JP2006214019A - 鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維およびその製造方法 - Google Patents

鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 低繊度である上、曳糸性がよく、安定した生産が可能な鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維を提供すること。
【解決手段】 鞘芯型複合ポリオレフィン系未延伸マルチフィラメントを延伸処理してなる単糸繊度が0.1〜3.0dTexの繊維であって、紡糸時における前記未延伸マルチフィラメントの破断引取速度が1800m/分以上であり、かつ式(1)
−30≦C−S≦12 …(1)
(ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有する鞘成分と芯成分とからなる鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、低繊度(0.1〜3.0dTex)である上、曳糸性がよく、安定した生産が可能な鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維、およびこのものを効率よく安定して製造する方法に関するものである。
従来、ポリオレフィン系繊維は、バッテリセパレーター、ワイパー、フィルターなどの産業資材分野、おむつ、ナプキンなどの衛生材料分野等で用いられているが、近年これらの分野における高機能、高付加価値化に伴い、低繊度のものが求められるようになってきている。
低繊度の繊維を得る方法としては、例えば海島型や分割型の複合繊維を用いることが知られている。
海島型複合繊維は、1樹脂成分(海成分)中に、この樹脂成分を溶解除去できる溶剤に難溶性の樹脂成分(島成分)を島状に分散させた繊維であり(例えば、特許文献1参照)、これを分割して絡合した後に、前記海成分を抽出すれば、極細繊維を得ることができる。しかしながら、この方法は、非常に細い繊維を得ることができるものの、1成分を溶解除去するために非経済的であるという問題を有している。
一方、分割型複合繊維は、複数成分の樹脂を組み合わせて紡糸し、各成分を並列型に配置した複合繊維であり(例えば、特許文献2参照)、この分割型複合繊維を、物理的応力や、繊維を構成する樹脂成分の化学薬品に対する収縮差などを利用して、複数の繊維に分割することにより、極細繊維を得ることができる。しかしながら、この方法は、該複合繊維を分割させるための工程を必要とする上、その分割性が不安定で、繊度に斑が生じることが多く、所望の低繊度の繊維のみからなるものを提供することは困難であるという問題があった。
他方、上記の海島型や分割型のような特殊な形態ではない、紡糸−延伸処理で得られる低繊度のポリオレフィン系繊維として、鞘成分がポリプロピレンとポリエチレンとのブレンド物、芯成分がポリプロピレンからなり、鞘成分のポリエチレンのメルトフローレート(MFR)値が10〜50g/10分、鞘成分および芯成分のポリプロピレンのMFR値が5〜45g/10分である鞘芯型のポリオレフィン系繊維の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、この方法においては、曳糸性が十分ではなく、目的とする低繊度のポリオレフィン系繊維を安定して生産できないという問題があった。
特開平9−316730号公報 特開平5−33218号公報 特開平7−54214号公報
本発明は、このような事情のもとで、低繊度である上、曳糸性がよく、安定した生産が可能な鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維、およびこのものを効率よく安定して製造する方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、紡糸時における破断引取速度がある値以上である鞘芯型複合ポリオレフィン系未延伸マルチフィラメントを延伸処理してなる、単糸繊度が0.1〜3.0dTexの繊維であって、それぞれのメルトフローレート値が特定の関係を満たす温度条件を有する鞘成分と芯成分とからなる鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維がその目的に適合し得ることを見出した。
また、前記鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維は、鞘成分と芯成分のメルトフローレート値が特定の関係を満たす温度条件を有する鞘成分と芯成分を、前記温度条件の範囲内の温度で紡糸し、紡糸時における破断引取速度がある値以上の未延伸マルチフィラメントを得たのち、延伸処理することにより、安定して製造し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) 鞘芯型複合ポリオレフィン系未延伸マルチフィラメントを延伸処理してなる単糸繊度が0.1〜3.0dTexの繊維であって、紡糸時における前記未延伸マルチフィラメントの破断引取速度が1800m/分以上であり、かつ式(1)
−30≦C−S≦12 …(1)
(ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有する鞘成分と芯成分とからなる鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維、
(2) 式(1)の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件が、190〜290℃である上記(1)項に記載の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維、
(3) 鞘成分がポリエチレン系樹脂を主成分とし、芯成分がポリプロピレン系樹脂を主成分とする上記(1)または(2)項に記載の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維、
(4) 式(1)
−30≦C−S≦12 …(1)
(ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有するポリオレフィン系の鞘成分と芯成分を、前記温度条件の範囲内の温度で紡糸し、紡糸時における破断引取速度が1800m/分以上の未延伸マルチフィラメントを得たのち、延伸処理することを特徴とする、単糸繊度が0.1〜3.0dTexの鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維の製造方法、
(5) 紡糸温度が190〜290℃である上記(4)項に記載の方法、および
(6) 上記(1)ないし(3)項のいずれか1項に記載の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維を用いて得られたことを特徴とする繊維加工品、
を提供するものである。
本発明によれば、低繊度(0.1〜3.0dTex程度)である上、曳糸性がよく、安定した生産が可能な鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維、およびこのものを効率よく安定して製造する方法を提供することができる。
本発明の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維は、鞘芯型複合ポリオレフィン系未延伸マルチフィラメントを延伸処理してなる鞘芯型複合延伸マルチフィラメントであり、その単糸繊度が0.1〜3.0dTex、好ましくは0.2〜2.0dTexである。以下、本発明の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維を、鞘芯型複合延伸繊維と称することがある。
また、本発明の鞘芯型複合延伸繊維は紡糸時における前記未延伸マルチフィラメントの破断引取速度が1800m/分以上、好ましくは1900m/分以上であり、かつ式(1)
−30≦C−S≦12 …(1)
(ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有する鞘成分と芯成分とから構成されている。前記温度条件としては、通常190〜290℃、好ましくは190〜270℃、より好ましくは190〜250℃の範囲である。なお、前記破断引取速度およびメルトフローレート値の測定については、後で詳述する。
本発明の鞘芯型複合延伸繊維の芯成分としては、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするものが好ましく、特に結晶性プロピレン系重合体を主成分とするものが好ましい。
この結晶性プロピレン系重合体としては、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン−プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、さらに前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、さらにブテン−1などのα−オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。これらの中で、特にアイソタクチックポリプロピレン系樹脂が好適である。
中でもアイソタクチックペンタッド分率(IPF)が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上のものが有利である。また、分子量分布の指標であるQ値(重量平均分子量/数平均分子量Mw/Mn比)は5未満が好ましい。上記IPFが85%未満では立体規則性が不充分で結晶性が低く、得られる延伸繊維における強度などの物性に劣る。
なお、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)(一般にmmmm分率ともいわれる)は、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して、側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する
立体構造の割合を示すものであって、同位体炭素核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)におけるPmmmm(プロピレン単位が5個連続してアイソタクチック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度)およびPw(プロピレン単位の全メチル基に由来する吸収強度)から、式
IPF(%)=(Pmmmm/Pw)×100
によって求めることができる。
また、このポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとα−オレフィン(例えばエチレン、ブテン−1など)との共重合体であってもよい。
一方、鞘成分としては、例えば高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1ランダム共重合体、ポリ4−メチルペンテン−1などを用いることができる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、ポリエチレン系樹脂を主体とするものが好ましく、特に強度の点から高密度ポリエチレンを主体とするものが好ましい。
本発明においては、鞘芯型複合繊維における鞘成分と芯成分の組み合わせとしては、例えば、鞘成分を芯成分よりも軟化温度が20℃以上低いものを選択することで、接着性繊維として用いることができる。
本発明においては、鞘芯型複合未延伸糸における鞘成分と芯成分との比率としては特に制限はないが、断面積比において20:80ないし80:20の範囲が好ましく、強度を上げる目的であれば、芯成分の比率を高めるのが好ましい。
また、前記鞘成分および芯成分には、必要に応じ、各種添加剤、例えば耐候剤、耐熱安定剤、難燃剤、着色剤、消臭剤、抗菌剤、芳香剤などを含有させることができる。
次に、本発明の鞘芯型複合延伸繊維は、以下に示す本発明の方法により、効率よく安定して製造することができる。
本発明の方法においては、式(1)
−30≦C−S≦12 …(1)
(ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有するポリオレフィン系の鞘成分と芯成分を、前記温度条件の範囲内の温度で紡糸し、紡糸時における破断引取速度が1800m/分以上の未延伸マルチフィラメントを得たのち、延伸処理することにより、単糸繊度が0.1〜3.0dTexの鞘芯型複合延伸繊維を得ることができる。
本発明の製造方法においては、紡糸−延伸処理をインライン方式で行ってもよく、アウトライン方式で行ってもよい。
本発明における鞘芯型複合未延伸マルチフィラメントは、従来鞘芯型複合繊維の製造において使用されている公知の方法を用いることができる。例えば、前記の鞘成分および芯成分を用い、押出し機2台と鞘芯型複合繊維用ノズルを備えた複合紡糸装置により、溶融紡糸することにより、鞘芯構造の複合未延伸マルチフィラメントが得られる。
この際紡糸温度は、前記式(1)の関係を満たす温度条件の範囲内の温度であることが必要であり、該温度としては、通常190〜290℃、好ましくは190〜270℃、より好ましくは190〜250℃である。
本発明においては、このようにして得られた複合未延伸マルチフィラメントに延伸処理が施される。
延伸処理は、温水、乾熱、蒸気、高圧蒸気などによって、ポリオレフィン系樹脂が溶融しない温度で行われるが、特に低伸度、高強度の延伸繊維が得られる点から、加圧飽和水蒸気により直接加熱して延伸処理する方法が好適である。
前記加圧飽和水蒸気により直接加熱して行う延伸処理は、二段以上に分けて行ってもよいし、この加圧飽和水蒸気により直接加熱して行う延伸処理に先立ち、未延伸マルチフィラメントを予備延伸処理することもできる。
この予備延伸工程においては、続いて行われる本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で複合未延伸マルチフィラメントの延伸処理が行われる。この予備延伸処理方法としては、例えば一般的に知られている金属加熱ロールや金属加熱板などを用いた接触加熱延伸、あるいは温水、常圧〜0.2MPa程度の水蒸気や熱風などの加熱流体、遠赤外線などの熱線を用いた非接触加熱延伸などの方法を適用することができる。さらに、本延伸工程で使用する高圧蒸気延伸槽と同じシステムにより、本延伸工程における延伸温度よりも低い温度で予備延伸処理することも可能である。
この予備延伸工程における延伸倍率としては、本延伸処理を含めた全延伸倍率の25〜90%の範囲が適しており、予備延伸装置のシステム、延伸状態などによって、延伸条件を適宜選択すればよい。特に、予備延伸処理を1段で行ったのち、本延伸処理を行う2段階延伸の場合、予備延伸倍率は、全延伸倍率の25〜85%の範囲が好ましく、さらに35〜80%の範囲が好ましい。また、該予備延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段階で行なってもよく、多段階で行う場合には、延伸温度を一定とし、予備延伸倍率を多段階にする方法や、延伸温度に勾配を与えながら、延伸倍率を多段階にする方法を用いることができる。
一方、本延伸工程は、複合未延伸マルチフィラメントまたは前述の予備延伸工程で得られた複合未延伸マルチフィラメントの予備延伸処理物を、100℃以上で、かつ鞘成分の融点未満の温度を有する加圧飽和水蒸気により直接加熱して、本延伸処理する工程であることが好ましい。
ここで、本延伸処理するには、例えば下記の装置を用い、延伸処理する方法を採用することができる。
すなわち、延伸装置として、複合未延伸マルチフィラメントまたはその予備延伸処理物を導入するための被本延伸処理物導入孔と延伸複合繊維を引き出すための延伸複合繊維引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ絶対圧が好ましくは0.2MPa以上の加圧飽和水蒸気を充填した延伸槽が用いられる。この延伸槽においては、被本延伸処理物導入孔および延伸複合繊維引き出し孔には、それぞれ延伸槽内の加圧水蒸気が洩出するのを防止するために、加圧水を利用した漏出防止機構が設けられている。
まず、複合未延伸マルチフィラメントまたはその予備延伸処理物を、被本延伸処理物導入孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導き、被本延伸処理物の表面に水分を付着させたのち、これを被本延伸処理物導入孔から延伸槽内に導き、本延伸処理する。この際、被本延伸処理物が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.1秒以上とするのが有利である。
本延伸処理は1段階で行ってもよいし、2段以上の多段で行ってもよい。
延伸複合繊維は、延伸複合繊維引き出し孔から引き出されて、該引き出し孔に設けられた漏出防止機構における加圧水中に導かれ、速やかに冷却される。この際、延伸複合繊維が水中を通過するのに要する時間は、概ね0.2秒以上とするのが有利である。
上記本延伸処理においては、通常110℃以上の加圧飽和水蒸気が用いられる。この温度が110℃未満では高倍率延伸および高速延伸を行うことが困難となり、実用的でない。また、加圧飽和水蒸気の温度は、鞘成分のポリオレフィン系樹脂が軟化しない範囲であれば、高い方が基本的には好ましいが、あまり高すぎると高圧を必要とし延伸装置の設備費が高くつき、経済的に不利となる。延伸倍率、延伸速度および経済性などを考慮すると、この加圧飽和水蒸気の好ましい温度は115℃〜140℃の範囲であり、特に120〜135℃の温度になるような加圧飽和水蒸気が好適である。
本延伸倍率は、複合未延伸マルチフィラメントまたはその予備延伸処理物の繊度に応じて適宜選定されるが、通常全延伸倍率が3.5〜8.0倍、好ましくは5.0〜8.0倍になるように選定される。また、本延伸速度は、一般に40〜200m/分程度である。
前記本延伸処理に用いられる延伸装置の具体例としては、以下に示す構造のものを挙げることができる。
すなわち、複合未延伸マルチフィラメントまたはその予備延伸処理物を導入するための被本延伸処理物導入孔と延伸複合繊維を引き出すための延伸複合繊維引き出し孔を有する気密性容器からなり、かつ延伸媒体として加圧飽和水蒸気が充填されている延伸槽部と、当該延伸槽部における上記被本延伸処理物導入孔側に密接配置されている第1の加圧水槽部と、前記の延伸槽部における延伸複合繊維引き出し孔側に密接配置されている第2の加圧水槽部と、前記第1の加圧水槽部の外側から当該第1の加圧水槽部内、前記の被本延伸処理物導入孔、前記の延伸槽部内、前記の延伸複合繊維引き出し孔および前記第2の加圧水槽部内を経由して前記第2の加圧水槽の外へ延伸複合繊維を導くことができるように前記第1の加圧水槽部および前記第2の加圧水槽部それぞれに形成されている透孔と、前記第1の加圧水槽部内に被本延伸処理物を送り込むための被本延伸処理物送出機構と、この送出機構による被本延伸処理物の送り込み速度よりも高速で前記第2の加圧水槽部から延伸複合繊維を引き出すための延伸複合繊維引き出し機構とを有している延伸装置が挙げられる。
上記の延伸槽部は、所望の絶対圧を有する加圧飽和水蒸気を延伸媒体として使用し得るだけの気密性および強度を有し、かつ、所望の大きさ(長さ)を確保できるものであればよい。
また、上記第1の加圧水槽部は、延伸槽部に形成されている被本延伸処理物導入孔から加圧飽和水蒸気が延伸槽部の外に漏出するのを防止するためのものであると同時に、被本備延伸処理物を加圧水中に導いて当該被本延伸処理物の表面に水分を付着させるためのものであり、当該第1の加圧水槽部には延伸槽部内の加圧飽和水蒸気と同等乃至は僅かに高い絶対圧を有する加圧水が貯留される。一方、上記第2の加圧水槽部は、前記の延伸複合繊維引き出し孔から加圧飽和水蒸気が延伸槽部の外に漏出するのを防止するためのものであると同時に、延伸複合繊維引き出し孔から引き出された延伸複合繊維を加圧水中に導いて冷却するためのものであり、当該第2の加圧水槽部内にも延伸槽部内の加圧飽和水蒸気と同等乃至は僅かに高い絶対圧を有する加圧水が貯留される。これら第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部は、それぞれ延伸槽部の外側に配置されている。
延伸槽部、第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部は、それぞれ別個に形成されたものをこれらが所定の関係となるように密接配置したものであってもよいし、単一の容器または筒体を所定間隔で仕切ることによって形成されたものであってもよい。また、延伸槽部と第1の加圧水槽部とは、これらの間の隔壁を共有するものであってもよい。同様に、延伸槽部と第2の加圧水槽部とは、これらの間の隔壁を共有するものであってもよい。
被本延伸処理物は、第1の加圧水槽部の外側から当該第1の加圧水槽部内を経由して上記の被本延伸処理物導入孔から延伸槽部内に入る。したがって、第1の加圧水槽部の容器壁の所望箇所には、被本延伸処理物を第1の加圧水槽部内に引き込むための透孔(以下「透孔A」という。)および被本延伸処理物を第1の加圧水槽部から引き出すための透孔(以下「透孔B」という。)が設けられている。
同様に、延伸槽部内に送り込まれた被本延伸処理物が延伸されたことによって生じた延伸複合繊維は、延伸槽部に設けられている上記の延伸複合繊維引き出し孔から第2の加圧水槽部内を経由して当該第2の加圧水槽部の外へ引き出されなければならないので、第2の加圧水槽部の容器壁の所望箇所には、前記の延伸複合繊維を延伸槽部内から第2の加圧水槽部内に引き込むための透孔(以下「透孔C」という。)および前記の延伸複合繊維を第2の加圧水槽部内から引き出すための透孔(以下「透孔D」という。)が設けられている。
上記の被本延伸処理物導入孔、延伸複合繊維引き出し孔、透孔A,B,C,D、特に透孔B,Cは、これらの孔を被本延伸処理物または延伸複合繊維が通過する際に当該被本延伸処理物または延伸複合繊維と容器壁との接触が起こらないように形成されていると共に配置されていることが好ましく、また、これらの孔から延伸槽部内の加圧飽和水蒸気ができるだけ噴出しないように設計されていることが好ましい。
上記の延伸装置を構成している被本延伸処理物送出機構は、被本延伸処理物を第1の加圧水槽部内へ一定の速度で送り込むためのものであり、この送出機構は第1の加圧水槽部の外側に設けられている。また、延伸複合繊維引き出し機構は、第2の加圧水槽部を経由してきた延伸複合繊維を被本延伸処理物送出機構による被本延伸処理物の送り込み速度より高速で第2の加圧水槽部から一定の速度の下に引き出すためのものであり、これによって、主として延伸槽部内で被本延伸処理物が延伸される。当該延伸複合繊維引き出し機構は第2の加圧水槽部の外側に設けられている。
被本延伸処理物送出機構による被本延伸処理物の送り込み速度と延伸複合繊維引き出し機構による延伸複合繊維の引き出し速度とは、所望の生産速度の下に所定の延伸倍率の延伸複合繊維が得られるように適宜選択される。被本延伸処理物送出機構および本延伸処理物引き出し機構としては、従来延伸処理に使用されている各種のローラを用いることができる。
なお、上述した延伸装置を構成している第1の加圧水槽部に形成されている前記の透孔Aから当該第1の加圧水槽部内の加圧水が漏出することを抑制するうえからは、透孔Aを水没させることによって当該透孔Aからの漏水を緩和させる緩衝水槽部を第1の加圧水槽部の外側に設けることが好ましい。同様に、第2の加圧水槽部に形成されている前記の透孔Dから当該第2の加圧水槽部内の加圧水が漏出することを抑制するうえからは、透孔Dを水没させることによって当該透孔Dからの漏水を緩和させる緩衝水槽部を第2の加圧水槽部の外側に設けることが好ましい。
本発明においては、予備延伸槽を設ける場合には、この予備延伸槽と本延伸槽は、一般に、紡糸工程と延伸工程が別々に設けられた製造方法(アウトライン方式)、紡糸工程と延伸工程が連続して設けられた製造方法(インライン方式)にかかわらず、連続して延伸設備ラインに配置されるのが有利である。
このようにして、複合未延伸マルチフィラメントまたはその予備延伸処理物を、加圧飽和水蒸気中で延伸処理することにより、単位繊度が0.1〜3.0dTexの低繊度の鞘芯型複合延伸繊維を得ることができる。
本発明の鞘芯型複合延伸繊維においては、引張り強度は、通常5.0〜8.0cN/dTex程度、好ましくは6.0〜8.0cN/dTex、伸度は、通常18〜35%程度、好ましくは18〜28%、ヤング率は、通常25〜50cN/dTex程度、好ましくは30〜50cN/dTexである。
本発明の繊維加工品としては、例えば不織布などを好ましく挙げることができる。該繊維加工品の用途としては、バッテリセパレーター、ワイパー、フィルターなどの産業資材分野や、おむつ、ナプキンなどの衛生材料分野などを例示することができる。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)原料
メルトフローレート(MFR)
JIS K 7210のB法に準じたメルトインデクサーを用い、一般試験条件に適合した荷重[初荷重3.19N(4分)、後荷重18.0N]、移動距離25mm、紡糸条件のノズル温度の条件下で一定時間に押し出された量を測定し、10分間の押出量に換算して、MFR(g/10分)とする。
(2)紡糸性
溶融紡糸を行い、引取速度を850m/分から、60(m/分)/分の割合で徐々に上げていき、未延伸マルチフィラメントが単糸切れを発生した際の速度を破断引取速度として、紡糸性を評価する。
(3)繊維物性
(イ)未延伸、延伸繊維の単糸繊度
オートバイブロ法により単糸繊度(dTex)を測定する。
(ロ)延伸繊維の引張り速度、伸度およびヤング率
JIS L 1015に準拠し、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の定速伸長形条件で引張破断試験を行い、測定する。
また、原料のポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂として、表1に示す物性を有するものを用いた。
Figure 2006214019
実施例1
(1)未延伸鞘芯型複合マルチフィラメントの作製
鞘成分に表1に記載のGのポリエチレン系樹脂を、芯成分にDのポリプロピレン系樹脂を用い、ホール径が0.4mmで、ホール数が1000の紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置によって、紡糸温度230℃、吐出量222gの条件下で溶融紡糸を行い、引取速度を850m/分から、60(m/分)/分の割合で上げていき、未延伸マルチフィラメントが単糸切れを発生した際の引取速度(破断引取速度)を求めた。その結果、2034m/分であった。また、破断時に得られた、他の未破断マルチフィラメントは、単糸繊度が1.60dTexであった。
(2)延伸鞘芯型複合マルチフィラメントの作製
前記溶融紡糸装置に、予備延伸槽と本延伸槽とが直列に連結されるように配置された延伸装置を用い、アウトライン方式で延伸処理を行った。
まず、上記(1)で得た未延伸鞘芯型複合マルチフィラメントを、予備延伸槽にて、G1速度20m/分に対して、90℃の温水でG2速度66m/分、延伸倍率3.3倍の条件にて予備延伸処理した。次いで本延伸槽にて、130℃、0.1MPaの加圧飽和水蒸気でG3速度136m/分、G3ロール加熱温度120℃、延伸倍率2.1倍の条件にて本延伸処理を行い、単糸繊度が0.43dTex、引張り強度が6.9cN/dTex、伸度が18.6%、ヤング率が45.2cN/dTex、全延伸倍率6.8倍の鞘芯型複合マルチフィラメントを作製した。24時間連続運転を行ったが、糸切れの発生はしなかった。結果を表2および表3に示す。
実施例2〜6、比較例1〜9
鞘成分および芯成分として、表2に示すものを用い、表2に示す紡糸温度を採用した以外は、実施例1と同様な操作を行い、未延伸鞘芯型複合マルチフィラメントを作製し、さらに延伸鞘芯型複合マルチフィラメントを作製した。結果を表2および表3に示す。
Figure 2006214019
Figure 2006214019
本発明の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維は、低繊度(0.1〜3.0dTex)である上、曳糸性がよく、安定した生産が可能であり、例えば不織布などの繊維加工品に好適に用いられる。

Claims (6)

  1. 鞘芯型複合ポリオレフィン系未延伸マルチフィラメントを延伸処理してなる単糸繊度が0.1〜3.0dTexの繊維であって、紡糸時における前記未延伸マルチフィラメントの破断引取速度が1800m/分以上であり、かつ式(1)
    −30≦C−S≦12 …(1)
    (ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
    の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有する鞘成分と芯成分とからなる鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維。
  2. 式(1)の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件が、190〜290℃である請求項1に記載の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維。
  3. 鞘成分がポリエチレン系樹脂を主成分とし、芯成分がポリプロピレン系樹脂を主成分とする請求項1または2に記載の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維。
  4. 式(1)
    −30≦C−S≦12 …(1)
    (ただし、Cは芯成分のメルトフローレート値、Sは鞘成分のメルトフローレート値で、いずれも50〜100g/10分の範囲である。)
    の関係を満たすメルトフローレート値の温度条件を有するポリオレフィン系の鞘成分と芯成分を、前記温度条件の範囲内の温度で紡糸し、紡糸時における破断引取速度が1800m/分以上の未延伸マルチフィラメントを得たのち、延伸処理することを特徴とする、単糸繊度が0.1〜3.0dTexの鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維の製造方法。
  5. 紡糸温度が190〜290℃である請求項4に記載の方法。
  6. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の鞘芯型複合ポリオレフィン系繊維を用いて得られたことを特徴とする繊維加工品。
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