JP2005346812A - 磁気記録媒体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】極めて薄層の磁性層を有する高密度記録型の磁気記録媒体において、走行安定性及び走行耐久性の向上を図る。
【解決手段】膜厚100nm以下の磁性層2を有し、磁性層2上にプラズマCVD法によって形成された保護層3を有する磁気記録媒体10を製造する方法において、保護層3は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ励起によるラマン分光測定を行ったとき、1000cm-1〜1800cm-1におけるピーク強度面積Aと、バックグランド強度面積Bとの強度比A/Bが、0.25以下であるものとし、保護層3の成膜工程の前工程として、磁性層2上にイオン照射処理を行うものとする。
【選択図】図1

Description

本発明は、テープ状の磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、特に、高密度記録型で、かつ走行耐久性、走行安定性に優れた薄型磁気記録媒体を低コストで生産性良く作製する磁気記録媒体の製造方法に係る。
従来より磁気記録媒体としては、非磁性支持体上に酸化物磁性粉末あるいは合金磁性粉末等の粉末磁性材料を、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の有機結合剤中に分散させた磁性塗料を塗布し乾燥させて作製される、いわゆる塗布型の磁気記録媒体が広く知られていた。
これに対して、高密度記録化への要求から、磁性金属あるいはCo−Ni等の合金からなる強磁性材料を、真空薄膜形成手段(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等)によって非磁性支持体上に直接被着させた強磁性金属薄膜よりなる磁性層を有する磁気記録媒体が実用化されている。
上記のような、いわゆる金属磁性薄膜型の磁気記録媒体は、保磁力、残留磁化、角形比等に優れ、短波長での電磁変換特性に優れるばかりでなく、磁性層の膜厚をきわめて薄く形成できるため、記録減磁や再生時の厚み損失が小さいこと、磁性層中に非磁性材である結合剤を混入する必要がないため、磁性材料の充填密度を高め、大きな磁化を得ることができる等、数々の利点を有している。
さらに、磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させ、より大きな出力を得ることができるようにするため、斜方蒸着法によって磁性層を形成した構成の磁気記録媒体が提案され、現在の蒸着磁気テープの主流となっている。
このような蒸着磁気テープは、高画質VTR用、デジタルVTR用、データストレージ用等の磁気テープとして実用化されている。
ところで、磁気記録媒体においては、通常、磁性層表面に硬質の保護層を形成し、これによって、磁気ヘッドやガイドとの摺動に対する耐久性を確保している。
この硬質の保護層としては、カーボン膜、石英(SiO2)膜、ジルコニア(ZrO2)膜等が挙げられ、特にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は、硬度が高く、保護効果に優れることから、蒸着テープ用の保護層の主流になっている。DLC膜は、スパッタリング法やCVD法により成膜できる。
スパッタリング法では、電場や磁場を利用してAr等の不活性ガスを電離(プラズマ化)させ、生じたアルゴンイオンを加速してターゲットに衝突させる。その結果、アルゴンイオンの運動エネルギーによってターゲットの原子がはじき出され、そのはじき出された原子が、ターゲットと対向する基板上に堆積することで薄膜が成膜される。
しかし、このスパッタリング法は、成膜速度が遅く、工業レベルで用いるには生産性に問題がある。
これに対して、CVD法(化学気相成長法)は、電場や磁場を用いて発生させたプラズマのエネルギーを利用して、原料ガスに分解、合成等の化学反応を起こさせ、この化学反応の結果生じた反応生成物を基体上に堆積させることで薄膜を成膜する方法である。
このCVD法は、スパッタリング法に比べて遙かに成膜速度が高いため、工業的な生産性に優れている。
CVD法のなかでも、直流電圧印加によってプラズマを形成し、保護層を成膜するDCプラズマCVD方式は、成膜スピードが速く、さらにはラジカルな状態になった成膜ガスのイオン(炭化水素イオン)が電圧によって加速されるため、磁性層への密着力が高く、優れた保護層形成方法であると言える。
保護層の成膜面への密着性を高め、最終的に得られる磁気記録媒体の摺動特性や走行耐久性の向上を図るために、従来においては磁性層形成後、イオン照射処理を行い、磁性層表面を清浄化、あるいは活性化させるという方法が提案されていた(例えば、特許文献1、2参照。)。
特開平4−168626号公報 特開平5−46984号公報
ところで、近年においては、磁気記録媒体のさらなる高記録密度化に対応して、磁気ヘッドにおいては従来の誘導型ヘッドに代わり、より高感度の磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)や巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMRヘッド)が適用されることになると考えられている。
金属薄膜型の磁気記録媒体に対して、磁気抵抗効果型の磁気ヘッドを用いて記録信号の再生を行った場合、従来の誘導型ヘッドよりも高出力が得られること、出力がテープとヘッドの相対速度に依存しない等の利点を有している。
しかしながら、従来構成の蒸着テープをそのまま上記のような高感度の磁気ヘッドに適用すると、発生する磁束量が大きすぎ、MR素子の抵抗変化が直線性を保つ領域を外れてしまい、歪みのない特性を得ることができないという問題を生じる。
このような高感度型の磁気ヘッドの使用に対応するためには、磁性層の膜厚は、100nm以下の薄層に形成することが要求される。
特に高感度のGMRヘッドに対応するためには、磁性層は20〜50nmの薄層に形成することが望まれる。
しかしながら、このように磁性層が薄層化していくと、磁性層の電気抵抗が増大し、保護層成膜工程において、プラズマCVD法による成膜を行う際に、電極としての効果が弱まるという問題を生じる。すなわち、印加された電圧は、磁性層による電圧下降分が大きくなってしまうため、プラズマ発生のための充分な電圧が確保できなくなってしまう。
このようにプラズマ発生のための電圧が不充分である状態で成膜されたDLC膜は、炭化水素ガスの分解が不充分であるため、膜質が劣化する。
さらには、成膜ガスである炭化水素イオンの加速が不充分となるため、磁性層に対する保護層の密着力が低下してしまい、最終的に得られる磁気テープの摺動耐久性の悪化を招来する。
このような問題を回避するために、プラズマCVD成膜工程において、印加する電圧値を高くする方法が挙げられるが、この場合には、放電の不安定化を招来し、膜質にバラつきが大きくなり、生産効率の低下を招来してしまう。
ところで、上記のように、磁気テープにおいては、高画質VTR用、デジタルVTR用、データストレージ用等の様々な用途があるが、このうち特に高画質VTR用、デジタルVTR用等、民生用の磁気テープは、データストレージ用等の業務用の磁気テープに比較すれば、保護層の膜質に対する要求が厳しくないという現状がある。
そこで本発明においては、極めて薄型の磁性層を有する高密度記録型の磁気テープにおいて、プラズマCVD法により成膜した保護層の膜質が必然的に低下してしまっても、高い生産性を維持しつつ、充分な走行耐久性や走行安定性を確保することのできる磁気記録媒体の製造方法を提供することとした。
本発明においては、長尺状の非磁性支持体上に、膜厚100nm以下の磁性層を有し、磁性層上に、プラズマCVD法によって形成された保護層を有する磁気記録媒体を製造する場合において、保護層は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ励起によるラマン分光測定を行ったとき、1000cm-1〜1800cm-1におけるピーク強度面積Aと、 バックグランド強度面積Bとの強度比A/Bが、0.25以下であるものとし、保護層の成膜工程の前工程として、磁性層上にイオン照射処理を行うものとする。
本発明方法によれば、磁性層が100nm以下もの極めて薄層の高密度記録型の磁気記録媒体を作製する場合において、磁性層が薄いために本質的に保護層の膜質が低下してしまうことを予め数値的に規定しておき、保護層成膜の前工程としてイオン照射処理を施すこととしたことにより、高い生産効率を確保しつつ、磁性層と保護層との強固な密着性が得られ、繰り返して摺動を行った場合においても優れた走行耐久性、及び走行安定性を有する磁気記録媒体が得られた。
また、本発明方法によれば、プラズマCVD工程において、印加電圧を高くして保護層の膜質の向上を図る必要が無いため、放電電圧の不安定化が回避でき、保護層の成膜効率を高く維持することが可能となった。
図1に、本発明方法により作製される磁気記録媒体の概略断面図を示す。
磁気記録媒体10は、長尺形状の非磁性支持体1の一主面に、磁性層2、保護層3、及び潤滑剤層4が順次積層された構成を有している。以下、各層について詳細に説明する。
非磁性支持体1には、通常、磁気記録媒体の基体として用いられている公知の材料をいずれも適用できる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン2,6−ナフタリンジカルボキシレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、セルローストリアセテート等のセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等のプラスチック類が挙げられる。
非磁性支持体1には、後述する磁性層形成に先立ち、易接着化、表面性改良、着色、帯電防止、耐磨耗性付与等の目的で表面処理や前処理を行うようにしてもよい。
非磁性支持体1の磁性層形成面側には、バインダー、フィラー、界面活性剤等の各種添加剤を含有させたコーティング層を形成することにより、表面に微細な凹凸を付加したり、機械的な強度を高めたりしてもよい。
バインダーには、例えば水性ポリエステル樹脂、水性アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂等が挙げられる。フィラーとしては、耐熱性ポリマーからなる粒子、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム等が挙げられる。
磁性層2は、真空薄膜形成技術によって成膜する。
磁性層2は、強磁性金属薄膜よりなり、部分酸化型の金属磁性膜であることが望ましく、単層膜であっても多層膜であってもよい。
この磁性層2を形成する強磁性金属材料としては、従来公知の磁性金属、あるいはこれらの複合体をいずれも使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni等の強磁性金属、Fe−Co、Co−Ni、Co−Cr、Co−Cr−Ta、Co−Cr−Pt、Co−Ni−Pt、Fe−Co−Ni、Fe−Co−B、Fe−Ni−B、Fe−Co−Ni−Cr等の強磁性合金等の材料、又はこれらの材料に任意の元素を含有させたものが挙げられる。
なお、磁気抵抗効果型ヘッド(MRヘッド)に適用することを考慮すれば、磁性層の膜厚は100nm以下、特に巨大磁気抵抗効果型ヘッド(GMRヘッド)に適用することを考慮すれば20〜50nmとすることが望ましい。
非磁性支持体1と磁性層2との間、及び磁性層2を多層膜とする場合においては各層間に、付着力の向上、並びに抗磁力の制御、磁性層2の防食性向上等を目的として、各種下地層や中間層等の機能層を形成してもよい。
磁性層2は、真空下で、上記強磁性金属材料を加熱蒸発させ、非磁性支持体1上に付着させる真空蒸着法や、強磁性金属材料の蒸発を放電中で行うイオンプレーティング法や、アルゴンを主成分とする雰囲気中でグロー放電を起こして生じたアルゴンイオンでターゲット表面の原子を叩き出すスパッタ法等、いわゆるPVD技術によって形成することができる。
磁性層2の具体的な成膜工程について、例を挙げて説明する。
この例においては、1×10-6〜1×10-2Paの真空下で、強磁性金属材料を抵抗加熱や高周波加熱、電子ビーム加熱等により蒸発させ、非磁性支持体1上に蒸発金属(強磁性金属材料)を被着させて磁性層2の成膜を行う。
図2に示す蒸着装置100においては、この蒸着装置100においては、排気口25から排気されて、略真空状態となされた真空槽11内に、送りロール13と巻き取りロール14とが設けられており、これらの間に非磁性支持体1が順次走行するようになされている。
これら送りロール13と巻き取りロール14との間に、非磁性支持体1が走行する中途部には、冷却キャン15が設けられている。この冷却キャン15には、冷却装置が設けられ、非磁性支持体1の温度上昇による熱変形等を抑制している。
非磁性支持体1は、送りロール13から順次送り出され、さらに冷却キャン15の周面を通過し、巻き取りロール14に巻取られていくようになされている。
尚、送りロール13と冷却キャン15との間、及び該冷却キャン15と巻き取りロール14との問には、それぞれガイドロール16、17が配設され、送りロール13から冷却キャン15及び冷却キャン15から券取りロール14に亘って走行する非磁性支持体1に所定のテンションをかけ、非磁性支持体1が円滑に走行するようになされている。
蒸着室12は隔壁18、19によって隔てられており、ルツボ20から蒸発した金属粒子や反射、散乱する電子ビームの流入を抑制している。
冷却キャン15の下方にルツボ20が設けられ、このルツボ20に金属磁性材料21が充填されている。
蒸着装置100の側壁部には、ルツボ20内に充填された金属磁性材料21を加熱蒸発させるための電子銃22が取り付けられている。
電子銃22は、これより放出される電子線が、ルツボ20内の金属磁性材料21に照射されるような位置に配設されている。
電子線によって蒸発した金属磁性材料21が、冷却キャン15の周面を定速走行する非磁性支持体1上に磁性層2として被着形成されるようになっている。
冷却キャン15とルツボ20との間であって、冷却キャン15の近傍には、シャッタ23が配設されている。シャッタ23は、冷却キャン15の周面を定速走行する非磁性支持体1の所定領域を覆う形で形成され、このシャッタ23に金属磁性材料21が非磁性支持体1に対して、所望の角度範囲で斜めに蒸着されるようになっている。
さらに、このような蒸着に際し、蒸着装置100側壁部を貫通して設けられる酸素ガス導入口24を介して非磁性支持体1の表面に酸素ガスが供給され、磁気特性、耐久性、及び耐蝕性の向上が図られている。
蒸着の入射角は、非磁性支持体1の法線方向から90度〜45度までとし、非磁性支持体1の送り速度を変化させ、蒸着層の厚さを制御する。また、蒸着中は磁気特性を制御するために、酸素ガス導入管24から酸素ガスを導入しながら成膜を行う。
次に、磁性層2の表面に対し、イオン照射処理を行い、磁性層2表面を清浄かつ活性化する。
図3に、磁性層2の表面処理を行う、イオン照射装置200の概略構成図を示す。
このイオン照射装置200においては、真空排気系31によって内部が略真空状態となされた真空槽32内に、定速回転する送りロール33と、巻き取りロール34とが設けられ、これらの間に磁性層が蒸着された被処理体35が、順次走行するようになされている。
被処理体35が走行する中途部には、冷却キャン36が設けられている。
冷却キャン36は、被処理体35を図中、下方に引き出すように設けられ、矢印A方向に定速回転するようになされている。
また、被処理体35が走行する中途部には、ガイドロール37、38が設けられており、被処理体35に所定のテンションをかけ、円滑に走行するようになされている。
イオン処理室39内においては、冷却キャン36の下方側にイオンガン40が設けられている。イオンガン40においては、底部を貫通したガス導入管41から所定のガスが供給されるようになされている。
ガスとしては、例えば、H2、He、N2、O2、F2、Ne、Cl2、Ar等が適用できる。
これらのガスは単独あるいは適宜混合した状態で使用することもできる。
また、イオンガン内の放電電極42は、DC電源43に接続されており、これに、0〜2000Vの電圧が印加されるようになっている。
そして、印加された電圧によってグロー放電が生じ、導入ガスがグロー放電によってイオン化し、電圧によって加速されて被処理体35に到達し、磁性層2上にある汚染物質を除去や表面の活性化が行われる。
上記のように、磁性層2の表面のイオン照射処理を行った後、保護層3の形成を行う。
図4に、保護層形成用の成膜装置として、DCプラズマCVD装置300の概略構成図を示す。
この装置300においては、真空排気系51によって内部が略真空状態となされた真空槽52内に、定速回転する送りロール53と、巻き取りロール54とが設けられ、これらの間に、磁性層表面がイオン照射処理された被処理体55が、順次走行するようになされている。
被処理体55が走行する中途部には、冷却キャン56が設けられている。
冷却キャン56は、被処理体55を図中、下方に引き出すように設けられ、矢印B方向に定速回転するようになされている。
また、被処理体55が走行する中途部には、ガイドロール57、58が設けられており、被処理体55に所定のテンションをかけ、円滑に走行するようになされている。
隔壁59により形成された成膜室60には、冷却キャン56の下方に、パイレックスガラス、プラスチック等よりなる反応管61が設けられている。
この反応管61には、成膜質60の底部を貫通したガス導入管62から、所定の成膜ガスが供給されるようになされている。
反応管61内の中途部には、金属メッシュ等よりなる電極63が取り付けられている。
電極63は、外部に配設されたDC電源64と接続されており、0〜3000Vの電圧が印加されるようになされている。
この装置300においては、電極63に電圧が印加されることで、電極63と冷却キャン56との間にグロー放電が生じ、反応管20内に導入された成膜ガスが、グロー放電によって分解し、被処理体55上に被着し保護層3が形成される。
なお、供給するガスとしては、炭化水素系、ケトン系、アルコール系等、従来公知の材料をいずれも使用できる。また、プラズマ生成時には炭素化合物の分解を促進するためのガスとして、Ar、H2等を導入してもよい。
その他、ダイヤモンドライクカーボンの膜硬度、耐食性の向上を図るため、カーボンが窒素、フッ素と反応した状態でもよく、ダイヤモンドライクカーボン膜は単層であっても多層であってもよい。
また、プラズマ生成時には炭素化合物の他、N2、CHF3、CH22等のガスを単独あるいは適宜混合した状態で成膜することもできる。
保護層3は、スペーシング・ロスによる損失を防止し、かつ実用上充分な走行耐久性、耐食性を確保するため、4nm〜15nm程度の膜厚に形成することが望ましい。
本発明方法において製造される磁気記録媒体は、特に、保護層3に関し、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ励起によるラマン分光測定を行ったとき、1000cm-1〜1800cm-1におけるピーク強度面積Aと、バックグランド強度面積Bとの強度比A/Bが、0.25以下であるものに特定する。
本来、保護層3を硬質化させ、優れた摺動特性、走行耐久性を得るためには、上記強度比A/Bは高い方が望ましいが、磁性層2が薄層であると、プラズマCVD法による成膜を行う際に電極としての効果が弱まり、必然的に膜質の劣化を招来し、上記強度比A/Bは低下してしまう。
高い強度比A/Bを有する保護層を成膜するためには、印加電圧を高くすればよいが、この場合には、放電の不安定化を招来し、膜質にバラつきが大きくなり、生産効率の低下を招来してしまう。
かかる観点から、本発明方法においては上述したように、上記強度比A/Bが、0.25以下の保護層であっても、上記磁性層2に対するイオン照射処理を行うことにより、これらの密着性を向上させ、高い生産効率を維持しつつ、同時に実用上充分な摺動特性、及び走行耐久性を得ることを可能とした。
なお、磁性層2の形成面側とは反対側にバックコート層5を形成したり、カーボン保護層3上に潤滑剤層4を形成したりしてもよい。この場合、バックコート層5や潤滑剤層4形成用材料としては、非磁性顔料、樹脂結合剤等、従来公知の材料を適宜用いることができる。
なお、バックコート層5の膜厚は、ガイドとの摺動特性を高く維持し、磁気記録媒体全体としての薄型化を図るために膜厚は0.1〜0.6μmとすることが望ましい。
次に、本発明方法により具体的な磁気記録媒体のサンプルを作製し、特性の評価を行った。なお、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、この上に磁性層2を、図2に示した蒸着装置100を用いて以下の条件により成膜した。
(蒸着条件)
成膜材料:Co100wt%
入射角:45°〜90°
導入ガス:酸素ガス
磁性層の膜厚:20nm
次に、図3に示したイオン照射装置200を用いて、下記に示す条件により、磁性層表面のイオン照射処理を行った。
(イオン照射条件)
導入ガス:Ar
ガス流量:100sccm
放電電流:2.0A
印加磁場電流:3A
ライン・スピード:11.1m/min
イオン照射時真空度:0.05Pa
次に、図4に示したDCプラズマCVD装置300を用いて、下記に示す条件により、カーボン保護層3の成膜を行った。
(CVD条件)
導入ガス:エチレン/アルゴン混合ガス375sccm(アルゴン混合率:20vol%)
反応管内圧力:30Pa
投入電圧:+1.2kV
カーボン保護層の膜厚:10nm
なお、上記においては、磁性層に対するイオン照射工程と、カーボン保護層3成膜工程とを、同一のチャンバー内で連続的に行った。
次に、モノエステルモノカルボン酸系潤滑剤を用いて潤滑剤層4を形成し、カーボン系のバックコート層5を形成し、サンプル磁気テープを作製した。
〔実施例2〕
磁性層の膜厚を40nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔実施例3〕
磁性層の膜厚を60nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔実施例4〕
磁性層の膜厚を80nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔実施例5〕
磁性層の膜厚を100nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔実施例6〕
磁性層の膜厚を20nmとした。
上記実施例1と同様の条件で、磁性層表面に対し、イオン照射処理を行い、続いて、以下の条件により、DCプラズマCVD装置を用いてカーボン保護層3を成膜した。
(成膜条件)
導入ガス:トルエン/アルゴン混合ガス187.5sccm(アルゴン混合率:20vol%)
反応管内圧力:20Pa
投入電圧:+1.2kV
カーボン保護層の膜厚:10nm
なお、イオン照射処理工程と、カーボン保護層3の成膜工程とは同一チャンバー内で実施し、潤滑剤層4の形成、バックコート層5の形成等も実施例1と同じ条件で行った。
〔実施例7〕
磁性層の膜厚を100nmとした。
その他の条件は、上記実施例6と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例1〕
磁性層の膜厚を10nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例2〕
磁性層の膜厚を120nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例3〕
磁性層の膜厚を150nmとした。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例4〕
磁性層の膜厚を20nmとした。
磁性層表面に対するイオン照射処理を行わなかった。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例5〕
磁性層の膜厚を40nmとした。
磁性層表面に対するイオン照射処理を行わなかった。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例6〕
磁性層の膜厚を60nmとした。
磁性層表面に対するイオン照射処理を行わなかった。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例7〕
磁性層の膜厚を80nmとした。
磁性層表面に対するイオン照射処理を行わなかった。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例8〕
磁性層の膜厚を100nmとした。
磁性層表面に対するイオン照射処理を行わなかった。
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例9〕
磁性層の膜厚を20nmとした。
磁性層表面に対し、イオン照射処理を行わず、以下の条件により、DCプラズマCVD装置を用いてカーボン保護層3を成膜した。
(成膜条件)
導入ガス:トルエン/アルゴン混合ガス187.5sccm(アルゴン混合率:20vol%)
反応管内圧力:20Pa
投入電圧:+1.2kV
カーボン保護層の膜厚:10nm
その他の条件は、上記実施例1と同様として磁気テープを作製した。
〔比較例10〕
磁性層の膜厚を100nmとした。
その他の条件は、上記比較例9と同様として磁気テープを作製した。
上述したようにして作製した実施例1〜7、及び比較例1〜10のサンプル磁気テープの特性評価を行った。
評価は、ラマン分光法、電磁変換特性、摩擦試験、及びLoad/Un Load試験(以下L/UL試験と記す)について、下記に示す方法により行った。
(ラマン分光法)
1000cm-1〜1800cm-1における蛍光によるバックグランドを取り除いたラマンスペクトル強度面積、すなわちピーク強度面積Aと1000cm-1〜1800cm-1における蛍光によるバックグランド強度面積、すなわちバックグランド強度面積Bとの強度比A/Bを測定した。なお、ラマンスペクトルの代表的な例は図5に示したとおりである。
(電磁変換特性)
ソニー社製AIT3ドライブを改造し、MRヘッドを搭載したものを使用した。
各サンプル磁気テープに、記録波長0.29μmで、情報信号を記録した後、MRヘッドにより再生出力し、C/Nを測定した。
C/Nは相対値として表すこととし、リファレンスとして、実施例3の磁気テープを基準値(±0dB)とした。
出力、C/Nが、リファレンスに比較して3dB以上マイナスであると、実用上充分な記録再生特性が得られないものであると評価した。
(摩擦試験)
温度40℃、湿度80%の環境下で、SUSガイドに対する摺動摩擦試験を行うこととし、1000pass終了後の摩擦係数を測定した。
なお、摩擦係数は、1000pass終了後の値が0.5以上であると、走行性に実用上支障が発生するものと判断した。
また、摩擦摺動試験後のサンプル磁気テープの表面を、光学顕微鏡で観察し、保護層の剥離状態、及び表面のキズの発生状態を評価した。
保護層の剥離状態は、下記のように評価した。
◎:発生しない〜剥離の発生した面積が全体の10%程度。
○:剥離の発生した面積が全体の10%〜30%程度。
△:剥離の発生した面積が全体の30%〜50%程度。
×:剥離の発生した面積が全体の50%を超えた。
表面のキズの発生状態は、下記のように評価した。
◎:発生しない〜キズの発生した面積が全体の10%程度。
○:キズの発生した面積が全体の10%〜30%程度。
△:キズの発生した面積が全体の30%〜50%程度。
×:キズの発生した面積が全体の50%を超えた。
(L/UL試験)
室温環境下で、ヘリカル・スキャン記録再生システムを用いて、ロード・アンロードを繰り返し行い、ドラムの回転が停止したときのpass数の平均値を評価した。実用上充分なpass数は、10000pass以上であるものとした。
実施例1〜7、及び比較例1〜10のサンプル磁気テープの、ラマン分光法、電磁変換特性、摩擦試験、及びLoad/Un Load試験(L/UL試験)についての評価結果を、下記表1に示す。
Figure 2005346812
表1に示す評価結果から、先ず、磁性層の膜厚について検討する。
磁性層の膜厚を20〜100nmに形成した実施例1〜7においては、いずれもC/Nがリファレンス(実施例3)に比較して−3.0dB以内となっており、実用上充分な結果が得られた。
ところで、高密度記録化を図るためには、磁性層を薄層化し、高感度磁気ヘッド(MRヘッドやGMRヘッド)を用いることが必要となってくるが、比較例1のように、磁性層の膜厚を10nmもの薄層にした場合には、充分な出力が得られなかった。
一方、比較例2、3に示すように、磁性層の膜厚が100nmを超えるものとした場合に、高感度磁気ヘッドを使用して信号再生を行うと、ノイズが高くなってしまい、C/Nは劣化した。
この結果から、磁性層の膜厚は20nm〜100nmとすることが好適であることが確かめられた。
保護層のラマン分光法における強度比A/B(図5参照)について検討する。
先ず、磁性層の膜厚と上記強度比A/Bの関係については、実施例1〜5に示すように、磁性層が薄層化させるに従い、強度比A/Bが低下している。これは、磁性層が薄くなると、磁性層の抵抗が高くなり、保護層成膜工程における、CVDのプラズマに充分な電圧がかからず、カーボン膜の膜質が変化してしまうためである。
次に、上記強度比A/Bと走行性との関係について検討する。
比較例2、3のように、磁性層を厚く形成し、保護層の上記強度比A/Bが0.25よりも大きい値の磁気テープにおいては、磁性層表面に対してイオン照射処理を行わなくても、摩擦試験、及びL/UL試験のいずれにおいても実用上充分な特性が得られた。しかしながら、これらは上述したように、磁性層が100nmを超えているため、高感度磁気ヘッドを使用した場合にノイズが高くなりC/Nの劣化を来たすという問題を有しているものであり、本発明において目的とする高密度記録型の磁気テープとしては不適当である。
ところが、保護層の上記強度比A/Bを0.25以下の磁気テープにおいては、実施例1〜7と、比較例4〜10とを比べると、磁性層表面に対するイオン照射処理を行った実施例1〜7の方が、明らかに摩擦試験、及びL/UL試験のいずれにおいても特性が改善している。
すなわち、磁性層が100nm以下であるため、ラマン分光法の強度比A/Bが0.25以下となる高密度記録型の磁気記録媒体においては、保護層成膜工程の前工程として、磁性層表面に対するイオン照射処理を行うことにより、磁性層と保護層の密着性が高められ、走行安定性、及び走行耐久性の向上が図られることが明らかになった。
また、この方法を適用すれば、プラズマCVDの印加電圧値を高くしなくてもよいため、放電電圧の不安定化を防止でき、保護層の成膜効率を高く維持できる。
また、CVD工程における成膜ガスとして、トルエンガスを使用した実施例6、7においては、これと対応する実施例1、5に比較して明らかに成膜スピードが向上していることが分った。一方においてトルエンガスを使用すると上記強度比A/Bがエチレンガスを使用した場合よりも低下してしまい、保護層の膜質は劣化する。
しかし、このようにトルエンガスを使用した場合においても、実施例6、7と比較例9、10とを比べると明らかなように、磁性層表面に対するイオン照射処理を行うことにより、摩擦試験、及びL/UL試験の著しい改善効果が得られた。
本発明方法により作製される磁気記録媒体の概略断面図を示す。 磁性層形成用の蒸着装置の概略構成図を示す。 磁性層に対するイオン照射処理を行うイオン照射装置の概略構成図を示す。 保護層形成用のDCプラズマCVD装置の概略構成図を示す。 代表的なラマンスペクトルを示す。
符号の説明
1……非磁性支持体、2……磁性層、3……保護層、4……潤滑剤層、5……バックコート層、10……磁気記録媒体、11……真空槽、12……蒸着室、13……送りロール、14……巻き取りロール、15……冷却キャン、16,17……ガイドロール、18,19……隔壁、20……ルツボ、21……金属磁性材料、22……電子銃、23……シャッター、24……酸素ガス導入管、25……排気口、31……排気口、32……真空槽、33……送りロール、34……巻き取りロール、35……被処理体、36……冷却キャン、37,38……ガイドロール、39……イオン処理室、40……イオンガン、41……ガス導入管、42……放電電極、43……電源、51……真空排気系、52……真空槽、53……送りロール、54……巻き取りロール、55……被処理体、56……冷却キャン、57,58……ガイドロール、59……隔壁、60……成膜室、61……反応管、62……ガス導入管、63……電極、64……電源、100……蒸着装置、200……イオン照射装置、300……DCプラズマCVD装置









Claims (4)

  1. 長尺状の非磁性支持体上に膜厚100nm以下の磁性層を有し、当該磁性層上に、プラズマCVD法によって形成された保護層を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
    前記保護層は、波長514.5nmのアルゴンイオンレーザ励起によるラマン分光測定を行ったとき、1000cm-1〜1800cm-1におけるピーク強度面積Aと、バックグランド強度面積Bとの強度比A/Bが、0.25以下であるものとし、
    前記保護層の成膜工程の前工程として、前記磁性層上にイオン照射処理を行うことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
  2. ヘリカル・スキャン記録再生システムにより、信号の記録及び/又は再生がなされることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  3. 磁気抵抗効果型ヘッド、又は巨大磁気抵抗効果型ヘッドを用いて信号の再生を行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  4. 前記保護層の膜厚を4〜15nmとし、前記保護層上に潤滑剤層を形成し、前記磁性層形成面とは反対側の主面に、膜厚0.1〜0.6μmのバックコート層を形成することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。








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