JP2006081406A - ポリメラーゼ連鎖反応用流路を有するマイクロ流体デバイス - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基板樹脂フィルム(A)と、表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)とを貼り合わせた、
または、
前記基板樹脂フィルム(A)と、スペーサー樹脂フィルム(C)と、もう一方の基板樹脂フィルム(D)とをこの順による貼りあわせた、
ポリメラーゼ連鎖反応用流路を有することを特徴とするマイクロ流体デバイスを提供する。
Description
1)シリコン製や、ガラス製マイクロ流体デバイスと比較して熱伝導性が低く、温度制御が厳密にされ難いこと、
2)また、原材料からPCR阻害物質が漏出し、PCRを阻害する場合があること、
の2点にあることを解明し、マイクロ流体デバイスの構造、材質等を最適化することによって、高精度の核酸増幅を行うことができる、樹脂製マイクロ流体デバイスが得られることを見いだし、上記課題を解決した。
基板樹脂フィルム(A)と、表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)とを貼り合わせた、
または、
前記基板樹脂フィルム(A)と、スペーサー樹脂フィルム(C)と、もう一方の基板樹脂フィルム(D)とをこの順による貼り合わせた、
ポリメラーゼ連鎖反応用流路を有するマイクロ流体デバイスを提供する。
本発明のマイクロ流体デバイスとは、マイクロ・フルイディック・デバイス、マイクロ・ファブリケイテッド・デバイス、ラボ・オン・チップ、又はマイクロ・トータル・アナリティカル・システム(μ−TAS)などと呼ばれるものである。すなわちマイクロ流体デバイスは、内部に微細な流路を有し、該流路が樹脂を主成分とする材料により構成されており、該流路内に、流体が温度変化をうける機構、濃度調整される機構、化学反応をうける機構、流動の流速、流動の分岐、混合若しくは分離などの制御をうける機構、又は電気的、光学的な測定をうける機構等を有する化学、生化学反応用の反応機器を指す。
1)基板樹脂フィルム(A)と表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)とを貼り合わせる、
あるいは、
2)基板樹脂フィルム(A)と、スペーサー樹脂フィルム(C)と、もう一方の基板樹脂フィルム(D)とをこの順に貼り合わせる
ことにより流路を形成する、
といった極めて簡単な方法で製造できる。
薄膜の基板樹脂フィルム(A)の表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)を貼り合わせ、薄い基板樹脂フィルム(A)側から加熱することによって、精密な温度制御ができる。
また、射出成型樹脂部材(B)の凹部の深さや、スペーサー樹脂フィルム(C)の厚みを薄くすることにより、熱伝導性を更に向上することができるため、高精度なPCRを行うことができる。
本発明のPCR用流路は、PCR用反応液が本流路を通過することによって核酸増幅されるものであれば任意の形状のものを用いることができる。アニーリング、伸長、変性に相応した、20〜50サイクルの回路であって、液体が面内方向に移動することによって核酸増幅される流路であることが温度制御が容易であることから好ましい。
マイクロ流体デバイスは、単位体積当たりの液体に対する壁面との接触面積が非常に大きいことから、壁材に含まれるごく僅かな物質によってもPCRが阻害される恐れがある。実際、光硬化性樹脂で構成されたマイクロ流体デバイスは、この阻害が特に顕著に現れ易いことを見いだした。この阻害物質は、現時点では特定できていないが、光硬化性樹脂の未硬化物、あるいは、光照射時の分解物であろうと想定している。射出成型に使われる樹脂、あるいは、樹脂フィルムとして用いられる樹脂は、比較的分子量が高く、流路中の液体に漏洩するものは殆どないと考えられる。射出成型樹脂部材(B)を用いることによって、より高精度なPCRを行うことができた。以下、詳細に説明する。
本発明で用いられる表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)に貼り付ける基板樹脂フィルム(A)は、PCRを阻害しない任意の樹脂フィルムが使用でき、例えば、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルムなどの二軸延伸フィルムなどが好適に用いられる。基板樹脂フィルム(A)の厚みは200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。厚みが200μmを越えると、PCRを行うためのヒーターからの熱伝導性が悪く、PCRの効率を低下させる。基板樹脂フィルム(A)は、薄くする方が熱伝導性が向上し、より好ましいが、薄くしすぎると強度を保てないことから、マイクロ流体デバイスを使用する際に、強度を保てる範囲で薄くすることが好ましい。このため、基板樹脂フィルム(A)の厚みは、1μm〜200μmが好ましく、10μm〜200μmが更に好ましい。
基板樹脂フィルム(A)は、その熱伝導度が、0.01W/m・K以上であることが好ましい。更に0.05W/m・K以上が好ましく、0.1W/m・K以上が特に好ましい。
0.01W/m・K未満であると、PCRを行うためのヒーターからの熱伝導性が悪く、PCRの効率を低下させる。本発明で用いられる基板樹脂フィルム(A)は、前述の熱伝導度を満たす市販の樹脂フィルムを使用することもできる。樹脂フィルム内に熱伝導性充填剤を含んだもの、樹脂フィルム表面に熱伝導性物質を固着させたものなど、熱伝導性を向上させた樹脂フィルムも、PCRを阻害しないものであれば、好ましく使用することができる。
本発明に使用する基板樹脂フィルム(A)に熱伝導粒子を含有させることにより、熱伝導度を高めることができる。熱伝導性が高い充填剤であれば、特に限定されないが、例えば金属酸化物、金属窒化物、炭化珪素、水和金属化合物の群から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。かかる金属酸化物としては、酸化アルミニウム等が挙げられる。金属窒化物としては窒化硼素、窒化アルミニウム等が挙げられる。水和金属化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。ポリマー100質量部に対して50〜500質量部含有させることができるが、500質量部を越えるとシートの柔軟性が損なわれるので、ヒートブロックへの追従性が低下し熱伝導性が低下する。
本発明のマイクロ流体デバイスは、λ:基板樹脂フィルム(A)の熱伝導度(W/m・K、l:基板樹脂フィルム(A)の厚さ(μm)、d:流路の深さ(μm)とすると、下記式1を満たすことが好ましい。
(l+d)/λ≦2000・・・(式1)
(l+d)/λが2000を越えると、PCR用反応液への熱伝導が小さくなり、PCR効率が低下する。すなわち、後述する流路深さにも依存するが、基板樹脂フィルム(A)が厚い場合、より熱伝導度の高い基板樹脂フィルム(A)を使用することが好ましい。
本発明の第一の形態は、表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)に基板樹脂フィルム(A)を貼り合わせたことを特徴とするPCR用流路を有するマイクロ流体デバイスである。本発明でPCR用流路とは、PCRを行うためにマイクロ流体デバイス上に設置された流路部分を称し、耐熱性DNAポリメラーゼ、プライマー、鋳型DNA、ヌクレオチドおよび緩衝液を必須とするPCR用反応液がこのマイクロ流体デバイスのPCR用流路を通過することによってPCRが進行し、標的とする塩基配列を有するDNA断片が得られる。
本発明の表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)は、平滑である表面上にPCR用流路に相当する凹部を必須として有する樹脂部材である。該樹脂部材は、PCRを行う際の熱に耐えうる高分子材料であれば任意のものが使用でき、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン等の樹脂が使用できる。これらの樹脂を、射出成型することによって本発明の表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)を得ることができる。凹部の一部に貫通口を設け、この貫通口に合わせて、流路内にPCR用反応液を導入するための、あるいは、流路内で核酸増幅されたPCR用反応液を取り出すためのポート部を、凹部を有する面と反対側の面に設けるように金型をデザインし、凹部とポート部とを併せ有する部材を一気に射出成型することもできる。
射出成型樹脂部材(B)の少なくともPCR用流路部は、薄い板状であることが好ましく、この厚さは2mm以下であることが好ましく、厚さが1mm以下であることがより好ましい。厚さが2mmを越えるとマイクロ流体デバイスの水平方向の熱流束が大きくなり、独立した温度に制御することが困難になる。
また、射出成型樹脂部材(B)の熱伝導度は、本発明のマイクロ流体デバイスの使用法によって、適値が異なる。
本発明のマイクロ流体デバイスの基板樹脂フィルム(A)側からのみ加熱する場合、射出成型樹脂部材(B)の熱伝導度は、2W/m・K以下であることが好ましく、1W/m/K以下であることがより好ましい。射出成型樹脂部材(B)の熱伝導度が、2W/m・Kより高いとマイクロ流体デバイスの水平方向の熱流束が大きくなり、独立した温度に制御することが困難になる。
一方、本発明のマイクロ流体デバイスを、基板樹脂フィルム(A)、射出成型樹脂部材(B)の両面からヒートブロックにより加熱する場合、射出成型樹脂部材(B)の熱伝導度は、概ね基板樹脂フィルム(A)と同程度であることが好ましい。
本発明の表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)の凹部の深さは任意であるが、PCR用流路部に相当する凹部の深さは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。300μmを越えると、PCRを行うためのヒーターからの熱伝導性が悪く、PCRの効率を低下させる。凹部が深い場合、マイクロ流体デバイスの流速を低下させることによって、PCRの効率を向上させることはできるが、PCR時間が長くなり、マイクロ流体デバイスを用いる効果が薄れる。また、凹部が浅くなり過ぎると、液体を流す際の圧損が大きくなり過ぎたり、基板樹脂フィルム(A)を貼る際に、流路の深さが均一になり難く、一定の流速を保てない等の問題が生じることから、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。以上より、射出成型樹脂部材(B)の凹部の深さは10μm〜200μmであることがもっとも好ましい。
また、本発明のPCR用流路部の流路深さは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。300μmを越えると、PCRを行うためのヒーターからの熱伝導性が悪く、PCRの効率を低下させる。流路部が深い場合、マイクロ流体デバイスの流速を低下させることによって、PCRの効率を向上させることはできるが、PCR時間が長くなり、マイクロ流体デバイスを用いる効果が薄れる。また、流路が浅くなり過ぎると、液体を流す際の圧損が大きくなり過ぎたり、流路の深さが不均一になり易く、一定の流速を保てない等の問題が生じることから、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。以上より、射出成型樹脂部材(B)の凹部の深さは10μm〜200μmであることがもっとも好ましい。
流路幅は、500μm以下が好ましく、200μmが好ましい。また製造上の精度の点から1μm以上、更には10μm以上が好ましい。以上のことから、流路幅は、10〜200μmがもっとも好ましい。
基板樹脂フィルム(A)と、表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)とを貼り合わせるには、熱融着、超音波融着など、接着剤を用いない公知の方法で接着することが好ましい。接着剤を使用しないと、PCR阻害する物質の漏洩を抑制することができる。接着剤を使用して接着することも勿論でき、全面に接着剤が塗布された基板樹脂フィルム(A)を表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)と貼り合わせても勿論良いが、接着剤等が凹部に面さない様に接着することがより好ましく、例えば、表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)の凹部以外に接着剤を塗布し、基板樹脂フィルム(A)と貼り合わせるような方法が好ましく用いられる。接着剤は、熱硬化性、もしくは活性エネルギー線硬化性を有していることが好ましい。接着後、加熱、もしくは光照射し、接着剤を硬化させることによって、接着剤が、流路内に流れる液体と接触し、PCRを阻害することを抑制することができる。
次に、本発明の第一の形態のマイクロ流体デバイスの使用方法について述べる。本マイクロ流体デバイスは、アニーリング、変性の少なくとも2つの温度に調整されたヒートブロックに、本マイクロ流体デバイスの基板樹脂フィルム(A)面側を接触させて使用する。PCR用反応液がPCR用流路を流れることによって、アニーリング、変性、及び、その両温度間に存在する伸長反応に適した温度の3つの温度領域を20〜50サイクル通過し、核酸増幅される。必要に応じて、ヒートブロックは、伸長反応に適する温度に調整された3つ目のヒートブロックを用いても勿論良い。本発明のPCR用流路部は、PCRを行うための流路が薄い基板樹脂フィルム(A)に近接して配置されているために、ヒートブロックからの熱伝導性が良く、アニーリング、伸長、変性に適した温度に正確に温度制御できる。また、本マイクロ流体デバイスは、PCR用流路部が薄いことから、異なる温度に制御された領域間の熱流束を抑えられ、独立した温度制御ができる。ヒートブロックは、補助用として射出成型樹脂部材(B)側に設けてもよい。
本発明の第二の形態は、基板樹脂フィルム(A)と、スペーサー樹脂フィルム(C)と、もう一方の基板樹脂フィルム(D)とを、この順に積層させたPCR用流路を有するマイクロ流体デバイスである。本発明でPCR用流路とは、PCRを行うためにマイクロ流体デバイス上に設置された流路部分を称し、耐熱性DNAポリメラーゼ、プライマー、鋳型DNA、ヌクレオチドおよび緩衝液を必須とするPCR用反応液がこのマイクロ流体デバイスのPCR用流路を通過することによってPCRが進行し、標的とする塩基配列を有するDNA断片が得られる。すなわち、PCR用流路を構成する流路相当部分が必須として形成されるようにスペーサー樹脂フィルム(C)を、2枚の基板樹脂フィルム(A)と基板樹脂フィルム(D)で挟む様に、すなわち、PCR用流路を構成する流路相当部分が空隙となる様に積層し、この空隙部を流路とすることを特徴とするマイクロ流体デバイスである。
本発明で用いられるスペーサー樹脂フィルム(C)は、PCRを阻害しない任意の樹脂フィルムが使用でき、例えば、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルムなどの二軸延伸フィルムなどが好適に用いられる。
本発明で用いられる流路相当部分を形成するために、2枚の基板樹脂フィルム間に積層されるスペーサー樹脂フィルム(C)は、短冊状に切った樹脂フィルム間に流路を形成するようにする態様や、流路部分が切り抜かれた樹脂フィルムである態様が挙げられる。流路部分が切り抜かれたスペーサー樹脂フィルム(C)は、樹脂フィルムを公知慣用の方法で流路となる部分を切り抜けば良い。スペーサー樹脂フィルム(C)は、ほぼその厚さがマイクロ流体デバイスの流路深さとなる。該樹脂フィルムの厚さは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。300μmを越えると、PCRを行うためのヒーターからの熱伝導性が悪く、PCRの効率を低下させる。また、該樹脂フィルムの厚さは1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。樹脂フィルムが1μmより薄いと、樹脂フィルムの取り扱いが困難となり、液体を流す際の圧損が大きくなり過ぎたり、樹脂フィルムを貼る際に、流路の深さが均一になり難く、一定の流速を保てない等の問題が生じる。このことから、スペーサー樹脂フィルム(C)の厚さは、10〜200μmが最も好ましい。
短冊状に切った樹脂フィルム間に流路を形成する場合及び、フィルムの一部が切り抜かれた樹脂フィルムにより流路を形成する場合のいずれの場合も、流路幅は、500μm以下が好ましく、200μmが好ましい。また製造上の精度の点から1μm以上、更には10μm以上が好ましい。以上のことから、流路幅は、10〜200μmがもっとも好ましい。
スペーサー樹脂フィルム(C)の熱伝導度は、2W/m・K以下であることが好ましく、1W/m/K以下であることがより好ましい。スペーサー樹脂フィルム(C)の熱伝導度が、2W/m・Kより高いとマイクロ流体デバイスの水平方向の熱流束が大きくなり、独立した温度に制御することが困難になる。
本発明で用いられる基板樹脂フィルム(D)は、PCRを阻害しない任意の樹脂フィルムが使用でき、例えば、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルムなどの二軸延伸フィルムなどが好適に用いられる。基板樹脂フィルム(D)の厚みは特に制限されないが、基板樹脂フィルム(D)側からもPCRを行うための補助ヒーターによって加熱する場合は、基板樹脂フィルム(D)の厚みは200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。厚みが200μmを越えると、PCRを行うためのヒーターからの熱伝導性が悪く、PCRの効率を低下させる。また、基板樹脂フィルム(D)は、基板樹脂フィルム(A)と同様に、薄くする方が熱伝導性が向上し、より好ましいが、薄くしすぎると強度を保てないことから、マイクロ流体デバイスを使用する際に、強度を保てる範囲で薄くすることが好ましい。このため、基板樹脂フィルム(D)の厚みは、1μm〜200μmが好ましく、10μm〜200μmが更に好ましい。
基板樹脂フィルム(D)の熱伝導度は、本発明のマイクロ流体デバイスの使用法によって、適値が異なる。本発明のマイクロ流体デバイスの基板樹脂フィルム(A)側からのみ加熱する場合、基板樹脂フィルム(D)の熱伝導度は、2W/m・K以下であることが好ましく、1W/m/K以下であることがより好ましい。基板樹脂フィルム(D)の熱伝導度が、2W/m・Kより高いとマイクロ流体デバイスの水平方向の熱流束が大きくなり、独立した温度に制御することが困難になる。一方、本発明のマイクロ流体デバイスを、基板樹脂フィルム(A)、基板樹脂フィルム(D)の両面から加熱する場合、基板樹脂フィルム(D)として、基板樹脂フィルム(A)と同様の熱伝導度を有する樹脂フィルムが好ましく使用できる。勿論、前述の樹脂フィルム内に熱伝導性充填剤を含んだもの、樹脂フィルム表面に熱伝導性物質を固着させたものなど、熱伝導性を向上させた樹脂フィルムも、PCRを阻害しないものであれば、好ましく使用することができる。
本発明の基板樹脂フィルム(A)、流路相当部分が切り抜かれたスペーサー樹脂フィルム(C)、基板樹脂フィルム(D)を互いに貼り合わせるには、熱融着、超音波融着など、接着剤を用いない公知の方法で接着することが好ましい。勿論、接着剤を使用して接着することもでき、接着剤等が凹部に入り込まない様に接着することが好ましい。例えば、樹脂フィルム(C)の片面、好ましくは、両面に、予め接着剤が塗布された剥離紙付きの樹脂フィルムの流路相当部分を切り抜き、剥離紙を剥離し、基板樹脂フィルム(A)、基板樹脂フィルム(D)で挟みこむ様に貼り合わせればよい。この際、用いられる接着剤は、熱硬化性、もしくは活性エネルギー線硬化性を有していることが好ましい。接着後、加熱、もしくは活性エネルギー線照射し、接着剤を硬化させることによって、接着剤が、流路内に流れる液体と接触し、PCRを阻害することを抑制することができる。接着させる方法は、ここに挙げた以外にもPCRを阻害しない様な任意の方法が使用できることはいうまでもない。
次に、本発明の第二の形態のマイクロ流体デバイスの使用方法について述べる。本マイクロ流体デバイスは、アニーリング、変性の少なくとも2つの温度に調整されたヒートブロックに、本マイクロ流体デバイスの基板樹脂フィルム(A)面側を接触させて使用する。PCR用反応液がPCR用流路を流れることによって、アニーリング、変性、及び、その両温度間に存在する伸長反応に適した温度の3つの温度領域を20〜50サイクル通過し、核酸増幅される。必要に応じて、ヒートブロックは、伸長反応に適する温度に調整された3つ目のヒートブロックを用いても勿論良い。本発明のPCR用流路部は、PCRを行うための流路が薄い基板樹脂フィルム(A)に近接して配置されているために、ヒートブロックからの熱伝導性が良く、アニーリング、伸長、変性に適した温度に正確に温度制御できる。また、本マイクロ流体デバイスは、PCR用流路部が薄いことから、異なる温度に制御された領域間の熱流束を抑えられ、独立した温度制御ができる。
[活性エネルギー線硬化性接着剤の調製]
ユニディックV−4263(大日本インキ化学工業株式会社製のウレタンアクリレートオリゴマー)の60質量部、ユニディックV−5507(大日本インキ化学工業株式会社製のエポキシアクリレートオリゴマー)の20重量部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートの20重量部、酢酸エチル20重量部、及び、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)3質量部を均一に混合して活性エネルギー線硬化性接着剤を調製した。
ポリカーボネート樹脂を射出成型し、幅200μm、深さ100μmの凹部、及び流路内にPCR用反応液を導入するための、あるいは、流路内で核酸増幅されたPCR用反応液を取り出すための入り口及び出口としてのポート部を有する図2に示す樹脂部材を得た。この部材の表面に凹部に入り込まないように前記エネルギー線硬化性接着剤を塗布し、ごく短時間紫外線を照射し、該接着剤を半硬化させた後、表面をコロナ放電処理したPMMA樹脂フィルムを貼り合わせ、紫外線を照射して、接着剤を完全硬化させることによって、図2に示す目的とするマイクロ流体デバイス(A−1)を得た。
DNAポリメラーゼとしてジーンタック(株式会社ニッポンジーン製)を使用し、PCR用緩衝液、dNTP混合液は該酵素に添付のものを使用した。10μlのPCR用緩衝液(10倍濃縮)、8μlのdNTP混合液(dATP、dGTP、dCTP、dTTP 各2.5mM)、5μlのプライマー(1)(primer (1))(10μM;配列番号1)、5μlのプライマー(2)(primer (2))(10μM;配列番号2)、0.5μlの5ユニット/μlジーンタック、テンプレートとして1μlのras Mutant Set c−Ki−ras codon12 Gly(1ng;タカラバイオ株式会社製;配列番号3)、さらに滅菌水を加えて100μlとし、PCR用反応液を調製した。
マイクロ流体デバイス(A−1)を3つのヒートブロックから成るヒーター上に、図1に示す位置に固定した。ヒートブロック(A)を90℃、ヒートブロック(B)を72℃、ヒートブロック(C)を55℃に設定した。前述のPCR用反応液25μlをデバイスの開口部(入口)に注入し、さらに該開口部にマイクロシリンジポンプ(kdScientific社製 IC3200)を接続し、5μl/分にて送液した。これにより、該PCR用反応液はヒートブロック(A)、(B)、(C)、(B)、(A)、(B)、(C)・・・という順序でその上を通過し、その過程で核酸増幅の酵素反応が起こる。
(比較例1)
ユニディックV−4263(大日本インキ化学工業株式会社製のウレタンアクリレートオリゴマー)80質量部、ニューフロンティアHDDA(第一工業製薬株式会社製の1,6−ヘキサンジオールジアクリレート)を20質量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)5質量部を均一に混合して組成物(1)を調製した。
ユニディックV−4263(大日本インキ化学工業株式会社製のウレタンアクリレートオリゴマー)の60質量部、ニューフロンティアHDDAの40質量部、光重合開始剤としてイルガキュア184の5質量部、及び2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製)0.5質量部を均一に混合して組成物(2)を調製した。
ポリアクリレート製の1mm厚の基板に、膜厚が10μmとなるように組成物(1)を塗布し、紫外線を照射して硬化させた。この塗膜の上に、膜厚が350μmとなるように組成物(2)を塗工し、該組成物(2)の未硬化塗膜を形成した。流路形成部を黒色で描画したフォトマスクを通して紫外線の平行光を照射し、流路以外の部分を硬化させた。次に、非照射部分の未硬化の組成物(2)をエタノールで除去して、表面に幅200μm、深さ350μmの凹部を有する塗膜を形成した。この凹部の両端をドリルで300μmの貫通口を設けた。次に、組成物(1)を、膜厚100μmのポリプロピレンフィルム上に塗布し、紫外線を3秒照射し、半硬化塗膜を形成した。これを蓋として前記凹部を有する塗膜に貼り合わせ、紫外線を照射して完全に硬化させ、マイクロ流体デバイスを得た。2つの孔に、それぞれ内径3mm、高さ5mmのポリ塩化ビニル管を接着してポート部とし、比較用マイクロ流体デバイス(B−1)を得た。本デバイス(B−1)を用いて、実施例1と同様にPCRを行い、核酸増幅の有無を常法に従いアガロースゲル電気泳動によって確認した。核酸増幅を示すバンドがバンドは全く検出されず(図7)、核酸増幅反応が進行しなかった。
(比較例2)
2 伸長反応温度に設定したヒートブロック(B)
3 アニーリング温度に設定したヒートブロック(C)
4 マイクロ流体デバイス
5 ポート部(入口)
6 ポート部(出口)
7 基板樹脂フィルム(A)
8 射出成型部材
9 流路
10 樹脂フィルム(B)
11 樹脂フィルム(C)
12 樹脂フィルム(D)
Claims (9)
- 基板樹脂フィルム(A)と、表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)とを貼り合わせた、
または、
前記基板樹脂フィルム(A)と、スペーサー樹脂フィルム(C)と、もう一方の基板樹脂フィルム(D)とをこの順による貼りあわせた、
ポリメラーゼ連鎖反応用流路を有するマイクロ流体デバイス。 - 前記基板樹脂フィルム(A)の厚さが100μm以下である請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
- 前記基板樹脂フィルム(A)の熱伝導度が 0.1W/m・K以上である請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
- 前記表面に凹部を有する射出成型樹脂部材(B)がポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、またはポリメチルペンテンである請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
- 前記ポリメラーゼ連鎖反応用流路が、液体が面内方向に移動することによって核酸増幅が起こるように設計されている請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
- 下記式1を満たす、請求項1記載のデバイス。
(l+d)/λ≦2000・・・(式1)
(式中の記号は下記の意味を有する。λ:基板樹脂フィルム(A)の熱伝導度(W/m・K)、l:基板樹脂フィルム(A)の厚さ(μm)、d:流路の深さ(μm)) - 前記スペーサー樹脂フィルム(C)が、少なくとも片面に接着剤が塗布されている請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
- 接着剤が熱硬化性である請求項7記載のマイクロ流体デバイス。
- 接着剤が活性エネルギー線硬化性である請求項7記載のマイクロ流体デバイス。
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