本発明は、気筒内へ直接燃料を噴射するレシプロ式の内燃機関に関し、さらに詳しくは、気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる内燃機関及び内燃機関の運転制御装置、並びに内燃機関の運転制御方法に関する。
気筒内に直接燃料を噴射して点火する、いわゆる直噴の内燃機関は、圧縮行程中に直接燃料を噴射して、点火プラグ付近に燃料噴霧をとどめて着火しやすい混合気を形成し、その周りの空気層と分離、すなわち成層化する。この状態で点火プラグ付近の混合気に点火して燃焼させ、いわゆる成層燃焼の下で運転することで、超希薄燃焼運転を実現できる。これにより、内燃機関の燃費を向上させるとともに、CO2の排出量を低減させることができる。
また、直噴の内燃機関は、吸入行程中に気筒内へ直接燃料を噴射して気筒内へ燃料を拡散させ、均質の混合気を形成して燃焼させる、いわゆる均質燃焼の下で運転することもできる。均質燃焼領域では、吸入行程中に気筒内へ直接噴射した燃料の気化熱によって吸入空気をより冷却できるので、充填効率を高めることができる。これにより、直噴の内燃機関の均質燃焼領域における運転では高出力を得ることもできる。このような利点から、近年、直噴の火花点火式内燃機関が注目されており、実用化されている。
直噴の内燃機関は、気筒内へ燃料を噴射する燃料噴射弁を備えており、この燃料噴射弁の燃料噴射孔は燃焼室内へ開口している。そして、内燃機関の運転中においては、燃料噴射弁の燃料噴射孔付近が高温の燃焼ガスにさらされるので、燃料噴射孔の近傍にはカーボンが堆積する。その結果、燃料噴射弁から噴射される燃料の流量低下、燃料噴霧形状の悪化という問題が発生することがある。この問題を解決するため、例えば特許文献1には、燃料噴射弁先端部分の外周にシール部材を設けるとともに、このシール部材の周囲を覆うようにウォータージャケットを設けて、燃料噴射弁の先端の熱をウォータージャケットへ逃がす燃料噴射弁の取付構造が開示されている。
しかしながら、燃料噴射弁は内燃機関の気筒内、すなわち燃焼室内へ燃料を噴射する必要上、燃焼室近傍へ取り付けられるので、ウォータージャケットも燃焼近傍に設けられる。かかる構成では、燃料噴射弁からの熱とともに燃焼室の熱もこのウォータージャケットへ流入することになる。特許文献1に係る燃料噴射弁の取付構造では、より燃焼室の方を冷却してしまうため、燃料噴射弁の温度上昇を十分に抑制することはできなかった。そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる内燃機関及び内燃機関の運転制御装置、並びに内燃機関の運転制御方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る内燃機関では、ピストンの往復運動を出力として取り出すレシプロ式の内燃機関であって、燃料分配手段から燃料が供給されて、前記ピストンが往復運動する気筒の内部へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が取り付けられるとともに、前記燃料噴射弁の周囲は前記燃料噴射弁の軸方向に対して分割され、かつ分割された部分の間には断熱部が形成されるシリンダヘッドと、を備えることを特徴とする。
この内燃機関は、燃料噴射弁の周囲におけるシリンダヘッドを分割して、分割された部分の間には断熱部を設けているので、内燃機関の燃焼室側からシリンダヘッドに伝わる熱を低減できる。その結果、燃料噴射弁からシリンダヘッドに伝わる熱量が多くなるので、効率的に燃料噴射弁を冷却して、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる。
次の本発明に係る内燃機関は、前記内燃機関において、前記シリンダヘッド内における前記燃料噴射弁の周囲であって、前記断熱部よりも前記燃料噴射弁の燃料供給孔側には、前記燃料噴射弁を冷却するための冷却媒体通路が形成されることを特徴とする。
この内燃機関は、燃料噴射弁の周囲におけるシリンダヘッドを分割して、分割された部分の間には断熱部を備えるとともに、燃料噴射弁の周囲に、これを冷却するための冷却媒体を循環させる冷却媒体通路が設けられる。このため、前記断熱部により、内燃機関の燃焼室側からシリンダヘッドに伝わる熱を低減できる。そして、シリンダヘッドから冷却媒体に伝わる熱が低減された分、冷却媒体によって効率的に燃料噴射弁を冷却して、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる。
次の本発明に係る内燃機関は、前記内燃機関において、前記燃料噴射弁の外周と前記シリンダヘッドとの間には、熱伝導材を介在させることを特徴とする。
この熱伝導材が、燃料噴射弁の熱を効率的にシリンダヘッドへ伝えるので、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる。
次の本発明に係る内燃機関は、前記内燃機関において、前記熱伝導材は液体金属であることを特徴とする。
燃料噴射弁の外周とシリンダヘッドとの間に介在する熱伝導材を液体金属とすることで、さらに効率よく燃料噴射弁の熱を効率的にシリンダヘッドへ伝えることができるので、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる。
次の本発明に係る内燃機関は、前記内燃機関において、前記燃料分配手段は、断熱材を介して前記内燃機関に取り付けられることを特徴とする。
このように、燃料噴射弁へ燃料を分配するデリバリパイプは、断熱材を介して内燃機関に取り付けられるので、内燃機関からデリバリパイプに伝わる熱を低減できる。その結果、デリバリパイプ内の燃料の温度上昇を抑制できるので、燃料噴射弁の昇温を効率的に抑制できる。
次の本発明に係る内燃機関の運転制御装置は、前記内燃機関を始動する際に用いるものであって、前記内燃機関を始動する場合、前記燃料噴射弁の温度を判定する始動判定部と、前記燃料噴射弁が所定の温度を超えている場合、前記内燃機関が運転を開始してから所定の期間は、前記燃料分配手段に燃料を供給する燃料供給手段から全量吐出させる吐出量変更部と、を含んで構成されることを特徴とする。
この内燃機関の運転制御装置は、内燃機関の始動時において、燃料噴射弁の温度が所定の温度を超えている場合には、燃料分配手段内の燃料を燃料タンクからの燃料に入れ替えることができる。これにより、温度の低い燃料を燃料噴射弁へ供給できるので、燃料噴射弁の昇温を効率的に抑制できる。
次の本発明に係る内燃機関の運転制御方法は、前記内燃機関を始動するにあたり、前記内燃機関を始動する場合、前記燃料噴射弁の温度を判定する手順と、前記燃料噴射弁が所定の温度を超えている場合、前記内燃機関が運転を開始してから所定の期間は、前記燃料分配手段に燃料を供給する燃料供給手段から全量吐出させる手順と、を含むことを特徴とする。
この内燃機関の運転制御方法は、内燃機関の始動時において、燃料噴射弁の温度が所定の温度を超えている場合には、燃料分配手段内の燃料を燃料タンクからの燃料に入れ替えるように制御できる。これにより、温度の低い燃料を燃料噴射弁へ供給できるので、燃料噴射弁の昇温を効率的に抑制できる。
本発明に係る内燃機関及び内燃機関の運転制御装置、並びに内燃機関の運転制御方法によれば、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できるという効果を奏する。
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、本発明は、気筒内へ直接燃料を噴射するレシプロ式の内燃機関であれば適用でき、直噴の火花点火式内燃機関の他、ディーゼル機関に対しても適用できる。また、特に乗用車やバス、あるいはトラック等の車両に搭載される内燃機関に対して好ましく適用できる。
この実施例に係る内燃機関は、筒内噴射式のレシプロ式内燃機関であって、次の点に特徴がある。すなわち、シリンダヘッドには気筒内へ燃料を噴射するための燃料噴射弁が取り付けられるとともに、前記燃料噴射弁の先端部周囲のシリンダヘッドは、前記燃料噴射弁の軸方向に対して分割されており、かつ分割された部分の間には断熱部が形成される。次に、この内燃機関の構造について説明する。
図1は、実施例1に係る内燃機関を示す断面図である。図1においては、便宜上、単気筒を取り出して説明するが、本発明は、単気筒の内燃機関のみならず、多気筒の内燃機関に対しても適用できる。この内燃機関1は、火花点火式のレシプロ式内燃機関であり、気筒1sの燃焼室1b内へ直接燃料を噴射して混合気を形成する。内燃機関1の気筒1s内にはピストン5が配置されており、混合気の燃焼により往復運動する。点火プラグ7側における気筒1sの開口部には、ヘッドガスケット8を介してシリンダヘッド2が取り付けられる。シリンダヘッド2には、気筒1s内の燃焼室1bへ燃料を噴射する燃料噴射弁3と、点火プラグ7とが取り付けられている。
燃料噴射弁3の周囲には、これを冷却するための冷却媒体を循環させる冷却媒体通路19が設けられている。また、燃料噴射弁3の先端部におけるシリンダヘッド2は分割された構造であり、分割された部分の間には、断熱部10が形成される。なお、これらの構成の詳細については後述する。
燃料噴射弁3には、燃料分配手段であるデリバリパイプ20から燃料が供給されて、気筒1s内の燃焼室1bへ直接燃料を噴射する。燃料噴射弁3によって気筒1s内へ直接噴射された燃料は、インテークマニホールド4iを通って気筒1s内へ導入された空気と混合気を形成する。なお、インテークマニホールド4i内へ燃料を噴射する、いわゆるポート噴射を併用する、いわゆるデュアル噴射式の内燃機関にも本発明は適用できる。
気筒1s内の燃焼室1bには、内燃機関1の負荷KLや機関回転数NEに応じた時期及び必要な量で、燃料噴射弁3から燃料が噴射される。燃料噴射弁3から燃焼室1bへ噴射された燃料は、インテークマニホールド4iから気筒1s内に導入される空気と混合気を形成し、点火プラグ7で着火されて燃焼する。混合気の燃焼圧力はピストン5に伝えられ、ピストン5を往復運動させる。ピストン5の往復運動はコネテクティングロッド9を介してクランク軸6に伝えられ、ここで回転運動に変換されて、内燃機関1の出力として取り出される。燃焼後の混合気は排ガスとなり、エキゾーストマニホールド4eから排出される。
内燃機関1の運転を制御するエンジンECU30(Electronic Control Unit)は、内燃機関1に取り付けられるクランク角センサ41、アクセル開度センサ42、エアフローセンサ43、水温センサ44その他の各種センサ類からの出力を取得して、内燃機関1の運転を制御する。
図2は、実施例1に係る内燃機関に用いることのできる燃料供給系統の一例を示す概念図である。燃料タンク26の燃料Fは、フェードポンプ21によって燃料供給管22を介して高圧燃料ポンプ23に送られる。高圧燃料ポンプ23は、内燃機関1のカムシャフト27によって駆動されて、燃料Fを燃料噴射弁3に必要な圧力まで昇圧させる。高圧燃料ポンプ23から送り出された燃料Fは、デリバリパイプ20へ送られて、各気筒1s内へ燃料を噴射するそれぞれの燃料噴射弁3へ分配される。
デリバリパイプ20にはリリーフ弁25が取り付けられている。デリバリパイプ20内の燃料が異常な高圧にならないように、デリバリパイプ20内の燃料圧力が設定圧力を超えた場合にはリリーフ弁25が開き、燃料リリーフ通路24を通して燃料Fを燃料タンク26へ戻す。エンジンECU30は、デリバリパイプ20に取り付けられる燃料圧力センサ45からデリバリパイプ20内の燃料圧力を取得する。そして、内燃機関1の運転条件に応じて燃料噴射弁3に供給する燃料の圧力を求め、当該圧力で燃料噴射弁3に燃料を供給できるように、高圧燃料ポンプ23を制御する。
図3−1は、実施例1に係る内燃機関の燃料噴射弁取付部分を示す断面図である。図3−2は、図3の矢印A方向から燃料噴射弁を見た正面図である。燃料噴射弁3は、シリンダヘッド2に設けられている燃料噴射弁取付孔2iへ挿入されて、シリンダヘッド2へ取り付けられる。このとき、燃料噴射弁3のフランジ3fがシリンダヘッド2に当接して、燃料噴射弁3の軸Zi方向の位置決めがなされる。そして、燃料噴射弁3の先端部3tに形成される燃料噴射孔3s(図3−2参照)から燃焼室1b内へ燃料が噴射される。
シリンダヘッド2の内部における燃料噴射弁3の周囲であって、断熱部10よりも燃料噴射弁3の燃料供給孔3i側には、燃料噴射弁3を冷却するための冷却媒体通路19が設けられている。この冷却媒体通路19内は、冷却媒体として、例えば内燃機関1の冷却水が循環させられている。そして、燃料噴射弁3の先端部3tから流入する燃焼ガスの熱は、燃料噴射弁3の胴部3bを通ってシリンダヘッド2へ伝熱し、冷却媒体通路19内の冷却水へ伝熱される。
燃料噴射弁3の胴部3bとシリンダヘッド2に形成される燃料噴射弁取付孔2iとの間には、熱伝導材18が介在しており、燃料噴射弁3の熱がシリンダヘッド2へ伝わりやすくなるように構成してある。熱伝導材18としては、例えばHgやNaK、あるいはNaを用いることができ、このような液体金属を燃料噴射弁3の胴部3bと燃料噴射弁取付孔2iとの間に封入し、シール材14で密封する。ここで、シール材14は、燃料噴射弁3の径方向、すなわち、燃料噴射弁3の軸Ziに直交する方向に対して変形することにより、熱伝導材18を密封するものである。シール材14としては、例えばフッ素樹脂のシール材を用いることができる。
燃料噴射弁3へ燃料を分配して供給するデリバリパイプ20は、内燃機関1のシリンダヘッド2あるいは機関本体へ取り付けられる。実施例1ではシリンダヘッド2へ取り付けられる。このとき、デリバリパイプ20とシリンダヘッドとの間には、断熱材を介在させる。この例では、デリバリパイプ20の台座20bに設けられたボルト孔22hにボルト16を入れて、台座20bをシリンダヘッド2へ締結することによりデリバリパイプを固定するが、その際にボルトと台座20bとの間に断熱材17を介在させる。断熱材17は、例えばセラミックや樹脂を用いることができる。
このように、断熱材を介してデリバリパイプを内燃機関1(ここでは内燃機関1のシリンダヘッド2)へ取り付けるので、内燃機関からデリバリパイプ20へ流入する熱を低減できる。これにより、デリバリパイプ20へ供給される燃料の温度上昇を抑制できるので、燃料噴射弁3に対しては、温度上昇が抑制された燃料を供給することができる。その結果、燃料噴射弁3の温度上昇を抑制できる。ここで、熱伝導材18を密封するシール材14は、燃料噴射弁3の径方向に対して変形するシール材である。燃料噴射弁3の軸方向に変形するシール材は、当該方向の軸力により変形させてシールする必要があるため、デリバリパイプ20を介してシール材に大きな軸力を作用させなければならず、デリバリパイプ20を大きな力で固定する必要があった。このため、断熱材17を介してデリバリパイプ20を固定することが難しかったが、実施例1においては燃料噴射弁3の径方向に変形するシール材14を使用するので、燃料噴射弁3の軸方向に対する力はほとんど必要ない。
図3−1に示すように、燃料噴射弁3の周囲(特に先端部3tの周囲)におけるシリンダヘッド2は、燃料噴射弁3の軸Zi方向に対して、第1部材2aと第2部材2bとに分割されている。そして、第1部材2aと第2部材2bとの間には断熱部10が形成される。この例においては、例えば樹脂、フッ素系樹脂、セラミック、Ti(チタン)合金のような断熱材料のガスケットを第1部材2aと第2部材2bとの間に介在させて、断熱部10を構成している。燃料噴射弁3の軸Zi方向における断熱部10の厚さは、断熱部10を構成する断熱手段によって適宜変更することができる。
次に、燃料噴射弁3の軸Ziを中心とした場合における、断熱部10を形成する範囲について説明する。図3−2に示すように、断熱部10は、燃料噴射弁3の軸Ziを中心とした場合に、燃料噴射弁3の直径Diの1.5倍〜3倍の範囲に形成することが好ましい。すなわち、断熱部の直径をDgとすれば、1.5×Di≦Dg≦3.0Diとすることが好ましい。このような範囲で断熱部10を形成すれば、燃焼室1bからシリンダヘッド2を伝わって冷却媒体通路19内の冷却媒体へ伝わる熱を低減できる。その結果、燃料噴射弁3の熱を効率よく冷却媒体通路19内の冷却媒体へ伝えることができるので、燃料噴射弁3の温度上昇を効率よく抑制して、燃料噴射弁3を効率よく冷却することができる。
また、燃料噴射弁3の胴部3bと燃料噴射弁取付孔2iとの間には、熱伝導性の高い液体金属のような熱伝導材を介在させてあるので、さらに効率よく燃料噴射弁3の熱を冷却媒体通路19内の冷却媒体へ伝えることができる。これらの作用により、実施例1に係る内燃機関1では、燃料噴射弁3の温度上昇を抑制することにより燃料の気化を抑制して、デポジットの堆積を低減することができる。その結果、燃料噴射流量の低下や噴霧形状悪化を抑制して空燃比の狂いや燃焼性の低下を抑え、安定して内燃機関1を運転することができる。
図4−1、図4−2は、断熱部の他の例を示す断面図である。図4−1に示す例では、第1部材2aと第2部材2bとの間に空気層を介在させて断熱部11を構成する。このとき、断熱部11と燃料噴射弁取付孔2iとが連通しないように、第1部材2aと第2部材2bとの間にはガスケット11gを設ける。また、図4−2に示す例では、第1部材2aと第2部材2bとの間に形成される断熱部12へ、冷却媒体を循環させる構成である。このとき、断熱部12と燃料噴射弁取付孔2iとが連通しないように、第1部材2aと第2部材2bとの間にはガスケット12gを設ける。これらのような構成であっても、燃焼室1bからシリンダヘッド2を伝わって冷却媒体通路19内の冷却媒体へ伝わる熱を低減できる。その結果、燃料噴射弁3の熱を効率よく冷却媒体通路19内の冷却媒体へ伝えることができるので、燃料噴射弁3の温度上昇を抑制することができる。
ここで、熱伝導材18の封入手順を説明する。図5−1〜図5−3は、熱伝導材の封入手順を示す説明図である。まず、図3−1に示すように、燃料噴射弁3を燃料噴射弁取付孔2i内へ挿入する。ある程度の深さまで燃料噴射弁3を燃料噴射弁取付孔2i内へ挿入したら、図5−2に示すように、注入器48を用いて熱伝導材18を燃料噴射弁3と燃料噴射弁取付孔2iとの間へ注入する。そして、図5−3に示すように、燃料噴射弁3のフランジ3fがシリンダヘッド2へ当接するまで燃料噴射弁3を燃料噴射弁取付孔2i内へ挿入して、熱伝導材18の封入が完了する。ここで、内燃機関1の運転中においては、内燃機関1の振動により熱伝導材18が移動して、燃料噴射弁3から熱を奪うので、必ずしも燃料噴射弁3と燃料噴射弁取付孔2iとの空間に熱伝導材18を100%封入する必要はない。
以上、実施例1では、燃料噴射弁の先端部周囲におけるシリンダヘッドを分割して、分割された部分の間には断熱部を設けているので、燃焼室側からシリンダヘッドに伝わる熱を低減できる。その結果、燃料噴射弁からシリンダヘッドに伝わる熱量が多くなるので、効率的に燃料噴射弁を冷却して、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる。また、燃料噴射弁の外周とシリンダヘッドとの間には、液体金属その他の熱伝導材を介在させるので、燃料噴射弁からシリンダヘッドへ効率的に熱を伝えることができる。その結果、効率的に燃料噴射弁を冷却して、燃料噴射弁の温度上昇を効率的に抑制できる。さらに、燃料噴射弁へ燃料を分配するデリバリパイプは、断熱材を介して内燃機関に取り付けられるので、内燃機関からデリバリパイプに伝わる熱を低減できる。その結果、デリバリパイプ内の燃料の温度上昇を抑制できるので、燃料噴射弁の昇温を効率的に抑制できる。
図6は、この実施例に係る内燃機関の運転制御装置の構成を示す説明図である。図6を用いて、この実施例に係る内燃機関の運転制御装置50の構成を説明する。ここで、本発明の内燃機関の運転制御方法は、本発明の内燃機関の運転制御装置50によって実現できる。内燃機関の運転制御装置50は、エンジンECU30に組み込まれて構成されている。なお、エンジンECU30とは別個に、この実施例に係る内燃機関の運転制御装置50を用意し、これをエンジンECU30に接続してもよい。そして、この実施例に係る内燃機関の運転制御方法を実現するにあたっては、エンジンECU30が備える内燃機関1の制御機能を、前記内燃機関の運転制御装置50が利用できるように構成してもよい。
内燃機関の運転制御装置50は、温度判定部51と、吐出量変更部52と、始動判定部53とを含んで構成される。これらが、実施例2に係る内燃機関の運転制御方法を実行する部分となる。温度判定部51と、吐出量変更部52と、始動判定部53とは、内燃機関の運転制御装置50の入出力ポート(I/O)39を介して接続される。これにより、温度判定部51と、吐出量変更部52と、始動判定部53とは、それぞれ双方向でデータをやり取りできるように構成される。なお、装置構成上の必要に応じて片方向でデータを送受信するようにしてもよい(以下同様)。
内燃機関の運転制御装置50とエンジンECU30の運転制御部30pと記憶部30mとは、エンジンECU30に備えられる入出力ポート(I/O)39を介して接続されており、これらの間で相互にデータをやり取りすることができる。これにより、内燃機関の運転制御装置50はエンジンECU30が有する内燃機関1の負荷や機関回転数その他の内燃機関の運転制御データを取得したり、入出力ポート(I/O)39を介して内燃機関1の各種センサからの情報を取得したり、あるいは内燃機関の運転制御装置50の制御をエンジンECU30の内燃機関の運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
記憶部30mには、この実施例に係る内燃機関の運転制御方法の処理手順を含むコンピュータプログラムや、内燃機関1の運転制御に用いる燃料噴射量のデータマップ等が格納されている。ここで、記憶部30mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。また、内燃機関の運転制御装置50やエンジンECU30の運転制御部30pは、メモリ及びCPUにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、温度判定部51や吐出量変更部52等へすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、この実施例に係る内燃機関の運転制御方法の処理手順を実現できるものであってもよい。この内燃機関の運転制御装置50は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、温度判定部51、吐出量変更部52あるいは始動判定部53の機能を実現するものであってもよい。次に、この内燃機関の運転制御装置50を用いて、この実施例に係る内燃機関の運転制御方法を実現する手順を説明する。なお、この説明にあたっては、適宜図1、2、6を参照されたい。
図7は、デリバリパイプに供給する燃料の供給量を示す説明図である。図8は、実施例2に係る内燃機関の運転制御方法の手順を示すフローチャートである。図9は、目標燃圧決定用のマップ例を示す説明である。実施例2では、燃料噴射弁3の温度に応じて、デリバリパイプ20へ供給する燃料の供給量を変化させる点に特徴がある。実施例2においては、内燃機関1の機関回転数NEと負荷KLとの関係から燃料噴射弁3の温度を推定し、デリバリパイプ20へ供給する燃料の量を変化させるが、燃料噴射弁3の温度を直接測定したり、内燃機関1の排ガス温度から燃料噴射弁3の温度を推定したりしてもよい。
実施例2に係る内燃機関の運転制御方法を実行するにあたり、内燃機関の運転制御装置50の温度判定部51は、燃料噴射弁3の温度が所定の温度よりも高いか否かを判定する(ステップS101)。所定の温度は、燃料噴射弁3にデポジットが堆積したり、空燃比に狂いが発生したりする程度の高温である。より具体的には、内燃機関1が中負荷、中機関回転数(図7中Eで示す領域)の運転条件で運転されている場合に、燃料噴射弁3が所定の温度よりも高いと判定する。
高負荷、高回転数、あるいは高負荷かつ高回転数の運転条件である場合は、燃焼ガスの温度が高くなるが、デリバリパイプ20へ供給される燃料の量も多くなるため、燃料噴射弁3へは常に冷たい燃料が供給される結果、前記運転条件においては、燃料噴射弁3の温度上昇は小さい。しかし、内燃機関1の負荷や機関回転数がある程度大きい運転条件では、デリバリパイプ20へ供給される燃料の量は比較的少ないため、燃料噴射弁3へは温度上昇した燃料が供給されることになり、このような運転条件においては、燃料噴射弁3の温度上昇は大きくなる。したがって、内燃機関1が中負荷、中機関回転数の運転条件で運転されている場合に、燃料噴射弁3の温度上昇が大きいと判定する。
ここで、中回転の領域は、機関回転数がNE1〜NE2の範囲であり、より具体的には3000rpm(revolution per minute)〜5000rpm程度の範囲である。また、中負荷の領域は、内燃機関の負荷がKL1〜KL2の範囲であり、例えばアクセルを全開にしたときにおける内燃機関1の軸トルクを100%とした場合において、前記内燃機関1の軸トルクがアクセルの開度が30%〜80%程度の範囲をいう。
燃料噴射弁3の温度が所定の温度よりも低い場合(ステップS101;No)、エンジンECU30の記憶部30mに定められる通常の運転制御マップにしたがって燃圧を決定する(ステップS102)。例えば、図9に示すように、内燃機関1の機関回転数NEと負荷KLとに応じて、マップ上に規定された目標燃圧曲線から目標燃圧Pmiを決定する。そして、エンジンECUの運転制御部30pは高圧燃料ポンプ23の吐出Dutyを決定し、高圧燃料ポンプ23からデリバリパイプ20へ燃料を吐出させる(ステップS103)。
燃料噴射弁3の温度が所定の温度よりも高い場合(ステップS101;Yes)、燃料噴射弁3の温度を低下させるため、デリバリパイプ20に対して、それまでよりも多くの燃料を供給する。このため、内燃機関の運転制御装置50の吐出量変更部52は、高圧燃料ポンプ23から全量吐出させるように、吐出Duty=100%に決定し、この吐出Dutyで高圧燃料ポンプ23からデリバリパイプ20に対して燃料を吐出させる(ステップS104)。
ここで、吐出Dutyとは、高圧燃料ポンプ23の燃料吐出量を変更するパラメータであり、高圧燃料ポンプ23の燃料吐出量が全量吐出のときを100%としてある。実施例2で用いる高圧燃料ポンプ23は、吐出時間によって燃料吐出量が決定されるものであり、吐出Duty=100%として全量吐出させる場合は、高圧燃料ポンプ23が常に燃料を吐出している状態である。そして、吐出Duty値を変更することによって、高圧燃料ポンプ23の吐出量を制御することができる。
ここで、燃料噴射弁3が高温のまま内燃機関1の運転を停止し、再び内燃機関1を始動する場合には、燃料噴射弁3は高温のままであり、またデリバリパイプ20も温度上昇した状態である。かかる場合、高温の燃料噴射弁3へ温度の高い燃料が供給されることになるので、空燃比が狂いやすくなるとともに、燃料噴射弁3にはデポジットが堆積しやすい条件となる。このように、燃料噴射弁3が高温のときに内燃機関1を再始動する場合、内燃機関1の始動直後から所定の時間(例えば10秒程度)は、高圧燃料ポンプ23から燃料を全量吐出させる。そして、デリバリパイプ20内の燃料を、燃料タンク26から供給される温度の低い燃料に入れ替えてから、通常の運転マップにしたがって内燃機関を運転する。このようにすれば、燃料噴射弁の温度上昇を抑制できるので、正しい空燃比の下で内燃機関1を運転できるとともに、燃料噴射弁3に対するデポジットの堆積も抑制できる。
上記運転制御を実行するにあたっては、内燃機関の運転制御装置50の始動判定部53が、内燃機関1の運転停止前における運転条件を取得し、燃料噴射弁3が所定の温度を超えているか否かを判定する。所定の温度は、燃料噴射弁3にデポジットが堆積したり、空燃比に狂いが発生したりする程度の高温である。例えば、内燃機関1が高負荷、高回転数、あるいは高負荷かつ高回転数で運転されていた場合には、燃料噴射弁3が高温であると判定する。このとき、例えば、内燃機関1の運転停止から再始動までの時間や外気温を考慮して、外気温が所定温度以上で、かつ再始動までの時間が所定時間以内である場合には、燃料噴射弁3の温度は高温であると判定してもよい。
燃料噴射弁3が高温である場合には、吐出量変更部52が、内燃機関1の始動から所定の時間は高圧燃料ポンプ23から全量吐出させるように、吐出Duty=100%に決定し、この吐出Dutyで高圧燃料ポンプ23からデリバリパイプ20に対して燃料を吐出させる。これにより、デリバリパイプ20内の燃料は、燃料タンク26から供給される温度の低い燃料に置き換えられる。そして、この燃料が燃料噴射弁3へ供給されて、燃料噴射弁3の温度を低下させる。
以上、実施例2によれば、燃料噴射弁にデポジットが堆積したり、空燃比に狂いが発生したりする程度に燃料噴射弁が温度上昇している場合には、デリバリパイプ内の燃料を燃料タンクからの燃料に入れ替える。これにより、昇温したデリバリパイプ内の燃料は、温度の低い燃料に置き換えられ、この燃料が燃料噴射弁へ供給されるので、燃料噴射弁の昇温を抑制できる。
また、内燃機関の始動時において、燃料噴射弁にデポジットが堆積したり、空燃比に狂いが発生したりする程度に燃料噴射弁が温度上昇している場合には、デリバリパイプ内の燃料を燃料タンクからの燃料に入れ替える。これにより、温度の低い燃料が燃料噴射弁へ供給されるので、燃料噴射弁の昇温を効率的に抑制でき、空燃比の狂いを極めて小さくできる。
以上のように、本発明に係る内燃機関及び内燃機関の制御装置は、レシプロ式の内燃機関に有用であり、特に、気筒内へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁の温度上昇を抑制することに適している。
実施例1に係る内燃機関を示す断面図である。
この実施例に係る内燃機関が備える一つの気筒を示す断面図である。
実施例1に係る内燃機関の燃料噴射弁取付部分を示す断面図である。
図3の矢印A方向から燃料噴射弁を見た正面図である。
断熱部の他の例を示す断面図である。
断熱部の他の例を示す断面図である。
熱伝導材の封入手順を示す説明図である。
熱伝導材の封入手順を示す説明図である。
熱伝導材の封入手順を示す説明図である。
この実施例に係る内燃機関の運転制御装置の構成を示す説明図である。
デリバリパイプに供給する燃料の供給量を示す説明図である。
実施例2に係る内燃機関の運転制御方法の手順を示すフローチャートである。
目標燃圧決定用のマップ例を示す説明図である。
符号の説明
1 内燃機関
1s 気筒
2 シリンダヘッド
2i 燃料噴射弁取付孔
2a 第1部材
2b 第2部材
3 燃料噴射弁
10、11、12 断熱部
14 シール材
17 断熱材
18 熱伝導材
19 冷却媒体通路
20 デリバリパイプ
50 内燃機関の運転制御装置
51 温度判定部
52 吐出量変更部
53 始動判定部