JP4540083B2 - ポリプロピレン系延伸繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、結晶性高分子延伸物の製造方法の改良に関する。さらに詳しくは、本発明は、高強度なポリプロピレン系延伸繊維などの結晶性高分子延伸物を、工業的に安価で生産性よく、安定して製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合成繊維,樹脂フィルム,樹脂シート等の結晶性高分子製品の物性は、その内部構造(結晶性高分子の微細構造)の影響を強く受け、当該内部構造は延伸や熱処理によって比較的容易に変化する。そして、未延伸物よりも延伸物の方が実用上好ましい物性を有していることが多く、より高倍率で延伸した方が強度,ヤング率等の物性に優れた延伸物が得られる。このため、結晶性高分子製品、特に合成繊維,樹脂フィルム,樹脂シート等を得る場合には、通常、延伸処理が施される。また、延伸処理後に必要に応じて熱処理が施される。
【0003】
結晶性高分子製品を得る際の延伸方法としては種々の方法が知られているが、例えば延伸合成繊維を得る際には、金属加熱ロールや金属加熱板等を用いての接触加熱延伸、あるいは温水,常圧〜0.2MPa程度の水蒸気,遠赤外線等を用いての非接触加熱延伸等の延伸方法が適用されている。
【0004】
ところで、結晶性高分子の微細構造の変化は延伸条件に大きく左右され、その結果として結晶性高分子製品の物性もまた延伸条件に大きく左右されるわけであるが、無理に延伸しようとすると延伸切れ等の不具合が生じる。
例えば、ポリプロピレン系繊維では、未延伸糸を樹脂の融点未満のなるべく高い温度下、低変形速度で高倍率に延伸する程、繊維強度が向上するが、高変形速度で高倍率に延伸しようとすると容易に延伸切れが生じる。このため、工業的(商業的)に生産し得るポリプロピレン系繊維の繊維強度、すなわち、概ね50m/分以上の速度で生産し得るポリプロピレン系繊維の繊維強度は8.8cN/dTex程度である(例えば特許第2537313号公報参照)。
【0005】
ただし、生産性を無視して極めて低い変形速度の下に延伸すればより繊維強度の高いポリプロピレン系繊維を得ることができる。例えば『高分子論文集』(Vol.54, No.5, May, 1997)の第351〜358頁には、連続ゾーン延伸法によって製造された 繊維強度11.8cN/dTex程度のポリプロピレン系繊維が記載されているが、当該ポリプロピレン系繊維を得る際の連続ゾーン延伸工程における繊維の送り出し速度は僅かに0.5m/分である。
【0006】
本発明者らは、高強度な結晶性高分子延伸物を製造する工業的な方法として、先に、両端が加圧水でシールされた容器内に、延伸媒体として、0.3〜0.5MPa程度の加圧飽和水蒸気が充填されてなる延伸槽を用い、結晶性高分子物質を延伸処理する方法を見出した(特願平10−154242号)。
【0007】
例えば、結晶性高分子物質として、ポリプロピレン系繊維を延伸処理する場合、未延伸糸を樹脂の融点未満のなるべく高い温度において、低変形速度で高倍率に延伸するほど、高強度なポリプロピレン系繊維が得られるわけであるが、この延伸方法においては、加圧水により繊維表面には水分が付着しており、この水分が存在している状態の下で、被延伸物を延伸処理することから、ドラフト変形によって内部発熱が生じても、被延伸物の表面の温度が、加圧飽和蒸気の温度よりも高温になることが抑制され、被延伸物の表面が溶融状態になりにくい方法であり、高倍率の延伸を可能にしている。
【0008】
実施例としては、単糸繊度が11〜100dTexであって、120フィラメントの未延伸糸を、工業的な延伸速度50〜420m/分で延伸処理することで、強度9.7cN/dTex以上、ヤング率64.6cN/dTex以上の物性を有する高強度なポリプロピレン系延伸繊維を得ている。
【0009】
この延伸された高強度ポリプロピレン系繊維の構造としては、偏光下、クロスニコルの状態で観察した際に、繊維内部が暗部として視認されるとともに、その暗部を横断するようにして繊維径方向に伸びている線状の明部が断続的に視認されるポリプロピレン系繊維であることが特徴である。
【0010】
しかしながら、この延伸方法では、未延伸糸の単糸繊度が大きかったり、フィラメント数が多くてトータル繊度が大きい被延伸物であったり、高速で延伸を行った場合、あるいはこれらの要因が複数重なった場合には、一部のフィラメントが延伸切れを引き起こし易いという問題があった。
【0011】
具体的には、ポリプロピレン系繊維マルチフィラメントの工業的生産は、紡糸工程で得られるポリプロピレン系繊維の未延伸糸を巻き取った後、延伸工程にかける製造方法(アウトライン式)の延伸速度は数百(100〜500)m/分程度の比較的低速で延伸される。しかし、未延伸糸の単糸繊度が大きいほど、または低融点成分としてワックス成分を顔料分散剤とした原着繊維の延伸を行なう場合には、延伸された繊維に延伸切れした繊維として毛羽が認められ、商品価値を損なうという問題がある。紡糸工程と延伸工程が連続していることを特徴とする製造方法(インライン式)の延伸速度は数百(500)から数千(2000)m/分の高速化が可能であり、高速延伸時には繊度の大きさに係らず延伸切れによる毛羽が発生するという問題がある。
【0012】
一方、ポリプロピレン系繊維のステープルやショートカットチョップの工業的生産においては、紡糸工程にて複数の紡糸ノズルを長手方向に配して多糸条を紡出して繊維束として引き取る。そして複数のこの繊維束を延伸工程にかける製造方法(アウトライン式)の延伸速度は、数十(50)から数百(200)m/分程度で低速延伸されるが、複数の繊維束を束ねて生産効率を上げるため、トータル繊度が大きくなり、その結果延伸切れにより操業性を悪化させ、トラブルを招くという問題がある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもので、結晶性高分子物質を、加圧飽和水蒸気により延伸処理して、高強度な結晶性高分子延伸物を製造する方法(特願平10−154242号)の改良を目的とし、品質に優れた高強度な結晶性高分子延伸物を、工業的に安価で生産性よく、安定して製造する方法を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ね、前述の製造方法においては、高温高圧の加圧飽和水蒸気延伸槽で延伸する際、延伸時のドラフト変形によって発生する内部発熱が被延伸物の表面に付着した加圧水からの「持ち込み水分」の発熱抑制効果を越え、被延伸物表面温度がその融点を越えた場合に、溶融して延伸切れ等を引基起こすことが推測され、その結果、例えばポリプロピレン系繊維の延伸時において、切れた糸が毛羽として発生したり、操業性を悪化させる現象として現れることに着目した。
【0015】
本発明者らは、上記着目に基づき、さらに研究を重ねた結果、加圧飽和水蒸気による本延伸処理を行う前に、該本延伸処理温度よりも低い温度で予備延伸処理することにより、高強度な結晶性高分子延伸物を、工業的に安価で生産性よく、安定して製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0016】
すなわち、本発明は、トータル繊度が90,000〜1,800,000dTexであるポリプロピレン系未延伸繊維を作製し、予備延伸槽において次工程の本延伸処理における延伸温度よりも低い温度である70〜100℃の温度の温水で、延伸倍率が全延伸倍率の25〜60%になるように1段階で予備延伸処理したのち、両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧飽和水蒸気が充填されてなる本延伸槽において加圧飽和水蒸気により145〜155℃の温度で直接加熱して本延伸処理することを特徴とするポリプロピレン系延伸繊維の製造方法を提供するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の結晶性高分子延伸物の製造方法は多段延伸法であって、まず、結晶性高分子物質に予備延伸工程を施し、次いで本延伸工程を施す方法である。
【0018】
本発明の方法において、被延伸物として用いられる結晶性高分子物質としては特に制限はなく、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリオキシメチレンなどのホモポリマーや、プロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)との共重合体、エチレンとブテン−1との共重合体などのコポリマーを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その形態としては、例えば繊維用の未延伸糸、未延伸フィルム、未延伸シート、梱包用バンドの未延伸物、梱包用テープの未延伸物などが挙げられる。
【0019】
本発明においては、被延伸物として、特にポリプロピレン系未延伸繊維を好ましく用いることができる。このポリプロピレン系未延伸繊維としては、アイソタクチックポリプロピレン系樹脂からなるものが好適である。中でもアイソタクチックペンタッド分率(IPF)が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上のものが有利である。また、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量Mw/Mn比)は5未満、メルトインデックスMI(温度230℃、荷重2.16kg)は3〜50g/10分の範囲が好ましい。上記IPFが85%未満では立体規則性が不充分で結晶性が低く、得られる延伸繊維における強度などの物性に劣る。
【0020】
なお、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)(一般にmmmm分率ともいわれる)は、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して、側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造の割合を示すものであって、同位体炭素核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)にけるPmmmm(プロピレン単位が5個連続してアイソタクチック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)から、式
IPF(%)=(Pmmmm/Pw)×100
によって求めることができる。
【0021】
また、このポリプロピレン系未延伸繊維に用いられるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)との共重合体であってもよい。
【0022】
次に、本発明の方法における予備延伸工程および本延伸工程について説明する。
予備延伸工程:
この予備延伸工程においては、続いて行われる本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で結晶性高分子物質の延伸処理が行われる。この予備延伸処理方法としては、例えば一般的に知られている金属加熱ロールや金属加熱板などを用いた接触加熱延伸、あるいは温水、常圧〜0.2MPa程度の水蒸気や熱風などの加熱流体、遠赤外線などの熱線を用いた非接触加熱延伸などの方法を適用することができる。さらに、本延伸工程で使用する高圧蒸気延伸槽と同じシステムにより、本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で予備延伸処理することも可能である。
【0023】
この予備延伸工程における延伸倍率としては、本延伸処理を含めた全延伸倍率の25〜80%の範囲が適しており、予備延伸装置のシステム、延伸状態などによって、延伸条件を適宜選択すればよい。特に、予備延伸処理を1段で行ったのち、本延伸処理を行う2段階延伸の場合、予備延伸倍率は、全延伸倍率の25〜60%の範囲が好ましく、さらに35〜55%の範囲が好ましい。また、該予備延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段階で行なってもよく、多段階で行う場合には、延伸温度を一定とし、予備延伸倍率を多段階にする方法や、延伸温度に勾配を与えながら、延伸倍率を多段階にする方法を用いることができる。
【0024】
本延伸工程:
この本延伸工程は、前述の予備延伸工程で得られた結晶性高分子物質の予備延伸処理物を、加圧飽和水蒸気により直接加熱して、本延伸処理する工程である。
ここで、本延伸処理するには、例えば下記の装置を用い、該結晶性高分子物質の予備延伸処理物を延伸処理する方法を採用することができる。
【0025】
すなわち、延伸装置として、予備延伸処理物を導入するための予備延伸処理物導入孔と本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ絶対圧が好ましくは200kPa以上の加圧飽和水蒸気を充填した延伸槽が用いられる。この延伸槽においては、予備延伸処理物導入孔および本延伸処理物引き出し孔には、それぞれ延伸槽内の加圧水蒸気が洩出するのを防止するために、加圧水を利用した漏出防止機構が設けられている。
【0026】
まず、予備延伸処理物を、予備延伸処理物導入孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導き、該予備延伸処理物の表面に水分を付着させたのち、これを予備延伸処理物導入孔から延伸槽内に導き、本延伸処理する。この際、予備延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.1秒以上とするのが有利である。
本延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段で行ってもよい。
【0027】
本延伸処理物は、本延伸処理物引き出し孔から引き出されて、該引き出し孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導かれ、速やかに冷却される。この際、本延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.2秒以上とするのが有利である。
【0028】
上記本延伸処理には、通常絶対圧200kPa以上の加圧飽和水蒸気(温度約120℃以上)が用いられる。この加圧飽和水蒸気の絶対圧が200kPa未満では、延伸温度が約120℃未満と低いので、高倍率延伸および高速延伸を行うことが困難となり、実用的でない。また、加圧飽和水蒸気の圧は、結晶性高分子物質が軟化しない範囲であれば、高い方が基本的には好ましいが、あまり高すぎると延伸装置の設備費が高くつき、経済的に不利となる。延伸倍率、延伸速度および経済性などを考慮すると、この加圧飽和水蒸気の好ましい絶対圧は300kPa(温度133℃)〜500kPa(温度152℃)の範囲であり、特に140〜150℃の温度になるような加圧飽和水蒸気が好適である。
【0029】
本延伸倍率は、前述したように、予備延伸処理物の繊度に応じて適宜選定され、該予備延伸物に対して170〜400%の範囲が好ましく、特に180〜280%の範囲が好ましい。延伸速度は、一般に50〜1000m/分程度である。
【0030】
前記本延伸処理に用いられる延伸装置の具体例としては、以下に示す構造のものを挙げることができる。
すなわち、予備延伸処理物を導入するための予備延伸処理物導入孔と本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ延伸媒体として加圧飽和水蒸気が充填されている延伸槽部と、当該延伸槽部における上記予備延伸処理物導入孔側に密接配置されている第1の加圧水槽部と、前記の延伸槽部における本延伸処理物引き出し孔側に密接配置されている第2の加圧水槽部と、前記第1の加圧水槽部の外側から当該第1の加圧水槽部内,前記の予備延伸処理物導入孔,前記の延伸槽部内,前記の本延伸処理物引き出し孔および前記第2の加圧水槽部内を経由して前記第2の加圧水槽の外へ本延伸処理物を導くことができるように前記第1の加圧水槽部および前記第2の加圧水槽部それぞれに形成されている透孔と、前記第1の加圧水槽部内に予備延伸処理物を送り込むための予備延伸処理物送出機構と、この送出機構による予備延伸処理物の送り込み速度よりも高速で前記第2の加圧水槽部から本延伸処理物を引き出すための本延伸処理物引き出し機構とを有している延伸装置が挙げられる。
【0031】
上記の延伸槽部は、所望の絶対圧(好ましくは、200kPa以上)を有する加圧飽和水蒸気を延伸媒体として使用し得るだけの気密性および強度を有し、かつ、所望の大きさ(長さ)を確保できるものであればよい。
【0032】
また、上記第1の加圧水槽部は、延伸槽部に形成されている予備延伸処理物導入孔から加圧飽和水蒸気が延伸槽部の外に漏出するのを防止するためのものであると同時に、予備延伸処理物を加圧水中に導いて当該予備延伸処理物の表面に水分を付着させるためのものであり、当該第1の加圧水槽部には延伸槽部内の加圧飽和水蒸気と同等乃至は僅かに高い絶対圧を有する加圧水が貯留される。一方、上記第2の加圧水槽部は、前記の本延伸処理物引き出し孔から加圧飽和水蒸気が延伸槽部の外に漏出するのを防止するためのものであると同時に、本延伸処理物引き出し孔から引き出された本延伸処理物を加圧水中に導いて冷却するためのものであり、当該第2の加圧水槽部内にも延伸槽部内の加圧飽和水蒸気と同等乃至は僅かに高い絶対圧を有する加圧水が貯留される。これら第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部は、それぞれ延伸槽部の外側に配置されている。
【0033】
延伸槽部,第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部は、それぞれ別個に形成されたものをこれらが所定の関係となるように密接配置したものであってもよいし、単一の容器または筒体を所定間隔で仕切ることによって形成されたものであってもよい。また、延伸槽部と第1の加圧水槽部とは、これらの間の隔壁を共有するものであってもよい。同様に、延伸槽部と第2の加圧水槽部とは、これらの間の隔壁を共有するものであってもよい。
【0034】
予備延伸処理物は、第1の加圧水槽部の外側から当該第1の加圧水槽部内を経由して上記の予備延伸処理物導入孔から延伸槽部内に入る。したがって、第1の加圧水槽部の容器壁の所望箇所には、予備延伸処理物を第1の加圧水槽部内に引き込むための透孔(以下「透孔A」という。)および予備延伸処理物を第1の加圧水槽部から引き出すための透孔(以下「透孔B」という。)が設けられている。
【0035】
同様に、延伸槽部内に送り込まれた予備延伸処理物が延伸されたことによって生じた本延伸処理物は、延伸槽部に設けられている上記の本延伸処理物引き出し孔から第2の加圧水槽部内を経由して当該第2の加圧水槽部の外へ引き出されなければならないので、第2の加圧水槽部の容器壁の所望箇所には、前記の本延伸処理物を延伸槽部内から第2の加圧水槽部内に引き込むための透孔(以下「透孔C」という。)および前記の本延伸処理物を第2の加圧水槽部内から引き出すための透孔(以下「透孔D」という。)が設けられている。
【0036】
上記の予備延伸処理物導入孔,本延伸処理物引き出し孔,透孔A,B,C,D、特に透孔B,Cは、これらの孔を予備延伸処理物または本延伸処理物が通過する際に当該予備延伸処理物または本延伸処理物と容器壁との接触が起こらないように形成されていると共に配置されていることが好ましく、また、これらの孔から延伸槽部内の加圧飽和水蒸気ができるだけ噴出しないように設計されていることが好ましい。
【0037】
上記の延伸装置を構成している予備延伸処理物送出機構は、予備延伸処理物を第1の加圧水槽部内へ一定の速度で送り込むためのものであり、この送出機構は第1の加圧水槽部の外側に設けられている。また、本延伸処理物引き出し機構は、第2の加圧水槽部を経由してきた本延伸処理物を予備延伸処理物送出機構による予備延伸処理物の送り込み速度より高速で第2の加圧水槽部から一定の速度の下に引き出すためのものであり、これによって、主として延伸槽部内で予備延伸処理物が延伸される。当該本延伸処理物引き出し機構は第2の加圧水槽部の外側に設けられている。
【0038】
予備延伸処理物送出機構による予備延伸処理物の送り込み速度と本延伸処理物引き出し繊維による本延伸処理物の引き出し速度とは、所望の生産速度の下に所定の延伸倍率の本延伸処理物が得られるように適宜選択される。予備延伸処理物送出機構および本延伸処理物引き出し機構としては、従来延伸処理に使用されている各種のローラを用いることができる。
【0039】
なお、上述した延伸装置を構成している第1の加圧水槽部に形成されている前記の透孔Aから当該第1の加圧水槽部内の加圧水が漏出することを抑制するうえからは、透孔Aを水没させることによって当該透孔Aからの漏水を緩和させる緩衝水槽部を第1の加圧水槽部の外側に設けることが好ましい。同様に、第2の加圧水槽部に形成されている前記の透孔Dから当該第2の加圧水槽部内の加圧水が漏出することを抑制するうえからは、透孔Dを水没させることによって当該透孔Dからの漏水を緩和させる緩衝水槽部を第2の加圧水槽部の外側に設けることが好ましい。
【0040】
本発明の方法においては、前述の予備延伸槽と本延伸槽は、一般に、紡糸工程と延伸工程が別々に設けられた製造方法(アウトライン方式)、紡糸工程と延伸工程が連続して設けられた製造方法(インライン方式)にかかわらず、連続して延伸設備ラインに配置される。
【0041】
被延伸物として、結晶性高分子繊維を用いる際の溶融延伸切れについては、原料や紡糸条件に由来する未延伸糸の結晶化度が不十分な場合、1段延伸では未延伸糸の結晶化度が不十分となり、未延伸糸中の非結晶部が熱で溶けて単糸切れを引き起こすと考えられる。これに対し、本発明の方法においては、延伸工程を予備延伸と本延伸に分けて多段化することによって、繊維のドラフト変形時の変形速度および変形量を分散することができ、その結果本延伸処理を行う高温高圧の加圧飽和水蒸気延伸槽内での被延伸物のドラフト変形による内部発熱を抑えることができ、加圧シール槽からのもち込み水分の昇温抑制効果の範囲に内部発熱を抑制し得るので、単糸切れを防止することができる。
【0042】
また、高強度な繊維を得るためには、高倍率の変形をゆっくりと行うことであり、従来の高温高圧の加圧飽和蒸気延伸槽1段で、一気に延伸処理する方法に比べて、本発明のように延伸工程を多段化することにより、1段当たりの変形速度が下がり、トータルの延伸倍率を上げることができ、高強度な延伸繊維を得ることができる。
【0043】
本発明の方法においては、被延伸物の結晶性高分子物質として、前述のポリプロピレン系樹脂からなる繊維を用いた場合、予備延伸処理を、次工程の本延伸処理における延伸温度よりも20℃以上低い温度において、延伸倍率が全延伸倍率の25〜80%になるように行うと共に、本延伸処理を133〜165℃の温度で行うのが有利である。特に予備延伸処理を、70〜110℃の温度において、延伸倍率が全延伸倍率の25〜60%、好ましくは35〜55%になるように1段階で行うと共に、本延伸処理を145〜155℃の温度で実施するのが望ましい。
【0044】
このようにして、強度が9.7cN/dTex以上、ヤング率が64.6cN/dTex以上であり、かつ偏光下、クロスニコルの状態で観察した際に、繊維内部が暗部として視認されると共に、その暗部を横断するようにして、繊維方向に伸びている線状の明部が断続的に視認されるポリプロピレン系延伸繊維を製造することができる。
【0045】
上記ポリプロピレン系延伸繊維は、フィラメント、ショートカットチョップおよびステープルファイバーのいずれの繊維形態を有するものであってもよい。
【0046】
本発明で得られるポリプロピレン系延伸繊維は様々な用途に用いることができる。具体的には、繊維形態をフィラメントとした場合、例えば織布タイプのフィルター(ろ材),筒体ケースに繊維を直接ワインディングしたカートリッジタイプのフィルター(ろ材),編み加工したネット(建築用),織り加工したシート(建築用シート基材),ロープ,ベルト等の材料繊維として利用することができる。また、繊維形態をショートカットチョップとした場合、例えば自動車タイヤ用補強繊維,コンクリート用補強繊維、抄紙不織布用繊維等として利用することができる。そして、繊維形態をステープルファイバーとした場合、例えば自動車用フロアーカーペット,2次電池用のセパレータ,フィルター(ろ材)、フエルトマット等として使用される不織布の材料繊維として利用することができる。
【0047】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、本出願書類において、以下の実施例1〜実施例4は参考例として取り扱うものとする。
【0048】
なお、未延伸繊維および延伸繊維の物性は、下記の方法により測定した。
(1)単糸の繊度(dTex)
JIS L 1015の振動法により測定した。
(2)繊維強度,ヤング率
JIS L 1015によりつかみ間隔20mm,引張速度20mm/分の定速伸長形条件で引張破断試験を行って測定した。
【0049】
実施例1
ポリプロピレン繊維マルチフィラメントの延伸(単糸繊度が大きい場合)
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
アイソタクチックポリプロピレン樹脂〔日本ポリケム社製「SA1HA」、メルトインデックス(MI):22g/10分、Q値:3.6〕を原料として用い、ホール径が0.5mmで、ホール数が120の紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置によって、シリンダー温度260℃、ノズル温度260℃、巻取り速度500m/分の条件で溶融紡糸を行い、単糸繊度が133dTexの未延伸糸を作製した。
【0050】
(2)マルチフィラメントの延伸
予備延伸槽(1段)および本延伸槽が連続して配置された延伸装置を用意した。
本延伸槽は、中央部に透孔を有するシリコーンゴムパッキンを筒体の両端および内部(それぞれ4箇所)に配置することによって延伸槽部(全長12.5m)、第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部が形成されており、第1の加圧水槽の外側に予備延伸糸送出手段としてのローラが、また第2の加圧水槽の外側に繊維引き出し手段としてのローラがそれぞれ配設されている。
【0051】
本延伸槽においては、温度150℃の加圧飽和水蒸気を延伸槽部に充填し、当該延伸槽部の内圧よりわずかに高い圧力の高圧水を第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部にそれぞれ貯留させた。まず、上記(1)で得た未延伸糸マルチフィラメントを、予備延伸槽にて、80℃の熱風で予備延伸処理したのち、本延伸槽にて、延伸速度(延伸糸の引き出し速度)が50m/分となるように本延伸処理を行った。
このようにして得られた延伸フィラメントの物性を測定し、かつケバの有無について、フィラメント切れの認められるものを有、フィラメント切れの認められないものを無とし、目視により判定した。その結果を延伸条件と共に、表1に示す。
【0052】
実施例2
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例1(1)において、ポリプロピレン樹脂として「SA1HA」の代わりに、「ZS1337」〔グランドポリマー社製、MI:26g/10分、Q値:4.5〕を用いた以外は実施例1(1)と同様にして溶融紡糸を行い、単糸繊度が111dTexの未延伸糸を作製した。
【0053】
(2)マルチフィラメントの延伸
上記(1)で得た未延伸マルチフィラメントについて、実施例1(2)と同じ延伸装置を用い、実施例1(2)と同様にして、予備延伸、次いで本延伸処理を行った。結果を延伸条件と共に表1に示す。
【0054】
比較例1、2
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例1(1)と同様にして、「SA1HA」の溶融紡糸を行い、単糸繊度が133dTexおよび28dTexの未延伸糸を作製した。
(2)マルチフィラメントの延伸
予備延伸槽が配置されておらず、本延伸槽のみが配置された装置を用い、上記(1)で得た未延伸マルチフィラメントそれぞれについて、実施例1(2)と同様にして本延伸処理のみを行った。結果を延伸条件と共に表1に示す。
【0055】
比較例3
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例2(1)と同様にして、「ZS1337」の溶融紡糸を行い単糸繊度が111dTexの未延伸糸を作製した。
(2)マルチフィラメントの延伸
上記(1)で得た未延伸マルチフィラメントについて、比較例1、2の(2)と同様にして本延伸処理のみを行った。結果を延伸条件と共に表1に示す。
【0056】
【表1】
表1から分かるように、予備延伸処理を行わない場合、未延伸単糸の繊度が133dTexや111dTexと大きいと、ケバの発生が認められるが(比較例1、比較例3)、予備延伸処理を行うと、未延伸単糸の繊度が133dTexや111dTexと大きくても、ケバの発生が認められない(実施例1、実施例2)。
【0057】
実施例3
ポリプロピレン繊維マルチフィラメントの延伸(高速延伸の場合)
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例1(1)と同様にして、「SA1HA」の溶融紡糸を行い、単糸繊度が28dTexの未延伸糸を作製した。
【0058】
(2)マルチフィラメントの延伸
予備延伸槽(3段)および本延伸槽が連続して配置された延伸装置を用意した。
予備延伸槽は3段階で延伸するようになっており、延伸ゾーン間は駆動ローラで倍率が調整される。本延伸槽については、実施例1(2)と同様である。
まず、上記(1)で得た未延伸糸マルチフィラメントを、予備延伸槽にて、80℃の熱風により3段階で予備延伸処理したのち、本延伸槽にて、表2に示す延伸速度で本延伸処理を行った。
このようにして得られた延伸マルチフィラメントの物性を測定し、かつケバの有無を、目視により判定した。その結果を延伸条件と共に、表2に示す。
【0059】
実施例4
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例2(1)と同様にして、「ZS1337」の溶融紡糸を行い、単糸繊度が11dTexの未延伸糸を作製した。
(2)マルチフィラメントの延伸
上記(1)で得た未延伸マルチフィラメントを、実施例3(2)と同様にして、予備延伸、次いで本延伸処理を行った。結果を延伸条件と共に、表2に示す。
【0060】
比較例4、5
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例1(1)と同様にして、「SA1HA」の溶融紡糸を行い、単糸繊度が28dTexの未延伸糸を作製した。
(2)マルチフィラメントの延伸
予備延伸槽が配置されておらず、本延伸槽のみが配置された装置を用い上記(1)で得た未延伸マルチフィラメントについて、実施例3(2)と同様にして、本延伸処理のみを行った。結果を延伸条件と共に表2に示す。
【0061】
比較例6
(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
実施例2(1)と同様にして、「ZS1337」の溶融紡糸を行い、単糸繊度が11dTexの未延伸糸を作製した。
(2)マルチフィラメントの延伸
上記(1)で得た未延伸マルチフィラメントについて、比較例4、5の(2)と同様にして、本延伸処理のみを行った。結果を延伸条件と共に、表2に示す。
【0062】
【表2】
表2から分かるように、予備延伸処理を行わない場合、500m/分や400m/分の高速延伸を行うと、ケバの発生が認められるが(比較例4、比較例6)、予備延伸処理を行うと、500m/分や400m/分の高速延伸でもケバの発生が認められない(実施例3、実施例4)。
【0063】
実施例5〜7
ポリプロピレン繊維ステープルの延伸(延伸後のトータル繊度が大きい場合)(1)未延伸ポリプロピレン繊維の作製
アイソタクチックポリプロピレン樹脂〔日本ポリケム社製「SA1HA」、メルトインデックス(MI):22g/10分、Q値:3.6〕を原料として用い、ホール径が0.4mmで、ホール数が600の紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置によって、シリンダー温度290℃、ノズル温度280℃、巻取り速度550m/分の条件で溶融紡糸を行い、単糸繊度が11dTexの未延伸糸を作製した。
【0064】
(2)延伸ステープルの作製
予備延伸槽として、80℃の熱風を導入する代わりに、90℃の温水が収容されているものを用いた以外は、実施例1(2)と同様な予備延伸槽(1段)および本延伸槽が連続して配置された延伸装置を用意した。まず、上記(1)で得た未延伸糸を、予備延伸槽にて90℃の温水で予備延伸処理したのち、本延伸槽にて、延伸速度が50m/分または80m/分となるように本延伸処理を行った。
【0065】
このようにして得られた延伸ステープルについて、物性を測定し、かつ融けた繊維の有無および延伸切れによる工程不調を目視により判定した。その結果を延伸条件と共に、表3に示す。
【0066】
図1は、実施例5において予備延伸処理したのち、本延伸処理を延伸倍率を高くして行い、延伸切れを起こさせた場合の単糸切れ端の光学顕微鏡写真図(10×10倍)である。この図から、予備延伸処理を行った場合、本延伸処理で延伸切れを起こしても、単糸はきれいに切断されることが分かる。
【0067】
比較例7、8
(1)未延伸ポリプレン繊維の作製
実施例5〜7の(1)と同様にして、「SA1HA」の溶融紡糸を行い、単糸繊度が11dTexの未延伸糸を作製した。
(2)ステープルの延伸
予備延伸槽が配置されておらず、本延伸槽のみが配置された装置を用い、上記(1)で得た未延伸糸ステープルについて、実施例5(2)と同様にして、本延伸処理のみを行った。結果を延伸条件と共に表3に示す。
【0068】
【表3】
表3から分かるように、ステープルの延伸において、予備延伸処理を行わない場合、トータル繊度が大きいと溶けた繊維が認められ、また延伸継続が不可能であるが(比較例7、比較例8)、予備延伸処理を行うと、融けた繊維が認められず、また、延伸切れによる工程不調もない(実施例5〜7)。
【0069】
図2は、比較例7においてステープルを予備延伸処理せずに、本延伸処理を行い、延伸切れが生じた場合の単糸切れ端の光学顕微鏡写真図(10×10倍)である。
この図から、延伸切れの際に溶融して丸い樹脂塊を形成していることが分かる。この樹脂塊が加圧水でシールされた容器内を通過するときに、繊維トウと容器内のシール部との隙間に樹脂塊が詰まり延伸切れによる工程トラブルに至る。また、このような樹脂塊の混入により製品品質の低下も招くことになる。
【0070】
なお、実施例1〜7および比較例1〜8で得られたポリプロピレン延伸繊維は、いずれも、偏光下、クロスニコルの状態で顕微鏡観察した結果、該繊維の外周部は明部として視認され、繊維内部は暗部として視認された。そして、上記の暗部(構造変化領域)を横断するようにして繊維径方向に伸びている線状の明部が断続的に視認された。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、被延伸物として、結晶性高分子物質を用い、高強度なポリプロピレン系延伸繊維などの結晶性高分子延伸物を、工業的に安価で生産性よく、安定して製造することができる。
また、ポリプロピレン系繊維のマルチフィラメントの延伸においては、アウトライン方式、インライン方式の製造方法にかかわらず、あるいはフィラメントの繊度の大きさ、顔料による着色の有無にかかわらず、延伸切れがなく、延伸処理することが可能である。
さらに、ポリプロピレン系繊維のステープルの延伸においては、被延伸物である繊維束のトータル繊度が大きい状態でも延伸時の糸切れがなくなり、操業性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例5においてポリプロピレン繊維のステープルを予備延伸処理したのち、本延伸処理で延伸切れを起こさせた場合の単糸切れ端の1例の光学顕微鏡写真図である。
【図2】比較例7においてポリプロピレン繊維のステープルを予備延伸処理せずに、本延伸処理を行い、延伸切れが生じた場合の単糸切れ端の1例の光学顕微鏡写真図である。
Claims (4)
- トータル繊度が90,000〜1,800,000dTexであるポリプロピレン系未延伸繊維を作製し、
予備延伸槽において次工程の本延伸処理における延伸温度よりも低い温度である70〜100℃の温度の温水で、延伸倍率が全延伸倍率の25〜60%になるように1段階で予備延伸処理したのち、
両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧飽和水蒸気が充填されてなる本延伸槽において加圧飽和水蒸気により145〜155℃の温度で直接加熱して本延伸処理することを特徴とするポリプロピレン系延伸繊維の製造方法。 - 予備延伸槽と本延伸槽が、連続して延伸設備ラインに配置されている請求項1に記載の方法。
- ポリプロピレン系未延伸繊維が、ポリプロピレンおよびプロピレンとα−オレフィンとの共重合体の中から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなるものである請求項1または2に記載の方法。
- 得られるポリプロピレン系延伸繊維が、強度が9.7cN/dTex以上、ヤング率が64.6cN/dTex以上であり、かつ偏光下、クロスニコルの状態で観察した際に、繊維内部が暗部として視認されると共に、その暗部を横断するようにして、繊維方向に伸びている線状の明部が断続的に視認されるものである請求項3に記載の方法。
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