本発明のトナーは、結着樹脂、荷電制御剤、離型剤および着色剤を含有してなるものである。
結着樹脂は、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)とを含有するものである。
ポリエステル樹脂(A)は、軟化温度が120℃以上であり、酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/g以下であるポリエステル樹脂である。
ポリエステル樹脂(A)の軟化温度が、120℃以上の場合に、サリチル酸金属錯体(C)との架橋反応により、トナーの弾性率が増大し、軟化温度が上昇する傾向にあり、トナーの耐ホットオフセット性が良好となる傾向にある。軟化温度が120℃未満では、サリチル酸金属錯体(C)との架橋反応が起こったとしても、トナーの弾性率が十分増大しない傾向にある。ポリエステル樹脂(A)の軟化温度の下限値は、125℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の軟化温度の上限値は、特に制限されないが、200℃以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の軟化温度が200℃以下である場合に、吐出時の製造安定性が良好となる傾向にある。ポリエステル樹脂(A)の軟化温度の上限値は、190℃以下がより好ましく、180℃以下が特に好ましい。
ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計は35mgKOH/g以下である。ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/g以下である場合に、ポリエステル樹脂(A)とサリチル酸金属錯体(C)との架橋反応が十分となる傾向にあり、トナーの弾性率が高くなる。ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/gを超える場合には、ポリエステル樹脂(A)とサリチル酸金属錯体(C)との架橋反応が十分進行しない。このポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計の上限値は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、28mgKOH/g以下であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計の下限値は、特に制限されないが、0.1mgKOH/g以上であることが好ましく、1mgKOH/g以上であることがより好ましく、5mgKOH/g以上であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以上であることが特に好ましい。
また、ポリエステル樹脂(A)の酸価としては、特に制限されないが、0.1〜35mgKOH/gであることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の酸価が0.1mgKOH/g以上である場合に、帯電性が良好となる傾向にあり、また、35mgKOH/g以下である場合に、耐湿性が良好となる傾向にある。
ポリエステル樹脂(A)の酸価の下限値は0.5mgKOH/g以上であることがより好ましく、1mgKOH/g以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の酸価の上限値は、30mgKOH/g以下であることがより好ましく、28mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、25mgKOH/g以下であることが特に好ましく、20mgKOH/g以下であることが最も好ましい。
また、ポリエステル樹脂(A)の水酸価としては、特に制限されないが、0.1〜35mgKOH/gであることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の水酸価が0.1mgKOH/g以上である場合に、帯電性が良好となる傾向にあり、また、35mgKOH/g以下である場合に、耐湿性が良好となる傾向にある。
ポリエステル樹脂(A)の水酸価の下限値は0.5mgKOH/g以上であることがより好ましく、1mgKOH/g以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の水酸価の上限値は、30mgKOH/g以下であることがより好ましく、28mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、25mgKOH/g以下であることが特に好ましく、20mgKOH/g以下であることが最も好ましい。
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、特に制限されないが、45〜75℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が、45℃以上の場合に耐ブロッキング性が良好となる傾向にあり、75℃以下の場合にトナーの定着性が良好となる傾向にある。ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度の下限値は50℃以上であることがより好ましく、55℃以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の上限値は70℃以下であることがより好ましく、65℃以下であることが特に好ましい。
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、10,000〜1,000,000であることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)が10,000以上の場合に耐ホットオフセット性が良好となる傾向にあり、1,000,000以下の場合に吐出時の製造安定性が良好となる。ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)の下限値は15,000以上がより好ましく、20,000以上がさらに好ましく、30,000以上が特に好ましく、50,000以上が最も好ましい。ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)の上限値は900,000以下がより好ましく、700,000以下がさらに好ましく、500,000以下が特に好ましく、250,000以下が最も好ましい。
ポリエステル樹脂(B)は、軟化温度が120℃以下であり、酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/gを超えるポリエステル樹脂である。
ポリエステル樹脂(B)の軟化温度が、120℃以下である場合に、トナーの低温定着性が良好となる。ポリエステル樹脂(B)の軟化温度が120℃を超える場合には、十分な低温定着性が発現しない。ポリエステル樹脂(B)の軟化温度の上限値は、115℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましく、105℃以下であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)の軟化温度の下限値は、特に制限されないが、70℃以上であることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)の軟化温度の下限値が70℃以上である場合に、耐ブロッキング性が良好となる傾向にある。ポリエステル樹脂(B)の軟化温度の下限値は、75℃以上がより好ましく、80℃以上が特に好ましい。
ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計は35mgKOH/gを越える。ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/gを越える場合に、ポリエステル樹脂(B)とサリチル酸金属錯体(C)との架橋反応が起こらず、トナーの低温定着性が良好となる。ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/g以下の場合には、ポリエステル樹脂(B)とサリチル酸金属錯体(C)との架橋反応が起こり、低温定着性を発現しない。ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計の下限値は、37mgKOH/g以上であることが好ましく、40mgKOH/g以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計の上限値は、特に制限されないが、100mgKOH/g以下であることが好ましく、80mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
また、ポリエステル樹脂(B)の酸価としては、特に制限されないが、0.1〜50mgKOH/gであることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)の酸価が0.1mgKOH/g以上である場合に、帯電性が良好となる傾向にあり、また、50mgKOH/g以下である場合に、耐湿性が良好となる傾向にある。
ポリエステル樹脂(B)の酸価の下限値は0.5mgKOH/g以上であることがより好ましく、1mgKOH/g以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)の酸価の上限値は、40mgKOH/g以下であることがより好ましく、30mgKOH/g以下であることが特に好ましく、20mgKOH/g以下であることが最も好ましい。
また、ポリエステル樹脂(B)の水酸価としては、特に制限されないが、0.1〜 100mgKOH/gであることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)の水酸価が0.1mgKOH/g以上である場合に、帯電性が良好となる傾向にあり、また、100mgKOH/g以下である場合に、耐湿性が良好となる傾向にある。
ポリエステル樹脂(B)の水酸価の下限値は0.5mgKOH/g以上であることがより好ましく、1mgKOH/g以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)の水酸価の上限値は、80mgKOH/g以下であることがより好ましく、60mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度は、特に制限されないが、35〜75℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が、35℃以上の場合にトナーの耐ブロッキング性が良好となる傾向にあり、75℃以下の場合にトナーの定着性が良好となる傾向にある。ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度の下限値は40℃以上であることがより好ましく、45℃以上であることが特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)の上限値は70℃以下であることがより好ましく、65℃以下であることが特に好ましい。
ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、2,000〜50,000であることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)が2,000以上の場合にトナーの耐ブロッキング性が良好となる傾向にあり、50,000以下の場合にトナーの定着性が良好となる。ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)の下限値は、2,500以上がより好ましく、3,000以上がさらに好ましく、3,500以上が特に好ましく、4,000以上が最も好ましい。ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)の上限値は、40,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましく、20,000以下が特に好ましく、10,000以下が最も好ましい。
ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)の構成成分としては、特に制限されないが、ジカルボン酸成分(a)とジオール成分(b)とを基本構成成分とするものである。
ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)を構成するジカルボン酸成分(a)としては、特に制限されないが、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フタル酸、セバシン酸、イソデシル琥珀酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、およびそれらの低級アルキルエステルまたは酸無水物等が挙げられる。これらジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、モノメチルエステル、モノエチルエステル、ジメチルエステル、ジエチルエステル等が挙げられる。中でも、テレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸は、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を上げ、樹脂強度を付与するとともに、トナーの耐ブロッキング性、ブレード融着性、フィルミング性の向上に寄与し、それの持つ疎水性のためトナーの耐湿性向上にも効果がある。従って、芳香族ジカルボン酸成分は、ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)のそれぞれの樹脂において、全酸成分に対して50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上の範囲がより好ましく、70モル%以上が特に好ましい。中でも、テレフタル酸系のものは結着樹脂のガラス転移温度をアップさせるのに効果があり、またイソフタル酸系のものは反応性を高める効果があるので目的によってその使用バランスを変えて用いることが好ましい。一方、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分は、トナーの定着性や耐ブロッキング性に大きく影響を与えるので、これらの特性を考慮して使用することが重要であり、全酸成分に対して40モル%以下の範囲で使用することが好ましく、30モル%以下が特に好ましい。これらジカルボン酸成分(a)は、単独または2種以上を組合せて使用することができる。
また、ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)を構成するジオール成分(b)としては、特に制限されず、脂肪族ジオール成分(b1)、芳香族ジオール成分(b2)、ポリエーテルグリコール成分(b3)等が使用できる。
脂肪族ジオール成分(b1)としては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等が挙げられ、芳香族ジオール成分(b2)としては、例えば、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(2.8)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン−(3.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のエチレンキサイドを付加したビスフェノールA誘導体、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.8)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のプロピレンオキサイドを付加したビスフェノールA誘導体等があげられ、ポリエーテルグリコール成分(b3)としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、これらは1種でまたは2種以上を併用することができる。
ジオール成分(b)のうち、脂肪族ジオール成分(b1)は樹脂の縮重合反応速度を向上させるものであり、トナーの定着性の点から、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールが好ましい。また、特にエチレングリコールは反応性を高める効果が大きいため、特に好ましい。
脂肪族ジオール成分(b1)の含有量は特に制限されないが、ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)のそれぞれの樹脂において、全酸成分100モル部に対して、100モル部以下の範囲であることが好ましい。脂肪族ジオール成分(b1)の含有量が100モル部以下の場合に、ポリエステル樹脂のガラス転移温度および樹脂強度を高く維持することができ、トナーの耐ブロッキング性が良好となる傾向にある。脂肪族ジオール成分(b1)の含有量の上限値は、80モル部以下であることが特に好ましい。
脂肪族ジオール成分(b1)の含有量の下限値は、特に制限されないが、ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)のそれぞれの樹脂において、全酸成分100モル部に対して1モル部以上であることが好ましい。これは、脂肪族ジオール成分を1モル部以上含有する場合に、ポリエステル樹脂の縮合反応性が良好となり、後述するように、ポリエステル樹脂の酸価と水酸基価の合計が35mgKOH/g以下となるように制御することができる傾向にあるからである。脂肪族ジオール成分(b1)の含有量の下限値は、5モル部以上がより好ましく、10モル部以上がさらに好ましく、25モル部以上が特に好ましい。
また、ジオール成分(b)のうち、芳香族ジオール成分(b2)は、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を上げ樹脂強度を付与し、ポリエステル樹脂の低分子量成分を低減させるものであり、トナーの耐ブロッキング性を良好とするとともに、樹脂の反応性を制御するための成分である。この点から、特に、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
芳香族ジオール成分(b2)の含有量は、特に制限されないが、ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)のそれぞれの樹脂において、全酸成分100モル部に対して20〜140モル部であることが好ましい。芳香族ジオール成分(b2)が、20モル部以上の場合に、ポリエステル樹脂のガラス転移温度を高く維持することができ、トナーの耐ブロッキング性が良好となる傾向にある。また、芳香族ジオール成分(b2)が140モル部以下の場合に、反応性を低下させることがなく、目的の重合度まで反応を進行させることができる傾向にある。芳香族ジオール成分(b2)の下限値は30モル部以上がより好ましく、また、上限値は130モル部以下がより好ましい。
一方、ジオール成分(b)のうち、ポリエーテルグリコール成分(b3)は、樹脂のガラス転移温度を下げ、トナーの定着性を良好にする効果を有する。ポリエーテルグリコール成分(b3)の含有量は、特に制限されないが、ポリエステル樹脂(A)またはポリエステル樹脂(B)のそれぞれの樹脂において、全酸成分100モル部に対して0.1〜10モル部であることが好ましい。ポリエーテルグリコール成分(b3)の含有量が0.1モル部以上の場合に、低温定着性が良好となる傾向にあり、10モル部以下の場合に、貯蔵安定性が良好となる傾向にある。ポリエーテルグリコール成分の下限値は0.5モル部以上がより好ましく、また、上限値は8モル部以下がより好ましい。
また、本発明においては、ポリエステル樹脂を構成する成分として、必要に応じて3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の多価アルコール成分(c)を使用することができる。3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の多価アルコール成分(c)は、ポリエステル樹脂に凝集性を付与し、耐ホットオフセット性を高める効果がある。
3価以上の多価カルボン酸としては、特に制限されないが、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸またはこれらの酸無水物等が挙げられる。また、3価以上の多価アルコールとしては、特に制限されないが、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタトリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。中でも、トリメリット酸またはその酸無水物、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンが好ましい。
これら3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の多価アルコール成分(c)は、単独または2種以上を組合わせて使用することができる。
本発明においては、3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の多価アルコール成分(c)の含有量は、特に制限されないが、ポリエステル樹脂(A)においては、ポリエステル樹脂(A)の全酸成分100モル部に対して0.1〜50モル部が好ましい。ポリエステル樹脂(A)における3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の多価アルコール成分(c)が、0.1モル部以上の場合に、サリチル酸金属錯体と架橋反応した場合に、トナーの弾性率が高くなる傾向にあり、50モル部以下の場合に、ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度が過度に高くならず、トナーの定着性および発色性を良好とすることができる傾向にある。ポリエステル樹脂(A)におけるこの成分(c)の含有量の下限値は、1モル部以上がより好ましく、3モル部以上がさらに好ましく、5モル部以上が特に好ましく、10モル部以上が最も好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)におけるこの成分(c)の含有量の上限値は、45モル部以下がより好ましく、40モル部以下がさらに好ましく、30モル部以下が特に好ましく、20モル部以下が最も好ましい。
また、この成分(c)のポリエステル樹脂(B)における含有量は、特に制限されないが、ポリエステル樹脂(B)の全酸成分100モル部に対して15モル部以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂(B)における成分(c)の含有量が15モル部以下である場合に、低温定着性が良好となる傾向にある。ポリエステル樹脂(B)における成分(c)の含有量の上限値は、10モル部以下がより好ましく、5モル部以下がさらに好ましく、3モル部以下が特に好ましい。また、ポリエステル樹脂(B)における成分(c)の含有量の下限値は、特に制限されず、成分(c)が含有されていなくてもよい。
また、本発明においては、ポリエステル樹脂の特性を損なわない限り、全酸成分100モル部に対し、10モル部以下の範囲で、上記以外のモノマーを使用してもよい。
ここで、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の混合比率は、特に制限されないが、トナーの低温定着性と耐ホットオフセット性のバランスから5:95〜95:5(質量比)の範囲であることが好ましく、10:90〜90:10(質量比)の範囲がより好ましく、25:75〜75:25(質量比)がさらに好ましく、40:60〜60:40(質量比)が特に好ましい。ポリエステル樹脂(A)の比率が、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計に対して5質量%以上の場合に、耐ホットオフセット性が良好となる傾向にあり、95質量%以下の場合に低温定着性が良好となる傾向にある。
本発明のトナーは、ポリエステル樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)の他に、結着樹脂として、ポリエステル樹脂以外の樹脂を併用してもよい。
結着樹脂として併用するその他の樹脂としては、例えば、環状オレフィン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種以上を選択して使用することができ、これらの樹脂とポリエステル樹脂とを併用して使用することにより、定着性を向上させることができる傾向にある。
結着樹脂として、これらの樹脂を併用する場合は、ポリエステル樹脂(A)とポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対して、30質量部以下の範囲で併用することが好ましい。これは30質量部以下の範囲で併用することによって目的の効果を発揮することができるためである。併用する他の樹脂の含有量の上限値は、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
結着樹脂の含有量は、特に制限されないが、トナー全量中30〜98質量%であることが好ましい。結着樹脂の含有量が30質量%以上の場合に、低温定着性が良好となる傾向にあり、98質量%以下の場合に、画像安定性が良好となる傾向にある。結着樹脂の含有量の下限値は35質量%以上がより好ましく、また、上限値は95質量%以下がより好ましい。
本発明のトナーは、荷電制御剤としてサリチル酸金属錯体(C)を含有する。
サリチル酸金属錯体(C)は、一般にトナーにおいては、荷電制御剤として作用するものであるが、本発明においては、荷電制御剤として作用するとともに、ポリエステル樹脂(A)との架橋反応を起こさせる架橋剤として作用するものである。サリチル酸金属錯体(C)以外の荷電制御剤では、ポリエステル樹脂(A)と架橋反応を起こさず、耐ホットオフセット性の高いトナーを得ることができない。
サリチル酸金属錯体(C)の配位金属としては、特に制限されず、例えば、クロム、ジルコニウム、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、鉄などが挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂(A)との架橋反応の面から、クロムとジルコニウムが好ましい。
サリチル酸金属錯体(C)の含有量は、特に制限されないが、トナー全量中0.5〜5質量%の範囲が好ましい。サリチル酸金属錯体(C)の含有量が、0.5質量%以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなると同時に、ポリエステル樹脂(A)との架橋反応が十分進行する傾向にあり、5質量%以下の場合にサリチル酸金属錯体(C)の凝集による帯電量の低下が抑制される傾向にある。この含有量の下限値は0.8質量%以上であることがより好ましい。
本発明のトナーは、ポリエステル樹脂(A)とサリチル酸金属錯体(C)とが、トナー化時に架橋反応することによって、トナーの弾性率が高くなり、耐ホットオフセット性を発現するものである。その架橋反応が起こっているか否かは、サリチル酸金属錯体(C)を含有しない場合の軟化温度(T4B)とサリチル酸金属錯体(C)を含有する場合の軟化温度(T4A)とを比較することにより、判断することができる。
すなわち、下記式(1)を満足する場合に、ポリエステル樹脂(A)とサリチル酸金属錯体(C)とが架橋反応を起こしている。
(T4A)−(T4B)≧2℃ (1)
なお、ここで、(T4A)および(T4B)は、トナーが、非磁性トナーまたは磁性トナーである場合において、それぞれ以下に示す軟化温度のことである。
(非磁性トナーの場合)
(T4A):非磁性トナーを構成する成分のうち、成分(A)、成分(B)、成分(C)、離型剤成分、および着着剤成分からなる組成物を溶融混練して得られた組成物の軟化温度。
(T4B):非磁性トナーを構成する成分のうち、成分(A)、成分(B)、離型剤成分、および着色剤成分からなる組成物を溶融混練して得られた組成物の軟化温度。
(磁性トナーの場合)
(T4A):磁性トナーを構成する成分のうち、成分(A)、成分(B)、成分(C)、離型剤成分、および着着剤成分からなる組成物を溶融混練して得られた組成物の軟化温度。
(T4B):磁性トナーを構成する成分のうち、成分(A)、成分(B)、離型剤成分、および着色剤成分からなる組成物を溶融混練して得られた組成物の軟化温度。
すなわち、式(1)は、本発明のトナーにおいて、ポリエステル樹脂(A)とサリチル酸金属錯体(C)とが架橋反応を起こす結果、サリチル酸金属錯体(C)を含有しない場合の軟化温度(T4B)に比べて、サリチル酸金属錯体(C)を含有する場合の軟化温度(T4A)が高くなることを示すものである。そして、その差が2℃以上である場合に、トナーの耐ホットオフセット性が良好となる。この差の下限値は5℃以上が好ましく、8℃以上が特に好ましい。
(T4A)と(T4B)との差の上限値は、特に制限されないが、トナーの製造安定性の面からは、100℃以下が好ましく、80℃以下が特に好ましい。
また、この差の上限値は、トナーの低温定着性の面から、30℃以下がさらに好ましく、15℃以下が特に好ましい。
また、本発明のトナーには、荷電制御剤として、サリチル酸金属錯体(C)に加えて、各種の荷電制御剤を併用することが出来る。サリチル酸金属錯体(C)以外の荷電制御剤としては、特に制限はなく、従来電子写真用に用いられている荷電制御剤を使用することが出来る。負帯電性の荷電制御剤としては、例えば、オリエント化学社製のボントロンS−31、ボントロンS−32、ボントロンS−34、ボントロンS−36等、保土ヶ谷化学社製のアイゼンスピロンブラックTVH等の含金属アゾ染料;ヘキスト社製のCopy Charge NX VP434等の四級アンモニウム塩;銅フタロシアニン染料等が挙げられる。また、正帯電性の荷電制御剤としては、例えば、四国化成社製のPLZ−2001、PLZ−8001等のイミダゾール誘導体;ヘキスト社製のCopy Charge BLUE PR等のトリフェニルメタン誘導体;オリエント化学社製のボントロンP−51、ヘキスト社製のCopy Charge PXVP435、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド等の四級アンモニウム塩;オリエント化学社製のAFP−B等のポリアミン樹脂等が挙げられる。本発明では、以上の荷電制御剤の1種または2種以上を使用することが出来る。また、主荷電制御剤と逆極性の荷電制御剤との併用も可能である。
これら、サリチル酸金属錯体(C)以外の荷電制御剤の含有量は、特に制限されないが、トナー全量中0.1〜5質量%の範囲が好ましい。この含有量が0.1質量%以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなる傾向にあり、5質量%以下の場合に凝集による帯電量の低下が抑制される傾向にある。
本発明のトナーは、結着樹脂として前記のポリエステル樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)を、並びに荷電制御剤としてサリチル酸金属錯体(C)を含有するものであるが、必要に応じて、これに離型剤、着色剤、流動改質剤、磁性体等を配合することことができる。
離型剤としては、特に制限されず、例えば、ポリオレフィン系ワックス、シリコン系ワックス、アミド系ワックス、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、高級アルコール、エステル系ワックス等が挙げられる。
離型剤の含有量は、特に制限されないが、トナー全量中0.3〜15質量%の範囲が好ましい。離型剤の含有量が、0.3質量%以上の場合に離型性が良好となる傾向にあり、15質量%以下の場合にトナーの保存性並びに定着性が良好となる傾向にある。この含有量の下限値は0.5質量%以上であることがより好ましく、また、上限値は10質量%以下であることがより好ましい。
着色剤としては、一般に使用されているカーボンブラック、有彩色の顔料および染料が使用でき、特に限定はない。カラートナーの場合には、例えば、C.I.ソルベントイエロー21、C.I.ソルベントイエロー77、C.I.ソルベントイエロー114、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド128、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド13、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド48・2、C.I.ディスパースレッド11、C.I.ソルベントブルー25、C.I.ソルベントブルー94、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー15・3等が挙げられる。
着色剤の含有量は、特に制限されないが、トナーの色調や画像濃度、熱特性の点から、トナー全量中2〜10質量%の範囲が好ましい。この含有量の下限値は3質量%以上であることがより好ましく、また、上限値は8質量%以下であることがより好ましい。
流動性向上剤としては、特に制限されないが、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウムチタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ藻土、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。
流動性向上剤の含有量は、特に制限されないが、トナー100質量部に対して0.1〜5質量部の範囲が好ましい。流動性向上剤の含有量が、0.1質量部以上の場合にフィルミングが抑制される傾向にあり、5質量部以下の場合に定着性が良好となる傾向にある。この含有量の下限値は0.2質量部以上であることがより好ましく、また、上限値は3質量部以下であることがより好ましい。
本発明のトナーは、磁性トナー、非磁性トナーのいずれのトナーとしても使用できる。また、磁性トナー、非磁性トナーのいずれの場合においても、1成分系トナー、2成分系トナーとして、どちらでも使用できる。
本発明のトナーを磁性トナーとして用いる場合には、トナー中に磁性体を含有する。磁性体としては、例えば、フェライト、マグネタイト等をはじめとする、鉄、コバルト、ニッケル等を含む強磁性の合金;マンガン−銅−アルミニウム、マンガン−銅−スズ等のマンガンと銅とを含む所謂ホイスラー合金等のように、化合物や強磁性元素を含まないが適当に熱処理することによって強磁性を表すようになる合金;二酸化クロム等が挙げられる。
これらの磁性体の含有量は、特に制限されないが、トナー全量中30〜70質量%の範囲であることが好ましい。磁性体の含有量が30質量%以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなる傾向にあり、70質量%以下の場合にトナーの定着性が良好となる傾向にある。この磁性体の含有量の下限値は40質量%以上であることがより好ましく、上限値は60質量%以下であることがより好ましい。
また、本発明のトナーを2成分系トナーとして用いる場合には、キャリアと併用して用いられる。キャリアとしては、鉄粉、マグネタイト粉、フェライト粉などの磁性物質、それらの表面に樹脂コーティングを施したもの、磁性キャリア等の公知のものを使用することができる。樹脂コーティングキャリアのための被覆樹脂としては、一般に知られているスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル共重合系樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、それらの樹脂の混合物などを使用することができる。併用するキャリアの量としては、特に制限されないが、トナー100質量部に対して900質量部以上の場合にトナーの帯電量が充分なレベルとなる傾向にあり好ましい。
次に、本発明のトナーに結着樹脂として用いるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
本発明のトナーに結着樹脂として用いるポリエステル樹脂の製造方法は、特に制限されず、公知のポリエステル樹脂の製造方法を用いて製造することができる。例えば、前記の成分(a)および成分(b)、さらに所望によりこれらに加えて成分(c)を反応容器に投入し、加熱昇温して、エステル化反応またはエステル交換反応を行う。エステル化反応またはエステル交換反応の温度は、特に制限されないが、150〜300℃であることが好ましい。エステル化反応またはエステル交換反応の温度が150℃以上である場合に、反応率を十分上げることができる傾向にあり、300℃以下である場合に分解反応を抑制することができる傾向にある。この反応温度の下限値は180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましく、220℃以上が特に好ましく、240℃以上が最も好ましい。また、上限値は290℃以下がより好ましく、280℃以下が特に好ましい。
次いで、常法に従って該反応で生じた水またはアルコールを除去する。その後引き続き重合反応を実施するが、このとき150mmHg(20kPa)以下の真空下でジオール成分を留出除去させながら縮重合を行う。縮重合反応の温度は、特に制限されないが、150〜300℃であることが好ましい。縮重合反応の温度が150℃以上である場合に、反応率を十分上げることができる傾向にあり、300℃以下である場合に分解反応を抑制することができる傾向にある。この反応温度の下限値は180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましく、220℃以上が特に好ましい。また、上限値は290℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましく、260℃以下が特に好ましい。
また、真空度は100mmHg(13.3kPa)以下がより好ましく、50mmHg(6.7kPa)以下が特に好ましい。
なお、本発明において、ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/g以下とする方法については、特に制限されない。ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/g以下とするためには、基本的には、縮合反応を進めて高分子量化し、ポリエステル樹脂の反応基末端(カルボキシル基または水酸基)の数を減らせばよい。
しかしながら、反応の進行に伴って系が高粘度となるため、ある程度の縮合度まで反応が進むと、反応速度が極端に小さくなり、ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/g以下とするためにかなりの長時間を要し、工業的に製造することが困難となる傾向にある。また、縮合反応を長時間行った場合でも、ある程度の縮合度まで反応が進むと、実質的にそれ以上反応が進行しなくなり、ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/g以下とすることができない場合もある。
そこで、ポリエステル樹脂(A)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/g以下とするためには、ジオール成分として脂肪族ジオールを含有するジオールを用い、仕込みモノマーの水酸基の総モル数(MOH)と仕込みモノマーのカルボキシル基の総モル数(MCOOH)との比(MOH/MCOOH)を1.1〜1.3となるように仕込んで反応させることが好ましい。このモル比(MOH/MCOOH)が1.1以上となるようにジオールを仕込むことによって、エステル化反応時に酸価を下げることができる傾向にあり、また、このモル比が1.3以下となるように仕込むことによって、重縮合時に過剰な脂肪族ジオールを系外に留出させて水酸基価を下げることができる傾向にある。その結果、酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/g以下に制御することができる傾向にある。
このモル比の下限値は、1.12以上がより好ましく、1.15以上がさらに好ましく、1.17以上が特に好ましい。また、モル比の上限値は1.28以下がより好ましく、1.25以下がさらに好ましく、1.23以下が特に好ましい。
なお、本発明において、ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/gを越えるようにする方法については、特に制限されない。ポリエステル樹脂(B)の酸価と水酸基価の合計を35mgKOH/gを越えるようにするためには、基本的には、縮合度をそれほど上げずに、反応を終了させればよい。
また、エステル化反応、エステル交換反応、縮重合時に用いる触媒としては、特に制限されず、チタンブトキサイド、ジブチルスズオキサイド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、ニ酸化ゲルマニウム等の公知の触媒を用いることができる。
重合温度、触媒量については特に限定されるものではないが、高温で副生物として発生する脂肪族ジオール成分を低減させるためには、比較的反応温度が低い領域でも反応する触媒を選択することが好ましい。例えば、三酸化アンチモン、チタンブトキサイド、そしてジブチルスズオキサイドが好適に使用される。
また、架橋構造を有するポリエステル樹脂を製造する場合には、高真空下で脂肪族ジオール成分を留出除去させながら縮重合を進めてゆく課程で、ゲル化反応が生じ反応系内の粘度が急激に上昇するので、この粘度上昇に対応しながら、反応系内の真空度を調整してゲル化反応を制御するのが好ましく、所望の粘度に到達した時に反応系内の圧力を常圧に戻し、窒素により加圧して反応容器より樹脂を取り出すのが好ましい。
次に、本発明のトナーの製造方法について説明する。
本発明のトナーの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、結着樹脂として上述のポリエステル樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)を、荷電制御剤としてサリチル酸金属錯体(C)を、その他、離型剤、着色剤、並びに所望により磁性体等を混合した後、2軸押出機などで溶融混練し、粗粉砕、微粉砕、分級を行い、必要に応じて無機粒子をトナー表面に付着させて製造することができる。特に、混練工程においては、押出機のシリンダー内温度がポリエステル系樹脂の軟化温度よりも高い温度で混練するのが好ましい。また、上記工程において、微粉砕〜分級後にトナー粒子を球形にするなどの処理を行ってもよい。
特に、本発明においては、この溶融混練工程において、ポリエステル樹脂とサリチル酸金属錯体とを反応させてポリエステル樹脂を架橋し、トナーを高弾性化させるものである。この架橋反応の面から、溶融混練温度は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
以下に実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例に示した樹脂およびトナーの評価方法を以下に示す。
・樹脂評価方法
(1)軟化温度T4
島津製作所社製フローテスターCFT−500を用いて、1mmφ×10mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/minの等速昇温下で、サンプル1.0g中の4mmが流出したときの温度を測定した。
(2)ガラス転移温度Tg
島津製作所社製示差走差熱量計DSC−60を用いて、昇温速度5℃/minにおけるチャートのベースラインと吸熱カーブの接線との交点からの測定した。
(3)酸価AV
ポリエステル樹脂をベンジルアルコールに溶解させ、1/50N NaOHベンジルアルコール溶液にて滴定し、KOH換算した。
(4)水酸基価OHV
ポリエステル樹脂をピリジン存在下で無水酢酸と過熱反応させ水酸基をアセチル化する。その後、過剰の無水酢酸を加水分解し酢酸とした後、水酸化ナトリウム溶液で滴定し、無水酢酸の消費量から水酸基価を求め、KOH換算した。
(5)重量平均分子量Mw
GPC法によりポリスチレン換算値を以下の条件下で求めた。
装置:東洋ソーダ工業(株)製、高速GPC装置「CP8000」
カラム:東洋ソーダ工業(株)製、TSKgelG5000HXLとTSKgelG3000HXLを2本直列に連結に連結
オーブン温度:40℃
溶離液:クロロホルム
試料濃度:3mg/10mL
濾過条件:0.45μmテフロン(登録商標)メンブレンフィルターで試料溶液を濾過
流速:1ml/分
注入量:0.1ml
検出器:RI(示差屈折計)
・トナー評価方法
(1)耐ホットオフセット性の評価法
シリコーンオイルが塗布されていない定着ローラーを有し、ローラー速度100mm/秒に設定した温度変更可能であるプリンター(カシオ計算機(株)製SPEEDIA N4−614)を用いて印刷を行い、耐ホットオフセット性の評価を行った。また、定着時に定着ローラーにトナーが移行するときの最高温度をオフセット発生温度と定め、以下の基準を用いて非オフセット性を判断した。
◎(非常に良好):オフセット発生温度が200℃以上
○(使用可能) :オフセット発生温度が190℃以上200℃未満
×(劣る) :オフセット発生温度が190℃未満
(2)定着性の評価法
耐ホットオフセット性の評価方法と同一条件でトナーを紙に定着させたときに、トナーが紙に定着し始めるときの最低温度を定着温度とし、次の基準で判定した。
◎(非常に良好):定着温度が140℃未満
○(使用可能) :定着温度が140℃以上150℃未満
×(劣る) :定着温度が150℃以上
[樹脂製造例1]
蒸留塔備え付けの反応容器に、テレフタル酸:85mol部、トリメリット酸:15mol部、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:50mol部、エチレングリコール:80mol部を仕込み、さらにジブチルスズオキサイドを全酸成分に対して500ppmとなるように仕込んだ。次いで、撹拌回転数を24rpm、反応系内温度265℃の条件でエステル化反応を行った。エステル化反応は、水が留出しなくなった時点で終了させた。
さらに、反応系内の温度を245℃に保ち、反応容器内の真空度を約40分かけて1.0mmHg以下となるよう減圧し、反応系からジオール成分を留出させ、樹脂が所望の軟化温度となるまで縮合反応を行った。反応とともに、系内の粘度が徐々に上昇しはじめ、所望の軟化温度に相当する粘度となった時点で反応系を常圧に戻し、加熱を停止した後、反応物を窒素により加圧して約2時間かけて取り出し、ポリエステル樹脂Aを得た。ポリエステル樹脂AのTg:63℃、軟化温度:130℃、酸価と水酸基価の和:23mgKOH/g(酸価:7mgKOH/g、水酸基価:16mgKOH/g)であった。また、得られた樹脂の組成を表1に示す。
[樹脂製造例2]
組成を以下の変えることを除いて樹脂製造例1と同様にしてポリエステル樹脂Bを得た。テレフタル酸:100mol部、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:50mol部、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:40mol部、エチレングリコール:25mol部。ポリエステル樹脂BのTg:60℃、軟化温度:100℃、酸価と水酸基価の和:43mgKOH/g(酸価:7mgKOH/g、水酸基価:36mgKOH/g)であった。また、得られた樹脂の組成を表1に示す。
[樹脂製造例3]
組成を以下の変えることを除いて樹脂製造例1と同様にしてポリエステル樹脂Cを得た。テレフタル酸:85mol部、トリメリット酸:15mol部、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:50mol部、エチレングリコール:65mol部。ポリエステル樹脂CのTg:60℃、軟化温度:118℃、酸価と水酸基価の和:39mgKOH/g(酸価:27mgKOH/g、水酸基価:12mgKOH/g)であった。また、得られた樹脂の組成を表1に示す。
[樹脂製造例4]
組成を以下の変えることを除いて樹脂製造例1と同様にしてポリエステル樹脂Dを得た。テレフタル酸:85mol部、トリメリット酸:15mol部、ポリオキシプロピレン−(2.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン:50mol部、エチレングリコール:95mol部。ポリエステル樹脂CのTg:61℃、軟化温度:130℃、酸価と水酸基価の和:42mgKOH/g(酸価:5mgKOH/g、水酸基価:37mgKOH/g)であった。また、得られた樹脂の組成を表1に示す。
[実施例1]
結着樹脂としてポリエステル樹脂A82.6質量部およびポリエステル樹脂B9.2質量部、キナクリドン顔料(クラリアント社製E02)を4.6質量部、カルナバワックス(東洋ペトロライト社製、カルナバワックス1号)2.7質量部、荷電制御剤としてサリチル酸クロム錯体(オリエント化学社製E−81)0.9質量部をヘンシェルミキサーで30分間混合し、得られた混合物を二軸押出機(池貝製作所社製、PCM29)で溶融混練した。溶融混練温度は120℃に設定して行った。混練後、冷却しトナーを得、ジェットミル微粉砕機で微粉砕し、分級機でトナーの粒径を整え、粒径を7μmとした。得られた微粉末100質量部に対して、0.25質量部のシリカ(日本アエロジル社製、R−972)を加え、ヘンシェルミキサーで混合しトナー表面へシリカを付着させ、トナーTAを得た。得られたトナーの軟化温度(T4A)は、140℃であった。その他のトナー評価結果を表2に示す。
また、サリチル酸クロム錯体を用いないこと以外は、上記方法と同様の方法でトナーを得た。得られたトナーの軟化温度(T4B)は、123℃であった。
[実施例2〜3]
仕込み組成を表2のように変えることを除いては、実施例1と同様にしてトナーTB〜TCを得た。得られたトナーの軟化温度(T4A)を評価した。トナー評価結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、サリチル酸クロム錯体を用いずにトナー化を行い、軟化温度(T4B)を評価した。結果を表2に示す。
[比較例1〜5]
結着樹脂としてポリエステル樹脂A90質量部およびポリエステル樹脂B10重量部の代わりに表2に示す樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にトナーを得て、軟化温度(T4A)を評価した。トナー評価結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、サリチル酸クロム錯体を用いずにトナー化を行い、軟化温度(T4B)を評価した。結果を表2に示す。
[実施例4]
荷電制御剤として、サリチル酸クロム錯体を3質量部用いた以外は、実施例2と同様にトナーを得て、軟化温度(T4A)を評価した。トナー評価結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、サリチル酸クロム錯体を用いずにトナー化を行い、軟化温度(T4B)を評価した。結果を表2に示す。
[実施例5]
荷電制御剤として、サリチル酸クロム錯体の代わりにサリチル酸ジルコニウム錯体(保土ヶ谷化学工業社製TN−105)を1質量部用いた以外は、実施例2と同様にトナーを得て、軟化温度(T4A)を評価した。トナー評価結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、サリチル酸ジルコニウム錯体を用いずにトナー化を行い、軟化温度(T4B)を評価した。結果を表2に示す。
[比較例6]
荷電制御剤として、サリチル酸クロム錯体の代わりにサリチル酸ホウ素錯体(日本カーリッド社製LR−147)を1質量部用いた以外は、実施例2と同様にトナーを得て、軟化温度(T4A)を評価した。トナー評価結果を表2に示す。
また、実施例1と同様にして、サリチル酸ホウ素錯体を用いずにトナー化を行い、軟化温度(T4B)を評価した。結果を表2に示す。