JP2004353118A - 製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】酸処理において、初段二酸化塩素処理と変わらない処理温度(50〜80℃)で過酸化水素、重金属化合物、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩の三者を共存させる製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、製紙用化学パルプの処理に関し、さらに詳しくは、化学パルプのヘキセンウロン酸(HexAと称する)除去に関する方法である。
【0002】
【従来の技術】
製紙用化学パルプの漂白は多段にわたる漂白処理により実施されている。従来、この多段漂白には漂白剤として塩素系漂白薬品が使用されている。具体的には、塩素(C)、次亜塩素酸塩(H)、二酸化塩素(D)の組み合わせにより、たとえば、C−E−H−D、C/D−E−H−E−D(C/Dは塩素と二酸化塩素の併用漂白段、Eはアルカリ抽出段)などのシーケンスによる漂白が行われてきた。
【0003】
しかし、これらの塩素系漂白薬品は漂白時に環境に有害な有機塩素化合物を副生し、この有機塩素化合物を含む漂白廃水の環境汚染が問題になっている。有機塩素化合物は一般にAOX法、たとえば米国環境庁(EPA METHOD−9020号)によって分析、評価される。
【0004】
有機塩素化合物の副生を低減・防止するには、塩素系薬品の使用量を低減するか、ないしは使用しない事が最も効果的であり、特に初段に分子状塩素を使用しないことが最も有効な方法である。この方法で製造されたパルプはECF(エレメンタリークロリンフリー)パルプと呼ばれ、更に塩素系薬品を全く用いずに製造されたパルプはTCF(トータリークロリンフリー)と呼ばれている。
【0005】
蒸解−酸素脱リグニン処理したパルプを初段に分子状塩素を用いない漂白方法として、初段に二酸化塩素を用いたD−Eo−D、D−Eo−D−D、D−Eop−D、D−Eop−D−Dシークエンス、また初段にオゾンを用いたZ−Eo−D、Z−Eo−P−D、Z/D−Eo−Dシークエンス、Z−Eop−D、Z−Eop−P−D、Z/D−Eop−Dシークエンス(ZとDの間の/は間に洗浄を行うことなく処理を連続することを意味する)による漂白が一般に知られている。
【0006】
ヘキセンウロン酸(HexA)とは、パルプ中に存在するヘミセルロースであるキシランに結合している4−Oメチルグルコン酸が、蒸解工程にて脱メタノールする事により生じる物質である。パルプの白色度への影響は小さいものの、分子内に二重結合を有するため、過マンガン酸カリと反応し、K価あるいはkappa価としてカウントされる。
【0007】
二酸化塩素、オゾンは、従来用いられていた塩素と比べると、HexAの除去能力が低いために、漂白後のパルプに多量のHexAが残存する。この残存HexAがECFあるいはTCF漂白パルプの褪色性悪化の原因となる。
【0008】
この褪色性悪化を改善するために、二酸化塩素あるいはオゾンの使用量を増やし、HexAを除去する方法がある。しかし、HexAは、分子内の二重結合によりこれら酸化剤を消費するために、従来の塩素に比べ高価であるこれら酸化剤の使用量を増やすことは、漂白コストを大幅に高くすると言う問題を生じる。
【0009】
他の方法としては、アンドリッツ株式会社からAlh−stageとして90℃、120〜300分、pH3〜3.5程度の酸処理において、HexAを酸加水分解除去する方法が提案されている。この方法は、安価な酸によるpH調整だけでHexAを除去できることから有効な方法であるが、多量の蒸気を必要とするために、やはり漂白コストの増大は免れない。また、蒸気コストを下げるために、処理温度を70℃程度とすると、HexAは殆ど除去されない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、製紙用化学パルプの製造で、初段に分子状塩素を用いないECF漂白あるいはTCF漂白において、漂白コストの増大を最小限にとどめ、かつパルプ粘度を維持しながら、パルプ中に残存するHexAを除去する方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、蒸解−酸素脱リグニン処理したパルプの、酸処理について鋭意検討した結果、初段二酸化塩素漂白の処理温度と変わらない60〜70℃程度の処理温度の酸処理において、過酸化物、重金属化合物、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩の三者を併用することで、パルプ粘度を保持しながら残存HexAを低減できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、蒸解処理−酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを酸処理する際に、過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加することを特徴とする製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法に関するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるパルプは、ポリサルファイドを含む、もしくは通常のクラフトパルプ化法(KP)、サルファイドパルプ化法(SP)、アルカリパルプ化法(AP)等のケミカルパルプ化法由来のパルプが好ましく、より好ましくはクラフトパルプ化法によって得られたパルプである。ここで、パルプ化に用いられる木本植物、草本植物については特に限定されるものではない。また、処理されるパルプは、前処理としてカッパー価20以下になるように公知の酸素脱リグニン処理を行ったものであり、好ましくはカッパー価12以下のものである。
【0014】
本発明の酸処理に用いられる薬品として、無機酸である硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、有機酸である蟻酸、酢酸等が挙げられるが、通常入手可能な物であれば特に制限される物ではない。酸処理のpH条件は、1.0〜4.0、好ましくは2.0〜3.5である。処理時間は、1.0時間〜12.0時間であり、好ましくは1.0〜6.0時間、更に好ましくは2.0〜4.0時間である。処理温度は50℃〜80℃、好ましくは60℃〜80℃。パルプ濃度は5〜20%、好ましくは10〜12%である。
【0015】
過酸化物としては過酸化水素が好適に使用される。過酸化物の添加量は、0.1〜1.0重量%(固形過酸化物換算)、好ましくは0.2〜0.4重量%である。重金属化合物としては、Feの塩化物、硫酸塩、硝酸塩またはCuの塩化物、硫酸塩、硝酸塩またはこれら重金属化合物の混合物が使用される。重金属化合物の添加量は0.0005〜0.01重量%(金属として)、好ましくは0.001〜0.003重量%である。オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩としては、モリブデン酸塩、タングステン酸塩またはこれらの混合物が好適に使用される。オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩の添加量は0.001〜0.01重量%(オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩塩として)、好ましくは0.003〜0.007重量%である。
【0016】
過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩との添加方法として、これらを短時間に添加する場合は、過酸化水素を最初に添加し、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩を添加の後、最後に重金属化合物を添加してもよく、あるいは、最初に重金属化合物を添加し、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩を添加した後、最後に過酸化物を添加してもよい。また、過酸化物とオキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加し、一定時間経過後に重金属化合物を添加してもよい。ここで一定時間とは、1〜11時間であり、好ましくは1〜5時間であり、更に好ましくは、2〜3時間である。また、過酸化物とオキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加して一定時間経過後、洗浄することなしに重金属化合物を添加してもよい。重金属化合物の添加後の処理時間は、10分〜1時間であり、好ましくは30分〜1時間である。酸処理後は、洗浄無しで、または洗浄を行って、次段のECFあるいはTCF漂白シークエンスへ送られる。
【0017】
次段のECFシークエンスとしては、D−Ep−D、D−Eop−D、D−Ep−P−D、D−Eop−P−D、D−Ep−D−D、D−Eop−D−D,D−Ep−D−P,D−Eop−D−Pのような二酸化塩素主体のECFシークエンス、Z−Ep−D、Z−Eop−D、Z−Ep−P−D、Z−Eop−P−D、Z−Ep−D−D、Z−Eop−D−D,Z−Ep−D−P、ZD−Eop−D−Pのようなオゾン主体のECFシークエンス、Z/D−Ep−D、Z/D−Eop−D、Z/D−Ep−P−D、Z/D−Eop−P−D、Z/D−Ep−D−D、Z/D−Eop−D−D,Z/D−Ep−D−P、Z/D−Eop−D−Pのようなオゾンと二酸化塩素を併用したECFシークエンスが挙げられる。あるいは、Z−Ep−P、Z−Eop−P、Z−Ep−P−P、Z−Eop−P−P、Z−Ep−Q−P、Z−Eop−Q−PのようなTCFシークエンスが挙げられる。
【0018】
【実施例】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。各薬品の使用量は絶乾パルプ当たりの重量%で示し、過酸化水素の使用量は100%換算である。重金属化合物については、絶乾パルプ当たりの重金属化合物重量%で示し、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩についてはオキソ酸塩またはポリオキソ酸塩の絶乾パルプ当たりの重量%で示した。使用したパルプは、クラフト蒸解−酸素脱リグニン後のL材パルプAを用いた。また、分析評価は下記の方法によった。なお、以下に示す実施例により、何ら本発明を制限するものではない。
【0019】
パルプ種
A;ハンター白色度 60.1%、K価 6.64、粘度 28.9mPa・s、HexA 35.98μmol/g
・白色度:JIS−P8123(ハンター白色度法)
・K価 :TAPPI K価法
・粘度 :J.TAPPI No.44法
・HexA量:絶乾量1gのパルプを、パルプ濃度1%に希釈し、蟻酸にてpH3.0に調製後90℃−360分加熱して、HexAを2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸に加水分解する。冷却後パルプと水に分離し、水中の2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸を液クロにより、UV265nmの検出器を用いて定量し、その合算をHexA量とした。
【0020】
実施例1、2
クラフト蒸解−酸素脱リグニン後のL材パルプAに過酸化水素0.2%,モリブデン酸ソーダ0.005%、硫酸鉄をFeとしてそれぞれ0.001%または0.003%を過酸化水素→モリブデン酸ソーダ→硫酸鉄の順序で添加し、次いで、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%、温度70℃の条件で180分処理した。反応終了後、冷水にてパルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%まで脱水して酸処理パルプを得た。
【0021】
比較例1
実施例1において、過酸化水素、硫酸鉄、モリブデン酸ソーダを添加しない以外は同様に行った。
【0022】
比較例2
実施例1において、硫酸鉄、モリブデン酸ソーダを添加しない以外は同様に行った。酸処理に過酸化物を添加するだけでは、残存HexAの低下は小さく、多量の過酸化物が残存した。この残存過酸化物は、廃水処理のCOD値を上昇させた。また、パルプ粘度の低下も見られた。
【0023】
比較例3
実施例1において、モリブデン酸ソーダを添加しない以外は同様に行った。
実施例1、2、比較例1〜3の結果を表1に示す。この場合、排水COD値を上昇させてしまう残存過酸化物を減少させ、残存HexAをより低減することが出来たが、フェントン反応により、著しいパルプ粘度の低下と言う問題が生じた。
【0024】
【表1】
以上のように、酸処理に過酸化水素、硫酸鉄、モリブデン酸ソーダの三者を共存させることにより、パルプ粘度を保持し、且つ残存過酸化水素を低減させた状態で、残存HexAおよびK価を低減できる。
【0025】
実施例3、4
実施例1、2において、それぞれ硫酸鉄代わりに硫酸銅を用いる以外は同様に行った。
【0026】
比較例4
比較例3において、硫酸鉄代わりに硫酸銅を用いる以外は同様に行った。
実施例3、4、比較例1、2、4の結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
以上のように、酸処理に過酸化水素、硫酸銅、モリブデン酸ソーダの三者を共存させることにより、パルプ粘度を保持し、且つ残存過酸化水素を低減させた状態で、残存HexAおよびK価を低減できる。
【0028】
実施例5
実施例1において、過酸化水素、モリブデン酸ソーダ、硫酸鉄の添加順序を、硫酸鉄→モリブデン酸ソーダ→過酸化水素の順とした以外は同様に行った。
【0029】
実施例6
実施例1において、過酸化水素、モリブデン酸ソーダ、硫酸鉄の添加順序を、過酸化水素→硫酸鉄→モリブデン酸ソーダの順とした以外は同様に行った。
【0030】
実施例7
実施例1において、過酸化水素、モリブデン酸ソーダ、硫酸鉄の添加順序を、硫酸鉄→過酸化水素→モリブデン酸ソーダの順とした以外は同様に行った。
【0031】
実施例8
実施例1において、過酸化水素、モリブデン酸ソーダ、硫酸鉄の添加順序を、モリブデン酸ソーダ→過酸化水素→硫酸鉄の順とした以外は同様に行った。
【0032】
実施例9
実施例1において、過酸化水素、モリブデン酸ソーダ、硫酸鉄の添加順序を、モリブデン酸ソーダ→硫酸鉄→過酸化水素の順とした以外は同様に行った。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】
以上のように、過酸化水素、モリブデン酸ソーダ、重金属化合物の添加順序を、最初に過酸化水素最後に重金属化合物あるいは最初に重金属化合物最後に過酸化水素とすることにより、K価およびHexAが低い値を示す。
【0034】
実施例10
クラフト蒸解−酸素脱リグニン後のL材パルプAに過酸化水素0.2%,モリブデン酸ソーダ0.005%を添加し、パルプスラリーのpHが3となるように硫酸を添加した後、パルプ濃度10%、温度70℃の条件で150分処理し、次いで洗浄することなく硫酸鉄をFeとして0.001%添加し更に70℃、30分処理した。反応終了後、冷水にてパルプ濃度2.5%に希釈し、パルプ濃度20%まで脱水して酸処理パルプを得た。
【0035】
実施例11
実施例6において、硫酸鉄の代わりに硫酸銅を用いる以外は同様に行った。
実施例10、11と比較例3、4の結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
以上のように、過酸化水素、モリブデン酸ソーダを添加し、一定時間経過後に洗浄することなく重金属化合物を添加し、更に短時間処理を行うことで、パルプ粘度を保持しながらK価、HexAをさらに低減できる。
【0037】
実施例12〜16
実施例1において、パルプスラリーのpHをそれぞれ0.5、1、2、4、5とする以外は同様に行った。結果を表5に示す。
【0038】
【表5】
以上のように、パルプスラリーのpHが1以下では、K価、HexAはより低い値を示すが、パルプ粘度の低下も著しい。一方pH4を越えると、パルプ粘度は保持されるものの、K価、HexAは高い値を示す。
【0039】
実施例17〜23
実施例1において、処理時間をそれぞれ0.5、1、2、4、6、12、15時間とする以外は同様に行った。結果を表6に示す。
【0040】
【表6】
以上のように、処理時間が短いと過酸化水素の残存量が増加し、またK価、HexAも高い値を示す。一方処理時間が長くなると、K価、HexAは低い値を示すが、白色度が低く、かつ粘度の低下も著しい。
【0041】
実施例24〜28
実施例1において、処理温度をそれぞれ40℃、50℃、60℃、80℃、90℃とした以外は同様に行った。結果を表7に示す。
【0042】
【表7】
以上のように、処理温度の低下は残過酸化水素の増大と、K価、HexAの増加を示す。一方処理温度の上昇は、白色度は僅かに低下するが、K価、HexA共に著しい低下を示す。しかしながら、処理温度90℃ではK価、HexAの低下が頭打ちとなり、かつ昇温のための蒸気コストが上昇し、漂白コストの増大を招く。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、初段二酸化塩素処理と変わらない50〜80℃の処理温度において、高価な二酸化塩素やオゾンを増量することなく、パルプ粘度を維持しながらHexAを除去することが可能となった。更に、残存過酸化物が少ないことから、排水COD値を上昇させることがない。その結果、漂白コストを低く押さえながら、ECFあるいはTCF漂白方法で製造されたパルプの熱褪色性を改善できる。
Claims (7)
- 蒸解処理−酸素脱リグニン処理後の製紙用化学パルプを酸処理する際に、過酸化物および重金属化合物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加することを特徴とする製紙用化学パルプのヘキセンウロン酸の除去方法。
- 最初に過酸化物を添加し、最後に重金属化合物を添加する請求項1記載の除去方法。
- 最初に重金属化合物を添加し、最後に過酸化物を添加する請求項1記載の除去方法。
- 過酸化物と、オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩とを添加した後、洗浄することなしに重金属化合物を添加する請求項1記載の除去方法。
- 過酸化物が過酸化水素である請求項1記載の除去方法。
- オキソ酸塩またはポリオキソ酸塩が、モリブデン酸化合物またはタングステン酸化合物である請求項1記載の除去方法。
- 重金属化合物がFe化合物またはCu化合物である請求項1記載の除去方法。
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