従来、LSI製造の配線工程で形成される層間絶縁膜には、シリコン酸化膜が用いられてきた。それに対して、近年、ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductor)ロードマップに見られるLSIの微細化及び配線形成工程における配線容量の低減を目的として、層間絶縁膜の低誘電率化への要求が大きくなっている。この要求を満たすため、従来のシリコン酸化膜(誘電率k=4.2)に代えて、膜中に炭素原子又はメチル基を含むようなSiOC(k≦3.5)膜が用いられるようになってきた。
このような膜中に炭素原子を含むSiOC膜のパターニングを図11に示す従来のドライエッチング装置を用いて行った場合、以下に述べるような問題点が生じる。
図13(a)、(b)及び(c)は、従来のドライエッチング装置を用いたSiOC膜エッチングにおける問題点を説明するための図である。
従来のドライエッチング装置を用いてエッチングを行う場合、図13(a)に示すように、基板30の上にエッチング対象物であるSiOC膜31を形成し、更にその上に、例えばホール形成領域に開口部のあるレジストパターン32を形成する。ここで、レジストパターン32の開口部の幅(リソグラフィ後寸法)はD0である。その後、図13(b)に示すように、レジストパターン32をマスクとしてSiOC膜31に対してエッチングを行ない、SiOC膜31をパターン化する。このようにすると、SiOC膜31にはホール33が形成される。ここでホール33の底部の径(ドライエッチング後寸法)はD1である。
ところが、従来のドライエッチング装置を用いた場合、図13(b)に示すように、SiOC膜31のエッチング形状(エッチングにより形成されたホール33の断面形状)が所望の垂直形状にならずにテーパ形状になってしまう。その結果、ホール33の底部の寸法D1がD0より小さくなって所望の抵抗が得られないという問題が生じる。また、よりテーパ形状が進行すると、図13(c)に示すように、エッチング途中でエッチングが止まってしまってホール33が基板30に到達しなくなるという現象であるエッチストップ現象の問題も生じる。
前記に鑑み、本発明は、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることを目的とする。
前記の目的を達成するために、本願発明者らは、SiOC膜ドライエッチングを従来のドライエッチング装置を用いて行った際に、ホール底部の寸法が小さくなったり又はエッチストップが生じたりする原因を検討した。結果として次のような知見を得た。
従来のドライエッチング装置が支障なく利用されていた、コンタクトホール形成における酸化膜エッチングでは、エッチング対象物である酸化膜から酸素原子が発生する。エッチングに際し、ホール底部にはプラズマから供給された炭素を含むポリマーCxFyが堆積するが、該ポリマーは前記酸素原子によって除去されるためにエッチングが進行していた。
これに対して、従来のドライエッチング装置の使用によって問題が生じるSiOC膜エッチングでは、SiOC膜中には酸化膜中に比べて酸素原子が少ないことから、酸化膜エッチングの場合に比べて膜から供給される酸素が少ない。その上、SiOC膜中に炭素が含まれるために、プラズマから供給される炭素に加えてエッチング対象物からも炭素が供給さる。このように酸素の供給量が少なく且つ炭素の供給量が多いことから、ホール底部の炭素とフッ素との比(C/F比)が、酸化膜の場合と比べて大きくなる。結果として、ホール底部でのエッチングが十分に進行せず、ホール底部の寸法の縮小化、又はエッチストップが生じるのである。
ここで、従来のドライエッチング装置の一例として、Siフォーカスリングによってフッ素ラジカルをスカベンジすることで、反応室内のC/F比を高める機能を有するドライエッチング装置がある。本願発明者らは、コンタクトホール形成を前提として、前記機能を有するドライエッチング装置を用いて炭素原子又はメチル基を含むSiOC膜のエッチングを行なった場合に、前記の各問題が顕著に生じてしまうことを見出した。すなわち、この場合、フッ素ラジカルがSiフォーカスリングによってスカベンジされて減少しているために、より顕著にフッ素ラジカルつまりエッチャント(エッチング種)が不足し、ポリマー堆積の原因となる炭素原子又は炭素原子を含むラジカルつまりデポ種が過剰となる。その結果、反応室内においてC/F比が大きくなり過ぎるため、ホール底部寸法が縮小化したり又はエッチストップが生じたりするという問題が顕著に起こる。このことを本願発明者らは見出したのである。
この発見に基づき、本願発明者らは、ドライエッチング装置のフォーカスリングの表面積をエッチング対象物に応じて調節することによって、前記の問題を解決するという着想を得た。具体的には、プラズマ中のフッ素ラジカルをスカベンジするSiフォーカスリングの表面積を、エッチング対象物から発生する炭素の量に応じて変更する。このようにすれば、フォーカスリングによってスカベンジされるエッチャントの量を調節できるため、エッチング対象物上におけるC/F比を最適化できる。C/F比を最適化できれば、ホール底部寸法の縮小とエッチストップとを防止することが可能になる。以上のような着想である。
これに合わせて、本願発明者らは、次のような着想も得た。すなわち、酸素を含んだ材料、例えば石英(SiO2)からフォーカスリングを構成し、該フォーカスリングとプラズマ中のエッチャントとの反応によって、該フォーカスリングから酸素原子を反応室内のプラズマ中に供給する。そして該酸素原子をプラズマ中で炭素原子と結合させてCOxとして除去することで、炭素原子量を減少させ、C/F比を制御するという着想である。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものである。具体的には、本発明に係る第1のドライエッチング装置は、反応室内の電極上にエッチング対象物を囲むように配置されるフォーカスリングを備えたドライエッチング装置を前提とし、フォーカスリングはエッチング対象物から発生する炭素の量に応じた表面積を持つ。
第1のドライエッチング装置によると、フォーカスリングがエッチング対象物からの炭素原子の発生量に応じた表面積を持つため、エッチング対象物からの炭素原子の発生量に応じてプラズマ中のエッチャントがスカベンジされる量を制御できる。具体的には、エッチング対象物からの炭素原子の発生量が大きくなるに従って、より表面積の小さいフォーカスリングを用いることによって、エッチャントのスカベンジ量を低減する。逆に、エッチング対象物からの炭素原子の発生量が小さくになるに従って、より表面積の大きいフォーカスリングを用いることによってエッチャントのスカベンジ量を増大させる。このようにエッチャントのスカベンジ量を調節することでC/F比を制御することが可能になっている。従って、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
尚、本発明の全てのドライエッチング装置において、フォーカスリングの内側面と、エッチング対象物(例えばSiOC膜等)が形成された基板(ウェハ)の端部とが接するように、フォーカスリングが電極上に設けられることを前提とする。言い換えると、本発明のフォーカスリングは、その中心部にウェハの口径に対応する開口部を持つ。従って、本明細書において、フォーカスリングの表面積とは、特に断らない限り、フォーカスリングにおける反応室内のプラズマ中に露出する部分の面積を意味し、これは、エッチング対象物を囲むフォーカスリングの上面及び外側面の面積に相当する。
第1のドライエッチング装置において、フォーカスリングはシリコンを主成分とすることが好ましい。
このようにすると、シリコンを主成分とするフォーカスリングはフッ素原子に対するスカベンジ能力が高いため、フッ素原子がエッチャントである場合に、エッチャントのスカベンジを目的とするフォーカスリングとして特に有効である。
尚、本明細書において、「ある材料を主成分とする」とは「ある材料のみから構成される」ことも含むものとする。
本発明に係る第2のドライエッチング装置は、反応室内の電極上にエッチング対象物を囲むように配置されるフォーカスリングを備えたドライエッチング装置を前提とし、フォーカスリングは、酸素を含む材料によって構成されており、且つ、前記エッチング対象物から発生する炭素の量に応じた表面積を持つ。
第2のドライエッチング装置によると、フォーカスリングが酸素を含む材料で構成されることにより、ドライエッチング中にフォーカスリングから酸素原子が発生する。そして、該酸素原子によって、炭素を含むエッチング対象物から発生した炭素原子をスカベンジできる。また、前記フォーカスリングの表面積を変更することにより、フォーカスリングからの酸素の発生量を制御することが可能で、該酸素によってスカベンジされる炭素量も制御できることから、C/F比を制御できる。具体的には、エッチング対象物からの炭素原子の発生量が大きくなるに従って、より表面積の大きいフォーカスリングを用いることでフォーカスリングから発生する酸素原子量を増大させ、該酸素原子によってスカベンジされる炭素原子量を増大させる。逆に、エッチング対象物からの炭素原子の発生量が小さくになるに従って、より表面積の小さいフォーカスリングを用いることでフォーカスリングから発生する酸素原子量を減少させ、該酸素原子によってスカベンジされる炭素原子量を減少させる。このようにして炭素原子のスカベンジ量を調節できることから、C/F比を制御することが可能になっている。従って、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
第2のドライエッチング装置において、フォーカスリングは、酸素を含む材料として、石英(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化イットリウム(Y2O3)のうち少なくとも1つを含む材料より構成されることが好ましいが、特にこれに限るものではない。
このようにすると、エッチング対象物から発生する炭素原子をスカベンジするためにフォーカスリングから酸素原子を発生させることが確実に可能となる。そのため、前述のエッチストップやホール底部寸法の縮小が起こらず、所望のエッチング形状が得られるドライエッチングが確実に可能となる。
本発明に係る第3のドライエッチング装置は、反応室内の電極上にエッチング対象物を囲むように配置されるフォーカスリングを備えたドライエッチング装置を前提とし、フォーカスリングは、あらかじめ準備された異なる半径を持つ複数のリングの中から選択された1つのリング又は2つ以上のリングの組み合わせによって構成され、それによりフォーカスリングはエッチング対象物からの炭素原子の発生量に応じた表面積を持つ。前記複数のリングは、全て同じ材料で構成されていても良いし、互いに異なる材料を主成分とする2以上のリングを含んでいても良い。
第3のドライエッチング装置によると、フォーカスリングは、あらかじめ準備された異なる半径を持つ複数のリングの中から選択された1つのリング又は2つ以上のリングの組み合わせによって構成される。そのような構成であるため、エッチング対象物から発生する炭素原子の量に応じてフォーカスリングの表面積を容易に調節できる。これにより、エッチング対象物から発生する炭素原子の量に応じて、プラズマ中のエッチャント又は炭素原子のスカベンジ量を容易に調節できる。
尚、本明細書において、リングの半径とは、特に断らない限り、所定の幅を持つリングの最外周部の半径(外径)を意味するものとする。
また、第3のドライエッチング装置において、フォーカスリングを構成する複数のリングは、互いに隙間なく組み合わされるものとする。具体的には、小さな半径を持つリングの外側面と、大きな半径を持つリングの内側面とが接するようにリング同士が組み合わされるものとする。
第3のドライエッチング装置において、複数のリングは、互いに異なる材料を主成分とする少なくとも2つのリングを含むことが好ましい。特に、シリコンを主成分とする第1のリングと、シリコン以外の他の材料を主成分とする第2のリングとを含むことがより好ましい。さらに、第2のリングを構成する、その他の材料としては、酸素を含む材料であることがより好ましい。
このようにすると、フォーカスリングは、エッチャントをスカベンジする材料であるシリコンが主成分の第1のリング(複数個あっても良い)と、エッチング対象物から発生する炭素原子をスカベンジする酸素原子を含む材料が主成分の第2のリング(複数個あっても良い)とから構成することができる。このため、第1のリングによってエッチャントをスカベンジでき、また、第2のリングから発生する酸素原子によって、エッチング対象物から発生する炭素原子をスカベンジできる。第1及び第2のリングの表面積は独立に調節できるため、フォーカスリングの表面積に依存するエッチャント及び炭素原子のスカベンジ量を独立に調節することができ、このことからC/F比を制御することができる。
具体的には、エッチング対象物から発生する炭素原子量が大きい場合には、第1のリングの表面積を小さくすることでエッチャントのスカベンジ量を小さくすることができる。また、それとは独立に、第2のリングの表面積を大きくすることで第2のリングから発生する酸素の量を大きくして、該酸素による炭素原子のスカベンジ量を大きくすることができる。逆に、エッチング対象物から発生する炭素原子量が小さい場合には、第1のリングの表面積を大きくすることでエッチャントのスカベンジ量を大きくすることができる。また、それとは独立に、第2のリングの表面積を小さくすることで第2のリングから発生する酸素の量を小さくして、該酸素による炭素原子のスカベンジ量を小さくすることができる。以上のように、フォーカスリングの構成を変えることで、エッチャント及び炭素原子のスカベンジ量が調節できるため、エッチング対象物から発生する炭素原子量に対応してC/F比を調節する事ができる。従って、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが確実に可能となる。
酸素を含む材料としては、石英(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化イットリウム(Y2O3)のうち少なくとも1つの材料を使用すると、本発明の効果が確実に実現できるが、特にこれに限るものではない。
第1〜第3のエッチング装置において、エッチング対象物が炭素原子又はメチル基を含む絶縁膜であると、エッチストップやホール底部寸法の縮小が起こらずに所望のエッチング形状が得られるという本発明の効果が顕著に発揮される。何故なら、このようなエッチング対象物はエッチング時に炭素を発生させるために、従来の装置ではエッチストップやホール底部寸法の縮小が問題となっていたからである。
本発明に係るドライエッチング方法は、反応室内の電極上にエッチング対象物を囲むように配置されるフォーカスリングを備えたドライエッチング装置を用いたドライエッチング方法を前提とし、電極上にエッチング対象物を載置する工程と、前記装置内にガスを導入して該ガスからなるプラズマを発生させ、該プラズマを用いてエッチング対象物に対してドライエッチングを行う工程とを備え、ドライエッチングを行う工程よりも前に、ドライエッチングを行う工程においてエッチング対象物から発生する炭素量に応じてフォーカスリングの表面積を決定し、該決定に従ってフォーカスリングの表面積を調節する工程をさらに備えている。
本発明のドライエッチング方法によると、エッチング対象物からの炭素原子の発生量に応じてフォーカスリングの表面積を決定し、該決定に従ってフォーカスリングの表面積を調節する。このため、エッチング時にプラズマ中のエッチャントをスカベンジする量が制御できる。また、酸素を含む材料で構成されるフォーカスリングを用いる場合には、その表面積を前記の決定に従って調節することで、該フォーカスリングから発生する酸素の量を調節する事ができ、該酸素による炭素原子のスカベンジ量を制御できる。すなわち、エッチャント及び炭素原子のスカベンジ量をそれぞれ制御できることから、C/F比を制御することができる。その結果、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
本発明のドライエッチング方法において、フォーカスリングの表面積を調節する工程は、予め準備された異なる半径を持つ複数のリングの中から1つのリング又は2つ以上のリングの組み合わせを選択し、選択されたリングによってフォーカスリングを構成する工程を含むことが好ましい。
このようにすると、フォーカスリングの表面積の調節を簡単に行うことができる。
また、前記複数のリングは、互いに異なる材料で構成された2以上のリングを含んでいることが好ましく、特に、Siを主成分とする材料から構成されるリングと、酸素を含む材料から構成されるリングの2つのリングを含むことがより好ましい。
このようにすると、フォーカスリングは、エッチャントをスカベンジする材料であるシリコンが主成分の第1のリング(複数個あっても良い)と、エッチング対象物から発生した炭素原子をスカベンジする酸素原子を含む材料が主成分の第2のリング(複数個あっても良い)とから構成することができる。このような構成にすると、第1のリングによってエッチャントをスカベンジでき、また、第2のリングから発生する酸素原子によって、エッチング対象物から発生する炭素原子をスカベンジできる。第1及び第2のリングの表面積は独立に調節できるため、エッチャント及び炭素原子のスカベンジ量を独立に調節することができ、このことから、より広い範囲でC/F比を確実に制御することができる。
具体的には、エッチング対象物から発生する炭素原子量が大きい場合には、第1のリングの表面積を小さくすることでエッチャントのスカベンジ量を小さくすることができる。また、それとは独立に、第2のリングの表面積を大きくすることで第2のリングから発生する酸素の量を大きくして、該酸素による炭素原子のスカベンジ量を大きくすることができる。逆に、エッチング対象物から発生する炭素原子量が小さい場合には、第1のリングの表面積を大きくすることでエッチャントのスカベンジ量を大きくすることができる。また、それとは独立に、第2のリングの表面積を小さくすることで第2のリングから発生する酸素の量を小さくして、該酸素による炭素原子のスカベンジ量を小さくすることができる。以上のように、フォーカスリングの構成を変えることで、エッチャント及び炭素原子のスカベンジ量が調節できるため、エッチング対象物から発生する炭素原子量に対応してC/F比を調節する事ができる。従って、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
尚、エッチング対象物からドライエッチングを行う工程で発生する炭素量に応じ、フォーカスリングの表面積を決定する方法としては、特に限定するものではないが、例えば予め幾つかの条件で実験を行って情報を得ておき、該情報を利用することが考えられる。
具体的には、例えばエッチング対象物である膜の種類(例えばSiOC膜やSiC膜)ごとに、他の条件は固定した上で、使用するフォーカスリングの表面積を変えてエッチングの実験を行う。該実験の結果として得られるフォーカスリングとエッチング形状の関係を情報として蓄積しておけば、該情報に基づいてフォーカスリングの表面積を決定することができる。知見を得ていない種類の膜をエッチングする際は、該膜の化学組成などに基づくと共に、実験済みの種類の膜をエッチングする場合の前記情報を参考にしてフォーカスリングの表面積を決定できる。
前記の膜の種類という条件以外についても、必要となる条件に応じて実験によって情報を得ておけば、フォーカスリングの表面積の決定に利用できる。例えばレジストパターンのパターン開口率や、エッチングに使用する反応性ガスの種類などが条件として考えられるが、その他どんな条件であっても良い。
本発明のドライエッチング方法において、前記のガスは、CF4、CHF3、C4F8、C5F8、C4F6及びC2F6のうちの少なくとも1つのガスを含むものであっても良い。
本発明のエッチング方法は、エッチング対象物が炭素原子又はメチル基を含む絶縁膜であると、エッチストップやホール底部寸法の縮小が起こらずに所望のエッチング形状が得られるという本発明の効果が顕著に発揮される。何故なら、このようなエッチング対象物はエッチング時に炭素を発生させるために、従来の方法ではエッチストップやホール底部寸法の縮小が問題となっていたからである。
本発明によると、エッチング対象物からエッチング時に発生する炭素量に応じてフォーカスリングの表面積が設定されるため、炭素量に応じてエッチャントのスカベンジ量を調節できるので、C/F比の制御が可能になる。従って、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係るドライエッチング装置及びドライエッチング方法について、膜中に炭素原子又はメチル基を含むSiOC膜のエッチングを例として、図面を参照しながら説明する。
図1は第1の実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成を示している。
図1に示すように、反応室101の底部に設けられた下部電極102上に被処理基板150が載置されている。反応室101の天井部には、プラズマを発生させる空間を挟んで下部電極102と対向するように上部電極103が設置されている。反応室101の外側には、下部電極102に例えば13.56MHzの電力を印加する高周波電源104が設けられている。また、反応室101の側部には、反応室101内にプロセスガスを導入するためのガス導入口105と、反応室101からプロセスガスを排出するためのガス排気口106とが設けられている。さらに、下部電極102上には、被処理基板150を囲むようにフォーカスリング107が設けられている。
尚、本実施形態では、エッチング対象物である被処理基板150を載置する電極は、下部電極102として反応室101の底部に設けられている。しかし、エッチング対象物を載置する電極の設置場所については特に限定するものではなく、例えば反応室101の中央にあっても良い。また、本実施形態では、水平にエッチング対象物を載置するような構造で電極が設けられているが、これに代えて例えば垂直にエッチング対象物を載置するような構造で電極が設けられていても良い。
また、図示は省略しているが、被処理基板150上には、例えばシリコン窒化膜を介して、エッチング対象物であるSiOC膜が形成されている。
図2は、図1に示すフォーカスリング107、つまり本実施形態のフォーカスリングの平面構成を示している。
図1及び図2に示すように、本実施形態のフォーカスリング107の特徴は、異なる半径を持つ複数のリング(例えば107a、107b、107c)を同心円状に組み合わせることによって構成されていることである。具体的には、図2は、幅2cm、外径12cmの第1のリング107aと、幅2cm、外径14cmの第2のリング107bと、幅2cm、外径16cmの第3のリング107cとが隙間なく組み合わされることによってフォーカスリング107が構成されている場合の様子を示している。この場合、フォーカスリング107の内側面となる第1のリング107aの内側面と、被処理基板150となる半径10cmのウェハの端部とが接する。また、本実施形態において、各リング107a、107b、107cはいずれもシリコンを主成分とする。
ところで、図2に示す場合、3個のリング107a〜107cを組み合わせることによって、幅6cm、半径(外径)16cmのフォーカスリング107が構成されている。しかし、本実施形態においては、リングの組み合わせ方によって、フォーカスリング107の幅及び半径、つまりフォーカスリング107の表面積を任意に変更することができる。例えば第1のリング107a及び第2のリング107bの2個のリングを組み合わせることによって、幅4cm、半径14cmのフォーカスリング107を構成することもできる。
尚、本実施形態において、フォーカスリング107の表面積とは、フォーカスリング107における反応室101内のプラズマ中に露出する部分の面積であって、これは、被処理基板(ウェハ)150を囲むフォーカスリング107の上面及び外側面の面積に相当する。
図1に示す本実施形態のドライエッチング装置を用いた、膜中に炭素原子又はメチル基を含んだSiOC膜に対するドライエッチング方法の具体的内容は次の通りである。
まず、反応室101内の下部電極102上にエッチング対象物を載置する。
次に、該エッチング対象物からエッチング時に発生する炭素量に応じたフォーカスリング107の表面積を決定し、該決定に従ってフォーカスリング107の表面積を調節する。該決定の方法については後述する。
続いて、C4F8、C5F8又はCF4 等のフルオロカーボンガス(反応性ガス)、Arガス、及び酸素ガスをガス導入口105から反応室101内に供給して、これらのガスからなるプラズマを発生させると共に、該プラズマを用いて被処理基板150上のSiOC膜に対してエッチング加工を行う。このときの具体的なエッチング条件は、例えばC4F8流量が10ml/min(標準状態)、O2流量が5ml/min(標準状態)、Ar流量が400ml/min(標準状態)、チャンバー内圧力が7Pa、プラズマ発生用RF電力が1500W、基板温度が20℃である。
前記のプラズマ中においては、反応室101内に導入されたガスが解離して、デポ種となるCxFyラジカル(フルオロカーボンラジカル)と、エッチャントとなるFラジカル(フッ素ラジカル)とが発生する。また、前記のSiOC膜のエッチングが進行するに伴い、SiOC膜中から炭素原子が発生する。
発生した前記フッ素ラジカルは、フォーカスリング107に含まれるシリコンと反応してスカベンジされる。このためプラズマ中のフッ素ラジカルは実質的に減少する。ここで、フッ素ラジカルの減少は、フォーカスリング107とフッ素ラジカルとの反応によって起こるものであるため、フッ素ラジカルの減少量はフォーカスリング107の表面積に比例する。従って、デポ種に含まれる炭素量とSiOC膜から発生する炭素量との総量の、エッチャント量(フッ素ラジカル量)に対する比(C/F比)は、フォーカスリング107の表面積を大きくすればそれに対応して大きくなる。逆に、フォーカスリング107の表面積を小さくすれば、スカベンジされるフッ素量が減少し、C/F比は小さくなる。
以下に、フォーカスリングの表面積の決定方法について詳細に説明する。
図3は、本実施形態と同様のエッチング条件下で、Siフォーカスリングの半径を変化させた場合のC/F比の変化の様子を調べた結果を示している。図3において、横軸はフォーカスリング半径(外径)を示し、縦軸はC/F比を示している。また、図3に示すC/F比は、エッチング対象物であるSiOC膜又は酸化膜のパターン開口率が10%である場合に、被処理基板である半径10cmのウェハの中心部上において得られた値である。
尚、被処理基板が半径10cmのウェハである場合、フォーカスリング半径は常に10cmよりも大きくなる。
図3に示すように、エッチング対象物が酸化膜であり、且つ、Siフォーカスリングの半径が18cmの場合、C/F比は8程度である。これに対し、同じく図3に示すように、同一のエッチング条件でSiOC膜のドライエッチングを行った場合には、エッチング対象物が酸化膜である場合に比べてC/F比は約1.5倍になっている。これはSiOC膜からの炭素の発生によって炭素が増加するためである。この結果、ホール底において炭素量が過剰になるためにエッチストップが発生する。
そこで、フォーカスリング半径を小さくしていくと、エッチストップは解消され、ホール断面形状はテーパ形状を経て垂直形状に変化していく。これは、フォーカスリング半径が小さくなるに従って、SiOC膜のエッチャントであるフッ素ラジカルのスカベンジ量が減少するため、プラズマ中のフッ素濃度が増加してC/F比が小さくなるということに起因する。すなわち、SiOC膜のエッチング形状はSiフォーカスリングの半径に依存して変化する。そして本実施形態と同様のエッチング条件下においては、図3に示すように、Siフォーカスリングの半径が12cmから15cmまでのときに、望みのエッチング形状である垂直形状が得られる。
尚、図4(a)、(b)及び(c)は、いずれも被処理基板150上のSiOC膜151上にホール形成領域に開口部を持つレジストパターン152を形成し、該レジストパターン152をマスクとしてドライエッチングを行なった結果を示す。エッチングの結果としてホール153がSiOC膜151に形成されている。個別に説明すると、図4(a)では、ホール153が被処理基板150に到達していない場合、つまりSiOC膜151のエッチング中にエッチストップが発生した場合の様子を示している。図4(b)は、ホール153が被処理基板150に届いているのだが、つまりエッチストップは発生していないのだが、エッチング形状がテーパ形状になった場合の様子を示す。図4(c)は、ホール153が被処理基板150に到達し、且つ、エッチング形状が望みの形状である垂直形状となった場合の様子を示す。
図5は、エッチング対象物をSiO2膜、SiOC膜またはSiC(炭化シリコン)膜とした際の、それぞれの膜においてホールの垂直形状を実現するために必要なフォーカスリング半径の範囲を調べた結果を示している。図5に示す結果は本実施形態と同様のエッチング条件下で得られたものである。
図5に示すように、膜中に炭素を含む膜のエッチング形状を垂直形状にするためには、膜中に含まれる炭素量が多くなるに従ってフォーカスリング半径を小さくする必要がある。その理由は次の通りである。すなわち、エッチング中にエッチング対象物から発生する炭素量が多くなると、プラズマ中のC/F比が増大し、テーパ形状やエッチストップを引き起こす。このC/F比増大を抑制するには、プラズマ中のフッ素量を増大させる必要がある。フッ素はフォーカスリングにスカベンジされて失われるので、プラズマ中のフッ素量を増大させるには、フォーカスリングの表面積を小さくすることでフッ素のスカベンジ量を少なくする必要があるのである。
図5に示したような情報を予め実験によって得ておけば、垂直なエッチング形状を得るためにフォーカスリングの表面積を具体的に決定する際に、該情報を利用できる。つまり、必要となる条件ごとに、垂直なエッチング形状を得られるようなフォーカスリングの表面積を実験的に求めておくのである。そして、実施する条件に合致するフォーカスリングの表面積を前記情報に基づいて決定すればよい。前記条件としては、例えばエッチング条件、エッチング対象物の種類、レジストパターンのパターン開口率などが考えられるが、その他どんな条件であっても良い。知見を得ていない条件でエッチングする必要がある場合にも、既知の情報を参考にして決定することが可能である。但し、本発明のフォーカスリング表面積の決定方法を該方法に限るというものではない。
前述のように、本実施形態においては、複数のリングの組み合わせ方によってフォーカスリング107の半径(外径)を適切な値に設定することができる。例えばフォーカスリング107が最小半径を持つ第1のリング107aのみからなる場合、フォーカスリング107の表面積が小さいため、フッ素ラジカルのスカベンジ量(減少量)が少なくなり、プラズマ中のフッ素ラジカルが多くなる。このフォーカスリング107の構成は、大きな表面積のフォーカスリングを使用する場合に比べてC/F比が小さくなる構成であり、エッチング対象物に炭素を含むSiOC膜等のドライエッチングに対して有効である。一方、フォーカスリング107が3個のリング107a〜107c全ての組み合わせからなる場合、フォーカスリング107の表面積が大きいため、フッ素ラジカルのスカベンジ量(減少量)が大きくなってプラズマ中のフッ素ラジカルが少なくなる。このフォーカスリングの構成ではC/F比が大きくなるので、エッチング対象物に炭素を含まないSiO2膜等に適した構成となる。
以上に説明したように、第1の実施形態によると、異なる半径を持つ複数のリングの中から選択したリングを組み合わせることで、フォーカスリング107を形成することができる。このため、エッチング対象物の構成材料に応じて、フォーカスリング107の幅及び半径、つまり表面積を簡単に調節することができる。ここで、エッチャントがスカベンジされる量はフォーカスリングの表面積に依存するから、フォーカスリングの表面積が容易に調節できることで、エッチング対象物の構成材料に応じてエッチャントをスカベンジする量が容易に制御できる。従って、エッチングにおいてデポを誘導する炭素を含む炭素ラジカルやCxFyの量と、エッチャント量との比(つまりC/F比)を最適化できる。この結果、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
例を挙げると、図3に示す結果から、エッチング対象物がSiOC膜であって本実施形態と同様のエッチング条件を用いる場合、図2に示すフォーカスリング107から第3のリング107cを取り外すことによって、望み通りの垂直なエッチング形状が得られる。言い換えると、リング107a及び107bの2つのリングの組み合わせからなる半径14cmのフォーカスリング107を用いることにより、望み通りの垂直なエッチング形状が得られる。
また、第1の実施形態では、ホールのドライエッチングを想定していた。しかし、ライン系のドライエッチングにおいても、エッチング対象物からの炭素の発生量によってフォーカスリング107の半径を調節すれば、フッ素ラジカルのスカベンジ量を操作できる。そしてフッ素ラジカルのスカベンジ量の操作によってC/F比を制御することができ、所望のエッチング形状である垂直形状を実現することができる。ここでライン系のドライエッチングとは、ホールのドライエッチングではエッチング対象物に点状のパターンであるホールを形成するのに対し、線状のパターンを形成するドライエッチングのことを言う。言い換えると、エッチング対象物に溝を形成するドライエッチングである。
尚、第1の実施形態において、半径が12cm、14cm、16cmの3種類のリング107a〜107cの組み合わせ方を変えることにより、フォーカスリング107の表面積を調節した。しかし、第1の実施形態において、フォーカスリング107の表面積の調節に用いるリングの個数及び各リングの半径は特に限定されるものではない。但し、フォーカスリング107を構成する各リングは互いに隙間なく組み合わされると共に、このように構成されたフォーカスリング107は、その中心部にウェハ(被処理基板150)の口径に対応する開口部を持つものとする。言い換えると、小さな半径を持つリングの外側面と、大きな半径を持つリングの内側面とが接するようにリング同士が組み合わされると共に、フォーカスリング107の内側面と被処理基板150の端部とが接するようにフォーカスリング107が下部電極102上に設けられるものとする。
また、第1の実施形態において、炭素を膜中に含むSiOC膜エッチングにおいてプラズマ中のエッチャント(フッ素ラジカル)のスカベンジ量を制御するために、フォーカスリング107を構成する各リングの主成分としてシリコンを用いた。しかしながら、エッチング対象物がSiOC膜以外である場合にも、フォーカスリングを構成する各リングの主成分として、当該エッチング対象物のエッチャントのスカベンジ量を制御できる適切な材料を用いることにより、本実施形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、第1の実施形態において、SiOC膜エッチングのための反応性ガス(プラズマ生成用ガス)としてC4F8を用いた。しかし、第1の実施形態において、プラズマ生成用ガスの種類は特に限られるものではなく、プラズマ生成用ガスは、例えばCF4 、CHF3 、C4F8、C5F8、C4F6及びC2F6のうちの少なくとも1つのガスを含むものであってもよい。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係るドライエッチング装置及びドライエッチング方法について、SiOC膜エッチングを例として、図面を参照しながら説明する。
図6は第2の実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成を示している。尚、図6において、第1の実施形態に係るドライエッチング装置と同一の部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
また、本実施形態においても、図示は省略しているが、被処理基板150上には、例えばシリコン窒化膜を介して、エッチング対象物であるSiOC膜が形成されている。
第2の実施形態が第1の実施形態と異なっている点は、下部電極102上に被処理基板150を囲むように配置されたフォーカスリング108の構成材料である。
図7は、図6に示すフォーカスリング108、つまり本実施形態のフォーカスリングの平面構成を示している。
図6及び図7に示すように、本実施形態のフォーカスリング108は、第1の実施形態と同様に、異なる半径を持つ複数のリング(例えば108a、108b、108c)を同心円状に組み合わせることによって構成されている。具体的には、図7は、幅2cm、外径12cmの第1のリング108aと、幅2cm、外径14cmの第2のリング108bと、幅2cm、外径16cmの第3のリング108cとが隙間なく組み合わされることによってフォーカスリング108が構成されている場合の様子を示している。この場合、フォーカスリング108の内側面となる第1のリング108aの内側面と、被処理基板150となる半径10cmのウェハの端部とが接する。
ここで、第1、第2、第3のリング108a、108b及び108cは第1の実施形態とは異なり、酸素を含んだ材料、例えば石英(SiO2)を主成分としている。
ところで、図7に示す場合、3個のリング108a〜108cを組み合わせることによって、幅6cm、半径(外径)16cmのフォーカスリング108が構成されているが、本実施形態においても、リングの組み合わせ方によって、フォーカスリング108の幅及び半径、つまりフォーカスリング108の表面積を任意に変更することができる。例えば第1のリング108a及び第2のリング108bの2個のリングを組み合わせることによって、幅4cm、半径14cmのフォーカスリング108を構成することもできる。
尚、本実施形態において、フォーカスリング108の表面積とは、フォーカスリング108における反応室101内のプラズマ中に露出する部分の面積であって、これは、被処理基板(ウェハ)150を囲むフォーカスリング108の上面及び外側面の面積に相当する。
図6に示す本実施形態のドライエッチング装置を用いた、SiOC膜に対するドライエッチング方法の具体的内容は次の通りである。
まず、反応室101内の下部電極102上にエッチング対象物を載置する。
次に、該エッチング対象物からエッチング時に発生する炭素量に応じたフォーカスリング108の表面積を決定し、該決定に従ってフォーカスリング108の表面積を調節する。
フォーカスリング108の表面積を決定するためには、第1の実施形態と同様の手段が利用できる。つまり、予め実験によって、条件ごとに、望みのエッチング形状が得られるフォーカスリングの表面積を調べておけばよい。実施に当たっては、実施するエッチングの条件に合致するようにフォーカスリングの表面積を決定する。但し、本発明のフォーカスリング表面積の決定方法を該方法に限るというものではない。
続いて、C4F8、C5F8又はCF4等のフルオロカーボンガス(反応性ガス)、Arガス、及び酸素ガスをガス導入口105から反応室101内に供給して、これらのガスからなるプラズマを発生させると共に、該プラズマを用いて被処理基板150上のSiOC膜に対してエッチング加工を行う。このときの具体的なエッチング条件は、例えばC4F8流量が10ml/min(標準状態)、O2 流量が5ml/min(標準状態)、Ar流量が400ml/min(標準状態)、チャンバー内圧力が7Pa、プラズマ発生用RF電力が1500W、基板温度が20℃である。
前記のプラズマ中においては、反応室101内に導入されたガスが解離して、デポ種となるCxFyラジカル(フルオロカーボンラジカル)と、エッチャントとなるFラジカル(フッ素ラジカル)とが発生する。また、前記のSiOC膜のエッチングが進行するに伴い、SiOC膜中から炭素原子が発生する。さらに、反応室101内に生じたフッ素ラジカルは、石英(SiO2)からなるフォーカスリング108と反応し、該フォーカスリング108から酸素を発生させる。
フォーカスリング108から生じた酸素は、プラズマ中のCxFyラジカル又は炭素原子と気相中で反応してCOxを生じる。COxは反応室内から排出され、このようにしてプラズマ中から炭素原子は除去される。その結果、プラズマ中の炭素原子の総量が低下し、プラズマ中の炭素量とエッチャント量との比(C/F比)も低下する。
フォーカスリングからの酸素の発生量はフォーカスリングの表面積に依存するから、フォーカスリングが大きくなるにつれてC/Fは低下する。具体例として、図8にC/F比及び酸素原子量の、フォーカスリング半径に対する依存性を示す。示されているC/F比及び酸素原子量は、いずれもウェハ(半導体基板)表面から3cm上側の点で測定されたものである。フォーカスリング半径が増大するとともに、酸素原子の発生量が増加するためにスカベンジされる炭素量も増加し、その結果C/F比が低下していくのが分かる。
一方、本実施形態においては、前述のように、複数のリングの組み合わせ方を変えることによってフォーカスリング108の幅及び半径(外径)を、つまり表面積を容易に変化させることができる。このため、フォーカスリングからの酸素の発生量はフォーカスリングの表面積に依存するので、フォーカスリングからの酸素の発生量を変化させ、該酸素によってスカベンジされる炭素量を変化させることが容易に可能となっている。結果として、プラズマ中のC/F比を容易に変化させることができる。
本実施形態においても、望みのエッチング形状である垂直形状がC/F比の調節によって実現できることは、第1の実施形態の場合と同様である。前述したように、C/F比の調節はフォーカスリングの表面積を調節することで可能であるから、結局、本実施形態においても、フォーカスリングの表面積を調節することで垂直なエッチング形状が得られることになる。
以上に説明したように、第2の実施形態によると、異なる半径を持つ複数のリングの中から選択されたリングを組み合わせることによって、フォーカスリング108を形成することができる。このため、エッチング対象物の炭素含有量に応じて、複数のリングの組み合わせ方を変えることで、フォーカスリング108の幅及び半径、つまりは表面積を容易に調節することができる。ここで、フォーカスリングから供給される酸素の量は、フォーカスリングの表面積に依存するから、フォーカスリングの表面積が容易に調節できることで、フォーカスリングから発生する酸素の供給量を容易に制御できる。このため、該酸素によってスカベンジされる炭素原子の量が容易に調節でき、プラズマ中のC/F比を容易に最適化できる。以上のことから、エッチング対象物から発生する炭素の量に関わらず、ドライエッチングによって、エッチストップやホール底部寸法縮小の無い所望のエッチング形状を得ることが可能となる。
また、反応室側壁111は、エッチングガス及びエッチング対象物から発生する炭素、フッ素、シリコンを含んだポリマー(図示せず)が付着し汚染された状態になっている。このような反応室側壁に付着したポリマーは、半導体装置の製造工程で欠陥を引き起こすパーティクルの発生要因となる。
ここで、先述の通り、本実施形態のようにフォーカスリングとして酸素を含んだ材料である石英を用いると、フォーカスリングから酸素及び酸素原子を発生させることができる。発生した該酸素及び酸素原子は酸化作用により反応室内壁111に付着したポリマーを容易に除去する作用を持ち、それによって反応室内のパーティクルの低減を行うことが可能となる。
尚、本実施形態では、プラズマ中に酸素を供給する材料として石英(SiO2)を主成分とするリングを用いたが、酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化イットリウム(Y2O3)を主成分とするリングを用いても同様に酸素をプラズマ中に供給する効果がえられる。さらに、石英、酸化アルミニウム、酸化イットリウムはそれぞれプラズマより供給される粒子との反応確率が異なるために、材料を変更することにより発生する酸素量を変更できる。結果として該酸素による炭素原子のスカベンジ量を変化させることができることから、酸素を供給する材料の変更によってもC/F比を制御することが可能である。
また、第2の実施形態において、半径が12cm、14cm、16cmの3種類のリング108a〜108cの組み合わせ方を変えることにより、フォーカスリング108の表面積を調節した。しかし、第2の実施形態において、フォーカスリング108の表面積の調節に用いるリングの個数及び各リングの半径は特に限定されるものではない。但し、フォーカスリング108を構成する各リングは互いに隙間なく組み合わされると共に、このように構成されたフォーカスリング108は、その中心部にウェハ(被処理基板150)の口径に対応する開口部を持つものとする。言い換えると、小さな半径を持つリングの外側面と、大きな半径を持つリングの内側面とが接するようにリング同士が組み合わされると共に、フォーカスリング108の内側面と被処理基板150の端部とが接するようにフォーカスリング108が下部電極102上に設けられるものとする。
また、第2の実施形態において、SiOC膜エッチングのための反応性ガス(プラズマ生成用ガス)としてC4F8を用いた。しかし、第2の実施形態において、プラズマ生成用ガスの種類は特に限られるものではなく、プラズマ生成用ガスは、例えばCF4 、CHF3 、C4F8、C5F8、C4F6及びC2F6のうちの少なくとも1つのガスを含むものであってもよい。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態に係るドライエッチング装置及びドライエッチング方法について、SiOC膜エッチングを例として、図面を参照しながら説明する。
図9は第3の実施形態に係るドライエッチング装置の概略構成を示している。尚、図9において、第1の実施形態に係るドライエッチング装置と同一の部材には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
また、本実施形態においても、図示は省略しているが、被処理基板150上には、例えばシリコン窒化膜を介して、エッチング対象物であるSiOC膜が形成されている。
第3の実施形態が第1、2の実施形態と異なっている点は、下部電極102上に被処理基板150を囲むように配置されたフォーカスリング109が、該フォーカスリング109は複数のリングから構成されるのであるが、Siを主成分とするリングと酸素を含む材料を主成分とするリングとの少なくとも2種類のリングを含む構成になっている点である。
図10は、図9に示すフォーカスリング109、つまり本実施形態のフォーカスリングの平面構成を示している。
図9及び図10に示すように、本実施形態のフォーカスリング109は、第1、第2の実施形態と同様に、異なる半径を持つ複数のリング(例えば109a、109b、109c)を同心円状に組み合わせることによって構成されている。具体的には、図10は、幅2cm、外径12cmの第1のリング109aと、幅2cm、外径14cmの第2のリング109bと、幅2cm、外径16cmの第3のリング109cとが隙間なく組み合わされることによってフォーカスリング109が構成されている場合の様子を示している。この場合、フォーカスリング109の内側面となる第1のリング109aの内側面と、被処理基板150となる半径10cmのウェハの端部とが接する。
ここで、フォーカスリング109を構成する三つのリングである109a、109b及び109cの材料構成は第1、第2の実施形態とは異なり、109a、109bはSiを主成分とする材料、109cは酸素を含む材料である石英(SiO2)でそれぞれ構成されている。
ところで、図10に示す場合、3個のリング109a〜109cを組み合わせることによって、幅6cm、半径(外径)16cmのフォーカスリング109が構成されているが、本実施形態においても、リングの組み合わせ方によって、フォーカスリング109の幅及び半径、つまりフォーカスリング109の表面積を任意に変更することができる。例えば109aと109bの2個のリングを組み合わせることによって、幅4cm、半径14cmのフォーカスリング109を構成することもできる。この場合、109aはSiを主成分とする材料で構成し、109bは酸素を含む材料で構成すると、材料の異なる二種のリングを含むようにすることができる。
尚、本実施形態において、フォーカスリング109の表面積とは、フォーカスリング109における反応室101内のプラズマ中に露出する部分の面積であって、これは、被処理基板(ウェハ)150を囲むフォーカスリング109の上面及び外側面の面積に相当する。
図9に示す本実施形態のドライエッチング装置を用いた、SiOC膜に対するドライエッチング方法の具体的内容は次の通りである。
まず、反応室101内の下部電極102上にエッチング対象物を載置する。
次に、該エッチング対象物からエッチング時に発生する炭素量に応じたフォーカスリング109の表面積を決定し、該決定に従ってフォーカスリング109の表面積を調節する。具体的にフォーカスリングの構成を決定するためには、特に方法を限るものではないが、第1、第2の実施形態の場合と同様の手法が利用できる。つまり、予め実験を行い、各種条件ごとに望みのエッチング形状が得られるフォーカスリングの構成を調べて情報を蓄積しておく。そして、実施するエッチングの条件に合致するようなフォーカスリングの構成を該情報に基づいて決定するのである。
続いて、C4F8、C5F8又はCF4等のフルオロカーボンガス(反応性ガス)、Arガス、及び酸素ガスをガス導入口105から反応室101内に供給して、これらのガスからなるプラズマを発生させると共に、該プラズマを用いて被処理基板150上のSiOC膜に対してエッチング加工を行う。このときの具体的なエッチング条件は、例えばC4F8流量が10ml/min(標準状態)、O2 流量が5ml/min(標準状態)、Ar流量が400ml/min(標準状態)、チャンバー内圧力が7Pa、プラズマ発生用RF電力が1500W、基板温度が20℃である。
前記のプラズマ中においては、反応室101内に導入されたガスが解離して、デポ種となるCxFyラジカル(フルオロカーボンラジカル)と、エッチャントとなるFラジカル(フッ素ラジカル)とが発生する。また、前記のSiOC膜のエッチングが進行するに伴い、SiOC膜中から炭素原子が発生する。
ここで、フッ素ラジカルは、第1の実施形態に示したように、Si材料からなるフォーカスリング109a及び109bと反応してスカベンジされる。フォーカスリング109a及び109bの表面積の合計を、従来使われてきたSi材料製の大口径な単一フォーカスリングの表面積よりも小さくすると、スカベンジ量の低減が可能である。その結果、プラズマ中の炭素量とエッチャント量との比(C/F比)も、従来のフォーカスリングを使用する場合と比較して低減することが可能となる。
また、フッ素ラジカルは、第2の実施形態に示したように石英からなるフォーカスリング109cと反応してプラズマ中に酸素を供給し、該酸素はプラズマ中のCxFyラジカル及び炭素原子をスカベンジする。その結果、C/F比が低減する。
以上2つのことから、本実施形態では、シリコンを主成分とする材料のリングと酸素を含む材料を主成分とするリングの2つを含む複数のリングでフォーカスリングを構成することによって、プラズマ中のエッチャント量と炭素原子量の両方を調節することができる。これを利用すると、C/F比の制御を、第1及び第2の実施形態に比べ、より精密に行うことが可能となる。また、フォーカスリング109a、109b、109cの半径を変化させて組み合わせることで、広い範囲でC/F比を制御することが可能となる。従って、第1、第2の実施形態に比べ、より広い範囲で、エッチストップやホール底部寸法の縮小が起こらず所望のエッチング形状が得られるドライエッチングが確実に可能となる。
また、反応室側壁111は、エッチングガス及びエッチング対象物から発生する炭素、フッ素、シリコンを含んだポリマー(図示せず)が付着し汚染された状態になっている。このような反応室側壁に付着したポリマーは、半導体装置の製造工程で欠陥を引き起こすパーティクルの発生要因となる。
ここで、先述したように、フォーカスリング109cに酸素を含んだ材料である石英を用いると、フォーカスリングから酸素及び酸素原子を発生させることができる。発生した該酸素及び酸素原子は酸化作用により反応室内壁111に付着したポリマーを容易に除去する作用を持ち、それによって反応室内のパーティクルの低減を行うことが可能となる。
以上のように、本実施形態では、前述のように異なる材料のフォーカスリングを複数組み合わせることにより、より精密なC/F比制御と、反応室内のパーティクル低減とを同時に行うことが可能となる。
尚、本実施形態では、プラズマ中に酸素を供給する材料として石英(SiO2)を主成分とするリングを用いたが、酸化アルミニウム(Al2O3)又は酸化イットリウム(Y2O3)を主成分とするリングを用いても同様の酸素をプラズマ中に供給する効果がえられる。さらに、石英、酸化アルミニウム、酸化イットリウムはそれぞれプラズマより供給される粒子との反応確率が異なるために、材料を変更することにより発生する酸素量を変更できる。結果としてプラズマ中の炭素原子のスカベンジ量を変化させることができることから、酸素を供給する材料の変更によってもC/F比を制御することが可能である。
また、第3の実施形態において、半径が12cm、14cm、16cmの3種類のリング109a〜109cの組み合わせ方を変えることにより、フォーカスリング109の表面積を調節した。しかし、第3の実施形態において、フォーカスリング109の表面積の調節に用いるリングの個数及び各リングの半径は特に限定されるものではない。但し、フォーカスリング109を構成する各リングは互いに隙間なく組み合わされると共に、このように構成されたフォーカスリング109は、その中心部にウェハ(被処理基板150)の口径に対応する開口部を持つものとする。言い換えると、小さな半径を持つリングの外側面と、大きな半径を持つリングの内側面とが接するようにリング同士が組み合わされると共に、フォーカスリング109の内側面と被処理基板150の端部とが接するようにフォーカスリング109が下部電極102上に設けられるものとする。
また、第3の実施形態において、炭素を膜中に含むSiOC膜のエッチングに際してプラズマ中のエッチャント(フッ素ラジカル)のスカベンジ量を制御するために、フォーカスリング109を構成する複数のリングのうち109a、109bの主成分としてシリコンを用いた。しかしながら、エッチング対象物がSiOC膜以外である場合にも、フォーカスリングを構成する複数のリングのうち1つ又は2つ以上を構成するリングの材料の主成分として、当該エッチング対象物のエッチャントのスカベンジ量を制御できる適切な材料を用いることにより、本実施形態と同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、第3の実施形態において、SiOC膜エッチングのための反応性ガス(プラズマ生成用ガス)としてC4F8を用いた。しかし、第3の実施形態において、プラズマ生成用ガスの種類は特に限られるものではなく、プラズマ生成用ガスは、例えばCF4 、CHF3 、C4F8、C5F8、C4F6及びC2F6のうちの少なくとも1つのガスを含むものであってもよい。