JP2018162505A - 硬質皮膜、硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法 - Google Patents

硬質皮膜、硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】(耐酸化性及び耐摩耗性に優れた長寿命の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法の提供。【解決手段】(AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ原子比で、0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦p≦0.8を満たす。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、X線光電子分光分析法で特定された結合状態に実質的にAl-O結合なしにNi-O結合があり、かつ岩塩型の単一構造からなるX線回折パターンを有する硬質皮膜、前記硬質皮膜を基体上に有する硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法。【選択図】図9

Description

本発明は、耐酸化性及び耐摩耗性に優れた(AlTiVCrNi)N硬質皮膜、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜被覆工具、及びそれらの製造方法に関する。
被削材を高送りや高速で切削加工する工具を長寿命化するために、耐酸化性及び耐摩耗性に優れた硬質皮膜を形成することが望まれており、種々の提案がされている。
特許第4528373号(特許文献1)は、基体上に耐摩耗性硬質皮膜が形成された被覆工具であって、前記硬質皮膜の組成が(Tix, Aly, Vz)(Cu, Nv, Ow)(ここで、x、y、z、u、v及びwはそれぞれTi、Al、V、C及びOの原子比率を示し、x+y+z=1、u+v+w=1、0.2<x<1、0<y<0.8、0.02≦z<0.6、0≦u<0.7、0.3<v≦1、及び0≦w<0.5を満たす。)で表され、前記耐摩耗性硬質皮膜が組成及び膜厚が異なる二種類の膜で形成されている被覆工具を開示している。しかし、特許文献1の耐摩耗性硬質皮膜はNiを含有せず、もってNi-O結合を有していないので、耐酸化性及び耐摩耗性が必ずしも十分でない。これは、切削加工時の切削熱によりNi-O結合からマトリックスに酸素が拡散し、緻密なAlの保護酸化物層が切削工具の表面に形成されるという本発明のメカニズムが作用しないためであると考えられる。
特許第4346020号(特許文献2)は、基体上に、(Tia, Alb, Mc)(C1-d Nd)(ただし、MはSi、Cr又はNiであり、Ti、Al、M及びNの原子比a、b、c及びdは0.02≦a≦0.2、0.8≦b≦0.95、a+b+c=1、及び0.5≦d≦1を満たす。)からなる組成の硬質皮膜を有する硬質皮膜被覆工具を開示している。しかし、特許文献2の硬質皮膜は不可避的不純物レベルを超えるNi-O結合を有していないので、切削加工時の切削熱によりNi-O結合からマトリックスに拡散する酸素により、緻密なAlの保護酸化物層が切削工具の表面に形成されるという本発明のメカニズムが作用しないため、耐酸化性及び耐摩耗性が必ずしも十分でない。
特許第4998304号(特許文献3)は、(Tix、Aly、Mz)(ただし、Mは1種または2種以上の金属又は半金属元素であり、x、y及びzはそれぞれTi、Al及びMの原子比であって、0.5≦x≦0.8、0.2≦y≦0.5、z≦0.1、及びx+y+z=1を満たす。)からなる組成を有し、電子ビームを用いた溶解法により形成された硬質皮膜形成用ターゲットを開示している。しかし、特許文献3のターゲットは不可避的不純物レベルを超える酸素を含有していないので、X線光電子分光分析法で特定された結合状態に実質的にAl-O結合なしにNi-O結合を有し、耐酸化性及び耐摩耗性に優れた本発明の硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により形成することができない。
特許第4528373号 特許第4346020号 特許第4998304号
従って、本発明の第一の目的は、従来の(AlTiV)N硬質皮膜、(AlTiNi)N硬質皮膜、及び(AlTiCr)N硬質皮膜より優れた耐酸化性及び耐摩耗性を有し、長寿命である(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を提供することである。
本発明の第二の目的は、従来の(AlTiV)N硬質皮膜、(AlTiNi)N、及び(AlTiCr)N硬質皮膜より優れた耐酸化性及び耐摩耗性を有し、長寿命である(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成した硬質皮膜被覆工具を提供することである。
本発明の第三の目的は、かかる(AlTiVCrNi)N硬質皮膜及び(AlTiVCrNi)N硬質皮膜被覆工具を製造する方法を提供することである。
本発明の第四の目的は、かかる(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を製造するのに用いるターゲット及びその製造方法を提供することである。
本発明の硬質皮膜は、(AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ原子比で、0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦p≦0.8を満たす。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、X線光電子分光分析法で特定された結合状態に実質的にAl-O結合なしにNi-O結合があり、かつ岩塩型の単一構造からなるX線回折パターンを有することを特徴とする。
前記硬質皮膜において、X線光電子分光分析法で特定された結合状態にさらにV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方があるのが好ましい。
実用性の観点から、前記硬質皮膜は、Ni、Ti、Al及びCrを必須に含む酸化物からなるドロップレットを有するのが好ましい。前記ドロップレットは、(MeNi1-e)(1-q)Oq(ただし、MはTi、Al及びCr、又はTi、Al、Cr及びVを表し、e及びqはそれぞれ原子比で、0.3≦e≦0.9、及び0.05≦q≦0.35を満たす。)で表される組成を有するのが好ましい。
さらに、前記硬質皮膜の電子回折パターンは岩塩型構造を主構造とし、ウルツ鉱型構造を副構造とするのが好ましい。
本発明の硬質皮膜被覆工具は上記硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする。前記基体と前記硬質皮膜との間に、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を有するのが好ましい。
上記硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により基体上に形成する本発明の硬質皮膜被覆工具の製造方法は、窒化ガス雰囲気中で、AlαTiβVγCrωNiδNεOη(ただし、α、β、γ、ω、δ、ε及びηはそれぞれAl、Ti、V、Cr、Ni、N及びOの原子比で、0.45≦α≦0.80、0.12≦β≦0.48、0.006≦γ≦0.05、0.01≦ω≦0.15、0.003≦δ≦0.015、0.002≦ε≦0.02、0.015≦η≦0.05、及びα+β+γ+ω+δ+ε+η=1を満たす。)で表される組成を有する合金ターゲットを用いることを特徴とする。
本発明の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、2.5〜5 Paの窒化ガス雰囲気中で450〜550℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−150〜−40 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられた前記ターゲットに150〜200 Aの直流アーク電流を通電するのが好ましい。
上記硬質皮膜の製造に用いる本発明のターゲットは、AlαTiβVγCrωNiδNεOη(ただし、α、β、γ、ω、δ、ε及びηはそれぞれAl、Ti、V、Cr、Ni、N及びOの原子比で、0.45≦α≦0.80、0.12≦β≦0.48、0.006≦γ≦0.05、0.01≦ω≦0.15、0.003≦δ≦0.015、0.002≦ε≦0.02、0.015≦η≦0.05、及びα+β+γ+ω+δ+ε+η=1を満たす。)により表される組成を有する焼結体合金からなることを特徴とする。
前記ターゲットの製造にあたり、Al粉末、Ti粉末、TiN粉末、V粉末、VN粉末、Cr粉末、CrN粉末及びNi粉末からなる混合粉末を温度520〜580℃及び圧力1〜10 Paの減圧雰囲気中でホットプレスすることにより得るのが好ましい。前記減圧雰囲気は、酸素ガス雰囲気の減圧雰囲気でも良いが、実用上から大気の減圧雰囲気であるのが好ましい。
本発明の硬質皮膜は、X線光電子分光分析法で特定された結合状態に実質的にAl-O結合なしにNi-O結合を含んでいるため、従来の(AlTiV)N硬質皮膜、(AlTiNi)N硬質皮膜及び(AlTiCr)N硬質皮膜より酸化保護膜が形成され易く、耐酸化性及び耐摩耗性に優れている。さらにV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方を含む場合、前記結合による高温潤滑効果によって従来の(AlTiV)N硬質皮膜、(AlTiNi)N硬質皮膜及び(AlTiCr)N硬質皮膜に比べて耐摩耗性がさらに顕著に改善されている。従って、本発明の硬質皮膜を有する切削工具は従来より著しく長寿命である。
上記硬質皮膜を製造する本発明の方法は、不可避的不純物レベルを超えた微量の酸素を添加してなる(AlTiVCrNi)NO合金ターゲットからNi-O結合、さらにV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方を導入するので、硬質皮膜の組織の制御を安定的にかつ効率良く行うことができ、実用性が極めて高い。
本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を超硬合金製基体、cBN、サイアロン等のセラミックス製基体、高速度鋼製基体、又は工具鋼製基体の上に形成してなる硬質皮膜被覆工具は、従来の(AlTiV)N硬質皮膜、(AlTiNi)N硬質皮膜又は(AlTiCr)N硬質皮膜を有する被覆工具に比べて、耐酸化性及び耐摩耗性が顕著に改善されているので、例えばインサート、エンドミル、ドリル等の切削工具に有用である。
本発明の硬質皮膜の形成に使用し得るアークイオンプレーティング装置の一例を示す正面図である。 実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率:25,000倍)である。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の断面中央位置におけるAlの結合状態を示すX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の断面中央位置におけるTiの結合状態を示すX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の断面中央位置におけるVの結合状態を示すX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の断面中央位置におけるCrの結合状態を示すX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の断面中央位置におけるNiの結合状態を示すX線光電子分光スペクトルを示すグラフである。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。 実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真(倍率:16,000倍)である。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のマトリックスの制限視野回折像を示す写真である。 実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜中のドロップレットの外殻部の制限視野回折像を示す写真である。 本発明の硬質皮膜被覆工具を構成するインサート基体の一例を示す写真である。 インサートを装着した刃先交換式回転工具の一例を示す概略図である。
[1] 硬質皮膜被覆工具
本発明の硬質皮膜被覆工具は、基体上に、(AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ原子比で、0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦α≦0.8を満たす。)で表される組成を有する硬質皮膜を形成してなる。前記硬質皮膜のX線光電子分光スペクトルは実質的にAl-O結合を有さずにNi-O結合を有し、X線回折パターンは岩塩型の単一構造を有する。前記硬質皮膜はさらにV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方を有し得る。前記硬質皮膜はアークイオンプレーティング(AI)法により形成することができる。
(A) 基体
基体は耐熱性に富み、物理蒸着法を適用できる材質である必要がある。基体の材質として、例えば超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼、又は立方晶窒化ホウ素(cBN)等のセラミックスが挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性等の観点から、超硬合金基体又はセラミックスが好ましい。超硬合金は、炭化タングステン(WC)粒子と、Co又はCoを主体とする合金の結合相とからなり、結合相の含有量は1〜13.5質量%が好ましく、3〜13質量%がより好ましい。結合相の含有量が1質量%未満では基体の靭性が不十分であり、結合相が13.5質量%超では硬度(耐摩耗性)が不十分である。焼結後の超硬合金の未加工面、研磨加工面及び刃先処理加工面のいずれの表面にも本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成できる。
(B) 超硬合金基体の改質層
基体が超硬合金の場合、基体表面に後述のTiBターゲットから発生したイオンを照射し、平均厚さ1〜10 nmのfcc構造を有する改質層を形成するのが好ましい。超硬合金は主成分のWCが六方格子構造を有するが、前記改質層は上記(AlTiVCrNi)N硬質皮膜と同じfcc構造を有し、両者の境界(界面)における結晶格子縞の30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上の部分が連続し、もって前記改質層を介して超硬合金基体と上記(AlTiVCrNi)N硬質皮膜とが強固に密着する。
TiBターゲットを用いたイオンボンバードにより得られる改質層はfcc構造を有し、高密度の薄層状に形成されるので破壊の起点になりにくい。改質層の平均厚さが1 nm未満では硬質皮膜の基体への密着力向上効果が十分に得られず、また10 nm超では逆に密着力が悪化する。
(C) (AlTiVCrNi)N硬質皮膜
(1) 組成
AI法により基体上に形成される本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜は、Al、Ti、V、Cr及びNiを必須元素とし、不可避的不純物レベルを超えた微量の酸素を含有する窒化物からなる。(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の組成は、一般式:(AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(原子比)(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦p≦0.8を満たす。)により表される。本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜は、X線光電子分光スペクトルにより特定されたNi-O結合を有するがAl-O結合は実質的に有さず、またX線回折パターンで岩塩型の単一構造を有することを特徴とする。ここで、「Al-O結合を実質的に有さない」とは、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のX線光電子分光スペクトルに不可避的不純物レベルを超えるAl-O結合のピークが存在しないことを意味する。後述のとおり、「Ni-O結合」としてNiO及びNi2O3が例示されるが、他のNi酸化物も含む。同様に後述の「V-O結合」としてV2O3及びV2O5が例示されるが、他のV酸化物も含む。同様に後述の「Cr-O結合」としてCrO3が例示されるが、他のCr酸化物も含む。
本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のAl、Ti、V、Cr及びNiの総計(a+b+c+d+e)を1として、Alの割合aの範囲は0.45〜0.8である。aが0.45未満では硬質皮膜のAl量が少なすぎるため、耐酸化性が損なわれる。一方、aが0.8を超えると硬質皮膜中に軟質なウルツ鉱型構造が形成されて耐摩耗性が損なわれる。aの下限は好ましくは0.5であり、より好ましくは0.6である。また、aの上限は好ましくは0.75であり、より好ましくは0.68である。
硬質皮膜のAl、Ti、V、Cr及びNiの総計(a+b+c+d+e)を1として、Tiの割合bの範囲は0.15〜0.5である。bが0.15未満では硬質皮膜のAl量が多すぎるため、皮膜中に軟質なウルツ鉱型構造が形成されて耐摩耗性が損なわれる。一方、bが0.5を超えると硬質皮膜のAl量が減少するため耐酸化性が損なわれる。bの下限は好ましくは0.2であり、より好ましくは0.25である。また、bの上限は好ましくは0.4であり、より好ましくは0.3である。
硬質皮膜のAl、Ti、V、Cr及びNiの総計(a+b+c+d+e)を1として、Vの割合cの範囲は0.01〜0.05である。cが0.01未満では添加効果が得られず、耐摩耗性が損なわれる。一方、Vは硬質皮膜を形成する際に発生するドロップレットが他元素に比べて発生し易いため、cが0.05を超えるとドロップレットが過多となり、耐摩耗性が損なわれる。cの下限は好ましくは0.012であり、より好ましくは0.015である。また、cの上限は好ましくは0.03であり、より好ましくは0.025である。
硬質皮膜のAl、Ti、V、Cr及びNiの総計(a+b+c+d+e)を1として、Crの割合dの範囲は0.01〜0.15である。dが0.01未満では十分な添加効果が得られず、耐酸化性及び耐摩耗性が改善されない。一方、dが0.15を超えるとドロップレットが増えて耐酸化性が損なわれる。dの下限は好ましくは0.015であり、より好ましくは0.018である。また、dの上限は好ましくは0.14であり、より好ましくは0.13である。
硬質皮膜のAl、Ti、V、Cr及びNiの総計(a+b+c+d+e)を1として、Niの割合eの範囲は0.001〜0.01である。eが0.001未満では十分な添加効果が得られず、耐摩耗性が不十分である。一方、eが0.01を超えると、Niは容易に窒化しないために皮膜中に純Ni相及びドロップレットが増え、耐摩耗性が損なわれる。dの下限は好ましくは0.002であり、より好ましくは0.003である。また、dの上限は好ましくは0.008であり、より好ましくは0.007である。
金属成分(AlTiVCrNi)と窒素との総計を1とすると、窒素の割合pは0.2〜0.8であり、金属成分(AlTiVCrNi)の割合(1-p)は0.8〜0.2である。(1-p)が0.2未満では(AlTiVCrNi)N多結晶体の結晶粒界に不純物が取り込まれやすい。不純物は成膜装置の内部残留物に由来する。かかる場合、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の強度が低下し、外部衝撃によって容易に皮膜が破壊されてしまう。一方、(1-p)が0.8を超えると、金属成分(AlTiVCrNi)の比率が過多となって結晶歪が大きくなり、基体との密着力が低下し、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が剥離しやすくなる。(1-p)の下限は好ましくは0.3であり、より好ましくは0.35である。また、(1-p)の上限は好ましくは0.7であり、より好ましくは0.6である。
本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のNi-O結合(さらにV-O結合、Cr-O結合)はX線光電子分光分析により特定できるが、酸素含有量自体は後述のEPMA分析で特定できない。
本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜はC及び/又はBを含有しても良い。その場合、C及びBの合計量はN含有量の30原子%以下であるのが好ましく、高い耐摩耗性を保持するために10原子%以下がより好ましい。C及び/又はBを含有する場合、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜は、窒炭化物、窒硼化物又は窒炭硼化物と呼ぶことができる。
(2)メカニズム
本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が高い耐酸化性及び耐摩耗性を発揮するメカニズムを、硬質皮膜被覆切削工具を例に取って説明する。一般に、(AlTi)N皮膜被覆切削工具では、切削加工時に皮膜表面から多量の酸素が取り込まれて皮膜表面付近のAlが優先的に酸化され、Al酸化物層が形成される。このAl酸化物層はAlを主成分とし、さらに他の元素を含むことにより緻密化し、切削工具を保護する機能を有する。Al酸化物層だけでも切削工具の損傷抑制に効果があるが、最近の厳しい高性能化の要求に対して必ずしも十分ではない。
この要求を満たすべく鋭意研究の結果、Al粉末、Ti粉末、TiN粉末、V粉末、VN粉末、Cr粉末、CrN粉末及びNi粉末からなる混合粉末を、不可避的不純物レベルを超えた微量の酸素が取り込まれる後述の減圧雰囲気中でホットプレスすることにより得られる(AlTiVCrNi)NO焼結体合金は、Al-O結合、Ti-O結合、V-O結合、Cr-O結合及びNi-O結合を有することが分った。この結合状態の焼結体合金からなるターゲットを用いて、窒化ガス雰囲気中でAI法により(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を成膜すると、以下の反応が起こっていると考えられる。すなわち、イオン化によりターゲット中のAl-O結合、Ti-O結合、V-O結合、Cr-O結合及びNi-O結合が消滅し、フリーのAlイオン、Tiイオン、Vイオン、Crイオン及びNiイオンが発生する。これらの金属イオンのうち、窒素イオンとの親和力の強いAlイオン、Tiイオン及びCrイオンはAl-N結合、Ti-N結合及びCr-N結合を形成し、窒素イオンとの親和力が弱く、酸素イオンとの親和力の強いVイオン及びNiイオンはV-O結合及びNi-O結合を形成する。この際、弱いCr-O結合が併存する。なお、本発明の硬質皮膜において、V、Cr及びNi含有量の組成変動により、「Ni-O結合のみ」、「Ni-O結合+V-O結合」、「Ni-O結合+Cr-O結合」、又は「Ni-O結合+V-O結合+Cr-O結合」を有し得る。
従って、(a) Ni、Ti、Al及びCrを必須に含む酸化物からなるドロップレットが本発明の硬質皮膜内に形成され、(b) 本発明の硬質皮膜被覆工具で被削材(鋼又は鋳鉄等)の切削加工を行うと、切削熱により本発明の硬質皮膜内でドロップレットからマトリックスに酸素、Ni及びCrが拡散し、緻密なAl酸化物層が保護膜として切削工具の表面に形成される。さらにV酸化物は高温潤滑の役割を果たして耐摩耗性の向上に寄与する。このようなメカニズムにより、本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を被覆した工具は従来の切削工具に比べて優れた耐酸化性及び耐摩耗性を発揮すると考えられる。
(3) 膜厚
特に限定されないが、本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の算術平均厚さは0.5〜15μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。この範囲の膜厚により、基体から(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が剥離するのが抑制される。平均厚さが0.5μm未満では(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の効果が十分に得られず、また平均厚さが15μmを超えると残留応力が過大になり、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が基体から剥離しやすくなる。
(4) 結晶構造
本発明の硬質皮膜のX線回折パターンは岩塩型の単一構造からなる。またTEMによる電子回折パターンでは、本発明の硬質皮膜は岩塩型を主構造とし、副構造としてその他の構造(ウルツ鉱型構造等)を有していても良い。実用性の点から、本発明の硬質皮膜は、岩塩型構造を主構造とし、ウルツ鉱型構造を副構造とするのが好ましい。
(D) 中間層
基体と(AlTiVCrNi)N硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の非金属元素とを必須に含む中間層を形成しても良い。中間層は、TiN、(TiAl)N、(TiAl)NC、(TiAl)NCO、(TiAlCr)N、(TiAlCr)NC、(TiAlCr)NCO、(TiAlNb)N、(TiAlNb)NC、(TiAlNb)NCO、(TiAlW)N、(TiAlW)NC、(TiSi)N、(TiB)N、TiCN、Al2O3、Cr2O3、(AlCr)2O3、(AlCr)N、(AlCr)NC、及び(AlCr)NCOからなる群から選ばれた少なくとも一種からなるのが好ましい。中間層は単層でも積層でも良い。
[2] 成膜装置
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の形成にはAI装置を使用することができ、改質層及び中間層の形成にはAI装置又はその他の物理蒸着装置(スパッタリング装置等)を使用することができる。AI装置は、例えば図1に示すように、絶縁物14を介して減圧容器5に取り付けられたアーク放電式蒸発源13,27と、各アーク放電式蒸発源13,27に取り付けられたターゲット10,18と、各アーク放電式蒸発源13,27に接続したアーク放電用電源11,12と、軸受け部4を介して減圧容器5の内部まで貫通する回転自在の支柱6と、基体7を保持するために支柱6に支持された保持具8と、支柱6を回転させる駆動部1と、基体7にバイアス電圧を印加するバイアス電源3とを具備する。減圧容器5には、ガス導入部2及び排気口17が設けられている。アーク点火機構16,16は、アーク点火機構軸受部15,15を介して減圧容器5に取り付けられている。減圧容器5内に導入したガス(アルゴンガス、窒素ガス等)のイオン化のために、フィラメント型の電極20が絶縁物19,19を介して減圧容器5に取り付けられている。ターゲット10と基体7との間には、遮蔽板軸受け部21を介して減圧容器5に遮蔽板23が設けられている。遮蔽板23は遮蔽板駆動部22により例えば上下又は左右方向に移動し、遮蔽板22がターゲット10と基体7との間に存在しない状態にされた後に、本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の形成が行われる。
(A) (AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲット
(1) 配合組成
本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットはAl粉末、Ti粉末、TiN粉末、V粉末、VN粉末、Cr粉末、CrN粉末及びNi粉末からなる各原料粉末を下記配合組成で混合し、得られた混合粉末からなる成形体を焼結してなる。原料粉末の配合組成は、不可避的不純物以外、AlhTii(TiN)jVk(VN)lCrm(CrN)nNio(ただし、h、i、j、k、l、m、n及びoはそれぞれ原子比で、0.47≦h≦0.82、0.1≦i≦0.45、0.01≦j≦0.1、0.002≦k≦0.047、0.001≦l≦0.01、0.01≦m≦0.15、0.002≦n≦0.05、0.004≦o≦0.015、及びh+i+j+k+l+m+n+o=1を満たす。)で表されるのが好ましい。h、i、j、k、l、m、n及びoがそれぞれ上記範囲内でないと、下記の焼結体合金の組成を有する本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲット及び(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が得られない。h、i、j、k、l、m、n及びoはそれぞれ原子比で、0.55≦h≦0.75、0.15≦i≦0.30、0.02≦j≦0.10、0.008≦k≦0.035、0.003≦l≦0.01、0.02≦m≦0.10、0.005≦n≦0.03、0.004≦o≦0.014、及びh+i+j+k+l+m+n+o=1を満たすのがさらに好ましい。
(2) 焼結体組成
焼結体合金からなる本発明のターゲットの組成は、不可避的不純物以外、AlαTiβVγCrωNiδNεOη(ただし、α、β、γ、ω、δ、ε及びηはそれぞれAl、Ti、V、Cr、Ni、N及びOの原子比で、0.45≦α≦0.80、0.12≦β≦0.48、0.006≦γ≦0.05、0.01≦ω≦0.15、0.003≦δ≦0.015、0.002≦ε≦0.02、0.015≦η≦0.05、及びα+β+γ+ω+δ+ε+η=1を満たす。)により表される組成を有する。α、β、γ、ω、δ、ε及びηがそれぞれ上記範囲内でないと、本発明の(AlTiVCrNi)N皮膜は得られない。上記の通り、各原料粉末として、金属Al、金属Ti、金属V、金属Cr及び金属Niの他に、(a) 上記組成のTi窒化物、V窒化物及びCr窒化物を添加するとともに、(b) 上記焼結体合金のターゲットに上記組成の酸素を微量添加したことにより、(AlTiVCrNi)N皮膜中に独立してNi-O結合、さらにはV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方を導入することができる。α、β、γ、ω、δ、ε及びηはそれぞれ原子比で、0.50≦α≦0.75、0.17≦β≦0.40、0.011≦γ≦0.045、0.012≦ω≦0.148、0.004≦δ≦0.015、0.004≦ε≦0.015、0.015≦η≦0.04、及びα+β+γ+ω+δ+ε+η=1を満たすのがさらに好ましい。
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットは、例えば粉末冶金法により次のように作製することができる。まず、Al粉末、Ti粉末、TiN粉末、V粉末、VN粉末、Cr粉末、CrN粉末及びNi粉末を大気雰囲気中で数時間(例えば6時間)ボールミル混合する。各粉末の平均粒径は0.01〜500μmが好ましく、0.1〜100μmがより好ましい。各粉末の平均粒径はSEM観察により決定する。組成の偏りや不純物の混入を防止するために、ボールミルの粉砕メディアに純度99.999%以上のアルミナボールを使用するのが好ましい。
得られた混合粉末をホットプレス焼結装置のグラファイト製金型内に投入し、焼結を行う。焼結時に金型内に酸素を存在させ、Niの酸化物を(好ましくはさらにV及びCrのいずれか又は両方の酸化物も)生成させる必要がある。そのため、焼結装置内の空気を1〜10 Pa(例えば5 Pa)の真空度にまで減圧してから、プレス及び焼結を行うのが好ましい。プレス荷重は100〜200 MPa(例えば160 MPa)に設定するのが好ましい。また焼結時にAlが溶解するのを回避するために、焼結は520〜580℃(例えば550℃)の温度で数時間(例えば2時間)行うのが好ましい。焼結により得られたターゲット材をAI装置に適した形状に加工し、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットとする。
上記ターゲットにはV、Cr及びNiの酸化物が含まれ得る。V、Cr及びNiの各酸化物は成膜時にアークスポットによりVイオン、Crイオン、Niイオン及びOイオンとなり、相互に反応し合ってV酸化物、Cr酸化物及びNi酸化物からなるドロップレットが(AlTiVCrNi)N硬質皮膜中に形成される。V酸化物は高温潤滑の役割を果たし、Cr酸化物及びNi酸化物は接触部を保護するAl酸化物層を緻密化させる役割を果たす。一方、上記ターゲットは高Al含有量でかつV添加の組成を有するので、AI法でドロップレットが発生しやすい。ドロップレットは、所定量のTiN、VN及びCrNを添加することにより低減することができる。
(B) 改質層形成用TiBターゲット
改質層形成用TiBターゲットは、不可避的不純物を除いて、TifB1-f(ただし、fはTiの原子比であり、0.5≦f≦0.9を満たす。)で表される組成を有する。Tiの原子比fが0.5未満では立方晶構造の改質層が得られず、またfが0.9超では脱炭相が形成されて、やはり立方晶構造の改質層が得られない。Tiの原子比fの好ましい範囲は0.7〜0.9である。
改質層形成用TiBターゲットもホットプレス法により作製するのが好ましい。作製工程で酸素が混入するのを極力抑制するため、例えばホットプレス焼結装置のWC基超硬合金製金型内にTiB粉末を投入し、1×10-3 Pa〜10×10-3 Pa(例えば7×10-3 Pa)に減圧した雰囲気内で数時間(例えば2時間)焼結する。得られた焼結体をAI装置に適した形状に加工し、改質層形成用TiBターゲットとする。
(C) アーク放電式蒸発源及びアーク放電用電源
図1に示すように、アーク放電式蒸発源13,27はそれぞれ陰極物質の改質層形成用TiBターゲット10、及び(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲット18を備え、アーク放電用電源11、12から、後述の条件でターゲット10に直流アーク電流を通電し、ターゲット18にパルスアーク電流を通電する。図示していないが、アーク放電式蒸発源13、27に磁場発生手段(電磁石及び/又は永久磁石とヨークとを有する構造体)を設け、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成する基体7の近傍に数十G(例えば10〜50 G)の空隙磁束密度の磁場分布を形成するのが好ましい。
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットはドロップレットが発生しやすいAl及びVを含むので、従来のAI法では(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成する過程でアークスポットがAl及びVの部分で滞留する。アークスポットが滞留すると、その滞留部分に大きな溶解部が生じ、その溶解部の液滴が基体の表面に付着する。この液滴はドロップレットと呼ばれ、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の表面を荒らす。ドロップレットは(AlTiVCrNi)N多結晶粒の成長の分断を引き起こすとともに、皮膜破壊の起点となる。そのため、Ni、Ti、Al及びCrを必須に含む酸化物がドロップレットの外殻部に形成されるとともに、ドロップレットを過多にしないのが好ましい。本発明では、150〜200 Aの直流アーク電流をTiN、VN及びCrNを含むターゲット(蒸発原)に通電することにより、ドロップレットの過剰発生を抑えることができる。
(D) バイアス電源
図1に示すように、基体7にバイアス電源3から直流電圧又はパルスバイアス電圧を印加する。
[3] 成膜条件
(AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ原子比で、0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦p≦0.8を満たす。)で表され、X線光電子分光分析で特定された結合状態にNi-O結合を(好ましくはさらにV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方も)含む本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜は、上記(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットを用いたAI法により形成できる。本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の成膜条件を工程ごとに以下詳述する。
(A) 基体のクリーニング工程
図1に示すAI装置の保持具8上に基体7をセットした後、減圧容器5内を1〜5×10-2 Pa(例えば1.5×10-2 Pa)に保持しながら、ヒーター(図示せず)により基体7を250〜650℃の温度に加熱する。図1では円柱体で示されているが、基体7はソリッドタイプのエンドミル又はインサート等の種々の形状を取り得る。その後、アルゴンガスを減圧容器5内に導入して0.5〜10 Pa(例えば2 Pa)のアルゴンガス雰囲気とする。この状態で基体7にバイアス電源3により−250〜−150 Vの直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧を印加して基体7の表面をアルゴンガスによりボンバードして、クリーニングする。
基体温度が250℃未満ではアルゴンガスによるエッチング効果がなく、また650℃超では成膜工程時に基体温度を所定条件に設定することが困難である。基体温度は基体に埋め込んだ熱電対により測定する。減圧容器5内のアルゴンガスの圧力が0.5〜10 Paの範囲外であると、アルゴンガスによるボンバード処理が不安定となる。直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧が−250 V未満では基体にアーキングの発生が起こり、−150 V超ではボンバードのエッチングによるクリーニング効果が十分に得られない。
(B) 改質層形成工程
改質層形成用TiBターゲットを用いたWC基超硬合金基体7へのイオンボンバードは、基体7のクリーニング後に、流量が50〜100 sccmのアルゴンガス雰囲気内で行い、基体7の表面に改質層を形成する。アーク放電式蒸発源13に取り付けた前記TiBターゲットの表面にアーク放電用電源11から120〜200 Aのアーク電流(直流電流)を通電する。基体7を450〜620℃の温度に加熱するとともに、バイアス電源3から基体7に−1000〜−700 Vの直流バイアス電圧を印加する。TiBターゲットを用いたイオンボンバードにより、Tiイオン及びBイオンがWC基超硬合金基体7に照射される。
基体7の温度が450〜620℃の範囲外ではfcc構造の改質層が形成されないか、若しくは基体7の表面に脱炭層が形成されて性能が著しく低下する。減圧容器5内のアルゴンガスの流量が50 sccm未満では基体7に入射するTiイオン等のエネルギーが強すぎて、基体7の表面に脱炭層が形成され、硬質皮膜の密着性を損なう。一方、アルゴンガスの流量が100 sccm超では、Tiイオン等のエネルギーが弱まり、改質層が形成されない。
アーク電流が120 A未満ではアーク放電が不安定になり、また200 A超では基体7の表面にドロップレットが多数形成されて硬質皮膜の密着性を損なう。直流バイアス電圧が−1000 V未満ではTiイオン等のエネルギーが強すぎて基体7の表面に脱炭層が形成され、また−700 V超では基体表面に改質層が形成されない。
(C) (AlTiVCrNi)N硬質皮膜の成膜工程
基体7の上(改質層を形成した場合はその上)に(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成する。この際、窒化ガスを使用し、アーク放電式蒸発源27に取り付けたターゲット18の表面にアーク放電用電源12から後述の条件でアーク電流を通電する。同時に、所定温度に制御した基体7にバイアス電源3から直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加する。
(1) 基体温度
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の成膜時に基体温度を450〜550℃にするのが好ましい。基体温度が450℃未満では(AlTiVCrNi)Nが十分に結晶化しないため、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が十分な耐摩耗性を有さず、また残留応力の増加により皮膜剥離の原因となる。一方、基体温度が550℃超では結晶粒の微細化が促進されて耐摩耗性が損なわれる。基体温度は500〜520℃がより好ましい。
(2) 窒化ガスの種類及び圧力
基体7に本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成するための窒化ガスとして、例えば窒素ガス、アンモニアガスと水素ガスとの混合ガス等を使用することができる。窒化ガスの圧力は2.5〜5 Paにするのが好ましい。窒化ガスの圧力が2.5Pa未満では硬質皮膜の窒化が不十分となり耐摩耗性が損なわれる。一方、窒化ガスの圧力を5 Pa超としても、窒化ガスの添加効果は飽和し、圧力増大に見合う効果の向上が期待できない。
(3) 基体に印加するバイアス電圧
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成するために、基体に直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加する。直流バイアス電圧は負であり、−150〜−40 Vにするのが好ましい。直流バイアス電圧が−150 V未満では基体上にアーキングが発生したり逆スパッタ現象が発生し、生産性が著しく低下する。一方、直流バイアス電圧が−40 V超ではバイアス電圧の印加効果が不十分であり、硬質皮膜内に六方格子構造が形成され耐摩耗性が悪化する。直流バイアス電圧の好ましい範囲は−130〜−80 Vである。
ユニポーラパルスバイアス電圧の場合、負バイアス電圧(ゼロから負側への立ち上がりの急峻な部分を除いた負のピーク値)は−150〜−40 Vにする。この範囲を外れると本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜が得られない。負バイアス電圧の好ましい範囲は−130〜−80 Vである。ユニポーラパルスバイアス電圧の周波数は好ましくは20〜50 kHzであり、より好ましくは30〜40 kHzである。
(4) アーク電流
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の形成時にドロップレットを抑制するために、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲット18に直流アーク電流を通電する。直流アーク電流は150〜200 Aにするのが好ましい。直流アーク電流が150 A未満では放電が不安定になり、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の形成が困難になる。一方、直流アーク電流が200 A超では、ターゲット中に含まれる元素がイオン化されずにドロップレットとなるため、皮膜中にNi-O結合等が形成されず、耐摩耗性が悪化する。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は勿論それらに限定されない。以下の実施例及び比較例において、ターゲット組成は特に断りがなければ化学分析による測定値である。また、実施例では硬質皮膜の基体としてインサートを用いたが、勿論本発明はそれらに限定される訳ではなく、インサート以外の切削工具(エンドミル、ドリル又はねじ切り工具等)にも適用可能である。
実施例1
(1) 基体のクリーニング
8.0質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成を有するWC基超硬合金製の仕上げミーリングインサート基体(図13に示す形状を有する三菱日立ツール株式会社製のZDFG300-ST)、及び物性測定用インサート基体(三菱日立ツール株式会社製のSNMN120408)を、図1に示すAI装置の保持具8上にセットし、真空排気と同時にヒーター(図示せず)で550℃まで加熱した。その後、アルゴンガスを500 sccm(1 atm及び25℃におけるcc/分)の流量で導入して減圧容器5内の圧力を2.0 Paに調整するとともに、各基体に負の直流バイアス電圧−200 Vを印加してアルゴンイオンのボンバードによるエッチングにより各基体のクリーニングを行った。
(2) TiBターゲットを用いた改質層の形成
基体温度を550℃に保持したまま、アルゴンガスの流量を70 sccmとし、原子比でTi0.8B0.2で表される組成のターゲット10をアーク放電用電源11が接続されたアーク放電式蒸発源13に配置した。バイアス電源3により各基体に−800 Vの負の直流電圧を印加するとともに、ターゲット10の表面にアーク放電用電源11から175 Aの直流アーク電流を流し、各基体表面に改質層を形成した。
(3) (AlTiVCrNi)N硬質皮膜の形成
基体温度を520℃に設定し、窒素ガスを900 sccm導入して減圧容器5内の圧力を3.5 Paに調整した。原子比でAl0.618Ti0.262V0.016Cr0.060Ni0.008N0.015O0.021で表される組成を有する焼結体合金のターゲット18をアーク放電用電源12が接続されたアーク放電式蒸発源27に配置した。
バイアス電源3により各基体に−120 Vの負の直流電圧を印加するとともに、ターゲット18の表面にアーク放電用電源12から180 Aの直流アーク電流を通電し、原子比で(Al0.600Ti0.310V0.020Cr0.065Ni0.005)0.53N0.47で表される組成を有する厚さ3.5μmの硬質皮膜を形成したミーリングインサートを得た。皮膜組成は、皮膜の厚さ方向中心位置で電子プローブマイクロ分析装置EPMA(日本電子株式会社製JXA-8500F)により、加速電圧10 kV、照射電流0.05 A、及びビーム径0.5μmの条件で測定した。
図2は、得られた(AlTiVCrNi)N硬質皮膜被覆ミーリングインサートの断面組織を示すSEM写真(倍率:25,000倍)である。図2において、41はWC基超硬合金基体を示し、42は(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を示す。
(4) (AlTiVCrNi)N硬質皮膜におけるAl、Ti、V、Cr及びNiの結合状態
X線光電子分光装置(PHI社製Quantum2000型)を用いて、アルゴンイオンにより上記断面組織の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を表面から1/2の深さまでエッチングした後、直径100μmの範囲にAlKα1線(波長λ:0.833934 nm)を照射し、Al、Ti、V、Cr及びNiの各結合状態を示す図3〜図7の各X線光電子分光スペクトルを得た。図3〜図7において、横軸は結合エネルギー(eV)であり、縦軸はc/s(counts per second)である。
図3はAl-Nのピークを示す。図3のX線光電子分光スペクトルからAl-O結合は観察されず、Al-N結合のみ観察された。
図4はTiNxOy及びTi-Nのピークを示す。図4のX線光電子分光スペクトルからTiNxOyにおけるxとyの正確な比率は不明であるが、 (AlTiVCrNi)N硬質皮膜のEPMA分析値(表5-1)から、TiNxOyはTi窒化物を主体とすることが分かる。
図5はVN、V2O3及びV2O5のピークを示す。図5のX線光電子分光スペクトルから、金属Vのピークは観察されず、Vは酸化物及び窒化物になっていることが分かる。
図6はCrN及びCrO3のピークを示す。図6のX線光電子分光スペクトルから、Cr2O3のピークは観察されず、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のEPMA分析値(表5-1)から、Crの結合状態は窒化物を主体とすることが分かる。
図7は金属Ni、NiN、NiO、及びNi2O3のピークを示す。図7のX線光電子分光スペクトルから、856 eV付近に大きなNi2O3のピークがあるので、Niは酸化物主体で存在していることが分かる。NiOのピークもNi2O3のピークに一部重複しているが存在していた。また、NiN及びNiは僅かながら存在が確認された。
(5) (AlTiVCrNi)N硬質皮膜のX線回折パターン
上記物性測定用インサートの(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の結晶構造及び結晶配向を測定するために、X線回折装置(Panalytical社製のEMPYREAN)を使用し、CuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を照射して以下の条件でX線回折パターン(図8)を得た。
管電圧:45 kV
管電流:40 mA
入射角ω:3°に固定
2θ:30〜70°
図8において、(111)面、(200)面及び(220)面はいずれも(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の岩塩型構造のX線回折ピークである。従って、実施例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜は岩塩型の単一構造であることが分かる。
表1は、ICCDリファレンスコード00-006-0642に記載されているTiNの標準X線回折強度I0及び2θを示す。TiNは(AlTiVCrNi)Nと同じ岩塩型構造を有する。本発明の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜はTiNのTiの一部をAl、V、Cr及びNiで置換しているため、標準X線回折強度I0(hkl)として表1の数値を採用した。
図8のX線回折パターンから、各面のX線回折強度(実測値)及びX線回折ピーク強度比[X線回折の最強ピーク面である(200)面を基準]を表2に示す。表2で(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のピーク角度2θが表1より高角度側にシフトしているのは、TiNにAl等の他の元素が添加されたため、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜内に歪が発生したためであると考えられる。
(6) (AlTiVNi)N硬質皮膜のミクロ構造及び組成
上記物性測定用インサートの(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の断面をTEM(日本電子株式会社製JEM-2100)により観察した。得られた(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のTEM写真(倍率16,000倍)を図9に示す。さらに、図9の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜42のマトリックス42a及びドロップレット43の外殻部43aに対して、JEM-2100に付属するUTW型Si(Li)半導体検出器を用いて、ビーム径1 nmの条件でエネルギー分散型X線分析を行った。得られた(AlTiVCrNi)N硬質皮膜42のマトリックス42a及びドロップレット43の外殻部43aの組成分析値を表3に示す。
表3から、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜42のマトリックス42aには酸素が含まれておらず、(AlTiVCrNi)Nからなることが分かる。さらに、マトリックス42aにNiが含まれ、Oが検出されないので、Niは酸化されずに固溶しているといえる。一方、表3から、ドロップレット43の外殻部43aは窒化されていない(AlTiVCrNi)Oからなることが分かる。
JEM-2100を用いて、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜42のマトリックス42aに対して、200 kVの加速電圧及び50cmのカメラ長の条件で制限視野回折測定を行った。得られた制限視野回折像を図10に示す。図10において、fcc構造の(111)面[図10中ではfcc(111)と記載する。他の(hkl)面も同様。]、(200)面、(220)面、及びhcp構造の(002)面[図10中ではhcp(002)と記載]が観察されたので、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜42のマトリックス42aはfcc構造を主構造とし、hcp構造を副構造とすることが分かる。さらに、ドロップレット43の外殻部43aに対して、同様の制限視野回折測定を行った結果を図11に示す。図11からドロップレット43は岩塩型構造を有することが分かる。
(7) 工具寿命の測定
図13に示すように、上記(AlTiVCrNi)N硬質皮膜被覆ミーリングインサート30を、刃先交換式回転工具(三菱日立ツール株式会社製ABPF30S32L150)40の工具本体36の先端部38に止めねじ37で装着した。刃先交換式回転工具40の刃径は30mmであった。下記の転削条件で切削加工を行い、単位時間ごとにサンプリングしたインサート30の逃げ面を光学顕微鏡(倍率:100倍)で観察し、逃げ面の摩耗幅又はチッピング幅が0.2 mm以上になったときの加工時間を工具寿命と判定した。
切削加工条件
加工方法: 高送り連続転削加工
被削材: 120 mm×250 mmのSKD11角材(HRC60)
使用インサート: ZDFG300-ST(ミーリング用)
切削工具: ABPF30S32L150
切削速度: 230 m/分
1刃当たりの送り量: 0.3 mm/刃
軸方向の切り込み量: 0.5 mm
半径方向の切り込み量:0.4 mm
切削液: なし(乾式加工)
使用した(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成及び焼結体組成をそれぞれを表4-1及び表4-2に示し、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の組成を表5-1に示し、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の結晶構造、Ni-O結合、V-O結合、Cr-O結合及びAl-O結合の有無、及び工具寿命を表5-2に示す。
実施例2〜13
表4-1及び表4-2にそれぞれ示す(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成用ターゲットの配合組成及び焼結体組成を使用した以外、実施例1と同様にして、ミーリングインサートに各(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成した。
比較例1
TiN、VN及びCrNを添加しないターゲットの配合組成及び焼結体組成(表4-1及び表4-2)を採用した以外、実施例1と同様にして、ミーリングインサートに硬質皮膜を形成した。
比較例2
ターゲットのホットプレス温度を550℃とし、かつ真空度を100 Paとして酸素含有量過多[O(η)=0.082]の焼結体ターゲットを作製した以外、実施例1と同様にして、ミーリングインサートに硬質皮膜を形成した。
比較例3
ターゲットのホットプレス温度を550℃とし、かつ真空度を0.04 Paとして低酸素含有量[O(η)=0.011]の焼結体ターゲットを作製した以外、実施例1と同様にしてミーリングインサートに硬質皮膜を形成した。ここで、O(η)=0.011は不可避的不純物レベルの上限値に相当する。
従来例1
TiN、VN、CrN及びNiを添加しないターゲットの配合組成及び焼結体組成(表4-1及び表4-2)を採用した以外、実施例1と同様にしてミーリングインサートに硬質皮膜を形成した。
従来例2
TiN、VN、CrN及びVを添加しないターゲットの配合組成及び焼結体組成(表4-1及び表4-2)を採用した以外、実施例1と同様にしてミーリングインサートに硬質皮膜を形成した。
従来例3
TiN、VN、CrN及びCrを添加しないターゲットの配合組成及び焼結体組成(表4-1及び表4-2)を採用した以外、実施例1と同様にしてミーリングインサートに硬質皮膜を形成した。
実施例2〜13、比較例1〜3、及び従来例1〜3の各硬質皮膜に対して、組成及び結晶構造、Ni-O結合、V-O結合、Cr-O結合及びAl-O結合の有無、及び工具寿命を測定した。各硬質皮膜の組成を表5-1に示し、各硬質皮膜の結晶構造、Ni-O結合、V-O結合及びAl-O結合の有無、及び各工具寿命を表5-2に示す。
表5-2から、実施例1〜13の各(AlTiVCrNi)N硬質皮膜はいずれもNi-O結合、V-O及びCr-O結合を有し、Al-O結合を有しないことが分かる。このため、実施例1〜13の各切削工具の工具寿命はいずれも286分以上と長かった。これに対し、TiN、VN及びCrNを添加していないターゲットを使用した比較例1の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜では、Ni-O結合、V-O結合及びCr-O結合は形成されておらず、工具寿命は115分と短かった。酸素含有量O(η)が0.082と過多の焼結体ターゲットを使用した比較例2の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜はNi-O結合、V-O結合、Cr-O結合とともに有害なAl-O結合が形成されており、工具寿命は109分と短かった。酸素含有量O(η)が0.011と過少の焼結体ターゲットを使用した比較例3の(AlTiVCrNi)N硬質皮膜はNi-O結合、V-O及びCr-O結合が形成されておらず、工具寿命は121分と短かった。次に、TiN、VN、CrN及びNiを添加していないターゲットを使用した従来例1の(AlTiVCr)N硬質皮膜、及びTiN、VN、CrN及びVを添加していないターゲットを使用した従来例2の(AlTiNiCr)N硬質皮膜、及びTiN、VN、CrN及びCrを添加していないターゲットを使用した従来例3の(AlTiVNi)N硬質皮膜ではいずれもNi-O結合、V-O結合及びCr-O結合は形成されておらず、工具寿命は119分、126分及び120分と短かった。
実施例14及び15
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力をそれぞれ2.5 Pa(実施例14)及び5 Pa(実施例15)とした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、評価した。窒素ガスの圧力、及び各(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の組成及び各工具寿命の測定結果を実施例1の測定結果とともに表6に示す。
表6から明らかなように、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の窒素ガスの圧力を2.5 Pa及び5 Paとした実施例14及び15の各工具寿命は309分以上と長かった。
実施例16及び17
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の基体温度
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の基体温度を、実施例16では450℃とし、実施例17では550℃とした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、組成及び工具寿命を測定した。測定結果を実施例1とともに表7に示す。
表7から明らかなように、基体温度を450℃及び550℃とした実施例16及び17の工具寿命は314分以上と長かった。
実施例18〜22
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時のバイアス電圧
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時のバイアス電圧をそれぞれ直流電圧−90 V(実施例18)、直流電圧−150 V(実施例19)、ユニポーラパルスバイアス電圧−120 V(実施例20)、ユニポーラパルスバイアス電圧−90 V(実施例21)、及びユニポーラパルスバイアス電圧−150 V(実施例22)とした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、組成及び工具寿命を測定した。測定結果を実施例1とともに表8に示す。
表8から、直流電圧−90V及び150 Vとした実施例18及び19、ユニポーラパルスバイアス電圧−120 V、−90 V及び150 Vとした実施例20〜22の工具寿命は310分以上と長かった。
実施例23及び24
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の直流アーク電流
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜形成時の直流アーク電流を、実施例23では150 Aとし、実施例24では200 Aとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、組成及び工具寿命を測定した。測定結果を実施例1とともに表9に示す。
表9から、直流アーク電流を150 A及び200 Aとした実施例23及び24の工具寿命は311分以上と長かった。
実施例25〜28
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の膜厚
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の膜厚を、実施例25では1μmとし、実施例26では6μmとし、実施例27では8μmとし、実施例28では10μmとした以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに硬質皮膜を形成し、組成及び工具寿命を測定した。測定結果を実施例1とともに表10に示す。
表10から明らかなように、(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の膜厚を1〜10μmとした実施例25〜28の工具寿命は294分以上と長かった。
実施例29〜40
中間層
(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の寿命に及ぼす中間層の効果を調べるために、実施例1と同じ改質層及び(AlTiVCrNi)N硬質皮膜の間に、表11に示す組成の各ターゲット及び各成膜条件を採用して物理蒸着法により各中間層を形成した以外、実施例1と同様にして各ミーリングインサートに(AlTiVCrNi)N硬質皮膜を形成し、組成及び工具寿命を測定した。測定結果を実施例1とともに表12に示す。
実施例29〜40では、WC基超硬合金基体と(AlTiVCrNi)N硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種とを必須構成元素とする中間層(硬質皮膜)を形成したが、表12から明らかなようにいずれの切削工具も293分以上と良好な工具寿命を有していた。
1:駆動部
2:ガス導入部
3:バイアス電源
4:軸受け部
5:減圧容器
6:下部保持具(支柱)
7:基体
8:上部保持具
10,18:陰極物質(ターゲット)
11、12:アーク放電用電源
13、27:アーク放電式蒸発源
14:アーク放電式蒸発源固定用絶縁物
15:アーク点火機構軸受部
16:アーク点火機構
17:排気口
19:電極固定用絶縁物
20:電極
21:遮蔽板軸受け部
22:遮蔽板駆動部
23:遮蔽板
30:ミーリング用インサート
35:インサートのすくい面
36:工具本体
37:インサート用止めねじ
38:工具本体の先端部
40:刃先交換式回転工具
41:WC基超硬合金基体
42:(AlTiVCrNi)N硬質皮膜
42a:(AlTiVCrNi)N硬質皮膜のマトリックス
43:ドロップレット
43a:ドロップレットの外殻部

Claims (10)

  1. (AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ原子比で、0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦p≦0.8を満たす。)で表される組成を有する硬質皮膜であって、
    X線光電子分光分析法で特定された結合状態に実質的にAl-O結合なしにNi-O結合があり、かつ
    岩塩型の単一構造からなるX線回折パターンを有することを特徴とする硬質皮膜。
  2. 請求項1に記載の硬質皮膜において、X線光電子分光分析法で特定された結合状態にさらにV-O結合及びCr-O結合のいずれか又は両方があることを特徴とする硬質皮膜。
  3. 請求項1又は2に記載の硬質皮膜において、前記硬質皮膜はNi、Ti、Al及びCrを必須に含む酸化物からなるドロップレットを有し、前記ドロップレットの組成が、(MeNi1-e)(1-q)Oq(ただし、MはTi、Al及びCr、又はTi、Al、Cr及びVを表し、e及びqはそれぞれ原子比で、0.3≦e≦0.9、及び0.05≦q≦0.35を満たす。)で表されることを特徴とする硬質皮膜。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の硬質皮膜において、前記硬質皮膜の電子回折パターンが岩塩型構造を主構造とし、ウルツ鉱型構造を副構造とすることを特徴とする硬質皮膜。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  6. 請求項5に記載の硬質皮膜被覆工具において、前記基体と前記硬質皮膜との間に、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を有することを特徴とする硬質皮膜被覆工具。
  7. (AlaTibVcCrdNie)(1-p)Np(ただし、a、b、c、d、e及びpはそれぞれ原子比で、0.45≦a≦0.8、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.05、0.01≦d≦0.15、0.001≦e≦0.01、a+b+c+d+e=1、及び0.2≦p≦0.8を満たす。)で表される組成を有し、X線光電子分光分析法で特定された結合状態に実質的にAl-O結合なしにNi-O結合があり、かつ岩塩型の単一構造からなるX線回折パターンを有する硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により基体上に形成する硬質皮膜被覆工具の製造方法であって、
    窒化ガス雰囲気中で、AlαTiβVγCrωNiδNεOη(ただし、α、β、γ、ω、δ、ε及びηはそれぞれAl、Ti、V、Cr、Ni、N及びOの原子比で、0.45≦α≦0.80、0.12≦β≦0.48、0.006≦γ≦0.05、0.01≦ω≦0.15、0.003≦δ≦0.015、0.002≦ε≦0.02、0.015≦η≦0.05、及びα+β+γ+ω+δ+ε+η=1を満たす。)で表される組成を有する合金ターゲットを用いることを特徴とする方法。
  8. 請求項7に記載の硬質皮膜被覆工具の製造方法において、
    2.5〜5 Paの窒化ガス雰囲気中で450〜550℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体に−150〜−40 Vの直流バイアス電圧又はユニポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられた前記ターゲットに150〜200 Aの直流アーク電流を通電することを特徴とする方法。
  9. 請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜形成用ターゲットにおいて、AlαTiβVγCrωNiδNεOη(ただし、α、β、γ、ω、δ、ε及びηはそれぞれAl、Ti、V、Cr、Ni、N及びOの原子比で、0.45≦α≦0.80、0.12≦β≦0.48、0.006≦γ≦0.05、0.01≦ω≦0.15、0.003≦δ≦0.015、0.002≦ε≦0.02、0.015≦η≦0.05、及びα+β+γ+ω+δ+ε+η=1を満たす。)により表される組成を有する焼結体合金からなることを特徴とするターゲット。
  10. 請求項9に記載のターゲットの製造方法において、前記焼結体がAl粉末、Ti粉末、TiN粉末、V粉末、VN粉末、Cr粉末、CrN粉末及びNi粉末からなる混合粉末を温度520〜580℃及び圧力1〜10 Paの減圧雰囲気中でホットプレスすることにより得られることを特徴とする方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114059023A (zh) * 2021-10-29 2022-02-18 东莞市华升真空镀膜科技有限公司 涂层及其制备方法和器具

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