JP4019457B2 - アーク式蒸発源 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば工具や金型等の基体の表面に陰極物質を被着して、当該陰極物質から成る、または当該陰極物質の窒化物、酸化物等から成る薄膜を形成する薄膜形成装置(これはアーク式イオンプレーティング装置とも呼ばれる)等に用いられるものであって、アーク放電によって陰極を溶解させて陰極物質を蒸発させるアーク式蒸発源に関する。
【0002】
【従来の技術】
アーク式蒸発源で蒸発させる陰極物質には、陰極近傍に生じるアークプラズマによってイオン化された陰極物質イオンがかなりの割合で含まれており、この陰極物質イオンを電界によって基体に引き込んで基体表面に薄膜を形成するアーク式イオンプレーティング法またはアーク式イオンプレーティング装置は、薄膜の密着性が良い、成膜速度が大きい等の利点を有しており、工具や金型等の表面に金属膜やセラミックス膜を被覆する手段として広く用いられている。膜の密着性が良いのは、陰極物質中に含まれている陰極物質イオンを、負バイアス電圧等による電界によって基体に引き込んで衝突させることができるからである。成膜速度が大きいのは、アーク放電を利用して陰極を溶解させるからである。
【0003】
しかし、上記陰極から発生する陰極物質には、ドロップレットと呼ばれる粗大粒子が含まれており、これが基体表面に形成される薄膜に入射付着すると、当該薄膜の平滑性を損ねて工具等の寿命を短くしたり、薄膜の外観を損ねたりする。
【0004】
このようなドロップレットを低減するために、陰極の前方付近に磁界を形成するアーク式蒸発源が既に提案されている。その一例を図12に示す。
【0005】
このアーク式蒸発源2は、特開平5−171427号公報に開示されているものであり、陰極(カソード)4と図示しない陽極(アノード)との間でアーク放電を生じさせて、このアーク放電によって陰極4を溶解させて陰極物質6を蒸発させる。陰極4は例えば金属から成る。この陰極4の陰極物質6を蒸発させる面が蒸発面5である。この蒸発面5の前方(即ち陰極物質6の蒸発方向。以下同じ)付近にはアーク放電によるプラズマ(即ちアークプラズマ)が生成され、上記陰極物質6には、このプラズマによってイオン化された陰極物質イオンがかなりの割合で含まれている。
【0006】
この陰極4の前方に基体18を配置しておくことにより、上記陰極物質6をこの基体18に入射堆積させて薄膜を形成することができる。その際に、例えば基体18に負のバイアス電圧を印加しておくことにより、陰極物質6に含まれている陰極物質イオンを、この負バイアス電圧によって基体18に向けて加速して基体18に衝突させることができる。また、基体18の周りに陰極物質6と反応する反応性ガス(例えば窒素、酸素、炭化水素等)を導入しておけば、陰極物質6とこの反応性ガスとが反応して、基体18の表面に化合物(セラミックス)薄膜を形成することができる。
【0007】
更にこのアーク式蒸発源2は、陰極4の前方付近に円筒状の磁気コイル8を設け、その内部に2段のリング状のコア16を設け、これらによって磁気コイル8の中心部付近に、即ち陰極4の前方付近に、磁力線12の集束領域14を形成するようにしている。この集束領域14での磁界の強さは、例えば890Oe(エルステッド)ないし1450Oeとかなり強く、その強い磁界によって当該集束領域14にプラズマの集中が起こり、ドロップレットがこのプラズマ中でリサイクル(分解・再利用)されることにより、陰極物質6に含まれるドロップレットが低減される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記アーク式蒸発源2においては、陰極4の前方に磁力線12の集束領域14が形成されていてプラズマが当該集束領域14に集束されるために、当該プラズマ中に含まれる陰極物質イオンも集束を受けて比較的鋭い指向性を持ち、基体18の設置位置では、陰極4の前方の小さい円形領域に成膜領域が限定されるという課題がある。その結果、膜厚均一性の高い成膜領域が狭く、従って例えば大量生産を目的とする成膜においては、基体18を設置できる領域が限られてしまい、生産性が向上しない。また、基体18が大型の場合は、基体18中の部位によって膜厚に大きな不均一が生じる。
【0009】
また、図13に示すように、アーク放電20のアークスポット22は、陰極4の蒸発面5において磁力線12が鋭角αに傾く方向Aに移動しやすい性質のあることが知られており、この性質によって、この従来技術の場合は、アークスポット22が蒸発面5の中心部に局在するようになる。24は陰極4の中心軸である。その結果、例えば図14に示すように、陰極4の中心部のみが極端に消耗して、短い時間で陰極物質6の所定の蒸発速度、ひいては基体18への所定の成膜速度が得られなくなるので、陰極4の寿命が短いという課題もある。その結果、陰極4を頻繁に交換しなければならず、それによって成膜効率が低下すると共に、コストも嵩む。
【0010】
なお、陰極4の形状は、特定のものに限定されるものではなく、図14(および図8、図9、図11)に示すような円錐台状の場合もあるし、それ以外の図に示すような直方体状、立方体状、板状等の場合もある。
【0011】
そこでこの発明は、陰極から飛散するドロップレットを低減することができ、しかも膜厚均一性の高い成膜領域が広く、かつ陰極寿命の長いアーク式蒸発源を提供することを主たる目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明のアーク式蒸発源は、前記陰極の陰極物質を蒸発させる蒸発面を含む領域に当該蒸発面での強さが700エルステッド以上の磁界を形成する磁界形成手段を備えており、かつこの磁界形成手段は、前記陰極の蒸発面を仮想的に広げた平面に当該磁界形成手段の一部が重なるように配置されており、しかもこの磁界形成手段は、前記陰極の蒸発面の前方において集束せずに平行進行ないし発散する磁力線であって、当該蒸発面内の任意の点に立てた法線と当該点における磁力線の方向との成す角度が0度以上30度以下の磁力線を発生するものであることを特徴としている。
【0013】
上記構成によれば、磁界形成手段によって、陰極の蒸発面での磁界の強さが700Oe以上の磁界を形成するので、このかなり強い磁界によって、蒸発面から飛び出した電子を当該蒸発面の前方付近に強力に捕捉して、蒸発面の前方付近に高密度のプラズマを生成することができる。この高密度のプラズマによって、陰極から蒸発する陰極物質に含まれるドロップレットを効率良く分解することができるので、陰極から飛散するドロップレットを低減することができる。
【0014】
しかも、上記磁界形成手段は、陰極の蒸発面の前方において集束せずに平行進行ないし発散する磁力線を発生するので、陰極物質イオンは、この磁力線に沿って放射されることになり、蒸発面の前方において集束を受けない。その結果、陰極物質イオンの放射領域は従来技術に比べて広くなり、従って膜厚均一性の高い成膜領域も広くなる。
【0015】
更に、上記磁界形成手段は、蒸発面内の任意の点に立てた法線と当該点における磁力線の方向との成す角度が0度以上30度以下の磁力線を発生するので、蒸発面でのアークスポットは、従来技術のように蒸発面の中心部に集中することはなく、蒸発面内をランダムに動くか(上記角度が0度の場合)、蒸発面のやや外寄りを周回するようになる(上記角度が0度より大で30度以下の場合)。このようなアークスポットの動きは、陰極の蒸発面全体をほぼ一様に消耗させるか、やや外寄りに比重を置きながら蒸発面全体を消耗させることになり、いずれにしても陰極の蒸発面を万遍無く使うので、陰極の寿命を長くすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係るアーク式蒸発源の一例を示す図である。図2は、図1のアーク式蒸発源の蒸発面付近における磁力線の状態の例を拡大して示す図である。図12の従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0017】
このアーク式蒸発源2aは、前述したような陰極4の蒸発面5を含む領域に、より具体的には少なくとも当該蒸発面5からその前方にかけての領域に磁界を形成する磁界形成手段の一例として、蒸発面5の周りに巻かれた筒状(より具体的には円筒状)の磁気コイル8aを備えている。この磁気コイル8aは、コイル電源10によって励磁されて上記磁界を形成する。図中に、この磁気コイル8aが作る磁力線12の例を模式的に示す。
【0018】
この磁気コイル8aは、陰極4の蒸発面5での強さが700Oe(エルステッド)以上の磁界を形成する。その場合、蒸発面5と磁気コイル8aとの位置関係は、蒸発面5を仮想的に広げた平面26に磁気コイル8aの一部が重なる位置とするのが好ましく、そのようにすれば、磁気コイル8a内の磁界が強い領域に蒸発面5が位置することになるので、蒸発面5に上記強さの磁界を形成するのが容易になる。
【0019】
この磁気コイル8aは、陰極4の蒸発面5の前方において集束せずに平行進行ないし進行方向に向かって外に発散する磁力線12を発生する。具体的にはこの例では、この磁力線12の集束領域14は、蒸発面5よりも後方(即ち陰極物質6の蒸発方向と逆)にあり、磁力線12は蒸発面5の前方において集束せずに、幾分発散している。なお、磁力線12は、蒸発面5の前方において幾分発散するものが好ましいけれども、要は集束しなければ陰極物質イオンの放射領域を当該磁力線12によって狭めることにはならないので、磁力線12は蒸発面5の前方において平行に進むものでも良い。
【0020】
しかも、この磁気コイル8aは、図2を参照して、陰極4の蒸発面5内の任意の点Pに立てた法線Nと当該点Pにおける磁力線12の方向H(これは当該点Pにおける磁界の方向と同じ意味である)との成す角度θが0度以上30度以下(即ち0°≦θ≦30°)の磁力線12を発生する。
【0021】
このアーク式蒸発源2aによれば、磁気コイル8aによって、上記のように陰極4の蒸発面5での磁界の強さが700Oe以上の磁界を形成するので、このかなり強い磁界によって、蒸発面5から飛び出した電子を当該蒸発面5の前方付近に効率良く捕捉して、蒸発面5の前方付近に高密度のプラズマ(アークプラズマ)を生成することができる。この高密度のプラズマによって、陰極4から蒸発する陰極物質6に含まれるドロップレットを効率良く分解することができるので、陰極4から飛散するドロップレットを、ひいては基体18に到達するドロップレットを低減することができる。その結果、基体18の表面に形成される薄膜の平滑性を高める(即ち面粗度を良好にする)ことができるので、当該薄膜を被覆した工具や金型等の寿命を長くすることができる。また、当該薄膜の外観を、ひいては当該薄膜を被覆した製品の外観を良好なものにすることができる。従って、従来は面粗度が悪くて適用できなかった分野での成膜にもこのアーク式蒸発源2aを適用することが可能になる。
【0022】
例えば、図3を参照して、陰極4の蒸発面5から距離Z=13cm離れた所の基体18に成膜を行い、その蒸発面5の中心軸24上(即ち当該中心軸24からの距離L=0cmの位置)における基体表面のドロップレットを測定したところ、図4に示すように、蒸発面5での磁界の強さを700Oe以上にすることによって、基体表面に付着するドロップレット数を著しく低減できることが確かめられた。
【0023】
上記磁界の強さが60Oeの場合の基体表面の電子顕微鏡写真を図5に示し、1200Oeの場合のそれを図6に示す。両図中の丸いものがドロップレットであり、図6ではドロップレットが著しく減少していることが分かる。
【0024】
なお、上記図4〜図6および後述する図7の実施例は、Tiから成る陰極4を有する上記のようなアーク式蒸発源2aを真空容器に取り付け、当該真空容器内にArガスを導入して当該容器内の圧力を約4mTorrに保ち、アーク電流約60Aで基体表面にTi薄膜を形成した場合の結果である。その場合の磁力線12の上記角度θは約10度である。
【0025】
しかも、このアーク式蒸発源2aは、上記磁気コイル8aによって、蒸発面5の前方において集束せずに平行進行ないし発散する磁力線12を発生するので、陰極物質6に含まれる陰極物質イオンは、この磁力線12に沿って放射されることになり、蒸発面5の前方において集束を受けない。なぜなら、イオンは磁力線12に捕捉された電子流に引き寄せられ磁力線12に沿って進行するからである。その結果、陰極物質イオンの放射領域は従来技術に比べて広くなり、従って均一性の高い成膜領域も広くなる。
【0026】
例えば、陰極4の蒸発面5から一定の距離Z離れた基体18の面内における成膜速度の分布を測定した結果を図7に示す。この図における距離ZおよびLは、先に図3で説明したものであり、この例でもZ=13cmである。図7中の実施例は、上記アーク式蒸発源2aによるものであり、その場合の磁力線12の上記角度θは約10度である。図7中の比較例は、図12に示した従来のアーク式蒸発源2によるものであり、その場合の磁力線12の上記角度θは約−5度(この明細書では、上記角度θは発散方向を正としているから、負は集束を意味している)である。
【0027】
この図7から分かるように、実施例の場合は、比較例に比べて、成膜速度分布の均一性が広い領域において非常に高い。これは換言すれば、実施例の方が、膜厚均一性の高い成膜領域が遙かに広いということである。その結果、このアーク式蒸発源2aによれば、一度に大量の基体18に膜厚均一性良く成膜することが可能になるので、あるいは大型の基体18に膜厚均一性良く成膜することが可能になるので、成膜の生産性が向上する。
【0028】
更に、このアーク式蒸発源2aでは、磁力線12の上記角度θを0度以上30度以下としているので、蒸発面5でのアークスポットは、従来技術のように蒸発面5の中心部に集中することはなく、蒸発面5内をランダムに動くか(θ=0°の場合)、蒸発面5のやや外寄りを周回するようになる(0°<θ≦30°の場合)。このようなアークスポットの動きは、例えば図8に示すように、陰極4の蒸発面5全体をほぼ一様に消耗させるか、やや外寄りに比重を置きながら蒸発面5全体を消耗させることになり、いずれにしても陰極4の蒸発面5を万遍無く使うので、陰極4の寿命を長くすることができる。その結果、長時間の成膜でも陰極4の交換無しに行うことが可能になり、成膜の生産性が向上する。また、陰極4の交換頻度が減るのでコストも削減できる。
【0029】
ちなみに、θ>30°の場合は、アークスポットが外側に寄り過ぎて、例えば図9に示すように、蒸発面5の外側が極端に消耗するようになり、陰極4の利用効率が悪化すると共に、陰極物質6の放射方向が広がり過ぎて基体18への成膜速度が低下するので、好ましくない。
【0030】
θが負の場合は、蒸発面5の前方において磁力線12が集束することであり、前述した従来技術に相当する。
【0031】
なお、例えば図10に示す例のように、磁気コイル8aの後方部付近に、陰極4の後方部付近の周りを囲むように、例えば板状で環状の強磁性体30を設けても良く、そのようにすれば、磁力線12がこの強磁性体30中を通るようになるので、磁力線12の経路の磁気抵抗が下がり蒸発面5での磁界を強めることがより容易になると共に、他への漏れ磁束も減少する。
【0032】
また、図1、図10のいずれのアーク式蒸発源2aにおいても、磁力線12の向きは、図示例と逆でも良い。そのようにしても、単に、磁力線12に巻き付く電子の旋回方向が逆になるだけであり、その他の作用は前記と同様である。
【0033】
また、陰極4の材料は、特定のものに限定されるものではなく、前述したTi以外の材料、例えばZr、Hf、TiAl、Al、Cu、Cr、Mo、W、Ta、V、C等でも良い。例えば、Crを陰極4に用いることによって、ドロップレット数の少ないCr膜またはCrN膜を形成することができる。
【0034】
また、磁界形成手段としては、上記のような磁気コイル8aおよびコイル電源10の代わりに、上記のような磁界を発生させる永久磁石を用いても良い。
【0035】
【実施例】
図11に示すアーク式イオンプレーティング装置を用いて、複数本のステンレス製のシャフト(直径10mm、長さ100mm)を基体18として、それらの表面にTiN膜を形成した。
【0036】
この装置は、真空排気装置34によって真空排気される真空容器32を有しており、その中に、図示しない駆動装置によって例えば矢印B方向に回転させられるホルダ40が設けられている。42は、電気絶縁機能を有する軸受部である。このホルダ40に、複数本の上記基体18を保持する。ホルダ40および基体18には、直流のバイアス電源44から負のバイアス電圧が印加される。真空容器32内には、ガス導入口36から下記のようなガス38が導入される。
【0037】
この真空容器32の壁面に、絶縁物46を介して、かつホルダ40上の基体18に向けて、図1に示したのと同様のアーク式蒸発源2aを1台取り付けている。陰極4は、この例ではTiから成り、陰極ホルダ50に保持されている。48は絶縁物である。この例では、真空容器32が陽極(アノード)を兼ねており、陰極4と真空容器32との間に直流のアーク電源52からアーク放電電圧が印加され、陰極4と真空容器32との間にアーク放電が生じる。54はアーク点弧用のトリガである。磁気コイル8aは、この例では巻数が150回であり、発熱による抵抗値増加を防ぐために水冷としている。
【0038】
成膜に際しては、この実施例では、成膜工程に先立ってボンバード工程を行った。
【0039】
ボンバード工程では、ホルダ40に上記基体18を保持して、まず真空排気装置34によって真空容器32内を1×10-5Torr程度以下の圧力まで排気した後、ガス導入口36からガス38としてArガスを約50sccm導入し、真空容器32内の圧力を3mTorr程度に保持する。基体18にはバイアス電源44から−1000Vのバイアス電圧を印加する。アーク式蒸発源2aの磁気コイル8aにコイル電源10から100Aの電流を流すと、陰極4の蒸発面5には約1200Oeの磁界が形成される。その状態で、陰極4にアーク電源52からアーク放電電圧を印加しておき、トリガ54を陰極4の側面に短時間接触させると、それが種となって陰極4と真空容器32との間にアーク放電が発生して持続し、陰極4の前方付近にはアークプラズマが生成される。このときのアーク電流は60Aとする。このアーク放電によって、陰極4が溶解してその蒸発面5から陰極物質6が蒸発し、その一部がアークプラズマによってイオン化され、このイオン化した陰極物質イオンが負バイアス電圧によって基体18に向けて加速されて基体18に衝突する。その状態を約3分間保持すると、陰極物質イオンの衝突によって、各基体18が約380℃まで加熱されると共に、各基体18がスパッタされてその表面が清浄化される。
【0040】
上記ボンバード工程に続いて、成膜工程に入る。即ち、この実施例の場合は、ガス38を窒素ガスに切り換え、それを約100sccm導入し、真空容器32内の圧力を20mTorr程度に保持する。かつ、基体18に印加するバイアス電圧を−200Vにし、陰極4に流すアーク電流を80Aにする。その状態を約10分間保持すると、各基体18の側面に約3μm厚のTiN膜が形成される。
【0041】
上記のようにして成膜されたステンレスシャフトの軸方向におけるTiN膜の膜厚のばらつきを表1中に実施例として示す。また、上記のようなアーク式蒸発源2aの代わりに、図12に示した従来のアーク式蒸発源2を用いて同様にして成膜した場合の膜厚のばらつきを表1中に比較例として示す。更に、上記実施例と比較例とにおいて、陰極4が消耗して規定の成膜速度や膜厚分布が得られなくなった時点を寿命としたときの陰極4の寿命を同じく表1中に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
この表に示すように、この発明に係るアーク式蒸発源2aを用いた実施例の方が、従来のアーク式蒸発源2を用いた比較例に比べて、膜厚の均一性が高く、かつ陰極寿命が長い。ちなみに、基体表面でのドロップレットについては、実施例および比較例の両方共に良好であった。
【0044】
【発明の効果】
以上のようにこの発明によれば、磁界形成手段によって、陰極の蒸発面での磁界の強さが700Oe以上の磁界を形成するので、蒸発面の前方付近に高密度のプラズマを生成して、この高密度のプラズマによって陰極物質に含まれるドロップレットを効率良く分解することができる。その結果、陰極から飛散するドロップレットを低減することができる。
かつ磁界形成手段は、陰極の蒸発面を仮想的に広げた平面に当該磁界形成手段の一部が重なるように配置されているので、磁界形成手段内の磁界が強い領域に蒸発面が位置することになり、従って、蒸発面の前方において平行進行ないし発散する磁力線を発生させる場合でも、蒸発面に上記強さの磁界を形成するのが容易になる。
【0045】
しかも、上記磁界形成手段は、陰極の蒸発面の前方において集束せずに平行進行ないし発散する磁力線を発生するので、陰極物質イオンは、蒸発面の前方において集束を受けなくなり、陰極物質イオンの放射領域は広くなる。その結果、膜厚均一性の高い成膜領域も広くなる。
【0046】
更に、上記磁界形成手段は、蒸発面内の任意の点に立てた法線と当該点における磁力線の方向との成す角度が0度以上30以下の磁力線を発生するので、蒸発面でのアークスポットは蒸発面内をランダムに動くか、蒸発面のやや外寄りを周回するようになり、蒸発面全体をほぼ一様に消耗させるか、やや外寄りに比重をおきながら蒸発面全体を消耗させることになる。その結果、陰極の蒸発面を万遍無く使うようになるので、陰極の寿命を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るアーク式蒸発源の一例を示す図である。
【図2】図1のアーク式蒸発源の蒸発面付近における磁力線の状態の例を拡大して示す図である。
【図3】陰極の蒸発面と基体との位置関係を示す図である。
【図4】陰極の蒸発面での磁界の強さを変えた場合の基体表面でのドロップレット数の変化の例を示す図である。
【図5】陰極の蒸発面での磁界の強さが60Oeの場合の基体表面の電子顕微鏡写真であり、倍率は1000倍である。
【図6】陰極の蒸発面での磁界の強さが1200Oeの場合の基体表面の電子顕微鏡写真であり、倍率は1000倍である。
【図7】陰極の蒸発面から一定の距離Z離れた基体表面における成膜速度分布の例を示す図である。
【図8】陰極の蒸発面に立てた法線と磁力線の方向との成す角度が0度以上30度以下の場合の陰極の消耗状態の例を示す概略図である。
【図9】陰極の蒸発面に立てた法線と磁力線の方向との成す角度が30度より大の場合の陰極の消耗状態の例を示す概略図である。
【図10】この発明に係るアーク式蒸発源の他の例を示す図である。
【図11】図1のアーク式蒸発源と同様のアーク式蒸発源を備えるアーク式イオンプレーティング装置の一例を示す図である。
【図12】従来のアーク式蒸発源の一例を示す図である。
【図13】図12のアーク式蒸発源の蒸発面付近における磁力線の状態の例を拡大して模式的に示す図である。
【図14】図12のような磁力線の方向の場合の陰極の消耗状態の例を示す概略図である。
【符号の説明】
2a アーク式蒸発源
4 陰極
5 蒸発面
6 陰極物質
8a 磁気コイル
10 コイル電源
12 磁力線
14 集束領域
18 基体
30 強磁性体
Claims (1)
- アーク放電によって陰極を溶解させて陰極物質を蒸発させるアーク式蒸発源において、前記陰極の陰極物質を蒸発させる蒸発面を含む領域に、当該蒸発面での強さが700エルステッド以上の磁界を形成する磁界形成手段を備えており、かつこの磁界形成手段は、前記陰極の蒸発面を仮想的に広げた平面に当該磁界形成手段の一部が重なるように配置されており、しかもこの磁界形成手段は、前記陰極の蒸発面の前方において集束せずに平行進行ないし発散する磁力線であって、当該蒸発面内の任意の点に立てた法線と当該点における磁力線の方向との成す角度が0度以上30度以下の磁力線を発生するものであることを特徴とするアーク式蒸発源。
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