JP2005036956A - トルクコンバータ - Google Patents

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Junichi Doi
淳一 土井
Norio Iwashita
典生 岩下
Shinya Kamata
真也 鎌田
Mitsugi Yamaguchi
山口  貢
Kazuhito Maeda
一仁 前田
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Abstract

【課題】 スリップ制御可能であり、ピストンサイズを変更することなく伝達トルクを大きくできるロックアップクラッチを有するトルクコンバータを提供する。
【解決手段】 ピストン41は、フロントカバー2とタービン4との間の空間をフロントカバー2側のフロント室Fとタービン4側のリア室Rとに分割するように配置されており、流体によるフロント室F及びリア室Rの差圧によりフロントカバー2に対して接近・離反可能である。また、ピストン41は、ピストン本体41a、摩擦フェーシング61、孔部46、及びリード弁47を有する。孔部46は、フロント室F及びリア室Rを流通可能にする。リード弁47は、フロント室Fに対してリア室Rの流体圧力が高い場合に流体が孔部46を流通するのを規制する。孔部46は、ピストン本体41aの内周部に設けられている。
【選択図】 図1

Description

本発明は、トルクコンバータ、特にロックアップクラッチが設けられたトルクコンバータに関する。
トルクコンバータは、3種の羽根車(インペラー、タービン、及びステータ)を内部に有し、内部の作動流体(作動油)によりトルクを伝達する装置である。インペラーは、トルクを伝達するフロントカバーに固定されており、インペラーシェルとフロントカバーとで内部に作動流体が充填された流体室を形成している。タービンは流体室内でインペラーに対向して配置される。インペラーが回転すると、作動流体がインペラーからタービンに向かって流れてタービンを回転させる。この結果、タービンからトランスミッションのメインドライブシャフトにトルクが伝達される。
ロックアップクラッチは、フロントカバーとタービンとの間の空間に配置されており、フロントカバーとタービンとを機械的に連結することでトルクを直接伝達するための機構である。ロックアップクラッチは、主に、ピストンと、ピストンをタービンなどの出力側部材に連結するための弾性連結機構とから構成されている。ピストンは、フロントカバーとタービンとの間を、フロントカバー側のフロント室とタービン側のリア室とに分割するように配置されている。この結果、ピストンは、フロント室とリア室との差圧によりフロントカバーに対して接近及び離反可能である。ピストンの外周部のフロントカバー側には、摩擦フェーシングが張られた摩擦係合部が形成されている。弾性連結機構は、例えばピストンに固定されたドライブ部材と、タービン側に固定されたドリブン部材と、ドライブ部材とドリブン部材との間でトルク伝達可能に配置されたコイルスプリング等の弾性部材とから構成されている。
トルクコンバータを用いている車両の低速走行時には、ロックアップクラッチにおいてスリップ制御をおこなうことがある。スリップ制御とは、ピストンをフロントカバーに対して弱く押し付けることにより、ピストンとフロントカバーとの間に所定のスリップ回転を定常的に与えておくものである。スリップ回転があると、トルクコンバータにより伝達されるトルクが、ロックアップクラッチを介する機械伝達と作動流体を介する流体伝達とに分担される。スリップ回転数が大きいときは、機械伝達の割合が小さく、流体伝達の割合が大きい。スリップ回転数は、フロント室とリア室との流体圧力の差を調節することにより制御される。
スリップ制御を可能としつつロックアップ完直時に十分な締結力を得るために、ピストンに連通孔及び開閉部材を設けた構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この構造では、スリップ制御時には連通孔を通ってフロント室からリア室に油が流れる。この結果、スリップ制御時には完直時に比べてフロント室の圧力が高くなり、リア室の圧力が低くなる。完直時には連通孔は開閉部材によって閉ざされているため、ロックアップ締結力が十分に大きくなる。具体的には、開閉部材は、コイルスプリングを用いたダンパー機構によって駆動されるように配置されており、エンジンからのトルクが大きくなりコイルスプリングの圧縮が進むと連通孔を閉じるようになっている。
特開昭59−86737号公報(図5)
前記従来のトルクコンバータでは、ロックアップクラッチのピストンに連通孔が設けられているため、スリップ制御時にフロント室からリア室に流体が流れる。しかし、この構造では連通孔はピストンの最外周部(具体的には、摩擦連結部及びコイルスプリングが配置された部分)に設けられているため、孔部の周速の影響を受けて連通孔を流れる流体の流量が十分に得られないという問題がある。そして、この場合は、制御信号に対するロックアップ締結力の制御ゲインが高くなってしまい、その結果スリップ制御時(このときに完直時に比べてロックアップ締結力がかなり小さい)における制御性が低下してしまう。
本発明の課題は、トルクコンバータのロックアップクラッチにおいて、トルクコンバータの回転数に対する制御ゲインの影響を少なくして、制御性を向上させることにある。
請求項1に記載のトルクコンバータは、フロントカバー、インペラー、タービン、ステータ、及びピストンを備える。フロントカバーは、トルクの入力側に設けられる。インペラーは、フロントカバーに連結されており共に流体室を形成する。タービンは、流体室内でインペラーに対向する。ステータは、インペラーとタービンとの間に配置される。ピストンは、フロントカバーとタービンとの間の空間をフロントカバー側のフロント室とタービン側のリア室とに分割するように配置されており、流体によるフロント室及びリア室の差圧によりフロントカバーに対して接近及び離反可能である。また、ピストンは、本体部、対向部、孔部、及び規制弁を有する。本体部は円盤状である。対向部は、本体部の外周部に配されており、フロントカバーに対向して摩擦係合可能である。孔部は、フロント室及びリア室を流通可能にする。規制弁は、フロント室に対してリア室の流体圧力が高い場合に流体が孔部を流通するのを規制する。また、孔部及び規制弁はピストンの内周部に設けられている。
ピストンは、フロント室とリア室との差圧により移動し、対向部においてフロントカバーと摩擦係合可能である。フロント室及びリア室の圧力差を変更することにより、ロックアップ締結力を変更できる。このため、ピストンをフロントカバーに対してスリップ状態とすることが可能となる。
このトルクコンバータでは、フロント室の圧力がリア室の圧力より高くなると、ピストンに形成された孔部を通ってフロント室からリア室に作動流体が流れる。また、リア室の圧力がフロント室の圧力より高くなると、規制弁によって孔部を流体が流通することが規制される。このためロックアップ完直時のロックアップ締結力が十分に大きくなる。
さらに、発明者はピストンに設けられた孔部の半径方向位置の技術的意味に着目し、ピストンの内周部に孔部を設けることを検討した。より具体的には、ピストンの内周部に孔部を設けることは、ピストンの外周部に孔部を設けることに対して、孔部の周速の影響を大きく受けて内周部の方が流量が大きくなること、内周部の方がトルクコンバータの回転数の影響を受け難いという特性を利用し反映したものである。この特性は発明者らの努力の結果得た知見による。
このようにして、孔部がピストンの内周部に設けられているため、孔部を流通する作動流体の流量が多くなる。このため、制御信号に対するロックアップ締結力の制御ゲインを低下させることが可能であり、その結果スリップ制御時における制御性が向上する。
なお、ここでいう「ピストンの内周部」とは、ピストンの半径方向中間位置より内周側の部分を意味する。さらには、孔部はピストン本体の最内周部(例えば、タービンハブに近接した部分)にあるのがより好ましい。
請求項2に記載のトルクコンバータは、請求項1において、トーションスプリングを有するダンパー機構をさらに備えている。規制弁は、トーションスプリングより内周部に設けられている。
このトルクコンバータでは、規制弁をトーションスプリングより内周部に設けているため、規制弁とトーションスプリングを半径方向内外に振り分けるレイアウトになっている。したがって、両部材が軸方向にオーバーラップすることがない。言い換えると、軸方向にコンパクトな構成となっている。
請求項3に記載のトルクコンバータは、請求項1又は2に記載のトルクコンバータであって、規制弁が、本体部のリア室側に設けられ孔部を閉止可能なリード弁である。
このトルクコンバータでは、規制弁がリード弁である。リード弁は、リア室に設けられており、フロント室に対するリア室の流体圧力が十分高い場合に、孔部を閉止してリア室からフロント室への流体流通を抑制する。リード弁が用いられることにより、簡便且つ安価に規制弁を設置することが可能となる。
請求項4に記載のトルクコンバータは、請求項3に記載のトルクコンバータであって、リード弁が孔部を閉止する際にリード弁との接触面積を小さくするための溝部が本体部の孔部の周囲に設けられる。
このトルクコンバータでは、リード弁と本体部との接触面積が小さい。このため、リード弁が孔部を閉止してピストンとフロントカバーとが完直状態となった後にリア室の流体圧力が低下してきたときにリード弁と本体部との間に介在する油膜によって、リード弁の動きが抑制されることなく、リード弁の開き動作がスムーズになる。これにより、リア室の流体圧力の強弱変化に伴い生じる孔部を流通する流体の流量のヒステリシスを抑えることができる。よって、より安定したスリップ制御を行うことが可能となる。
請求項5に記載のトルクコンバータは、請求項3または4に記載のトルクコンバータであって、リード弁が孔部を閉止するように変形可能な薄板状の弾性部材であるリードと、リードの一端を本体部に固定する固定部と、リードと固定部との間に挿入され固定部によるリードの変形を防止するリード保持板とを有する。
リード弁のリードは、固定部により本体部に固定される。リードは変形可能な弾性部材であるため、固定部に当接する部分が局所的に変形しうる。ここで、固定部によるリードを一様に固定することは難しいため、リードに生じる変形が均一にならないおそれがある。この場合、リード弁の特性が不均一となり、スリップ制御に不具合が生じるおそれがある。
このトルクコンバータでは、リードと固定部との間にリード保持板が挿入される。リード保持板が存在することにより、固定部とリードとが直接当接しない。このため、固定部の固定によりリードに局所的な変形が生じるのを抑えることが可能となる。よって、リード弁の特性の均一化を図ることが可能となり、スリップ制御を安定させることが可能となる。
本発明によれば、トルクコンバータのロックアップクラッチにおいて、トルクコンバータの回転数に対する制御ゲインの影響を少なくして、制御性を向上させることができる。
本発明の一実施形態としてのトルクコンバータ1の断面図及び回路図を図1に示す。図1のO−Oがトルクコンバータ1の回転軸である。
<全体の構成>
トルクコンバータ1は、主に、フロントカバー2、インペラー3、タービン4、ステータ5、及びロックアップクラッチ6から構成される。
フロントカバー2は、図示しないエンジン側の構成部品に装着可能となっており、エンジンからのトルクの入力を受ける。フロントカバー2の外周部には、図示しないエンジンと反対側(トランスミッション側)に屈曲して突出する外周側突出部11が設けられている。
インペラー3は、インペラーシェル16と、インペラーシェル16上に固定された複数のインペラーブレード17とを備える。インペラーシェル16は、フロントカバー2の外周側突出部11に固定されている。このインペラーシェル16とフロントカバー2とにより、流体室を形成する。
タービン4は、流体室内部でインペラー3に対向する位置に配される。タービン4は、タービンシェル21と、タービンシェル21上に固定された複数のタービンブレード22とを備える。タービンシェル21の内周側端部は、図示しないトランスミッションにトルク伝達を行うためのタービンハブ23の外周部に設けられたフランジ24に対して、リベット25により固定される。なお、タービンハブ23は、トランスミッションのメインドライブシャフト(図示せず)に係合するスプライン溝26を内周側に有している。
ステータ5は、タービン4からインペラー3へと戻される作動流体の方向を調節するものである。ステータ5は、インペラー3及びタービン4のそれぞれの内周側の間に配置される。ステータ5は、ステータシェル31と、ステータシェル31上に固定された複数のステータブレード32とを備える。また、ステータ5は、その内周側においてワンウェイクラッチ33を介して図示しない固定シャフトに支持される。
ロックアップクラッチ6は、フロントカバー2とタービン4とを機械的に連結するための装置である。ロックアップクラッチ6は、フロントカバー2とタービン4との間の空間に配されている。ロックアップクラッチ6は、主に、ピストン41と、ダンパー機構42とから構成されている。
ピストン41は、軸方向及び円周方向に移動可能な円盤状の部材であり、フロントカバー2とタービン4との間の空間をフロントカバー2側のフロント室Fとタービン4側のリア室Rとに分割するように配置される。ピストン41は、フロント室Fとリア室Rとのそれぞれの作動流体の差圧(アプライ圧)により移動する。また、ピストン41をフロントカバー2に弱く押し付けることにより、両者の間に所定のスリップ回転が生じた状態にするスリップ制御を行うことが可能である。
ピストン41は、円盤状部材であるピストン本体41aから、トランスミッション側に屈曲して延びる内周側筒状部43を内周部に、また同様に屈曲して延びる外周側筒状部44を外周側に、それぞれ有する。内周側筒状部43は、タービンハブ23のフランジ24の外周面に対して軸方向及び円周方向に相対移動可能に支持される。ここで、フランジ24のエンジン側外周面には、シールリング45が配置されている。シールリング45は、フロント室Fとリア室Rとの内周部分をシールして分離している。
また、ピストン41は、フロント室Fとリア室Rとを流通可能とする孔部46と、この孔部46を閉止可能とするリード弁47とがピストン本体41aの内周部の平坦な部分である平坦部60に設けられている。リード弁47は、ピストン本体41aのリア室R側において孔部46の近傍に設けられており、フロント室Fに対してリア室Rの流体圧力が十分に高い場合に平坦部60に当接して孔部46を閉止する。孔部46及びリード弁47の拡大断面図(図1のA部分)を図2に、リア室側から見たリード弁47を図3に、それぞれ示す。リード弁47は、平板であるリード48と、リード48の一端を保持するリード保持板49とで構成される。孔部46はリード48により閉止される。リード弁47は、リベット50によりピストン41のトランスミッション側に固定される。リード48は、他端側で孔部46を閉止するように変形可能である。リード保持板49は、変形しにくい薄板であり、リベット50によりリード48に局所的な変形が生じることを抑制するために設置される。
また、ピストン本体41aのうち、孔部46の周囲には、溝部51が形成されている。具体的には、平坦部60のリア室R側面において孔部46の回転方向両側には、一対の溝部51が形成されている。リード48は、孔部46を閉止する際に平坦部60に当接し、さらにその両側に設けられた溝部51の一部を覆う。この溝部51が存在することにより、リード48とピストン本体41aとの接触面積を小さくすることができる。このため、リード弁47が孔部46を閉止してピストン41とフロントカバー2とが完直状態となった後にリア室の流体圧力が低下してきたときに、リード弁と本体部との間に介在する油膜によって、リード弁の動きが抑制されることなく、リード弁の開き動作がスムーズになる。これにより、リア室Rの流体圧力の強弱変化に伴い生じる孔部46を流通する作動流体の流量のヒステリシスを抑えることができる。すなわち、溝部51が形成されていることにより、さらに安定したスリップ制御を行うことが可能となる。
図4に、孔部46を流通する作動流体の流量と、フロント室Fに対するリア室Rの差圧であるアプライ圧との関係図、すなわちリード弁47の特性図を示す。この特性図からも、溝部51が設けられていることにより、アプライ圧に対する流量変化のヒステリシスが抑制されていることが分かる。
ダンパー機構42は、一対のプレート部材56、57からなるドライブ部材52と、ドリブン部材53と、複数のトーションスプリング54とから構成されている。
ドライブ部材52を構成する一対のプレート部材56、57は、軸方向に並んで配置されている。一対のプレート部材56、57は、複数のリベット55により互いに固定されている。一対のプレート部材56、57の外周縁には、外周側筒状部44に形成された突起44aに係合するように半径方向に延びる複数の突起56a、57aが形成されている。この係合により、ピストン41とドライブ部材52とが、軸方向に相対移動可能であるが回転方向において一体回転するようになっている。また、一対のプレート部材56、57は、内周部分が軸方向に互いに間隔をかけて配置されている。各プレート部材56、57の内周部には、円周方向に並んだ複数の切り起こし部56b、57bが形成されている。切り起こし部56b、57bは、トーションスプリング54を支持する支持部となっている。
ドリブン部材53は、円盤状の部材であり、一対のプレート部材56、57の内周部において軸方向の間に配置されており、また内周部は複数のリベット25によりフランジ24に固定されている。ドリブン部材53には、切り起こし部56b、57bに対応した窓孔58が形成されている。窓孔58は円周方向に延びる孔である。
複数のトーションスプリング54は、窓孔58、切り起こし部56b、57b内に収納された、円周方向に延びるコイルスプリングである。トーションスプリング54は、円周方向両端が窓孔58及び切り起こし部56b、57bの円周方向端部に支持されている。さらにトーションスプリング54は、切り起こし部56b、57bによって軸方向の移動が制限されている。
また、ピストン本体41aの外周部エンジン側には、摩擦フェーシング61が設けられている。フロントカバー2の摩擦フェーシング61に対向する部分には、摩擦面62が形成されている。摩擦フェーシング61は、ピストン41とフロントカバー2との係合を摩擦により十分に行わせるための部材である。摩擦フェーシング61と摩擦面62とが当接して摩擦係合することにより、フロントカバー2からピストン41へトルクが伝達される。この際に、スリップ制御を行うと、フロントカバー2からピストン本体41aへ伝達されるトルク量を制御することができる。
<動作>
以下では、トルクコンバータ1の動作について説明する。
〔ロックアップクラッチ不使用状態〕
エンジンからフロントカバー2にトルクが伝達されて回転すると、フロントカバー2に固定されたインペラー3が共に回転する。これにより、インペラー3からタービン4に作動流体が流れてタービン4を回転させる。これによりタービン4に伝達されたトルクは、図示しないメインドライブシャフトに伝達される。以上により、ロックアップクラッチ6の連結が解除されているときにもエンジントルクがメインドライブシャフトに伝達される。
〔スリップ制御状態〕
スリップ制御が行われている状態において、トルクコンバータ1で伝達されるトルクは、ロックアップクラッチ6からタービン4を経て伝達されるトルクと、インペラー3からタービン4を経て伝達されるトルクとの和として構成されている。
ロックアップクラッチ6が用いられていない状態からスリップ制御状態にする場合には、以下のように行う。まず、作動流体の循環を行わせるポンプ71によりリア室Rの流体圧力をフロント室Fに比べて上昇させる(アプライ圧を上昇させる)ことにより、ピストン41がエンジン側、すなわちフロントカバー2側に移動する。
ピストン41の摩擦フェーシング61とフロントカバー2の摩擦面62とが当接すると、両者の間に働く滑り摩擦力により、フロントカバー2のトルクがピストン41に伝達される。ピストン41に伝えられたトルクは、ダンパー機構42のドライブ部材52、次いでトーションスプリング54、そしてドリブン部材53を経てタービン4のフランジ24へと伝達される。
摩擦フェーシング61が摩擦面62に当接する力、すなわちピストン41がフロントカバー2を押す押圧は、アプライ圧により変化する。ここで、アプライ圧がリード弁47を閉じない程度の低圧である場合には、リア室Rの作動流体が孔部46を流通してフロント室Fへ流入する。フロント室Fへ作動流体が流入することにより、フロント室F側からトランスミッション側へ背圧が加わる。このため、アプライ圧と背圧とのバランスにより摩擦フェーシング61の摩擦面62への当接具合が変化する。ここで、背圧が存在するために、アプライ圧を低下させると、フロントカバー2に対するピストン41の押圧が低下する。このため、ロックアップクラッチ6を経るトルク伝達量が低下する。
〔完直状態〕
スリップ制御状態よりもアプライ圧をさらに増加すると、リード弁47のリード48に加わる圧が増加して、孔部46を閉止することになる。これにより作動流体のフロント室Fへの流入が減少するため、フロント室Fに生じる背圧が低下する。よって、アプライ圧の増加に比べて、フロントカバー2に対するピストン41の押圧がさらに増すことになる。
最終的には、摩擦フェーシング61が摩擦面62に対して静止摩擦力により完全に係合し、フロントカバー2とロックアップクラッチ6とが一体となって回転する完直状態となる。この状態では、フロントカバー2のトルクがタービン4にほぼ直接伝達されることになる。
<特徴>
本実施形態に係るトルクコンバータ1は、ピストン41に孔部46が設けられている。この孔部46は、アプライ圧が高まるとリード弁47により閉止される。これにより、このトルクコンバータ1では、ロックアップクラッチ6のスリップ制御と完全結合との両立が可能となっている。
また、孔部46の配置がピストン本体41aの内周部に設けられているため、孔部46を流通する作動流体の流量が多くなる。このため、ピストン41のスリップ制御の性能を向上させることが可能である。より具体的には、ピストン本体の内周部に孔部を設けることは、ピストン本体の外周部に孔部を設けることに対して、孔部の周速の影響を大きく受けて、内周部の方が流量が大きくなること、内周部の方がトルクコンバータの回転数の影響を受け難いという特性を利用し反映したものである。この特性は発明者らの努力の結果得た知見による。
スリップ制御時に孔部を流通する流量を、内周側に孔を設定した場合(本願発明)と、外周側に孔を設定した場合とで比較した結果を、図5に示す。図5では横軸はロックアップピストン前後差圧ΔP(KPa)であり、縦軸は孔部を流通する流量(cc/min)である。回転速度は2000rpmと4000rpmを選択している。図5のグラフからは、内周側に孔を設定した場合の方が外周側に孔を設定した場合より、全体的に流量が大きいことが分かる。特に、内周側に孔を設定した場合の方が外周側に孔を設定した場合より、ロックアップピストン前後差圧が大きくなるにつれて差が大きくなっている。また、内周側に孔を設定した場合は高速回転でも流量の低下を余り大きくないが、外周側に孔を設定した場合は高速回転になると流量の低下が急激に大きくなる。
さらに孔部の流量を増加させることにより、以下の優れた効果が得られる。第1に、制御信号に対するロックアップ締結力の制御ゲインを低下させることが可能であり、その結果ロスリップ制御時における制御性を大きく向上させることになる。第2に、トルクコンバータの回転数に対する制御ゲインの影響が少なく安定して制御できるので、さらに制御性を向上させることが可能となる。
なお、本実施形態では、孔部46はピストン41の最内周部(内周側筒状部43の外周側にある平坦部60)に形成されており、より具体的には、孔部46は、ピストン41において、タービンハブ24に近接した部分であり、かつ、タービンハブ24の外周縁より内周側の部分に形成されている。しかし、孔部の半径方向位置はこれに限定されず、ピストン41の半径方向中間位置(この実施形態ではダンパー機構であるトーションスプリング54が配置された位置)より内周側にあればよい。この実施形態のようにリード弁47をトーションスプリング54より内周部に設けている場合は、リード弁47とトーションスプリング54を半径方向内外に振り分けるレイアウトになっている。したがって、両部材が軸方向にオーバーラップすることがない。言い換えると、軸方向にコンパクトな構成となっている。
なお、孔部は半径方向内側にいくほど効果が高くなるため、ピストン41を外周部、半径方向中間部、内周部と半径方向に三分割した場合には、孔部は内周部にあることが好ましい。
さらに、孔部46の周囲に溝部51が形成されているため、リード48とピストン本体41aとの接触面積が抑えられる。このため、ピストン41とフロントカバー2とが完直状態となった後にリア室Rのアプライ圧を下げる場合にも、孔部46を流通する作動流体の流量のヒステリシスを小さくすることが可能となっている。このため、スリップ制御をより安定して行うことが可能となっている。
加えて、リード48と、リード48をピストン本体41aに固定するリベット50との間に変形しにくいリード保持板49が挿入されていることにより、リベットによる固定でリード48に局所的な変形が生じるのを抑えている。よって、リード弁47の特性の均一化を図ることが可能となり、さらにはスリップ制御を安定させることが可能となる。
本発明にかかるトルクコンバータは、トルクコンバータのロックアップクラッチにおいて、トルクコンバータの回転数に対する制御ゲインの影響を少なくして、制御性を向上させることができ、以上の分野において有用である。
本発明に係るトルクコンバータの断面図及び回路図。 オリフィス孔及びリード弁の拡大断面図。 リード弁の上面図。 リード弁の特性図。 スリップ制御時に孔を流通する流量を比較したグラフ。
符号の説明
1 トルクコンバータ
2 フロントカバー
3 インペラー
4 タービン
5 ステータ
6 ロックアップクラッチ
41 ピストン
41a ピストン本体
46 孔部
47 リード弁
48 リード
49 リード保持板
50 リベット
51 溝部
61 摩擦フェーシング
62 摩擦面
71 ポンプ

Claims (5)

  1. 入力側のフロントカバーと、
    前記フロントカバーに連結されて共に流体室を形成するインペラーと、
    前記流体室内で前記インペラーに対向するタービンと、
    前記インペラーと前記タービンとの間に配置されたステータと、
    前記フロントカバーと前記タービンとの間の空間を前記フロントカバー側のフロント室と前記タービン側のリア室とに分割するように配置され、流体による前記フロント室及び前記リア室の差圧により前記フロントカバーに対して接近及び離反可能であるピストンと、
    を備え、
    前記ピストンは、円盤状の本体部と、前記本体部の外周部に配され前記フロントカバーに対向して摩擦係合可能な対向部と、前記フロント室と前記リア室とを流通可能にする孔部と、前記フロント室に対して前記リア室の流体圧力が高い場合に流体が前記孔部を流通するのを規制する規制弁とを有し、
    前記孔部は、前記ピストンの内周部に設けられている、
    トルクコンバータ。
  2. トーションスプリングを有するダンパー機構をさらに備え、
    前記規制弁は、前記トーションスプリングより内周部に設けられている、請求項1に記載のトルクコンバータ。
  3. 前記規制弁は、前記本体部の前記リア室側に設けられ、前記孔部を閉止可能なリード弁である、請求項1又は2に記載のトルクコンバータ。
  4. 前記本体部は、前記リード弁が前記孔部を閉止する際に前記リード弁との接触面積を小さくするための溝部を前記孔部の周囲にさらに有する、請求項3に記載のトルクコンバータ。
  5. 前記リード弁は、前記孔部を閉止するように変形可能な薄板状の弾性部材であるリードと、前記リードの一端を前記本体部に固定する固定部と、前記リードと前記固定部との間に挿入され前記固定部による前記リードの変形を防止するリード保持板とを有する、請求項3または4に記載のトルクコンバータ。
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