ところで、従来、粗バーの板厚は、粗圧延機と仕上圧延機の圧延負荷(圧延荷重、圧延トルク及び圧延パワー)を適正化するという観点から設定されていた。また、仕上圧延機の圧延速度は、長さが最大で2000mにも及ぶ熱延鋼板を効率的に製造するという生産効率の観点から設定されていた。
熱延鋼板の製造において、上述のように生産効率だけを考慮して極めて大きな圧延速度が設定された場合、仕上出口温度は目標通り制御できたとしても、仕上入口温度を目標値に制御したり、ランナウトテーブルにおける空冷時間を目標値に制御することは難しい。その結果、粗バーのスケール除去が不十分となり、熱延鋼板の表面性状が劣化したり、所定の機械特性が得られないという問題がある。
ただし、過剰な能力を有する加熱装置及び冷却装置を導入し、これら装置の加熱能力及び冷却能力を最大限に発揮すれば、仕上入口温度及び仕上出口温度の双方を目標値に強引に制御することは可能である。つまり、前記加熱装置により粗バーを最大限加熱して高いデスケーリング性を確保してから、加熱し過ぎた被圧延材を前記冷却装置で最大限冷却すれば、仕上入口温度及び仕上出口温度を目標値に強引に制御することは可能である。また、過剰な冷却能力を有する冷却装置をランナウトテーブルに設置すれば、圧延速度が高速であっても所定の空冷時間を確保しながら冷却を強引に実施することが可能である。
しかしながら、極めて大規模な加熱装置及び冷却装置を導入する必要があり、設備費が著しく嵩むと共にその後のランニングコストも嵩んでしまうため、このような加熱装置及び冷却装置を設けることは現実的ではない。そして、仕上出口温度を目標値に必ず制御する必要があることから、不可避的に、仕上入口温度を目標値に制御することは難しくなり、粗バーのスケールを充分に除去できないことに起因して、製造される熱延鋼板の表面性状が劣化してしまう。同様に、熱延鋼板の巻取温度も目標値に必ず制御する必要があることから、不可避的に、ランナウトテーブルにおける空冷時間を目標値に制御することは難しくなり、所定の金属組織が得られないことに起因して、製造される熱延鋼板の機械特性が劣化してしまう。
より具体的に説明すれば、鋼板表面に発生するスケールの剥離性の観点からすれば、仕上入口温度をファイアライトの共晶温度(溶融温度)以上にすることが効果的である。これにより、ファイアライトが溶融し、その直後に実施される高圧(150kg/cm2以上)のデスケーラによりスケールを除去することができる。
しかしながら、上記ファイアライトの共晶温度は1100℃以上と高温であり、従来の熱延ライン設備では、たとえスラブの抽出温度を高くしたとしても、仕上圧延機の入口で上記のような高い温度を実現することは難しい。そこで、粗圧延機と仕上圧延機との間に加熱装置を設置し、粗バーを加熱することが効果的である。しかし、設備制約を考えずに可能な限り巨大な加熱装置を設置できるのであれば別であるが、一般的には、設置スペース、設備の初期投資コストや、稼動時のランニングコスト、更には、技術的に製造可能な加熱装置といった観点より、加熱装置の能力には必然的に限界がある。限られた設備能力である加熱装置を設置した場合には、どのような圧延条件でも上記温度に加熱できるわけではない。
同様にして、仕上出口温度及びランナウトテーブルでの冷却条件をいかなる圧延条件においても実現するためには、極めて強力な冷却能力を有する冷却装置が必要となるが、これも実際には実現不可能である。
また、仕上圧延機の圧延速度は、仕上入口温度、仕上出口温度、空冷時間に大きく影響する。仕上入口温度を確保するためには、上記加熱装置を通過する粗バーの速度を遅くして加熱すると昇温効果が大きい。一方、仕上出口温度を確保するためには、仕上圧延機内の温度降下を少なくするために速度を速くした方がよい。また、ランナウトテーブルでの中間空冷時間を極力長くするためには、圧延速度は遅い方が良い。
つまり、中間空冷時間を長くするためには、ランナウトテーブルにおいて、水冷しない冷却ゾーンを長くすることが考えられるが、これでは当然に冷却能力が低下するため、圧延速度を低下させることによって中間空冷時間を長くする必要がある。しかし、中間空冷時間を過度に長くすると、今度は巻取温度まで冷却できなくなるという問題が生じる。
本発明は、以上に説明したような従来技術の問題点を解決するべくなされたものである。すなわち、本発明は、加熱装置や冷却装置に要する設備費やランニングコストをできるだけ抑制しつつ、仕上圧延機の入口および出口における熱延鋼板の温度を目標値に制御すると共に、ランナウトテーブルでの冷却過程の冷却条件も目標値に制御することができ、これにより、所定の安定した機械特性を有し表面性状に優れた熱延鋼板を低コストで製造することができる方法及び圧延制御装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するべく、本発明の発明者は鋭意検討した。以下、本発明の発明者による検討内容について具体的に説明する。
本発明者は、図1に示す熱延鋼板の製造装置を対象とし、C:0.09質量%、Si:1.2質量%、Mn:1.3質量%、Al:0.35質量%の鋼組成を有し、板厚3.6mm、板幅1050mmの熱延鋼板を製造する状況について数値シミュレーションを実施した。
表1に、数値シミュレーションに用いた圧延スケジュールを示す。また、その他の圧延条件は以下に列記する。
<圧延条件>
加熱炉21からのスラブ20の抽出温度 :1250℃
仕上圧延機3の入口温度目標値 :1100℃以上
仕上圧延機3の出口温度目標値 :860℃±10℃
ランナウトテーブル5での第1冷却停止温度:700℃±10℃
ランナウトテーブルでの中間空冷時間 :10s±1s
ランナウトテーブル出口の巻取温度目標値 :460℃±10℃
熱延鋼板の板厚 :3.6mm
熱延鋼板の板幅 :1050mm
なお、加熱装置6の加熱能力、仕上圧延機内のスタンド間に配設された冷却装置やランナウトテーブルの冷却能力は、従来の製造方法に適して設計された場合を想定し、その範囲内の最大能力で加熱及び冷却を実施することを条件に数値シミュレーションを実施した。
また、本数値シミュレーションで対象にしたランナウトテーブルの冷却パターンについて説明する。一般的に、ランナウトテーブルでの冷却には、図2に示す4つの冷却パターンがある。
パターン1(図2の曲線Aで表されるパターン)は、最も基本的な冷却パターンであり、ランナウトテーブル全体で平均的に鋼板を冷却していくパターン(これを1段冷却という)である。
パターン2(図2の曲線Bで表されるパターン)は、鋼板が仕上圧延機を出てから所定の距離進むまでは水冷却を実施しないで(或いは緩い水冷却を実施し)、途中から水冷却を実施するパターン(これを後半冷却という)である。
パターン3(図2の曲線Cで表されるパターン)は、鋼板が仕上圧延機を出たら直ぐに水冷却を実施し、ランナウトテーブルの途中で水冷却を中止し、それ以降は水冷却を実施しない(或いは緩い水冷却を実施する)パターン(これを前半冷却という)である。
パターン4(図2の曲線Dで表されるパターン)は、鋼板が仕上圧延機を出たら直ぐに水冷却(第1冷却又は前半冷却という)を実施し、ランナウトテーブルの途中で水冷却を停止し、次に空冷(以下、適宜中間空冷という)を所定時間実施し、それ以降は再び水冷却(第2冷却又は後半冷却という)を実施するパターン(これを2段冷却という)である。
以上に説明したパターン1〜4のうち、本数値シミュレーションでは、パターン4の冷却パターンを対象とした(ただし、パターン3も、パターン4における第2冷却が極めて少ない場合であると考えるとパターン4に包含されるため、本数値シミュレーションの対象であると言える)。
本数値シミュレーションにより、以下のような知見を得ることができた。すなわち、
(A1)生産効率の観点から仕上圧延速度を550mpmに設定すると、加熱装置の加熱能力や冷却装置の冷却能力に限界があることから、粗バーの厚みが32mm、40mmの何れの場合であっても、仕上入口温度やランナウトテーブルでの冷却についての目標値を達成することができなかった。
そこで、本数値シミュレーションにおいて設定する仕上圧延速度を360〜460mpmの範囲で低下させ、各仕上圧延速度に対応する各温度条件(仕上入口温度、仕上出口温度、水冷却停止温度、中間空冷時間)を算出した。その結果を図3に示す。なお、図3の横軸は仕上圧延速度を、縦軸は前記目標値の基準値(仕上入口温度については下限である1100℃、仕上出口温度については中心値である860℃、水冷冷却停止温度については中心値である700℃、中間空冷時間については中心値である10s)からの偏差を示す。また、図3中の黒丸は粗バーの厚みが32mmの場合、白丸は40mmの場合のデータを示す。
(A2)図3に示すように、加熱装置6の加熱能力が一定の条件で圧延速度を低下させると、仕上入口温度が高くなる。また、粗バーの厚みを厚くすると、加熱装置6での加熱効率が向上し且つ粗バーの熱容量が大きくなり粗圧延終了からの温度降下を抑制できるので、仕上入口温度を高くできる。
(A3)図3に示すように、仕上圧延速度を低下させると、仕上圧延機内での温度降下が大きくなることから仕上出口温度は低くなるが、粗バーの厚みを厚くすることにより、粗バーの熱容量が大きくなり、仕上圧延機内での温度降下を抑制できる。
(A4)すなわち、仕上圧延速度を低下させると仕上入口温度は高くなるが、仕上出口温度は低下する。逆に、仕上圧延速度を上げていくと仕上入口温度は低くなるが、仕上出口温度は高くなる。つまり、仕上入口温度と仕上出口温度とは、圧延速度に関して逆の相関がある。
(A5)図3に示すように、ランナウトテーブルの仕上圧延速度を低下させることにより、ランナウトテーブルの冷却停止温度(第1冷却停止温度)は低くなる。また、仕上圧延速度を低下させることにより、ランナウトテーブルにおける冷却能力に余裕が出るため、中間空冷時間を長くすることが可能となる。しかしながら、仕上出口温度も低下してしまうので、仕上圧延速度を適性値に設定する必要がある。なお、図3に示すように、中間空冷時間については黒丸(粗バーの厚み32mm)しかプロットされてないが、中間空冷時間は粗バーの厚みに直接影響を受けないため、黒丸と白丸(粗バーの厚み40mm)とが重なり合った状態となっている。
(A6)なお、巻取温度は、仕上出口温度と同様の傾向を示し、圧延速度を低下させるとランナウトテーブル内での水冷による抜熱量が大きくなるので、温度降下が大きくなって巻取温度は低くなる。しかしながら、粗バーの厚みを厚くすると、仕上出口温度が高くなる分だけ若干高くなる。
(A7)所定の安定した機械特性(機械特性向上、特性バラツキ低減)を有すると共に、表面性状に優れるという複数の目的を同時に実現するためには、仕上入口温度、仕上出口温度、水冷却の冷却停止温度(第1冷却停止温度)、空冷時間(中間空冷時間)及び巻取温度の全てが目標値を満足する必要がある。本数値シミュレーションにより、上記温度条件の全てを満足させるためには、仕上圧延機の圧延速度及び粗バーの厚みを適切な値に設定する必要があることが分かった。より具体的に説明すれば、生産効率及び圧延負荷の観点から設定した仕上圧延速度(550mpm)及び粗バーの厚み(32mm)を、本数値シミュレーションの結果に基づく適正値として、仕上圧延速度400mpm、粗バーの厚み40mm程度に修正する必要がある。逆に言えば、仕上圧延機の圧延速度及び粗バーの厚みを適切な値に修正しさえすれば、加熱装置6や、冷却装置71〜73、5に要する設備費やランニングコストをできるだけ抑制しつつ、仕上入口温度、仕上出口温度、水冷却の冷却停止温度及び空冷時間の全てについて目標値を満足させることが可能である。なお、巻取温度については、前述のように仕上出口温度と同様の傾向を示すため、仕上出口温度が目標値を満足するように仕上圧延速度及び粗バーの厚みを修正しさえすれば、巻取温度についても目標値を満足することが可能である。
本発明は、上記発明者の知見(A1〜A7)に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載の如く、鋼片に粗圧延を行って粗バーとした後に、当該粗バーを加熱し、次いで仕上圧延を行い、その後水冷却、空冷を順に行って熱延鋼板を製造する方法であって、仕上圧延の入口温度、仕上圧延の出口温度、水冷却の冷却停止温度及び空冷時間のいずれもがそれぞれの目標値を満足するように、粗バーの厚みの設定値及び仕上圧延の圧延速度の設定値を修正することを特徴とする熱延鋼板の製造方法を提供するものである。
ここで、前記「水冷却の冷却停止温度」とは、前述したパターン4(図2参照)の冷却パターンにおいて第1冷却を停止した際の鋼板温度、或いは、パターン3(図2参照)の冷却パターンにおいて水冷却を中止した際の鋼板温度を意味する。また、前記「空冷時間」とは、パターン4の冷却パターンにおいて第1冷却を停止してから第2冷却を開始するまでの時間、或いは、パターン3の冷却パターンにおいて水冷却を中止してから巻き取られるまでの時間を意味する。
なお、本発明は、特許請求の範囲の請求項3に記載の如く、鋼片に粗圧延を行って粗バーとする粗圧延機と、前記粗圧延機によって粗圧延された粗バーを加熱するための加熱装置と、前記加熱装置によって加熱された粗バーを仕上圧延し鋼板とするための仕上圧延機と、前記仕上圧延機によって仕上圧延された鋼板に対して水冷却、空冷を順に行うためにランナウトテーブルに設置された冷却装置とを具備する熱延鋼板製造装置を制御するための装置であって、前記仕上圧延機の入口における粗バーの温度、前記仕上圧延機の出口における鋼板の温度、前記冷却装置における水冷却の冷却停止温度及び空冷時間のいずれもがそれぞれの目標値を満足するように、予め設定した粗バーの厚みの設定値及び仕上圧延の圧延速度の設定値を修正し、当該修正した設定値に基づいて前記熱延鋼板製造装置を制御することを特徴とする圧延制御装置としても提供される。
また、前記課題を解決するべく、本発明の発明者は、上記と同様の条件で更に数値シミュレーションを実施した。ただし、仕上圧延速度は生産効率の観点から設定した550mpmのままとし、粗バーの厚みを30〜42.5mmの範囲で変更して、各粗バーの厚みに対応する各温度条件(仕上入口温度、仕上出口温度、水冷却停止温度)を算出した。その結果を図4に示す。なお、図4の横軸は粗バーの厚みを、縦軸は各温度条件の目標値(表1参照)の基準値からの偏差を示す。また、中間空冷時間は、粗バーの厚みに直接的には影響を受けないため、図4では図示を省略している。
本数値シミュレーションにより、以下のような知見を得ることができた。すなわち、
(B1)前述のように、粗バーの厚みを厚くすると、加熱装置6での加熱効率が向上し且つ粗バーの熱容量が大きくなり粗圧延終了からの温度降下を抑制できるので、図4に示すように、粗バーの厚みを厚くすれば仕上入口温度は高くなる。ただし、目標とする1100℃よりも高くするには、40mm以上に厚くする必要がある。
(B2)前述のように、粗バーの厚みを厚くすることによって粗バーの熱容量が大きくなり仕上圧延機内での温度降下を抑制できるため、図4に示すように、粗バーの厚みを厚くすれば仕上出口温度は高くなる。
(B3)図4に示すように、粗バーの厚みを厚くすれば、ランナウトテーブルの冷却停止温度(第1冷却停止温度)は高くなる。
(B4)図4に示すように、粗バーの厚みを厚くすることにより、仕上入口温度が高くなって目標値を満足することが可能となる一方、仕上出口温度が目標値よりも高くなってしまう。逆に、例えば、粗バーの厚みを35mmにすれば、仕上出口温度は目標値の基準値+10℃になって目標値を満足するが、仕上入口温度が目標値の下限よりも低くなってしまう。
(B5)しかしながら、例えば、要求される機械特性として強度が重要視され加工性はさほど重要視されないような用途に用いられる熱延鋼板では機械特性値の許容範囲が広く、このような熱延鋼板であれば、仕上出口温度を目標値の基準値+20℃としても構わない。つまり、仕上出口温度が基準値+20℃であったとして目標値の範囲内であると考えることができる。従って、粗バーの厚みを42.5mmとすることにより、仕上入口温度及び仕上出口温度の両方の目標値を満足することが可能となる。本数値シミュレーションにより、圧延負荷の観点から設定した粗バーの厚み(32mm)を、本数値シミュレーションの結果に基づく適正値(42.5mm)に修正しさえすれば、特定の熱延鋼板については、加熱装置6や、冷却装置71〜73、5に要する設備費やランニングコストをできるだけ抑制しつつ、仕上入口温度、仕上出口温度、水冷却の冷却停止温度及び空冷時間の全てについて目標値を満足できることが分かった。なお、巻取温度については、前述のように仕上出口温度と同様の傾向を示すため、仕上出口温度が目標値を満足するように粗バーの厚みを修正しさえすれば、巻取温度についても目標値を満足することが可能である。
本発明は、上記発明者の知見(B1〜B5)に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明は、特許請求の範囲の請求項2に記載の如く、鋼片に粗圧延を行って粗バーとした後に、当該粗バーを加熱し、次いで仕上圧延を行い、その後水冷却、空冷を順に行って熱延鋼板を製造する方法であって、仕上圧延の入口温度、仕上圧延の出口温度、水冷却の冷却停止温度及び空冷時間のいずれもがそれぞれの目標値を満足するように、粗バーの厚みの設定値を修正することを特徴とする熱延鋼板の製造方法を提供するものである。
なお、本発明は、特許請求の範囲の請求項4に記載の如く、鋼片に粗圧延を行って粗バーとする粗圧延機と、前記粗圧延機によって粗圧延された粗バーを加熱するための加熱装置と、前記加熱装置によって加熱された粗バーを仕上圧延し鋼板とするための仕上圧延機と、前記仕上圧延機によって仕上圧延された鋼板に対して水冷却、空冷を順に行うためにランナウトテーブルに設置された冷却装置とを具備する熱延鋼板製造装置を制御するための装置であって、前記仕上圧延機の入口における粗バーの温度、前記仕上圧延機の出口における鋼板の温度、前記冷却装置における水冷却の冷却停止温度及び空冷時間のいずれもがそれぞれの目標値を満足するように、予め設定した粗バーの厚みの設定値を修正し、当該修正した設定値に基づいて前記熱延鋼板製造装置を制御することを特徴とする圧延制御装置としても提供される。
本発明に係る熱延鋼板の製造方法によれば、仕上圧延の入口および出口における熱延鋼板の温度を目標値に制御すると共に、冷却過程の冷却条件も目標値に制御することができ、これにより、所定の安定した機械特性を有し表面性状に優れた熱延鋼板を低コストで製造することが可能である。
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明に係る熱延鋼板の製造方法の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る熱延鋼板の製造方法は、仕上入口温度、仕上出口温度、第1冷却停止温度及び中間空冷時間のいずれもがそれぞれの目標値を満足するように、粗バーの厚みの設定値及び仕上圧延の圧延速度の設定値を修正することを特徴とする。
図1は、本発明に係る製造方法を実施するために用いる熱延鋼板の製造装置の一例である。
図1に示すように、製造装置100は、加熱炉21と、粗圧延機2とを備えている。加熱炉21は、鋼片(スラブ)20を所定の温度に加熱し、加熱されたスラブは、圧延のピッチに応じて加熱炉21から抽出され後続する圧延工程に供給される。粗圧延機2は、6基のスタンドからなり、スラブ20に粗圧延を行って粗バー1とする。
製造装置100は、仕上圧延機3と、ダウンコイラ4と、ランナウトテーブルに設置された冷却装置5とを備えている。仕上圧延機3は、7基のスタンドF1〜F7からなるタンデム圧延機であって、7基のスタンドF1〜F7により粗バー1に仕上圧延を行って熱延鋼板9を製造する。ダウンコイラ4は、仕上圧延機3により仕上圧延された熱延鋼板9を熱延コイルとして巻き取る。冷却装置5は、仕上圧延された熱延鋼板9が所定の機械特性を得るようにするため所定の温度に冷却する。冷却装置5は、多数の冷却ヘッダーから構成されており、本実施形態では、上部の冷却ヘッダーが51−1〜51−NまでのN個のヘッダーからなり、下部の冷却ヘッダーが52−1〜52−NまでのN個のヘッダーから構成されている。ヘッダーの数Nは、熱延ラインにより異なるが、50個以上の多数であるのが一般的である。これらのヘッダーをオン/オフすることにより冷却水量を調整して温度制御する。
製造装置100は、仕上圧延機3の入側に設置された加熱装置6と、冷却装置71、72、73とを備えている。加熱装置6は、誘導加熱等の適宜の方法によって、粗バー1を板幅方向の全体に亘って加熱し所定温度だけ昇温する。冷却装置71、72、73は、仕上圧延機3により仕上圧延を行なっている被圧延材の板幅方向の全体に亘って冷却水を噴射することにより被圧延材を所定温度だけ冷却する。冷却装置は、仕上圧延機3の前段側のスタンド間に設けることが好ましく、本実施形態では、第1スタンドF1と第2スタンドF2との間(冷却装置71)、第2スタンドF2と第3スタンドF3との間(冷却装置72)、及び、第3スタンドF3と第4スタンドF4との間(冷却装置73)に設置してある。なお、冷却装置は、各スタンド間のいずれか1箇所にだけ設けるようにしてもよいし或いは2箇所以上に設けてもよい。
製造装置100は、粗圧延機2の出口における粗バー1の温度を測定するための温度計81と、仕上圧延機3の入口及び出口における熱延鋼板9の温度をそれぞれ測定するための温度計82、83と、巻取機4の入口における熱延鋼板9の温度を測定するための温度計84とを備えている。
製造装置100は、本発明に係る圧延制御装置を構成する設定計算装置10と温度制御装置11とを備えている。設定計算装置10は、仕上圧延速度と粗バー1の厚みを設定するための装置であり、圧延機のロールギャップやロール回転数など、圧延のための諸設定を実施することができる。より具体的には、加熱炉21により加熱されたスラブ20は、下流の圧延工程が要求するピッチで加熱炉21から抽出され圧延されるが、粗圧延機2での粗圧延が実施される前に、鋼板の温度条件(仕上圧延の入口温度、仕上圧延の出口温度、水冷却の冷却停止温度及び空冷時間)を満足する粗バーの板厚および仕上圧延速度が設定計算装置10で決定される。これと同時に、製品寸法が得られるように圧延機のロールギャップが決定されると共に、所定の圧延速度を満足するように圧延機のロール回転数が設定計算装置10で決定される。
設定計算装置10により設定された粗バー1の厚み及び仕上圧延速度は、温度制御装置11に伝送され、温度制御装置11において圧延機の各種設定が実施される。そして、設定計算値に基づいて圧延が開始された後は、温度制御装置11により、温度計81の時々刻々の実測値に基づき加熱装置6の昇温量や、温度計83の時々刻々の実測値に基づき冷却装置71〜73の冷却水量を操作して仕上圧延機3の出口における熱延鋼板9の温度(仕上出口温度)を目標値に制御すると共に、仕上圧延機3の入口における粗バー1の温度(仕上入口温度)が目標値となるようにし、更に、ランナウトテーブルにおける冷却過程を目標値に制御するように、ランナウトテーブルの冷却過程を規定する第1冷却停止温度と中間空冷時間とが目標値になるように制御する。
粗圧延機2によってスラブ20が粗バー1にまで圧延される粗圧延の段階で、粗圧延機2の出口に配設された温度計81により粗バー1の温度が測定され、温度制御装置11により計算された昇温量に基づいて、粗バー1が加熱装置6で加熱されると共に、同様にして温度制御装置11により計算された冷却量に基づいて、被圧延材が冷却装置71〜73で冷却される。
また、熱延鋼板9が仕上圧延機3出口に配設された温度計83に到達した時点以降、温度制御装置11において一定長ピッチでサンプリングされ、それぞれのタイミングでランナウトテーブルにおける第1冷却停止温度、中間空冷時間及び巻取温度計84直下の鋼板温度である巻取温度が目標値になるように冷却装置51−1〜51−N及び52−1〜52−Nのオン/オフパターンを設定し、冷却を実施する。
なお、本実施形態に係る製造方法によって製造される熱延鋼板としては、例えば、C:0.02〜0.2質量%、Mn:0.5〜2.5質量%、Si:0.2〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.0005〜1.0質量%、N:0.01質量%以下をそれぞれ含有し、残部がFe及び不可避的不純物である熱延鋼板、或いは、C:0.02〜0.2質量%、Mn:0.5〜2.5質量%、Si:0.2〜1.5質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.1質量%以下、V:0.5質量%以下をそれぞれ含有し、残部がFe及び不可避的不純物である熱延鋼板を例示することができる。
また、仕上圧延機3の入口における粗バー1の温度(仕上入口温度)の目標値は、1100℃以上としている。仕上入口温度の目標値は、仕上圧延機3入側におけるデスケーリングの性能を高めるために設定する。デスケーリングの性能を高めるためには、スケールの接着効果を有するファイアライトを溶融させる必要があることから、ファイアライトの共晶温度近傍である1100℃以上を目標値とした。
仕上圧延機3の出口における熱延鋼板9の温度(仕上出口温度)の目標値は、Ae3点の直上としている。仕上圧延は、オーステナイト域において極力低い温度で完了させることにより、圧延終了後のオーステナイト粒径が細かくなり、鋼板の機械特性が向上する。従って、仕上出口温度の目標値は、Ae3点以上の近傍とするためにAe3点の直上とした。具体的には、仕上出口温度の目標値は、Ae3点〜Ae3点+40℃とされる。
ランナウトテーブルでの第1冷却停止温度目標値は、540〜750℃としている。第1冷却は、仕上圧延を終了した熱延鋼板9に冷却を施し、鋼板金属組織の主相を形成するフェライト相を形成するものである。より安定してフェライト組織を形成させるには、フェライトノーズである540〜750℃に冷却を停止させることが重要であることから、第1冷却停止温度目標値は、540〜750℃としている。
ランナウトテーブルでの中間空冷時間の目標値は、5〜15秒としている。中間空冷は、フェライトの生成を十分に行うことにより、機械特性を向上させるものであり、5〜15秒が適切である。5秒未満では、十分なフェライトが得られず、逆に15秒以上に長くなるとパーライトが生成して鋼板の機械特性が劣化する。
巻取温度の目標値は、550℃以下としている。巻取温度は、第2相の組織をベイナイトやマルテンサイトにする必要があることから、550℃以下を目標値としている。
なお,加熱炉21からのスラブ20の抽出温度は、粗圧延時の圧延負荷が設備の耐荷重や耐トルクの許容範囲内となるようにする必要があり、粗バーの変形抵抗の温度依存性から1150℃以上とするのが望ましい。また、粗圧延機2の出口における粗バーの温度は、仕上入口温度の目標値を達成するために、仕上圧延機3の入口に配設された加熱装置6の加熱能力との関係で、1050℃以上とするのが好ましい。
以上に説明した本実施の形態に係る製造方法では、圧延条件を、粗圧延を開始する前の第1のタイミング(例えば、熱延鋼板の母材となるスラブ20を加熱炉21に装入して加熱しており、圧延工程に投入することが確定したタイミング或いは加熱炉21から圧延ラインに抽出されたタイミング)と、粗圧延を終了した後であって仕上圧延を開始する前の第2のタイミング(粗圧延を完了して仕上圧延を開始する前のタイミング)という2つのタイミングで、修正して設定することが可能である。第1のタイミングで修正して設定される圧延条件は、粗圧延〜仕上圧延〜ランナウトテーブルの全工程に関するものとすることができる一方、第2のタイミングで修正して設定される圧延条件は、既に粗圧延は終了しているため、仕上圧延〜ランナウトテーブルに関するものに限定される。
以下、上記第1のタイミングで行う設定計算について、図5A及び図5Bを適宜参照しながら説明する。図5A及び図5Bは、設定計算装置10において行われる設定計算の手順を示すフロー図である。なお、図5Aに示す「A」及び「B」が、図5Bに示す「A」及び「B」にそれぞれ対応しており、図5A及び図5Bで一つのフロー図を形成している。
図5Aに示すステップS1では、製造する熱延鋼板の鋼種や製造サイズ等の材料情報と、事前に初期値として設定された圧延情報(スラブ20の加熱炉21からの抽出温度、粗バー1の厚みの初期値、粗圧延速度、仕上圧延における圧延速度の初期値や目標板厚、仕上圧延機3の入口における粗バー1の温度の目標値、仕上圧延機3の出口における熱延鋼板の温度の目標値等)とが、設定計算装置10に入力される。そして、ステップS2へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS2において、加熱炉21から抽出されたスラブ20の温度を初期値として、粗圧延機2の粗圧延速度に基づいて粗圧延機2の出口における粗バー1の温度を予測計算する。そして、ステップS3へ移行する。ここで、上記スラブ20の温度としては、予め設定されたスラブ抽出温度の設定値を用いてもよいし、スラブ20が抽出されたときのスラブ抽出温度の計算値又は実測値のいずれかを用いてもよい。
設定計算装置10は、ステップS3において、加熱装置6での昇温量及び冷却装置71〜73の冷却水量の初期値(加熱装置6や冷却装置71〜73の設備能力の中間値や設定可能な最小値等を初期値とする)を設定する。そして、ステップS4へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS4において、粗圧延機2の出口における粗バー1の温度の予測計算値を初期値として、粗バー1の厚みと仕上圧延における圧延速度とに基づいて、 仕上圧延機3の入口における粗バー1の温度(仕上入口温度)と、仕上圧延機3の出口における熱延鋼板の温度(仕上出口温度)とを計算し、予測値として算出する。そして、ステップS5へ移行する。
ここで、圧延時における鋼板温度(粗圧延機の出口における粗バーの温度、仕上圧延機の入口における粗バーの温度及び仕上圧延機の出口における熱延鋼板の温度)は、次の式(1)〜(7)に基づいて計算される。
より具体的には、粗圧延機における温度計算は、加熱炉抽出時のスラブの温度を初期値として粗圧延機出口での温度を計算する。
仕上圧延機における温度計算は、上記粗圧延機出口での温度計算値を初期値として仕上圧延機入口及び出口での温度を計算する。
材料の移動時間(つまり圧延又はテーブル搬送に要する時間)は、粗圧延機2及び仕上圧延機3の圧延速度の設定値と搬送テーブルの速度設定値(前述したステップS1で設定される)とを用いて、圧延時間であれば材料が圧延ロールと接触する距離(圧延機入口及び出口板厚とロール半径とから決まる)及び設備間の距離から計算される。そして、材料が受ける作用(圧延、水冷、空冷)に応じてそれぞれの作用の時間tr、tw、taを計算する。
T=T0−△T+△TBH ・・・(1)
△T=△Tw+△Ta+△Tr−△Tq ・・・(2)
△Tw=hw(T−Tw )・tw/(c ・ρ・H) ・・・(3)
△Ta=ha(T−Ta )・ta/(c ・ρ・H) ・・・(4)
△Tr=hr(T−Tr )・tr/(c ・ρ・H) ・・・(5)
△Tq=G・η/(c ・ρ・H) ・・・(6)
△TBH=P/(c・ρ・H・B・V) ・・・(7)
ただし、上記式(1)〜(7)において、Tは粗バー1の温度を意味し、T0は計算開始時の鋼板の初期温度を意味し、粗圧延機における温度計算の際には初期温度としてスラブ温度を設定し、仕上圧延機における温度計算の際には粗圧延機出口の粗バーの温度を初期温度として設定する。また、△Tは粗バー1の温度降下量を意味し、△Twは水冷による温度降下量を意味し、△Taは空冷による温度降下量を意味し、△Trはロール接触による温度降下量を意味し、△Tqは圧延時の加工発熱による温度上昇量を意味し、△TBHは加熱装置6による温度上昇量を意味する。また、tw、ta、trはそれぞれ水冷、空冷、圧延に要する時間を意味しており、それぞれ、圧延機や搬送テーブルの速度パターンから算出する。また、Twは冷却水の温度を意味し、Taは空気の温度を意味し、Trはロールの表面温度を意味し、hw、ha、hrはそれぞれ、水冷、空冷、ロール接触による熱伝達係数を意味する。c、ρ、Hはそれぞれ鋼板の比熱、密度、厚みを意味する。Gは圧延トルクを意味し、ηは圧延トルクが加工発熱によって変化する割合を意味する。Pは加熱装置6の実効出力を意味し、Bは鋼板の幅を意味し、Vは鋼板が加熱装置6を通過する速度を意味する。なお、c、ρ、ηは物理定数として設定計算装置10の定数テーブルに登録されており、計算の際にその値を参照するように構成されている。その他の各値については、前述したステップS1で予め設定されている。
設定計算装置10は、ステップS5〜S7において、ステップS4で算出した仕上圧延機3の入口における粗バー1の温度(仕上入口温度)の予測値と、出口における熱延鋼板の温度(仕上出口温度)の予測値とに基づいて、仕上圧延機3の圧延負荷(圧延荷重及び圧延トルク)を計算し、仕上圧延機3の圧延負荷が設備の許容範囲内となるように加熱装置6の昇温量を必要に応じて修正し決定する。そして、ステップS8へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS8〜S9において、ステップS6で決定された加熱装置6の昇温量に基づいて、仕上圧延機3の出口における熱延鋼板の温度(仕上出口温度)が目標値(許容範囲内)となるように、冷却装置71〜73の冷却水量を必要に応じて修正し決定する。そして、ステップS10へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS10において、これまでの各ステップにおける計算結果として、加熱装置6の昇温量及び冷却装置71〜73の冷却水量を設定する。そして、ステップS11へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS11において、前述したステップS4で予測計算した仕上入口温度の推定値が目標値を満足するか否かを判断する。
ステップS11において、仕上入口温度が目標値を満足していると判断されれば、ランナウトテーブルの冷却ユニットの冷却パターンを計算する手順(A)に移行する。一方、仕上入口温度が目標値を満足していないと判断された場合には、ステップS12へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS12において、仕上入口温度の推定値が目標値を満足していない(本実施形態では1100℃未満)ことから、加熱装置6の昇温量を高めることによって、仕上入口温度の推定値が目標値を満足するようにならないかを確認する。このため、加熱装置6の昇温量が限界に達していないかどうかを判断し、限界以内であれば前述したステップS7へ移行し、加熱装置6の昇温量を適宜修正(増加)した後、前述したステップS4〜S10における計算を繰り返すことにより、加熱装置6の新たな昇温量の設定値を求める。一方、加熱装置6の昇温量が上限を超えている場合には、ステップS13へ移行する。
設定計算装置10は、ステップS13では、粗バー1の厚みの増加量が限界であるか否かを判断し、限界内の場合にはステップS14へ移行して、上限に達する範囲内で粗バー1の厚みを増加して新たな設定値とした後、前述したステップS2〜S12における計算を繰り返す。これにより、仕上圧延機3の入口における粗バー1の温度(仕上入口温度)が目標値を満足できる条件が決定される。一方、粗バー1の厚みの増加量が限界を超えている場合にはステップS15へ移行する。なお、ステップ13において判断基準とされる粗バー1の厚みの上限値は、仕上圧延機3の第1スタンドF1への噛み込みが可能な範囲に設定されるか、或いは、粗バー1の厚みを大きくしていくと仕上圧延機3の第1スタンドF1の圧延荷重が大きくなりロール肌荒れが著しくなるため、過去の圧延操業の知見に基づき適性な上限値が設定される。
設定計算装置10は、ステップS15では、粗バー1の厚みを変更できないことから、仕上圧延速度の減速によって仕上入口温度を上昇させるために、仕上圧延速度が下限に達していないか否かを判断し、下限に達していなければステップS16に移行する。ステップS16では、設定計算装置10が減速した仕上圧延速度を設定し、この条件でステップS4に戻って上記と同じ計算を行う。一方、仕上圧延速度が下限に達している場合には、最終の条件で計算を終了する。
以上に説明したように、ステップS13〜S16では、仕上入口温度及び仕上出口温度が目標値を満足するように粗バー1の厚みの設定値及び仕上圧延速度を修正し、新たな粗バー1の厚み及び仕上圧延速度を設定する。
次に、設定計算装置10は、図5Bに示す手順により、ランナウトテーブルに配設された冷却装置5のオン/オフ・パターンを設定する。本実施形態の冷却装置5は、前述のように、多数の冷却ヘッダーから構成されており、上部の冷却ヘッダーが51−1〜51−NまでのN個のヘッダーからなり、下部の冷却ヘッダーが52−1〜52−NまでのN個のヘッダーから構成されている。各ヘッダーには、それぞれオン/オフ弁が取り付けられており、各ヘッダーから供給される冷却水を個別にオン/オフ可能である(冷却水がオンの場合には水冷、オフの場合には空冷となる)。以下、各ヘッダーとこれに取り付けられたオン/オフ弁との組み合わせを冷却ユニット(適宜、ユニットという)という。なお、本実施形態に係るランナウトテーブルの冷却パターンとしては、前述したパターン4を採用している。
冷却装置5のオン/オフ・パターンは、製造する熱延鋼板の板厚、仕上圧延速度、仕上出口温度目標値、冷却速度、第1冷却停止温度、中間空冷時間、巻取温度目標値、冷却ユニットの冷却能力(熱伝達係数α)に基づき、例えば下記の式(8)に示す鋼板温度降下計算式などを用いて決定する。
ここで、Toutは各冷却ユニット出口における鋼板温度(ユニット出口温度)を、Tinは各冷却ユニット入口における鋼板温度(ユニット入口温度)を、αは各冷却ユニットの熱伝達係数を、cは鋼板の比熱を、ρは鋼板の密度を、hは鋼板の板厚を、Lは各冷却ユニットの長さを、Vは仕上圧延速度(ランナウトテーブルにおける鋼板搬送速度と実質的に同じ値である)を意味する。
なお、水冷を実施する冷却ユニットの熱伝達係数としては、下記の式(9)を用いる。
ここで、Wは水量密度を、Tは鋼板温度を、T
Wは冷却水温度を、Vは仕上圧延速度を意味する。α
Wは水冷を実施する冷却ユニットの種類によって変化する熱伝達係数を意味し、そのパラメータがA〜Eである。
そして、水冷を実施しない中間空冷ゾーンの冷却ユニットの熱伝達係数は、実機データなどから試算したαairを用いる。
以下、図5Bを参照しながら具体的に説明する。
図5Bに示すステップS17では、前述のようにして計算した仕上出口温度TFを以降の計算の初期値として設定する。つまり、上記の式(8)における冷却ユニット入口における鋼板温度(ユニット入口温度)Tinの初期値を仕上出口温度TFとする。
ステップS18では、最も仕上圧延機3側に配設された冷却ユニットの番号が1に設定される。
ステップS19では、各冷却ユニット出口における鋼板温度(ユニット出口温度)Toutが上記の式(8)に基づいて順次計算される。ただし、式(8)における熱伝達係数αとしては、式(9)に示すαW(冷却ユニットの種類によって変化する値であるため、図5Bでは、第i番目の冷却ユニットの熱伝達係数をαWiとしている)を用いている。本実施形態では、上部冷却ユニット→下部冷却ユニット→上部冷却ユニットという順序で使用する構成としているため、奇数番目の冷却ユニットは上部冷却ユニットを、偶数番目の冷却ユニットは下部冷却ユニットを用いることになる。
ステップS20〜S21では、ユニット出口温度が第1冷却停止温度の目標値を満足するか否かを判断し、満足していなければ、水冷を実施する冷却ユニットの数を増やして再度温度計算をする。満足していれば、ステップS22へ移行する。
ステップS22では、第1冷却停止温度の目標値を満足した場合におけるユニット数(i)が第1冷却に使用するユニット数NCR1として設定される。
ステップS23では、前述のようにして設定された仕上圧延速度Vと中間空冷時間の目標値tairと冷却ユニットの長さLとに基づき、中間空冷時間を確保するための停止ユニット数(水冷を実施しない冷却ユニットの数)Nstopが計算される。
ステップS24では、上記中間空冷後の冷却開始温度Tairが上記の式(8)に基づいて計算される。ただし、式(8)における熱伝達係数αとしては、空冷の熱伝達係数αairが用いられる。
ステップS25では、上記中間空冷完了後の鋼板温度Tairが後続する第2冷却の開始温度Tinとして設定される。
ステップS26では、第2冷却を実施するユニットの数jが1に設定され、ステップS27では、第1冷却に使用するユニット数(NCR1)、中間空冷に使用するユニット数(Nstop)及び第2冷却に使用するユニット数(j)の合計数Kが計算される。
ステップS28では、冷却ユニットの合計数Kが、ランナウトテーブルに配設された冷却ユニットの総数以内であるか否かを判断し、総数以内であればまだ冷却能力があることから、ステップS29において、ステップS19と同様に、各冷却ユニット出口における鋼板温度(ユニット出口温度)Toutが上記の式(8)に基づいて順次計算される。
一方、ステップS28において、冷却ユニットの合計数Kが、ランナウトテーブルに配設された冷却ユニットの総数を超えると判断された場合には、冷却能力が不足しているということを意味するため、仕上圧延速度を低下させる必要がある。仕上圧延速度を変更すると、仕上入口温度や仕上出口温度にも影響が及ぶため、手順(B)に戻って、ステップS4(図5A)から計算をし直すことになる。
ステップS30〜S31では、ユニット出口温度が巻取温度の目標値を満足するか否かが判断され、満足してれば第2冷却に使用するユニット数を増やして再度温度計算をする。満足していれば、ステップS32へ移行する。
ステップS32では、ユニット出口温度が巻取温度の目標値を満足した場合におけるユニット数(j)が第2冷却に使用するユニット数NCR2として設定される。
予め設定された圧延条件に関する各設定値は、以上に説明した設定計算によって算出された各設定値に修正され、新たな圧延条件として該当する設備に送信される。当該送信された新たな圧延条件に従って、粗圧延〜仕上圧延〜ランナウトテーブルの各製造工程は操業され、熱延鋼板が製造されることになる。
以上に説明した設定計算は、前述したように粗圧延を開始する前の第1のタイミング(例えば、熱延鋼板の母材となるスラブ20を加熱炉21に装入して加熱しており、圧延工程に投入することが確定したタイミング)で行うものであるが、実際の圧延操業中に限らず、圧延に先立ってオフラインで設定計算を行うことも可能である。そして、実際の圧延の際には、その設定値(粗バーの厚み及び仕上圧延速度)を初期条件とすればこの計算の繰り返し数を低減でき計算速度を早めることができると共に、加熱炉抽出温度の実測値や計算値或いはスラブ成分の実測値等を計算に用いることにより計算精度を向上することも可能である。
また、上記と同様の設定計算を、粗圧延を終了した後であって仕上圧延を開始する前の第2のタイミングで再度行うことも可能である。ただし、第2のタイミングでは、粗圧延が既に完了していることから、粗バー1の厚みの設定値を修正することは不可能であり、仕上圧延機の圧延速度のみの修正となる。しかしながら、粗圧延機2の出口における粗バー1の温度の測定値を用いることができるので、予測値を用いた場合よりも設定計算の精度を向上することが可能である。
より具体的に説明すれば、第2のタイミングで設定計算を行う場合、ステップS1〜S12について、基本的には図4Aに示したステップと同じ内容である。ただし、粗圧延が完了した時点で計算を行うため、ステップS4における仕上入口温度及び仕上出口温度の計算の際、粗圧延機2の出口における粗バー1の温度の予測計算値の代わりに、温度計81による実測温度を用いることが可能である。従って、仕上入口温度及び仕上出口温度の予測精度を大幅に向上させることが可能である。
また、第2のタイミングで設定計算を行う場合、粗バー1の厚みの設定値を修正することはないため、第1のタイミングで設定計算を行った際に決まった粗バー1の厚みの設定値をそのまま用い、ステップS12からステップS15へ移行する。
ステップS15以降の各ステップについては、図5A及び図5Bに示した各ステップと同じ内容である。
次に、以上に説明した本実施形態に係る熱延鋼板の製造方法について数値シミュレーションを実施し、従来の製造方法との差異を比較した。
本実施形態に係る製造方法については、図5A及び図5Bに示したフロー図に従って設定計算を行うことにより、粗バーの厚み40mm、仕上圧延機の圧延速度400mpmとした。一方、従来の製造方法については、圧延機の負荷配分と生産効率の観点から、粗バーの厚み32mm、仕上圧延機の圧延速度550mpmと設定した。その他の条件は、双方同一とし、仕上入口温度、仕上出口温度、第1冷却停止温度、中間空冷時間及び巻取温度がどうなるかについて数値シミュレーションを実施した。
表2に示すように、本実施形態に係る製造方法(表2に「本発明」で示す)によれば、仕上入口温度、仕上出口温度、第1冷却停止温度、中間空冷時間及び巻取温度のいずれもが目標値の範囲に制御されており、これにより、優れた機械特性と良好な表面性状を備えた熱延鋼板を得ることが可能である。一方、従来の製造方法(表2において「従来方法」で示す)によれば、各温度条件の目標値を満足することができない。より具体的には、圧延機の負荷配分と生産効率のみを考慮して粗バーの厚みと仕上圧延機の圧延速度を設定したのでは、粗バーの厚みは32mmと薄く且つ仕上圧延速度が550mpmと速いために、仕上入口温度は目標値よりも低く、仕上出口温度は高くなる。ランナウトテーブルでは、第1冷却停止温度及び巻取温度が目標値よりも高くなり、空冷時間が短くなる。
以上に説明したように、本実施形態に係る熱延鋼板の製造方法によれば、仕上圧延の入口および出口における熱延鋼板の温度を目標値に制御すると共に、冷却過程の冷却条件も目標値に制御することができ、これにより、所定の安定した機械特性を有し表面性状に優れた熱延鋼板を低コストで製造することが可能である。
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る熱延鋼板の製造方法は、仕上入口温度、仕上出口温度、第1冷却停止温度及び中間空冷時間のいずれもがそれぞれの目標値を満足するように、粗バーの厚みの設定値を修正することを特徴とする。
本実施形態に係る製造方法も、第1の実施形態と同様に、図1に例示したような熱延鋼板の製造装置に適用される。従って、製造装置についての詳細な説明は省略し、第1の実施形態と異なる圧延条件の設定計算手順についてのみ説明する。
図6A及び図6Bは、設定計算装置10(図1参照)において行われる設定計算の手順を示すフロー図である。なお、図6Aに示す「A」及び「B」が、図6Bに示す「A」及び「B」にそれぞれ対応しており、図6A及び図6Bで一つのフロー図を形成している。
図6Aに示すように、本実施形態の設定計算におけるステップS1〜S12は第1の実施形態と同様の手順である。また、図6Bに示すランナウトテーブルに配設された冷却装置のオン/オフ・パターンの設定手順についても第1の実施形態と同様である。
また、図6Aに示すステップS13において、粗バー1の厚みの増加量が限界であるか否かを判断し、限界内の場合にはステップS14へ移行して、粗バー1の厚みの新たな設定値を求め、これにより、仕上入口温度が目標値を満足できる条件が決定される点も第1の実施形態と同様である。
しかしながら、本実施形態では、ステップS13において、粗バー1の厚みの増加量が限界を超えていると判断された場合に、仕上圧延速度を修正することなく、最終の条件で計算を終了する点で第1の実施形態と異なる。
本実施形態に係る製造方法における圧延条件の設定計算では、仕上圧延速度を修正しない(従って、例えば生産効率のみを考慮して設定された仕上圧延速度がそのまま用いられる)ため、第1の実施形態に比べれば、各温度条件の目標値を満足させることが難しくなる。しかしながら、若干の機械特性の劣化が許容可能な熱延鋼板であれば、例えば、仕上出口温度の目標値の範囲を広げることが可能であるため、本実施形態に係る製造方法により、仕上入口温度、仕上出口温度、第1冷却停止温度及び中間空冷時間のいずれについてもそれぞれの目標値を満足させることが可能である。