窒化ガリウムへテロ構造においてキャリアの拡散長は短いため、キャリアドナーサイトを量子井戸活性領域の間近に配置する必要があり、これによりキャリアは再結合する前に活性領域に到達する。しかし、正電荷のキャリア(すなわち正孔)を提供するGaNへテロ構造のマグネシウムドーピングのイオン化エネルギは非常に高い。例えば、Mgアクセプタ濃度1cm3当たり原子約1020個に対し、1cm3当たり1018個の正孔しか得られない。電荷キャリアを生成するためにドナー原子の1%しかイオン化されないので、利得を生じるのに充分なキャリア密度を生成するために、GaNまたはAlGaN膜に非常に高いドーピングレベルを実現しなければならない。
しかし、1cm3当たり原子1020個を越えるドーピング濃度は、ドーパントがドープされた材料における0.1%以上の不純物(1020/1023)を構成するので、結晶格子を実質的に劣化させる可能性がある。ドープされた材料の格子に組み込まれたドーパント種の濃度が大きいことから結晶格子に歪みが生じ、結晶格子に欠陥が生じる。格子欠陥に起因して、吸収端がバンドギャップより下まで広がり、かつ非発光再結合が促進され、これが次に、ドープされた材料の固有損失を増大させる。
したがって、拡散長が短いため、ドナー原子を活性領域の近くに配置することが望ましいが、これらのドナー原子が、周囲の結晶格子および量子井戸の電子特性に対し悪影響を及ぼすため、デバイスの利得の低減を引き起こす。
本発明に係るレーザ装置の様々な例示的実施形態では、活性層付近または活性層に隣接する層はアンドープのままとされる。したがってこの層には格子欠陥が少なく、好ましくはかなり少なく、理想的には格子欠陥が無い。また、不純物散乱が低減され、好ましくはかなり低減され、理想的には除去される。その結果、アンドープスペーサ層を含まない先行技術の構造と比較して、利得が高く、しきい値電流が低い、単一または結合量子井戸レーザダイオードを得ることができる。
図1は、本発明に係るIII−V窒化物レーザ装置100の断面構造の一つの例示的実施形態を示す。この層構造は、有機金属化学気相成長(MOCVD)を用いて製作することができる。III−V窒化物レーザ装置100は、例えばC面(0001)またはA面(1120)方位サファイア(Al2O3)基板110上に成長され、該基板110上には一連の半導体層が例えばエピタキシャル堆積される。他の可能な基板材料として、例えば炭化ケイ素(例:6H‐SiCまたは4H‐SiC)、GaN、AlGaNもしくはAlN、またはシリコンが挙げられる。
サファイア、SiC、またはシリコン基板の場合、一般的に低温核形成層119が最初に堆積される。核形成層はGaN、InGaN、AlGaNまたはAlNとすることができ、一般的に約10〜30nmの厚さであり、約500℃ないし約700℃の温度で堆積される。
第一のIII−V窒化物層120は基板110の上又は上方に形成される。第一のIII−V窒化物層120はn型(Al)GaNシリコンドープバッファ層であり、ここでバッファ層は電流拡散層として働く。様々な例示的実施形態で、第一のIII−V窒化物層120は約1016cm-3ないし約1020cm-3のnドーピング濃度を有する。この例示的実施形態では、第一のIII−V窒化物層120は約1μmから約10μmの厚さを有する。SiをドープしたAlGaN電流拡散層の場合、アルミニウム組成は一般的にクラッド層と同様であるか、またはそれよりわずかに低い。
第二のIII−V窒化物層130は第一のIII−V窒化物層120の上又は上方に形成される。第二のIII−V窒化物層130は第一のクラッド層である。様々な例示的実施形態で、第二のIII−V窒化物層130は、シリコンをドープされたn型AlGaNクラッド層であり、アルミニウム含有量は第三のIII−V窒化物層140(後述)より多い。第二のIII−V窒化物層130は約0.2μmから約2μmの厚さを有する。
第一の導波路層である第三のIII−V窒化物層140は、第二のIII−V窒化物層130の上又は上方に形成される。様々な例示的実施形態で、第三のIII−V窒化物層140はn型AlGaN:Si層であり、第三のIII−V窒化物層140の屈折率が第二のIII−V窒化物層130の屈折率より大きく、かつ活性領域170(後述)の窒化アルミニウムガリウム量子井戸の屈折率より小さくなるように、第三のIII−V窒化物層140のアルミニウム含有量が選択される。
第四のIII−V窒化物層150は第一の導波路層140の上方に形成される。第四のIII−V窒化物層150は第一のキャリア閉込め層として働く。第四のIII−V窒化物層150は量子井戸活性領域170より高いバンドギャップを有する。様々な例示的実施形態で、第四のIII−V窒化物層150と量子井戸活性領域170との間のバンドギャップ差は約0.5eVである。様々な例示的実施形態で、第四のIII−V窒化物層150は、x=0.05からx=0.4の範囲のアルミニウム・モル分率でシリコンドーピングしたn型窒化アルミニウムガリウムであり、即ち、アルミニウム含有量は約5%ないし約40%である。この例示的実施形態では、第四のIII−V窒化物層150の全体の厚さは通常約5nm乃至約100nmである。
第五のIII−V窒化物層160は第一の閉込め層150の上または上方に堆積される。第五のIII−V窒化物層160はアンドープ窒化(インジウム)アルミニウムガリウム・スペーサ層であり、約0nmから約10nmの厚さとすることができる。ここで、用語「アンドープ」とは、層を意図的にドープしないことを意味する。窒化物材料は、例えばバックグラウンド・ドーピング(background doping)のために、主に酸素、シリコン、および炭素などがしばしば意図せずにドープされ、n型であり、典型的なnドーピングレベルは1015cm-3ないし1017cm-3である。しかし、上述のドーピングレベルは充分に低いので、格子の完全性またはレーザ装置100の性能に影響を及ぼさない。アンドープスペーサ層160のアルミニウム含有量は、第一の閉込め層150より低いか又は等しい。様々な例示的実施形態で、アンドープスペーサ層160のアルミニウム含有量は、約5%ないし約40%の範囲である。
上述の通り、量子井戸活性層170は第五のIII−V窒化物層160の上又は上方に形成される。様々な例示的実施形態で、量子井戸活性層170は単一の窒化インジウムガリウム量子井戸を使用して形成される。様々な例示的実施形態で、量子井戸は約1nmから約20nmの厚さを有することができる。窒化アルミニウムガリウム量子井戸170は一般的にアンドープである。一般的に、窒化インジウムガリウム量子井戸170の組成は、バンドギャップエネルギが導波路層140およびクラッド層130より小さくなるように選択されることを理解する必要がある。340nmで発光するレーザの量子井戸活性領域170の一つの例示的実施形態は、アルミニウム含有量約12%の窒化アルミニウムガリウムの単一量子井戸を含む。一般的に、閉込め層150およびアンドープスペーサ層160各々のアルミニウム含有量は、量子井戸活性層170より約10%ないし約30%高い。
第六のIII−V窒化物層180は量子井戸活性層170の上又は上方に形成される。様々な例示的実施形態で、第六のIII−V窒化物層180はアンドープ窒化(インジウム)アルミニウムガリウムであり、約0nmから約10nmの厚さとすることができる。アンドープスペーサ層160に関して上述した通り、用語「アンドープ」とは、層を意図的にドープしないことを意味する。窒化物材料はしばしば意図せずにドープされ(バックグラウンド・ドーピング、主に酸素またはシリコン)、n型であり、典型的なnドーピングレベルは1015cm-3ないし1017cm-3である。しかし、上述のドーピングレベルは充分に低いので、格子の完全性またはレーザ装置100の性能に影響を及ぼさない。アンドープスペーサ層180のアルミニウム含有量は、第二の閉込め層190より低いか又は等しい。様々な例示的実施形態で、アンドープスペーサ層180のアルミニウム含有量は、約5%ないし約40%の範囲である。
第七のIII−V窒化物層190はスペーサ層180の上又は上方に形成される。第七のIII−V窒化物層190もまた、第二のキャリア閉込め層として働く。第七のIII−V窒化物層190は、量子井戸活性領域170より高いバンドギャップを有する。様々な例示的実施形態で、量子井戸活性領域170と第二のキャリア閉込め層190との間のバンドギャップ差は約0.5eVである。様々な例示的実施形態で、第七のIII−V窒化物層190は、x=0.05からx=0.4の範囲のアルミニウム・モル分率でマグネシウムをドープされたp型窒化アルミニウムガリウムである。この例示的実施形態で、第七のIII−V窒化物層190の全体の厚さは一般的に約5nmから約20nmであり、第七のIII−V窒化物層190のpドーピング濃度は一般的に約1018cm-3ないし約1021cm-3である。様々な例示的実施形態で、ドーピング濃度は約1×1020cm-3である。
第八のIII−V窒化物層200は、第七のIII−V窒化物層190の上又は上方に形成される。第八のIII−V窒化物層200は第二の導波路層として働く。様々な例示的実施形態で、第八のIII−V窒化物層200は、マグネシウムをドープされたp型窒化アルミニウムガリウム材料である。この例示的実施形態では、アルミニウム含有量は、第八のIII−V窒化物層200の屈折率が第七のIII−V窒化物層190の屈折率より大きく、かつ活性領域170の窒化アルミニウムガリウム量子井戸の屈折率より小さくなるように選択される。
第九のIII−V窒化物層210は第八のIII−V窒化物層200の上又は上方に形成される。第九のIII−V窒化物層210は第二のクラッド層である。様々な例示的実施形態で、第九のIII−V窒化物層210はp型窒化アルミニウムガリウムのクラッド層である。様々な例示的実施形態で、第九のIII−V窒化物層210の厚さは約0.2μmから約2μmである。様々な例示的実施形態で、第九層のIII−V窒化物層210はp型窒化アルミニウムガリウム:マグネシウムを使用して形成され、アルミニウム含有量は第八のIII−V窒化物層200より多い。
第十のIII−V窒化物層220は第九のIII−V窒化物層210の上又は上方に形成される。第十のIII−V窒化物層220はpドープ窒化ガリウム:マグネシウム層220であり、低抵抗金属電極接点を提供する。様々な例示的実施形態で、第十のIII−V窒化物層220の厚さは約5nmから約200nmである。第十の層220のpドーピング濃度は約1016cm-3ないし約1021cm-3である。様々な例示的実施形態で、ドーピング濃度は約1×1020cm-3である。
図2は、本発明に係る紫外線III−V族窒化物系二重量子井戸(DQW)レーザダイオードの一例示的実施形態を示す。二重量子井戸活性層はアンドープスペーサ層の上又は上方に形成される。様々な例示的実施形態で、量子井戸活性層170は、(In)AlGaN障壁174によって分離された二つの窒化インジウムガリウム量子井戸172および176を使用して形成される。様々な例示的実施形態で、量子井戸の厚さは約1nmから約20nmとすることができる。様々な例示的実施形態で、障壁の厚さは約1nmから約100nmとすることができる。障壁層のアルミニウム組成は0%(GaN障壁)から40%の範囲となる。障壁層のバンドギャップは一般的に、閉込め層およびスペーサ層のバンドギャップよりずっと小さい。
窒化インジウムガリウム量子井戸および障壁は一般的にアンドープである。しかし、一部の実施形態では、窒化インジウムガリウム量子井戸または障壁はSiドープされるかあるいは部分的にSiドープされる。ドープされる場合、典型的なSiドーピング濃度は約1016から約1026cm-3の間である。
目標とする発光波長に応じて、量子井戸は窒化ガリウム、窒化アルミニウムガリウム、または窒化インジウムアルミニウムガリウムを使用して形成することもできる。340nmで発光するレーザの量子井戸活性領域の一例示的実施形態を図3に示す。該量子井戸活性領域は、アルミニウム含有量約12%の窒化アルミニウムガリウムによって形成される。
一般的に、閉込め層およびアンドープスペーサ層各々のアルミニウム含有量は、量子井戸活性領域より約10%ないし約30%高くなる。
様々な例示的実施形態で、サファイア基板ウェハ110は標準仕様であり、一面におけるエピタキシャルポリッシュおよび約0.25μmから約0.43μm(10ミルないし17ミル)の典型的厚さを含む。窒化ガリウム層、AlN層、および窒化アルミニウムガリウム層の成長中の基板温度は一般的に、約1000℃から約1300℃である。加えて、反応炉の圧力は約50Torrから約740Torrの間で制御することができる。有機金属化学気相成長法(MOCVD)による成長に用いる有機金属前躯物質として、TMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TMIn(トリメチルインジウム)およびTEGa(トリエチルガリウム)がIII族元素に使用され、NH3(アンモニア)は窒素源として使用される。水素および/または窒素は有機金属前躯物質ガスのキャリアガスとして使用される。nドーピングの場合、100ppmのSiH4がH2中に希釈される。n型ドーパントの例としてSi、O、Se、およびTeが挙げられるが、これらに限定されない。pドーピングの場合、Cp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)が使用される。p型ドーパントの例としてMg、Ca、C、およびBeが挙げられるが、これらに限定されない。様々な例示的実施形態で、構造の全高は約1μmないし約10μmである。
図3は、AlN基板上に成長した紫外線III−V族窒化物系単一量子井戸レーザダイオードの一例示的実施形態300を示す。AlN基板110は核生成層を必要としない。
図4は、従来のInGaN単一量子井戸レーザダイオード400の組成プロファイルを示す。図4および図5〜図9の組成プロファイルの下に配置された棒表示中のクロスハッチングは、組成プロファイルのアンドープ領域を示す。特に、この従来のInGaN単一量子井戸レーザダイオードは、単一量子井戸170とキャリア閉込め層150および190との間にアンドープスペーサ層を持たない。この従来のInGaN単一量子井戸レーザダイオード400では、キャリア閉込め層150および190の各々の厚さは約5nmと約50nmの間であり、一般的に約10nmと約20nmの間である。図4に示した例では、AlGaN構造400は非対称であり、約20%のアルミニウム含有量を有するn側キャリア閉込め層150および約30%のアルミニウム含有量を有するp側キャリア閉込め層190を持つ。正孔有効質量(〜2*m0、ここでm0は電子の静止質量)は電子有効質量(〜0.2*m0)よりずっと高いので、量子井戸の低い側(Siドープ)の障壁高さは、Mgドープ側より幾らか低くすることができる。アルミニウム組成が高い場合は、良好なモルフォロジ(形態)のAlGaN膜を成長させることが困難になり、格子不整合が増加するので、Siドープキャリア閉込め層のAl組成が低いことは有利になり得る。しかし、キャリア閉込め層の組成プロファイルを対称的とすることも可能である。
この従来のInGaN単一量子井戸レーザダイオード400では、電子および正孔閉込め層150および190はシリコンまたはマグネシウムを高濃度にドープして、電子および正孔の充分なキャリア閉込めを達成する。これらの層のドーピングレベルは、それぞれのキャリアに必要なバンドオフセットを与えるために、非常に高くする必要がある。図4に示すこの従来のInGaN単一量子井戸レーザダイオード400では、p側キャリア閉込め層190の典型的なpドーピングレベルは約1×1019cm-3から約1×1020cm-3の間であり、n側キャリア閉込め層150の典型的なnドーピングレベルは約1×1018cm-3から約1×1019cm-3の間である。しかし上述の通り、これら高ドーピングレベルは構造の劣化および不純物散乱を導く。
これらの影響を緩和するために、本発明に係るレーザ装置の例示的実施形態では、単一量子井戸活性領域170に隣接して、アンドープ材料の狭い領域を残し、アンドープスペーサ層160および180を形成する。図5は、本発明に係るこのレーザ装置500の第一の例示的実施形態の組成プロファイルを示す。図5に示すように、アンドープスペーサ層160および180の組成は、総アルミニウム含有量に関しては、キャリア閉込め層150および190と同一であっても良い。しかし、p側キャリア閉込め層190のアルミニウム含有量はn側キャリア閉込め層150のアルミニウム含有量とは異なることもあり、レーザ装置500は非対称となる。図5に示すように、n側キャリア閉込め層150のアルミニウム含有量は約20%であり、一方、p側キャリア閉込め層190のアルミニウム含有量は約30%である。キャリア閉込め層150および190の外側にあるn側導波路層140およびp側導波路層200は、6%のアルミニウム含有量を有する。
図5に示す単一量子井戸レーザダイオード構造500と図4に示す従来の単一量子井戸レーザダイオード構造400との間の一つの相違は、量子井戸活性領域170に隣接するアンドープスペーサ層160および180の存在である。しかし、アンドープスペーサ層160および180を有する結果、発振のしきい値電流が、図4に示した従来の量子井戸レーザダイオード構造400より低くなる。図4の装置に示すようにスペーサが無い場合のしきい値電流密度は、50kA/cm2より大きい。(図5の装置に示すように)3nm〜6nmの範囲の薄いアンドープスペーサ層を挿入することにより、しきい値電流密度はおよそ5kA/cm2の最小値に達し、スペーサ層が無い場合より1桁低い。
アンドープスペーサ層160および180の組成は、キャリア閉込め層150および190とは異なっても良いことを理解すべきである。この状況を図6および図7に示す。量子井戸における分極場の大きさは、スペーサ層と量子井戸との界面の組成差に依存するので、量子井戸に近いスペーサ層の部分のAl組成が低いと、量子井戸の分極場を低減するのに役立つ。アンドープスペーサ層の下および上のドープされた電流閉込め層は、キャリアリークを防止するために、より高いアルミニウム含有量を有する。さらに、Al含有量が低いことは、結果として、しばしばバックグラウンドの不純物濃度が低いことにもなる。
図6は、本発明に係る非対称な単一量子井戸レーザダイオード構造600の第二の例示的実施形態の組成プロファイルの例示的実施形態を示す。この例示的実施形態では、p側キャリア閉込め層190のアルミニウム含有量(約30%)は、n側キャリア閉込め層150のアルミニウム含有量(20%)より高い。さらに、アンドープスペーサ層160および180のアルミニウム含有量は約15%であり、n側キャリア閉込め層150またはp側キャリア閉込め層190の何れのアルミニウム含有量とも異なる。電子および正孔波動関数が、ドープされた電流閉込め層内に著しく染み出すことなく、量子井戸内に充分に閉込められるように、アンドープスペーサ層のAl含有量を充分な高さにする必要がある。
図7は、p側キャリア閉込め層190のアルミニウム含有量(約30%)がn側キャリア閉込め層150と同一である、本発明に係る対称な単一量子井戸レーザダイオード構造700の第三の例示的実施形態の組成プロファイルの例示的実施形態を示す。図5および図6と同様に、キャリア閉込め層150および190の外側にあるn側導波路層140およびp側導波路層200は、6%のアルミニウム含有量を有する。図6および図7の両方に示すように、一般的に、アンドープスペーサ層160および180のアルミニウム含有量は、キャリア閉込め層150および190より5%ないし20%低い。
図8は、本発明に係るわずかに離間して配置された二重量子井戸レーザダイオード構造800の別の例示的実施形態の組成プロファイルを示す。単一(IN)GaN量子井戸を使用する代わりに、活性領域には、AlGaN障壁層174によって分離された二つの量子井戸172および176が含まれる。障壁層174の厚さおよび組成は、量子井戸172および176の間で充分な結合が可能となるように選択されるので、量子井戸のキャリアは、量子井戸172および176間のトンネリングによって、またはキャリアが障壁174を超えることのできる熱活性化プロセスによってのいずれかで、容易に再分配することができる。この例では、AlGaN障壁の組成は8%であり、厚さは3nm〜6nm、量子井戸幅は4nmである。多重量子井戸活性領域は、図8および図9に示すように、対称な閉込め構造または非対称な閉込め構造と共に使用することができる。
図9は、本発明に係るわずかに離間して配置された三重量子井戸レーザダイオード構造900の別の例示的実施形態の組成プロファイルの例示的実施形態を示す。活性領域は、AlGaN障壁層179および181によって分離された三つの量子井戸173、175、および177を含む。活性領域の厚さは約2nmから約20nmの間とすることができる。この場合も先と同様に、障壁層179または181の厚さおよび組成は、量子井戸173、175、および177の間で充分な結合が可能となるように選択される。AlGaN障壁層179および181はアンドープとするか、例えばSiを部分的にドープするか、または完全にドープするかの何れかとすることができる。図8および図9に示した例示的実施形態では、障壁厚さ3nm〜6nm、および量子井戸幅4nmで、AlGaN障壁のAl組成は8%である。一般的に、多重量子井戸間の障壁の厚さは、約1nmから約10nmの間とすることができる。
アンドープスペーサ層160および180の厚さは、図10に示すように、単一量子井戸レーザダイオード100および500〜700の性能に著しく影響することを理解すべきである。図10は、9nmの固定幅を有する量子井戸活性領域170を持つUV窒化インジウムガリウム単一量子井戸レーザダイオードの、しきい値電流密度対スペーサ層の厚さを示す。図10に示すように、しきい値電流密度はスペーサ層160および180の厚さに強く依存する。この例示的実施形態では、スペーサ層の厚さが約0nmから増加するにつれて、しきい値電流密度は急激に低下し、スペーサ層の厚さ約4nmでしきい値電流密度が最低値およそ5kA/cm2に達する。4nm未満の厚さとなると、ドーパント誘発格子欠陥が単一量子井戸レーザダイオードの利得に影響するため、しきい値電流は急速に増加する。4nmを超える厚さでは、キャリアの生成される位置が単一量子井戸活性領域から遠く離れすぎている。一般的に、アンドープスペーサ層の厚さが約2nmと約20nmの間であると、単一量子井戸および多重量子井戸レーザ装置のしきい値電流密度を低減するのに有効である。
しきい値電流密度はさらに、表1に示すように、量子井戸活性領域170の厚さにも依存する。
表1は、インジウム含有量が非常に低い(Inの割合5%未満の)InGaN量子井戸の場合に、約7nmから約10nmの範囲に、発振に特に適している、特定の最適な量子井戸の厚さが存在することを示す。表1に示される通り、しきい値電流密度は上述の範囲外ではずっと高い。様々な例示的実施形態では、量子井戸が薄すぎる場合、すなわち厚さが約6nm未満である場合、レーザ動作を開始するにはモード利得が充分では無い。様々な例示的実施形態では、量子井戸が厚すぎる場合、すなわち厚さが約10nmより大きい場合、注入されたキャリアは残留分極場によって空間的に分離されることがあり、この場合も利得の低下およびレーザ閾値の増加が起こる。加えて、InGaN膜は不正形に歪み、InGaN膜が特定の臨界厚さを越えると部分的に弛むことがあり、これにより、構造的劣化および利得の低下が起こる。図10および表1双方を参照すると、様々な例示的実施形態で、例示した特定の寸法の場合、最低しきい値電流の装置は9nmの量子井戸の厚さおよび4nmのアンドープスペーサ層の厚さを有し、そこから5kA/cm2のしきい値電流で発振を達成するデバイスが得られたことを示している。
図11は、InxGaN単一量子井戸活性層170の様々な組成に対する高分解能レーザ発光スペクトルを示す。図11に示す三つの発光ピークは、三つの異なるインジウム濃度x=0.7%、x=1.1%、およびx=1.4%に対応する。図11に示すように、発光波長はインジウム含有量の増加と共に増加する。
図12は、図11に示した中で最も高いインジウム含有量のInGaNデバイス(x=1.4%)の光出力対電流特性を示す。この例示的実施形態では、最低(パルス)しきい値電流は5kA/cm2程度であり、単一量子井戸InGaNレーザダイオード構造の両ファセット(面)からの出力パワーは400mWもの高さになる。上述の結果が導かれた際の実験パラメータは、繰返し周波数1kHzで、電流パルス幅0.5マイクロ秒である。レーザ波長は369nmであり、ストライプ幅およびキャビティ長は20×700μm2である。
本発明をInGaN単一および多重結合量子井戸へテロ構造を含む様々な例示的実施形態に関連して説明したが、本発明に係るレーザ装置の例示的実施形態はこの材料系に限定されない。表2は、本発明を適用することができる、AlGaNおよびInAlGaN等の代替的材料系の一部の例を提示する。
発光波長をより短い波長にすることは、単一量子井戸活性領域のアルミニウム含有量を約12%(340nmの発光波長)から約59%(265nmの発光波長)に増加することによって、達成することができる。バンドギャップの高い単一量子井戸活性領域の場合、充分なキャリア閉込めを達成するために適宜にスペーサ層および閉込め層のアルミニウム含有量を調整する必要があることを理解すべきである。一般的に、閉込め層およびスペーサ層は、上述したスペーサ層および閉込め層に比較して約10%ないし約30%高いアルミニウム組成を有する。
本発明を上述のように概説した例示的実施形態に関連して説明したが、公知であるか、現在予見されないか、又は予見し得ないかに関係なく、様々な代替、変形、変更、改善、および/または実質的な均等物が、当該技術分野における少なくとも通常の技術を有する者には明らかであり得る。したがって、出願時の特許請求の範囲および補正がなされ得る特許請求の範囲は、公知または後に開発される全ての代替、変形、変更、改善、および/または実質的均等物を包含することを意図する。