一般に、自動制動による減速度制御を中断する際の制動力の漸減度合が同一であっても、車速によって車輌の乗員が感じる減速度抜け(減速度の低下感)が相違し、車速が低いほど車輌の乗員が減速度抜けを感じ易い。即ち、高車速域に於いて自動制動による減速度制御が中断される場合には、制動力が解除されてもエンジンブレーキによる惰行減速状態になり、乗員は減速度が低下したと感じるが、低車速域に於いて自動制動による減速度制御が中断される場合には、エンジンブレーキ効果が低いため、減速度抜けを感じ、特に先行車輌との間隔が小さい場合には乗員は自車が加速していると錯覚することがある。
しかるに上述の如き従来の減速度制御装置に於いては、制動力や減速度が漸減されるが、漸減度合は減速度制御が中断又は終了される際の車速に関係なく設定されるので、低車速域に於いて乗員が減速度抜けを感じ易いという問題があり、この問題を回避すべく漸減度合が小さく設定されると、高車速域に於いて減速度制御の中断が完了するまでに要する時間が長くなり過ぎるという問題がある。尚上述の特許文献2に記載された減速度制御装置に於いては、車速の変化或いは時間の経過に応じて減速度が徐々に低下されるが、減速度の低下開始時の低下度合は車速に関係なく一定であり、従って上述の問題を解消することができない。
本発明は、減速度制御が中断又は終了される際に制動力や減速度が漸減されるよう構成された従来の減速度制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、減速度制御を中断する際にはその時点の車速に応じて制動力の低下度合を可変設定することにより、高車速域に於いて減速度制御の中断が完了するまでに要する時間が長くなり過ぎることを回避しつつ、低車速域に於いて乗員が異和感や減速度抜けを感じることを効果的に防止することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち自車と車輌前方物体との相対的位置関係に基づき自動減速の必要性を判定し、自動減速の必要性があるときには制動力の自動制御により車輌を自動減速させる車輌の減速度制御装置に於いて、自動減速の中断の必要性を判定し、自動減速の中断の必要性があると判定したときには、その時点の自車の車速に応じて制動力の目標低下度合を決定し、該目標低下度合に従って制動力を低下させることを特徴とする車輌の減速度制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、制動力の目標低下度合は自車の車速が低いときには自車の車速が高いときに比して小さいよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、制動力の目標低下勾配若しくは制動力の目標低下時間を決定することにより制動力の目標低下度合を決定するよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、運転者により車輌の加減速操作が行われたとき、前記相対的位置関係に基づく自動減速を正常に行うことができなくなったとき、車輌前方物体が自車の前方より逸れたときに自動減速の中断の必要性があると判定するよう構成される(請求項4の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4の構成に於いて、運転者により車輌の加速操作が行われたときには、他の要因による自動減速の中断の必要性が生じた場合に比して、制動力の目標低下度合を大きくするよう構成される(請求項5の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4の構成に於いて、運転者により車輌の減速操作が行われたときには、他の要因による自動減速の中断の必要性が生じた場合に比して、制動力の目標低下度合を小さくするよう構成される(請求項6の構成)。
上記請求項1の構成によれば、自動減速の中断の必要性が判定され、自動減速の中断の必要性があると判定されたときには、その時点の自車の車速に応じて制動力の目標低下度合が決定され、該目標低下度合に従って制動力が低下されるので、自動減速の中断の必要性が生じ自動減速の中断が開始される際の自車の車速に応じて制動力の低下度合を最適に設定することができ、これにより減速度制御の中断が完了するまでに要する時間が長くなり過ぎることを回避しつつ、乗員が異和感や減速度抜けを感じることを効果的に防止することができる。
また上記請求項2の構成によれば、制動力の目標低下度合は自車の車速が低いときには自車の車速が高いときに比して小さいので、高車速域に於いて減速度制御の中断が完了するまでに要する時間が長くなり過ぎることを回避しつつ、低車速域に於いて乗員が異和感や減速度抜けを感じることを効果的に防止することができる。
また上記請求項3の構成によれば、制動力の目標低下勾配若しくは制動力の目標低下時間を決定することにより制動力の目標低下度合が決定されるので、自車の車速に応じて制動力の低下度合を確実に最適に設定することができる。
また上記請求項4の構成によれば、運転者により車輌の加減速操作が行われたとき、相対的位置関係に基づく自動減速を正常に行うことができなくなったとき、車輌前方物体が自車の前方より逸れたときに自動減速の中断の必要性があると判定されるので、自動減速を中断すべき状況及び自動減速を継続することができない状況に於いて確実に自動減速を中断し、自動減速が不必要に継続されることを確実に防止することができる。
また上記請求項5の構成によれば、運転者により車輌の加速操作が行われたときには、他の要因による自動減速の中断の必要性が生じた場合に比して、制動力の目標低下度合が大きくされるので、他の要因による自動減速の中断の必要性が生じた場合に乗員が異和感や減速度抜けを感じることを効果的に防止しつつ、運転者により車輌の加速操作が行われた場合に運転者が加速不足や加速遅れを感じることを効果的に防止することができる。
また上記請求項6の構成によれば、運転者により車輌の減速操作が行われたときには、他の要因による自動減速の中断の必要性が生じた場合に比して、制動力の目標低下度合が小さくされるので、他の要因による自動減速の中断の必要性が生じた場合に乗員が異和感や減速度抜けを感じることを効果的に防止しつつ、運転者により車輌の減速操作が行われた場合に運転者の制動要求を早期に充足させることができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、自車と車輌前方物体との相対的位置関係は自車と車輌前方物体との間の相対距離及び相対速度であるよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1構成に於いて、前記相対的位置関係に基づき自車の目標減速度を演算し、自車の減速度が目標減速度になるよう各車輪の制動力を制御するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、制動力の目標低下度合は制動力の自動制御の完了時に於ける制動力の低下度合よりも小さいよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、制動力の目標低下度合は制動力の自動制御の中断が完了するまで一定に維持されるよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2の構成に於いて、制動力の目標低下度合は自車の車速が低いほど小さく設定されるよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、制動力の目標低下勾配は自車の車速が低いときには自車の車速が高いときに比して小さい値に設定されるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、制動力の目標低下時間は自車の車速が低いときには自車の車速が高いときに比して長い値に設定されるよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、自車に対する車輌前方物体の相対的位置関係を正常に検出することができなくなったときに、前記相対的位置関係に基づく自動減速を正常に行うことができなくなったと判定するよう構成される(好ましい態様8)。
図1は本発明による車輌の減速度制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ駆動輪である左右の後輪を示している。従動輪であり操舵輪でもある左右の前輪10FL及び10FRは図1には示されていないが運転者によるステアリングホイールの転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置によりタイロッドを介して操舵される。
各車輪の制動力は制動装置20の油圧回路22によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路22はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ28により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置30により制御される。
車輌12には例えばミリ波の如き電波やレーザ光を利用して先行車輌を検出すると共に自車に対する先行車輌の相対距離Lre及び相対速度Vreを検出するレーダーセンサ32が設けられている。また車輌12には車速Vを検出する車速センサ34、車輌の前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ36、マスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ38、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度φとして検出するアクセル開度センサ40が設けられている。更に各ホイールシリンダ24FR〜24RLにはその圧力Pbi(i=fl、fr、rl、rr)を各車輪の制動圧として検出する圧力センサ42i(i=fl、fr、rl、rr)が設けられている。尚自車に対する先行車輌の相対速度Vreは、先行車輌及び自車の車速をそれぞれVf、Vsとすると、Vf−Vsである。
図示の如く、レーダーセンサ32により検出された相対距離Lre及び相対速度Vreを示す信号、車速センサ34により検出された車速Vを示す信号、前後加速度センサ36により検出された車輌の前後加速度Gxを示す信号、圧力センサ38により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号、アクセル開度センサ40により検出されたアクセル開度φを示す信号、圧力センサ42iにより検出された各車輪の制動圧Pbiを示す信号は電子制御装置30へ入力される。
尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置30は例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいる。
電子制御装置30は、図2に示されたフローチャートに従い、レーダーセンサ34よりの信号に基づき自車前方に先行車輌が存在するか否かを判定し、先行車輌が存在するときには相対距離Lre及び相対速度Vreに基づき先行車輌に対する接近余裕度|Lre/Vre|を求め、接近余裕度に基づき自動制動制御の開始条件が成立しているか否かの判定、即ち接近余裕度を正常に求めることができ且つ運転者により加速操作及び制動操作が行われていない状況に於いて、接近余裕度が低く先行車輌に対し安全な相対距離及び相対速度を確保するために自動制動による制動力の付与の必要性があるか否かの判定を行い、自動制動制御の開始条件が成立したと判定されたときには相対距離Lre及び相対速度Vreに基づき車輌の目標減速度Gxbtを演算し、車輌の減速度Gxbが目標減速度Gxbtになるよう自動制動による制動力の付与により車輌を減速させる。
また電子制御装置30は、自動制動による制動力の付与の実行中には、接近余裕度|Lre/Vre|に基づき自動制動制御の終了条件が成立しているか否かの判定、即ち接近余裕度が高く自動制動による制動力の付与を終了させる必要があるか否かの判定を行い、自動制動制御の終了条件が成立したと判定されたときには、各車輪の制動力を漸減させて自動制動による制動力の付与を終了させる。
更に電子制御装置30は、自動制動制御の終了条件の成立判定に先立ち、自動制動制御の中断条件が成立しているか否かの判定を行い、自動制動制御の中断条件が成立したと判定されたときには、その時点の自車の車速Vが低いほど小さくなるよう制動力の目標低下勾配を演算し、該目標低下勾配にて各車輪の制動力を漸減させて自動制動による制動力の付与を終了させる。
特に電子制御装置30は、フローチャートとしては示されていないが、当技術分野に於いて公知の要領にてレーダーセンサ34等が正常に動作し接近余裕度を正常に求めることができるか否かを常時監視し、運転者により加速操作又は制動操作が行われたとき及び接近余裕度を正常に求めることができなくなったときに、自動制動制御の中断条件が成立したと判定する。
そして電子制御装置30は、少なくとも車速Vが低い領域について見て、接近余裕度を正常に求めることができなくなったと判定したときには、制動力の目標低下勾配を自動制動制御の終了条件が成立した場合の制動力の低下勾配に比して小さい値に設定し、運転者により加速操作が行われたと判定したときには、制動力の目標低下勾配を接近余裕度を正常に求めることができなくなった場合の制動力の低下勾配に比して大きい値に設定し、運転者により制動操作が行われたと判定したときには、制動力の目標低下勾配を接近余裕度を正常に求めることができなくなったと判定した場合の制動力の目標低下勾配に比して小さい値に設定する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施例1に於ける自動制動による減速度制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。また図2に於いて、フラグFeは自動制動の中断による終了制御中であるか否かに関するものであり、1は中断による終了制御中であることを意味する。
まずステップ10に於いてはレーダーセンサ32により検出された相対距離Lre及び相対速度Vreを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いてはレーダーセンサ32よりの信号に基づき自車前方に先行車輌が検知されたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ10へ戻り、肯定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
ステップ30に於いては例えば相対距離Lre及び相対速度Vreに基づき接近余裕度|Lre/Vre|の関数である下記の式1に従って接近余裕度が小さいほど大きくなるよう車輌の目標減速度Gxbtが演算される。
Gxbt=f(|Lre/Vre|) …(1)
ステップ40に於いては自動制動による制動力の付与中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ60へ進み、否定判別が行われたときにはステップ50へ進む。
ステップ50に於いては例えば接近余裕度|Lre/Vre|を正常に求めることができ且つ運転者により加速操作及び制動操作が行われていない状況に於いて、相対速度Vreが負の値であり且つ先行車輌に対する接近余裕度|Lre/Vre|が制御開始基準値LVres(正の値)未満であるか否かの判別により、自動制動による制動力付与の開始条件が成立しているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときには図2に示されたルーチンによる制御が一旦終了され、肯定判別が行われたときにはステップ80へ進む。
尚自車と先行車輌との相対的位置関係について自動制動による制動力付与の開始条件が成立しているか否かの判別は、相対距離Lre及び相対速度Vreに基づいて行われる限り当技術分野に於いて公知の任意の態様にて行われてよく、例えば相対速度Vreが負の値でその絶対値が大きいほど小さい基準値Los(正の値)が演算され、相対距離Lreが基準値Los以下であるときに自動制動による制動力付与の開始条件が成立していると判定されてもよい。
ステップ60に於いてはフラグFeが1であるか否かの判別、即ち自動制動の中断による終了制御中であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはそのままステップ120へ進み、否定判別が行われたときにはステップ70へ進む。
ステップ70に於いては自動制動の中断条件が成立しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ80に於いてフラグFeが1にセットされた後120へ進み、否定判別が行われたときにはステップ90へ進む。
尚自動制動の中断条件が成立しているか否かの判別は、(1)運転者により加速操作が行われたか否か、(2)運転者により制動操作が行われたか否か、(3)接近余裕度を正常に求めることができなくなったか否か、(4)例えば自車又は先行車輌の車線変更により先行車輌が自車の前方より逸れたか否かの判別により行われ、(1)〜(4)の何れかが肯定判別であるときに自動制動の中断条件が成立していると判別される。
ステップ90に於いては相対距離Lre及び相対速度Vreに基づき例えば相対速度Vreが負の値であり且つ先行車輌に対する接近余裕度|Lre/Vre|が制御終了基準値LVree(LVresよりも大きい正の値)よりも大きいか否かの判別により、自動制動による制動力付与の終了条件が成立しているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ110へ進み、否定判別が行われたときにはステップ100へ進む。
尚自動制動による制動力付与の終了条件が成立しているか否かの判別も、相対距離Lre及び相対速度Vreに基づいて行われる限り当技術分野に於いて公知の任意の態様にて行われてよく、例えば相対速度Vreが負の値でその絶対値が大きいほど小さい基準値Loe(基準値Losよりも大きい正の値)が演算され、相対距離Lreが基準値Loeよりも大きいときに自動制動制御による制動力付与の終了条件が成立していると判定されてもよい。
ステップ100に於いては車輌の実減速度Gxb(=−Gx)が目標減速度Gxbtになるよう制動装置20の油圧回路22が制御されることにより各車輪に自動制動による制動力が付与され車輌が減速される。
例えばαを正の係数として目標減速度Gxbt及び実減速度Gxbに基づき下記の式2に従って車輌全体の目標増減制動圧ΔPbtが演算され、各車輪の係数Kiと車輌全体の目標増減制動圧ΔPbtとの積として各車輪の目標増減制動圧ΔPbti(i=fl、fr、rl、rr)が演算され、下記の式3に従って各車輪の目標制動圧Pbti(i=fl、fr、rl、rr)が演算され、各車輪の制動圧Pbiが目標制動圧Pbtiになるよう制動装置20が制御される。
ΔPbt=α(Gxbt−Gxb) …(2)
Pbti=Pbi+ΔPbti …(3)
ステップ110に於いては制動力の目標低下勾配ΔPbrが自動制動による制動力付与の通常終了時の低下勾配ΔPbro(正の定数)に設定される。
ステップ120に於いてはアクセル開度センサ40により検出されたアクセル開度φに基づき運転者によりアクセルペダルが踏み込まれ加速操作が行われたか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ130に於いて車速Vに基づき図4に於いて破線にて示されたグラフに対応するマップより制動圧の目標低下勾配ΔPbrが演算され、否定判別が行われたときにはステップ140へ進む。
ステップ140に於いては圧力センサ38により検出されたマスタシリンダ圧力Pm若しくは図1には示されていないストップランプスイッチよりの信号に基づき運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれ制動操作が行われたか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ150に於いて車速Vに基づき図4に於いて実線にて示されたグラフに対応するマップより制動圧の目標低下勾配ΔPbrが演算され、肯定判別が行われたときにはステップ160に於いて車速Vに基づき図4に於いて二点鎖線にて示されたグラフに対応するマップより制動圧の目標低下勾配ΔPbrが演算される。
尚図4の各線の比較より解る如く、少なくとも車速Vが低い領域について見て、接近余裕度を正常に求めることができなくなった又は先行車輌が自車の前方より逸れたと判定されたときには、目標低下勾配ΔPbr(実線)は自動制動制御の終了条件が成立した場合の低下勾配(点線)に比して小さい値に設定され、運転者により加速操作が行われたと判定されたときには、目標低下勾配ΔPbr(破線)は接近余裕度を正常に求めることができなくなった場合の制動力の低下勾配(実線)に比して大きい値に設定され、運転者により制動操作が行われたと判定されたときには、目標低下勾配ΔPbr(二点鎖線)は接近余裕度を正常に求めることができなくなったと判定された場合の目標低下勾配(実線)に比して小さい値に設定される。尚図4に示されている如く、これらの目標低下勾配ΔPbrは少なくとも低車速域に於いて通常終了時の低下勾配ΔPbroよりも小さい値に演算される。
ステップ170に於いては例えばマスタシリンダ圧力Pmに基づき各車輪の目標制動圧Pbtiが演算され、圧力センサ42iにより検出された各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiが基準値ΔPbo(0に近い正の定数)以下になるまで、制動圧の目標低下勾配ΔPbrにて各車輪の制動圧Pbiが漸減され、制動圧の偏差ΔPbiが基準値ΔPbo以下になると、フラグFeが0にリセットされると共に、各車輪の制動圧Pbiがマスタシリンダ圧力Pmに基づき制御される状態に戻される。
かくして図示の実施例1によれば、ステップ20に於いて自車前方に先行車輌が検知されたか否かの判別が行われ、ステップ30に於いて接近余裕度|Lre/Vre|が小さいほど大きくなるよう車輌の目標減速度Gxbtが演算され、ステップ40及び50に於いて相対距離Lre及び相対速度Vre等に基づき自動制動制御による制動力付与の開始条件が成立し自動制動制御による自動減速が必要であるか否かの判別が行われ、自動制動制御による自動減速が必要であるときには、ステップ100に於いて車輌の減速度が目標減速度Gxbtになるよう制動力が制御されることにより、先行車輌に対し適正な車間距離が確保されるよう自動制動制御により車輌が減速される。
また既に制動力の付与が実行されている状況に於いて制御終了条件が成立すると、ステップ40に於いて肯定判別が行われ、ステップ60及び70に於いて否定判別が行われると共に、ステップ90に於いて肯定判別が行われ、ステップ110及び170が実行されることにより自動制動制御による制動力の付与が終了され、通常の車輌走行状態に復帰する。
更に既に制動力の付与が実行されている状況に於いて自動制動の中断条件が成立すると、ステップ70に於いて肯定判別が行われ、ステップ80に於いてフラグFeが1に設定され、ステップ120〜170に於いて制動圧の目標低下勾配ΔPbrにて各車輪の制動圧Pbiが漸減され、各車輪の制動圧Pbiがマスタシリンダ圧力Pmに基づき制御される状態に戻される。
この場合制動圧の目標低下勾配ΔPbrは、ステップ120〜160に於いて、少なくとも車速Vが低い領域について見て、接近余裕度を正常に求めることができなくなったとき又は先行車輌が自車の前方より逸れたときには、自動制動制御の終了条件が成立した場合に比して小さい値に設定され、運転者により加速操作が行われたときには、接近余裕度を正常に求めることができなくなった場合又は先行車輌が自車の前方より逸れた場合に比して大きい値に設定され、運転者により制動操作が行われたと判定されたときには、接近余裕度を正常に求めることができなくなった場合に比して小さい値に設定される。
従って図示の実施例1によれば、自動制動が中断される際に制動圧が急激に低下することを防止して車輌の乗員が異和感を感じることを確実に防止することができるだけでなく、自動制動が中断される際の自車の車速Vに応じて制動圧の目標低下勾配ΔPbrを最適に可変設定し、これにより高車速域に於いて減速度制御の中断が完了するまでに要する時間が長くなり過ぎることを回避しつつ、低車速域に於いて乗員が減速度抜けを感じることを効果的に防止することができる。
特に図示の実施例1によれば、制動圧の目標低下勾配ΔPbrは自動制動が中断される際の自車の車速Vに応じて決定され、自動制動の中断が完了するまで一定の値に維持されるので、自動制動の中断が完了するまでに制動圧の目標低下勾配ΔPbrが不自然に変化することに起因して車輌の乗員が異和感を感じることを確実に防止することができる。
図3は本発明による車輌の減速度制御装置の実施例2に於ける自動制動による減速度制御ルーチンの要部を示すフローチャートである。尚図3に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
この実施例2に於いては、ステップ10〜100、120、140は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ60に於いて肯定判別が行われたとき及びステップ80が完了したときには、ステップ115に於いて制動圧の目標低下時間Teが自動制動制御の終了条件が成立した場合の低下時間Teo(正の定数)に設定される。
またステップ120に於いて肯定判別が行われたときには、即ち運転者によりアクセルペダルが踏み込まれ加速操作が行われたと判別されたときには、ステップ135に於いて車速Vに基づき図5に於いて破線にて示されたグラフに対応するマップより制動圧の目標低下時間Teが演算される。
またステップ140に於いて否定判別が行われたときには、即ち接近余裕度を正常に求めることができなくなったこと又は先行車輌が自車の前方より逸れたことにより自動制動の中断条件が成立したと判別されたときには、ステップ155に於いて車速Vに基づき図5に於いて実線にて示されたグラフに対応するマップより制動圧の目標低下時間Teが演算され、肯定判別が行われたときには、即ち運転者により制動操作が行われたと判別されたときには、ステップ165に於いて車速Vに基づき図5に於いて二点鎖線にて示されたグラフに対応するマップより制動圧の目標低下時間Teが演算される。
この場合、図5の各線の比較より解る如く、自動制動が中断され制動圧が低下される際の低下勾配が上述の実施例1の場合と同様の大小関係になるよう、運転者により加速操作が行われたと判定されたときの目標低下時間Te(破線)は接近余裕度を正常に求めることができなくなったと判定された場合の目標低下時間Te(実線)に比して小さい値に設定され、運転者により制動操作が行われたと判定されたときの目標低下時間Te(二点鎖線)は接近余裕度を正常に求めることができなくなった又は先行車輌が自車の前方より逸れたと判定された場合の目標低下時間Te(実線)に比して大きい値に設定される。
更にステップ175に於いては例えばマスタシリンダ圧力Pmに基づき各車輪の目標制動圧Pbtiが演算され、圧力センサ42iにより検出された各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiを目標低下時間Teにて除算することにより制動圧の目標低下勾配ΔPbri(i=fl、fr、rl、rr)が演算され、現在の各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiが基準値ΔPbo(0に近い正の定数)以下になるまで、制動圧の目標低下勾配ΔPbriにて各車輪の制動圧Pbiが漸減され、制動圧の偏差ΔPbiが基準値ΔPbo以下になると、フラグFeが0にリセットされると共に、各車輪の制動圧Pbiがマスタシリンダ圧力Pmに基づき制御される状態に戻される。
従ってこの実施例2によれば、上述の実施例1の場合と同様、自動制動が中断される際に制動圧が急激に低下することを防止して車輌の乗員が異和感を感じることを確実に防止することができるだけでなく、自動制動が中断される際の自車の車速Vに応じて制動圧の低下勾配ΔPbriを最適に可変設定し、これにより高車速域に於いて減速度制御の中断が完了するまでに要する時間が長くなり過ぎることを回避しつつ、低車速域に於いて乗員が減速度抜けを感じることを効果的に防止することができる。
特に図示の実施例2によれば、自動制動が中断される際の自車の車速Vに応じて制動圧の目標低下時間Teが決定され、自動制動が中断される際のマスタシリンダ圧力Pmに基づき各車輪の目標制動圧Pbtiが演算され、制動圧の目標低下勾配ΔPbriは各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiを目標低下時間Teにて除算することにより演算され、自動制動の中断が完了するまで一定の値に維持されるので、自動制動の中断が完了するまでに制動圧の目標低下勾配ΔPbrが不自然に変化することに起因して車輌の乗員が異和感を感じることを確実に防止することができる。
更に図示の実施例2によれば、制動圧の目標低下勾配ΔPbriにて各車輪の制動圧Pbiが漸減され、現在の各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiが基準値ΔPbo以下になると、各車輪の制動圧Pbiがマスタシリンダ圧力Pmに基づき制御される状態に戻されるので、自動制動の中断開始時より制動圧の目標低下時間Teが経過するまで所定の低下勾配にて各車輪の制動圧Pbiが漸減される場合に比して、自動制動の中断完了時に於ける各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiを確実に小さくすることができる。
尚図示の各実施例によれば、制動圧の低下勾配は、少なくとも車速Vが低い領域について見て、接近余裕度を正常に求めることができなくなった又は先行車輌が自車の前方より逸れたときには、自動制動制御の終了条件が成立した場合に比して小さい値に制御され、運転者により加速操作が行われたときには、接近余裕度を正常に求めることができなくなった場合又は先行車輌が自車の前方より逸れた場合に比して大きい値に制御され、運転者により制動操作が行われたと判定されたときには、接近余裕度を正常に求めることができなくなった場合又は先行車輌が自車の前方より逸れた場合に比して小さい値に制御されるので、例えば運転者が車線変更して追い越しをかけるような場合に加速不足や加速遅れを感じる虞れを効果的に低減することができ、また運転者が自らの判断に基づいて制動操作を行った場合に運転者の減速要求を早期に充足させることができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例1に於いては、制動圧の目標低下勾配ΔPbrが演算され、上述の実施例2に於いては、目標低下時間Teが演算されることにより制動圧の目標低下勾配ΔPbriが演算されるようになっているが、車輌の目標減速度Gxbtの目標低下勾配ΔGxbtが自動制動の中断開始時の自車の車速Vに応じて演算され、車輌の目標減速度Gxbtが低下勾配ΔGxbtにて漸減され、漸減される車輌の目標減速度Gxbtに基づき各車輪の目標制動圧Pbtiが演算され、各車輪の制動圧Pbiが目標制動圧Pbtiになるよう制御されることにより、制動圧が漸減されるよう修正されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、(1)運転者により加速操作が行われたか否か、(2)運転者により制動操作が行われたか否か、(3)接近余裕度を正常に求めることができなくなったか否か、(4)先行車輌が自車の前方より逸れたか否かの判別が行われ、(1)〜(4)によって制動圧の目標低下勾配ΔPbr又は制動圧の目標低下時間Teが異なる値に設定されるようになっているが、上記(1)〜(4)の何れかについて制動圧の目標低下勾配ΔPbr又は制動圧の目標低下時間Teの区別が省略されてもよい。
また上述の実施例2に於いては、制動圧の目標低下勾配ΔPbriにて各車輪の制動圧Pbiが漸減され、現在の各車輪の制動圧Pbiと目標制動圧Pbtiとの偏差ΔPbiが基準値ΔPbo以下になると、各車輪の制動圧Pbiがマスタシリンダ圧力Pmに基づき制御される状態に戻されるようになっているが、自動制動の中断開始時より制動圧の目標低下時間Teが経過するまで所定の低下勾配にて各車輪の制動圧Pbiが漸減されるよう修正されてもよい。
更に上述の各実施例に於いては、レーダーセンサ32により検出された先相対距離Lre及び相対速度Vreに基づき自動制動による制動力の付与が必要であるか否かの判別が行われ、相対距離Lre及び相対速度Vreに基づき先行車輌に対し安全な相対距離及び相対速度を確保するための車輌の目標減速度Gxbtが演算され、自動制動による制動力の付与が必要であると判定されたときには車輌の目標減速度Gxbtに基づき自動制動による減速が行われるようになっているが、先行車輌に対し安全な相対距離及び相対速度を確保するための自動制動による制動力の付与は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の態様にて行われてよい。