JP2017066487A - 硬質皮膜、硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法 - Google Patents

硬質皮膜、硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐酸化性及び耐摩耗性に優れた長寿命の(AlCrSi)N硬質皮膜、(AlCrSi)N硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有する硬質皮膜、及びその製造方法。
【選択図】 図4

Description

本発明は耐酸化性及び耐摩耗性に優れた(AlCrSi)N硬質皮膜、(AlCrSi)N硬質皮膜に被覆された部材、及びそれらの製造方法に関する。
被削材を高送りや高速で切削加工する工具や、過酷な成形条件に用いる金型等を長寿命化するために、これらの基体に形成する耐酸化性及び耐摩耗性に優れた硬質皮膜が提案がされている。
特開2006-207691号(特許文献1)は、アーク放電式イオンプレーティング装置内にCrSi系金属ターゲット(蒸発源)を設置して形成したCrSiN皮膜がSi濃度変調組織を有し、もって硬度と潤滑特性が同時に改善されていると開示している(段落0008、0021等参照)。しかし、Si濃度変調領域はSi-N、Si-O等の結合状態を有するので、この硬質皮膜を有する切削工具により鋼材又は鋳鉄からなる被削材を切削加工したときの切れ刃近傍の保護膜(ベラーグ)の形成量が少なく、十分に切れ刃を保護できない。そのため、最近の過酷な切削条件に十分対応できない。
特開平4-14203(特許文献2)は、ターゲットとしてシリコン及びクロムの混合粉末の焼結体を用い、スパッタリング法により形成する抵抗体膜を開示している。しかし、このターゲットでは、切削工具等に用いる耐酸化性及び耐摩耗性に優れた硬質皮膜を形成できない。
特開2006-207691号公報 特開平4-14203号公報
従って、本発明の第一の目的は、優れた耐酸化性及び耐摩耗性を有する長寿命の(AlCrSi)N硬質皮膜を提供することである。
本発明の第二の目的は、優れた耐酸化性及び耐摩耗性を有する長寿命の(AlCrSi)N硬質皮膜を形成した硬質皮膜被覆部材(切削工具、金型等)を提供することである。
本発明の第三の目的は、かかる(AlCrSi)N硬質皮膜及び前記硬質皮膜被覆部材を製造する方法を提供することである。
本発明の硬質皮膜は、(AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有し、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr又はSiCrAlの合金粒子を含有することを特徴とする。SiCr合金粒子はAlを含有しても良い。
前記硬質皮膜のマトリックスはfcc構造を主構造とするのが好ましい。
本発明の硬質皮膜被覆部材は上記硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする。前記基体と前記硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiから選択された少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNから選択された少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層が形成されているのが好ましい。
上記硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により基体上に形成する本発明の方法は、3〜8 Paの窒化ガス雰囲気中で425〜475℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−140〜−100 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlCrSi合金ターゲットに90〜120 Aの直流アーク電流を通電し、前記AlCrSi合金ターゲットがAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体であることを特徴とする。
本発明の硬質皮膜被覆部材の製造方法は、3〜8 Paの窒化ガス雰囲気中で425〜475℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−140〜−100 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlCrSi合金ターゲットに90〜120 Aの直流アーク電流を通電し、前記AlCrSi合金ターゲットがAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体であることを特徴とする。
前記ターゲット用原料粉末の配合組成は(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されるのが好ましい。
前記基体がWC基超硬合金の場合、前記硬質皮膜の形成前に基体表面にfcc構造の薄い改質層を形成するのが好ましい。前記改質層は、流量が30〜150 sccmのアルゴンガス雰囲気中で、450〜750℃の温度に保持した前記基体に−1000〜−600 Vの負の直流電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたTifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成のターゲットに50〜100 Aのアーク電流を通電し、もって前記基体の表面を前記ターゲットから発生したイオンによりボンバードすることにより形成される。前記改質層の直上に前記改質層と同一のfcc構造(後述のX線回折による。)の(AlCrSi)N硬質皮膜を形成するので、前記改質層なしにWC基超硬合金直上に(AlCrSi)N硬質皮膜を形成する場合より密着力が顕著に増大する。
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜ではマトリックス中にhcp構造のSiCr(Al)合金粒子が分散しているため、この皮膜を有する切削工具により鋼材又は鋳鉄からなる被削材を切削加工したときに切れ刃近傍に保護膜が安定して形成され、従来の(AlCrSi)N皮膜に比べて耐摩耗性が顕著に改善されている。そのため、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜を有する部材(切削工具、金型等)は従来より著しく長寿命である。上記(AlCrSi)N硬質皮膜を製造する本発明の方法は、所定の成膜条件下で、CrSi2相を含むAlCrSi焼結体合金からなるターゲット材を用いて、hcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子を含む(AlCrSi)N硬質皮膜を形成するため、かかる(AlCrSi)N硬質皮膜の組織の制御を安定的にかつ効率良く行うことができ、実用性が極めて高い。
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜を超硬合金製基体、cBN、サイアロン等のセラミックス製基体、高速度鋼製基体、又は工具鋼製基体の上に形成してなる硬質皮膜被覆部材は、従来の(AlCrSi)N皮膜被覆部材に比べて、耐酸化性及び耐摩耗性が顕著に改善されているので、インサート、エンドミル、ドリル等の切削工具、及び各種金型に有用である。
本発明の硬質皮膜の形成に使用し得るアークイオンプレーティング装置の一例を示す正面図である。 実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率:25,000倍)である。 実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。 実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜に存在するSiCrAl合金粒子の断面を示す透過型電子顕微鏡写真(倍率:2,000,000倍)である。 実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す透過型電子顕微鏡写真(倍率:75,000倍)である。 実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜に存在するSiCrAl合金粒子のナノビーム回折像から結晶構造を解析した結果を示す図である。 実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスの制限視野回折像を示す写真である。 実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜に存在するSiCrAl合金粒子の断面のエネルギー分散型X線分析により得られたスペクトルを示すグラフである。 実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスの断面のエネルギー分散型X線分析により得られたスペクトルを示すグラフである。 本発明の硬質皮膜被覆部材を構成するインサート基体の一例を示す斜視図である。 インサートを装着した刃先交換式回転工具の一例を示す概略図である。
[1] 硬質皮膜被覆部材
本発明の硬質皮膜被覆部材は、基体上に、アークイオンプレーティング法(AI法)により、(AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有し、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr又はSiCrAlの合金粒子を含有する硬質皮膜を形成してなることを特徴とする。SiCr又はSiCrAlの合金粒子をまとめてSiCr(Al)合金粒子と言う。
前記(AlCrSi)N硬質皮膜のX線回折パターンはfccの単一構造を有するのが好ましい。前記(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスの電子回折パターンはfcc構造を主構造とするのが好ましい。前記SiCr(Al)合金粒子の電子回折パターンはhcp構造を有する。
(A) 基体
基体は耐熱性に富み、物理蒸着法を適用できる材質である必要がある。基体の材質として、例えば超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼、又は立方晶窒化ホウ素(cBN)等のセラミックスが挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性等の観点から、WC基超硬合金基体又はセラミックスが好ましい。WC基超硬合金は、炭化タングステン(WC)粒子と、Co又はその合金の結合相とからなり、結合相の含有量は1〜13.5質量%が好ましく、3〜13質量%がより好ましい。結合相の含有量が1質量%未満では基体の靭性が不十分になり、結合相が13.5質量%超では硬度(耐摩耗性)が不十分になる。焼結後のWC基超硬合金の未加工面、研磨加工面及び刃先処理加工面のいずれの表面にも本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜を形成できる。
(B) WC基超硬合金基体の改質層
前記基体がWC基超硬合金の場合、流量が30〜150 sccmのアルゴンガス雰囲気中で、450〜750℃の温度に保持した基体表面に、TifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成のターゲットに50〜100 Aのアーク電流を通電し、もって前記基体の表面を前記ターゲットから発生したイオンによりボンバードし、fcc構造を有する改質層を形成するのが好ましい。WC基超硬合金は主成分のWCがhcp構造を有するが、前記改質層は(AlCrSi)N硬質皮膜と同じfcc構造を有し、両者の境界(界面)における結晶格子縞の30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上の部分が連続し、もって前記改質層を介してWC基超硬合金基体と(AlCrSi)N硬質皮膜とが強固に密着する。
TiBターゲットを用いたイオンボンバードにより得られるfcc構造の改質層は高密度の薄層状に形成されるので、破壊の起点になりにくい。改質層の平均厚さは1〜10 nmが好ましい。改質層の平均厚さが、1 nm未満では硬質皮膜の基体への密着力向上効果が十分に得られず、また10 nm超では逆に密着力を悪化させる。
(C) (AlCrSi)N硬質皮膜
(1) 組成
AI法により、基体上に被覆される本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜は、Al、Cr及びSiを必須元素とする窒化物からなる。(AlCrSi)N硬質皮膜の組成は一般式:(AlxCrySiz)1-aNa(原子比)により表される。x、y、z及びaはそれぞれ0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有することを特徴とする。SiCr(Al)合金粒子の組成は一般式:SiαCrβAlγ(原子比)により表され、α、β及びγはそれぞれ0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜のAl、Cr及びSiの総計(x+y+z)を1として、Alの割合xの範囲は0.45〜0.75である。xが0.45未満では硬質皮膜のAl量が減少するため、耐酸化性が損なわれる。一方、xが0.75を超えると軟質なhcp構造のマトリックスが形成されて耐摩耗性が損なわれる。xの好ましい範囲は0.45〜0.6であり、更に好ましい範囲は0.45〜0.55である。
硬質皮膜のAl、Cr及びSiの総計(x+y+z)を1として、Crの割合yの範囲は0.20〜0.50である。yが0.20未満では硬質皮膜のAl量が増加するため軟質なhcp構造のマトリックスが形成され、耐摩耗性が損なわれる。一方、yが0.50を超えると硬質皮膜のAl量が減少するため耐酸化性が損なわれる。yの好ましい範囲は0.25〜0.4であり、更に好ましい範囲は0.3〜0.4である。
硬質皮膜のAl、Cr及びSiの総計(x+y+z)を1として、Siの割合zの範囲は0.04〜0.25である。zが0.04未満では硬質皮膜中にhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子が形成されないため、耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。一方、zが0.25を超えると(AlCrSi)N硬質皮膜がアモルファス化されて耐摩耗性が損なわれる。zの好ましい範囲は0.04〜0.2であり、更に好ましい範囲は0.05〜0.18である。
金属成分(AlCrSi)と窒素の総計を1として、窒素の割合aは0.2〜0.8であり、金属成分(AlCrSi)の割合(1-a)は0.8〜0.2である。(1-a)が0.2未満では(AlCrSi)N多結晶体の結晶粒界に不純物が取り込まれやすくなる。不純物は成膜装置の内部残留物に由来する。このような場合、(AlCrSi)N硬質皮膜の接合強度が低下し、外部衝撃によって容易に(AlCrSi)N硬質皮膜が破壊されてしまう。一方、(1-a)が0.8を超えると、金属成分(AlCrSi)の比率が過多となって結晶歪が大きくなり、基体との密着力が低下して、(AlCrSi)N硬質皮膜が剥離しやすくなる。a又は(1-a)の好ましい範囲は0.3〜0.7であり、更に好ましい範囲は0.4〜0.6である。
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はC及び/又はBを含有しても良い。その場合、C及びBの合計量はN含有量の30原子%以下であるのが好ましく、高い耐摩耗性を保持するために10原子%以下がより好ましい。C及び/又はBを含有する場合、(AlCrSi)N硬質皮膜は、窒炭化物、窒硼化物又は窒炭硼化物と呼ぶことができる。
(2) SiCr(Al)合金粒子
SiCr(Al)合金粒子のSi、Cr及びAlの総計(α+β+γ)を1として、Siの割合αの範囲は0.2〜0.8である。αが0.2未満では保護膜の形成が困難になるため耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。一方、αが0.8を超えると粒子及び硬質皮膜がアモルファス化して保護膜の形成が困難になると同時に、保護膜の効果が著しく低下するため耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。αの好ましい範囲は0.3〜0.7であり、更に好ましい範囲は0.35〜0.7である。
上記SiCr(Al)合金粒子のSi、Cr及びAlの総計(α+β+γ)を1として、Crの割合βの範囲は0.2〜0.6である。βが0.2未満ではhcp構造にならず、低性能になる。一方、βが0.6を超えるとSi量が減少して保護膜の効果が著しく低下し、耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。βの好ましい範囲は0.2〜0.5であり、更に好ましい範囲は0.25〜0.5である。
SiCr(Al)合金粒子のSi、Cr及びAlの総計(α+β+γ)を1として、Alの割合γの好ましい範囲は0〜0.2である。γが0でも硬質皮膜は従来より高性能になるが、γが0.003以上であるとさらに高性能になる。一方、γが0.2を超えるとSiCr(Al)合金粒子がアモルファス化して保護膜の形成効果が著しく低下し、耐酸化性及び耐摩耗性が損なわれる。Alの割合γの好ましい範囲は0.003〜0.18であり、更に好ましい範囲は0.004〜0.16である。
工業生産上及び高性能化の観点から、α≧βであるのが好ましく、α>βであるのがより好ましい。
(3) メカニズム
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜が従来より高い耐酸化性及び耐摩耗性を発揮するメカニズムは、一般的な(AlCrSi)N皮膜被覆切削工具を例にとると、以下のように考えられる。(AlCrSi)N皮膜被覆切削工具では、切削加工時に皮膜表面から多量の酸素が取り込まれて皮膜表面付近のAlが優先的に酸化され、Al酸化物層が形成される。この際に形成される酸化物はAlを主成分とし、更にCr及びSiを含むことにより緻密化し、切削工具を保護する。これでも切削工具の損傷抑制に効果的であるが、最近の厳しい高性能化の要求に対して十分ではない。この点に鑑み鋭意研究の結果、(a) CrSi2相を含むAlCrSi焼結体からなるターゲットを用いて切削工具基体にAI法により(AlCrSi)N硬質皮膜を形成すると、得られる(AlCrSi)N硬質皮膜はSi及びCrを主成分とする最大長さが10〜500 nmのSiCr(Al)合金粒子を含有し、(b) その(AlCrSi)N硬質皮膜を有する工具で鋼又は鋳鉄の被削材の切削加工を行うと、切削時の熱で、被削材から拡散した金属成分及びSiCr(Al)合金粒子の酸化物層が切削工具表面に形成され、もって優れた耐酸化性及び耐摩耗性を発揮することが分った。
(4) 膜厚
特に限定されないが、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜の算術平均厚さは0.5〜15μmが好ましく、1〜10μmが更に好ましい。この範囲の膜厚により、基体から(AlCrSi)N硬質皮膜が剥離するのが抑制され、優れた耐酸化性及び耐摩耗性が発揮される。平均厚さが0.5μm未満では(AlCrSi)N硬質皮膜の効果が十分に得られず、また平均厚さが15μmを超えると残留応力が過大になり、(AlCrSi)N硬質皮膜が基体から剥離しやすくなる。
(5) (AlCrSi)N硬質皮膜の結晶構造
X線回折パターンでは、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はfccの単一構造からなる。また透過型電子顕微鏡による制限視野回折パターンでは、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスはfcc構造が主構造であり、副構造としてその他の構造(hcp構造等)を有していても良い。
(6) SiCr(Al)合金粒子
SiCr(Al)合金粒子は、電子回折パターンではhcp構造を有する。(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスのfcc構造及びSiCr(Al)合金粒子のhcp構造は保護膜の形成に適している。もし(AlCrSi)N硬質皮膜がアモルファス構造からなると、耐摩耗性が低すぎるために切削加工時にすぐに摩滅し、保護膜が形成されない。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はアモルファス構造の保護膜より格段に良好な耐摩耗性を有し、また結晶化しているため均一な組成を有するので、安定した保護膜を形成できる。
SiCr(Al)合金粒子は、図4及び図5に示すように、縦長の断面形状を有している。図示の例では、SiCr(Al)合金粒子の最大長さは10〜500 nmであり、最大長さに直交する方向の最大幅は1〜100 nmである。
(D) 中間層
基体と(AlCrSi)N硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成しても良い。中間層は、TiN、又はfcc構造を主構造とする(TiAl)N、(TiAl)NC、(TiAl)NCO、(TiAlCr)N、(TiAlCr)NC、(TiAlCr)NCO、(TiAlNb)N、(TiAlNb)NC、(TiAlNb)NCO、(TiAlW)N及び(TiAlW)NC、(TiSi)N、(TiB)N、TiCN、Al2O3、Cr2O3、(AlCr)2O3、(AlCr)N、(AlCr)NC及び(AlCr)NCOからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるのが好ましい。中間層は単層でも積層でも良い。
[2] 成膜装置
(AlCrSi)N硬質皮膜の形成にはAI装置を使用することができ、改質層及び中間層の形成にはAI装置又はその他の物理蒸着装置(スパッタリング装置等)を使用することができる。AI装置は、例えば図1に示すように、絶縁物14を介して減圧容器5に取り付けられたアーク放電式蒸発源13,27と、各アーク放電式蒸発源13,27に取り付けられたターゲット10,18と、各アーク放電式蒸発源13,27に接続したアーク放電用電源11,12と、軸受け部4を介して減圧容器5の内部まで貫通した回転軸線を有する支柱6と、基体7を保持するために支柱6に支持された保持具8と、支柱6を回転させる駆動部1と、基体7にバイアス電圧を印加するバイアス電源3とを具備する。減圧容器5には、ガス導入部2及び排気口17が設けられている。アーク点火機構16,16は、アーク点火機構軸受部15,15を介して減圧容器5に取り付けられている。電極20は絶縁物19,19を介して減圧容器5に取り付けられている。ターゲット10と基体7との間には、遮蔽板軸受け部21を介して減圧容器5に遮蔽板23が設けられている。図1には図示していないが、遮蔽板23は遮蔽板駆動部22により例えば上下又は左右方向に移動し、遮蔽板22がターゲット10と基体7との間に存在しない状態にされた後に、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜の形成が行われる。
(A) (AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲット
本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットは、Al粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体である。原料粉末の配合組成は、不可避的不純物以外、(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されるのが好ましい。前記ターゲットは、前記混合粉末からなる成形体を焼結してなり、前記配合組成と実質的に同じ組成を有するCrSi2相を含む。h、i、j及びkがそれぞれ上記範囲内でないと、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜が得られない。即ち、前記ターゲットは、金属Al、金属Cr及び半金属Siの他に、CrSi2を含有することにより(AlCrSi)N硬質皮膜中に分散したSiCr(Al)合金粒子を形成することができる。
上記ターゲット中のCrSi2は、AI法による成膜時にアークスポットによりCrイオン及びSiイオンとなり、相互に反応しあって連続して濃化し、hcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子としてマトリックス中に析出すると考えられる。CrSi2は導電性を有するので、安定したアーク放電を実現することができる。
(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットは、例えば次のように作製することができる。粉末冶金法によりAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末をArガス雰囲気中で数時間(例えば5時間)ボールミル混合する。緻密かつ高密度の焼結体を得るために、各粉末の平均粒径は0.01〜500μmが好ましく、0.1〜100μmが更に好ましい。各粉末の平均粒径は走査型電子顕微鏡(以下、SEMともいう。)観察により決定する。組成の偏りや不純物の混入を防止するために、ボールミルの粉砕メディアに純度99.999%以上のアルミナボールを使用するのが好ましい。得られた混合粉末を真空ホットプレス焼結装置のグラファイト製金型内に投入し、焼結を行う。焼結装置内の雰囲気中に含まれる微量の酸素がターゲットに混入するのを防止するために、焼結装置内の真空度を1×10-3Pa〜10×10-3 Pa(例えば7×10-3 Pa)にしてからプレス及び焼結を行うのが好ましい。プレス荷重は100〜200 MPa(例えば170 MPa)に設定するのが好ましい。また焼結時にAlが溶解するのを回避するために、焼結は520〜580℃(例えば550℃)の温度で数時間(例えば2時間)行うのが好ましい。焼結により得られたターゲット材をAI装置に適した形状に加工し、(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットとする。
(B) 改質層形成用TiBターゲット
改質層形成用TiBターゲットは、不可避的不純物を除いて、TifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成を有する。Tiの原子比fが0.5未満ではfcc構造の改質層が得られず、またfが0.9超では脱炭相が形成されて、やはりfcc構造の改質層が得られない。Tiの原子比fの好ましい範囲は0.7〜0.9である。
改質層形成用TiBターゲットもホットプレス法により作製するのが好ましい。作製工程で酸素が混入するのを極力抑制するため、例えばホットプレス焼結装置のWC基超硬合金製金型内にTiB粉末を投入し、1×10-3 Pa〜10×10-3Pa(例えば7×10-3 Pa)に減圧した雰囲気内で数時間(例えば2時間)焼結する。得られた焼結体をAI装置に適した形状に加工し、改質層形成用TiBターゲットとする。
(C) アーク放電式蒸発源及びアーク放電用電源
図1に示すように、アーク放電式蒸発源13,27はそれぞれ陰極物質の改質層形成用TiBターゲット10、及び(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲット(CrSi2を含むAlCrSi焼結体合金)18を備え、アーク放電用電源11、12から、後述の条件でターゲット10に直流アーク電流を通電し、ターゲット18にパルスアーク電流を通電する。図示していないが、アーク放電式蒸発源13、27に磁場発生手段(電磁石及び/又は永久磁石とヨークとを有する構造体)を設け、(AlCrSi)N硬質皮膜を形成する基体7の近傍に数十G(例えば10〜50 G)の空隙磁束密度の磁場分布を形成する。
(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲット(CrSi2を含むAlCrSi焼結体合金)は低融点の金属Alを含むので、従来のAI法では(AlCrSi)N硬質皮膜を形成する過程でアークスポットがAlの部分で停滞する問題が避けられない。即ち、アークスポットが滞留すると、その滞留部分に大きな溶解部が生じ、その溶解部の液滴が基体の表面に付着する。この液滴はドロップレットと呼ばれ、(AlCrSi)N硬質皮膜の表面を荒らす。ドロップレットは(AlCrSi)N多結晶粒の成長の分断を引き起こすとともに、皮膜破壊の起点となり、所望の(AlCrSi)N硬質皮膜が得られない。本発明では、上記蒸発源に通電するアーク電流を90〜120 Aの直流アーク電流とすることにより、ドロップレットの発生を抑えた。
(D) バイアス電源
図1に示すように、基体7にバイアス電源3から直流電圧又はパルスバイアス電圧を印加する。
[3] 成膜条件
(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックス内に、SiαCrβAlγ(ただし、α、β、γは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2、α+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有する本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜は、上記(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットを用いたAI法により形成できる。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜の成膜条件を工程ごとに以下詳述する。
(A) 基体のクリーニング工程
図1に示すAI装置の保持具8上に基体7をセットした後、減圧容器5内を1〜5×10-2Pa(例えば1.5×10-2 Pa)の真空に保持しながら、ヒーター(図示せず)により基体7を250〜650℃の温度に加熱する。図1では円柱体で示されているが、基体7はソリッドタイプのエンドミル又はインサート等の種々の形状を取り得る。その後、Arガスを減圧容器5内に導入して0.5〜10 Pa(例えば2 Pa)のArガス雰囲気とする。この状態で基体7にバイアス電源3により−250〜−150 Vの直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧を印加して基体7の表面をArガスによりボンバードして、クリーニングする。
基体温度が250℃未満ではArガスによるエッチング効果がなく、また650℃超では成膜工程時に基体温度を所定条件に設定することが困難である。基体温度は基体に埋め込んだ熱電対により測定する。減圧容器5内のArガスの圧力が0.5〜10 Paの範囲外であると、Arガスによるボンバード処理が不安定となる。直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧が−250 V未満では基体にアーキングの発生が起こり、−150 V超ではボンバードのエッチングによるクリーニング効果が十分に得られない。
(B) 改質層形成工程
改質層形成用TiBターゲットを用いたWC基超硬合金基体7へのイオンボンバードは、基体7のクリーニング後に、流量が30〜150 sccmのArガス雰囲気内で行い、基体7の表面に改質層を形成する。アーク放電式蒸発源13に取り付けた前記TiBターゲットの表面にアーク放電用電源11から50〜100 Aのアーク電流(直流電流)を通電する。基体7は450〜750℃の温度に加熱し、さらにバイアス電源3から基体7に−1000〜−600 Vの直流バイアス電圧を印加する。TiBターゲットを用いたイオンボンバードによりTiイオン及びBイオンがWC基超硬合金基体7の表面に照射される。
基体7の温度が450〜750℃の範囲外ではfcc構造の改質層が形成されない。減圧容器5内のArガスの流量が30 sccm未満では基体7に入射するTiイオン等のエネルギーが強すぎて、基体7の表面に脱炭層が形成され、硬質皮膜の密着性を損なう。150 sccm超ではTiイオン等のエネルギーが弱まり改質層が形成されない。
アーク電流が50 A未満ではアーク放電が不安定になり、また100 A超では基体7の表面にドロップレットが多数形成されて、硬質皮膜の密着性を損なう。直流バイアス電圧が−1000 V未満ではTiイオン等のエネルギーが強すぎて基体7の表面に脱炭層が形成され、また−600 V超では基体表面に改質層が形成されない。
(C) (AlCrSi)N硬質皮膜の成膜工程
基体7の上(改質層を形成した場合はその上)に(AlCrSi)N硬質皮膜を形成する。この際、窒化ガスを使用し、アーク放電式蒸発源27に取り付けたターゲット18の表面にアーク放電用電源12から後述の条件でアーク電流を通電する。同時に、所定温度に制御した基体7にバイアス電源3から直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加する。
(1) 基体温度
(AlCrSi)N硬質皮膜の成膜時に基体温度を425〜475℃にする必要がある。基体温度が425℃未満では(AlCrSi)Nが十分に結晶化しないため、(AlCrSi)N硬質皮膜が十分な耐摩耗性を有さず、また残留応力の増加により皮膜剥離の原因となる。一方、基体温度が475℃超では結晶粒の微細化が促進されて耐摩耗性が損なわれ、更にhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子が形成されない。基体温度は435〜475℃が好ましい。
(2) 窒化ガスの種類及び圧力
基体7に本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜を形成するための窒化ガスとして、例えば窒素ガス、アンモニアガスと水素ガスとの混合ガス等を使用することができる。窒化ガスの圧力は3〜6 Paにするのが好ましい。窒化ガスの圧力が3 Pa未満ではhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子の形成が不十分となり、6 Pa超では窒化ガスの添加効果が飽和する。
(3) 基体に印加するバイアス電圧
(AlCrSi)N硬質皮膜を形成するために、基体に直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加する。直流バイアス電圧は負の−140〜−100 Vにする。−140 V未満では基体上にアーキングが発生したり逆スパッタ現象が発生し、生産性が著しく低下する。一方、−100 V超ではバイアス電圧の印加効果が不十分となりhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子の形成が不十分となり耐摩耗性が悪化する。直流バイアス電圧の好ましい範囲は−130〜−110 Vである。
ユニポーラパルスバイアス電圧の場合、負バイアス電圧(ゼロから負側への立ち上がりの急峻な部分を除いた負のピーク値)は−140〜−100 Vにする。この範囲を外れると本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜が得られない。負バイアス電圧の好ましい範囲は−130〜−110 Vである。ユニポーラパルスバイアス電圧の周波数は好ましくは20〜50 kHzであり、より好ましくは30〜40 kHzである。
(4) アーク電流
(AlCrSi)N硬質皮膜の形成時にhcp構造を有するSiCr(Al)合金粒子を十分に形成するとともに、ドロップレットを抑制するために、(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲット18に直流アーク電流を通電する。直流アーク電流は90〜120 Aにする。90 A未満では放電が不安定になり、(AlCrSi)N硬質皮膜の形成が困難になる。一方、120 A超ではターゲット中に含まれるAl及びCrSi2の異常蒸発が極端に増加してイオン化されずにドロップレットとなるため、皮膜中にhcp構造のSiCr(Al)合金粒子が形成されず、耐摩耗性が悪化する。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は勿論それらに限定されない。以下の実施例及び比較例において、ターゲット組成は特に断りがなければ化学分析による測定値である。また、実施例では硬質皮膜の基体としてインサートを用いたが、勿論本発明はそれらに限定される訳ではなく、インサート以外の切削工具(エンドミル、ドリル等)又は金型等にも適用可能である。
実施例1
(1) 基体のクリーニング
6.0質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成を有するWC基超硬合金製の高送りミーリングインサート基体(図9に示す形状を有する三菱日立ツール株式会社製のEDNW15T4TN-15)、及び物性測定用インサート基体(三菱日立ツール株式会社製のSNMN120408)を、図1に示すAI装置の保持具8上にセットし、真空排気と同時にヒーター(図示せず)で600℃まで加熱した。その後、Arガスを500 sccm(1 atm及び25℃におけるcc/分)の流量で導入して減圧容器5内の圧力を2.0 Paに調整するとともに、各基体に負の直流バイアス電圧−200 Vを印加してArイオンのボンバードによるエッチングにより各基体のクリーニングを行った。
(2) TiBターゲットを用いた改質層の形成
基体温度を600℃に保持したまま、アルゴンガスの流量を50 sccmとし、原子比でTi0.8B0.2で表される組成のターゲット10をアーク放電用電源11が接続されたアーク放電式蒸発源13に配置した。バイアス電源3により各基体に−700 Vの負の直流電圧を印加するとともに、ターゲット10の表面にアーク放電用電源11から直流のアーク電流を80 A通電し、各基体表面に改質層を形成した。
(3) (AlCrSi)N硬質皮膜の形成
基体温度を450℃に設定し、窒素ガスを1000 sccm導入して減圧容器5内の圧力を5 Paに調整した。原子比でAl0.60Cr0.25Si0.05(CrSi2)0.10で表される配合組成になるように、Al粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末を混合後、真空ホットプレス焼結装置により焼結し、得られたCrSi2を含むAlCrSi焼結体合金のターゲット18をアーク放電用電源12が接続されたアーク放電式蒸発源27に配置した。
バイアス電源3により各基体に−120 Vの負の直流電圧を印加するとともに、ターゲット18の表面にアーク放電用電源12から100 Aの直流アーク電流を通電し、原子比で(Al0.54Cr0.37Si0.09)0.48N0.52で表される組成を有する厚さ3.5μmの皮膜を形成した。皮膜組成は、皮膜の厚さ方向中心位置を電子プローブマイクロ分析装置EPMA(日本電子株式会社製JXA-8500F)により、加速電圧10 kV、照射電流0.05 A、及びビーム径0.5μmの条件で測定した。
図2は、得られた(AlCrSi)N硬質皮膜被覆ミーリングインサートの断面組織を示すSEM写真(倍率:25,000倍)である。図2において、41はWC基超硬合金基体を示し、42は(AlCrSi)N硬質皮膜を示す。なお、図2は低倍率であるので、SiCr(Al)合金粒子及び改質層は見えない。
(4) (AlCrSi)N硬質皮膜のX線回折パターン
物性測定用インサート基体上の(AlCrSi)N硬質皮膜の結晶構造及び結晶配向を測定するために、X線回折装置(Panalytical社製のEMPYREAN)を使用し、CuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を照射して以下の条件でX線回折パターン(図3)を得た。
管電圧:45 kV
管電流:40mA
入射角ω:3°に固定
2θ:30〜80°
図3において、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、及び(222)面はいずれもfcc構造のX線回折ピークである。従って、実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜はfccの単一構造であることが分かる。
表1は、ICCDリファレンスコード00-011-0065に記載されているCrNの標準X線回折強度I0及び2θを示す。CrNは(AlCrSi)Nと同じfcc構造を有する。本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜はCrNのCrの一部をAlで置換しているため、標準X線回折強度I0(hkl)として表1の数値を採用した。
図3のX線回折パターンから、各面のX線回折強度(実測値)、及びX線回折の最強ピーク面である(200)面を基準にして算出した各面のX線回折ピーク強度比を表2に示す。表2で(AlCrSi)N硬質皮膜のピーク角度2θが表1より低角度側にシフトしているのは、CrNにAl等の他の元素が添加されたため、(AlCrSi)N硬質皮膜内に歪が発生したためであると考えられる。
(5) (AlCrSi)N硬質皮膜のミクロ構造及び組成
物性測定用インサートの(AlCrSi)N硬質皮膜の断面を透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製JEM-2100)により観察した。(AlCrSi)N硬質皮膜のTEM写真(倍率3,600,000倍、視野:30 nm×30 nm)を図4に示す。更に図4の1及び2について、JEM-2100に付属するUTW型Si(Li)半導体検出器を用いてビーム径1 nmの条件でエネルギー分散型X線分析を行った。図8-1は1について得られたエネルギー分散型X線分析によるスペクトルを示し、図8-2は2について得られたエネルギー分散型X線分析によるスペクトルを示す。図8-1、図8-2においてそれぞれ、横軸はkeVであり、縦軸はCounts(積算強度)である。同時に得られた1及び2の分析値を表3に示す。
表3及び図8-1から、1は窒化されていないSiCrAl合金粒子であることが分かる。表3及び図8-2から、2は(AlCrSi)Nであることが分かる。かかる結果から、図4において、本発明の(AlCrSi)N硬質皮膜は、マトリックス内にSiCrAl合金粒子が分散したミクロ組織を有することが分かる。
JEM-2100を用いて、図4の1の粒子の位置において、200 kVの加速電圧及び50cmのカメラ長の条件でナノビーム回折を行った。得られた回折像を図6に示す。図6から図4の1の粒子はhcp構造を有することが分かる。また図4の2のマトリックスの位置において、同条件で制限視野回折を行った。得られた回折パターンを図7に示す。図7においてc-(111)、c-(002)及びc-(022)はfcc構造の回折スポットを示し、w-(010)はhcp構造の回折スポットを示す。図7から、物性測定用インサートの(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスはfcc構造を主構造とし、hcp構造を副構造とすることが分かる。
(7) SiCr(Al)合金粒子の個数の測定
図5は物性測定用インサートの(AlCrSi)N硬質皮膜の断面を示すTEM写真(倍率:75,000倍)である。図5において、41はWC基超硬合金基体を示し、43は改質層を示し、44は(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックスを示し、45はSiCrAl合金粒子を示す。図5の縦1.7μm×横1.7μmの視野において、最大長さが10 nm以上のSiCr(Al)合金粒子をカウントした結果、実施例1の(AlCrSi)N硬質皮膜の断面のSiCrAl合金粒子の数は5.3個/μm2であった。
(8) 工具寿命の測定
図10に示すように、(AlCrSi)N硬質皮膜を被覆した4つの高送りミーリングインサート30(図9)を、刃先交換式回転工具(三菱日立ツール株式会社製ASR5063-4)40の工具本体36の先端部38に止めねじ37で装着した。工具40の刃径は63 mmであった。下記の転削条件で切削加工を行い、倍率100倍の光学顕微鏡で単位時間ごとにサンプリングしたインサート30の逃げ面を観察し、逃げ面の摩耗幅又はチッピング幅が0.3 mm以上になったときの加工時間を工具寿命と判定した。
切削加工条件
加工方法: 高送り連続転削加工
被削材: 123 mm×250 mmのS50C角材
使用インサート: EDNW15T4TN-15(ミーリング用)
切削工具: ASR5063-4
切削速度: 230 m/分
1刃当たりの送り量: 1.3 mm/刃
軸方向の切り込み量: 1.0 mm
半径方向の切り込み量:42.0 mm
切削液: なし(乾式加工)
使用した(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成を表4に示し、得られた(AlCrSi)N硬質皮膜の組成、SiCr(Al)合金粒子の結晶構造、組成及び個数、並びに工具寿命を表5に示す。
実施例2〜11
実施例1と同じAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末を使用して、表4の各例の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成を採用した以外実施例1と同様にして各例の(AlCrSi)N硬質皮膜被覆ミーリングインサートを作製し、評価した。各例の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成を表4に示し、得られた各例の(AlCrSi)N硬質皮膜の組成、SiCr(Al)合金粒子の結晶構造、組成及び個数、並びに工具寿命を表5に示す。
比較例1〜6、従来例1
比較例1ではAl量が過多の(AlCrSi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成(表4)を採用した(表4に示す各例のターゲットの配合組成を、以後単に、配合組成ともいう)。比較例2ではAl量が過少の配合組成を採用した。比較例3ではCr量が過多の配合組成を採用した。比較例4ではCr量が過少の配合組成を採用した。比較例5ではSi量が過多の配合組成を採用した。比較例6ではSi量が過少の配合組成を採用した。従来例1ではCrSi2を添加しない配合組成を採用した。各例とも上記以外は実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表5に示す。
表5から、実施例1〜10の各(AlCrSi)N硬質皮膜はいずれもhcp構造を持つ所定組成のSiCrAl合金粒子を含み、実施例11の(AlCrSi)N硬質皮膜はhcp構造を持つ所定組成のSiCr合金粒子を含むことが分かる。更に、実施例1〜11のSiCrAl合金粒子及びSiCr合金粒子の個数が2〜12個/μm2の範囲内にあることが分かる。かかる特徴的なミクロ組織を有する実施例1〜11の各切削工具の工具寿命は53分以上と長かった。これに対し、Al量が過多であるとともにSiCrAl粒子が非晶質構造の比較例1の(AlCrSi)N硬質皮膜、Al量が過少の比較例2の(AlCrSi)N硬質皮膜、Cr量が過多の比較例3の(AlCrSi)N硬質皮膜、Cr量が過少であるとともにSiCrAl粒子が非晶質構造の比較例4の(AlCrSi)N硬質皮膜、Si量が過多の比較例5の(AlCrSi)N硬質皮膜、及びSi量が過少の比較例6の(AlCrSi)N硬質皮膜の工具寿命は35分以下と短かった。CrSi2を添加していないAlCrSi焼結体合金のターゲットを用いた従来例1の(AlCrSi)N硬質皮膜ではSiCr(Al)合金粒子は観察されず、工具寿命も29分と短かった。
注:(1) TEMにより測定。
(2) TEMのエネルギー分散型X線分析装置により測定。
(3) TEM写真上でカウントした長径が10 nm以上の粒子の個数(個/μm2)。
実施例12及び13、及び比較例7及び8
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力を、実施例12では4 Paとし、実施例13では8 Paとし、比較例7では2.5 Paとし、及び比較例8では10 Paとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表6に示す。
表6から、(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力を4 Pa及び8 Paとした実施例12及び13の工具寿命は72分以上と長かった。これに対し、窒素ガスの圧力を2.5 Pa及び10 Paとした比較例7及び8の工具寿命は35分以下と短かった。
実施例14及び15、及び比較例9及び10
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の基体温度
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の基体温度を、実施例14では425℃とし、実施例15では475℃とし、比較例9では375℃とし、及び比較例10では550℃とした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表7に示す。
表7から、基体温度を425℃及び475℃とした実施例14及び15の工具寿命は70分以上と長かった。これに対し、基体温度を375℃及び550℃とした比較例9及び10の工具寿命は35分以下と短かった。
実施例16〜20、及び比較例11〜14
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時のバイアス電圧
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時のバイアス電圧を、実施例16では直流電圧−100 Vとし、実施例17では直流電圧−140 Vとし、実施例18ではユニポーラパルスバイアス電圧−120 Vとし、実施例19ではユニポーラパルスバイアス電圧−100 Vとし、実施例20ではユニポーラパルスバイアス電圧−140 Vとし、比較例11では直流電圧−60 Vとし、比較例12では直流電圧−180 Vとし、比較例13ではユニポーラパルスバイアス電圧−60 Vとし、及び比較例14ではユニポーラパルスバイアス電圧−180 Vとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表8に示す。
注:(1) 直流バイアス電圧。
(2) ユニポーラパルスバイアス電圧。
表8から、直流電圧−100 V及び−140 Vとした実施例16及び17、ユニポーラパルスバイアス電圧−120 V、−100 V及び−140 Vとした実施例18〜20の工具寿命は64分以上と長かった。これに対し、直流電圧−60 V及び−180 Vとした比較例11及び12、ユニポーラパルスバイアス電圧−60 V及び−180 Vとした比較例13及び14の工具寿命は37分以下と短かった。
実施例21及び22、及び比較例15、16
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の直流アーク電流
(AlCrSi)N硬質皮膜形成時の直流アーク電流を、実施例21では90 Aとし、実施例22では120 Aとし、比較例15では150 Aとし、比較例16では80 Aとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表9に示す。
表9から、直流アーク電流を90 A及び120 Aとした実施例21及び22の工具寿命は71分以上と長かった。これに対し、直流アーク電流を150 A及び80 Aとした比較例15及び16の工具寿命は31分以下と短かった。
実施例23〜26
(AlCrSi)N硬質皮膜の膜厚
(AlCrSi)N硬質皮膜の膜厚を、実施例23では1μmとし、実施例24では6μmとし、実施例25では8μmとし、実施例26では10μmとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表10に示す。
表10から、(AlCrSi)N硬質皮膜の膜厚を1〜10μmとした実施例23〜26の工具寿命は62分以上と長かった。
実施例27〜38
中間層
(AlCrSi)N硬質皮膜の寿命に及ぼす中間層の影響を調べるために、実施例1と同じ改質層及び(AlCrSi)N硬質皮膜の間に、表11に示す組成の各ターゲット及び成膜条件を採用して物理蒸着法により各中間層を形成した以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに(AlCrSi)N硬質皮膜を形成し、評価した。これらの評価結果を表12に示す。
注:(1) X線回折による岩塩型の単一構造を有する。
実施例27〜38では、WC基超硬合金基体と(AlCrSi)N硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種とを必須構成元素とする中間層(硬質皮膜)を形成したが、表12から明らかなようにいずれの切削工具も65分以上の良好な工具寿命を有していた。
1:駆動部
2:ガス導入部
3:バイアス電源
4:軸受け部
5:減圧容器
6:下部保持具(支柱)
7:基体
8:上部保持具
10:陰極物質(ターゲット)
11、12:アーク放電用電源
13、27:アーク放電式蒸発源
14:アーク放電式蒸発源固定用絶縁物
15:アーク点火機構軸受部
16:アーク点火機構
17:排気口
18:陰極物質(ターゲット)
19:電極固定用絶縁物
20:電極
21:遮蔽板軸受け部
22:遮蔽板駆動部
23:遮蔽板
30:ミーリング用インサート
35:インサートの主切刃
36:工具本体
37:インサート用止めねじ
38:工具本体の先端部
40:刃先交換式回転工具
41:WC基超硬合金基体
42:(AlCrSi)N硬質皮膜
43:改質層
44:(AlCrSi)N硬質皮膜のマトリックス
45:SiCrAl合金粒子

Claims (9)

  1. (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、SiαCrβAlγ(ただし、α、β及びγは原子比で0.2≦α≦0.8、0.2≦β≦0.6、0≦γ≦0.2及びα+β+γ=1を満たす数字である。)で表される組成を有するhcp構造のSiCr(Al)合金粒子を含有することを特徴とする硬質皮膜。
  2. 請求項1に記載の硬質皮膜において、前記硬質皮膜のマトリックスがfcc構造を主構造とすることを特徴とする硬質皮膜。
  3. 請求項1又は2に記載の硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
  4. 請求項3に記載の硬質皮膜被覆部材において、前記基体と前記硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiから選択された少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNから選択された少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
  5. (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により基体上に形成する方法であって、3〜8 Paの窒化ガス雰囲気中で425〜475℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−140〜−100 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlCrSi合金ターゲットに90〜120 Aの直流アーク電流を通電し、前記AlCrSi合金ターゲットがAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体であることを特徴とする方法。
  6. 請求項5に記載の硬質皮膜の形成方法において、前記ターゲット用原料粉末の配合組成が(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されることを特徴とする方法。
  7. (AlxCrySiz)1-aNa(ただし、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.45≦x≦0.75、0.20≦y≦0.50、0.04≦z≦0.25、x+y+z=1、及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜を基体上に有する硬質皮膜被覆部材をアークイオンプレーティング法により製造する方法であって、3〜8 Paの窒化ガス雰囲気中で425〜475℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−140〜−100 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlCrSi合金ターゲットに90〜120 Aの直流アーク電流を通電し、前記AlCrSi合金ターゲットがAl粉末、Cr粉末、Si粉末及びCrSi2粉末からなる原料粉末の焼結体であることを特徴とする方法。
  8. 請求項7に記載の硬質皮膜の製造方法において、前記ターゲット用原料粉末の配合組成が(Al)h(Cr)i(Si)j(CrSi2)k(ただし、h、i、j及びkはそれぞれ原子比で0.52≦h≦0.80、0.08≦i≦0.40、0.02≦j≦0.20、0.02≦k≦0.20、及びh+i+j+k=1を満たす数字である。)で表されることを特徴とする方法。
  9. 請求項7又は8に記載の硬質皮膜被覆部材の製造方法において、前記基体がWC基超硬合金であり、前記硬質皮膜の形成前に、流量が30〜150 sccmのアルゴンガス雰囲気中で、450〜750℃の温度に保持した前記基体に−1000〜−600 Vの負の直流電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたTifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす数字である。)で表される組成のターゲットに50〜100 Aのアーク電流を通電し、もって前記基体の表面を前記ターゲットから発生したイオンによりボンバードすることを特徴とする方法。
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