JP2006010828A - セルロースアシレートフィルムとその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 膜厚方向に負のレターデーション値を有するセルロースアシレートフィルムを提供すること及びこれを位相差板や位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムとして使用した優れた液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】 膜厚方向のレターデーション値が0nm未満であり、セルロースの水酸基へのアシル置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースアシレートフィルム。
(I) 2.80≦SA+SP<2.87
(II) 0≦SA≦1.0
(III)1.8≦SP<2.87
(式中、SAおよびSPはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換基を表し、SAはアセチル基の置換度、またSPはプロピオニル基の置換度である。)
【選択図】 なし

Description

本発明は、膜厚方向に負のレターデーションを有するセルロースアシレートフィルム、それを用いた位相差板、偏光板および液晶表示装置に関する。
セルロースエステルフィルムは、ハロゲン化写真感光材料の支持体、位相差板、位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムや液晶表示装置に使用されている。
セルロースエステルフィルムのうち、画像表示装置等の光学用途として最も一般的に用いられているセルロースアセテートフィルムでは、主として溶液流延製膜法が採用されており、平面性の高い良好なフィルムが製造されている。このフィルムの膜厚方向のレターデーション(Rth)は通常正の値を示すが、セルロースアセテートでは酢化度を著しく上昇させることによってRthが低下すると同時に有機溶媒への溶解性が低下する。そのため、非常に高酢化度のセルロースアセテートフィルムではRthが負になることが期待されるが、ハロゲン系有機溶媒に膨潤させた後、室温に近い温度で撹拌しても十分に溶解させることができず、面状に優れた光学用途のフィルムを製膜することはできなかった。他方で、非特許文献1や特許文献1では、セルロースアセテートを混合脂肪酸エステルとすることで、溶媒への溶解性を向上させることができることが示されている。
負のRthを有するセルロースエステルフィルムができると、このフィルムをそのままIPSモードの液晶表示装置の位相差板として用いることでパネルの視認性を向上させたり、正のRthを有するセルロースエステルフィルムを貼り合わせることにより、一般的には容易に制御できないRthを自在に調整した位相差板を製造したりすることが可能となる。そのため、負のRthを有するセルロースエステルフィルムを製造することが切望されている。負のRthを有するフィルムは、特許文献2に開示されているような複雑な方法で製造することも可能であるが、生産性が十分ではなかった。
特開平8−231761 特開2000−231016 Ind.Eng.Chem.、43巻、688頁、1951年
セルロースエステルフィルムを、位相差板、位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムや液晶表示装置のような光学的用途に使用する場合、その光学異方性の制御が非常に重要である。セルロースエステルフィルムは一般に、面内方向のレターデーション(Re)の制御が容易であるが、厚み方向のレターデーション(Rth)の制御が難しいとされている。特に溶液流延製膜法においては、製膜過程で必然的に膜厚方向へ圧縮力が加わるため、厚み方向のレターデーションが低い値となるように、セルロースエステルフィルムを製造することは非常に困難であった。
一方で、セルロースエステルフィルムを光学材料として用いる表示装置では、セルロースエステルフィルムのレターデーション値が、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する非常に重要なパラメータになる。例えば、IPSモードの液晶表示装置では、負のRthを有するフィルムを位相差板として挿入することで、色味やコントラストを向上させることができ、優れた画質のパネルを得ることができる。
本発明の目的は、膜厚方向に負のレターデーション値を有するセルロースアシレートフィルムを提供し、これを位相差板や位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムとして使用し、優れた液晶表示装置を提供することである。
本発明は、下記(1)〜(4)のセルロースアシレートフィルム、下記(5)、(6)の位相差板、下記(7)の偏光板および下記(8)〜(12)のセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供する。
(1)膜厚方向のレターデーション値が0nm未満であり、セルロースの水酸基へのアシル置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足することを特徴とす
るセルロースアシレートフィルム。
(I) 2.80≦SA+SP<2.87
(II) 0≦SA≦1.0
(III)1.8≦SP<2.87
(式中、SAおよびSPはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、SAはアセチル基の置換度、またSPはプロピオニル基の置換度である。)
(2)膜厚方向のレターデーション値が−50〜−1nmであることを特徴とする上記(1)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(3)25℃、10%RHにおける膜厚方向のレターデーション値と25℃、80%RHにおける膜厚方向のレターデーション値との湿度に伴う変化が20nm以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(4)膜厚が60〜180μmであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムと膜厚方向のレターデーション値が正の値であるセルロースアシレートフィルムからなることを特徴とする積層位相差板。
(6)少なくとも一枚の上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを含有することを特徴とする位相差板。
(7)偏光膜およびその両側に設けられた二枚の透明プラスチックフィルムからなる偏光板であって、一方の透明プラスチックフィルムが少なくとも一枚の上記(1)〜(4)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムを含有することを特徴とする偏光板。
(8)セルロースの水酸基へのアシル置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースエステルを、−10〜35℃で沸点が80℃以下の有機溶媒を含む溶媒に膨潤させ、その混合物を0〜35℃で撹拌して溶解させ、ろ過する工程を経て得られた溶液から、流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(I) 2.80≦SA+SP<2.87
(II) 0≦SA≦1.0
(III)1.8≦SP<2.87
(式中、SAおよびSPはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、SAはアセチル基の置換度、またSPはプロピオニル基の置換度である。)
(9)前記溶媒の10〜30質量%がアルコールであることを特徴とする上記(8)に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(10)前記溶媒が沸点が95℃以上の有機溶媒を全溶媒中1〜5質量%含有することを特徴とする上記(8)又は(9)に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(11)前記溶媒が2種類以上のアルコールを含有しており、該2種類以上のアルコールが沸点が95℃以上のアルコールの少なくとも1種類と、沸点が95℃未満のアルコールの少なくとも1種類からなることを特徴とする上記(8)〜又は(10)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(12)前記沸点が80℃以下の有機溶媒がハロゲン化炭化水素であることを特徴とする(8)〜(11)のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
セルロースエステルフィルムのレターデーション値は、フィルムを25℃、60%RHにて24時間調湿後、自動複屈折計(例えばKOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃、60%RHにおいて、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および、フィルム面法線から±40°傾斜させた方向から波長590nmにおけるレターデーション値を測定し、下記式(1)および(2)でそれぞれ表される面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出したものである。
(1) Re=(nx−ny)×d
(2)Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxはフィルム面内の遅相軸(x)方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸(y)方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向(フィルム面と直交する方向)の屈折率であり、dはフィルムの厚み(nm)である。遅相軸はフィルム面内で屈折率が最大となる方向であり、進相軸はフィルム面内で屈折率が最小となる方向である。
レターデーション値の湿度に伴う変化は、フィルムを25℃、10%RHにて調湿してから測定して算出したRe、Rth(それぞれRe(10%)、Rth(10%)と表記する)、および25℃80%RHにて調湿してから測定して算出したRe、Rth(それぞれRe(80%)、Rth(80%)と表記する)から、下記式(3)および(4)でそれぞれ表されるReの湿度依存性(ΔRe)とRthの湿度依存性(ΔRth)とを算出したものである。
(3) ΔRe=| Re(10%)− Re(80%)|
(4)ΔRth=|Rth(10%)−Rth(80%)|
前記した置換エステル基構成を特徴とする本発明のセルロースアシレートフィルムは、Rthが負の値となるセルロースエステルフィルムであり、そのRthは、−50〜−1nmに亘っており、特に−40〜−5nm、さらには−30〜−10nmという実用的価値ある範囲のRthを得ることができる。Rthの湿度依存性は20nm以下であれば実用上問題はないが、本発明によるセルロースアシレートフィルムは、より好ましい18nm以下、さらに15nm以下の安定した湿度依存性を示すものが得られる。
一般に、セルロースエステルフィルムの厚み方向のレターデーション(Rth)を、延伸等の製造工程の条件調整によって大きく制御することは非常に難しいことであるが、Rthが負の値となる本発明のセルロースエステルフィルムがあると、これをそのままIPS(In−Plane Switching)モードの液晶表示装置用の位相差板として用いることができる。また、従来から知られているRthが正の値となるセルロースエステルフィルムと本発明のセルロースエステルフィルムとを貼り合せることで、簡便にRthを制御したりすることもできる。
また、本発明のフィルムの原料として用いられるセルロースエステルは溶媒への溶解性に非常に優れるため、本発明により得られたセルロースエステルフィルムは異物が非常に少ないという特徴を有しており、光学用途のフィルムとして好適に用いることができる。
なお、Rthが負の値となるポリマーフィルムとしては、複雑な方法で製造されたポリカーボネートフィルムが良く知られている。しかし、このフィルムは製造方法が複雑なために生産性が十分でなく、しかもポリカーボネートフィルムとセルロースエステルフィルムでは、膨張係数のような物理的性質や、屈折率のような光学的性質や、透湿係数が異なるので、ポリカーボネートフィルムとセルロースエステルフィルムとを貼り合せると、物理的性質の違いによる問題(例えば、環境に依存する膨張係数の違いに起因するカール)や光学的性質の違いによる問題(例えば、貼り合わせ界面での反射等に起因する透過率低下)が発生し、また、位相差板の機能を持たせた偏光板保護フィルムとして用いると、透湿係数の低さによる問題(例えば、水を含んだ偏光子が乾燥しないことに起因する偏光度低下)が発生する。
本発明により得られたRthが負の値となる異物の少ないセルロースエステルフィルムを用いることで、上記の問題を生じることなく、位相差板および偏光板のRthを自在に制御することが可能になった。そして、これらの位相差板あるいは偏光板を用いることで、信頼性の高い画像表示装置が得られる。
本発明のセルロースアシレートフィルムとは、セルロースエステル化合物、およびセルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物、を含むフィルムである。その中で、エステルを構成する酸は、炭素数2および/または3のカルボン酸である酢酸および/またはプロピオン酸である。炭素数4以上のカルボン酸からなるセルロースアシレートでは、側鎖がフレキシブルであるが故に、製膜時の圧縮力により側鎖が面内に寝てしまい、Rthを増加させる働きをしてしまうために、膜厚方向に大きな負の値を有するセルロースアシレートフィルムを製造することはできない。
セルロースエステルの置換度は、下記式(I)〜(III)の全てを満足するものであり、
(I) 2.80≦SA+SP<2.87
(II) 0≦SA≦1.1
(III)1.8≦SP<2.87
(式中、SAおよびSPはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、SAはアセチル基の置換度、またSPはプロピオニル基の置換度である。)
が好ましく、
(I) 2.81≦SA+SP≦2.86
(II) 0≦SA≦0.9
(III)2.0≦SP≦2.85
がより好ましく、
(I) 2.82≦SA+SP≦2.86
(II) 0≦SA≦0.7
(III)2.2≦SP≦2.85
がさらに好ましい。
本発明に係るセルロースアセテートプロピオネートやセルロースプロピオネートにおいては、上記式(I)で表される全置換度を2.8以上にすることにより、負のRth値を有するフィルムを達成することが可能であり、全置換度は高い方が好ましいが、全置換度が2.87を超えると乾燥過程でフィルムが白化してしまうという問題が発生する。また、上記式(III)で表されるプロピオニル置換度を高めることでセルロースアセテートよりもRthを低下させ、Rthの湿度依存性を低下させることが可能となると同時に、溶媒への溶解性を向上させることができ、室温付近で撹拌するだけで良好に溶解されたドープ溶液が得られるために、生産に伴い多大なエネルギーを消費することなく、面状に優れた良好なフィルムを製造することが可能となる。
セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法である。具体的には、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)の水溶液を添加してもよい。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に従い測定できる。粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成することもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
セルロースアシレートの原料綿や合成方法については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
セルロースアシレートフィルムは、フィルムを構成するポリマー成分が実質的にセルロースアシレートからなることが好ましい。『実質的に』とは、ポリマー成分の55質量%以上(好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上)を意味する。セルロースアシレートフィルムに、二種類以上のセルロースアシレートを併用してもよい。
セルロースエステル溶液の原料としては、セルロースアシレート粒子を使用することが好ましい。使用する粒子の90質量%以上は、0.2乃至5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が0.4乃至4mmの粒子径を有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。
セルロースエステル溶液の調製に使用するセルロースアシレートは、含水率が1.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが最も好ましい。セルロースアシレートは一般に、1.8〜5質量%の含水率を有している。従って、セルロースアシレートを乾燥してから使用することが好ましい。
セルロースエステル溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、改質剤、紫外線防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤)を加えることができる。可塑剤については、特開2001−151901号公報に記載がある。赤外吸収剤については、特開平2001−194522号公報に記載がある。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて決定する。
セルロースエステルフィルムが多層構造を有する場合、各層における添加剤の種類や量が異なってもよい(例えば、特開平2001−151902号公報記載)。
セルロースエステルフィルムの添加剤については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)16頁〜22頁にも記載がある。
セルロースエステル溶液の主溶媒は、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点から好ましく、沸点が10〜80℃であることがより好ましく、沸点が20〜60℃であることがさらに好ましく、沸点が30〜45℃であることがさらにまた好ましい。このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、分岐構造あるいは環状構造を有していても良い。また、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、セルロースエステル溶液の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も重量分率の高い溶媒のことを示す。
ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
エステルとしては、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
エーテルとしては、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどが挙げられる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。
炭化水素としては、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼンなどが挙げられる。
これらと併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、分岐構造あるいは環状構造を有していても良い。また、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。
エステルとしては、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
エーテルとしては、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。
炭化水素としては、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
これらのうち、全溶媒中に少なくとも10〜30質量%、より好ましくは11〜30質量%、さらに好ましくは12〜25質量%のアルコールを含有することがバンドからの剥離荷重低減の観点から好ましい。
また、Rth低減の観点から、乾燥過程初期において、ハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上の、セルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を1〜5質量%、より好ましくは1.5〜5質量%、さらに好ましくは2〜5質量%含有されることが好ましい。
そして、バンドからの剥離荷重低減およびRth低減双方の観点から、沸点が95℃以上の有機溶媒はアルコールであることが好ましく、乾燥負荷低減による生産性向上の観点から、アルコールは2種類以上のアルコールの混合物であり、沸点が95℃以上のアルコールと沸点が95℃未満のアルコールとからなることが好ましい。
本発明において好ましく用いられる有機溶媒の組合せの例を以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。比率の数値は、質量部である。
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/10/5/5
(3)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/10/5/5
(4)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(5)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(6)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(7)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(8)ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(9)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/20/5/5
(10)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/20/5/5
(11)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/ブタノール=80/2/10/5/3
(12)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン=60/18/3/15/2/2
(13)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/イソブタノール=70/10/10/5/5
(14)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/エタノール/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/5/5/1
(15)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソブタノール=65/20/10/5
(16)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=86/2/10/2
(17)アセトン/エタノール/ブタノール=82/15/3
(18)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=77/10/11/2
調製するセルロースエステル溶液の濃度は、10乃至40質量%が好ましく、13乃至35質量%がさらに好ましく、15乃至30質量%が最も好ましい。
セルロースエステルを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整できる。また予め低濃度(例えば9乃至14質量%)の溶液を調製後に濃縮してもよいが、エネルギー効率的な観点から、室温もしくは−10〜35℃でハロゲン化炭化水素を含む溶媒に膨潤させ、その混合物を室温もしくは0〜35℃で撹拌して溶解させることが最も好ましい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に希釈してもよい。添加剤を添加することで、セルロースエステルの濃度を低下させることもできる。
セルロースエステル溶液は、各種の液体または固体の添加剤を含むことができる。添加剤の例には、可塑剤(好ましい添加量はセルロースエステルに対して0.1〜20質量%、以下同様)、改質剤(0.1〜20質量%)、紫外線吸収剤(0.001〜5質量%)、平均粒径が5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜5質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜2質量%)、剥離剤(0.0001〜2質量%)、劣化防止剤(0.0001〜2質量%)、光学異方性制御剤(0.1〜15質量%)、赤外線吸収剤(0.1〜5質量%)が含まれていてもよい。
セルロースエステル溶液の調製方法については、特開昭58−127737号、同61−106628号、特開平2−276830号、同4−259511号、同5−163301号、同9−95544号、同10−45950号、同10−95854号、同11−71463号、同11−302388号、同11−322946号、同11−322947号、同11−323017号、特開2000−53784号、同2000−273184、同2000−273239号の各公報に記載がある。本発明のセルロースエステル溶液の調製工程においては、積極的に冷却や加熱を行わなくてもよい。
セルロースエステル溶液は、30℃での粘度が1〜400Pa・sであることが好ましく、10〜200Pa・sであることがさらに好ましい。
粘度および動的貯蔵弾性率は、試料溶液1mLを直径4cmかつコーン角2°の容器(STEEL CONE、TA Instruments社製)に入れ、レオメーター(CLS500、TA Instruments社製)を用いて測定する。測定条件は、装置に付属の条件(Oscillation Step/Temperature Ramp)を用いて測定した。なお、試料溶液を予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に、測定を開始する。
セルロースエステルフィルムは、従来の溶液流延製膜方法に従い、従来の溶液流延製膜装置を用いて製造できる。溶解機(釜)で調製されたドープ(セルロースエステル溶液)は、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延し、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。
流延工程では、2種類以上のセルロースエステル溶液を同時または逐次共流延してもよい。
2種類以上のセルロースエステル溶液は、組成が全く同一であってもよい。組成が異なる場合、溶媒または添加剤の種類を溶液毎に変更できる。2種類以上の溶液は、濃度が異なっていてもよい。2種類以上の溶液は、セルロースエステルの会合体分子量が異なっていてもよい。2種類以上の溶液は、異なる温度で保持してもよい。
金属支持体から剥離して得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。
ここで、本発明の如く、Rthの低いフィルムを得るためには、セルロースアシレートのポリマー主鎖の間隔を広げる方法が有効である。そこで、既に述べたような高沸点のセルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を含有させる方法が有効であり、また、乾燥完了後にフィルムを冷却する際には、フィルム温度がガラス転移温度(Tg)を上回り、主鎖間隔が広くなっている状態から急速に冷却し、主鎖間隔が広いままクエンチさせる方法が有効である。したがって、通常は100℃/分程度で冷却しているが、−30〜10℃程度の除湿風を吹き込むことにより、110〜600℃/分、より好ましくは120〜350℃/分、さらに好ましくは150〜300℃/分で冷却することが好ましい。
このようにして乾燥の終了したフィルム中の残留溶剤は0〜5質量%が好ましく、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。乾燥終了後、両端をトリミングして巻き取る。好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3m、さらに好ましくは1〜2mである。好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000m、さらに好ましくは1000〜7000mである。
Re,Rthを調整するために、セルロースアシレートフィルムを延伸させることもできる。延伸は、製膜中未乾燥の状態で実施しても良く(例えば、流延後支持体から剥ぎ取った後から乾燥完了までの間)、乾燥終了後に実施しても良い。これらの延伸は製膜工程中、オン−ラインで実施しても良く、製膜完了後、一度巻き取った後オフ−ラインで実施しても良い。
延伸はTg以上Tg+50℃以下で実施するのが好ましく、より好ましくはTg+1℃以上Tg+30℃以下、さらに好ましくはTg+2℃以上Tg+20℃以下である。好ましい延伸倍率は1%以上500%以下、より好ましくは3%以上400%以下、さらに好ましくは5%以上300%以下である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここで云う延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げても良い(横延伸)。一般にいずれの場合も、延伸倍率を大きくすると、Rth大きくすることができる。また、縦延伸と横延伸の倍率の差を大きくすることでReを大きくすることができる。
さらにRe、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することで達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。横延伸の場合、直交方向に延伸すると同時に縦方向にも延伸したり、逆に緩和させることで制御することができる。即ち縦方向に延伸することでRth/Re比を大きくすることができ、逆に縦方向に緩和することでRth/Re比を小さくすることができる。
このような延伸速度は10〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20〜1000%/分、さらに好ましくは30〜800%/分である。
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0±3°、+90±3°もしくは−90±3°であることが好ましく、0±2°、+90±2°もしくは−90±2°であることがより好ましく、0±1°、+90±1°もしくは−90±1°であることがさらに好ましい。
本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚は60〜180μm以下が好ましく、60〜150μmがより好ましく、65〜120μmがさらに好ましい。膜厚が60μmより薄くなると偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカールが好ましくなく、180μmよりも厚くなると、剥ぎ取り可能な揮発分まで乾燥させるのに長い時間を要してしまうため、生産性の観点から好ましくない。膜厚むらは未延伸、延伸後とも、膜厚方向、幅方向いずれも0〜2%が好ましく、より好ましくは0〜1.5%、さらに好ましくは0〜1%である。
本発明の未延伸および延伸後のセルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗り層やバック層)との接着を改善することが可能となる。表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、ケン化処理(酸ケン化処理、アルカリケン化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリケン化処理が好ましい。
グロー放電処理は、10-3〜20Torrの低圧ガス下で実施する低温プラズマ処理を含む。また、大気圧下でのプラズマ処理も、好ましいグロー放電処理である。プラズマ励起性気体としては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、フロン(例、テトラフルオロメタン)およびそれらの混合物が用いられる。大気圧でのプラズマ処理は、好ましくは10〜1000Kev、さらに好ましくは30〜500Kevで実施する。照射エネルギーは、20〜500kGyが好ましく、20〜300kGyがさらに好ましい。グロー放電処理については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に記載がある。
アルカリケン化処理は、フィルムにケン化液を塗布するか、あるいはフィルムを鹸化液に浸漬することにより実施する。
塗布方法は、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法またはE型塗布法を採用できる。塗布液の溶媒は、フィルムに対する濡れ性が良く、フィルム表面に凹凸を形成させずに面状を良好なまま保つことが望ましい。具体的には、溶媒は、アルコールが好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、水(好ましくは、界面活性剤の水溶液)を溶媒として使用することもできる。アルカリは、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、KOHおよびNaOHがさらに好ましい。ケン化塗布液のpHは、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリケン化時の反応条件は、室温で1秒以上5分以下が好ましく、5秒以上5分以下がさらに好ましく、20秒以上3分以下が最も好ましい。アルカリケン化反応後、ケン化液塗布面を水洗するか、あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、WO02/46809号公報に内容の記載が挙げられる。
フィルムと機能層との接着を改善するため、表面処理に加えて、あるいは表面処理に代えて、下塗層(接着層)を設けることができる。下塗層については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。
セルロースエステルフィルムに設ける機能性層については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。
厚み方向のレターデーション値が負の値であるセルロースエステルフィルムは、そのまま位相差板や、位相差板の機能を持たせた偏光板の保護フィルムとして用いることができ、また、厚み方向のレターデーション値が正の値であるセルロースエステルフィルムと積層することで、厚み方向のレターデーション値が自在に制御された位相差板として用いることができる。
厚み方向のレターデーション値が負の値であるセルロースエステルフィルム、あるいはそれを複数枚積層した位相差板、もしくは、それと厚み方向のレターデーション値が正の値であるセルロースエステルフィルムとを積層したフィルムは、そのまま位相差板として用いることもでき、偏光板保護フィルムとして用いることもできる。また、上記セルロースエステルフィルムおよび位相差板を支持体とし、その上に光学異方性層(例えば、液晶性分子から形成される層)を設け、位相差板を製造することもできる。
偏光板保護フィルムとして用いる場合、セルロースエステルフィルムはアルカリケン化処理しておくことが望ましい。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面にセルロースエステルフィルムのアルカリケン化処理面を貼り合わせることができる。接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全ケン化ポリビニルアルコールの水溶液である。
アルカリケン化処理以外の表面処理(特開平6−94915号、同6−118232号の各公報に記載)を実施してもよい。
偏光板の製造後、使用前は、偏光板の一方の面に外部保護フィルム、反対面にセパレートフィルムが貼り合わされている。外部保護フィルムおよびセパレートフィルムは、偏光板の出荷や製品検査において偏光板を保護する目的で用いられる。外部保護フィルムは、偏光板を液晶セルへ貼合する面の反対面側に用いられる。セパレートフィルムは、偏光板を液晶セルへ貼合するための接着層をカバーする目的で用いられる。一般に液晶表示装置は、二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられ、一般に液晶セルは、二枚の基板の間に液晶注入される。従って、通常の液晶表示装置では、四枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明に従うセルロースエステルフィルムは、四枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いても良い。ただし、液晶表示装置における偏光子と液晶層との間に配置されるプラスチックフィルムとして、特に有利に用いることができる。
本発明のセルロースエステルフィルム、およびそれを用いた位相差板および偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができ、以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TN(Twisted Nematic)モードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VA(Vertically Aligned)モードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941、特開2004−12731、特開2004−215620、特開2002−221726、特開2002−55341、特開2003−195333に記載のものなどを使用できる。
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードに対しても、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
実施例中で用いた特性の測定法、評価法を以下に示す。
[レターデーション]
幅方向3点(中央、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置))を長手方向に10mごとに3回サンプリングし、3cm□の大きさのサンプルを9枚取り出し、下記の方法にしたがって求めた各点の平均値を求めた。
セルロースエステルフィルムを25℃、60%RHにて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃、60%RHにおいて、サンプルフィルム表面に対し垂直方向およびフィルム面法線から±40°傾斜させた方向から波長590nmにおけるレターデーション値を測定し、下記式(1)および(2)でそれぞれ表される面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。
(1) Re=(nx−ny)×d
(2)Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nxはフィルム面内の遅相軸(x)方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸(y)方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向(フィルム面と直交する方向)の屈折率であり、dはフィルムの厚み(nm)である。遅相軸はフィルム面内で屈折率が最大となる方向であり、進相軸はフィルム面内で屈折率が最小となる方向である。
レターデーション値の湿度に伴う変化は、フィルムを25℃,10%RHにて調湿、測定して算出したRe、Rth(それぞれRe(10%)、Rth(10%)と表記する)、および25℃,80%RHにて調湿、測定して算出したRe、Rth(それぞれRe(80%)、Rth(80%)と表記する)から、下記式(3)および(4)でそれぞれ表されるReの湿度依存性(ΔRe)とRthの湿度依存性(ΔRth)とを算出したものである。
(3) ΔRe=| Re(10%)− Re(80%)|
(4)ΔRth=|Rth(10%)−Rth(80%)|
[セルロースアシレートの置換度]
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
以下に本発明のセルロースアシレートフィルムについての具体的な実施態様を記述するが、これらに限定されるものではない。
《実施例1》
(セルロースアシレートの調製)
第1表に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。すなわち、触媒としての硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)とカルボン酸無水物との混合物を−20℃に冷却してからパルプ由来のセルロースに添加し、40℃でアシル化を行った。この時、カルボン酸無水物の種類及びその量を調整することで、アシル基の種類及びその置換比を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行って全置換度を調整した。このようにして得たセルロースアシレートの重合度は下記の方法で求め、第1表に記載した。
[重合度測定法]
絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、ジクロロメタン:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mLに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度DPを以下の式により求めた。
ηrel =T/T0 T :測定試料の落下秒数
[η]=1n(ηrel )/C T0 :溶剤単独の落下秒数
DP=[η]/Km C :濃度(g/L)
Km:6×10-4
(セルロースアシレート溶液の調製)
1)セルロースアシレート
調製したセルロースアシレートを120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、30質量部を溶媒と混合させた。但し、比較例2および比較例9の場合は、溶解性の観点からセルロースアシレート濃度を低下させる必要があるため、セルロースアシレートを18質量部として溶媒と混合させた。
なお、比較例1で使用したセルロースアシレートは、イーストマンケミカルジャパン(株)製のCAP482−20を購入したものであり、比較例9で使用したセルロースアシレートは、ダイセル化学工業(株)製のLT−35を購入したものであり、これらは双方ともパルプ由来のセルロースから合成されたものである。
2)溶媒
下記溶媒から選択し、第1表に記載した。
・溶媒1:ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(81/15/4質量部)
・溶媒2:ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(83/15/2質量部)
・溶媒3:ジクロロメタン/メタノール/1−プロパノール(81/15/4質量部)
・溶媒4:ジクロロメタン/メタノール(97/3質量部)
・溶媒5:ジクロロメタン/メタノール(60/40質量部)
なお、これらの溶媒の含水率は、いずれも0.2質量%以下であった。
3)添加剤
実施例7を除く全ての溶液調製に際し、トリメチロールプロパントリアセテート(第1表中に添加剤1と記す)0.9質量部を添加した。また、全ての溶液調製に際し、二酸化ケイ素微粒子(粒径20nm、モース硬度 約7)0.25質量%を添加した。
4)膨潤、溶解
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、上記溶媒、添加剤を投入して撹拌、分散させながら、上記セルロースアシレートを徐々に添加した。投入完了後、室温にて2時間撹拌し、3時間膨潤させた後に再度撹拌を実施し、セルロースアシレート溶液を得た。
なお、攪拌には、15m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2)の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌軸および中心軸にアンカー翼を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2)で攪拌する攪拌軸を用いた。膨潤は、高速攪拌軸を停止し、アンカー翼を有する攪拌軸の周速を0.5m/secとして実施した。
5)ろ過
上記で得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(FH025、ポール社製)にて濾過してセルロースアシレート溶液を得た。
(セルロースアシレートフィルムの作製)
上記セルロースアシレート溶液を30℃に加温し、流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。流延スピードは15m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースアシレートフィルムをバンドから剥ぎ取り、45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で5分、さらに140℃で10分乾燥した後、30秒でフィルムを室温まで冷却し、セルロースアシレートフィルムを得た。得られたフィルムは両端を3cm裁断し、さらに端から2〜10mmの部分に高さ125μmのナーリングを付与し、3000mロール状に巻き取った。
(セルロースアシレートフィルムの評価)
[面状]
フィルム面状は目視により次の評価尺度で評価した。
良好:フィルムに横段ムラやブツは認められないもの。
白化:フィルムが全面白化し、光学フィルムとしては適用できないもの。
ムラ:フィルム表面の凹凸や横段ムラが多数認められ、光学フィルムとしては適用できないもの。
剥離不能:支持体上のドープの乾燥を十分に行うことができず、支持体上に著しい剥げ残りが生じてしまい、剥離することができないもの。
[レターデーション]
前述した方法でセルロースアシレートフィルムの膜厚方向のレターデーション値およびその湿度依存性を測定した。
[カール]
セルロースアシレートフィルムを60℃に調温した1.5規定のNaOH水溶液(けん化液)に2分間浸漬した後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒間浸漬し、さらに水洗浴を通してけん化した。
特開平2001−141926の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸して作製した厚み20μmの偏光層に対し、一方の面にフジタック(TD−80UF)を、他方にけん化した本発明のセルロースアシレートフィルムをPVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として貼り合わせて偏光板を作製した。
得られた偏光板を25℃10%RHにて24時間調湿した後、25℃80%RHにて24時間調湿し、さらに25℃10%RHにて24時間調湿した後に、偏光板のカールを目視にて確認し、下記の3段階で評価した。
優:カールはほぼ確認されないもの。
良:若干のカールが確認されたが、光学用途での使用に対し、差し支えのないもの。
劣:カールや表面のうねりが著しく、光学用途として適用できないもの。
Figure 2006010828
第1表において、実施例1〜8では残留溶媒量が1質量%未満の良好なフィルムが得られた。これらのフィルムを目視および光学顕微鏡および偏光顕微鏡で観察したところ、異物は0個/cm2と非常に良好であり、必要に応じて粘着剤でフィルムを積層させて目的のRthとした後、特開2004−12731の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いたところ、良好な液晶表示装置が得られた。
これに対し、比較例1のようにアシル置換度が低すぎるセルロースアシレートを使用した場合ではRthが上昇して正の値となってしまい、比較例2のようにプロピオニル置換度が低い場合ではRthが上昇してしまうと同時にRthの湿度依存性が大きくなってしまった。比較例8のようにプロピオニル置換度が低く、全置換度が高い場合には十分に溶解させることができず、フィルムのムラが大きくなってしまった。
比較例3のように全置換度の高すぎるセルロースアシレートを使用した場合や、比較例5のように溶媒中のアルコール量が多すぎた場合では、異物の数が多くなったり、乾燥過程でフィルムが白化してしまったりした。
比較例4のように溶媒中のアルコール量が少なすぎた場合では、バンドから剥離する際の剥離荷重が高くなってしまい、フィルムのムラが大きくなってしまった。
そのため、これらの比較例のフィルムを用いた場合、良好な位相差板や偏光板、信頼性の高い液晶表示装置は得られなかった。
また、比較例6のようにフィルム膜厚が薄すぎた場合では、良好なフィルムが得られたもの、偏光板を作製して調湿した時に大きくカールしてしまった。
逆に、比較例7のように、よりフィルム膜厚の厚いサンプルを作製しようとしたところ、バンド上のドープが十分に乾燥せず、剥げ残りが生じてしまい、製造することができなかった。

Claims (9)

  1. 膜厚方向のレターデーション値が0nm未満であり、セルロースの水酸基へのアシル置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足することを特
    徴とするセルロースアシレートフィルム。
    (I) 2.80≦SA+SP<2.87
    (II) 0≦SA≦1.0
    (III)1.8≦SP<2.87
    (式中、SAおよびSPはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、SAはアセチル基の置換度、またSPはプロピオニル基の置換度である。)
  2. 膜厚方向のレターデーション値が−50〜−1nmであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
  3. 25℃、10%RHにおける膜厚方向のレターデーション値と25℃、80%RHにおける膜厚方向のレターデーション値との湿度に伴う変化が20nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルム。
  4. 膜厚が60〜180μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルム。
  5. セルロースの水酸基へのアシル置換度が下記式(I)〜(III)の
    全てを満足するセルロースエステルを、−10〜35℃で沸点が80℃以下の有機溶媒を含む溶媒に膨潤させ、その混合物を0〜35℃で撹拌して溶解させ、ろ過する工程を経て得られた溶液から、流延製膜することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
    (I) 2.80≦SA+SP<2.87
    (II) 0≦SA≦1.0
    (III)1.8≦SP<2.87
    (式中、SAおよびSPはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、SAはアセチル基の置換度、またSPはプロピオニル基の置換度である。)
  6. 前記溶媒の10〜30質量%がアルコールであることを特徴とする請求項5に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  7. 前記溶媒が沸点が95℃以上の有機溶媒を1〜5質量%含有することを特徴とする請求項5又は6に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  8. 前記溶媒が2種類以上のアルコールを含有しており、該2種類以上のアルコールが沸点が95℃以上のアルコールの少なくとも1種類と、沸点が95℃未満のアルコールの少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
  9. 前記沸点が80℃以下の有機溶媒がハロゲン化炭化水素であることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
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