JP2009118782A - 新規なコラーゲン分解酵素とその利用 - Google Patents

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Abstract

【課題】アルカリ条件下でコラーゲン分解活性の高いコラーゲン分解酵素を提供すること。
【解決手段】次の理化学的性質を有するコラーゲン分解酵素である。(1)作用:カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、ケラチンおよびエラスチンの蛋白質を分解し、特にコラーゲンおよびゼラチンに対して強い分解作用を有する。また、合成基質であるAIPM、AAPF、AAPM、AAPL、AAVAに対して活性を有するが、AAPV、GPLGPには活性を示さない。(2)最適反応pH:pH8.5〜9.0(3)最適反応温度:40〜50℃、45℃まで安定な酵素活性を有する。(4)分子量:50,000〜70,000また、特定のアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する新規なコラーゲン分解酵素である。これらは、特にコラーゲン、ゼラチンに対してアルカリ条件下で高い分解活性を有する。
【選択図】図4

Description

本発明は、新規なコラーゲン分解酵素、その遺伝子とその利用に関する。更に詳しくは、本発明は、アルカリモナス属細菌由来のアルカリ領域において高い活性を有する新規なコラーゲン分解酵素、その遺伝子とその利用に関する。
コラーゲン分解酵素やゼラチン分解酵素は工業的利用価値の高い酵素である。例えばコラーゲンのペプチド性加水分解物には、シワ取りなどの美容整形用の材料としての有用性があり、また保湿性、シワ形成予防作用、血圧降下作用等の興味深い生理活性も見いだされており(例えば、非特許文献1、2参照)、実際に、コラーゲンを低分子化したペプチドが医療や化粧品分野において多量に用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、写真用乳剤などにはゼラチンが用いられており、レントゲンや写真のフィルムのリサイクルにはゼラチン分解酵素が用いられている(例えば、特許文献4参照)。ゼラチン分解酵素は廃棄フィルムから写真資源の回収に有用である。
また近年、有機廃棄物の有効利用のためのバイオコンバージョン(生物学的変換)が積極的に試みられている。例えば生ゴミのコンポスト化はその好例である。動物性タンパク質の30%以上はコラーゲンからなっており、一般家庭や食堂から出される生ゴミ、および食肉加工業において排出される廃棄物にもコラーゲンが多量に含まれている。コラーゲンはその特殊な高次構造のために一般に難溶性・難分解性であり、コンポスト化においても比較的分解の遅いタンパク質である。畜産資源の非利用部分の多くは難分解性であるため、多くは焼却処分されているのが現状である。
従って、コラーゲンやゼラチンを分解できるコラーゲン分解酵素の開発は非常に重要であり、これまでコラーゲン分解酵素およびコラーゲン分解酵素生産菌についての多くの報告がなされている(例えば、特許文献5〜8参照)。しかしながら、これら酵素の多くは中性から酸性域において最適反応pHを示すものであり、アルカリ条件下で最適反応pHを示すコラーゲン分解酵素はあまり知られていない。さらに、微生物由来のコラーゲン分解酵素の多くはコラゲナーゼと呼ばれる金属酵素であり、セリンプロテアーゼに分類されるコラーゲン分解酵素はあまり知られていない(非特許文献3)。
特開2006−151847号公報 特開2001−26753号公報 特開2005−314265号公報 特開2000−231179号公報 特開2005−245285号公報 特開平8−70853号公報 特開2001−178456号公報 特開2001−61474号公報 特表2006−516889号公報 田中ら「バイオインダストリー」第9号、18〜23頁、2005年 Kuhareら「J. Immunol」155,3653-3659,1995 Watanabe「Appl. Microbiol Biotechnol」63,520-526, 2004 (Kurataら"Int. J. Syst. Evol. Microbiol." 57,1549-53, 2007)
本発明は、以上のようなコラーゲン分解酵素に関する現状に鑑み、アルカリ条件下で活性なコラーゲン分解酵素を提供することを目的とするものであり、アルカリ条件に最適反応pHを示し、セリンプロテアーゼに分類され、公知のコラーゲン分解酵素に対してはアミノ酸配列において相同性の低い、新規なコラーゲン分解酵素ならびにこれをコードする遺伝子を提供することをその目的とするものである。
本発明者らは、上述のような目的を達成するために鋭意研究を行い、コラーゲン分解酵素の生産菌を深海底土壌中よりスクリーニングした結果、新たなコラーゲン分解酵素を見出し、さらに本酵素をコードする遺伝子をクローニングすることで本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、次の理化学的性質を有する新規なコラーゲン分解酵素を提供するものである。
(1)作用:
カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、ケラチンおよびエラスチンの蛋白質を分解し、特にコラーゲンおよびゼラチンに対して強い分解作用を有する。
また、合成基質であるN-メトキシスクシニル-Ala-Ile-Pro-Met-p-ニトロアニリド、N-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド、N-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Met-p-ニトロアニリド、N-グルタリル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリド、及びN-スクシニル-Ala-Ala-Val-Ala-p-ニトロアニリドに対して分解作用を有するが、N-メトキシスクシニル- Ala-Ala-Pro-Val-p-ニトロアニリド、及びN-スクシニル-Gly-Pro-Leu-Gly-Pro-4-メチルクマリル-7-アミドに対して分解作用を示さない。
(2)最適反応pH: pH8.5〜9.0
(3)最適反応温度は40〜50℃であり、45℃まで安定な酵素活性を有する。
(4)分子量:
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が、50,000〜70,000である。
(5)阻害剤
セリンプロテアーゼの阻害剤であるフェニルメチルスルフォニルフルオライドにより完全に阻害されるが、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸では10mM濃度で35%の残存活性を示す。
また、本発明は、配列表の配列番号3で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、或いは配列表の配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、上記の新規なコラーゲン分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、配列表の配列番号5で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、上記の新規なコラーゲン分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、配列表の配列番号7で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、上記の新規なコラーゲン分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、アルカリモナス コラゲニマリナ由来のものである、前記の新規なコラーゲン分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、新規なコラーゲン分解酵素前駆体を提供するものである。
更に、本発明は、前記の新規なコラーゲン分解酵素またはその前駆体のアミノ酸配列をコードする遺伝子であって、下記(a)〜(h)からなる群、
(a)配列番号3に示す成熟酵素を構成するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号3に示す成熟酵素を構成するアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号5に示すアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(e)配列番号7に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(f)配列番号7に示すアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(g)配列番号2に示すヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、又は
(h)配列番号2に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコラーゲン分解活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
から選ばれるコラーゲン分解酵素をコードする遺伝子を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれかの遺伝子を含有する組換えベクターおよび当該ベクターにより形質転換された微生物を提供するものである。
更に、また、本発明は、アルカリモナス コラゲニマリナ、又は前記形質転換された微生物を培養し、その培養液よりコラーゲン分解酵素を採取することを特徴とする、前記理化学的性質又は前記アミノ酸配列を有するコラーゲン分解酵素の製造方法を提供するものである。
本発明の新規なコラーゲン分解酵素は、従来のコラーゲン分解酵素には見られなかったアルカリ領域において高いコラーゲン分解活性を有し、セリンプロテアーゼに分類されるものである。従って、特にアルカリ領域においてコラーゲンやゼラチンを高い活性で分解することができるという特徴ある性質を有する。
本発明の新規なコラーゲン分解酵素(以下、「本発明酵素」ということもある)は、次の(1)〜(5)で規定される酵素学的性質を有するものである。
(1)作用:
本発明酵素は、カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、ケラチンおよびエラスチンの蛋白質を分解し、特にコラーゲンおよびゼラチンに対して強い分解作用を有する。
また、本発明酵素は、合成基質であるN-メトキシスクシニル-Ala-Ile-Pro-Met-p-ニトロアニリド(「AIPM」という)、N-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド(「AAPF」という)、N-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Met-p-ニトロアニリド(「AAPM」という)、N-グルタリル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリド(「AAPL」という)、及びN-スクシニル-Ala-Ala-Val-Ala-p-ニトロアニリド(「AAVA」という)に対して分解作用を有するが、N-メトキシスクシニル-Ala-Ala-Pro-Val-p-ニトロアニリド(「AAPV」という)及びN-スクシニル-Gly-Pro-Leu-Gly-Pro-4-メチルクマリル-7-アミド(「GPLGP」という)に対して分解作用を示さない。
(2)本発明酵素の最適反応pHは、pH8.5〜9.0である。
(3)本発明酵素の最適反応温度は、40〜50℃である。また、本発明酵素は45℃までは安定な酵素活性を有する。
(4)分子量:
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(「SDS−PAGE」という)による分子量が、50,000〜70,000である。
(5)阻害剤
本発明酵素は、セリンプロテアーゼの阻害剤であるフェニルメチルスルフォニルフルオライド(「PMSF」という)により完全に阻害されるが、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸(「EDTA」という)では10mM濃度で35%の残存活性を示す。
このような本発明のコラーゲン分解酵素は、以下に示す方法に特に限定されるものではないが、例えば、アルカリモナス属細菌が産生する酵素の中から見出される。このようなアルカリモナス属の微生物の一例として、好ましくはアルカリモナス コラゲニマリナ AC40株がある。この菌株は、倉田らにより既に詳細にその特定化がなされ、新規な菌株であることが証明されているものである。この菌株の菌学的性質等については、すでに非特許文献4(Kurataら”Int. J. Syst. Evol. Microbiol.”57,1549-53, 2007)に詳細に報告されているので、本明細書においてはその記載をここに引用する。また、この菌株は、アルカリモナス コラゲニマリナ AC40株(Alkalimonas collagenimarina AC40)として独立行政法人理化学研究所微生物系統保存施設(JCM、所在地:351-0198 埼玉県和光市広沢2−1、独立行政法人理化学研究所 微生物系統保存施設)にJCM14267として、ならびにNCIMB Ltd(Ferguson Building Craibstone Estate Bucksburn Aberdeen AB21 9YA UK)にNCIMB14266としてそれぞれ寄託されており、これらの寄託機関から入手することができる。
本発明のコラーゲン分解酵素は、上述したコラーゲン分解酵素産生菌、例えばアルカリモナス属に属する微生物、好ましくはアルカリモナス コラゲニマリナ AC40株(JCM14267、NCIMB14266)を資化可能な炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地(好ましくはコラーゲンを添加する)を用いて培養し、その培養上清から得ることができる。
培養に必要な資化可能な炭素源としてはグルコース、マルトース、マンノースなどであり、資化可能な窒素源としては魚肉エキス、ポリペプトン、カゼイン、コラーゲンなどである。
培養温度は5〜37℃、特に33℃が好ましく、pHは7.0〜10.5、特に8.5〜10.5が好ましく、この条件下において通常1〜3日間で培養が完了する。
本発明酵素は、培養上清中に蓄積したものであり、菌体を分離した残りの培養液を粗酵素液として利用することもできる。さらに、これらの粗酵素は、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等の通常の精製方法を用いて精製することができる。必要に応じて限外濾過あるいは沈澱法等の手段により回収し、適当な方法を用いて粉末化して用いることもできる。
この粗酵素液の分離・精製は、更に具体的には、例えば必要に応じて、塩析法、沈澱法、限外濾過法等の分離手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等の公知の方法を組み合わせて、更に分離精製したものも使用することができる。
また、本発明のコラーゲン分解酵素は、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、または配列番号3のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であり、本発明の遺伝子は、配列番号4に示すような当該タンパク質をコードするDNAである。
ここで、配列番号3に示すアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列とは、配列番号3のアミノ酸配列とそれぞれ等価のアミノ酸配列を意味し、1若しくは複数個、好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、依然としてコラーゲン分解酵素活性を保持する配列をいい、付加には、両末端への1〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。なお、当該等価のアミノ酸配列は、例えば、Lipman−Pearson法(Science, 227,1435,1985)等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較することにより行うことができる。具体的にはGENENTYX−Mac(ソフトウエァ開発)のサーチホモロジーやマキシマムマッチングプログラムを用いて相同性を求めることができる。
また、本発明のコラーゲン分解酵素前駆体は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質、または配列番号1のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であり、本発明の遺伝子は、配列番号2に示す当該タンパク質をコードするDNAである。
本発明のコラーゲン分解酵素前駆体は、配列番号1に示すアミノ酸の1番目のアミノ酸から760番目のアミノ酸から構成される。これは、配列番号2に示す塩基配列の1番目の塩基から2283番目の塩基からなるDNAによりコードすることができる。配列番号1のアミノ酸配列の相同性を検索した結果、コルウェリア サイクレエリスリア(Colwellia psychrerythraea)34H株の生産する cold-active alkaline serine protease(YP269576)と47%の相同性を示した。また、先行特許出願である特表2006−516889号公報(特許文献9)には、配列番号1に示すアミノ酸配列に類似したアミノ酸配列を有する新規プロテアーゼ(Proteases)が記載されていた。このものは57%の相同性を示したが、タンパク質分解酵素としての記載はあるが、これがコラーゲン分解活性があるとの記載は見られない。
その他の公知のプロテアーゼやコラーゲン分解酵素との相同性は極めて低く、本発明のコラーゲン分解酵素前駆体は新規な酵素前駆体であることが示唆された。従って、配列番号1に示すアミノ酸配列と適切なアライメントがなされた場合、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有し、このコラーゲン分解酵素前駆体は本発明に包含される。
また、配列番号3に示す本発明のコラーゲン分解酵素は、アルカリモナス コラゲニマリナ AC40株において、プレプロペプチドが除去されて生産される。即ち、配列番号1に示すコラーゲン分解酵素前駆体において、1〜124番目までのアミノ酸(配列番号2では1〜372番目までのヌクレオチドに相当する)がプレペプチドとして本発明酵素の生産時に除去されるため、プレプロペプチドが除去された成熟型コラーゲン分解酵素として、配列番号3に示すアミノ酸の1番目のアミノ酸から636番目のアミノ酸から構成される本発明酵素が得られる。これは、配列番号4に示す塩基配列の1番目の塩基から1911番目の塩基からなるDNAによりコードすることができる。
配列番号3のアミノ酸配列の相同性を検索した結果、コルウェリア サイクレエリスリア(Colwellia psychrerythraea)34H株の生産するcold-active alkaline serine protease(YP269576)と52%の相同性を示した。その他の公知のプロテアーゼやコラーゲン分解酵素との相同性は極めて低く、成熟型コラーゲン分解酵素は新規な酵素であることが示唆された。従って、配列番号3に示すアミノ酸の1番目のアミノ酸から636番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列と適切なアライメントがなされた場合、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有し、酵素学的特性の1〜4を満たすコラーゲン分解酵素は本発明に包含される。
一般的にアルカリプロテアーゼの遺伝子は、長いプレプロ配列を有している。プレ配列は酵素の菌体外への分泌に必要であり、プロ配列は酵素の活性型立体構造を形成する際に必要な配列である。本発明者らは、配列表の配列番号2で表わされるプレプロ配列を含むコラーゲン分解酵素前駆体をコードする全遺伝子配列を見出し、配列番号1で表わされる同前駆体のアミノ酸配列を見出した。更に、このコラーゲン分解酵素前駆体から、配列番号3で表わされる、菌体外に生産される本発明のコラーゲン分解酵素のアミノ酸配列、即ち成熟酵素のアミノ酸配列を見出したものである。
本発明のコラーゲン分解酵素は、例えばアルカリモナス コラゲニマリナ AC40株の染色体DNAからクローニングし、適当なベクターと宿主菌を用いて大量に生産することができる。さらに、成熟コラーゲン分解酵素よりも分子量の小さい、2種類の小型化コラーゲン分解酵素の生産をも可能とすることができる。この小型化酵素は成熟酵素に比べてC末端側においてアミノ酸の欠損がある。
この2種類の小型化コラーゲン分解酵素AおよびBは、それぞれ配列番号3に示すアミノ酸配列の441番目から636番目のアミノ酸(配列番号4の1321〜1908番目の番目ヌクレオチドに相当する)、および配列番号3に示すアミノ酸配列の551番目から636番目のアミノ酸(配列番号4の1654〜1908番目の番目ヌクレオチドに相当する)が欠損しているものである。
即ち、小型化コラーゲン分解酵素Aは、配列番号5に示すアミノ酸配列を有するたんぱく質から構成される。これは、配列番号6に示す塩基配列の塩基を有するDNAによりコードすることができるものである。
配列番号5のアミノ酸配列の相同性を検索した結果、シュワネラ アマゾネンシス(Shewanella amazonensis)SB2B株の生産する cold-active alkaline serine protease(YP929185)と57%の相同性を示した。その他の公知のプロテアーゼやコラーゲン分解酵素との相同性は極めて低く、小型化コラーゲン分解酵素Aは新規な酵素であることが示唆された。従って、配列番号5に示すアミノ酸配列を有するたんぱく質のアミノ酸配列と適切なアライメントがなされた場合、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有し、酵素学的特性の1〜4を満たすコラーゲン分解酵素は本発明に包含される。
一方、小型化コラーゲン分解酵素Bは、配列番号7に示すアミノ酸配列を有するたんぱく質から構成される。これは、配列番号8に示す塩基配列の塩基を有するDNAによりコードすることができるものである。
配列番号7のアミノ酸配列の相同性を検索した結果、コルウェリア サイクレエリスリア(Colwellia psychrerythraea)34H株の生産する cold-active alkaline serine protease(YP269576)と53%の相同性を示した。その他の公知のプロテアーゼやコラーゲン分解酵素との相同性は極めて低く、小型化コラーゲン分解酵素Bは新規な酵素であることが示唆された。従って、配列番号7に示すアミノ酸配列を有するたんぱく質のアミノ酸配列と適切なアライメントがなされた場合、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有し、酵素学的特性の1〜4を満たすコラーゲン分解酵素は本発明に包含される。
また、本発明のコラーゲン分解酵素をコードする遺伝子は、上述したコラーゲン分解酵素産生菌、例えばアルカリモナス属に属する微生物、好ましくはアルカリモナス コラゲニマリナ AC40株から、例えばショットガンクローニング、あるいは特定のプライマーを用いたPCR増幅等によって、本発明の遺伝子を取得することができる。
本発明遺伝子を用いてコラーゲン分解酵素を生産するには、目的とする宿主内で遺伝子を発現するのに適した任意のベクターに、上記コラーゲン分解酵素遺伝子を組込み、該組換えベクターを用いて宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、当該培養液からコラーゲン分解酵素を採取すればよい。
即ち、上記のアルカリモナス コラゲニマリナ AC40株から本発明酵素のアミノ酸配列をコードする遺伝子を取得した後、遺伝子工学技術を用いて組換え微生物を作製し、当該組換え微生物を培養する方法が挙げられる。具体的には、本発明酵素のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を上記菌株より取得し、次いでこのヌクレオチド配列を適当なベクターに組込み、更に、このベクターにより大腸菌等の宿主を形質転換し、これを培養して本発明酵素を産生させ、その培養物より本発明酵素を採取すればよい。
培養は微生物の資化可能な炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従って行えばよい。微生物の資化可能な炭素源としては、グルコース、マルトース、マンノースなどが使用することができ、微生物の資化可能な窒素源としては、魚肉エキス、ポリペプトン、カゼイン、コラーゲンなどが使用することができる。
従って、本発明酵素またはその前駆体のアミノ酸配列をコードする遺伝子としては、具体的には、下記(a)〜(h)からなる群より選ばれる遺伝子が挙げられる。
(a)配列番号3に示す成熟酵素を構成するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号3に示す成熟酵素を構成するアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(c)配列番号5に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(d)配列番号5に示すアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(e)配列番号7に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(f)配列番号7に示すアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(g)配列番号2に示すヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、又は
(h)配列番号2に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコラーゲン分解活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
から選ばれる遺伝子である。
ここでいう、1個もしくは複数個のアミノ酸の欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列とは、これらのもとの配列と等価の配列を意味し、1個もしくは複数個、好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列であって、依然としてコラーゲン分解活性を保持する配列をいい、付加には、両末端への1〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
また、ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、例えば、「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル 第2版(Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd ed.)」(T. Maniatisら編集、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー発行、1989年)に記載の条件等が挙げられる。具体的には、ストリンジェントな条件として、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15MのNaCl、0.015Mのクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート、100μg/mLの熱変性ニシン精子DNAを含む溶液中で、プローブとともに50〜65℃の温度で一晩保存しハイブリダイズさせる、という条件が挙げられる。
なお、当該等価のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、部位特異的突然変異誘発法等の公知の手法を利用して調製することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(Mutan-super Express Km キット;タカラ社製)等を用いて変異を導入すればよい。
かくして得られた培養物中からの成熟型コラーゲン分解酵素や小型化コラーゲン分解酵素の採取及び精製は、一般の方法に準じて行うことができる。即ち、培養物から遠心分離または濾過することで菌体を除き、得られた培養上清液から常法手段により目的酵素を濃縮することができる。このようにして得られた酵素液または乾燥粉末はそのまま用いることもできるが更に公知の方法により結晶化や造粒化することができる。以上のように調製された本発明のコラーゲン分解酵素は、医療や化粧品、食品分野におけるコラーゲンペプチドの生産や、写真フィルム特にレントゲン用写真フィルムからの銀イオンの回収など工業的利用が可能な酵素として有用である。
次に、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。実施例中で特に注記しないものは「%」表示は質量%である。
なお、以下の実施例において、コラーゲン分解酵素の活性は以下の方法によって測定して求めた。
2.5%(w/v)コラーゲン(シグマアルドリッチ)、1mM塩化カルシウムを含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9)0.09mLを45℃で2分間保温した後、0.01mLの酵素溶液を添加し、45℃で25分間反応を行った。100%トリクロロ酢酸溶液(TCA溶液)0.25mLを添加して反応を停止し、氷上で15分間放置した後、遠心分離(20,400×g,10分間)して酸変性タンパク質を沈殿させた。DCプロテインアッセイキット(バイオラッド)を用いて、得られた上清中の可溶性タンパク質を定量した。
一方、酵素溶液の代わりに100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH10)を添加したものを、ブランクに用いた。酵素1単位(P.U)は、上記の反応条件において1分間に1mmoLのチロシンに相当する酸可溶性タンパク質分解物を遊離する酵素量とした。
実施例1:コラーゲン分解酵素生産菌のスクリーニング
鳥島沖海底土壌より採取したサンプルを1.0%コラーゲン含有アルカリ寒天培地へ塗抹し、4℃で1ヶ月間、静置培養を行った。生育した菌を選抜し、純化した後に液体培地へ接種し、15℃で2日間、振盪培養を行い、上清液中のコラーゲン分解活性を測定した。スクリーニング用の液体培地組成は次の表1に示すものであり、これにコラーゲン(タイプ1、シグマアルドリッチ)1.0%を加えた。得られた培養液から、コラーゲン分解酵素生産量の高い菌株としてアルカリモナス コラゲニマリナ AC40株を選抜した。
実施例2:コラーゲン分解酵素の生産と精製、N末端および内部アミノ酸配列の決定
アルカリモナス コラゲニマリナ AC40株を、前記表1に示す組成からなる500mLの液体培地に接種し、15℃、3日間振盪培養を行った。
培養液を遠心分離(7,500×g、30分間、4℃)し、得られた上清液480mLに対し、硫安を80%飽和になるように徐々に加え遠心分離(9,000×g、30分間、4℃)し、沈殿したタンパク質を回収した。回収したタンパク質を100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH10.0)に溶解した後、限外濾過により脱塩濃縮した。溶解したタンパク質を、予め100mMグリシン水酸化−ナトリウム緩衝液(pH10.0)にて平衡化しておいた DEAE Toyopearlカラムへ添着させ、0.22M塩化ナトリウムによりコラーゲン分解活性を有する吸着タンパク質を溶出した。
次いで、予め1M硫安を含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH10)で平衡化しておいたButyl Toyopearlカラムへ添着させた後、1M〜0.5M硫安の直線濃度勾配法により吸着タンパク質を溶出させた。コラーゲン分解活性画分を集め、限外ろ過にて濃縮脱塩を行った。濃縮液のSDS−PAGEを行ったところ、分子量60kDa付近に2本のタンパク質バンドが確認された。これらのバンドをPVDF膜(バイオラッド社製)にブロッティングし、アミノ酸シークエンサー(476A型、アプライドバイオシステムズ製)にてN末端からのアミノ酸配列を決定した。
両方のバンドのアミノ酸配列は一致しており、Ala−Gln−Gln−Thr−Pro−Tyr−Gly−Tyr−Thr−Met−Val−Gln−Ala−Asp−Gln−Val−Ser−Asp−Glnの19アミノ酸配列が決定された。したがって、2本のバンドは双方とも同一のコラーゲン分解酵素であると判断した。分子量の小さいバンドは、分子量の大きいバンドのC末端部分が欠損したものと考えられた。
次に、Achromobacter Protease I (Residue-specific Proteases Kit, タカラバイオ)を用いて精製コラーゲン分解酵素を部分的に切断し、得られたペプチドをSDS−PAGEにより分離した後、バンドのアミノ酸配列を解析した。その結果、Thr−Leu−Ala−Gly−Phe−Ser−Gln−Arg−Asn−Ala−Gln−Val−Glu−Leu−Ala−Gly−Pro−Gly−Val−Aspの20アミノ酸配列が決定された。
実施例3:コラーゲン分解酵素の性質
実施例2で得られた精製酵素(本発明酵素)を用いてその性質を検討した。
(1)最適反応pH:
2.5%(w/v)コラーゲン(シグマアルドリッチ)を含む100mMのpHが6.0から13.0の範囲の下記の種々の緩衝液を用いて、本発明酵素によるコラーゲン分解反応を行った。
pH6.0−8.0 ・・・ モルホリノプロパンスルホン酸−水酸化ナトリウム
(MOPS)、(●)
pH7.1−8.9 ・・・ トリス−塩酸、(○)
pH8.0−10.0 ・・・ ホウ酸−塩化カリウム−水酸化ナトリウム、(△)
pH8.5−11.1 ・・・ グリシン−水酸化ナトリウム、(■)
pH10.9−13.0 ・・ 塩化カリウム−水酸化ナトリウム、(▲)
その結果を図1に示す。この図からわかるように、本発明酵素はグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH8.5〜9.0)中で最も反応速度が高かった。
(2)最適反応温度
標準反応条件{2.5%(w/v)コラーゲン(シグマアルドリッチ)、1mM塩化カルシウムを含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9)0.09mL、酵素画分0.01mL}において、反応温度を5〜70℃に種々変化させ、本発明酵素によるコラーゲン分解反応を行った。その結果を図2に示す。この結果からわかるように、本発明酵素は40〜50℃で最も高い反応速度を示し、特に45℃で最も高い反応速度を示した。
(3)熱安定性
100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8)中に本発明酵素を添加して5〜55℃の各温度で15分間加熱処理を行ない、標準反応条件{2.5%(w/v)コラーゲン(シグマアルドリッチ)、1mM塩化カルシウムを含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9)0.09mL、酵素画分0.01mL}により残存活性を求めた。加熱前の活性を100%として加熱処理後の残存活性を図3に示す。本発明のコラーゲン分解酵素は、45℃までは安定で優れた活性を保持することが判った。また、塩化カルシウム(1mM)を添加して同様の試験を行なったところ、塩化カルシウムの添加によってその安定性を若干増加させることができた。
(4)基質特異性
同様に標準反応条件下においてコラーゲンの代わりに様々なタンパク質(カゼイン、ケラチン、ゼラチン、エラスチン)を添加し、これらのたんぱく質の分解反応を行った。その結果を図4に示す。ゼラチンに対する活性が最も高く、これを100%としてその他の各基質に対する反応性を相対活性とした。この結果からわかるように、本発明酵素は特にコラーゲンおよびゼラチンに対して大きな分解活性を示した。
(5)合成基質に対する作用
合成オリゴペプチド基質として表2に示すもの又は下記のものを用いて本発明のコラーゲン分解酵素の各種合成基質に対する反応性を調べた。
1mM塩化カルシウムを含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9)0.085mLに10mMの合成基質溶液0.005mLを混合し45℃で2分間恒温した後、酵素画分0.01mLを加え、5分間反応を行った。分光光度計を用いて405
nmにおける吸光度を20秒ごとに測定して、1分間あたりに遊離したp-ニトロアニリンを定量した。
N-メトキシスクシニル-Ala-Ile-Pro-Met-p-ニトロアニリド(AIPM)に対する活性が最も高く、これを100%としてその他の各合成基質に対する反応性を相対活性として表2に示す。
ここで、AIPMはN-メトキシスクシニル-Ala-Ile-Pro-Met-p-ニトロアニリド、AAPFはN-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド、AAPMはN-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Met-p-ニトロアニリド、AAPLはN-グルタリル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリド、AAVAはN-スクシニル-Ala-Ala-Val-Ala-p-ニトロアニリドである。また本発明酵素は、AIPMとAAPFに対して優れた活性を示し、AAPMとAAPLでもある程度の活性を示し、AAVAに対してわずかながら活性を示したが、AAPV(N-メトキシスクシニル-Ala-Ala-Pro-Val-p-ニトロアニリド)に対して全く活性を示さなかった。
次に、同様の方法によってコラゲナーゼ用の合成オリゴペプチド基質として-スクシニル-Gly-Pro-Leu-Gly-Pro-4-メチルクマリル-7-アミド(GPLGP)に対する反応性を調べた。反応組成、条件は上記と同様にし、分解により遊離する7-アミノ-4-メチルクマリンを分光光度計を用いて370nmにて測定した。その結果、本発明酵素はGPLGPを分解することはなく、活性を示さなかった。
(4)分子量
本発明酵素の分子量を10%SDS−PAGEにより測定した。分子量マーカーにはプレシジョンPlusデュアルスタンダード(バイオラッド)を用いた。その結果を図5に示す。この結果から本発明酵素の分子量は50〜70kDaであった。
(5)阻害剤
100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8)に、表3に示す各種阻害剤を所定濃度になるように加え、本発明酵素を添加し、15℃で15分間恒温した。その後、標準反応条件{2.5%(w/v)コラーゲン(シグマアルドリッチ)、1mM塩化カルシウムを含む100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9)0.09mL、酵素画分0.01mL}において、残存活性を測定した。その結果を表3に示す。
ここで、PMSFはフェニルメチルスルフォニルフルオライドであり、EDTAはエチレンジアミン四酢酸である。
表3に示すように、本発明のコラーゲン分解酵素は、セリンプロテアーゼの阻害剤であるPMSFより完全に阻害され、キレート剤であるEDTAにより活性が35%となった。
実施例4:コラーゲン分解酵素遺伝子のクローニング
染色体DNAを抽出するために、アルカリモナス コラゲニマリナ AC40株を表1に示す組成の10mLの液体培地に接種し、33℃で1日間振盪培養した。続いてGenomic−Tip100/G(キアゲン)を用いて菌体から染色体DNAを抽出した。
実施例2で得られた、N末端の19アミノ酸配列と内部の20アミノ酸配列を基に、それぞれ配列番号9に示すプライマー1(5‘−TAY GGN TAY ACN ATG GT−3’、ここでNはGATC、 YはCT、 RはAGを示す。)、配列番号10に示すプライマー2(5’−TCN ACY TGN GCR TTN CKY TG−3’、ここでKはGTを示す。)をデザインした。上記で精製した染色体DNAを鋳型に、プライマー1(配列番号9)とプライマー2(配列番号10)、EX Taq(タカラバイオ)を用いてPCRを行った。PCRの反応条件は、94℃で4分間変性後、94℃で1分間、51.2℃で30秒間、72℃で30秒間を1サイクルとしてこれを30サイクル行なった。その結果、約0.5kbのPCR増幅断片を取得した。得られたDNA断片をpCR4−Topo(TOPO TA PCR クローニングキット、インビトロジェン)に挿入し、M13フォワードプライマー(インビトロジェン)およびM13リバースプライマー(インビトロジェン)、Big Dye Teminator Cycle Sequencingキット(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてシーケンスを行い、コラーゲン分解酵素遺伝子の部分塩基配列を決定した。得られた増幅断片を基にプライマーを合成し、インバースPCR法とLA PCR in vitro Cloning キット(タカラバイオ)によりさらに上流と下流域の塩基配列を決定し、その中にプレプロ配列を含むコラーゲン分解酵素をコードする2283塩基対から成るオープンリーディングフレーム(配列番号2)を見出した。この塩基配列から配列番号1に示したアミノ酸配列を決定した。決定されたアミノ配列中には精製酵素のN末端アミノ酸配列(配列番号3の1〜19番目のアミノ酸)およびAchromobacter Protease Iによって部分消化して得られたペプチド断片のアミノ酸配列(配列番号3の183〜201番目のアミノ酸)が確認された。
実施例5:組換え酵素の生産
コラーゲン分解酵素遺伝子の5’末端(配列番号2の1〜19番目のヌクレオチド)にアニールするプライマー3(配列番号11、5‘−GGA ATT CCA TAT TC CAA ACC ACA TTT CT−3’、 下線部は新たに付加したNdeIサイトを示す)、さらに3’末端(配列番号2の2265〜2283番目のヌクレオチド)にアニールするプライマー4(配列番号12、5’−CCG GAA TTC TTA CTC GTA GCT AAC TTT C−3’、下線部は新たに付加したEcoRIサイトを示す)、PyrobestDNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いて、AC40株の染色体DNAを鋳型として、コラーゲン分解酵素をコードする遺伝子(配列番号2の両側にNdeIとEcoRIサイトを新しく付加した遺伝子)をPCRにより増幅した。得られたPCR増幅断片をNdeIとEcoRIで分解した後、同様に処理しておいたベクターpRSET−a(インビトロジェン)に導入し、組換えプラスミド(pRSET−AcpII)を調製した。この組換えプラスミドを用いて大腸菌TOP10株(インビトロジェン)を形質転換した。この形質転換体を2%スキムミルクと100μg/mLアンピシリンを含むLBプレート[1%トリプトン(ディフコ)、0.5%酵母エキス(ディフコ)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天]に生育させたところコロニーの周辺にスキムミルク溶解斑が認められた。
続いて、小型化コラーゲン分解酵素A(配列番号5)と小型化コラーゲン分解酵素B(配列番号7)を生産するための組換えプラスミドを調製した。小型化コラーゲン分解酵素A(配列番号5)と小型化コラーゲン分解酵素B(配列番号7)は、それぞれ配列番号3の441〜636番目のアミノ酸(配列番号4の1321〜1908番目のヌクレオチド)、551〜636番目のアミノ酸(配列番号4の1654〜1908番目のヌクレオチド)を削ったものである。プライマー6(配列番号14、5‘−ACC GCT GTC GCC AGC CAG−3’、配列番号2の1675〜1692番目のヌクレオチドにアニールする。)とプライマー7(配列番号15、5’−ACG ACG AGC AAT GCT GAT AT−3’、配列番号2の2006〜2025番目のヌクレオチドにアニールする。)、プライマー5(配列番号13、5‘−TAA GAA TTC GAA GCT TGA TCC−3’、コラーゲン分解酵素のストップコドンと、その下流域のpRSET−a(インビトロジェン)部分にアニールする)を設計した。コラーゲン分解酵素生産用の組換えプラスミド(pRSET−AcpII)を鋳型として、PyrobestDNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いたPCRにより、プライマー5(配列番号13)とプライマー6(配列番号14)を用いて小型化コラーゲン分解酵素A(配列番号5)を、プライマー5(配列番号13)とプライマー7(配列番号15)を用いて小型化コラーゲン分解酵素B(配列番号7)をコードするDNA断片をそれぞれ調製した。PCRの条件は、小型化コラーゲン分解酵素A(配列番号5)と小型化コラーゲン分解酵素B(配列番号7)ともに96℃で1分間変性後、96℃で30秒間、56℃で30秒間、72℃で1分間を1サイクルとして、これを30サイクル行なった。その後、それぞれのDNA断片を分子内で環状化させて小型化コラーゲン分解酵素の発現プラスミドとするために、DNA断片の5’末端をリン酸化してライゲーションした。小型化コラーゲン分解酵素A(配列番号5)、小型化酵素B(配列番号7)のヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号6、配列番号8に相当する。
得られたそれぞれの発現用プラスミドを用いて大腸菌BL21(DE3)pLysS株(インビトロジェン)を形質転換し、100μg/mLアンピシリン及び35μg/mLクロラムフェニコールを含むLB培地にて30℃、一晩好気的に振盪培養を行った結果、培養液中の小型化コラーゲン分解酵素A(配列番号5)、小型化コラーゲン分解酵素B(配列番号7)の生産量はそれぞれ0.44 P.U/L、0.61 P.U/Lであった。
本発明のコラーゲン分解酵素は、従来のたんぱく質分解酵素とはアミノ酸配列の異なる新規な酵素であり、特にコラーゲンとゼラチンに対して高い分解活性を有する。従って、コラーゲンとゼラチンを分解して低分子量化することができ、このような低分子量コラーゲンや低分子量ゼラチンを必要とする食品産業や保湿性や防シワ作用を利用する化粧品分野、或いは種々の医療分野において有用である。また、本発明により得られたこれらの酵素の遺伝子配列を利用することによって、遺伝子工学技術を用いてかかる酵素を容易に製造することができ、上記の産業分野での低分子量コラーゲンや低分子量ゼラチンの利用のために有用である。
本発明酵素の酵素活性とpHの関係を示す図である。 本発明酵素の温度依存性を評価するための酵素活性と温度の関係を示す図である。 本発明酵素の熱安定性を評価するための酵素活性と温度の関係を示す図である。 本発明酵素の種々のたんぱく質に対する酵素活性を示す図である。 本発明酵素のSDS−PAGEの結果を示す図である。

Claims (11)

  1. 次の理化学的性質を有する新規なコラーゲン分解酵素。
    (1)作用:
    カゼイン、ゼラチン、コラーゲン、ケラチンおよびエラスチンの蛋白質を分解し、特にコラーゲンおよびゼラチンに対して強い分解作用を有する。
    また、合成基質であるN-メトキシスクシニル-Ala-Ile-Pro-Met-p-ニトロアニリド、N-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe-p-ニトロアニリド、N-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Met-p-ニトロアニリド、N-グルタリル-Ala-Ala-Pro-Leu-p-ニトロアニリド、及びN-スクシニル-Ala-Ala-Val-Ala-p-ニトロアニリドに対して分解作用を有するが、N-メトキシスクシニル- Ala-Ala-Pro-Val-p-ニトロアニリド、及びN-スクシニル-Gly-Pro-Leu-Gly-Pro-4-メチルクマリル-7-アミドに対して分解作用を示さない。
    (2)最適反応pH: pH8.5〜9.0
    (3)最適反応温度及び熱安定性:
    最適反応温度は40〜50℃であり、45℃まで安定な酵素活性を有する。
    (4)分子量:
    ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分子量が、50,000〜70,000である。
    (5)阻害剤
    セリンプロテアーゼの阻害剤であるフェニルメチルスルフォニルフルオライドにより完全に阻害されるが、キレート剤であるエチレンジアミン四酢酸では10mM濃度で35%の残存活性を示す。
  2. 配列表の配列番号3で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の新規なコラーゲン分解酵素。
  3. 配列表の配列番号3で示されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載の新規なコラーゲン分解酵素。
  4. 配列表の配列番号5で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、新規なコラーゲン分解酵素。
  5. 配列表の配列番号7で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、新規なコラーゲン分解酵素。
  6. アルカリモナス コラゲニマリナ由来のものである、請求項1ないし5のいずれかに記載の新規なコラーゲン分解酵素。
  7. 配列表の配列番号1で示されるアミノ酸配列、又はこの配列中の1個もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有する、新規なコラーゲン分解酵素前駆体。
  8. 請求項1ないし7のいずれかに記載の新規なコラーゲン分解酵素またはその前駆体のアミノ酸配列をコードする遺伝子であって、下記(a)〜(h)からなる群、
    (a)配列番号3に示す成熟酵素を構成するアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
    (b)配列番号3に示す成熟酵素を構成するアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
    (c)配列番号5に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
    (d)配列番号5に示すアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
    (e)配列番号7に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
    (f)配列番号7に示すアミノ酸配列中の1個もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
    (g)配列番号2に示すヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、又は
    (h)配列番号2に示すヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコラーゲン分解活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
    から選ばれるコラーゲン分解酵素をコードする遺伝子。
  9. 請求項8に記載の遺伝子のいずれかを含有する組換えベクター。
  10. 請求項9に記載の組換えベクターにより形質転換された微生物。
  11. アルカリモナス コラゲニマリナ、又は請求項10に記載の形質転換された微生物を培養し、その培養液よりコラーゲン分解酵素を採取することを特徴とする、前記理化学的性質又は前記アミノ酸配列を有するコラーゲン分解酵素の製造方法。
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