JP2005320633A - 2ピース変形缶用鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 深絞り成形後、円周方向の引張歪み10%以上の張出し成形が可能な、2ピース変形缶用鋼板とその製造技術を提案する。
【解決手段】 C:0.0020mass%以下、Si:0.05mass%以下、Mn:0.7mass%以下、P:0.02mass%以下、S:0.010mass%以下、Al:0.100mass%以下、N:0.0030mass%、Nb:0.003〜0.03mass%以下を含有する鋼スラブを、仕上圧延温度850℃以上で熱間圧延し、650℃以上で巻き取り、圧下率85%以上で冷間圧延した後、再結晶温度〜850℃の温度範囲で焼鈍し、次いで圧下率5%以下で調質圧延することにより、結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0MPa以下の鋼板とする。
【選択図】 図2

Description

本発明は、2ピース変形缶用鋼板に関し、特に、鋼板の深絞り成形により、円筒状の中間缶体(以下、単に「円筒缶体」と略記する)とし、この円筒缶体の缶胴部をさらに張出す成形(バルジング成形)を行う際に、割れ等の欠陥が発生することのない、成形性に優れた2ピース変形缶用鋼板(表面にめっき、樹脂皮膜を形成したものも含む)とその製造方法に関するものである。
飲料(一部の食物も含む)の缶容器はその部品構成から、缶胴と上蓋からなる2ピース缶、缶胴と上蓋と底蓋からなる3ピース缶に大別できる。なかでも、2ピース缶は、製造工程が短いという点と、継目がなく、均一で高い精度の巻締めが可能である点で、3ピース缶より有利である。最近、この2ピース缶において、より缶の意匠性を高めるために、缶胴部を円周方向に部分的に膨らました、変形缶(コンタード缶:Contoured can)が用いられる傾向がでてきた。変形缶とは、缶胴がいわゆる単純な円筒形状でなく、意匠性をもたせるために、缶胴部の一部あるいは複数部を円周方向に張出す加工、いわゆるバルジング加工して、変形させたものである。
上記変形缶を製造するためには、製缶工程での張出しあるいは絞り加工を伴うバルジング成形が必須である。2ピース缶を、この張出し加工等の観点からみると、2ピース缶の缶胴部は円周方向に連続した厚み分布を有することから、接合部があるために円周方向に板厚みの不連続を不可避的に伴う3ピース缶よりも、張出し変形に対して有利であるといえる。しかし、一方、2ピース缶は、張出し変形等に先立って、深絞りという厳しい加工を受けるので、単純な曲げ変形しか受けていない3ピース缶に比して加工上の不利を内在している。
このような変形缶は、これまで、主として、3ピース溶接缶で製造されていた。しかし、この3ピース変形缶におけるバルジング加工では、円周方向の歪量が10%以下、通常は5〜6%といった低い値にとどまっており、この程度の歪み量では十分な意匠性を実現することができないという問題があった。一方、2ピース缶でも、これまでに変形缶の製造がいくつか試みられてきた。しかし、素材としてアルミを用いる場合と同様に、鉄を使うと、深絞り成形(一部しごき成形を含む)による素材の成形性の低下が大きく、バルジング成形前に、加工組織を再結晶させるような高温(絶対温度で表示した溶融点の1/2以上の温度)での中間焼鈍処理が必須であった。このような付加的な処理は、製造コストの大幅な増大を招くのみでなく、品質管理を困難にするという新たな問題を生ずることとなり、実現するまでにはいたっていない。中間焼鈍を省略する手段として、バルジング成形時の破断抵抗を増加させるうえから、素材の板厚を増加させることが考えられるものの、この場合には、缶体重量がいたずらに増大し、コストの上昇をも招くという問題があり、同様に実現していない。
上述したように、2ピース変形缶の製造に供しうる素材に対しては、従来になく過酷な成形に耐えうる加工性が要求される。それにもかかわらず、この加工性を支配する必要特性がいかなるものかは、今までまったく明らかにされていなかった。はっきりと言えることは、深絞りと張出し加工を伴う成形時に生ずる現象は、単純にr値や伸びでは整理できないという程度でしかなかった。
ちなみに、一般的な加工性の向上を目的とした技術については、これまでにもいくつか提案されてきた。その一つは、低炭素アルミキルド鋼を素材とし、徐加熱、長時間均熱、徐冷を行う箱焼鈍法で製造するものである。しかし、この従来技術で得られるr値は、高々1.5程度であり、延性も板厚によって変動はあるもの35%程度であった。なお、箱焼鈍法自体が、生産性、材質均一性、表面品質性の面で慢性的な問題点を抱えていることは言うまでもないところである。また、軟質缶用鋼板を連続焼鈍法で製造する方法としては、例えば、非特許文献1などに記載されているように、低炭素アルミキルド鋼を素材とし、連続焼鈍時の冷却を制御することにより、T3以下の軟質な缶用鋼板を製造する方法がある。しかし、本法では,軟質化は達成できるものの、鋼板自体の加工性、例えば、伸び、r値を高くすることが依然としてできていなかった。
この加工性を改善するため、例えば、特許文献1に提案されているように、従来鋼よりもC含有量を低減させた極低炭素鋼の適用が提案された。このような手段をとれば、伸び、r値は改善されるが、単純な極低炭素鋼を使用した場合に、結晶粒径が顕著に粗大化し、r値の面内異方性が増大するという問題が生ずることとなった。これに対しては、特許文献2に例示されるように、Nbの微量添加が提案されている。しかし、このように特性が優れた鋼板を2ピース変形缶に適用しても、十分な成形性を安定して得ることができなかった。このことは、2ピース変形缶における変形挙動が、従来から成形性の目安に用いられてきたr値や伸び(El)だけでは表現できない、別の因子の存在をうかがわせるものであるが、明らかにされてはいなかった。このほか、軟質な容器用材料の製造法に関する方法として、特許文献3に示すような、セミ極低炭素鋼を素材とし、連続焼鈍時に急冷、過時効処理を適用する技術が開示されている。しかし、この技術では、硬度以外の機械的特性については、触れられていない。当然ながら、この技術における過時効処理は生産性の阻害要因の一つとなるので好ましくない。
さらに、缶用という面から見ると、DI(Drawn & Ironed)缶用途で優れたネックドイン成形性を有する鋼板に関する技術が開示されている。例えば、特許文献4〜6などがある。これらの技術は、DI成形後にネックドイン成形と呼ばれる縮径加工を行なう際の成形性を改善するものであり、極低炭素鋼にNb、Tiを添加することにより、硬度、引張り特性(降伏応力YS、引張り強度TS)の改善に関して、これらの元素の添加が有効であることが開示されている。しかし、このネックドイン成形は圧縮成形に近いものであり、成形時に生ずる欠陥はしわ発生現象に限定され、深絞り加工後の2次成形ではあっても、本発明で対象とするような、引張り、張り出しに相当する変形に対して、何の寄与も知見も与えるものではなかった。
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱えている上記問題点を解決し、徒に素材の板厚を増すことなく、また深絞り加工後の中間焼鈍を施すことなく、円周方向の引張歪み10%以上のバルジング成形が可能な、2ピース変形缶体の製造技術を提供することにある。本発明の他の目的は、上記缶体の製造を可能にするに必要な材料特性を見いだすことにある。また、本発明の他の目的は、上記材料特性を満たし、優れた成形加工性を有する2ピース変形缶用鋼板およびその製造方法を提供することにある。さらにまた、本発明の他の目的は、過時効処理を施すことなく、上記材料特性を満たし、優れた成形加工性を有する2ピース変形缶用鋼板の製造方法を提供することにある。
特開昭61−207520号公報 特開平02−118026号公報 特開平02−277722号公報 特開平05−287443号公報 特開平05−287444号公報 特開平05−287445号公報 川鉄技報,vol.14(1982)4,62
発明者らは、上記課題を解決するため、2ピース変形缶の成形に必要な材料の特性、この特性を満たす鋼板の製造条件等について、鋭意実験、研究を重ね、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1) 晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(r)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0kgf/mm2以下の特性を有することを特徴とする、板厚0.15〜0.40mmの2ピース変形缶用鋼板。
(2) C:0.0020wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.7wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.100wt%以下、N:0.0030wt%以下、Nb:0.003〜0.03wt%、残部がFe及び不可避的不純物の鋼組成であって、結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0kgf/mm2以下の特性を有することを特徴とする、板厚0.15〜0.40mmの2ピース変形缶用鋼板。
(3) 上記(2)に記載の鋼組成のものに、さらにTi:0.003〜0.03wt%、B:0.0005〜0.0020wt%の1種または2種を含有させることを特徴とする、2ピース変形缶用鋼板。
(4) 上記(2)または(3)に記載の鋼組成のものに、さらにCu:0.5wt%以下、Ni:0.5wt%以下、Cr:0.5wt%以下、Mo:0.5wt%以下から選ばれる1種または2種以上を含有させることを特徴とする、2ピース変形缶用鋼板。
(5) 表面に樹脂皮膜を有する、上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載の、2ピース変形缶用鋼板。
(6) C:0.0020wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.7wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.100wt%以下、N:0.0030wt%、Nb:0.003〜0.03wt%以下を含有する鋼スラブを、仕上圧延温度850℃以上で熱間圧延し、650℃以上で巻き取り、圧下率85%以上で冷間圧延した後、再結晶温度〜850℃の温度範囲で60秒間以下均熱する焼鈍を行い、次いで圧下率5%以下で調質圧延することを特徴とする、上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載の2ピース変形缶用鋼板の製造方法。
本発明によれば、1次の深絞り成形に続く、2次のバルジング成形において、円周方向の引張歪み10%以上の成形が容易に行えるという、極めて優れた成形性を有する2ピース変形缶用鋼板が製造可能となる。また、この鋼板を用いれば、素材の板厚をさほど増すことなく、また深絞り加工後の中間焼鈍を施すことなく、円周方向の引張歪み10%以上を付与した2ピース変形缶体を製造することが可能となる。したがって、本発明によれば、従来の鋼板では実現できなかった高い意匠性を有する缶体を安定した条件で製造することができるようになる。
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
(1) 材料特性
平均r値:1.8以上
平均r値が1.8を下回ると、1次成形の深絞り成形でできた円筒缶体の壁厚みの高さ方向の不均一性が顕著に増加するとともに、2次成形の張出し加工等においても、割れを発生しやすくなることが明らかとなった。ただし、面内におけるもっとも低い方向のr値でも1.6以上あることが望ましい。なお、本発明でいうr値は、通常の引張法で15%の塑性歪を付与して評価することとする。平均r値は、平均r値=(rL+rC+2×rD)/4で算出する。ただし、rL、rCおよびrDは、それぞれ、L(圧延)方向、C(圧延方向直角)方向、D(圧延方向45°)方向のr値を表す。
Δr:−0.10〜0.10
Δrは、従来からイヤリング発生の程度を表す指標として用いられていた。発明者らは、さらに詳細な検討を重ねた結果、単にフランジ縁部の高さ不均一(いわゆるイヤリング)のみならず、缶胴部のわずかな板厚変動にこのパラメータが影響していることを明らかにした。このような微小な変動は、通常の2ピース缶ではまったく問題にならない範囲のものであるが、本発明のごとく、深絞り加工後さらに2次のバルジング成形を行う用途においては、成形の成否を決定する重要な因子であることが明らかとなったのである。Δrの絶対値が0.10を超えると、張出し成形等における破断の危険性は急激に増大するので、Δrは−0.10〜0.10の範囲におさめる必要がある。なお、Δrは、Δr=(rL+rC−2×rD)/2で算出する。
伸び:40%以上
本発明において、最終的に重要なのは2次成形時の延性であるが、発明者等の検討の結果、原板の状態で40%以上の伸びを有していれば、問題なく2次成形できることが明らかとなった。この値は、鋼板の圧延方向に対して、少なくともL、C、D方向の3方向から採取した試片の最小値を意味する。
時効指数AI:0.0kgf/mm2以下
時効指数は、本発明においては極めて重要である。すなわち、時効指数が0.0kgf/mm2以下、望ましくは負の値をとることにより、2次成形における破断の危険性が顕著に低減する。このことは、深絞り成形に先だって、塗装・焼付けが行なわれた際の材質変化、材質劣化がなく、深絞り成形が高い均一性のもとで行われることを意味しており、その後の2次成形をも安定化させると考えられる。ここで、時効指数は、鋼板の圧延方向に試験片(JIS 13号または5号試験片)を採取し、7.5%の予歪みを付与した後、除荷し、100℃にて30分の時効を施した後、再度引張り行ない、時効前の変形応力と時効後の降伏応力の差から求めたものである。引張りの速度は1.0〜10mm/分が推奨される。この値が負であることは、時効により軟化を生じていることを意味する。実用的な必要強度を考慮した場合には、−2.0〜0.0kgf/mm2の範囲が望ましい。なお、本来、時効指数は、時効性を有する鋼板のひずみ時効による硬化能を評価する方法である。しかし、本発明のように、顕著に時効性を低減した場合には、負の値になる。これは、予ひずみ付与後の試料に時効を施しても、時効硬化が起こらず、逆に転位の再配列、消滅による回復いいかえれば内部応力の緩和が進んだためであると思われる。
(2) フェライトの結晶粒径:15μm以下
結晶粒径は、表面の美麗性を確保する上で重要である。結晶粒径が大きくなり過ぎると、肌あれに起因して、逆に延性は低下する。特に、本発明のごとく、1次成形で深絞り成形を行なった後に、2次の張出し成形等を行なう場合に、この現象が顕著にあらわれる。平均の結晶粒径を15μm以下にすれば、これらの不具合の発生を抑制することが可能となる。さらに高い品質レベルが要求される場合には、10μm以下にすることが望ましい。なお、結晶粒径は、表面をナイタールでエッチングし、通常の光学顕微鏡で観察して求めるが、その際、出現しにくくなっている粒界も確実に考慮して平均粒径を算出する必要がある。このとき、比較法、切断法、面積法のいずれの決定法も適用できるが後2者の方がより安定性が高い。
(3) 鋼成分について;
C:0.0020wt%以下
Cは、特に重要な元素であり、含有量を低減すれば、原板の平均r値、伸び値が向上する。特に、0.0020wt%以下にすることにより、1次の深絞り成形に続く2次の張出し成形等の成形性が著しく向上する。Cの低減手段として、連続焼鈍時に雰囲気制御して脱炭反応により、鋼中C量を低減することは、さらに有効である。C量の下限は特に定めないが、C量の低下にともなって、組織の粗大化し、かえって肌あれ現象による外観美麗性や成形性を招きやすくなるので、0.0005wt%程度とするのが好ましい。材質の安定性などを考慮すれば、0.0005wt%〜0.0015wt%がさらに望ましい。
Si:0.05wt%以下
Siは、少量でも、鋼を固溶強化し、延性を低下させるとともに、表面性状の悪化を招き易いので、低減することが望ましい。0.05wt%以下とすることにより、これらの悪影響を回避することができる。なお、さらなる強度の低下、延性の向上を必要とする用途では0.03wt%以下に低減することが望ましい。
Mn:0.7wt%以下
Mnは、Sによる熱延中の熱間割れを防止防止するのに有効な元素である。またMnは、大きな材質の低下を伴うことなく、熱間圧延時の変態点を低下させ、熱間圧延工程を容易にさせる有用な効果があるため、0.05wt%以上添加することが望ましい。しかし、0.7wt%を超えて多量に添加すると、r値の低下が顕著となり、また鋼板を過度に硬質化させ、冷間圧延性を低下させるために、その上限を0.7wt%とした。より良好な耐食性と成形性が要求される用途では0.3wt%以下とするのが望ましい。
P:0.02wt%以下
Pは、多量に含有すると、鋼を著しく硬質化させ、フランジ加工性やネック加工性を悪化させ、また耐食性をも悪化させるので、その上限を0.02%とした。これらの特性が特に重要視される場合には0.01%以下とするのが好ましい。
S:0.010wt%以下
Sは、鋼中で介在物として存在し、延性の低下、耐食性の劣化をもたらす有害な元素であるので、0.010wt%以下に制限する。加工性を特に必要とする場合には、0.005wt%以下の範囲に抑制するのが望ましい。
Al:0.100wt%以下
Alは、製鋼時の脱酸成分として必要な元素であるが、含有量が多過ぎると、表面性状の悪化につながるので、0.100wt%以下の範囲で添加する。なお、材質の安定性という観点からすれば、0.008〜0.080wt%の範囲が望ましい。
N:0.0030wt%以下
Nは、時効性を高める元素であり、張出し成形時の延性を低下させる。また、熱延の初期段階の加工時に割れを発生する危険性を増大させる元素でもある。そのため、その上限を0.0030wt%とした。製造工程全体を考慮した材質の安定性、歩留まり向上という観点では、0.0025wt%以下の範囲が好適である。
Nb:0.003〜0.03wt%
Nbは、本発明において、組織の改善、Cの固定を通じて材質を大きく改善する極めて重要な添加元素である。すなわち、Nbの添加により、固溶状態のC量が減少し、同時に鋼の組織微細化が達成され、これにより、深絞り性に関係するr値が顕著に向上し、Δrの絶対値が低下する。さらに、特に重要な深絞り成形後の2次成形性が顕著に改善される。このような効果は、0.003wt%以上の添加により発揮される。しかし、0.03wt%を越えて添加すると、Nbの添加効果が飽和することに加え、鋼が硬質化して、スラブ状態での割れ発生率が増加するとともに、熱間−冷間圧延性が劣化する。さらに、再結晶温度が上昇する結果、より高温の連続焼鈍が必要となり、焼鈍の操業が極めて困難なものとなる。従って、Nb添加量は0.003〜0.03wt%とした。材質上好ましいのは、0.003〜0.025wt%、さらに好ましくは0.003〜0.020wt%である。
上記基本成分に加えて、必要に応じて、さらにTi:0.003〜0.030wt%、B:0.0005〜0.0020wt%の群、Cu:0.5wt%以下、Ni:0.5wt%以下、Cr:0.5wt%以下、Mo:0.5wt%以下からなる群のいずれか1群または2群から選ばれる1種以上の元素を添加することができる。
Ti:0.003〜0.03wt%、B:0.0005〜0.0020wt%
Ti、Bは、組織の微細化効果と時効性の調整制御に有用な元素である。また、Al単独添加に比べて、より安定に鋼中のNを固定できる。すなわち、最終製品の段階で残存する固溶Nを容易に0にすることができる。このような効果はTi,Bそれぞれ0.003wt%、0.0005wt%から得られるが、それぞれ0.03wt%、0.0020wt%を超えて添加すると、これらの添加効果が飽和するほか、鋼板の面内異方性が増加するため好ましくない。なお、これらの両元素を複合添加した場合でも上記効果は相殺されることはない。
Cu:0.5wt%以下、Ni:0.5wt%以下、Cr:0.5wt%以下、Mo:0.5wt%以下
Cu、Ni、CrおよびMoは、材質の悪化を伴うことなく、鋼板強度を高めるのに有用な元素であるが、これらの元素を0.5wt%を超えて添加すると、冷間圧延性が悪化するので、いずれの元素とも0.5wt%以下の範囲で添加する。なお、これらの元素の効果は互いに相殺されることなく、複合添加して用いることができる。また、上記各元素の添加効果は、0.03wt%以上の添加により、顕れるので、それぞれ0.03wt%以上添加することが望ましい。
(4) 板厚:0.15〜0.40mm
板厚が0.15mm未満になると、2ピース缶体に成形する深絞り成形の際に破断を生じることに加え、缶胴部のバルジング加工時に破断を生じる危険性が増加する。一方、板厚が0.40mmを超えると、缶体成形時に厳しいしごき加工等を付与しないかぎり、缶胴部の板厚が大きく、素材重量が大きい不経済な缶となる。したがって、本発明鋼板の板厚は0.15〜0.40mmの範囲とする。
(5) 製造条件について;本発明鋼板の製造工程は、連続鋳造−粗熱間圧延またはシートバーキャスターにより、シートバーとしたのち、仕上げ熱間圧延−酸洗−冷間圧延−再結晶焼鈍−調質圧延により鋼板とする。
・熱間圧延
熱間圧延では、850℃以上の温度で仕上げ圧延する必要がある。仕上げ圧延温度が850℃を下回ると、組織の均一性が低下することに加え、Δrが著しく負の方向に変化する結果、Δrの絶対値が大きくなり好ましくない。すなわち1次の深絞り成形での耳の発生、2次の張出し成形での割れ発生頻度の増大などの問題が顕在化する。なお、熱間圧延時に摩擦係数が0.2以下、好ましくは0.15以下の潤滑圧延を行うことは、熱延コイルの先端部及び後端部の最終的な材質変動を軽減できるので望ましい。この潤滑圧延は、仕上げ圧延機入り側で、先行するシートバーと後行するシートバーとを接合して圧延する、いわゆる連続圧延と組み合わせ実施することにより特に効果が大きい。また、熱間圧延後、直ちに水冷を開始して次項に述べる温度で巻き取ることは、組織の均一かつ微細化の観点から有効である。
・熱延後の巻き取り
巻取温度は650℃以上とすることで、r値の向上、Δrの絶対値の低減、さらには材質均一性の向上も達成される。650℃を下回ると、上記の特性が悪化することに加え、伸びの面内異方性が増加し好ましくない。酸洗については特に限定をする必要はなく、通常の塩酸、ないしは硫酸で酸化層を除去すればよい。
・冷間圧延
冷間圧延の圧下率は本発明においては重要な要件の一つである。圧下率を85%以上とする冷間圧延の後に、短時間均熱の焼鈍を行うことにより、均一な組織が形成され、その結果、高r値、低Δr値(絶対値)、高延性という優れた特性を得ることができる。なかでも、特に高い材質均一性が必要となる場合には88%以上の冷間圧下率が望ましい。
・連続焼鈍
高い延性の鋼板を得るためには再結晶温度以上での焼鈍が不可欠である。しかし、焼鈍温度が850℃を超えると、組織の混粒化の傾向が顕著となる。また、焼鈍時間は60秒間以下均熱することが望ましい。
・調質圧延
降伏点伸びを抑制し、変形時の均一性を向上させ、さらには、表面の粗度調整、形状調整などのために好ましくは1%以上の軽スキンパス圧延を行う。しかし、この圧下率が5%を超えると、均一伸びの低下が無視できなくなるので、調質圧延は5%以下の範囲で行う。
・表面処理
上記工程で得られた鋼板に対する表面処理は、通常の缶用鋼板に適用されるいずれの処理も適用可能である。すなわち、錫めっき、クロムめっき、ニッケルめっき、ニッケル・クロムめっきおよびニッケル・錫めっきなどである。また、これらのめっきの後に、樹脂皮膜(塗装あるいは有機樹脂フィルム)を施して製缶するような、やや特殊な用途においてもなんら問題なく適用可能である。あるいは、鋼板を焼鈍する前にNiめっきを行い、焼鈍によりNi拡散層を形成させてから、錫めっきを行う用途でも問題なく適用可能である。
・合計絞り比:2.0
絞り工程は多数にわたっても可能であるが、合計絞り比(初期ブランク径/最終絞りのパンチ径)が少なくとも2.0以上にならないと、缶の高さが十分ではなく、用途が極めて限定される。
・バルジング成形の伸び歪み:10%以上
製缶後の2次成形(バルジング成形)でおおむね10%以上の円周方向伸び歪みを加えないと十分な意匠性を付与することができない。なお、バルジング成形としては、管軸方向へのメタルフローを許す「絞り」、許さない「張出し」のいずれも可能である。
表1に示す成分組成を含み、残部が実質的に鉄からなる鋼を転炉で溶製し、この鋼スラブを、表2に示す条件で、熱間圧延、酸洗、冷間圧延ののち、焼鈍温度と焼鈍時間とを変化させて連続焼鈍を行った。その後圧下率1.5%で調質圧延を行い、最終仕上げ板厚0.25mmの鋼板を製造した。得られた鋼板についてのr値、板面各方向の伸び、時効特性を測定(JIS 13号−B試験片を使用)した。また、これらの鋼板に、25番相当(約2.8g/m2の目付け)の錫めっきを行ない、リフロー処理で鏡面状態としたのち、クロム酸を主体としためっき浴で金属Cr量15mg/m2、酸化Cr量7mg/m2のめっきを行なった。その後、板の表裏面にクリアラッカーを塗付,乾燥させた。この状態で以下の成形を行なった。鋼板を198mmφにブランキングし、まず90mmφのパンチで深絞り成形で円筒缶体(絞り比2.2)とし、次いで図1に示すように、ゴムを利用したバルジング成形(円周方向の最大伸び歪み15%)により、2ピース変形缶体を製造した。この缶体について、表面の美麓性、割れ発生の有無などを調査した。
これらの結果を同じく表3に示す。発明例は全ての鋼板が材料特性を満足しており、成形後の2ピース変形缶体も割れ発生を招くことなく製造でき極めて優れた成形性を有することがわかった。しかも、発明例による缶体の表面は美麗であった。これらの諸特性は比較例として用いた箱焼鈍材よりも優れていた。
Figure 2005320633
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バルジング条件をより一般的な割型(割型は円周方向に12分割した構造)を用い、円周方向の最大歪み量を15%とした方法で成形し、同様の調査を行った。成形法の違いはあるもの、ほぼ同様の結果が得られ、本発明法による鋼板は極めて優れたバルジング成形性を有していた。また、鋼板の表面処理条件を以下のように変化させて供試材とした。すなわち、連続焼鈍後に、まず錫を1.0g/m2をめっきし、つづいて全Cr量を15mg/m2、そのうち金属Cr量を7mg/m2析出させた。その鋼板上に30μm厚みのPETフィルムを熱融着させ、試験に供した。その結果、通常の塗装・焼付けを行なった場合とほほ同等の加工特性がえられ、本発明鋼板を素材とした場合には、極めて安定した製缶特性が得られることが明らかとなった。
C量が15ppm以下の範囲でNb添加量を0.018%一定にし、焼鈍温度を幅広く変化させて、上記実施例2に準じてサンプルを作製し、3工程の絞り加工により、最終的に絞り比2.6で円筒缶体に成形した後に、破断を生じることなく成形可能な、バルジング歪みの最大値を求め、このバルジング歪みに及ぼす平均r値と時効指数との関係を整理して図2に示す。同様に、破断を生じることなく成形可能な、バルジング歪みの最大値に及ぼす、伸び値と結晶粒径の関係を図3に示す。図2、図3から、本発明範囲を満たす特性の鋼板であれば、高いバルジング成形が可能であることがわかる。
深絞り成形後のバルジング成形を説明するための断面模式図である。 深絞り成形後のバルジング成形において、破断を生じることなく成形可能なバルジング歪みの最大値に及ぼす、平均r値と時効指数の関係を示すグラフである。 深絞り成形後のバルジング成形において、破断を生じることなく成形可能なバルジング歪みの最大値に及ぼす、伸び値と結晶粒径の関係を示すグラフである。

Claims (6)

  1. 結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0kgf/mm2以下の特性を有することを特徴とする板厚0.15〜0.40mmの2ピース変形缶用鋼板。
  2. C:0.0020wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.7wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.100wt%以下、N:0.0030wt%以下、Nb:0.003〜0.03wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の鋼組成であって、結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0kgf/mm2以下の特性を有することを特徴とする板厚0.15〜0.40mmの2ピース変形缶用鋼板。
  3. 請求項2に記載の鋼組成のものに、さらにTi:0.003〜0.03wt%、B:0.0005〜0.0020wt%の1種または2種を含有させることを特徴とする2ピース変形缶用鋼板。
  4. 請求項2または3に記載の鋼組成のものに、さらにCu:0.5wt%以下、Ni:0.5wt%以下、Cr:0.5wt%以下、Mo:0.5wt%以下から選ばれる1種または2種以上を含有させることを特徴とする2ピース変形缶用鋼板。
  5. 表面に樹脂皮膜を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2ピース変形缶用鋼板。
  6. C:0.0020wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.7wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.100wt%以下、N:0.0030wt%以下、Nb:0.003〜0.03wt%を含有する鋼スラブを、仕上圧延温度850℃以上で熱間圧延し、650℃以上で巻き取り、圧下率85%以上で冷間圧延した後、再結晶温度〜850℃の温度範囲で60秒間以下均熱する焼鈍を行い、次いで圧下率5%以下で調質圧延することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の2ピース変形缶用鋼板の製造方法。
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