JP5424103B2 - 塑性加工用被覆金型 - Google Patents

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本発明は、鍛造、プレス加工等に使用される耐摩耗性が必要とされる塑性加工用金型に関するものである。
従来、鍛造、プレス加工といった塑性加工には、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼といった工具鋼に代表される鋼や、超硬合金等を母材とする金型が用いられてきた。そして、上記の加工方法は、室温付近で加工を行う冷間加工と、被加工材が400℃以上に加熱される温間加工や熱間加工(以下、温熱間加工とも記す)に分類され、何れの金型も作業面には耐摩耗性が要求される。
近年、被加工材の高強度化、製品の高精度化、そして成形サイクルの高速化により、金型表面への負荷は増大していることから、その作業面にはTiCやTiNといった硬質材料を化学蒸着法(以下、CVD法とも記す)によって被覆した「被覆金型」が急速に増加してきた。しかしながら、金型への要求特性は作業面の耐摩耗性のみに留まらず、金型自体の高精度化も要求されるようになったため、被覆温度が1000℃以上のCVD法では上記の被覆時に金型の変形が大きくなる。そして特に、本件の技術分野に最適な、工具鋼に代表される鋼系型材の場合では、CVD法だと、その被覆後には通常行う焼入れ焼戻し熱処理で発生する熱処理歪みが問題となり、CVD法では要求を十分に満たすことが困難となった。
このような背景から、最近では、上記の被覆作業を型材の焼戻し温度以下で行えることから、被覆後の上記熱処理も要しない物理蒸着法(以下、PVD法とも記す)の適用が増加している。例えば、冷間加工用金型においては、特定成分範囲の金型基材の表面に窒化処理を施した後に、PVD法にてTiNの被覆層を適用する手法が提案されている(特許文献1)。また、熱間加工用金型においては、PVD法の前処理を規定し、窒化処理後にCrNもしくはTiAlNを被覆する手法が提案されている(特許文献2,3)。
さらに、耐摩耗性が要求される塑性加工用金型に対しては、本願出願人は、金属元素部分がTiもしくはCrを主体とする窒化物、炭化物、炭窒化物のいずれかと、金属元素部分がTi、Cr、Alから選んだ1種もしくは2種以上を主体とする窒化物、炭化物、炭窒化物のいずれかを、PVD法によって積層被覆する手法を提案した(特許文献4)。
また、その他にも超硬質な材料としてはセラミックスがあり、例えばTiのホウ化物からなる薄膜が知られている(非特許文献1)。Tiのホウ化物は、切削工具の分野においては、例えば、皮膜の耐溶着性や密着性を向上する副物質として利用されてきた(特許文献5、6)。そして、これ自体の優れた機械的特性からは、この種のホウ化物層を表面に形成した鍛造用金型も提案されている(特許文献7)。
特開昭58−031066号公報 特開平11−092909号公報 特開2003−245738号公報 特開2008−080352号公報 特開2003−145316号公報 特開平03−043105号公報 特開平02−156070号公報
N.Panich,Y.Sun,Thin Solid Films,500(2006)190−196
しかしながら、鍛造およびプレス金型の使用環境は年々過酷化しており、特許文献1〜3に提案されている手法では、その被覆層としての機能は十分に要求を満たすことができなくなった。これについては、本願出願人による特許文献4の手法であっても、未だに改善の余地があった。また、非特許文献1や特許文献7などに示されるホウ化物膜は、超硬質な特性を示すものの、耐熱性が低いという欠点を有していることから、本技術分野での実用環境における実績が乏しい。
そこで本発明は、冷間ならびに温熱間における鍛造およびプレス加工といった金属の塑性加工に使用され、耐摩耗性が必要とされる金型において、上記の問題を解消した塑性加工用被覆金型を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の塑性加工に使用される金型の耐久性を向上させるためには、その作業面に皮膜を被覆する手段を採用した。そして、その皮膜が高い硬度を有し、同時に高い耐熱性を有した状態とすることが極めて有効であることを突きとめた。そこで、上記の特性を発揮し得る具体的な皮膜構成を明らかにしたことで、この皮膜を被覆した塑性加工用金型は耐摩耗性が向上し、耐久性が格段に向上することから、本発明に至った。
すなわち本発明は、塑性加工用金型の表面に皮膜を被覆した塑性加工用被覆金型であって、該皮膜は、Tiのホウ化物であるA層の直上に、Alを主体とする金属の窒化物であるB層が被覆されており、該皮膜の表面粗さがRa:0.05μm以下である塑性加工用被覆金型である。
好ましくは、該皮膜のB層がAlを主体としCrを含む金属の窒化物である。これについては、該皮膜のB層が(AlCr)の窒化物(但し、x、yは原子比で50≦x<100、y>0、x+y=100を満足する)であることが、さらに好ましい。
また好ましくは、該皮膜のB層がAlを主体としCrおよびSiを含む金属の窒化物である。これについては、該皮膜のB層が(AlCrSi)の窒化物(但し、x、y、zは原子比で50≦x<100、y>0、z>0、x+y+z=100を満足する)であることが、さらに好ましい。
該皮膜は、Tiのホウ化物であるA層が、該Tiとの総和に対して合計10原子%以下のTiを除くIVa、Va、VIa属ならびにAl、Siのうちの1種もしくは2種以上の金属元素および/または半金属元素を含むことができる。あるいは、該Tiとの総和に対して10原子%以下のSiを含むことができる。
そして、これらの皮膜においては、B層が最表面に被覆されていることが好ましい。
また、該皮膜の上には、摩擦係数が0.2以下の潤滑層を最表面に被覆することも好ましい。より好ましくは、該潤滑層はダイヤモンドライクカーボンである。そして、この場合であっても、上記に同様、該潤滑層は、表面粗さがRa:0.05μm以下であることが好ましい。
そして、以上の本発明においては、その塑性加工用金型の基材と皮膜との間には、窒化物でなる中間層を被覆することが好ましい。より好ましくは、該中間層はCrを主体とする金属の窒化物である。
従来のPVD法によるTiN、VN、CrN、TiAlN、CrAlNに代表される窒化物膜、およびこれらの積層膜が被覆された金型では、近年における使用環境の過酷化に対し、十分な寿命が得られなくなってきた。本発明では、これらの窒化物膜に比べ、遥かに高い硬度を示すTiのホウ化物膜を適用し、これを同時に高い耐熱性を有した状態で金型に被覆することにより、金型作業面の耐摩耗性を大幅に改善できる。よって、塑性加工用金型の耐久性が格段に向上することから、実用化にとって欠くことのできない技術となる。
本発明の特徴は、塑性加工用金型の表面に、特定種の高硬度層(A層)と、同じく特定種の耐熱層(B層)を、しかも高い密着強度を有した状態で積層被覆したことで、その高い硬度と耐熱性を同時に達成できたところにある。以下、上記の皮膜が被覆された本発明の塑性加工用被覆金型について、その構成要件毎に説明していく。
(1)金型の表面に被覆された皮膜は、Tiのホウ化物であるA層の直上に、Alを主体とする金属の窒化物であるB層が被覆されたものである。
一般的にTiのホウ化物はHvで3000〜3600程度の硬さを有することから、これを本件金型の表面に被覆すれば、優れた耐摩耗性が得られる。しかし一方では、Tiのホウ化物の酸化開始温度は400℃前後であることから、この皮膜だけでは、近年の厳しい実用環境には耐えられない。そこで本発明では、このホウ化物層(A層)の直上に、特定種の耐熱層(B層)を積層被覆する手法を見いだした。この積層皮膜によって、耐熱層下にあるホウ化物層の酸化開始温度は大幅に上昇し、800℃においても優れた耐摩耗性を維持できることから、本件金型の実用温度域でもその特性を十分に発揮する。なお、本発明のA層とB層でなる1つの積層構造の単位は、それが繰り返されてもよく、結果的には最表層がA層で終わる構造であってもよい。
[A層について]
本発明の皮膜を構成する中で、上記のTiのホウ化物膜(A層)は、PVD法により被覆することが望ましい。PVD法であれば、膜内部に残留圧縮応力を付与することができるため、同じTiのホウ化物であっても、そのバルク材(大容量材)に比べ、Hvで4000を超える膜硬度が実現できる。残留圧縮応力は0.2〜6GPa程度に制御すればよい。この膜硬度および残留圧縮応力の制御には、成膜時に基材に印可するバイアス電圧を−100〜−220Vの範囲で制御する。
そして、本発明のA層については、それが基材の直上に被覆されるとなれば、その基材との間で、そしてB層との間でも、高い密着強度を有した状態で被覆できる点に特徴がある。つまり、皮膜の結晶化や、その微細化によって、高い膜硬度と密着強度を得ることができる。そして、この皮膜構造のX線回折においては、Tiのホウ化物であるA層のそれが、さらには以下の(a)〜(e)の構成を満たすことが好ましい。
(a)A層が六方晶の結晶構造であり、さらにその(001)が最大回折強度を示すことが、皮膜の高硬度化と密着性の同時向上に有効である。
(b)A層の(001)の回折強度をI(001)、同(102)の回折強度をI(102)とし、I(001)/I(102)をI値としたとき、Iが7〜25であると、A層は残留圧縮応力が適度に高く、耐摩耗性に優れる。I値が7未満だと、A層の硬さが十分ではない。I値が25を超えると、A層の残留圧縮応力が高くなり過ぎてしまい、密着強度が低下し、剥離が生じ易い傾向にある。
(c)A層の(101)の回折強度をI(101)とし、I(101)/I(102)をI値としたとき、Iが0.1〜1であることが好ましい。I値が0.1未満だと、A層の残留圧縮応力が高くなり、密着性が低下する傾向にある。I値が1を超えると、A層の結晶性が低下し、硬度が低下する傾向にある。
(d)A層の(001)の半価幅H値が0.8以上であることが、A層の高硬度化の点で好ましい。
(e)上記の回折強度において、I(001)>I(102)>I(101)であることが、A層の結晶化の点で好ましい。
そして、A層の結晶構造を上記の配向性、配向比および半価幅に制御するには、そのPVD法による成膜時の基材に印可するバイアス電圧を、やはり上記の通りの、−100〜−220Vの範囲とすることが有効である。
なお、Tiのホウ化物であるA層は、Siを含有させることにより、そのA層自体の耐酸化性を向上させることもできる。しかしながら、そのホウ化物を形成するTi部分に対しては、該Tiとの総和に占める原子比で10%を越えて多く含有すると、A層が非晶質化して、膜硬度が急激に低下し、耐摩耗性が劣化する。Siの添加方法としては、プラズマCVD法であればテトラメチルシランガスを用いることで可能であるが、PVD法であればターゲットに予め添加しておく手法がある。これについては、例えばSiCターゲットを併用することで、ホウ化物に炭素が含まれた組成(炭ホウ化物)も許容される。
その他、A層には、耐酸化性等を付与する目的で、必要に応じて、Ti以外のIVa、Va、VIa属ならびにAl等の、他の金属元素を1種もしくは2種以上、微量添加してもよい。そして、このときの添加量も、上記のTiとの総和に対しては、半金属元素であるSiも含め、原子比で合計10%以下が好ましい。
[B層について]
そして、本発明の皮膜を構成する中で、上記の耐熱層(B層)は、Alを主体とする金属の窒化物とする。このとき、「Alを主体とする金属の窒化物」とは、金属のみの原子比でAlを50%以上含有する窒化物を意味する(Al:100%を含む)。これによってB層には十分な耐酸化性が付与されるので、その下にあるA層の特性を最大限に発揮させることができる。そして、このB層もPVD法により被覆することが望ましく、膜内部に0.2〜3GPa程度の残留圧縮応力を付与することができる。この残留圧縮応力の制御には、成膜時に基材に印可するバイアス電圧を−80〜−200Vの範囲で制御することが好ましい。
Alを主体とする金属の窒化物であるB層は、それが結晶質でも非晶質でもその効果を発揮することができる。結晶質の場合、立方晶のB1構造(NaCl型)もしくは六方晶のB4構造(ウルツ型)、又はこれらの混合構造でもよい(下述)。そして、より耐酸化性を高めるためには、非晶質相中に上記のB1構造および/またはB4構造の結晶質相を分散させた構造としても良い。
なお、B層の好ましい形態は、Alを主体としCrを含む金属の窒化物である。Alを主体とする金属の窒化物の中でも、それにCrを含む金属の窒化物は、より高い耐酸化抵抗を有し、しかもA層との密着強度も高いことから、本発明のB層にとっては好ましい形態である。そして、これの最適な具体的形態の1つが、(AlCr)の窒化物(但し、x、yは原子比で50≦x<100、y>0、x+y=100を満足する)である。
上記の形態を有するB層は、そのx値(つまりAlの含有量)により、耐酸化性と膜硬度の程度やバランスが異なる。よって、金型の使用環境に応じては、x値を制御することで、最適な特性バランスを付与することができる。耐酸化性が最も要求される用途に対しては、六方晶のB4構造が最適であり、耐酸化性と耐摩耗性(膜硬度)の両特性がバランスよく要求される用途に対しては、立方晶のB1構造が最適である。これに応じては、xを50〜73に制御すればB1構造が得られ、xを85以上に制御すればB4構造が得られる。そして、xが73〜85にあるときは、B1構造とB4構造の混合した結晶相が得られる。A層との硬度差を小さくし、A層との密着性を確保する上では、xは70以下とすることが望ましい。
あるいは、B層のもう1つの好ましい形態は、Alを主体としCrおよびSiを含む金属の窒化物である。すなわち、先に紹介したAlを主体としCrを含む金属の窒化物の中でも、さらにはそれにSiを含む金属の窒化物は、硬度と耐酸化性が同時に向上することから、本発明のB層にとっては最も好ましい形態である。そして、この最適な具体的形態の1つが、(AlCrSi)の窒化物(但し、x、y、zは原子比で50≦x<100、y>0、z>0、x+y+z=100を満足する)である。好ましくは、y>zである。
そして、この形態を有するB層においても、金型の使用環境に応じては、そのx値を制御することで、耐酸化性と膜硬度の最適な特性バランスを付与することができる。xを50〜60に制御すれば、耐酸化性と耐摩耗性(膜硬度)のバランスに優れたB1構造が得られる。xを75以上に制御すれば、耐酸化性に優れたB4構造の結晶相と非晶質相の混合組織、または非晶質相となる。そして、xを60〜75に制御すれば、B1構造とB4構造の混合した結晶相が得られる。A層との硬度差を小さくし、A層との密着性を確保する上では、このxは70以下とすることが望ましい。また、Siであっても過多の含有は膜硬度を下げるので、zは10以下とすることが望ましい。
(2)該皮膜は、表面粗さがRa:0.05μm以下であることが好ましい。
A層の直上にB層が存在する上記の皮膜は、その表面粗さを低下、つまり平滑化することで、表面欠陥が減少し、耐カジリ性と耐酸化性が向上する。よって、B層の下に位置するA層の酸化を抑制できる。この効果を得るためには、皮膜の表面粗さをRaにて0.05μm以下とすることが好ましい。なお、本発明で使用するRaとは、JISB0601−2001に規格化される算術平均粗さである。皮膜の表面を平滑化するには、A層およびB層の成膜手段にスパッタリング法を採用することが、ドロップレット(異常粒子)を低減させる効果の点で好適である。あるいはさらに、成膜後には、皮膜の表面を機械的に平滑化することが好適である。
また、皮膜の表面においては、マクロパーティクルの面積率は5%以下が好ましい。より好ましくは1%以下である。マクロパーティクルとは、皮膜の表面に対して凸形状を有する、大きさが概ね1μm以上の球状の付着粒子であって、その核は金属成分が主体でなる。そして、表面にマクロパーティクルが存在すると、カジリの原因や局部酸化が起こりやすく、そこが優先的に摩耗が進行するためである。マクロパーティクルの面積率は、皮膜の表面を走査型電子顕微鏡により倍率3000倍で撮影して、そこに確認される凸形状のマクロパーティクルの面積を画像解析処理することで、定量化が可能である。
(3)該皮膜は、B層が最表面に被覆されていることが好ましい。
塑性加工では、被加工材が金型表面に付着して、金型には摩耗に加え、カジリも併発する場合もある。よって、本発明のA層およびB層を複数回被覆するときや、その他の第3層を導入するときであっても、Alを主体とする金属の窒化物であるB層は、耐カジリ性と化学的安定性が良好であることから、被加工材との接触面にはB層が被覆されていることが好ましい。
(4)該皮膜の上には、摩擦係数が0.2以下の潤滑層が最表面に被覆されていることが好ましい。
A層とB層の被覆を必須とした上記皮膜の上には、さらなる第3層として、摩擦係数が0.2以下の潤滑層を最表面に被覆することが好ましい。より好ましくは、B層の上に被覆する。これによって、本発明の塑性加工用被覆金型は、さらに耐カジリ性が向上し、A層の優れた耐摩耗性との相互作用により、さらに金型の耐久性が増す。
この潤滑層は、ダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCとも記す)であることが好ましい。そして、DLCの構造を含んだ上記の潤滑層においては、この構造形成には関与しないフリーカーボンは勿論のこと、金属や、その他の要素を含有してもよく、また水素の含有有無も問わない。金属を含有する場合は、耐熱性向上の観点からタングステンが最適であり好ましい。この皮膜は、炭化タングステンを含有するグラファイトターゲットを用いたスパッタリング法により被覆することができる。また、上記に同様、潤滑層も、その表面粗さはRa:0.05μm以下に平滑化することが好ましい。
(5)基材と皮膜との間には、窒化物でなる中間層を被覆することが好ましい。
B層の下に被覆されるA層は、高い残留圧縮応力を有していることから、基材との間で密着性が劣化する懸念がある。よって、基材とA層の間には、残留圧縮応力が低い中間層を被覆することが、A層と基材の密着性向上に好ましい。そして、この中間層は、窒化物でなることが最適である。
そして、この中間層は、窒化物の中でも、Crを主体とする金属の窒化物であることがより好ましい。これは、密着性をより向上させるための「残留応力緩和層」であると同時に、セラミックスに比べては、変形能の高い金属系基材との「機能傾斜層」としても機能するからである。なお、この窒化物においては、金属部分が50原子%以上のCrであることに加えては(100%を含む)、耐熱性、耐酸化性、耐摩耗性の効果を得る上で、その他にAl、Si、Tiから選択される1種以上を含有してもよい。但し、これらの元素は過多に含有すると中間層の膜硬度を低下させるので、その結果、A層との硬度差が大きくなると、A層の密着性が低下する。よって、Al、Si、Tiの合計は、上記の金属部分に対して、原子比で50%未満とすることが望ましい。
以上を総括すれば、本発明の皮膜は、そのA層とB層の組合せでなる積層皮膜に加えれば、これを次の構成に応用することが望ましい。つまり、基材から始まっては、中間層(窒化物)−A層(ホウ化物)−B層(窒化物)−潤滑層(ダイヤモンドライクカーボン)の順で、最表面まで積層被覆した構成である。そして、左記構成の総膜厚に対しては、中間層が5〜20%、A層が30〜80%、潤滑層が20%以下(被覆する場合、好ましくは5%以上)、残りがB層の窒化物である場合が、最も優れた耐摩耗性を発揮する。さらには、基材との密着性にも優れ、スクラッチ試験における臨界荷重は50N以上である。
本発明の塑性加工用被覆金型は、その基材となる金属材質について特段に定めるものではない。そして、例えば上記の通りの、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼および超硬合金等が使用できる。特には、工具鋼が好ましい。これについては、JIS等による規格金属種(鋼種)を含め、従来金型への使用が可能な鋼種として提案のされてきた改良金属種も適用できる。
<評価用試料の作製>
ここでは、塑性加工用被覆金型に要求される機械的特性(すなわち、皮膜の硬度、表面粗さ、密着性、耐酸化性、摩擦係数)を評価するための試料を作製した。基材にはJISに規定される高速度鋼SKH51を用意し、これを真空中1180℃の加熱保持から窒素ガス冷却により焼入れ後、540〜580℃での焼戻しにより64HRCに調質したものを用いた。基材の寸法は、厚み5mm、直径20mmの円盤状である。
次に、上記の円盤状基材の表面を研摩紙により#1500まで磨いた後、エアロラップ(登録商標)機により平滑化して、表面粗さをRaで0.02μm以下に整えた。そして、炭化水素系の溶剤中で超音波洗浄し、脱脂したものにつき、以下の表面処理を施して、本発明例、比較例、従来例となる評価用試料を作製した。
[本発明例1]
成膜手段には、基材にバイアス電圧を印加するスパッタリング法を採用し、中間層、A層、B層、潤滑層を同一チャンバー内で連続して成膜した。成膜装置については、まずスパッタ電源とバイアス電源には直流電源を用いた。そして、独立したアノードを設けて電子の移動距離を長くし、プラズマを活性化する工夫を施して、通常のスパッタリング装置よりもイオン化率を高める手段を採用している。これにより、特にA層(ホウ化物膜)の結晶性が向上して、高硬度化することができる。真空排気は、ターボ分子ポンプとロータリーポンプにて行う。
同装置内には、スパッタリング蒸発源を4基搭載する。そして、カソード1:Crターゲット、カソード2:TiBターゲット(原子比)、カソード3:Al70Cr30ターゲット(原子比)、カソード4:WC7030ターゲット(原子比)を設置した。導入ガスは、Ar、Kr、Nを用い、ガス供給ポートから導入する。
バイアス電源は、基材に接続され、独立して基材に負のバイアス電圧を印加する。基材は、毎分1回転で自転しかつ、固定冶具とサンプルホルダーを介して公転する。基材とターゲット表面間の距離は50mmとした。
成膜条件については、まず成膜装置内のヒーターにより基材温度が500℃になった状態で90分間の加熱を行い、真空容器(チャンバー)内の圧力が4×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入した。そして、基材に−500Vのバイアス電圧を印加し、カソードとアノード間に1500Wの電力を供給して、Arイオンによる基材のクリーニングを30分間実施した。
次に、容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気し、一定流量のArガス500mlのもとで、容器内の圧力が580mPaになるようにNガスを導入した。そして、バイアス電圧を−100V、アノード電圧を−90Vに設定して、カソード1(Crターゲット)への供給電力を6000Wとし、厚さ約1μmのCrN中間層を被覆した。
引き続いて、カソード1への電力供給と、窒素の供給を停止して、Arガスは500mlの一定流量を維持した。そして、カソード2(TiBターゲット)に4000Wの電力を供給して、厚さ約4μmのTiB(A層)を被覆した。
続けて、カソード2への電力供給を中断し、Arガス500mlの一定流量を維持のもとで、容器内の圧力が580mPaになるようにNガスを導入した。そして、カソード3(Al70Cr30ターゲット)に6000Wの電力を供給して、厚さ約1μmのAlCrN層(B層)を被覆した。なお、このAlCrN層の表面に確認されたマクロパーティクルは1面積%以下であった。そして、このCrN(中間層)−TiB(A層)−AlCrN(B層)の順で皮膜を積層被覆した試料を冷却後、容器内から取り出した。
[本発明例2]
本発明例1のスパッタリング装置を用いかつ、その同条件による基材のクリーニングまでを行った後には、続けて本発明例1と同じ成膜条件によって、CrN(中間層)−TiB(A層)−AlCrN(B層)までの積層皮膜を被覆した。なお、それぞれの層の厚さは、CrN中間層が約1μm、TiB(A層)が約3μm、AlCrN層(B層)が約1μmである。
そして、引き続いては、カソード3(Al70Cr30ターゲット)への電力供給と、窒素の供給を停止し、Arガスは500mlの一定流量を維持して、カソード4(WC7030ターゲット)に4000Wの電力を供給し、厚さ約1μmのDLC潤滑層を被覆した。この潤滑層の詳細を調べたところ、DLCの主体はspの結晶構造を有するグラファイトであって、金属タングステンが存在するものであった(炭化タングステンの状態のものを含む)。そして、表面に確認されたマクロパーティクルは1面積%以下であった。このCrN(中間層)−TiB(A層)−AlCrN(B層)−DLC(潤滑層)の順で皮膜を積層被覆した試料を、冷却後に、容器内から取り出した。
[本発明例3]
本発明例1のスパッタリング装置を用いかつ、その同条件による基材のクリーニングまでを行った後には、本発明例2と同様の、CrN(中間層)−TiB(A層)−AlCrN(B層)までの積層皮膜を被覆した。それぞれの層の厚さは、CrN中間層が約1μm、TiB(A層)が約3μm、AlCrN層(B層)が約1μmである。
そして、カソード3への電力供給と、窒素の供給を停止し、Arガスは500mlの一定流量を維持して、今度は、Cガスを80ml導入し、カソード2(TiBターゲット)に4000Wの電力を供給して、厚さ約0.3μmのTiの炭ホウ化物層を被覆した。この炭ホウ化物層は、摩擦係数が0.2の潤滑層の機能を有する。このCrN(中間層)−TiB(A層)−AlCrN(B層)−TiBC(潤滑層)の順で皮膜を積層被覆した試料を、冷却後に、容器内から取り出した。
[比較例4]
本発明例1のスパッタリング装置を用いかつ、その同条件による基材のクリーニングまでを行った後には、容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気した。そして、一定流量のArガス500mlのもとで、バイアス電圧を−100V、アノード電圧を−90Vに設定し、カソード2(TiBターゲット)へ4000Wの電力を供給して、厚さ約5μmのTiB(本発明のA層に相当)単一構造膜を被覆した。表面に確認されたマクロパーティクルは1面積%以下であった。冷却後に、この試料を容器内から取り出した。
[比較例5]
本発明例1のスパッタリング装置を用いかつ、その同条件による基材のクリーニングまでを行った後には、続けて本発明例1と同じ成膜条件によって、CrN(中間層)−TiB(本発明のA層に相当)の積層皮膜を被覆した。それぞれの層の厚さは、CrN中間層が約1μm、TiB層が約4μmである。表面に確認されたマクロパーティクルは1面積%以下であった。そして、このCrN−TiBの順に積層被覆した試料を、冷却後に、容器内より取り出した。
[従来例6]
上記の円盤状基材に対しては、公知のアークイオンプレーティング法により、厚さ約5μmのCrN膜を被覆した。この場合、表面に確認されたマクロパーティクルは約9面積%であった。
[従来例7]
上記の円盤状基材に対しては、公知のアークイオンプレーティング法により、厚さ約5μmのAlCrN膜を被覆した。そして、表面に確認されたマクロパーティクルは約11面積%であった。
<機械的特性の評価>
[硬度の評価]
エリオニクス製のナノインデンテーション装置を用いて、皮膜の硬度を測定した。本評価装置は、微小荷重で測定できることから、測定対象に形成される圧痕も微小であり、よって積層構造膜の各層の硬度を測定することができる。そして、各層の硬度を測定するためには、皮膜の最表面に対し試験片を5度傾けた皮膜断面を鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さが各層厚の略1/10未満となる領域を選定した。なおこのとき、最大押し込み深さは略1/5程度でも基材からの影響はなかった。
そして、押込み荷重9.8mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.098mN/秒の測定条件で、各層につき10点測定し、その平均値を求めた。なお、本測定方法による皮膜硬度は、圧子の微細形状、測定時の温度、湿度、試料の表面状態に左右され易く、得られる数値は必ずしもその定量値としての扱いができない点で、ビッカース硬さとは異なる。そこで、一方では単結晶Siの基準試料を準備して、これの硬度も同時に測定したことで(15GPaであった)、この測定結果をもとに相対比較することができる。測定結果を表1に示す。
Figure 0005424103
表1より、本発明のA層であるTiB層は、一般的なTiのホウ化物(バルク材)の硬度が35GPa程度であるのに対して、高い膜硬度を示した。そして、このA層は、スパッタリング成膜時のバイアス電圧を−80Vに設定したときで60GPa、−120Vで68GPa、−150Vで68GPa、−200Vで69GPaであったことから、該測定方法においての60GPaを越える膜硬度が得られる。また、スパッタリング法により成膜した本発明のB層であるAlCrN層は、アークイオンプレーティング法により成膜した従来例に比べて、高い膜硬度を示した。
[摩擦係数の評価]
ボールオンディスク型の摩耗試験機を用いて、皮膜の摩擦係数を測定した。測定条件は荷重2N、回転半径4mm、回転速度を10cm/秒、摺動距離100mとし、ディスクを被覆試料、ボールを直径6mmのJIS−SUJ2とした。得られる摩擦係数は、機械的誤差により変動する可能性があるため、試料表面とボール(相手材)が接していない状態の摩擦係数値をゼロとすることで、摩擦係数値を補正した。測定結果を表2に示す。
Figure 0005424103
本発明例1に対しては、さらに潤滑層を最表面に被覆した本発明例2、3は、より低い摩擦係数を示しており、優れた耐摩耗性に加えて、低摩擦化も達成できる。
[密着性の評価]
皮膜の密着性(基材と膜、層間)を評価するために、ロックウェルCスケールで皮膜表面に圧痕を形成し、その圧痕周辺部の膜の剥離状態を光学顕微鏡で観察した。剥離が観察できなかったものをA、圧痕周辺に連続的に剥離が観察されたものをCとし、その中間の剥離状態をBとした。結果を表3に示す。
Figure 0005424103
本発明例1〜3は高い密着強度を示し、塑性加工用金型に要求される密着強度を十分に満足する。
[表面粗さの評価]
接触式面粗さ測定器でRa値を測定した。そして、成膜時の面粗さに加えては、それにエアロラップを行った後の面粗さも測定した。結果を表4に示す。
Figure 0005424103
スパッタリング法によって成膜した本発明例1〜3および比較例4、5は、何れも成膜時のRaが0.05μm以下を達成している。そして、エアロラップ後のRaは0.02μm以下であって、アークイオンプレーティング法によった従来例6、7の面粗度よりも格段に平滑な表面が得られる。
[耐酸化性の評価]
各試料を900℃の大気中で1時間保持した後、試料断面を強制破断した。そして、その皮膜断面を走査型電子顕微鏡で観察して、酸化スケールの厚さを実測した。結果を表5に示す
Figure 0005424103
比較例4、5に比較しては、A層の直上にAlCrNからなるB層を被覆した本発明例1〜3は、酸化が大幅に抑制されている。そして、特に耐酸化性が要求される用途に対しては、潤滑層を被覆しない本発明例1の皮膜構成が好適である。一方、従来例6は、その製法上、皮膜表面にドロップレットが多く存在し、ドロップレットが脱落した跡のピンホールからの酸化が確認された。そして、表面が平滑である本発明例1に対しては、従来例7の耐酸化性は劣るものである。
[結晶性の評価]
本発明のA層(Tiのホウ化物膜)の結晶性を評価するため、本発明例1の皮膜にX線回折を行った。これには、リガク社製X線回折装置を用い、管電圧120kV、管電流40μm、X線源Cukα、X線入射角5度、X線入射スリット0.4mm、2θを20〜90度の条件で測定した。そして、結晶構造を決定し、(001)、(101)、(002)、(102)の回折強度と2θを測定することで、I値(I(001)/I(102))、I値(I(101)/I(102))、H((001)半価幅値)を求めた。A層のX線回折結果を表6に示す。
Figure 0005424103
本発明例1のA層は六方晶のTiホウ化物からなる。そして、一般的なTiホウ化物に比べては、2θ値が低角度側にピークシフトしており、膜内部に残留圧縮応力を有している。また、半価幅が0.8以上であり、微結晶からなる。さらに、(001)に強い回折強度を示し、I値が12.8、I値が0.7であることも本発明の特徴であり、硬化した要因であると考える。
以上の、皮膜の機械的特性を測定した結果から、これを作業面に被覆した本発明の塑性加工用被覆金型は、それに要求される高い膜硬度、耐酸化性の両得性を同時に満たすことが、次の金型としての耐久性の評価の通り、確認された。そして、必要に応じては、優れた低摩擦特性、高密着性等をも付与することができる。
[金型としての耐久性の評価]
実施例1で評価した本発明例1の皮膜(CrN−TiB−AlCrN)と比較例5の皮膜(CrN−TiB)の表面処理を施した絞り成形用パンチを用いて、耐久性の評価を行った。パンチ母材の材質はSKH51、成形する相手材をSUS304とし、成形条件は一般的な深絞り条件である。そして、夫々500ショット成形した時点での、不具合品の発生率により耐久性の評価を行った。
その結果、比較例5によるパンチでは150ショットから製品に縦スジが発生し、500ショット時点での不具合品発生率は44%であった。不具合品の表面を観察すると、絞り成形方向には筋状の痕が確認された。これは、酸化や摩耗、またはカジリによって、パンチの表面には付着物が固着して、これに起因した縦スジが製品側には発生したと考えられる。これに対して、本発明例1によるパンチは、500ショット時点での不具合品発生率が0%であったどころか、10000ショット継続した時の不具合品発生率も0%であった。
<評価用試料の作製>
本発明のA層(Tiのホウ化物)に対しては、それに添加することでA層の耐酸化性を向上するSiについて、そのA層自体の硬さおよび耐酸化性に及ぼすSi添加量の影響を評価した。試料の作製については、実施例1で作製した本発明例1の成膜要領に対し、そのカソード4をSiCターゲットに変更して、それによるA層の成膜条件を下記に変更した以外には、同様の製造装置および条件による本発明例8〜10を作製した。
まず、基材の表面には厚さ約1μmのCrN中間層を被覆し、カソード1(Crターゲット)への電力供給と、窒素の供給を停止し、Arガスは500mlの一定流量を維持した。そして、カソード2(TiBターゲット)に4000Wの電力を供給して、厚さ約1μmのTiBの単層を被覆した後に続けては、カソード4(SiCターゲット)に500W(本発明例8)、1000W(本発明例9)、2000W(本発明例10)の電力をそれぞれ供給して、総厚さ約3μmの、TiBとSiCの混合層でなるA層を被覆した。そして、この試料を冷却後に容器内から取り出して、A層の硬度および組成(TiとSiの原子比率)の測定と、耐酸化性の評価を行った。
硬度は、実施例1と同じ手法により、混合層の部分を測定した。組成は、EPMA(X線マイクロアナライザー)で測定した。耐酸化性は、実施例1の加熱試験に従い、その酸化スケールの厚さを実測した。これらの結果を表7に示す(ここでは、B層を被覆しない各試料も、便宜上「本発明例」と記す)。
Figure 0005424103
Siを添加しない先の比較例4のTiB層が、結果的にはその上に本発明のB層を被覆しなかったことから、基材まで酸化が及んだことに対しては、Siを添加した本発明例8〜10のA層は、そのSi含有量の増加に伴って、耐酸化性が格段に向上した。その一方では、例えば先の本発明例1のA層(TiB)の膜硬度が66であったことに比しては、Ti量に対し10原子%を超えるSiを含有した本発明例10の膜硬度は、低下している。以上をもって、特に本発明の好ましい要件を備えた本発明例8、9は、本発明の皮膜を構成するA層に最適である。
<評価用試料の作製>
本発明のB層(Alを主体とする金属の窒化物)に対しては、それに添加することで該層の耐酸化性などを向上するAlやCr、Siについて、そのB層自体の硬さに及ぼす影響を評価した。試料の作製条件は、実施例1で作製した本発明例1の成膜要領に従うものとし、まず中間層、TiB層を被覆した。そして、最表層であるB層は、その組成のみが変わるよう、カソード3を以下の成分組成を有するターゲットに変更した。カソード4はTiBターゲットに変更した。そして、表8に示す膜組成の、本発明例11〜16を作製した。
本発明例11 : Al70Cr30(以下、原子比)
本発明例12 : Al80Cr20
本発明例13 : Al90Cr10
本発明例14 : Al60Cr36Si
本発明例15 : Al60Cr32Si
本発明例16 : Al60Cr28Si12
Figure 0005424103
例えば、実施例1の本発明例1のB層[(Al70Cr30)N]の膜硬度が31であったことに比べても、そのAl比率が高い本発明例13のB層は、結晶構造がB4構造側に移行し、そして本発明例16のB層は、高比率のSiを含有したことから、硬度が低下している。
本発明は、冷間ならびに温熱間における鍛造およびプレス加工といった金属の塑性加工に使用され、耐摩耗性が必要とされる塑性加工用被覆金型について述べたものである。そして、その優れた耐摩耗性、耐酸化性、耐カジリ性、密着性を考慮すると、使用条件によっては、鉄系に限らず、チタニウム、アルミニウム、ならびにそれらの合金の塑性加工にも適用が可能である。また、本発明の塑性加工用被覆金型は、ダイカストおよび鋳造に使用される金型、もしくは鋳抜きピンや、ダイカストの射出機に使用されるピストンリング等の、溶融金属に接して使用される鋳造用部材としても、転用が可能である。

Claims (13)

  1. 塑性加工用金型の表面に皮膜を被覆した塑性加工用被覆金型であって、該皮膜は、Tiのホウ化物であるA層の直上に、Alを主体とする金属の窒化物であるB層が被覆されており、該皮膜の表面粗さがRa:0.05μm以下であることを特徴とする塑性加工用被覆金型。
  2. 該皮膜は、B層がAlを主体としCrを含む金属の窒化物であることを特徴とする請求項1に記載の塑性加工用被覆金型。
  3. 該皮膜は、B層が(AlCr)の窒化物(但し、x、yは原子比で50≦x<100、y>0、x+y=100を満足する)であることを特徴とする請求項2に記載の塑性加工用被覆金型。
  4. 該皮膜は、B層がAlを主体としCrおよびSiを含む金属の窒化物であることを特徴とする請求項1に記載の塑性加工用被覆金型。
  5. 該皮膜は、B層が(AlCrSi)の窒化物(但し、x、y、zは原子比で50≦x<100、y>0、z>0、x+y+z=100を満足する)であることを特徴とする請求項4に記載の塑性加工用被覆金型。
  6. 該皮膜は、Tiのホウ化物であるA層が、該Tiとの総和に対して合計10原子%以下のTiを除くIVa、Va、VIa属ならびにAl、Siのうちの1種もしくは2種以上の金属元素および/または半金属元素を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の塑性加工用被覆金型。
  7. 該皮膜は、Tiのホウ化物であるA層が、該Tiとの総和に対して10原子%以下のSiを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の塑性加工用被覆金型。
  8. 該皮膜は、B層が最表面に被覆されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の塑性加工用被覆金型。
  9. 該皮膜の上には、摩擦係数が0.2以下の潤滑層が最表面に被覆されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の塑性加工用被覆金型。
  10. 該潤滑層は、ダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする請求項に記載の塑性加工用被覆金型。
  11. 該潤滑層は、表面粗さがRa:0.05μm以下であることを特徴とする請求項または10に記載の塑性加工用被覆金型。
  12. 塑性加工用金型の基材と該皮膜との間には、窒化物でなる中間層を被覆したことを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の塑性加工用被覆金型。
  13. 該中間層は、Crを主体とする金属の窒化物であることを特徴とする請求項12に記載の塑性加工用被覆金型。
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