JP2005320633A - 2ピース変形缶用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 C:0.0020mass%以下、Si:0.05mass%以下、Mn:0.7mass%以下、P:0.02mass%以下、S:0.010mass%以下、Al:0.100mass%以下、N:0.0030mass%、Nb:0.003〜0.03mass%以下を含有する鋼スラブを、仕上圧延温度850℃以上で熱間圧延し、650℃以上で巻き取り、圧下率85%以上で冷間圧延した後、再結晶温度〜850℃の温度範囲で焼鈍し、次いで圧下率5%以下で調質圧延することにより、結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0MPa以下の鋼板とする。
【選択図】 図2
Description
(1) 材料特性
平均r値:1.8以上
平均r値が1.8を下回ると、1次成形の深絞り成形でできた円筒缶体の壁厚みの高さ方向の不均一性が顕著に増加するとともに、2次成形の張出し加工等においても、割れを発生しやすくなることが明らかとなった。ただし、面内におけるもっとも低い方向のr値でも1.6以上あることが望ましい。なお、本発明でいうr値は、通常の引張法で15%の塑性歪を付与して評価することとする。平均r値は、平均r値=(rL+rC+2×rD)/4で算出する。ただし、rL、rCおよびrDは、それぞれ、L(圧延)方向、C(圧延方向直角)方向、D(圧延方向45°)方向のr値を表す。
Δrは、従来からイヤリング発生の程度を表す指標として用いられていた。発明者らは、さらに詳細な検討を重ねた結果、単にフランジ縁部の高さ不均一(いわゆるイヤリング)のみならず、缶胴部のわずかな板厚変動にこのパラメータが影響していることを明らかにした。このような微小な変動は、通常の2ピース缶ではまったく問題にならない範囲のものであるが、本発明のごとく、深絞り加工後さらに2次のバルジング成形を行う用途においては、成形の成否を決定する重要な因子であることが明らかとなったのである。Δrの絶対値が0.10を超えると、張出し成形等における破断の危険性は急激に増大するので、Δrは−0.10〜0.10の範囲におさめる必要がある。なお、Δrは、Δr=(rL+rC−2×rD)/2で算出する。
本発明において、最終的に重要なのは2次成形時の延性であるが、発明者等の検討の結果、原板の状態で40%以上の伸びを有していれば、問題なく2次成形できることが明らかとなった。この値は、鋼板の圧延方向に対して、少なくともL、C、D方向の3方向から採取した試片の最小値を意味する。
時効指数は、本発明においては極めて重要である。すなわち、時効指数が0.0kgf/mm2以下、望ましくは負の値をとることにより、2次成形における破断の危険性が顕著に低減する。このことは、深絞り成形に先だって、塗装・焼付けが行なわれた際の材質変化、材質劣化がなく、深絞り成形が高い均一性のもとで行われることを意味しており、その後の2次成形をも安定化させると考えられる。ここで、時効指数は、鋼板の圧延方向に試験片(JIS 13号または5号試験片)を採取し、7.5%の予歪みを付与した後、除荷し、100℃にて30分の時効を施した後、再度引張り行ない、時効前の変形応力と時効後の降伏応力の差から求めたものである。引張りの速度は1.0〜10mm/分が推奨される。この値が負であることは、時効により軟化を生じていることを意味する。実用的な必要強度を考慮した場合には、−2.0〜0.0kgf/mm2の範囲が望ましい。なお、本来、時効指数は、時効性を有する鋼板のひずみ時効による硬化能を評価する方法である。しかし、本発明のように、顕著に時効性を低減した場合には、負の値になる。これは、予ひずみ付与後の試料に時効を施しても、時効硬化が起こらず、逆に転位の再配列、消滅による回復いいかえれば内部応力の緩和が進んだためであると思われる。
結晶粒径は、表面の美麗性を確保する上で重要である。結晶粒径が大きくなり過ぎると、肌あれに起因して、逆に延性は低下する。特に、本発明のごとく、1次成形で深絞り成形を行なった後に、2次の張出し成形等を行なう場合に、この現象が顕著にあらわれる。平均の結晶粒径を15μm以下にすれば、これらの不具合の発生を抑制することが可能となる。さらに高い品質レベルが要求される場合には、10μm以下にすることが望ましい。なお、結晶粒径は、表面をナイタールでエッチングし、通常の光学顕微鏡で観察して求めるが、その際、出現しにくくなっている粒界も確実に考慮して平均粒径を算出する必要がある。このとき、比較法、切断法、面積法のいずれの決定法も適用できるが後2者の方がより安定性が高い。
C:0.0020wt%以下
Cは、特に重要な元素であり、含有量を低減すれば、原板の平均r値、伸び値が向上する。特に、0.0020wt%以下にすることにより、1次の深絞り成形に続く2次の張出し成形等の成形性が著しく向上する。Cの低減手段として、連続焼鈍時に雰囲気制御して脱炭反応により、鋼中C量を低減することは、さらに有効である。C量の下限は特に定めないが、C量の低下にともなって、組織の粗大化し、かえって肌あれ現象による外観美麗性や成形性を招きやすくなるので、0.0005wt%程度とするのが好ましい。材質の安定性などを考慮すれば、0.0005wt%〜0.0015wt%がさらに望ましい。
Siは、少量でも、鋼を固溶強化し、延性を低下させるとともに、表面性状の悪化を招き易いので、低減することが望ましい。0.05wt%以下とすることにより、これらの悪影響を回避することができる。なお、さらなる強度の低下、延性の向上を必要とする用途では0.03wt%以下に低減することが望ましい。
Mnは、Sによる熱延中の熱間割れを防止防止するのに有効な元素である。またMnは、大きな材質の低下を伴うことなく、熱間圧延時の変態点を低下させ、熱間圧延工程を容易にさせる有用な効果があるため、0.05wt%以上添加することが望ましい。しかし、0.7wt%を超えて多量に添加すると、r値の低下が顕著となり、また鋼板を過度に硬質化させ、冷間圧延性を低下させるために、その上限を0.7wt%とした。より良好な耐食性と成形性が要求される用途では0.3wt%以下とするのが望ましい。
Pは、多量に含有すると、鋼を著しく硬質化させ、フランジ加工性やネック加工性を悪化させ、また耐食性をも悪化させるので、その上限を0.02%とした。これらの特性が特に重要視される場合には0.01%以下とするのが好ましい。
Sは、鋼中で介在物として存在し、延性の低下、耐食性の劣化をもたらす有害な元素であるので、0.010wt%以下に制限する。加工性を特に必要とする場合には、0.005wt%以下の範囲に抑制するのが望ましい。
Alは、製鋼時の脱酸成分として必要な元素であるが、含有量が多過ぎると、表面性状の悪化につながるので、0.100wt%以下の範囲で添加する。なお、材質の安定性という観点からすれば、0.008〜0.080wt%の範囲が望ましい。
Nは、時効性を高める元素であり、張出し成形時の延性を低下させる。また、熱延の初期段階の加工時に割れを発生する危険性を増大させる元素でもある。そのため、その上限を0.0030wt%とした。製造工程全体を考慮した材質の安定性、歩留まり向上という観点では、0.0025wt%以下の範囲が好適である。
Nbは、本発明において、組織の改善、Cの固定を通じて材質を大きく改善する極めて重要な添加元素である。すなわち、Nbの添加により、固溶状態のC量が減少し、同時に鋼の組織微細化が達成され、これにより、深絞り性に関係するr値が顕著に向上し、Δrの絶対値が低下する。さらに、特に重要な深絞り成形後の2次成形性が顕著に改善される。このような効果は、0.003wt%以上の添加により発揮される。しかし、0.03wt%を越えて添加すると、Nbの添加効果が飽和することに加え、鋼が硬質化して、スラブ状態での割れ発生率が増加するとともに、熱間−冷間圧延性が劣化する。さらに、再結晶温度が上昇する結果、より高温の連続焼鈍が必要となり、焼鈍の操業が極めて困難なものとなる。従って、Nb添加量は0.003〜0.03wt%とした。材質上好ましいのは、0.003〜0.025wt%、さらに好ましくは0.003〜0.020wt%である。
Ti、Bは、組織の微細化効果と時効性の調整制御に有用な元素である。また、Al単独添加に比べて、より安定に鋼中のNを固定できる。すなわち、最終製品の段階で残存する固溶Nを容易に0にすることができる。このような効果はTi,Bそれぞれ0.003wt%、0.0005wt%から得られるが、それぞれ0.03wt%、0.0020wt%を超えて添加すると、これらの添加効果が飽和するほか、鋼板の面内異方性が増加するため好ましくない。なお、これらの両元素を複合添加した場合でも上記効果は相殺されることはない。
Cu、Ni、CrおよびMoは、材質の悪化を伴うことなく、鋼板強度を高めるのに有用な元素であるが、これらの元素を0.5wt%を超えて添加すると、冷間圧延性が悪化するので、いずれの元素とも0.5wt%以下の範囲で添加する。なお、これらの元素の効果は互いに相殺されることなく、複合添加して用いることができる。また、上記各元素の添加効果は、0.03wt%以上の添加により、顕れるので、それぞれ0.03wt%以上添加することが望ましい。
板厚が0.15mm未満になると、2ピース缶体に成形する深絞り成形の際に破断を生じることに加え、缶胴部のバルジング加工時に破断を生じる危険性が増加する。一方、板厚が0.40mmを超えると、缶体成形時に厳しいしごき加工等を付与しないかぎり、缶胴部の板厚が大きく、素材重量が大きい不経済な缶となる。したがって、本発明鋼板の板厚は0.15〜0.40mmの範囲とする。
熱間圧延では、850℃以上の温度で仕上げ圧延する必要がある。仕上げ圧延温度が850℃を下回ると、組織の均一性が低下することに加え、Δrが著しく負の方向に変化する結果、Δrの絶対値が大きくなり好ましくない。すなわち1次の深絞り成形での耳の発生、2次の張出し成形での割れ発生頻度の増大などの問題が顕在化する。なお、熱間圧延時に摩擦係数が0.2以下、好ましくは0.15以下の潤滑圧延を行うことは、熱延コイルの先端部及び後端部の最終的な材質変動を軽減できるので望ましい。この潤滑圧延は、仕上げ圧延機入り側で、先行するシートバーと後行するシートバーとを接合して圧延する、いわゆる連続圧延と組み合わせ実施することにより特に効果が大きい。また、熱間圧延後、直ちに水冷を開始して次項に述べる温度で巻き取ることは、組織の均一かつ微細化の観点から有効である。
巻取温度は650℃以上とすることで、r値の向上、Δrの絶対値の低減、さらには材質均一性の向上も達成される。650℃を下回ると、上記の特性が悪化することに加え、伸びの面内異方性が増加し好ましくない。酸洗については特に限定をする必要はなく、通常の塩酸、ないしは硫酸で酸化層を除去すればよい。
冷間圧延の圧下率は本発明においては重要な要件の一つである。圧下率を85%以上とする冷間圧延の後に、短時間均熱の焼鈍を行うことにより、均一な組織が形成され、その結果、高r値、低Δr値(絶対値)、高延性という優れた特性を得ることができる。なかでも、特に高い材質均一性が必要となる場合には88%以上の冷間圧下率が望ましい。
高い延性の鋼板を得るためには再結晶温度以上での焼鈍が不可欠である。しかし、焼鈍温度が850℃を超えると、組織の混粒化の傾向が顕著となる。また、焼鈍時間は60秒間以下均熱することが望ましい。
降伏点伸びを抑制し、変形時の均一性を向上させ、さらには、表面の粗度調整、形状調整などのために好ましくは1%以上の軽スキンパス圧延を行う。しかし、この圧下率が5%を超えると、均一伸びの低下が無視できなくなるので、調質圧延は5%以下の範囲で行う。
上記工程で得られた鋼板に対する表面処理は、通常の缶用鋼板に適用されるいずれの処理も適用可能である。すなわち、錫めっき、クロムめっき、ニッケルめっき、ニッケル・クロムめっきおよびニッケル・錫めっきなどである。また、これらのめっきの後に、樹脂皮膜(塗装あるいは有機樹脂フィルム)を施して製缶するような、やや特殊な用途においてもなんら問題なく適用可能である。あるいは、鋼板を焼鈍する前にNiめっきを行い、焼鈍によりNi拡散層を形成させてから、錫めっきを行う用途でも問題なく適用可能である。
絞り工程は多数にわたっても可能であるが、合計絞り比(初期ブランク径/最終絞りのパンチ径)が少なくとも2.0以上にならないと、缶の高さが十分ではなく、用途が極めて限定される。
製缶後の2次成形(バルジング成形)でおおむね10%以上の円周方向伸び歪みを加えないと十分な意匠性を付与することができない。なお、バルジング成形としては、管軸方向へのメタルフローを許す「絞り」、許さない「張出し」のいずれも可能である。
Claims (6)
- 結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0kgf/mm2以下の特性を有することを特徴とする板厚0.15〜0.40mmの2ピース変形缶用鋼板。
- C:0.0020wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.7wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.100wt%以下、N:0.0030wt%以下、Nb:0.003〜0.03wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の鋼組成であって、結晶粒径15μm以下のフェライト組織からなり、平均r値が1.8以上、r値の異方性(Δr)が−0.10〜0.10、圧延方向、圧延直角方向、圧延45度方向の延びがいずれも40%以上、時効指数(AI)が0.0kgf/mm2以下の特性を有することを特徴とする板厚0.15〜0.40mmの2ピース変形缶用鋼板。
- 請求項2に記載の鋼組成のものに、さらにTi:0.003〜0.03wt%、B:0.0005〜0.0020wt%の1種または2種を含有させることを特徴とする2ピース変形缶用鋼板。
- 請求項2または3に記載の鋼組成のものに、さらにCu:0.5wt%以下、Ni:0.5wt%以下、Cr:0.5wt%以下、Mo:0.5wt%以下から選ばれる1種または2種以上を含有させることを特徴とする2ピース変形缶用鋼板。
- 表面に樹脂皮膜を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2ピース変形缶用鋼板。
- C:0.0020wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.7wt%以下、P:0.02wt%以下、S:0.010wt%以下、Al:0.100wt%以下、N:0.0030wt%以下、Nb:0.003〜0.03wt%を含有する鋼スラブを、仕上圧延温度850℃以上で熱間圧延し、650℃以上で巻き取り、圧下率85%以上で冷間圧延した後、再結晶温度〜850℃の温度範囲で60秒間以下均熱する焼鈍を行い、次いで圧下率5%以下で調質圧延することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の2ピース変形缶用鋼板の製造方法。
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