本発明は、平均長軸長が100nm未満である微粒子状の磁性粉と結合剤とを溶剤中に分散させて磁性塗料を製造する方法と、これにより得られた磁性塗料を用いて磁気記録媒体を製造する方法に関する。
磁気記録媒体には大きく分けてテープ状のものとディスク状のものとがあるが、ここではテープ状のもの、すなわち磁気テープについて説明する。磁気テープには、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータテープなど種々の用途がある。このうち、コンピュータテープ(コンピュータのデータバックアップに用いられる磁気テープで、バックアップテープともいわれる)の分野では、バックアップ対象となるハードディスクの大容量化に伴い、1巻当たり数100GB以上の記憶容量のものが商品化されている。今後もハードディスクのさらなる大容量化に対応するためバックアップテープの高容量化は不可欠であり、そのためには記録波長を短くして線密度を高めるとともに、トラック幅を狭くしてトラック密度を高め、全体として高記録密度化をはかることが必要である。
コンピュータテープには、通常、いわゆる塗布型の磁気テープが用いられている。この種の磁気テープは、例えば次のようにして製造される。まず、磁性粉を結合剤溶液と混合し、なるべく磁性粉に結合剤がなじむようにニーダ等で混練する。さらに、攪拌しながら溶剤を徐々に加えて流動性のある塗料とし、あるていど混合・攪拌したところで、サンドミル等の分散機でさらに強力に混合・攪拌して磁性粉を分散させる。また、このような工程中の所定の時点でフィラーや潤滑剤が添加され、これらが均一に混ざるように攪拌される。次いで、こうして得られた磁性塗料に硬化剤(架橋剤)を添加したうえで、ポリエステルなどのベース(可撓性支持体)上に磁性層塗膜を形成すべく磁性塗料を素早く塗布する。その後、例えば、外部磁場により磁性層中の磁性粉を所定方向に配向させる磁場配向処理や、磁性層の表面を平滑にするカレンダー処理等の表面処理、さらにはテープを所定幅に裁断する裁断処理等の工程をへて、完成品としての磁気テープを得る。
このような塗布型磁気記録媒体における高密度化に対応するため、磁性粉としては、長軸長が小さく、飽和磁化σsで代表される磁気エネルギーの大きな強磁性金属粉末が使用されるようになってきている。ところが微粒子化や高磁気エネルギー化するほど、磁性粉個々の粒子の凝集力が強くなる。
磁気記録媒体の高記録密度化には、上記のような磁気エネルギーの大きな磁性粉を使用することに加えて、表面の平滑化によるスペーシングロスの低減、磁性層の薄膜化、及び磁性粒子の保磁力分布の均一化が必要である。また磁気記録媒体として十分な性能を発揮するためには、その表面欠陥によるドロップアウトの低減、及び長時間かつ多数回の使用に耐えうる高耐久性の両者を兼ね備えていることが求められる。これらの要求を満たすためには、磁性塗料の分散を十分に行っておく必要がある。
一般に磁性塗料は、磁性粒子、結合剤成分、有機溶剤及びその他の必要成分からなる磁性塗料組成物を、ガラスビーズ等の分散用媒体を混合槽内に充填したロールミル、ボールミルまたはサンドミルといった媒体分散型の分散機に供給し、混合槽内に設けた攪拌手段で分散用媒体とともに強制攪拌する分散工程を経て製造されている。しかし、上述のように高性能の磁性粉は、磁性粉同士が集合して凝集体を形成する傾向が大であるために、この分散工程において塗料成分を溶剤中に均一に分散させることは容易ではない。このため、従来のガラスビーズを分散用媒体として使用する磁性塗料の製造方法では、高密度化のために必要な、短波長における高い再生出力、C/N比を得るのに十分な分散性や表面平滑性が得られないといった問題があり、また磁性塗料中に磁性粒子同士の凝集体があると磁性層表面に微細な欠陥が形成されるという問題があった。
そこで、従来においては例えば特許文献1〜4に示されているように、ガラスビーズに比較して比重が大きいジルコンビーズやジルコニアビーズ等のセラミックビーズを分散用媒体として使用する方法が提案されている。特に、特許文献4では、分散用媒体として、平均粒子径が1mm以下のセラミックビーズやジルコニアビーズを使用し、これらの分散用媒体の重さ、分散液粘度、媒体分散機に内設される攪拌装置の周速等を所定の式を満足するように設定することが提案されている。さらに、特許文献5には、重量飽和磁束密度が高い薄層の磁性層を実現するために、これに用いる磁性塗料を製造する際に、平均粒子径が0.1mmという微粒子状のジルコニアビーズを用いて分散を行うことが開示されている。そこには、磁性塗料を構成する磁性粉として、平均長軸長が100nmあるいは60nmといった微粒子状の強磁性粉末を使用した例も記載されている。
ところで、分散機を用いて作製された磁性塗料はフィルタリングが行われた後、ホモジナイザーを通してから塗布装置を用いて可撓性支持体上に塗布される。ホモジナイザーを使用するのは、停滞中に再凝集してしまう磁性塗料を再分散させるためであるが、ホモジナイザーは構造的な点で、磁性塗料の再凝集を完全には防げないといった問題点があった。このため、従来においては、停滞した磁性塗料を再分散させる手段として超音波分散機を用いることも提案されている(特許文献6、特許文献7)。
特開昭60−211637号公報(第2頁−4頁、第2図)
特開昭64−57422号公報(第2頁−4頁、第1図)
特開平1−290122号公報
特開2001−81406号公報
特開2003−91807号公報(第2頁−3頁、第7、9頁)
特開平5−210843号公報
特開平7−153074号公報
しかしながら、上述の特許文献1−3、6、7に記載の技術は、平均長軸長が0.1μm(100nm)以上の磁性粉末粒子を対象としたもので、分散用媒体には平均粒子径が0.3μm以上のものが用いられていることから、本発明が対象としている平均長軸長100nm未満の磁性粉を使用した磁気記録媒体に供するための磁性塗料の製造には不十分であった。
また、これらの技術においては、支持体への塗布直前に超音波分散機により磁性塗料の再分散を行っているが、一般に超音波分散機の分散能力は微粒子、高磁気エネルギーの磁性粉を再分散させるには不十分であり、微粒子状の磁性粉を使用した磁性塗料においては再凝集物が残ってしまうという問題点があった。
一方、先の特許文献5に記載の技術では、平均粒子径が0.1mmという微粒子状のジルコニアビーズを用いて分散を行っているものの、磁性塗料の分散性を高めるという観点や分散を効率良く行うという観点からは、分散用媒体とこれによって分散される磁性粉との関係や、分散時の塗料粘度や攪拌条件等について、必ずしも十分な注意が払われているとは言い難い。
この点、前記特許文献4に記載の技術においては、分散性を高めるための要因の一つに磁性塗料の粘度と分散用媒体の比重等との関係があり、これを考慮して分散条件を設定しているが、用いる分散用媒体の平均粒子径が0.3〜0.8mmが好ましいとされている点や、分散される磁性粉の平均長軸長が100nm以上である点で、先の特許文献1−3等に記載の技術と同様の問題がある。さらに、媒体分散型の分散機を用いて磁性塗料の分散を行うにあたり、分散効率を上げ、かつ高い分散性を得るには、分散される磁性粉の粒子サイズに応じて最適な分散用媒体を使用する必要があると思われるが、特許文献4では、磁性粉の微粒子化に伴って、使用する分散用媒体の径もより小さくする必要があるとの指摘は行われているものの、使用する分散用媒体の平均粒子径および比重を、分散対象である磁性粉の粒子サイズに対応させて具体的にどのような範囲に設定すればよいかといった点までは示されていない。この点で、特許文献4記載の方法は、平均長軸長が100nm未満の磁性粉を含む磁性塗料を効率良く分散させる技術として未だ満足できるものではない。
本発明は、従来の磁性塗料の製造方法における上述のような問題点を解消し、微粒子化や高磁気エネルギー化した磁性粉を用いた場合に、高比重で小径の分散用媒体により高密度記録に適した分散性の高い磁性塗料を効率よく製造することのできる製造方法を提供することを目的とし、さらにはこれを用いて磁気特性及び電磁変換特性に優れた高密度記録に好適な磁気記録媒体を実現することを目的とする。更に本発明は、塗料製造の最終段階で且つ塗料工程の直前に、分散工程を行うことにより、塗料製造工程においてどうしても発生してくる磁性塗料の再凝集を回避し、もって高品位の磁気記録媒体を実現することを目的とする。
また本発明は、上記の高比重で小粒径の分散用媒体を用いた分散を行うにあたり、前記分散用媒体よりも粒径の大きな分散用媒体を使用した分散を前もって行っておくことにより、磁性塗料の分散性をさらに高めることのできる方法を提供することを目的とする。
分散させる磁性粒子が平均長軸長100nm未満であるような超微粒子である場合、分散工程に使用する分散用媒体も0.3mm以下という小粒径のビーズを採用し、かつその比重と平均粒子径を所定の式を満足するように設定することが効果的である。このような小粒径ビーズを用いた分散は、塗料の再凝集を防ぐために、塗料を最終調整しフィルタリングを行った後、可撓性支持体に塗布する直前に、再分散工程として行うことがより効果的である。また、このように塗料最終調整後に前記小粒径ビーズを用いる分散を行う場合には、前記フィルタリングの前に、前段階の分散工程として、前記小粒径のビーズよりも所定量だけ粒径の大きなビーズを用いた分散(前分散)をあらかじめ行っておくのが効果的である。
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、混合槽と、この混合槽内に設けられた攪拌手段とを備えた媒体分散型の分散機を用い、前記混合槽内に、ビーズ状の分散用媒体を投入した状態で、平均長軸長Dが100nm未満(0<D<100:単位はnm)の磁性粉と結合剤と溶剤とを含む被分散物を供給し、前記攪拌手段を回転させて攪拌することにより、前記被分散物からなる磁性塗料の分散を行って磁気記録媒体に供する磁性塗料を製造するにあたり、次のように構成したものである。
すなわち、前記分散用媒体として下記式(1)および(2)を満たす分散用媒体を使用し、下記式(3)を満たすように分散を行う。この場合、下記式(4)をも満たすようにすれば、より分散効率を高めることができる。
(1) 0.02≦d≦0.3
(2) 300≦D/(ρb-0.75 ・d0.5 )≦900
(3) 0.02≦η/[(ρb−ρp)・d2 ・v2 ]≦0.1
(4) 30≦ρb・v≦80
ここで
D :磁性粉の平均長軸長(nm)
d :分散用媒体の平均粒子径(mm)
ρb:分散用媒体の密度(g/cm3 )
ρp:分散される磁性塗料の密度(g/cm3 )
η :分散される磁性塗料の粘度(Pa・s)
v :攪拌手段の回転先端部における周速(m/s)
なお、前記磁性塗料の粘度(η)としては、分散機に供給する前の塗料につき、M型粘度計を用いて剪断応力104 s-1、温度23℃で測定した値を採用する。
前記0.02≦d≦0.3(単位:mm)の分散用媒体を用いた分散に先立ち、平均粒子径d0 が0.3mm以上3.0mm以下(0.3≦d0 ≦3.0)の分散用媒体を使用して、媒体分散型の分散機により被分散物の分散(前段階の分散)を予め行っておくのが好ましい。前段階の分散を経ることによって全体として均一に分散された磁性塗料が、後段の小粒径分散用媒体(0.02≦d≦0.3:単位mm)を用いた分散(主分散)を経ることによって更に精密かつ均一に分散され、滞留中に生じた再凝集物も解消されるからである。このような観点から、後段の主分散は、後述するように可撓性支持体上への磁性塗料の塗布直前に行うのが好ましい。また、両分散の果たすべき上記のような役割の相違から、前記d0 とdとの比は、0.5以下(0<d/d0 ≦0.5)に設定するのが良い。
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、上記の方法により得られた磁性塗料を用いて磁気特性及び電磁変換特性に優れた高密度記録に好適な磁気記録媒体を得るもので、上記の方法により磁性塗料を製造する工程と、得られた磁性塗料を可撓性支持体に塗布する工程と、塗布された磁性塗料に対して外部磁場により磁場配向処理を行う工程と、磁場配向処理された磁性塗料を乾燥させる工程と、乾燥により形成された磁性塗膜の表面にカレンダー処理を施す工程とを含むものである。
本発明によれば、分散させる磁性粒子が平均長軸長100nm未満である場合において、0.3mm未満という小粒径で、かつ密度および平均粒子径が上述の式(1)および(2)を満足する分散用媒体を使用し、上述の式(3)を満足する分散条件の下で分散を行うこととしたので、上記のような超微粒子状の磁性粒子を含んだ分散性の高い磁性塗料を効率よく製造することができる。その場合、平均粒子径d0 が0.3mm以上3.0mm以下の分散用媒体を使用する前段の分散と、平均粒子径dが0.02mm以上0.3mm以下(ただし、0<d/d0 ≦0.5)の分散用媒体を使用する後段の分散(主分散)とを併用することで、磁性塗料の分散性をさらに向上させることができる。そして、本発明の磁気記録媒体の製造方法では、このようにして得られた超微粒子状の磁性粉を含む分散性の高い磁性塗料を使用するので、磁気特性及び電磁変換特性に優れた高密度記録に好適な磁気記録媒体を得ることができる。
本発明により磁性塗料を製造するにあたっては、前段の分散(前分散)と後段の分散(主分散)という2段階の分散工程を経る形態を採るのがよい。そこで、以下では、このような場合を例にとって説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、後述するような他の形態を採ることを排除するものではない。
図1に示すように、磁性塗料を製造するにあたっては、まずそれぞれ所定量の磁性粉、溶剤、結合剤、分散剤および添加剤を混合し、図示しないニーダー、二軸連続式混練装置(エクストルーダ)等の強力な混練機を用いて混練する(混練工程S1)。更に溶剤を加えて固形分濃度15〜45%(重量基準、以下同じ)に調製し、これを攪拌してペースト状の混練物、すなわちミルベースとして次の分散工程S3で分散される被分散物を得る(調整工程S2)。上記混練工程S1において使用される二軸連続式混練機には、その混練部(バレル)に加熱・冷却可能な装置が装備されており、当該混練部の温度が20〜50℃、好ましくは25〜35℃になるように制御することにより、混練物が所望の温度に調整される。上記混練部の温度が20℃未満であると、混練物へのぬれ性アップが図れず、次の分散工程で分散性を向上させることも難しくなる。また50℃を越えると、混練物の粘性が低下し、所望の剪断力を作用させることが困難になる。混練工程S1において混練する際の混練条件は、混練時間が2〜5分であるのが好ましく、混練物の供給速度が5〜15kg/hであるのが好ましい。また、二軸連続式混練機以外の混練機を用いてもかまわないが、この場合に二軸連続式混練機で行ったときと同等の性能を得るためには、混練時間を2〜5時間とすることが必要であり、混練部の温度は20〜50℃が好ましく、25〜35℃が更に好ましい。
次いで、サンドミル等の媒体分散型の分散機を用いた分散工程S3において、磁性塗料となる上記ミルベースの分散状態を向上させる。次に、上述のようにして混合・分散処理されたミルベースに必要に応じ溶剤を加えて粘度を下げる最終調製としてのレットダウンを行ってから(レットダウン工程S4)、フィルタにより濾過を行う(濾過工程S5)。その後、少なくとも、上述した平均粒子径dが0.02mm以上0.3mm未満の小粒径分散用媒体によるサンドミル分散を行う(主分散工程S6)。このようなサンドミル分散を再分散工程S6において、つまり磁性塗料を最終調製しフィルタを通した後、塗布するまでの間において行うことで、より再分散の効果を上げることができる。また、効率よりも分散性の向上を重視する場合には、このようなサンドミル分散と、ホモジナイザーによる分散あるいは超音波分散といった他の再分散手段とを任意に組み合わせることもできる。こうして得られた磁性塗料を可撓性支持体に塗布する(塗布工程S7)。
分散工程S6で使用される媒体分散型の分散機の代表例としてサンドミルを挙げることができる。サンドミル1は、例えば図2に示すように、その主たる構成要素として、磁性塗料となるミルベース(図示せず)およびビーズ状の分散用媒体Pを収容する横長円筒状のベッセル(混合槽)2と、このベッセル内に挿入配置されて図示しないモータにより回転駆動される回転軸3と、この回転軸3に取り付けられた多数の回転ディスク(攪拌手段)4とを有する。ベッセル2の一端側にはミルベースを供給するための入口2aが設けられ、他端側には分散処理されたミルベース(磁性塗料)を排出させるための出口2bが設けられている。
各回転ディスク4は、図3に示すように、所定形の円板状に形成されている。これらの回転ディスク4には、分散用媒体およびミルベースが万遍なく均一に攪拌されるように複数の溝や孔が設けられている。ポンプ等により入口2aからベッセル2内に送り込まれたミルベースは、回転駆動される多数の回転ディスク4により撹拌されて、ベッセル2内の分散用媒体による分散処理を受けながら、出口2bから排出される。
分散用媒体の材質には特に制約はないが、セラミック、特にジルコニアが耐磨耗度の点からより好ましい。すなわち、分散用媒体には、小径のセラミックビーズ、特にジルコミアビーズを用いるのが好ましい。分散工程S6で用いられる分散用媒体ρbの密度は、好ましくは2.0〜6.5g/cm3 であり、より好ましくは3.8〜6.0g/cm3 である。また、この場合の分散用媒体の平均粒子径dは0.02〜0.3mmであり、好ましくは0.05〜0.1mmである。分散用媒体の平均粒径が小さくなり過ぎると、分散処理後にミルベースと分散用媒体との分離が難しくなり、その結果、分散用媒体がミルベースを通じて、これを一方向に送るためのギアポンプ等の供給装置にまで漏出し、やがてはその部分が詰まった状態となって正常な運転ができなくなるおそれがある。従って、0.3mmより小さな平均粒径の分散用媒体は、分散用媒体とミルベースとの分離が可能であるという条件を満たしている場合に限り使用するのが望ましい。
分散用媒体それ自身の密度ρb(その値としては分散用媒体の比重を用いることができる)と平均粒子径dは、分散に供するミルベース中の磁性粉、つまり磁性塗料に含まれる磁性粉の平均長軸長Dによって、適切な値が選択される。平均長軸長Dが100nm未満の超微粒子の磁性粉を含んだ磁性塗料を分散処理するに当たり、分散が効率よく行われるようにするためには、磁性粉の平均長軸長Dに応じて分散用媒体の密度ρbおよび平均粒子径dを定める必要があるが、本発明者らの実験等によれば、その場合の選択基準として、上述の式(2)中に記載したパラメータ「D/(ρb-0.75 ・d0.5 )」の値を採用するのが良いことが判明した。このパラメータの値が300から900の範囲、好ましくは450から700の範囲となるような密度ρbおよび平均粒径を有する分散用媒体を使用し、かつ上述の式(3)を満たすように分散処理することで、上述の超微粒子状の磁性粉を含んだ磁性塗料の分散性を向上させることができる。このパラメータの値が300を下回るときは、分散させる磁性粉に対して、分散用媒体の比重が小さすぎるか、もしくは粒径が大きすぎることを意味し、超微粒子状の磁性粉を十分に分散させる能力を持っていないことになる。また前記パラメータの値が900を超えるときは、分散させる磁性粉に対して、分散用媒体の比重が大きすぎるか、もしくは粒径が小さすぎることを意味し、媒体の衝突力が大きすぎて磁性粉の折損を引き起こし、製造した磁気記録媒体の電磁変換特性や耐久性を劣化させてしまうおそれがある。
分散時における粘度η(Pa・s)は、分散される磁性塗料(ミルベース)の密度ρp(g/cm3 )と、分散用媒体の平均粒子径d(mm)・密度ρb(g/cm3 )および分散機における攪拌手段の回転先端部の周速v(m/s)に応じて設定する。ここでいう粘度ηは、リヨン社製M型粘度計1号ローターで測定した値であり、剪断速度は104 s-1に対応する。これらの特性値に対する上述の式(3)中におけるパラメータ「η/[(ρb−ρp) ・d2 ・v2 ]」の値は0.02から0.1の範囲、好ましくは0.03から0.08の範囲である。例えば磁性塗料の密度ρb=1g/cm3 、周速v=10m/s、分散用媒体の密度ρb=6g/cm3 とした場合、分散用媒体の平均粒子径dが1mmのときは30Pa・s付近の粘度が適当であるが、平均粒子径dが0.1mmのときは0.3Pa・s付近が適当となる。分散用媒体の密度ρbと磁性塗料の密度ρpとの差が大きく、分散用媒体の平均粒子径dおよび攪拌手段の回転先端部の周速vがともに大きく、かつ磁性塗料の粘度ηが低いとき、具体的には式(3)中のバラメータη/[(ρb−ρp) ・d2 ・v2 ]」の値が0.02未満のときは、分散用媒体の衝撃力が磁性塗料に伝わらず、磁性塗料を十分に分散をさせることができない。逆に分散用媒体の密度と磁性塗料の密度との差が小さく、分散用媒体の粒径及び攪拌手段の回転先端部の周速がともに小さくて磁性塗料の粘度が高い場合、具体的には前記バラメータ「η/[(ρb−ρp) ・d2 ・v2 ]」の値が0.1を超えた場合には、分散用媒体の流動性が落ち、同様に磁性塗料を十分に分散させることができない。
攪拌手段は、上述した回転ディスク3のようなディスク状のものに限られない。例えば、後述するような回転ドラムの外周に設けられたピン状の攪拌手段や、回転軸に取り付けられた翼状の攪拌手段であってもよい。これらの攪拌手段の回転先端部における周速vは、好ましくは6〜12m/sである。攪拌手段の回転先端部における周速は、撹拌装置の機械的能力の問題があって、使用する分散用媒体の密度によって適切な値を選択する必要があり、密度が大きな媒体を使用する場合には周速を小さく、密度が小さな媒体を使用するときは大きくすることができる。このような理由により分散用媒体の密度と攪拌手段の回転先端部における周速との積「ρb・v」の値は30から80が好ましく、40から70がさらに好ましい。
分散用媒体の充填率は65〜85%が好ましい。この場合の充填率は、100×V1/(V2+V3)(%)と定義される。ここで、V1はベッセル内に投入された分散用媒体の見掛けの容積、V2は分散用媒体のみの真の容積、V3はベッセル内のミルベースの容積である。
本発明で使用できる媒体分散型の分散機は、上述のようなサンドミルに限定されない。すなわち、ピン型ミルやアニュラー型ミルなど、媒体分散型で混合槽内に回転駆動される攪拌手段を備えた他の分散機も使用できる。図4および図5に、そのような他の分散機の一例として、本発明で使用可能なピン型ミルの基本構造を示す。このタイプのミル11では、ミルベースの入口12aおよび出口12bを有する混合槽12内に、図示しないモータにより回転駆動されるドラム13が備えられており、このドラム13の外周に多数のピン(攪拌手段)14が外方に向けて突出するように設けられている。そして、混合槽12内に所定量の分散用媒体Pがあらかじめ充填された状態で、ミルベースが入口12aから混合槽12内に供給され、該混合槽12内でドラム13と一体的に回転するピン14により分散用媒体Pととも攪拌されて分散処理が行われるようになっている。
このようなサンドミルによる分散においては、分散媒体の粒径が小さく、供給される塗料の粘度が低い方が好ましいが、このような条件でサンドミル分散をするためには、先に述べた塗料最終調整前の分散工程S3において、前段階としての分散を行っておくことが好ましい。前段階の分散工程としては、これまで述べてきたサンドミルによる分散が適している。ここで使用する分散用媒体としては、その材質には特に制約はないが、セラミック、特にジルコニアが耐磨耗度の点から好ましく、小径のビーズ状にしたものが用いられる。分散用媒体の密度は好ましくは2.0〜6.5g/cm3 であり、より好ましくは3.8〜6.0g/cm3 である。分散用媒体の平均粒子径doは0.3〜3.0mmが好ましく、0.4〜1.0mmがより好ましい。またフィルタ通過後に行う主要な分散工程で用いる分散用媒体の平均粒子径dに対してdoは0<do/d≦0.5であることが好ましく、0.1<d/do<0.4であることがさらに好ましい。上述したように分散される塗料の粘度、塗料に用いられる磁性粉の平均長軸長D及び分散状態によって、分散用媒体は適切な粒径がある。主要な分散工程に用いる分散用媒体の粒子径に対して、前分散工程に用いる分散用媒体の粒子径が小さい方が望ましいのは、前分散における磁性塗料の粘度が高く、分散状態が進んでいないため比較的大きな二次凝集粒子が存在するからである。
以上のようにして磁気記録媒体に供する磁性塗料が得られる。この磁性塗料を用いて磁気記録媒体を製造するにあたっては、先に述べたように磁性塗料を薄い可撓性支持体に塗布し(塗布工程S7)、塗布された磁性塗料の流動性が残っている状態で磁場中を通過させて磁性粉の方向をそろえる磁場配向処理を行い(磁場配向処理工程S8)、その後、溶剤を蒸発させて磁気層(磁気記録層)とする乾燥処理を行う(乾燥工程S9)。塗布工程S7において、磁性層の平均乾燥厚みを1nm〜100nmの任意の厚みで精度良く、かつ生産性良く塗布形成するには、可撓性支持体上に下層非磁性層形成用の塗料を塗布し、この塗料が湿潤状態にあるうちにその上に上記の磁性塗料を重畳して塗布する、ウェット・オン・ウェット同時重層塗布方式を用いることができる。その場合の塗布には塗布液通液スリットを二つ内蔵する一体のエクストルージョン型ダイ塗布ヘッドにより、下層非磁性層と上層磁性層をほぼ同時に塗布形成する方式が最も適している。塗布の安定性をあげるために、下層非磁性層に用いる溶媒の表面張力が、上層磁性層に用いる溶媒の表面張力より高いことが好ましい。表面張力の高い溶媒としてはシクロヘキサノン、ジオキサンなどがある。
上記のようにして磁気層を形成した後、その表面性を改善し磁性粉の詰まり具合を向上させるカレンダー表面処理を行う(カレンダー工程S10)。これにより、磁気特性及び電磁変換特性が改善されるという点で、本発明の効果を一層高めることができる。カレンダー表面処理は、交互に配置された金属ロールと弾性ロールとの間、あるいは金属ロールと金属ロールとの間を、所定の温度と圧力を加えた状態で通過させることにより行う。弾性ロールには、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等からなる耐熱性のあるプラスチックロールを使用することもできる。ロールの温度は、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上である。カレンダー時の線圧力は好ましくは100kg/cm(100×9.8N/cm)以上、さらに好ましくは200kg/cm(200×9.8N/cm)以上、その速度は20〜700m/分の範囲である。80℃以上の処理温度、150kg/cm(150×9.8N/cm)以上の線圧で、上述したようなカレンダー表面処理による効果を一層高めることができる。
なお、磁気記録媒体には、必要に応じて磁性塗料を形成した反対面にバックコート層を設けたり、必要に応じてトップコート層等を設けたりすることができる。バックコート層やトップコート層等を形成する際の条件や手段は、通常この種の磁気記録媒体の製造装置や製造方法に適用されるものであれば良く、特に限定されるものではない。最後に所望の形状への裁断処理等の後処理を行うことにより、磁気記録媒体を製造することができる。
上記可撓性支持体(非磁性支持体)には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、二軸延伸の芳香族ポリアミドベースフィルム、芳香族ポリイミドフィルム等を用いることができる。なお可撓性支持体の厚さは、用途によって異なるが、磁気記録媒体が磁気テープである場合、通常2〜7μmのものが使用される。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、2μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、7μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、テープ1巻当りの記憶容量が小さくなるためである。可撓性支持体の磁性層形成面の表面中心線平均粗さ(Ra)は2.5nm以上20nm以下が好ましい。20nm以下が好ましいのは、20nm以下であれば、磁性層表面の凹凸が小さくなるためである。Raが2.5nm未満のものは製造が困難である。
磁性層に添加する磁性粉には、強磁性鉄系金属粉が使用される。磁性粉の平均長軸長Dは5nm以上100nm未満、好ましくは20〜60nmである。磁性粉の平均長軸長Dが100nm以上であると粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなり、C/N特性を向上させることが困難になる。また、平均長軸長Dが5nm未満であると保磁力が低下し、同時に磁性粉の凝集力が増大するため塗料中への分散が困難となるおそれがある。なお、上記の平均長軸長は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した写真から粒子のさしわたしの最も大きな長さを実測し、100個あたりの平均値により求めたものである。粒子の形状が球状である場合、いずれの方向を測定しても長軸長は同じになる。また、本発明で好適に使用される強磁性鉄系金属粉のBET比表面積は、35〜85m2 /gが好ましく、40〜80m2 /gがより好ましく、50〜70m2 /gが最も好ましい。
上記強磁性鉄系金属粉の保磁力は、135kA/m〜320kA/m(1700〜4000Oe)が好ましく、飽和磁化量は、70〜200A・m2 /kg(70〜200emu/g)が好ましく、100〜180A・m2 /kg(100〜180emu/g)がより好ましい。なお、この磁性層の磁気特性と、強磁性鉄系金属粉の磁気特性は、いずれも試料振動形磁束計で外部磁場1.3MA/m(16kOe)での測定値をいうものである。
磁性塗料に添加する結合剤としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどの中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせものを使用できる。中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがある。これらの結合剤は、磁性層では強磁性鉄系金属粉、下層非磁性層では全非磁性粉末100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、結合剤として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
官能基として−COOH、−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)3 、−O−P=O(OM)2 [式中のMは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩]、OH、NR1 R2 、N+ R3 R4 R5 [式中のR1 、R2 、R3 、R4 、R5 は水素または炭化水素基]、エポキシ基を有する、高分子からなる結合剤が使用される。このような結合剤を使用するのは、磁性粉等の分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SO3 M基同士の組み合わせが好ましい。
これらの結合剤とともに、結合剤中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、結合剤100重量部に対して、通常10〜50重量部の割合で用いられる。より好ましくは15〜35重量部である。
磁性塗料を構成する溶剤、すなわち磁性層に用いられる有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル類、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサンなどのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等を挙げることができる。これらは単独で、もしくは任意の比率で混合して使用できる。
上記した磁性粉や結合剤等で構成される磁性塗料中には、必要に応じて分散剤、潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤、防錆剤等が添加される。
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例は磁気テープについて説明しているが、磁気カードや磁気ディスクについても以下と同様の製造方法により又は以下の方法に準じて作製することができる。なお、実施例、比較例における「部」は、特に断らない限り、「重量部」を示す。
《磁性層用塗料成分》
(1)
・強磁性鉄系針状金属粉 100部
(Co/Fe:30at%、Y/(Fe+Co):8at%、
Al/(Fe+Co):5wt%、σs:125A・m2 /kg、
Hc:188kA/m、pH:9.5、平均長軸長:60nm)
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 10部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・α−アルミナ 15部
(α化率:50%、平均粒径:120nm)
・カーボンブラック 2部
(平均粒径:75nm、DBP吸油量:72cc/100g)
・メチルアシッドホスフェート 2部
・パルミチン酸アミド 1.5部
・ステアリン酸n−ブチル 1.0部
・テトラヒドロフラン 65部
・メチルエチルケトン 245部
・トルエン 85部
(2)
・ポリイソシアネート 4部
・シクロヘキサノン 167部
《下層非磁性層用塗料成分》
(1)
・酸化鉄粉末(平均長軸長:0.11×0.02μm) 68部
・アルミナ(α化率:50%、平均粒径:70nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2部
・塩化ビニル共重合体 10部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.5部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 4.5部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
上記の磁性層用塗料成分(1)を二軸連続式混練機を用いて、固形分濃度70%、塗料温度30℃として混練し、この混練物に磁性層塗料成分(2)を加えて固形分濃度20%に調整した。この塗料を攪拌してペースト状のミルベースを得た後、フィルタリングを行い、更に超音波分散装置を用いて、照射時間1秒として超音波分散を行い、塗料密度1g/cm3 、粘度0.3Pa・sに調整した。この塗料を、粒子径0.1mm、密度6g/cm3 のジルコニアビーズを分散媒体とし、分散用媒体の充填率を75%としたギャップセパレート式横型サンドミルに導入し、分散機の攪拌ディスクの周速を10m/sを、滞留時間7分として分散を行った。ここで固形分濃度を20%に調整した塗料を攪拌装置に導入してからサンドミル分散、更には塗布装置への導入までを連続的な塗料精製ラインを用いて行い、塗料が外雰囲気に接触しないようにした。また攪拌機導入から塗布装置に導入するまでの必要時間を30分とした。これとは別に、上記の下層非磁性層用塗料成分において(1)をニーダーで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下層非磁性層用塗料とした。上記の磁性層塗料と下層非磁性層用塗料を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ6μm、MD=5.9GPa、TD=3.9GPa、東レ社製)からなる支持体上に、磁場配向処理、乾燥、カレンダー後の厚さが磁性層100nm、下層非磁性層1.1μmとなるように同時重層塗布、カレンダー処理し、磁気シートを得た。なお、磁場配向処理は、ドライヤ前にN−N対抗磁石(0.5T)を設置し、ドライヤ内で塗膜の指蝕乾燥位置の手前側75cmからN−N対抗磁石(0.5T)を2基50cm間隔で設置して行った。塗布速度は100m/分とした。
《バックコート層用塗料成分》
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
・カーボンブラック(平均粒径:370nm) 10部
・酸化鉄(平均長軸長:400nm) 10部
・ニトロセルロース 45部
・ポリウレタン樹脂(SO3 Na基含有) 30部
・シクロヘキサノン 260部
・トルエン 260部
・メチルエチルケトン 525部
上記バックコ−ト層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバックコ−ト層用塗料を調整し濾過後、上記で作製した磁気シ−トの磁性層の反対面に、乾燥、カレンダー後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダーで、温度100℃、線圧150kg/cm(150×9.8N/cm)の条件でカレンダー処理し、磁気シ−トをコアに巻いた状態で70℃で72時間エージングしたのち、1/2インチ幅に裁断し、これを200m/分で走行させながら磁性層表面をラッピングテープ研磨、ブレード研磨そして表面拭き取りの後処理を行い、磁気テ−プを作製した。この時、ラッピングテープにはK10000、ブレードには超硬刃、表面拭き取りには東レ社製トレシー(商品名)を用い、走行テンション30g(0.03×9.8N)で処理を行った。上記のようにして得られた磁気テープを、カートリッジに組み込み、コンピュータ用テープを作製した。
分散時の上層塗料の粘度を2.2Pa・s、使用したビーズを、密度4g/cm3 、粒子径0.3mmのチタニアビーズに変更したことを除き、実施例1と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
上記の磁性層用塗料成分(1)を二軸連続式混練機を用いて、固形分濃度70%、塗料温度30℃として混練した。この混練物を塗料粘度4Pa・s、塗料密度1g/cm3 に調整し、粒子径0.5mm、密度6g/cm3 のジルコニアビーズを分散媒体とし、分散用媒体の充填率を75%とした横型サンドミルに導入し、分散機の攪拌ディスクの周速を10m/s、滞留時間45分として分散を行った。こうして得られた前分散塗料に上記の磁性層塗料成分(2)を加えて固形分濃度20%に調整した。この塗料を攪拌してペースト状のミルベースを得た後、フィルタリングを行い、更に超音波分散装置を用いて、照射時間1秒として超音波分散を行い、塗料粘度を0.1Pa・sに調整した。塗料密度は1g/cm3 のままである。この塗料を粒子径0.1mm、密度6g/cm3 のジルコニアビーズを分散媒体とし、分散機の攪拌ディスクの周速を10m/s、滞留時間5分として分散を行った。ここで固形分濃度を20%に調整した塗料を攪拌装置に導入してから、サンドミル分散、更には塗布装置への導入までを連続的な塗料精製ラインを用いて行い、塗料が外雰囲気に接触したいようにした。また攪拌機導入から塗布装置に導入するまでの必要時間を30分とした。その他は実施例1と同様にしてコンピュータ用テープを作製した。
上層(磁性層)に含ませる磁性粉として、平均長軸長75nmの鉄系針状強磁性金属粉末を用い、主分散に用いる分散用媒体に粒子径0.15mmのジルコニアビーズを用いて分散したことを除き、実施例3と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
上層に用いる磁性粉を平均長軸長45nmの鉄系針状強磁性金属粉末に変更したことを除き、実施例3と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
上層に用いる磁性粉を平均長軸長45nmの鉄系針状強磁性金属粉末に、塗料調製・濾過後の分散における上層塗料粘度を0.05Pa・sに、用いるビーズを粒子径0.05mmのジルコニアビーズにそれぞれ変更したことを除き、実施例3と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
上層に用いる磁性粉を平均長軸長30nmの鉄系針状強磁性金属粉末に、塗料調製・濾過後の分散における上層塗料粘度を0.02Pa・sに、用いるビーズを粒子径0.03mmのジルコニアビーズにそれぞれ変更したことを除き、実施例3と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
上層に用いる磁性粉を平均長軸長(粒子径)15nmの実質球状の鉄系針状強磁性金属粉末に変更したことを除き、実施例7と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
[比較例1]
分散時の上層塗料の密度を1.2g/cm3 、粘度を2Pa・s、使用したビーズを粒子径0.3mm、密度3.8g/cm3 のチタニアビーズにそれぞれ変更したことを除き、実施例1と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
[比較例2]
上層に用いる磁性粉を平均長軸長80nmの鉄系針状強磁性金属粉末に、分散時の上層塗料の密度を1.2g/cm3 、粘度を4.0Pa・sに、用いるビーズを粒子径1mmのジルコニアビーズとし、攪拌機の周速を6m/sにそれぞれ変更したことを除き、実施例1と同様にしてコンピュータ用テープを作製した。
[比較例3]
分散時に用いるビーズを粒子径0.01mmのジルコニアビーズに変更したことを除き、実施例1と同様にしてコンピュータテープを作製した。
[比較例4]
上層に用いる磁性粉を平均長軸長60nmの鉄系針状強磁性金属粉末に変更した以外は実施例6と同様にしてコンピュータ用テープを作製した。
[比較例5]
塗料調製・濾過後の分散における上層塗料粘度を0.02Pa・sに、用いるビーズを粒子径0.03mmのジルコニアビーズにそれぞれ変更したことを除き、実施例3と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
[比較例6]
分散時の上層塗料の密度を1.2g/cm3 、粘度を2Pa・sに変更したことを除き、実施例1と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
[比較例7]
塗料調製・濾過後の分散に用いるビーズを粒子径0.3mmのジルコニアビーズに変更したことを除き、実施例3と同様にしてコンピュータ用テープを作成した。
《評価》
各実施例および比較例で得られたコンピュータ用テープのそれぞれについて、以下のように電磁変換特性(C/N)の測定を行ってテープ性能を評価した。電磁変換特性の測定に際してはドラムテスターを用いた。ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.2μm)とMRヘッド(トラック幅8μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。両ヘッドは回転ドラムに対して異なる場所に設置されており、両ヘッドを上下方向に操作することで、トラッキングを合わせることができる。磁気テープはカートリッジに巻き込んだ状態から適切な量を引き出して廃棄し、更に60cmを切り出して回転ドラムの外周に巻き付けた。
出力及びノイズは、ファンクションジェネレータにより矩形波を記録電流電流発生器に入力制御し、波長0.2μmの信号を書き込み、MRヘッドの出力をプリアンプで増幅後、スペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.2μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.2μmの矩形波を書き込んだときに、記録波長0.2μm以上に相当するスペクトルの成分から、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、C、C/Nともにリファレンスとして用いているLTO Ultrium2(製品名:日立マクセル社製)テープの値との相対値を求めた。
表1および表2に、以上の評価結果を示す。これらの表には、各実施例および比較例で用いた磁性粉や分散用媒体の平均粒子径等についてもあわせて記載した。
以上の結果より、本発明の実施例によれば、比較例の場合に比べて、塗料の分散性が向上し、その結果、得られたコンピュータ用テープにおいて、出力の向上、粒子性ノイズの低減により、C/N特性が大幅に向上したことがわかる。
本発明に係る磁気記録媒体の製造工程の一例を示す工程図である。
本発明で使用される媒体分散型の分散機(サンドミル)の基本構造例を示す断面図である。
図2のA−A線で切断した断面図である。
本発明で使用される媒体分散型の分散機(サンドミル)の他の例を示す断面図である。
図4のB−B線で切断した断面図である。
符号の説明
1・11 媒体分散型の分散機
2・12 混合槽
4・14 攪拌手段(4:回転ディスク、14:ピン)
P 分散用媒体