JP2005179749A - R−t−b系焼結磁石用合金粉末、その製造方法及びr−t−b系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

R−t−b系焼結磁石用合金粉末、その製造方法及びr−t−b系焼結磁石の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 低酸素量のR−T−B系焼結磁石を製造する場合に、高い磁気特性を得る。
【解決手段】 酸素量が3000ppm以下で、かつ粉末全体に対する多磁区粒子の個数が30%以下である微粉末を用いて磁場中成形をして成形体を作製し、この成形体を焼結する。この微粉末は、原料合金塊を所定粒度まで粉砕して第1の粉砕粉末を得る工程と、衝突式ジェットミルを用い、かつ酸素濃度が500ppm以下の粉砕雰囲気で第1の粉砕粉末をさらに粉砕して第2の粉砕粉末を得る工程とを経ることにより得ることができる。第2の粉砕粉末は、複数の粒子が融着して形成された融着粒子の数が全体に対して30%以下となる。
【選択図】図1

Description

本発明は、R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石に関し、特にR−T−B系焼結磁石を製造する際に有効なR−T−B系焼結磁石用合金粉末、その製造方法及びR−T−B系焼結磁石の製造方法に関するものである。
R−T−B系焼結磁石は、粉末冶金法にしたがって作製される。すなわち、Nd、Fe及びBを主体とする鋳造又はストリップキャストによる原料合金に水素を吸蔵させることにより脆化、粉砕して得られた粉体を500〜1000μm程度の粒径まで粉砕する。この粉砕は、スタンプミル、ブラウンミル等の粉砕機を用いて行われる。この段階における粒度が後に行われる粉砕による粒度よりも大きいため、この粉砕は粗粉砕と呼ばれることがある。次いで、粗粉砕された粉末は、ボールミルアトライタ(湿式粉砕)、ジェットミル(乾式粉砕)等の粉砕機を用いて1〜10μm程度まで粉砕する。この粉砕は得られる粉末が微細であることから微粉砕と呼ばれることがある。微粉砕で得られた粉末は、磁場中で成形した後、焼結、時効熱処理を経てR−T−B系焼結磁石となる。
上記微粉砕において、ジェットミルは、ボールミルアトライタのように粉砕メディアを使用しないため、不純物の混入を極力低減することができる。また、サイクロンを用いて分級することができるため、粒度分布の狭い粉末が得られる。このような利点から、R−T−B系焼結磁石の製造には、専らジェットミルが用いられており、特許文献1にはR(Rは希土類元素の1種以上)、FeおよびBを含有し、粒度分布の幅d90−d10(ただし、d10、d90はそれぞれ粒度累積分布の10%、90%の粒径である)が6〜10μm、平均粒径d50が2〜10μm 、焼結体酸素量が4000〜10000ppmであるR−T−B系焼結磁石を、衝突旋回型のジェットミルを用いて得られる磁石粉を焼結、熱処理して得ることが開示されている。
特許文献1には、粉砕のメカニズムを詳細に研究した結果、磁石粉の生成過程には塊が衝突によって粉砕される「破砕」と、磁石粉同士が相互の摩擦等によって粉砕される「摩砕」のあること、さらに、摩砕によるよりも破砕による方が磁石粉として良好な磁気特性を示すことを知見したことが開示されている。そして、摩砕に更に破砕の機能を備えた衝突旋回型のジェットミルを用いることにより、分級等の工程を経て歩留りを低下させることなく、粒度分布のシャープな磁石粉をより容易に得ることが可能であるとしている。旋回摩擦型の粉砕機の場合では、粉砕は主に粒子同士の摩擦により、表面から砕けていくため微粒子が多くなると共に粗大粒子が残る。それに対して衝突旋回型のジェットミルの場合は、旋回による摩砕の前に、衝突板に衝突させる破砕工程が入ることにより、粗粉が予備粉砕され、粉砕の進行を容易にし、その結果粗大粒子及び微粒子を低減していると解される。
特開平5−135930号公報
R−T−B系焼結磁石の磁気特性向上のために、様々な検討がなされてきた。その一つとして、磁石中に含まれる酸素量を低減する検討が行われている。酸素が多く含まれていると、酸化されやすいNdが酸化物を形成することにより磁気特性向上に必要なNdが消費されてしまうからである。焼結磁石中の酸素量を低減するためには、上記した各製造工程を行う雰囲気の酸素量を低減すればよいことは言うまでもない。例えば、ジェットミルを用いた粉砕時には粉砕雰囲気中に含まれる酸素量を低減する必要がある。通常、ジェットミルは、窒素ガス等の非酸化性ガスを用いて気流を生じさせているが、この非酸化性ガス中には不純物として酸素が含まれている。低酸素量の磁石を製造する場合には、非酸化性ガス中に含まれる酸素濃度を例えば500ppm以下とする。さらに他の工程の雰囲気における酸素濃度を制御すれば、酸素量が3000ppm以下のR−T−B系焼結磁石を得ることができる。
本発明者は、このように酸素量が低減されたR−T−B系焼結磁石を、いくつかの異なるジェットミルを用いて得た微粉末を用いて作製したところ、微粉末を得たジェットミルによって磁気特性が相違することがあった。これでは、酸素量を低減した効果を享受することができない。ところがこの傾向は、焼結磁石中の酸素量が3000ppmを超える従来のレベルでは現れず、酸素量を低減した磁石に固有の問題といえる。
以上のように、使用したジェットミルのタイプによって磁気特性が異なることから、得られた微粉末の性状に何らかの差異があるものと理解されるところ、本発明は、酸素量が低減されたR−T−B系焼結磁石を得る際に、高い磁気特性を得ることができるR−T−B系焼結磁石用合金粉末を提供することを目的とする。また本発明は、そのようなR−T−B系焼結磁石用合金粉末を製造する方法を提供することを目的とする。また本発明は、そのようなR−T−B系焼結磁石用合金粉末を用いて磁気特性の高いR−T−B系焼結磁石を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するべく、磁気特性の異なるR−T−B系焼結磁石の製造に供した微粉末の性状を丹念に観察した。ここで、これら微粉末の化学組成及び粒度に関する条件は一致している。その結果、より微小な粒子同士が融着したと判断される粒子が多く含まれる粉末を用いて作製されたR−T−B系焼結磁石は磁気特性が劣ること、及び粒子同士が融着した粒子が多く含まれる粉末は粒子同士の摩粋により粉砕を行うカウンタ型ジェットミルで生成されやすいことを確認した。微粉末は理想的には一磁区異方性を有すべきであるが、複数の粒子が融着することにより、一つの粒子が複数の磁区の方向を有する多磁区化が進行する。このように多磁区化された粒子を多く含む粉末を磁場中成形すると、配向が十分になされないことになる。その結果、磁気特性、特には残留磁束密度が低下することになる。また、粒子同士の融着が繰返して生成された粒子は粗大になり、焼結性が劣り、また得られた焼結磁石の中に粗大な結晶粒が存在することにより保磁力を低下させる。
ジェットミルによる磁気特性の低下が低酸素のR−T−B系焼結磁石を製造する場合に固有の問題であることは前述の通りである。つまり、低酸素のR−T−B系焼結磁石を製造する場合に、粉砕過程中における粒子同士の融着が顕著になると解される。これは、以下の理由によるものと推察している。すなわち、粉砕により表面に形成された破断面は非常に活性であり、かつ粉砕雰囲気の酸素濃度が低いために、活性な破断面同士が衝突により融着しやすくなっているのである。これに対して粉砕雰囲気中の酸素濃度が比較的多い場合は、粉砕により活性な面が生成しても、その面が酸化することにより融着が生じにくかったのである。
そこで本発明では、粒子同士の衝突によって粉砕するカウンタ型ジェットミルを用いるのではなく、粒子を衝突板に衝突させて粉砕する衝突型ジェットミルを用いることにした。衝突型ジェットミルを用いれば、粒子同士の衝突の可能性が低いために融着の確率が低く、得られた粉砕粉末に含まれる多磁区粒子の数は少なくなる。この微粉末を用いれば、配向度を向上することができる。
したがって本発明によれば、R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石を製造するための合金粉末であって、酸素量が3000ppm以下で、かつ粉末全体に対する多磁区粒子の個数が30%以下であるR−T−B系焼結磁石用合金粉末を提供する。後述する実施例に示すように、多磁区粒子の個数が30%以下であるR−T−B系焼結磁石用合金粉末を用いると、R−T−B系焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
本発明における合金粉末は、微粉末と通常称されているもので、平均粒径(d50)が1〜10μmの範囲にある。なお、d50は粒度累積分布の50%の粒径である。
また本発明における合金粉末は、R−T−B系焼結磁石の全般にと起用することができるが、Rが27.0〜32.0wt%、Bが0.5〜1.5wt%、残部実質的にTからなる組成に対して最も有効である。低酸素量のR−T−B系焼結磁石には、この範囲の組成が採用されているからである。
さらに本発明における合金粉末は、異なる組成を有する複数の合金粉末の混合物である場合、又は単一組成の合金粉末からなる場合の両者を含む概念を有している。
以上のR−T−B系焼結磁石用合金粉末を好適に製造する方法を本発明は提供する。この製造方法は、R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石を製造するための合金粉末の製造方法であって、原料合金塊を所定粒度まで粉砕して第1の粉砕粉末を得る工程と、衝突式ジェットミルを用い、かつ酸素濃度が500ppm以下の粉砕雰囲気で第1の粉砕粉末をさらに粉砕して第2の粉砕粉末を得る工程と、を備えることを特徴としている。
衝突式ジェットミルを用いる本発明によれば、第2の粉砕粉末は、複数の粒子が融着して形成された融着粒子の数を、全体に対して30%以下とすることができる。なお、衝突式ジェットミルにおいて粉末を衝突させる衝突板はセラミックスで構成することが望ましい。
また本発明は、以上説明した合金粉末を用いて焼結磁石を製造する方法を提供する。この製造方法は、R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石を製造する方法であって、酸素量が3000ppm以下で、かつ粉末全体に対する多磁区粒子の個数が30%以下である合金粉末を、磁場中で成形して成形体を得る工程と、成形体を所定温度に所定時間保持して焼結体を得る工程と、を備えることを特徴としている。
用いられる合金粉末は、衝突式ジェットミルを用い、かつ酸素濃度が500ppm以下の粉砕雰囲気で粉砕を行うことにより容易に得ることができる。
以上説明したように、本発明によれば、低酸素量のR−T−B系焼結磁石を製造する場合に、高い磁気特性を得ることができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
<R−T−B系焼結磁石用合金粉末>
はじめに、R−T−B系焼結磁石用合金粉末について説明する。
この合金粉末の具体的な組成は目的に応じ選択されるが、一般的にはR:27.0〜40.0wt%、B:0.5〜4.5wt%、T:残部、の組成を有している。ここで、本発明におけるRはYを含む概念を有しており、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb、Lu及びYの1種又は2種以上である。Rの量が27.0wt%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR2Fe14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが40.0wt%を超えると主相であるR2Fe14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応することにより焼結磁石の酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なR−リッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。そこで、Rの量は27.0〜40.0wt%とする。Ndは資源的に豊富で比較的安価であることから、希土類元素Rとしての主成分をNdとすることが好ましい。本発明は、特に低R組成、つまりRが27.0〜32.0wt%、特に28.0〜31.0wt%の範囲にある場合に有効である。Rが多いとRが酸素と反応して含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なR−リッチ相が減少し、保磁力の低下を招くからである。
ホウ素Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。ただし、ホウ素Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、上限を4.5wt%とする。好ましいホウ素Bの量は0.5〜1.5wt%である。
さらに、保磁力を改善するために、Mを加えてR−T−B−M系のR−T−B系焼結磁石とすることもできる。ここで、Mとしては、Al、Cr、Mn、Mg、Si、Cu、C、Nb、Sn、W、V、Zr、Ti、Mo、Bi、Ag及びGaなどの元素を1種又は2種以上添加することができる。
本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末は、酸素量を3000ppm以下とする。酸素量が多いと、得られる焼結磁石中に非磁性成分である酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。そこで本発明では、酸素量を、3000ppm以下、好ましくは2000ppm以下、さらに好ましくは1500ppm以下とする。酸素量をこのような範囲にするには、後述するように、R−T−B系焼結磁石用合金粉末を製造する工程の雰囲気中の酸素濃度を低くする必要がある。
本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末は、粉末全体に対する多磁区粒子の個数が30%以下である。多磁区粒子の個数を30%以下にすると、後述する実施例にも示すように、保磁力(Hcj)及び残留磁束密度(Br)ともに向上させることができる。多磁区粒子の個数は、好ましくは25%以下、さらに好ましくは15%以下である。なお、本発明において、粒子の集合を粉末と捉えている。
複数の粒子が融着により結合した場合に多磁区粒子が形成される。多磁区粒子を形成した個々の粒子が各々単磁区粒子を構成していたとしても、それらがランダムに結合するために多磁区粒子となってしまう。カウンタ型ジェットミルは、粒子同士を強制的に衝突させるため、多磁区粒子の発生する確率が高くなるのである。
粒子同士が融着しているか否かは、例えばSEM(走査型電子顕微鏡)によって粒子を観察することにより容易に判断することができる。図1は本発明で推奨する衝突型ジェットミルで得られた粉末の粒子をSEMにより観察した像を、図2はカウンタ型ジェットミルで得られた粉末の粒子をSEMにより観察した像を示している。図1の粒子Pはその表面が破断面であるために平滑であるのに対して、図2の粒子Pは粒子が融着した痕跡として表面に凹凸が存在している。また、図3は偏光顕微鏡によりカウンタ型ジェットミルで得られた粉末の粒子を観察したときの像を模式的に示す図であるが、融着した粒子同士の境界Bを確認することができる。
R−T−B系焼結磁石を作製する方法には、用いる合金粉末の観点から区別すると2つの方法が存在する。1つは、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石と実質的に同一の組成を有する単一種の合金粉末を用いる方法である。この方法を単一法と呼ぶ。他の1つは、複数種、典型的には2種類の合金粉末を混合して用いる方法である。この方法を混合法と呼ぶ。2種類の合金粉末を混合した状態で、最終的に得られるR−T−B系焼結磁石と実質的に同一の組成を有することになる。2種類の合金粉末は、主相(R214B)形成用の低R合金と、低R合金よりRを多く含む粒界相形成用の高R合金である。
本発明は、単一法及び混合法の両者について適用することができる。単一法に適用した場合には、本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末は1種類の合金粉末から構成される。混合法に適用した場合には、本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末は、異なる組成を有する2種類以上の各合金粉末として捉えることもできるし、異なる組成を有する2種類以上の合金粉末の混合物として捉えることもできる。この場合に重要なのは、主相(R214B)形成用の低R合金粉末に対して本発明が適用されていることである。磁性を担う主相が磁場中成形により配向される必要があるからである。
本発明によるR−T−B系焼結磁石用合金粉末は、所謂微粉砕を経た後の状態の粉末で実現されている必要がある。微粉砕されたか否かはその粒径で特定することができる。つまり、合金粉末の平均粒径(d50)が1〜10μmの場合には、通常、微粉砕された粉末と認識することができる。この平均粒径は、R−T−B系焼結磁石において高い磁気特性を得るためには2〜8μm、さらには3〜5μmとすることが好ましい。
<R−T−B系焼結磁石用合金粉末の製造方法>
本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末を製造するための好ましい方法について説明する。
前述したように、本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末は、衝突型ジェットミルにより微粉砕粉末を得ることができる。ジェットミルで粉砕する場合に、予め所定の粒径の粉砕粉末(第1の粉砕粉末)を用意する必要がある。通常、原料合金は、インゴット、ストリップ等の原料合金塊の形態をなしており、これをいきなりジェットミルで粉砕することは困難である。そこで、この原料合金塊を所定の粒径、例えば500〜1000μm程度の粒径まで粉砕する。この粉砕は、水素吸蔵による粉砕、スタンプミル、ブラウンミル等の粉砕機による粉砕を単独又は組み合せて行うことができる。通常、この段階の粉砕を粗粉砕と呼び、得られた粉末を粗粉末と呼んでいる。粗粉末を0.1〜1.0μmの粒径まで粉砕して微粉末(第2の粉砕粉末)を得るのがジェットミルの役割である。ジェットミルによる微粉砕を行う際に、微粉砕時の粉砕性の向上及び磁場中成形時の潤滑及び配向性の向上を目的とした脂肪酸又は脂肪酸の誘導体、例えば、ステアリン酸系やオレイン酸系であるステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の助剤を添加することが好ましい。なお、この助剤を添加するタイミングは、微粉砕前、微粉砕中、微粉砕後のいずれであってもよく、限定されるものではない。
本発明のように、衝突型ジェットミルを用いると、粒子同士の融着が抑制されるため、所望の粒度を得るまでの粉砕時間が短縮されるという効果を奏する。これに対してカウンタ型ジェットミルを用いると、粒子同士が融着して粒子が粗大化するために、所望の粒度を得るまでの粉砕時間がかかってしまうか、あるいは粗大な粒子が存在するために、焼結後に粗大な結晶粒が生成することにより保磁力を低下させる。このような粗大な粒子を抑制するために、粒子を分級する機能を備えた装置を粉砕機に付加することもできる。
ジェットミルは、その粉砕機構により2つに区分することができる。1つは本発明が適用する衝突型ジェットミル、他の1つはカウンタ型ジェットミルである。既に説明したように、衝突型ジェットミルを用いると、複数の粒子が融着することによる多磁区粒子の発生を抑制することができる。なお、特許文献1に記載された衝突旋回型ジェットミルは、衝突による粉砕はあくまで予備的なものであり、微細な粉末を得るためには依然として粒子同士の衝突を利用しているため、粒子同士の衝突が行われている。
本発明では、酸素量低減の観点から、粉砕雰囲気中の酸素濃度を500ppm以下とする。酸素濃度は、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。なお、ジェットミルは、窒素ガス等の非酸化性ガスにより粉末を加速するため、これら非酸化性ガス中に含まれる酸素濃度を低減することにより、粉砕雰囲気中の酸素量を低減することができる。
酸素量低減の観点からは、そもそも原料合金の酸素量を低減すること、粗粉砕による酸素量の増加を抑制する必要があることは言うまでもない。
また、衝突型ジェットミルにおいて、粉末を衝突させる衝突板は、セラミックスで構成することが望ましい。セラミックスの中では、窒化珪素又は炭化珪素を用いることが望ましい。耐磨耗性にすぐれるとともに、衝突した粒子の融着が少ないからである。
<R−T−B系焼結磁石の製造方法>
本発明のR−T−B系焼結磁石用合金粉末を用いて焼結磁石を製造する好適な方法について説明する。なお、R−T−B系焼結磁石用合金粉末を製造する部分については上述したので、以下では他の部分について説明する。
R−T−B系焼結磁石を得るための原料合金は、例えば、ストリップキャスト法により得ることができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。ストリップキャスト法によって得られた薄板又は薄片(鱗片)状の原料合金は、厚みが0.05〜3mm、柱状結晶粒の平均径が1〜50μmであることが好ましい。平均径が1μm未満になると粉砕後に多磁区粒子が増加し、また50μmを超えると粉砕性が劣化する。
粉砕し難い金属間化合物(R2Fe14B)を含む原料合金は、水素吸蔵させて粉砕を容易にすることが望ましい。
水素吸蔵は、原料合金を常温下で水素含有雰囲気に曝すことにより行うことができる。水素吸蔵反応は発熱反応であるため、温度上昇に伴って吸蔵水素量が低下することを防止するために、反応容器を冷却する等の手段を適用してもよい。
水素吸蔵が終了した後に、水素吸蔵が行われた原料合金を加熱保持する脱水素処理を施すことができる。この処理は、焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは350℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。脱水素処理は、真空中又はArガスフロー中にて行う。
以上の水素吸蔵により粉砕された原料合金を、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いて粗粉砕する。この粗粉砕は非酸化性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。
以上で得られた粗粉末をジェットミルにて平均粒径1〜10μm程度まで微粉砕する。微粉砕については上述の通りである。
次に、得られた微粉末は磁場中成形に供される。この磁場中成形は、12〜20kOe(960〜1600kA/m)前後の磁場中で、0.3〜3.0t/cm2(30〜300MPa)前後の圧力で行えばよい。本発明によるR−T−B系焼結磁石用合金粉末は、多磁区粒子の存在割合が30%と低いため、この磁場中成形において高い配向性を得ることができる。
磁場中成形後、その成形体を真空又は非酸化性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1100℃で1〜10時間程度焼結すればよい。焼結工程の前に成形体に含まれている粉砕助剤、ガスなどを除去する処理を行ってもよい。焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行う場合には、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での熱処理を焼結後に行うと、保磁力が増大する。また、600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行う場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
本発明によるR−T−B系焼結磁石用合金粉末を用いると、成形体の配向性が高いため、得られる焼結体磁石の残留磁束密度は高い値を示す。また、融着して粒径の大きくなった粒子が少ないため、焼結性が優れ、ひいては高い保磁力を得ることができる。
焼結体を得た後に、保護膜を形成することが望ましい。R−T−B系焼結磁石は耐食性が劣るからである。保護膜の形成は、保護膜の種類に応じて公知の手法に従って行えばよい。例えば、電解メッキの場合には、焼結体加工、バレル研磨、脱脂、水洗、エッチング(例えば硝酸)、水洗、電解メッキによる成膜、水洗、乾燥という常法を採用することができる。
以下本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
28.5wt%Nd−3.5wt%Dy−0.4wt%Al−1wt%B−残Feの組成を有する厚さ500μmの原料合金をストリップキャストにより作製した。なお、この組成は、磁気特性の向上を目指した低R組成に該当する。
得られた原料合金に水素吸蔵処理を行った後に、以下の2種類のジェットミルにより、微粉末の狙い粒径が6μm(d50)とする粉砕を行った。ここでの粉末粒径はレーザー回折式粒度分布計(Malvern Instrument 社製 Mastersizer)にて測定した。なお、粉砕雰囲気の酸素濃度は200ppmとした。また、各ジェットミルの衝突板は、窒化珪素により構成した。
(1)衝突型ジェットミル:IDS型(日本ニューマチック工業(株)製)
(2)カウンタ型ジェットミル:PJM型(日本ニューマチック工業(株)製)
得られた微粉末を、酸素濃度を200ppmに管理した成形機を用いて、1500kA/mの磁場中で49MPaの圧力で成形した。この成形体を大気に接触させることなく焼結炉に移送し、真空中において1050℃で4時間保持する焼結を行った。得られた焼結体に真空中で時効処理(900℃×1時間+540℃×1時間)を施してR−T−B系焼結磁石を得た。
得られたR−T−B系焼結磁石の磁気特性及び酸素量を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1には、多磁区粒子の比率(個数)、ジェットミルにおける粉砕効率もあわせて示している。多磁区粒子の比率は、以下のように求めた。ジェットミルで粉砕された微粉末を樹脂に埋め込み、粉末粒子が露出するまで研磨後、偏光顕微鏡にて観察する。そして、1cm2当たりに存在する粒子数に対する多磁区粒子をカウントする作業を5回繰り返し、それを平均した値を多磁区粒子の比率とした。粉砕効率は、衝突型ジェットミル(IDS型)における単位時間あたりに狙い粒径(d50=6μm)に粉砕処理が可能な量を1.00とする指数で表している。
Figure 2005179749
表1に示すように、衝突型ジェットミルにより得られた粉末の多磁区粒子は30%以下の比率であるのに対して、カウンタ型ジェットミルにより得られた粉末の多磁区粒子の比率は30%を超えており、カウンタ型ジェットミルにより粉砕されると粒子同士の融着が多くなることがわかる。得られたR−T−B系焼結磁石の磁気特性を比較すると、多磁区粒子の比率が少なくなると残留磁束密度(Br)及び保磁力(Hcj)がともに向上することが確認された。また、衝突型ジェットミルを用いることにより粉砕効率を向上できることも確認された。なお、得られたR−T−B系焼結磁石の酸素量が1000ppmであることから、ジェットミルで粉砕された後の微粉末の酸素量はそれ以下であることがわかる。
原料合金の組成を30.8wt%Nd−1wt%Dy−0.3wt%Al−1wt%B−残Feとする点、ジェットミルによる微粉末の狙い粒径を5μmとする点を除いて実施例1と同様にしてR−T−B系焼結磁石を得るとともに、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
Figure 2005179749
表2に示すように、実施例2においても、衝突型ジェットミルにより得られた粉末の多磁区粒子は30%以下の比率であること、多磁区粒子の比率が少なくなると残留磁束密度(Br)及び保磁力(Hcj)がともに向上すること、さらに衝突型ジェットミルを用いることにより粉砕効率を向上できることが確認された。
原料合金の組成を29.8wt%Nd−1wt%Dy−0.2wt%Al−1wt%B−残Feとする点、ジェットミルによる微粉末の狙い粒径を4μmとする点、粉砕雰囲気中の酸素濃度を100ppm以下とする点を除いて実施例1と同様にしてR−T−B系焼結磁石を得るとともに、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2005179749
表3に示すように、実施例3においても、衝突型ジェットミルにより得られた粉末の多磁区粒子は30%以下の比率であること、多磁区粒子の比率が少なくなると残留磁束密度(Br)及び保磁力(Hcj)がともに向上すること、さらに衝突型ジェットミルを用いることにより粉砕効率を向上できることが確認された。
また、表1〜表3に示す結果を比較すると、ジェットミルにより粉砕された微粉末の粒径が小さくなるほど、多磁区粒子の比率が多くなることがわかる。磁気特性の高いR−T−B系焼結磁石を得るためには、結晶粒を微細にする必要があり、そのためには微粉砕後の微粉末の粒径を小さくすることが望まれる。したがって、本発明によれば、微細結晶粒によるR−T−B系焼結磁石の高磁気特性の実現にも寄与する。さらに、表3に示すように、衝突型ジェットミルを用いるとカウンタ型ジェットミルを用いた場合よりも20%、あるいは30%も粉砕効率が高いため、本発明は高い磁気特性のR−T−B系焼結磁石製造に当ってコスト低減を図ることもできる。
衝突型ジェットミルにより粉砕された粒子のSEM像を示す写真である。 カウンタ型ジェットミルにより粉砕された粒子のSEM像を示す写真である。 カウンタ型ジェットミルにより粉砕された粒子を偏光顕微鏡で観察したときの像をスケッチした図である。

Claims (9)

  1. R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石を製造するための合金粉末であって、
    酸素量が3000ppm以下で、かつ粉末全体に対する多磁区粒子の個数が30%以下であることを特徴とするR−T−B系焼結磁石用合金粉末。
  2. 前記合金粉末の平均粒径(d50)が1〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石用合金粉末。
  3. 前記合金粉末は、Rが27.0〜32.0wt%、Bが0.5〜1.5wt%、残部実質的にTからなる組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のR−T−B系焼結磁石用合金粉末。
  4. 前記合金粉末は、異なる組成を有する複数の合金粉末の混合物又は単一組成の合金粉末からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のR−T−B系焼結磁石用合金粉末。
  5. R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石を製造するための合金粉末の製造方法であって、
    原料合金塊を所定粒度まで粉砕して第1の粉砕粉末を得る工程と、
    衝突式ジェットミルを用い、かつ酸素濃度が500ppm以下の粉砕雰囲気で前記第1の粉砕粉末をさらに粉砕して第2の粉砕粉末を得る工程と、を備えることを特徴とするR−T−B系焼結磁石用合金粉末の製造方法。
  6. 前記第2の粉砕粉末は、複数の粒子が融着して形成された融着粒子の数が全体に対して30%以下であることを特徴とする請求項5に記載のR−T−B系焼結磁石用合金粉末の製造方法。
  7. 前記衝突式ジェットミルが備える粉末の衝突板は、セラミックスから構成されることを特徴とする請求項5又は6に記載のR−T−B系焼結磁石用合金粉末の製造方法。
  8. R−T−B(ただし、Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCoを必須とする1種又は2種以上の遷移金属元素)系焼結磁石を製造する方法であって、
    酸素量が3000ppm以下で、かつ粉末全体に対する多磁区粒子の個数が30%以下である合金粉末を、磁場中で成形して成形体を得る工程と、
    前記成形体を所定温度に所定時間保持して焼結体を得る工程と、
    を備えることを特徴とするR−T−B系焼結磁石の製造方法。
  9. 前記合金粉末は、衝突式ジェットミルを用い、かつ酸素濃度が500ppm以下の粉砕雰囲気で粉砕を行うことにより得られたものであることを特徴とする請求項8に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
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