JP2006097174A - 仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、その製造方法およびポリプロピレン系延伸仮撚糸 - Google Patents

仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、その製造方法およびポリプロピレン系延伸仮撚糸 Download PDF

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Abstract

【課題】 仮撚加工に適したポリプロピレン系マルチフィラメント、その製造方法およびポリプロピレン系延伸仮撚糸を提供する。
【解決手段】 25℃における破断伸度が50〜300%である仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、スピンドロー方式により、ポリプロピレン系樹脂を紡糸ドラフト率140〜350で紡糸したのち、延伸倍率1.8〜4.2および最大延伸倍率の35〜85%の条件で延伸処理する仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントの製造方法、および前記仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、その製造方法およびポリプロピレン系延伸仮撚糸に関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリプロピレン系繊維を素材とする衣料などに好適に用いられるポリプロピレン系延伸仮撚糸を与えることのできる、仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、このマルチフィラメントを効率よく製造する方法、および前記仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸に関するものである。
従来、衣料用素材の多様化の一環として、マルチフィラメントを用いる各種糸加工技術が開発されており、その一つとして仮撚加工技術が知られている。
この仮撚加工技術は、通常延伸マルチフィラメントに、ピンスピンドル式、ディスクフリクション式、ベルトニップ式などの仮撚加工機を用いて、加撚−熱固定−解撚の加工工程を施し、該延伸マルチフィラメントに対し、紡績糸調の糸斑感、バルキー感、ソフトな風合いなどを付与する技術である。
ところで、ポリエステル系樹脂など、2000m/分以上の高速の紡糸・巻取りが可能な素材においては、その高速紡糸によって部分配向糸が得られ、該部分配向糸を仮撚加工することにより、はじめて仮撚糸を得ることができる。ポリエステル系樹脂を素材とする仮撚糸の例としては、特許文献1に記載のポリエステルフィラメントを用いて得られた複合仮撚加工糸が開示されている。一方、前記の素材と比較して曳糸性に乏しく、同様の操作を行うことが困難であるものは、高速紡糸性に劣り、仮撚糸を製造しにくい。
このような仮撚糸を製造しにくい素材としては、例えばポリプロピレン系樹脂を挙げることができる。ポリプロピレン系樹脂は軽量性、速乾性、保温性などに優れており、その繊維は衣料用途などに注目されているものの、仮撚糸を得ることが困難であるため、現在、ほとんど普及していないのが実状である。
ポリプロピレン系樹脂を紡糸して得られる未延伸糸は分子配向が低いため、強度や弾性率が低く、熱的性質も安定していない。そこで、例えばオフラインのドローツイスターなどで未延伸糸を延伸処理して完全延伸糸を製造する2ステップ方式や、紡糸機と巻取機の中間に延伸機を配置し、未延伸糸をインラインで延伸処理してから巻取る1ステップ方式、いわゆるスピンドロー方式で実用に供する完全延伸糸を製造している。
従来の製造方法において得られるポリプロピレン系未延伸糸や完全延伸糸について仮撚加工を行うと、以下に示すような問題があり、延伸仮撚糸を得ることが困難であった。
まず、未延伸糸は、いわゆるネッキング延伸を起こすために仮撚の加工安定性に乏しく、また糸条自体の強度が十分ではなく、仮撚加工しても糸に捻れ歪み応力を十分に付与することができず、その結果、十分な捲縮を与えることができない。一方、完全延伸糸は伸度が低いために、単糸切れを起こしやすく、仮撚の加工安定性に乏しい。
特開2002−327342号公報
本発明は、このような状況下で、ポリプロピレン系繊維を素材とする衣料などに好適に用いられるポリプロピレン系延伸仮撚糸を与えることのできる、仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、このマルチフィラメントを効率よく製造する方法、および前記仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、破断伸度がある範囲にあるポリプロピレン系マルチフィラメントが仮撚加工に適していること、そして、ポリプロピレン系樹脂を特定の条件で紡糸、次いで延伸処理することにより、仮撚加工に適したポリプロピレン系マルチフィラメントが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) 25℃における破断伸度が50〜300%であることを特徴とする仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、
(2) メルトインデックス(MI)値が15〜60g/10分のアイソタクチックホモポリプロピレンを用いて得られた上記(1)項に記載の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、
(3) スピンドロー方式により、ポリプロピレン系樹脂を紡糸ドラフト率140〜350で紡糸したのち、延伸倍率1.8〜4.2および最大延伸倍率の35〜85%の条件で延伸処理することを特徴とする仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントの製造方法、
(4) ポリプロピレン系樹脂が、メルトインデックス(MI)値15〜60g/10分のアイソタクチックホモポリプロピレンである上記(3)項に記載の方法、
(5) 上記(3)または(4)項に記載の方法により得られたことを特徴とする仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、
(6) 25℃における破断伸度が50〜300%である上記(5)項に記載の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、および
(7) 上記(1)、(2)、(5)または(6)項に記載の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸、
を提供するものである。
本発明によれば、ポリプロピレン系繊維を素材とする衣料などに好適に用いられるポリプロピレン系延伸仮撚糸を与えることのできる、仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、このマルチフィラメントを効率よく製造する方法、および前記仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸を提供することができる。
本発明の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントは、ポリプロピレン系繊維のフィラメント束からなるものであって、以下に示す物性を有している。
まず、25℃における破断伸度が50〜300%である。該破断伸度が上記範囲にあるポリプロピレン系マルチフィラメントは、仮撚加工に適している。好ましい破断伸度は100〜250%の範囲であり、特に150〜250%の範囲にあることが好ましい。
次に、破断強度は、通常2.5cN/dTex以上、好ましくは3.2cN/dTex以上である。破断強度の上限については、特に制限はないが、一般的には6cN/dTex程度である。また、ヤング率は、通常10cN/dTex以上、好ましくは11cN/dTex以上である。ヤング率の上限については、特に制限はないが、一般的には35cN/dTex程度である。
なお、前記の破断伸度、破断強度およびヤング率は、JIS L 1013に準拠し、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/分の定速伸長形条件で、温度25℃にて引張破断試験を行い、測定した値である。
本発明の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを構成するポリプロピレン系モノフィラメントの繊度は、通常1.0〜20.0dTex、好ましくは3.0〜10.0dTexの範囲であり、そして該モノフィラメントの数は、通常〜120本程度である。また、フィラメント束からなる仮撚加工用マルチフィラメントの繊度は、通常10〜2000dTex、好ましくは50〜200dTexの範囲である。
このような本発明の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントは、アイソタクチックポリプロピレン系樹脂を用い、後述の本発明の製造方法に従って製造することができる。
前記アイソタクチックポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上のものが好適である。上記IPFが85%未満では立体規則性が不十分で結晶性が低く、前記の物性を有する仮撚加工用マルチフィラメントが得られにくい。
なお、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)(一般にmmmm分率ともいわれる)は、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して、側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造の割合を示すものであって、同位体炭素核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)におけるPmmmm(プロピレン単位が5個連続してアイソタクチック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)から、式
IPF(%)=(Pmmmm/Pw)×100
によって求めることができる。
また、このアイソタクチックポリプロピレン系樹脂は、プロピレンのホモポリマーであってもよいし、プロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)とのコポリマーであってもよいが、プロピレンのホモポリマーであって、メルトインデックス(MI)値が15〜60g/10分であるものが好ましく、特に20〜40g/10分であるものが好ましい。さらに、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量Mw/Mn比)は5未満であることが好ましい。
なお、前記メルトインデックス(MI)値は、JIS K 7210のB法に準じたメルトインデクサーを用い、一般試験条件に適合した加重(初荷重3.19N+4分後荷重18.00N)および温度230℃の条件にて、一定時間に押し出された量を測定し、10分間の押出量に換算した値である。
また、本発明においては、スピンドロー方式により、ポリプロピレン系樹脂を紡糸ドラフト率140〜350で紡糸したのち、延伸倍率1.8〜4.2および最大延伸倍率の35〜85%の条件で延伸処理する、仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントの製造方法を提供する。
本発明の製造方法においては、スピンドロー方式により、前記ポリプロピレン系樹脂を紡糸し、次いで延伸処理する。前記スピンドロー方式とは、紡糸装置と巻取機との間に延伸装置を配置し、インラインで紡糸、延伸処理してから巻取る1ステップ方式のことである。
紡糸は、押出機と複数の紡糸用ノズルを備えて紡糸装置を用いて行う。この際、紡糸温度は、通常180〜300℃の範囲で選ばれる。また、紡糸ドラフト率は140〜350であり、好ましくは180〜250である。なお、紡糸ドラフト率とは、ノズルでの線速度(m/分)に対するフィードロール速度(m/分)の比、すなわちフィードロール速度/ノズルでの線速度を表す。
このようにして得られた未延伸ポリプロピレン系マルチフィラメントの延伸処理においては、延伸倍率(紡糸工程以降の全延伸倍率)が1.8〜4.2および最大延伸倍率の35〜85%、すなわち(λ/λMAX)×100が35〜85%の条件で延伸処理を行う。なお、上記λは全延伸倍率を、λMAXは最大延伸倍率を表す。
λは、糸条を延伸加工する際のロール速度比で表現する。例えば、延伸加工に使うロール1の速度が200m/分、ロール2の速度が1000m/分の場合、λはロール2速度/ロール1速度=5.0となる。また、λMAXは、糸条を延伸加工する際、糸切れが発生するロール速度比で表現する。例えば、延伸加工に使うロール1の速度が200m/分で回っている際、ロール2の速度が1000m/分で糸切れが発生した場合、λMAXはロール2速度/ロール1速度=5.0となる。
未延伸ポリプロピレン系マルチフィラメントの延伸処理としては、公知の加熱位置と加熱方法を組み合わせて行うことができる。加熱位置としては、延伸ロールと延伸ロールの間に、マルチフィラメントが通過する槽(ゾーン)を設けるゾーン延伸方法と、延伸ロールを加熱するロール延伸方法などが挙げられる。また加熱方法としては、温水、湿熱、乾熱、加圧飽和水蒸気などの公知の方法が挙げられる。
温水によるゾーン延伸処理方法としては、例えば、巻付式ネルソンロール1と巻付式ネルソンロール2の間に80℃以上の温水を循環させた温水槽を設置し、該未延伸糸ポリプロピレン系マルチフィラメントを温水に浸した状態で通過させて延伸する方法、さらに、同様に巻付式ネルソンロールと温水を循環させた温水槽を設置して多段階で延伸加工する方法が挙げられる。2段延伸の場合では、1段目の延伸工程における延伸倍率としては、2段目の延伸工程を含めた全延伸倍率の25〜80%の範囲が適しており、延伸装置のシステム、延伸状態などによって、延伸条件を適宜選択することができる。例えば、トータル延伸倍率が同じ場合は、1段あたりの延伸倍率が低くなり延伸安定性が向上する。また、1段目を予備延伸処理とし、2段目の延伸倍率を本延伸処理とする方法も行うことができる。3段以上の多段階で行う延伸処理を行う場合には、延伸温度を一定として予備延伸倍率を多段階にする方法に加え、延伸温度に勾配を与えながら延伸倍率を多段階にする方法を用いることができる。
乾熱によるロール延伸処理方法としては、例えば、巻付式ネルソンロール1と巻付式ネルソンロール2を80℃以上に加熱し該未延伸糸ポリプロピレン系マルチフィラメントを延伸することができる。2段階以上の多段階延伸についても温水によるゾーン延伸と同様に行うことができる。
加圧飽和水蒸気によるゾーン延伸処理方法としては、例えば該未延伸ポリプロピレン系マルチフィラメントを、(1)次工程の本延伸処理における延伸温度よりも低い温度で予備延伸処理したのち、加圧飽和水蒸気により直接加熱して本延伸処理する方法、(2)両端に温度40℃以上の加圧水シール部を有する容器内に加圧飽和水蒸気が入れられている延伸槽の該加圧水シール部に導き、その表面に水分を付着させたのち、延伸槽に導入し、加圧飽和水蒸気により直接加熱して延伸処理する方法、などを好ましく用いることができる。また、これらの方法を適当に組み合わせた方法を用いることもできる。
まず、前記(1)の方法について説明する。この方法は、予備延伸工程と本延伸工程とから構成されている。
予備延伸工程:
この予備延伸工程においては、続いて行われる本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で未延伸マルチフィラメントの延伸処理が行われる。この予備延伸処理方法としては、例えば一般的に知られている金属加熱ロールや金属加熱板などを用いた接触加熱延伸、あるいは温水、常圧〜0.2MPa程度の水蒸気や熱風などの加熱流体、遠赤外線などの熱線を用いた非接触加熱延伸などの方法を適用することができる。さらに、本延伸工程で使用する高圧蒸気延伸槽と同じシステムにより、本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で予備延伸処理することも可能である。
この予備延伸工程における延伸倍率としては、本延伸処理を含めた全延伸倍率の25〜80%の範囲が適しており、予備延伸装置のシステム、延伸状態などによって、延伸条件を適宜選択すればよい。特に、予備延伸処理を1段で行ったのち、本延伸処理を行う2段階延伸の場合、予備延伸倍率は、全延伸倍率の25〜60%の範囲が好ましく、さらに35〜55%の範囲が好ましい。また、該予備延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段階で行なってもよく、多段階で行う場合には、延伸温度を一定とし、予備延伸倍率を多段階にする方法や、延伸温度に勾配を与えながら、延伸倍率を多段階にする方法を用いることができる。
本延伸工程:
この本延伸工程は、前述の予備延伸工程で得られたマルチフィラメントの予備延伸処理物を、加圧飽和水蒸気により直接加熱して、本延伸処理する工程である。
ここで、本延伸処理するには、例えば下記の装置を用い、該マルチフィラメントの予備延伸処理物を延伸処理する方法を採用することができる。
すなわち、延伸装置として、予備延伸処理物を導入するための予備延伸処理物導入孔と本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ絶対圧が好ましくは0.2MPa以上の加圧飽和水蒸気を充填した延伸槽が用いられる。この延伸槽においては、予備延伸処理物導入孔および本延伸処理物引き出し孔には、それぞれ延伸槽内の加圧水蒸気が洩出するのを防止するために、加圧水を利用した漏出防止機構が設けられている。
まず、予備延伸処理物を、予備延伸処理物導入孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導き、該予備延伸処理物の表面に水分を付着させたのち、これを予備延伸処理物導入孔から延伸槽内に導き、本延伸処理する。この際、予備延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.1秒以上とするのが有利である。
本延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段で行ってもよい。
本延伸処理物は、本延伸処理物引き出し孔から引き出されて、該引き出し孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導かれ、速やかに冷却される。この際、本延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.2秒以上とするのが有利である。
上記本延伸処理には、通常絶対圧0.2MPa以上の加圧飽和水蒸気(温度約120℃以上)が用いられる。この加圧飽和水蒸気の絶対圧が0.2MPa未満では、延伸温度が約120℃未満と低いので、所望の倍率の延伸および高速延伸を行うことが困難となり、実用的でない。また、加圧飽和水蒸気の圧は、マルチフィラメントが軟化しない範囲であれば、高い方が基本的には好ましいが、あまり高すぎると延伸装置の設備費が高くつき、経済的に不利となる。延伸倍率、延伸速度および経済性などを考慮すると、この加圧飽和水蒸気の好ましい絶対圧は0.3MPa(温度133℃)〜0.5MPa(温度152℃)の範囲であり、特に140〜150℃の温度になるような加圧飽和水蒸気が好適である。延伸速度は、一般に50〜1000m/分程度である。
次に前記(2)の方法について説明する。この方法においては、両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧飽和水蒸気が入れられている延伸槽を用い、未延伸マルチフィラメントを延伸処理するが、この加圧飽和水蒸気中での延伸処理を行う前に、所望により前述の(1)で説明した予備延伸処理を行ってもよい。
本延伸処理工程における延伸処理装置の構造および延伸処理方法は、前述の(1)の方法と同様であるが、この方法においては、被本延伸処理物導入孔に設けられた漏出防止機構における加圧水の温度が40℃以上である。
まず、被本延伸処理物を、被本延伸処理物導入孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導き、該被本延伸処理物の表面に水分を付着させたのち、これを被本延伸処理物導入孔から延伸槽内に導き、本延伸処理する。
この方法においては、前記の漏出防止機構における加圧水の温度を40℃以上に保持する。この加圧水の温度が40℃未満では、繊維トウが変形する際に斑ができる可能性があり、その結果延伸物は、融着、毛羽、単糸切れなどが発生し、品質が低下するおそれがある上、延伸切れによる生産性の低下をもたらすおそれがある。この加圧水の好ましい温度は60〜130℃、特に好ましくは80〜110℃の範囲である。該加圧水を上記範囲の温度に保持する方法としては、例えば該加圧水専用のタンクおよび高温高圧ポンプを設置し、タンク内の水をヒーターなどで所定温度に加熱し、前記漏出防止機構に循環供給する方法などを用いることができる。この本延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段で行ってもよい。
以上の各延伸方法を、多段階の延伸する場合において、組み合わせることが可能である。本発明においては、1段階目の延伸を前記の温水によるゾーン延伸処理方法もしくは乾熱によるロール延伸処理方法として、2段階目を乾熱のゾーンもしくはロール延伸処理方法とすることが好ましい。
このようにして、仮撚加工に適したポリプロピレン系マルチフィラメントを製造することができる。本発明はまた、前記の方法により得られた仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントをも提供する。該仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントは、通常25℃における破断伸度が50〜300%、好ましくは100〜250%、より好ましくは150〜250%である。
次に、本発明のポリプロピレン系延伸仮撚糸は、前述の本発明の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント、あるいは本発明の方法により製造した仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを、仮撚加工することにより得られたものである。
仮撚加工方法としては特に制限はなく、従来ポリエステル系繊維などの仮撚加工に使用されている公知の方法、例えばピンスピンドル方式、ディスクフリクション方式あるいはベルトニップ方式などの加工機を用いる方法の中から、任意の方法を採用することができる。
これらの方法は、いずれも旋回性加工糸を与えるものであり、加撚−熱固定−解撚の加工工程は共通しているが、加撚装置が異なる。
前記ピンスピンドル方式は、中空スピンドルの中にピンを設置し、そのピンに糸条を巻き付け、該スピンドルを回転させることで、加撚する方法である。ディスクフリクション方式は、等間隔に配した3本の軸に交互にディスクを組み込み、その3軸の中心に糸条を走らせて加撚する方法である。一方、ベルトニップ方式は、交叉しながら走行する2本のベルトをたがいに接触させ、その交叉点に糸条を挟み込んで加撚する方法である。
このようにして仮撚加工して得られた旋回性のポリプロピレン系延伸仮撚糸は、紡績糸調の糸斑感、バルキー感、ソフトな風合いなどを有し、必要に応じ捲縮処理を行い、衣料用の糸などとして用いることができる。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って評価した。
(1)原糸および仮撚加工用マルチフィラメントの繊度
(イ)単糸繊度(dTex)
オートバイブロ法により測定する。
(ロ)マルチフィラメント繊度(dTex)
重量法により測定する。
(2)仮撚加工用マルチフィラメントおよび延伸仮撚糸の破断伸度(%)、破断強度(cN/dTex)、ヤング率(cN/dTex)
JIS L 1013に準拠し、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/分の定速伸長形条件で、温度25℃にて引張破断試験を行い、測定する。
(3)λおよびλMAX
(イ)λ(延伸倍率)
糸条を延伸加工する際のロール速度比で表現する。例えば、延伸加工に使うロール1の速度が200m/分、ロール2の速度が1000m/分の場合、λはロール2速度/ロール1速度=5.0となる。
(ロ)λMAX(最大延伸倍率)
糸条を延伸加工する際、糸切れが発生するロール速度比で表現する。例えば、延伸加工に使うロール1の速度が200m/分で回っている際、ロール2の速度が1000m/分で糸切れが発生した場合、λMAXはロール2速度/ロール1速度=5.0となる。
(4)紡糸ドラフト率
ノズルでの線速度(m/分)に対するフィードロール速度(m/分)の比、すなわちフィードロール速度/ノズルでの線速度で表す。
(5)ポリプロピレンのメルトインデックス(MI)
JIS K 7210のB法に準じたメルトインデクサーを用い、一般試験条件に適合した加重(初荷重3.19N+4分後荷重18.00N)および温度230℃の条件にて、一定時間に押し出された量を測定し、10分間の押出量に換算する。
(6)仮撚加工適正
仮撚加工に適しているかどうかの判断は、ピンスピンドル式仮撚加工機、ディスクフリクション式仮撚加工機およびベルトニップ式仮撚加工機にて、下記の基準で加工適正を評価する。
◎:歩留まり率が95%以上
○:歩留まり率が90%以上95%未満
△:歩留まり率が85%以上90%未満
×:歩留まり率が85%未満
実施例1
(1)未延伸ポリプロピレンマルチフィラメントの作製
アイソタクチックホモポリプロピレン樹脂[出光石油化学社製「Y2005GP」、メルトインデックス(MI):20g/10分、IPF:93.5%、Q値:4.1]を原料として用い、ホール径が0.5mmで、ホール数が60の紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置によって、紡糸温度260℃、ノズル線速度2.04m/分、フィードロール速度480m/分、フィードロール加熱温度80℃、紡糸ドラフト率235の条件で溶融紡糸を行い、単糸繊度が 8.3dTex、λMAXが 5.0の未延伸ポリプロピレンマルチフィラメントを作製した。
(2)マルチフィラメントの延伸
上記(1)における溶融紡糸装置に、予備延伸槽と本延伸槽とが直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、インライン方式で延伸処理を行った。
まず、上記(1)で得た未延伸ポリプロピレンマルチフィラメントを、予備延伸槽にて、90℃の温水でG1ロール速度759m/分、G1ロール加熱温度120℃、延伸倍率1.6倍の条件にて予備延伸処理(ゾーン温水延伸処理)した。次いでG2ロール速度1200m/分、G2ロール加熱温度140℃、延伸倍率1.6倍の条件にて本延伸処理(ロール乾熱延伸処理)を行い、単糸繊度が、3.3dTex、マルチフィラメント繊度が200dTex、伸度が181 %、(λ/λMAX)×100が50%、全延伸倍率2.5倍のポリプロピレンマルチフィラメントを作製した。
(3)仮撚加工
ピンスピンドル式仮撚加工機で200dTexの糸条を仮撚加工した。ピンはマグネットスピンドル、加熱ヒーターはダウサム式の2ヒーターとした。上記(2)で得たポリプロピレンマルチフィラメントを糸条速度50m/分、撚数2000T/m、ヒーター温度140℃、フィード率−15%、テイクアップ率−5%、加撚張力88.3cN、解撚張力176.5cNの条件で加工を行い、ポリプロピレン延伸仮撚糸を得た。
なお、フィード率およびテイクアップ率は、下記のようにして求めた値である。
原糸パッケージ、フィードロール、ヒーター、冷却ゾーン、スピンドル、解撚ゾーン、デリベリーロールおよび巻取り機が順に配設されたピンスピンドル式仮撚加工機において、フィード率およびテイクアップ率を、
フィード率(%)=〔(フィードロール速度−デリベリーロール速度)/デリベリーロール速度〕×100
テイクアップ率(%)=〔(デリベリーロール速度−巻取速度)/巻取速度〕×100
の式により算出する。
仮撚加工用マルチフィラメントの製造条件を表1に、仮撚加工用マルチフィラメントおよび延伸仮撚糸の諸特性を表2に示す。
実施例2、3および比較例1、2
実施例1における仮撚加工用マルチフィラメントの製造条件を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
仮撚加工用マルチフィラメントおよび延伸仮撚糸の諸特性を表2に示す。
Figure 2006097174
Figure 2006097174
本発明によれば、仮撚加工に適したポリプロピレン系マルチフィラメント、およびこれを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸を提供することができる。前記ポリプロピレン系延伸仮撚糸をさらに捲縮加工することで、ポリプロピレン系捲縮意匠糸を容易に製造することができ、ポリプロピレン系繊維を素材とする衣料などを提供することができる。

Claims (7)

  1. 25℃における破断伸度が50〜300%であることを特徴とする仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント。
  2. メルトインデックス(MI)値が15〜60g/10分のアイソタクチックホモポリプロピレンを用いて得られた請求項1に記載の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント。
  3. スピンドロー方式により、ポリプロピレン系樹脂を紡糸ドラフト率140〜350で紡糸したのち、延伸倍率1.8〜4.2および最大延伸倍率の35〜85%の条件で延伸処理することを特徴とする仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントの製造方法。
  4. ポリプロピレン系樹脂が、メルトインデックス(MI)値15〜60g/10分のアイソタクチックホモポリプロピレンである請求項3に記載の方法。
  5. 請求項3または4に記載の方法により得られたことを特徴とする仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント。
  6. 25℃における破断伸度が50〜300%である請求項5に記載の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメント。
  7. 請求項1、2、5または6に記載の仮撚加工用ポリプロピレン系マルチフィラメントを仮撚加工してなるポリプロピレン系延伸仮撚糸。
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