JP2006083349A - ポリエステルブロック共重合体製被覆材 - Google Patents

ポリエステルブロック共重合体製被覆材 Download PDF

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Abstract

【課題】 180℃以上の優れた耐熱性と、耐寒性、機械的強度及び柔軟性、難燃性を兼ね備えるとともに、未架橋の状態でも取り扱いが容易な、特に、電線、信号線及びケーブルに好適なポリエステルブロック共重合体電線被覆材を提供する。
【解決手段】 ハードセグメントはポリブチレンテレフタレートが主成分であり、ソフトセグメントは脂肪族及び/又は芳香族ジカルボン酸と炭素数5〜12の長鎖ジオールからなる非晶性(又は低結晶性)ポリエステルが主成分であるブロック共重合体に、放射線により架橋することを特徴とするポリエステルブロック共重合体電線被覆材。
【選択図】 なし

Description

本発明は、特定のポリエステルブロック共重合体を放射線架橋して得られた被覆材、特に信号線用被覆材に関する。
従来からある電線の被覆材料として、ポリオレフィンやポリ塩化ビニル等の電子線架橋やラジカル発生剤を添加して熱架橋を施したものがあるが、耐油性や耐熱性など耐久性に劣っており、高次元での電線被覆材としての要求を満たしているとはいえない。
耐熱性、耐油性などに優れたエラストマーとして、シリコーンエラストマー、フッ素系エラストマー等が良く知られおり、これらのエラストマーは成形後直ちに架橋を施して成形品としている。しかし、これらのエラストマーは、高価であり、また耐寒性、低温時の柔軟性が失われるなど物性面で課題を残している。
特開平8−73712号公報には、ポリエステル系ブロック共重合体にラジカル発生剤を添加して熱架橋による耐熱性、耐油性に優れた樹脂が開示されているが、添加量、樹脂の混練温度、時間による加工条件設定が製品によって異なるため安定した品質のものを作るのが困難である。(特許文献1参照。)
成形後直ちに架橋を施さなくてもよいように、耐熱性エラストマーに熱可塑性樹脂を混合してアロイ化する試みは、例えば、特開平2−245047号公報、特開平2−311548号公報、特開平10−45988号公報に開示されているが、エラストマーとしての特性を改良するまでには至っておらず、かえってエラストマーとしての性質を失う方向にあった。(特許文献2参照。)
特開2003−51215号公報には、生分解性樹脂が過冷却状態で放射線により架橋され、生分解性を保持しながら耐熱性の向上した被覆電線類が開示されている。しかしながら、ポリブチレンテレフタレートを主たる構成成分とするハードセグメントと、脂肪族を主とするソフトセグメントからなるポリエステルブロック共重合体系エラストマーについては、何も教えていない。(特許文献3参照。)
熱可塑性エラストマーの中で、ポリオレフィンやポリスチレンなどの重付加高分子をハードセグメントとしたものは耐熱性に劣っているが、それに比べてポリアミド、ポリエステルなどの縮合型高分子をハードセグメントとしたものは比較的耐熱性に優れている。しかしながら、その長期耐熱性はせいぜい130℃程度であり用途が制限されていた。一方、耐寒性はそのソフトセグメントの性質により優れた性質を示すものも多い。
これらの熱可塑性エラストマーは、成形性に優れ、耐寒性、機械的強度、柔軟性などエラストマーとしての物性も保っていることから、自動車、産業ロボット等で使用される保護チューブや、電線、ケーブルの絶縁被覆材料、シース材料などとして広く用いられており、耐熱性の更に高いものが求められている。
特開平8−73712号公報(請求項1及び実施例) 特開平10−45988号公報(段落0002、請求項及び実施例) 特開2003−51215号公報(請求項1〜11及び実施例)
本発明は、柔軟性、難燃性に優れ、耐熱性を更に向上させた安価な電線、ケーブル等の絶縁被覆材料を提供することである。
本発明者らは、特定のポリエステルエラストマーを用い、過冷却状態で電子線架橋等を行うことにより、本発明の課題が解決できることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明の第1は、下記(A)からなるハードセグメント20〜80重量%と、下記(B)からなるソフトセグメント80〜20重量%と(ここで、両セグメントの合計は100重量%である。)からなるポリエステルブロック共重合体(P)を、過冷却状態で、放射線照射量10〜400kGyで、架橋してなるポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
(A):1,4−ブタンジオール残基とテレフタル酸残基を含み両者の合計が60モル%以上であるポリエステル構造
(B):脂肪族ジオール残基、脂肪族ジカルボン酸残基および/または脂肪族オキシカルボン酸残基からなる脂肪族ポリエステル構造(B1)、及び/又は、芳香族ジカルボン酸残基と炭素数5〜12の長鎖ジオール残基を含み両者の合計が60モル%以上である芳香族ポリエステル構造(B2)
本発明の第2は、ソフトセグメントが、ポリエステル構造(B1)のみからなる本発明の第1に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明の第3は、ポリエステルブロック共重合体(P)100重量部に対し、水酸化マグネシウム20〜60重量部およびリン酸エステル化合物2〜20重量部を添加してなる本発明の第1又は2に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明の第4は、放射線が電子線又はγ線であることを特徴とする本発明の第1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明の第5は、放射線照射後のポリエステルブロック共重合体(Q)のゲル分率が0.01〜20%であることを特徴とする本発明の第1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明の第6は、架橋が生じていると共に結晶相が微細化されていることを特徴とする本発明の第1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明の第7は、被覆芯線、シース材又は保護チューブに用いられる本発明の第1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明の第8は、芯線が、金属製もしくは超電導材料製電線、又は、ガラス製もしくは樹脂製光ファイバーである本発明の第7に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材を提供する。
本発明のポリエステルブロック共重合体製被覆材は、180℃以上の優れた耐熱性と、耐寒性、機械的強度及び柔軟性を兼ね備えるとともに、未架橋ないし低架橋状態の樹脂は電線の被覆等において取り扱いが容易である。
従って、例えば、自動車、産業ロボット等で使用される電線、ケーブルの絶縁被覆材料やシース材、保護チューブなどとして好適である。
ポリエステルブロック共重合体(P)
本発明で、原料として用いられるポリエステルブロック共重合体(P)は、下記(A)からなるハードセグメント20〜80重量%と、下記(B)からなるソフトセグメント80〜20重量%(両セグメントの合計は100重量%である)であり、好ましくは前者25〜70重量%と、後者75〜30重量%である。ポリエステルブロック共重合体(P)は、ハードセグメントがこれより多すぎると柔軟性が不足し、ソフトセグメントが多すぎると結晶性が少なくなり、エラストマーとしての性能が不足する。
上記(A)は、1,4−ブタンジオール残基とテレフタル酸残基を主成分として含み両者の合計が60モル%以上であるポリエステル構造であり、他のモノマー残基を40モル%以下含んでもよい。
他のモノマー残基を与えるモノマーとしては、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸以外のベンゼン又はナフタレン環を含む芳香族ジカルボン酸、炭素数4〜12の脂肪族もしくは脂環族ジカルボン酸が挙げられ、ジオール成分としては、1,4−ブタンジオール以外の炭素数2〜12の脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール、ハイドロキノン、ビフェノール、ビスフェノール類などの芳香族ジオール等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸成分としては、炭素数2〜10の脂肪族、脂環族もしくは芳香族ヒドロキシカルボン酸残基を与えるモノマー、例えばグリコール酸、グリコリド、乳酸、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトン;m−またはp−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸;その核水添物などが挙げられる。
ハードセグメント中の1,4−ブタンジオール残基とテレフタル酸残基の合計は、60モル%以上、好ましくは70モル%以上であり、これらが多いほど融点も高く好ましい。柔軟性を増すために他のモノマー残基を40モル%以下、好ましくは30モル%以下含んでいてもよいが、それより多くなると結晶化しにくくなり、成形性などが悪くなる。他のモノマー残基の割合は上記のようであるが、ハードセグメントのみからなるポリマーを考えた場合にその結晶の融点が、160℃以上、好ましくは170℃以上である。
上記(B)は、脂肪族ジカルボン酸残基、脂肪族ジオール残基および/または脂肪族オキシカルボン酸残基からなる脂肪族ポリエステル構造(B1)、及び/又は、芳香族ジカルボン酸残基と炭素数5〜12の長鎖ジオール残基を含み両者の合計が60モル%以上であり、他のモノマー残基を40モル%以下含んでもよい芳香族ポリエステル構造(B2)である。(B)は、好ましくは脂肪族ポリエステル構造(B1)である。
上記脂肪族ポリエステル構造(B1)を与えるモノマー成分としては、炭素数4〜12の脂肪族直鎖ジカルボン酸、特に炭素数8〜12の直鎖状ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;炭素数2〜12の脂肪族ジオール、特に炭素数2〜4の直鎖状脂肪族ジオール;炭素数6〜12の脂肪族オキシカルボン酸等が挙げられる。特にアジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸と、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ε−カプロラクトン、2−メチル−カプロラクトン、4−メチル−カプロラクトン、4,4’−ジメチル−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、メチル化δ−バレロラクトン、β−プロピオラクトン等が挙げられ、これらは二種以上の混合物であってもよい。コスト面を考慮した場合、ε−カプロラクトンが最も好ましい。
上記芳香族ポリエステル構造(B2)を与えるモノマー成分としては、芳香族ジカルボン酸と炭素数5〜12の長鎖ジオールの合計又は芳香族ジオールと炭素数5〜12の長鎖脂肪族ジカルボン酸の合計が、60モル%以上、好ましくは70モル%以上となるように用いられる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸類等が挙げられるが、特にフタル酸、イソフタル酸等のp−体以外のジカルボン酸が好ましく用いられ、炭素数5〜12の長鎖ジオールとしては、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、3−メチルペンタンジオール、2−メチルオクタメチレンジオール等が挙げられる。
上記ジオール成分としては、ポリアルキレングリコールも使用可能であり、例えば、ポリテトラメチレングリコールとしては、分子量1200以下、好ましくは1000以下の比較的低分子量のものが用いられる。
(B2)の他のモノマー残基としては、前記(A)で挙げられた他のモノマー残基が使用できる。
(B2)中の芳香族モノマー成分と炭素数5〜12の長鎖モノマー成分の合計が60モル%未満ではエラストマーとしての柔軟性を失う。
このソフトセグメンントは、ソフトセグメントを構成する単位のみからなるポリマーを考えた場合に、その融点は100℃以下、好ましくは60℃以下である。
ポリエステルブロック共重合体(P)において、ソフトセグメント及びハードセグメントのセグメント長は、それぞれ、数平均分子量で、好ましくは5000〜100000程度、さらに好ましくは10000〜70000程度であるが、これは特に限定されるものではない。このセグメント長は直接測定するのは困難であるが、例えば、ソフト、ハードセグメントをそれぞれ構成するポリエステルの組成と、ハードセグメントを構成する成分からなるポリエステルの融点及び得られたポリエステルブロック共重合体の融点とから、フローリーの式を用いて推定することが出来る。
ポリエステルブロック共重合体(P)の製造法は、公知の手段を採り得る。例えばハードセグメントとソフトセグメントを構成する成分からなるポリエステルをそれぞれ製造し、溶融混合して両者をエステル交換反応させ、融点がハードセグメントを構成するポリエステルよりも2〜40℃低くなるようにする方法が挙げられる。この融点は、混合温度と時間によって変化するので、目的の融点を示す状態になった時点で、燐オキシ酸等の触媒失活剤を添加して、テトラブチルチタネート等の重合触媒を失活させることが好ましい。又、ハードセグメントとなるポリエステルの溶融状態に、ソフトセグメントとなるモノマー、例えばラクトンを添加して開環重合させる方法もよく用いられる方法である。
ポリエステルブロック共重合体(P)としては、オルトクロルフェノール中、25℃で測定した固有粘度が0.6以上、好ましくは0.8〜1.5のものが適用できる。これより固有粘度が低い場合は、機械的強度が低くなるため好ましくない。
ポリエステルブロック共重合体(P)には、ポリカルボジイミド化合物、エポキシ化合物など加水分解安定剤、酸化防止剤、耐侯安定剤などの添加剤のほか、補強材、顔料、染料、難撚剤、核剤、滑剤その他添加物を含有していてもよい。
特に難燃剤について言えば、汎用のハロゲン系難燃剤のほか、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、メラミンシアヌレートなどの難燃剤を単独あるいは併用して使用してもよい。これらの添加物は、通常、ポリエステルブロック共重合体(P)100重量部に対し0.01〜10重量部添加される。
さらに、環境問題等を配慮してノンハロゲンの難燃剤を用いることが好ましく、ポリエステルブロック共重合体(P)100重量部に対し水酸化マグネシウム20〜60重量部およびリン酸エステル化合物2〜20重量部を併用して用いることが効果的である。
ポリエステルブロック共重合体(P)は、また他のポリマーとの混合物であってもよい。他のポリマーとしては、例えば、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、エチレン、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン、スチレンブタジエンエラストマー、アクリロニトリル等が例示される。
これらの他のポリマーの添加量は、ポリエステルブロック共重合体(P)100重量部に対し0.01〜80重量部である。
ポリエステルブロック共重合体(P)は、電線被覆、押出成形品、射出成形品などとして各種用途に使用される。
また、ポリエステルブロック共重合体(P)は、被覆方法として芯材に直接被覆するだけでなく、絶縁特性や電磁波による影響を軽減、改良する目的で、複数層の被覆材を構成する場合における中間層、最外層としても使用可能である。
ポリエステルブロック共重合体(P)は、電線等の被覆材、ケーブルの絶縁被覆材料やシース材、熱収縮チューブなどとして使用することができる。
本発明で、電線とは、銅などの金属線を芯線として芯線の周囲を絶縁材料により被覆して短絡を防止したものであり、芯線に電流を流すことにより、主に電力及び情報を伝達する線状素材である。
信号線とは、芯線が銅などの金属製もしくは超電導材料製電線か、ガラスファイバー或いは樹脂製であり、被覆材料により、短絡や直接接触が防止され、また芯線の表面が保護された、主に情報の伝達に供せられる線状もしくは帯状素材を言う。芯線がガラスファイバー或いは樹脂製である場合、光ファイバーに相当する。
ケーブルとは、複数の電線或いは信号線が束ねられ一体化された線状素材を言う。
放射線処理されたポリエステルブロック共重合体(Q)
本発明においては、初めに、ポリエステルブロック共重合体(P)を電線等に被覆し、次に被覆されたポリエステルブロック共重合体(P)に放射線を均等に照射しても、後述するように、初めに、ポリエステルブロック共重合体(P)に少量照射し、被覆後多量照射してもよい。
通常、被覆電線が2本のコンベアロール間で何回も往復する間に被覆線に電子線を均一に照射する従来の方法(例えば、特開平9−129054号公報)を採用することができるが、本発明はその方法に限定されない。
ポリエステルブロック共重合体(P)に対して、その過冷却の状態で放射線を照射し、適切な架橋を発生させることが好ましい。そのためには、上記の2本ロールの照射ゾーンに入る前に過冷却にする前冷却ゾーンを設置し、2本ロール間で照射する間に温度が上昇しないよう、該2本ロールを冷却ロールとするとともに、必要な場合追加の冷却器を設置する。
架橋されたポリエステルブロック共重合体(Q)は、その微細構造として、照射しない場合よりかなり小さく、球晶サイズで0.1〜20μm、好ましくは0.1〜10μmの微結晶(結晶化度は30%以下)と、適度に架橋された構造をもつ。結晶が微結晶となっているので、柔軟性を損なうことなく架橋構造により著しく耐熱性を向上することができる。
本発明では、放射線照射処理する場合、ポリエステルブロック共重合体は単独で又は他の少なくとも1の構成成分と共に、被覆工程で放射線照射処理される。
放射線架橋の際に、架橋助剤として、トリアクリレート類やトリイソシアヌレート類を添加してもよい。
また、初めに低線量で照射し、被覆工程での溶融樹脂の流動性を改良するため、ゲル分率0.01〜10%、好ましくは0.05〜1.0%になるように被覆工程の前に照射しておいてもよい。また、被覆工程後にオフ・ラインで放射線照射をしてもよいし、追加照射されてもよい。これにより、橋かけが高い確率で起こり、耐熱性が向上するとともに、引張強度、引裂強度が向上し、粘着性が低下する。
本発明に係る放射線照射処理に使用される放射線源としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線等を使用することができるが、コバルト60からのγ線、電子線、X線がより好ましく、中でもγ線、電子加速器の使用による電子線照射処理が高分子材料の橋かけ構造導入及び結晶の微細化には最も便利である。
照射線量は、放射線処理されたポリエステルブロック共重合体(Q)の橋かけ構造導入の目安になる樹脂のゲル分率を一つの尺度として決められる。
ポリエステルブロック共重合体(Q)のゲル分率は0.01〜20%、好ましくは0.05〜20%、より好ましくは0.1〜10%である。
ゲル分率の測定は、以下のようにして行われる。架橋樹脂から厚み約5mmの薄板を切り出し、200メッシュのステンレス金網に包み、HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)に24時間浸漬し、ゲル分率(不溶分の割合であり、橋かけ度を表す。)を次式により求める。
ゲル分率(%)=(W2/W1)×100
(ここで、W1は浸漬前の架橋樹脂の乾燥重量を表し、W2は浸漬後の乾燥重量を表す。)
ポリエステルブロック共重合体(P)は、被覆される前に放射線照射処理を施す必要は特にないが、電線類に被覆されるポリエステルブロック共重合体が、その被覆工程に供され溶融する際の成形性又被覆性を考慮して、電線類に被覆される前にゲル分率が0.05〜10%程度になるよう放射線照射処理することが好ましい場合もあり、例えばペレットでは0.1〜1%程度が好ましい。なお、被覆工程で放射線処理し、オフ・ラインでさらに放射線処理を追加すると、ポリエステルブロック共重合体(Q)のゲル分率は90%程度まで高くすることができる。
通常、ゲル分率を10%以上にする場合、橋かけはポリエステルブロック共重合体の非結晶領域を中心にして起こるため、室温付近での照射処理では例えば500kGyといった大線量を要し、融点近傍での処理では多数のボイドが発生して強度を低下させる傾向を有する。
従って、このような場合の解決法として本発明者らは、ポリエステルブロック共重合体を融点以上で融解後、結晶化に至らない温度まで急冷した状態(過冷却状態)で放射線処理を行えば、上記のような欠点を生じずに橋かけが行われることを発見した。この過冷却状態で上記処理をすることにより、極めて高いゲル分率のものが得られる。ここに言う「結晶化に至らない状態」とは、正確には特定できなが、架橋が非結晶部で起こるため、非結晶状態であることが優位である状態をいう。室温状態におけるよりも結晶化度が低ければ、それに応じた照射効果はある。なお、ポリエステルブロック共重合体(P)単独での処理ではなくて、他の成分とからなる種々の組成物での処理の場合においてもポリエステルブロック共重合体(P)単独の溶融状態を考慮すれば充分である。
ポリエステルブロック共重合体(P)の放射線処理の効果について観察した結果、架橋度合いについてゲル分率を測定したところ、放射線照射線量が10kGyに達した時点で効果が出始め、ゲル分率は100kGyで急激な立ち上がりが見られ、それ以上の線量では安定する傾向が見られる。
ポリエステルブロック共重合体(P)に対する照射線量は10〜400kGy、好ましくは50〜300kGy、さらに好ましくは100〜200kGyである。照射線量が上記範囲より少なすぎると架橋が不十分であり、多すぎるとポリエステルブロック共重合体(P)の架橋が進みすぎて、柔軟性、機械的特性が低下し、クラックが発生しやすくなる。
放射線処理処理後のポリエステルブロック共重合体(Q)は、機械的特性(引張強度、引張伸度、引裂強度、衝撃強度)、ニップロールに対するフィルムのアンチブロッキング性等の向上も見られた。
(実施例)
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、「部」は「重量部」を示す。
[製造例1]
テレフタル酸ジメチル(DMT)100部と1,4−ブタンジオール(BD)56部を0.003部のエステル交換触媒(テトラブチルチタネート)と共に、攪拌機および留出管を備えた反応器に仕込み、十分に窒素置換した後、常圧下で160℃まで温度を上げ攪拌を開始した。さらに、徐々に温度を上昇させ、副生するメタノールを留去した。温度が240℃に達したところで徐々に反応器を減圧し0.2torr(26.6Pa)の圧力で2時間攪拌を続け、MIが6(230℃、単位g/10分、以下同じ。)のポリブチレンテレフタレートを得た。
続いて、攪拌機、温度計、コンデンサー、溜出用ラインを具備した反応容器に上記ポリブチレンフタレート60部、ε−カプロラクトン(CL)40部を投入し、反応温度235℃で1時間混合し、重合させた。次いでこの温度を保ったまま1時間かけて常圧から1torr(133Pa)以下まで減圧し、この減圧状態で更に1時間、系内にある残存ε−カプロラクトンを除去した。このようにして、ハードセグメントとしてのポリブチレンテレフタレートにソフトセグメントしてのポリカプロラクトンが重合反応したポリエステルブロック共重合体が得られた。これを押出し、ストランドを冷却してペレット化した。該ペレットを120℃で5時間乾燥後し、MIは7、融点は202℃のポリエステルブロック共重合体(I)を得た。
[製造例2]
テレフタル酸ジメチルを71.6部、イソフタル酸ジメチルを16.5部、1,4−ブタンジオール49.1部、0.003部のエステル交換触媒(テトラブチルチタネート)を用いた以外は、製造例1と同様にして、MIが22の共重合ポリエステルを得た。
続いて、上記共重合ポリエステル80部、ε−カプロラクトン20部を用いた以外は、製造例1と同様にして、MIが19、融点は181℃のポリエステルブロック共重合体(II)を得た。
[製造例3]
製造例2で得られたポリエステルブロック共重合体(II)100部に対し水酸化マグネシウム(協和化学工業製:キスマ5J)50部、リン酸エステル(大八化学工業製:PX-200)10部をタンブラーを用いて攪拌、ドライブレンドした後、240℃に保持された30mmφの二軸押出機を用いて溶融混練し、ストランドを冷却してペレット化した。該ペレットを120℃で5時間乾燥後して、MIが8の難燃剤入りポリエステルブロック共重合体(III)を得た。
[製造例4]
製造例2より得られたポリエステルブロック共重合体(II)100部に対し水酸化マグネシウム(協和化学工業製:キスマ5J)100部、リン酸エステル(大八化学工業製:PX-200)1部をタンブラーを用いて攪拌、ドライブレンドした後、240℃に保持された30mmφの二軸押出機を用いて溶融混練し、ストランドを冷却してペレット化した。該ペレットを120℃で5時間乾燥後し、MIが5の難燃剤入りポリエステルブロック共重合体(IV)を得た。
[実施例1]
製造例1で得られたポリエステルブロック共重合体(I)を240℃に保持された40mm押出機を用いて、銅芯線(外径0.32mm)の外周上に厚さ0.4mmで被覆した。融解したポリエステルブロック共重合体(I)で被覆された電線を約50℃まで急冷し、樹脂が過冷却の状態で、200kGy(グレイ)の電子線を照射した。被覆電線は、耐熱性及び柔軟性に優れ、被覆状態は良好であった。
[実施例2]
製造例2より得られたポリエステルブロック共重合体(II)を240℃に保持された40mm押出機を用いて、銅芯線(外径0.32mm)の外周上に厚さ0.4mmで被覆した。融解したポリエステルブロック共重合体(II)で被覆された電線を約50℃まで急冷して、該樹脂を過冷却の状態にし、200kGyの電子線を照射した。被覆電線は、耐熱性及び柔軟性に優れ、被覆状態は良好であった。
[比較例1]
製造例1より得られたポリエステルブロック共重合体(I)を240℃に保持された40mm押出機を用いて、銅芯線(外径0.32mm)の外周上に厚さ0.4mmで被覆した。融解したポリエステルブロック共重合体(I)で被覆された電線を約50℃まで急冷して、被覆電線を作製した。被覆電線は、放射線を照射していないので、柔軟性は保たれているが、耐熱性が劣っていた。
[比較例2]
製造例2で得られたポリエステルブロック共重合体(II)を用いた以外は、比較例1と同様に行った。被覆電線は、放射線を照射していないので、柔軟性は保たれているが、耐熱性が劣っていた。
[比較例3]
電子線の照射線量を、500kGyとした以外は、実施例1と同様に行った。被覆電線は、耐熱性は良好であったが柔軟性がなくクラックを生じた。
[比較例4]
製造例2より得られたポリエステルブロック共重合体(II)を240℃に保持された40mm押出機を用いて、銅芯線(外径0.32mm)の外周上に厚さ0.4mmで被覆した。融解したポリエステルブロック共重合体(II)で被覆された電線を約80℃まで自然放冷した後、500kGyの電子線を照射して被覆電線を作製した。被覆電線は、耐熱性及び柔軟性ともに劣っていた。
上記被覆電線の評価結果をまとめて表1に示す。
[実施例3]
製造例3より得られたポリエステルブロック共重合体組成物(III)を用いた以外は、実施例1と同様に行った。被覆電線は、耐熱性及び柔軟性に優れ、被覆状態は良好であった。さらに、UL94に基づく難燃性指標ではV-2相当の難燃性を示した。
[実施例4]
電子線の照射線量を、400kGyとした以外は、実施例3と同様に行った。被覆電線は、耐熱性及び柔軟性に優れ、被覆状態は良好であった。さらに、UL94に基づく難燃性指標ではV-2相当の難燃性を示した。
[比較例5]
製造例3より得られたポリエステルブロック共重合体組成物(III)を240℃に保持された40mm押出機を用いて、銅芯線(外径0.32mm)の外周上に厚さ0.4mmで被覆した。融解したポリエステルブロック共重合体組成物(III)で被覆された電線を約50℃まで急冷して、被覆電線を作製した。被覆電線は、放射線を照射していないので、柔軟性は保たれ、V-2相当の難燃性を示しているが、耐熱性が劣っていた。
[比較例6]
製造例4より得られたポリエステルブロック共重合体組成物(IV)を用いた以外は、比較例5と同様に行った。被覆電線は、放射線を照射していないので、柔軟性は保たれているが、耐熱性が劣っていた。また、難燃性も不十分であった。
[比較例7]
電子線の照射線量を、500kGyとした以外は、実施例3と同様に行った。被覆電線は、耐熱性は良好であり、V-2相当の難燃性を示しているが、柔軟性がなくクラックを生じた。
[比較例8]
製造例4より得られたポリエステルブロック共重合体組成物(IV)を240℃に保持された40mm押出機を用いて、銅芯線(外径0.32mm)の外周上に厚さ0.4mmで被覆した。融解したポリエステルブロック共重合体(II)で被覆された電線を自然放冷し約80℃の温度とし、その徐冷ゾーンで500kGy(グレイ)の電子線を照射して被覆電線を作製した。被覆電線は、耐熱性及び柔軟性ともに劣っていた。また、UL94に基づく難燃性指標ではNGであった。
上記被覆電線の評価結果をまとめて表2に示す。
下記に、被覆材の評価方法を示す。
耐熱性:JASO M 319-80の熱老化性試験B法に従って行い、クラックの発生が無いものを合格とした。この時、熱老化条件は180℃×7日間、屈曲半径は5mmとした。
耐寒性:JASO M 319-80の熱老化性試験A法に従って行い、クラックの発生が無いものを合格とした。この時、熱老化条件は−45℃、屈曲半径は5mmとした。
難燃性:UL 94難燃性試験(1/8 inch試験片)準拠の燃焼テストで判定した。

Claims (8)

  1. 下記(A)からなるハードセグメント20〜80重量%と、下記(B)からなるソフトセグメント80〜20重量%と(ここで、両セグメントの合計は100重量%である。)からなるポリエステルブロック共重合体(P)を、過冷却状態で、放射線照射量10〜400kGyで、架橋してなるポリエステルブロック共重合体製被覆材。
    (A):1,4−ブタンジオール残基とテレフタル酸残基を含み両者の合計が60モル%以上であるポリエステル構造。
    (B):脂肪族ジオール残基、脂肪族ジカルボン酸残基および/または脂肪族オキシカルボン酸残基からなる脂肪族ポリエステル構造(B1)、及び/又は、芳香族ジカルボン酸残基と炭素数5〜12の長鎖ジオール残基を含み両者の合計が60モル%以上である芳香族ポリエステル構造(B2)。
  2. ソフトセグメントが、ポリエステル構造(B1)のみからなる請求項1に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
  3. ポリエステルブロック共重合体(P)100重量部に対し、水酸化マグネシウム20〜60重量部およびリン酸エステル化合物2〜20重量部を添加してなる請求項1又は2に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
  4. 放射線が電子線又はγ線であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
  5. 放射線照射後のポリエステルブロック共重合体(Q)のゲル分率が0.01〜20%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
  6. 架橋が生じていると共に結晶相が微細化されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
  7. 被覆芯線、シース材又は保護チューブに用いられる請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
  8. 芯線が、金属製もしくは超電導材料製電線、又は、ガラス製もしくは樹脂製光ファイバーである請求項7に記載のポリエステルブロック共重合体製被覆材。
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