JP2011183545A - 摺動特性に優れた被覆工具及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 工具基材の表面に、AlCrSi系の窒化物とVの窒化物が交互に積層された硬質皮膜を被覆した被覆工具であって、該硬質皮膜の膜厚が3μm以上、表面粗さがRa<0.2μm、Rz<2.0μm、Rsk<0である摺動特性に優れた被覆工具である。また、硬質皮膜の膜厚を8μm以上とすることで、工具寿命を大きく改善できるので好ましい。交互に積層されたAlCrSi系の窒化物とVの窒化物の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚の方が厚いことが好ましい。
【選択図】図1
Description
そして、被加工材の高強度化、加工製品の高精度化、成形サイクルの高速化が進む塑性加工用金型では、その作業面への負荷が特に増大していることから、硬質皮膜を形成した被覆金型が多用されており、特に冷間加工用は高硬度でかつ摩擦係数の低いTiCNやTiCが使用されている。
さらには、切削工具および摺動部材に適した硬質皮膜として、AlCr系の窒化物とVの窒化物の積層構造が開示されている。(特許文献4)
この場合、特許文献1、2のAlCrSi系の窒化物皮膜は高硬度かつ耐熱性には優れているが、製品成形時の摩擦抵抗が大きく、摺動特性に改善の余地がある。また、非特許文献1に記載されているAlCrV系の窒化物皮膜は、耐熱性、摺動特性には優れるものの、皮膜硬度が低く、耐摩耗性に課題が残る。そして、特許文献3のAlVCrSi系の窒化物皮膜であっても、その多元系の成分調整は容易ではなく課題が残る。さらに、特許文献4のAlCr系の窒化物とVの窒化物の積層構造であったとしても、耐摩耗性の改善には余地があった。
交互に積層されたAlCrSi系の窒化物とVの窒化物の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚の方が厚いことが好ましい。さらに、交互に積層されたAlCrSi系の窒化物とVの窒化物の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚が1.5倍以上であることが好ましい。これらの硬質皮膜は、物理蒸着法で被覆されることがより好ましい。
また、本発明の製造方法は、工具基材の表面に、窒素雰囲気中でAlCrSi系の合金ターゲットを使用した物理蒸着法によるAlCrSi系の窒化物の被覆と、窒素雰囲気中でV金属ターゲットを使用した物理蒸着法によるVの窒化物の被覆を繰り返すことで、AlCrSi系の窒化物とVの窒化物が交互に積層された膜厚が3μm以上の硬質皮膜を被覆し、該硬質皮膜の表面をダイヤモンドペーストを用いてバフ研磨し、Ra<0.2μm、Rz<2.0μm、Rsk<0にする摺動特性に優れた被覆工具の製造方法である。
AlCrSi系の窒化物とVの窒化物が交互に積層された膜厚が8μm以上の硬質皮膜を被覆することが好ましい。
AlCrSi系の合金ターゲットとV金属ターゲットへ投入する電流比は、AlCrSi系の合金ターゲット/V金属ターゲットが2.0以下であることが好ましい。
そして、被加工材がFe系の場合でも、Vの酸化物は、Fe酸化物と反応して、Fe酸化物を軟化させるので、皮膜への攻撃性が低減するため摺動抵抗を抑制し、更には、皮膜表面に形成されるVの酸化物の直上に、微結晶のFe酸化物が薄く均等に付着することで、Fe酸化物自体も摺動特性の向上に起因することを見出した。
上記のVの窒化物を被覆した工具では、その使用中における皮膜表面への被加工材の付着を低減できるので、該機構による工具損耗を抑制できる。しかし、概ね300℃以上の使用温度域になると、Vの窒化物の酸化は更に進行することから、酸化膜形成による損耗防止には引続き寄与するものの、一方では、この過剰な酸化自体が皮膜の摩耗を助長する。
そしてこの場合、Ti系炭化物や窒化物はHV3000以上の高硬度が得られることから、耐摩耗性には優れるものの、自身の酸化温度が低いため、工具の作業面温度が上昇すると皮膜の摩耗が進行しやすい。一方、AlCrSi系の窒化物においては、HV3000以上の高硬度が得られるので、耐摩耗性に優れ、そして上述した通り耐熱性にも優れることから、Ti系炭化物等に懸念される上記の問題もない。但し、Vの窒化物には見られるような酸化は生じないので、それ単独では摺動特性に乏しく、被加工材の付着に起因する局部的な摩耗には対応し難い。
工具使用環境下で十分な摺動特性を得るためには、交互に積層されたAlCrSi系の窒化物とVの窒化物の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚の方が厚いことが好ましい。そして、その個々のAlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚が1.5倍以上であれば、摺動特性を高めるVの酸化物が十分に生成されるのでより好ましい。Vの窒化物の膜厚が厚くなり過ぎると、使用環境によっては、耐摩耗性が低下する場合もあり、Vの窒化物の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚の4.0倍以下とすることが好ましい。
プレス成形では、皮膜表面から加えられる力が大きいため、皮膜がこれよりも薄いと皮膜強度が乏しくなり、皮膜が損傷し易くなる。特に、高負荷環境では、皮膜と基材の界面に大きな力が加わるため、皮膜と基材の弾性変形量の違いから、皮膜剥離や皮膜損傷が発生し易く、工具寿命に及ぼす膜厚の影響が大きくなる。そのため、高負荷環境下では、膜厚を8μm以上とすることが好ましい。
硬質皮膜の膜厚が厚くなり過ぎると、皮膜剥離が発生し易くなる場合があり、膜厚は20μm以下であることが好ましい。より好ましくは15μm以下である。
硬質皮膜の表面には、ドロップレットや皮膜欠陥、不純物等が含まれ、工具として使用するのに適切で無いため、平滑にする必要がある。特に、厚膜になると、ドロップレットや皮膜欠陥が蓄積することで表面粗さが低下するので、皮膜表面を平滑にする必要がある。
そして、摺動環境下では、皮膜表面の凸部が起点となり、被加工材の付着が発生して皮膜剥離や摩耗が発生する。そのため、凸部を低減させることが最も重要となる。
そのため、一般的な表面粗さであるRa、Rzのみでは(ISO4287−1997)、凸部の頻度を把握するには不十分であり、Ra、Rzに加えては、Rskの制御が重要となる。
表面粗さRsk値(ISO4287−1997)は、振幅分布曲線の中心線に対する対象性を示すパラメーターである。例えば、表面に凹部が多い皮膜表面の場合は、Rsk<0を示し、凸部が多い場合にはRsk>0を示し、凸部と凹部の頻度を管理することが可能である。
そして、表面粗さを上記の範囲に制御することで、Vの窒化物層を含む被覆工具では、工具の使用環境下で基材表面に形成されるVの酸化物が極めて均等に薄く成形されるため、摺動特性が向上する。そして、被加工材がFe系である場合には、Vの酸化物上にFe酸化物が皮膜全体に薄く均一に付着することで、摺動特性を向上させることができる。
より具体的には、製造が容易なV金属の単体と、成分の調整されたAlCrSi合金との個々でなる2種類以上のターゲットを準備する。そして、複数のターゲットが取り囲む中心で基材が回転する構造の、ターゲット成分が交互に被覆されるPVD装置を使用することができる。この時、その成膜雰囲気を窒素に調節することで、回転する基材表面がAlCrSi合金ターゲット前面を通過する際にはAlCrSi系の窒化物が被覆され、V金属ターゲット前面を通過する際にはVの窒化物を被覆することができる。
そこで、工具使用環境下で十分な潤滑特性を得るために、AlCrSiの窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚の方を厚膜とするには、AlCrSi系の合金ターゲットとV金属ターゲットへ投入する電流比を、AlCrSi系の合金ターゲット/V金属ターゲットが2.0以下とすることが好ましい。この場合、AlCrSi系の合金ターゲットへ投入する電流を小さくしても良いし、V金属ターゲットへ投入する電流を大きくしても良い。より好ましくは、1.5以下である。
一定の成膜レートを確保するためには、ターゲットへ投入する電流は、80A以上であることが好ましい。ターゲットへ投入する電流が大きくなり過ぎると、成膜が安定し難いので、160A以下とすることが好ましい。
表面処理を行う基材は、JISに規定される高速度鋼SKH51の円盤状試験片(直径20mm×厚さ5mm)を準備した。これは、真空中1180℃の加熱保持より窒素ガス冷却により焼入れ後、540〜580℃での焼戻しにより64HRCに調質したものである。そしてこれらの平面を、表面粗さRa0.016μm、Rz0.016μm、Rsk−0.116に鏡面機械研磨した後、アルカリ超音波洗浄を行った。
試料No.1〜5では、硬質皮膜のトータルの膜厚が約3.5μm、試料No.6、7ではトータルの膜厚が約8μmなるよう成膜時間を調整した。表1に成膜条件を示す。
皮膜表面の硬度は、ビッカース硬さ試験機(株式会社ミツトヨ製 HM100)を使用し、150kgfの荷重にて測定した。
積層皮膜の平均膜厚は、透過電子顕微鏡観察で測定した。トータルの膜厚は電子顕微鏡観察で測定した。表2に各測定結果を示す。
交互に積層された個々の膜厚は、測定領域の隣り合う各10層の膜厚の平均から求めた。
試料No.1の積層皮膜の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物層が約3nm、Vの窒化物層が約6nmの厚さであった。図1に試料No.1の、透過型電子顕微鏡による皮膜の断面観察写真を示す。
試料No.2は、AlCrSi系の窒化物層が約3nm、Vの窒化物層が約4.5nmの厚さであった。試料No.3は、AlCrSi系の窒化物層が約3nm、Vの窒化物層が約3nmの厚さであった。試料No.6は、AlCrSi系の窒化物層が約3nm、Vの窒化物層が約6nmであった。
各試料の表面粗さは、Ra<0.2μm、Rz<2.0μm、Rsk<0であった。
一方、試料No.4、7は、摺動性能の優れるVの窒化物層を含有しておらず、表4に示すように、25℃の試験環境から皮膜表面に相手材が局部的に付着した。そして、試験温度が高くなるに伴い、その付着量が増加した。また、付着量の増加に伴い、相手材への攻撃性も大きくなり、表5に示すようにボールの摩耗径が極めて大きくなった。
試料No.5は、局部的な付着が発生せず、表5に示すように相手攻撃性も低くなった。しかし、200℃以上の試験環境では皮膜の耐熱性が低く、皮膜の酸化が進行し、表4に示すように皮膜の摩耗量が増加した。
AlCrSiN膜とVN膜はいずれも、各試験温度においても、摺動面における相手材の付着量、または、皮膜の摩耗量にバラツキが大きく、本発明組成のAlCrSiの窒化物とVの窒化物の積層皮膜と比べて摺動特性が劣る結果となった。
表面処理を行う基材には、真空中1050℃の加熱保持より窒素ガス冷却により焼入れ後、540〜580℃での焼戻しにより45HRCに調質した、JISに規定されるダイス鋼SKD61の角状試験片(180×20×20)を準備した。そしてこれらの平面を表面粗さRa0.016μm、Rz0.016μm、Rsk−0.116に鏡面機械研磨した後、アルカリ超音波洗浄を行った。
そして、粒径3μmのダイヤモンドペーストを用いたバフ研磨で、試料No.8〜17の皮膜表を平滑化した。
試料No.18、19は#600番と、#1000番の研磨紙にて皮膜表面を平滑化した。成膜条件を表6に示す。
往復摩擦摩耗試験の回数を300往復までとし、皮膜が損傷して基材が露出した時点の回数で評価を行った。摩擦係数は、摺動時の摩擦応力を測定荷重で除算して求めた。
各種特性評価の結果を表7に示す。
本発明の試料No.15〜17は、試料No.8〜14と比べて膜厚が薄く、高負荷の使用環境下では、皮膜損傷が発生した。
試料No.18は、本発明例の試料No.9とRa、Rzは同程度であるが、Rsk>0で、皮膜表面に凸部が多く存在した。そのため、膜厚が厚いにもかかわらず、摺動抵抗が高く、凸部を起点とした摩耗粉の発生が原因で、皮膜損傷が発生した。
試料No.19は、表面粗さが本発明の規定する範囲を満たさず、膜厚も好ましい範囲内にないため、皮膜損傷が直ぐに発生した。
Claims (8)
- 工具基材の表面に、AlCrSi系の窒化物とVの窒化物が交互に積層された硬質皮膜を被覆した被覆工具であって、該硬質皮膜の膜厚が3μm以上、表面粗さがRa<0.2μm、Rz<2.0μm、Rsk<0であることを特徴とする摺動特性に優れた被覆工具。
- 硬質皮膜の膜厚が8μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の摺動特性に優れた被覆工具。
- 交互に積層されたAlCrSi系の窒化物とVの窒化物の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚の方が厚いことを特徴とする請求項1ないし2に記載の摺動特性に優れた被覆工具。
- 交互に積層されたAlCrSi系の窒化物とVの窒化物の個々の膜厚は、AlCrSi系の窒化物の膜厚よりも、Vの窒化物の膜厚が1.5倍以上であることを特徴とする請求項3に記載の摺動特性に優れた被覆工具。
- 硬質皮膜は物理蒸着法により被覆したことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動特性に優れた被覆工具。
- 工具基材の表面に、窒素雰囲気中でAlCrSi系の合金ターゲットを使用した物理蒸着法によるAlCrSi系の窒化物の被覆と、窒素雰囲気中でV金属ターゲットを使用した物理蒸着法によるVの窒化物の被覆を繰り返すことで、AlCrSi系の窒化物とVの窒化物が交互に積層された膜厚が3μm以上の硬質皮膜を被覆し、該硬質皮膜の表面をダイヤモンドペーストを用いてバフ研磨し、Ra<0.2μm、Rz<2.0μm、Rsk<0にすることを特徴とする摺動特性に優れた被覆工具の製造方法。
- AlCrSi系の窒化物とVの窒化物が交互に積層された膜厚が8μm以上の硬質皮膜を被覆することを特徴とする請求項6に記載の摺動特性に優れた被覆工具の製造方法。
- AlCrSi系の合金ターゲットとV金属ターゲットへ投入する電流比は、AlCrSi系の合金ターゲット/V金属ターゲットが2.0以下であることを特徴とする請求項6ないし7に記載の摺動特性に優れた被覆工具の製造方法。
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