JP2004347978A - 有機機能薄膜とその製造方法及び有機機能薄膜を設けた光記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体によりミクロ相分離構造を形成し、所望とする分離相を形成するポリマー鎖に予め結合させた酸触媒により脱離可能な置換基を、脱離させてナノメータサイズの空孔を形成し、秩序構造を維持しつつこの空孔に機能性色素を導入する。この有機機能薄膜を記録層として、プラスチック基板上に設けてピックアップの回折限界を越える記録密度で記録再生が可能な光記録媒体とする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光ディスク、光カード、光テープなどの分野で使用される電子材料あるいは光学材料として応用することのできる機能性の高い有機機能薄膜と、それを用いた光記録媒体に関し、特に光ビームを照射することにより、記録材料の透過率、反射率等の光学的な変化を生じさせ、情報の記録再生を行なう光記録媒体に有用な有機機能薄膜と、それを用いた超高密度光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナノメータサイズの機能性材料を高分子材料内に導入して複合化することにより、電子的性質、導電的性質、光学的性質、磁気的性質等の新たな機能を発揮することが期待されることから、ナノメータサイズの材料の複合化は機能性複合材料を得るための重要な技術として注目されている。
このような機能性材料として、ナノメータサイズの金属超微粒子、すなわち金属ナノクラスターから構成される金属−有機複合材料の研究開発が進められている。
例えば、非相溶なブロック共重合ポリマーのミクロ相分離構造における一方の相内の中央近傍に金属超微粒子が含有されている複合体、すなわち金属・有機ポリマー(Mn1)複合体とマトリックスポリマー(Mn2)の溶液を、溶媒キャストまたは温度操作により相分離構造を形成し(Mn1>Mn2)、その後金属微粒子が含まれていないポリマー相を除去することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、互いに非相溶なポリマー鎖の各々末端で結合したブロックコポリマーのミクロ相分離構造における一方のポリマー相内に、列状に金属超微粒子が含有されている金属・有機ポリマー複合構造体が提案されている。この複合構造体における金属超微粒子は、金属化合物と親和性のあるポリマー鎖と金属化合物と親和性のないポリマー鎖とが末端で結合したブロック共重合と、金属イオンとを還元能のある高沸点溶媒と低沸点溶媒に溶解し、低沸点溶媒を除去し相分離構造を形成し、高沸点溶媒を除去しながら金属イオンを還元して形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
上記、特許文献1及び特許文献2はいずれも、触媒、固定化触媒、メンブレンリアクター、帯電防止プラスチック等に利用することを目的とした金属・有機ポリマー複合構造体(多孔体)に関するものである。
【0003】
また、別の研究形態として、基板上に共重合ポリマーを含む樹脂層を形成し、所定の領域に赤外線、可視光線、紫外線または電離放射線を照射した後に熱アニール処理を施し、未照射部にミクロ分離構造を形成し、エッチングによりナノパターンを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
あるいは、塩形成基(酸性基または塩基性基)を有するブロックポリマーまたはグラフトコポリマーを含む成形体を形成し、形成した成形体の塩形成基を塩に変化させ、その後にミクロ分離構造を形成してパターンの形成を行う方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
上記、特許文献3及び特許文献4はいずれも、ミクロ相分離構造をリソグラフィ技術に利用して電子部品に応用するナノオーダーのパターンを形成することを目的としたものである。
【0004】
上記のようにミクロ相分離構造を利用する研究は既に行われているが、ミクロ相分離構造の所望(任意)の分離相に秩序構造を維持するように制御して導入した機能性色素を含有する有機機能薄膜、特に記録媒体の研究開発はほとんど進められていないのが現状である。
【0005】
一方、光メモリ分野では、現在、基板上に反射層を有する光記録媒体として、CD規格及びDVD規格にそれぞれ対応した、いわゆる記録可能なCD−R、DVD−Rが商品化されているが、記録情報量の増大に伴って、更に高記録容量化と小型化が求められている。このため、このような光記録媒体の記録密度の更なる向上が望まれている。
現行光記録システムにおける記録容量向上のための要素技術としては、記録ピットの微小化技術、MPEG2に代表される画像圧縮技術がある。記録ピットの微小化技術には、記録再生光の短波長化や回折限界の向上を図るために、光学系の開口数(NA)の増大化が検討されているが、その回折限界を越える記録再生は不可能である。そのため、回折限界を越える記録再生が可能な超解像技術や近接場光を利用した光メモリシステムが、有力な手段として注目されてきたが技術的なハードルの高さから未だ実用化には至っていない。
【0006】
上記状況から、回折限界を越える微小記録により更に高密度記録を可能とする、より現実的な新技術の開発が求められている。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−72951号公報
【特許文献2】
特開2000−72952号公報
【特許文献3】
特開2002−241532号公報
【特許文献4】
特開2002−330492号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたもので、後述するように有機機能性薄膜を利用して、従来の光源サイドからのアプローチとは全く異なる方法により、高密度記録を可能とするものである。すなわち本発明は、ブロック共重合体に形成されたミクロ相分離構造における任意の分離相のポリマー鎖に、機能性色素をナノメータサイズに秩序化して含有させて構築した新規な有機機能薄膜とその製造方法を提供するとともに、該有機薄膜を記録材料とし、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な光記録媒体を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体を用いてミクロ相分離構造を形成するとともに、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を構成するポリマー鎖に、脱離可能な置換基を予め結合しておき、この置換基を脱離することによってナノメータサイズの空孔を形成して、秩序構造を維持しつつこの空孔に機能性色素を導入して複合化することにより、光学的性質、電子的性質、導電的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料(有機機能薄膜)の提供を可能とする。また、このような複合化による有機機能薄膜の製造法、及び有機機能薄膜を利用した光記録媒体を提供するものである。なお、置換基は、酸触媒により脱離されるものであることが好ましい。
更に、本発明の有機機能薄膜を記録材料(記録層)として利用することにより、空孔に導入された機能性色素がナノメータサイズの小さなドット列化されているため、従来では達成出来なかった超高密度光記録を実現することができる。すなわち、記録層に形成された各ドットの面積自体が照射光の回折限界よりも小さく形成されているため、光学系(レーザーピックアップ)の回折限界を越える記録密度で記録再生が可能な光記録媒体を得ることができる。このような、記録媒体の考え方は、前記従来技術における光学系からの高密度化のアプローチとは全く異なるものである。
以下、本発明について具体的に説明する。
【0010】
請求項1の発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖は、脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有したことを特徴とする有機機能薄膜である。
【0011】
請求項1の構成によれば、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体中に形成されたミクロ相分離構造における所望(任意)の分離相に高度に秩序化されたナノメータサイズの空孔を形成して、この秩序構造を維持しつつこの空孔に機能性色素を導入することが可能となる。これによって、光学的性質、電子的性質、導電的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料(有機機能薄膜)の提供を実現することができる。
特に、ナノメータサイズの機能性色素から構成される秩序化されたドット構造(ドット列)を有する有機機能薄膜を記録材料(記録層)に利用することで、レーザピックアップの回折限界を超える記録密度で記録再生可能な光記録媒体を得ることができる。
【0012】
請求項2の発明は、前記脱離可能な置換基を有するポリマー鎖が形成する分離相のミクロ相分離構造が球状、柱状、ラメラ状、共連続状、もしくは該各形状に類似の構造であることを特徴とする請求項1に記載の有機機能薄膜である。
【0013】
請求項2の構成によれば、各分離相の特徴的な形状、形態及び空孔に含有させる機能色素の性質(光学的性質、電子的性質、導電的性質等)に応じた機能性複合材料の提供が可能となる。空孔に含有させる機能色素が光または熱によって光学的性質が変化する性質の場合には、光記録媒体の記録層用の記録材料、特に高密度記録用として有用な記録材料が提供される。
【0014】
請求項3の発明は、前記ポリマー鎖から脱離した置換基の沸点が前記ブロック共重合体のガラス転移点(Tg)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機機能薄膜である。
【0015】
請求項3の構成によれば、ミクロ相分離構造が壊されることなく維持され、かつ均一なナノメータサイズの空孔が形成され、機能性色素を導入した場合に秩序化された構造の有機機能薄膜が得られる。
【0016】
請求項4の発明は、前記ポリマー鎖から脱離する置換基は、下記構造式(I)または構造式(II)で示される基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機機能薄膜である。
【0017】
【化2】
【0018】
請求項4の構成によれば、脱離した置換基が気化しやすく、ミクロ相分離構造が壊されることがなく、均一なナノメータサイズの空孔が形成される。これにより、機能性色素を導入した場合に秩序化された構造の有機機能薄膜が得られ、例えば、光記録媒体の記録層、特に高密度記録用として有用な記録材料が提供される。
【0019】
請求項5の発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に酸を接触させる工程と、
該有機薄膜を加熱して接触させた酸触媒により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法である。
【0020】
請求項6の発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に光酸発生剤を接触させる工程と、
該有機薄膜に光照射をした後に加熱して接触させた光酸発生剤から発生した酸により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法である。
【0021】
請求項7の発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体と、前記脱離可能な置換基を有するポリマー鎖が形成する分離相にのみ相溶性のある光酸発生剤とを含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に光照射をした後に加熱して含有する光酸発生剤から発生した酸により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法である。
【0022】
請求項8の発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に熱酸発生剤を接触させる工程と、
該有機薄膜を加熱して接触させた熱酸発生剤から発生した酸により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法である。
【0023】
請求項5〜8の製造方法によれば、機能性色素を、ブロック共重合体のミクロ相分離構造における所望とする分離相に形成されたナノメータサイズの空孔に、高度に秩序化された構造に制御して選択的に含有させることが可能となる。
このよう構造制御して複合化することにより、光学的性質、電子的性質、電気導電的性質等の新機能を発揮する有機機能薄膜の製造が達成される。また、超高密度記録に対応できる本発明の光記録媒体の製造を可能とすることができる。
【0024】
請求項9の発明は、前記ミクロ相分離構造は、溶媒キャスト、もしくは温度変化により形成されることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の有機機能薄膜の製造方法である。
【0025】
請求項9の構成によれば、簡便にミクロ相分離構造の形成ができ、有機機能薄膜を形成するための前駆体として具備すべき構造と構成を備えた有機薄膜が得られる。
【0026】
請求項10の発明は、前記空孔に機能性色素を含有させる工程が、溶媒を用いる湿式法により行われることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の有機機能薄膜の製造方法である。
【0027】
請求項10によれば、適応対象物やその素材の組合せ、あるいは製造工程に応じて処方が選択されるので、機能性色素を所望とする分離相の空孔に、秩序化された構造に制御して選択的に含有させることが可能となる。これによって、ナノメータサイズのドット列化が実現し、例えば、記録材料として用いた場合に超高密度記録に対応できる本発明の光記録媒体の製造を可能とすることが可能になる。
【0028】
請求項11の発明は、基板上に有機機能薄膜からなる記録層を設けた光記録媒体であって、
前記有機機能薄膜は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有したことを特徴とする光記録媒体である。
【0029】
請求項11によれば、光記録媒体の記録層中の機能性色素から構成される記録用のドット(記録ドット)がナノメータサイズで均一に形成されるため、超高密度の記録が可能となる。
【0030】
請求項12の発明は、基板上に、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜からなる記録層を設け、レーザ光を照射して該機能性色素の光学特性を変化させて記録再生することを特徴とする光記録媒体である。
【0031】
請求項12によれば、光記録媒体の記録層中の記録ドットがナノメータサイズで均一に形成され、照射されるレーザ光の発振波長やレンズのNAに依存することなく、ナノメータサイズの微小記録を実現し、超高密度の記録が可能となる。更に、記録ピットの最外周エッジも不明瞭となることなく優れた信号特性を得ることが可能となる。
更に、記録ピットの最外周エッジもこの有機薄膜の記録層ドット全体を変化させるように記録することで、従来のレーザビームのガウス分布などの要因に基づく記録ピットの最外周エッジの不明瞭さなどの問題も回避され、記録ピットのバラツキの無い高品質の信号特性を得ることが可能となる。
【0032】
請求項13の発明は、前記機能性色素は、記録再生用レーザの波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御した色素であることを特徴とする請求項12に記載の光記録媒体である。
【0033】
請求項14の発明は、前記機能性色素は、記録再生用レーザの波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御した色素であることを特徴とする請求項12に記載の光記録媒体である。
【0034】
請求項13または14の構成によれば、レーザ光の発振波長近傍に最大吸収波長または最大屈折率を持つ機能性色素を用いることによって、記録層の光学特性変化を検知することにより光記録媒体の記録再生を行う場合に、最もコントラストが得られる条件に合致させることができる。
【0035】
請求項15の発明は、前記機能性色素は、フォトクロミック色素であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の光記録媒体である。
【0036】
請求項15の構成によれば、記録層の書き換えが可能な記録媒体を得ることが可能である。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
前述のように本発明の有機機能薄膜は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有しており、そのミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖には、最初、脱離可能な置換基が結合しており、薄膜化した後に置換基を脱離して空孔を形成し、この空孔に機能性色素を含有した構造からなる。なお、置換基は、酸触媒により脱離されるものであることが好ましい。
【0038】
この有機機能薄膜の特長は、機能性色素がナノメータサイズで、しかも高度に秩序化されて高分子マトリックスの空孔に含有されていることである。その秩序化されたナノメータサイズ構造の形成における原動力(ドライビングフォース)として、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用するものである。
ミクロ相分離構造としては、球状構造(海島構造)、柱状構造、ラメラ状構造、共連続状構造、もしくはその類似構造が利用できる。
図1に本発明における機能性色素が含有される一方の分離相の代表的なミクロ相分離構造の模式図を示す。
このように一方の分離相(高分子マトリックス)に空孔を形成し、この空孔にナノメータサイズの機能性色素を導入し、三次元的に高度に構造制御して複合化することにより、光学的性質、電子的性質、導電的性質等の新たな機能が発現する有機機能薄膜が作製することができる。なお、有機機能薄膜を光記録媒体に適用する場合には、機能性色素としては、光または熱により、その光学特性を変化させる機能を有する色素からなることが好ましい。
【0039】
本発明の有機機能薄膜におけるミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖に結合し、例えば、酸触媒により脱離可能な置換基は、脱離した後に気化することが好ましく、脱離した置換基の沸点は、ブロック共重合体のガラス転移点(Tg)以下であることが好ましい。すなわち、本発明においては、ミクロ相分離構造を形成した後に酸触媒によって置換基の脱離反応を進行させるために、更に加熱を必要とする。したがって、その際ミクロ相分離構造を壊さないためにはブロック共重合体のTg以下の温度で加熱(できるだけ短時間に)することが好ましいためである。
【0040】
更に、脱離した置換基が気化することにより、ミクロ相分離したブロック共重合体中に空孔ができ、その空孔に機能性色素を効率よく導入する(埋め込む)ことができる。
置換基としては、ブロック共重合体のTg以下で脱離するものであれば、特に制約はないが、好ましい置換基の構造としては、例えば、下記構造式(I)あるいは構造式(II)で示される基が挙げられる。
【0041】
【化3】
【0042】
本発明におけるブロック共重合体は、互いに非相溶である各ポリマーを組み合わせて合成することができる。2種以上のポリマーの組合せであってもよい。
本発明に用いるブロック共重合体の合成法としては、例えば、スチレン、イソプレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、2ビニルピリジン、アミノスチレン、4−ビニルピリジン、メタクリレート類、ε−カプロラクトン、ブタジエン、ビニルメチルエーテル、1、3−シクロヘキサンジエン、エチレンオキシドや、酸触媒により脱離可能な基で保護されたビニルフェノールやアクリル酸、メタクリル酸等の各種モノマーを用いて得られる、当該互いに非相溶のポリマー鎖の末端から重合するリビング重合法(アニオン重合、リビングラジカル重合)、あるいは鎖の中央から合成するリビング重合(アニオン重合)、または末端官能性ポリマーの末端を結合させる合成法(アニオン重合、リビングラジカル重合等)などの重合方法によって合成することができる。
例えば、リビングラジカル重合法によって、酸触媒により脱離する置換基を有するポリスチレンと、ポリメチルメタクリレートとのブロック共重合体、あるいはポリスチレンと、酸触媒により脱離する置換基を有するポリメタクリル酸とのブロック共重合体が合成できる。
【0043】
本発明において好ましく用いられる酸触媒としては、所望のポリマー鎖に結合した置換基を脱離することができるものであり、空孔形成を阻害せず、またミクロ相分離構造を壊すものでなければ、特に制約はなく使用することができる。このような酸触媒としては、酸化合物、あるいは光照射もしくは加熱により酸化合物を発生する化合物(光酸発生剤、熱酸発生剤)を用いることができる。
酸化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸等の公知の化合物を用いることができる。また、酸化合物を発生する化合物としては、例えば、トリフェニルスルホニウムトリフレート等のスルホニウム化合物、ジフェニルヨードニウムトリフレート等のヨードニウム化合物、あるいはニトロベンジルエステル化合物等いずれも公知の化合物を用いることができる。
上記酸触媒は、適用対象物や、それに応用する有機機能薄膜の製造工程などに応じて適宜選択される。
【0044】
また、本発明の有機機能薄膜に用いられる機能性色素としては、レーザの照射エネルギーにより、ヒートモード(熱分解等)でその光学定数を変化させる化合物、あるいは、レーザの照射エネルギーによりフォトンモードでその光学定数を変化させる化合物がある。
レーザの照射エネルギーによりヒートモード(熱分解等)でその光学定数を変化させる化合物としては、例えば、ポリメチン色素、スクアリリウム系、ピリリウム系、ポルフィリン系、ポルフィラジン系、アゾ系、アゾメチン系染料等、あるいはそれらの金属錯体化合物が挙げられる。
更に、レーザの照射エネルギーによりフォトンモードでその光学定数を変化させる化合物としては、例えば、フルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スチルベン類、ジヒドロピレン類、チオインジゴ類、ビピリジン類、アジリジン類、芳香族多環類、アリチリデンアニリン類、キサンテン類等のフォトクロミック材料が挙げられる。
【0045】
上記化合物において、記録の書き換えが可能なフォトクロミック材料は、特に好ましい。また、上記の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上の組合せにして用いてもよい。
更に、上記化合物に加えて、特性改良等の目的で、安定剤(例えば遷移金属錯体)、紫外線吸収材、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などと一緒に用いることもできる。
なお、有機機能薄膜の空孔に導入された機能性色素のドット径は、5nm〜500nm、好ましくは10nm〜200nmが適当である。
【0046】
次に、本発明の有機機能薄膜の製造方法について説明する。
本発明における有機機能薄膜は以下のような製造方法によって製造することができる。なお、各製造方法においてミクロ相分離を促進させるために、ブロック共重合体以外に他のポリマーを添加しても構わない。
【0047】
第一の方法は、まず、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体を含有する溶液を調製した後、浸漬塗布法やスピンコート法等により薄膜化して、溶媒キャストもしくは温度変化によりミクロ相分離構造を形成し(ミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程)、次に、その有機薄膜に酸を接触させ(有機薄膜に酸を接触させる工程)、これを加熱して酸触媒反応によりポリマー鎖に結合した脱離可能な置換基を取り除き(空孔を形成する工程)、置換基脱離によって形成されたナノメータサイズの空孔に機能性色素を導入する(空孔に機能性色素を含有させる工程)ことにより、本発明の秩序化された構造の有機機能薄膜を得る製造方法である。
【0048】
第二の方法は、まず、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体を含有する溶液を調製した後、浸漬塗布法やスピンコート法等により薄膜化して、溶媒キャストもしくは温度変化によりミクロ相分離構造を形成し(ミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程)、次に、その有機薄膜に光酸発生剤を接触させ(有機薄膜に光酸発生剤を接触させる工程)、更に光照射をした後に加熱して酸触媒反応によりポリマー鎖に結合した脱離可能な置換基を取り除き(空孔を形成する工程)、置換基脱離によって形成されたナノメータサイズの空孔に機能性色素を導入する(空孔に機能性色素を含有させる工程)ことにより、本発明の秩序化された構造の有機機能薄膜を得る製造方法である。
【0049】
第三の方法は、まず、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体と、前記脱離可能な置換基を有するポリマー鎖が形成する分離相にのみ相溶性のある光酸発生剤とを含有する溶液を調製した後、浸漬塗布法やスピンコート法等により薄膜化して、溶媒キャストもしくは温度変化によりミクロ相分離構造を形成し(ミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程)、次に、該有機薄膜に光照射をした後に加熱して酸触媒反応によりポリマー鎖に結合した脱離可能な置換基を取り除き(空孔を形成する工程)、置換基脱離によって形成されたナノメータサイズの空孔に機能性色素を導入する(空孔に機能性色素を含有させる工程)ことにより、本発明の秩序化された構造の有機機能薄膜を得る製造方法である。
なお、光酸発生剤としては、前記のような公知の化合物が使用できる。
【0050】
第四の方法は、まず、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体を含有する溶液を調製した後、浸漬塗布法やスピンコート法等により薄膜化して、溶媒キャストもしくは温度変化によりミクロ相分離構造を形成し(ミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程)、次に、その有機薄膜に熱酸発生剤を接触させ(有機薄膜に熱酸発生剤を接触させる工程)、更に加熱して酸触媒反応によりポリマー鎖に結合した脱離可能な置換基を取り除き(空孔を形成する工程)、置換基脱離によって形成されたナノメータサイズの空孔に機能性色素を導入する(空孔に機能性色素を含有させる工程)ことにより、本発明の秩序化された構造の有機機能薄膜を得る製造方法である。
なお、熱酸発生剤としては、前記のような公知の化合物が使用できる。
【0051】
4つのいずれかの方法により形成した有機薄膜の空孔に機能性色素を導入する方法としては、例えば、空孔が形成された有機薄膜と機能性色素溶液(機能性色素を溶媒に溶解または分散)とを浸漬や塗布などにより接触させて行う湿式法により有機薄膜の空孔に導入(埋め込む)することができる。なお、有機薄膜への機能性色素の導入方法は、これに限定されるものではなく、目的とする適用対象物やその素材、形態、あるいは製造工程などに応じて好適な方法が適宜選択される。
【0052】
次に、前記有機機能薄膜を、記録材料(記録層)として応用した光記録媒体について説明する。
従来の光記録媒体は、連続した記録材料から構成された記録層(記録材料が存在する層)を備えており、この記録層にレーザビームを照射し、レーザビームの形状に相応した何らかの変化(光学的な変化を伴う物理的、化学的等の変化)を記録材料に対して形成して記録するものである。したがって、最小記録ピットのサイズは、光学系の発振波長とレンズのNAで決定されるレーザビーム径に依存するため、従来の記録再生システムでは、高密度化は基本的にレーザの発振波長やレンズのNAの実用化技術力に左右されてきた。
また、ビーム形状がガウス分布した形状であることと、記録材料として熱または光に対し、明瞭なしきい値で変化する材料はほとんど存在ないこととから、形成されるピットの最外周の大きさや変化量は均一とはならず、その再生信号品質にもバラツク要因が必ず存在し、高品質の信号特性を得るにも限界があった。
【0053】
本発明の記録媒体は、上記の従来記録媒体の課題を克服した新しい構造の光記録媒体である。すなわち、本発明の有機機能薄膜を応用した光記録媒体は、連続した層中に、機能性色素が形成するナノメータサイズの記録層ドットがマトリックスを介して高度に秩序化され、非連続して存在する構造である。この記録層ドットのサイズは、10〜500nmであり、均一に形成されている。
したがって、このような予め形成されたナノメータサイズの記録層ドットを利用することにより、レーザ発振波長やレンズのNAで決定されることなく、最小記録ピットのサイズは、形成する記録層ドットのみで決定されるため、任意の記録密度の記録媒体が設計可能となる。更に、記録ピットの最外周のエッジもこの有機機能薄膜の構造体で決定されているため、この記録層ドット全体を変化させるように記録することで、ピットのバラツキのない、高品質の信号特性を得ることが可能となる。
【0054】
本発明の光記録媒体の構成及びその必要物性について以下に説明する。
〈記録媒体構成〉
本発明の光記録媒体は、基板上に前記有機機能薄膜からなる記録層を設けるものであるが、その他必要により構成層として、下引き層、金属反射層、保護層、基板面ハードコート層などを設けることができ、目的や要求特性に応じて構成層の形態が選ばれる。本発明の光記録媒体について図面を参考にして説明する。
本発明の光記録媒体は、例えば図2(a)〜(d)や図3(a)〜(e)の概略断面図に示す例のような構成を有するものである。すなわち、図2(a)〜(d)の場合には、基板上に金属反射層を設けずに構成した例を示す。また、図3(a)〜(e)の場合には、金属反射層を設けて構成した例を示す。
本発明の光記録媒体の構成としては、追記型光ディスクの構造(基板上に記録層を設けたものを2枚貼り合わせたいわゆるエアーサンドイッチ構造)としてもよく、CD−R構造(基板上に記録層、反射層、保護層を設ける)としてもよく、CD−R構造を貼り合わせたDVD構造でもよい。なお、上記構成は実施の形態を説明するための例であって他の構成でもよい。以下に光記録媒体の各構成層について説明する。
【0055】
〈基板〉
本発明の光記録媒体に用いる基板としては、基板側より記録再生を行なう場合のみ使用レーザーに対して透明でなければならず、記録層側(基板と反対側)から記録、再生を行なう場合には基板は透明である必要はない。
基板材料としては、例えば、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドなどのプラスチック、またはガラス、セラミック、あるいは金属などを用いることができる。なお、基板の表面にトラッキング用の案内溝や、案内ピット、更にアドレス信号などのプリフォーマットなどが形成されていてもよい。
【0056】
〈記録層〉
記録層は、レーザ光の照射により何らかの変化(光学特性の変化または形状の変化)を生じさせ、その変化により情報を記録し、光学的に再生可能なものであって、その記録層は、前記のように互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖は、脱離可能な置換基(例えば、酸触媒により脱離する置換基)を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する構成からなる。
機能性色素の光学特性としては、記録再生用レーザ波長に対し、その吸収特性変化を利用して再生する場合には、レーザ波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御することが好ましく、記録再生用レーザ波長に対し、その屈折率変化を利用して再生する場合には、レーザ波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御することが好ましい。
【0057】
また再生法としてレーザ照射により蛍光特性に変化を与えその変化を再生する方法は、僅かな変化でも高コントラストに再生が可能であり、本光記録媒体のような記録ピットの大きさ(ドット列化されたナノメーターサイズの大きさ)が予め決まっている場合には、特に従来法に比較して大幅な低エネルギーで記録することが可能となる。
従来法(光源サイドからの手法)の場合には、十分な照射エネルギーを付与して記録しなければ明瞭なピット形状の形成ができなかった。このため、レーザ照射よる記録材の反応率が高くなければ記録ができなかった。一方、ピットが予め形成されている本記録媒体では、僅かな反応率でも再生が可能であり、特に蛍光再生においては特に有効である。
【0058】
〈下引き層〉
下引き層は、(1)接着性の向上、(2)水またはガスなどのバリアー、(3)記録層の保存安定性の向上、(4)反射率の向上、(5)溶剤からの基板の保護、(6)案内溝、案内ピット、プレフォーマットの形成などを目的として使用される。
(1)の目的に対しては、高分子材料、例えば、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子化合物及び、シランカップリング剤などを用いることができる。
(2)あるいは(3)の目的に対しては、上記高分子材料以外に無機化合物、例えば、SiO、MgF、SiO2、TiO、ZnO、TiN、SiNなどがあり、更に金属あるいは半金属、例えば、Zn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Al、などを用いることができる。
(4)の目的に対しては、金属、例えば、Al、Au、Ag等や、金属光沢を有する有機薄膜、例えば、メチン染料、キサンテン系染料などを用いることができる。
(5)あるいは(6)の目的に対しては、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
上記下引き層の膜厚としては0.01〜30μm、好ましくは、0.05〜10μmが適当である。
【0059】
〈金属反射層〉
金属反射層は、要求される反射率に応じて必要な場合用いられる。
反射層としては、単体で高反射率が得られる腐食されにくい金属あるいは半金属等が用いられ、このような材料例としては、Au、Ag、Cr、Ni、Al、Fe、Snなどが挙げられる。これら材料の中で、反射率、生産性の点からAu、Ag、Alが最も好ましい。これらの金属、半金属は、単独で使用してもよく、2種の合金としてもよい。
反射層の膜形成法としては、限定するものではないが、蒸着、スッパタリングなどが挙げられる。反射層の膜厚としては、50〜5000Åが好ましく、更には100〜3000Åが好ましい。
【0060】
〈保護層、基板面ハードコート層〉
保護層及び基板面ハードコート層は、(1)記録層(反射吸収層)を傷、ホコリ、汚れ等から保護する、(2)記録層(反射吸収層)の保存安定性の向上、(3)反射率の向上等を目的として使用される。これらの目的に対しては、前記下引き層に示した材料を用いることができる。
また、無機材料として、SiO、SiO2なども用いることができ、有機材料としてポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱軟化性、熱溶融性樹脂も用いることができる。
上記材料のうち最も好ましい例としては、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。保護層または基板面ハードコート層の膜厚は、0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
本発明において、前記下引き層、保護層及び基板面ハードコート層には、記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等を含有させることができる。
【0061】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はなんら実施例に限定されるものではない。
実施例1〜3:有機薄膜に係る実施例
数平均分子量約50,000のポリ(p−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン)(PBOCST)とポリメチルメタクリレート(PMMA)とからなり、PBOCSTの体積分率がそれぞれ16vol%(実施例1)、33vol%(実施例2)、52vol%(実施例3)であるブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。
得られた実施例1〜実施例3の体積分率からなるブロック共重合体をシクロヘキサノンに溶解し、マイカ上にキャスト膜(有機薄膜)を形成した。更に、このキャスト膜を140℃で8時間加熱処理してその相分離構造を小角X線散乱方法(SAXS)測定、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により調べた。その結果、各実施例における相分離構造は、それぞれ数十nm以下の球状構造(実施例1)、柱状構造(実施例2)、及びラメラ構造(実施例3)であることが確認された。
次に作製した各実施例のキャスト膜をp−トルエンスルホン酸の1wt%イソプロピルアルコール溶液に浸漬させた後に、90℃で5分間加熱処理を行った。
そのキャスト膜を原子間力顕微鏡(AFM)により観察したところ、いずれの実施例の場合にもブロック共重合体のPBOCST構造部であるポリマー鎖の部分に空孔が形成されていていることが確認された(この空孔が形成されている部分は、置換基が脱離し、ポリ−p−ヒドロキシスチレン(PHS)に変化した箇所に相当する)。
更に、空孔が形成された各実施例のキャスト膜を、tris(p−dimethylaminophenyl)methylium SbF6の0.5wt%メタノール/ピリジン(:20/1)溶液の中に浸漬させた。このキャスト膜の表面層をTEMにより観察した結果、いずれも、色素がPHS部分に偏析しており、空孔に色素が含有された秩序化された構造が形成されていることが確認された。
【0062】
実施例4
数平均分子量約70,000のポリスチレン(PST)とポリ−tert−ブチルメタクリレート(PtBMA)とからなり、PtBMAの体積分率が28vol%となるブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。
得られたブロック共重合体とトリフェニルスルホニウムトリフレートとを100:3となるようにシクロヘキサノンに溶解し、マイカ上にキャスト膜(有機薄膜)を形成した。
得られたキャスト膜を140℃で10時間加熱処理してその相分離構造をSAXS測定、TEM観察により調べた。その結果、相分離構造は、数十nm以下のの柱状構造であることが確認された。
更に、上記相分離構造を有するキャスト膜に光照射を行い、その後に100℃で3分間加熱し、AFMにより観察を行ったところ、ブロック共重合体のPtBMA構造部であるポリマー鎖の部分に空孔が形成されていていることが確認された(この空孔が形成されている部分は、置換基が脱離し、ポリメタクリル酸(PMAA)に変化した箇所に相当する)。
更に、空孔が形成されたキャスト膜に、3,3,3’,3’−tetramethyl−1,1’−bis(3−sulfoethyl)−2,2’−indodicarbocyanine hydroxide triethylamine saltの1wt%水溶液を滴下し、乾燥した。このキャスト膜の表面層をTEMにより観察した結果、色素が柱状構造(PMAA部分)に偏析しており、空孔に色素が含有された秩序化された構造が形成されていることが確認された。
【0063】
比較例1
実施例4において用いた酸触媒のトリフェニルスルホニウムトリフレートに代えて、p−トルエンスルホン酸を用いたところ、柱状構造は確認されたが、空孔は確認されなかった。
【0064】
上記実施例1〜4の結果から、ブロック共重合体に球状、柱状、ラメラ状の相分離構造が形成され、その分離相に置換基の脱離に基づく秩序化されたナノメータサイズの空孔を生じさせ、形成された空孔に選択的に機能性色素を含有させた有機機能薄膜を作製することがきた。この有機機能薄膜の有する機能性色素の機能と高度に秩序化された構造により、有用で新規な性質(光学的性質、電子的性質、導電的性質等)が発現する。
なお、前記のように比較例1の場合には、空孔は確認されなかったが、この理由は、ミクロ相分離構造を構築するために加熱する際に脱離基も一緒に外れてしまい、そのために最初からPSTとPMAAとのブロック共重合となってしまい、後の空孔形成時において空孔ができない(隙間が生じない形になってしまう)状態になったためであると考えられる。
【0065】
実施例5:記録体に係る実施例
実施例3で合成したブロック共重合体のシクロヘキサノン溶液を、厚さ1mm、5cm四方の石英基板上にスピンコートした。ただし、スピンコートは溶媒が均一に広がったところで回転を停止した。
次に、ブロック共重合体溶液をスピンコートした石英基板を乾燥し、更に130℃で5時間加熱処理を行った。このようにして得られた有機薄膜の相分離構造をTEMにより観察してラメラ構造であることを確認した後に、p−トルエンスルホン酸の1wt%メタノール溶液を滴下し、100℃で3分間加熱した。更に、実施例3と同様に色素溶液に浸漬し、色素をPHSからなるラメラ構造内に導入し(埋め込み)、記録体とした。
この記録体に発振波長635nm、ビーム径1μmの半導体レーザ光を水平方向に1.5μm間隔で1.0cm2スキャンさせた。この照射部および未照射部をTEM、及び光学顕微鏡による観察、顕微分光法による反射率及び透過率の測定、蛍光観察を行った。結果を下記表1に示す。
【0066】
比較例2
色素溶液に浸漬しないこと以外は実施例5と同様にして記録体を作製し、記録を行って、照射部および未照射部をTEM、及び光学顕微鏡による観察、顕微分光法による反射率及び透過率の測定、蛍光観察を行った。結果を下記表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
評価結果
実施例と比較例の結果から、本発明に係る実施例5の記録体の有機薄膜は、レーザ光照射により、PHS内に埋め込まれた色素に記録がなされたことが確認され、記録可能なことが明らかになった。
なお、本実験では、色素ドット径(数十nm)に比較して、径の大きなビーム(1μm)光源を用いて記録したため、記録体に形成されたナノメータサイズの多数の色素ドットを一度に記録したが、色素ドットと同程度のビーム径で記録すれば、色素ドットを個別に記録することが可能であることが判明した。
また、記録信号が反射率変化として再生できることから、この現象を利用して再生する方式では、記録再生用レーザの発振波長近傍に、機能性色素の最大吸収波長を制御するか、あるいは機能性色素の最大屈折率を制御することが最も好ましいことが分かった。
更に、記録信号が蛍光の有無として再生でき、しかも上記透過率や反射率に比較し大きなS/N比で再生が可能で、本方式の光記録媒体の再生法としては特に好ましいことが認められた。
【0069】
【発明の効果】
本発明は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体を用いて形成したミクロ相分離構造の一方の分離相を構成するポリマー鎖に、脱離可能な置換基を結合し、この置換基を脱離してナノメータサイズの秩序ある空孔を形成し、この空孔に機能性色素を導入して複合化することにより、光学的性質、電子的性質、導電的性質等の新たな機能を発揮する有機機能薄膜の提供を可能とする。なお、置換基は、酸触媒により脱離するような基であるのが好ましい。
特に、ナノメータサイズの機能性色素から構成される秩序化されたドット構造(ドット列)を有する有機機能薄膜を記録材料(記録層)として用いることにより、照射されるレーザ光の発振波長やレンズのNAに依存することなく、レーザピックアップの回折限界を超える記録密度で記録再生が可能な光記録媒体を提供することができる。
また、上記有機機能薄膜は、少なくとも、ブロック共重合体ミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、酸触媒反応によりポリマー鎖に結合した脱離可能な置換基を取り除き空孔を形成する工程と、空孔に機能性色素を含有させる工程とを含む製造工程により製造することができ、これによって構造制御して複合化した有機機能薄膜の提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機機能薄膜における機能性色素が含有される一方の分離相のミクロ相分離構造((a)球状構造、(b)柱状構造、(c)ラメラ状構造)を示す模式図である。
【図2】本発明の有機機能薄膜を記録層に設けた光記録媒体の金属反射層を備えない場合の層構成例(a)〜(d)を示す概略断面図である。
【図3】本発明の有機機能薄膜を記録層に設けた光記録媒体の金属反射層を備えた場合の層構成例(a)〜(e)を示す概略断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 記録層
3 下引き層
4 保護層
5 基板面ハードコート層
6 金属反射層
Claims (15)
- 互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖は、脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有したことを特徴とする有機機能薄膜。
- 前記脱離可能な置換基を有するポリマー鎖が形成する分離相のミクロ相分離構造が球状、柱状、ラメラ状、共連続状、もしくは該各形状に類似の構造であることを特徴とする請求項1に記載の有機機能薄膜。
- 前記ポリマー鎖から脱離した置換基の沸点が前記ブロック共重合体のガラス転移点(Tg)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機機能薄膜。
- 互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に酸を接触させる工程と、
該有機薄膜を加熱して接触させた酸触媒により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法。 - 互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に光酸発生剤を接触させる工程と、
該有機薄膜に光照射をした後に加熱して接触させた光酸発生剤から発生した酸により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法。 - 互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体と、前記脱離可能な置換基を有するポリマー鎖が形成する分離相にのみ相溶性のある光酸発生剤とを含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に光照射をした後に加熱して含有する光酸発生剤から発生した酸により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法。 - 互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が酸触媒により脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜の製造方法であって、
前記ブロック共重合体を含有する溶液を調製し、該調製された溶液を塗布薄膜化してミクロ相分離構造を有する有機薄膜を形成する工程と、
該有機薄膜に熱酸発生剤を接触させる工程と、
該有機薄膜を加熱して接触させた熱酸発生剤から発生した酸により、前記ポリマー鎖に結合した置換基を脱離させて空孔を形成する工程と、
該空孔に機能性色素を含有させる工程と、
を含むことを特徴とする有機機能薄膜の製造方法。 - 前記ミクロ相分離構造は、溶媒キャスト、もしくは温度変化により形成されることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の有機機能薄膜の製造方法。
- 前記空孔に機能性色素を含有させる工程が、溶媒を用いる湿式法により行われることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の有機機能薄膜の製造方法。
- 基板上に有機機能薄膜からなる記録層を設けた光記録媒体であって、
前記有機機能薄膜は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有したことを特徴とする光記録媒体。 - 基板上に、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に機能性色素を含有する有機機能薄膜からなる記録層を設け、レーザ光を照射して該機能性色素の光学特性を変化させて記録再生することを特徴とする光記録媒体。
- 前記機能性色素は、記録再生用レーザの波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御した色素であることを特徴とする請求項12に記載の光記録媒体。
- 前記機能性色素は、記録再生用レーザの波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御した色素であることを特徴とする請求項12に記載の光記録媒体。
- 前記機能性色素は、フォトクロミック色素であることを特徴とする請求項12〜14のいずれかに記載の光記録媒体。
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