JP2005126737A - アーク式蒸発源 - Google Patents

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Katsuhiro Tsuji
勝啓 辻
Masaki Moronuki
正樹 諸貫
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Abstract

【課題】 反応性ガス等の導入の有無に係わらず、アーク放電を安定して維持させ、広い領域で均一な膜厚の層を得ることを可能とし、カソード消費量に応じたカソード送り出し機構を備えるアーク式蒸発源を提供する。
【解決手段】 アーク蒸発源(20)は、中心軸に沿って貫通孔(110)を備えるカソード(22)と、貫通孔(110)内に挿入されカソードの中心線に対して平行又は外周方向に拡がる磁力線を発生させる磁場形成機構(92)を有する。磁場形成機構(92)先端部には、貫通孔(110)内に保護キャップ(80)が配置される。
【選択図】 図1

Description

本発明は、例えば工具、金型、装飾品、機械部品等の基材外部表面に、カソード構成物質またはカソード構成物質の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物等の化合物からなる被膜を形成させるアーク式蒸発源に関する。
基材の外部表面に被膜を形成し、耐摩耗性や耐久性の向上、摩耗損失の低減、さらには表面形状の保護のために、アーク放電によってカソード物質を溶融し、蒸発させるアーク式蒸発源が用いられる。
アーク式蒸発源では、アーク放電によってカソード前方の空間に形成されるアークプラズマによって、蒸発したカソード物質の多くはイオン化される。そしてアークプラズマを利用し、被成膜基材に所定の電圧を印加するすることによってイオン化されたカソード物質を基材に引き寄せ、表面に被膜を形成する。
アークイオンプレーティング法は成膜速度が速く、被膜と基材間の密着性に優れた成膜方法である。このためアークイオンプレーティング法による成膜装置は生産性に優れ、機械部品や切削工具等の表面に金属膜やその炭化物、窒化物などの被膜を形成する装置として広く用いられている。
アークイオンプレーティング法の成膜速度が速いのは、アーク放電によってカソード物質が溶融し、カソード物質の蒸気を大量に発生させることができるからである。したがって、カソード物質の消耗は早く、所定の放電時間経過後にはカソードを交換する必要がある。
これを解決する先行技術として、特開平5−17866号公報、特開2001−58266号公報、および特開2001−181829号公報が提案されている。
特開平5−17866号公報では、炭素を原料としたカソードを蒸発させるアーク式蒸発源において、カソードに細長い形状のものを用いることによってカソード物質を効率よく蒸発させ、かつカソードを送り出す機構を備える蒸発源が提案されている。膜厚が厚く放電時間が長い場合や、カソード交換周期を長くしたい場合には、カソード消耗量に応じカソードを長くすることで対応する。そして、カソードを真空容器内に挿入するために設けた穴から大気がリークすることを防止するためにカソード及びカソード送り出し機構他すべてを真空カバーで覆っている。
次に特開2001−58266号公報および特開2001−181829号公報では、直径に対して軸方向の長さが長いカソードを備え、カソード蒸発面に対してほぼ垂直ないし外側に広がる磁場を形成する磁気コイルを備えたアーク式蒸発源が提案されている。これらの公報は本発明の先行技術として最も近い発明である。
図5は特開2001−181829号公報で開示されているアーク式蒸発源の断面構造である。特開2001−58266号公報および特開2001−181829号公報では、カソード22’の外周に配置した磁気コイル42’によりカソード蒸発面でのアーク放電を維持するために必要な磁場を形成している。そして磁気コイルの電流値を最適化することによって、カソード蒸発面でのアーク放電を安定して維持することが可能である。
さらに、特開2001−181829号公報では、カソード冷却機構の先端部に固定された先細リング64’を設けることが提案されている。そして、この先細リング64’は、導電物で構成され、当該カソード22’と同電位に保たれている。この結果、特開2001−181829号公報で開示されているアーク式蒸発源は、特開2001−58266号公報で開示されているものと比較して、アークスポットの運動をカソード蒸発面内に制限する特性が向上する。
そして特開2001−58266号公報および特開2001−181829号公報で提案されているアーク式蒸発源はカソードをその軸に沿って前方に送り出すカソード送り出し機構を備えている。これによりカソードの消耗に応じて前方に送り出すことができ、カソード蒸発面での磁力線の状態をほぼ一定に保つことが可能である。さらに成膜を行う基材とカソード蒸発面の距離をほぼ一定に保つことが可能となる。この結果、長時間にわたって成膜速度を一定に保つことができる。
特開平5−17866号公報 特開2001−58266号公報 特開2001−181829号公報
しかしながら、特開平5−17866号公報によれば、直径が5〜20mm程度の細長い棒状のカソードを使用することが記載されており、炭素は脆性材料であるため、細長い棒状のカソードは交換などの作業中に破損し易い。そして直径の大きい円柱状のカソードと比較すると、細長い棒状のカソードは、カソードの消耗体積が同じ場合において、カソード消耗長さが長く、長時間連続して成膜を行うためには、あらかじめ長いカソードを準備する必要がある。
このためカソードを真空容器内に挿入するために設けた穴から大気がリークすることを防止するために備える真空カバーの大きさが大きくなる。さらにカソード蒸発面の面積が小さいため、大きな処理物に対して均一な膜厚分布を得ることが困難である。
次に特開2001−58266号公報および特開2001−181829号公報では、アーク式蒸発源はカソード蒸発面でアーク放電を維持するための磁場を形成する手段として、カソードを取り囲む領域に磁気コイルを備えている。そして磁気コイルの電流値を最適化することによって、カソード蒸発面でのアーク放電を安定して維持することが可能である。
しかしながら、磁気コイルによって形成した磁場は、その特性上、カソード中心軸付近と比較するとカソード周辺部の磁場強度が強くなる。このためカソード蒸発面から飛び出した電子は磁場強度が強いカソード周辺部でより強力に捕捉され、蒸発面の周辺部に高密度プラズマが生成される。この結果、カソード周辺部におけるアーク放電の発生頻度が高くなり、アーク放電が不安定になる。
特開2001−181829号公報では、カソード冷却機能の先端部に固定された先細リングを設けることが提案されており、この先細リングは、カソード周辺部におけるアーク放電発生頻度を抑制し、アークスポットの運動をカソード蒸発面に制限することができる。
しかしながら、カソード蒸発面方向にアークスポットが押し戻される際に、先細リング表面には一時的にアークスポットが存在するため、先細リングの先端部がアーク放電によって消耗する。したがって、ここで提案されているアーク式蒸発源を用いて、長時間連続して成膜を行った場合、先細リングが備える円錐状の斜面は、放電時間が長くなるとともに、成膜開始時の円錐状の斜面とは異なる形状に変形する。その結果、先細リングが備えるアークスポットの運動をカソード蒸発面に制限する機能が低下する。
このため、このタイプのアーク式蒸発源は、連続して成膜することが可能な時間に上限があり、定期的に先細リングを交換する必要が生じる。さらに、先細リングが効果的に機能するためには、先細リングの斜面と磁力線との成す角が鋭角である必要がある。このため、磁力線が、カソードの中心軸に対して、外周方向に広がるほど、先細リングの斜面と磁力線との成す角が浅くなり、先細リングの機能が低下する。
したがって、磁力線を外周方向へ大きく広がる磁場配位を取ることは困難である。そして、カソードを構成する材料がアーク放電によって電離し生成された、被膜形成物質イオンは磁力線の接線方向に比較的強い指向性を持つ。その結果、膜厚均一性の高い成膜領域は狭い。かくして例えば成膜面積の大きい処理物においては、処理物の部位によって膜厚に著しい不均一が生じる。
一方、カソード中心軸付近とその周辺部における磁場強度をほぼ等しくするためには、磁気コイルの直径に対する長さを長くするか、もしくはカソード直径に対して、磁気コイルの内径を十分大きくする必要がある。しかしながら、これらどちらの場合であっても、アーク式蒸発源全体の重量は重くなり、メンテナンス時の取扱いが簡便でない。
しかも、磁場強度が強く、磁気コイルに印可する電流を効率よく利用することができ、且つカソード中心軸付近とその周辺部における磁場強度が均一になる領域は、磁気コイルの長さ方向中央部付近であり、アーク放電を安定に行うためにはカソード蒸発面をこの領域に位置する必要がある。この磁気コイル中央部ではカソード中心軸に対してほぼ平行方向の磁力線が形成され、被膜形成物質イオンは磁力線の接線方向に比較的強い指向性を持つため、膜厚均一性の高い成膜領域は狭い。したがって例えば成膜面積の大きい処理物においては、処理物の部位によって膜厚に著しい不均一が生じる。
カソードを構成する材料の窒化物や酸化物等からなる被膜を形成する場合、カソードを構成する材料と反応する反応性ガス等から成るガスを導入し、アーク放電によってカソード材料を蒸発させ、基材表面に目的とする化合物被膜を形成する。
一方、カソードを構成する材料から被膜を形成する場合には、真空容器内にカソードを構成する材料と反応しない不活性ガスを導入したりまたは不活性ガスを導入せず高真空環境でアーク放電を利用しカソード物質を蒸発させ、被膜を形成する方法がある。不活性ガスを導入する環境で被膜を形成した場合、当該被膜中に不活性ガス元素が取り込まれ、被膜強度が低下する問題があるため、不活性ガスを導入しない高真空環境で成膜することが好ましい。
しかしながら、特開2001−58266号公報及び特開2001−181829号公報で提案されているアーク式蒸発源は、真空容器内にガスを導入しない環境で動作させようとすると、アーク放電が不安定になり、アーク放電が停止する頻度が高くなることが判明した。
カソード表面で磁場強度がほぼ均一になる磁気コイルの長さ方向中央部では、磁力線の方向は磁気コイルの中心軸(これはカソード中心軸とほぼ一致する)にほぼ平行である。ここで、磁気コイルの中心軸に対して円筒座標系を取り、磁場やアーク放電電流及びアーク放電電流に働く力の向きの関係について考える。
真空容器内にガスを導入しない場合において、アーク放電によってカソードから放出された熱電子は電場の影響を受け、カソードに近いアノード(真空容器壁またはコイル収納容器)に、つまり、カソード中心軸に対して動径方向にアーク放電電流が流れようとする。しかしながら、磁気コイルによってカソード中心軸とほぼ平行方向の磁場が形成されているため、電流と磁力線の両方に垂直な方位角方向に力(いわゆる、J×B力)を受け回転運動が生じるために、アーク放電電流は動径方向に流れるのを妨げられる。
さらに、カソードを流れる電流は、カソード周辺に方位角方向の成分を持つ磁場Bθを形成する。上記同様、カソード中心軸に対して動径方向に流れようとするアーク放電電流は、カソード周辺に形成された当該磁場Bθの影響によって、電流と当該磁場Bθの磁力線との両方に垂直な、カソードの中心軸方向に押し出す力を受ける。この結果、アーク放電電流は動径方向に流れるのを妨げられる。したがって、アーク放電電流は、J×B力の影響をほとんど受けず、主に磁力線に沿った方向に流れることになる。磁気コイルによって形成される磁力線において、カソード蒸発面を貫く磁力線は、磁気コイルの外側でアノードとして働く真空容器壁に到達する。この結果、カソード−アノード間の電流経路が長くなることから、アーク放電の維持が困難となり、アーク放電が停止する頻度が高くなる。
一方、J×B力の影響を軽減するため、磁気コイルによってカソード蒸発面近傍に形成される磁場強度を弱くした場合、カソード蒸発面前方において、アーク放電によって生成されたカソード構成物質によって構成されるプラズマの保持能力が低下し、さらにカソード蒸発面のアークスポットの運動制御も困難となるため、アーク放電が停止する頻度や、カソード蒸発面以外の場所でのアーク放電が発生する頻度が高くなる。
この結果、カソード近傍の蒸発源構成部品の溶融が生じるため、アーク放電を停止せざるを得なくなる。しかも、被膜へのカソード構成物質以外の不純物混入量が増加する。
真空容器内に不活性ガスやカソードを構成する材料と反応する反応性ガス等から成るガスを導入する場合には、状況が異なる。真空容器内に導入されるガスは、アーク放電の影響を受けることなく、定常的に一定量のガスが導入される。
したがって、アーク放電によってガスが電離し生成されたプラズマの密度は、ガスを導入しない場合と比較して、アーク放電の変動による影響が小さい。このためカソード周辺や真空容器内はほぼ定常的にプラズマで充満された状態にある。特にカソード周辺は磁気コイルによって磁場が形成されているため、高密度のプラズマが閉じ込められている。
このプラズマが実効的なアノードとして作用するため、カソード蒸発面におけるアークスポットから流れるアーク放電電流は、シース長さ程度の距離を持つカソード−プラズマ間で維持されれば良く、プラズマ−アノード間では、真空容器内に充満したプラズマ全体に電流が流れ、真空容器壁全体がアノードとして機能する。この結果、J×B力のアーク放電電流に対する影響が、見かけ上、小さくなることから、アーク放電の維持が容易になり、アーク放電が停止する頻度が低減される。
したがって、真空容器内にガスを導入しない場合においてアーク放電を安定して維持できるアーク放電式蒸発源であれば、真空容器内にガスを導入する場合においては当然アーク放電を安定して維持することが可能となる。
そこで本発明は、真空容器内に不活性ガスやカソードを構成する材料と反応する反応性ガス等から成るガスの導入の有無に係らず、アーク放電が安定して維持することができ、膜厚均一性の高い成膜領域が広く、カソードの消耗量に応じたカソード送り出し機構を備えた、軽量で取扱いが容易なアーク式蒸発源を提供することを主たる目的とする。
本発明のアーク式蒸発源は上記課題を解決するためになされたものであり、前記カソードの中心軸に沿って貫通孔を備えるカソードと、当該カソードを軸方向前方に送り出す機構と、当該貫通孔内に挿入され、且つ当該カソードの中心軸に対してほぼ垂直なカソード面前方で当該カソードの中心軸に対して平行ないし外周方向に広がる磁力線を発生させる磁場形成機構とを具備する。
磁場が存在する環境中において、プラズマ中を流れる電流は、磁力線を横切る方向に対して、磁力線に沿った方向に流れやすい性質を有していることが、この技術分野において公知である。この発明は、この性質を利用するものである。
本発明による構成によれば、磁場形成機構の磁極はカソードに設けた貫通孔内に位置するので、当該磁場形成機構によってカソード蒸発面近傍に形成される磁場は、当該カソード中心軸に近いほど強い磁場強度を持つ。
さらに、当該磁場形成機構は、当該カソード蒸発面前方において、当該カソード中心軸に対してほぼ平行ないし外周方向に広がる磁力線を発生する。そして、アーク放電電流は、当該磁場形成機構によって形成される磁力線に沿って、当該カソード近傍のアノードに流れる。
しかも、当該磁場形成機構によって形成される磁場配位は、当該カソード中心軸に対して外周方向に広がる磁力線を備える。したがってカソードの蒸発面上のアークスポットから放出された電子は、前記磁力線に捕捉され、当該磁力線に沿って輸送される。さらにアーク放電によって電離したカソード物質イオンも当該磁力線に沿って広い角度方向に発散する。
そして、当該磁場形成機構は、磁石または電磁石によって磁場を形成する。
本発明のアーク式蒸発源は、アーク放電によって消耗した長さに応じて、当該カソードを前方に送り出す、カソード送り出し機構を備え、カソード蒸発面を常に所定の位置に保つことができる。
そして、当該カソード貫通孔内に挿入される磁場形成機構の先端には、少なくともその一部がカソードと同じ材料で構成された保護キャップ、または少なくともその一部が体積抵抗率が1×105Ωm以上の材料で構成されて保護キャップが設けられている。
カソードは、成膜しようとする膜を構成する主要な元素の内、導電性を有する材料(例えば、金属、炭素、合金等)から成る。具体的にはCr、Ti、W等の金属、グラファイト(炭素)、TiAl等の合金を使用する。
本発明による磁場形成機構は、カソード蒸発面において、磁気コイルによって形成される磁力線と比較すると、カソード中心軸に対して外周方向により広く広がる磁力線を備える磁場配位が形成される。このため、カソード物質イオンの密度分布は従来技術である特開2001−58266号公報および特開2001−181829号公報で提案されている蒸発源と比較して広くなり、膜厚均一性が向上する。
さらに、磁力線はカソード中心軸に対して外周方向に広がる磁力線を備えており、カソード蒸発面を貫く磁力線の一部は、カソード蒸発面周辺の真空容器やシールド板などアノードとして働く部位に到達するため、カソード-アノード間の距離は短くなる。また、磁力線に沿ってカソード蒸発面から離れるに従い、磁場強度が弱くなり、荷電粒子への拘束も弱くなるため、カソード蒸発面近傍と比較して、荷電粒子は自由に運動することが可能となる。
この結果、アーク放電電流は主に磁力線とほぼ平行な方向に流れやすく、アーク放電電流の維持を妨げるJ×B力がほとんど働かない。したがって、真空容器内にガスを導入しない場合であっても、アーク放電は維持され、アーク放電が停止する頻度が低減される。
しかも、本発明による磁場形成機構は、カソード蒸発面前方において、カソード中心軸に近いほど強い磁場を形成する。この結果、カソード中心軸に近いほど磁力線に電子が捕捉されやすくなり、カソード蒸発面の中央部ほど密度の高いプラズマが捕捉される。このような分布を持つ高密度プラズマは、カソード周辺部におけるアーク放電の発生頻度を抑制し、アークスポットをカソード中心軸周辺に引き寄せる効果をもつ。一方、カソード蒸発面上のアークスポットは、このアークスポットが位置する場所における磁力線とカソード蒸発面との成す角が鋭角である方向、つまり、カソード蒸発面の外周方向に移動する傾向をもつ。したがって、カソード蒸発面における磁場強度と磁力線の形状を最適化することにより、アークスポットの運動がカソード蒸発面の一部に片寄ることを抑制することができる。そして、カソード蒸発面内の位置に係らず、アーク放電を安定して維持することが可能となる。
そして本発明の磁場形成機構は、磁石または電磁石によって磁場を形成する手段を具備する。したがって先行技術である特開2001−58266号公報および特開2001−181829号公報で提案されている蒸発源と異なり、蒸発源を取り囲む領域に磁気コイルを設ける必要がないため、蒸発源全体の重量が軽減される。
磁石が設けられた磁場形成機構は、磁場形成用電流源を必要とせず、蒸発源の構成を簡略化し、さらに成膜時の消費電力を低減する。磁石が設けられた磁場形成機構の場合は、カソード蒸発面から磁石までの距離を変えることによって、カソード蒸発面付近の磁場強度と磁力線形状を変えることが可能である。この結果、アーク放電のアークスポットの動きを制御することが可能になる。
一方、電磁石が設けられた磁場形成機構は、カソード蒸発面から磁気コイルまでの距離を変えることとあわせて、電磁石励磁電源より印加する電流値を変えることによって、カソード蒸発面での磁場強度及び磁力線形状をそれぞれ変化させることができる。この結果、アーク放電のアークスポットの動きを制御することが可能になる。また電磁石は磁気コイルの中心軸に沿って、鉄など強磁性体が挿入され、これによって磁場強度が増強されるため、電磁石に印加する電流は、強磁性体が挿入されていない時より低電流でよく、成膜時の消費電力が低減される。
さらに、本発明のアーク式蒸発源が備える磁場形成機構が鉄など強磁性体材料によって構成される場合には、磁場形成機構の後部に磁石を設けたり、または磁場形成機構を取り囲むように磁気コイルを設けたりすることで、カソード貫通孔内に挿入された磁場形成機構先端に磁極を形成することが可能となる。
この場合、カソード貫通孔内に挿入する磁場形成機構先端に磁石または電磁石を設ける必要がない。この結果、カソード貫通孔に挿入する磁場形成機構の外径を小さくすることができ、カソードの体積を大きくすることができる。
そして、上記磁場形成機構が強磁性体によって作製され、磁場形成機構を取り囲むように設けられた磁気コイルにより磁場を形成する場合、当該磁場形成機構が磁気コイルの磁場強度を増強するため、当該磁気コイルに印加する電流は、非強磁性体で製作された場合より少なく、成膜時の消費電力が低減される。
しかも、上記磁場形成機構は冷媒を循環させる機構を備えており、当該磁場形成機構や当該磁場形成機構が備える磁石または電磁石を冷却することが可能である。この結果、磁石や鉄などの強磁性体の温度上昇を抑制し、磁場強度の低下を防止できる。また、上記磁場形成機構はカソードと独立して動かすことができるので、カソードが消耗しても冷却効果を一定に保つことが可能である。
そして、上記磁場形成機構は、磁場形成機構先端を保護するための保護キャップを備える。アーク放電が維持されているカソード蒸発面近傍では、熱負荷が大きく、磁場形成機構先端は溶融による損傷を受けやすいが、保護キャップを設けることによって、磁場形成機構本体への損傷を低減することが可能となる。
そして、上記保護キャップがカソードと同じ材料によって構成されている場合、熱負荷によって蒸発した保護キャップを構成する材料は、カソードと同じであるため、被膜への不純物混入を防止することが可能となる。
さらに、上記保護キャップが、体積抵抗率1×105Ωm以上の材料で構成されている場合、保護キャップ内を電流はほとんど流れない。このため保護キャップ表面におけるアーク放電発生は抑制される。一方、蒸発源を動作し続けることによって、上記保護キャップ表面はカソードを構成する材料によって覆われ、当該保護キャップ表面は導電性を持つようになる。このとき保護キャップ表面におけるアーク放電発生の可能性が高くなる。しかしながら、いったん導電性を有するようになった保護キャップ表面においてアーク放電が発生すると、保護キャップ表面の導電性材料は蒸発してなくなるため、保護キャップ表面におけるアーク放電は継続しない。体積抵抗率1×105Ωm以上の材料は、具体的には、アルミナや窒化けい素等の耐熱性セラミックス等を用いることが好ましい。
上記保護キャップは、すべて同じ材料によって構成されていなくても良い。例えば、保護キャップ表面でのアーク放電発生を抑制し、さらに被膜への不純物混入を低減したい場合は、カソードを構成する材料で構成された円盤の側面および底面を体積抵抗率1×105Ωmの材料で覆った構成の保護キャップを設ければよい。
しかも、上記保護キャップ前面をカソード蒸発面より後方に設置することで、当該保護キャップにおけるアーク放電はほとんど発生しない。したがって、保護キャップを適用した本発明のアーク式蒸発源は、長時間連続して成膜することが可能である。
さらに、上記保護キャップによって、ガスを導入したり、複数の蒸発源を同時に作動させたりするなど真空容器内のガス圧が高い状況において、貫通孔内でのホローカソード放電の発生を抑制することが可能となる。これを以下において詳細に説明する。
プラズマは、これを構成する電子およびイオンのそれぞれの粒子密度がほぼ等しい、準中性状態を保っている。しかしながら、真空容器壁など固体と接触すると、プラズマの準中性状態が満たされない領域が形成され、この領域はシースと呼ばれる。
プラズマを構成する電子とイオンとを比較すると、それぞれの質量や温度の違いにより、イオンより電子のほうが移動度が高く、プラズマ中から真空容器壁へ逃げやすい。一方、プラズマは準中性状態を保つように働くため、シース領域には電位分布が形成され、電子はプラズマ方向に閉じ込められるように電場による力を受ける。当該電場は、さらにプレシースと呼ばれる、プラズマ−シース間に位置する領域においても存在することが知られている。以下の説明において、シースとは、時間的に変動する電場を除く、定常電場が存在する領域のことを指し、上記プレシース領域も含まれるとする。
円筒カソードの空洞内にプラズマが存在する場合、空洞内面とプラズマとの間にはシースが形成され、円筒カソードの空洞内に電子が捕捉される。この結果、カソードの空洞内で電離効率が増大し、通常の平板カソードと比較して、同じ放電電圧で大電流の放電が可能となる。この放電形態はホローカソード放電と呼ばれる。
つまり、ホローカソード放電が発生するためには、プラズマ中の電子を閉じ込める働きをするシース領域における電場の存在が必要であり、逆に、シース領域における電場がもつ電子の閉じ込め効果を阻害すれば、ホローカソード放電の発生が困難となる。もちろん、根本的な原因であるカソードの空洞がなければ、ホローカソード放電そのものが生じない。
さらに、本発明のアーク式蒸発源において、カソードの空洞には、磁場形成機構によって形成される磁場が存在する。この場合、カソードの空洞で発生するホローカソード放電には、マグネトロン効果がさらに加わり、より電離効果が高い状況にある。ただし、マグネトロン効果は磁場のみの影響では効果が現れず、ホローカソード放電と同様に、シース領域における電場の存在が必要である。
したがって、カソードの空洞に磁場が存在する場合であっても、シース領域における電場がもつ電子の閉じ込め効果を阻害すれば、マグネトロン効果は弱くなり、ホローカソード放電の発生も困難となる。
本発明のアーク式蒸発源において、アーク式蒸発源のカソードに設けられている貫通孔には、当該貫通孔に挿入される磁場形成機構の前方に、円筒の空洞領域が生じる。これは当該貫通孔内に円筒の空洞領域が生じないように、磁場形成機構前面とカソード蒸発面とを一致させた場合、カソード蒸発面を貫く磁力線の一部が再びカソード蒸発面の他の位置に戻ってくる磁場配位が、カソード蒸発面の前方に形成される。このような磁場配位は、カソード蒸発面におけるアーク放電は不安定になったり、カソードがまんべんなく消耗しなくなったりするため好ましくない。したがって、磁場形成機構の前面は、カソード蒸発面より後方に位置する必要がある。
本発明のアーク式蒸発源が備える磁場形成機構には、磁場形成機構の前方に保護キャップが設けられている。保護キャップは、カソードに設けられている貫通孔の空洞領域を小さくすることができ、ホローカソード放電の発生を抑制することが可能となる。
カソードに設けられた貫通孔の空洞領域は、カソードの貫通孔内壁と、磁場形成機構の先端に設けられた保護キャップ前面に取り囲まれていて、カソード蒸発面側は開いている。したがって、シースは、カソードの貫通孔内壁と保護キャップ前面の近傍に形成される。カソード貫通孔内壁近傍に形成されるシース領域には、当該貫通孔内に電子を閉じ込める働きをする電場が形成され、ホローカソード放電を維持するように作用する。
一方、保護キャップ前面近傍に形成されるシース領域には、貫通孔の空洞領域から前方に電子を押し出す働きをする電場が形成される。貫通孔の空洞領域は、その前方が開いた構造であるため、保護キャップ前面近傍に形成されるシース領域の電場は電子の閉じ込めには寄与せず、逆に、貫通孔の空洞領域から電子を排除する作用を持つ。
さらに、貫通孔前方の開口部近傍に形成されるシース領域の電場は、貫通孔内に電子が流入することを抑制し、貫通孔外への電子排出を促す作用を持つ。したがって、上記保護キャップの前面とカソード蒸発面との距離が、シース領域に形成された電場の影響が及ぶ、シース領域の厚さ に対して2倍以下になるように、保護キャップ前面がカソード蒸発面より後方に位置することによって、カソード貫通孔内でのホローカソード放電の発生を抑制することができる。より好ましくは、上記保護キャップの前面とカソード蒸発面との距離がシース領域の厚さに対して、3/2以下にするとよい。
本発明のアーク式蒸発源は、前記磁場形成機構と独立してカソードを前方に送り出すためのカソード送り出し機構を備えており、カソードの消費量に応じて前方に送り出すことができる。この結果、カソード蒸発面における磁場配位をほぼ一定に保つことができ、カソードを一様に消耗させることができる。またカソード蒸発面の位置もほぼ一定に保つことができ、したがって長時間にわたって成膜速度を一定に保つことが可能となる。
そして本発明のアーク式蒸発源は、トリガーを動作することによってカソード蒸発面の位置を検出する機構を備える。したがってトリガーを動作させることにより、カソードのアーク放電履歴(例えば放電電流や放電時間など)に依らず、随時カソード蒸発面の位置を検出することができる。そしてトリガー先端初期設定器によって設定した初期のトリガー先端位置(つまり、カソード蒸発面の初期位置)との差を比較演算器によって演算することで、カソードの消費量を算出することが可能となる。
さらに比較演算器とカソード送り出し機構を組み合わせることによって、カソードのアーク放電履歴に依らず、実際のカソード消耗量に応じてカソードを送り出すことができる。この結果、カソードの消耗状況に応じ、カソード蒸発面と磁気形成装置との距離を一定に保つことが可能となる。さらに、カソードが消耗しても、カソード蒸発面における磁場配位を保つことができ、アークスポットの動きも安定した状態に保つことができることによって、まんべんなくカソードが消耗する状態に保つことが可能となる。
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照しながら具体的に説明する。図1は本発明に係るアーク式蒸発源の実施の形態1に係る一例を示す断面図である。
本発明のアーク式蒸発源20は、カソード22及び中空ネジ18、カソード保持フランジ28のそれぞれの中心軸が一致するように配置されており、この中心軸に沿って貫通孔110が設けられている。カソード22は中空ネジ18によってカソード保持フランジ28に取りつけられている。
さらにカソード22およびカソード保持フランジ28は、これらを冷却するための冷媒30が循環する機能を備える、カソード冷却フランジ26によって保持されている。
そして、これらのフランジ26,28はOリングシール70によって真空シールされている。真空容器壁4とフランジ26との間には絶縁物46が介在する。この絶縁物46は真空容器壁4とフランジ26との間の真空シールも行う。
そしてカソード保持フランジ28の後方にはカソード送り出し機構38が設けられており、これによって前方に送り出される。送出軸36付のカソード送り出し機構38は後述するトリガー先端位置測定器86とトリガー先端初期設定器88及び比較演算器90と連動可能な動力式であることが好ましい。比較演算器90が算出した値に基づき、手動でカソード22を前方に送り出してもよい。
本発明のアーク式蒸発源20には、磁場を形成する手段として棒状の磁石32が設けられている、磁場形成機構92を備える。磁場形成機構92はその中を冷媒112が循環し、磁石32の少なくとも一面と接しており、この磁石32の冷却を行う。その結果、冷媒112の循環によって、磁石32の温度上昇を抑制でき、磁場強度の低下を防止することができる。フランジ28とアースとの間には放電用電源14が配され、シール板10とアースとの間には抵抗器60を配す。又、80は保護キャップを示す。
上記磁場形成機構92は、磁石32によって形成する磁場への影響を避けるため、強磁性体でない材料で構成されている。より具体的にはアルミ合金やSUS304等、非磁性材料によって構成されている。そして磁場形成機構92が備える磁場形成手段として、電磁石96(図2参照)を使用しても良い。この場合の磁場形成機構92およびカソード22を含む全体の実施の形態に係る一例を図2に示す。
上記電磁石96は電磁石励磁電源98と接続されており、電磁石96に印加する電流を変えることによって磁場強度を変化させることができる。
さらに、本発明のアーク式蒸発源20が備える磁場形成機構92は、強磁性体材料によって構成され、かつ磁場形成機構92の後部に、磁場形成手段として磁石100(図3参照)または磁気コイル102(図4参照)を設けてもよい。強磁性体材料は具体的には、磁性を備える鉄系材料を用いることが好ましい。
上記構成の磁場形成機構92において、磁場形成手段として磁石100を設けた場合の磁場形成機構及びカソードを含む全体の実施の形態に係る一例を図3に示す。この場合、保有磁場強度の異なる磁石と交換することによって、カソード蒸発面23における磁場強度を変化させることが可能である。
一方、上記構成の磁場形成機構92において、磁場形成手段として磁気コイル102を設けた場合の磁場形成機構及びカソードを含む全体の実施の形態に係る一例を図4に示す。この場合、磁気コイル102に印加する電流を変化させることによって、カソード蒸発面23における磁場強度を変化させることが可能である。
本発明のアーク式蒸発源20が備える磁場形成機構92は、カソード22及び中空ネジ18、カソード保持フランジ28のどれとも固定されていない。したがってカソード送り機構38によって前方にカソード22が送り出されても、磁場形成機構92は動くことなくそのままの位置を保持することが可能である。そして、磁場形成機構92は、カソード保持フランジ28との間でOリングシール34によって真空シールされている。
さらに磁場形成機構92は、貫通孔110内を駆動機構94によって前後に移動する。それによってカソード22の軸方向の長さに係らず、カソード蒸発面23での磁場強度を調節し、カソード蒸発面23に対してほぼ垂直ないし外側に広がる磁力線44を持つ磁場を一定に保つことが可能である。
この磁場によって、アークスポット62の運動をカソード蒸発面23内に制限することができ、さらにアークスポット62をカソード蒸発面23内の一部に偏ることなく一様に運動させることができる。この結果、カソード蒸発面23において偏ることなくまんべんなく一様にカソード22の消耗を進行させることができる。そして駆動機構94は常に稼働させる必要はない。むしろカソード蒸発面23でのカソード消耗が一様に進行する良好な状態に保つ磁場配位が得られれば、磁場形成機構92の位置を変化させないことが好ましい。
カソード22及び磁場形成機構92を含む全体は、真空容器壁4に保持されている。ただし真空容器壁4とフランジ26との間には絶縁物46が設けられており、カソード22及び磁場形成機構92を含む全体と真空容器壁4とは電気的に絶縁された状態で保持されている。
さらにカソード22を取り囲むように、真空容器壁4には絶縁物25が設けられており、カソード送り機構38によって前方に送る際の振動やカソード22やシールド板10から脱落した導電性ダストによって、カソード22と真空容器壁4との間、及びシールド板10と真空容器壁4との間が電気的に短絡することを防止する。
本発明のアーク式蒸発源20には、アーク放電点火時のトリガー位置を測定するトリガー先端位置測定器86を設けたトリガー16を備える。トリガー16は、アーク放電失火時の再点火やカソード蒸発面23以外での放電継続(異常放電)からの復帰時にトリガー駆動機構84を動作させる。トリガー駆動機構84は、往復運動する機構に限定されるものではない。
例えば、トリガー先端が円弧を描く運動をするトリガー駆動機構であってもよい。この場合、トリガー先端位置測定器はトリガーの角度から当該トリガー位置を測定する。
トリガー16の動作時において、トリガー16の先端はカソード蒸発面23と一定時間接し、そしてカソード蒸発面23から離脱する。このとき、トリガー16の先端位置はカソード蒸発面23の位置と一致することから、計測したトリガー16の先端位置とトリガー先端初期設定器88で設定した成膜開始時のトリガー16の先端位置(初期値)とを比較する比較演算器90を設けることで、成膜中のカソード22の消耗長さを検知することができる。
そして、カソード送り機構38を制御し、カソード22の消耗量に応じてカソード22を前方に送り出すことによって、長時間にわたりカソード22の蒸発を安定に維持し、成膜速度を一定に保つことが可能になる。
カソード22を構成する材料は、成膜しようとする被膜の種類により所定の材料、金属、合金、カーボン等から選ばれる。具体的にはTi、Cr等の金属、TiAl等の合金、カーボンなどである。カソード22を構成する材料の炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物等の化合物からなる被膜を形成する場合、カソード22を構成する材料と反応する図示しないガス導入機構から反応性ガス等からなるガスを真空容器内に導入し、アーク放電によってカソード22を構成する材料を蒸発させ化合物被膜を形成する。
例えば、炭素、窒素、酸素が構成元素として含むガスである。より具体的には、炭化物からなる被膜を形成する場合はメタンやアセチレンガスを、窒化物では窒素を、炭窒化物ではメタンと窒素の混合ガスを、そして酸化物の場合は酸素を導入する。24は蒸発した被膜形成物質の流れを示す。
図1に示した構造のアーク式蒸発源を用いて、硬質炭素被膜の成膜を実施した。被成膜基材は浸炭材製シムを用い、カソード蒸発面から500mm離れたところに固定した。アーク式蒸発源には、内径10mmの貫通孔を備える、外径50mm、軸方向の長さ200mmのグラファイト(炭素)製カソードを使用した。
磁場形成機構の前方に設けられた保護キャップはカソード材料と同じグラファイトで構成されており、カソード蒸発面から8mm後方に保護キャップ前面を配置した。アーク放電が維持されているカソードにおいて、カソードに設けられた貫通孔でのホローカソード放電は認められなかった。
この実施例では、成膜に先立ってボンバード工程を実施した。ボンバード工程は、真空容器内を真空排気ポンプにより、2×10-5 Torr程度まで排気したのち、図示しないガス導入孔からArガスを約10sccm導入し、真空容器内を約10m Torrに維持する。そして、被成膜基材には、図示しないインピーダンス整合器を介して、周波数13.56MHz、電力100Wの高周波を10min間印加し、高周波プラズマ放電を行った。被成膜基材はプラズマからの電子付着により負の自己バイアスが働き、正イオンであるArイオンが加速され、当該基材がスパッタされその表面が清浄化される。
上記ボンバード工程に続いて、成膜工程を実施する。この実施例の場合は、真空容器内へのガス導入は行わず、カソードにアーク電流80Aを流し、アーク放電を行う。同時に被成膜基材には直流電圧−100Vを印加する。その状態を維持し、20min成膜を行う。その結果、当該基材表面に、厚さ約1μmの硬質炭素被膜が形成される。
カソード長さが約30mmに達した時をカソードの寿命とし、上記成膜工程の繰り返し回数を表1中に実施例1−1として示す。さらに、図2、図3、図4のそれぞれに示した本発明のアーク式蒸発源の実施形態2、3、4を適用した場合のカソード寿命を表1中に、実施例1−2、実施例1−3、実施例1−4としてそれぞれ示す。
また、本発明のアーク式蒸発源の代わりに、先行技術である特開2001−181829号公報で提案されているアーク式蒸発源を用いて上記の成膜工程で成膜した場合のカソード寿命を表1中に比較例1−1として示す。比較例1−1ではカソードは各成膜工程終了時に2mmずつ送り出した。さらに、上記実施例と比較例において、カソード蒸発面の初期設定位置からの差の最大値や各成膜回数で平均したアーク再点火回数、及びアーク式蒸発源の平均電力量を同じく表1中に示す。
Figure 2005126737
表1に示すように、本発明のアーク式蒸発源を用いた実施例のほうが、カソード寿命が長く、カソード蒸発面の初期位置からの差が小さい。その結果、アーク放電が安定し、アーク再点火回数も少なくなる。さらに、本発明のアーク式蒸発源の動作に必要とする電力量も低い。被成膜基材の表面におけるドロップレット量や表面粗さは、各実施例及び比較例の両方について共に良好であった。
次に図1に示した構造のアーク式蒸発源を用いて、窒化クロム被膜の成膜を実施した。クロム製カソードを使用し、保護キャップとして、体積抵抗率が約1×1012Ωmの窒化けい素セラミックスで製作したものを適用した以外は、実施例1と同じ構成である。
実施例2では、実施例1と同様に、成膜に先立ってボンバード工程を実施した。このボンバード工程の条件は、実施例1と同じである。
上記ボンバード工程に続いて、成膜工程を実施する。この実施例の場合は、真空容器内へ窒素ガス及びアルゴンガスを導入する。窒素ガス及びアルゴンガスは図示しないガス導入孔から、窒素ガスを約100sccm、アルゴンガスを約400sccm導入し、真空容器内を約40m Torrに維持する。カソードにはアーク電流120Aを流し、アーク放電を行う。同時に被成膜基材には直流電圧−100Vを印加する。この状態を維持し、20min成膜を行う。その結果、当該基材表面に、厚さ約3μmの窒化クロム被膜が形成される。
上記成膜工程では、真空容器中に窒素ガス及びアルゴンガスを導入しているため、磁場形成機構の先端に保護キャップを設けない場合において、カソード蒸発面でのアーク放電が、カソードに設けられた貫通孔内で発生するホローカソード放電に移行する現象を確認した。そこで、カソード蒸発面におけるアーク放電に影響しないように、磁場形成機構の位置をアーク放電が安定に維持される位置に固定し、磁場形成機構の先端に設けられる保護キャップの長さを変えることによって、保護キャップ前面とカソード蒸発面との距離(Lとする)を2,5,10,15,20,30mmとそれぞれ変えた設定で成膜を行った。
ホローカソード放電発生回数の測定は、図示しない真空容器内を見ることができるガラス窓から、目視でおこなった。上記のそれぞれの条件におけるホローカソード放電発生回数を表2中に、実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3、実施例2−4、実施例2−5、実施例2−6としてそれぞれ示す。ホローカソード放電を確認後は、トリガーを動作させ、再度アーク放電に復帰させた。
さらに、保護キャップを構成する材料の一つであるけい素が被膜中に不純物として混入する量を評価するため、各条件において成膜した窒化クロム被膜に対してEDX分析を用いて元素分析を実施し、当該窒化クロム被膜に含有するけい素とクロムとの組成比を評価した。その結果を、同じく表2中に示す。なお、カソードは純度99.9%のクロムで構成されており、当該カソードに対する元素分析において、けい素は検出されなかった。
アーク放電プラズマにおいて形成されるシース領域の厚さ(λsとする)は、アーク放電が維持されているカソードの電位と同じ−19Vのバイアスを印加し、カソード蒸発面から200mm離れた位置に固定した、被成膜基材の表面近傍に形成される浮遊電位分布から評価した。
シース領域の厚さは、プラズマ中において一様な電位分布が、被成膜基材に近づいた時、電位が降下し始める位置をシース領域の境界と見なし、被成膜基材との距離から求めた。浮遊電位の測定は、プラズマ計測において一般的に使用される、Langmuirプローブを用いて実施した。アーク放電の条件は成膜工程のアーク放電条件と同じである。測定の結果、シース領域の厚さλsは8mmであった。
Figure 2005126737
実施例2−6では、トリガーによってアーク放電を開始しても、直ちにホローカソード放電に移行し、アーク放電の維持が困難であったため、ホローカソード放電が50回発生した時点で成膜を中止した。被成膜基材の表面におけるドロップレット量や表面粗さは、成膜を中止した実施例2−6を除き、すべての実施例において良好であった。また、すべての実施例において、成膜した窒化クロム被膜からはけい素は検出されなかった。保護キャップ前面とカソード蒸発面との距離Lと、シース領域の厚さλsとの比L/λsが2倍以下の場合は、L/λsが2倍を越える場合と比較して、ホローカソード放電の発生が少ない。さらに、L/λsが3/2倍以下の場合は、ホローカソード放電の発生が認められなかった。
以上のように、この発明によれば、カソード中心軸ほど磁場の強さが強い磁場配位を形成するので、アーク放電が安定して維持することができ、アーク再点火回数を低減することができる。
さらに、カソード蒸発面を測定する手段を具備するトリガーを備えており、成膜中のカソード蒸発面の位置を測定することができるので、カソード消耗量に応じてカソードを送り出す。その結果、カソード蒸発面でのアーク放電が安定して維持することができ、アーク再点火回数を低減することができる。
しかも、カソード蒸発面に磁場を形成する機構はカソードと独立して動かすことができるので、カソードの消耗によらず、アーク放電が安定に維持することができる磁場配位に調整することができる。
そして、カソードに設けられた貫通孔内に挿入する磁場形成機構の先端に設けられた保護キャップは、真空容器内にガスを導入する場合において、貫通孔におけるホローカソード放電の発生を抑制することができる。
その結果、貫通孔が設けられた、軸方向に長い形状のカソードを使用することができ、カソードの交換頻度を低減することが可能になる。そして、このアーク式蒸発源を採用した成膜装置では、カソード交換に係る休止頻度が少なくなり、休止時間も短くすることができ、生産効率が向上する。しかも、無駄となるカソード量を低減することができ、成膜に必要とするカソードコストを低減することが可能となる。
さらに、磁場形成機構内を循環する冷媒によって、磁場形成機構を効果的に冷却することができるので、長時間にわたってカソード蒸発面に形成される磁場配位を一定に維持することが可能となり、成膜速度が一定速度に維持され、さらに基材に形成する膜厚の再現性も向上する。
そして、本発明のアーク式蒸発源は、励磁電源が不要な磁石または励磁電流が小さい電磁石を備えているので、アーク式蒸発源の消費電力を低減することができる。
一方、強磁性体材料で構成された磁場形成機構を備えるアーク式蒸発源は、当該磁場形成機構の後部に励磁電源不要な磁石または励磁電流が小さい磁気コイルが設けられており、アーク式蒸発源の消費電力を低減することができる。
その結果、アーク放電を安定化させるための磁場形成手段は軽量化され、アーク式蒸発源全体の重量を軽減でき、メンテナンス時の取扱いが容易になる。
本発明の実施の形態1に係るカソード送り機構を備えるアーク式蒸発源の一例を示す断面図である。 本発明の実施の形態2に係る磁場形成機構および駆動機構、カソード、カソード送り機構を含む全体の断面図である。 本発明の実施の形態3に係る磁場形成機構および駆動機構、カソード、カソード送り機構を含む全体の断面図である。 本発明の実施の形態4に係る磁場形成機構および駆動機構、カソード、カソード送り機構を含むの断面図である。 カソード送り機構を備えるアーク式蒸発源の従来例を示す断面図である。
符号の説明
4 真空容器壁
10 シールド板
12 絶縁物
14 放電用電源
16 トリガー
18 中空ネジ
20 アーク放電式蒸発源
22 カソード
23 蒸発面
24 被膜形成物質
25 絶縁物
26 カソード冷却機構
28 カソード保持フランジ
29 フランジ
30 冷媒
32 磁石
34 Oリングシール
36 送出軸
38 カソード送り機構
40 コイル収納容器
42 磁気コイル
43 コイル励磁電源
44 磁力線
46 絶縁物
48 ガス吹き付け機構
50 ガス供給源
52 反応性ガス
54 ガス配管
60 抵抗器
62 アークスポット
70 Oリングシール
72 パッキン
80 保護キャップ
84 トリガー駆動機構
86 トリガー先端位置測定器
88 トリガー先端初期設定器
90 比較演算器
92 カソード冷却兼磁場形成機構
94 駆動機構
96 電磁石
98 電磁石励磁電源
100 磁石
102 磁気コイル
104 磁気コイル励磁電源
110 貫通孔
112 冷媒

Claims (8)

  1. アーク放電によってカソード物質を蒸発させるアーク方式蒸発源において、中心軸に沿って貫通孔を備えるカソードと、当該カソードを軸方向前方に送り出す機構と、当該貫通孔内に挿入され、且つ当該カソードの中心軸に対してほぼ垂直なカソード面前方で当該カソードの中心軸に対して平行および/又は外方向に広がる磁力線を発生させる磁場形成機構とを具備することを特徴とするアーク式蒸発源。
  2. 前記磁場形成機構の先端部に磁石又は電磁石が固定されたことを特徴とする請求項1記載のアーク式蒸発源。
  3. 前記磁場形成機構が強磁性体材料によって構成され、且つ当該磁場形成機構の後部に磁石又は電磁石が設けられていることを特徴とする請求項1記載のアーク式蒸発源。
  4. 前記磁場形成機構が強磁性体材料によって構成され、且つ当該磁場形成機構を取り囲む磁気コイルが設けられていることを特徴とする請求項1記載のアーク式蒸発源。
  5. 前記磁場形成機構が、カソードに設けられた貫通孔内を移動することを特徴とする請求項1記載のアーク式蒸発源。
  6. 前記磁場形成機構の先端に保護キャップを備えることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のアーク式蒸発源。
  7. 前記保護キャップの少なくともその一部が、カソードと同じ材料で構成されていることを特徴とする請求項6記載のアーク式蒸発源。
  8. 前記保護キャップの少なくともその一部が、体積抵抗率が1×105Ωm以上の材料で構成されていることを特徴とする請求項6記載のアーク式蒸発源。
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