本発明は、2以上の管体が接合されてなるハイドロフォーム用素管、このハイドロフォーム用素管の製造方法、およびこのハイドロフォーム用素管を材料としてなるハイドロフォーム成形品に関する。
ハイドロフォーム成形法は、成形型内に金属製のハイドロフォーム用素管(以下、本明細書においては単に素管と略する)を配置するとともに素管の内部に液圧を負荷することで、素管を成形型の型面の形状に応じた形状に成形する方法である。
このようなハイドロフォーム成形法は種々の金属製品を製造する際に用いられているが、例えばトラックのフレーム等に代表される、部分毎の周長差が大きい成形品を製造する場合、成形が極めて困難となり、成形過程での破断や局部的な減肉現象が出る場合がある。
すなわち、トラックのフレームのうちサイドメンバは、衝突時の衝撃等を吸収するために車両の前方部および後方部を低強度に形成する必要があり、車室内を破損から守るために車室の外側となる中央部を高強度に形成する必要がある。このとき、図7に示すように、サイドメンバ100のうち前方部a1および後方部a2の周長を小さく、中央部bの周長を大きく形成することで、前方部a1および後方部a2を低強度に中央部bを高強度にすることが考えられる。
しかし、肉厚が一定かつ周長が一定の素管を用いる場合には、図8に示すように、ハイドロフォーム成形時における中央部bの拡管率が非常に大きくなる。このため中央部bの材料伸び特性が低下し、それ以上の成形が困難になる。したがって、この場合はさらに焼鈍加工等の中間工程を施し、材料の伸び特性を回復させ再び成形する必要があった。この場合、複数の工程を経ることから、生産の効率が悪くなる。また、メッキ材などを素管とする場合には、メッキ層が焼失する危険があるため焼鈍工程を適用できない問題もあった。そしてこの場合、前方部a1および後方部a2の肉厚が中央部bに比べて大きくなるため、前方部a1および後方部a2の強度が必要以上に大きくなる問題もあった。
このため、従来より、素管を周長の異なる管体を溶接してなるものとすることで、素管の部分毎の拡径率の差を小さくすることがおこなわれている。この場合、図9に示すように、各々の素管に由来する部分の拡径率の差が小さくなる。このため、周長が大きく且つ高強度の部分を、特別な後加工なしにハイドロフォーム成形することが可能となる。
この溶接は、一般にレーザー溶接法によって行われている。これらの溶接法によると、溶接時の熱影響部が小さく、かつ溶接部分の組織が緻密になるため溶接された部分が伸び易くなる利点がある。
しかしその一方で、これらの溶接法によると、図10に示すように略同じ周長の接合端部同士が対向した状態(いわゆる突き当て状態)で管体101および管体102を溶接する場合には、その端部同士を完全に溶け込ませることは困難であり、未溶接部分103が生じ易い。さらに、溶融金属が凝固する際に表面張力により隣接する溶融金属を引っ張るため、接合部分105が凹形状となる。このため、管体同士の接合部分105の肉厚t0は管体101の肉厚t1および管体102の肉厚t2よりも小さくなり、接合部分105が素管106の最弱部分となり易い。ハイドロフォーム成形時には、素管106にかかる液圧はどの部分でも同じであるため、素管106の最弱部分が液圧によって破損し易く、接合部分105がハイドロフォーム成形時に破損し易い問題があった。
また、例えば、図11に示すように周長の大きな管体107の内部に周長のやや小さな管体108を挿入した状態(いわゆる重ね隅肉状態)で溶接する場合にも、溶融金属が凝固する際に表面張力により隣接する溶融金属を引っ張って接合部分105が凹形状となる。このため、この場合も管体同士の接合部分105の肉厚t0は管体107の肉厚t1および管体108の肉厚t2よりも小さくなり、接合部分105が素管106の最弱部分となり易く、接合部分がハイドロフォーム成形時に破損しやすい問題がある。
また、その他にも、素管のうち接合部分を素管よりも大径の補強管内部に挿入して、接合部分を補強した上でハイドロフォーム成形を行う技術も開発されているが(例えば、特許文献1)、この場合には、素管の形状が直管形状に限られる等の問題がある。
特開2001−334316号公報
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、後加工を施すことなく種々の形状のハイドロフォーム成形品を容易に得ることができ、ハイドロフォーム成形時に破損し難いハイドロフォーム用素管、およびその製造方法を提供することと、容易に破損なく製造されたハイドロフォーム成形品を提供することを目的とする。
本発明のハイドロフォーム用素管は、2以上の管体の端部同士が溶接されてなるハイドロフォーム用素管であって、上記管体同士の接合部分には消耗電極又は溶接ワイヤーを材料とする余盛部が形成され、接合部分と余盛部とからなる接合部の強度が少なくとも1つの上記管体の強度以上であることを特徴とする。
このハイドロフォーム用素管において、上記接合部ののど厚は少なくとも1つの上記管体の肉厚以上であることが好ましく、上記余盛部を構成する金属の強度は少なくとも1つの上記管体を構成する金属の強度以上であることが好ましい。
本発明の第1のハイドロフォーム用素管の製造方法は、2以上の管体の端部同士を溶接してハイドロフォーム用素管を製造する方法であって、消耗電極を用いた溶接方法または溶接ワイヤーを用いた溶接方法で上記管体同士の接合部分に余盛部を形成しつつ上記管体同士を溶接し、上記管体同士の接合部分と余盛部とからなる接合部の強度を少なくとも1つの上記管体の強度以上とすることを特徴とする。
このハイドロフォーム用素管の製造方法において、上記接合部ののど厚を少なくとも1つの上記管体の肉厚以上とすることが好ましく、上記余盛部を構成する金属の強度を少なくとも1つの上記管体を構成する金属の強度以上とすることが好ましい。
また、このハイドロフォーム用素管の製造方法において、上記消耗電極または上記溶接ワイヤはSiおよびMnを含み、少なくとも上記消耗電極または上記溶接ワイヤを酸素原子を含むガスを含むシールドガスに曝しつつ上記管体同士を溶接し、SiおよびMnの一部を酸化して上記余盛部中のSiおよびMnの含量を調整することが好ましい。
本発明の第2のハイドロフォーム用素管の製造方法は、SiおよびMnを含む2以上の管体の端部同士を溶接してハイドロフォーム用素管を製造する方法であって、少なくともその接合部分を酸素原子を含むガスを含むシールドガスに曝しつつ上記管体同士を溶接し、SiおよびMnの一部を酸化して接合部分中のSiおよびMnの含量を調整することを特徴とする。
本発明の第1のハイドロフォーム成形品は、第1のハイドロフォーム用素管の製造方法で製造されたハイドロフォーム用素管を材料としてなることを特徴とする。
本発明の第2のハイドロフォーム成形品は、第2のハイドロフォーム用素管の製造方法で製造されたハイドロフォーム用素管を材料としてなることを特徴とする。
本発明のハイドロフォーム用素管において、管体同士の接合部分には消耗電極又は溶接ワイヤーを材料とする余盛部が形成され、接合部分と余盛部とからなる接合部の強度が少なくとも1つの管体の強度以上となる。このため、管体の端部同士を完全に溶け込ませなくても、接合部の強度は余盛部のみか又は余盛部と接合部分とによって確保されて、接合部は素管のうちで最弱部分ではなくなり、ハイドロフォーム成形時に接合部が破損することがなくなる。したがって、本発明の素管は後加工を施すことなく容易に種々の形状にハイドロフォーム成形することができる。
本発明の第1のハイドロフォーム用素管の製造方法において、消耗電極を用いた溶接方法または溶接ワイヤーを用いた溶接方法で管体同士の接合部分に余盛部を形成しつつ管体同士を溶接することで、上述したように、接合部を素管のうちで最弱部分でない部分とすることができ、ハイドロフォーム成形時に破損しない接合部を持つ素管を後加工を要さず容易に製造することができる。
また、このハイドロフォーム用素管の製造方法において、消耗電極または溶接ワイヤをSiおよびMnを含むものとする場合、少なくとも消耗電極または溶接ワイヤを酸素原子を含むガスを含むシールドガスに曝しつつ管体同士を溶接すると、SiおよびMnの一部を酸化して余盛部中のSiおよびMnの含量が少なくなる。余盛部中のSiおよびMnの含量が少なくなると接合部の伸び率が大きくなり、ハイドロフォーム成形時にも、より破損し難い素管となる。そして、伸び率が大きいことからハイドロフォーム成形で拡管した部分が脆くなることはないため、この素管を用いる場合にはハイドロフォーム成形後に強度向上のための後加工を特に必要としない。
本発明の第2のハイドロフォーム用素管の製造方法によると、SiおよびMnを含む2以上の管体の端部同士を溶接してハイドロフォーム用素管を製造する場合にも、管体同士の接合部分を酸素原子を含むガスを含むシールドガスに曝しつつ管体同士を溶接することで、上述と同様に接合部の伸び率が大きくなる。このため、得られた素管はハイドロフォーム成形時に破損し難いものとなる。そして、上述と同様にこの素管を用いる場合にはハイドロフォーム成形後に強度向上のための後加工を特に必要としない。
本発明の第1のハイドロフォーム成形品は、第1のハイドロフォーム用素管の製造方法で製造されたハイドロフォーム用素管を材料としてなるものであり、接合部の強度が高い素管を材料としてなることから、後加工を施すことなく容易に種々の形状に形成されたものとなり、破損のない良好な形状をもつものとなる。
また、本発明の第2のハイドロフォーム成形品は、第2のハイドロフォーム用素管の製造方法で製造されたハイドロフォーム用素管を材料としてなるものであり、接合部分の伸び率が大きい素管を材料としてなることから、後加工を施すことなく容易に種々の形状に形成されたものとなり、破損のない良好な形状をもつものとなる。
本発明の素管は、2以上の管体の端部同士が溶接されてなるハイドロフォーム用素管である。本発明の素管は、トラックフレームのサイドメンバや、車両のアクセルハウジング等の、種々の周長や肉厚となる部分をもつハイドロフォーム成形品を製造する為の材料となる。また、上述したように、所望するハイドロフォーム成形品の形状に応じて同一の素管内に種々の周長や肉厚を持つ部分を形成することで、素管をハイドロフォーム成形して得られるハイドロフォーム成形品を、焼鈍加工等の後加工を施さなくても強度に優れたものとすることができる。
管体としては種々の形状や材料からなるものを用いることができ、異なる材料からなる2種以上の管体を組み合わせて用いることもできるし、異なる肉厚をもつ2種以上の管体を組み合わせて用いることもできるが、隣接する管体同士の接合端部は、各々略同形状であることが好ましい。隣接する管体同士は、突き当て状態および重ね隅肉状態のどちらで溶接されたものであっても良いが、特に、突き当て状態で溶接されている場合には、接合される接合端部のうち少なくとも一方は、予め端面が斜めに切断処理が施された(いわゆる開先処理)のちに溶接されていることが望ましい。また、管体としてはそれぞれ異なる材料からなるものを用いることもできるし、それぞれ異なる肉厚を持つものを用いることもできる。例えば、ハイドロフォーム成形時に大きく拡管する部分となる管体の肉厚を厚肉にすることで、得られたハイドロフォーム成形品の肉厚を略一定とすることもできる。
本発明の素管において、管体同士の接合部分には消耗電極又は溶接ワイヤーを材料とする余盛部が形成されている。そして、接合部分と余盛部とからなる接合部の強度が少なくとも1つの管体の強度以上である。ここで、溶接ワイヤーの形状は特に限定されず、例えば棒状等のものであっても良い。したがって、溶接棒や溶加材と呼ばれるものも本発明における溶接ワイヤーに含まれる。
管体同士の接合部分に余盛部が形成されていることで、接合部分の肉厚が小さい場合でも、余盛部に起因して接合部の強度が高くなり、接合部の強度は少なくとも1つの管体の強度以上となる。したがって、接合部が最弱部ではなくなり、この素管をハイドロフォーム成形に供する際に接合部が液圧によって破損することが防止される。
接合部の強度は、余盛部を厚肉に形成して接合部ののど厚を少なくとも1つの管体の肉厚以上とするか、余盛部を構成する金属の強度を少なくとも1つの管体を構成する金属以上の強度をもつものとすることが好ましい。
例えば余盛部を厚肉に形成し、接合部ののど厚を少なくとも1つの管体の肉厚以上とする場合には、接合部ののど厚によって接合部の強度が確保されるため、消耗電極又は溶接ワイヤーを構成する金属を特に高強度のものとしなくても接合部の強度を充分な強度とすることができる。
また、余盛部を構成する金属の強度を少なくとも1つの管体を構成する金属の強度以上とする場合には、余盛部を構成する金属の強度によって接合部の強度が確保されるため、接合部ののど厚を特に大きく形成しなくても接合部の強度を充分な強度とすることができる。なお、この場合、消耗電極又は溶接ワイヤーを構成する金属として管体を構成する金属よりも高強度のものを用いて接合部分の強度を高めることができる。この場合には、少なくとも余盛部は管体以上の強度を持つ金属から構成されることとなり、接合部の強度はより高くなり、ハイドロフォーム成形時における接合部の破損はより確実に防止される。
余盛部の肉厚や消耗電極又は溶接ワイヤーを構成する金属の強度は、ハイドロフォーム成形時における素管の拡管率等に応じて適宜設定することができる。
本発明の第1の素管の製造方法は、上述したハイドロフォーム用素管を製造する方法である。すなわち、消耗電極を用いた溶接方法または溶接ワイヤーを用いた溶接方法で管体同士の接合部分に余盛部を形成しつつ管体同士を溶接し、管体同士の接合部分と余盛部とからなる接合部の強度を少なくとも1つの管体の強度以上とする方法である。
消耗電極を用いた溶接方法とは、MIG溶接やMAG溶接等の方法が挙げられ、溶接ワイヤーを用いた溶接方法とは、TIGフィラー溶接やレーザーフィラー溶接、プラズマフィラー溶接等の方法が挙げられる。消耗電極を用いた溶接方法では接合部分に消耗電極由来の余盛部が形成され、溶接ワイヤーを用いた溶接方法では、接合部分に溶接ワイヤー由来の余盛部が形成される。
余盛部は、上述と同様に、厚肉に形成することで接合部の強度を確保することもできるし、高強度の金属により構成することで接合部の強度を確保することもできる。そして、上述した本発明のハイドロフォーム用素管と同様に、接合部ののど厚を管体の肉厚以上とすることが好ましく、余盛部を構成する金属の強度を管体を構成する金属の強度以上とすることが好ましい。
ここで、一般に消耗電極や溶接ワイヤには、電極やワイヤの電気抵抗を増大させ溶融性を向上させることを主たる目的として、Siが添加されている。また、素管等の鋼材に含有されるSの凝固割れを回避することを主たる目的として、Mnが添加されている。そして、接合部のSiおよびMnの含量が少ない場合には、接合部の伸び率が大きくなることが知られている。接合部の伸び率が大きくなると、素管がハイドロフォーム成形時に液圧によって膨張する際に破損し難くなる利点がある。
接合部のSiおよびMnの含量を少なくするためには、SiおよびMnの含量が少ない消耗電極または溶接ワイヤを用いて溶接を行うことが有効であるが、所望する素管毎に異なる組成の消耗電極または溶接ワイヤを準備する場合には消耗電極又は溶接ワイヤに要するコストが高くなる問題がある。
一方、消耗電極や溶接ワイヤに含まれるSiおよびMnは、溶接時に用いるシールドガス中に含まれるCO2ガスやO2ガス中の酸素元素によって酸化される。酸化されたSiおよびMnは、余盛部あるいは溶け込み部の内部に入らず、スラグとなる。このため、シールドガス中の酸素原子を含むガスによって接合部に含まれるSiおよびMn含量が低減し、接合部の降伏点(yp)が小さくなるとともに伸び率が改善されることが知られている。
参考までに、シールドガス中のCO2ガス濃度と余盛部の伸び率との関係を表すグラフを図1に示し、シールドガス中のCO2ガス濃度と余盛部のypとの関係を表すグラフを図2に示す。なお、図1および図2に示すグラフは、シールドガスとしてArガスとCO2ガスとの混合ガスを用い、消耗電極としてSiおよびMnを含む消耗電極(YM−25、日鐵住金溶接工業株式会社製)を用いて、MIG溶接によって形成された余盛部の伸び率およびypを測定したものである。
図1に示すようにシールドガス中のCO2ガス濃度が高くなるほど余盛部の伸び率は大きくなり、図2に示すように、シールドガス中のCO2ガス濃度が高くなるほど余盛部のypは小さくなる。
本発明の発明者らは、シールドガス中の酸素原子を含むガスの量を適宜調整して、接合部のypを接合部が最弱部分とならない程度の大きさとし、接合部の伸び率をハイドロフォーム成形による変形が充分行われる程度のものとすることで、より破断のない良好な形状のハイドロフォーム成形品を得るための素管を製造することができることを見いだした。なお、接合部の強度は、yp以外にも例えば接合部の肉厚等によっても左右されるため、余盛部の肉厚を併せて調整することで、接合部の強度を充分なものとすることができる。
そして、シールドガス中の酸素元素を含むガスの濃度は、素管を製造する際に個々に容易に調整することができるため、上述したようなSiやMnの含量が少ない消耗電極や溶接ワイヤを別途製造するよりも、容易且つ安価に余盛部中のSiおよびMnの含量を調整することができる。
また、第2のハイドロフォーム用素管の製造方法として、管体同士を溶接する際にレーザー溶接等の消耗電極または溶接ワイヤを用いない方法を用いるとともに、管体をSiおよびMnを含むものとし、管体同士の接合部分を酸素原子を含むガスを含むシールドガスに曝しつつ溶接することもできる。この場合、同様にSiおよびMnの一部を酸化することで接合部分中のSiおよびMnの含量が少なくなる。この場合には余盛部による接合部の強度向上の効果は得られないが、接合部分は伸び率が高い部分となっているため、ハイドロフォーム成形時に破損し難くなる。
本発明の第1のハイドロフォーム用素管の製造方法で製造された素管を材料としてなるハイドロフォーム成形品は、接合部の強度が高い素管を材料としてなることから、後加工を施すことなく容易に種々の形状に形成されたものとなり、破損のない良好な形状をもつものとなる。また、消耗電極や溶接ワイヤとしてSiおよびMnを含むものを用いる場合には、ハイドロフォーム製品は、適度な伸び率と充分な強度を兼ね備えた素管を材料としたものとなり、より良好な形状を持つものとなる。
本発明の第2のハイドロフォーム用素管の製造方法で製造された素管を材料としてなる素管は、接合部分の伸び率が大きい素管を材料としてなることから、後加工を施すことなく容易に種々の形状に形成されたものとなり、破損のない良好な形状をもつものとなる。
以下、本発明を図面を基にして説明する。
(実施例1)
本発明の実施例1の素管を表す側面図を図3に示す。
本発明の実施例1の素管1は、2つの管体2の端部同士が溶接されて一体化されたものである。2つの管体2のうち、周長が小さい第1の管体3は、STKM13Bからなり、肉厚t1が約2.9mmのものである。また、第1の管体3と溶接され一体化されている第2の管体5は、STKM13Bからなり、第1の管体3の外周長よりも僅かに大きい内周長をもつ小径部6と、小径部6よりも外周長および内周長が大きい大径部7と、小径部6と大径部7とを滑らかに連結する中間部8とを持つ。第2の管体5は、肉厚t2が約2.9mmのものである。
第2の管体5のうち小径部6の端部には第1の管体3の一端が挿入され、第1の管体3と第2の管体5とは重ね隅肉形状で溶接されている。このときの溶接方法はMIG溶接法であり、消耗電極としてSiおよびMnを含む消耗電極(YM−25、日鐵住金溶接工業株式会社製)を用い、シールドガスとして、アルゴンガスとCO2ガスとの混合気体であり、CO2ガスが、シールドガス全体のうち20%含まれているものを用いている。第1の管体3と第2の管体5との継ぎ目部分は溶接時の熱によって溶融するため、第1の管体3、第2の管体5および消耗電極の一部が互いに溶け込んだ接合部分10となる。そして、接合部分10のさらに上側には、消耗電極を材料とした余盛部11が形成されている。そして、余盛部11と接合部分10とからなる接合部12ののど厚t0は約3.2mmとなっている。
本実施例1の素管1は、余盛部11が形成され、余盛部11と接合部分10とからなる接合部12ののど厚t0が、第1の管体3の肉厚t1および第2の管体5の肉厚t2よりも大きくなっている。このため、接合部12の強度は第1の管体3および第2の管体5の強度よりも大きくなっている。
なお、溶接の際のシールドガスとして酸素元素を含むCO2ガスが用いられているが、CO2の濃度が比較的低いため、接合部12にはSiおよびMnが充分に含まれ、接合部12のypはあまり低減していない。また、接合部12ののど厚t0が第1の管体3の肉厚t1および第2の管体5の肉厚t2よりも充分に大きいことから、接合部12は充分な強度を持ち、素管1の最弱部ではなくなっている。したがって、この素管1をハイドロフォーム成形する際にも、接合部12が破損することはなく、良好な形状のハイドロフォーム製品が得られる。そして、CO2による酸化によって接合部12のSiおよびMnの含量が低減している分だけ、接合部12の伸び率が大きくなって、ハイドロフォーム成形時の接合部12の破損がより確実に防止される。
また、この素管1は異なる周長を持つ2つの管体2が接合されてなるものであり、予め周長の異なる部分をもつものである。したがって、周長の大きい部分を形成するためにハイドロフォーム成形によって素管1を大きく拡径する必要はないことから、強度の高いハイドロフォーム成形品を後加工なく容易に成形することが可能となる。
以下、本実施例1の素管1の製造方法を説明する。
先ず、第1の管体3および第2の管体5を準備する。第1の管体3としては直管をそのまま用い、第2の管体5としては直管をプレス成形で拡管して大径部7および中間部8を形成したものを用いる。
次に、第2の管体5のうち大径部7の端部を第1の管体3の一端の内部に挿入し、第1の管体3と第2の管体5とをMIG溶接で溶接する。
この溶接によって、第1の管体3と第2の管体5とが接合されて素管1が形成される。接合部12ののど厚t0は第1の管体3の肉厚t1および第2の管体5の肉厚t2に対して充分に大きく形成されているため、接合部12の強度は充分に保たれて、接合部12の破損は防止される。そして、溶接時に用いるシールドガス中に酸素元素を含むCO2ガスが含まれているため、接合部12のSiおよびMn含量は低減し、接合部12の伸び率は大きくなり、ハイドロフォーム成形時の接合部12の破損がより確実に防止される。
(実施例2)
本発明の実施例1の素管を表す側面図を図4に示す。
本発明の実施例2の素管15は、2つの管体16の端部同士が溶接されて一体化されたものである。2つの管体16のうち、小径である第1の管体17は、STKM13B製であり、肉厚t1が約2.9mmのものである。また、第1の管体17と溶接され一体化される第2の管体18は、STKM13B製であり、第1の管体17の内径および外径と略同じ内径および外径を持つ小径部20と、小径部20よりも外径および内径が大きい大径部21と、大径部21と小径部20とを滑らかに連結する中間部22とを持つ。第2の管体18の肉厚t2は約2.9mmである。
第1の管体17と第2の管体18とは、第2の管体18のうち小径部20の端部が第1の管体17の一端と突き当てられ、突き当て形状で溶接されている。このときの溶接方法は、実施例1と同じ消耗電極を用いたMIG溶接である。
実施例2の素管15には、実施例1と同様に第1の管体17、第2の管体18および消耗電極からなる接合部分23が形成され、接合部分23の上側には消耗電極を材料とした余盛部25が形成されている。本実施例2の素管15において、接合部26ののど厚t0は約3.2mmである。
本実施例2の素管15では、余盛部25が厚肉に形成され、余盛部25と接合部分23とからなる接合部26ののど厚t0が、第1の管体17の肉厚t1および第2の管体18の肉厚t2よりも大きくなっている。このため、接合部26の強度は第1の管体17および第2の管体18の強度よりも大きくなり、接合部26は素管15の最弱部ではなくなっている。したがって、この素管15をハイドロフォーム成形する際にも、接合部26が破損することはなく、良好な形状のハイドロフォーム製品が得られる。
なお、溶接の際のシールドガスとして酸素元素を含むCO2ガスが用いられ、CO2ガスの濃度は実施例1で用いたシールドガス中のCO2ガスの濃度よりも高いため、接合部26のはSiおよびMn含量は実施例1よりも低くなり、接合部26のypが低減している。しかし、本実施例2の素管15において、余盛部25は実施例1よりも厚肉に形成されており、接合部26ののど厚t0が第1の管体17の肉厚t1および第2の管体18の肉厚t2よりも充分に大きいために、接合部26は充分な強度を持ち、素管15の最弱部ではなくなっている。したがって、この素管15をハイドロフォーム成形する際にも、接合部26が破損することはなく、良好な形状のハイドロフォーム製品が得られる。そして、シールドガスとしてCO2ガスの濃度が比較的高いものを用いていることから、接合部26の伸び率がより大きくなっており、ハイドロフォーム成形時の接合部26の破損がさらに確実に防止される。
また、この素管15は実施例1と同様に異なる周長を持つ2つの管体16が接合されてなるものであるため、周長の大きい部分を形成するためにハイドロフォーム成形によって素管15を大きく拡径する必要はないことから、強度の高いハイドロフォーム成形品を後加工なく容易に成形することが可能となる。
以下、本実施例2の素管15の製造方法を説明する。
先ず、第1の管体17および第2の管体18を準備する。第1の管体17は直管をそのまま用い、第2の管体18は直管をプレス成形で縮管して小径部20および中間部22を形成したものである。
次に、第2の管体18のうち小径部20の端部を第1の管体17の一端と対向させて配置し、第1の管体17と第2の管体18とをMIG溶接で溶接する。このときの溶接の条件は、シールドガス以外は実施例1と同じである。シールドガスとしては、アルゴンガスとCO2ガスとの混合気体であり、CO2ガスが、シールドガス全体のうち20%含まれているものを用いた。
この溶接によって、第1の管体17と第2の管体18とが接合されて素管15が形成された。この製造方法においては、シールドガス中のCO2ガス量が実施例1よりも多いため、得られた素管15のうち余盛部25および接合部分23の伸び率は実施例1のものよりも大きくなる。したがって、より拡管率の大きいハイドロフォーム成形に供しても、接合部26の破損は生じにくくなる。そして、この場合も、接合部26ののど厚t0は充分に大きいため、接合部26の強度は充分に確保され、ハイドロフォーム成形により接合部26に破損が生じることは防止される。
本実施例2の素管15を用いたトラックフレームのサイドメンバの模式斜視図を図5に示し、本実施例2の素管15を用いたアクセルハウジングの模式斜視図を図6に示す。
本実施例2の素管15を材料とするトラックフレームのサイドメンバ27は、図5に示すように周長の小さい部分である吸収域28と、周長の大きい部分である確保域29とを持つ。確保域29は素管15のうち第2の管体18の大径部21からなる部分であり、吸収域28は素管15のうち第1の管体17からなる部分である。また、吸収域28と確保域29とは同程度の肉厚となるように形成されている。このため、吸収域28は強度が低く、確保域29は強度が高くなっている。したがって、衝突時等には吸収域28が壊れて衝撃を吸収するとともに確保域29によって車室内が守られる。
また、本実施例2の素管15を材料とするアクセルハウジング30は、図6に示すように周長の小さい部分である車軸31と、周長の大きい部分であるギヤケース32とを持つ。尚、車軸31は図6中破線で示す部分である。車軸31は素管15のうち第1の管体17からなる部分であり、ギヤケース32は素管15のうち第2の管体18の大径部21からなる部分である。ギヤケース32は車軸31に比べて非常に周長が大きくなっているが、車軸31とギヤケース32とのハイドロフォーム成形時の拡管率には大きな差がなく、ハイドロフォーム成形によって周長の大きいギヤケース32が脆くなることはない。したがって、特に焼鈍加工等の後加工を施す必要はないため、このアクセルハウジングは容易且つ安価に製造されたハイドロフォーム成形品となる。
シールドガス中のCO2ガス濃度と余盛部の伸び率との関係を表すグラフである。
シールドガス中のCO2ガス濃度と余盛部のypとの関係を表すグラフである。
実施例1の素管を表す模式断面図である。
実施例2の素管を表す模式断面図である。
実施例2の素管を材料としてなるトラックフレームのサイドメンバを表す模式斜視図である。
実施例2の素管を材料としてなるアクセルハウジングを表す模式斜視図である。
トラックフレームのサイドメンバを模式的に表す図である。
トラックフレームのサイドメンバの各部分の周長と、肉厚および周長一定の素管の周長とを比較するグラフである。
トラックフレームのサイドメンバの各部分の周長と、異なる周長を持つ素管の周長とを比較するグラフである。
突き当て状態で溶接された従来の素管を表す模式断面図である。
重ね隅肉状態で溶接された従来の素管を表す模式断面図である。
符号の説明
1:素管 2:管体 3:第1の管体 t1:第1の管体の肉厚 5:第2の管体 t2:第2の管体の肉厚 10:接合部分 11:余盛部 12:接合部 t0:接合部ののど厚
15:素管 16:管体 17:第1の管体 t1:第1の管体の肉厚 18:第2の管体 t2:第2の管体の肉厚 23:接合部分 25:余盛部 26:接合部 t0:接合部ののど厚