JP2006022895A - 高強度歯車及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高回転で且つ高負荷の環境で使用しても歯面から剥離しない高靭性のダイヤモンドライクカーボン膜を備え、歯面強度が極めて優れた高強度歯車を提供する。
【解決手段】金属製歯車基材1の歯面において、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲に、平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部2が形成してあり、その表面に厚さ1〜5μmのダイヤモンドライクカーボン膜3が形成してあり、ダイヤモンドライクカーボン膜3上に厚さが10〜500nmで且つ水素を原子数密度4×1022atms/cm以上含有するカーボン層4を備えている高強度歯車。
【選択図】 図1

Description

本発明は、歯面に硬質被膜を形成した高強度歯車及びその製造方法に関し、例えば、自動車の減速機等に用いるのに好適な高強度歯車及びその製造方法に関するものである。
近年では、環境問題等への対応のために、モータにより駆動される自動車が増大していくことが見込まれている。一方、このようなモータ駆動の自動車では、減速機において数万rpmに及ぶモータの回転をコンパクトなサイズで減速する必要があることから、その減速機を構成する歯車に対して、摺動発熱に伴うスカッフィングや摩耗、ピッチングなどの歯面損傷の発生が懸念されている。
また、歯車の歯面損傷を防止する対策としては、低フリクション性をもたらす硬質被膜を歯面に形成することで、発熱やそれに伴なう歯面の強度及び形状の劣化を低減することが考えられており、その硬質膜としてはダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)がある。ところが、DLC膜は、既に自動車用エンジンの摺動部品への適用事例があり、上記した歯面損傷の解決策として有望であるものの、実際に減速機用歯車に適用した場合、摩耗や歯車基材からの剥離が生じる恐れがある。
その理由としては、クリーニング時や成膜時において、歯車の歯元は歯先に比べて陰になり易いという形状的な問題が挙げられる。つまり、歯元は、脱脂洗浄やイオンクリーニングが行い難いため、歯車基材とDLC膜との界面の密着力が低下しやすい。また、歯元は、歯先に比べて成膜速度が遅いため、歯元のDLC膜の厚さが所定値になるまで成膜を行うと、歯先のDLC膜の厚さが所定値よりも大きくなり、これによりDLC膜にかかる力が増大すると共に、DLC膜中の欠陥の存在率が急激に増加することになる。また、他の理由としては、負荷環境の厳しさが挙げられる。つまり、上記したような減速用歯車では、高面圧で且つ高摺速が動的に付与されるうえに、潤滑油中に存在する硬質な異物によってDLC膜の表面が傷付きやすくなる。
したがって、上記したような減速機用歯車の歯面に硬質被膜を形成するには、硬質被膜に他の部品以上の高い靭性を与え、欠陥の存在を許容できるようにしなければ充分な剥離強度を得ることができない。
そこで、従来においては、基材に対するDLC膜の密着性を向上させる方法として、基材表面に、イオン衝撃により10〜100nmの凹凸を形成し、その後にDLC膜を形成することで、機械的なアンカー効果によってDLC膜の密着性を向上させる方法や、基材表面にDLC膜を形成した後、粒径が1〜50μmで且つエッジの鋭い粒子を用いてマイクロブラスト処理を行うことにより、その表面を滑らかにする方法が提案されていた。
特開平10−130817号公報 特開2001−304275公報 特表2003−500231公報
しかしながら、イオン衝撃により凹凸を形成した後にDLC膜を形成する方法では、基材とDLC膜との界面の密着性を高めるには有効であるものの、DLC膜自体の靭性を向上することができないという問題点があり、また、成膜後にマイクロブラスト処理を行う方法では、DLC膜への負荷を低減させることはできるが、ブラスト粒子のサイズや形状を維持管理しなければならない点に難があり、しかも、上記した値以上に小さいブラスト粒子を用いて緻密な表面を得ることは困難であるという問題点があった。
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、高回転で且つ高負荷の環境で使用しても歯面から剥離することのない高靭性のダイヤモンドライクカーボン膜を備えたものとすることができ、歯面強度が極めて優れた高強度歯車及びその製造方法を提供することを目的としている。
本発明の高強度歯車は、金属製歯車基材の歯面において、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲に、平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部が形成してある。そして、凹部を形成した歯面には、厚さ1〜5μmのダイヤモンドライクカーボン膜が形成してあり、さらに、ダイヤモンドライクカーボン膜上に、厚さが10〜500nmで且つ水素を原子数密度4×1022atms/cm以上含有するカーボン層を備えたものとしている。また、より好ましい実施形態として、歯面の凹部が、レーザーパルスの照射により形成してあることを特徴としている。
本発明の高強度歯車の製造方法は、金属製歯車基材の歯面に対して、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲にレーザーパルスを照射して、平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部を形成する。その後、PVD処理室においてPVD法により歯面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成し、続いて、PVD処理室中に炭化水素ガスを導入してダイヤモンドライクカーボン膜上に水素を含有するカーボン層を形成することで、歯面に、凹部、ダイヤモンドライクカーボン膜及びカーボン層を備えた高強度歯車を得るものとしている。
本発明の高強度歯車によれば、高回転で且つ高負荷の環境で使用しても歯面から剥離することのない高靭性のダイヤモンドライクカーボン膜を備えたものとすることができ、充分な歯面強度を得ることができる。
本発明の高強度歯車の製造方法によれば、高回転で且つ高負荷の環境で使用しても歯面から剥離することのない高靭性のダイヤモンドライクカーボン膜を形成して、充分な歯面強度を有する高強度歯車を提供することができる。
本発明の高強度歯車は、図1に示すように、鉄、銅、アルミニウム及びその合金等から成る金属製歯車素材1の歯面において、全噛み合い長さ(歯先から歯元に至る長さ)Lに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲、及び歯元から0.3Lの範囲に、平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部2が形成してある。
また、上記の範囲に凹部2を形成した歯面の全面には、厚さ1〜5μmのダイヤモンドライクカーボン膜(以下、「DLC膜」と略記する)3が形成してあり、さらに、DLC膜3上の全面に、厚さが10〜500nmで且つ水素を原子数密度4×1022atms/cm以上含有するカーボン層4が形成してある。
上記の高強度歯車を製造するには、歯車基材1の歯面に対して、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲、及び歯元から0.3Lの範囲にレーザーパルスを照射して、上記した大きさの多数の凹部2を形成する。このように、凹部2の形成にレーザパルスを用いることにより、ブラスト処理のように粒子を投射する方法では困難であった緻密な凹部形状の形成や形成範囲を容易に制御することができ、且つ安定した品質を得ることができる。
その後、PVD(物理気相合成)処理室において、PVD法により歯面にDLC膜3を形成する。このPVC処理としては、基材に対する被膜の密着力の観点などから、アークイオンプレーティング法やスパッタリング法などが好ましい。
そして、上記のDLC膜3の形成に続いて、本来DLC膜3中に水素が入らないPVD処理において、PVD処理室中に、例えばメタンガス等の炭化水素ガスを導入してDLC膜3上に水素を含有するカーボン層4を形成する。これにより、歯面に、所定範囲の凹部2、DLC膜3及びカーボン層4を備えた高強度歯車が得られる。
上記の高強度歯車において、歯車素材1は、金属製であるから熱伝導が高く、動力伝達時において摺動面で生じた熱を伝えて放出し易いものである。また、歯面において、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲は、とくに摺動が厳しい部分であり、両範囲の間となる歯面の中央域は、とくに面圧が高くなる部分である。
そこで、当該高強度歯車では、とくに摺動が厳しくなる歯先及び歯元の上記範囲にレーザパルスにより多数の凹部2を形成してから、歯面全面にDLC膜3を形成することで、ブラスト処理のように表面粗さを悪化させずに凹部2を形成したうえで、DLC膜3が形成されることになり、この凹部2を形成した範囲では、DLC膜3がきめ細かいブロック状となって、局部の欠陥や傷が全体に伝播することのない高靭性の被膜となる。また、凹部2の形成範囲を上記の如く歯先と歯元に限定することにより、製造コストを低減し得るという利点もある。
さらに、とくに面圧が高くなる歯面の中央域については、凹部2を形成せずにDLC膜3を形成することで、歯先や歯元よりも緻密で耐摩耗性に優れたものとなり、万一歯面が摩耗しても歯面形状が中央域で凹状態になる心配がなく、歯当たりの悪化が生じるようなこともない。
ここで、凹部2の平均径を0.1〜10μmとし且つ平均深さを0.1〜10μmとしたのは、平均径を0.1μm未満とし且つ平均深さを0.1μm未満にすると、実質的に凹部2が無い状態に等しくなってブロック状のDLC膜3を得ることが困難になるからであり、一方、平均径が10μmを超え且つ平均深さが10μmを超えると、DLC膜3のブロック状のきめ細かさが失われて高靭性を維持することが困難になるからである。
また、DLC膜3の厚さを1〜5μmとしたのは、厚さが1μm未満であると、薄過ぎて充分な耐摩耗性を得ることが困難になるからであり、一方、厚さが5μmを超えると、DLC膜3が厚過ぎて剥離し易くなるからである。
さらに、カーボン層4は、ある程度の摺動により研磨されて相手材となじむ性質があり、このようななじみ層を歯先から歯元に至るまでむら無く形成し且つなじみ後には本来のDLC層を露出させる働きをする。このため、カーボン層4の厚さを10〜500nmとしたのは、厚さが10nm未満であると、薄過ぎて充分ななじみ性を得ることが困難になるからであり、一方、厚さが500nmを超えると、厚過ぎてなじみ後にDLC層を露出させるのが困難になるからである。
そしてさらに、カーボン層4の水素含有量を原子数密度4×1022atms/cm以上としたのは、原子数密度4×1022atms/cm未満であると、炭素膜の硬度が高くてアブレッシブ摩耗(異物による摩耗)的な相手攻撃性が生じ、上記したようななじみ層として不充分になるからである。
したがって、本発明の高強度歯車及びその製造方法では、金属製歯車基材1の歯面において、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲に、レーザパルスによって平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部2を高精度に形成し、その後、歯面の全面に厚さ1〜5μmのDLC膜3を形成することで、歯元の摩耗や歯先の強度低下のない高靭性のDLC膜3が歯面の噛み合い範囲全域で得られることとなる。
また、上記のDLC膜3上に、厚さが10〜500nmで且つ水素を原子数密度4×1022atms/cm以上含有するカーボン層4を備えることにより、このカーボン層4は、炭素膜の硬度が急激に失われてアブレッシブ摩耗的な相手攻撃性が低下したものとなり、軟質でダイヤモンド構造の特徴はないものの、相手表面の研磨作用に優れ且つ摺動後すぐに失われるなじみ層として優れた特性を有するようになる。
これにより、当該高強度歯車及びその製造方法によれば、高回転で且つ高負荷の環境で使用しても歯面から剥離することのない高靭性のDLC膜3を備えたものとして、充分な歯面強度を有する高強度歯車を提供することができる。
本発明に係わる高強度歯車の効果を調べるために、実施例A,B及び比較例A〜Fとして、以下に示す諸元の歯車形状試験片を試作した。試験歯車及び相手歯車の材料は、JIS−SCM420Hとし、歯をホブ切りにより形成した後、浸炭焼き入れ・焼き戻しを行って表面硬度Hv730とし、有効硬化層の深さ0.6mmとした。また、いずれの歯車も歯面研削にて形状を整えた。
<歯車形状試験片>
モジュール :2.5
試験歯車の歯数 :29
相手歯車の歯数 :30
圧力角 :20°
ねじれ角 :7°
その後、各試験歯車の歯面に対して、以下の条件でレーザーパルスを照射し、歯面の所定範囲に多数の凹部を形成した。この凹部形成方法の原理は、水中の歯車の歯面にレーザーパルスを照射して局所的にプラズマを発生させ、極表面を溶解するものである。このとき、歯面の各凹部は、1パルスが照射した面積内に極めて微小な凹凸を多数形成することにより得られるものであって、照射したレーザーパルス1個の大きさに対応するものではない。
<レーザーパルス照射条件>
ビーム径 :φ0.2mm
パルス密度 :80000パルス/m
また、レーザーパルスによる凹部形成を行う際に、防錆剤入りの水を媒体として用いたが、この媒体はレーザーを透過するものであればよく、錆を嫌う場合は白灯油などを用いても良い。さらに、凹部のサイズの効果を確認するため、各実施例及び各比較例について、照射するパルスエネルギーを変えて試作を行った。このとき、比較例Dは、歯面全面に凹部を形成した。
その後、各試験歯車の歯面に対して、非平衡マグネトロンスパッタリングにてダイヤモンドライクカーボン膜の形成を行った。これは、歯車の歯面をアルゴン(Ar)イオンにてスパッタリングした後、中間層としてCr層をピッチ点で0.5μmとなるように生成し、続いて、WC(タングステンカーバイド)/C層を形成した。この際、DLC膜の厚さの影響を確認するため、成膜時間を変えて膜厚を変えた。そして、成膜の最後に、炭化水素ガスとして、Arガスの全流量に対して30%のメタンガス(CH)を導入してカーボン層を形成した。このカーボン層の水素含有量は二次イオン質量分析装置にて測定し、同カーボン層の原子数密度を1×1023atms/cmとして求めた。なお、比較例Bには、カーボン層の形成を行わなかった。
<DLC成膜条件>
Arガス導入前真空度 :1x10−4Torr
スパッタ圧 :Ar 0.3Pa
窒素ガス導入後圧力 :30mTorr
製膜前温度 :130℃
その後、各実施例及び各比較例について、以下の条件で歯車単体試験を行い、トルクを漸増させて被膜の剥離限界を調べた。一部の試験では、耐異物試験として潤滑油中に摩耗紛を混入させ、トルク80Nmで10サイクル試験後にその表面状況を比較した。膜厚及び表面形状はSEM(走査電子顕微鏡)で観察し、また、相手表面の粗さを測定した。
<歯車試験条件>
試験機 :動力循環式歯車単体試験機
潤滑油 :タービン油 VG32
試験油温 :100℃
回転数 :3000rpm
各実施例及び各比較例の成膜条件と試験結果を表1にまとめて示す。
Figure 2006022895
本発明の実施例A,Bでは、いずれも相手面粗度が向上しており、DLC膜の高い剥離限界トルクを確認した。また、耐異物試験においても、DLC膜に摺動傷が発生している程度で歯面全体への剥離には至らなかった。
これに対して、比較例Aでは、凹部が深く且つ大き過ぎてDLC膜の剥離が生じた。また、カーボン層を形成しなかった比較例Bや、カーボン層の厚さを薄くした比較例D及びEでは、相手表面粗さ並びに歯車表面間の接触状態が改善されず、比較例Bでは、DLC膜が厚過ぎて歯先側から剥離が生じた。逆に、比較例Cでは、DLC膜が薄過ぎて歯元の膜が摩耗で失われた。
さらに、比較例Dでは、全面に凹部を形成し且つDLC膜が薄いために剥離が生じ、比較例Eでは、通常の状態では剥離限界が高かったが、耐異物試験では表面傷の拡大及び合体が生じて、DLC膜がほとんど失われた。そしてさらに、比較例Fでは、最表面のカーボン層の水素含有量が4×1022atms/cm未満であったため、その硬度が大きくてなじみ層として機能しなかった。
本発明の高強度歯車における歯面を説明する断面図である。
符号の説明
1 歯車基材
2 凹部
3 ダイヤモンドライクカーボン膜
4 カーボン層

Claims (3)

  1. 金属製歯車基材の歯面において、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲に、平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部が形成してあり、その表面に厚さ1〜5μmのダイヤモンドライクカーボン膜が形成してあり、ダイヤモンドライクカーボン膜上に厚さが10〜500nmで且つ水素を原子数密度4×1022atms/cm以上含有するカーボン層を備えていることを特徴とする高強度歯車。
  2. 歯面の凹部が、レーザーパルスの照射により形成してあることを特徴とする請求項1に記載の高強度歯車。
  3. 金属製歯車基材の歯面に対して、全噛み合い長さLに対して少なくとも歯先から0.3Lの範囲及び歯元から0.3Lの範囲にレーザーパルスを照射して、平均径が0.1〜10μmで且つ平均深さが0.1〜10μmの多数の凹部を形成した後、PVD処理室においてPVD法により歯面にダイヤモンドライクカーボン膜を形成し、続いて、PVD処理室中に炭化水素ガスを導入してダイヤモンドライクカーボン膜上に水素を含有するカーボン層を形成することを特徴とする高強度歯車の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2012530187A (ja) * 2009-05-18 2012-11-29 ザ スウォッチ グループ リサーチ アンド ディベロップメント リミティド. 微小機械システムに適用される高い摩擦性能を維持しながら微小機械部品をコーティングする方法

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