JP2005232503A - 耐焼き付き被膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】潤滑が不完全になった環境下でも焼き付けを効果的に防ぐ表面処理を提供する。
【解決手段】耐焼き付き被膜は、物理蒸着法またはプラズマ化学蒸着法で基材上に合成され、周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの少なくとも1つの元素を含んだ窒化物または酸窒化物を有する。この被膜は、構成元素が、基材の温度上昇に伴って安定化合物へ移行しつつ余剰ガス成分を放出して相手部材との溶着を防止する。
【選択図】なし

Description

この発明は、機械部品、プレス金型、切削工具などの高い面圧で摺動する部材表面に施す耐焼き付き被膜に係り、特に、物理蒸着法またはプラズマ化学蒸着法で形成する耐焼き付き性の高い被膜に関する。
無潤滑や潤滑の劣った環境で摺動する機械部品は、摺動により金属同士が摩擦し、凝着を起こし、いわゆる焼き付きに至ることがしばしばある。切削における刃先もそのような厳しい摺動環境の典型的な例である。
このような環境下で焼き付きを防止する対策として、窒化、浸硫、樹脂塗装、プラズマ溶射、セラミックコーティングなどの表面処理が行われている。
窒化は焼き付き対策としてはある程度有効であるが、窒化を施しても金属同士が直接接触することに変わりはなく、摩擦抵抗の増大とともに焼き付きを生じる。
浸硫処理も焼き付き防止に使われるが、浸硫層の硬度が低いため、長期間に渡る対策としては難点がある。
4フッ化エチレン系樹脂は摩擦係数が小さく、施工性が良好で摺動面に適するが、軟質であるため焼き付きを生じるような高負荷面には適用できない。
このような中で、プラズマ溶射、物理蒸着(PVD)あるいは化学蒸着(CVD)などにより形成した被膜は、耐摩耗性が高く、焼き付き防止効果があることから、一部では自動車部品等に適用されている。
しかしながら、これらの方法も効果は限定的であり、次のような問題がある。
耐焼き付き対策としてモリブデンやセラミックス膜をプラズマ溶射する方法は、基材表面に膜を堆積させた後、研磨工程を経て寸法精度を確保するため、コスト高になる。
また、CVD法は、被膜形成温度が約1000℃と高いので、基材が軟化したり、変形したりすると言う問題を抱えており、幅広く普及させることは難しい。
一方、マグネトロンスパッタ法およびアークイオンプレーティング法などのPVD法や、プラズマCVD法は、CVD法に比べて成膜温度を500℃以上低くできるので、基材の変形や軟化の問題が少ない。
PVDあるいはプラズマCVD法にて耐焼き付き対策を行う例としては、ピストンリングに金属と炭化物と窒化物の混合組織からなる硬質被膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、金属クロムが点在するCrNおよびCr2N複合被膜を形成する方法(例えば、特許文献2参照)がある。また、静圧空気軸受スピンドルの主軸に非晶質ダイヤモンド(DLC)を被覆する方法(例えば、特許文献3参照)や、CrNとSi34が存在し、Cr:Si:N=1:0.05〜1.2:0.1〜1.2となる膜を被覆する方法(例えば、特許文献4参照)も知られている。
特開平5−78821号公報 特開平9−31628号公報 特開平2001−304259号公報 特開平5−195196号公報
ところが、これらのうち、DLC膜は金属との摩擦係数が0.1程度と低く、焼き付きを起こし難いのであるが、耐熱性が低く、約350℃から軟化するため、負荷が大きいところでは使えない。
その他の膜についても、金属との摩擦係数が0.5〜0.8であり、不完全な潤滑環境では摺動面の温度が上昇して、焼き付くという問題がある。
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決して、潤滑が不完全になった環境下でも、少しでも長く、焼き付けを防いで摺動を可能にする表面処理を提供することを目的とする。
そのため、本発明では、改善の対象に、比較的に耐摩耗性が高く、焼き付き防止効果があり、低成膜温度で基材変形や軟化のおそれの少ない、物理蒸着法またはプラズマ化学蒸着法で基材上に合成する、周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの少なくとも1つの元素を含んだ窒化物または酸窒化物を有する耐焼き付き被膜を採用する。この被膜は、構成元素が、基材の温度上昇に伴って安定化合物へ移行しつつ余剰ガス成分を放出することを特徴とする。
このような被膜によると、摺動により基材の温度が上昇し、焼き付きを起こし易い状態となっても、基材上の被膜成分から発生するガスが、相手方金属との溶着を妨げて焼き付きを防止する。
この被膜は、被膜中のNまたは(N+O)の原子数が化学量論比を越えていることが好適であり、或いは、窒化物または酸窒化物が周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの2つ以上の元素を含む合金の窒化物または酸窒化物である場合、合金元素の原子数xとNまたは(N+O)の原子数yが1.15x<yの関係であることが好ましい。
このようにNまたは(N+O)を多く含有させることによって、基材の温度上昇時に放出される余剰ガスを充分に確保できる。
本発明の耐焼き付き被膜は、基材に対する付着力強化層として、Nまたは(N+O)が上記の量より少ない被膜層を有することが好ましい。これによって、基材に対する付着性を高めることができる。
本発明の耐焼き付き被膜は、摺動による温度上昇時に溶着を防止する効果があり、従来のセラミックス膜以上の耐焼き付き性能を発揮することができ、潤滑が不十分な環境下でも長時間に渡る耐久性を可能にし、産業上非常に有益である。
本発明者らは、上述した従来技術の課題に鑑みて、潤滑が不完全になった摺動環境下で、摺動面の温度が上昇し、焼き付きを起こしやすい状態になってからも、長時間に渡って焼き付きを起こさず、摺動を続けることのできる表面処理を、次のように解析した。
焼き付きを起こし難くするための基本特性としては、低摩擦特性と耐熱性が要求され、セラミックスコーティング被膜がそのような目的に対して適当である。中でもCrNあるいはCrNをベースとした膜が多く用いられている。これは、CrN系の膜が他のセラミックス膜に比べ、摩擦係数が低めで、相手材料への攻撃性が弱いという特徴を持つことによる。
そのような被膜について種々の検討を行った結果、本発明者らは、摺動により基材温度が上昇したときに、基材表面の被膜からガスを発生させ、これにより基材と相手材の溶着を防止する被膜を考案した。この被膜は、被膜中の構成元素を、基材の温度上昇に伴って安定化合物へ移行しつつ余剰ガス成分を放出するように準安定状態にすることによって実現する。
一般に、PVD法などにより500〜600℃以下で生成される硬質被膜の金属または合金に対するNまたは(N+O)の比率は1以下になっているが、本発明の実施例による被膜は、Nまたは(N+O)を過剰に含ませるように製造する。
そのような被膜は、準安定状態にあり、金属または合金元素と窒素や酸素などの、高温であれば窒化物、酸化物、あるいは酸窒化物などの安定化合物を形成するガス成分が、安定な結晶を形成していない。このような被膜を形成した基材が相手部材と強く摺動すると、基材および被膜の温度が上昇し、被膜中の各構成元素が安定化合物へ移行する。その際に余剰ガス成分が放出され、それによって金属‐膜間の接触面積の減少が溶着を妨げる効果をもたらすものと考えられる。
このようなことから、本発明の実施例による耐焼き付き被膜は、PVD法またはPCVD法で基材上に合成され、周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの1つの元素とNまたは(N+O)から構成された窒化物または酸窒化物を有する。Nまたは(N+O)は、この窒化物または酸窒化物における金属元素とNまたは(N+O)の安定化合物の化学量論的な関係より原子数を大きくしている。
そのため、例えばTixNy膜(y>x)の場合には、温度上昇により、これがTiNへ移行し、その際に余分なNがガスとして放出される。
別の実施例による耐焼き付き被膜は、周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの2つ以上の元素を含んだ合金の窒化物または酸窒化物を有する。合金元素の原子数xとNまたは(N+O)の原子数yは1.15x<yの関係にしていて、第1の実施例と同様な効果が得られる。
ここで、1.15x<yの条件はそれぞれ被膜の試験結果に基づいて決めた値であり、1.05x<y≦1.15でも効果を奏するが、1.15x<yでより安定になる。yの上限は特に規定しないが、yが3を越えるまでNまたは(N+O)を被膜中に含有させることは技術的に難しい。
なお、窒素過剰な被膜または窒素と酸素を含む被膜は、基材との密着性が低い。上記2つの実施例の耐焼き付き被膜は、成膜初期には、従来のセラミックス被膜を形成する場合と同様に、基材との界面付近を金属相の多い層とし、徐々にNまたは(N+O)の比率を増して傾斜組成化することにより、高い密着強度を有することができる。
本発明の耐焼き付け被膜の評価を、次のように行った。
本発明による、TixNy、TixCr(1−x)Ny、およびSixAl(1−x)O(y−z)Nzの各被膜を、マグネトロンスパッタ法で試験片に形成した。ここで、(y−z)とzはそれぞれOとNの原子数比率を示し、両者を合算するとyとなる。それぞれの被膜は1.15x<yとなるように作製した。
さらに、比較例として、通常の条件で、TixNy、TixCr(1−x)Ny、およびCrxAl(1−x)Nyの各被膜を試験片に形成し、さらに無被覆のSKH51試験片を用意した。
本発明の被膜を施した被覆部材の作製に当たっては、基材との界面付近の被膜部分は、両者の密着性を確保するため、従来被膜と同様にNまたは(N+O)の少ない組成からスタートし、徐々に傾斜化して、表層部分をNまたは(N+O)過剰膜とした。このとき、表層のNまたは(N+O)過剰膜の厚さは、3μmを目標にした。
本発明の被膜および比較例被膜の表層の組成をXPS装置にて分析した結果を表1に示す。
さらに、本発明の被膜と、無被覆を含む比較例の被膜について、ファレックス試験で焼き付き特性を調べた。この試験では、各被膜をSKH51製の直径6.5mm、長さ40mmの棒状試験片に形成し、試験は、棒状試験片の両側から2個のSKH51製Vブロックで挟み込んで250kgfの加重をかけ、棒状試験片を回転させて行った。試験片は被膜の種類によって異なる摩擦挙動を示したが、耐焼き付き性の目安として、棒状試験片が赤熱して回転トルクが急上昇するまでの時間、あるいは棒状試験片が赤熱した状態でトルク下がり始めるまでの時間を求めた。その結果を表2に示す。試験時間が10分を越えるとトルクが安定する傾向があったので、試験は15分までとした。

これらの結果より、本発明によるNまたは(N+O)を過剰に含有した被膜は、従来の被膜に比べて、焼き付きに至るまでの時間が長く、耐焼き付き特性に優れていることが判る。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれら特定の形態のみに限定されるものではなく、別添えの特許請求の範囲による定義内で、説明した実施例に種々の変更を施し、或いは、本発明が別の形態を採ることができる。
例えば、本発明の耐焼き付き被膜の効果を全ての対象元素の組み合わせについて確認することはできないが、本発明によるガス発生作用は、成膜時にNまたは(N+O)のガス成分を多量に含ませることにより確保できるので、硬質セラミックス膜として使われる膜は、本発明の適用により、いずれも同等な効果を奏するであろう。
また、本発明に関連して上記した金属あるいは合金元素は、特に大きな特性変化を伴わない限り、他の添加あるいは不純物元素を含んでも同様な効果が得られるであろう。

Claims (4)

  1. 物理蒸着法またはプラズマ化学蒸着法で基材上に合成され、周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの少なくとも1つの元素を含んだ窒化物または酸窒化物を有する耐焼き付き被膜において、
    被膜の構成元素が、基材の温度上昇に伴って安定化合物へ移行しつつ余剰ガス成分を放出することを特徴とする耐焼き付き被膜。
  2. 請求項1に記載の被膜において、被膜中のNまたは(N+O)の原子数が化学量論比を越えている、耐焼き付き被膜。
  3. 請求項1に記載の被膜において、窒化物または酸窒化物は、周期律表の4A、5A、6A族およびB、Al、Siのうちの2つ以上の元素を含む合金の窒化物または酸窒化物であり、合金元素の原子数xとNまたは(N+O)の原子数yが1.15x<yの関係である、耐焼き付き被膜。
  4. 請求項2または3に記載の被膜において、基材に対する付着力強化層として、Nまたは(N+O)の量が請求項2または3の記載より少ない被膜層を有する耐焼き付き被膜。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2008031517A (ja) * 2006-07-28 2008-02-14 Tungaloy Corp 被覆部材
JP2008075178A (ja) * 2006-08-24 2008-04-03 Hitachi Tool Engineering Ltd 厚膜被覆部材及び厚膜被覆部材の製造方法

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