JP2006089881A - 無機繊維とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 より生体溶解性に優れたAES繊維を提供する。
【解決手段】 アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmおよび89〜100pmである非晶質アルカリ土類ケイ酸塩繊維を、それぞれ、600℃以上850℃以下および800℃以上1100℃以上の温度で加熱処理して無機繊維を製造する。2重量%グリシン水溶液への溶解率が300μg/ml以上である。
【選択図】 図3

Description

本発明は、耐熱性および断熱性を有する無機繊維とその製造方法に関するものであり、特に、無機繊維が熱履歴を有した後も、生体内において溶解性を発現することによって、人体に吸入されても有害性が小さい無機繊維とその製造方法に関するものである。
無機繊維の用途は多岐にわたっている。無機繊維は、一般に、耐熱性や断熱性に優れることから、特に、耐熱、防火、断熱、保温などの特性が要求される材料の原料や素材として使用されることが多い。
無機繊維は、天然のものと人工のものとに大別される。天然の無機繊維の代表的なものとしては、クロシドライト、アモサイト、クリソタイル等、一括して「アスベスト」と呼ばれるものが挙げられる。アスベストは、体内に吸入されると、呼吸器疾患、さらには、がんを発生させることが知られている。アスベストは、国際がん研究機関(IARC)でも、発がん性物質であるグループ1に分類されている。
一方、人工の無機繊維に関しては、その空気力学的特性がアスベストに類似するものは、アスベストと同様に、その吸入による有害性が指摘されている。
無機繊維の有害性は、吸入される繊維の、1)量(Dose)、2)径、長さなどの寸法(Dimension)、3)体内での耐久性(Durability)という、3Dと呼ばれる3つの要因に大きく依存することが報告されている。近年、特に、上記3)の吸入繊維の体内での耐久性という要因に注目がなされ、吸入繊維が体内で溶解し、その溶解した成分が有害でなければ、その繊維の有害性は小さいという認識がなされた。この認識は、無機繊維の産業界に溶解性無機繊維の開発を促す結果となった。
上記の溶解性無機繊維のひとつとして、例えば、特許文献1に開示される非晶質アルカリ土類ケイ酸塩繊維(AES繊維)が挙げられる。
特開2004-36050号公報
非晶質無機繊維は、優れた耐熱性を有しているが、その一方で、非晶質無機繊維の溶解性は、その無機繊維が受けた熱履歴に大きく依存することが指摘されている。しかしながら、アルカリ土類ケイ酸塩(AES)繊維の熱履歴が、それ自身の溶解性に及ぼす影響はほとんど明らかになっていない。
そこで、本発明は、熱履歴がAES繊維の溶解性に及ぼす影響を明らかにするとともに、より生体溶解性に優れたAES繊維を提供することを目的としている。
本願発明者は上記課題に鑑み、鋭意検討を重ね、種々の化学組成を有するAES繊維について、その熱履歴と溶解性との関係を明らかにした。
種々の化学組成を有するAES繊維において、その熱履歴と溶解性との関係を明らかにした結果、1)アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmである非晶質アルカリ土類ケイ酸塩繊維を、600℃以上850℃以下の温度で加熱処理すると、得られる無機繊維の生体溶解性が著しく増大すること、2)アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmである非晶質アルカリ土類ケイ酸塩繊維を、800℃以上1100℃以下の温度で加熱処理すると、得られる無機繊維の生体溶解性が著しく増大すること、を見出した。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
本発明のAES繊維は、該繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径の違い毎に、適切な熱履歴が施されることによって、より優れた生体溶解性を発現する。
したがって、本発明に係る無機繊維を使用すれば、AES繊維を取り扱う作業場所の作業環境をより向上させることが可能となる。
以下に、本発明の最良の形態を、詳細に説明する。
なお、本発明において、アルカリ土類とは、Mgを含むアルカリ土類を意味する。アルカリ土類とは、一般に、周期表IIa族のうち、Ca、Sr、Ba、Raの4元素を指すが、MgもIIa族に属し、性質も似ている点が多いので、Mgを含めてアルカリ土類とすることもある。本願明細書においては、「アルカリ土類」とは、Mgを含めて「アルカリ土類」という用語を使用する。
アルカリ土類ケイ酸塩繊維は、Mgに富む種類のものと、Caに富む種類のものと2種類に大別することができる。
そこで、まず、上記2種類のアルカリ土類ケイ酸塩繊維の加熱処理温度と溶解性との関係を明らかにした。すなわち、AES繊維のうち、Mgに富むAES繊維およびCaに富むAES繊維について、前記繊維の加熱処理温度が溶解性に及ぼす影響を評価するために、表1に示す化学組成を有する2種類のAES繊維#1および#2に、表2に示すように110〜1260℃の範囲の温度で24時間の加熱処理を行い、それぞれの温度で加熱処理されたAES繊維の生体溶解性の評価を行った。
Figure 2006089881
Figure 2006089881
加熱処理を行った繊維については、粉末X線回折(XRD)分析を行い、相の同定を行った。測定条件は40kV−30mAである。
AES繊維の溶解性の評価方法について説明する。
一般に、繊維に限らず、人体に吸入された粉じんの体内での溶解性は、単なる水への溶解性と異なることが多い。ある種の物質は、呼吸器内においてアミノ酸やタンパク質の存在下で、その溶解性が著しく変化することが知られている。このような溶解性の変化は、個々の物質についてそれぞれ検討するより他はなく、AES繊維も例外ではない。
このような理由から、繊維の生体溶解性の評価は、前記AES繊維の、アミノ酸水溶液に対する溶解率を測定することにより行った。アミノ酸水溶液としては、最も単純なアミノ酸であるグリシンの2重量%水溶液を使用した。
さらに、前記の溶解性の評価のための、繊維の溶解率の測定に使用する2重量%グリシン水溶液には、pH4を示すフタル酸塩:C(COOK)(COOH)の0.05mol/l溶液を添加した。このフタル酸溶液の添加の理由は次の理由による。
一般に、アルカリ土類成分の液体への溶出は、液体のpHの上昇をもたらすが、pHが12〜13になると、溶出したMgイオンは水酸化物となって沈殿してしまう。このような溶出成分の沈殿は、溶解率の測定に支障を来すことがあり得る。したがって、フタル酸溶液の添加によって、実験の初期条件を酸性側に設定しておくことは、上記の溶出成分の沈殿を防ぐ効果を有する。そこで、本発明の溶解性の評価では、溶解実験の初期条件として、液体を上記の酸性環境に設定するために、pH4を示すフタル酸溶液の添加を行った。フタル酸イオン自身は、一般に、ガラスの溶解にほとんど影響を及ぼさないことが知られている。
AES繊維の溶解率の測定方法の詳細は以下の通りである。
まず、200メッシュ(目開き0.075mm)のふるいを通過するまで解砕した繊維試料を1g精秤する。それを300mlのコニカルビーカーに取り、2重量%グリシン水溶液を150ml加え、さらに前述の0.05mol/lフタル酸塩水溶液を5ml添加した後、コニカルビーカーに栓をする。前記の繊維試料および液体が入ったコニカルビーカーを40℃に制御された恒温水槽に設置して、120rpmの速度で50時間の水平振とうを行う。その後、ガラスろ過器によるろ過および乾燥を行い、不溶解繊維を精秤して、溶解による繊維の減量を求める。溶解による繊維の減量から、液体の単位体積当たりの繊維の溶解重量を算出し、これを繊維の溶解率とした。
XRD分析によって得られた、AES繊維試料#1および#2の加熱処理による相の変化を図1に示す。
図1に示されているデータは、試料を各温度で24時間加熱処理した後、XRD分析によって相の同定を行った結果であるため、相変化が生じる厳密な温度を示すものではなく、溶解実験に供したAES繊維試料がどのような相によって構成されているかを示すためのものである。
図1に示すように、Mgに富むAES繊維試料#1と、Caに富むAES繊維試料#2は、どちらも、加熱処理温度が700℃までの場合は非晶質(ガラス質)である。そして、加熱処理温度が800℃以上になると、AES繊維の結晶化が生じ、AES繊維の化学組成の系に応じた結晶質アルカリ土類ケイ酸塩の相が生成している。
すなわち、Mgに富むAES繊維では、オージャイトが生成し、Caに富むAES繊維では、ウォラストナイトおよびディオプサイドが生成している。さらに、1260℃で、前記の結晶質アルカリ土類ケイ酸塩の生成に関与しなかった余剰のシリカ成分が結晶化し、クリストバライトが生成している。
110℃〜1260℃の各温度で24時間加熱処理されたAES繊維#1および#2のグリシン水溶液溶解率、および繊維と反応後の液体のpHを表2に示す。
繊維と反応終了後の液体は、すべてpH10以下であった。したがって、繊維から溶出した成分の、pHの上昇による沈殿は生じていない。
Mgに富むAES繊維試料#1およびCaに富むAES繊維試料#2の、加熱処理温度と溶解率との関係を図2に示す。
Mgに富むAES繊維試料#1の、2重量%グリシン水溶液に対する溶解率は、繊維の加熱処理温度が高くなるにつれて急激に上昇し、加熱処理温度が700℃であるときに最大になり、その後、加熱処理温度が800℃になると急激に減少する。
一方、Caに富むAES繊維試料#2の、2重量%グリシン水溶液に対する溶解率は、加熱処理温度が700℃までは低い値を示す。しかしながら、加熱処理温度が800℃以上になると、溶解率が急激に上昇する。
以上のように、Mgに富むAES繊維#1の加熱処理温度と溶解率との関係と、Caに富むAES繊維#2の加熱処理温度と溶解率との関係は異なっている。すなわち、Mgに富むAES繊維の、グリシン水溶液に対する溶解率は、加熱処理温度が700℃付近で極大値を示す。これに対し、Caに富むAES繊維の、グリシン水溶液に対する溶解率は、加熱処理温度が800℃以上になると、高い値を示すようになる(図2)。
そこで、図2に示されるように、(1)加熱処理温度が700℃付近でグリシン水溶液に対する溶解率が極大になるAES繊維の組成範囲と、(2)加熱処理温度が800℃以上でグリシン水溶液中での溶解率が急激に増加するAES繊維の組成範囲とを詳細に決定するために、表3に示す化学組成を有するAES繊維#101〜#115を、110℃(乾燥処理のみで、実質的に未加熱処理のもの)、700℃および1100℃で24時間加熱処理したときのグリシン水溶液に対する溶解率を測定した。溶解率の測定方法は前述と同様である。実験終了後の液体のpHおよび溶解率の値を表3に示す。
Figure 2006089881
Mgに富むAES繊維とCaに富むAES繊維とで大きく異なる点のひとつとして、含まれるアルカリ土類イオンのイオン半径の違いが挙げられる。
そこで、表3に示す各AES繊維の化学組成から、各AES繊維のアルカリ土類イオンの加重平均を算出し、これと、溶解率との関係を評価した。
加重平均イオン半径について説明する。本発明では、AES繊維に含まれるアルカリ土類のイオン半径を表す指標として、各アルカリ土類のイオン半径を加重平均した値を用いた。イオン半径は物質の構造を論じる際にしばしば用いられているものであり、端的に言えば、イオンを球と考えたとき、その半径をイオン半径という。例えば、SiOガラスは、Siの周囲に4個の酸素を配位し、SiO四面体を基本とする網目構造を有する。網目の中心がSi4+イオンであり、ここで、正、負のイオン間の化学結合は(この場合、負イオンはO2−)、両者間の静電気的引力で生じるが、正、負のイオン同士が極端に近づいていくと、今度はイオンの原子核の持つ正電荷により相互の反発力が生じる。この静電気的引力と反発力が釣り合う位置で、両者の間隔は定まり、それぞれのイオンがあたかも一定の半径を持った剛体の球であるかのように、これ以上は接近できない状態となる。この球の半径がイオン半径と呼ばれている。
加重平均イオン半径は、本発明では、繊維に含まれる各アルカリ土類のイオン半径を、AES繊維中の各アルカリ土類酸化物のモル分率によって加重平均し、算出された値を、AES繊維中のアルカリ土類の加重平均イオン半径とした。
加重平均イオン半径の算出方法は、まずAES繊維に含まれるアルカリ土類酸化物成分の総量を1とした場合の各アルカリ土類酸化物のモル分率を算出する。算出した各モル分率に、それぞれのアルカリ土類のイオン半径を乗じた値の総和を加重平均イオン半径とした。加重平均イオン半径の算出式を以下に示す。
AVG = Σ(r・R
ここで、rAVGは、AES繊維に含まれるアルカリ土類の加重平均イオン半径、rは各アルカリ土類のイオン半径、RはAES繊維に含まれるアルカリ土類酸化物の総量を1とした場合の各アルカリ土類酸化物のモル分率とする。計算に使用したアルカリ土類のイオン半径を表4に示す(出典:山根正之(1996):はじめてガラスを作る人のために.セラミックス基礎講座4,p82.内田老鶴圃)。
Figure 2006089881
表4に示される個々のアルカリ土類のイオン半径から計算された、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径を表3に示す。さらに、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径と加熱処理されたAES繊維のグリシン水溶液に対する溶解率との関係を、加熱処理温度毎に、図3に示す。
700℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率は、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmの範囲では、110℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率よりも著しく高い値を示している。また、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmの範囲では、700℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率は低い値を示し、110℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率と実質的に同等である。
これに対し、1100℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率は、AES繊維のアルカリ土類イオン半径の加重平均が66〜89pmの範囲では、110℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率よりも低い値を示している。しかしながら、AES繊維のアルカリ土類イオン半径の加重平均が89〜100pmの範囲では、1100℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率は、110℃で加熱処理された繊維のグリシン水溶液中での溶解率よりも著しく高い値を示している。
したがって、図2および図3より、1)AES繊維は、アル力リ土類の加重平均イオン半径の違いによって、700℃付近の加熱処理によってグリシン水溶液溶解率が著しく増大するグループと、800℃以上(例えば1100℃)の加熱処理によってグリシン水溶液溶解率が著しく増大するグループとに大別される、2)700℃付近の加熱処理によってグリシン水溶液溶解率が著しく増大するグループは、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmの範囲であるAES繊維であり、800℃以上(例えば1100℃)の加熱処理によってグリシン水溶液溶解率が著しく増大するグループは、アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmの範囲であるAES繊維であることを見出すことができる。
700℃付近での加熱処理によって、AES繊維のグリシン水溶液溶解率が増大するかどうかは、加熱処理によってAES繊維に形成される分相構造の違いによるものと推定される。
分相は、結晶化温度よりも低い温度域において、均一な多成分ガラスが、2種類の異なる化学組成のガラス相に分かれる現象である。分相で生じる、組成の異なる2種類の相は、顕微鏡やX線でも内部に結晶構造は確認されず、いずれも完全なガラス相である。したがって、分相は、失透や結晶化とは別の現象と理解されている。しかしながら、ある種の非晶質材料では、結晶化が起こる前に分相が起こることが知られている。
図1に示すように、700℃で24時間加熱処理されたAES繊維は非晶質である。そして、さらに100℃高い800℃で24時間加熱処理されたAES繊維には結晶化が生じ、そのAES繊維の化学組成に応じた結晶質アルカリ土類ケイ酸塩が生成する。すなわち、700℃という加熱処理温度は、AES繊維にとって結晶化が始まる直前の温度域に相当する。したがって、AES繊維は700℃で24時間の加熱処理によって分相したと考えることができる。
一般に、分相では、より低い融点をもつ低温成分と、シリカ成分に富む高温成分の2相に分離する。したがって、AES繊維も700℃付近の加熱処理によって分相し、低温成分であるアルカリ土類成分に富むガラス相と、高温成分であるシリカ成分に富むガラス相とに分離したと考えることができる。低温成分であるアルカリ土類成分に富むガラス相は、化学的耐久性の低い相、すなわち、より溶解しやすい相である。
分相によって形成される構造は2種類に大別され、この分相構造の違いによって、分相したガラス質材料の化学的耐久性が異なることが知られている(Tomozawa,M.and Takamori,T.,J.Amer.Ceram.Soc.60(1977)301−304)。
ケイ酸塩ガラスの分相では、一般に、以下の2種類の分相構造が形成されうる。
ひとつは、化学的耐久性の低い相およびシリカ成分に富む相とが不規則な形で互いに連結してからみ合った構造が形成される場合である。この場合、化学的耐久性の低い相(アルカリ土類に富むガラス相)が、液体に直接曝されることになるため、分相したガラスの溶解は著しく促進される。
もうひとつは、化学的耐久性の低い相がシリカ成分に富むガラス相(マトリックス)中で互いに分離しており、化学的耐久性の低い相がシリカ成分に富むガラス相(マトリックス)に周囲を取り囲まれる構造が形成される場合である。この場合、化学的耐久性の低いガラス相が、化学的耐久性の高いシリカ成分に富むガラス相(マトリックス)に周囲を取り囲まれているため、化学的耐久性の低いガラス相(アルカリ土類成分に富むガラス相)は、液体に曝されない。結果として、ガラスの溶解は、分相の影響を受けない。
このように、分相構造中で、化学的耐久性の低いガラス相(アルカリ土類成分に富むガラス相)が、シリカ成分に富むガラス相(マトリックス)中でどのような構造を取るかによって、分相したガラス質材料全体としての化学的耐久性は大きく異なってくる。
700℃付近の加熱処理は、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmの範囲にあるAES繊維のグリシン水溶液中での溶解率を増大させた(図3)。このことは、700℃付近の加熱処理がアルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmの範囲にあるAES繊維を分相させ、化学的耐久性の低いガラス相(アルカリ土類成分に富むガラス相)がグリシン水溶液に直接曝される構造を形成させた可能性を示唆する。
一方、700℃付近の加熱処理は、アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmの範囲にあるAES繊維のグリシン水溶液中での溶解率に何ら変化を与えなかった。このことは、700℃付近の加熱処理がアルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmの範囲にあるAES繊維を分相させたものの、化学的耐久性の低いガラス相(アルカリ土類成分に富むガラス相)がグリシン水溶液に曝されない構造を形成させた可能性を示唆する。
一方、800℃以上(例えば1100℃)の加熱処理に.よって、AES繊維のグリシン水溶液溶解率が増大するかどうかは、800℃以上の温度での加熱処理によって生成する結晶質アルカリ土類ケイ酸塩の種類の違いによるものと考えることができる。
MgOおよびCaO成分を含む結晶質アルカリ土類ケイ酸塩として、エンスタタイト[MgSiO]、オージャイト[(Mg,Ca)SiO]、ディオプサイト[CaMgSi]、ウォラストナイト[CaSiO]が挙げられる。エンスタタイトからウォラストナイトにいくにしたがって、Mgに富む結晶質アルカリ土類ケイ酸塩からCaに富む結晶質アルカリ土類ケイ酸塩に移行している。これら結晶質アルカリ土類ケイ酸塩のアルカリ土類の加重平均イオン半径の値は、エンスタタイトが66pm、ディオプサイトが83pm、ウォラストナイトが99pmである。
なお、本発明のAES繊維にはSrが含まれうるが、一般に、SrはCaに化学的挙動が類似しており、本発明のAES繊維中でも、Caに準じた挙動を示していると見なすことが可能であろう。
アルカリ土類Mg、Ca、Srのイオン半径は、表4に示すように、それぞれ66、99、112pmである。
図3において、700℃付近で加熱処理されたAES繊維については、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径が89pm以下の場合ではグリシン水溶液溶解率は高い値を示しているが、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径が89pm以上の場合ではグリシン水溶液溶解率は減少に転じている。これに対して、1100℃で加熱処理されたAES繊維については、逆に、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径が89pm以下の場合では、グリシン水溶液溶解率は低い値を示しているが、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径が89pm以上の場合では、グリシン水溶液溶解率は急激に増大しており、高い値を示している。このように、AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径の値が89pmである点を境に、700℃および1100℃で加熱処理されたAES繊維のグリシン水溶液溶解率はそれぞれ急激に変化するのである。89pmというAES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径の値は、800℃以上の加熱処理によって生成する主要な結晶質アルカリ土類ケイ酸塩が、ディオプサイト(アルカリ土類の加重平均イオン半径:83pm)からウォラストナイト(アルカリ土類の加重平均イオン半径:99pm)に移行していく領域に相当する(ディオプサイトとウォラストナイトとのアルカリ土類の加重平均イオン半径の中間値は、計算上、91pmである)。
以上のことから、700℃付近での加熱処理および800℃以上(例えば1100℃)での加熱処理によってAES繊維のグリシン水溶液溶解率が増大するかどうかは、800℃以上の加熱処理によってそのAES繊維に生成する主要な結晶質アルカリ土類ケイ酸塩が、ウォラストナイトであるか、それとも、それ以外の結晶質アルカリ土類ケイ酸塩(エンスタタイト、オージャイト、ディオプサイド)かどうかに依存している。800℃以上での加熱処理によって生成する主要な結晶質アルカリ土類ケイ酸塩がウォラストナイト以外のもの(エンスタタイト、オージャイト、ディオプサイド)であれば、AES繊維のグリシン水溶液溶解率を増大させるのは700℃付近の温度での加熱処理である。一方、800℃以上での加熱処理によって生成する主要な結晶質アルカリ土類ケイ酸塩がウォラストナイトであれば、AES繊維のグリシン水溶液溶解率を増大させるのは800℃以上の温度(例えぱ1100℃)での加熱処理である。
アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維の加熱処理温度は600℃以上850℃以下が好ましい。図2および図3より、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維の加熱処理温度は700℃付近が最適であることがわかる。そして、図2においては、加熱処理温度が800℃になると、AES繊維のグリシン水溶液溶解率は低下している。しかしながら、このことは、800℃の加熱処理が、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維のグリシン水溶液溶解率を増大させないということを必ずしも意味しない。図2に示した結果は、ひとつの例として、AES繊維を24時間加熱処理した場合の結果として得られたものである。後述する実施例に示されるように、800〜850℃における加熱処理においても、処理時間をより短くすることによって、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維のグリシン水溶液溶解率を増大させることは可能である。加熱処理温度の上限・下限を一義的に決定することは困難ではあるが、重要な点は、600℃以上850℃以下で加熱処理された、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維のグリシン水溶液溶解率が、未加熱処理の(または、110℃で24時間加熱(乾燥)処理された)のAES繊維のそれに比べて増大していること、より好ましくは、600℃以上850℃以下の加熱処理によって、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維のグリシン水溶液溶解率を300μg/ml以上とすることである。さらに好ましくは、1)650℃以上750℃未満の温度で1時間以上30時間未満の時間加熱処理すること、または、2)600℃以上650℃未満の温度で30時間以上の加熱処理すること、または、3)750℃以上850℃以下の温度で1時間未満の加熱処理をすること、によって、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維のグリシン水溶液溶解率を300μg/mlとすることである。
一方、アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmのAES繊維の加熱処理温度は800℃以上が好ましい。より好ましくは、800℃以上の加熱処理によって、アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmのAES繊維のグリシン水溶液溶解率を300μg/ml以上とすることである。
以下に本発明の実施例および比較例を示す。
原料として、珪石、マグネシアクリンカー、ケイ酸カルシウム、炭酸ストロンチウムを使用した。これらの原料を所定量混合する。それを電気炉で溶融した後、溶融物を常法にしたがって繊維化し、集綿して、表5に示す化学組成のAES繊維を得た。得られたAES繊維を、表5に示す条件で加熱処理を行った。次に、加熱処理されたAES繊維の生体溶解性の評価を行った。生体溶解性の評価は、前述した条件でのAES繊維のグリシン水溶液溶解率を測定することによって行った。
Figure 2006089881
実施例1〜19は、600℃以上850℃以下で加熱処理された、アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmのAES繊維である。グリシン水溶液溶解率は300μg/ml以上であり、優れた生体溶解性を発現している。
実施例20〜29は、800℃以上で加熱処理された、アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmのAES繊維である。グリシン水溶液溶解率は300μg/ml以上であり、優れた生体溶解性を発現している。
比較例1〜25は、本願発明の特許請求の範囲から外れているAES繊維である。グリシン水溶液溶解率は小さい値を示し、生体溶解性に劣っている。
粉末X線回折(XRD)分析によって示される、加熱処理に伴うAES繊維#1および#2の相の変化を示す図である。 AES繊維#1(MgO成分に富むMgO−CaO−SrO−SiO系組成)およびAES繊維#2(CaO成分に富むCaO−MgO−SiO系組成)の加熱処理温度と、繊維のグリシン水溶液中での溶解率との関係を示すグラフである。 AES繊維のアルカリ土類の加重平均イオン半径と、繊維のグリシン水溶液申での溶解率との関係を、加熱処理温度別に示すグラフである。

Claims (9)

  1. アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmで、かつ、加熱処理されて2重量%グリシン水溶液への溶解率が300μg/ml以上であるアルカリ土類ケイ酸塩繊維からなる無機繊維。
  2. 600℃以上850℃以下の温度で加熱処理されたアルカリ土類ケイ酸塩繊維からなる、請求項1に記載の無機繊維。
  3. アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmで、かつ、加熱処理されて2重量%グリシン水溶液への溶解率が300μg/ml以上であるアルカリ土類ケイ酸塩繊維からなる無機繊維。
  4. 800℃以上1100℃以下の温度で加熱処理されたアルカリ土類ケイ酸塩繊維からなる請求項3に記載の無機繊維。
  5. アルカリ土類の加重平均イオン半径が66〜89pmである非晶質アルカリ土類ケイ酸塩繊維を、600℃以上850℃以下の温度で加熱処理することを特徴とする無機繊維の製造方法。
  6. 650℃以上750℃未満の温度で1時間以上30時間未満の時間加熱処理することを特徴とする請求項5に記載の無機繊維の製造方法。
  7. 600℃以上650℃未満の温度で30時間以上の加熱処理することを特徴とする請求項5に記載の無機繊維の製造方法。
  8. 750℃以上850℃以下の温度で1時間未満の加熱処理することを特徴とする請求項5に記載の無機繊維の製造方法。
  9. アルカリ土類の加重平均イオン半径が89〜100pmである非晶質アルカリ土類ケイ酸塩繊維を、800℃以上1100℃以下の温度で加熱処理することを特徴とする無機繊維の製造方法。

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