JP3373590B2 - 摺動部材 - Google Patents

摺動部材

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【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、摺動部に硬質皮膜を有
する、自動車部品やコンプレッサー部品などの機械部品
に用いられる摺動部材に関し、更に詳しく述べるなら
ば、チタンを主たる金属成分としさらに1種または2種
以上の金属元素と窒素及び酸素からなる皮膜を被覆した
摺動部材に関するものである。 【0002】 【従来の技術】自動車の内燃機関やコンプレッサーなど
の高回転化、高出力化等により機械部品などの摺動部
は、益々過酷な条件下での耐摩耗性、耐焼付性といった
摺動特性の向上が期待されている。また切削工具におい
ても切削速度増大により同様に摺動特性の向上が期待さ
れている。従来より摺動特性改善策として、硬質クロム
めっきによる耐摩耗性の改善、窒化またはモリブデン溶
射による耐焼付性の向上などの表面処理が挙げられる。 【0003】しかしながら、これらの方法では摺動材料
としての十分な摺動特性が得られず、最近物理的気相蒸
着(PVD)法あるいは化学気相析出(CVD)法によ
り化学的にも比較的安定なCr−N系、Ti−N系硬質
皮膜を作製する方法が検討されている。ところがCr−
N系皮膜は、皮膜硬度が比較的低いため、皮膜の摩耗が
起こりやすく、この点の改良は試みられているもののい
まだ十分な摺動特性は得られていない。 【0004】そこで、さらに皮膜硬さが高く、摺動特性
に優れた皮膜の開発が望まれ、Ti−N系皮膜が注目さ
れている。しかしながらTi−N系皮膜は、機械部品な
どの摺動部材として利用する場合には皮膜硬さが高すぎ
て相手材を摩耗させてしまうという欠点があり、また皮
膜と接する相手材との「初期なじみ」が悪い欠点もあ
る。ここで「初期なじみ」とは、機械加工または成膜自
体に起因する粗さをもつ摺動部材の表面が摺動開始後の
短時間の内に相手材と摺動接触し表面が微小且つ平滑に
摩耗する結果、接触面積を増加させることにより接触面
圧を低減させて、潤滑油膜切れを起こし難くし、以って
摩耗や焼き付きの発生を防ぐ性能である。Ti−N系皮
膜のような皮膜硬さの高すぎる皮膜を被覆した摺動部材
は、初期なじみが悪いことにより、摺動初期において摩
耗や焼付現象を起こしやすいという問題があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の点に
鑑みて、Tiを主たる金属成分とする皮膜を被覆した摺
動材料において、耐摩耗性および耐焼付性等の摺動特性
に優れ、初期なじみが良好な硬質皮膜を被覆することに
より上記の問題を解決することを目的とする。さらに、
本出願人は上記の問題点を解決するために特願平5−1
20061号において、チタン、M群(M;クロム、バ
ナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニ
ウム、タンタル、タングステン及びアルミニウムから選
択された1種または2種以上の金属元素)、及び窒素か
らなり、金属元素の組成比が原子%比でM/(Ti+
M)=1〜45%である皮膜を被覆した摺動部材を提案
したが、この発明においてはさらに上記の摺動特性を改
良するとともに相手材の摩耗を少なくすることを目的と
する。 【0006】 【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明に係
わる摺動部材は、チタン、M群(M;クロム、バナジウ
ム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、
タンタル及びタングステンから選択された1種または2
種以上の金属元素)、窒素及び酸素からなり、金属元素
の組成比が原子%比でM/(Ti+M)=1〜45%で
あり、かつガス元素の組成比が原子%比でO/(N+
O)=5〜80%である皮膜を基体に被覆したことを特
徴とする。この皮膜は、TiNにM群の元素及び酸素を
添加することにより、皮膜の硬さ自体はTiN皮膜より
も低いにもかかわらず、耐摩耗性及び耐焼付性並びに初
期なじみ性をTiN皮膜よりも良好にしたものである。
M群の元素及び酸素の作用について述べると、(イ)何
れもTiN皮膜の硬度を低下させるが、後者の方が硬度
低下の割合が大であり、(ロ)前者はTiN皮膜の摩擦
係数をやや増加させるものの、後者はこれを大幅に減少
させ、(ハ)何れもTiN皮膜のオイル中での腐食によ
る減量を抑制するが、前者の方が抑制程度が大である。
このような物性に対する影響でM群の元素と酸素は異な
るので、それぞれ別の群に分け、またCr,V,Zr,
Nb,Mo,Hf,Ta,Wはいずれも上記の点で共通
であるので、一つの群に含めることとした。 【0007】ここでM/(Ti+M)の金属元素組成比
が1%未満であると初期なじみ向上の効果が少なく、一
方45%を超えると耐焼付性の向上が図れないために、
金属元素組成比は1〜45%の範囲とした。ガス元素の
組成比O/(N+O)が5%未満であると相手材の摩耗
が多くなり、一方80%を越えると皮膜自体の摩耗が多
くなり摺動特性の向上は図れなかった。 【0008】基体としてはFe系、Al系、Ti系等の
各種材料を使用することができる。Ti−M−N−O系
皮膜の厚さは特に制限が無いが、1〜50μmの範囲内
であることが好ましい。同じく皮膜粗さはRaで1μm
以下であることが好ましい。 【0009】さらに、相手材としては特に制限がなく鋳
鉄もしくは鋼材、Crめっきを施したこれらの材料、溶
射皮膜付材料などが使用可能である。また、本発明の皮
膜は十分に清浄化された基体上にPVD又はCVD好ま
しくはPVDで成膜されるものである。 【0010】 【作用】TiN皮膜は初期なじみ性が悪く、一方CrN
系皮膜は耐摩耗性が悪いために、いずれも焼き付きを起
こしやすいが、Tiと他の金属元素M並びにN及びOを
共存させたTi−M−N−O系皮膜とすることにより焼
付が発生し難くなった。また初期なじみが良好になるこ
とによりなじみが実現した以降の摩耗は少なくなり、さ
らに相手材の摩耗も著しく減少した。以下、金属元素
(M)としてVを選んだ実施例により本発明を詳しく説
明する。 【0011】 【実施例】本実施例で使用した皮膜形成の基体は高クロ
ム鋼(JIS規格SUJ−2)である。基体はあらかじ
めフロン液中で超音波洗浄を行い、鏡面仕上げされた基
体表面に以下に説明する手順で陰極アークプラズマ式イ
オンプレーティングによりTi−N系硬質皮膜(比較
例)、Ti−V−N系硬質皮膜(比較例)及びTi−V
−N−O系硬質皮膜(実施例)を形成した。 【0012】超音波洗浄された基体をイオンプレーティ
ング装置の真空容器(チャンバ)内に取り付け、続いて
チャンバ内圧力が1.3×10-3Pa(パスカル)とな
るまで真空引きを行った。この真空度が達成された時点
から、チャンバ内に内蔵されているヒーターにより基体
を300〜600℃まで加熱して、基体表面に付着ある
いは吸着しているガス成分を放出させ、その後200℃
まで冷却した。 【0013】チャンバ内圧力が4×10-3Pa以下とな
った時点で、陰極とした各種組成のTi−V合金ターゲ
ットの表面でアーク放電を発生させ、TiおよびVの大
部分がイオン化された状態でターゲット表面から飛出さ
せた。 【0014】この時基体を装着した治具には−700〜
−1000Vのバイアス電圧を印加しておき、ターゲッ
トから飛び出すイオン化したTiおよびVを基体と治具
の表面に吸引し、さらにこれらのイオンを高速で被処理
面に衝突させた。このようなイオン化した金属の衝突に
より被処理面の酸化物などを削るいわゆるスパッタクリ
ーニングにより基体表面の活性化処理を行った。 【0015】その後、アーク放電が起こっているチャン
バ中に少量の窒素ガスを導入することにより一部のイオ
ン化したTiおよびVは、窒素ガスと結合し基体表面に
窒化物皮膜となって析出した。その後、さらに窒素ガス
流量を増やし所定のガス元素の組成比となる流量の酸素
ガスを導入して0.7〜4.0Pa程度の圧力とし、ま
た0〜−100Vのバイアス電圧を基体に印加して基体
表面にTi−V−N−O系硬質皮膜を1〜50μmの厚
さに形成させた。なお、比較例のTi−V−N皮膜形成
の場合は酸素ガスの導入をせずに同様に成膜を行った。
所定膜厚形成後、チャンバ内温度が150℃以下になる
まで冷却してから、膜被覆された基体をチャンバ外に取
り出した。皮膜の硬度はHv=1000〜2500の範
囲であった。 【0016】上記方法により得られた皮膜を用いて、摺
動試験を行った。 実施例2 ねずみ鋳鉄(FC25)を相手材としてピンオンディス
ク型摩擦試験機によりスカッフ試験を行った。スカッフ
試験条件は、以下の通りであった。 潤滑方法:モーターオイル#30、油温80℃、油量4
cc/sec 摩擦速度:8m/sec 接触荷重:初期2MPaから1MPaごとに焼付まで増
加させる。 摩擦時間:各荷重で180sec保持 表1にスカッフ試験結果を示す。 【0017】 【表1】 No V(Ti +V)-1 O(N +O )-1 スカッフ値 本 1 Ti−V −N −O 13 20 1.9 発 2 Ti−V −N −O 45 20 2.0 明 3 Ti−V −N −O 45 70 2.2 比 1 Ti−V −N 45 0 1.8 較 2 Ti−N 0 0 1.0 スカッフ値は、比較対象であるTi−Nを1.0とした時の値である。 【0018】本発明によるNo.1,2および3のTi
−V−N−O系皮膜は、皮膜中の金属元素に対するV原
子%(以後、単に「V原子%」と称す)がそれぞれ1
3、45および45%であり、皮膜中の窒素原子と酸素
原子の和に対する酸素原子%(以後、単に「酸素原子
%」と称する)がそれぞれ、20、20および70%で
ある。 【0019】皮膜中のV原子%と酸素原子%が皮膜の特
性に及ぼす影響を調べた。比較例としてVを含まないT
i−N系皮膜について同じ条件でスカッフ試験を行い得
られたスカッフ値(焼付面圧)1.0に対して、本発明
のNo.1、2及び3のTi−V−N−O系皮膜ではス
カッフ値が約2倍以上向上した。さらに、No.2とN
o.3のTi−V−N−O系皮膜を比較すると、酸素原
子%が大きいNo.3が高いスカッフ値を示した。 【0020】実施例3 ピン−ドラム式摩耗試験機により、ドラムにねずみ鋳鉄
(FC25)を用いて摩耗試験を行った。摩耗試験条件
は以下の通りであった。 潤滑方法:モーターオイル#30、油温80℃、油量8
cc/sec ドラム回転速度:5m/sec 接触荷重:1.5MPa 試験時間:30ksec 表2に摩耗試験結果を示す。 【0021】 【表2】 ピン ドラム No V(Ti +V)-1 O(N +O )-1 摩耗量 摩耗量 本 1 Ti−V −N −O 13 20 0.8 0.5 発 2 Ti−V −N −O 45 20 0.9 0.4 明 3 Ti−V −N −O 45 70 0.9 0.3 比 1 Ti−V −N 45 0 0.9 0.6 較 2 Ti−N 0 0 1.0 1.0 スカッフ値は、比較対象であるTi−Nを1.0とした時の値である。 【0022】比較対象として、V及び酸素を含まないT
i−N系皮膜及び酸素を含まないTi−V−N系皮膜に
ついてTi−V−N−O系皮膜と同じ条件で摩耗試験を
行った。ここで、皮膜を被覆したピンの摩耗量は摩耗し
た接触面のドラム回転方向の幅、ドラムの摩耗量はドラ
ムの摩耗深さより求めた。Ti−N系皮膜の場合のピン
摩耗量及びドラム摩耗量をそれぞれ1.0としてそれぞ
れの特性を表2に示す。 【0023】本発明によるTi−V−N−0系皮膜は、
ピン摩耗量は比較例とほぼ同程度であり、一方ドラムの
摩耗量は比較例に比べ著しく低減している。特に、V原
子%が45%、酸素原子%が70%のTi−V−N−O
系皮膜(No.3)では、Ti−N系皮膜の約1/3,
Ti−V−N系皮膜の半分近い摩耗量に抑えられてい
る。 【0024】以上のスカッフ試験および摩耗試験の結果
から、Ti−N系皮膜及びTi−V−N系皮膜に比べT
i−V−N−O系皮膜は、耐焼付性に優れ、初期なじみ
が良好で、摺動部相手材の摩耗を抑えられる皮膜である
ことがわかった。 【0025】 【発明の効果】以上のように、摺動面に主たる金属成分
であるTi,他の金属元素、窒素及び酸素からなる皮膜
を被覆することにより、相手材を摩耗させることがな
く、初期なじみが良好で、耐摩耗性および耐焼付性等の
摺動特性に優れた摺動部材が得られる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI C10N 30:06 C10N 30:06 30:08 30:08 40:02 40:02 50:08 50:08 (56)参考文献 特開 平6−145958(JP,A) 特開 昭59−118879(JP,A) 特開 昭61−294659(JP,A) 特開 昭63−186032(JP,A) 特開 平2−88696(JP,A) 特開 平3−188261(JP,A) 特開 平2−47253(JP,A) 特開 平3−229882(JP,A) 特許3256024(JP,B2) 特公 平7−74429(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C10M 103/06 C10N 10:06 - 10:12 C10N 30:06 - 30:08 C10N 40:02 C10N 50:08 F16C 33/12 C23C 14/06 - 14/08 C23C 26/00

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 チタン、M群(M;クロム、バナジウ
    ム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、
    タンタル及びタングステンから選択された1種または2
    種以上の金属元素)、窒素及び酸素からなり、金属元素
    の組成比が原子%比でM/(Ti+M)=1〜45%で
    あり、かつガス元素の組成比が原子%比O/(N+O)
    =5〜80%である皮膜を基体に被覆したことを特徴と
    する摺動部材。
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