JP7250243B2 - 被覆工具 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、プレス加工用や鋳造用の金型、インサート等の切削工具に用いられる工具であって、化学蒸着法で被覆したAlとCrを含有する窒化物または炭窒化物を含む硬質皮膜を工具の表面に有する被覆工具に関する。
従来、金型や切削工具等の工具の寿命を向上させるために、物理蒸着法または化学蒸着法により工具の表面に硬質皮膜を被覆した被覆工具が用いられている。工具の中でも切削工具は加工負荷が大きい使用環境下で使用される。各種の硬質皮膜のなかでもAlとTiの窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜およびAlとCrの窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜は耐摩耗性と耐熱性に優れる膜種であり被覆切削工具等に広く用いられている。
被覆工具に使われている硬質皮膜についてみてみると、AlとTiの窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜の形成については、実際に市場で販売されている被覆切削工具に物理蒸着法および化学蒸着法が広く適用されている。一方、AlとCrの窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜の形成については、実際に市場で販売されている被覆切削工具に適用されているのは物理蒸着法であり、化学蒸着法は用られていないのが現状である。
しかし、化学蒸着法による硬質皮膜の形成は研究はなされており、例えば、特許文献1は、NH、NとHからなるガス群Aと、CrCl、AlCl、Al(CH、NとHからなるガス群Bを硬質皮膜原料ガスとして別々に供給することで立方晶構造からなるAlとCrの窒化物からなる硬質皮膜を工具基材の表面に被覆することを開示している。
特開2017-80883号公報
特許文献1に記載の被覆について、本発明者の検討によると、化学蒸着法でAlとCrの窒化物または炭窒化物からなる硬質皮膜を被覆する場合、アルカリガスであるNHガスと、ハロゲンガスであるCrClガスやAlClガスが過剰に反応して成膜が安定し難くなることがあり、さらには、特定の面配向をしていないため、被覆切削工具を含む被覆工具として用いた場合耐久性も十分でないときがあることを確認した。
したがって、本発明は、耐久性に優れるAlとCrの窒化物または炭窒化物を被覆した被覆工具を得ることを目的とする。
本発明の一実施形態に係る工具では、
基材表面の硬質皮膜は化学蒸着膜であり、半金属を含む金属元素の総量に対して、平均含有割合として、Alが50原子%以上、Crが10原子%以上、AlとCrの合計の含有比率が90原子%以上の窒化物または炭窒化物であり、
前記硬質皮膜は、X線回折においてfcc構造に起因する(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面および(422)面の少なくとも9面のピーク強度のいずれかが最大強度を示すfcc構造が主体の結晶構造であり、
前記基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、
前記硬質皮膜は、
TC(hkl)={I(hkl)/I (hkl)}/[Σ{I(hkl)/I (hkl)}/8]
ただし、
I(hkl):実測した窒化アルミクロムニウム、炭窒化アルミクロムニウム硬質皮膜の(hkl)面のX線回折強度であり、
(hkl):ICDD(International Center for Dffraction Data)ファイル番号00-025-1495に記載の窒化アルミニウムの(hkl)面の標準X線回折強度で、
Σは、次の8面である、(hkl)=(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面および(420)面のI(hkl)/I (hkl)の和である、
により定義される(hkl)面におけるX線回折強度比TC(hkl)であって、
前記(hkl)面が(311)面におけるX線回折強度比TC(311)の値が1.30以上であり、
前記基材と前記硬質皮膜の間にTiの窒化物または炭窒化物を含む中間皮膜を設ける。
さらに、前記実施形態に係る工具は、以下の各事項の一つ以上を満足することが好ましい。
(1)前記X線回折強度比TC(311)が2.00以上であること。
(2)前記X線回折強度比TC(311)が、X線回折強度比TC(hkl)(但し、(hkl)面は、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面および(420)面。)よりも大きいこと。
(3)前記X線回折強度比TC(420)およびTC(200)の値が1.00未満であること。
(4)前記硬質皮膜が、X線回折におけるfcc構造の総ピーク強度をTA、(422)面に起因するピーク強度をTBとした場合、TB/TAの値が0.050以上であること。
(5)前記柱状粒子の表面側における平均幅が0.1μm以上2.0μm以下であること。
(6)前記硬質皮膜は、透過型電子顕微鏡を用いたミクロ組織において、相対的にAlの含有比率が高い単層構造の部分と、相対的にAlの含有比率が低い積層構造の部分とを有する結晶粒子が分散していること。
前記によれば、耐久性に優れるAlとCrの窒化物または炭窒化物を被覆した被覆工具を得ることができる。
実施例1の被覆切削工具のすくい面の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)画像の図面代用写真(倍率10,000倍)である。 図1Aの図面代用写真に対する概略模式図である。 実施例1の硬質皮膜の透過型電子顕微鏡(TEM)の画像の図面代用写真(倍率200,000倍)である。 図2Aの図面代用写真に対する概略模式図である。 図2のA部を拡大したTEM画像の図面代用写真(倍率2,000,000倍)である。 図3Aの図面代用写真に対する概略模式図である。 図3Aの図面代用写真のB部におけるナノビーム回折パターンを示す図面代用写真である。 図3Aの図面代用写真のC部を拡大したTEM画像の図面代用写真(倍率4,000,000倍)である。 図5Aの図面代用写真に対する概略模式図である。 図5Aの図面代用写真のD部におけるナノビーム回折パターンを示す図面代用写真である。 図5Aの図面代用写真のE部におけるナノビーム回折パターンを示す図面代用写真である。 実施例1のX線回折測定結果を示す図である。 実施例の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)の概略模式図である。 実施例の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)の要部を拡大した概略模式図である。 実施例の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)のガス噴出口の概略断面図である。 比較例2の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)の概略模式図である。 比較例2の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)のガス噴出口の概略断面図である。 比較例3および4の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)の模式図である。 比較例3および4の硬質皮膜の被覆に用いた化学蒸着装置(CVD炉)のガス噴出口の概略断面図である。
本発明者は、AlとCrを主体とする窒化物または炭窒化物について、(311)面の配向を制御することで、工具の中でも加工負荷が大きい被覆切削工具の被覆皮膜として用いたときに耐久性が向上することを発見し、この発見は前述の被覆工具におしなべて適用できると考えて、本発明に到達した。すなわち、AlとCrを主体とする窒化物または炭窒化物について、各結晶面のX線回折強度を求め、(311)面のX線回折強度に注目して整理したところ、(311)面のX線回折強度が他の面の回折強度に対して一定の関係があるとき、被覆工具の耐久性が向上するという驚くべき知見を得たのである。
また、アルカリガスであるNHガス、ハロゲンガスであるCrClガスやAlClガスの原料ガスを過剰に反応させないために、これら原料ガスの混合ガス中のNHガス量のNガスとHガスの合計量に対する割合を特定のものとすること、さらに、塩化CrガスはCVD炉内で生成することが必要であることも知見した。
以下では、本発明の一実施形態の被覆工具を構成する硬質皮膜の成分組成、組織、結晶構造、特性、および、その製造方法および製造装置の詳細について説明をする。
<組成>
まず、本実施形態に係る硬質皮膜の組成について説明する。
本実施形態に係る硬質皮膜は、AlとCrをベースとする窒化物または炭窒化物である。AlとCrの窒化物または炭窒化物皮膜は耐摩耗性と耐熱性に優れる膜である。より好ましくは耐熱性に優れる前記窒化物の硬質皮膜である。硬質皮膜を炭窒化物とする場合でも、硬質皮膜の平均組成において、窒素と炭素の合計の含有比率(原子%)を100%とした場合、窒素の含有比率(原子%)が80%以上であることが好ましい。硬質皮膜が耐熱性に優れる窒化物が主体となれば、一部に炭窒化物等を含有しても被覆工具の耐久性は大幅に低下することはない。より好ましくは、窒素と炭素の合計の含有比率(原子%)を100%とした場合、窒素の含有比率(原子%)が90%以上である。なお、硬質皮膜に含まれる炭素は遊離炭素として含有される場合もある。
<<アルミニウム Al>>
Alの平均含有比率が高いと硬質皮膜の耐熱性が高まるとともに工具表面に潤滑保護皮膜を形成し易くなり、被覆工具の耐久性が向上する。これらの効果を十分に再現するために、本実施形態に係る硬質皮膜は、半金属を含む金属元素(以下、金属元素と記載する。)の総量に対して、Alの平均含有比率が50原子%以上とする。更には、Alの含有比率を55原子%以上とすることが好ましい。更には、Alの含有比率を60原子%以上とすることがより好ましい。更には、Alの平均含有比率を70原子%以上とすることがより一層好ましい。但し、Alの含有比率が高くなりすぎると、脆弱なhcp(六方最密充填)構造のAlNが多くなり被覆工具の耐久性が低下する。そのため、Alの平均含有比率を90原子%以下とすることが好ましい。
<<クロム Cr>>
Crの平均含有比率が少なすぎると脆弱なhcp構造のAlNが増加しすぎて被覆工具の耐久性が低下する。また、工具表面(切削工具の場合は刃先表面)に潤滑保護皮膜が形成され難くなり、溶着が発生し易くなる。そのため、Crの平均含有比率は10原子%以上とする。更には、Crの平均含有比率は15原子%以上とすることが好ましい。但し、Crの含有比率が高くなりすぎると相対的にAlの含有比率が低下して耐熱性が低下する。そのため、Crの含有比率は45原子%以下とすることが好ましい。
<<その他の元素>>
本実施形態に係る硬質皮膜は、硬質皮膜により高い耐熱性を付与するために、AlとCrの合計の平均含有比率を90原子%以上とすることが好ましい。更には、AlとCrの合計の平均含有比率を95原子%以上にすることが好ましい。本実施形態に係る硬質皮膜は、AlとCr以外の金属元素を含有してもよい。例えば、Ti、Si、Zr、B、Vを含有してもよい。これらの元素は、AlTi系の窒化物または炭窒化物やAlCr系の窒化物または炭窒化物に一般的に添加されている元素であり、少量の添加であれば被覆工具の耐久性を著しく低下させることはなく、工具の用途によっては耐久性の向上に資する。
すなわち、AlとCrの合計の平均含有比率を90原子%以上とする窒化物または炭窒化物において、後述するX線回折強度比TC(311)を一定値以上にすれば、これらの金属元素を含有しても被覆工具の耐久性を著しく低下させることはなく、工具の用途によっては耐久性の向上に資する。但し、AlとCr以外の金属元素の平均含有比率が高くなりすぎると、AlとCrをベースとする窒化物または炭窒化物としての基本特性が低下して被覆工具の耐久性が低下する。そのため、他の金属元素を含有する場合は、平均含有比率を10原子%以下とすることが好ましい。本実施形態に係る硬質皮膜は、AlとCrの窒化物としてもよい。
<<不可避不純物>>
本実施形態に係る硬質皮膜は、不可避不純物として、酸素および塩素等の成膜ガスに含まれる成分を、硬質皮膜全体を100質量%としたときに1質量%以下含有し得る。本実施形態に係る硬質皮膜は全体として窒化物または炭窒化物であるならば、これら不純物に起因するに化合物を一部に含有してもよい。
<結晶構造>
本実施形態に係る硬質皮膜は、X線回折においてfcc(面心立方格子)構造に起因するX線ピーク強度(ピーク強度)のいずれかが最大強度を示し、fcc構造が主体である。hcp構造が主体の硬質皮膜や非晶質の硬質皮膜は硬度が低く、脆弱でもあり被覆工具の耐久性が著しく低下する。fcc構造に起因するピーク強度が最大強度を示すことで、硬質皮膜の硬度と靭性が高まり、被覆工具の耐久性が向上する。
本実施形態に係る硬質皮膜は、fcc構造の単一構造であることが好ましいが、fcc構造に起因するピーク強度のいずれかが最大強度を示すのであれば、一部にhcp構造を含有してもよい。例えば、HRC30以下の軟鋼のミーリング加工においては、硬質皮膜に高い硬度が求められないため、hcp構造を含有してもよい。但し、hcp構造の含有比率が高くなりすぎると被覆工具の耐久性が低下する。そのため、hcp構造を含有する場合でも、fcc構造に起因する最大ピーク強度に対して、hcp構造に起因する最大ピーク強度を1/10以下にすることが好ましい。
本実施形態に係る硬質皮膜は、X線回折において、fcc構造の(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面および(422)面の少なくとも9面にピーク強度を有する。本発明者は、(311)面に起因するX線回折強度比が大きくなれば微粒な柱状粒子が増加することを知見した。
そのため、本実施形態では、(311)面に起因するX線回折強度比について、以下に述べるX線回折強度比TC(311)を1.30以上とする。そして、(311)面に起因するX線回折強度比TC(311)を前記他の面(窒化アルミニウムの標準X線回折強度には(422)面はないため、前記9面から(422)面を除いた8面)のX線回折強度比に対して高めることで、より一層、皮膜組織が微細となり、硬質皮膜の塑性変形が抑制され、更には皮膜摩耗が抑制され易くなって好ましいことも知見した。
本実施態様では、(311)面を含む前記各面のX線回折強度比TC(hkl)を以下の式(数1)で示されるX線回折強度比TC(hkl)を求め、X線回折強度比TC(311)を評価する。
(数1)
TC(hkl)={I(hkl)/I(hkl)}/[Σ{I(hkl)/I(hkl)}/8]
I(hkl):実測した窒化アルミクロムニウム、炭窒化アルミクロムニウム硬質皮膜の(hkl)面のX線回折強度。
(hkl):ICDD(International Center for Dffraction Data)ファイル番号00-025-1495に記載の窒化アルミニウムの(hkl)面の標準X線回折強度。
Σは、次の8面についての和を意味する。
(hkl)=(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面および(420)面。
ここで、窒化アルミクロムニウム、炭窒化アルミクロムニウムの標準X線回折強度は同ファイルにないため、窒化アルミクロムニウム、炭窒化アルミクロムニウムのX線回折に類似している窒化アルミニウム標準X線回折強度を用いている。
ICDDファイル番号00-025-1495に記載の、fcc構造の窒化アルミニウムの各結晶面に対応する回折角2θおよび標準X線回折強度Iによれば、fcc構造の窒化アルミニウムは、(420)面のX線回折強度が高いことが確認できる。また、当該窒化アルミニウムの標準X線回折強度には(422)面はないので、X回折強度比TC(hkl)は上述した8面から求める。
AlとCrを主体とする窒化物または炭窒化物について、X線回折強度比TC(311)の値が1.30以上になるAlとCrを主体とする窒化物または炭窒化物とすることで、被覆工具の耐久性を高めることができる。更には、X線回折強度比TC(311)が1.80以上であることがより好ましい。更には、X線回折強度比TC(311)が2.00以上であることがより一層好ましい。X線回折強度比TC(311)の上限値は特段の制約はないが、本明細書に開示する方法により窒化物または炭窒化物を製造した場合、6.00程度が上限値になると推定され、上限値は、5.00がより好ましい。
更には、X線回折強度比TC(311)が他の結晶面のX線回折強度比TC(hkl)よりも大きいことがさらにより一層好ましい。
本実施形態に係る硬質皮膜は、X線回折強度比TC(420)とX線回折強度比TC(200)の値が1.00以下であることが好ましい。その理由は、標準X線回折強度においてピーク強度が高い(420)面と(200)面のX線回折強度比TC(hkl)の値が小さくなることで、X線回折強度比TC(311)の値が高くなり易く好ましいためである。更には、X線回折強度比TC(420)とX線回折強度比TC(200)の値が0.50以下であることがより好ましい。
なお、窒化アルミクロムニウム、炭窒化アルミクロムニウム硬質皮膜のX線回折ピークは、窒化チタンアルミニウム硬質皮膜のX線回折ピークと類似しておりピーク位置が重なる。そのため、本発明に係る硬質皮膜と窒化チタンアルミニウム、炭窒化アルミクロムニウム硬質皮膜を積層、例えば、交互積層させる場合、得られたX線回折ピークを窒化アルミクロムニウム硬質皮膜のピークとしてX線解析強度比TC(hkl)を算出にすればよい。
本実施形態に係る硬質皮膜は、X線回折において、fcc構造の総ピーク強度(前記8面のピーク強度の和に加えて(422)面のX線回折ピーク強度を加えたものの和)をTA、(422)面に起因するピーク強度をTBとした場合、TB/TAの値が0.050以上であることが好ましい。通常、(422)面のような高角側のピーク強度は相対的に弱くなるが、(422)面のピーク強度がより強くなることで、結晶性のより高い硬質皮膜となり被覆工具の耐久性が向上する。更に、TB/TAの値を0.070以上とすることでより耐久性が優れる傾向にありより好ましい。
なお、ICDDファイル番号00-025-1495には(422)面のピーク強度はないが、面間隔d値を計算することにより、X線回折図において(422)面ピーク強度を確認することができる。
<柱状粒子>
本実施形態に係る硬質皮膜は、基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合(柱状組織)から構成される。AlとCrをベースとする窒化物または炭窒化物の硬質皮膜が基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子となることで、被覆工具の耐久性が向上する。
前記柱状粒子の表面側における平均幅が0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。表面側における平均幅が0.1μm以上とすることで被覆工具の耐久性がより高まる。また、表面側における平均幅が2.0μm以下とすることで、硬質皮膜の塑性変形が起こり難くなり、また、硬質皮膜から脱落する粒子径が小さくなるため工具摩耗が抑制され易くなる。
本実施形態における表面側とは、被加工材と接触する側にある硬質皮膜の表面近傍、例えば、CP(Cross-section Polisher)加工面の近傍をいう。硬質皮膜の柱状粒子の幅は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡による断面観察から測定することができる。測定箇所は、被加工材と接する側にある皮膜表面から深さが0.5μmの位置とした。連続する30個以上の柱状粒子の幅を観察すれば、粒子幅の平均値は収束する。そのため、連続する30個以上の柱状粒子から、硬質皮膜の柱状粒子の平均幅を求めればよい。
<ミクロ組織>
本実施形態に係る硬質皮膜のミクロ組織は特段限定されるものではない。すなわち、単層構造のみからなる結晶粒子を有してもよい。また、積層構造のみからなる結晶粒子を有してもよい。単層構造のみからなる結晶粒子と積層構造のみからなる結晶粒子と単層構造と積層構造が併存する結晶粒子とを有してもよい。特に、一つの粒子の中に、単層構造と積層構造が併存する結晶粒子が分散している場合が好ましい。
具体的には、例えば、図2A、図2Bに示すように、一つの結晶粒子において、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物または炭窒化物と、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物または炭窒化物とが交互に積層した積層構造からなる部分と、Alの含有比率が高いAlとCrの窒化物または炭窒化物の単層構造からなる部分とを有する結晶粒子がミクロ組織に分散している場合が好ましい(拡大図は、図3A、図3B、図5A、図5Bを参照)。
単層構造の部分は、積層構造の部分に比べて相対的に結晶性が高いため、歪みが少ないと推定される。そのため、結晶粒子が単層構造の部分を有することで被覆具の耐久性が向上する。積層構造からなる部分は、単層構造からなる部分に比べて相対的にAlの含有比率が小さいため、結晶粒子の全体としてAlの含有量が増加しすぎて脆弱なhcp構造のAlNが増加することが抑制される。そして、このような粒子がミクロ組織に存在することにより、硬質皮膜の全体として耐摩耗性と耐熱性が高まり優れた耐久性を発揮することができる。
結晶粒子の積層構造の部分において、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物または炭窒化物は、Alの含有比率が60原子%以上であることが好ましく、また、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物または炭窒化物は、Alの含有比率が55原子%以下であることが好ましい。
結晶粒子の積層構造の部分において、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物または炭窒化物は、Alの含有比率が70原子%以上であることがより好ましく、更には80原子%以上であることがより一層好ましい。但し、Alの含有比率が高くなりすぎるとhcp構造のAlNが増加するため、Alの含有比率は95原子%以下であることが好ましい。更には、90原子%以下であることがより好ましい。
結晶粒子の積層構造の部分において、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物または炭窒化物は、Alの含有比率が50原子%以下であることがより好ましく、更には、40原子%以下であることがより一層好ましい。但し、Alの含有比率が低くなりすぎると、硬質皮膜の全体で耐熱性が低下するため、Alの含有比率は10原子%以上であることが好ましい。更には、20原子%以上がより好ましい。
結晶粒子の単層構造の部分は、Alの含有比率が60原子%以上であることが好ましい。更には、Alの含有比率が70原子%以上であることが好ましい。但し、Alの含有比率が高くなりすぎるとhcp構造のAlNが増加するため、結晶粒子の単層構造の部分は、Alの含有比率が90原子%以下であることがより好ましい。
本実施形態に係る硬質皮膜のミクロ組織は、積層構造または単層構造のみの結晶粒子で構成されてもよい。
<平均膜厚>
本実施形態に係る硬質皮膜の平均膜厚(層厚)は、1.0μm以上15.0μm以下が好ましい。その理由は、膜厚が1.0μm未満であると薄いため十分な工具寿命を与えず、一方、膜厚が15.0μmを超えると厚くなりすぎて加工精度が低下してしまう虞があるためである。膜厚の下限は2.0μmがより好ましく、更には3.0μmが好ましく、更には5.0μmがより一層好ましい。膜厚の上限は12.0μmがより好ましく、更には10.0μmがより一層好ましい。
<中間皮膜と上層>
本実施形態の被覆工具は、工具の基材と硬質皮膜との間に、Tiの窒化物または炭窒化物を含む中間皮膜を設ける。このような中間皮膜を設けることで基材と硬質皮膜の密着性がより向上して過酷な使用環境下でも耐久性が向上する。ここで、本明細書において、Tiの窒化物、炭窒化物のように化合物を化学式で表さないときは、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されないし、Ti窒化物または炭窒化物を含むとは、Ti窒化物、Ti炭窒化物を中間層として成膜する際に不可避的に成膜される層の存在を許容すると云うことである。
また、本実施形態に係る硬質皮膜の上に、本実施形態に係る硬質皮膜と異なる成分比や異なる組成を有する上層を設けてもよい。上層は、例えば、窒化物、炭窒化物、炭化物やアルミナ等の酸化物で、結合層を介して設けるとよい。このうち、化学蒸着法で成膜する被覆層として一般的に用いられているアルミナは、被覆工具の耐熱性を向上させるので好ましい。
例えば、一般的に鋳物の切削加工においてはアルミナを設けた被覆切削工具が用いられている。本発明の被覆工具も、切削工具として用いる場合は、必要に応じて上層としてアルミナを設ければ耐久性がより向上して好ましい。また、上層として、AlとTiの窒化物や、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物または炭窒化物と、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物または炭窒化物とが交互に積層した積層皮膜を設けてもよい。
また、本発明の被覆工具を金型に適用する場合には、潤滑性に優れるVの窒化物または炭窒化物等を上層に設けてもよい。
<被覆後の処理>
本実施形態に係る硬質皮膜は化学蒸着によって成膜されるため引張応力を有しているから、被覆後にブラスト装置等による応力解放となる被覆後の処理を行うことが好ましい。この被覆後の処理を行うことで、被覆切削工具では耐チッピング性が改善し工具寿命に優れる硬質皮膜となる。
<基材>
本実施形態では、基材(被覆工具の基材)は、特に制限されるものではなく、用途や目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、超硬合金、冷間工具鋼、高速度工具鋼、プラスチック金型用鋼、熱間工具鋼等を適用することができる。
また、本発明の被覆工具を切削工具として用いる場合の工具基材は、インサート基材に限らず、例えば、ドリル、ドリル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、リーマ、タップ等の基材を挙げることができる。
<製造方法>
本実施形態に係る硬質皮膜は、例えば、内部温度を後述する750℃以上に昇温させた化学蒸着装置(CVD炉)内へ、以下に述べる混合ガスAと混合ガスBを別々に導入し、該装置内で混合することにより、該装置内にあらかじめ載置してあるインサート基材等の工具基体に被覆することができる。
<<混合ガスA>>
本実施形態において、混合ガスAは、混合ガスa1と混合ガスa2を含む。混合ガスa1は、HClガスとHガス(「塩化Crを生成するための混合ガス」または「混合ガスa1を得るための混合ガス」ともいう)と、この2のガスが金属Crと接触することにより生成する塩化Crガス(CrClで表現できる成分のみではなくCrとClとが化学的に結合したガスである)を含むガスで、代表的な組成は、体積比で塩化Cr/H=0.008以上0.140以下である。一方、混合ガスa2は、AlClガスとHガスとを含むガスで、代表的な組成は、体積比でAlCl/(H+N)=0.0006以上0.0300以下である。
なお、塩化Crガスの体積%およびAlClガスの体積%は、後述するように、これらガスを発生させるために導入するHClガス量から推定する。
混合ガスa1において、塩化Crガスの生成のためのHClガスとHガスは加熱されて金属Crと接触されるが、この加熱は、製造装置の説明で後述するように、CVD炉の内部のガス予熱部で行うことが好ましい。また、塩化Crガスを有するようになった混合ガスa1に、この混合ガスa1の温度近くに加熱された混合ガスa2を混合して、混合ガスAを得ることが好ましい。このようにすることにより、AlClガスの影響を受けずに塩化Crガスの生成が容易になされるようになる。
前記ガス予熱部において塩化Crガスを生成させるときの温度は、炉内温度の最低設定温度である750℃程度の塩化Crガスが安定的に発生する温度とする。その理由は、この温度が低すぎると塩化Crガスの発生量が少なくなり、硬質皮膜の全体がAlリッチとなって、hcp構造のAlNが増加し易くなるためである。
また、混合ガスa2に含まれるAlClガスは、例えば、HガスとHClガスの混合ガスを、金属Alを充填して330℃に保温したAlClガス発生器に導入して生成することができ、混合ガスa1と混合して混合ガスAとするときに予熱される。混合ガスa2の温度は、混合ガスa1の温度との差があまりない方が、硬質皮膜が柱状粒子の集合体から構成された組織となるために好ましく、混合ガスa1の温度の近傍(例えば、±80℃)がよい。
混合ガスa1に混合ガスa2を混合して得られた混合ガスAにおいて、Hガスの流量を最も大きくすることが好ましい。さらに、混合ガスa1および混合ガスa2にはNガスやArガスが含まれていてもよい。
<<混合ガスB>>
混合ガスBは、Hガス、NガスおよびNHガスを含む。この混合ガスBは、NガスとHガスの合計の体積%をb1、NHガスの体積%をb2とした場合、b2/b1の値が0.002以上0.020以下の組成比を有することが、本実施形態に係る硬質皮膜の組成を得るために好ましい。この組成比の範囲に混合ガスBの組成比があれば、アルカリガスであるNHガスと、ハロゲンガスであるCrClガスやAlClガスが過剰に反応することを抑制しやすい。
この混合ガスBも予熱されるが、予熱による温度上昇は抑え、混合ガスAの温度よりも低く予熱して過剰な予熱を避ける。
後述する被覆装置では、予熱チャンバー内の混合ガスBのガス流路を、予熱チャンバーの高さと同じとすることで、混合ガスBが混合ガスAのように過度に予熱されるのを防いでいる。これにより、混合ガスBに含まれるNHと混合ガスAに含まれる塩化Crガス、AlClガスとの反応速度を抑え、硬質皮膜が柱状粒子の集合から構成される組織となる。
混合ガスBのガス流路は、ガス予熱部を通るが、前述のとおり予熱温度は抑え、過剰の予熱は避ける。このように予熱するための一手段として、後述する本実施形態で使用されるCVD炉の予熱部のように、予熱ための熱源に混合ガスa1を得るための混合ガスの流路、混合ガスa2の流路、混合ガスBのガス流路の順に近づけ、さらに、混合ガスa1のガス流路の長さと混合ガスa2のガス流路の長さの合計を混合ガスBのガス流路よりも3倍以上、好ましくは、5倍以上で、8倍以下の範囲で長くすることが考えられる。
この範囲は、装置容量に依存して適宜決定すればよく、10倍、更には20倍となることもある。一例として、混合ガスBの流路は、650mm以下が好ましく550mm以下が更に好ましい。これにより、NHガスとAlClガスや塩化Crガスとの過度な反応が抑制されて、硬質皮膜が柱状粒子の集合から構成される組織となる。
なお、混合ガスa1を得るための混合ガスのガス流路、混合ガスa2のガス流路、混合ガスBのガス流路とは、各混合ガスを炉内へ導入してから予熱が終了するまでの流路をいう。すなわち、後述するように本実施形態で使用されるCVD炉の予熱部のように、成膜中に回転を伴う接続流路および予熱室(予熱チャンバー)内の流路をいう。
<<混合ガスAと混合ガスBの混合と炉内への導入>>
混合ガスAと混合ガスBをあらかじめ混合して、1つのノズル穴からCVD炉内(反応容器内)に導入すると、NHガスとAlClガスや塩化Crガスとの反応速度が速くなりすぎて、硬質皮膜において柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難くなる。
そこで、混合ガスAと混合ガスBはCVD炉内(反応容器内)に導入する前に混合せず、混合ガスAのノズル穴と混合ガスBのノズル穴をそれぞれ別にして設けてCVD炉内(反応容器内)に独立に導入する。具体的には、例えば、後述する製造装置において説明するように、混合ガスBのノズル穴は、混合ガスAのノズル穴とは噴出方向を変え、さらに、混合ガスAのノズル穴よりも回転軸からの距離が外側に配置するなどして、NHガスとAlClガスや塩化Crガスとの反応速度が速くなりすぎないようにする。
<<反応圧力と成膜温度>>
成膜のための反応圧力は3kPa以上5kPa以下であることが好ましい。その理由は、反応圧力が低すぎると成膜速度が低下し、一方で、反応圧力が高すぎると、前記反応が促進されて、柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難いためである。
また、CVD炉内(反応容器内)温度は750℃以上850℃以下が好ましい。その理由は、成膜温度が低すぎると、硬質皮膜中の塩素量が増加し耐摩耗性が低下し、一方で、成膜温度が高すぎると前記反応が促進され、柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難いためである。炉内温度は、770℃以上820℃以下がより好ましい。
なお、炭窒化物を被覆する場合には、炭素成分を与えるガス、すなわち、炭素数が2~5(C2~C5)の炭化水素ガス(例えばエタン)あるいは炭窒化水素ガス(例えばアセトニトリル)を混合ガスa2と一緒にCVD炉内に導入することが好ましい。反応性の高いエタンやアセトニトリルを導入することで、炭窒化物を安定して被覆することができる。炭化水素ガスの導入量は、混合ガスAと混合ガスBの和のガス量に対して0.4体積%以下で導入することが好ましい。
<被覆装置>
本発明の一実施形態に用いる化学蒸着装置(CVD炉)は、上述の製造方法を実施するために、炉内(反応容器内)温度は750℃以上850℃以下、炉内(反応容器内)圧力は3kPa以上5kPa以下にできるものであって、以下の特徴的な構成を有している。具体的な構成は、後述する実施例で述べ、ここでは装置として備えるべき事項を中心に説明する。
被覆装置は、混合ガスAの成分である塩化Crガスを生成するための混合ガスa1と混合ガスa2、および、混合ガスBの3種の混合ガスのそれぞれを独立に予熱し、CVD炉内(反応容器内)に導入する構成を備えている。
すなわち、CVD炉内には、ガス予熱部と後述する反応容器にガスを導入するガス放出部を有している。ガス予熱部は、
(1)塩化Crガスを生成させるための混合ガスを金属Crに接触させて塩化Crガスを含む混合ガスa1を発生させる塩化Crガス発生部、
(2)混合ガスa2を予熱する第1予熱部、
(3)混合ガスBを予熱する第2予熱部、および、
(4)混合ガスa1と混合ガスa2とを混合し、混合ガスAとする混合部、
とを有している。
なお、予熱部の熱源は、予熱部用に独立して設けてもよいし、CVD炉の周壁またはその近傍に備えられている熱源(ヒータ)を利用してもよい。また、金属Crはフレーク状などの塩化Crガスが発生し易い形状とする。
ここで、予熱部において、混合ガスの温度を前述のとおりとするための一手段として、CVD炉の熱源を利用する場合には、例えば、予熱源であるCVD炉のヒータに、混合ガスa1を生成するガス流路、混合ガスa2のガス流路、混合ガスBのガス流路の順で近づけるとともに、ガス流路の配置を工夫して、一例として、混合ガスa1を発生させるための流路の長さと混合ガスa2の流路の長さの合計の長さを混合ガスBの流路の長さの3倍以上、好ましくは、5倍以上で、8倍以下とすることが挙げられる。
ここで、混合ガスa1を生成するガスの流路の長さ、混合ガスa2流路の長さ、混合ガスBの流路の長さとは、それぞれ、CVD炉のガス導入口からガス予熱部の出口までの長さをいう。すなわち、後述するように本実施例で使用されるCVD炉の予熱部のように、成膜中に回転を伴う接続流路および予熱室(予熱チャンバー)内の流路をいう。
このような構成にすることによって、混合ガスa1は750℃以上に予熱し、一方、混合ガスa2は、混合ガスa1の近傍の温度、例えば、±80℃の範囲に予熱し、混合ガスa1と混合されて混合ガスAとすることができる。他方、混合ガスBの温度(TeB)は、混合ガスAの温度(TeA)よりも低い温度となる(TeA>TeB)。
なお、混合ガスAについては、予熱部におけるガス流路が長いため、ほぼ炉内温度程度まで上昇している。一方、混合ガスBについては、予熱部におけるガス流路を短くしているため、温度上昇が抑制されているということができる。
さらに、CVD炉内は、ガス放出部として、混合ガスAを反応容器に導入するためにノズル穴を設けた第1のパイプと、混合ガスBを反応容器に導入するためにノズル穴を設けた第2のパイプを有している。例えば、第2パイプは2本で、1本の第1のパイプの外側に対向するように配置され、これらパイプは第1のパイプの軸心を中心に、2~5回転/分の速度で回転することが好ましい。
ここで、混合ガスAのノズル穴と混合ガスBのノズル穴が近すぎると、急激な反応が起こり、柱状粒子の集合から構成される組織が得られ難くなるとともに、硬質皮膜の膜厚分布が悪くなる。一方、混合ガスAのノズル穴と混合ガスBのノズル穴が離れすぎると、ガス供給が不十分となり膜厚分布が悪くなる。そこで、一例として、図9Cに示すように、混合ガスAのノズル穴と回転軸(第1のパイプの軸心)からの距離をH1、混合ガスBのノズル穴と回転軸(第1のパイプの軸心)からの距離をH2とした場合、H2/H1の下限は1.5であることが好ましく、上限は4が好ましく、より好ましくは3である。
さらに、混合ガスAのノズル穴からのガス噴出方向と混合ガスBのノズル穴からのガス噴出方向は30度から90度ずれて配置することが好ましい。
以下、被覆切削工具に適用した実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<被覆装置>
本実施例では、概略模式図として図9A、図9Bおよび図9Cに示す化学蒸着装置(CVD炉)1を用いた。この装置の概要を説明する。
CVD炉1は、円筒形のチャンバー2と、チャンバー2の周壁内部に設けられたヒータ3と、チャンバー2に多数のインサート基材(工具基材)20を設置する複数のインサート設置板4を有する反応容器5と、反応容器5の下部に設けられた接続流路11と予熱部である予熱チャンバー6を有する。
予熱チャンバー6は、
円筒状であってその下部に、ガス流路82から導入された塩化Crガス発生用の混合ガスを接続流路11を経由して予熱チャンバー6の径方向に分散させ、塩化Crガス発生室62に導入する空間と、
この空間の直上に設けられ、予熱チャンバー6の外周にその円筒の外周が一致し中心部が円筒状の空間を有し、予熱チャンバー6と同心状の塩化Crガス発生室62と、
塩化Crガス発生室62の中心部の円筒状の空間に予熱チャンバー6と同心状に形成され、ガス流路81から導入された混合ガスa2を予熱する予熱室61(第1予熱部)と、
塩化Crガス発生室62と予熱室61の上部に位置し、後述する混合ガスa1と混合ガスa2とを混合して混合ガスAとする混合室63(混合部)と、
を有している。
また、予熱チャンバー6、すなわち、予熱室61の軸心部には、ガス流路91から導入された混合ガスBがその高さ方向に貫通する流路(第2予熱部)があり、この流路は予熱チャンバー6の上部でパイプ7の外側流路につながっており、これは、予熱部を通過する最短長さ(550mm)となっている。一方、混合室63で混合された混合ガスAの流路は、予熱チャンバー6の上部でパイプ7の2の中心流路につながるよう設けられている。
ガス流路82から導入された混合ガスは、予熱チャンバー6内の塩化Crガス発生装置62に導入され、炉内温度である750℃以上となって同発生室内の金属Crと反応して塩化Crガスを含む混合ガスa1となり、混合室63に導入される。
そして、前記のとおり、混合ガスBはパイプ7の外側流路に導入され、ノズル穴91a、91bから反応容器5内に導入される。他方、ガス流路81、82から導入され予熱室61を貫通する反応ガスAは、パイプ7の中心流路に導入され、ノズル穴83a、83bから反応容器5内に導入される。
ここで、ノズル穴83a、83bとノズル穴91a、91bの位置関係は図9Cのガス噴出口断面図に示すように、ノズル穴91a、91bは、ノズル穴83a、83bよりもパイプ7の回転軸O1よりも外側に配置されており、ノズル穴91a、91bと回転軸O1からの距離をH2、ノズル穴83a、83bと回転軸O1からの距離をH1としたとき、H2/H1は2となっており、ノズル穴91a、91bの噴出方向とノズル穴83a、83bの噴出方向は90度の角度をなしている。
図9Bの12に示す、接続流路11と予熱チャンバー6およびパイプ7は、2回転/分の速度で回転するように構成されているが、図9A、図9Bおよび図9Cでは、この回転に必要な構成の図示を省略している。
図9Aおよび図9Bでは、具体的な構成の図示を省略しているが、混合ガスa1を得るガス流路の長さと混合ガスa2のガス流路の長さとの合計の長さは、図9Bに示す13aと13bと13cの合計である混合ガスBのガス流路の長さの約4倍となるように構成されている。
≪基材≫
基材として、WC基超硬合金(10質量%のCo、0.6質量%のCr、残部WCおよび不可避的不純物からなる)製のミーリング用インサート(三菱日立ツール製のWDNW14520)と、WC基超硬合金(7質量%のCo、0.6質量%のCr、2.2質量%のZrC、3.3質量%のTaC、0.2質量%のNbC、残部WCおよび不可避的不純物からなる)製の物性評価用インサート(ISO規格のSNMN120408)を用意した。
≪中間皮膜の被覆≫
実施例1~7については、中間皮膜として窒化チタン皮膜を形成した。まず、基材を、図9Aに示すCVD炉1内にセットし、Hガスを流しながらCVD炉1内の温度を800℃に上昇させた。その後、800℃および12kPaで、予熱チャンバー6のガス導入口からガス流路81を経て、83.1体積%のHガス、15.0体積%のNガス、1.9体積%のTiClガスからなる混合ガスを予熱室62に導入し、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから67L/分の流量で反応容器5内に流して窒化チタン皮膜を形成した。
中間皮膜の成膜条件を表1に示す。
≪硬質皮膜の被覆≫
≪混合ガスa1を得る工程≫
ガスを流しながらCVD炉1内の圧力を4kPaに下げた後、図9Aに示す予熱チャンバー6のガス流路82に、400℃に保温したHガスとHClガスの混合ガスを導入した。
800℃に予熱した予熱チャンバー6の塩化Crガス発生室62は、Cr金属フレーク(純度99.99%、サイズ2mm~8mm)が充填されており、ガス流路82より導入したHガスとHClガスの混合ガスと反応し、Hガスと塩化Crガスの混合ガスである混合ガスa1を生成し、混合室63に導入した。
≪混合ガスAを得て、ノズル穴から反応容器に導入する工程≫
予熱チャンバー6のガス導入口からガス流路81を経て、HガスとAlClガスを混合した混合ガスa2を予熱室62に導入して予熱した。
そして、混合ガスa1と混合ガスa2を混合室63で混合して予熱室の温度である800℃近傍の温度となっている混合ガスAを得た。そして、得られた混合ガスAを、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから反応容器炉内に導入した。混合ガスAの合計流量は48.75L/分であった。
≪混合ガスBをノズル穴から反応容器に導入する工程≫
ガス流路91にHガスとNガスおよびNHガスからなる混合ガスBを導入し、パイプ7の第2のノズル穴91a、91bから炉内に導入した。混合ガスBの合計流量は30.25L/分であった。
なお、ここで、NH/(AlCl+CrCl)の値が、0.18~0.39にあると、NHガスと、ハロゲンガスであるCrClガスやAlClガスの過剰反応をより一層確実に抑えることができ、AlとCrをベースとする窒化物を有する硬質皮膜を安定的に成膜することができる。
こうして、実施例1~7および比較例1は、表1に記載された中間皮膜の上に、表2に示す各混合ガス組成で化学蒸着法により、膜厚が約6μmのAlとCrの窒化物を被覆して被覆切削工具を製作した。ここで、比較例1は、本発明の一実施形態で好ましいとする混合ガス組成を満足していないものである。
なお、発生した塩化Crガス、AlClガスの量は、塩化Crガス発生室に導入するHClガス量の1/3を塩化Crガス量として混合ガスの組成を求めた。
比較例2は、図10A、図10Bに示すCVD炉を用いて硬質皮膜を作製した。まず、このCVD炉の構成を簡単に説明する。図10A、図10Bにおいて、図9A、9Cと同じ符号の部材は、これら図と同じ部材を表している。このCVD炉では、ガス流路92から混合ガスを導入し、パイプ7に設けたノズル穴92aから、混合ガスが反応容器5内に導入される。なお、パイプ7は回転するが、回転に必要な構成の図示は省略している。
比較例2では、前記実施例と同様に基材の上に中間皮膜である窒化チタン皮膜を前記実施例1と同じ成膜条件により形成した(表1を参照)。その後、800℃でHガスを流しながらCVD炉1内の圧力を1kPaに下げた後、ガス流路92に、表2に示す組成のHガスとNガスとCrClガスとAlClガスおよびNHガスの混合ガスを導入し、パイプ7のノズル穴92aから反応容器5内に導入した。こうして、中間皮膜の上に、化学蒸着法により、膜厚が約6μmのAlとCrの窒化物の皮膜をインサート基材に被覆して、被覆切削工具を製作した。
比較例3は、図11A、図11Bに示すCVD炉を用いて硬質皮膜を作製した。まず、このCVD炉の構成を簡単に説明する。図11A、図11Bにおいて、図9A、9Cと同じ符号の部材は、これら図と同じ部材を表している。このCVD炉では、ガス流路84から導入される混合ガスはノズル7に設けられたノズル穴94aから、ガス流路93から導入される混合ガスはノズル7に設けられたノズル穴94aから、独立に反応容器5内に導入される。なお、パイプ7は回転するが、回転に必要な構成の図示は省略している。
比較例3では、前記実施例と同様に基材の上に中間皮膜である窒化チタン皮膜を前記実施例1と同じ成膜条件により形成した(表1を参照)。その後、800℃でHガスを流しながらCVD炉1内の圧力を4kPaに下げた後、ガス流路84に、表2に示す組成のHガスとNガスとCrClガスとAlClガスの混合ガスAを導入し、パイプ7のノズル穴84aから反応容器5内に導入し、表2に示す組成のガス流路93にHガスとNガスおよびNHガスからなる混合ガスBを導入し、パイプ7のノズル穴93aから反応容器5内に導入した。こうして、中間皮膜の上に、化学蒸着法により、膜厚が約6μmのAlとCrの窒化物の皮膜をインサート基材に被覆して、被覆切削工具を製作した。
比較例4は、比較例3と同じCVD炉を用いて硬質皮膜を作製した。前記実施例と同様に基材の上に中間皮膜である窒化チタン皮膜を前記実施例1と同じ成膜条件により形成した(表1を参照)。その後、800℃でHガスを流しながらCVD炉1内の圧力を4kPaに下げた後、ガス流路84に、表2に示す組成のHガスとNガスとCrClガスおよびAlClガスの混合ガスAを導入し、パイプ7のノズル穴84aから炉内に導入し、ガス流路93に、表2に示す組成のHガスとNガスおよびNHガスからなる混合ガスBを導入し、パイプ7のノズル穴93aから炉内に導入した。こうして、中間皮膜の上に、化学蒸着法により、膜厚が約6μmのAlとCrの窒化物の皮膜をインサート基材に被覆して、被覆切削工具を製作した。
なお、実施例7については、上層を設けた。上層の成膜は、本実施例に係るAlとCrを主体とする窒化物膜を成膜後、結合層、酸化アルミニウム層の順に成膜する。
すなわち、まず、Ti(CN)層およびTi(CNO)層からなる結合層を形成するために、1000℃および16kPaで、予熱チャンバー6のガス導入口からガス流路81を経て、63.5体積%のHガス、22.0体積%のNガス、3.2体積%のCHガス、および1.3体積%のTiClガスからなる混合ガスを予熱室62に導入し、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから反応容器炉内に流すとともに、ガス流路91に、10体積%のHガスを導入し、パイプ7の第2のノズル穴91a、91bから炉内に流して、厚さ0.5μmのTi(CN)層を形成した。連続して1000℃および16kPaで、51.3体積%のHガス、30.7体積%のNガス、3.0体積%のCHガス、1.2体積%のTiClガス、3.0体積%のCOガス、および0.8体積%のCOガスからなる混合ガスを予熱室62に導入し、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから反応容器炉内に流すとともに、ガス流路9に、10体積%のHガスを導入し、パイプ7の第2のノズル穴91a、91bから炉内に流して、厚さ0.5μmのTi(CNO)層を形成した。
さらに、1000℃および9kPaで、9.2体積%のAlClガスと、85.3体積%のHガスと、4.3体積%のCOガスと、0.2体積%のHSガスと、1.0体積%のHClガスとからなる混合ガスを予熱室62に導入し、パイプ7の第1のノズル穴83a、83bから反応容器炉内に流すとともに、ガス流路9に、10体積%のHガスを導入し、パイプ7の第2のノズル穴91a、91bから炉内に流して、厚さ1μmの酸化アルミニウム層を形成した。
比較例5は、アークイオンプレーティング装置を用いて被覆した。中間皮膜を設けず、Al70Cr30(数値は原子比率)の合金ターゲットを用いて、基材に印加する負圧のバイアス電圧を-100V、炉内に窒素ガスを導入して炉内圧力を3Pa、炉内温度を500℃として、で約3μmのAlとCrの窒化物を被覆して、被覆切削工具を製作した。
Figure 0007250243000001
Figure 0007250243000002
次に、実施例1~7および比較例1~5について、硬質皮膜の組成、結晶構造の測定、切削性評価を下記のとおりに行った。
≪硬質皮膜の組成≫
電子プローブマイクロ分析装置(EPMA、日本電子株式会社製JXA―8500F)を用いて、加速電圧10kV、照射電流0.05A、およびビーム径0.5μmの条件で、物性評価用インサート(SNMN120408)の断面における窒化アルミクロムニウム硬質皮膜の膜厚方向中心の任意の5箇所を測定して、得られた測定値の平均から硬質皮膜の組成を求めた。測定結果を表3に示す。
≪結晶構造の測定≫
X線回折装置(PANalytical社製のEMPYREAN)を用いて、管電圧45kVおよび管電流40mAでCuKα1線(波長λ:0.15405nm)を物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面の硬質皮膜の表面に照射して硬質皮膜の結晶構造を評価した。
回折ピークの同定には、ICDDのX線回折データベースを利用した。fcc構造の窒化アルミクロムニウム硬質皮膜はICDDにデータがないため、fcc構造の窒化アルミニウムのICDDファイルを代用した。
得られたX線回折パターンから、以下の式(数2)により、X線回折強度比TC(hkl)を求めた。
(数2)
TC(hkl)={I(hkl)/I(hkl)}/[Σ{I(hkl)/I(hkl)}/8]
I(hkl):実測した窒化アルミクロムニウム硬質皮膜の(hkl)面のX線回折強度。
(hkl):ICDDファイル番号00-025-1495に記載の窒化アルミニウムの(hkl)面の標準X線回折強度。
Σは、次の8面についての和を意味する。
(hkl)=(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面および(420)面。
結果を表3に示す。
≪切削評価≫
被覆したミーリング用インサートを、刃先交換式回転工具(ASRT5063R-4)に止めねじで装着し、下記のミーリング条件で硬質皮膜の工具寿命を評価した。硬質皮膜の逃げ面摩耗幅は、倍率100倍の光学顕微鏡で観察することにより測定した。逃げ面の最大摩耗幅が0.350mmを超えたときの総切削長さに至る加工時間を工具寿命として5分単位で測定した。加工条件を以下に示す。試験結果を表3に示す。
被削材: S55C(30HRC)
加工方法: ミーリング加工
インサート形状: WDNW140520
切削速度: 150m/分
回転数: 毎分758回転
一刃当たりの送り: 2.05mm/tooth
送り速度: 1554mm/分
軸方向の切り込み量: 1.0mm
径方向の切り込み量: 40mm
切削方法: 乾式切削
Figure 0007250243000003
図1A、図1Bに、それぞれ、実施例1に係る物性評価用インサート(SNMN120408)のすくい面におけるSEM画像写真(倍率:10,000倍)、その模式図を示す。図1A、図1Bから、実施例1は基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合から構成されていることがわかる。ミクロ組織について、詳細は後述する。
図8に実施例1のX線回折パターンを示す。このX線回折パターンでは、WC基超硬合金基材のWCの回折ピークとともに、fcc構造の窒化アルミクロムニウム硬質皮膜の回折ピークが観察される。図8のX線回折パターンから、実施例1の窒化アルミクロムニウム硬質皮膜はfcc構造の単一構造を有することがわかる。図8のX線回折パターンから求めたX線回折強度比TC(hkl)を表4示す。また、同様に表5、表6に実施例2、実施例3のX線回折強度比TC(hkl)をそれぞれ示す。なお、表4~6において、X線回折強度比TC(422)は求めることができないため、「-」と表示した。
表4~表6にそれぞれ示すように、実施例1はX線回折強度比TC(311)が他のX線回折強度比に比べて最も大きい値になっていることを確認した。このことは、実施例1の工具寿命が他の実施例に比して長い理由であると推定される。一方、比較例1では、表7に示すように、X線回折強度比TC(311)が他のX線回折強度比に比べて最も大きい値とはなっていない。なお、表7において、X線回折強度比TC(422)は求めることができないため、「-」と表示した。
Figure 0007250243000004
Figure 0007250243000005
Figure 0007250243000006
Figure 0007250243000007
実施例1~7は、いずれも耐摩耗性および耐チッピング性が向上し優れた耐久性を示した。一方、比較例1~5は、いずれも早期に皮膜剥離が発生した。耐久性が乏しい比較例はいずれも、X線回折強度比TC(311)の値が1未満であった。一方、耐久性が優れる実施例は何れも皮膜組織が微細な柱状粒子の集合から構成された組織であり、X線回折強度比TC(311)の値が1.30以上となっていた。実施例のなかでも、X線回折強度比TC(311)の値が2以上のものは特に耐久性が特に優れる傾向にあった。また、TB/TAの値が大きくなると耐久性に優れる傾向にあった。
次に、実施例1の硬質皮膜について説明を加える。図2A、図2Bに、それぞれ、実施例1に係る硬質皮膜のTEM画像写真(倍率:200,000倍)、その概略模式線図を示す。
図2A、図2Bに示すように実施例1に係る硬質皮膜には、積層構造からなる部分と単層構造からなる部分を有する結晶粒子が確認された。
図3A、図3Bは、それぞれ、図1AのA部を拡大したTEM画像写真(倍率:2,000,000倍)、その概略模式線図である。図3Aおよび図3Bに示すように、実施例1に係る硬質皮膜は、より高倍率で観察したミクロ組織においても、積層構造からなる部分と単層構造からなる部分を有する結晶粒子を有していることが確認された。
図4は図3AのB部(単層構造)のナノビーム回折パターンを示す。図4に示すように単層構造からなる部分はfcc構造から構成されていた。
図5A、図5Bは、それぞれ、図3AのC部(積層構造)を拡大したTEM画像写真(倍率4,000,000倍)、その概略模式線図である。相対的に暗い相がAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物であり、相対的に明るい相がAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物であった。
図6に図5AのD部(積層構造)のナノビーム回折パターンを示す。また、図7に図5AのE部(積層構造)のナノビーム回折パターンを示す。図6および図7に示すように、積層構造の各層もfcc構造から構成されていることが確認された。
単層構造からなる部分は、Alの含有比率が60原子%以上90原子%以下であった。一方、積層構造からなる部分において、相対的にAlの含有比率が高いAlとCrの窒化物の部分は、Alの含有比率が60原子%以上95原子%以下であり、相対的にAlの含有比率が低いAlとCrの窒化物の部分は、Alの含有比率が20原子%以上50原子%以下であった。積層構造からなる部分の全体としては、単層構造からなる部分よりもAlの含有比率が低くなっていた。
本発明の実施例1に係る硬質皮膜のミクロ組織は、相対的にAlの含有比率が高い単層構造の部分と、相対的にAlの含有比率が低い積層部分を有する結晶粒子が組織中に分散していた。
前記開示した実施の形態はすべての点で例示にすぎず、制限的なものではない。本発明の範囲は前記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の被覆工具は優れた耐久性を有することから、切削工具やプレス加工や鍛造用金型等の金型にも用いることができる。また、ダイカスト鋳抜きピン、入子、各種機械を構成する摺動部品にも適用することができる。
1:化学蒸着装置(CVD炉)
2:チャンバー
3:ヒータ
4:インサート設置板
5:反応容器
5a:反応容器の開口部
6:予熱チャンバー(予熱部)
61:予熱室
62:塩化Crガス発生室
63:混合室
7:パイプ(ガス放出部)
83a、83b、91a、91b、92a、93a:ノズル穴(ガス噴出口)
81:混合ガスa2のガス流路
82:混合ガスa1となる混合ガスのガス流路
84:混合ガスのガス流路
91:混合ガスBのガス流路
92:混合ガスのガス流路
93:混合ガスのガス流路
10:排気パイプ
11:接続流路
12:成膜中回転部
13a:予熱チャンバー内の混合ガスBのガス流路
13b:接続流路内の混合ガスBのガス流路(縦方向)
13c:接続流路内の混合ガスBのガス流路(回転軸方向)
20:インサート基材
30:硬質皮膜(AlCrN皮膜)
31:積層部分
32:単層部分
40:TEM観察時の樹脂

Claims (7)

  1. 基材の表面に硬質皮膜を有する被覆工具であって、
    前記硬質皮膜は化学蒸着膜であり、半金属を含む金属元素の総量に対して、平均含有割合として、Alが50原子%以上、Crが10原子%以上、AlとCrの合計の含有比率が90原子%以上の窒化物または炭窒化物であり、
    前記硬質皮膜は、X線回折においてfcc構造に起因する(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面および(422)面の少なくとも9面のピーク強度のいずれかが最大強度を示すfcc構造が主体の結晶構造であり、
    前記基材の表面に対して膜厚方向に成長した柱状粒子の集合から構成され、
    前記硬質皮膜は、
    TC(hkl)={I(hkl)/I (hkl)}/[Σ{I(hkl)/I (hkl)}/8]
    ただし、
    I(hkl):実測した窒化アルミクロムニウム、炭窒化アルミクロムニウム硬質皮膜の(hkl)面のX線回折強度であり、
    (hkl):ICDD(International Center for Dffraction Data)ファイル番号00-025-1495に記載の窒化アルミニウムの(hkl)面の標準X線回折強度で、
    Σは、次の8面である、(hkl)=(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面および(420)面のI(hkl)/I (hkl)の和である、
    により定義される(hkl)面におけるX線回折強度比TC(hkl)であって、
    前記(hkl)面が(311)面におけるX線回折強度比TC(311)の値が1.30以上であり、
    前記基材と前記硬質皮膜の間にTiの窒化物または炭窒化物を含む中間皮膜を設けることを特徴とする被覆工具。
  2. 前記X線回折強度比TC(311)が2.00以上であること特徴とする請求項1に記載の被覆工具。
  3. 前記X線回折強度比TC(311)が、X線回折強度比TC(hkl)(但し、(hkl)面は、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面および(420)面。)よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の被覆工具。
  4. 前記X線回折強度比TC(420)およびTC(200)の値が1.00未満であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の被覆工具。
  5. 前記硬質皮膜は、X線回折におけるfcc構造の総ピーク強度をTA、(422)面に起因するピーク強度をTBとした場合、TB/TAの値が0.050以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の被覆工具。
  6. 前記柱状粒子の表面側における平均幅が0.1μm以上2.0μm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の被覆工具。
  7. 前記硬質皮膜は、透過型電子顕微鏡を用いたミクロ組織において、相対的にAlの含有比率が高い単層構造の部分と、相対的にAlの含有比率が低い積層構造の部分を有する結晶粒子が分散していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の被覆工具。
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