JP2006067883A - 組換えバチルス属細菌 - Google Patents

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Abstract

【課題】 抗生物質を用いなくても安定にプラスミドを維持することができる新種の形質転換体バチルス属細菌を提供する。
【解決手段】 染色体上のmetK遺伝子に欠陥を有し、metK遺伝子を含む発現ベクターによって形質転換されたバチルス属細菌。
【選択図】 図1

Description

本発明は、発現ベクターを菌体内に安定的に維持できるバチルス属細菌に関する。
一般的にプラスミドを用いた組換え菌による有用物質生産においては、プラスミドを菌体内に安定に保持させるために、プラスミド上には抗生物質耐性遺伝子を導入し、微生物の培養に用いられる培地には適当な抗生物質を添加する方法が用いられている。これは、抗生物質添加培地中で増殖する菌体は、抗生物質耐性遺伝子が導入されたベクターを保持する菌体のみであるという原理に基づく。
しかし、抗生物質を利用したこの培養方法は、抗生物質耐性能を有した組換え菌が大量に増殖してしまうという安全性における問題点や、高価な抗生物質を培地へ大容量に添加しなければならないという経済的な問題点、また、培養終了後には培養上清液から抗生物質を除去しなければならないという工程上の不経済の問題点を有していた。また、大容量の廃液処理により、自然環境への付加も大きいという問題もあった。
そこで、抗生物質を使用しない培養方法を用いることができる組み換え菌の開発が求められていた。そして、このような組み換え菌として、必須遺伝子が破壊された宿主に、その遺伝子を含んだベクターが導入されることにより、そのベクターを安定に維持されている組み換え菌が着想されていた。これは、増殖欠陥を有する宿主に、この欠陥を相補する遺伝子の導入を試みた場合、正しく導入された宿主のみ増殖するであろうという発想に基づく。そして、宿主に枯草菌を用いる系としては、必須遺伝子にalr(アラニンラセマーゼ)遺伝子を選んだ方法が(特許文献1)、また、酵母の系としては必須遺伝子にCDC4遺伝子を選んだ方法が(特許文献2)具体化されていた。
特開平6−86669号公報 特開平7−67685号公報
しかしながら、alr遺伝子を用いた手法は、汎用性やプラスミドの安定性、また目的タンパク質の生産性などにおいて問題があり、実用的で、かつ、より有用な系の開発が待たれていた。
本発明者らはバチルス属の細菌の生育に必須な遺伝子について検討を行った結果、染色体上において、S−アデノシルメチオニンを合成する酵素をコードする遺伝子であるmetK遺伝子に欠陥を有するバチルス属細菌を用い、これをmetK遺伝子を含む発現ベクターで形質転換体した場合に、薬剤をもちいずに当該プラスミドを菌体中に安定に保持できること、また、これを薬剤を含有しない培養条件下で培養することにより目的タンパク質を取得できることを見出した。
すなわち、本発明は、染色体上のmetK遺伝子に欠陥を有し、metK遺伝子を含む発現ベクターによって形質転換されたバチルス属細菌を提供するものである。
また、本発明は、metK遺伝子が欠陥を有するバチルス属細菌を形質転換するためのベクターであって、薬剤耐性遺伝子に置換してmetK遺伝子が挿入され、且つ目的タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターを提供するものである。
さらにまた、本発明は、本発明のバチルス属細菌を、薬剤を含有しない培養条件下で培養し、該培養物から目的タンパク質を取得する目的タンパク質の製造方法を提供するものである。
本発明によれば、薬剤を用いなくても安定にプラスミドを維持することができるバチルス属細菌、及び抗生物質等の薬剤を使わなくても菌体の培養を行うことができるタンパク質製造方法が提供される。抗生物質を使用しない条件で菌体を培養できることは、有用な物質等を大量に生産する場合に抗生物質耐性菌が出現する危惧を払拭できる。また、培養後の後処理工程が軽減されることにより、要するエネルギー並びに排水量が減少され、環境負荷も低減もされる。
本発明のバチルス属細菌は、染色体上のmetK遺伝子に欠陥を有し、metK遺伝子を含む発現ベクターによって形質転換されたものである。
すなわち、本発明の形質転換されたバチルス属細菌は、宿主の染色体metK遺伝子の欠陥に起因する要求性を発現ベクターが相補してなるものである。metK遺伝子に欠陥を有している菌体が生育することができない条件下で当該形質転換体を培養した場合、metK遺伝子を含む外来DNA断片が脱落した菌体は増殖できず、metK遺伝子を含む外来DNA断片を保持する菌が優先的に増殖する。
本発明の形質転換されたバチルス属細菌は、たとえば、(1)染色体上のmetK遺伝子に欠陥があるバチルス属細菌に、(2)metK遺伝子を含む発現ベクターを細胞内に導入し、(3)導入された細胞を選択することにより得ることができる。
(1)染色体上のmetK遺伝子に欠陥を有するバチルス属細菌とは、染色体上のmetK遺伝子の発現産物としてのRNA及び/又はタンパク質の発現量が野生型のバチルス属細菌に比べて低いバチルス属細菌、及び/又は染色体上のmetK遺伝子内における変異のために、染色体上のmetK遺伝子の発現産物としてのRNA及び/又はタンパク質の活性が野生型のRNA及び/又はタンパク質の活性に比べて低下しているバチルス属細菌をいい、たとえば、metK遺伝子由来の配列を含むDNA断片をバチルス属細菌に導入し、バチルス属細菌内で組みかえ反応を起こさせ、染色体上のmetK遺伝子が導入したDNA断片と置換した細胞を選択することにより作製することができる。上記変異は、天然に存在するアレル変異、天然に存在しない変異、又は、改変(欠失、置換、付加および挿入)のなされた変異を含む。
ここで、バチルス属細菌としては、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・スフェリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)、バチルス・アルカロフィラス(Bacillus alcalophilus)等が挙げられるが、枯草菌が好ましい。また、バチルス属細菌は、野生型であることが好ましいが、生育することができる限り変異を有していてもよい。DNA断片の導入は、例えば、公知のコンピテントセルを用いる方法(C. Anagnostopoulos and J. Spizizen, J. Bacteriol., 81, 741-746, 1961.)に準じて行うことができる。
DNA断片としては、metK遺伝子、好ましくは当該DNA断片を導入する宿主菌のmetK遺伝子の一部を含む断片であって、その含む部分のmetK遺伝子内における位置関係及び/又はその配列に導入された変異から全長のmetKタンパク質が発現しないことが明らかな、若しくはmetK遺伝子の翻訳及び/又は転写効率が阻害されることが明らかな断片であればよい。ここにおいて、metK遺伝子は、コード領域のみならず、遺伝子調節領域といった非コード領域も含む。また、ここにおいて、変異とは、天然に存在するアレル変異、天然に存在しない変異、又は、改変(欠失、置換、付加および挿入)のなされた変異を含む。上記断片としては、metK遺伝子上の配列ではない任意の配列、好ましくは選択マーカー配列、より好ましくは薬剤耐性遺伝子配列が、metK遺伝子中の一部の配列、好ましくは、metK遺伝子コード領域の両端を含まない部分の配列と置換されたmetK遺伝子配列を有する断片が好ましい。上記薬剤耐性遺伝子としては、クロラムフェニコールが好ましい。なお、当該断片の内部及び/又は端部には、必要に応じて公知の方法により制限酵素認識部位を導入してもよい。
上記断片に含めるmetK遺伝子由来の配列のmetK遺伝子内における位置関係及び/又はその配列に導入する変異の設計は、1997年にKunstらの国際協力プロジェクトにより明らかとなった、枯草菌Bacillus subtilisの全ゲノム配列(Kunst F., et.al., Nature, 108(1), 74-80, 1997)等をもとに公知の方法をもとに行うことができる。そして、上記断片の作製は、公知の方法により摂取したmetK遺伝子を含むDNA断片をもとにすれば、公知の変異導入方法、PCRを用いた公知の方法及び/又は公知の制限酵素を用いた方法により行うことができる。
上記DNA断片の細菌内での組みかえは、DNA断片を導入すると、挿入したDNA断片においてバチルス属細菌染色体上の配列に相同性がある配列が、その相同性がある配列と自然に組みかわることにより行われる。
染色体上のmetK遺伝子を導入したDNA断片と置換した細胞の選択は、公知の方法により行うことができるが、たとえば、導入DNA断片に付加したマーカー遺伝子のマーカーを指標に行うことができ、たとえば、クロラムフェニコール存在化で培養し、生育した細胞を摂取することにより行うことができる。
(2)におけるmetK遺伝子を含む発現ベクターは、公知の方法により作製されるが、例えば、metK遺伝子を含む断片及び、薬剤耐性遺伝子配列を除いたベクターDNA断片を得て、両断片をつなぎあわせることにより行うことができる。
ここで、metK遺伝子とは、metK遺伝子のコード領域及び/又はその遺伝子調節配列を含んだ配列をいい、プロモーターやターミネーターを含んでいてもよい。metK遺伝子断片とは、バチルス属細菌のmetK遺伝子配列、バチルス属細菌metK遺伝子とホモログであることが知られている他の生物における遺伝子配列、又は、その遺伝子配列及び/又はドメインの構成からmetKと類似の機能を果たすことが明らかである遺伝子配列を含む断片をいうが、バチルス属細菌由来のmetK遺伝子を含む断片が好ましく、枯草菌由来のmetK遺伝子を含む断片であることが特に好ましい。また、当該断片を導入する宿主菌体内における野生型遺伝子を含む断片が好ましい。また、当該断片には、新たにmetK遺伝子由来でないプロモーターを付加してもよく、付加されるプロモーターとしては、異質プロモーターを用いることができ、プロモーターの変異体も用いることができる。異質プロモーター等を用いることにより、遺伝子の発現量を調整することができる。また、当該遺伝子断片は、metK遺伝子中に変異を有する断片であっても良い。ここで変異は、天然に存在するアレル変異、天然に存在しない変異、又は、改変(欠失、置換、付加および挿入)のなされた変異であって、コードする遺伝子の機能を実質的に阻害しない変異を意味する。
上記metK遺伝子断片は、公知の方法により得ることができるが、例えば、染色体DNAを含む抽出液を用いて、PCR反応をおこない、metK遺伝子を含む断片を増幅することにより得ることができる。ここで、染色体DNAは、例えば、metKを採取することを目的とする生物の抽出液から公知の方法によりDNAを精製することにより採取することができる。また、上記PCR反応に用いるプライマーは、1997年にKunstらの国際協力プロジェクトにより解読された、枯草菌Bacillus subtilisの全ゲノム配列(Kunst F., et.al., Nature, 108(1), 74-80, 1997)等を参酌することにより公知の方法により設計することができ、例えば、配列番号9及び10で示されるプライマーが挙げられる。また、このプライマーの中には、必要により制限酵素認識配列を含めることもできる。metK遺伝子及びプロモーターへの変異の導入は、PCR法を用いた公知の方法等により容易に行うことができる。
薬剤耐性遺伝子配列を除いたベクターDNA断片としては、薬剤耐性遺伝子配列を有していたベクターDNAをもとに、(a)当該薬剤耐性遺伝子の配列の一部もしくは全部の、好ましくは全部の配列を除去した断片、若しくは(b)薬剤耐性遺伝子内に変異を導入して失活させた断片が挙げられる。ここにおいてベクターDNAとしては、環状DNA、直鎖状一本鎖DNA又は直鎖状二本鎖DNAがあげられるが、環状DNAが好ましく、環状プラスミドDNAがより好ましい。環状プラスミドDNAとしては、pHY237が好ましい。また、上記薬剤耐性遺伝子としては、クロラムフェニコール、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の耐性遺伝子が挙げられるが、テトラサイクリン耐性遺伝子が好ましい。上記断片は、公知の方法により作製されるが、例えば、公知のベクターDNAを、薬剤耐性遺伝子の両側に存在する制限酵素認識部位において制限酵素により切断し、薬剤耐性遺伝子断片を分離除去することにより行うことができる。または、例えば、薬剤耐性遺伝子配列又はそのプロモーター若しくはターミネーター等の調節配列の中途の位置に、公知の方法により任意の配列を導入し、コドンの読み枠をずらすこと、あるいは公知の方法によりプロモーター及び/又はターミネーターの配列の全部又は一部、好ましくは全部を除去することによって行うことができる。また、当該DNA断片には、必要に応じて公知の方法により制限酵素認識配列を付加することができる。
両DNA断片のつなぎ合わせは、公知の方法により行うことができ、例えば、制限酵素認識配列が付加された両者断片を制限酵素で消化したのち、公知のライゲーションの方法を行うことによりつなぎ合わせることができる。
また、本発明の発現ベクターには、必要に応じて、公知の方法により目的タンパク質をコードする外来遺伝子配列を含めておくこともできる。目的タンパク質をコードする外来遺伝子としては、バチルス属細菌由来の遺伝子に限定されず、あらゆる生物由来のあらゆる遺伝子を導入することができるが、アルカリプロテアーゼやアルカリセルラーゼをコードする遺伝子が好ましく用いられる。特に、特開2000−210081号公報記載のBacillus sp. KSM−S237(FERM P−16067)の耐熱性アルカリセルラーゼ遺伝子、すなわち、配列番号11で示される塩基配列からなる遺伝子や、当該塩基配列と90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列からなり、アルカリセルラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子や、配列番号11で示される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失、置換あるいは付加加された塩基配列からなり、かつアルカリセルラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が好適に用いられる。同様に、特開2003−310270号公報記載の配列番号11記載の遺伝子を変異させたアルカリセルラーゼをコードする遺伝子も好適に用いられる。塩基配列の同一性は、Lipman-Pearson法(Science, 227, 1435, (1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to complete(ktup)を2として解析を行うことにより計算される。発現ベクターへの目的タンパク質をコードする外来遺伝子の導入は、制限酵素を用いた公知の方法により行うことができ、例えば、metK遺伝子を含む断片とつなぐ以前のベクターDNA断片にあらかじめ当該遺伝子配列を挿入することによっても行うことができ、ベクターDNAにmetK遺伝子と同時に当該遺伝子配列を挿入することによって行うこともでき、また、metKが挿入された後の発現ベクターに当該遺伝子配列を挿入することにより行うこともできるが、metK遺伝子を含む断片とつなぐ以前のベクターDNA断片にあらかじめ当該遺伝子配列を挿入することによって行うことが好ましい。
得られた発現ベクターのバチルス属細菌内への導入は、公知の方法により行うことができるが、例えば、宿主菌を公知の方法によりコンピテントセル化することにより行うことができる。
(3)導入された細胞の選択は、例えば、最小培地、好ましくはPSM培地において培養し増殖した細胞を選択することにより行うことができる。
かくして選択された本発明の形質転換体の宿主であるバチルス属細菌は、生育に必要な遺伝子であるmetK遺伝子について染色体上に欠陥を有しているため、metK遺伝子に欠陥を有している菌体が生育することができない培地上などの条件下で当該形質転換体を培養した場合、metK遺伝子を含む外来DNA断片を脱落した菌体は増殖できず、metK遺伝子を含む外来DNA断片を保持する菌が優先的に増殖する。この結果、薬剤を使用しなくても、当該菌体内に、外来DNA断片が安定に保持される。よって、metK遺伝子を含む外来DNA断片に目的タンパク質をコードする外来遺伝子配列を含めることにより、薬剤を含まない培地中においても、目的タンパク質を安定に供給させることができる。
目的タンパク質の製造は、公知の方法により、上記により得られた形質転換体を培養し、当該培養物から公知の方法によりタンパク質を精製することにより行うことができる。培地は、公知の培地を用いることができるが、最小培地が好ましく、PSM培地がより好ましい。また、培地は、S−アデノシルメチオニンを有さない培地が好ましいが、少量ならば有している培地でも構わない。また、培地には、抗生物質を加えなくても培養を行うことができるが、必要に応じて適宜加えてもかまわない。
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明する。
[実施例1]枯草菌ゲノム上のmetK遺伝子破壊株の構築
1.遺伝子破壊用DNA断片の構築
制限酵素部位を用いた遺伝子破壊用DNA断片の調製を行った(図1)。metK遺伝子破壊DNA断片のマーカーにはクロラムフェニコール(Cm)耐性遺伝子を用いた。マーカー遺伝子をBglIIを付加したプライマーI及びXbaIを付加したプライマーIIを用いてPCRにより増幅した。metK遺伝子の上流約1.5kbの領域をプライマーIII及びBglIIを付加したプライマーVを用いて、また、metK遺伝子の下流約1.5kbの領域をXbaIを付加したプライマーVI及びプライマーIVを用いてPCRにより増幅した。得られたDNA断片(図中:断片1〜3)をそれぞれ付加した制限酵素部位BglII及びXbaIを用いて切断後、リガーゼ反応によりDNA断片1とDNA断片2及びDNA断片3とを連結した。連結されたDNA断片4を鋳型にしてプライマーIII及びIVを用いてPCRにより、Cm耐性遺伝子をマーカーとしたmetK遺伝子破壊用DNA断片を増幅した。使用したプライマーの塩基配列は、表1に記載した。標準的なPCR反応条件は下記の如く行った。即ち、鋳型DNAプラスミド0.5μL(10ng)、センスプライマー10μL(1μM)、アンチセンスプライマー10μL(1μM)、10倍濃度のPCR用緩衝液5μL、10mM ヌクレオチド三リン酸(dNTP)混液4μL、PyrobestDNAポリメラーゼ0.5μL(2.5 units、タカラ製)及び脱イオン水20μLを混合した後、Gene Amp PCR System9700(アマシャムファルマシア製)でPCRを行った。反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃、1分間(熱変性)、55℃1分間(アニーリング)、72℃2分間(伸長、30サイクル)及び72℃4分間(伸長)で行った。得られたPCR産物をGFX PCR DNA and Gel Band Purification キット(アマシャムファルマシア製)で精製した。得られたDNA断片は次ぎのPCRにプライマーとして用いる場合には必要に応じて末端のリン酸化処理を行った(精製DNA溶液43.5μLに5.5μLの10倍濃度のリン酸化用緩衝液及び1μL(10units)のpolynucleotide kinaseを加え、37℃で1時間処理した)。PCRにおいてアニーリング温度は用いたプライマーのTm値(約50℃〜60℃)より決定し、伸長は1kbpのDNA伸長に付き1分として行った。
2.metK遺伝子破壊株の選択
構築したmetK遺伝子破壊用DNA断片を用いて、枯草菌のゲノム上のmetK遺伝子を破壊した株を選別した。metK遺伝子破壊用DNA断片の宿主菌への導入はコンピテントセル(C. Anagnostopoulos and J. Spizizen, J. Bacteriol., 81, 741-746, 1961.)に準じ行った。宿主菌をLBプレート上で画線し37℃で一晩培養後、Spizizen1(SP1)培地[0.2%硫酸アンモニウム、1.4%K2HPO4、0.6%KH2PO4、0.1%クエン酸三ナトリウム、0.02%カザミノ酸テクニカル、0.05mg/mLリジン、0.05mg/mLメチオニン、0.5%グルコース、5mM硫酸マグネシウム7水和物]に2〜3コロニーを懸濁し600nmによる吸光度を測定した。最終O.Dが0.03となるようにSP1培地1mLに添加して37℃、180rpm、4〜5時間培養した後、0.1mLをSP2培地[0.2%硫酸アンモニウム、1.4%K2HPO4、0.6%KH2PO4、0.1%クエン酸三ナトリウム、0.01%カザミノ酸テクニカル、0.005mg/mLリジン、0.005mg/mLメチオニン、0.5%グルコース、5mM硫酸マグネシウム7水和物]0.9mLに加え更に37℃、180rpmで4時間培養した。培養後、遠心分離(12000rpm、3分間)して上清0.9mLを除去し残りの菌体にmetK遺伝子破壊用DNA溶液1〜5μLを添加して懸濁後、さらに37℃、180rpmで2時間振盪培養して10μg/mL濃度のCm及び20μg/mLのS−アデノシルメチオニンを含有した最小培地選択プレートに塗布し、生育してきたコロニーを選別した。
[実施例2]宿主菌のmetK遺伝子を有するベクターの作製
配列番号11の塩基配列の塩基番号573〜3044に示す塩基配列を含むセルラーゼ生産用の発現ベクターpHY237上のテトラサイクリン(Tc)耐性遺伝子と置換するためmetK遺伝子のクローニングを行った。metK遺伝子のクローニングは宿主菌由来のゲノムを用い、metK遺伝子上流及び下流に制限酵素認識部位SalIを付加したプライマーVII及びVIIIを用いてゲノムPCRを行った。一方で、pHY237(Hakamada Y., et. al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 64(11), 2281-2289, 2000)のTc耐性遺伝子を欠落させるようなSalIを付加したプライマーIX及びXを構築し、pHY237を鋳型にしてPCRを行った。PCR条件は[実施例1]に記載した方法に順じて行った。得られたmetK遺伝子及びTc耐性遺伝子を欠落させた発現ベクターpHY237のDNA断片をSalI処理した後、双方をリガーゼ反応により連結した。得られたライゲーションDNA混液を用いてmetK遺伝子を破壊した宿主をコンピテントセル法により形質転換し、コロニー周辺にハローを形成し、且つpHY237上のTc耐性遺伝子とmetK遺伝子が置換したプラスミドを保持した宿主菌を最小培地プレートにて取得した。
[実施例3]metK遺伝子破壊株のアルカリセルラーゼ生産能
宿主菌にmetK遺伝子破壊株を用い、アルカリセルラーゼの発現ベクターpHY237上のTc耐性遺伝子をmetK遺伝子に置換した宿主・ベクター系において、培養時に抗生物質であるTcを使用せずアルカリセルラーゼの生産能を評価した(図2)。宿主菌B.subtilis ISW1214株の培養は、3%ポリペプトンS(日本製薬製)、0.5%魚肉エキス(和光純薬製)、0.05%酵母エキス、0.1%リン酸1カリウム、0.02%硫酸マグネシウム7水塩、及び5%マルトース(別滅菌)を含んだ培地(PSM培地)を用いて、30℃で72時間行った。その結果、従来通りテトラサイクリン(15μg/mL)を使用した組換え菌によるアルカリセルラーゼ生産能を100%とした時、metK遺伝子破壊株を宿主菌としたアルカリセルラーゼ生産能は71%であった。
<セルラーゼ活性測定法(3,5−ジニトロサリチル酸(DNS)法>
2mLの0.5Mグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.0)、0.4mLの
2.5%カルボキシメチルセルロース(A01MC;日本製紙製)、0.3mLの脱イオン水から成る反応液に0.1mLの適当に希釈した酵素液を加え40℃で20分間反応させた後、1mLのジニトロサリチル酸試薬(0.5%ジニトロサリチル酸、30ロッシェル塩、1.6%水酸化ナトリウム水溶液)を添加し、沸水中で5分間還元糖の発色を行った。氷水中で急冷し、4mLの脱イオン水を加え535nmにおける吸光度を測定し還元糖の生成量を求めた。尚、ブランクは酵素液を加えずに処理した反応液にジニトロサリチル酸試薬を加えた後、酵素液を添加し、同様に発色させたものを用意した。酵素1単位(1U)は、上記反応条件下において1分間に1μmolのグルコース相当の還元糖を生成する量とした。
metK遺伝子破壊株作製に用いたDNA断片を作製する工程を示した図である。

Claims (8)

  1. 染色体上のmetK遺伝子に欠陥を有し、metK遺伝子を含む発現ベクターによって形質転換されたバチルス属細菌。
  2. 染色体metK遺伝子の欠陥に起因する要求性を発現ベクターが相補してなる請求項1記載のバチルス属細菌。
  3. 発現ベクターが、薬剤耐性遺伝子に置換してmetK遺伝子が挿入され、且つ目的タンパク質をコードする遺伝子を含有するものである請求項1又は2記載のバチルス属細菌。
  4. 目的タンパク質をコードする遺伝子が以下の(1)から(3)いずれかに記載の塩基配列からなる遺伝子である、請求項3記載のバチルス属細菌。
    (1)配列番号11で示される塩基配列、
    (2)配列番号11で示される塩基配列と90%以上の同一性を有し、且つアルカリセルラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (3)配列番号11で示される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失、置換あるいは付加され、且つアルカリセルラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  5. 枯草菌である請求項1〜4のいずれか1項記載のバチルス属細菌。
  6. metK遺伝子が欠陥を有するバチルス属細菌を形質転換するためのベクターであって、薬剤耐性遺伝子に置換してmetK遺伝子が挿入され、且つ目的タンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクター。
  7. 目的タンパク質をコードする遺伝子が以下の(1)から(3)いずれかに記載の塩基配列からなる遺伝子である、請求項4記載の発現ベクター。
    (1)配列番号11で示される塩基配列、
    (2)配列番号11で示される塩基配列と90%以上の同一性を有し、且つアルカリセルラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (3)配列番号11で示される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失、置換あるいは付加され、且つアルカリセルラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項記載のバチルス属細菌を、薬剤を含有しない培養条件下で培養し、該培養物から目的タンパク質を取得する目的タンパク質の製造方法。

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