JP2005065514A - N−置換ホルムアミド類の加水分解酵素 - Google Patents

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Abstract

【課題】N−置換ホルムアミド類の加水分解酵素等を提供することを課題とする。
【解決手段】以下の酵素学的性質を有するN−置換ホルムアミド類の加水分解酵素
(1)作用:N−置換ホルムアミドからアミンへの加水分解反応を触媒する、
(2)基質特異性:少なくともN−ベンジルホルムアミド等に対する活性を有する、
(3)分子量:約61,000(SDS−PAGEによる)、
(4)至適温度:約35℃、
(5)至適pH:約7、
(6)金属イオンの影響:Cu+、Cu2+、Ag+及びHg2+で阻害される、
(7)SH基修飾試薬の影響:p−クロロマーキュリベンゾエイトで阻害される、
(8)キレート剤の影響:8−ヒドロキシキノリンで阻害される、
(9)還元剤の影響:2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールで阻害される、等。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、N−置換ホルムアミド類の加水分解酵素、当該酵素の製造方法、及び当該酵素等を触媒として用いるN−置換ホルムアミド類からのアミン類の製造方法等に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
アミン類は生理活性物質製造の中間体として有用な化合物であり、その新たな製造方法(例えば、工業的に有利な製造方法等)の開発が望まれている。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、アミン類の製造方法を鋭意検討した結果、N−置換ホルムアミド類の1つであるN−ベンジルホルムアミドを分解する活性を有する微生物をスクリーニングして取得、当該微生物の産生するN−置換ホルムアミド類の加水分解酵素を精製し、さらに、N−置換ホルムアミド類に当該微生物又は当該酵素を作用させることによりアミン類を生成させ、これを採取することによりアミン類を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0004】
即ち、本発明は、
1.以下の酵素学的性質を有するN−置換ホルムアミド類の加水分解酵素(以下、本発明酵素と記すこともある。)
(1)作用:N−置換ホルムアミド類からアミン類への加水分解反応を触媒する、
(2)基質特異性:少なくともN−ベンジルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−ブチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、N−ホルミルアラニン、N−ホルミルリジン、N−ホルミルチロシン、アリルホルムアミド、N−(α−メトキシベンジル)ホルムアミドに対する活性を有する、
(3)分子量:約61,000(SDS−PAGEによる)、
(4)至適温度:35℃、
(5)至適pH:7.0、
(6)金属イオンの影響:Cu+、Cu2+、Ag+及びHg2+で阻害される、
(7)SH基修飾試薬の影響:p−クロロマーキュリベンゾエイトで阻害される、
(8)キレート剤の影響:8−ヒドロキシキノリンで阻害される、
(9)還元剤の影響:2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールで阻害される;
2.アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物(以下、本微生物と記すこともある。)を、N−置換ホルムアミド類を含有する培地中で培養し、培養物から前記のN−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を採取する工程を特徴とするN−置換ホルムアミド類の加水分解酵素の製造方法;
3.アースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物が、アースロバクター(Arthrobacter) sp. FK164株(FERM P−19495)であることを特徴とする前項2記載の製造方法;
4.N−置換ホルムアミド類が、一般式 R−NH−CHO
(式中、Rは置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い、アルキル基又はアリル基)で示されるN−置換ホルムアミド又はその塩であることを特徴とする前項2又は3記載の製造方法;
5.N−置換ホルムアミド類が、N−ベンジルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−ブチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、N−ホルミルアラニン、N−ホルミルリジン、N−ホルミルチロシン、アリルホルムアミド及びN−(α−メトキシベンジル)ホルムアミドからなる群から選択される化合物であることを特徴とする前項2又は3記載の製造方法;
6.前項1記載の加水分解酵素、又は、アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物をN−置換ホルムアミド類に接触させて、当該N−置換ホルムアミド類をアミン類に変換することを特徴とするN−置換ホルムアミド類からのアミン類の製造方法(以下、本発明アミン類製造方法と記すこともある。);
7.アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物が、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.) FK164株であることを特徴とする前項6記載の製造方法;
8.N−置換ホルムアミド類が、
一般式 R−NH−CHO
(式中、Rは置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い、アルキル基又はアリル基)で示されるN−置換ホルムアミド又はその塩であることを特徴とする前項6又は7記載の製造方法;
9.N−置換ホルムアミド類が、N−ベンジルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−ブチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、N−ホルミルアラニン、N−ホルミルリジン、N−ホルミルチロシン、アリルホルムアミド及びN−(α−メトキシベンジル)ホルムアミドからなる群から選択される化合物であることを特徴とする前項6又は7記載の製造方法;
10.アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp. )FK164株;
等を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明酵素は、N−置換ホルムアミド類からアミン類への加水分解反応を触媒する酵素である。本発明酵素は、以下のように、例えば、アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物から単離精製することにより得ることができる。
【0006】
本微生物は、天然から分離しても良いし、菌株保存機関等から購入しても良い。天然から分離する場合には、先ず、自然界から採集した土壌を直接又は滅菌水で希釈した後、N−置換ホルムアミド類(例えば、N−ベンジルホルムアミド)を単一窒素源又は炭素源とする液体培地に接種し、当該培地で生育可能な微生物を分離する。分離された微生物を常法に従って、シングルコロニーアイソレーションした後、N−置換ホルムアミド類、トリプトン、酵母エキス等を含有する液体培地中で培養する。生育してきた菌について、SNEATH, (P.H.A.), MAIR, (N.S.) SHARPE, (M.E.) and HOLT, (J.G.): Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology. Vol.2. 1984, Williams and Wilkins, Baltimore.等に記載される通常の方法等に従って、アースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物であるかを同定することにより、アースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物を選抜すればよい。
次に選抜されたアースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物から、当該微生物の、例えば、N−ベンジルホルムアミド等のN−置換ホルムアミド類を加水分解してベンジルアミン等のアミン類に変換する能力の有無を、後述の実施例に記載されるような方法に準じて確認することにより、本発明に用いられるアースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物(即ち、本微生物)を選抜すればよい。
【0007】
尚、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)F164株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、FERM P−19495の寄託番号が付与されている(受託日:平成15年8月22日)。菌学的性状は以下の通りである。
1.コロニー形態(30℃、48時間)
(1)細胞形態:桿菌
(2)グラム染色性:陽性
2.生理学的性質
(1)NO3還元:陰性
(2)ピラジンアミダーゼ:陽性
(3)ピロリドニルアリルアミダーゼ:陽性
(4)アルカリ性フォスファターゼ:陽性
(5)β−グルクロニダーゼ:陰性
(6)β−ガラクトシダーゼ:陽性
(7)α−グルコシダーゼ:陽性
(8)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:陽性
(9)エスクリン加水分解:陽性
(10)ウレアーゼ:陰性
(11)ゼラチン加水分解:陽性
(12)グルコース醗酵性:陰性
(13)リボース醗酵性:陰性
(14)キシロース醗酵性:陰性
(15)マンニトール醗酵性:陰性
(16)マルトース醗酵性:陰性
(17)乳糖醗酵性:陰性
(18)グリコーゲン醗酵性:陰性
(19)生育温度 42℃:陰性
(20)Rod−coccusサイクル:有り
注)醗酵性=微生物による炭水化物の無酸素的分解
以上の菌学的性質により、本菌はアースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)と同定された。
【0008】
本微生物の培養は、当該微生物が利用し得る炭素源、窒素源、無機物等を含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、試験管振盪式培養、往復式振盪培養、ジャーファーメンター(Jar Fermenter)培養、タンク培養等の液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
培養温度は、本微生物が生育可能な範囲で適宜変更できるが、通常、約10〜40℃、好ましくは約20〜35℃である。培地のpHは約6〜8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが通常約1日〜約5日が好ましい。
本微生物を培養するための培地としては、例えば、微生物等の宿主細胞の培養に通常使用される炭素源や窒素源、有機塩や無機塩等を適宜含む各種の培地を用いることができる。
炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、シュークロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、フマル酸、クエン酸、ピルビン酸等の有機酸、動物油、植物油及び糖蜜が挙げられる。これらの炭素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
窒素源としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、大豆粉、コーン・スティープ・リカー(Corn Steep Liquor)、綿実粉、乾燥酵母、カザミノ酸等の天然有機窒素源、アミノ酸類、硝酸ナトリウム等の無機酸のアンモニウム塩、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩、フマル酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の有機酸のアンモニウム塩及び尿素が挙げられる。これらのうち有機酸のアンモニウム塩、天然有機窒素源、アミノ酸類等は多くの場合には炭素源としても使用することができる。これらの窒素源の培地への添加量は培養液に対して通常0.1〜30%(w/v)程度である。
有機塩や無機塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛等の塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩及びリン酸塩を挙げることができる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、塩化コバルト、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素一カリウム及びリン酸水素二カリウムが挙げられる。これらの有機塩及び/又は無機塩の培地への添加量は培養液に対して通常0.0001〜5%(w/v)程度である。
尚、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)FK164株が有するN−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素は、N−置換ホルムアミド類を含有する培地中で培養することにより、主として菌体内に生成される誘導酵素である。
【0009】
本発明酵素の製造は下記のように行えばよい。まず、本微生物を、N−置換ホルムアミド類を含有する培地中で培養する。次いで、例えば、遠心分離等により培養物の一つである本微生物を沈殿物として回収する。回収された前記沈殿物から後述するような通常の方法に準じてN−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を採取すればよい。
【0010】
本発明アミン類製造方法では、上記のようにして製造された本発明酵素、又は、本発明酵素を産生する微生物(即ち、本微生物)をN−置換ホルムアミド類に接触させて、当該N−置換ホルムアミド類をアミン類に変換する。
この場合、本微生物は、例えば、凍結乾燥細胞、有機溶媒処理細胞、乾燥細胞等の形態、又は、固定化された形態(固定化物)で利用してもよい。
【0011】
固定化物を得る方法としては、例えば、担体結合法(シリカゲルやセラミック等の無機担体、セルロース、イオン交換樹脂等に本N−置換ホルムアミド類分解微生物を吸着させる方法)及び包括法(ポリアクリルアミド、含硫多糖ゲル(例えばカラギーナンゲル)、アルギン酸ゲル、寒天ゲル等の高分子の網目構造の中に本N−置換ホルムアミド類分解微生物を閉じ込める方法)が挙げられる。
【0012】
また本発明酵素は、本微生物の培養物から、通常のタンパク質の精製において使用される方法を適用して精製することができ、例えば、次のような方法等を挙げることができる。
【0013】
まず、本微生物を、N−置換ホルムアミド類を含有する培地中で培養する。次いで、例えば、遠心分離等により培養物の一つである本微生物を沈殿物として回収する。回収された前記沈殿物を超音波処理、ダイノミル処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕法又は界面活性剤若しくはリゾチーム等の溶菌酵素を用いる化学的破砕法等によって破砕する。得られた破砕液から遠心分離、メンブレンフィルターろ過等により不純物を除去することにより無細胞抽出液を調製し、これを硫安分画、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー等の分離精製方法を適宜用いて分画することによって、本発明酵素を精製すればよい。
クロマトグラフィーに使用する担体としては、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)基、カルボキシメチル(CM)基、フェニル基、若しくはブチル基等を導入したセルロース、デキストリン、又はアガロース等の不溶性高分子担体が挙げられる。市販の担体充填済みカラムを用いることもでき、かかる市販の担体充填済みカラムとしては、例えば、Resource ISO、Resource Q(商品名、いずれもアマシャム ファルマシア バイオテク社製)、TSK−gel G3000SW(商品名、東ソー社製)等が挙げられる。
尚、本発明酵素を含む画分を選抜するには、例えば、例えば、N−ベンジルホルムアミド等のN−置換ホルムアミド類を加水分解してベンジルアミン等のアミン類に変換する能力の有無を指標にして選抜すればよい。
【0014】
続いて、本発明アミン類製造方法における触媒反応について説明する。
本発明アミン類製造方法においてN−置換ホルムアミド類をアミン類に変換する反応は、N−置換ホルムアミド類に、本発明酵素、又は、アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物を接触させることによって開始、達成される。
当該反応は、通常、水の存在下で行われる。水は緩衝液の形態であってもよく、この場合に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
尚、緩衝液を溶媒として用いる場合、その量はN−置換ホルムアミド類1重量部に対して、通常、1〜300重量倍、好ましくは5〜100重量倍である。
当該反応に際しては、N−置換ホルムアミド類を反応系内に連続又は逐次加えてもよい。
【0015】
反応温度としては、本微生物に含まれる本発明酵素の安定性、反応速度の点から約0〜50℃程度をあげることができ、好ましくは10〜40℃があげられる。
反応pHとしては、反応が進行する範囲内で適宜変化させることができるが、例えば、5〜9をあげることができる。
【0016】
反応は、水の他に有機溶媒の共存下に行うこともできる。この場合の有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテル等のエーテル類、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、デカン等の炭化水素類、t−ブタノール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類、ジメチルスルホキサイドなどのスルホキサイド類、アセトン等のケトン類、アセトニトリル等のニトリル類及びこれらの混合物が挙げられる。
反応に使用する有機溶媒の量は、N−置換ホルムアミド類に対して、通常、100重量倍以下であり、好ましくは70重量倍以下である。
【0017】
反応は、例えば、水、N−置換ホルムアミド類、本発明酵素又は本微生物、及び必要に応じて、有機溶媒等を混合し、攪拌、振盪することにより行うことができる。
【0018】
反応の終点は、例えば、反応液中の原料化合物の存在量を液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等により追跡することにより決定することができる。反応時間の範囲としては、通常、5分間〜10日間、好ましくは30分間〜4日間の範囲をあげることができる。
【0019】
反応終了後は、触媒として酵素を使用して化合物を製造する方法において通常用いられる化合物の回収方法により目的物を採取すればよい。例えば、まず反応液をヘキサン、ヘプタン、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒で抽出する。必要に応じて反応液を濾過したり、又は遠心分離等の処理により不溶物を除去した後に前記抽出操作を行えばよい。次に抽出された有機層を乾燥した後、濃縮物として目的物を回収することができる。目的物は、必要によりカラムクロマトグラフィー等によりさらに精製することができる。
【0020】
N−置換ホルムアミドとは、例えば、N−置換部分の炭素原子数が1〜15(好ましくは炭素原子数が1〜10、より炭素原子数が1〜8)であるN−置換ホルムアミド又はその塩等を意味する。さらに、例えば、
一般式 R−NH−CHO
(式中、Rは置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い(好ましくは炭素原子数が1〜8の)、アルキル基又はアリル基)で示されるN−置換ホルムアミド又はその塩をあげることができる。
アミン類とは、前記のN−置換ホルムアミドを加水分解して得られるアミン又はその塩である。具体的には、本発明アミン類製造方法において原料化合物として一般式 R−NH−CHOで示されるN−置換ホルムアミドを用いる場合には、これに対応するアミンである
一般式 R−NH2
(式中、Rは置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い(好ましくは炭素原子数が1〜8の)、アルキル基又はアリル基)で示されるアミン類が製造される。
ここで「置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い(好ましくは炭素原子数が1〜8の)、アルキル基又はアリル基」とは、置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い(好ましくは炭素原子数が1〜8の)アルキル基、又は、置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い(好ましくは炭素原子数が1〜8の)アリル基を意味するものである。
【0021】
【実施例】
以下、製造例等により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1 (本微生物の取得(その1))
N−置換ホルムアミド類としてN−ベンジルホルムアミドを単一炭素源とする液体培地(以下、NG培地と記すこともある。下記(1)参照)又はN−置換ホルムアミド類としてN−ベンジルホルムアミドを単一窒素源とする液体培地(以下、CP培地と記すこともある。下記(2)参照)を用いて、本微生物の単離を行った。微生物の分離源としては、つくば市近郊の土壌サンプルを用いた。まず、N−ベンジルホルムアミド濃度を0.02%(W/V)に調製した前記各培地に、土壌サンプルの一部を添加した。これを28℃で振盪培養しながら、1週間おきに1%(V/V)植菌を繰り返すことにより、60株の菌株を単離した。
【0023】
(1)NG培地
N−ベンジルホルムアミド(単一N源):0.02%(W/V)、
グリセロール:1.0、
K2HPO4:0.05、
KH2PO4:0.05、
MgSO4・7H2O:0.05、
FeSO4・7H2O:0.0005、
蒸留水:1L、
pH:7.0
【0024】
(2)CP培地
N−ベンジルホルムアミド(単一C源):0.02%(W/V)、
グリセロール:1.0、
K2HPO4:0.05、
KH2PO4:0.05、
MgSO4・7H2O:0.05、
FeSO4・7H2O:0.0005、
蒸留水:1L、
pH:7.0
【0025】
実施例2 (本微生物の取得(その2))
単離された各菌株をNG−1及びCP−1培地(上記のNG培地及びCP培地のN−ベンジルホルムアミド濃度を0.05%(W/V)に変更した培地)10mLに植菌して28℃、3日間振盪培養した後、培養液を遠心分離することにより休止菌体を得た。得られた休止菌体を、10mM N−ベンジルホルムアミドを含む0.1M リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、これを25℃で2時間放置した後、当該反応系におけるN−ベンジルホルムアミドの減少を下記条件での高速液体クロマトグラフィー法により定量することにより、N−ベンジルホルムアミド分解活性を求めた。
【0026】
(高速液体クロマトグラフィー条件:N−ベンジルホルムアミド分析)
カラム:Cosmosil 5C18−AR (4.6×150mm)(ナカライ社)、
キャリアー:10mM H3PO4−KH2PO4(pH2.0):アセトニトリル=1:1(V/V)、流速:1ml/min、
温度:40℃、
検出:198nm、
Retention time:N−ベンジルホルムアミド(2.2min)
【0027】
上記のN−ベンジルホルムアミド分解活性の測定結果では、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)FK164株が最も高い活性を有していることが明らかとなった。
【0028】
実施例3 (本発明酵素の精製)
アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.)FK164株を12LのNG−1培地中で30℃、24時間培養した後、13,000xg、15min、4℃遠心分離することにより菌体を集めた。次いで、得られた菌体約40gを、1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で2回洗浄した後、約480mLの同じ緩衝液に懸濁した。この懸濁液を超音波破砕装置(model 201M、KUBOTA)を用いて200W、60min処理することにより、菌体超音波破砕液を得た。得られた菌体超音波破砕液を、13,000xg、20min、4℃で遠心分離して残渣を除き、無細胞抽出液を得た。次いで、得られた無細胞抽出液に硫酸アンモニウムを加え、40−50%飽和の濃度において析出した画分を遠心処理によって回収し、少量の1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に溶解した後、1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に対して透析した。透析された粗酵素液を1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したDEAE−Sephacelカラム(5.8×7.6cm)に吸着させた。タンパク質の溶出は、KClを含む1Lの1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を用い、KCl濃度を0.2−0.5Mまで直線的に上昇させることにより行った。各画分の酵素活性は以下に示す方法によって測定した。下記の酵素活性測定反応液に各画分を適当量加え、25℃、10minインキュベートした後、これに等量のアセトニトリルを添加することにより反応を停止させた。次いで、前記反応液を遠心分離して得られる上清のうち40μlをGITC反応液(0.13%GITC(2,3,4,6−テトラアセチルグルコイソチオシアネート)、0.13%トリエチルアミンを含むアセトニトリル)120μlに添加することによりGITC誘導体化ベンジルアミンを調製し、得られたGITC誘導体化ベンジルアミンを下記の高速液体クロマトグラフィー条件で定量した。ここで、酵素活性の1ユニットを、1分間あたりに1μmolのベンジルアミンを生成する酵素量と定義した。
酵素活性を有する画分を回収し、これに硫酸アンモニウムを70%飽和に達するまで添加した。析出した沈殿を遠心分離によって回収し、これを少量の1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に溶解させた。次いで当該溶解物を、1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に対して透析(12時間、4℃)することにより粗酵素液を得た。得られた粗酵素液に等量の50%飽和硫酸アンモニウム、1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)を加えた後、これを25%飽和硫酸アンモニウム1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したResource ISOカラム(1CV=6ml)に吸着させた。タンパク質の溶出は、カラムの平衡化に用いた緩衝液180mlにより、硫酸アンモニウム濃度を25%飽和から15%飽和まで直線的に低下させることで行った。各画分の酵素活性を上述の方法と同様な方法で測定した。
酵素活性を有する画分を回収し、これに硫酸アンモニウムを70%飽和に達するまで添加した。析出した沈殿を遠心分離により回収し、これを少量の1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に溶解させた。次いで当該溶解物を、1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に対して透析(12時間、4℃)することにより粗酵素液を得た。得られた粗酵素液を、0.2M KCl、1mM ジチオスレイトール及び10%(W/V)グリセロールを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したResource Qカラム(1CV=1ml)に吸着させた。タンパク質の溶出は、カラムの平衡化に用いた緩衝液60mlにより、KCl濃度を0.2Mから0.4Mまで直線的に上昇させることで行った。各画分の酵素活性を上述の方法と同様な方法で測定した。
酵素活性を有する画分を回収し、これに硫酸アンモニウムを70%飽和に達するまで添加した。析出した沈殿を遠心分離により回収し、これを10%(W/V)グリセロールを含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)に溶解させた後、当該溶解物を液体窒素により瞬間凍結後−80℃で保存した。精製結果を表1に示した。
精製酵素標品は、無細胞抽出液の118倍まで精製され、その収率は8.36%であった。
【0029】
(酵素活性測定反応液組成)
N−ベンシルホルムアミド:10mM、
リン酸カリウム緩衝液:0.1M、
酵素:適当量、
pH:7.5
【0030】
(高速液体クロマトグラフィー条件:GITC誘導体化ベンジルアミン分析)
カラム:Cosmosil 5C18−AR (4.6×150mm)(ナカライ社)、
キャリアー:10mM H3PO4−KH2PO4(pH2.0):アセトニトリル=1:1(V/V)、
流速:1ml/min、
温度:40℃、
検出:250nm、
Retention time:GITC誘導体化ベンジルアミン(4.5min)
【0031】
【表1】
Figure 2005065514
【0032】
実施例4 (本発明酵素の酵素学的性質)
実施例3で得られた精製酵素標品を用いてその酵素学的諸性質を調べた。
(1)分子量及びサブユニット構造
実施例3で得られた精製酵素標品を、Laemmliらの方法(Laemmli, U. K. : Nature 227, 680−685 (1970))によりゲル濃度12.5%のSDS−PAGEに供した。電気泳動の結果を図1に示した。図1において、レーンAは分子量マーカー、レーンBは精製酵素標品である。分子量マーカーとの比較から、レーンBの精製酵素標品の分子量は約61,000と見積られた。さらに、精製酵素標品をゲルろ過(カラム;Superose 12HR 10/30 (1CV=24ml, Pharmacia biotech)、移動相;0.15M NaClを含む50mMリン酸カリウム緩衝液、流速;1.0ml/min、4℃)に供した。その結果を図2に示した。図中の矢印が示すように、ネイティブ酵素の分子量は約121,000と見積られた。以上の結果より、本酵素は分子量61,000のサブユニット2つからなる分子量約121,000のホモダイマー構造を有することが推定された。
【0033】
(2)基質特異性
本発明酵素の基質特異性を調べた。その結果、本発明酵素は、N−ベンジルホルムアミド(100)、N−メチルホルムアミド(0.0014)、N−ブチルホルムアミド(3.4)、N−シクロヘキシルホルムアミド(0.0001)、N−ホルミルアラニン(0.0024)、N−ホルミルリジン(0.0010)、N−ホルミルチロシン(0.0003)、アリルホルムアミド(0.22)、N−(α−メトキシベンジル)ホルムアミド(0.16)に対する活性を有することがわかった。尚、()内の数字は、N−ベンジルホルムアミドに対する活性を100とした時の相対活性を表す。
【0034】
(3)至適pH及び安定pH範囲
本発明酵素を様々なpHの緩衝液中で反応させ、至適pHを求めた。その結果を図3に示した。本発明酵素の至適pHは、約7であった。また、様々なpHの緩衝液中で25℃、30minインキュベートした後、本発明酵素の活性を測定することにより、本発明酵素の種々のpHにおける安定性(pH安定性)を求めた。その結果、本発明酵素はpH7〜9(好ましくはpH7.5〜8.5)において安定であった。
【0035】
(4)至適温度及び安定温度範囲
本発明酵素を様々な温度の緩衝液中で反応させ、至適温度を求めた。その結果を図4に示した。本発明酵素の至適温度は、約35℃であった。また、様々な温度の緩衝液(pH7.0)中で、30minインキュベートした後、本発明酵素の活性を測定することにより、本発明酵素の種々の温度における安定性(温度安定性)を求めた。その結果、本発明酵素は40℃付近から失活した。
【0036】
(5)各種化合物の添加効果
酵素活性に及ぼす各種化合物の影響を調べた。その結果を表2に示した。本発明酵素の活性は、一部の金属塩(CuCl, CuCl2, AgNO3, HgCl2)、SH試薬(p−クロロマーキュリベンゾエイト)、キレート剤(8−ヒドロキシキノリン)、還元剤(2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール)により阻害を受けた。
【0037】
【表2】
Figure 2005065514
【0038】
【発明の効果】
本発明により、生理活性物質製造の中間体として有用なアミン類を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明酵素の電気泳動(SDS−PAGE)写真である。図中において、レーンAは分子量マーカー、レーンBは精製酵素標品である。
【図2】本発明酵素のゲルろ過による分子量測定結果を示す図である。
【図3】本発明酵素の至適pH及びpH安定性を示す図である。左図は至適pHを示し、右図はpH安定性を示す。
【図4】本発明酵素の至適温度及び温度安定性を示す図である。左図は至適温度を示し、右図は温度安定性を示す。

Claims (10)

  1. 以下の酵素学的性質を有するN−置換ホルムアミド類の加水分解酵素。
    (1)作用:N−置換ホルムアミドからアミンへの加水分解反応を触媒する、
    (2)基質特異性:少なくともN−ベンジルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−ブチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、N−ホルミルアラニン、N−ホルミルリジン、N−ホルミルチロシン、アリルホルムアミド、N−(α−メトキシベンジル)ホルムアミドに対する活性を有する、
    (3)分子量:約61,000(SDS−PAGEによる)、
    (4)至適温度:約35℃、
    (5)至適pH:約7、
    (6)金属イオンの影響:Cu+、Cu2+、Ag+及びHg2+で阻害される、
    (7)SH基修飾試薬の影響:p−クロロマーキュリベンゾエイトで阻害される、
    (8)キレート剤の影響:8−ヒドロキシキノリンで阻害される、
    (9)還元剤の影響:2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトールで阻害される
  2. アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物を、N−置換ホルムアミド類を含有する培地中で培養し、培養物から前記のN−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を採取する工程を有することを特徴とするN−置換ホルムアミド類の加水分解酵素の製造方法。
  3. アースロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物が、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.) FK164株(FERM P−19495)であることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
  4. N−置換ホルムアミド類が、
    一般式 R−NH−CHO
    (式中、Rは置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い、アルキル基又はアリル基)で示されるN−置換ホルムアミド又はその塩であることを特徴とする請求項2又は3記載の製造方法。
  5. N−置換ホルムアミド類が、N−ベンジルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−ブチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、N−ホルミルアラニン、N−ホルミルリジン、N−ホルミルチロシン、アリルホルムアミド及びN−(α−メトキシベンジル)ホルムアミドからなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項2又は3記載の製造方法。
  6. 請求項1記載の加水分解酵素、又は、アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物をN−置換ホルムアミド類に接触させて、当該N−置換ホルムアミド類をアミン類に変換することを特徴とするN−置換ホルムアミド類からのアミン類の製造方法。
  7. アースロバクター(Arthrobacter)属に属し、N−置換ホルムアミド類を加水分解する能力を有する酵素を産生する微生物が、アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp.) FK164株であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。
  8. N−置換ホルムアミド類が、
    一般式 R−NH−CHO
    (式中、Rは置換されていても良いフェニル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる置換基群から選ばれる1つ以上の置換基で置換されていても良い、アルキル基又はアリル基)で示されるN−置換ホルムアミド又はその塩であることを特徴とする請求項6又は7記載の製造方法。
  9. N−置換ホルムアミド類が、N−ベンジルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−ブチルホルムアミド、N−シクロヘキシルホルムアミド、N−ホルミルアラニン、N−ホルミルリジン、N−ホルミルチロシン、アリルホルムアミド及びN−(α−メトキシベンジル)ホルムアミドからなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項6又は7記載の製造方法。
  10. アースロバクター エスピー(Arthrobacter sp. )FK164株。
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