以下、本発明の位相差板、これを用いた液晶表示素子用基板および液晶表示素子、ならびに位相差板の製造方法について詳細に説明する。
A.位相差板
まず、本発明の位相差板について説明する。
本発明の位相差板は、基材と、上記基材上に形成され、パターン状の凹部または凸部を有する樹脂層と、上記樹脂層上に形成され、板状分子を含有する配向層と、上記配向層上に形成され、液晶を固定化してなる位相差層とを有する位相差板であって、上記板状分子は、上記板状分子の法線方向が上記基材の一定方向を向いて配列したカラム構造を形成することを特徴とするものである。
本発明の位相差板について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の位相差板の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の位相差板11は、基材1と、この基材1上に形成され、パターン状の凹部を有する樹脂層2と、この樹脂層2上に形成され、板状分子を含有する配向層3と、この配向層3上に形成され、液晶を固定化してなる位相差層4とを有するものである。
図2(a)は、本発明に用いられる板状分子のモデル構造および法線方向を示した図であり、図2(b)は、本発明に用いられる配向層の概略斜視図である。図2(b)に示すように、この配向層においては、板状分子13は、樹脂層2の凹部に沿って、板状分子13の法線方向nが基材1の一定方向を向いて配列してカラム構造13´を形成し、このようなカラム構造13´が複数配列して配向層を構成している。本発明においては、配向層はこのように板状分子13が配列して構成されるものであるため、複数のカラム構造13´のカラムの軸方向は、基材1の一定方向を向いており、これにより配向能を有する配向層とすることができる。
このような配向層を形成する際には、パターン状の凹部または凸部を有する樹脂層上に例えば板状分子を含有する配向層形成用塗工液を塗布することにより、樹脂層表面の凹部に沿って板状分子からなるカラム構造を配列させることができるので、樹脂層の凹部または凸部のパターンを適宜選択することにより、カラム構造の配列方向を制御することができる。また、配向層上に形成される位相差層を構成する液晶は、このカラム構造の配列方向に応じて配向することから、樹脂層の凹部または凸部のパターンを適宜選択することにより、位相差層を構成する液晶の配向方向を制御することが可能である。すなわち、位相差板の光学軸を任意に設定することが可能となる。
また、パターン状の凹部を有する樹脂層は、例えば基材と表面に凸部を有する凹部形成用基板との間に樹脂組成物を挟み込んで樹脂組成物を硬化させ、凹部形成用基板を剥離することにより形成されることから、凹部形成用基板の凸部のパターンを選択することにより、所望の凹部のパターンを容易に形成することが可能である。
本発明の位相差板は、このような樹脂層および配向層を有することにより、簡便な方法で液晶の配向方向を制御することができ、所望の向きの光学軸を有する位相差板を容易に得ることができる。
また、一般に位相差板を偏光板と貼り合わせる際には、位相差板の光学軸が偏光板の吸収軸と特定の角度をなすように配置されるものであり、偏光板は通常長尺の高分子フィルムを一軸延伸して作製されるため、その吸収軸は長尺フィルムの長尺方向を向いている。本発明の位相差板は、基材として長尺フィルムを用いた場合にも上述したように所望の向きに光学軸を設定することが可能であるため、吸収軸が長尺フィルムの長尺方向に向いた偏光板と貼り合わせる場合であっても、そのまま貼り合わせることができるという利点を有する。
以下、このような位相差板の各構成部材について説明する。
1.樹脂層
本発明に用いられる樹脂層は、表面にパターン状の凹部または凸部を有しているものである。このような凹部または凸部のパターンの形状としては、板状分子からなるカラム構造を配向させて、配向能を有する層とすることが可能となる形状であれば特に限定されるものではないが、中でもストライプ状であることが好ましい。ストライプ状の凹部に沿って容易に板状分子からなるカラム構造を配向させることができるからである。
上記凹部の幅としては、後述する板状分子の種類等によっても異なるものであるが、通常0.1μm〜10μmの範囲内、より好ましくは0.2μm〜1μmの範囲内、特に0.2μm〜0.4μmの範囲内とすることが好ましい。凹部の幅を上記範囲よりも狭く形成するのは製造法的に困難であり、逆に凹部の幅を広くし過ぎると板状分子からなるカラム構造を配列させることが困難となる場合があるからである。ここで、凹部の幅とは、例えば図3のaで示される幅であり、凹状に形成されている部分の幅をいうこととする。
また、凹部の深さとしては、通常0.05μm〜1μmの範囲内、中でも0.1μm〜0.2μmの範囲内であることが好ましい。凹部の深さが浅すぎると板状分子からなるカラム構造を配向させる性能が低くなり、凹部の深さが深すぎると後述する位相差層を構成する液晶の配向に悪影響を及ぼす可能性があるからである。ここで、凹部の深さとは、例えば図3のbで示される深さであり、凹部内の最深部から凹部の端部までの高さをいうこととする。
さらに、凹部のパターンの形状がストライプ状である場合、凹部の間隔は、板状分子の種類等により異なるものであるが、通常隣接する凹部の端と凹部の端との間隔、すなわち凸部の幅が可視光の波長の半分以下であり、0.05μm〜2μmの範囲内、より好ましくは0.1μm〜1μmの範囲内、特に0.1μm〜0.2μmの範囲内であることが好ましい。隣接する凹部の端と凹部の端との間隔を上記範囲よりも狭く形成するのは製造法的に困難であり、逆に隣接する凹部の端と凹部の端との間隔を広くし過ぎると板状分子からなるカラム構造を配列させることが困難となる場合があるからである。また、隣接する凹部の端と凹部の端との間隔が可視光の波長に近い値であると、光の回折により光学的に色付き等の不具合が生じる可能性があるからである。ここで、隣接する凹部の端と凹部の端との間隔とは、例えば図3のcで示される間隔である。
また、凹部のピッチとしては、後述する板状分子の種類等により適宜選択されるものであるが、通常0.1μm〜10μmの範囲内、好ましくは0.2μm〜1μmの範囲内、特に0.2μm〜0.4μmの範囲内とすることが好ましい。凹部のピッチを上記範囲よりも狭く形成するのは製造法的に困難であり、逆に凹部のピッチを広くし過ぎると板状分子からなるカラム構造を配列させることが困難となる場合があるからである。ここで、凹部のピッチとは、例えば図3のdで示されるピッチであり、隣接する凹部の中心から凹部の中心までの距離をいうこととする。
上記凹部の断面形状としては特に限定されるものではなく、例えば図1に示すように矩形であってもよく、台形等その他の断面形状であってもよいが、中でも、矩形であること好ましい。これにより、板状分子からなるカラム構造を容易に配向させることが可能となるからである。
また、本発明に用いられる樹脂層は、硬化性樹脂からなることが好ましい。硬化性樹脂からなる樹脂層は、目的とする凹部に対応する凸部を表面に有する凹部形成用基板を準備し、この凹部形成用基板と後述する基材との間に硬化性樹脂組成物を挟んで硬化させることにより、容易に凹部を形成することができるからである。また、硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化性樹脂からなることにより、凹部の形状を安定化させることができるからである。
本発明に用いられる硬化性樹脂組成物としては、エネルギー線の照射により硬化するエネルギー線硬化性樹脂組成物、または熱により硬化する熱硬化性樹脂組成物を挙げることができる。本発明においては、中でもエネルギー線硬化性樹脂組成物が好ましい。上記エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、紫外線の照射により硬化するUV硬化性樹脂組成物、電子線の照射により硬化する電子線硬化性樹脂組成物等を挙げることができるが、中でもUV硬化性樹脂組成物が好ましい。エネルギー線として紫外線を用いる方法は、既に確立された技術であることから、本発明への応用が容易であるからである。
上記UV硬化性樹脂組成物としては、紫外線の照射により硬化するものであれば、特に限定されないが、多官能モノマー成分および/またはオリゴマー成分および/またはポリマー成分が光重合して硬化するものであることが好ましい。
上記多官能モノマー成分としては、特に限定されるものではないが、多官能アクリレートモノマーが好適に用いられる。具体的には、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等を例示することができる。
上記オリゴマー成分としては、特に限定されるものではないが、例えばウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシ、ビニルエーテル、ポリエン・チオール系等を挙げることができる。
また、上記ポリマー成分としては、特に限定されるものではないが、例えば光架橋型ポリマーが挙げられ、具体的には光二量化反応を起こすポリビニルケイ皮酸系樹脂等を使用することができる。
さらに、上記UV硬化性樹脂組成物に添加する光重合開始剤としては、紫外光、例えば365nm以下の紫外光で活性化し得る光ラジカル重合開始剤が用いられる。具体的には、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。本発明では、これらの光重合開始剤を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような光重合開始剤の含有量は、UV硬化性樹脂組成物中に、0.5〜30重量%の範囲内、特に1〜10重量%の範囲内とすることが好ましい。
また、上記UV硬化性樹脂組成物に使用可能な溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;α−またはβ−テルピネオール等のテルペン類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類を例示することができる。また、これらの溶剤の中から1種または2種以上を混合して使用することができる。
本発明においては、UV硬化性樹脂組成物に溶剤を添加せずに塗布する場合もある。よって、このような溶剤の含有量は、UV硬化性樹脂組成物中に、0〜99.9重量%の範囲内、特に0〜80重量%の範囲内とすることが好ましい。
上記光重合開始剤、および溶剤を上述した範囲内に設定した理由は、以下の通りである。本発明においては、上記硬化性樹脂組成物を基材および凸部を有する凹部形成用基板の間に挟んで硬化することにより、凹部を有する樹脂層を形成することができる。よって、硬化性樹脂組成物は凹部形成用基板の凹凸の隙間に入り込むような所定の粘度を有していることが好ましく、光重合開始剤および溶剤が上述した範囲内であることにより、所望の粘度を有する硬化性樹脂組成物とすることができるのである。
また、上記樹脂層の厚みとしては、本発明の位相差板の種類によって異なるものではあるが、凹部の厚みが通常1μm以下、好ましくは0.2μm以下とする。凹部の厚みが厚すぎると、本発明の位相差板が重厚となる可能性があるからである。また、位相差板の薄型化を考慮すると凹部の厚みは薄い方が好ましいが、薄すぎるものを形成するのは困難であることから、凹部の厚みは通常0.1μm以上である。ここで、凹部の厚みとは、例えば図3のeで示されるような凹部が形成されている部分の厚みである。
本発明に用いられる樹脂層はその表面に凹部または凸部が形成されているため、樹脂層表面は撥水性が高くなり、板状分子からなるカラム構造が十分に配向しない場合がある。本発明における配向層は、樹脂層上に配向層形成用塗工液を塗布することにより形成されることから、樹脂層表面は親水性であることが好ましい。この場合、樹脂層上に親水性層が設けられていてもよく、また、樹脂層の表面が親水化処理されたものであってもよい。上記親水性層としては、例えばテトラエトキシシランのゾルゲル法によるシリカ膜等を挙げることができる。また、上記樹脂層の表面を親水性となるように表面処理する方法としては、アルゴンや水などを利用したプラズマ処理による親水性表面処理等が挙げられる。
2.配向層
次に、本発明に用いられる配向層について説明する。本発明に用いられる配向層は、上記樹脂層上に形成され、板状分子を含有する層である。また、配向層に含有される板状分子は、板状分子の法線方向が基材の一定方向を向いて配列したカラム構造を形成するものである。この板状分子からなるカラム構造と、後述する位相差層を構成する液晶との相互作用により液晶が配向するので、配向層は液晶配向を制御する配向能を有するのである。また、このようなカラム構造が樹脂層の凹部に沿って配向することにより、カラム構造を容易に一定方向に揃えて配列させることができる。
本発明に用いられる板状分子は、板状分子の法線方向が基板の一定方向を向いて配列したカラム構造を形成するものである。
なお、ここでいう板状分子とは、少なくとも複数の芳香環構造を有し、分子のコア部分が平面状に配置されているものをいう。
このような板状分子としては、柱状に配列することによりカラム構造を形成することができるものであれば特に限定されるものではない。カラム構造を形成する板状分子としては、例えば、スルホン酸基等の親水性基を有する板状分子、または長鎖のアルキル基等の疎水性基を有する板状分子が挙げられる。中でも、親水性基を有する板状分子を用いることが好ましい。親水性基を有する板状分子は、この親水性基が小さく、隣接するカラム構造同士の距離が近いため、容易にカラム構造を配列させることができるからである。また、スルホン酸基等の親水部を中和して水に難溶もしくは不溶とすることで固定化処理が容易となるからである。上記親水性基としては、スルホン酸基、スルホン酸ナトリウム基、スルホン酸アンモニウム基、スルホン酸リチウム基、スルホン酸カリウム基等のスルホン酸系の親水性基、カルボキシル基、カルボン酸ナトリウム基、カルボン酸アンモニウム基、カルボン酸リチウム基、カルボン酸カリウム基等のカルボン酸系の親水性基、水酸基、アミノ基などが挙げられる。中でも、スルホン酸系の親水性基であることが好ましい。
なお、板状分子がカラム構造を形成しているとは、X線回折装置を用いて測定することにより確認することがきる。
本発明に用いられる板状分子としては、上記の中でも、溶液中でカラム構造を形成し、リオトロピック液晶性を示すものであることが好ましい。このように溶液中でリオトロピック液晶性を示す板状分子は自己組織化力が高いからである。例えば溶液中でリオトロピック液晶性を示す板状分子を含有する配向層形成用塗工液を塗布することにより、板状分子の自己組織化を利用してカラム構造を容易に配向させることができる。
このような溶液中でリオトロピック液晶性を示す板状分子としては、水溶液中でリオトロピック液晶性を示す板状分子、または有機溶媒中でリオトロピック液晶性を示す板状分子が挙げられる。上記の溶液の種類は、上記板状分子の置換基によって異なるものであり、板状分子がスルホン酸基等の親水性基を有する場合は水溶液が用いられ、長鎖のアルキル基等の疎水性基を有する場合は有機溶媒が用いられる。本発明においては、中でも、水溶液中でカラム構造を形成し、リオトロピック液晶性を示す板状分子を用いることが好ましい。このような板状分子は、水溶液中で自己組織化によりカラム構造を形成し、リオトロピック液晶性を示すので、この板状分子を含有する配向層形成用塗工液を塗布することにより、カラム構造を容易に配向させることができるからである。さらに、上記板状分子が水溶性であることにより、上記カラム構造を固定化するための固定化処理が容易となるからである。
上記水溶液中でカラム構造を形成し、リオトロピック液晶性を示す板状分子の具体例としては、下記化学式で示される物質が挙げられる。
上記各化学式中のアルキル基は、炭素原子1〜4個を有するものであることが好ましい。また、上記各化学式中のハロゲンとしては、Cl、Brであることが好ましい。さらに、上記各化学式中のカチオンとしては、H+、Li+、Na+、K+、Cs+またはNH4 +が挙げられる。これらの物質は単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明に用いられる板状分子としては、上記の物質の中でも上記化学式I〜Vで表される物質が好適に用いられる。
また、上記板状分子としては、上述したようなリオトロピック液晶性を示すものに限定されるものではなく、サーモトロピック液晶性を示すものであってもよい。
さらに、本発明に用いられる配向層としては、上記板状分子の他に、液晶材料を含有していてもよい。例えば、板状分子からなるカラム構造が樹脂層の凹部に沿って配向しにくい場合でも、液晶材料を凹部に沿って配向させることにより、この液晶材料の配向方向に沿って板状分子からなるカラム構造を配向させることができるからである。上記液晶材料としては、一般に配向層に用いることができる液晶材料を使用することができる。また、上記液晶材料と板状分子との液晶組成物は、リオトロピック液晶性を示すものであっても、サーモトロピック液晶性を示すものであってもよいが、通常はサーモトロピック液晶性を示すものが用いられる。
本発明に用いられる配向層の厚みは、本発明の位相差板の要求特性に応じて異なるものであるが、通常、10nm〜1000nmの範囲内が好ましく、20nm〜500nmの範囲内がより好ましく、50nm〜300nmの範囲内がさらに好ましい。配向層の厚みが薄すぎると液晶の配向を十分に制御できない場合があり、一方、厚すぎると表面近傍で配向乱れを生じる場合があり、コスト的にも好ましくないからである。
また、上記配向層の透過率は、可視光領域おいて80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。なお、上記透過率は、スペクトルフォトメーター(トプコン社製 SR−3)を用いて、40cmの距離で測定した値とする。
このような配向層は、上記板状分子を含有する配向層形成用塗工液中で、上記板状分子からなるカラム構造を形成させ、この配向層形成用塗工液を塗布することで、カラム構造を維持した状態で、上記樹脂層上に形成することができる。なお、配向層の形成方法については、後述する「D.位相差板の製造方法」の項で詳しく説明するので、ここでの記載は省略する。
3.位相差層
次に、本発明に用いられる位相差層について説明する。本発明に用いられる位相差層は、液晶を固定化してなるものである。この液晶は、上述した配向層の板状分子からなるカラム構造と相互作用することにより配向するものであり、また、板状分子からなるカラム構造は、上述したように樹脂層の凹部に沿って配向するものであることから、本発明においては、樹脂層の凹部または凸部のパターンを適宜選択することにより、液晶の配向方向を任意に設定することができる。また、位相差板の光学軸は、液晶の配向方向を向いていることから、本発明においては、所望の光学特性をもつ位相差板を容易に安価に提供することが可能である。
本発明に用いられる位相差層は液晶を固定化してなるものであり、液晶の配向状態を固定化することにより形成される。この位相差層に用いられる液晶としては、所定の温度で液晶性を示す材料であれば特に限定されるものではない。また、重合性をもたない高分子液晶材料であってもよく、また重合性液晶材料であってもよい。
重合性液晶材料としては、重合性液晶モノマー、重合性液晶オリゴマー、および重合性液晶高分子のいずれかを用いることが可能である。一方、重合性をもたない高分子液晶材料としては、液晶の配向状態が位相差板の保管もしくは使用温度において一定である必要があることから、比較的アイソトロピック相となる温度の高い液晶材料が好適に用いられる。
本発明においては、中でも重合性液晶材料を用いることが好ましい。重合性液晶材料は、後述するように活性照射線の照射等により重合させて配向状態を固定化することが可能であるので、液晶の配向を低温状態で容易に行うことが可能であり、かつ使用に際しては配向状態が固定化されているので、温度等の使用条件にかかわらず使用することができるからである。
また、重合性液晶材料の中でも、重合性液晶モノマーが好適に用いられる。重合性液晶モノマーは、重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子と比較して、より低温で配向が可能であり、かつ配向に際しての感度も高いことから、容易に配向させることができるからである。このような重合性液晶モノマーとしては、一般に位相差板に用いられるものを使用することができる。
さらに、本発明に用いられる液晶の液晶性としては特に限定されるものではなく、ネマチック液晶、スメクチック液晶、コレステリック液晶、ディスコチック液晶などが挙げられる。
ネマチック液晶性を示す重合性液晶モノマーとしては、例えば下記化学式で示される化合物が挙げられる。
上記化学式(1)において、Xは、水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルケニル、炭素数1〜20のアルキルオキシ、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、ホルミル、炭素数1〜20のアルキルカルボニル、炭素数1〜20のアルキルカルボニルオキシ、ハロゲン、シアノまたはニトロを表す。また、mは2〜20の範囲内の整数を表す。
また、コレステリック液晶性を示す重合性液晶モノマーとしては、例えば上述の化学式(1)で示される化合物、あるいは、下記化学式で示される化合物が挙げられる。
さらに、ディスコチック液晶性を示す重合性液晶材料としては、例えばWVフィルム(商品名、富士写真フィルム社製)の形成に用いられているような重合処理が可能なトリフェニレン系ディスコチック液晶、あるいは、下記化学式で示される化合物が挙げられる。
本発明においては、上記の中でも上記化学式(1)で表される化合物が好適に用いられる。上記化学式(1)で表される化合物は、上述したようにネマチック液晶性を示すものであり、コレステリック液晶性を示すものである。上記化学式(1)において、Xとしては、炭素数1〜20のアルキルオキシカルボニル、メチルまたは塩素であることが好ましく、特にメチルであることが好ましい。
本発明における位相差層は、必要に応じて光重合開始剤を含有していてもよい。例えば紫外線(UV)照射により重合性液晶材料を重合させる際には、通常、光重合開始剤が重合促進のために用いられるからである。この光重合開始剤としては、一般に重合性液晶材料を重合させるために用いられるものが使用される。また、光重合開始剤の他に増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。
本発明に用いられる位相差層の厚みとしては、必要な光学異方性に準じて決定すればよいが、通常0.1μm〜10μmの範囲内であり、0.3μm〜6μmの範囲内であることが好ましい。位相差層の厚みが厚すぎると必要以上の光学異方性が生じてしまい、また薄すぎると所定の光学異方性が得られない場合があるからである。
4.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材は、基板のみから構成されていてもよく、基板と機能層とから構成されていてもよい。以下、このような基材の各構成について説明する。
(1)基板
本発明に用いられる基板としては、一般に位相差板に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英板等の可撓性のない透明なリジッド材、あるいは、透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の可撓性を有する透明なフレキシブル材を用いることができる。
また、本発明に用いられる基板としては、長尺の基板であってもよく、ウェブ状の基板であってもよいが、長尺の基板であることが好ましい。本発明においては、基材の長尺方向に対して特定の角度をなす光学軸を有する位相差板とすることが可能であるため、基材の長尺方向に吸収軸が向いた偏光板と貼り合わせる際に、そのまま貼り合わせることができるという利点を有するからである。
さらに、長尺の基板の中でも、長尺の透明なフレキシブル材を用いることが好ましい。ロールトゥロールプロセスを経ることにより連続的に位相差板を作製することができ、製造効率のよい位相差板とすることが可能であるからである。このような長尺の透明なフレキシブル材としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ポリプロピレン等の透明樹脂フィルムを挙げることができる。
本発明おいては特に、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムが好ましい。TACフィルムは、透明性が高く位相差が生じにくいといった光学特性、および汎用性に優れているからである。
(2)機能層
本発明においては、上記基板上に機能層が形成されていてもよい。本発明に用いられる機能層としては、一般に液晶表示素子に用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えばカラーフィルタ層等を挙げることができる。
上記カラーフィルタ層としては、一般に液晶表示素子のカラーフィルタ層として用いられているものであれば特に限定されるものではなく、顔料や樹脂を用いたものを使用することができる。また、各色の間にブラックマトリックスが形成されていてもよい。
(3)その他
本発明においては、基材と樹脂層との密着性を向上させるために、基材に表面処理を行ってもよい。具体的には、グロー放電処理、コロナ放電処理、UV処理、ケン化処理等を用いることができる。また、基材上にプライマー層を形成してもよい。さらに、硬化性樹脂から基材を保護する目的でプライマー層(バリア層)を設けてもよい。このようなプライマー層としては、例えばシラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
5.位相差板
本発明の位相差板の膜厚は、その位相差板の用途や種類により適宜選択されるものであるが、通常50μm〜500μmの範囲内とすることができる。
B.液晶表示素子用基板
次に、本発明の液晶表示素子用基板について説明する。
本発明の液晶表示素子用基板は、上述した位相差板と、偏光板と、電極層と、配向膜とを有することを特徴とするものである。
本発明の液晶表示素子用基板について図面を参照しながら説明する。図4は本発明の液晶表示素子用基板の一例を示す概略断面図である。図4に示すように、本発明の液晶表示素子用基板は、基材1、上記基材1上に形成された樹脂層2、上記樹脂層2上に形成された配向層3、および上記配向層3上に形成された位相差層4を有する位相差板11と、上記位相差板11の基材1上に形成された偏光板5と、上記位相差板11の位相差層4上に形成された電極層6と、上記電極層6上に形成された配向膜7とを有するものである。
一般の液晶表示素子では、液晶セルの両側に偏光板が貼付され、片方の偏光板は位相差板と貼り合わされて用いられている。このように、位相差板は通常、偏光板と貼り合わされるものであるが、位相差板は液晶表示素子の視野角依存性を改善するために用いられることから、位相差板の光学軸が、液晶セルの走査線方向や偏光板の吸収軸と特定の角度をなすように配置される必要がある。したがって、偏光板と貼り合わせる際には、偏光板の吸収軸に対して、位相差板の光学軸が所定の方向となるように配置しなければならない。例えば、長尺の位相差板と長尺の偏光板とを貼り合わせようとすると、一軸延伸のPVAフィルムにヨウ素を含浸させてなる偏光板ではその吸収軸がフィルムの長尺方向を向いていることから、上述したような配置とするには、フィルムの長尺方向に対して特定の角度をなす光学軸をもつ位相差板が必要となる。また、従来では、位相差板あるいは偏光板のいずれかを所定の寸法に切断して、位相差板の光学軸および偏光板の吸収軸を所定の向きに配置して貼り合わせなければならず、手間がかかるという不具合があった。
本発明においては、上述した位相差板を用いることから、位相差板の光学軸を任意の角度に設定することができるので、フィルムの長尺方向に吸収軸が向いている偏光板と貼り合わせる場合であっても、所定の寸法に切断することなく、そのまま貼り合わせることが可能である。
また本発明において、位相差板の位相差層および偏光板が、位相差板の基材よりも配向膜側に形成されている場合、本発明の液晶表示素子用基板を用いて液晶表示素子とした際に、基材の内側に位相差層および偏光板が形成されることになるので、基材の複屈折による影響を受けなく、基材に用いる材料の選択肢が広がるため、液晶表示素子の薄型化および軽量化を図ることができ、さらには製造コストの削減にもつながる。
以下、このような液晶表示素子用基板の各構成について説明する。なお、基材、樹脂層、配向層、位相差層および位相差板については、上述した「A.位相差板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
1.配向膜
本発明に用いられる配向膜は、本発明の液晶表示素子用基板を用いて液晶表示素子とした際に、液晶を配向させるものであり、液晶表示素子用基板の最表面に形成されるものである。
本発明に用いられる配向膜としては、液晶を配向させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えばラビング膜、光配向膜等を用いることができる。この配向膜の形成位置としては、液晶表示素子用基板の最表面であれば特に限定されるものではなく、例えば図4に示すように位相差板11の位相差層4が設けられている側の最表面であってもよく、図示しないが位相差板の基材が設けられている側の最表面であってもよいが、基材の複屈折による影響を考慮すると、配向膜は位相差板の位相差層が設けられている側の最表面に形成されていることが好ましい。
2.電極層
本発明に用いられる電極層としては、一般に液晶表示素子の電極層として用いられているものであれば特に限定されるものではなく、例えば酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)等の透明電極や、クロム、アルミニウム等の金属電極などが挙げられる。
上記電極層の形成位置としては、上記配向膜と位相差板の基材との間であって、樹脂層と配向層との間あるいは配向層と位相差層との間以外の位置であれば特に限定されるものではない。例えば上記配向膜が位相差板の位相差層側に形成されている場合、電極層の形成位置としては、図4に示すように位相差板11の位相差層4と配向膜7との間であってもよく、また図示しないが、位相差板の基材と樹脂層との間であってもよい。また、基材が基板と機能層とを有する場合は、基板と機能層との間に電極層が形成されていてもよい。一方、上記配向膜が位相差板の基材側に形成されている場合、電極層の形成位置としては、位相差板の基材と配向膜との間であってもよく、基材が基板と機能層とを有する場合は基板と機能層との間であってもよい。
3.偏光板
本発明に用いられる偏光板は、入射光を直線偏光とし、本発明の液晶表示素子用基板を液晶表示素子に用いた場合、液晶セルの液晶分子の配向方向に偏光した光のみを透過する機能を有するものである。本発明に用いられる偏光板としては、光の波動のうち特定方向のみを透過させるものであれば特に限定されるものではなく、一般に液晶表示素子の偏光板として用いられるものを使用することができる。
上記偏光板の形成位置としては、樹脂層と配向層との間あるいは配向層と位相差層との間以外の位置であれば特に限定されるものではない。例えば、上記配向膜が位相差板の位相差層側に形成されている場合、偏光板の形成位置としては、図4に示すように位相差板11の基材1の外側であってもよく、図示しないが位相差板の基材と樹脂層との間であってもよく、位相差板の位相差層と配向膜との間であってもよい。また、基材が基板と機能層とを有する場合は、基板と機能層との間に偏光板が形成されていてもよい。一方、上記配向膜が位相差板の基材側に形成されている場合、偏光板の形成位置としては、位相差板の位相差層の外側であってもよく、位相差板の基材と樹脂層との間に形成されていてもよく、位相差板の基材と配向膜との間に形成されていてもよい。また、基材が基板と機能層とを有する場合は、上述したように基板と機能層との間に偏光板が形成されていてもよい。
本発明においては、偏光板と、位相差層とは、いずれを配向膜に近い側に配置してもよいが、光学補償効果を考慮すると配向膜に近い側に位相差層が形成されていることが好ましい。また、基材の複屈折による影響を考慮すると、偏光板は基材よりも配向膜側に形成されていることが好ましい。さらに、層の界面における屈折率を考慮すると、偏光板は、位相差層と接するように配置されていることが好ましい。
C.液晶表示素子
次に、本発明の液晶表示素子について説明する。
本発明の液晶表示素子は、上述した位相差板を用いることを特徴とするものである。
本発明においては、液晶表示素子が上述した位相差板を有することから、液晶セルの走査線方向に対して光学軸が所定の角度をなすように位相差板を配置する際には、位相差板の光学軸を任意に設定することができるので、従来のように位相差板を所定の寸法に切断する必要がなく、製造効率のよい液晶表示素子とすることができる。
本発明の液晶表示素子としては、液晶セルと位相差板とが積層されたものであれば特に限定されるものではない。また、液晶セルとしては、一般に液晶表示素子に用いられるものを使用することが可能である。
また本発明においては、液晶表示素子が上述した液晶表示素子用基板を用いたものであることが好ましい。上記液晶表示素子用基板において、位相差板の位相差層および偏光板が、位相差板の基材よりも配向膜側に形成されている場合、すなわち、本発明の液晶表示素子において、基材の内側に位相差層および偏光板が形成されている場合は、基材の複屈折による影響を受けないため、基材に用いる材料の選択肢が広がるので、液晶表示素子の薄型化および軽量化を図ることができるからである。これは、製造コストの削減にもつながるものである。
D.位相差板の製造方法
次に、本発明の位相差板の製造方法について説明する。
本発明の位相差板の製造方法は、基材上またはパターン状の凸部を有する凹部形成用基板上に硬化性樹脂組成物を塗布する塗布工程、上記基材および上記凹部形成用基板を、上記硬化性樹脂組成物を挟んで重ね合わせる配置工程、上記硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化性樹脂とする硬化工程、および、上記硬化性樹脂組成物または上記硬化性樹脂から上記凹部形成用基板を剥離してパターン状の凹部を形成する凹部形成工程を行うことにより樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
上記樹脂層上に板状分子を含有する配向層形成用塗工液を塗布し、上記樹脂層の凹部により上記板状分子をカラム構造が形成されるように配向させて塗膜を形成する塗膜形成工程、上記塗膜を乾燥する乾燥工程、および、上記板状分子の配向状態を固定化する固定化工程を行うことにより配向層を形成する配向層形成工程と、
上記配向層上に液晶組成物を塗布し、上記配向層により液晶を配向させ、上記液晶の配向状態を固定化することにより位相差層を形成する位相差層形成工程と
を有するものである。
本発明の位相差板の製造方法について図面を参照しながら説明する。図5は、本発明の位相差板の製造方法の一例を示す工程図である。図5に示すように、本発明の位相差板の製造方法においては、まず、基材1上に硬化性樹脂組成物22を塗布し(図5(a)、塗布工程)、基材1およびパターン状の凸部を有する凹部形成用基板25を硬化性樹脂組成物22を挟んで重ね合わせ、エネルギー26を照射することにより硬化性樹脂組成物22を硬化させる(図5(b)、配置工程および硬化工程)。さらに、凹部形成用基板25を剥離することにより、パターン状の凹部を有する樹脂層2が形成される(図5(c)、凹部形成工程)。このようにして樹脂層形成工程が行われる。
次に、上記樹脂層2上に板状分子を含有する配向層形成用塗工液23を塗布し、樹脂層2の凹部により板状分子をカラム構造が形成されるように配向させ、塗膜を形成する(図5(d)、塗膜形成工程)。さらに、上記塗膜を乾燥させる乾燥工程を行い、この乾燥した塗膜23´上に疎水化処理液27を塗布して疎水化処理し、上記板状分子の配向状態を固定化する(図5(e)、固定化工程)。次いで、上記疎水化処理液を洗浄して乾燥することにより、配向層3を形成する(図5(f))。このようにして配向層形成工程が行われる。
最後に、配向層3上に液晶組成物24を塗布し、上記液晶組成物24中の液晶が液晶相となるように配向処理して上記配向層3により液晶を配向させる(図5(g))。さらに、紫外線28を照射して液晶を重合させ、配向状態を固定化することにより位相差層4を形成する(図5(h))。このようにして位相差層形成工程が行われる。
本発明においては、樹脂層の凹部によって板状分子からなるカラム構造を配向させることにより、配向能を有する配向層が形成されるものであり、また、配向層の配向能を利用して液晶を配向させることにより位相差層が形成されるものである。さらに、上記樹脂層は、凹部形成用基板の凸部が複製されることにより形成されるものであることから、本発明においては、凹部形成用基板の凸部の形状を適宜選択することにより、位相差層の液晶の配向方向を制御することが可能となる。よって、凹部形成用基板の凸部の形状を適宜選択することにより、任意の方向に光学軸をもつ位相差板を容易に製造することが可能である。したがって、長尺の透明樹脂フィルムの長尺方向に対して特定の角度をなすように液晶を配向させた位相差板や、ウェブ状のガラス基板の斜め方向に液晶を配向させた位相差板を容易に製造することができるのである。また、このような凹部形成用基板の原版を一度作製するだけで、任意の方向に光学軸をもつ位相差板を大量に製造できるため、製造効率が向上するという利点も有する。
また、本発明により製造された位相差板は、基材として長尺フィルムを用いた場合、上述したように所望の向きに光学軸を設定することが可能であるため、吸収軸が長尺フィルムの長尺方向に向いた偏光板と貼り合わせる際には、そのまま貼り合わせることができるという利点を有する。さらに、ウェブ状の基材を用いた場合、ウェブ状の基材の斜め方向に光学軸をもつ位相差板を製造することが可能であるため、この場合も同様に、従来のように所定の寸法に切断することなく、そのまま偏光板と貼り合わせることができる。
以下、このような位相差板の製造方法の各工程について説明する。
1.樹脂層形成工程
本発明における樹脂層形成工程は、基材上またはパターン状の凸部を有する凹部形成用基板上に硬化性樹脂組成物を塗布する塗布工程と、上記基材および上記凹部形成用基板を、上記硬化性樹脂組成物を挟んで重ね合わせる配置工程と、上記硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化性樹脂とする硬化工程と、上記硬化性樹脂組成物または上記硬化性樹脂から上記凹部形成用基板を剥離してパターン状の凹部を形成する凹部形成工程とを有するものである。
以下、このような樹脂層形成工程の各工程について説明する。
(1)塗布工程
本発明における樹脂層形成工程においては、まず、基材上またはパターン状の凸部を有する凹部形成用基板上に硬化性樹脂組成物を塗布する塗布工程が行われる。
以下、本工程に用いられる凹部形成用基板および硬化性樹脂組成物の塗布方法について説明する。
(凹部形成用基板)
まず、本工程に用いられる凹部形成用基板について説明する。本工程に用いられる凹部形成用基板は、表面にパターン状の凸部を有するものである。また、この凸部は、目的とする樹脂層の凹部に対して対称となるように形成されているものである。
本発明に用いられる凹部形成用基板が有する凸部の形状としては、目的とする樹脂層の凹部を形成することができるようなものであれば、特に限定されない。なお、凸部の幅、高さ、形状およびパターン等は、上述した樹脂層の凹部と対応するものであるので、ここでの説明は省略する。
また、上記凹部形成用基板としては、可撓性を有するもの、例えば樹脂フィルム等であってもよいし、可撓性を有さないもの、例えばガラス等であってもよい。本発明においては、凹部形成用基板は繰り返し用いられるものであることから、所定の強度を有する材料が好適に用いられる。具体的には、ガラス、セラミック、金属、プラスチック等を挙げることができる。このような材料は、後述する凸部の形成方法により、適宜選択されるものである。さらに、上記凹部形成用基板は、後述する硬化工程における硬化性樹脂組成物を硬化させる際のエネルギーの照射方法により適宜選択される。すなわち、凹部形成用基板側からエネルギー線を照射する場合は、透明な材料であることが必要であるが、基材側からエネルギー線を照射する場合は、特に透明な材料に限定されるものではない。
上記凹部形成用基板は、凹凸用円筒ドラムにより移動していてもよく、さらには凹部形成用基板自体が凹凸用円筒ドラムを構成している、すなわち凹凸用円筒ドラムの表面に凸部が形成されていてもよい。ロールトゥロールプロセスを経ることにより、基材上に凹部を連続的に複製することができ、製造効率が向上するからである。また、このような凹部形成用基板の原版を一度作製するだけで、任意の方向に光学軸をもつ位相差板を大量に製造できるため、製造効率をより一層向上させることができる。
このような凸部の形成方法としては、例えばガラスや樹脂フィルム等をパターニングする方法、ガラス等の表面に感光性樹脂層等を塗布して、この感光性樹脂層をパターニングする方法などを用いることができる。パターニング方法としては、一般的な方法を用いることが可能であり、例えばフォトリソグラフィー法、スパッタ法、また機械的に切削する方法等が挙げられる。さらに、斜め蒸着法、ラビング法等を用いることもできる。
(硬化性樹脂組成物の塗布方法)
本工程においては、硬化性樹脂組成物は、基材上に塗布してもよく、凹部形成用基板上に塗布してもよいものである。また、基材と凹部形成用基板とを所定の間隙をおいて固定し、その間に硬化性樹脂組成物を流し込み、塗布するものであってもよい。
上記硬化性樹脂組成物の塗布方法としては、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップコート法、カーテンコート法(ダイコート法)等が挙げられる。
塗布された硬化性樹脂組成物の膜厚としては、0.1〜30μmの範囲内、中でも0.2〜10μmの範囲内であることが好ましい。膜厚が上記範囲より薄すぎると、硬化性樹脂組成物への凹部の複製が十分に行われない可能性があるからである。また、膜厚が厚すぎると、本発明により製造された位相差板が重厚となる可能性があるからである。また、基材がフィルムである場合、塗布面がカールしやすくなるという不具合が生じる可能性があるからである。
また、上記硬化性樹脂組成物が所望の膜厚となるように、塗布量を制御して上述した方法により塗布してもよく、塗布した後に余剰な硬化性樹脂組成物を取り除いてもよい。余剰な硬化性樹脂組成物を取り除く方法としては、ローラーを用いて取り除く方法、ドクターを用いて掻き取る方法等が挙げられる。また、このような余剰な硬化性樹脂組成物を取り除く工程は、塗布工程後に行ってもよく、後述する配置工程後に行ってもよい。
なお、基材および硬化性樹脂組成物については、上述した「A.位相差板」の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
(2)配置工程
次に、本発明における樹脂層形成工程の配置工程について説明する。本発明における配置工程は、上記基材および上記凹部形成用基板を、上記硬化性樹脂組成物を挟んで重ね合わせる工程である。
上記基材および凹部形成用基板の配置方法としては、塗布された硬化性樹脂組成物が基材および凹部形成用基板と接するように配置されていれば特に限定されないが、硬化性樹脂組成物が基材と密着するように配置されることが好ましい。硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化性樹脂からなる樹脂層は基材上に形成されるため、硬化性樹脂組成物が基材と密着することが好ましいからである。また、上記基材と上記凹部形成用基板とは、硬化性樹脂組成物が目的の膜厚となるように、間隙をおいて配置されることが好ましい。
また、上記基材と上記硬化性樹脂組成物との密着性を向上させるために、基材に表面処理行うことが好ましい。具体的には、グロー放電処理、コロナ放電処理、UV処理、ケン化処理等を用いることができる。また、基材上にプライマー層を形成してもよい。さらに、硬化性樹脂から基材を保護する目的でプライマー層(バリア層)を設けてもよい。このようなプライマー層としては、例えばシラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
(3)硬化工程
本発明における樹脂層形成工程においては、上記硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化性樹脂とする硬化工程が行われる。
上記硬化性樹脂組成物の硬化方法としては、エネルギー線を照射する方法、加熱する方法等を挙げることができるが、本発明においてはエネルギー線を照射する方法を用いることが好ましい。本発明でいうエネルギー線とは、硬化性樹脂組成物に含まれるモノマーおよびポリマーに対して重合を起こさせる能力があるエネルギー線を示すものである。
エネルギー線としては、硬化性樹脂組成物を重合せさることが可能なエネルギー線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光線が使用され、波長が150〜500nm、好ましくは250〜450nm、さらに好ましくは300〜400nmの照射光が用いられる。
本発明においては、紫外線(UV)をエネルギー線として照射する方法が好ましい方法であるといえる。活性放射線としてUVを用いる方法は、既に確立された技術であることから、用いる光重合開始剤を含めて、本発明への応用が容易であるからである。
この照射光の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが例示できる。なかでもメタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ灯等の使用が推奨される。また、照射強度は、硬化性樹脂組成物の組成や光重合開始剤の多寡によって適宜調整されて照射される。
また、硬化性樹脂組成物を硬化することにより得られる硬化性樹脂の膜厚としては、0.1〜30μmの範囲内、中でも0.2〜10μmの範囲内であることが好ましい。膜厚が厚すぎると、本発明により製造された位相差板が重厚となる可能性があるからである。また、膜厚が薄すぎると、強靭性に劣るからである。
本発明において、硬化工程は、上記塗布工程後、上記配置工程後、または凹部形成工程中のいずれに行ってもよいものである。すなわち、硬化性樹脂組成物を基材または凹部形成用基板上に塗布した後に硬化させる(塗布工程後、第1の態様)、硬化性樹脂組成物を挟んで基材および凹部形成用基板を重ね合わせて配置した後に硬化させる(配置工程後、第2の態様)、または、硬化性樹脂組成物から凹部形成用基板を剥離した後に硬化させる(凹部形成工程中、第3の態様)のどの場合で行ってもよいものである。以下、各態様について説明する。
(第1の態様)
本発明において、硬化工程の第1の態様は、硬化性樹脂組成物を基材または凹部形成用基板上に塗布し、エネルギーを照射して上記硬化性樹脂組成物を硬化し、硬化して得られる硬化性樹脂を挟んで基材および凹部形成用基板を重ね合わせて配置し、上記硬化性樹脂から凹部形成用基板を剥離し、凹部を形成するものである。
この際、上記硬化性樹脂組成物を硬化させるためのエネルギー線の照射方向としては、基材または凹部形成用基板側からでもよく、硬化性樹脂組成物側からでもよい。ただし、基材または凹部形成用基板上に硬化性樹脂組成物を塗布し、基材または凹部形成用基板側から照射する場合は、基材または凹部形成用基板が透明材料である必要がある。
また、基材上に硬化性樹脂組成物を塗布して硬化させる場合は、硬化して得られる硬化性樹脂の表面に凹部形成用基板を配置して、凹部を複製することから、硬化後も硬化性樹脂は所定の粘度を有している必要がある。よって、硬化性樹脂組成物を完全に硬化させないことが好ましく、硬化性樹脂の表面に凹部形成用基板を配置した後、または硬化性樹脂から凹部形成用基板を剥離した後に、再度硬化させてもよい。
(第2の態様)
本発明において、硬化工程の第2の態様は、硬化性樹脂組成物を基材または凹部形成用基板上に塗布し、上記硬化性樹脂組成物を挟んで基材および凹部形成用基板を重ね合わせて配置し、エネルギーを照射して上記硬化性樹脂組成物を硬化し、硬化して得られる硬化性樹脂から凹部形成用基板を剥離し、凹部を形成するものである。
この際、上記硬化性樹脂組成物を硬化させるためのエネルギー線の照射方向としては、凹部形成用基板側からでもよく、基材側からでもよい。ただし、基材側から照射する場合は、基材が透明材料である必要があり、凹部形成用基板側から照射する場合は、凹部形成用基板が透明材料である必要がある。
(第3の態様)
本発明において、硬化工程の第3の態様は、硬化性樹脂組成物を基材または凹部形成用基板上に塗布し、上記硬化性樹脂組成物を挟んで基材および凹部形成用基板を重ね合わせて配置し、上記硬化性樹脂組成物から凹部形成用基板を剥離し、エネルギーを照射して上記硬化性樹脂組成物を硬化し、凹部を形成するものである。
この際、上記硬化性樹脂組成物を硬化させるためのエネルギー線の照射方向としては、硬化性樹脂組成物側からでもよく、基材側からでもよい。ただし、基材側から照射する場合は、基材が透明材料である必要がある。
また、硬化性樹脂組成物から凹部形成用基板を剥離した後に、硬化性樹脂組成物を硬化させることから、硬化性樹脂組成物は凹部形成用基板を剥離した後も凹部を維持している必要がある。よって、硬化性樹脂組成物が所定の粘度を有するように、硬化性樹脂組成物から凹部形成用基板を剥離する前に、予め半硬化状態とさせてもよい。
(4)凹部形成工程
本発明における樹脂層形成工程においては、上記硬化性樹脂組成物または上記硬化性樹脂から上記凹部形成用基板を剥離してパターン状の凹部を形成する凹部形成工程が行われる。
上記硬化性樹脂組成物もしくは上記硬化性樹脂から凹部形成用基板を剥離する方法としては、硬化性樹脂組成物もしくは硬化性樹脂が凹部形成用基板から剥がれ、基材に密着しており、かつ凹部が形成されていれば、特に限定されるものではない。
また、本発明においては、凹部形成用基板が凹凸用円筒ドラムにより移動し、基材が基材用円筒ドラムにより移動しており、上記二つの円筒ドラム上で硬化性樹脂組成物または硬化性樹脂を挟んで基材および凹部形成用基板を重ね合わせ、上記硬化性樹脂組成物または上記硬化性樹脂から上記凹部形成用基板を剥離し、上記基材上に連続的に凹部を複製することにより、凹部を有する樹脂層が形成されてもよい。さらに、上記凹部形成用基板が、凹凸用円筒ドラムであってもよい。ロールトゥロールプロセスを経ることにより、基材上に凹部の複製を連続的に行うことができ、製造効率が向上するからである。また、このような凹部形成用基板の原版を一度作製するだけで、任意の方向に光学軸をもつ位相差板を大量に製造できるからである。
(5)その他
本発明においては、上記樹脂層形成工程の後、凹部を有する樹脂層表面を親水化する親水化処理工程が行われることが好ましい。通常、上述した樹脂層形成工程を行うと、形成された樹脂層表面は撥水性が高くなり、板状分子が十分に配向しない可能性があるからである。なお、親水化処理方法に関しては、上述した「A.位相差板」の樹脂層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
2.配向層形成工程
次に、本発明における配向層形成工程について説明する。本発明における配向層形成工程は、上記樹脂層上に板状分子を含有する配向層形成用塗工液を塗布し、上記樹脂層の凹部により上記板状分子をカラム構造が形成されるように配向させて塗膜を形成する塗膜形成工程と、上記塗膜を乾燥する乾燥工程と、上記板状分子の配向を固定化する固定化工程とを有するものである
以下、このような配向層形成工程における各工程について説明する。
(1)塗膜形成工程
本発明における配向層形成工程においては、まず、上記樹脂層上に板状分子を含有する配向層形成用塗工液を塗布し、上記樹脂層の凹部により上記板状分子をカラム構造が形成されるように配向させて塗膜を形成する塗膜形成工程が行われる。
本発明用いられる配向層形成用塗工液は、板状分子を含有するものであり、この板状分子を溶媒に分散または溶解させたものである。なお、板状分子については、上述した「A.位相差板」の配向層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
上記配向層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上述した板状分子に導入された置換基によって適宜選択される。例えばスルホン酸基等の親水性基が導入されている場合は、溶媒としては水が用いられる。一方、長鎖のアルキル基等の疎水性基が導入されている場合は、有機溶媒が用いられる。このような有機溶媒としては、一般的なものを使用することができる。また、上記配向層形成用塗工液は、必要に応じて例えばポリエチレングリコール等の界面活性剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
また、本発明に用いられる配向層形成用塗工液は、上記の中でも、水系であることが好ましい。本発明に用いられる板状分子として、カラム構造を形成し、親水性基を有しており、水溶液中でリオトロピック液晶性を示すものが好適に用いられるからである。
このような配向層形成用塗工液の塗布方法としては、上記板状分子の法線方向が一定方向に揃うように配列させることができるものであれば特に限定されるものではないが、中でも、せん断応力が加わらない方法であることが好ましい。せん断応力のかかる方法を用いると、塗布方向に板状分子の法線方向が揃うように配列し、上記樹脂層の凹部に沿って板状分子の法線方向が揃うように配列しにくい場合があるからである。せん断応力が加わらない塗布方法としては、例えばスプレーコート、ディップコート、インクジェット法、フレキソ印刷法等が挙げられ、これらの中でもインクジェット法が好ましく用いられる。
(2)乾燥工程
本発明における配向層形成工程においては、次に、上記塗膜形成工程にて形成された塗膜を乾燥する乾燥工程が行われる。本発明おける乾燥工程は、上記配向層形成用塗工液中に含有される溶媒を乾燥させる工程である。本発明においては、この乾燥工程を設けることにより、後述する固定化工程を円滑に行うようにしている。
本発明に用いられる乾燥方法としては、板状分子からなるカラム構造を破壊したり、上記樹脂層の凹部のパターンを変形させたりするものでなければ特に限定されるものではなく、一般的に溶媒の乾燥に用いられている方法、例えば加熱乾燥、常温乾燥、凍結乾燥、遠赤外乾燥等を用いることができる。
(3)固定化工程
本発明における配向層形成工程においては、上記板状分子の配向状態を固定化する固定化工程が行われる。本発明においては、このような固定化工程を行うことにより、配向層に耐水性を付与することができ、空気中の湿気等により板状分子からなるカラム構造が乱れることなく、後述する位相差層形成工程にて液晶の配向安定性に優れたものとすることができる。
本発明に用いられる板状分子の配向状態の固定化方法としては、板状分子を架橋させる方法を用いることができる。この板状分子の架橋方法としては、上記板状分子に導入された置換基によって異なるものである。
上記板状分子がスルホン酸基等の親水性基を有する場合は、この親水性基を疎水化処理する架橋方法が用いられる。上記板状分子の親水性基を疎水化処理すると、隣接する板状分子間で架橋が形成され、板状分子の配向状態が固定化されるのである。上記板状分子が水溶液中でリオトロピック液晶性を示すものであるときは、このような疎水化処理を行わないと、耐水性が悪く、空気中の湿気等により配向状態が乱れ易く、不安定となる場合がある。
また、上記疎水化処理の際に用いられる疎水化処理液としては、上記親水性基を疎水化できるものであれば特に限定されるものではなく、用いられる板状分子の親水性基により異なるものであるが、隣接する板状分子間で架橋を形成できるものであることが好ましい。このような疎水化処理液としては、例えばマグネシウム、カルシウム、バリウム等の2価の金属の塩の水溶液を用いることができる。具体的には、塩化バリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液等が挙げられる。
隣接する板状分子が架橋される機構は以下の通りである。例えば、板状分子がSO3Na基を有しており、塩化バリウム水溶液を用いて疎水化処理する場合、板状分子のSO3Na基のSO3イオンと、塩化バリウム水溶液中のBaイオンとが結合することにより、隣接する板状分子が架橋され、配向状態が固定化されるのである。すなわち、板状分子の法線方向が一定方向を向いて配列した状態で、隣接する板状分子が架橋されるので、カラム構造が固定化されるのである。
また、疎水化処理の方法としては、上記親水性の置換基を疎水化できる方法であれば特に限定されるものではなく、上記配向層形成用塗工液を乾燥させた後、上記疎水化処理液を塗布する方法、上記疎水化処理液に浸漬する方法などが挙げられる。この疎水化処理液の塗布後または浸漬後は、洗浄および乾燥することにより、配向層とすることができる。
一方、上記板状分子が長鎖のアルキル基等の疎水性基を有する場合は、例えば板状分子のコア部分あるいはアルキル側鎖の一部に重合性基を導入し、この重合性基を重合させることにより、板状分子を線状または網目状に架橋させ、配向状態を固定化する架橋方法が用いられる。
さらに、上記配向層形成用塗工液が上述した液晶材料を含有する場合は、この液晶材料を重合させることによっても板状分子の配向状態を固定化することができる。この場合、上記液晶材料は重合性基を有している必要がある。
3.位相差層形成工程
次に、本発明における位相差層形成工程について説明する。本発明における位相層形成工程は、上記配向層上に液晶組成物を塗布し、上記配向層により液晶を配向させ、上記液晶の配向状態を固定化することにより位相差層を形成する工程である。
本発明に用いられる液晶組成物は、上述した「A.位相差板」の位相差層の項に記載した液晶を含有するものである。また、上記液晶組成物を配向層上に塗布する際には、液晶組成物を融解させて用いてもよく、また液晶組成物を溶媒に溶解して用いてもよい。
上記液晶組成物を溶解させるために用いられる溶媒としては、上述した液晶等を溶解することができ、かつ上記配向層の配向能を阻害しない溶媒であれば特に限定されるものではない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、テトラリン等の炭化水素類;メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン等のケトン類;酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、グリセリン、モノアセチン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類;フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ類等の1種または2種以上が使用可能である。
また、単一種の溶媒を使用しただけでは、上記液晶等の溶解性が不十分であったり、上述したように配向層が侵食されたりする場合があるが、2種以上の溶媒を混合使用することにより、この不都合を回避することができる。上記の溶媒の中にあって、単独溶媒として好ましいものは、炭化水素類およびグリコールモノエーテルアセテート系溶媒であり、混合溶媒として好ましいのは、エーテル類またはケトン類と、グリコール系溶媒との混合系である。液晶組成物を溶媒に溶解させた溶液の濃度は、液晶の溶解性や、目的とする位相差層の厚みに依存するため一概には規定できないが、通常は0.1〜40重量%、好ましくは1〜20重量%の範囲で調製される。溶液の濃度が低すぎると、液晶が配向しにくくなる可能性があり、逆に溶液の濃度が高すぎると、溶液の粘度が高くなるので均一な塗膜を形成しにくくなる場合があるからである。
さらに、上記液晶組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、下記に示すような化合物を添加することができる。添加できる化合物としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸を縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミンエポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物等が挙げられる。上記液晶組成物に対するこれら化合物の添加量は、本発明の目的が損なわれない範囲で選択される。これらの化合物の添加により、液晶の硬化性が向上し、得られる位相差層の機械強度が増大し、またその安定性が改善される。
このような液晶組成物の塗布方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法(ダイコート法)、キャスティング法、バーコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、押し出しコート法等が挙げられる。
本発明においては、上述したように液晶組成物を配向層上に塗布することにより塗膜を形成する方法の他に、例えばドライフィルム等を予め形成して、これを配向層上に積層する方法をとることも可能である。本発明においては、中でも、液晶組成物を溶媒に溶解し、これを配向層上に塗布し、溶媒を乾燥させる方法が好ましく用いられる。このような方法は、その他の方法と比較して工程上簡便であるからである。
溶媒の乾燥方法としては、一般的に溶媒の乾燥に用いられている方法、例えば減圧乾燥もしくは加熱乾燥、さらにはこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
本発明においては、上述したように配向層上に液晶組成物を塗布して乾燥させた後、液晶組成物中の液晶を配向層により配向させる。液晶の配向処理は、通常、N−I転移点以下で熱処理する方法等により行われる。ここで、N−I転移点とは、液晶相から等方相へ転移する温度を示すものである。
また本発明においては、液晶を配向させた後、液晶の配向状態が固定化されるものである。液晶の配向状態の固定化処理は、用いられる液晶によって異なる方法により行われる。具体的には、液晶が重合性液晶材料である場合と、重合性をもたない高分子液晶材料である場合とに分かれる。以下、重合性液晶材料の場合と、重合性をもたない高分子液晶材料である場合とに分けて説明する。
(1)重合性液晶材料
本発明において、重合性液晶材料の配向状態の固定化処理は、重合性液晶材料からなる塗膜に対して、重合を活性化する活性放射線を照射する方法により行われる。
本発明でいう活性放射線とは、重合性の材料に対して重合を起こさせる能力がある放射線をいい、必要であれば重合性材料内に光重合開始剤が含まれていてもよい。なお、光重合開始剤については、上述した「A.位相差板」の位相差層の項に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
活性放射線としては、重合性液晶材料を重合せさることが可能な放射線であれば特に限定されるものではないが、通常は装置の容易性等の観点から紫外光または可視光線が使用され、波長が150〜500nm、好ましくは250〜450nm、さらに好ましくは300〜400nmの照射光が用いられる。
本発明においては、光重合開始剤が紫外線(UV)でラジカルを発生し、重合性液晶材料がラジカル重合するような重合性液晶材料に対して、紫外線(UV)を活性放射線として照射する方法が好ましい方法であるといえる。活性放射線としてUVを用いる方法は、既に確立された技術であることから、用いる光重合開始剤を含めて、本発明への応用が容易であるからである。
この照射光の光源としては、低圧水銀ランプ(殺菌ランプ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト)、高圧放電ランプ(高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ)、ショートアーク放電ランプ(超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ)などが例示できる。中でも、メタルハライドランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ灯等の使用が推奨される。また、照射強度は、重合性液晶材料の組成や光重合開始剤の多寡によって適宜調整されて照射される。
このような活性照射線の照射による固定化処理は、重合性液晶材料が液晶相となる温度条件で行ってもよく、また液晶相となる温度より低い温度で行ってもよい。一旦液晶相となった重合性液晶材料は、その後温度を低下させても、配向状態が急に乱れることはないからである。
(2)重合性をもたない高分子液晶材料
本発明において、重合性をもたない高分子液晶材料を用いた場合の配向状態の固定化処理は、処理温度を液晶相となる温度から、固相となる温度に低下させる方法により行われる。高分子液晶材料を配向層により配向させ、この状態で処理温度をガラス状態となる温度まで下げることにより、位相差層とすることができるのである。
4.その他
本発明の位相差板の製造方法を用いて、液晶表示素子用基板を製造することができる。例えば、上述した位相差板の製造方法により位相差板を形成する位相差板形成工程と、上記位相差板上に電極層を形成する電極層形成工程と、上記電極層上に配向膜を形成する配向膜形成工程とを行うことにより、液晶表示素子用基板を製造することができる。
電極層の形成方法としては、CVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の蒸着方法により形成することができる。また、配向膜の形成方法としては、一般的な配向膜の形成方法を用いることができ、例えばラビング処理、光配向処理等が挙げられる。
なお、液晶表示素子用基板のその他の点に関しては、上述した「B.液晶表示素子用基板」に記載したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
また、本発明の位相差板の製造方法を用いて、液晶表示素子を製造することもできる。この場合、上述した液晶表示素子用基板の製造方法を用いることが好ましい。上記液晶表示素子用基板と、基材上に電極層および配向膜を有する対向基板とを、それぞれの配向膜が向かい合うように配置し、その間に液晶層を形成することにより、液晶表示素子を製造することができる。
例えば、液晶表示素子用基板の配向膜上にスペーサーとしてビーズを分散させ、周囲にシール剤を塗布して、液晶表示素子用基板および対向基板をそれぞれの配向膜が対向するように貼り合わせ、熱圧着させる。そして、注入口からキャピラリー効果を利用して液晶を加熱して等方相またはネマチック相の状態で注入し、注入口を紫外線硬化樹脂等により封鎖する。その後、液晶を徐冷することにより配向させる。さらに、液晶表示素子用基板および対向基板の外側に偏光板を貼り合わせることにより、液晶表示素子を得ることができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。