以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本発明の機能性粒子添着素材(以下、適宜「本発明の素材」等と略称する。)は、基材の少なくとも一部に機能性粒子が添着されているとともに、機能性粒子の少なくとも一部が、カップリング剤を介して基材に結合しているものである。また、機能性粒子の少なくとも一部が、更にバインダにより基材に添着されていることが好ましい。
[I.素材の成分]
〔I−1.基材〕
本発明の素材に用いられる基材としては、後述する機能性粒子をカップリング剤により添着できるものであれば、その種類に特に制限はなく、素材の目的・用途等に応じて任意のものを用いることができる。例としては、繊維、紙、プラスチック、木材、コンクリート、金属、皮革等を素材とするフィルム、シート、板材、布地等が挙げられる。これらの基材は、何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。
特に、後述する様に、塗布液を基材に含浸させることにより本発明の素材を製造する場合には、基材として含浸性の材料(含浸性部材)を用いることが好ましい。含浸性部材の種類は特に制限されないが、特に好適な例として繊維が挙げられる。
繊維としては、天然繊維及び合成繊維の何れでも良く、これらの両方を用いた繊維でも良い。また、その形態としても、織布、編布、不織布等、任意の形態のものを用いることができる。
繊維の具体例としては、織物、モケット、タオル地、トリコット、ダブルラッセル、丸編、ニードルパンチ等が挙げられる。また、ここでいう繊維としては、木綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、あるいはレーヨン;アセテート;蛋白質繊維;塩化ゴム;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン−12等のポリアミド;ポリビニルアルコ−ル;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリアクリロニトリル;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリウレタン;ポリシアン化ビニリデン;ポリフルオロエチレン等、更にそれらの共重合体、ブレンド体からなる繊維が挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、木綿、麻、ポリエステル、ポリアミドを用いることが好ましい。また、これらはその他にポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料などの添加物を含有していてもよい。
繊維の形状も特に制限されず、糸、布地、シートなど、何れの形状のものを用いてもよい。特に、合成繊維の場合には、その断面形状や長手方向の形状を自由に設計することが可能である。具体的に、断面形状としては丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面等が挙げられ、また、長手方向の形状としては長繊維、短繊維等が挙げられるが、何れも任意に選択することが可能である。布地としては、用途に応じて織物、編物が使用でき、織物では平織、綾織、朱子織、それらを組み合わせたものなど、編物ではメリヤス編など、何れを用いても良い。
これらの中でも、基材としては、後述する各種のカップリング剤と容易に反応する官能基を多数有している物質が好ましい。例としては繊維、紙などが挙げられるが、中でも反応性の高いOH基を有するセルロース系の繊維、紙などが好ましい(以下、これらセルロース系の繊維、紙を総称して「セルロース系繊維」というものとする。)。セルロース系繊維としては、(i)綿、麻、竹等の各種植物に由来し、セルロースを主成分とする天然繊維や、(ii)これらの天然繊維を溶解し、化学的に改質して得られる再生繊維や半合成繊維(ビスコースレーヨン,ベンベルグレーヨン(銅アンモニアレーヨン,キュプラ),アセテートレーヨン等の各種レーヨン等)などが挙げられる。これらはいずれも好適に使用可能であるが、中でも基材表面の反応性官能基の数が多いという理由から、綿または綿を含む繊維材料が好ましい。
〔I−2.機能性粒子〕
本発明の素材に用いられる機能性粒子についても特に制限はなく、任意のものを用いることが可能であるが、本発明の趣旨から、通常は上述の基材と直接結合させることが困難な物質が主に用いられる。ここで、基材と直接結合させることが困難な物質とは、上述の基材と共有結合又は配位結合を形成しない物質、より具体的には、基材が有する官能基と共有結合又は配位結合を形成する官能基を実質的に有さない物質をいう。
機能性粒子の具体的な種類としては、素材に付与すべき機能に応じて適切なものを選択して用いればよい。よって、その種類は有機物、無機物を問わないが、合成時の経済性等の観点からは無機物質が好ましい。特に基材として有機物質を用いる場合には、これに機能性粒子として無機物質を直接結合させるのは通常は困難であることから、本発明の適用による効果が大きくなる。また、素材の高機能化という観点からは、各種の物質の吸収・放出やそれに伴う様々な機能、また担持物質の徐放性能等も期待できる多孔質物質が好ましい。よって、機能性粒子としては、無機多孔質物質が特に好ましい。無機多孔質物質の好ましい具体例としては、シリカゲル、アルミナ等が挙げられる。中でも、以下に説明する手法により物性の精密な制御が容易であることから、シリカゲルが特に好ましい。なお、これら例示の機能性粒子は一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。
なお、機能性粒子として多孔質物質を用いる場合、その細孔特性を制御することによって各種の機能を持たせることが可能である。詳細な細孔特性は目的とする素材の用途等に応じて適宜調整すればよいが、一般的に言えば、細孔径分布がシャープで均一な構造であることが好ましい。これによって機能性粒子は均一な強度を有すこととなり、結果的に、本発明の素材は安定して高い耐久性を奏することができる。
機能性粒子の形状や大きさは特に制限されず、素材の用途・目的や、併用する基材の種類等に応じて、適切な形状や大きさを選択すればよい。
具体的に、機能性粒子の形状としては、球状、略球状、破砕状、楕円体状、多面体状、扁平体状等が挙げられるが、取り扱いや製造の容易さの観点からは、球状、略球状、破砕状が好ましい。
また、機能性粒子の粒子径としては、通常0.1μm以上、中でも0.5μm以上、更には1μm以上、また、通常300μm以下、中でも250μm以下、更には200μm以下の範囲とすることが好ましい。粒子径をこの範囲内とすることによって、後述する方法で本発明の素材を製造する際に、機能性粒子を均一に分散させることが容易になる。特に、基材として繊維を使用する場合には、素材の風合いと洗濯耐久性等の観点から、機能性粒子の粒子径を通常0.1μm以上、中でも0.2μm以上、また、通常5μm以下、中でも2μm以下の範囲とすることが好ましい。
〔I−3.シリカゲル(機能性粒子の好ましい例)〕
本発明では機能性粒子として、特定のシリカゲルを用いることがとりわけ好ましい。以下、本発明に好適に用いられるシリカゲル(以下、適宜「本発明のシリカゲル」等と略称する。)について詳しく説明する。
本発明のシリカゲルは、窒素ガス吸・脱着法で測定した細孔容積の値が、通常0.3ml/g以上、中でも0.4ml/g以上、更には0.6ml/g以上、また、通常3ml/g以下、中でも2.5ml/g以下、更には2.0ml/g以下の範囲であることが好ましい。細孔容積がこの範囲に存在するシリカゲルを用いることにより、本発明の素材に高い吸収・放出性能を付与することが可能となる。シリカゲルの細孔容積は、吸着等温線の相対圧0.98における窒素ガスの吸着量から求めることができる。
また、本発明のシリカゲルは、そのBET比表面積の値が、通常100m2/g以上、中でも200m2/g以上、更には300m2/g以上、特に350m2/g以上、また、通常1000m2/g以下、中でも900m2/g以下、更には800m2/g以下、特に700m2/g以下の範囲であることが好ましい。この様に大きな比表面積を有するシリカゲルを用いることで、本発明の素材に高い吸収・放出性能を付与することが可能となる。具体的には、例えば各種の物質の吸着性能を高めることができる。シリカゲルの比表面積の値は、窒素ガス吸脱着によるBET法で測定することができる。
また、本発明のシリカゲルは、窒素ガス吸脱着法で測定した等温脱着曲線から、E.P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73,373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線、即ち、細孔直径d(nm)に対して微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd);Vは窒素ガス吸着容積)をプロットした図上での最頻細孔径(Dmax)の値が、通常2nm以上、また、通常50nm以下、中でも30nm以下であることが好ましい。最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも小さいと、シリカゲル内の空間が小さくなるため、吸収・放出性能が低下する虞がある。また、最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも大きいと、シリカゲルの強度が弱くなり、細孔構造が経時的に壊れ易くなる上に、後述するバインダ成分が細孔内に浸入し易くなるため、吸収・放出性能が低下する虞がある。但し、好適な最頻細孔径(Dmax)は素材の目的・用途によって異なるので、素材の目的・用途に応じて様々な最頻細孔径(Dmax)を有するシリカゲルを使い分けることが望ましい。
更に、本発明のシリカゲルは、上記の最頻細孔径(Dmax)の値の±20%の範囲内の径を有する細孔の総容積が、全細孔容積の通常50%以上、中でも60%以上、更には70%以上の範囲であることが好ましい。このことは、シリカゲルが有する細孔の径が、最頻細孔径(Dmax)付近で揃っていること、つまり細孔径の分布が極めて狭い(シャープである)ことを意味する。なお、この比の上限値は特に制限されないが、通常は90%以下である。一般に、シリカゲルに部分的にもろい部分が生じると、その部分の細孔構造が壊れ易くなるが、上記のように細孔径の分布が小さければ、シリカゲルの構造は均一なものとなり、シリカゲルの強度にバラツキが生じ難くなるため、部分的にもろい部分が生じることを防止することができる。よって、細孔径の分布が上記範囲にあるシリカゲルを用いることで、素材全体が高い耐久性を発揮するとともに、後述する様に、特定の樹脂サイズを有するバインダ成分が細孔に浸入するのを、精度よく制御することが可能となる。また、シリカゲルの細孔径の分布がシャープだと、調湿性、吸湿発熱性、徐放性等の機能が高まるため、これを含有する本発明の素材も、高い調湿性、吸湿発熱性、徐放性等の機能を発揮することになる。
かかる特徴に関連して、本発明のシリカゲルは、上記のBJH法により算出された最頻細孔径(Dmax)における微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が、通常2ml/g以上、中でも3ml/g以上、更には5ml/g以上、また、通常40ml/g以下、中でも30ml/g以下、更には25ml/g以下の範囲であることが好ましい(なお、上式において、dは細孔直径(nm)を表わし、Vは窒素ガス吸着容積を表わす)。微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が前記範囲に含まれるものは、径が最頻細孔径(Dmax)の付近に揃っている細孔の絶対量が極めて多いものと言える。
また、本発明のシリカゲルは、以上の細孔構造の特徴に加えて、その三次元構造を見るに、非結晶質であること、即ち、結晶性構造が認められないことが好ましい。このことは、本発明のシリカゲルをX線回折で分析した場合に、結晶性ピークが実質的に認められないことを意味する。なお、本明細書において非結晶質でないシリカゲルとは、X線回折パターンで6オングストローム(Å Units d-spacing)を越えた位置に、少なくとも一つの結晶構造のピークを示すものを指す。非結晶質のシリカゲルは、結晶性のシリカゲルに較べて、極めて生産性に優れている。
更に、本発明のシリカゲルの構造に関しては、固体Si−NMR測定による分析でも特徴ある結果が得られる。即ち、固体Si−NMR測定では、本発明のシリカゲルの、−OSiが3個結合したSi(Q3)と−OSiが4個結合したSi(Q4)とのモル比を示すQ4/Q3の値が、通常1.2以上、中でも1.4以上の範囲であることが好ましい。なお、上限値は特に制限されないが、通常は10以下である。一般に、この値が高い程、シリカゲルの熱安定性が高いことが知られている。つまり、本発明のシリカゲルは熱によって構造が壊れる虞が小さいので、これを含む本発明の素材は長期間にわたって安定して使用することが可能となる。これに対して、結晶性のミセルテンプレートシリカの中には、Q4/Q3の値が1.2を下回るものがあり、熱安定性、特に水熱安定性などが低い。なお、Q4/Q3の値は、固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
また、本発明のシリカゲルは、骨格を構成するケイ素を除いた金属元素(金属不純物)の合計の含有率が、通常500ppm以下、中でも100ppm以下、更には10ppm以下と、非常に低く抑えられ、極めて高純度であることが好ましい。なお、本明細書において「ppm」とは、重量に対する割合を表わす。この様に、シリカゲル中の金属不純物の含有率を抑えることで、金属不純物による好ましくない影響を抑制し、シリカゲルに高い耐久性、耐熱性、耐水性などの優れた性質を発現させることができる。また、金属不純物が少ないシリカゲルを用いることにより、素材中でバインダ成分と金属不純物とが接触して光劣化、熱劣化、経時劣化等を起こすのを抑制することができ、長期にわたって安定して素材を使用することが可能となる。シリカゲル中の金属不純物含有率は、後述する実施例で用いたICP発光分析法やフレーム炎光法に代表される、各種の元素分析法によって求めることができる。
更に、本発明のシリカゲルは、水中での加熱処理(耐水熱試験)を施されても、細孔特性の変化が少ないことが、その特徴の一つとして挙げられる。耐水熱試験後におけるシリカゲルの細孔特性の変化は、例えば比表面積、細孔容積、細孔径分布などの多孔性に関する物性の変化として観察される。具体的に、本発明のシリカゲルは、後述する一定の条件で耐水熱試験を実施した場合に、試験前の比表面積に対する試験後の比表面積の比率(比表面積残存率)が、通常20%以上、中でも35%以上、特に50%以上の範囲であることが好ましい。この様な特性を有するシリカゲルは、長時間の厳しい使用条件下においても、多孔性の特徴が失われないので好ましい。
更に、後述する方法で製造することにより、本発明のシリカゲルは、この耐水熱試験の後においても、細孔径分布がシャープであるという特性の劣化が極めて少なく、且つ、細孔容積の変化が極めて少ないか、或いは細孔容積が増加するという、従来のシリカゲルにはない特徴を有することになる。
なお、本発明における「耐水熱試験」とは、密閉系内においてシリカゲルを特定温度(200℃)の水と一定時間(6時間)接触させることをいう。シリカゲルの全てが水中に存在するのであれば、密閉系内が全て水で満たされていても、また、系内の一部が加圧下の気相部を有し、この気相部に水蒸気があってもよい。後者の場合、気相部の圧力は通常60000hPa以上、中でも63000hPa以上とするのが好ましい。なお、特定温度の誤差は通常±5℃以内、中でも±3℃以内、更には±1℃以内とするのが好ましい。
本発明のシリカゲルの粒子径は、通常0.1μm以上、中でも0.5μm以上、更には1μm以上、また、通常300μm以下、中でも250μm以下、更には200μm以下の範囲とするのが好ましい。シリカゲルの粒子径をこの範囲内とすることにより、シリカゲルを本発明の素材に用いた場合に、均一に分散させることが容易になる。
以上説明した特徴を有する本発明のシリカゲル製造法は特に制限されず、公知の任意の方法によって製造することができる。シリカゲルの製造によく用いられる方法の例としては、次のような方法が挙げられる。
i.水ガラスを硫酸等の酸により中和してからゲル化する方法。
ii.アルコキシシランを加水分解してからゲル化する方法。
iii.アルコキシシラン又は水ガラスを原料とし、界面活性剤を有機テンプレートとして細孔形成を行なう方法(いわゆる、ミセルテンプレートシリカ)。
本発明のシリカゲルを製造する方法は、上述した様に特に制限されるものではないが、中でも、シリカヒドロゲルを水熱処理し、得られたスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下とした後、これを乾燥するという方法が好適である。具体的には、原料のシリコンアルコキシドを加水分解し、得られたシリカヒドロゲルを、好ましくは実質的に熟成することなく水熱処理し、得られたシリカスラリー中の水分を除去するという方法である。なお、水熱処理後に親水性有機溶媒と接触させる工程を含んでいても良い。以下、この製造法(以下適宜「本発明のシリカゲル製造法」等と略称する。)
原料となるシリカヒドロゲルの製造法は任意であり、例えば珪酸アルカリ塩を加水分解して得られるシリカヒドロゲル、又はシリコンアルコキシドを加水分解して得られるシリカヒドロゲルが挙げられる。中でも、シリコンアルコキシドを加水分解して得られるシリカヒドロゲルは、その原料であるシリコンアルコキシドの高純度化が可能であり、シリカヒドロゲルへの不純物の混入を容易に防止できるので好ましい。
原料として使用可能なシリコンアルコキシドの具体例としては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリ又はテトラアルコキシシラン或いはそれらのオリゴマーが挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びそれらのオリゴマー、特にテトラメトキシシランやそのオリゴマーを用いると、良好な細孔特性を有するシリカゲルが得られるので好ましい。その主な理由としては、シリコンアルコキシドは蒸留により容易に精製し、高純度品が得られるので、高純度のシリカゲルの原料として好適であることが挙げられる。シリコンアルコキシド中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属に属する金属元素(金属不純物)の総含有量は、通常100ppm以下、中でも50ppm以下、更には10ppm以下、特に1ppm以下の範囲であることが好ましい。これらの金属不純物の含有率は、上述したシリカゲル中の金属不純物含有率の測定法と同じ方法で測定できる。
本発明のシリカゲル製造法においては、まず、加水分解・縮合工程において、シリコンアルコキシドを触媒の不存在下で加水分解すると共に、得られたシリカヒドロゾルを縮合してシリカヒドロゲルを形成する。
シリコンアルコキシドの加水分解は、シリコンアルコキシド1モルに対して、通常2モル倍以上、好ましくは3モル倍以上、特に好ましくは4モル倍以上、また、通常20モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、特に好ましくは8モル倍以下の水を用いて行なう。シリコンアルコキシドの加水分解により、シリカのヒドロゲルとアルコールとが生成し、生成したシリカヒドロゾルは逐次縮合してシリカヒドロゲルとなる。
加水分解時の温度は、通常室温以上、100℃以下であるが、加圧下で液相を維持することで、より高い温度で行なうことも可能である。加水分解に要する反応時間は反応液組成(シリコンアルコキシドの種類や、水とのモル比)並びに反応温度に依存し、ゲル化するまでの時間が異なるので、一概には規定されない。本発明のシリカゲルのように細孔特性に優れたシリカを得る為には、この反応時間を、ヒドロゲルの破壊応力が6MPaを越えない時間とすることが好ましい。
なお、この加水分解反応系に、触媒として、酸、アルカリ、塩類などを共存させることで加水分解を促進させることができる。しかしながら、かかる触媒の使用は、後述のように、生成したヒドロゲルの熟成を引き起こすことになるので、本発明のシリカゲル製造法においてはあまり好ましいことではない。
上述したシリコンアルコキシドの加水分解に際しては、攪拌を充分に行なうことが重要となる。例えば、回転軸に攪拌翼を備えた攪拌装置を用いた場合、その攪拌速度(回転軸の回転数)としては、攪拌翼の形状・枚数・液との接触面積等にもよるが、通常30rpm以上、好ましくは50rpm以上である。
また、この攪拌速度は、一般的に速過ぎると、槽内で生じた飛沫が各種のガスラインを閉塞させたり、また反応器内壁に付着して熱伝導を悪化させ、物性制御に重要な温度管理に影響を及ぼしたりする場合がある。更に、この内壁の付着物が剥離し、製品に混入して 品質を悪化させる場合もある。この様な理由から、攪拌速度は2000rpm以下、中でも1000rpm以下であることが好ましい。
本発明のシリカゲル製造法において、分液している二液相(水相、及びシリコンアルコキシド相)の攪拌方法は、反応を促進させる方法であれば任意の攪拌方法を用いることができる。中でも、この二液相をより混合させるような装置としては、例えば以下の(A)、(B)が挙げられる。
(A):回転軸が液面に対し垂直又は僅かに角度を持って挿入され、上下に液の流動が生じる攪拌翼を有する装置。
(B):回転軸方向を二液相の界面と略平行に設け、二液相間に攪拌を生じさせる攪拌翼を有する攪拌装置。
上述の(A)、(B)等の装置を用いた際の攪拌翼の回転速度は、攪拌翼の周速度(攪拌翼先端速度)で、通常0.05m/s以上、中でも0.1m/s以上、また、通常10m/s以下、中でも5m/s以下、更には3m/s以下の範囲内とすることが好ましい。
攪拌翼の形状や長さ等は任意であり、攪拌翼としては例えばプロペラ型、平羽根型、角度付平羽根型、ピッチ付平羽根型、平羽根ディスクタービン型、湾曲羽根型、ファウドラー型、ブルマージン型等が挙げられる。
翼の幅、枚数、傾斜角等は反応器の形状、大きさ、目的とする攪拌動力に応じて適宜選定すればよい。例えば反応器の槽内径(回転軸方向に対して垂直面を形成する液相面の最長径)に対する翼幅(回転軸方向の翼の長さ)の比率(b/D)が0.05〜0.2、傾斜角(θ)90゜±10゜、翼枚数3〜10枚の攪拌装置が好適な例として挙げられる。
中でも、上述の回転軸を反応容器内の液面よりも上に設け、この回転軸から伸ばした軸の先端部分に攪拌翼を設ける構造が、攪拌効率及び設備メンテナンスの観点から好適に使用される。
上記のシリコンアルコキシドの加水分解反応では、シリコンアルコキシドが加水分解してシリカヒドロゾルが生成するが、引き続いて該シリカヒドロゾルの縮合反応が起こり、反応液の粘度が上昇し、最終的にゲル化してシリカヒドロゲルとなる。
次いで、本発明のシリカゲル製造法では、物性調節工程として、上記の加水分解により生成したシリカヒドロゲルの硬さが上昇しないように、実質的に熟成することなく、シリカヒドロゲルの水熱処理を行なう。シリコンアルコキシドを加水分解すると、軟弱なシリカヒドロゲルが生成する。なお、このヒドロゲルの物性を安定させるべく、熟成又は乾燥させ、次いで水熱処理を施すという方法では、本発明のシリカゲルを製造することは通常は困難である。
上記にある、加水分解により生成したシリカヒドロゲルを、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうということは、シリカヒドロゲルが生成した直後の軟弱な状態が維持されたままで、次の水熱処理に供するようにするということを意味する。具体的には、シリカヒドロゲルが生成した時点から、通常10時間以内、中でも8時間以内、更には6時間以内、特に4時間以内に、シリカヒドロゲルを水熱処理することが好ましい。
また、工業用プラント等においては、大量に生成したシリカヒドロゲルを一旦サイロ等に貯蔵し、その後水熱処理を行なう場合が考えられる。この様な場合、シリカヒドロゲルは、シリカヒドロゲルが生成してから水熱処理に供されるまでの時間、いわゆる放置時間が、上述の範囲を超える場合が考えられる。この様な場合には、熟成が実質的に生じないように、サイロ内での静置中に、例えばシリカヒドロゲル中の液体成分が乾燥しないようにすればよい。具体的には、例えばサイロ内を密閉したり、湿度を調節したりすればよい。また、水やその他の溶媒にシリカヒドロゲルを浸した状態で、シリカヒドロゲルを静置してもよい。
静置の際の温度はできるだけ低くすることが好ましく、例えば50℃以下、中でも35℃以下、特に30℃以下で静置することが好ましい。また、熟成が実質的に生じないようにする別の方法としては、シリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御してシリカヒドロゲルを調製する方法が挙げられる。
シリカヒドロゲルを実質的に熟成せずに水熱処理することにより奏する効果と、この効果が得られる理由とを考察すると、以下の通りである。
まず、シリカヒドロゲルを熟成させると、−Si−O−Si−結合によるマクロ的網目構造が、シリカヒドロゲル全体に形成されると考えられる。この網目構造がシリカヒドロゲル全体に有ることで、水熱処理の際、この網目構造が障害となり、メソポーラスの形成が困難となることが考えられる。また、シリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように予め原料組成を制御して得られたシリカヒドロゲルは、静置中に生ずるシリカヒドロゲルにおける架橋の進行を抑制できる。そのためシリカヒドロゲルが熟成しないと考えられる。よって、本発明のシリカゲル製造法では、シリカヒドロゲルを熟成することなく、水熱処理を行なうことが重要である。
シリコンアルコキシドの加水分解反応系に酸、アルカリ、塩類等を添加すること、又は該加水分解反応の温度を厳しくし過ぎることなどは、ヒドロゲルの熟成を進行させるという点からも好ましくない。また、加水分解後の後処理における水洗、乾燥、放置などにおいて、必要以上に温度や時間をかけるべきではない。
更に、シリコンアルコキシドの加水分解で得られたシリカヒドロゲルは、水熱処理を行なうまえに、これを平均粒径10mm以下、中でも5mm以下、更には1mm以下、特に0.5mm以下の範囲となるよう、粉砕処理等を施すことが好ましい。
上述の通り、本発明のシリカゲル製造法では、シリカヒドロゲルの生成の直後に、直ちにこれを水熱処理する方法が重要である。但し、本発明のシリカゲル製造法においては、水熱処理するシリカヒドロゲルが熟成していなければよいので、例えば暫時低温下で静置した後に水熱処理するなど、必ずしもシリカヒドロゲルの生成直後、直ちにこれを水熱処理することを必要としない。
このように、シリカヒドロゲルの生成の直後、直ちにこれを水熱処理しない場合には、例えばシリカヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認してから水熱処理を行なえばよい。ヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認する手段は任意であるが、例えば、後述の実施例に示すような方法で測定したヒドロゲルの硬度を参考にする方法が挙げられる。即ち、先述したとおり、この破壊応力が通常6MPa以下の柔らかい状態のヒドロゲルを水熱処理することで、本発明で規定する物性範囲のシリカゲルを得ることができる。この破壊応力は、中でも3MPa以下、更には2MPa以下であることが好ましい。
この水熱処理の条件としては、水が液体、気体の何れの状態であってもよいが、中でも液体の状態にある水を使い、これをシリカヒドロゲルに加えてスラリー状として、水熱処理を行なうことが好ましい。水熱処理においては、まず、処理するシリカヒドロゲルに、シリカヒドロゲルの重量に対して通常0.1重量倍以上、好ましくは0.5重量倍以上、特に好ましくは1重量倍以上、また、通常10重量倍以下、好ましくは5重量倍以下、特に好ましくは3重量倍以下の水を加えてスラリー状とする。そしてこのスラリーを、通常40℃以上、好ましくは100℃以上、中でも好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の温度で、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは10時間以下にわたって水熱処理を行なう。水熱処理の温度が低すぎると、細孔分布がシャープになり難く、また、細孔容積を大きくすることも困難となる場合がある。
なお、水熱処理に使用される水には、溶媒が含まれていてもよい。溶媒として、具体的には、例えば、低級アルコール類であるメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。この溶媒は、例えばアルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、その原料であるアルコキシシランに由来するアルコール類であってもよい。
熱処理に用いる水における、この様な溶媒の含有量は任意だが、少ない方が好ましい。例えば、上述した様な、アルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、このシリカヒドロゲルを水洗し、水洗されたものを水熱反応に供することにより、150℃程度まで温度を下げて水熱処理を行なった場合でも、細孔特性に優れ且つ細孔容積の大きいシリカを製造することができる。また、他の溶媒を含んだ水を用いて水熱処理を行なっても、200℃程度の温度での水熱処理を行なうことで、本発明のシリカゲルを容易に得ることができる。
また、メンブランリアクターなどを作る目的で、粒子、基板、管などの基体上に、シリカゲルを膜状又は層状に形成した材料とする場合にも、この水熱処理による方法は適用される。なお、加水分解反応の反応器を用い、続けて温度条件変更により水熱処理を行なうことも可能であるが、加水分解反応とその後の水熱処理では最適条件が通常は異なっているため、この様に水を新たに加えないで行なう方法では、本発明のシリカゲルを得ることは一般的には難しい。
以上の水熱処理の条件において、温度を高くすると、得られるシリカゲルの径、細孔容積が大きくなる傾向がある。水熱処理温度としては、100℃〜200℃の範囲とすることが好ましい。また、処理時間とともに、得られるシリカゲルの比表面積は、一度極大に達した後、緩やかに減少する傾向がある。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択する必要があるが、水熱処理は、シリカゲルの物性を変化させる目的なので、通常、前記の加水分解の反応条件より高温条件とすることが好ましい。
なお、ミクロ構造的な均質性に優れるシリカゲルを製造するためには、水熱処理の際に、反応系内の温度が5時間以内に目的温度に達する様に、速い昇温速度条件とすることが好ましい。具体的には、槽に充填して処理される場合、昇温開始から目標温度到達までの平均昇温速度として、通常0.1℃/分以上、中でも0.2℃/分以上、また、通常100℃/分以下、中でも30℃/分以下、更には10℃/分以下の範囲の値を採用するのが好ましい。
熱交換器などを利用した昇温方法や、あらかじめ作っておいた熱水を仕込む昇温方法な ども、昇温速度を短縮することができて好ましい。また、昇温速度が上記範囲であれば、段階的に昇温を行なってもよい。反応系内の温度が目的温度に達するまでに長時間を要した場合には、昇温中にシリカヒドロゲルの熟成が進み、ミクロ構造的な均質性が低下する虞がある。
上記の目的温度に達するまでの昇温時間は、好ましくは4時間以内、更に好ましくは3時間以内である。昇温時間の短縮化のため、水熱処理に使用する水を予熱してもよい。
水熱処理の温度、時間を上記範囲外に設定すると、本発明のシリカゲルを得ることが困難となる虞がある。例えば、水熱処理の温度が高過ぎると、シリカゲルの細孔径、細孔容積が大きくなり過ぎ、また、細孔分布も広がってしまう。逆に、水熱処理の温度が低過ぎると、生成するシリカゲルは架橋度が低く、熱安定性に乏しくなり、細孔分布にピークが発現しなくなったり、前述した固体Si−NMRにおけるQ4/Q3値が極端に小さくなったりする。
なお、水熱処理をアンモニア水中で行なうと、純水中で行なう場合よりも低温で同様の効果が得られる。また、アンモニア水中で水熱処理すると、アンモニアを含まない水を用いた水熱処理と比較して、最終的に得られるシリカは一般に疎水性となる。この際、水熱処理の温度を、通常30℃以上、中でも40℃以上、また、通常250℃以下、中でも200℃以下という比較的高温の範囲とすると、特に疎水性が高くなるので好ましい。ここで使用するアンモニア水のアンモニア濃度は、通常0.001重量%以上、中でも0.005重量%以上、また、通常10重量%以下、中でも5重量%以下の範囲とすることが好ましい。
得られたシリカゲルは、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは120℃以下の温度で乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でもよく、且つ、常圧でも減圧下でも乾燥することができる。中でも、真空乾燥を行なうことで、乾燥が迅速に行なえるのみならず、得られるシリカゲルの細孔容積、比表面積が大きくなるので好ましい。
必要に応じ、原料のシリコンアルコキシドに由来する炭素分が含まれている場合には、通常400℃以上、600℃以下で焼成除去することができる。また、表面状態をコントロールするために、最高900℃の温度で焼成することもある。更に、必要に応じて粉砕、分級することで、最終的に目的としていた本発明のシリカゲルを得る。
なお、上記の水熱処理の後に、シリカゲルに含まれる水を親水性有機溶媒と置換し、乾燥することが好ましい。これによって、乾燥工程におけるシリカゲルの収縮を抑制し、シリカゲルの細孔容積を大きく維持でき、細孔特性に優れ、且つ細孔容積の大きいシリカゲルを得ることができる。この理由は定かではないが、以下のような現象によるものと考えられる。
水熱処理後のシリカゲルスラリー中の液体成分の多くは水である。この水は、シリカ成分と互いに強く相互作用しあっている為に、シリカゲルから完全に水を除去するには大きなエネルギーが必要と考える。
多量の水分が存在する条件下で乾燥過程(例えば加熱乾燥)を行なうと、熱エネルギーを受けた水が未反応のシラノール基と反応し、シリカゲルの構造が変化する。この構造変化のうち最も顕著な変化はシリカゲル骨格の縮合であり、縮合によってシリカゲルが局所的に高密度化することが考えられる。シリカゲル骨格は3次元的構造を有するので、骨格の局所的な縮合(シリカゲル骨格の高密度化)はシリカゲル骨格により構成されているシリカ粒子全体の細孔特性に影響を及ぼし、結果的に粒子が収縮して、細孔容積や細孔径が収縮すると考えられる。
そこで、例えばシリカゲルスラリー中の(水を多量に含む)液体成分を親水性有機溶媒で置換することで、このシリカゲルスラリー中の水を除去し、上述したようなシリカゲルの収縮を抑えることが可能となる。
ここで用いる親水性有機溶媒としては、上述した考えに基づき、水を多く溶解するものであればよい。中でも、分子内分極の大きいものが好ましく、更には、比誘電率が15以上のものが好ましい。
ここで説明した本発明のシリカゲル製造法においては、純度の高いシリカゲルを得るために、親水性有機溶媒にて水を除去した後の乾燥工程で、この親水性有機溶媒を除去する必要がある。よって、親水性有機溶媒としては、乾燥(例えば加熱乾燥や真空・減圧乾燥等)により容易に除去可能な低沸点のものが好ましい。具体的に、親水性有機溶媒の沸点は通常150℃以下、中でも120℃以下、特に100℃以下の範囲であることが好ましい。
具体的に、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、アルデヒド類、エーテル類等が挙げられる。中でも、アルコール類やケトン類が好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類やアセトンが好ましい。本発明では、これら例示の親水性有機溶媒のうち、一種を単独で使用しても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び任意の割合で混合して使用してもよい。
なお、水の除去が可能であれば、使用する親水性有機溶媒中に水が含まれていてもよい。もっとも、親水性有機溶媒における水分含有量は当然少ない方が好ましく、具体的には、通常20重量%以下、中でも15重量%以下、更には10重量%以下、特に5重量%以下の範囲であることが好ましい。
上述の親水性有機溶媒による置換処理時の温度及び圧力は、いずれも特に制限されない。具体的に、処理温度は通常0℃以上、中でも10℃以上、また、通常100℃以下、中でも60℃以下の範囲とすることが好ましい。処理時の圧力は常圧、加圧、減圧のいずれでもよい。
シリカゲルスラリーと接触させる親水性有機溶媒の量は任意である。但し、用いる親水性有機溶媒の量が少な過ぎると水との置換進行速度が充分でなく、逆に多過ぎると水との置換効率は高まるが、親水性有機溶媒の使用量増加に見合う効果が頭打ちとなり、経済的に好ましくない。よって、用いる親水性有機溶媒の量は、シリカゲルの嵩体積に対して通常0.5容量倍以上、10容量倍以下の範囲である。この親水性有機溶媒による置換操作は、複数回繰り返して行なうと、水の置換がより確実となるので好ましい。
親水性有機溶媒とシリカゲルスラリーとの接触方法は任意であり、例えば攪拌槽でシリカゲルスラリーを攪拌しながら親水性有機溶媒を添加する方法や、シリカスラリーから濾別したシリカを充填塔に詰めて、この充填塔に親水性有機溶媒を通液する方法、また、親水性有機溶媒中にシリカを入れて浸漬し、静置する方法などが挙げられる。
親水性有機溶媒による置換操作の終了は、シリカゲルスラリーの液体成分中の水分測定を行なって決定すればよい。例えば、定期的にシリカゲルスラリーをサンプリングして水分測定を行ない、水分含有量が通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下、更に好ましくは3重量%以下となった点を終点とすればよい。水分の測定方法は任意であり、例えばカールフィッシャー法が挙げられる。
親水性有機溶媒による置換操作の後、得られたシリカと親水性有機溶媒とを分離し、乾燥することで、本発明のシリカゲルを製造することができる。この際の分離法としては、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカゲル粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
〔I−4.カップリング剤〕
本発明の素材に用いられるカップリング剤は、基材及び機能性粒子の双方と結合し得る物質であれば、その種類は特に制限されず、併用する基材及び機能性粒子の種類に応じて、任意のものを選択して使用することができる。特に、基材が有する官能基と共有結合、配位結合及び/又は水素結合を形成し得る官能基と、機能性粒子が有する官能基と共有結合、配位結合及び/又は水素結合を形成し得る官能基とを共に備えたカップリング剤が好ましい。
カップリング剤の例としては、チタン系カップリング剤、シラン系カップリング剤等が挙げられるが、汎用性の観点からは、シラン系カップリング剤が好ましい。特に、上述のように機能性粒子としてシリカゲルを用いる場合には、シリカゲルが有するOH基とシラン系カップリング剤が有する加水分解性基/高反応性の非加水分解性基との間に、強固な共有結合/水素結合が形成されるので好ましい。
シラン系カップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、4−クロロフェニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどが挙げられる。
特に、シリカ、アルミナからなる無機機能性粒子を、水酸基を有するセルロース系繊維などの基材に固定化する場合には、エポキシ基を含有するシラン系カップリング剤を用いることが最も好ましい。
シラン系カップリング剤として更に好ましくは、非加水分解性基の中に高反応性官能基を有しているものである。上述のように加水分解性基がシリカゲル等の機能性粒子と結合する一方で、これらの高反応性の非加水分解性基が基材と反応して結合を形成することにより、基材に対して機能性粒子をより強固に添着させることが可能となる。高反応性の非加水分解性基の例としては、エポキシ基、アミノ基、ビニル基等が挙げられる。中でも、基材としてその表面に水酸基を有する素材、例えばセルロース系繊維等を用いる場合には、これらの基材の水酸基と結合を形成しやすいという理由から、エポキシ基を有するシラン系カップリング剤が好ましい。
特に、シラン系カップリング剤としては、以下の一般式(I)で表わされる構造の化合物、並びに、この化合物をモノマー化合物として、これらが複数縮合して得られるオリゴマー化合物が好ましい。
Xm−Si−Yn (I)
上記一般式(I)において、Xは加水分解性基を表わし、Yは非加水分解性基を表わす。また、m及びnはそれぞれ独立に、0以上、4以下の自然数を表わす。但し、m+n=4である。m、nが2以上の場合、複数のX、Yは同一であってもよく、互いに異なっていても良い。
Xの加水分解性基の例としては、−ORで表わされる基、−COZで表わされる基(エステル、酸ハライド、酸無水物、アミドなどのカルボン酸から誘導される基)、ハロゲン等が挙げられる。なお、R及びZはそれぞれ独立に任意の有機基たり得るが、アルキル基、アリール基等の炭化水素基が好ましく、中でもアルキル基が好ましい。R及びZの炭素数は特に制限されないが、試薬の入手可能性の点から、通常1〜6の範囲であり、特にアルキル基の場合、好ましくは1〜4の範囲である。これらの炭化水素基は、Xの加水分解性を妨げない範囲において、更に何らかの置換基を有していても良い。Xが−ORで表わされる基の場合、その種類は特に制限されないが、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基やフェニル基、ベンジル基等のアリール基に代表される炭化水素基、又は、アセチル基、アクリル基、メタクリル基などのカルボニル含有基が、好ましい例として挙げられる。また、Xが−COZで表わされる基の場合も、その種類は特に制限されないが、エステル基である(即ち、Zが炭化水素基等である)ことが好ましい。具体例としては、メチルエステル基、エチルエステル基、プロピルエステル基、フェニルエステル基等が挙げられる。一方、Xがハロゲンの場合、その例としては、フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子等が挙げられるが、中でも塩素原子が好ましい。
一方、Yの非加水分解性基の種類は特に制限されないが、少なくとも一つのYは、高反応性の基であることを要する。非加水分解性の高反応性基の例としては、エポキシ基、アミノ基、ビニル基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミド基(アセトアミド基,ベンゼンスルホナミド基等)、スルホン酸基、アルコキシアルキル基(メトキシメチル基,エトキシメチル基、1−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基等)、アリール基、アリーロキシアルキル基、アルキルアリール基、アリーロキシアリール基、スチリル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、ハロゲン置換アルキル基(クロロメチル基、ブロモメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基等)、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、ヘテロ原子(N,O,S等)を含む複素環含有基(例えば、フラン、チオフェン、ピロール、ピラン、チオピラン、ピリジン、環式エーテル,ラクトン,環式イミン,ラクタム等の各種の複素環化合物から誘導される基)などが挙げられる。これら例示の基のうち、炭素原子を含む基については、その炭素数は通常1〜12、好ましくは1〜8の範囲である。中でもエポキシ基、アミノ基、メタクリロキシ基、ビニル基がより好ましい。
また、低反応性の非加水分解性基が、これらの高反応性の非加水分解性基によって置換されて得られる基も、高反応性非加水分解性基として好適に用いることが可能である。非加水分解性基によって置換される低反応性の非加水分解性基の種類は特に制限されないが、アルキル基、アリール基等の炭化水素基(炭化水素鎖中にN,Oなどのヘテロ原子を含んでもよい。)が好ましく、中でもアルキル基が好ましい。炭化水素基の炭素数は特に制限されないが、試薬の入手可能性の点から、通常1〜6の範囲であり、特にアルキル基の場合、好ましくは1〜4の範囲である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
本発明で用いるシラン系カップリング剤は、Yとして上述の高反応性非加水分解性基を有することによって、基材に結合することが可能となる。よって、併用する基材の種類(具体的には、基材がその表面に有する官能基の種類)に応じて、適切な高反応性非加水分解性基を選択することが望まれる。例えば、水酸基を有するセルロース系繊維などの基材を用いる場合、高反応性非加水分解性基としてはエポキシ基、又はエポキシ基によって置換された炭化水素基等が好ましい。
一方、Yが高反応性基以外の基である場合、その種類は特に規定されないが、例としてはアルキル基、アリール基等の炭化水素基(炭化水素鎖中にN,Oなどのヘテロ原子を含んでもよい。)が好ましく、中でもアルキル基が好ましい。炭化水素基の炭素数は特に制限されないが、試薬の入手可能性の点から、通常1〜6の範囲であり、特にアルキル基の場合、好ましくは1〜4の範囲である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。
また、上記一般式(I)の化合物(モノマー化合物)が縮合してオリゴマーを形成する場合、その縮合数(縮合するモノマーの数)は制限されないが、通常2以上、また、通常500以下、好ましくは100以下、更に好ましくは50以下の範囲である。また、縮合するモノマー化合物は一種類でも二種類以上でも良く、二種類以上の場合にはそのモノマー化合物の組み合わせは(縮合が可能である限り)得に制限されない。また、縮合反応はモノマー化合物の構造によって異なるが、例えば加水分解反応による縮合などが挙げられる。
一方、非加水分解性基を有していないテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のシリケートや、その部分加水分解・縮合物であり、シロキサン骨格を持つシリケートオリゴマーも、シラン系カップリング剤として用いることができる。シリケートオリゴマーは、加水分解・縮合の条件を調整することにより、縮合度(平均分子量)の異なるものを作製することが可能であるが、中でも重量平均分子量が150以上、3000以下程度のものが好ましく用いられる。また、そのシリケートオリゴマーをアルコール中で更に加水分解し縮合させた、シラノール基を大量に有するシリケートを用いてもよい。
なお、機能性粒子の大きさがサブミクロン〜数μmであるのに対し、カップリング剤の大きさは、加水分解・縮合が進んでいない状態では、カップリング剤のモノマーの分子サイズにほぼ等しくなり、両者のサイズの差は大きい。このような機能性粒子を基材に強固に添着する際、カップリング剤の粒子の大きさが重要となる。カップリング剤のモノマー分子間の加水分解・縮合が進行するほど、カップリング剤の粒子サイズは大きくなる。具体的に、カップリング剤のサイズはモノマーの分子サイズ〜100nmの範囲であることが好ましく、モノマーの分子サイズであることが最も好ましい。特に、後述する様に前処理として予め基材にカップリング剤を作用させてから、その後に機能性粒子を添着させる方法で本発明の素材を製造する場合には、カップリング剤による前処理後の基材表面全体をカップリング剤が分子レベルで均一に覆っていることが好ましい。なお、カップリング剤の粒子サイズ(縮合の進行の程度)を測定する手法としては、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)により分子量を測定してそこから換算する手法や、X線小角散乱によって測定する手法等が挙げられる。
〔I−5.バインダ〕
本発明の素材においてバインダの使用は必須ではないが、機能性粒子を基材により強固に添着するためには、バインダを用いることが好ましい。バインダの種類に特に制限は無く、任意のものを用いることができる。通常は素材の用途や目的、併用する基材、機能性粒子、カップリング剤等に応じて、適切なバインダを適宜選択すればよい。
但し、機能性粒子としてシリカゲルの様な多孔質物質(以下適宜「多孔質機能性粒子」等と略称する。)を用いる場合には、多孔質機能性粒子の基材への添着時に、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔内を埋めてしまわないことが好ましい。多孔質機能性粒子の細孔径としては、最頻細孔径が通常2nm以上、50nm以下の範囲ものを用いることが好ましいので、そのことを勘案すると、細孔内を埋めてしまわないという目的を適えるためには、使用するバインダ成分が以下の(α)及び(β)のうち少なくともいずれかの条件を満たすことが求められる。
・条件(α):分子量が通常1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上、更に好ましくは3万5千以上、また、通常100万以下、好ましくは80万以下、より好ましくは50万以下のバインダ成分を用いる。バインダ成分の分子量を1万以上とすることにより、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔を埋めることを防止でき、また、分子量を100万以下とすることにより、バインダ成分と多孔質機能性粒子を溶剤と共に塗料とした場合に粘性が高くなり過ぎて取扱い性が低下するのを防止することができる。
また、バインダ成分が自由に動ける状態にある場合に、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔内に浸入しないようにするためには、「(バインダ成分の分子量)/(多孔質機能性粒子の最頻細孔径(Dmax))」で表わされる、バインダ成分の分子量と多孔質機能性粒子の最頻細孔径(Dmax)(ここでの単位は「nm」とする。)との比の値は、通常2百以上、中でも2千5百以上、更には3千以上、特に3万5千以上、また、通常50万以下、中でも10万以下、更には5万以下であることが望ましい。これによっても、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔を埋めることを防止でき、また、バインダ成分と多孔質機能性粒子を溶剤と共に塗料とした場合に粘性が高くなり過ぎて取扱い性が低下することを防止することができる。
・条件(β):ガラス転移温度Tgが通常−80℃以上、好ましくは−70℃以上、より好ましくは−50℃以上、更に好ましくは−30℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは15℃以下の範囲にあるバインダ成分を用いる。この条件も、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔を埋めてしまうのを防止する観点から、重要な因子である。
本発明に使用されるバインダ成分は、上述の条件(α)と条件(β)のうち、いずれか一方のみを満たしていてもよく、両方を満たしていても良い。なお、後述する様にバインダ成分と多孔質機能性粒子とを溶剤に混合して塗料として使用する際において、溶剤として有機溶剤を用いる場合には条件(α)を満たすことが好ましく、水性溶剤を用いる場合には条件(β)を満たすことが好ましい。
上述の条件(α)及び/又は条件(β)を満たすバインダ成分を用いることで、バインダ成分が自由に動ける状態にあっても、多孔質機能性粒子の細孔内に浸入するのを防ぐことができる。その理由は定かではないが、以下のように推察される。
バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔内に浸入するのを防ぐためには、例えば、バインダ成分の径を多孔質機能性粒子の細孔の径よりも大きくする等の手法によって、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔内に浸入できないようにすれば良い。ここで、バインダ成分の径とは、一般にはバインダ成分の分子の径をいうが、バインダ成分が有機溶剤や水性溶剤等の溶剤に溶解又は分散した状態において、バインダ成分の分子が凝集した粒子(例えば、凝集塊やコロイドなど)となっている場合には、その凝集した粒子の径をバインダ成分の径とみなすことにする。
バインダ成分の径(大きさ)は、バインダ成分の分子量の大きさに関連しており、分子量が大きいバインダ成分ほどその径も大きいことが知られている。よって、多孔質機能性粒子の細孔に浸入しない程度にバインダ成分の径を大きくするためには、例えば、所定の値よりも大きい分子量を有するバインダ成分を選択すれば良いということになる。
条件(α)に規定する、分子量が上記範囲内にあるバインダ成分、又は、多孔質機能性粒子の最頻細孔径(Dmax)に対する分子量の比の値が上記範囲内にあるバインダ成分は、多孔質機能性粒子の細孔に浸入しない程度の大きさの径を有する。よって、条件(α)を満たすバインダ成分を用いることにより、バインダ成分が溶剤内で自由に動ける状態にあっても、多孔質機能性粒子の細孔内に入り込んで細孔を埋めてしまうのを防止することができる。
なお、バインダ成分の分子量は、例えば、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)や、バインダ成分を溶解させた溶液の粘度測定などにより計測することができる。
また、固体状態におけるバインダ成分の径D(nm)は、通常、固体状態のバインダ成分の密度a(g/ml)とバインダ成分の分子量Mとを用いて、下記式(i)により算出することができる。
(数1)
D=(0.003183×M/a)1/3 式(i)
また、溶剤中に溶解又は分散した状態におけるバインダ成分の径は、多角度光散乱検出器(MALS)などを用い、溶剤にレーザ光を照射して得られる光散乱強度から測定することができる。また、透過型電子顕微鏡によりバインダ成分を観察して径を測定する方法、バインダ成分が溶解又は分散している溶剤の濁り度(turbidity)から径を測定する方法、CHDF(Capillary Hydrodynamic Fractionation)法などによっても、バインダ成分の径を測定することができる。
なお、バインダ成分が溶剤中に溶解又は分散している状態でも、バインダ成分の濃度が高い場合には、バインダ成分のポリマー鎖は糸まり状となっており、固体状態の分子径に近い分子径を有していると考えられる。但し、バインダ成分が溶剤に溶解していない状態では、ポリマー鎖が球状に縮まった状態で存在するが、溶剤に溶解した状態では、複数の分子が絡み合ったり、溶剤を吸収して膨潤したりすることにより、分子サイズが大きくなっている場合がある。よって、分子量から算出されるバインダ成分の径がシリカの最頻細孔径(Dmax)より小さくても、溶剤中においてバインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔内に浸入するのを防止できることがある。具体例として、平均分子量が9万5千のアクリル樹脂の場合には、その径(分子サイズ)は6nmとなるが、例えば最頻細孔径(Dmax)が15nmの多孔質機能性粒子の細孔を塞ぐことは無い。
また、溶解した状態のバインダ成分の分子サイズは、バインダ成分と溶剤との溶解度によっても変化する。しかし、いずれの状態においても、バインダ成分の分子量と多孔質機能性粒子の最頻細孔径(Dmax)との比、又は、バインダ成分の分子量が上記範囲内であれば、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔を埋めることを防止することができる。
また、特にバインダ成分が溶剤(特に水性溶剤)中でコロイドとなりエマルジョンが形成されている場合には、エマルジョン中のバインダ成分(コロイド)は、分子が凝集した構造となって界面活性剤(保護コロイド)により安定化し、多孔質機能性粒子の細孔に浸入しない程度に大きくなっている。即ち、バインダ成分の径(ここでは、エマルジョン中のバインダ成分のコロイドの径)が、多孔質機能性粒子の細孔の径よりも大きくなっているのである。
また、仮にバインダ成分の分子量が上述した範囲に収まっていない場合でも、バインダ成分の分子量に関わらず、バインダ成分のコロイドの大きさは通常、多孔質機能性粒子の細孔に浸入しない程度に大きくなる。よって、バインダ成分のコロイドが安定している限りは、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔に浸入することを防止することができる。
ところで、エマルジョン中におけるバインダ成分のコロイドの安定性は、ガラス転移温度Tgに関係している。したがって、コロイドが安定するガラス転移温度Tgを有するバインダ成分を用いることで、溶剤を用いたエマルジョン中で本発明の多孔質機能性粒子の細孔にバインダ成分が浸入することを防ぐことができる。具体的には、ガラス転移温度Tgが上記範囲内にあるバインダ成分を用いれば、溶剤とともにエマルジョンとなった状態において、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔に浸入することを防止することができる。
更に、バインダ成分のガラス転移温度Tgを上記範囲の下限よりも大きい値とすることにより、バインダ成分に適当な強度を持たせることができるため、本発明の素材とした場合に、吸湿機能の低下や、べた付きなどの物性・取扱い性が悪くなる虞がなく、また、多孔質機能性粒子の分散を行ない易くなる。また、ガラス転移温度Tgを上記範囲の上限よりも小さい値とすることにより、バインダ成分が硬くなり過ぎることがなく、本発明の素材とした場合に、機能性粒子が脱離する虞を無くすことができ、また、風合いを良好にすることができる。
なお、エマルジョンは、分散している粒子の径に応じてコロイダルディスパージョン(粒子径10nm〜50nm)、エマルジョン(50nm〜500nm)、サスペンジョン(0.5μm〜10μm)などの分類がある。
以上のように、本発明の素材に用いるバインダ成分においては、その分子量及びガラス転移温度Tgのいずれか一方が上記条件を満たすことが望ましいが、当然、分子量及びガラス転移温度Tgの両方が上記条件を満たすことがより望ましい。
更に、バインダ成分の架橋度が大きい場合にも、バインダ成分の径は大きくなる。したがって、バインダ成分としては高架橋度のものが好ましい。したがって、バインダ成分を架橋する架橋剤を適宜混合することも好ましい。なお、バインダ成分の架橋度は有機溶媒に対する溶解性を調べることで測定することができる。
バインダの具体例としては、ニトロセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロースなどのエステル系セルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどのエーテル系セルロース、ポリアミド系樹脂、塩化ゴム、環化ゴム、ポリ塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン、もしくはアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、アルキド系樹脂、アミノアルキド系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、メラミン・尿素系樹脂、フェノール系樹脂、レゾルシノール系樹脂、フラン系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンツイミダゾール、ポリベンゾチアゾール等の熱硬化性樹脂なども用いられる。
また、油脂、ボイル油、煮あまに油、桐油スタンド油、油性フェノール樹脂、マレイン化油などの加工油脂;乾性油変性フタル酸系樹脂、不乾性油変性フタル酸系樹脂、変性アルキド系樹脂、エポキシ−脂肪酸エステル系樹脂、エポキシ−アルキド系樹脂、油編成ポリウレタン系樹脂などの油あるいは脂肪酸変性フタル酸系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フッ素変性ポリエステル系樹脂、シリコーン変性ポリエステル系樹脂、ウレタン変性ポリエステル系樹脂などのポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、含フッ素系樹脂、無機系樹脂等も好適に用いられる。
更に、スチレンマレイン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシエステル系樹脂、ポリアミン系樹脂などの樹脂のほか、天然ゴム、再生ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ステレオゴム(合成天然ゴム)、エチレンプロピレンゴム、ブロックコポリマーゴム(SBS,SIS,SEBS等)などのゴムも、バインダ成分として使用することができる。
更に、後述するように、バインダ成分と機能性粒子を水性溶剤(親水性の溶剤)と共に混合して塗料とする場合、そのバインダ成分としては、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン、熱反応型ウレタン系樹脂、NBR、SBR、アクリル、イソシアネート系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリアクリル酸系エマルジョン、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、高分子ラテックス等のポリマーを用いることが好ましい。
中でも、基材として繊維や布材を用いる場合には、柔軟性、強度、耐候性、耐摩耗性などの観点から、アクリル系樹脂、アクリルポリウレタン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が好ましく、特に風合いも考慮すると、ポリウレタン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂、シリコーン系樹脂がより好ましく、中でもシリコーン系樹脂が好ましい。
また、粘着性の観点からは、バインダ成分として、高分子ラテックスに含まれる樹脂を用いることが好ましい。高分子ラテックスとしては、合成樹脂ラテックス及びゴムラテックスがある。
合成樹脂ラテックスの具体例としては、ポリ塩化ビニルラテックス、ポリ塩化ビニリデンラテックス、ポリウレタンラテックス、アクリル樹脂ラテックス、ポリ酢酸ビニルラテックス、ポリアクリロニトリルラテックス及びこれらの変成体、共重合体などが挙げられる。したがって、この場合のバインダ成分としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル及びこれらの変性体、共重合体などが挙げられる。
特に好ましいアクリル樹脂ラテックスとしては、(メタ)アクリル酸エステルを主成分 とする重合体エマルジョンがある。その重合体エマルジョン中のバインダ樹脂の主成分となる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどが挙げられる。この主成分と併用して用いられるものとして、共重合可能なエチレン性不飽和単量体があり、単量体としては、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アミド、N−メチロールアクリル酸アミド、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸などが挙げられる。
上記の単量体と併用する場合、主成分となる(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、50重量%以上とするのがよい。また、アクリル樹脂は、乳化重合法により形成したものがよい。例えば窒素置換した反応容器に水、エチレン性不飽和単量体、乳化剤(ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなど)、及びラジカル重合開始剤を添加し、加熱攪拌して所定の温度で重合する。アクリル樹脂の粒子径の制御は、乳化重合時における乳化剤の濃度を調整することにより行なうことができる。
また、ゴムラテックスに含まれるバインダ成分として、具体的には、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレインイソブチルゴム、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリエチレンプロピレンなどが挙げられる。
ブタジエン共重合体としては、ブタジエンを20重量%以上、80重量%以下の比率で含有するとともに、これと共重合可能な不飽和モノマーを20重量%以上、80重量%以下の比率で含有するものが好ましい。不飽和モノマーとしては、メタアクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリル酸アミド、N−メチロールアクリル酸アミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸などが利用できる。
ブタジエン共重合体の共重合組成は、例えば車両用に用いる際のように耐熱性と耐候性を必要とする場合、ブタジエンを20重量%以上、60重量%以下、(メタ)アクリル酸エステルを40重量%以上、80重量%以下、他の不飽和モノマーを0重量%以上、20重量%以下の比率とすることが望ましい。
更に、ガラス転移温度Tgが−80℃〜110℃のバインダ成分としては、例えば、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ブタジエン系樹脂などが挙げられる。また、上記バインダ成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
〔I−6.その他〕
本発明の素材には、これらの成分に加えて、製造上の効率を高めたり、各種の特性を付与したりするために、その他の各種の成分を含有していても良い。これらの成分については後述する。
[II.素材の製造]
本発明の素材を製造する方法は特に制限されないが、通常は、上述の基材、機能性粒子及びカップリング剤、並びに必要に応じて用いられるバインダを混合し、接触させることによって製造される。
基材、機能性粒子、カップリング剤、並びに必要に応じて用いられるバインダを混合する順序や接触させる順序については特に制限は無い。また、これらの成分を全て一度に混合し、接触させてもよく、これらの成分を任意の組み合わせで複数段に分けて混合し、接触させてもよい。但し、本発明においては、機能性粒子をより強固に基材に添着させる目的から、基材に予めカップリング剤を接触させて作用させた後、この基材に更に機能性粒子及びバインダ成分を接触させて作用させるという、段階を踏む製造方法を採用するのが好ましい。以下の記載では、この様に段階を踏む製造方法、即ち、基材にカップリング剤を接触させる工程(前処理工程:第1の工程)と、前処理工程後の基材に対して更に機能性粒子及びバインダ成分を接触させる工程(添着工程:第2の工程)とを少なくとも有する方法(以下適宜「本発明の製造方法」という。)により、本発明の素材を製造する場合について詳しく説明する。
また、本発明の素材を製造する際には、各種の溶剤を併用することも可能である。特に、本発明の製造方法の場合には、カップリング剤を溶剤に溶解又は分散させて塗布液(以下適宜「前処理用塗布液」という。)とするともに、バインダ成分及び機能性粒子についても別の溶剤に溶解又は分散させて塗布液(以下適宜「添着用塗布液」という。また、前処理用塗布液と添着用塗布液とを区別せずに呼ぶときは単に「塗布液」と称する。)とし、これらの塗布液を順次基材に塗布し、又は基材に含浸させることにより、上述の前処理工程及び添着工程を実施することが好ましい。以下の記載では、溶剤を用いて前処理用塗布液及び添着用塗布液を作製し、これらを用いて前処理工程及び添着工程を実施する場合を前提として説明する。
前処理用塗布液と添着用塗布液の作製に用いる溶剤は同一であっても異なっていてもよく、また、何れの溶剤についても、単一種の化合物からなる溶剤であっても、二種以上の化合物を任意の組み合わせ及び組成で混合した溶剤であってもよい。
溶剤を用いた場合、塗布・含浸後に溶剤を除去する方法についても、特に制限はない。具体例として、大気中放置による自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、焼き付け、紫外線照射、電子線照射等、公知の各種の手法を任意に選択できる。但し、バインダ成分、カップリング剤由来成分、機能性粒子の各々の分解開始温度や、機能性粒子が多孔質物質である場合にはこれに担持させた成分等の揮発挙動についても、十分に考慮した工程としなければならない。
また、溶剤を除去するタイミングも任意である。特に、本発明の製造方法の場合には、前処理工程において基材をカップリング剤で処理した直後に溶剤を除去して、更に添着工程において機能性粒子を添着させた後に溶剤を除去するという具合に、二段階で溶剤除去を行なっても良いが、前処理工程における基材のカップリング剤処理と添着工程における機能性粒子による処理とを連続して行なった後で、最後に一括して溶剤除去を行なってもよい。これらの溶媒除去のタイミングは状況に応じて適宜選択することができる。
前処理用塗布液の作製に用いる溶剤としては、上述のカップリング剤を溶解又は分散させることができる化合物であれば、その種類に特に制限はない。但し、カップリング剤と反応してその機能を損なったり、基材、機能性粒子、バインダ成分に悪影響を与えたりするものは好ましくないので、使用するカップリング剤、基材、機能性粒子、バインダ成分に応じて、好適な溶剤を選定する必要がある。具体的に、溶剤としては有機溶剤、水性溶剤の何れを用いてもよい。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジグライム、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、スルホラン、酢酸、アセトン、メチルエチルケトン、各種シリコーンオイル等が挙げられる。その他、イミダゾリウム塩系、ピリジニウム塩系、アンモニウム塩系等のイオン性液体、更には、各種の超臨界体等も好適に用いられる。但し、経済性や人体・環境への影響を考慮すると、溶剤として水性溶剤を用いることが好ましく、中でも水を用いることが好ましい。
特に、シラン系カップリング剤に代表される加水分解性のカップリング剤を用いる場合には、通常は溶剤として水を使用する。加水分解性のカップリング剤を希薄水溶液の状態とすることにより、カップリング剤の加水分解反応が進行する。水に対して溶解性の低いカップリング剤の場合は、酢酸やシュウ酸などの酸によりpHをコントロールした水溶液を使用すると良い。また、これらの水やpHコントロールした水溶液に対して、エタノール、メタノールなどのアルコールを加えても良い。更には、はじめに加水分解に必要な量の水を含むアルコール溶液にカップリング剤を溶解した後、これを更に水に加えて希釈しても良い。カップリング剤の種類によっては、前処理用塗布液を安定な状態で保存するために、これらの操作が必須となる。
また、水のみからなる溶剤中だと加水分解・縮合が速く進んでしまい、基材表面を分子レベルで均一にコーティングできないようなカップリング剤を使用する場合には、水のみからなる溶剤ではなく、水とメタノール、エタノール等のアルコールに代表される非水溶媒とを任意の比率で混合した溶剤や、非水溶媒のみからなる溶剤を用いて前処理溶液を作製し、これを用いて前処理工程を行なうとよい。このような混合溶剤や非水溶媒を用いることにより、カップリング剤モノマー間の加水分解・縮合が抑制されるため、基材表面にカップリング剤粒子ではなくカップリング剤モノマーの分子レベルで均一なコーティングを行なうことが可能となり、機能性粒子の保持力を向上できるためである。また、綿などのOH基を有する基材を用いる場合にこのような非水溶媒を含む混合溶剤を用いると、基材表面で加水分解反応が起こり、カップリング剤モノマー分子同士を基材表面で効率よく加水分解・縮合させることができ、均一なコーティングが可能となる。
なお、加水分解性のカップリング剤を用いる場合には、前処理用塗布液の調整後、これを基材に塗布し、或いは含浸させるまでの時間をできるだけ短くすることが好ましい。具体的な時間間隔は、カップリング剤の種類によって加水分解反応の速度が違うので一概には言えないが、一般的には前処理用塗布液の調整後、通常1ヶ月以内、中でも2週間以内、更には1日以内、特に3時間以内に使用することが好ましい。特に、エポキシ基含有シラン系カップリング剤を使用する場合には、これを水に溶解して加水分解が起こった後、すぐに基材に塗布し、或いは含浸させると良い。水に希釈した後、時間が経つとカップリング剤の縮合が進み、カップリング剤同士で微細な粒子を形成するため、基材表面に分子サイズで均一に隙間なく処理することが難しくなり、結果として機能性粒子の保持力が弱くなってしまうからである。前処理工程により、基材の表面をカップリング剤がモノマーの分子サイズで均一に覆っている状態、即ち、カップリング剤のモノマー分子と基材表面に存在するOH基等の官能基とが1対1で結合している状態が得られることが好ましい。
また、前処理用塗布液の塗布又は含浸後、これを乾燥して水を除去する際にも、時間をかけて完全に乾燥させると、カップリング剤のモノマー分子間の縮合が進行してしまい好ましくないので、溶剤を完全に除去してしまうのではなく、完全に乾き切る前に次の添着工程に進んで、添着用塗布液の塗布又は含浸を行なうのが好ましい。よって、乾燥の手法としては加熱乾燥よりも常温乾燥が好ましい。また、時間が経つとやはりカップリング剤の縮合が進み好ましくないので、処理時間短縮の点から通風乾燥が好ましい。或いは、前処理用塗布液の塗布又は含浸後に乾燥を行なわず、連続して次の添着用塗布液の塗布又は含浸を行なうのも好ましい。
前処理用塗布液中におけるカップリング剤の濃度は、通常0.005重量%以上、中でも0.01重量%以上、更には0.02重量%以上、また、通常95重量%以下、中でも40重量%以下、更には1重量%以下の範囲とすることが好ましい。カップリング剤の濃度がこの範囲よりも多いと、高価なカップリング剤を多量に用いることとなり経済的に不利となるほか、繊維や布材、皮革製品、スポンジ製品等に応用した場合の風合いが悪くなり好ましくない。また、カップリング剤の濃度がこの範囲よりも少ないと、機能性粒子の保持能力が十分で無くなる虞がある。
一方、添着用塗布液の作製に用いる溶剤としては、上述の多孔質機能性粒子及びバインダ成分を溶解又は分散させることができる化合物であれば、その種類に特に制限はなく、有機溶剤、水性溶剤の何れを用いることも可能である。しかしながら、機能性粒子の発揮する機能を損なってしまうものや、バインダ成分と反応してこれを分解したり、エマルジョン系のバインダシステムを壊してしまうものは好ましくない。また、塗布や含浸などの対象となる基材の性質を損なうものも好ましくない。よって、用いる機能性粒子、バインダ成分、基材等に応じて、好適な溶剤を選定する必要がある。更には、乾燥や加熱などによって簡単に除去できるものが好ましい。経済性や人体・環境への影響を考慮すると、水を使用することが好ましいが、これに制限されるものではない。
特に、機能性粒子として多孔質物質を用いるとともに、バインダ成分として上述の条件(α)及び/又は条件(β)を満たすものを用いる場合には、以下の基準に従って添着用塗布液の溶剤を選択することが望まれる。
まず、バインダ成分が上述の条件(α)を満たすものである場合には、溶剤として有機溶剤を用いることが好ましい。この場合、添着用塗布液は、有機溶剤中に少なくともバインダ成分と多孔質機能性粒子とが含有されたものとなる。
一方、バインダ成分が上述の条件(β)を満たすものである場合には、溶剤として水性溶剤を用いることが好ましい。この場合、添着用塗布液は、水性溶剤中にバインダ成分と多孔質機能性粒子とが含有されたものとなる。なお、バインダ成分として、既に水性溶剤中で水系エマルジョンとなっているものを用いる場合には、多孔質機能性粒子と混合させるときに水性溶剤を更に混合させることなく、添着用塗布液を製造することができる。
なお、有機溶剤及び水性溶剤の何れを用いた場合でも、添着用塗布液が取る状態は特に制限されず、溶液、分散液、エマルジョン等、どのような状態であっても良いが、通常は機能性粒子が溶剤に溶解しないことから、分散液状又はエマルジョン状態を呈する場合が多い。
以下、添着用塗布液に使用できる有機溶剤及び水性溶剤について詳しく説明する。なお、以下の説明において、有機溶剤と水性溶剤とを区別せずに述べる場合、単に「溶剤」という。
有機溶剤を用いる場合、その種類に特に制限は無く、公知の有機溶剤を任意に用いることができる。その具体例としては、ネオペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ソルベッソ等の鎖状炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類;セロソブル、ブチルソルブ、セロソルブアセテートなどのエーテル類;ミネラルスピリット(炭化水素油)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
なお、有機溶剤を用いる場合には、多孔質機能性粒子の細孔に浸入し難いもの(例えば、多孔質機能性粒子に対して大きい接触角を有するもの)を選択すれば、塗布液中で多孔質機能性粒子の細孔にバインダ成分が浸入することを防止することができ、好ましい。
また、バインダ成分に対して貧溶媒となる有機溶剤を選択したり、又は、溶剤中に一部貧溶媒を加えることも好ましい。これにより、バインダ成分のポリマー鎖を伸ばし切らず(即ち、絡み合ったままとして)有機溶剤中に溶解させることが可能となり、バインダ成分が多孔質機能性粒子の細孔内に浸入することを抑制することができる。
更に、バインダ成分のポリマー鎖を伸ばしきらないという観点から、粘度が高い有機溶剤を用いることも好ましい。ただし、使用する際のことを考慮すると、例えばコーティングなどする場合には操作が困難となる場合がある。
一方、水性溶剤についても、その種類に特に制限は無く、公知の水性溶剤を任意に用いることができる。上述のように、バインダ成分のガラス転移温度Tgが上記所定の範囲にあれば、バインダ成分がコロイドを形成するので、多孔質機能性粒子の細孔に入り込むおそれがない。即ち、水系エマルジョンを用いると、上述したように、分散状態でのバインダ成分の径(樹脂サイズ)が多孔質機能性粒子の細孔径よりもかなり大きくなると期待できるため、多孔質機能性粒子の細孔内にバインダ成分が浸入することを防止できる。
水性溶剤を用いれば、設備を防爆化する必要がなくなる。また、環境上好ましくない物質の使用や発生を抑制できるという利点もある。完全密閉の難しい場合には、できるだけ有機溶剤を発生させないことが好ましいからである。更に、水性溶剤を用いると、本発明の素材を成形した場合に、一般に機能性粒子の基材への接着力を向上させることができることもわかっている。
なお、水性溶剤を用いてバインダ成分を水性エマルジョンとする場合、基材の種類、用途、使用環境等に応じて、適当な温度において凝固特性が発現するように、エマルジョンの状態を調整することが望ましい。これにより、基材として耐熱性の低いものを用いる場合でも、添着用塗布液を適用することができる。なお、水性エマルジョンの凝固特性が発現する温度とは、種々の添加剤を配合したエマルジョンを攪拌しながら昇温した時に、エマルジョンが流動性を失い凝固する温度であり、例えば露点を下げる添加剤などを加えることで凝固温度を調節することが可能である。
また、溶剤として水性溶剤を用いて添着用塗布液を水系エマルジョンとする場合には、バインダ成分よりも多孔質機能性粒子を先に水に水性溶剤に分散させておくと、多孔質機能性粒子の細孔内が水で満たされて安定化し、また、後から混合するバインダ成分も細孔の外部で安定化するため、安定化するもの同士を混合する際、バインダ成分が個々のポリマー鎖に解けて多孔質機能性粒子の細孔内に浸入することは少ないと考えられる。
使用できる水性溶剤の具体例としては、水が挙げられる。また、水と上述の有機溶剤一種又は二種以上とを混合した混合溶剤を用いてもよい。
その他の溶剤として、イミダゾリウム塩系、ピリジニウム塩系、アンモニウム塩系等のイオン性液体、更には各種の超臨界体等も好適に用いられる。
添着用塗布液中における溶剤の比率は、通常20重量%以上、中でも30重量%以上、更には40重量%以上、また、通常90重量%以下、中でも80重量%以下、更には70重量%以下の範囲とすることが好ましい。溶剤の含有率がこの範囲よりも小さいと、塗布液の塗布性が低下する虞があり、また、この範囲よりも大きいと、塗布液に含まれるバインダ成分及び多孔質機能性粒子の量が少なくなり過ぎてしまい、また、乾燥に時間がかかり作業性が悪化する虞があるためである。
添着用塗布液中における機能性粒子の割合は、目的及び用途によって異なるが、通常0.05重量%以上、中でも0.1重量%以上、更には0.2重量%以上、また、通常90重量%以下、中でも80重量%以下、更には60重量%以下の範囲とすることが好ましい。機能性粒子の含有量がこの範囲よりも小さいと、求める機能を十分に発揮することができない虞があり、また、この範囲よりも大きいと、バインダ成分が機能性粒子を保持しきれなくなる虞がある。
特に、基材として繊維を用いる場合、添着用塗布液中における機能性粒子の割合は、通常0.05重量%以上、中でも0.1重量%以上、更には0.2重量%以上、また、通常50重量%以下、中でも20重量%以下、更には10重量%以下の範囲とすることが好ましい。繊維に含浸する際は、塗布液中の機能性粒子の濃度と絞り率を最適化して、基材に対する機能性粒子の塗布量を決定する。
また、添着用塗布液中におけるバインダ成分の割合は、通常0.01重量%以上、中でも0.02重量%以上、更には0.05重量%以上、また、通常30重量%以下、中でも20重量%以下、更には10重量%以下の範囲とすることが好ましい。バインダ成分の比率がこの範囲よりも小さいと、機能性粒子を保持し切れなくなる虞があり、また、この範囲よりも大きいと、求める機能を十分に発揮することができない虞がある。特に本発明の素材は、基材と機能性粒子とがカップリング剤によって連結されているので、バインダ成分を使用する場合でもその量が従来よりも少なくて済み、機能性粒子による各種機能の発現を妨げるおそれがない。
更に、バインダ成分に対する機能性粒子の比(機能性粒子の重量/バインダ成分の重量)は、通常0.1以上、中でも0.5以上、更には0.8以上、また、通常50以下、中でも20以下、更には10以下の範囲とすることが好ましい。上記の比がこの範囲よりも小さいと、得られる素材が目的とする機能を十分に発揮することができない虞があり、また、この範囲よりも大きいと、バインダ成分が機能性粒子を保持しきれなくなる虞がある。特に本発明の素材は、基材と機能性粒子とがカップリング剤によって連結されているので、バインダ成分に対する機能性粒子の割合を従来よりも増やすことができ、各種機能をより効率的に発揮させることができる。
添着用塗布液は、用途に応じて着色しておくことも好ましい。着色の手法としては、色材を添着用塗布液に直接、溶解又は分散させる手法や、予め機能性粒子に色材を混合し、着色した機能性粒子を用いる手法などが挙げられる。
色材の種類は特に制限されず、公知の各種の色材を任意に選択して用いることができる。色材の例としては、無機顔料、有機顔料、染料などが挙げられる。
無機顔料の具体例としては、クレー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、雲母、雲母状酸化鉄、黄土等の天然無機顔料;鉛白、鉛丹、黄鉛、銀朱、群青、紺青、酸化コバルト、二酸化チタン、二酸化チタン被覆雲母、ストロンチウムクロメート、チタニウムイエロー、チタンブラック、カーボンブラック、グラファイト、ジンククロメート、鉄黒、モリブデン赤、モリブデンホワイト、リサージ、リトポン等の合成無機顔料;アルミニウム、金、銀、銅、亜鉛、鉄等の金属類などが挙げられる。
有機顔料の具体例としては、染料を体質顔料に染め付けて沈殿剤でレーキとした染色レーキ;溶性アゾ、不溶性アゾ、縮合アゾ等のアゾ系顔料;フタロシアニン系顔料;ニトロソ系顔料;ニトロ系顔料;塩基性染料系顔料;酸性染料系顔料;建染染料系顔料;媒染染料系顔料などが挙げられる。
有機染料の具体例としては、直接染料、建染染料、硫化染料、ナフトール染料、反応染料、イングレイン染料、酸性染料、酸性媒染染料、金属錯塩酸性染料、分散染料、カチオン染料、蛍光増白剤などが挙げられる。
その他、使用できる色材の例としては、粒状、砂状、若しくは粉状の、ガラス、アイオノマー、AS、ABS、エチレン−塩化ビニルコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂(プラスチック)、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらは着色物、非着色物を問わない。
以上例示した色材は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
前処理用塗布液及び添着用塗布液には、上述の各成分の他に各種の添加剤を加えてもよい。添加剤の種類は特に制限されないが、例としては以下に説明するものが挙げられる。
まず、添加剤の例として、界面活性剤が挙げられる。界面活性剤を加えることにより、塗布液を安定したエマルジョンの状態とすることができる。界面活性剤の種類は特に制限されず、公知の各種の界面活性剤を任意に選択して用いることができる。例としては、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどのトリポリリン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルフォン酸塩、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、スチレン−マレイン酸共重合体などの合成高分子、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレンフェノールエーテル、ポリオキシブチレンフェノールエーテルなどのポリオキシアルキレンアリールエーテルなどを用いることができる。これらの界面活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、他の添加剤の例として、pH調整剤が挙げられる。特に、添着用塗布液にpH調整剤を用いると、例えば、アクリル樹脂ラテックス等のアルカリ性領域(通常pH8〜10)で安定化させてある高分子ラテックスと、水性溶剤中で酸性を示すシリカゲルとを併用する場合などに、バインダ成分を塗布液中で安定化させることができる。pH調整剤の種類は特に制限されず、公知の各種のpH調整剤を任意に選択して用いることができ、例えば、アンモニア水などを用いることができる。これらのpH調整剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
更に他の添加剤の例として、難燃剤が挙げられる。難燃剤の種類は特に制限されず、公知の各種難燃剤を任意に選択して用いることができ、無機系難燃剤と有機系難燃剤のいずれも使用することができる。一般に、難燃剤としては、アンチモン系化合物、リン系化合物、塩素系化合物、臭 素系化合物、グアジニン系化合物、ホウ素化合物、アンモニウム化合物、臭素系ジアリールオキサイド、臭素化アレン等が知られている。具体例としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、リン酸第一アンモニウム、リン酸第二アンモニウム、リン酸トリエステル、亜リン酸エステル、フォスフォニウム塩、リン酸トリアミド、塩素化パラフィン、デクロラン、臭化アンモニウム、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモエタン、塩酸グアニジン、炭酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、四ホウ酸ナトリウム10水和物(ほう砂)、硫酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、デカブロモジフェニールオキサイド、ヘキサブロモフェニールオキサイド、ベンタブロモフェニールオキサイド、ヘキサブロモベンゼンなどが挙げられる。これらの難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、他の添加剤の例として、導電剤が挙げられる。導電剤の種類は特に制限されず、公知の各種の導電剤を任意に選択して用いることができる。例としては、導電性カーボンブラック、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性高分子;銅、アルミニウム、ステンレス等の金属粉末;カーボン繊維、金属繊維等の導電性繊維物質などが挙げられる。これらの導電剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
更に他の添加剤の例として、充填剤が挙げられる。充填剤の種類は特に制限されず、公知の各種の充填剤を任意に選択して用いることができる。例としては、セピオライト、パリゴルスカイト等の含水ケイ酸マグネシウム質粘土鉱物;活性炭、活性炭素繊維、シリカゲル、合成ゼオライト、クリストバライトなどの多孔性吸着材料などが挙げられる。これらの充填剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、他の添加剤の例として、安定剤が挙げられる。安定剤を用いることにより、塗布液の耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性等の各種耐久性を改善することが可能となる。安定剤の種類は特に制限されず、公知の各種の安定剤を任意に選択して用いることができる。例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等が挙げられる。これらの安定剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
更に他の添加剤の例として、架橋剤が挙げられる。架橋剤を用いることにより、バインダ成分の架橋度を高め、耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性等の各種耐久性を改善することが可能となる。架橋剤の種類は特に制限されず、公知の各種の架橋剤を任意に選択して用いることができる。例としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
その他にも添加剤として、シリコーン系やフッ素系などの撥水剤、ポリエチレングリコールなどの親水性の剤、顔料分散剤等の分散剤、補強充填剤、可塑剤、劣化防止剤、帯電防止剤、硬化剤、乳化剤、乾燥剤、消泡剤、防腐剤、凍結防止剤、増粘剤などを用いることも可能である。これらについても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
この様に、塗布液に各種の添加剤を加えることにより、耐薬品性、消臭性、耐摩耗性、耐候性、抗菌性、耐燃焼性、防炎性、保温性、断熱性、紫外線カット性、芳香性、光拡散性、導電性、安定性、徐放性など、本発明の素材に所望の性質を付与することが可能となる。
前処理工程及び添着工程のいずれについても、塗布又は含浸という二つの手法を用いることができる。
塗布による場合、塗布方法については特に制限はなく、通常用いられる方法を任意に選択して用いることができる。具体例としては、ハケ塗り、スプレー、静電塗装、ロールコーティング、ディップコーティング、バーコーティング、フローティング・ナイフコーター、ナイフオーバーロール・コーター、リバースロール・コーター、ロールドクター・コーター、グラビアロール・コーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター、キスロールコーター、ニップロールコーター、キャストコーター、コンアダイレクト・コーター、コンアリバースコーター、スリットコーター、ラミネート、ボンディング方式、パッド法、ブレードコーティング法、インクジェット法などが挙げられる。なお、これらの方法は、塗料の粘度や量、塗料の特性、塗布対象である基材の特性などにより種々使い分けることが好ましい。また、これらの塗布方法は適宜組み合わせて行なってもよい。
また、塗布後に溶剤を乾燥・除去する方法についても、上述のように特に制限は無く、任意の手法を用いることができる。例えば、添着用塗布液の性質に応じて適宜、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、焼き付け、紫外線照射、電子線照射等の方法を用いればよい。なお、これらの乾燥方法は適宜組み合わせて行なってもよい。
また、含浸により成形を行なう場合には、基材として含浸性の材料(以下「含浸性部材」という。)を用い、これに添着用塗布液を含浸させた後、溶剤を除去してカップリング剤由来成分や機能性粒子とバインダ成分を固化させることにより、本発明の素材を得る。
含浸性部材の種類は任意であり、その素材や形状は用途に応じて任意に選択することができる。具体例としては、天然繊維、合成繊維、ロックウール、ガラス繊維、炭素繊維等を素材とするフェルト、不織布、布材、紙、セラミックスシート、皮革、防水・透湿シート等が挙げられる。
なお、素材の目的や用途によっては、含浸性部材として、塗布液を含浸させた際にその全部には含浸せず、一部のみに含浸する構造を有する材料を用いてもよい。例えば、含浸性部材の厚み方向において、一方の側のみに塗布液を含浸させ、他方の側には塗布液を含浸させないようにして、その含浸性部材の一方の側と他方の側とで性質の違い(接着しやすさなど)を生じさせ、この違いを利用する(他側を接着面とする、など)等の手法を用いてもよい。
特に好適な含浸性部材の例としては、繊維が挙げられる。繊維としては、天然繊維及び合成繊維の何れでも良く、これらの両方を用いた繊維でも良い。また、その形態も特に制限されず、織布、編布、不織布等、任意の形態のものを用いることができる。
繊維の具体例としては、織物、モケット、タオル地、トリコット、ダブルラッセル、丸編、ニードルパンチ等が挙げられる。また、ここでいう繊維としては、木綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、あるいはレーヨン;アセテート;蛋白質繊維;塩化ゴム;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン−12等のポリアミド;ポリビニルアルコ−ル;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリアクリロニトリル;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリウレタン;ポリシアン化ビニリデン;ポリフルオロエチレン等、更にそれらの共重合体、ブレンド体からなる繊維が挙げられる。これらの中でも、汎用性の観点から、木綿、麻、ポリエステル、ポリアミドを用いることが好ましい。また、これらはその他にポリマー、艶消剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料などの添加物を含有していてもよい。
繊維の形状も特に制限されず、糸、布地、シートなど、何れの形状のものを用いてもよい。特に、合成繊維の場合には、その断面形状や長手方向の形状を自由に設計することが可能である。具体的に、断面形状としては丸断面、中空断面、三葉断面等の多葉断面、その他の異形断面等が挙げられ、また、長手方向の形状としては長繊維、短繊維等が挙げられるが、何れも任意に選択することが可能である。布地としては、用途に応じて織物、編物が使用でき、織物では平織、綾織、朱子織、それらを組み合わせたものなど、編物ではメリヤス編など、何れを用いても良い。
更には、静電気を有効に放散させるために利用されている、導電性の布地を用いてもよい。ここでいう導電性の布地とは、銅、アルミニウム、ステンレス、カーボン、導電性高分子などの導電性の物質を有機質繊維の中に粒子状で混合したり、該有機質繊維の表面に真空蒸着法でコーティングしたり、該有機質繊維とクラッドさせたもの、又は導電性の物質そのものからなる導電性繊維を上記布地に対して混合したものである。導電性繊維を布地に混合する手法としては、繊維状態での混合、スライバー状態でのミックス、糸状での撚糸、フィラメント状でのミックス又は撚糸、組織上での配列などのいずれでもよい。
また、上記繊維の単糸繊度は、通常0.01dtex以上、中でも0.1dtex以上、更には1dtex以上、また、通常100dtex以下、中でも10dtex以下の範囲が好ましい。この範囲の上限以下であれば、繊維として十分な表面積があるため、吸湿性能を充分発揮できるので好ましい。また、この範囲の下限以上であれば、シリカを含浸した場合でも繊維として実用的な機械的強度を確保できるため好ましい。
なお、本発明の素材を光拡散シートとして用いる場合には、含浸性部材として透明な部材を用いることが好ましく、無色透明の部材を用いることがより好ましい。透明な含浸性部材の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリオレフィン、セルロースアセテート、塩化ビニルなどの合成樹脂等が挙げられる。透明な含浸性部材を用いる場合、その厚みについて特に制限は無いが、通常50μm以上、250μm以下の範囲が望ましい。
基材に塗布液を含浸させる手法については特に制限はなく、任意の手法を選択して用いることができる。例を挙げると、槽の中に含浸性部材を浸す方法(いわゆるディッピング)や、公知の塗布手段により含浸性部材の片側又は両側から塗布する方法が挙げられる。添着用塗布液が十分浸透してから、余剰分をサクションドクター、ドクターロール、もしくは丸棒にワイヤーを巻き付けたワイヤーバー等の適宜なかき取り装置又は除去装置によってかき取るか又は除去し、所定量を含浸性部材に含浸させる。なお、これらの含浸方法は適宜組み合わせて行なってもよい。
含浸後、含浸性部材を乾燥させて溶剤を除去することにより、本発明の素材を得ることができる。含浸性部材を乾燥させる方法についても特に制限は無く、塗布の場合と同様に、任意の手法を用いることができる。
なお、上述の前処理工程と添着工程とを分割して行なう場合、これらの工程は何れも同一の手法(塗布又は含浸)で行なっても良いし、一方を塗布手法で、他方を含浸手法で行なっても良い。
以上の手順によって、機能性粒子、カップリング剤、バインダ成分からなる複合物(以下適宜「添着複合物」)が、基材上に固定化された状態で形成される。ここで、この複合物を任意の形状、例えば塗膜状などの形状に成形することによって、本発明の素材の形状や性状を制御することができる。
なお、機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物を用いて層状の素材とする場合、機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物を含有する層のみからなる単層構造物として構成してもよく、機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物を含有する層を含む複数の層からなる積層構造物として構成してもよい。
積層構造物を製造するには、例えば、本発明の機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物を含有する層の片面又は両面に他の材料からなる層をラミネートすればよい。ラミネート方法としては例えば本発明の機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物のフィルム、シートに対して、他の樹脂などを溶融押出する方法、逆に他の樹脂などからなる基材に本発明の機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物を溶融押出する方法、本発明の機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物と他の樹脂とを共押出する方法、更には本発明の機能性粒子、バインダ、カップリング剤の複合物のフィルム、シートと他の基材のフィルム、シートとを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル系化合物等の公知の接着剤を用いてラミネートする方法等が挙げられる。なお、本発明に言うフィルムとは、シート、テープ、管、容器等の形態を含む広義のフィルムを意味する。
なお、機能性粒子として多孔質物質を使用して、物質の吸収・放出性能やそれに伴う発熱・調湿性能を求めたり、担持薬剤の徐放性能を付与したいような場合、特に多孔質機能性粒子としてシリカゲルを使用する場合には、素材とした状態における多孔質機能性粒子(シリカゲル)の細孔容積の通常30%以上、中でも40%以上、更には50%以上が、素材の外部に開放され、細孔内と素材の外部とが連通した状態となっていることが好ましい。なお、素材の外部に開放されている細孔の容積の割合は、素材の細孔容積、使用した多孔質機能性粒子の細孔容積、及び素材の製造と同様の過程を経過させたバインダ成分の細孔容積をそれぞれ測定することにより、算出することができる。
本発明の素材の形状は任意であり、例えば、平板状、シート状、ブロック状、パイプ状などの形状に成形して用いることができる。中でも、汎用性の観点からは、シート状が好ましい。更に、本発明の素材には、必要に応じて各種の処理、例えば、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深しぼり加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を施すこともできる。
また、上述の複合体を塗膜状に形成する場合は、これを他の塗膜や層と組み合わせて実施することもできる。具体例としては、プライマ層や化粧コートなどと組み合わせることができる。
プライマ層は、基材と機能性粒子とを含む塗膜との間に形成される層で、基材の種類や添着用塗布液の性質などに応じた適当な素材からなる層である。プライマ層を形成することにより、例えば、塗膜が基材に接着する接着力を向上させて製品の耐久性を向上させたり、基材表面の平滑性を向上させ添着用塗布液の塗膜を均一に形成したりするのに効果がある。また、基材が金属からなる場合には適当なプライマ層を形成することによってさび防止の効果を得ることもできる。
化粧コートは、通常は塗膜の外側に形成される層で、基材のデザイン性(意匠性)を高めるために形成される層である。化粧の施し方には、着色、印刷、エンボス、又はワイピング塗装等の手法があり、これらの化粧の手法は、適宜に二つ以上を組み合わせて、適用することもできる。また、化粧を施した最表面には、透明樹脂塗料の塗布、もしくは透明樹脂シートのラミネート等により、透明樹脂保護層を形成してもよい。ただし、添着用塗布液が色材を含む場合は、化粧コートを用いる代わりに塗布液自体を描画等に用いてデザイン性を高めることも可能である。
なお、これらのプライマ層、化粧コート、透明樹脂保護層などは、基材、或いは塗膜等の本発明の素材に直接形成させるほか、適宜な紙やプラスチックシート等の別の部材に施して、基材或いは塗膜等の本発明の素材とは別体のシートとして作製したものを設置するようにしてもよい。更に、基材、プライマ層、塗膜層、化粧コート、透明樹脂保護層などの間には、それぞれ接着剤層或いは粘着材層を設けても良い。
以上、本発明の製造方法について説明したが、本発明の素材を製造する方法はこれに制限されるものではなく、その他の方法によって製造しても良い。例えば、プレス成型、押し出し成型(T−ダイ押出、インフレーション押出、ブロー成型、溶融紡糸、異型押出等)、射出成型などの手法により成形しても良い。また、例えば二色成形、インジェクションブロー成型法などの手法を用いることによっても、寸法精度の良好な素材を得ることができる。
[III−3.素材の特徴]
本発明の素材における機能性粒子の割合は、添着複合物中の比率として、通常0.1重量%以上、中でも0.15重量%以上、更には0.2重量%以上、また、通常99重量%以下、中でも90重量%以下、更には80重量%以下の範囲とすることが好ましい。機能性粒子の比率がこの範囲よりも小さいと、機能性粒子が吸収・放出性能等の機能を十分に発揮することができない虞があり、また、この範囲よりも大きいと、カップリング剤及びバインダ成分が機能性粒子を保持しきれなくなる虞がある。
また、本発明の素材におけるバインダ成分の割合は、添着複合物中の比率として、通常0.01重量%以上、中でも0.05重量%以上、更には0.1重量%以上、また、通常90重量%以下、中でも80重量%以下、更には60重量%以下の範囲とすることが好ましい。バインダ成分の含有率がこの範囲よりも小さいと、機能性粒子を保持しきれなくなる虞があり、また、この範囲よりも大きいと、機能性粒子が吸収・放出性能等の機能を十分に発揮することができない虞がある。
また、本発明の素材におけるカップリング剤由来成分の割合は、添着複合物中の比率として、通常0.005重量%以上、中でも0.01重量%以上、更には0.02重量%以上、また、通常50重量%以下、中でも40重量%以下、更には30重量%以下の範囲とすることが好ましい。カップリング剤由来成分の含有率がこの範囲よりも小さいと、機能性粒子を保持しきれなくなる虞があり、また、この範囲よりも大きいと、機能性粒子が吸収・放出性能等の機能を十分に発揮することができない虞がある。なお、ここで言うカップリング剤由来成分とは、カップリング剤が、処理中に基材や機能性粒子等に化学結合し、また加水分解性官能基が加水分解された後の構造体に関し、その重量比率を算出する場合には、基材や機能性粒子等に化学結合している部分については、その化学結合の反応の種類を勘案して元々カップリング剤に含まれていた部分のみを考慮することとし、加水分解された部分については、加水分解に伴って付加した部分をも考慮することとする。
更に、本発明の素材において、バインダ成分に対する機能性粒子の重量比(機能性粒子の重量/バインダ成分の重量)は、通常0.1以上、中でも0.5以上、更には0.8以上、また、通常50以下、中でも20以下、更には10以下の範囲とすることが好ましい。上記の比がこの範囲よりも小さいと、機能性粒子が吸収・放出性能等の機能を十分に発揮することができない虞があり、また、この範囲よりも大きいと、バインダ成分が機能性粒子を保持しきれなくなる虞がある。
更に、本発明の素材において、カップリング剤由来成分に対する機能性粒子の重量比(機能性粒子の重量/カップリング剤由来成分の重量)は、通常0.1以上、中でも0.5以上、更には0.8以上、また、通常1000以下、中でも500以下、更には200以下の範囲とすることが好ましい。上記の比がこの範囲よりも小さいと、機能性粒子が吸収・放出性能等の機能を十分に発揮することができない虞があり、また、この範囲よりも大きいと、カップリング剤が機能性粒子を保持しきれなくなる虞がある。なお、カップリング剤の処理量は、カップリング剤の最小被覆面積より、単分子膜で処理したと仮定すると、以下の式で求められるので、この値を参考にしても良い。
カップリング剤の処理量=
(処理される材料の重量(g))×(処理させる材料の比表面積(m2/g))
/カップリング剤の最小被覆面積
以上、詳述したように、本発明の素材は、基材にカップリング剤を接触させた後、更に機能性粒子を接触させることにより得られるので、既存の基材と機能性粒子を用いて効率的に製造することが可能である。また、機能性粒子がカップリング剤を介して基材に結合しているので、機能性粒子の剥離や脱落を効果的に抑制することができる。更に、バインダを用いる場合でもその量が少なくて済み、基材が有する特性や機能性粒子が有する機能を妨げるおそれがない。
また、機能性粒子として、優れた耐久性や耐水性を有する特定のシリカゲル(本発明のシリカゲル)を用いるとともに、この性質を損なわないようにバインダ成分やカップリング剤、その他の併用する成分の種類を適切に選択すれば、高い耐久性や耐水性、耐候性をも備えさせることができる。
更に、機能性粒子として上述のシリカゲルに代表される多孔質物質を用いるとともに、多孔質機能性粒子の細孔容積の大部分を素材の外部に開放させることによって、優れた吸収・放出性能等の機能を十分に発揮させることが可能となる。また、多孔質機能性粒子の細孔に大量の物質を担持させることができるので、優れた徐放性を発揮させることも可能となる。更には、塗布対象が細孔容積の大きな多孔質物質で覆われた構造となることにより、防水性、防音性などにも優れた物性を示す。
また、多孔質物質の細孔に何らかの物質、例えば湿気(水)が吸着すると、吸着熱が発生する。本発明の素材は上記のように大量の物質(例えば、水)を吸着するので、それによって発生する吸着熱も大きくなる。これは、換言すれば、本発明の素材が優れた吸湿発熱性をも有していることを意味する。なお、多孔質機能性粒子の細孔径分布がシャープである場合には、吸着速度が速くなるため、発熱速度も速くなる。
更に、本発明の素材は、機能性粒子の種類や基材との組み合わせによって、素材に様々な機能を効率的に付与することができる。例えば、機能性粒子として多孔質物質を用いることにより、高い吸収・放出性能、吸湿発熱性、徐放性等の機能を持たせることができる。よって、例えば以下に挙げる分野において、広く好適に用いることができる。
産業用設備における製品の製造・処理等の分野では、例えば各種触媒及び触媒担体(酸塩基触媒、光触媒、貴金属触媒等)、廃水・廃油処理剤、臭気処理剤、ガス分離剤、工業用乾燥剤、バイオリアクター、バイオセパレータ、メンブランリアクター等の用途が挙げられる。
建材分野では、例えば調湿剤、防音・吸音材、耐火物、断熱材等の用途が挙げられる。
空調分野では、例えばデシカント空調機用調湿剤、ヒートポンプ用蓄熱剤等の用途が挙げられる。
塗料・インク分野では、例えば艶消し剤、粘度調整剤、色度調整剤、沈降防止剤、消泡剤、インク裏抜け防止剤、スタンピングホイル用、壁紙用等の用途が挙げられる。
樹脂用添加剤分野では、例えばフィルム用アンチブロッキング剤(ポリオレフィンフィルム等)、プレートアウト防止剤、シリコーン樹脂用補強剤、ゴム用補強剤(タイヤ用・一般ゴム用等)、流動性改良材、パウダー状樹脂の固結防止剤、印刷適性改良剤、合成皮革やコーティングフィルム用の艶消し剤、接着剤・粘着テープ用充填剤、透光性調整剤、防眩性調整剤、多孔惟ポリマーシート用フィラー等の用途が挙げられる。
製紙分野では、例えば感熱紙用フィラー(カス付着防止剤等)、インクジェット紙画像向上用フィラー(インク吸収剤等)、ジアゾ感光紙用フィラー(感光濃度調整剤等)、トレーシングペーパー用筆記性改良剤、コート紙用フィラー(筆記性、インク吸収性、アンチブロッキング性改良剤等)、静電記録用フィラー等の用途が挙げられる。
食品分野では、例えばビール用濾過助剤、醤油・清酒・ワイン等発酵製品のおり下げ剤、各種発酵飲料の安定化剤(混濁因子タンパクや酵母の除去等)、食品添加剤、粉末食品の固結防止剤等の用途が挙げられる。
医薬・農薬分野では、例えば薬品等の打錠助剤、粉砕助剤、分散・医薬用担体(分散・徐放・デリバリー性改善等)、農薬用担体(油状農薬キャリア・水和分散性改菩、徐放・デリバリー性改善等)、農薬用添加剤(固結防止剤・粉粒性改良剤等)・農薬用添加剤(固結防止剤・沈降防止剤等)等の用途が挙げられる。
分離材料分野では、例えばクロマトグラフィー用充填剤、分離剤、フラーレン分離剤、吸着剤(タンパク質・色素・臭等)、脱湿剤等の用途が挙げられる。
農業分野では、例えば飼料用添加剤、肥料用添加剤等の用途が挙げられる。
生活関連分野では、例えば調湿剤、乾燥剤、化粧品添加剤、抗菌剤、消臭・脱臭・芳香剤、洗剤用添加剤(界面活性剤粉末化等)、研磨剤(歯磨き用等)、粉末消火剤(粉粒性改良剤・同結防止剤等)、消泡剤、バッテリーセパレーター等の用途が挙げられる。
衣料分野では、例えば調湿繊維、吸湿発熱繊維、徐放繊維等として、シャツ、ブラウス、パンツ、ジャケット、セーター、ブルゾン、インナー、ストッキング等の一般衣料やアスレティックウエア、ウインドブレーカー等のスポーツ衣料、ユニフォーム、作業着、防塵衣の他帽子等の用途が挙げられる。
更に、本発明の素材は、機能性粒子として徐放剤を用い、各種薬剤の徐放性能を有する素材とすることも可能である。
具体的には、徐放性担体として上述したシリカゲル等の多孔質粒子を用い、これに高分子材料用の老化防止剤、硬化剤、農薬、肥料、殺菌剤、消毒剤、抗菌剤、防虫剤、殺虫用、除草剤、芳香剤、害虫忌避剤、各種の医薬や生理活性物質等、種々の機能や作用を持つ化学物質(薬剤等)を被担持成分として担持させることにより、これらの被担持成分を貯留すると共に経時的に徐々に放出させる徐放剤が得られる。
徐放性担体に担持させる薬剤等は、用途に応じて自由に選択することができる。
例えば、農薬用殺虫剤としては、サリチオン、マラソン、ジメトエート、ダイアジノン、ジエチルアミド、2−エチルチオメチルフェニル=メチルカルバメート、チオリン酸、2−メチル−3−シクロヘキセン−1−カルボン酸等が挙げられる。
殺菌剤としては、例えばノニルフェノールスルホン酸銅、ジネブ、アンゼプ、チウラム、ポリオキシン、シクロヘキシミド等が挙げられる。
除草剤としては、例えばクロメトキシニル、ニトラリン、3−(3,3−ジメチルウレイド)フェニル=ターシャリ−ブチルカルバマート等が挙げられる。
抗菌剤としては、例えばヒノキチオール等が挙げられる。
害虫忌避剤としては、例えばフェノール系化合物等が挙げられる。
プラスチック用酸化防止剤としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキジフェニル)プロパン等のビスフエノール、シクロヘキサンの縮合物、ジサリチルレゾルシン、亜リン酸エステル等が挙げられる。
老化防止剤としては、例えばフェニル−β−ナフチルアミン等のアミン化合物、スチレン化フェノール等のフェノール化合物、チオ尿素誘導体、ベンゾイミダゾール類等が挙げられる。
肥料としては、例えば尿素、硫安、硝安等のアンモニア系化合物、過リン酸石灰、重過リン酸石灰等のリン化合物、カリを含む化合物等が挙げられる。
更に、医薬や生理活性物質としては、例えば降圧利尿剤、血管拡張剤、不整脈治療剤、強心剤、ホルモン剤、免疫調整剤、抗生物質、坑腫瘍剤、坑潰瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、鎮咳去剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗癇癪剤等に分類される薬物を挙げることができる。これらの医薬・生理活性物質の具体的なものとしては、医業品要覧第5版(株式会社薬業時報社発行)に記載されている薬物又はそれらの類似薬物を挙げることができる。
但し、上に列挙した薬剤はあくまでも一例であり、徐放性担体に担持させることのできる薬剤等はこれらに限定されるものではない。
以上、本発明について説明したが、本発明は上記の説明に制限されるものではなく、適宜変形して実施することができる。
また、本発明の素材の用途や使用形態も、上述したものに制限されるものではなく、その他の用途や形態で用いることも勿論可能である。