JP2017066487A - 硬質皮膜、硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有する硬質皮膜、及びその製造方法。
【選択図】 図4
Description
本発明の硬質皮膜被覆部材は、基体上に、アークイオンプレーティング法(AI法)により、(AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有し、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr又はSiCrAlの合金粒子を含有する硬質皮膜を形成してなることを特徴とする。SiCr又はSiCrAlの合金粒子をまとめてSiCr(Al)合金粒子と言う。
基体は耐熱性に富み、物理蒸着法を適用できる材質である必要がある。基体の材質として、例えば超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼、又は立方晶窒化ホウ素(cBN)等のセラミックスが挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性等の観点から、WC基超硬合金基体又はセラミックスが好ましい。WC基超硬合金は、炭化タングステン(WC)粒子と、Co又はその合金の結合相とからなり、結合相の含有量は1〜13.5質量%が好ましく、3〜13質量%がより好ましい。結合相の含有量が1質量%未満では基体の靭性が不十分になり、結合相が13.5質量%超では硬度(耐摩耗性)が不十分になる。焼結後のWC基超硬合金の未加工面、研磨加工面及び刃先処理加工面のいずれの表面にも本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜を形成できる。
前記基体がWC基超硬合金の場合、流量が30〜150 sccmのアルゴンガス雰囲気中で、450〜750℃の温度に保持した基体表面に、TifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成のターゲットに50〜100 Aのアーク電流を通電し、もって前記基体の表面を前記ターゲットから発生したイオンによりボンバードし、fcc構造を有する改質層を形成するのが好ましい。WC基超硬合金は主成分のWCがhcp構造を有するが、前記改質層は(AlCrSi)N硬質皮膜と同じfcc構造を有し、両者の境界(界面)における結晶格子縞の30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上の部分が連続し、もって前記改質層を介してWC基超硬合金基体と(AlCrSi)N硬質皮膜とが強固に密着する。
(1) 組成
AI法により、基体上に被覆される本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜は、Al、Cr及びSiを必須元素とする窒化物からなる。(AlCrSi)N硬質皮膜の組成は一般式:(AlxCrySiz)1-aNa(原子比)により表される。x、y、z及びaはそれぞれ0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有することを特徴とする。SiCr(Al)合金粒子の組成は一般式:SiαCrβAlγ(原子比)により表され、α、β及びγはそれぞれ0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。
SiCr(Al)合金粒子のSi、Cr及びAlの総計(α+β+γ)を1として、Siの割合αの範囲は0.2〜0.8である。αが0.2未満では保護膜の形成が困難になるため耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。一方、αが0.8を超えると粒子及び硬質皮膜がアモルファス化して保護膜の形成が困難になると同時に、保護膜の効果が著しく低下するため耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。αの好ましい範囲は0.3〜0.7であり、更に好ましい範囲は0.35〜0.7である。
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜が従来より高い耐酸化性及び耐摩耗性を発揮するメカニズムは、一般的な(AlCrSi)N皮膜被覆切削工具を例にとると、以下のように考えられる。(AlCrSi)N皮膜被覆切削工具では、切削加工時に皮膜表面から多量の酸素が取り込まれて皮膜表面付近のAlが優先的に酸化され、Al酸化物層が形成される。この際に形成される酸化物はAlを主成分とし、更にCr及びSiを含むことにより緻密化し、切削工具を保護する。これでも切削工具の損傷抑制に効果的であるが、最近の厳しい高性能化の要求に対して十分ではない。この点に鑑み鋭意研究の結果、(a) CrSi2相を含むAlCrSi焼結体からなるターゲットを用いて切削工具基体にAI法により(AlCrSi)N硬質皮膜を形成すると、得られる(AlCrSi)N硬質皮膜はSi及びCrを主成分とする最大長さが10〜500 nmのSiCr(Al)合金粒子を含有し、(b) その(AlCrSi)N硬質皮膜を有する工具で鋼又は鋳鉄の被削材の切削加工を行うと、切削時の熱で、被削材から拡散した金属成分及びSiCr(Al)合金粒子の酸化物層が切削工具表面に形成され、もって優れた耐酸化性及び耐摩耗性を発揮することが分った。
特に限定されないが、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜の算術平均厚さは0.5〜15μmが好ましく、1〜10μmが更に好ましい。この範囲の膜厚により、基体から(AlCrSi)N硬質皮膜が剥離するのが抑制され、優れた耐酸化性及び耐摩耗性が発揮される。平均厚さが0.5μm未満では(AlCrSi)N硬質皮膜の効果が十分に得られず、また平均厚さが15μmを超えると残留応力が過大になり、(AlCrSi)N硬質皮膜が基体から剥離しやすくなる。
X線回折パターンでは、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はfccの単一構造からなる。また透過型電子顕微鏡による制限視野回折パターンでは、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスはfcc構造が主構造であり、副構造としてその他の構造(hcp構造等)を有していても良い。
SiCr(Al)合金粒子は、電子回折パターンではhcp構造を有する。(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスのfcc構造及びSiCr(Al)合金粒子のhcp構造は保護膜の形成に適している。もし(AlCrSi)N硬質皮膜がアモルファス構造からなると、耐摩耗性が低すぎるために切削加工時にすぐに摩滅し、保護膜が形成されない。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はアモルファス構造の保護膜より格段に良好な耐摩耗性を有し、また結晶化しているため均一な組成を有するので、安定した保護膜を形成できる。
基体と(AlCrSi)N硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成しても良い。中間層は、TiN、又はfcc構造を主構造とする(TiAl)N、(TiAl)NC、(TiAl)NCO、(TiAlCr)N、(TiAlCr)NC、(TiAlCr)NCO、(TiAlNb)N、(TiAlNb)NC、(TiAlNb)NCO、(TiAlW)N及び(TiAlW)NC、(TiSi)N、(TiB)N、TiCN、Al2O3、Cr2O3、(AlCr)2O3、(AlCr)N、(AlCr)NC及び(AlCr)NCOからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるのが好ましい。中間層は単層でも積層でも良い。
(AlCrSi)N硬質皮膜の形成にはAI装置を使用することができ、改質層及び中間層の形成にはAI装置又はその他の物理蒸着装置(スパッタリング装置等)を使用することができる。AI装置は、例えば図1に示すように、絶縁物14を介して減圧容器5に取り付けられたアーク放電式蒸発源13,27と、各アーク放電式蒸発源13,27に取り付けられたターゲット10,18と、各アーク放電式蒸発源13,27に接続したアーク放電用電源11,12と、軸受け部4を介して減圧容器5の内部まで貫通した回転軸線を有する支柱6と、基体7を保持するために支柱6に支持された保持具8と、支柱6を回転させる駆動部1と、基体7にバイアス電圧を印加するバイアス電源3とを具備する。減圧容器5には、ガス導入部2及び排気口17が設けられている。アーク点火機構16,16は、アーク点火機構軸受部15,15を介して減圧容器5に取り付けられている。電極20は絶縁物19,19を介して減圧容器5に取り付けられている。ターゲット10と基体7との間には、遮蔽板軸受け部21を介して減圧容器5に遮蔽板23が設けられている。図1には図示していないが、遮蔽板23は遮蔽板駆動部22により例えば上下又は左右方向に移動し、遮蔽板22がターゲット10と基体7との間に存在しない状態にされた後に、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜の形成が行われる。
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットは、Al粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体である。原料粉末の配合組成は、不可避的不純物以外、(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されるのが好ましい。前記ターゲットは、前記混合粉末からなる成形体を焼結してなり、前記配合組成と実質的に同じ組成を有するCrSi2相を含む。h、i、j及びkがそれぞれ上記範囲内でないと、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜が得られない。即ち、前記ターゲットは、金属Al、金属Cr及び半金属Siの他に、CrSi2を含有することにより(AlCrSi)N硬質皮膜中に分散したSiCr(Al)合金粒子を形成することができる。
改質層形成用TiBターゲットは、不可避的不純物を除いて、TifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成を有する。Tiの原子比fが0.5未満ではfcc構造の改質層が得られず、またfが0.9超では脱炭相が形成されて、やはりfcc構造の改質層が得られない。Tiの原子比fの好ましい範囲は0.7〜0.9である。
図1に示すように、アーク放電式蒸発源13,27はそれぞれ陰極物質の改質層形成用TiBターゲット10、及び(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲット(CrSi2を含むAlCrSi焼結体合金)18を備え、アーク放電用電源11、12から、後述の条件でターゲット10に直流アーク電流を通電し、ターゲット18にパルスアーク電流を通電する。図示していないが、アーク放電式蒸発源13、27に磁場発生手段(電磁石及び/又は永久磁石とヨークとを有する構造体)を設け、(AlCrSi)N硬質皮膜を形成する基体7の近傍に数十G(例えば10〜50 G)の空隙磁束密度の磁場分布を形成する。
図1に示すように、基体7にバイアス電源3から直流電圧又はパルスバイアス電圧を印加する。
(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックス内に、SiαCrβAlγ(ただし、α、β、γは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2、α+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有する本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜は、上記(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットを用いたAI法により形成できる。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜の成膜条件を工程ごとに以下詳述する。
図1に示すAI装置の保持具8上に基体7をセットした後、減圧容器5内を1〜5×10-2Pa(例えば1.5×10-2 Pa)の真空に保持しながら、ヒーター(図示せず)により基体7を250〜650℃の温度に加熱する。図1では円柱体で示されているが、基体7はソリッドタイプのエンドミル又はインサート等の種々の形状を取り得る。その後、Arガスを減圧容器5内に導入して0.5〜10 Pa(例えば2 Pa)のArガス雰囲気とする。この状態で基体7にバイアス電源3により−250〜−150 Vの直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧を印加して基体7の表面をArガスによりボンバードして、クリーニングする。
改質層形成用TiBターゲットを用いたWC基超硬合金基体7へのイオンボンバードは、基体7のクリーニング後に、流量が30〜150 sccmのArガス雰囲気内で行い、基体7の表面に改質層を形成する。アーク放電式蒸発源13に取り付けた前記TiBターゲットの表面にアーク放電用電源11から50〜100 Aのアーク電流(直流電流)を通電する。基体7は450〜750℃の温度に加熱し、さらにバイアス電源3から基体7に−1000〜−600 Vの直流バイアス電圧を印加する。TiBターゲットを用いたイオンボンバードによりTiイオン及びBイオンがWC基超硬合金基体7の表面に照射される。
基体7の上(改質層を形成した場合はその上)に(AlCrSi)N硬質皮膜を形成する。この際、窒化ガスを使用し、アーク放電式蒸発源27に取り付けたターゲット18の表面にアーク放電用電源12から後述の条件でアーク電流を通電する。同時に、所定温度に制御した基体7にバイアス電源3から直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加する。
(AlCrSi)N硬質皮膜の成膜時に基体温度を425〜475℃にする必要がある。基体温度が425℃未満では(AlCrSi)Nが十分に結晶化しないため、(AlCrSi)N硬質皮膜が十分な耐摩耗性を有さず、また残留応力の増加により皮膜剥離の原因となる。一方、基体温度が475℃超では結晶粒の微細化が促進されて耐摩耗性が損なわれ、更にhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子が形成されない。基体温度は435〜475℃が好ましい。
基体7に本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜を形成するための窒化ガスとして、例えば窒素ガス、アンモニアガスと水素ガスとの混合ガス等を使用することができる。窒化ガスの圧力は3〜6 Paにするのが好ましい。窒化ガスの圧力が3 Pa未満ではhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子の形成が不十分となり、6 Pa超では窒化ガスの添加効果が飽和する。
(AlCrSi)N硬質皮膜を形成するために、基体に直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加する。直流バイアス電圧は負の−140〜−100 Vにする。−140 V未満では基体上にアーキングが発生したり逆スパッタ現象が発生し、生産性が著しく低下する。一方、−100 V超ではバイアス電圧の印加効果が不十分となりhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子の形成が不十分となり耐摩耗性が悪化する。直流バイアス電圧の好ましい範囲は−130〜−110 Vである。
(AlCrSi)N硬質皮膜の形成時にhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子を十分に形成するとともに、ドロップレットを抑制するために、(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲット18に直流アーク電流を通電する。直流アーク電流は90〜120 Aにする。90 A未満では放電が不安定になり、(AlCrSi)N硬質皮膜の形成が困難になる。一方、120 A超ではターゲット中に含まれるAl及びCrSi2の異常蒸発が極端に増加してイオン化されずにドロップレットとなるため、皮膜中にhcp構造のSiCr(Al)合金粒子が形成されず、耐摩耗性が悪化する。
(1) 基体のクリーニング
6.0質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成を有するWC基超硬合金製の高送りミーリングインサート基体(図9に示す形状を有する三菱日立ツール株式会社製のEDNW15T4TN-15)、及び物性測定用インサート基体(三菱日立ツール株式会社製のSNMN120408)を、図1に示すAI装置の保持具8上にセットし、真空排気と同時にヒーター(図示せず)で600℃まで加熱した。その後、Arガスを500 sccm(1 atm及び25℃におけるcc/分)の流量で導入して減圧容器5内の圧力を2.0 Paに調整するとともに、各基体に負の直流バイアス電圧−200 Vを印加してArイオンのボンバードによるエッチングにより各基体のクリーニングを行った。
基体温度を600℃に保持したまま、アルゴンガスの流量を50 sccmとし、原子比でTi0.8B0.2で表される組成のターゲット10をアーク放電用電源11が接続されたアーク放電式蒸発源13に配置した。バイアス電源3により各基体に−700 Vの負の直流電圧を印加するとともに、ターゲット10の表面にアーク放電用電源11から直流のアーク電流を80 A通電し、各基体表面に改質層を形成した。
基体温度を450℃に設定し、窒素ガスを1000 sccm導入して減圧容器5内の圧力を5 Paに調整した。原子比でAl0.60Cr0.25Si0.05(CrSi2)0.10で表される配合組成になるように、Al粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末を混合後、真空ホットプレス焼結装置により焼結し、得られたCrSi2を含むAlCrSi焼結体合金のターゲット18をアーク放電用電源12が接続されたアーク放電式蒸発源27に配置した。
物性測定用インサート基体上の(AlCrSi)N硬質皮膜の結晶構造及び結晶配向を測定するために、X線回折装置(Panalytical社製のEMPYREAN)を使用し、CuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を照射して以下の条件でX線回折パターン(図3)を得た。
管電圧:45 kV
管電流:40mA
入射角ω:3°に固定
2θ:30〜80°
物性測定用インサートの(AlCrSi)N硬質皮膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製JEM-2100)により観察した。(AlCrSi)N硬質皮膜のTEM写真(倍率3,600,000倍、視野:30 nm×30 nm)を図4に示す。更に図4の1及び2について、JEM-2100に付属するUTW型Si(Li)半導体検出器を用いてビーム径1 nmの条件でエネルギー分散型X線分析を行った。図8-1は1について得られたエネルギー分散型X線分析によるスペクトルを示し、図8-2は2について得られたエネルギー分散型X線分析によるスペクトルを示す。図8-1、図8-2においてそれぞれ、横軸はkeVであり、縦軸はCounts(積算強度)である。同時に得られた1及び2の分析値を表3に示す。
図5は物性測定用インサートの(AlCrSi)N硬質皮膜の断面を示すTEM写真(倍率:75,000倍)である。図5において、41はWC基超硬合金基体を示し、43は改質層を示し、44は(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスを示し、45はSiCrAl合金粒子を示す。図5の縦1.7μm×横1.7μmの視野において、最大長さが10 nm以上のSiCr(Al)合金粒子をカウントした結果、実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜の断面のSiCrAl合金粒子の数は5.3個/μm2であった。
図10に示すように、(AlCrSi)N硬質皮膜を被覆した4つの高送りミーリングインサート30(図9)を、刃先交換式回転工具(三菱日立ツール株式会社製ASR5063-4)40の工具本体36の先端部38に止めねじ37で装着した。工具40の刃径は63 mmであった。下記の転削条件で切削加工を行い、倍率100倍の光学顕微鏡で単位時間ごとにサンプリングしたインサート30の逃げ面を観察し、逃げ面の摩耗幅又はチッピング幅が0.3 mm以上になったときの加工時間を工具寿命と判定した。
加工方法: 高送り連続転削加工
被削材: 123 mm×250 mmのS50C角材
使用インサート: EDNW15T4TN-15(ミーリング用)
切削工具: ASR5063-4
切削速度: 230 m/分
1刃当たりの送り量: 1.3 mm/刃
軸方向の切り込み量: 1.0 mm
半径方向の切り込み量:42.0 mm
切削液: なし(乾式加工)
実施例1と同じAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末を使用して、表4の各例の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成を採用した以外実施例1と同様にして各例の(AlCrSi)N硬質皮膜被覆ミーリングインサートを作製し、評価した。各例の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成を表4に示し、得られた各例の(AlCrSi)N硬質皮膜の組成、SiCr(Al)合金粒子の結晶構造、組成及び個数、並びに工具寿命を表5に示す。
比較例1ではAl量が過多の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成(表4)を採用した(表4に示す各例のターゲットの配合組成を、以後単に、配合組成ともいう)。比較例2ではAl量が過少の配合組成を採用した。比較例3ではCr量が過多の配合組成を採用した。比較例4ではCr量が過少の配合組成を採用した。比較例5ではSi量が過多の配合組成を採用した。比較例6ではSi量が過少の配合組成を採用した。従来例1ではCrSi2を添加しない配合組成を採用した。各例とも上記以外は実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表5に示す。
(2) TEMのエネルギー分散型X線分析装置により測定。
(3) TEM写真上でカウントした長径が10 nm以上の粒子の個数(個/μm2)。
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力を、実施例12では4 Paとし、実施例13では8 Paとし、比較例7では2.5 Paとし、及び比較例8では10 Paとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表6に示す。
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の基体温度
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の基体温度を、実施例14では425℃とし、実施例15では475℃とし、比較例9では375℃とし、及び比較例10では550℃とした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表7に示す。
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時のバイアス電圧
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時のバイアス電圧を、実施例16では直流電圧−100 Vとし、実施例17では直流電圧−140 Vとし、実施例18ではユニポーラパルスバイアス電圧−120 Vとし、実施例19ではユニポーラパルスバイアス電圧−100 Vとし、実施例20ではユニポーラパルスバイアス電圧−140 Vとし、比較例11では直流電圧−60 Vとし、比較例12では直流電圧−180 Vとし、比較例13ではユニポーラパルスバイアス電圧−60 Vとし、及び比較例14ではユニポーラパルスバイアス電圧−180 Vとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表8に示す。
(2) ユニポーラパルスバイアス電圧。
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の直流アーク電流
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の直流アーク電流を、実施例21では90 Aとし、実施例22では120 Aとし、比較例15では150 Aとし、比較例16では80 Aとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表9に示す。
(AlCrSi)N硬質皮膜の膜厚
(AlCrSi)N硬質皮膜の膜厚を、実施例23では1μmとし、実施例24では6μmとし、実施例25では8μmとし、実施例26では10μmとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表10に示す。
中間層
(AlCrSi)N硬質皮膜の寿命に及ぼす中間層の影響を調べるために、実施例1と同じ改質層及び(AlCrSi)N硬質皮膜の間に、表11に示す組成の各ターゲット及び成膜条件を採用して物理蒸着法により各中間層を形成した以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに(AlCrSi)N硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表12に示す。
2:ガス導入部
3:バイアス電源
4:軸受け部
5:減圧容器
6:下部保持具(支柱)
7:基体
8:上部保持具
10:陰極物質(ターゲット)
11、12:アーク放電用電源
13、27:アーク放電式蒸発源
14:アーク放電式蒸発源固定用絶縁物
15:アーク点火機構軸受部
16:アーク点火機構
17:排気口
18:陰極物質(ターゲット)
19:電極固定用絶縁物
20:電極
21:遮蔽板軸受け部
22:遮蔽板駆動部
23:遮蔽板
30:ミーリング用インサート
35:インサートの主切刃
36:工具本体
37:インサート用止めねじ
38:工具本体の先端部
40:刃先交換式回転工具
41:WC基超硬合金基体
42:(AlCrSi)N硬質皮膜
43:改質層
44:(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックス
45:SiCrAl合金粒子
Claims (9)
- (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有することを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1に記載の硬質皮膜において、前記硬質皮膜のマトリックスがfcc構造を主構造とすることを特徴とする硬質皮膜。
- 請求項1又は2に記載の硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
- 請求項3に記載の硬質皮膜被覆部材において、前記基体と前記硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiから選択された少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNから選択された少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
- (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により基体上に形成する方法であって、3〜8 Paの窒化ガス雰囲気中で425〜475℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−140〜−100 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlCrSi合金ターゲットに90〜120 Aの直流アーク電流を通電し、前記AlCrSi合金ターゲットがAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体であることを特徴とする方法。
- 請求項5に記載の硬質皮膜の形成方法において、前記ターゲット用原料粉末の配合組成が(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されることを特徴とする方法。
- (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜を基体上に有する硬質皮膜被覆部材をアークイオンプレーティング法により製造する方法であって、3〜8 Paの窒化ガス雰囲気中で425〜475℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−140〜−100 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlCrSi合金ターゲットに90〜120 Aの直流アーク電流を通電し、前記AlCrSi合金ターゲットがAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体であることを特徴とする方法。
- 請求項7に記載の硬質皮膜の製造方法において、前記ターゲット用原料粉末の配合組成が(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されることを特徴とする方法。
- 請求項7又は8に記載の硬質皮膜被覆部材の製造方法において、前記基体がWC基超硬合金であり、前記硬質皮膜の形成前に、流量が30〜150 sccmのアルゴンガス雰囲気中で、450〜750℃の温度に保持した前記基体に−1000〜−600 Vの負の直流電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたTifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成のターゲットに50〜100 Aのアーク電流を通電し、もって前記基体の表面を前記ターゲットから発生したイオンによりボンバードすることを特徴とする方法。
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