JP2006097288A - コンクリート部材の接合部構造 - Google Patents

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Abstract

【課題】 二つのコンクリート部材の接合部において、一方のコンクリート部材に作用するせん断力によりそのコンクリート部材が他方のコンクリート部材に対して滑りを生ずることを抑制し、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力を高める。
【解決手段】 二つのコンクリート部材A、Bに跨って鋼材2を配置し、この鋼材2がいずれか一方のコンクリート部材A内に位置する区間と他方のコンクリート部材B内に位置する区間の内の、少なくともいずれか一方の区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着を切り、鋼材2の両端部の内の少なくともいずれか一方をコンクリートに定着させない。
【選択図】 図1

Description

この発明は柱部材と梁部材、柱部材とフーチング等の、二つのコンクリート部材の接合部において、一方のコンクリート部材に作用するせん断力によりそのコンクリート部材が他方のコンクリート部材に対して滑りを生ずることを抑制し、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力を高めるコンクリート部材の接合部構造に関するものである。
柱部材と梁部材、柱部材とフーチング等の、二つのコンクリート部材の接合部のように一方のコンクリート部材に作用するせん断力によって圧縮力と引張力を交互に受ける接合部では一方のコンクリート部材の変形の進行に伴い、図6−(a)、(c)に示すように引張側の鉄筋が伸長する一方、圧縮側の鉄筋が収縮し、一方のコンクリート部材が他方のコンクリート部材との境界面で肌離れ(剥離)を起こすようになる。
一方のコンクリート部材が肌離れを起こしたときには、両コンクリート部材の境界面において圧縮力を負担できる面がなくなり、コンクリートによる摩擦抵抗が期待できなくなるため、コンクリート部材は図6−(b)、(d)に示すように引張側と圧縮側の鉄筋のダボ作用のみによってせん断力に抵抗する形になる。
ところが、鉄筋のダボ作用による、せん断力に対する抵抗力はコンクリートの摩擦抵抗より小さいことから、鉄筋のダボ作用によってはせん断力に抵抗しきれず、一方のコンクリート部材にいわゆるスリップ現象(滑り現象)が表れ、そのコンクリート部材の変形量が大きくなる。図6−(c)、(d)はそれぞれ(a)、(b)と逆向きに水平力が作用したときの様子を示す。荷重(せん断力)−変形曲線上の図6−(a)〜(d)の各状態を図7に示す。
図6−(b)、(d)に示す状態II、IVのときには、一方のコンクリート部材は図8に示すように荷重ゼロ近傍で他方のコンクリート部材に対して滑りを生じており、荷重−変形曲線上、エネルギ吸収性能が著しく低下する履歴性状を示すため、肌離れを起こしたコンクリート部材の変形は一層進行することになる。
コンクリート部材に作用するせん断力による引張力に対しては、コンクリート部材中に埋設したスリーブに鉄筋を挿通させ、鉄筋のスリーブ内に位置する部分の一部においてスリーブとの付着を切り、他の一部において付着させることにより引張側の鉄筋の伸長を抑制し、その鉄筋が降伏した後にもスリーブにダボ作用を発揮させつつ、鉄筋の降伏部分が引張力と圧縮力の交番荷重に対して塑性変形を繰り返すことにより地震時のエネルギ吸収を図る方法がある(特許文献1参照)。
また二つのコンクリート部材に跨って配筋される鉄筋の他に、その鉄筋より高強度の芯材を付加し、芯材の両端を除いた中間部分でコンクリートとの付着を切ることで、鉄筋が降伏した後にも芯材を弾性的に挙動させ、芯材の降伏を防止する方法がある(特許文献2参照)。
特開2003-155778号公報 特許第3418726号明細書
特許文献1の方法によれば、スリーブにダボ作用を発揮させることで、鉄筋が降伏した後のコンクリートの滑りを抑制することができるものの、前記の通り、鉄筋のダボ作用のみによる抵抗力は小さいため、鉄筋を包囲するスリーブのダボ作用によってコンクリート部材の変形の進行を抑制し、滑りを食い止めることは難しい。
特許文献2の方法によれば、コンクリート部材の大変形時の復元力に芯材の剛性が付加されることで、コンクリート部材が降伏した後に変形のみが進行する事態を回避し、変形の増大と共に復元力も増大させているが、芯材の両端がコンクリートに定着されていることから、芯材自身は全長に亘って引張力を負担するため、芯材の降伏やそれに伴うコンクリートのひび割れが発生する可能性がないとは言えない。
この発明は上記背景より、一方のコンクリート部材に作用するせん断力によりそのコンクリート部材が他方のコンクリート部材に対して滑りを生ずることを抑制し、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力を高める接合部構造を提案するものである。
本発明では二つのコンクリート部材の接合部にこの二つのコンクリート部材に跨って鋼材を付加することにより鉄筋(主筋)のダボ作用を補い、その上で、鋼材を、いずれか一方のコンクリート部材内に位置する区間と他方のコンクリート部材内に位置する区間の内の、少なくともいずれか一方の区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着を切ると共に、鋼材の両端部の内の少なくともいずれか一方をコンクリートに定着させないことにより、ダボ作用の効果が低下する要因である鋼材の降伏と付着によるコンクリートのひび割れを抑制して一方のコンクリート部材の滑りを抑制し、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力を高める。鋼材には鉄筋、棒鋼、PC鋼材、形鋼等が使用される。
二つのコンクリート部材に跨って鋼材が付加されることで、二つのコンクリート部材内に跨り、連続的に配筋されている鉄筋のダボ作用が補われ、鉄筋が降伏、あるいは座屈した後にも鋼材が発揮するダボ作用によりせん断力に対する抵抗機構が形成される。
特に鋼材の全長の内、少なくとも一部の区間においてコンクリートとの付着が切れることで、付着が切れた区間においてはせん断力による引張力と圧縮力を負担することがなくなり、鋼材の降伏、及び鋼材との付着によるコンクリートのひび割れが抑制される。
この結果、鋼材の降伏やコンクリートのひび割れが発生するような引張力と圧縮力が作用する状況下においても鋼材によるダボ作用の効果が維持され、鋼材のダボ作用が継続して発揮されることにより鉄筋が降伏、あるいは座屈した後のコンクリート部材に作用するせん断力に対する抵抗力が確保される。
鋼材の両端部の内の少なくともいずれか一方がコンクリートに定着されないことは、鋼材のいずれか一方の端部がその側のコンクリート部材のコンクリートに定着されず、他方の端部がその側のコンクリート部材のコンクリートに定着される場合(請求項3)と、両端部が両コンクリート部材に定着されない場合(請求項2)がある。
いずれか一方のコンクリート部材にのみ定着される場合(請求項3)はコンクリート部材がせん断力によって変形しようとするときに、鋼材の定着されたコンクリート部材側がコンクリートに定着されたまま、定着されないコンクリート部材側においては付着部分がコンクリート部材に追従するものの、その内の付着が切れた区間はコンクリート部材に追従しないため、せん断力による引張力と圧縮力を負担することがない。
両端部が両側のコンクリート部材に定着されない場合(請求項2)もコンクリート部材がせん断力によって変形しようとするときに、鋼材の付着がある区間においてはコンクリート部材に追従するものの、その内の付着が切れた区間はコンクリート部材に追従しないため、一方のコンクリート部材にのみ定着された場合と同様にせん断力による引張力と圧縮力の負担から解放される。
いずれの場合も鋼材の、コンクリートとの付着が切れた区間がせん断力による引張力と圧縮力を負担しないことで、鋼材の降伏とコンクリートのひび割れが抑制され、ダボ作用の効果が維持される結果、せん断力に対する抵抗力が確保される。
せん断力に対する抵抗力の確保により荷重ゼロ近傍でのコンクリート部材の滑り、すなわちスリップ現象が緩和され、図9に破線で示すように荷重−変形曲線上、変形の増加に伴って荷重も増加する傾向が表れ、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力が向上し、コンクリート部材の過大な変形が回避される。
請求項2に記載のように両コンクリート部材内に位置する区間の全長において鋼材のコンクリートとの付着を切った場合には、鋼材が引張力と圧縮力を負担することがほとんど、あるいは全くなくなり、鋼材に降伏と座屈を発生させることがなくなるため、エネルギ吸収性能が一層向上する。
請求項3に記載のように鋼材の、いずれか一方のコンクリート部材内に位置する区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着を切り、他方のコンクリート部材内に位置する区間の端部においてコンクリートに定着させた場合には、鋼材がコンクリートとの付着が切れた区間においては引張力と圧縮力を負担することなく定着側においてはコンクリートに定着された状態を維持することができるため、一方のコンクリート部材の変形に伴う鋼材の抜け出しが阻止され、コンクリートに対する鋼材の滑りによるダボ作用の効果の低減が回避される。
請求項4に記載のように鋼材を一方のコンクリート部材の断面上の中央部に配置した場合には、一方のコンクリート部材がその変形の進行に伴い、引張力を受ける鉄筋側において他方のコンクリート部材との境界面で肌離れを起こした後においても断面上の中央部において鋼材がダボ作用を発揮し続けることで、それ以上の肌離れの進行を阻止することができるため、せん断力の作用方向に関係なく中央部分の肌離れが防止され、一方のコンクリート部材に作用するせん断力に対する抵抗力を確保することができる。
二つのコンクリート部材に跨って鋼材を付加することで、二つのコンクリート部材内に連続して配筋されている鉄筋のダボ作用を補い、鉄筋が降伏、あるいは座屈した後にも鋼材によるダボ作用を発揮させることができる。
また鋼材のコンクリートとの付着を切ることで、コンクリート部材に作用するせん断力による引張力と圧縮力を少なくとも付着が切れた区間においては鋼材が負担することがなくなり、鋼材の降伏、及び鋼材との付着によるコンクリートのひび割れが抑制される結果、常に鋼材によるダボ作用の効果が維持され、この鋼材のダボ作用によりコンクリート部材に作用するせん断力に対する抵抗力を確保することができる。
せん断力に対する抵抗力の確保により荷重ゼロ近傍でのコンクリート部材の滑りが緩和される結果、荷重−変形曲線上、変形の増加に伴って荷重も増加する傾向が表れるため、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力が向上し、コンクリート部材の過大な変形を回避することができる。
請求項2では両コンクリート部材内に位置する区間の全長において鋼材のコンクリートとの付着を切ることで、鋼材が引張力と圧縮力を負担することがなく、鋼材に降伏と座屈が発生することがなくなるため、コンクリート部材の変形能力とエネルギ吸収能力が一層向上する。
請求項3では鋼材の一方のコンクリート部材内に位置する区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着を切り、他方のコンクリート部材内に位置する区間の端部においてコンクリート中に定着させることで、鋼材がコンクリートとの付着が切れた区間においては引張力と圧縮力を負担することなく定着側においてはコンクリートに定着された状態を維持することができるため、コンクリートに対する鋼材の滑りによるダボ作用の効果の低減が回避される。
請求項4では鋼材を一方のコンクリート部材の断面上の中央部に配置することで、一方のコンクリート部材が引張側において他方のコンクリート部材との境界面で肌離れを起こした後においても断面上の中央部における鋼材のダボ作用が維持されるため、せん断力の作用方向に関係なく中央部分の肌離れを防止することができ、一方のコンクリート部材に作用するせん断力に対する抵抗力を確保することができる。
この発明は二つのコンクリート部材A、Bに跨って鉄筋1が連続的に配筋されるコンクリート部材A、Bの接合部において、前記二つのコンクリート部材A、Bに跨って鋼材2を配置し、この鋼材2をいずれか一方のコンクリート部材A(B)内に位置する区間と他方のコンクリート部材B内に位置する区間の内の、少なくともいずれか一方の区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着を切り、且つ鋼材2の両端部の内の少なくともいずれか一方をコンクリートに定着させないことにより、前記一方のコンクリート部材Aのせん断力によるずれを抑制する接合部構造である。
二つのコンクリート部材A、Bは柱と梁、耐力壁と柱、または梁、上階の柱と下階の柱、柱と基礎、杭と基礎(フーチング)の他、耐力壁と耐力壁、フラットスラブのようなスラブと柱等、互いに接合されるコンクリート部材であれば部位を問わない。また現場打ちコンクリート造であるかプレキャストコンクリート製であるかも問わず、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鋼管コンクリート造(CFT)、またはいずれかの組み合わせの場合の他、コンクリート部材A、B単位でコンクリートにプレストレスを与える場合もある。
図1は一方のコンクリート部材Aが柱で、他方のコンクリート部材Bが梁や基礎である部位において、鋼材2として鉄筋や棒鋼、PC鋼棒を使用した場合を示す。鉄筋1は両コンクリート部材A、Bに跨って連続的に配筋され、柱である一方のコンクリート部材Aにおいてはせん断補強筋3によって拘束され、他方のコンクリート部材Bにおいては定着等される。鋼材2は鉄筋1との干渉が生じない位置、例えば図1のx−x線、y−y線の断面図である図2−(a)、(b)に示すように一方のコンクリート部材Aの断面上の中央部に配置される。
鋼材2が一方のコンクリート部材Aの材軸に直交する断面上の中央部に配置された場合(請求項4)には、一方のコンクリート部材Aに作用するいずれの向きのせん断力に対しても、引張側における鉄筋1が降伏し、一方のコンクリート部材Aが肌離れを起こしても断面上の中央部において鋼材2がダボ作用を発揮し続けることで、それ以上の肌離れの進行を阻止することができるため、せん断力の作用方向に関係なくコンクリート部材Aに作用するせん断力に対する抵抗力を確保することができる利点がある。
図1では鋼材2を一方のコンクリート部材A中において付着させ、他方のコンクリート部材B中において付着を切っているが、鋼材2は両コンクリート部材A、B内に位置する区間の内の、少なくともいずれか一方の区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着が切れていれば、その区間において引張力と圧縮力の負担から解放されるため、付着を切る区間は一方のコンクリート部材A、または他方のコンクリート部材B中の少なくとも一部の区間であればよく、鋼材2の全長に亘って付着を切る場合もある(請求項2)。図1の他方のコンクリート部材B中、破線が付着を切った区間を示す。
図3は図1と同じく一方のコンクリート部材Aが柱で、他方のコンクリート部材Bが梁や基礎である部位において、鋼材2として角形鋼管や鋼管、あるいはH形鋼、溝形鋼、山形鋼等の形鋼を使用し、図3のx−x線、y−y線の断面図である図4−(a)、(b)に示すように鋼材2をコンクリート部材Aの断面上の中央部に配置した場合を示す。
この場合も、鋼材2は両コンクリート部材A、B内に位置する区間の内の、少なくともいずれか一方の区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着が切れ、鋼材2の全長に亘ってコンクリートとの付着が切れる場合もある(請求項2)。
図1、図3のいずれの場合も、鋼材2の両端部の内、いずれか一方の端部をその側のコンクリート部材A(B)のコンクリートに定着させることもある(請求項3)。定着は鋼材2が鉄筋の場合にはフックを形成するか、アンカープレートを接続する等により、鋼管等の場合は図5に示すように鋼材2の表面にスタッドボルト4を溶接する等により行われる。図5−(a)は鋼材2を図4における一方のコンクリート部材A中に定着させた場合、(b)は他方のコンクリート部材B中に定着させた場合を示す。
一方のコンクリート部材が柱で、他方のコンクリート部材が梁や基礎である場合に、鋼材の柱内に位置する区間をコンクリートに付着させ、梁や基礎内に位置する区間でコンクリートとの付着を切った様子を示した縦断面図である。 (a)は図1のx−x線断面図、(b)はy−y線断面図である。 一方のコンクリート部材が柱で、他方のコンクリート部材が梁や基礎である場合に、鋼材として角形鋼管を配置した様子を示した縦断面図である。 (a)は図3のx−x線断面図、(b)はy−y線断面図である。 (a)、(b)は鋼材としての角形鋼管の表面にスタッドボルトを溶接し、鋼材の端部をコンクリートに定着させた様子を示した立面図である。 (a)〜(d)は圧縮力と引張力を交互に受ける接合部における一方のコンクリート部材の変形に伴う鉄筋の抵抗状態を示した概念図である。 図6に示す一方のコンクリート部材の荷重−変形関係を示した復元力特性図である。 図7における滑り現象の発生時点を示した図である。 本発明によって荷重ゼロ近傍でのコンクリート部材の滑りが緩和される様子を示した復元力特性図である。
符号の説明
A……一方のコンクリート部材、B……他方のコンクリート部材、1……鉄筋、
2……鋼材、3……せん断補強筋、4……スタッドボルト

Claims (4)

  1. 二つのコンクリート部材に跨って鉄筋が連続的に配筋されるコンクリート部材の接合部において、せん断力による一方のコンクリート部材のずれを抑制する接合部構造であり、前記二つのコンクリート部材に跨って鋼材が配置され、この鋼材はいずれか一方のコンクリート部材内に位置する区間と他方のコンクリート部材内に位置する区間の内の、少なくともいずれか一方の区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着が切れ、鋼材の両端部の内の少なくともいずれか一方はコンクリートに定着されていないコンクリート部材の接合部構造。
  2. 鋼材は両コンクリート部材内に位置する区間の全長においてコンクリートとの付着が切れ、両端部においてコンクリートに定着されていない請求項1記載のコンクリート部材の接合部構造。
  3. 鋼材はいずれか一方のコンクリート部材内に位置する区間の少なくとも一部においてコンクリートとの付着が切れ、他方のコンクリート部材内に位置する区間の端部においてコンクリートに定着されている請求項1記載のコンクリート部材の接合部構造。
  4. 鋼材はいずれか一方のコンクリート部材の断面上の中央部に配置されている請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のコンクリート部材の接合部構造。
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