JP2005326722A - 多層フレキソ印刷版とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 印刷中の紙粉付着に関する問題が少なく、ベタ画像のインクの潰し性が良好であることが重要である段ボール印刷版について、微小凸文字画像、ベタ内凹文字画像が鮮明に印刷されない、網点画像部が暗く、段ボールのフルートに沿って段目現象が生じる等の印刷品質の問題を解消すること。
【解決手段】 全画像領域で組成の異なる液状感光性樹脂により少なくとも二層以上の多層化構造を有するフレキソ印刷版において、更に印刷版表面が少なくとも二種類以上の組成の異なる液状感光性樹脂の混在する構成により、印刷品質の問題を解消した。
【選択図】 図3

Description

本発明は、液状感光性樹脂を用いた多層フレキソ印刷版及びその製造方法に関する。
フレキソ印刷は、その柔軟な版材の特徴により幅広い被印刷体への印刷が可能であり、印刷現場でのオペレーションが容易であることから益々その用途を広げており、特に活性光線照射によるラジカル重合反応によりレリーフ部分の感光層のみを硬化させる露光工程の後、レリーフ部分以外の未硬化樹脂を所定の洗浄液(現像液)で溶解除去、あるいは膨潤分散させて機械的に除去することにより、硬化部分のみをレリーフとして版表面に出現させる現像工程によって得られる感光性樹脂フレキソ印刷版は、微細レリーフの画像再現性に優れ、製版時間が短いことが特徴であり、フレキソ印刷の用途拡大に大きく寄与してきた。
特にフレキソ印刷が好適に用いられる容器・包装材料用途の印刷、なかでも段ボール印刷は、その段ボールシートが波状に変形した中芯(以下フルートと略)の片面または両面に板紙を貼ったもの、あるいはそれらを積層した構造であることからそのシート表面に凹凸が存在すること、その原材料が新聞紙、古紙等の再生原料を多く使用するためその紙質は繊維が荒く粗雑であることから、フレキソ印刷の特徴が最も発揮される用途であり、製版コストが安価で短納期である液状感光性樹脂フレキソ印刷版が一般的に用いられている。
フレキソ印刷の印刷物の品質は、ベタ画像(均一な色付けを目的とした画像領域)にインク擦れがなく、尚且つ文字部分や網点画像が鮮明に再現されることが優れた印刷物として評価されるが、インク濃度が高く、印刷版表面へのインク供給量が多い段ボール印刷では、ベタ画像のインク潰し品質を得るために比較的高い印圧で印刷が行われるために、微細画像においてはレリーフ変形による文字太りや、印刷画像周辺部のインクが厚く着肉するマージナル現象の影響により、微細文字の鮮明性に欠け、網点画像の階調表現力に乏しい印刷となる傾向にある。
さらに段ボール印刷では、段ボール印刷の現場で生じる段ボールシートの切り屑、紙粉が印刷版表面に付着した状態で印刷されると印刷不良の原因となり、そのために印刷作業を停止することは生産性の低下に繋がるため、付着物が少ない印刷版が望まれる。
液状感光性樹脂フレキソ印刷版では、この様な印刷品質や紙粉付着の問題を複数の樹脂組成物を多層化した印刷版の構成により解決する方法として、特許文献1〜4の方法が開示されている。
特許文献1は、レリーフ表層樹脂の硬化物が下層樹脂の硬化物に対してショア硬度で10度高いことを特徴とする二層化フレキソ印刷版であり、なかでも実施例4では段ボール印刷における効果として紙粉付着性の低下を挙げている。
特許文献2は、下層樹脂の光重合速度がレリーフ表層樹脂の約15〜200倍であり、両層の硬化物のモジュラスに少なくとも約3.5kg/cm2の差を有することを特徴とするフレキソ印刷版であり、なかでも実施例9では硬度22度のレリーフ表層(3.18mm)樹脂と硬度50度の下層(3.18mm)樹脂から成る二層化フレキソ版では、硬度22度の樹脂から成る単層版に対して段ボール印刷におけるベタの塗り潰し性に優れるとしている。
特許文献3は、段ボール用バーコード印刷における印刷寸法精度とインクののりを改良する印刷版として、レリーフ表層樹脂硬化物の厚みが0.2〜3.0mm、ショアA硬度35〜55度、下層樹脂硬化物の厚みがレリーフ表層樹脂硬化物の2倍以上、ショアA硬度がレリーフ表層樹脂硬化物の5〜20度の範囲で低いことを特徴とした二層化フレキソ印刷版を開示している。
また、特許文献4は、ベタ画像のインクの潰しと細字、細線部を鮮明に印刷する目的を両立する印刷版として、物性の異なる樹脂を積層してなる多層化領域と一種の樹脂による単層構造が混在して成る部分多層化印刷版を開示している。
しかしながら、特許文献1〜4の技術を用いても、近年、宣伝公告を目的とした段ボールの美粧化傾向が益々高まる中、印刷中の紙粉付着に関する問題が少なく、フレキソ版材に対する高度な印刷品質に対する要求、すなわち、ベタ画像のインクの潰し性に優れ、微小凸文字画像、ベタ内凹文字画像が鮮明に印刷され、網点画像部が明るく、段ボールのフルートに沿って生じる段目現象を改善する段ボール用液状感光性フレキソ印刷版は得られていない。
特開昭54−92402号公報 特開昭55−6392号公報 特開昭62−296142号公報 特開昭62−288847号公報
本発明の目的は、一枚の印刷版において、多層構造かつ印刷表面に異なる樹脂が混在することで、多様な印刷精度の要求に対応しうる印刷版を提供することにある。さらに、印刷中の紙粉付着に関する問題が少なく、ベタ画像のインクの潰し性に優れ、微小凸文字画像、ベタ内凹文字画像が鮮明に印刷され、網点画像部が明るく、段ボールのフルートに沿って生じる段目現象を改善する段ボール用液状感光性フレキソ印刷版とその製造方法を提供するものである。
本発明者等は、かかる課題を解決するために鋭意研究した結果、画像領域全域について版厚に厚み方向に組成の異なる樹脂を積層配置する多層フレキソ印刷版の技術に加え、さらに印刷版表面において画像に応じて組成の異なる樹脂を配置することが効果的であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
1.全画像領域において、印刷版表面に用いる液状感光性樹脂とそれとは組成の異なる液状感光性樹脂による二層以上の多層構造であり、かつ、印刷版表面は少なくとも二種類以上の組成の異なる液状感光性樹脂が混在していることを特徴とする多層フレキソ印刷版。
2.少なくとも二種類以上の組成の異なる液状感光性樹脂が混在して配置された印刷版表面である一定厚みの上部層と単一組成の液状感光性樹脂から成る一定厚みの下部層とからなり、上部層と下部層との間で同一組成の感光性樹脂が連続して存在しないことを特徴とする1.に記載の多層フレキソ印刷版。
3.上部層を構成する二種類以上の液状感光性樹脂が光硬化した際の何れかの硬度が、下部層を構成する液状感光性樹脂の光硬化した際の硬度より高いことを特徴とする1.または2.に記載の多層フレキソ印刷版。
4.上部層を構成する二種以上の液状感光性樹脂の何れかの不溶化最小露光量が、下部層を構成する液状感光性樹脂の不溶化最小露光量より大きいことを特徴とする1.〜3.に記載の多層フレキソ印刷版。
5.印刷版表面を構成する二種類以上の液状感光性樹脂の内、少なくともベタ画像表面領域を形成する液状感光性樹脂が水素引き抜き型光開始剤を含有し、印刷版表面を形成しない液状感光性樹脂が水素引き抜き型光開始剤を含有しないことを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の多層フレキソ印刷版。
6.水素引き抜き剤がベンゾフェノンであることを特徴とする5.に記載の多層フレキソ印刷版。
7.(a)不飽和プレポリマー、(b)エチレン性不飽和モノマー、(c)光重合開始剤を含有して成り、それぞれ組成の異なる液状感光性樹脂A、液状感光性樹脂B、液状感光性樹脂Cを用い、
(1) 画像領域の任意の場所に保護フィルムを介して液状感光性樹脂AをXmm以下の厚みで塗布する工程(上部層1塗工工程)
(2) その上から画像領域全体に液状感光性樹脂Bを塗布した後、支持体上Xmmの間隔でドクターブレードを用いて塗布樹脂全体の厚みを一定にする工程(上部層2塗工工程)
(3) さらにその上から画像領域全体に液状感光性樹脂Cを塗布した後、支持体上Ymmの間隔でドクターブレードを用いて塗布樹脂全体の厚みを一定にする工程(下部層塗工工程)
(ここでX、Yは、0.05≦X<Y≦10の関係が成立する数値を表す。)
を含む成型・露光工程を含むことを特徴とする1.〜6.の何れかに記載の多層フレキソ印刷版の製造方法。
本発明の多層フレキソ印刷版は、一枚の印刷版において、多層構造かつ印刷表面に異なる樹脂が混在することで、多様な印刷精度の要求に対応しうる。また、本発明の多層フレキソ印刷版は、印刷中の紙粉付着に関する問題が少なく、ベタ画像のインクの潰し性に優れ、微小凸文字画像、ベタ内凹文字画像が鮮明に印刷され、網点画像部が明るく、段ボールのフルートに沿って生じる段目現象を改善された印刷物が得られる効果を有し、さらに本発明の多層フレキソ印刷版の製造方法は、各層の厚み精度に優れた印刷版の製造を可能にする効果を有する。
以下、本発明について、特にその好ましい態様を中心に、詳細に説明する。
本発明の一つは、新規な積層様式によって構成したフレキソ印刷版である。
本発明の多層フレキソ印刷版に適用し得る液状感光性樹脂組成物は、特に制限されるものではないが、代表的なものとしては、重合性2重結合を分子中少なくとも1個以上有する不飽和プレポリマーと光重合開始剤、重合性2重結合を有するエチレン性不飽和単量体を含む感光性樹脂組成物であり、不飽和プレポリマーとしては、例えば不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタン、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリレート樹脂、不飽和ポリメタクリレート樹脂及びこれらの各種変性物等を少なくとも1種類以上用いたものを挙げることができ、具体的には、例えば特公昭51−37320号公報、特開平01−245245号公報、特開平04−095959号公報、特開平3−157657号公報、特開平07−295218号公報、特公平02−010165号公報、特公昭55−034930号公報、特開平10−153858号公報に記載されているものを挙げることができる。
本発明に用いる液状感光性樹脂は、後述する成型・露光工程の温度領域において流動性を呈し、更には1〜200Pa・sの範囲に樹脂粘度を有することが好ましい。1Pa・sより低い樹脂粘度では本発明の多層フレキソ印刷版を成型・露光する際に各樹脂層の厚みを一定にすることが困難であり、200Pa・sを超える樹脂粘度では多層構造を成型した後に全体版厚を一定にするための待ち時間が多く必要となるため、より好ましい粘度範囲は10〜150Pa・sである。
また、多層フレキソ版に用いる複数の樹脂組成の粘度は凡そ一定であることが好ましい。
本発明の多層フレキソ印刷版は、好ましくは3種類以上の異なる組成の液状感光性樹脂を成型・露光工程に供することによって実現でき、その異なる組成の液状感光性樹脂とは、すなわち、液状感光性樹脂の必須成分である重合性2重結合を分子中少なくとも1個以上有するプレポリマー、光重合開始剤、重合性2重結合を有するエチレン性不飽和単量体について、化学構造の異なる原料を使用した組成、あるいは配合割合が異なる組成であり、さらに液状感光性樹脂組成物に適宜添加することが可能な熱重合安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、連鎖移動剤、染料、顔料、滑剤、無機充填剤、界面活性剤、可塑剤、加水分解抑制剤等についても異なる化合物を使用することも樹脂組成の違いの要素となり得る。
本発明の多層フレキソ印刷版がその目的である優れた印刷品質を実現するためには、適用した異種液状感光性樹脂が結果として物理的特性が異なっていることが重要であり、例えば、露光・成型工程においては光重合速度、光硬化物としては硬度、反発弾性、各種溶媒に対する膨潤性や濡れ性、一定の期間保存した時の性状としては機械物性の安定性、滑剤の析出性、等が挙げられ、その物性を発現する液状感光性樹脂の組成物については何ら制限されるものではない。
なかでも本発明の多層フレキソ印刷版では、光重合速度、光硬化物硬度、各種溶媒に対する濡れ性の異なる樹脂組成物を印刷版の厚み方向で上下に多層化し、さらに版表面においても二種類以上の異なる樹脂組成物を印刷デザインによって選択的に配置することが効果的であり、印刷品質を向上させるために好ましい物性の違いについてさらに詳しく述べる。
まず光硬化物の硬度に関する違いについて説明する。
感光性樹脂印刷版の製造方法において、光硬化物の硬度が異なる樹脂組成物を上下に積層した版構成では、印刷版表面を成す上部層に高硬度組成を用いることにより網点画像、細かい凸文字の印刷による文字太りを抑制する方法が知られており、本発明のフレキソ印刷版においても同様の技術が利用可能である。
本発明の多層フレキソ印刷版に硬度の異なる樹脂組成物を用いる場合、例えば印刷版表面の網点画像、細かい凸文字領域に光硬化物硬度Haを発現する樹脂組成物Aを、印刷版表面のべた画像を含むその他の領域に光硬化物硬度Haを発現する樹脂組成物Bを、さらにそれらの下層に光硬化物硬度Haを発現する樹脂組成Cを配置して成る多層フレキソ印刷版を作成する時、それぞれの光硬化物硬度Ha、Ha、Haは、Ha>Ha≧Haの関係であることが好ましい。
印刷版に用いる液状感光性樹脂の光硬化物の硬度は、後述するテクロック式デューロメーターで測定したショアA硬度で表されることが一般的であり、以下各種樹脂組成物の好ましい光硬化物硬度について、ショアA硬度によってさらに詳しく説明する。
印刷版表面の網点画像、細かい文字領域に配置する樹脂組成物Aの光硬化物硬度Haは、べた画像領域を含むその他の領域に配置する樹脂組成物Bの光硬化物硬度Haに対して、5度〜40度の範囲で大きいことが好ましい。HaとHaとの硬度差が5度より少ない時には、本発明の効果である段ボール印刷における網点画像の段目解消効果、細かい文字の解像性向上の効果が得られにくく、40度を越えて大きい時には網点、細かい凸文字画像のインクカスレが生じ易くなるため、HaはHaに対して10度〜30度の範囲で大きいことがより好ましい。
網点画像、細かい凸文字領域以外のべた画像領域を含む領域に配置する樹脂組成物Bの光硬化物硬度Haは、印刷版全体の下層領域を成す樹脂組成Cの光硬化物硬度Haに対して、略同程度とするか、あるいは上下層の硬度差によるクッション効果で優れたベタ画像のインク潰しを得るためには25度より少ない範囲で大きいことが好ましい。HaとHaとの硬度差が、3度より少ない時にはクッション効果が現れにくく、25度を超えて大きい時にはベタ画像のインクカスレが生じやすくなるため、HaはHaに対して5度〜20度の範囲で大きいことがより好ましい。
印刷版全体の下層領域を成す樹脂硬化物Cの光硬化物硬度Haは、15〜45度の範囲であることが好ましい。15度より少ない硬度では印圧に対する応力が発現されずベタのインク潰しが不十分となる場合があり、45度を越えた硬度では印刷版表面の樹脂に対するクッション効果が現れにくいため、光硬化物硬度Haは20〜40度の範囲とすることがより好ましい。
次に光重合速度について説明する。
感光性樹脂印刷版の製造方法において、光重合速度の異なる樹脂組成物を上下二層に積層した版構成では、下層部の樹脂組成物に対して重合速度の遅い樹脂組成物を上層部に用いることによって、露光による画像太りが抑制されたレリーフが得られることが知られており、本発明においても同様の技術が利用可能である。
印刷版に用いる液状感光性樹脂の光重合速度は、特許第3158369号公報にTO法(thickness optimization法)として記載されている方法と類似の方法によって求められ、液状感光性樹脂を水性溶液に対して化学的に不溶化させるために必要な最小露光量(mJ/cm)として表される。
本発明の多層フレキソ印刷版に光重合速度の異なる樹脂組成物を用いる場合、例えば印刷版表面の網点画像、細かい文字領域に不溶化最小露光量Qを有する樹脂組成物Aを、印刷版表面のべた画像を含むその他の領域に不溶化最小露光量Qを有する樹脂組成物Bを、さらにそれらの下層に不溶化最小露光量Qを有する樹脂組成物Cを配置して成る多層フレキソ印刷版を作成する時、それぞれの不溶化最小露光量Q、Q、Qの関係は、Q≧Q>Qが成り立つよう設計することが好ましい。
印刷版表面に位置する樹脂組成物A、樹脂組成物Bと印刷版下層領域を構成する樹脂組成物Cの間では、Qに対してQあるいはQが、略同一かあるいは10倍より少ない範囲で大きいことが好ましい。
あるいはQがQに対して10倍を超えて大きい場合には、網点画像において液状樹脂の硬化反応中の流動現象による異形レリーフが生じやすく、ベタ画像においてはベタツキが発生することもあり、印刷版レリーフの高精彩化を期待して印刷表面を成す上層領域と下層領域の光硬化特性を設計するには、Qに対してQあるいはQを1.5倍〜5倍の範囲で調整することがより好ましい。
一方、本発明の特徴である印刷版表面に位置する樹脂組成物Aと樹脂組成Bの間では、QとQとが略同一かあるいはQがQの5倍より少ない範囲で大きいことが好ましい。QがQより大きい場合、網点画像、細かい文字領域において高精細な印刷版レリーフを得る効果が十分でないことがあり、QがQの5倍を超える範囲で大きい場合、樹脂組成A領域と樹脂組成B領域の画像再現性のバランスをとりにくいことがあるため、QとQとは略同一かあるいはQがQの3倍より少ない範囲で大きいことがより好ましい。
本発明の多層フレキソ印刷版に用いる光重合速度に関する組成の違いは、更にTO法で測定される最小不溶化露光量以外にも、版表面におけるラジカル反応の酸素阻害の影響に関する違いすなわち空気硬化性の違いや、現像後に行う殺菌灯による後露光に対する反応性の違い等も含むことができ、これらは印刷版表面の架橋反応を促進することによる粘着性除去に対して大きな効果があり、印刷中の紙粉付着の少ない版を得るためには重要である。
印刷版表面の架橋反応を促進するための樹脂組成としては、水素引き抜き型の光開始剤を含有することが好ましく、例えば置換又は無置換ベンゾフェノン類、置換又は無置換アセトフェノン類、置換または無置換芳香族ケトン類、o,p- キノン化合物類、置換または無置換チオキサントン類などが挙げられ、なかでもベンゾフェノン類を用いることが一般的であり、最も効果的なのはベンゾフェノンである。
しかし、ベンゾフェノンは活性光線の吸光度が高いため、紙粉付着に最も影響が大きいベタ画像部の粘着性が十分に減じるまで多く組成中に含有させた場合、数mmの版厚を有する段ボール用印刷版において良好なレリーフ形状を得ることが困難と成ることがあった。
本発明の多層フレキソ印刷版では、印刷版表面において粘着性を左右する表面反応性の異なる樹脂を画像に応じて配置し、すなわち、紙粉付着の問題が大きいベタ画像にはベンゾフェノンを含有した樹脂を配置し、表面積が少なく紙粉が付着しにくい凸文字あるいは網点画像領域にはベンゾフェノンを含まずにレリーフ再現性に優れる光開始剤組成を有する樹脂を選択して配置することができ、版表面の粘着性除去のために犠牲となっていた印刷品質の高精細化が実現できる。
本発明の多層フレキソ印刷版の版表面に用いる樹脂組成物としては、インクに対する濡れ性の異なる樹脂組成物を画像に応じて配置することも好ましい。
感光性樹脂硬化物のインクに対する濡れ性は、インクの表面自由エネルギーと印刷版表面の表面自由エネルギーとの相対的関係によって決定し、例えば段ボール印刷に一般的に用いられる水性インクの表面自由エネルギーはおよそ40〜50dyn/cmの範囲であり、感光性樹脂によるフレキソ印刷版は40〜65dyn/cmの表面自由エネルギーを有している。
本発明の多層フレキソ印刷版では、表面自由エネルギーの異なる樹脂組成物を版表面樹脂として配置する場合、ベタ画像領域に多くのインクを乗せて印刷し、網点や細字画像領域では少ないインクで印刷することが好ましく、そのためには各々の版表面に樹脂硬化物の表面自由エネルギーの差が5dyn/cm以上であることが好ましい。
表面自由エネルギーの差が5dyn/cmより少ない範囲ではその印刷品質向上効果は十分でない場合があり、また30dyn/cmを超える組み合わせではインク受理転移性の差からインクの濃淡が明らかになる場合があるために、より好ましくは10〜20dyn/cmの範囲で表面自由エネルギーの差を設定することである。
以上のように本発明の多層フレキソ印刷版に用いる多種の異なる樹脂組成物としては、主に光重合速度、光反応硬化物の硬度、製版して得られる版表面の表面自由エネルギーについて、版表面の画像領域間、あるいは上下積層構造間でそれらを印刷品質の改良目的に応じて適宜選択することが重要である。
本発明の多層フレキソ印刷版は、異なる樹脂組成物の各々の特徴を同一印刷版において複合的に発現しようとするものであり、その全画像領域で上述の如き組成の異なる、好ましくは物理的性質の違いが明らかな感光性樹脂組成物により少なくとも二層以上の多層化構造を有し、且つ少なくとも二種類以上の物理的性質の異なる版表面を混在させて成ること以外は特に制限されるものはないが、その全画像領域で上述の如き組成の異なる、好ましくは物理的性質の違いが明らかな少なくとも二種類の液状感光性樹脂が印刷版表面に混在するように積層されて成る一定厚みの上部層と一定厚みの単一組成の液状感光性樹脂から成る下部層から成る多層化構造であることが好ましい。
少なくとも二種類の液状感光性樹脂が印刷版表面に混在するように積層されて成る一定厚みの上部層は特許文献4の技術により製造可能であり、この上部層に対して更に組成、物理的性質の異なる樹脂組成物を積層することによって、好ましくは3種類以上の性質の異なる樹脂組成物の複合効果によって優れた印刷品質の実現を可能にすることができる。
版厚の厚み方向に印刷版表面近傍の上部層と下部層の間に中間層を設けた三層構造や、下部層においてもクッション効果を更に改善する目的でレリーフ画像に応じて硬度の異なる樹脂を複数配置することも可能であるが、後述する成型工程における作業性、優れた厚み精度を実現するため、また液状感光性樹脂の本質的問題となる成型工程における気泡の巻込みを防ぐためにも、二種類の液状感光性樹脂が印刷版表面に混在するように積層されて成る一定厚みの上部層と一定厚みの単一組成の液状感光性樹脂から成る下部層からなる多層化構造とすることがより好ましい。
本発明の多層フレキソ印刷版は、その版厚が2mm〜10mmの範囲であることが好ましく、段ボール印刷への対応としてレリーフ深度を約1.5mm以上とすることが求められることが多く、一般的な段ボール印刷機はフレキソ印刷版のパーツをキャリアシートの貼り付けて製造される刷版の厚みとして約7〜8mm程度の仕様のものが一般的であるために、より好ましい版厚は2.5〜8.0mmの範囲である。
本発明の多層フレキソ印刷版の印刷版表面に配置する上部層樹脂硬化物の厚みは、0.05mmを超え、印刷版全体厚みに対して約1/3以下の厚みであり、同時に下部層の厚みは約2/3以上であることが好ましい。0.05mmより少ない厚みでは硬度差による弾性特性の特徴が現れにくく、印刷版全体厚みの1/3以上の厚みではレリーフ再現性の向上効果を期待し上下樹脂層間の感度差を大きくしにくいため、印刷版表面に配置する上部層樹脂硬化物の厚みは、0.1mmを超え、印刷版全体厚みに対して約1/4以下であることが好ましく、0.15〜1.0mmの範囲とすることが最も好ましい。
印刷版表面に配置する上部層においては、複数の組成の異なる樹脂が画像に応じて配置され、その隣り合った樹脂間の厚みは略同一であるか、上部層においても積層構造を有するように配置することが好ましい。
例えば、樹脂組成物Aと樹脂組成物Aより光硬化物硬度が低い樹脂組成物Bについて、網点画像、細かい文字領域に樹脂組成物Aを、印刷版表面のべた画像を含むその他の領域に樹脂組成物Bを配置する場合、選択的に配置する必要性が高い樹脂組成物Aの厚みを薄くして、樹脂組成物Bは製版画像全領域に対して樹脂組成物Aの厚みも含めて一定の厚みと成るように塗布することにより、結果として上部層においても非常に薄膜も積層構造が形成されることとなり、特に硬度差を特徴とする構成の場合、下層に配置する樹脂の硬度も含めて厚み方向の硬度変化が緩やかになり、弾性特性の更なる向上が得られる。
本発明の多層フレキソ印刷版の略図を図3に、また従来技術により得られる多層フレキソ印刷版の略図を図4(a)、(b)に示す。
本発明のもう一つは液状感光性樹脂から成る新規な段ボール用多層フレキソ印刷版の製造方法であり、以下に詳しく説明する。
液状感光性樹脂によるフレキソ印刷版の製造方法は、成型・露光工程、現像工程、後露光工程を含む製版方法によって行われることが一般的である。
本発明の多層フレキソ印刷版の製造方法では、その成型・露光工程に特徴があり、現像工程、後露光工程、更に目的に応じて付加されるその他の工程、例えば乾燥工程、表面処理工程等についても適宜加えることが可能である。
以下に成型・露光工程、現像工程、後露光工程の好ましい例を説明する。
<成型・露光工程>
(1) 紫外線透過性のガラス板上にネガフィルムを置き、薄い保護フィルムでカバーした後、所定の場所に液状感光性樹脂AをXmm以下の厚みで塗布する工程(上部層1塗工工程)
(2) 次に画像領域全体に液状感光性樹脂Bを塗布した後、支持体上Xmmの間隔でドクターブレードを用いて塗布樹脂全体の厚みを一定にする工程(上部層2塗工工程)
(3) さらにその上から画像領域全体に液状感光性樹脂Cを塗布した後、支持体上Ymmの間隔でドクターブレードを用いて塗布樹脂全体の厚みを一定にする工程(下部層塗工工程)
(ここでX、Yは、0.05≦X<Y≦10の関係が成立する数値を表す。)
(4) 支持体となるベースフィルムを貼りあわせる工程(支持体ラミネート工程)、
(5) 全ての液状樹脂積層物の全体厚みが一定の版厚になるようにスペーサーを介して紫外線透過性のガラス版により圧縮して厚みを規制する成型工程
(6) 紫外線蛍光灯を光源とする活性光線(300nm以上に波長分布を有する)を支持体を介して液状樹脂積層物に照射し版の支持体側に全面に均一な薄い硬化樹脂層すなわち床部形成層(バック析出層)を析出させるバック露光工程
(7) 紫外線蛍光灯を光源とする活性光線(300nm以上に波長分布を有する)をネガフィルムを介して液状樹脂積層物に照射し画像形成を行うレリーフ形成露光工程
を含む方法から成る。
段ボール印刷に用いるような印刷版の厚みが4mm以上の場合には、印刷時の印圧に対するレリーフの強度を補うための適切なレリーフ深度を実現するため、また液状感光性樹脂による製版システムの未硬化樹脂を再利用する利点を最大限にするためにバック析出層を二段とする方法が用いられ、すなわち、土台となるシェルフ層を形成するのが好ましく、この場合、レリーフ露光前に上部ガラス側から専用のマスキングフィルムを用いたマスキング露光工程を加えて行うことが好ましい。
上述の上部層1塗工工程では、画像に応じた任意の場所に選択的に1mm以下程度の厚みで液状樹脂を塗布することが必要であり、塗布時の液状樹脂が1〜10Pa・s程度の粘度の場合は刷毛塗りも可能であるが気泡を混入する可能性が有るため10Pa・sを超える粘度の樹脂では困難であり、平板状の突出口を供えたチューブボトル液状樹脂を充填して所定の場所に塗布する方法や、チューブボトルから仮に塗布した樹脂をヘラにより一定の厚みに引き伸ばす方法が好ましい。
図1に細線、網点画像の部分だけに樹脂を塗布する工程の略図を示す。
上述の上部層2塗工工程、下部層塗工工程、支持体ラミネート工程については、2種類の樹脂を積層塗布する機能を有する製版機においては、連続的に同一操作で実施される工程であり、そのような機能を有する製版装置として、例えばASF−913E型露光機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)、AWF−110E型露光機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)を挙げることができる。
上部層2塗工工程と下部層塗工工程とを連続的に同一操作で実施することにより、結果的に上部層と下部層との間で同一組成の感光性樹脂が連続して存在しない多層フレキソ印刷版が得られる。
図2に細線、網点画像以外の製版画像領域に対して印刷版上部層を塗布、次いで印刷版下部層を塗布し、支持体がラミネートされる工程の略図を示す。
<現像工程>
ネガ型感光性樹脂を用いた凸版印刷版の製造方法では、光反応により硬化したレリーフ画像以外の部分を除く作業として現像工程が必要であり、露光されない未反応の樹脂を溶解あるいは膨潤させる性能をもつ液体を現像液として用い、印刷版表面から除去することが必要である。
液状感光性樹脂用の現像液は、界面活性剤水溶液を用いるのが一般的であり、その界面活性剤あるいは液組成については使用する樹脂の性質に合わせて最適なものが選択され、特に限定されるものでは無い。
現像方法としては現像液中に露光した感光性樹脂版を浸漬する方法、現像液をスプレーノズルから露光した感光性樹脂版面上に吹き付け、未硬化樹脂を溶解除去する方法、あるいは浸漬・スプレーにより膨潤した未硬化樹脂をブラシで掻き取る方法などが挙げられる。
<後露光工程>
液状感光樹脂による印刷版製造方法における後露光工程は、現像工程によってレリーフ画像として得られた感光性樹脂硬化物に再度活性光線を照射することにより、感光性樹脂硬化物表面あるいは内部に残留する未反応の重合性2重結合の光架橋反応を促進する目的に行われ、その結果、印刷版レリーフの機械的強度が向上し、版表面の表面粘着性除去が行われる。
後露光工程に使用する活性光線は、成型・露光工程に用いたのと同様の300nm以上の波長領域に分布を有する活性光源(例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ等)と200〜300nmの波長領域に分布を有する活性光源(例えば低圧水銀灯、殺菌灯、重水素ランプ等)を併用することが好ましい。
後露光工程は、空気中の酸素による重合反応阻害防止を目的とした水中露光方式で行っても良いし、また空気中、すなわち酸素阻害への対策を行わない方法(空中露光方式)で露光しても良い。液状感光性樹脂の場合、より効果的な後露光方法として水中後露光方式を用いることが好ましく、水中露光方式で後露光を行った後に更に空中露光方式を行うことも積極的に酸化反応の利用することによる表面処理方法としては効果的である。
本発明を実施例に基づいて説明する。しかし、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
<樹脂組成調整と物性測定>
以下の方法によって液状感光性樹脂組成物を調合し、準備した。
製造例1:不飽和プレポリマーAの製造
1000gのポリ(3-メチル-1,5-ペンタンジオールアジペート)ジオール(水酸基価:37KOHmg/g)と1000gのポリオキシエチレン(EO)−オキシプロピレン(PO)ブロック共重合ジオール(水酸基価:44KOHmg/g、EO含量30wt%)との混合物に対して45ppmのジブチル錫ジラウレート(以下BTLと略して記載する)を加え40℃で均一になるまで攪拌し、次いで148.5gのトリレンジイソシアネート(以下TDIと略して記載する)を加えてさらに攪拌し、均一となったところで80℃まで昇温の後約4〜5時間反応させて両末端にイソシアネート基を有するプレポリマー前駆体とした。さらに436.0gのポリ(オキシプロピレン)グリコールモノメタアクリレート(平均分子量380、以下PPMAと略して記載する)を加えて約2時間反応させた後、サンプルを一部取り出してIR分光測定器によりイソシアネート基消失を確認し、GPCにより求めた数平均分子量が17000のポリウレタン系不飽和プレポリマーAを得た。
製造例2:不飽和プレポリマーBの製造
1000gのポリ(3-メチル-1,5-ペンタンジオールアジペート)ジオール(水酸基価:37KOHmg/g)と1000gのポリオキシエチレン(EO)−オキシプロピレン(PO)ブロック共重合ジオール(水酸基価:44KOHmg/g、EO含量30wt%)との混合物に対して45ppmのBTLを加え40℃で均一になるまで攪拌し、次いで189.5gのTDIを加えてさらに攪拌し、均一となったところで80℃まで昇温の後約4〜5時間反応させて両末端にイソシアネート基を有するプレポリマー前駆体とした。さらに462.5gのPPMAを加えて約2時間反応させた後、サンプルを一部取り出してIR分光測定器によりイソシアネート基消失を確認し、GPCにより求めた数平均分子量が8500のポリウレタン系不飽和プレポリマーBを得た。
得られた不飽和プレポリマーA、Bに表1に示す組成を調合し、60℃で2時間程度の攪拌混合を行うことに依って、樹脂組成物1〜5を得た。
以下に準備した液状感光性樹脂の粘度、感光特性、硬度を評価するために用いた方法を説明する。
1)粘度測定方法
準備した液状感光性樹脂組成物を温度20℃、湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置し、同室内においてB形粘度計形式B8H(株式会社東京計器製)を用いて粘度測定を実施した。
2)TO(thickness optimization)法による光硬化特性測定
2−1)サンプル成型
5mm厚のガラス板(透過率約80%)を二枚準備し、その一方を透明なポリエチレンフィルムで密着して覆い、その上に30mm×150mmの開口部を有する厚み8mmの型枠を置き、型枠内に液状感光性樹脂を充填した。次いで液状感光性樹脂表面を型枠サイズに断裁した片面粘着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体、透過率約80%)で空気が入らないように覆った後、他方の5mm厚のガラス板を用いてガラス板同士をクリップで挟み、液状樹脂の厚みが一定となるまで暫く遮光状態、25℃前後の室温で放置し、TO露光サンプルとした。
2−2)露光機
光源として370nmに中心波長領域を有する紫外線蛍光灯を照度ムラのないように多灯並列に配置したものを作成して露光機として用いた。露光機下には可動式サンプル台を設け、室温25℃においてランプ照度が安定したことを確認し、サンプル樹脂表面の高さにおいて紫外線測定器UV−M02(商標・オーク製作所製)により測定した350nmの波長における照射量が0.8mW/cmと成るようにランプ出力とサンプル台高さを調整した。
2−3)露光
TO露光サンプルの支持体側のガラス板型枠部分に30mm×60mmの遮光用ゴム板を並べて配置し、型枠内の液状感光背樹脂が完全に覆われていることを確認した。この作業は、作業中に露光が行われないよう、露光機から離れた場所で行う必要がある。そして、ゴム板で樹脂を覆ったTO露光サンプルを露光機下のサンプル台に移し、横一列にゴム板が並ぶよう配置した。
露光は、遮光用ゴム板を0秒、60秒、120秒、180秒、240秒の時間で順次取り外すことで行い、露光開始後300秒経過した時点でTO測定サンプル全体を遮光するゴム板をサンプル上に置くことで露光を終了した。結果的にTO測定サンプル表面には48mJ/cm、96mJ/cm、144mJ/cm、192mJ/cm、240mJ/cmの照射量で露光を行ったことになる。
2−4)現像
AL−400W型現像機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製、ドラム式スプレー現像機)に不飽和プレポリマーA及びBを現像するために有用な現像剤W−10(商標・旭化成ケミカルズ(株)製、アニオン界面活性剤水溶液)を1.5wt%、表面処理剤A−10(商標・旭化成ケミカルズ(株)製、ベンゾフェノン含有ノニオン界面活性剤水溶液)を0.5wt%、消泡剤SH−4(商標・旭化成ケミカルズ(株)製、シリコン系消泡剤)を0.3wt%加えた水溶液を作成し、現像液温度30℃、スプレー圧0.2MPa、現像時間10分で現像を実施した。
2−5)後露光
紫外線蛍光灯、殺菌灯の双方を装備したALF−200UP型後露光機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)の水槽に水を貯めて用いる水中後露光において、それぞれの光源から照射される露光量が液状感光性樹脂硬化物表面で2500mJ/cmとなる露光時間で露光を行った。
2−6)乾燥工程
ALF−DRYER(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)で版表面の水分が無くなるまで約10分間乾燥を行った。
2−7)Q値の算出
乾燥したTO硬化物は室温まで冷却し、プッシュブルゲージを有する接触面10mmφの版厚計を200gの荷重で用いて、樹脂硬化物の厚みを測定した。
測定結果から照射露光量(mJ/cm)と版厚(/100mm)の関係を図示し、そのグラフから液状感光性樹脂を現像液に対して化学的に不溶化させるために必要な最小露光量Q値(mJ/cm)を導いた。
3)ショアA硬度測定方法
後述する評価印刷版の製造方法と同様の方法により、調合した樹脂組成物を単独で用いた7mm印刷版を作成した。
ベタ画像領域のサンプル片を温度20℃、湿度70%の恒温恒湿室内に一日放置し、JIS定圧荷重器GS−710(株式会社テクロック社製、デュロメーターGS−719G ASTM:D2240A、JIS:K6253A、ISO:7619A)を1kg荷重で用いて測定し、測定開始後15秒後の値をショアA硬度として求めた。
<評価印刷版の製造方法>
本発明の効果を確認するために準備した液状感光性樹脂組成物を用いて印刷版を作成し、その印刷物の品質を評価した結果を示す。
印刷版の作成に用いた画像は、文字サイズ8〜18ポイントの“鮮明な印刷。”の明朝凸文字、30センチ角のベタ画像の中ほどに同様の明朝凹文字を有する画像、さらに30センチ角の30LPI(1平方センチの面積を縦横に分割する本数を示す単位)、濃度5〜90%の網点グラデーション画像を有するデザインを銀塩フィルムに出力したネガを作成して使用した。
印刷版製造は、成型・露光工程として、波長370nmに中心波長領域を有する80Wの紫外線蛍光灯を装備し、紫外線測定器UV−M02(商標・オーク製作所製)で測定したガラス越し光照射強度が上部4.5mW/cm、下部5.5mW/cmであるAWF-110E型製版機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)を使用し、網点グラデーションパターン5%濃度のレリーフが完全に形成するレリーフ露光量を適正化して実施し、続く未硬化樹脂の回収工程、現像工程、乾燥工程はAWF−110W型回収・洗浄・乾燥機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)を、後露光工程はAWF-110E型製版機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)の後露光ユニットをTO法による光硬化特性測定で行った現像工程、後露光工程、乾燥工程の条件に準じた条件で併用することによって実施した。
<評価印刷版の評価方法>
得られた印刷版は、JEMフレキソ印刷機(商標・日本電子精機(株)製)を用いて、A段Cライナーの段ボール印刷テストを実施し、以下の評価基準によって各々の評価項目のランク付けを行った。
段ボール印刷の適正条件の選定について、アニ圧は版表面全体にアニロックスロールからのインクが付着する圧力より+0.05mm追い込んだ条件、印圧についてはベタ画像の潰しを満足するまで印圧を追い込んだ条件とした。

印刷条件; インク:スーパーワッサーZSL3黒(商標・大阪印刷インキ(株)製)
インク粘度:8〜9秒/ザーンカップ#4(20℃)
インキング機構:リバースドクター方式
アニロックス線数:250LPI
段シート:ノンコート175g/m表面シート、強化中芯
印刷速度:65枚/分
a)独立凸文字印刷品質
A:8ポイント文字まで鮮明に印刷された状態
B:8ポイント文字まで可読できるがややマージナルの影響が見られる状態
C:9ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
D:10ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
E:12ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
b)ベタ内凹文字印刷品質
A:8ポイント文字まで可読できる状態
B:10ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
C:12ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
D:14ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
E:16ポイント以下の文字ではインクの滲みにより一部文字の埋まった状態
c)網点グラデーションの明るさ、段目現象
A:ほとんど段目が目立たずに全体濃度も明るく印刷された状態
B:僅かに視認できる段目があるが、全体濃度は明るく印刷された状態
C:明らかに段目が見られ、全体濃度もやや暗く印刷された状態
D:明らかに段目が見られ、フルート凹部まで暗く印刷された状態
〔実施例1、実施例2、比較例1、比較例2〕
AWF-110E型製版機(商標・旭化成ケミカルズ(株)製)の下ガラス上にネガフィルムを置き、その上を厚さ30μのポリプロピレンシート(保護フィルム)で覆い、準備した樹脂組成5を上層部1使用樹脂組成として0.15mmの厚みと成るよう凸文字画像、網点画像領域に配置し、次いで準備した樹脂組成3を0.6mmの間隔で上層部2使用樹脂組成として画像域全面にドクタースキージして塗布し、最後に更にその上から樹脂組成1を7.2mmの間隔で下層使用樹脂組成として画像域全面にドクタースキージして成型し、以下上述の如く各製版工程を実施して実施例1の印刷版を得た。
実施例1の印刷版について、上層部1使用樹脂組成として塗布した樹脂組成5を0.4mmとすること以外は同様の方法によって実施例2の印刷版を得た。
実施例2の印刷版について、上層部1使用樹脂組成として樹脂組成5を塗布しないこと以外は同様の方法によって比較例1の印刷版を得た。
実施例2の印刷版について、上層部2使用樹脂組成として樹脂組成3を塗布しないこと以外は同様の方法によって比較例2の印刷版を得た。
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の印刷版について段ボール印刷評価の結果、実施例1、実施例2の印刷版は、比較例3の印刷版に対して、より小さな凸文字まで識字可能となり、網点の段目の程度も軽減された良好な印刷物が得られ、比較例2では、比較例3に対して凸文字の識字性、網点画像の段目の軽減は見られたものの、ベタ画像内に中央部に位置する凹文字の識字性に劣り、ベタ画像の周辺部ではベタツキの大きな印刷版となり、紙粉の付着が見られた。
表3に樹脂組成、版構成を、表4に評価結果を示す。
〔比較例3〕
比較例2について、下層部使用樹脂組成として樹脂組成2を塗布すること以外は同様の方法によって比較例3の印刷版を得た。
比較例3の印刷版では、比較例2のベタ画像周辺部のベタツキが大きいという問題が解消されており、これはベタ画像を成す下層部樹脂として樹脂組成2にベンゾフェノンが含有されていた効果である。
しかし、比較例3の印刷版から得られる印刷物は、全体的に印刷品質に劣るものであり、これは上下層における樹脂組成の光硬化速度に差が無く均一であり、さらにベンゾフェノンを含有する樹脂を下層領域に使用することにより、そのTO感度曲線から厚み方向への硬化速度が遅く、印刷版の品質としては凹上部の深度が浅い画像が形成されるためであると推定する。
表3に樹脂組成、版構成を、表4に評価結果を示す。
〔実施例3、実施例4、比較例4〕
実施例2について、上層部1使用樹脂組成として樹脂組成4を塗布すること以外は同様の方法によって実施例3の印刷版を得た。
実施例3の上層部1使用樹脂組成として樹脂組成4を塗布する画像領域について、凸文字画像、網点画像領域に0.4mmの厚みで塗布することに加え、ベタ画像内の中央部に位置する凹文字部分にのみ0.15mmの厚みで塗布すること以外は同様の方法によって実施例3の印刷版を得た。
実施例3、実施例4の印刷版により得られた印刷物は、実施例2の印刷物に対して更に凸文字、網点画像の印刷再現性が向上しており、マージナルの影響、段目の痕跡の無い印刷物となった。ベタ内の文字部分にのみ樹脂組成4を塗布した実施例4では、凹文字の印刷品質も向上した。
一方、実施例4について、上層部2使用樹脂組成として樹脂組成3を塗布しないこと以外は同様の方法によって比較例4の印刷版を得た。
比較例4の印刷版により得られた印刷物は、実施例4に近い印刷品質が得られたが、ベタ画像の周辺部ではベタツキの大きな印刷版となり、紙粉の付着が見られた。
表3に樹脂組成、版構成を、表4に評価結果を示す。
〔比較例5、比較例6〕
比較例1について、上層部2使用樹脂組成として樹脂組成5を画像領域全面に塗布すること以外は同様の方法によって比較例5の印刷版を得た。
比較例1について、上層部2使用樹脂組成として樹脂組成4を画像領域全面に塗布すること以外は同様の方法によって比較例6の印刷版を得た。
比較例5、比較例6の印刷版から得られる印刷物は、比較例1に対して硬化物硬度の高い樹脂組成を印刷版表面に配置したにも関わらず、比較例1と同等か、それより劣悪な印刷品質となった。これはベタ画像のインクの潰しにより適正印圧を決定する印刷方法において、ベタ画像全域に高硬度樹脂を配した構成体では適正印圧が高く必要であり、その結果、微細な画像領域において印刷品質が悪化することを示している。
比較例6の印刷版では、同時にベタ画像の周辺部ではベタツキの大きな印刷版となり、紙粉の付着が見られた。
表3に樹脂組成、版構成を、表4に評価結果を示す。
本発明の多層フレキソ印刷版とその製造方法は、フレキソ印刷の中でも特に段ボール印刷の分野で好適に利用できる。
上部層1塗工工程の例を示す概念図。 上部層2塗工工程、下部層塗工工程、支持体ラミネート工程の例を示す概念図。 本発明の多層フレキソ印刷版の例を示す概念図。 (a)、(b)は、それぞれ従来技術による多層フレキソ版の例を示す概念図。
符号の説明
1:感光性樹脂A
2:感光性樹脂B
3:感光性樹脂C
4:ネガフィルム
4−a:ネガフィルム上の細線部分
4−b:ネガフィルム上の網点画像部分
4−c;ネガフィルム上のベタ画像部分
5:保護フィルム
6:活性光線を透過するガラス板
7:支持体
8:ドクターブレード
9:ラミネートロール

Claims (7)

  1. 全画像領域において、印刷版表面に用いる液状感光性樹脂とそれとは組成の異なる液状感光性樹脂による二層以上の多層構造であり、かつ、印刷版表面は少なくとも二種類以上の組成の異なる液状感光性樹脂が混在していることを特徴とする多層フレキソ印刷版。
  2. 少なくとも二種類以上の組成の異なる液状感光性樹脂が混在して配置された印刷版表面である一定厚みの上部層と単一組成の液状感光性樹脂から成る一定厚みの下部層とからなり、上部層と下部層との間で同一組成の感光性樹脂が連続して存在しないことを特徴とする請求項1に記載の多層フレキソ印刷版。
  3. 上部層を構成する二種類以上の液状感光性樹脂が光硬化した際の何れかの硬度が、下部層を構成する液状感光性樹脂の光硬化した際の硬度より高いことを特徴とする請求項1または2に記載の多層フレキソ印刷版。
  4. 上部層を構成する二種以上の液状感光性樹脂の何れかの不溶化最小露光量が、下部層を構成する液状感光性樹脂の不溶化最小露光量より大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の多層フレキソ印刷版。
  5. 印刷版表面を構成する二種類以上の液状感光性樹脂の内、少なくともベタ画像表面領域を形成する液状感光性樹脂が水素引き抜き型光開始剤を含有し、印刷版表面を形成しない液状感光性樹脂が水素引き抜き型光開始剤を含有しないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多層フレキソ印刷版。
  6. 水素引き抜き剤がベンゾフェノンであることを特徴とする請求項5に記載の多層フレキソ印刷版。
  7. (a)不飽和プレポリマー、(b)エチレン性不飽和モノマー、(c)光重合開始剤を含有して成り、それぞれ組成の異なる液状感光性樹脂A、液状感光性樹脂B、液状感光性樹脂Cを用い、
    (1) 画像領域の任意の場所に保護フィルムを介して液状感光性樹脂AをXmm以下の厚みで塗布する工程(上部層1塗工工程)
    (2) その上から画像領域全体に液状感光性樹脂Bを塗布した後、支持体上Xmmの間隔でドクターブレードを用いて塗布樹脂全体の厚みを一定にする工程(上部層2塗工工程)
    (3) さらにその上から画像領域全体に液状感光性樹脂Cを塗布した後、支持体上Ymmの間隔でドクターブレードを用いて塗布樹脂全体の厚みを一定にする工程(下部層塗工工程)
    (ここでX、Yは、0.05≦X<Y≦10の関係が成立する数値を表す。)
    を含む成型・露光工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多層フレキソ印刷版の製造方法。
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