入させる。
以下、第1の部材25が有するストライプ状の凹凸で入射光を回折させる場合について説明する。この場合は、第2の部材26が有するストライプ状の凹凸によって光が回折しないように、透明電極23、24間にV2の電圧を印加して、第2の部材26の屈折率n2と液晶27の屈折率nLとを一致させる。上記の構成では、この電圧V2は、図4に示すように、実効値で2Vrmsである。
このとき、第1の部材25の屈折率n1と液晶27の屈折率nLとの差は0.07であり、第1の部材25の凹凸の深さd1は1.14μmである。その結果、上記の電圧印加例(V=2Vrms)では、第1の部材25による透過率(0次の回折率)および1次の回折効率が、それぞれ86%、5.7%となり、第2の部材26による1次の回折効率がほぼ0%となる。
次に、第2の部材26が有するストライプ状の凹凸で入射光を回折させる場合について説明する。この場合は、第1の部材25が有するストライプ状の凹凸によって回折が生じないように、透明電極23、24間にV1の電圧を印加して、第1の部材25の屈折率n1と液晶27の屈折率nLとを一致させる。上記の構成では、この電圧V1は、図4に示すように、実効値で3.4Vrmsである。
このとき、第1の部材25の屈折率n1と液晶27の屈折率nLとの差は0.07であり、第1の部材25の凹凸の深さd1は1.14μmである。その結果、上記の電圧印加例(V=V2=2Vrms)では、第1の部材25による透過率(0次の回折率)および1次の回折効率が、それぞれ86%、5.7%となり、第2の部材26による1次の回折効率がほぼ0%となる。
このとき、第2の部材26の屈折率n2と液晶27の屈折率nLとの差は0.07であり、第2の部材26の凹凸の深さd2は1.14μmである。その結果、上記の電圧印加例(V=V1=3.4Vrms)では、第2の部材26による透過率(0次の回折率)および1次の回折効率が、それぞれ86%、5.7%となり、第1の部材25による1次の回折効率がほぼ0%となる。
以下、光ディスクの種類をトラックピッチの相違に基づいて、例えば、次の5群に分類する。すなわち、第1群としてCD、CD−ROM、CD−R等とし、第2群としてDVD、DVD−R、DVD+R等とし、第3群としてDVD−RAM等とし、第4群としてBLURAY(登録商標)ディスク、第5群としてHD−DVD(High Definition DVD)とする。
ここで、各群内では、トラックピッチは略同一である。本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置は、1台で、トラックピッチの異なるこれらの群にまたがる光ディスクを対象に記録再生を行う際に有効である。係る機能を確実に担保するため、本発明の光ヘッド装置が、情報記録面のトラックピッチの規格が異なる光記録媒体を対象に記録または再生を行うときに、可変回折素子に印加する電気信号を切り替えて光源が出射する光束を回折させて情報記録面のトラックピッチに適したメインビームおよび2つのサブビームにするための電気信号切り替え手段を備える構成でもよい。
なお、上記では、光源から出射される光束を可変回折素子がメインビームと2つのサイドビームにする構成について説明したが、本発明は、このような構成に適用が限定されるものではなく、回折格子を切り替える構成の全ての装置に適用できるものである。
以上説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置は、可変回折素子は、印加する電気信号を切り替えることによって回折パターンを切り替えることができ、電気信号を印加する電極を切り替える必要がないため、電気的に浮く電極をなくすることができ、もって、静電気の影響による経時変化を緩和することができると共に、電圧を印加する端子を2端子に減らすことができ、もってコストダウンを図ることができる。
また、液晶に印加する電気信号を切り替えるだけで回折格子のピッチまたは回折格子のストライプの方向のうちの少なくとも一方が異なる第1の部材および第2の部材のうちの一方の部材からなる回折格子を実現できるため、光学特性を電気信号によって簡易に調節できる。
また、第1の屈折率nbと第2の屈折率naに対して、第1の部材が、常温において屈折率がnbより大きくかつnb+0.4×Δn以下の範囲内となり、第2の部材が、na−0.4×Δn以上かつna−0.1×Δn以下の範囲内となるようにし、第1の部材の屈折率と第2の部材の屈折率との適正化を図ったため、使用温度範囲の温度変化が生じた場合でも適切に動作可能となる。
また、各透明電極を透明基板上の平坦な面に形成する構成では、段切れを生じにくくすることができ、もって歩留まりを向上させることが可能な光ヘッド装置を実現できる。
また、各透明基板の平均の厚さを液晶の厚さの100倍以上としたため、固体に比して大きな膨張係数を有する液晶の体積変化によって、可変回折素子が凸レンズ化または凹レンズ化するのを抑制し、実用可能な範囲内にすることができる。
また、電気信号切り替え手段が、可変回折素子に入射する光束を情報記録面のトラックピッチに適したメインビームおよび2つのサブビームするように可変回折素子に印加する電気信号を切り替えるため、規格の異なる複数の光記録媒体を対象に情報の記録または生成を適切に行うことができる。
本実施の形態では、第1の部材25および第2の部材26からなる可変回折素子2aについて説明したが、いずれか一方の部材からなる可変回折素子2aとしてもよい。この場合、液晶に印加する電気信号の切り替えにより回折効率の切り替えができる。
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置の概念的な構成は、可変回折素子(図1に示す可変回折素子2)を除き、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100の構成と同様であるため、同一の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。本発明の第2の実施の形態に係る可変回折素子は、偏光変換素子と偏光回折素子によって構成される。
図5および図6は、本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置を構成する可変回折素子の構成例を模式的に示す断面図である。図5は、偏光変換素子と偏光回折素子とを一体にして可変回折素子を構成した例を示し、図6は、偏光変換素子を偏光回折素子から分離して可変回折素子を構成した例を示す。図5に示す可変回折素子には符号2b1を付し、図6に示す可変回折素子には符号2b2を付す。
本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置を構成する可変回折素子について、図5および図6を用いて説明する。図5および図6に示す構成の可変回折素子2b1および2b2は、偏光変換素子510と偏光回折素子520とを有する。偏光変換素子510は、一対の透明基板51a、51bと、一対の透明基板51a、51bによって挟持された第1の液晶(以下、偏光液晶という。)53と、偏光液晶53に電圧を印加するための一対の透明電極52a、52bと、シール材54と、透明電極52a、52bに電圧を印加するためのフレキシブル回路基板55とを有する。
透明基板51a、51b、51c、透明電極52a、52b、シール材54、および、フレキシブル回路基板55は、本発明の第1の実施の形態において説明したものと同様であるため、その説明を省略する。
偏光変換素子510を構成する偏光液晶53としては、ツイストネマティック液晶を用いることが好適である。これによって、光が透明基板51a側から入射するものとすると(以下、同様とする。)、例えば、入射側の透明基板51aと出射側の透明基板51bとで配向方向を90度変えて液晶をツイストさせると、電圧を印加しない状態では、入射光の偏光方向は液晶の配向方向の変化量に応じて90度偏光方向が変化し、電圧を印加して配向方向が揃った状態では、入射光の偏光方向は液晶の配向方向が変化しないため偏光方向も変化しない。
上記のように図示しない電気信号切り替え手段によって偏光変換素子510に電気信号を印加することによって、入射光の偏光方向を90度変化させることができる。ただし、本発明に係る偏光変換素子510は、上記の構成のものに限定されるものではなく、以下のように構成されるものでも、入射光の偏光方向を90度変化させることができるものであればその他の構成でもよい。
すなわち、液晶の配向方向を入射光の偏光方向と同一面内かつ45度の角度をなすように構成し、所定の電圧を印加したときの液晶の屈折率と、印加してないときの液晶の屈折率との差Δnに液晶の厚さdを乗じたΔn・dが概ね半波長の奇数倍となるように構成する。このとき、第2の透明基板51bと偏光液晶53との界面での液晶の配向方向は、第1の透明基板51aと偏光液晶53との界面での液晶の配向方向と同じものとする。これによって、電圧を印加しないときは、偏光方向が90度回転し、電圧を印加すると偏光方向が回転しないようにすることができる。
偏光回折素子520は、一対の透明基板51b、51cと、回折液晶56、57と、格子材58とを有し、入射する光束を偏光方向に応じて回折させる2つの偏光回折格子を構成する。以下、第1の回折液晶56と格子材58とによって形成される偏光回折格子を第1の偏光回折格子といい、第2の回折液晶57と格子材58とによって形成される偏光回折格子を第2の偏光回折格子という。
第1の偏光回折格子は、相互に直交する2つの偏光方向を第1の偏光方向および第2の偏光方向とするとき、第2の偏光方向の光束の回折効率を第1の偏光方向の光束の回折効率で割って得られる比(以下、回折効率比という。)が0以上0.5以下となるように入射される光束を回折させ、第1の偏光方向の光束に対して、0次回折効率を1次回折効率で割って得られる比(以下、0次1次比という。)が5以上から30以下の範囲内のいずれかになるように光束を回折させるように構成される。
第2の偏光回折格子は、第1の偏光方向の光束の回折効率を第2の偏光方向の光束の回折効率で割って得られる回折効率比が0以上0.5以下となるように入射される光束を回折させ、第2の偏光方向の光束に対して、0次回折効率を1次回折効率で割って得られる0次1次比が5以上から30以下の範囲内のいずれかになるように光束を回折させるように構成される。
ここで、回折効率比を0以上0.5以下から0以上0.3以下にすることによって、トラッキングサーボへのノイズの影響をより低減でき、第2の偏光方向と第1の偏光方向との回折効率比を、さらに、0以上0.1以下とすることによって、トラッキングサーボへのノイズの影響をさらに低減でき、精度の一層の向上を図ることができる。また、0次1次比に関しては、0次1次比が小さい方がサブビームの信号強度が高くなり、トラッキング信号のSN比を改善できる。
そのため、再生に関しては、0次1次比が20以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましい。一方、書き込みに関しては、0次1次比が大きい方がメインビームの強度が高くなり、書き込みの際の光パワーを高くできるので好ましい。そのため、書き込みに関しては、0次1次比が8以上であることがより好ましく、15以上であることがさらに好ましい。したがって、再生専用の光ヘッド装置では、0次1次比は、5〜20であることがより好ましく、5〜15であることがさらに好ましい。一方、再生および書き込みが可能な光ヘッド装置では、0次1次比は、10〜30であることがより好ましく、15〜20であることがさらに好ましい。
上記のように構成された偏光回折素子520には、可変回折素子2b1に入射された光束が、偏光変換素子510によって偏光方向が切り替えられて入射する。具体的には、偏光変換素子510の透明電極52a、52bを介して偏光液晶53に印加された電気信号によって、偏光液晶53の配向方向を変化させ、これによって偏光方向を切り替えるようになっている。
このように、偏光変換素子510に電気信号を印加することによって、偏光変換素子510を通過する光束の偏光方向を第1の偏光方向または第2の偏光方向のいずれかの偏光方向に制御し、偏光方向が第1の偏光方向のとき、入射した光束は第1の偏光回折格子によって一部が回折し、偏光方向が第2の偏光方向のとき、入射した光束は第2の偏光回折格子によって一部が回折するように構成されている。
回折液晶56、57として高分子液晶を用いることは、配向方向の制御が容易なため、偏光方向と回折方向との制御が容易になり、好ましい。ただし、回折液晶56、57として、低分子液晶を用いるのでもよい。以下、回折液晶56、57として、高分子液晶を用いるものとする。ここで、第1の回折液晶56と、第2の回折液晶57とは、それぞれ配向方向が90度ずれて対向するように、透明基板51b、51c上に形成される。以下、第1の回折液晶56の配向方向を第1の偏光方向に平行となるものとし、第2の回折液晶57の配向方向を第2の偏光方向に平行となるものとする。
したがって、第1の回折液晶は第1の偏光方向の入射光に対して異常光屈折率neを有し、第2の回折液晶は第2の偏光方向の入射光に対して常光屈折率noを有する。ここで、透明基板51a、51bの屈折率nsは、回折液晶56、57の常光屈折率noまたは異常光屈折率neのいずれかと等しいものとする。
格子材58は、光学的に等方性を有する媒質(以下、等方性媒質という。)からなり、格子材58としては、所謂、充填材が用いられる。この充填材は、回折液晶56、57が形成された一対の透明基板51b、51cを相互に張り合わせる用途にも用いることができ、有効である。回折液晶56、57と格子材58とによって構成される回折格子のピッチおよび対向傾斜角は、本発明の第1の実施の形態において説明したものと同様であるため、その説明を省略する。
上記で、透明基板51a、51bの屈折率nsおよび格子材58の屈折率が回折液晶56、57の常光屈折率noに等しい場合、第1の透明基板51aに接する回折液晶56は、上記第1の偏光方向の光に対しては、neの屈折率を示し、回折液晶56と等方性媒質(格子材58)との屈折率の差に応じ、第1の透明基板51aに入射する光束は回折する。また、第2の偏光方向に対しては、回折液晶56はnoの屈折率を示し、回折液晶56と等方性媒質(格子材58)との屈折率の差はなく、第1の透明基板51aに入射する光束は回折しない。
これに対して、第2の透明基板51bに接する回折液晶57は、上記第1の偏光方向の光に対しては、noの屈折率を示し、回折液晶56と等方性媒質(格子材58)との屈折率の差はなく、第2の偏光回折格子に入射する光束は回折する。また、第2の偏光方向に対しては、回折液晶56はneの屈折率を示し、回折液晶56と等方性媒質(格子材58)との屈折率の差に応じて、第2の偏光回折格子に入射する光束は回折する。
なお、上記では、可変回折素子2b1、2b2が液晶を用いて構成される例について説明したが、本発明の可変回折素子2b1、2b2は、必ずしも液晶を用いて構成されるものに限定されず、LiNbO3等の複屈折を有する単結晶を用いて作成されるのでも、偏光方向により回折特性の異なる2つの偏光回折格子を張り合わせて構成されるものでも、偏光方向により回折特性の異なる物を用いるのであればその他の構成でもよい。
[実施例]
以下、本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置の実施例について説明する。本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置の概念的な構成は、可変回折素子(図1に示す可変回折素子2)を除き、本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100の構成と同様であるため、同一の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。本発明の第2の実施の形態に係る可変回折素子は、偏光変換素子と偏光回折素子によって構成される。
図5および図6は、本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置の実施例の可変回折素子の構成例を模式的に示す断面図である。図5および図6に示す構成の可変回折素子2b1は、偏光変換素子510と偏光回折素子520とを有する。偏光変換素子510は、一対の透明基板51a、51bと、一対の透明基板51a、51bによって挟持された偏光液晶53と、偏光液晶53に電圧を印加するための一対の透明電極52a、52bと、シール材54と、透明電極52a、52bに電圧を印加するためのフレキシブル回路基板55とを有する。
透明基板51a、51b、51c、透明電極52a、52b、シール材54、および、フレキシブル回路基板55は、本発明の第1の実施の形態において説明したものと同様であるため、その説明を省略する。また、第2の実施の形態に係る光ヘッド装置は図示しない電気信号切り替え手段を備え、電気信号切り替え手段は、所定の矩形交流の電気信号を透明電極52a、52bに出力するようになっている。
偏光変換素子510を構成する偏光液晶53としては、ツイストネマティック液晶を用いる。これによって、光が透明基板51a側から入射するものとすると(以下、同様。)、例えば、入射側の透明基板51aと出射側の透明基板51bとで配向方向を90度変え液晶をツイストさせると、電圧を印加しない状態では、入射光の偏光方向は液晶の配向方向の変化量に応じて90度偏光方向が変化し、電圧を印加して配向方向が揃った状態では、入射光の偏光方向は液晶の配向方向が変化しないため偏光方向も変化しない。
偏光液晶53は、透明基板51a、51bに平行に配向している。偏光液晶53は、また、第1の透明電極52aと偏光液晶53との界面に設けられた配向膜等によって、第1の偏光回折格子のストライプと概ね平行になる方向に配向している。偏光液晶53は、さらに、第2の透明電極52bと偏光液晶53との界面に設けられた配向膜等によって、第2の偏光回折格子のストライプと概ね90度になる方向に配向している。偏光液晶53の厚さは、5μmである。そして、光源1と第1の偏光回折格子のストライプとは、光源1が出射する光束の偏光方向が偏光液晶53の入射面での配向方向と一致するように配置される。
偏光回折素子520は、一対の透明基板51b、51cと、回折液晶56、57と、格子材58とを有し、入射する光束を偏光方向に応じて回折させる2つの偏光回折格子を構成する。回折液晶56、57としては、高分子液晶を用いる。これは、回折液晶56、57の配向方向の制御が容易なため、偏光方向と回折方向との制御が容易になり、好ましい。
第1の偏光回折格子を構成する第1の回折液晶56の厚さ(第1の偏光回折格子の深さ)d1は1.6μmであり、第2の回折液晶57の厚さ(第2の偏光回折格子の深さ)d2は1.9μmである。ここで、回折液晶56、57を構成する高分子液晶の常光屈折率noは1.52、異常光屈折率neは1.57である。また、透明基板51b、51cと格子材58の屈折率nsは1.52である。また、格子材58としては、等方性媒質の充填材が用いる。この充填材を用いて、回折液晶56、57が形成された一対の透明基板51b、51cを相互に張り合わせる。
回折液晶56、57は、図3に示すように、ストライプ状の周期的な凹凸の平面パターンを有する。ただし、回折液晶56、57のピッチは、相互に異なり、それぞれ12μm、13μmにする。また、第1の回折液晶56が有するストライプ状の凹凸の平面パターンと、第2の回折液晶57が有するストライプ状の凹凸の平面パターンとは、第2の透明基板51bと第3の透明基板51cとが対向させた状態で、1度の対向傾斜角をなすように形成される。
このように構成することにより、回折液晶56、57と格子材58とが構成する回折格子の回折効率は、回折液晶56、57の凹凸の深さd1、d2と、高分子液晶よりなる回折液晶56、57の屈折率と格子材58の屈折率の差との積に応じて決定される。この積は、第1の偏光回折格子については(ne−ns)・d1=0.8μmとなり、第2の偏光回折格子については(ne−ns)・d2=0.95μmとなる。
その結果、第1の偏光回折格子については、第1の偏光方向に対して0次回折効率が86%となり、1次回折効率が5.7%となる。また、第2の偏光方向については、1次回折効率がほぼ0%となる。第2の偏光回折格子については、第2の偏光方向に対して0次回折効率が81%となり、1次回折効率が7.7%となる。また、第1の偏光方向については、1次回折効率がほぼ0%となる。
このように、図示しない電気信号切り替え手段を介して偏光変換素子510を構成する透明電極52a、52bに電気信号を出力することによって、第1の偏光回折格子と第2の偏光回折格子とを切り替えることができる。このように構成することによって、第1の偏光回折格子については、第1の偏光方向に対して、0次回折効率を1次回折効率で割って得られる比として約15が得られる。また、第1の偏光方向の光束の回折効率を第2の偏光方向の光束の回折効率で割って得られる比は、ほぼ0となる。
また、第2の偏光回折格子については、第2の偏光方向に対して、0次回折効率を1次回折効率で割って得られる比として約10.5が得られる。また、第2の偏光方向の光束の回折効率を第1の偏光方向の光束の回折効率で割って得られる比は、ほぼ0となる。
なお、上記では、光源から出射される光束を可変回折素子がメインビームと2つのサイドビームにする構成について説明したが、本発明は、このような構成に適用が限定されるものではなく、回折格子を切り替える構成の全ての装置に適用できるものである。
なお、上記の実施例は、回折液晶56、57に用いる材料と格子材58に用いる材料とを入れ替えた構成(以下、入替構成例という。)の可変回折素子2を排除するものではない。上記の構成(以下、実施構成例という。)は、入替構成例に比して、以下の点で好ましい。すなわち、入替構成例では、回折格子のストライプ方向に液晶分子が配向するため、対向する回折格子間でストライプ方向が大きく異なる場合、液晶がツイストすることになる。このような場合、透過する光の偏光方向が回転する。
光ヘッド装置によっては、このように偏光方向が回転してしまうことによって、ビームスプリッタ3に入射する偏光方向が所望の偏光方向と異なってしまい、効果率の低下を招くことがある。一方、実施構成例では、配向した高分子液晶膜にパターニングして回折格子を後から作成するため、回折格子のストライプ方向と高分子液晶の配向方向とは、独立に設定できる。このため、入替構成例で見られたような問題は生じず、上記の実施構成例が好ましい。
以上説明したように、本発明の第2の実施の形態に係る光ヘッド装置は、偏光変換素子が可変回折素子に入射する光の偏光方向を切り替え、偏光回折素子が偏光方向の異なる2つの光束の回折効率の比が0以上0.5以下となるように光を回折させ、利用しない回折光を抑制できるため、トラッキングサーボへのノイズを低減できる。
また、0次回折効率と1次回折効率との比が5以上から30以下の範囲内となるようにしたため、光ディスクに対して情報の書き込みまたは読み出しを適切に行うことができる。
本実施の形態では、第1の回折液晶56と第2の回折液晶57からなる偏光回折素子520を備えた可変回折素子2b1、2b2について説明したが、いずれか一方の回折液晶からなる可変回折素子としてもよい。この場合、偏光変換素子510に印加する電気信号の切り替えにより回折効率の切り替えができる。
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態に係る光ヘッド装置の概念的な構成は、図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100の構成と、以下の点が異なる。
第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100では、可変回折素子2が光源1とビームスプリッタ3の間の光路中に配置され、可変回折素子2により光源1から出射した光束の一部を回折させてメインビームと2つのサブビームからなる3つのビームを生成する。
第3の実施の形態に係る光ヘッド装置100では、可変回折素子2がビームスプリッタ3と光検出器8の間の光路中に配置され、光ディスク7の情報記録面7aから反射して戻ってくる光束の一部を可変回折素子2により回折させ、光検出器8の複数の受光面へ集光させるように構成する。
光ヘッド装置の他の配置および構成は第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100と同様であるため、同一の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。
なお、非点収差法を用いたフォーカスサーボやトラッキングサーボを採用する場合、ビームスプリッタ3と光検出器8との間の光路中に、シリンドリカルレンズなどの非点収差を発生する光学素子を配置することが一般的である。
本発明の第3の実施の形態に係る光ヘッド装置に用いられる可変回折素子は、第1および第2の実施の形態において説明した何れの構成でもよい。情報記録面のトラックピッチの規格が異なる光記録媒体を対象に記録または再生を行うときに、前記可変回折素子に印加する電気信号を切り替えて、光記録媒体に最適なフォーカスサーボやトラッキングサーボ検出用の回折パターンを生成するように可変回折素子のストライプ状の回折格子パターンを設計する。
回折素子をビームスプリッタ3と光検出器8との間の光路中に配置し、0次回折光(透過光)や±1次回折光を光ディスクの記録・再生、フォーカスサーボやトラッキングサーボ検出用の光信号として利用するのは、ホログラムビームスプリッタ方式として知られている。ホログラムビームスプリッタ方式に用いられる回折素子は、入射光束面内で回折格子の領域が複数に空間分割され、各領域で回折格子のピッチやストライプ方向が異なることが一般的である。また、各領域内で回折格子のピッチやストライプ方向に分布をつけることで回折光にレンズ機能や波面収差生成機能を付与するホログラムパターンとすることもある。本実施形態に用いる可変回折素子2の回折格子も、このようなホログラムビームスプリッタ方式の設計構成やホログラムパターンが利用できる。
可変回折素子2を光源1とビームスプリッタ3の間の光路中に配置する場合、0次回折光(透過光:メインビーム)と±1次回折光(2つのサブビーム)からなる3つのビームを生成することが一般的だが、可変回折素子2をビームスプリッタ3と光検出器8の間の光路中に配置する本実施形態の場合、0次回折光(透過光)を用いないで±1次回折光の両方または一方のみを光信号として用いることもある。また、−1次回折光に対して+1次回折光の回折効率を相対的に高く、あるいは+1次回折光のみを光信号として用いる場合、ブレーズ回折格子とすることが好ましい。この場合、図2の第1の部材25、第2の部材26、または、図5の回折液晶56および57の断面形状を鋸歯状としたブレーズ形状や鋸歯を階段状に近似した疑似ブレーズ形状とすればよい。
例えば、回折液晶56の断面形状を4段の階段状に近似した疑似ブレーズ形状とし、−1次回折光と+1次回折光の回折効率比を1:10とし、−1次回折光をトラッキングサーボ信号に、+1次回折光を記録・再生およびフォーカスサーボ信号として用いることにより、+1次回折光量が多いため高倍速の記録・再生においてもSN比の高い信号検出が可能となる。
本実施形態では、可変回折素子2をビームスプリッタ3と光検出器8の間の光路中に配置することにより、第1の実施の形態における光源1から光ディスク7に至る往路光路中での回折光発生に伴う0次回折光(透過光)の効率の低下がないため、高い0次回折光の効率が必要となる記録用の光ヘッド装置に有効である。
本発明の光ヘッド装置に用いられる可変回折素子として、図2では第1の部材25と第2の部材26からなる2種類の回折格子を有し、図5および図6では回折液晶56と57からなる2種類の回折格子を有し、印加する電気信号を切り替えることによって、2種類の回折格子の内の一方の回折格子の機能を発現させる例を示す。
可変回折素子として、1種類の回折格子から成り、印加する電気信号を切り替えることによって回折光を生成する状態と生成しない状態を切り替える作用としてもよい。
例えば、図2において、第2の部材26を回折格子のピッチを無限大として実質的に回折パターンが存在しない状態とし、第1の部材25のみの回折格子からなる可変回折素子2aとすると、電圧V1では第1の部材25と液晶27の屈折率が一致して回折光が発生しないが、電圧V2ではその屈折率が一致しないため回折光が発生する。
また、図5において、回折液晶56のみの回折格子からなる可変回折素子2b1とすると、偏光変換素子510を構成する偏光液晶53に印加する電圧に応じて回折液晶56で回折光が発生する状態と発生しない状態を切り替えできる。
このようにして印加電圧に応じて回折光が発生する状態と発生しない状態とを切り替える可変回折素子が得られると、生成される回折光が異なる複数の可変回折素子を直列に配置することにより、2種類に限定されることなく複数の回折格子の回折光を切り替えて発生できる。
その結果、情報記録面のトラックピッチの規格が異なる複数の光記録媒体である光ディスクを対象に記録または再生を行うときに、前記複数の回折格子からなる可変回折素子に印加する電気信号を切り替えて、前記光記録媒体に最適な信号検出が可能となる。
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態に係る光ヘッド装置100の実施例について説明する。図1に示す本発明の第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100の構成とは、以下の点が異なる。
第1の実施の形態に係る光ヘッド装置100では、可変回折素子2が光源1とビームスプリッタ3の間の光路中に配置され、可変回折素子2により光源1から出射した光束の一部を回折させてメインビームと2つのサブビームからなる3つのビームを生成する。
第4の実施の形態に係る光ヘッド装置100では、可変回折素子2がビームスプリッタ3と対物レンズ6の間の光路中に配置され、光源1から出射した往路の光は可変回折素子2を透過し、対物レンズ6により光ディスク7に集光し、光ディスクの情報記録面7aから反射して戻ってくる復路の光はふたたび、可変回折素子2を透過し、光検出器8へ導かれる。
このとき、印加する電圧により可変回折素子2の回折効率を変化させることにより、往路に可変回折素子2を透過する光の0次回折光の光量を変化させることができる。
例えば回折効率が低い、あるいは回折しない状態では、可変回折素子2を透過する0次回折光量が増加し、光ディスク7に到達する光量が増加する。一方、回折効率を高くし、可変回折素子2を透過する0次回折光量が減少し、光源である半導体レーザからの出射光量を大きくしたまま、光ディスク7への到達する光量を小さくすることができる。
光ディスク7に書き込みを行う際には、光ディスクに到達する光量を大きくする必要があり、可変回折素子の回折効率を小さく、あるいは回折しない状態とすることが好ましい。また、光ディスクの情報記録面7aに記録された情報を読み込む際には、光ディスクに到達する光量を小さくする必要がある。このとき、光源1である半導体レーザの出射光量を小さくすると、半導体レーザの発振が不安定になりノイズが増大し、読み取り性能に悪影響を与える。このため、可変回折素子2の回折効率を大きくし光ディスクに到達する0次透過光量を小さくすることで、光源である半導体レーザの出射光量を大きくしたまま、低ノイズで光ディスクを読み取ることができる。このほかにも、情報記録面が2層ある光ディスクと1層の光ディスクでは、光ディスクへ到達させるべき光量が大きく異なり、このような場合にも可変回折素子による光量変化は有効である。
本実施形態では、可変回折素子の回折効率を変化させる、あるいは回折する状態と回折しない状態を切り替える機能が重要となる。図2に示した本発明の可変回折素子の模式図の第1の透明電極上にストライプ状の周期的な凹凸を形成するために設けられた第1の部材25と、第2の部材26の凹凸の深さを異なるようにすることで、印加する電圧により回折効率を変化させることができる。
また、回折する状態と、しない状態を切り替える場合には、第1の凹凸部材25または第2の凹凸部材26のどちらか一方の凹凸をなくし、平面としてもよい。即ち、第1の凹凸部材25または第2の凹凸部材26のどちらか一方の凹凸のピッチを無限大として実質的に回折パターンが存在しない状態としてもよい。
さらに、凹凸部材25と26の屈折率を同じとしてもよい。
さらに、可変回折素子と対物レンズの間に1/4波長板を配置することで、光源1から出射した往路の直線偏光の光が、前記1/4波長板を透過し、光ディスクで反射に再び1/4波長板を透過することで、復路の偏光方向は往路の直線偏光方向と直交させることができる。このことで、可変回折素子を透過する往路と復路では、偏光方向を直交させることができる。本発明の液晶を用いた可変回折素子は、回折効率を変化させることができる光の偏光方向と変化させない偏光方向が存在する。この回折効率を変化させることが可能な偏光方向と、往路の偏光方向とを一致させ、復路の偏光方向の光に対しては回折効率が低く透過率が高い状態に設定する。つまり、往路の0次回折光の効率のみを可変回折素子に電圧の印加状態を変化させることで可変することができ、復路の光は高い0次回折光の効率で光検出器に導くことができる。このことで、光ディスクの種類や書き込み読み込み状態に応じて往路の透過率を可変し、最適な光強度で光ディスクに光を導くことができ、光ディスクから反射した光は、光ディスクの種類などによらず、可変回折素子を高い透過率で透過し、高い利用効率で光検出器に導くことができる為に、光ディスクの情報を含んだ光信号を高いSN比で検出することができ好ましい。