JP2005163443A - 建築物の調温構造および調温方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 基礎構造20で囲まれて互いに区切られた床下区画11〜17と、一部の床下区画13、16に温冷風を供給する温冷風供給装置40と、温冷風が供給される床下区画13、16を含む隣接する床下空間12…同士を連通させる通風孔22と、床下区画12…に設置され、温冷風が通過し、温冷風が有する温冷熱を蓄熱する蓄熱体30とを備え、蓄熱体30は、対向面間を貫通する空孔を有する空胴コンクリートブロック32が面方向に並べられ上下方向に積み上げられてなり、空胴コンクリートブロック32の空孔が連通して蓄熱体30の対向面間を貫通し、その貫通方向が温冷風の通過方向に沿って配置されている。
【選択図】 図2
Description
これとは別に、安価な夜間電力を利用して冷熱あるいは温熱を蓄熱する装置も提案されている。例えば、夜間電力で氷を作製し貯蔵しておき、昼間には、貯蔵された氷の冷熱で冷風を作って、室内の冷房を行う技術がある。また、夜間電力で水道水を加熱して温水タンクに蓄えておき、昼間には、温水タンクの熱で温めた空気を室内に吹き出して暖房を行う技術がある。このような蓄熱技術を利用すると、前記した通常の冷暖房装置を使用するのに比べて、冷暖房のコストが大幅に削減できるとされている。
特許文献1には、床下空間の全体に、蓄熱体となる小石を充填しておく技術が示されている。
特許文献3には、加熱ヒーターが内蔵された蓄熱体を、レンガやコンクリートブロックで作製しておく技術が示されている。
例えば、蓄熱体に水やパラフィンなどの液状物を使用すると、液状物を収容しておく貯槽やタンクを床下空間に設置しなければならず、非常に大掛りな工事や装置が必要になる。特に、戸建て住宅などの小規模な建築物の場合、施工コストが高くついて、建築物全体の建築費用が高騰する。液状物が漏れたり変質したりしないように、頻繁に点検や補修作業を行う必要があり、管理の手間もかかる。
特許文献2のように、床下空間の全体に、熱媒体の流路管を埋め込んだ蓄熱コンクリート層を施工するには、大掛りな工事が必要であり、施工コストは非常に高くつく。
特許文献3でも、加熱ヒーターが埋め込まれたレンガやコンクリートブロックからなる蓄熱体の製造に手間およびコストがかかる。床下空間の全体に蓄熱体を配置するには、大量の蓄熱体が必要であるから、全体の施工コストも増大する。
本発明の課題は、前記したような蓄熱方式によって建築物の調温を行う技術において、設備の製造や施工が容易で、戸建て住宅などへも適用し易く、床下空間の利用にも大きな支障を及ぼすことがないようにすることである。
<建築物>
一般的な戸建て住宅や、比較的に小規模な集合住宅などに好適に採用される。大型の集合住宅や商店兼用の住宅などにも適用することができる。工場やビル、公共施設などの建築物にも利用できる。
基本的な建築物の構造は、地盤に立設される基礎構造と基礎構造の上に構築される上部構造とで構成される。
基礎構造は、下部が地盤に埋め込まれ、上部が地盤から上方に延びて、その上に上部構造を支持する。基礎構造は、通常、コンクリートを打設して構築する。鉄筋コンクリートも使用される。形鋼材は鋼管などを埋め込んで補強することもある。基礎構造の具体例として、布基礎やベタ基礎などと呼ばれる構造が知られている。
<調温構造>
一般的に、建築物の調温とは、建築物の上部構造に設けられる居住空間を、居住にとって快適な温度環境に調整する機能を意味する。但し、本発明では、居住空間の空気そのものを調温するのではなく、建築物の床下空間から床部材を含む上部構造を介して、間接的に居住空間の空気を調温する。床部材を調温するだけで、居住空間の空気そのものは実質的に調温されない場合も含まれる。この場合も、床部材からの伝熱で居住空間の空気が温められたり冷やされたりすることはある。
したがって、本発明の調温構造は、室内に設置される通常の冷暖房装置ではない。空調装置で生成した調温空気を直接に室内に供給する技術でもない。
但し、本発明の調温構造に加えて、室内の空気を調温する冷暖房装置や室内に温冷風を直接に供給する空調装置を組み合わせることは可能である。本発明の調温構造で居住空間の温度変動を少なくした上で、室内に設置される通常の冷暖房装置によって、より快適な狭い温度範囲に制御することができる。
建築物の基礎構造は、平面構造において、建築物の外周形状および間取り形状に合わせて、枠状あるいは格子状に配置される。基礎構造は、少なくとも建築物の外周壁に沿って枠状に配置される。それに加えて、外周枠の内側を複数の区画に区切る格子状にも配置される。
その結果、基礎構造で囲まれて互いに区切られ、上部構造の底部を構成する床部材で上部が覆われた床下区画が構成される。床下区画の側面は基礎構造で構成され、床下区画の天井は床部材で構成され、床下区画の底面は地盤で構成される。後述する通風孔や換気口などの個所を除くと、床下区画は実質的に密閉状態である。床下空間の底面は、地盤の上に施工された土間コンクリート層や断熱層、防蟻層で構成される場合もある。
それぞれの床下区画の平面形状は、基本的には矩形状であるが、矩形を複数個つないだ変形状のものや、建築物の構造によっては曲線形状を含むものもある。一つの床下区画の広さは、上部構造を支持できる強度や耐久性が発揮できるように設定される。床下区画には、蓄熱体や温冷風供給装置の一部を設置できるだけの広さを有する必要がある。蓄熱体を設置する床下区画の広さは、5〜40m2の範囲に設定する。但し、蓄熱体や温冷風供給装置を設置しない床下区画については、狭くても構わない。
温冷風が供給される床下区画と隣接する床下区画とを区切る基礎構造に、隣接する床下空間同士を連通させる通風孔を設けることができる。
通風孔は、調温構造のために専用の孔を設けても良いが、通常は、床下区画の基礎構造に元々設けられる人道口や配管、配線用の貫通孔、換気孔などを利用することができる。人道口は、床下空間の必要個所に人が近づけるように、主要な床下区画同士の間には必ず設けられる。調温構造における温冷風の循環経路および通風量を考慮して、人道口などの既設の通風孔に加えて、新たに専用の通風孔を追加して設けることもできる。
蓄熱体が設置される床下区画の天井を構成する床部材は、伝熱性の良好な材料や構造を採用することができる。一般的な住宅で、室内空間の断熱性を高めるために採用されている断熱床構造は採用しないことが望ましい。具体的には、床部材を構成する材料層から、断熱材料の層を取り外しておくことができる。床部材に表裏面での熱伝導性が高い良熱伝導材料を用いることもできる。
床部材に、蓄熱性あるいは保温性の良い材料層を使用することもできる。この場合は、床下区画の蓄熱体と協働して、床部材が室内空間を調温する機能を果たすことになる。
床下区画のうち、建築物の屋外に面する床下区画において、屋外に面する基礎構造の内側面に断熱層を配置しておくと、床下区画の蓄熱が屋外に逃げることが防止できる。
断熱層としては、通常の建築物あるいは床下空間における断熱技術が適用できる。
断熱層の材料として、発泡ポリスチレンなどの発泡樹脂からなる発泡ボードが使用できる。ガラス繊維やロックウールなどの断熱繊維層も採用できる。無機多孔質板なども使用できる。発泡ウレタンを吹き付け塗工することで断熱層を形成することもできる。
断熱層の厚みは、使用する材料や要求性能によっても異なるが、通常、1〜20cmに設定できる.
断熱層は、床下区画同士を仕切る基礎構造の側面にも配置できるが、通常は、床下空間の全体で均等な温度条件にすることになるので、この部分には断熱層を設ける必要はない。床下区画のうち、調温構造に組み入れない床下空間とを仕切る基礎構造には、断熱層を設けることもある。
基本的には、通常の建築物における冷暖房や空調、床下蓄熱技術に利用されていて、温風または冷風、あるいは、温風と冷風の両方を適宜に切り換えたりして、調温された空気流を生成し供給できる装置が使用できる。
例えば、汎用の空調装置、エアコンが使用できる。一般的な空調装置は、屋外機と屋内機とが別々に設置され、屋外機と屋内機との間は、熱媒体が循環するホースや配管などの伝熱路で連結される。屋外機は、コンプレッサによる空気の断熱圧縮膨張などの作用で、温冷熱を発生させる。温熱についてはヒーターやガス燃焼などで発生させることもできる。屋内機は、空気を吸い込み吹き出すファンを備え、屋内機を通過する空気と熱媒体との間で熱交換を行って、温冷風を発生させる。
複数の床下区画に温冷風を供給するには、それぞれの床下区画に屋内機を設置すればよい。屋外機は、それぞれの屋内機に対応して屋外に設置しておいてもよいし、1台の屋外機と複数台の屋内機とをそれぞれ伝熱路で連結しておくこともできる。
温冷風供給装置のうち、温風供給装置として、ヒータなどの加熱手段とファンなどの送風手段とを備えた温風供給機を、床下区画に配置しておくことができる。冷風供給装置として、地下水などの冷水配管にファンで送風して冷風を生成する冷風供給機も使用できる。このように、温風供給装置と冷風供給装置を別々に設置することも可能である。建築物を施工する地域の気象条件によっては、温風供給装置だけ、冷風供給装置だけがあれば良いこともある。
温冷風供給装置における温冷風の供給能力は、建築物の構造や要求性能によって異なる。通常の戸建て住宅の場合、温冷風の供給能力を、2〜30kWに設定できる。
〔蓄熱体〕
床下区画に設置される。温冷風供給装置から供給される温冷風が通過し、温冷風が有する温冷熱を蓄熱する。
蓄熱体として、対向面間を貫通する空孔を有する空胴コンクリートブロックを用いる。
<空胴コンクリートブロック>
基本的には、通常の建築土木技術において使用されている汎用の空胴コンクリートブロックが使用される。
我が国では、空胴コンクリートブロックの技術規格としてJIS−A5406が規定されており、この規格に適合し、一般に製造市販されている規格製品が使用できる。具体的には、規格寸法として、長さ290mm、高さ190mm、厚さ190mm〜100mmが規定されている。
基本的な形状は、直方体をなし、鉄筋が配筋できるように、対向面間を貫通する空孔を有する。空孔は複数本が間隔をあけて平行に配置されている。空孔の本数は、通常は3本であり、両端には空孔の半分の形状からなる凹部が設けられる。空孔の断面積や幅は、前記規格の条件が採用される。
なお、前記JIS規格の汎用製品でなくても、同等の機能を有する別の形状や構造を有する空胴コンクリートブロックも使用可能である。JIS規格の汎用製品に、蓄熱体として有用な形状や構造を追加したり変形したりしたものでもよい。
空胴コンクリートブロックは、面方向に並べられるとともに、上下方向に積み上げられる。蓄熱体を構成する空胴コンクリートブロック同士で、それぞれの対向面間を貫通している空孔が互いに連通する姿勢および配置にする。
その結果、蓄熱体の対向面間を貫通する貫通空間が形成される。
直方体状の空胴コンクリートブロックを同じ姿勢で縦横に敷き詰めれば、全体が矩形をなす面状に並べられる。各空胴コンクリートブロックの空孔が連通して、水平方向に延びる直線状の貫通空間が平行に多数並ぶことになる。このような面状体を順次上方に積み重ねていけば、直方体状の蓄熱体が構成できる。蓄熱体の対向する側面間に、水平方向に延びる貫通空間が上下左右に平行に並んだ状態になる。
空胴コンクリートブロックは、直方体状に積み重ねるほか、同心円筒状に並べたり、十字形に並べたり、三角柱その他の多角柱状に並べたり、台形錐状に並べたり、ピラミッド形に並べたり、アーチ状に並べたりすることもできる。
空胴コンクリートブロック同士は、単に並べたり積み重ねたりするだけでも、安定した状態で積み重ねられた状態を維持させることができる。通常の建築物に加わる振動や衝撃では、容易に崩れることはない。空胴コンクリートブロックをより強固に固定しておくためには、空胴コンクリートブロック同士をモルタルや接着剤などで接合したり、ボルトで締結したり、ワイヤやロープで結束したり、シートで包んだりすることもできる。施工後に、空胴コンクリートブロックの配置を変更できるようにするには、空胴コンクリートブロック同士を分解し易い形態にしておくことが望ましい。
空胴コンクリートブロックで構成された蓄熱体は、床下区画に設置される。
蓄熱体の寸法形状は、設置する床下区画の形状および要求される蓄熱能力などによって変わる。通常は、蓄熱体の一辺の長さを80〜700cmの範囲に設定することができる。蓄熱体の高さは、床下区画の床部材までの高さに合わせる。蓄熱体の上面が床部材の裏面に到達していてもよいし、蓄熱体の上面と床部材の裏面との間に空間があいていてもよい。通常は、蓄熱体の高さを、20〜100cmの範囲に設定することができる。
蓄熱体は、床下区間の底面を構成する地盤や土間コンクリート層の上に直接設置することができる。台板状やシート状をなす支持体を介して設置することもできる。支持体が断熱性の高い材料からなるものであれば、蓄熱体から地盤や土間コンクリート層に蓄熱が漏れることを防止できる。支持体に防蟻性や防湿性などがある材料を用いて、蓄熱体を保護することもできる。
但し、温冷風の通過方向と貫通空間の貫通方向は厳密に一致している必要はない。温冷風の通過を阻害せず、蓄熱体への蓄熱作用が良好に行われる程度に合っていればよい。蓄熱体に、貫通方向が異なる複数の貫通空間を有する場合は、何れかの貫通空間の貫通方向を温冷風の通過方向に合わせればよい。
蓄熱体は、床下区画の内周側面との間に、床下作業が可能な間隔をあけて配置しておくことが望ましい。具体的には、床下区画の内周側面を構成する基礎構造との間隔を、40〜100cmの範囲に設定することができる。
〔調湿層〕
蓄熱体には、調湿層をさらに備えることができる。調湿層を、空胴コンクリートブロックが積み上げられた蓄熱体の上部に設けることができる。
調湿層は、蓄熱体を含む床下区画内に結露が発生するのを防止し、床下空間の湿度調整を行うことができる。調湿層を構成する調湿材は、周囲の空気の湿度が高い場合には空気中の湿気や水分を奪って吸収保持する。空気の湿度が低下すると、吸収保持した水分を放出する。その結果、空気の湿度は、ほぼ一定の範囲に維持される。結露が発生するような過剰な湿度環境や、床下空間の木質部材がひび割れるような過乾燥状態になることを防ぐ。
調湿層の具体例として、硅質頁岩の粒塊を堆積させておくことができる。平均粒径20〜60mm程度の粒塊が好ましい。適切な粒径範囲の粒塊であれば、空気が通過し易く吸放湿作用が良好に行われる。
調湿層が、空胴コンクリートブロックと直かに接触していると、空胴コンクリートブロックの内部に侵入した水分や湿気を、直接的に調湿層へと効率的に吸い取ることができる。
調湿層を、空胴コンクリートブロックの空孔内に設けておいたり、複数段の空胴コンクリートブロックの間に挟む形で設けておいたりすることもできる。
前記した調温構造を用いて建築物を調温する方法として、以下の方法が採用できる。
<蓄熱段階>
温冷風供給装置を稼動させ、複数の床下区画のうち、一部の床下区画に温冷風を供給する。供給された温冷風を、当該床下空間から連通孔を通して連通する別の床下区画へと供給する。各床下空間に設置された蓄熱体の対向面間を貫通する空孔に温冷風を通過させて温冷風が有する温冷熱を蓄熱体に蓄熱させる。
蓄熱体に温冷熱を蓄熱させたあとの温冷風は、換気口などから屋外に排出することができる。温冷風に未だ利用可能な温冷熱が残っている場合は、別の床下区画の蓄熱体にまで送り込んで蓄熱させることができる。温冷風を、別の床下区画に分割して送られるように流れを制御したり、複数の床下区画を巡って循環させたりすることもできる。温冷風の循環経路に、送風ファンを設けて、温冷風の流れを強制的に作り出すこともできる。
電力で稼動する温冷風供給装置で蓄熱する場合は、深夜など電力料金が割安なときに蓄熱作業を行うのが好ましい。太陽電池や風力発電機など自然力を利用して生成させた電力で温冷風供給装置を稼動させれば、昼間などでも大きなコストをかけずに蓄熱作業を行うことができる。
<放熱段階>
温冷風供給装置を停止させた状態で、蓄熱体に蓄熱された温冷熱を、床下区画から前記床部材を介して建築物の上部構造へと伝熱させる。この場合の伝熱は、蓄熱体からの熱放射、床部材を通じての熱伝導が主になる。
本発明では、基本的に、室内空間の冷暖房は、通常の室内に設置された冷暖房装置を使用すればよい。そのほうが、強力な冷暖房が可能である。
これに対し、居住者の起床時間の前後で、冷暖房装置を稼動開始させる前から稼動開始直後、就寝時に冷暖房装置を停止させたあと一定時間がたった深夜、あるいは、外出から戻ったときの一定時間などは、屋外の過剰な寒気や日射などによって、室内空間が過剰に冷えていたり暑くなっていたりすることがある。
本発明の調温構造は、本発明の調温構造だけで、居住環境を居住者にとっての最適温度に制御するのではなく、通常の室内等に設置される冷暖房装置が稼動していないときでも、一定の温度範囲を超えて大きく温度が変動することを防止できる点に、優れた技術的価値がある。このような温度変動の防止機能が、本発明の調温機能である。
空胴コンクリートブロックという入手し易く安価であり取り扱いも容易な汎用の建築材料を利用しているため、経済的かつ能率的に蓄熱方式の調温構造を構築することができる。空胴コンクリートブロックの空孔が、温冷風をスムーズに通過させるとともに、伝熱面積を大幅に拡大して、蓄熱効率を大きく向上させることができる。空胴コンクリートブロックの配置構造によって、温冷風の循環経路を制御したり、温冷風が効率的に通過できる形態で蓄熱体を配置したりするのも簡単である。建築物の構造、特に、床下区画の配置構造に合わせて、最適な蓄熱体の配置構造を簡単に設定できる。建築物の施工後に、蓄熱体の配置構造を変更することも容易である。
〔建築物〕
図1に示すように、建築物である戸建て住宅は、下部が地盤60に埋め込まれた垂直壁状の基礎構造20を有する。基礎構造20は、コンクリートを打設して構築されている。基礎構造20の上には、図示を省略した土台や根太などを介して施工される床部材50や外壁70などからなる上部構造が構築される。床部材50の下方で基礎構造20に囲まれた空間が、床下空間Uである。床部材50の上方で外壁70に囲まれた空間が居住空間Rになる。
図2に示すように、基礎構造20は、建築物の外周に枠状に配置されているとともに、建築物の内側では、各部屋の間取り配置に合わせて、縦横に延びたり交差したりする格子状に配置されている。その結果、床下空間Uは、基礎構造20で周囲を囲まれ概略矩形状をなす複数の床下区画11〜17に分割されている。そのうち、床下区画17は、大小の矩形を連結した少し複雑な形状をなしている。
〔床下区画〕
床下区画11〜17はそれぞれ、建築物の上部構造における間取り構造に合わせて配置されている。例えば、床下区画11は玄関に対応し、床下区画12は廊下、階段およびトイレなどに対応し、床下区画13は浴室に対応し、床下区画14はクローゼットに対応し、床下区画15は和室に対応し、床下区画16はリビングに対応し、床下区画17はダイニング、キッチンおよび寝室に対応している。
図2に示すように、一部の床下区画12、17では、床部材50の一部を矩形に切り欠いて点検口52が設けられている。点検口42は、室内側から床下区画12、17に、人が出入りできる。また、隣接する床下区画12と13を仕切る基礎構造20には、人道口22が設けられている。点検口52から床下区画12に出入りする人が、隣接する床下区画13にも出入りできる。人道口22は、床下区画12と16の間、床下区画16と15の間、床下区画13と14の間、床下区画17と14の間、床下区画17と16の間にも設けられている。これによって、床下区画12〜17の点検や補修その他の作業が可能になる。但し、玄関に対応する床下区画11については、点検や補修の必要性がないので、人道口22は設けられていない。
〔蓄熱体〕
図1に示すように、蓄熱体30は、土間コンクリート層62の上に設置されている。規格構造の空胴コンクリートブロック32が、面方向に並べて配置されるとともに、上下方向に複数段で積み上げられており、全体が直方体をなす蓄熱体30を構成している。
空胴コンクリートブロック32は、JIS−A5406で規定される汎用製品がそのまま使用される。例えば、長さ390cm、高さ190cm、厚さ12cmの直方体をなし、幅8cmの空孔33が等間隔で3本並んで貫通している。
蓄熱体30の高さは、床下空間Uの天井すなわち床部材50の下面まで到達していてもよいが、通常は、床下空間Uの天井よりも少し低い程度に設定される。空胴コンクリートブロック32の積み上げ段数を調整することで、蓄熱体30の高さを変更でき、蓄熱体30の蓄熱量を調整できる。
蓄熱体30の上面には、調湿材36が積載されている。
〔調湿材〕
図1に示すように、蓄熱体30の上面には、外周に沿って枠状に空胴コンクリートブロック32が並べられている。図2にも示すように、空胴コンクリートブロック32は、その空孔33を上下方向に向けた状態で並べられており、蓄熱体30の外周に壁を構成している。
このような調湿材36が積載された蓄熱体30が、各床下区画12…に設置されている。
〔蓄熱体の配置〕
図2に示すように、蓄熱体30は、床下区画12、15、16、17に設置されている。床下区画17には、2個所に蓄熱体30が設置されている。住宅のうち、居住者が存在する比率が多く、調温の必要性が高い個所に蓄熱体30が配置されるようにしている。
各床下区画12…では、床下区画12…の周囲を囲む基礎構造20の内側面と蓄熱体30の外側面との間に、一定の距離以上の間隔があくように、空胴コンクリートブロック32の使用数および蓄熱体30の外形が設定されている。具体的には、70cm程度の間隔をあけておく。図2に示す平面形状では、蓄熱体30毎に、空胴コンクリートブロック32の行数および列数が違い、縦横の比率も異なっている。空胴コンクリートブロック32の段数は、全ての蓄熱体30で同じに設定されている。
床下区画12、16、17では、温冷風の流れ方向を制御する仕切り壁34が設置されている。仕切り壁34も、空胴コンクリートブロック32を積み重ねて構成されている。但し、仕切り壁34を構成する空胴コンクリートブロック32は、空孔33が上下方向を向いており、仕切り壁34を水平方向に貫通する空間は存在しないから、温冷風が仕切り壁34を通過することはできない。仕切り壁34の高さは、蓄熱体30の全高さと同じ程度に設定されている。
図2に示すように、建築物の屋外には、汎用の空調装置と同じ屋外機46が設置されている。床下区画12と17にはそれぞれ、屋外機46に対応する屋内機40が設置されている。屋外機46と屋内機40とは、熱媒体が循環する伝熱配管44で連結されている。屋外機46、屋内機40および伝熱配管44の細部構造は、通常の家庭用エアコンなどと同様の構造が採用されている。
伝熱配管44は、屋外から所定の床下区画12、17まで、基礎構造20を貫通して配管されている。但し、図2では判り易く表示するために、伝熱配管44の配置を簡略に示しているが、実際の施工では、基礎構造20の内壁に沿って這わせたり、床下空間Uに存在する他の構造物の邪魔にならないように迂回させたりすることもある。
通常の空調装置と同様に、屋外機46で発生させた温冷熱を、伝熱配管44を循環する熱媒体によって屋内機40に運ぶ。屋内機40では、内蔵された送風ファンによって空気流を作り出し、熱媒体との間で熱交換を行って、温冷風を生成する。
屋内機40には吹き出しノズル42を備え、温冷風が吹き出される。図示を省略しているが、吹き出しノズル42の反対側には、周囲の空気を屋内機40に吸い込む、吸い込み口を有する。
温冷風供給装置を稼動させて、温熱または冷熱を、蓄熱体30に蓄熱させる。
屋外機46を稼動させると、加熱または冷却された熱媒体が、熱伝達配管44を経て屋内機40に送られる。屋内機40の吹き出しノズル42から温冷風が吹き出される。
例えば、床下区画12の屋内機40の吹き出しノズル42からは、床下空間13に温冷風が吹き出される。床下区画13に拡がった温冷風は、床下区画13と床下区画14の間の人道口22を通じて、床下区画14に送られる。さらに、床下区画14と床下区画17の間の人道口22を通じて、床下区画17に送られる。したがって、人道口22は、温冷風が通過する通風孔として機能する。
前記蓄熱体30を通過したり回り込んだりした温冷風は、床下区画17のその他の空間にも拡がる。床下区画17に設置されたもう一つの蓄熱体30のところにも温冷風が供給される。前記同様に、蓄熱体30の貫通空間を通過したり表面に沿って流れたりして、蓄熱体30に温冷熱が蓄熱される。この部分の蓄熱体30を通過した温冷風は、基礎構造20の外壁部分に設置された換気口24に到達する。必要に応じて、換気口24を開けば、排気することができる。
床下区画17の屋内機40も、吹き出しノズル42から温冷風を吹き出す。温冷風は、床下区画16の蓄熱体30に対して、貫通空間を通過したり表面に沿って流れたりして、温冷熱を蓄熱させる。床下区画16にも仕切り壁34が設置されていて、温冷風が、床下区画12のほうへ直ぐに流れず、確実に蓄熱体30を通過するようにしている。蓄熱体30を通過した温冷風は、人道口22から床下区画15に送られる流れと、別の人道口22から床下区画12に送られる流れとに分かれる。
床下区画16から床下区画12に入った温冷風は、床下区画12の蓄熱体30の貫通空間を通過したり表面に沿って流れたりして温冷熱を蓄熱させる。その後は、床下区画12に設置された屋内機40に吸い込まれる。床下区画12にも仕切り壁34が設置されていて、床下区画16から送られてきた温冷風が、確実に蓄熱体30を通過して屋内機40に戻されるようになっている。
〔調湿材の機能〕
上記したような蓄熱体30の蓄熱動作において、調湿材36が存在することによって、床下区画12…、特に蓄熱体30に結露が生じることを防止できる。
調湿材36が存在していれば、床下区画12…の空気や温冷風に含まれる過剰な湿気を環境中から吸い取って保持することができる。環境湿度が下がれば、前記した温度差が少しぐらいあっても、結露は発生し難い。
調湿材36によって床下空間Uを乾燥させておくと、白蟻の食害を防止したり、木質材の腐朽を防止したりする機能も果たせる。調湿材36である硅質頁岩には臭いやホルマリンなどの吸着除去機能もあるので、床下空間Uに不快な臭いが発生したり有害なガスが溜まるのを防止することもできる。
〔温熱構造の調熱動作〕
寒期と暑期とに分けて説明する。
<寒期>
例えば、夜間に温冷風供給装置を稼動させる。夜間電力を使用することで、稼動コストが低減できる。屋外機46は温熱を発生し、屋内機40は温風を吹き出す。各床下区画12〜17と複数個所に設置された蓄熱体30に温熱が蓄熱される。
居住者が起きてくる朝までには、温冷風供給装置の稼動を止めても良い。蓄熱体30および床下区画12〜17に蓄熱された温熱が、床部材50を介して居住空間Rを保温しているので、居住空間Rの暖房装置を稼動させる前でも、居住空間Rの温度が下がり過ぎていることがない。快適な起床環境が得られる。
勿論、外気温がそれほど下がっていなければ、蓄熱体30を含む床下区画12〜17の蓄熱を徐々に放出させるだけでも、床部材50を介して居住空間Rの温度を適切な範囲に維持することができる。
<暑期>
基本的には前記した寒期の場合と共通している。
〔温熱構造の管理〕
蓄熱体30の配置構造や、床下空間Uの全体における温冷風の循環経路などは、建築物を設計する段階で、最も快適な居住環境が得られるように設定しておく。しかし、建築物が完成した後、あるいは、居住を開始した後で、建築物の場所によって十分な調温機能が発揮されない個所が生じたり、調温機能にばらつきが生じたりすることもある。
空胴コンクリートブロック32は、床部材50の狭い点検口52からでも床下空間Uに出し入れすることが容易であり、作業者が一人でも、蓄熱体30の配置構造を変えることが容易である。したがって、居住者の増減や住宅の使い方を変更するのに合わせて、きめこまかく、適切な調温構造を再設定することが、容易に行えることになる。
〔住宅および調温構造〕
基本的には、図2に示す構造を採用した。但し、間取りは違っており、蓄熱体、温冷風供給装置の配置構造も違っている。
居室が3部屋に、浴室や階段、玄関などの共用スペースを含む戸建て住宅である。通常の居室用のエアコン(部屋エアコン)が設置されている。
床下空間には、各部屋に対応する3個所の床下区画と、共用スペースに対応する2個所の床下区画とを有する。床下区画同士は、人道口で連通している。
温冷風供給装置として、屋外にはエアコン(床下エアコン)の室外機を設置し、床下区画には2基の室内機を設置した。室内機の吹き出し口は、蓄熱体を設置した2個所の床下区画に開口している。
〔外気条件〕
試験は、冬期における暖房効果を検証した。試験を実施した環境の外気条件は、昼間の最高温度8℃、早朝の最低温度−2℃の範囲で温度変動があった。
<実施例>
部屋エアコンは、朝10時から夜23時までの間で稼動させた。
床下エアコンは、夜23時から翌朝7時までの間で稼動させた。
<比較例>
比較実験として、部屋エアコンだけを稼動させて、床下エアコンを全く稼動させない試験も行なった。
〔試験結果〕
(1) 実施例では比較例に比べて、居住空間の最低温度が4〜6℃上昇した。
(2) 実施例では、居室の天井側と床側とにおける上下の温度差が、0.9℃であった。比較例の温度差3.4℃に比べて、格段に温度差が小さくなった。足元が冷たく頭の部分は暑過ぎて不快であるという、従来における室内暖房の問題が解消された。
(3) 床面温度が上昇した。比較例の12℃に対して、実施例では20℃である。床暖房設備を設置しなくても、十分に快適に居住できることが実証された。
(4) 実施例の場合にかかった電力料金は、比較例に比べて少し増えた。しかし、実施例と同等の温度環境を部屋エアコンだけで達成しようとした場合には、実施例よりも高い電力料金が必要になる。
住宅として、断熱構造に優れた材料や構造を採用すれば、さらに、調温機能の向上が達成できたり、電力料金の低減が図れたりするものと予想される。
11〜17 床下区画
20 基礎構造
22 人道口(通風孔)
24 換気口
26 断熱層
30 蓄熱体
32 空胴コンクリートブロック
33 空孔
36 調湿材
40 空調装置の屋内機
42 吹き出しノズル
44 伝熱配管
46 空調装置の屋外機
50 床部材
60 土間コンクリート層
R 居住空間
U 床下空間
Claims (6)
- 地盤に立設される基礎構造と基礎構造の上に構築される上部構造とを有する建築物の温度を調整する調温構造であって、
前記基礎構造で囲まれて互いに区切られ、前記上部構造の底部を構成する床部材で上部が覆われた床下区画と、
前記複数の床下区画のうち、一部の床下区画に温冷風を供給する温冷風供給装置と、
前記温冷風が供給される床下区画と隣接する床下区画とを区切る基礎構造に配置され、隣接する床下空間同士を連通させる通風孔と、
前記床下区画に設置され、前記温冷風が通過し、温冷風が有する温冷熱を蓄熱する蓄熱体とを備え、
前記蓄熱体は、対向面間を貫通する空孔を有する空胴コンクリートブロックが面方向に並べられ上下方向に積み上げられてなり、空胴コンクリートブロックの空孔が連通して蓄熱体の対向面間を貫通し、その貫通方向が前記温冷風の通過方向に沿って配置されている
建築物の調温構造。 - 前記蓄熱体が、前記床下区画の内周側面との間に、床下作業が可能な間隔をあけて配置されている
請求項1に記載の建築物の調温構造。 - 前記空胴コンクリートブロックが積み上げられた蓄熱体の上部に、硅質頁岩からなる調湿材の粒塊が堆積された調湿層をさらに備える
請求項1または2に記載の建築物の調温構造。 - 前記温冷風供給装置が、前記基礎構造の屋外に配置され温冷熱を発生する屋外機と、前記床下区画に配置され温冷風を発生する屋内機と、屋外機と屋内機とをつなぐ伝熱路とを備えた空調装置である
請求項1〜3のいずれかに記載の建築物の調温構造。 - 前記基礎構造のうち屋外と屋内とを区切る基礎構造の内面に配置された断熱層と、
前記床下区画の底面に設置された土間コンクリート層とをさらに備え、
前記床部材は、実質的に断熱材層を含まない
請求項1〜4のいずれかに記載の建築物の調温構造。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の調温構造を用いて建築物を調温する方法であって、
前記温冷風供給装置を稼動させ、前記複数の床下区画のうち、一部の床下区画に温冷風を供給し、当該床下空間から前記連通孔を通して連通する別の床下区画へと温冷風を供給し、各床下空間に設置された前記蓄熱体の対向面間を貫通する空孔に温冷風を通過させて温冷風が有する温冷熱を蓄熱体に蓄熱させる工程(a)と、
前記温冷風供給装置を停止させた状態で、前記蓄熱体に蓄熱された温冷熱を、床下区画から前記床部材を介して建築物の上部構造へと伝熱させる工程(b)と
を含む建築物の調温方法。
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