JP2004347092A - 断熱材及びそれを用いた断熱体 - Google Patents
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Abstract
【課題】不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示し、且つ、比較的簡単な方法により製造可能な、優れた断熱材を提供する。
【解決手段】以下の物性を備えたシリカを用いる。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下
【選択図】 なし
【解決手段】以下の物性を備えたシリカを用いる。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電化製品や建材などに用いて好適な断熱材及びそれを用いた断熱体に関し、特に、シリカからなる断熱材と、それを外装材で密閉してなる断熱体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、居住環境の保冷や保温、及び、冷却や暖房のための機器などにおいて熱を効率的に利用するための断熱材の開発が行なわれてきた。また、近年ではノート型コンピュータやいわゆる情報家電など、内部に情報処理装置を備えた電化製品が多数提供されるようになったが、これらの機器は内部からの熱が外部に出ないようにしたり、また、外部の熱が内部の情報処理装置に悪影響を及ぼさないようにしたりする必要があるため、断熱材を使用する必要がある。このように、断熱材を使用する機会はますます多くなってきており、このため、優れた断熱材を開発するための研究が行なわれ、さまざまな断熱材が提案されている。
【0003】
特に、シリカは熱伝導度が低い上に、多孔体として構成できるため、高い断熱性を発揮することが可能であり、断熱材として非常に注目されている。
【0004】
シリカを用いた断熱材の具体例として、特許文献1には、水ガラスを原料としてゾルゲル法によりシリカヒドロゲルを製造し、このシリカヒドロゲルを乾燥させることによりシリカのエアロゲルを製造して、このエアロゲルを断熱材として用いることが提案されている。また、特許文献2には、原料として各種のアルコキシシランを用いて同様の手法でエアロゲルを作成することにより、疎水性が高く断熱性に優れた材料が得られる旨が記載されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−174140号公報
【特許文献2】
特開平6−191822号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の特許文献1及び特許文献2に記載の技術を始め、従来の技術では、未だ満足のゆくレベルの断熱性を備えた断熱材は提供されていなかった。特に、特許文献2の材料は、完全な防湿環境下で使用した場合には優れた断熱性が得られるものの、防湿が十分でないと断熱性が低下してしまう上に、強度が弱いという課題があり、その用途が限られていた。また、特許文献1及び特許文献2の何れの材料も、その製造工程中にpH調整等の煩雑な操作を必要とするために、製造効率が悪く、製造コストも高かった。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みたものであり、不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示し、高い強度を有し、且つ、比較的簡単な方法により製造可能な、優れた断熱材及びそれを用いた断熱体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカが、高い強度を有する上に、比較的簡単な方法で製造可能であり、且つ、断熱材として使用した場合に、不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示すことから、上記課題を効果的に解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下
(2)該シリカの(Si−O−H)結合に対する(Si−O−C)結合のモル比が、0.03以上であることを特徴とする、(1)の断熱材。
(3)該シリカの全空隙の容積と前記細孔容積との比(細孔容積/全空隙容積)が20%以上であることを特徴とする、(1)又は(2)の断熱材。
(4)該シリカの最頻細孔径Dmaxが、5nm以上であることを特徴とする、(1)〜(3)の何れかの断熱材。
(5)該シリカの全空隙率が、80%以上であることを特徴とする、(1)〜(4)の何れかの断熱材。
(6)固体Si−NMRにより測定した該シリカのQ4/Q3値が、1.2以上であることを特徴とする、(1)〜(5)の何れかの断熱材。
(7)該シリカが、非晶質であることを特徴とする、(1)〜(6)の何れかの断熱材。
(8)該シリカの有する細孔のうち、細孔径が最頻細孔径Dmaxの±20%の範囲に存在する細孔の容積が、全細孔の容積の50%以上であることを特徴とする、(1)〜(7)の何れかの断熱材。
(9)シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程と、該加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程と、該物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整する水分除去工程と、該水分除去工程により得られたシリカスラリーをアルコキシ化するアルコキシ化工程と、該アルコキシ化工程後のシリカスラリーを乾燥する乾燥工程とを備えた方法により製造されたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
(10)該アルコキシ化工程において、該シリカスラリーをアルコールの存在下で熱処理することにより、シリカスラリーをアルコキシ化することを特徴とする、(9)の断熱材。
(11)(1)〜(10)の何れかの断熱材を外装材で密閉してなることを特徴とする、断熱体。
(12)該外装材が、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたことを特徴とする、(11)の断熱体。
(13)該外装材が、非透湿性を有する非透湿層を備えたことを特徴とする、(11)又は(12)の断熱体。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨内において、変形して実施することも可能である。
【0011】
[1.本発明の断熱材]
本発明の断熱材は、以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下
【0012】
[1−1.本発明のシリカの物性]
以下、本発明の断熱材に用いられるシリカ(以下適宜、「本発明のシリカ」という)について説明する。
なお、本発明において「シリカ」とは含水ケイ酸のことを指す。含水ケイ酸は、SiO2・nH2O(nは0より大きい数を表わす)の示性式で表される。
【0013】
本発明のシリカは、細孔容積が通常の値よりも大きい範囲に存在することを特徴とする。具体的には、窒素ガス吸・脱着法で測定した細孔容積の値が、通常1.6ml/g以上、好ましくは1.8ml/g以上、より好ましくは2.0ml/g以上である。シリカの多孔構造において、その細孔により形成される空隙は、シリカのマトリックスと比べて断熱性が低い(常圧・空気存在下はもとより、減圧下や真空中では、その断熱性の差は更に大きくなる)。従って、細孔容積が大きな値を取るほど、シリカ中における空隙の割合が高まり、シリカの断熱性が向上する。但し、細孔容積があまりに大きいと、シリカの強度を保つことが困難となり、断熱材としての実用性が却って低下してしまうので、細孔容積の上限は通常3.4ml/g以下、好ましくは3.2ml/g以下、より好ましくは3.0ml/g以下である。なお、シリカの細孔容積は、吸着等温線の相対圧0.98における窒素ガスの吸着量から求めることができる。
【0014】
また、本発明のシリカは、その水分含有率が通常よりも低いことを特徴とする。シリカは吸湿性が比較的高く、大気中に保存すると水分を吸収して断熱性能が悪化する。本発明では、水分含有率を十分に低い値、具体的には通常15重量%以下に抑えることによって、高い断熱性能を達成している。中でも、好ましくは14重量%以下、より好ましくは12重量%以下である。水分含有率がこの範囲よりも高いと、水分の熱伝導性によってシリカの断熱性が悪化してしまう。一方、下限は特に制限はない。なお、シリカの水分含有率は、例えば赤外水分測定機を用いて求めることができる。
【0015】
更に、本発明のシリカは、その全炭素濃度に関しても特徴を有する。全炭素濃度はシリカの疎水化の程度を反映するパラメータであって、一般にシリカの全炭素濃度の値が高いほど、シリカの骨格中における水酸基等の親水性基に対するアルキル基やアルコキシ基等の疎水性基の比率が高くなり、牽いてはシリカ全体の疎水性も向上する傾向がある。本発明では、シリカの全炭素濃度の値が所定の範囲内に存在すること、即ち、シリカが適度に疎水化されていることが好ましい。具体的には、全炭素濃度の値が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは2重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは14重量%以下、より好ましくは13重量%以下である。全炭素濃度がこの範囲よりも低いと、水を過剰に吸収してしまい、水の熱伝導性によってシリカの断熱性が悪化してしまう。その一方で、全炭素濃度がこの範囲よりも高いと、熱伝導性の高い水分子が移動し易くなるために、却って断熱性の低下を招いてしまう。また、有機物によって細孔内が占領されてしまうため、シリカの3次元骨格の結合数が少なくなってシリカの構造が脆弱化し、断熱材としての強度が充分に得られない虞がある。本発明では、全炭素濃度の値を適切な範囲内とすることによって、水の過度の吸収を防ぐとともに、周囲に存在する水分子が少量であればそれらを吸着してその移動を防ぐことにより、完全な防湿環境下でなくとも高い断熱性を保つことができる。更に、シリカの3次元骨格中に十分な数の結合を確保して、シリカの構造の強度を保つことにより、各種用途への使用を可能としているのである。なお、シリカの全炭素濃度は、例えば全炭素測定装置を用いて求めることができる。
【0016】
なお、シリカによる水の吸収を効率的に抑えるために、後述するシリカの製造工程において、シリカの骨格中に疎水性基(アルコキシ基やアルキル基等)を導入することにより、シリカを疎水化することが好ましい。シリカ中に疎水性基を導入した場合、得られるシリカの全炭素濃度の下限値は、上述した値よりも通常は高い値となる。具体的には、全炭素濃度の値は通常5重量%以上、好ましくは5.5重量%以上、より好ましくは6重量%以上となる。一般に、全炭素濃度がこの範囲よりも低いと、疎水化による水吸収の抑制効果が十分に得られない虞がある。
【0017】
但し、周囲の水分子と接触するシリカの三次元構造体の表面のみに選択的に疎水性基を導入すれば、効率的に水の吸収が抑制されるので、全炭素濃度がより低い値であってもより確実に効果を得ることができる。シリカの三次元構造体の表面に疎水性基が局在している場合、シリカの全炭素濃度の具体的な下限値は通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。なお、シリカの三次元構造体の表面に疎水性基を局在させる手法としては、後述するシリカの製造工程において、原料としてシリコンアルコキシドとアルキルアルコキシシランを併用する手法が挙げられる。
【0018】
なお、シリカ中における疎水性基の分布(シリカの三次元構造体の表面に局在しているか否か)は、例えば、ベンゼン等の有機化合物の吸着等温線を測定し、これを比較することにより調べることができる。同濃度の疎水性基が導入されたシリカについて、有機化合物の吸着量とを縦軸に、圧力を横軸にとって吸着等温線を作成し、これを比較した場合、シリカの三次元構造体の表面に疎水性基が局在しているほど傾きの大きな曲線が得られる(即ち、有機化合物の吸着量が総じて高い値を示す)ことが知られているので、これを利用して判断すればよい。
【0019】
加えて、本発明のシリカは、シリカの骨格中に疎水性基としてアルキル基ではなくアルコキシ基を高い比率で有していることが好ましい。シリカ骨格中にアルコキシ基が存在することによって、その一部が周囲の水分子と反応して水酸基とアルコールとを生じるため、シリカに適度な水分吸着性を与えることが可能となる。水分子の代わりにアルコール分子が発生するものの、一般に分子量が大きい分子ほど熱伝導性が低いことから、アルコール分子は水分子よりも熱伝導性が低く、シリカ全体としての断熱性は向上する。よって、結果として不完全な防湿環境下でも高い断熱性を保つことができる。具体的には、シリカ骨格中のケイ素とアルコキシ基との結合(Si−O−C)と、同じくケイ素と水酸基との結合(Si−O−H)との存在比率を表わす値である、(Si−O−C)結合/(Si−O−H)結合のモル比が、通常0.03以上、好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。なお、上限は特に制限はない。なお、シリカの(Si−O−C)結合/(Si−O−H)結合のモル比は、例えば赤外分光分析法と全炭素測定装置を用いて求めることができる。
【0020】
なお、上述したシリカの全炭素濃度の好ましい範囲は、詳細には、シリカの骨格中に存在するアルコキシ基の種類によっても左右される。疎水化の程度が同程度であっても、炭素数の高いアルコキシ基によって疎水化されている場合は、炭素数の低いアルコキシ基によって疎水化されている場合と比較して、シリカの全炭素濃度は高い値となる。具体例として、シリカが有するアルコキシ基が全てメトキシ基(炭素数1)の場合、全炭素濃度の値は通常5重量%以上、好ましくは5.5重量%以上、より好ましくは6重量%以上、また、通常12重量%以下、好ましくは11.5重量%以下、より好ましくは11重量%以下である。一方、シリカが有するアルコキシ基が全てエトキシ基(炭素数2)の場合、全炭素濃度の値は通常7重量%以上、好ましくは7.5重量%以上、より好ましくは8重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは14.5重量%以下、より好ましくは14重量%以下である。シリカがメトキシ基とエトキシ基とを併せ持っている場合には、全炭素濃度はこれらの間の範囲となる。
【0021】
上述の特徴に加えて、本発明のシリカは、窒素ガス吸脱着法で測定した等温脱着曲線から、E.P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73,373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線、即ち、細孔径d(nm)に対して微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd);Vは窒素ガス吸着容積)をプロットした図上での最頻細孔径(Dmax)が、50nm以下であることが好ましい。詳しくは、最頻細孔径(Dmax)は通常5nm以上、50nm以下、好ましくは30nm以下である。最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも小さいと、シリカ中における空隙の割合が低くなり、シリカの断熱性が低下してしまう。一方、最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも大きいと、シリカの強度を保つことが困難となり、断熱材としての実用性が却って低下してしまう。
【0022】
かかる特徴に関連して、本発明のシリカは、上記のBJH法により算出された最頻細孔径(Dmax)における微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が、通常2ml/g以上、中でも3ml/g以上、特に5ml/g以上であることが好ましく、通常40ml/g以下、中でも30ml/g以下、特に25ml/g以下であることが好ましい(なお、上式において、dは細孔径(nm)であり、Vは窒素ガス吸着容積である)。微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が前記範囲に含まれるものは、最頻細孔径(Dmax)の付近に揃っている細孔の絶対量が極めて多いものと言える。
【0023】
また、本発明のシリカの全空隙率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、また、通常99.5%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは98%以下である。ここで「全空隙率」とは、シリカの占める全体積に対する、シリカの粒子内の細孔容積と粒子間の空隙の容積とを合わせた全空隙の容積の比率をいう。全空隙率がこの範囲よりも小さいと、シリカの断熱性が低くなってしまう一方で、この範囲よりも大きいと断熱材としての強度が充分に得られない虞がある。なお、シリカの全空隙率は、シリカのかさ密度を測定し、以下の式によって算出することができる。シリカのかさ密度は、例えばJISK6721等の手法により測定できる。また、シリカの粒子密度は2.0g/cm3である。
全空隙率=1−(かさ密度)/(シリカの粒子密度)
【0024】
加えて、本発明のシリカは、これを構成するシリカの構造に歪みが少ないことが好ましい。ここで、シリカの構造的な歪みは、固体Si−NMR測定におけるQ4ピークのケミカルシフトの値によって表わすことができる。以下、シリカの構造的な歪みと、前記のQ4ピークのケミカルシフトの値との関連について、詳しく説明する。
【0025】
本発明のシリカは、ケイ酸の水和物であり、SiO2・nH2Oの示性式で表されるが、構造的には、Siの四面体の各頂点にOが結合され、これらのOに更にSiが結合してネット状に広がった構造を有する。そして、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、Oの一部が他の成員(例えば上述のアルコキシ基、水酸基や、−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのSiに注目した場合、下記式(A)に示す様に4個の−OSiを有するSi(Q4)、下記式(B)に示す様に3個の−OSiを有するSi(Q3)等が存在する(下記式(A)及び(B)では、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を平面的に表わしている)。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各Siに基づくピークは、順にQ4ピーク、Q3ピーク、・・と呼ばれる。
【0026】
【化1】
【0027】
本発明のシリカが有する高い耐水性及び耐熱性と、上記の様な構造的歪みの関係については、必ずしも明らかではないが、次の様に推定される。すなわち、シリカは大きさの異なる球状粒子の集合体で構成されているが、上記の様な構造的に歪みの少ない状態においては、球状粒子全体のミクロ構造的な高度の均質性が維持されるので、その結果、高い耐熱性が発現されるものと考えられる。なお、Q3以下のピークは、Si−Oのネット構造の広がりに制限があるため、シリカの構造的な歪みが現れ難い。
【0028】
更に、上記の特徴に関連して、本発明のシリカは、固体Si−NMR測定によるQ4/Q3の値が、通常1.2以上、中でも1.4以上であることが好ましい。ここで、Q4/Q3の値とは、上述したシリカの繰り返し単位の中で、−OSiが3個結合したSi(Q3)に対する−OSiが4個結合したSi(Q4)のモル比を意味する。なお、上限値は特に制限されないが、通常は10以下である。一般にこの値が高い程、シリカの熱安定性が高いことが知られており、ここから本発明のシリカが熱安定性についても極めて優れていることが判る。
【0029】
なお、Q4/Q3の値は、固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0030】
また、本発明のシリカは、以上の細孔構造の特徴に加えて、その三次元構造を見るに、非晶質であること、即ち、結晶性構造が認められないことが好ましい。このことは、本発明のシリカをX線回折で分析した場合に、結晶性ピークが実質的に認められないことを意味する。なお、本明細書において非晶質でないシリカとは、X線回折パターンで6オングストローム(Å Units d−spacing)を越えた位置に、少なくとも一つの結晶構造のピークを示すものを指す。非晶質のシリカは、結晶性のシリカに較べて断熱性が高いことに加え、極めて生産性に優れている。非晶質のシリカとしては、例えばシリカゲルが挙げられる。
【0031】
加えて、本発明のシリカは、上記の最頻細孔径(Dmax)の値の±20%の範囲にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の通常50%以上、中でも60%以上、更には70%以上であることが好ましい。このことは、本発明のシリカが有する細孔の直径が、最頻細孔径(Dmax)付近の細孔で揃っていること、つまり細孔径の分布が極めて狭い(シャープである)ことを意味する。細孔径の分布が小さいほど、シリカの構造が均一となり、断熱材の構造中に強度のバラツキが生じないため、全体的に強度の高い断熱材を得ることができる。なお、この比の値の上限は特に制限されないが、通常は90%以下である。
【0032】
[1−2.本発明のシリカの製法]
本発明のシリカの製造方法は、上述した物性を有するシリカを製造することができる方法であれば特に制限はないが、特に、シリコンアルコキシドを加水分解する工程(加水分解・縮合工程)と、加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する工程(物性調節工程)と、物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下とする工程(水分除去工程)と、水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する工程(乾燥工程)とを有する方法により製造することが好ましい。
【0033】
上記の製造方法は、具体的には、シリコンアルコキシドを加水分解し、得られたシリカヒドロゲルを、好ましくは実質的に熟成することなしに水熱処理し、次いで水分除去工程として親水性有機溶媒と接触させ、シリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整した上で、乾燥させてシリカ中の水分を除去することを特徴とする。
【0034】
なお、上述したシリカの製造方法の何れかの段階で、シリカを疎水化するための操作を加えても良い。上述の様に、本発明では疎水性基としてアルコキシ基を導入することが好ましいことから、以下の説明では、水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する前に、シリカ中の水酸基をアルコキシ化する工程(アルコキシ化工程)を加えた場合について説明する。勿論、疎水化の有無やその種類は任意であるから、アルコキシ化以外の公知の疎水化手法(例えば、シリカの三次元構造体の表面に疎水性基を局在させたい場合には、原料としてシリコンアルコキシドとアルキルアルコキシシランを併用する手法など)を施すことも可能であるし、疎水化処理を省略して、水分除去工程により得られたシリカスラリーをそのまま乾燥工程に供しても良い。また、複数種の疎水化手法を併用(例えば、アルキルアルコキシシランを用いる手法とアルコキシ化工程とを併用)しても良い。
【0035】
[1−2−1.加水分解・縮合工程]
加水分解・縮合工程においては、シリコンアルコキシドを加水分解してシリカヒドロゲルを得る。得られるシリカヒドロゲルは、その原料であるシリコンアルコキシドの高純度化が可能であり、シリカヒドロゲルへの不純物の混入を容易に防止できるので好ましい。
【0036】
本発明のシリカの原料として使用されるシリコンアルコキシドとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリ又はテトラアルコキシシラン或いはそれらのオリゴマーが挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びそれらのオリゴマー、特にテトラメトキシシランやそのオリゴマーを用いると、良好な細孔物性を有するシリカが得られるので好ましい。その主な理由としては、シリコンアルコキシドは蒸留により容易に精製し、高純度品が得られるので、高純度のシリカの原料として好適であることが挙げられる。シリコンアルコキシド中の金属(金属不純物)の総含有率は、通常100ppm以下、中でも50ppm以下、更には10ppm以下、特に1ppm以下が好ましい。これらの金属不純物の含有率は、一般的なシリカ中の不純物含有率の測定法と同じ方法で測定できる。
【0037】
本発明では、先ず、加水分解・縮合工程において、触媒の不存在下にシリコンアルコキシドを加水分解すると共に得られたシリカヒドロゾルを縮合してシリカヒドロゲルを形成する。
【0038】
シリコンアルコキシドの加水分解は、シリコンアルコキシド1モルに対して、通常2モル倍以上、好ましくは3モル倍以上、特に好ましくは4モル倍以上、また、通常20モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、特に好ましくは8モル倍以下の水を用いて行なう。シリコンアルコキシドの加水分解により、シリカのヒドロゲルとアルコールとが生成し、生成したシリカヒドロゾルは逐次縮合してシリカヒドロゲルとなる。
【0039】
加水分解時の温度は、通常室温以上、100℃以下であるが、加圧下で液相を維持することで、より高い温度で行なうことも可能である。加水分解に要する反応時間は反応液組成(シリコンアルコキシドの種類や、水とのモル比)並びに反応温度に依存し、ゲル化するまでの時間が異なるので、一概には規定されない。この反応時間は、本発明のシリカのように細孔物性に優れたシリカを得る為には、ヒドロゲルの破壊応力が6MPaを越えない時間であることが好ましい。
【0040】
なお、この加水分解反応系に、触媒として、酸、アルカリ、塩類などを添加することで加水分解を促進させることができる。しかしながら、かかる添加物の使用は、後述のように、生成したヒドロゲルの熟成を引き起こす虞があるため、本発明のシリカゲルの製造においてはあまり好ましいことではない。
【0041】
上述したシリコンアルコキシドの加水分解に際しては、攪拌を充分に行なうことが重要となる。例えば、回転軸に攪拌翼を備えた攪拌装置を用いた場合、その攪拌速度(回転軸の回転数)としては、攪拌翼の形状・枚数・液との接触面積等にもよるが、通常は30rpm以上、好ましくは50rpm以上である。
【0042】
また、この攪拌速度は、一般的に速過ぎると、槽内で生じた飛沫が各種のガスラインを閉塞させたり、また反応器内壁に付着して熱伝導を悪化させ、物性制御に重要な温度管理に影響を及ぼしたりする場合がある。更に、この内壁の付着物が剥離し、製品に混入して品質を悪化させる場合もある。この様な理由から、攪拌速度は2000rpm以下、中でも1000rpm以下が好ましい。
【0043】
本発明に於いて、分液している二液相(水相、及びシリコンアルコキシド相)の攪拌方法は、反応を促進させる方法であれば任意の攪拌方法を用いることが出来る。中でも、この二液相をより混合させるような装置としては、例えば以下の▲1▼、▲2▼が挙げられる。
【0044】
▲1▼:回転軸が液面に対し垂直又は僅かに角度を持って挿入され、上下に液の流動が生じる攪拌翼を有する装置。
▲2▼:回転軸方向を二液相の界面と略平行に設け、二液相間に攪拌を生じさせる攪拌翼を有する攪拌装置。
【0045】
上述した▲1▼、▲2▼の様な装置を用いた際の攪拌翼の回転速度は、攪拌翼の周速度(攪拌翼先端速度)で、0.05〜10m/s、中でも0.1〜5m/s、更には0.1〜3m/sであることが好ましい。
【0046】
攪拌翼の形状や長さ等は任意であり、攪拌翼としては例えばプロペラ型、平羽根型、角度付平羽根型、ピッチ付平羽根型、平羽根ディスクタービン型、湾曲羽根型、ファウドラー型、ブルマージン型等が挙げられる。
【0047】
翼の幅、枚数、傾斜角等は反応器の形状、大きさ、目的とする攪拌動力に応じて適宜選定すればよい。たとえば反応器の槽内径(回転軸方向に対して垂直面を形成する液相面の最長径)に対する翼幅(回転軸方向の翼の長さ)の比率(b/D)は0.05〜0.2、傾斜角(θ)90゜±10゜、翼枚数3〜10枚の攪拌装置が好適な例として挙げられる。
【0048】
中でも、上述の回転軸を反応容器内の液面よりも上に設け、この回転軸から伸ばした軸の先端部分に攪拌翼を設ける構造が、攪拌効率及び設備メンテナンスの観点から好適に使用される。
【0049】
上記のシリコンアルコキシドの加水分解反応では、シリコンアルコキシドが加水分解してシリカヒドロゾルが生成するが、引き続いて該シリカヒドロゾルの縮合反応が起こり、反応液の粘度が上昇し、最終的にゲル化してシリカヒドロゲルとなる。
【0050】
[1−2−2.物性調節工程]
次いで、本発明では、物性調節工程として、実質的に熟成することなく、シリカヒドロゲルの水熱処理を行なう。シリコンアルコキシドを加水分解すると、軟弱なシリカヒドロゲルが生成する。なお、このヒドロゲルの物性を安定させるべく、熟成、或いは乾燥させ、次いで水熱処理を施すという、従来行なわれているような方法では、本発明のシリカを製造することは困難である。
【0051】
上記のように、加水分解により生成したシリカヒドロゲルを、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうということは、シリカヒドロゲルが生成した直後の軟弱な状態が維持されたままで、次の水熱処理に供するようにするということを意味する。
【0052】
具体的には、シリカヒドロゲルが生成した時点から、一般的には10時間以内に水熱処理することが好ましく、中でも8時間以内、更には6時間以内、特に4時間以内にシリカヒドロゲルを水熱処理することが好ましい。
【0053】
また、工業用プラント等に於いては、大量に生成したシリカヒドロゲルを一旦サイロ等に貯蔵し、その後水熱処理を行なう場合が考えられる。この様な場合、シリカヒドロゲルは、シリカヒドロゲルが生成してから水熱処理に供されるまでの時間、いわゆる放置時間が、上述の範囲を超える場合が考えられる。この様な場合には、熟成が実質的に生じないように、サイロ内での静置中に、例えばシリカヒドロゲル中の液体成分が乾燥しないようにすればよい。
【0054】
具体的には、例えば、サイロ内を密閉したり、湿度を調節したりすればよい。また、水やその他の溶媒にシリカヒドロゲルを浸した状態で、シリカヒドロゲルを静置してもよい。
【0055】
静置の際の温度は、できるだけ低くすることが好ましく、例えば50℃以下、中でも35℃以下、特に30℃以下で静置することが好ましい。また、熟成が実質的に生じないようにする別の方法としては、シリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御してシリカヒドロゲルを調製する方法が挙げられる。
【0056】
シリカヒドロゲルを実質的に熟成せずに水熱処理することにより奏する効果と、この効果が得られる理由を考察すると、以下のことが考えられる。
【0057】
まず、シリカヒドロゲルを熟成させると、−Si−O−Si−結合によるマクロ的網目構造が、シリカヒドロゲル全体に形成されると考えられる。この網目構造がシリカヒドロゲル全体に有ることで、水熱処理の際、この網目構造が障害となり、メソポーラスの形成が困難となることが考えられる。またシリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御して得られたシリカヒドロゲルは、静置中に生ずるシリカヒドロゲルにおける架橋の進行を抑制できる。その為、シリカヒドロゲルが熟成しないと考える。
【0058】
よって、本発明では、シリカヒドロゲルを熟成することなく、水熱処理を行なうことが重要である。
【0059】
シリコンアルコキシドの加水分解反応系に酸、アルカリ、塩類等を添加すること、又は該加水分解反応の温度を厳しくし過ぎることなどは、ヒドロゲルの熟成を進行させるという点からも好ましくない。また、加水分解後の後処理における水洗、乾燥、放置などにおいて、必要以上に温度や時間をかけるべきではない。
【0060】
更に、シリコンアルコキシドの加水分解で得られたシリカヒドロゲルは、水熱処理を行なう前に、これを平均粒径10mm以下、中でも5mm以下、更には1mm以下、特に0.5mm以下となるよう、粉砕処理等を施すことが好ましい。
【0061】
上述の通り、本発明のシリカの製造方法としては、シリカヒドロゲルの生成の直後に、直ちにこれを水熱処理する方法が重要である。但し、この製造方法に於いては、水熱処理するシリカヒドロゲルが熟成していなければよいので、例えば暫時低温下で静置した後に水熱処理するなど、必ずしもシリカヒドロゲルの生成直後、直ちにこれを水熱処理することを必要としない。
【0062】
このように、シリカヒドロゲルの生成の直後、直ちにこれを水熱処理しない場合には、例えばシリカヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認してから水熱処理を行なえばよい。ヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認する手段は任意であるが、例えば、測定したヒドロゲルの硬度を参考にする方法が挙げられる。即ち、先述したとおり、この破壊応力が通常6MPa以下の柔らかい状態のヒドロゲルを水熱処理することで、本発明で規定する物性範囲のシリカを得ることができる。この破壊応力は、中でも3MPa以下であることが好ましく、特に2MPa以下であることが好ましい。
【0063】
この水熱処理の条件としては、水の状態が液体、気体の何れでもよいが、中でも、液体の水を使い、シリカヒドロゲルに加えてスラリー状として、水熱処理を行なうことが好ましい。水熱処理においては、まず、処理するシリカヒドロゲルに、シリカヒドロゲルの重量に対して通常0.1重量倍以上、好ましくは0.5重量倍以上、特に好ましくは1重量倍以上、また、通常10重量倍以下、好ましくは5重量倍以下、特に好ましくは3重量倍以下の水を加えてスラリー状とする。そしてこのスラリーを、通常40℃以上、好ましくは100℃以上、中でも好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の温度で、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは10時間以下にわたって、水熱処理を行なう。水熱処理の温度が低過ぎると、細孔分布がシャープになり難く、また、細孔容積を大きくすることも困難となる場合がある。
【0064】
なお、水熱処理に使用される水には、溶媒が含まれていてもよい。溶媒として、具体的には、例えば、低級アルコール類であるメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。この溶媒は、例えばアルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、その原料であるアルコキシシランに由来するアルコール類であってもよい。
【0065】
熱処理に用いる水における、この様な溶媒の含有率は任意だが、少ない方が好ましい。例えば、上述した様な、アルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、このシリカヒドロゲルを水洗し、水洗されたものを水熱反応に供することにより、150℃程度まで温度を下げて水熱処理を行なった場合でも、細孔物性に優れ且つ細孔容積の大きいシリカを製造することが出来る。また、溶媒を含んでいる水で水熱処理を行なっても、200℃程度の温度での水熱処理を行なうことで、本発明のシリカを容易に得ることが出来る。
【0066】
なお、加水分解反応の反応器を用い、続けて温度条件変更により水熱処理を行なうことも可能であるが、加水分解反応とその後の水熱処理では最適条件が通常は異なっているため、この様に水を新たに加えないで行なう方法では、本発明のシリカを得ることは一般的には難しい。
【0067】
以上の水熱処理の条件において、温度を高くすると、得られるシリカの径、細孔容積が大きくなる傾向がある。水熱処理温度としては、100〜200℃の範囲であることが好ましい。また、処理時間とともに、得られるシリカの比表面積は、一度極大に達した後、緩やかに減少する傾向がある。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択する必要があるが、水熱処理は、シリカの物性を変化させる目的なので、通常、前記の加水分解の反応条件より高温条件とすることが好ましい。
【0068】
なお、ミクロ構造的な均質性に優れる本発明のシリカを製造するためには、水熱処理の際に、反応系内の温度が5時間以内に目的温度に達する様に、速い昇温速度条件とすることが好ましい。具体的には、槽に充填して処理される場合、昇温開始から目標温度到達までの平均昇温速度として、通常0.1℃/min以上、中でも0.2℃/min以上、また、通常100℃/min以下、中でも30℃/min以下、特に10℃/min以下の範囲の値を採用するのが好ましい。
【0069】
熱交換器などを利用した昇温方法や、あらかじめ作っておいた熱水を仕込む昇温方法なども、昇温速度を短縮することができて好ましい。また、昇温速度が上記範囲であれば、段階的に昇温を行なってもよい。反応系内の温度が目的温度に達するまでに長時間を要した場合には、昇温中にシリカヒドロゲルの熟成が進み、ミクロ構造的な均質性が低下する恐れがある。
【0070】
上記の目的温度に達するまでの昇温時間は、好ましくは4時間以内、更に好ましくは3時間以内である。昇温時間の短縮化のため、水熱処理に使用する水を予熱することもできる。
【0071】
水熱処理の温度、時間を上記範囲外に設定すると、本発明のシリカを得ることが困難となる。例えば、水熱処理の温度が高過ぎると、シリカの細孔径、細孔容積が大きくなりすぎ、また、細孔分布も広がる。逆に、水熱処理の温度が低過ぎると、生成するシリカは、架橋度が低く、熱安定性に乏しくなり、細孔分布にピークが発現しなくなったり、前述した固体Si−NMRにおけるQ4/Q3値が極端に小さくなったりする。
【0072】
なお、水熱処理をアンモニア水中で行なうと、純水中で行なう場合よりも低温で同様の効果が得られる。また、アンモニア水中で水熱処理すると、アンモニアを含まない水を用いた水熱処理と比較して、最終的に得られるシリカは一般に疎水性となる。この際、水熱処理の温度を30℃以上、好ましくは40℃以上、また、250℃以下、好ましくは200℃以下という比較的高温とすると、特に疎水性が高くなる。ここでのアンモニア水のアンモニア濃度としては、好ましくは0.001%以上、特に好ましくは0.005%以上、また、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%である。
【0073】
[1−2−3.水分除去工程]
上述した水熱処理を経て得られたシリカには、多量の水が含まれている。例えば、水熱処理後のシリカは、多量の水を含むシリカ(例えばシリカスラリー)として得られる。本発明のシリカの製造方法においては、この水を除去することが重要である。具体的には、このシリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させ、水を親水性溶媒で置換し、次いでシリカを乾燥するという操作が最も重要である。
【0074】
本発明に於いては、シリカに含まれる水を親水性有機溶媒と置換し、乾燥することによって、乾燥工程に於けるシリカの収縮を抑制し、シリカの細孔容積を大きく維持でき、細孔物性に優れ、且つ細孔容積の大きいシリカを得ることが出来るのである。この理由は定かではないが、以下のような現象によるものと考えられる。
【0075】
水熱処理後のシリカスラリー中の液体成分の多くは水である。この水は、シリカと互いに強く相互作用しあっている為に、シリカから完全に水を除去するには大きなエネルギーが必要と考える。
【0076】
多量の水分が存在する条件下で乾燥過程(例えば加熱乾燥)を行なうと、熱エネルギーを受けた水が未反応のシラノール基と反応し、シリカの構造が変化する。この構造変化のうち最も顕著な変化はシリカ骨格の縮合であり、縮合によってシリカが局所的に高密度化することが考えられる。シリカ骨格は3次元的構造を有するので、骨格の局所的な縮合(シリカ骨格の高密度化)はシリカ骨格により構成されているシリカ粒子全体の細孔物性に影響を及ぼし、結果的に粒子が収縮して、細孔容積や細孔径が収縮すると考えられる。
【0077】
そこで、例えばシリカスラリー中の(水を多量に含む)液体成分を親水性有機溶媒で置換することで、このシリカスラリー中の水を除去し、上述したようなシリカの収縮を抑えることが可能となる。
【0078】
本発明で用いる親水性有機溶媒とは、上述した考えに基づき、水を多く溶かすものであればよい。中でも、分子内分極の大きいものが好ましい。更に好ましくは、比誘電率が15以上のものがよい。
【0079】
本発明のシリカの製造方法に於いては、純度の高いシリカを得るために、親水性有機溶媒にて水を除去した後の乾燥工程で、この親水性有機溶媒を除去する必要がある。よって、親水性有機溶媒としては、乾燥(例えば加熱乾燥や真空・減圧乾燥等)により容易に除去可能な低沸点のものが好ましい。親水性有機溶媒の沸点としては、150℃以下、中でも120℃以下、特に100℃以下のものが好ましい。
【0080】
具体的な親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、アルデヒド類、エーテル類等が挙げられる。中でも、アルコール類やケトン類が好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類やアセトンが好ましい。本発明では、これら例示の親水性有機溶媒のうち、一種を単独で使用しても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び任意の割合で混合して使用してもよい。
【0081】
なお、水の除去が可能であれば、使用する親水性有機溶媒中に水が含まれていてもよい。もっとも、親水性有機溶媒における水分含有率は当然少ない方が好ましく、通常20%以下、中でも15%以下、更には10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0082】
本発明に於いて、上述の親水性有機溶媒による置換処理時の温度及び圧力は任意である。処理温度は、通常0℃以上、中でも10℃以上、通常100℃以下、中でも60℃以下とすることが好ましい。処理時の圧力は常圧、加圧、減圧の何れでもよい。
【0083】
シリカスラリーと接触させる親水性有機溶媒の量は任意である。但し、用いる親水性有機溶媒の量が少な過ぎると水との置換進行速度が充分でなく、逆に多過ぎると水との置換効率は高まるが、親水性有機溶媒の使用量増加に見合う効果が頭打ちとなり、経済的に好ましくない。よって、用いる親水性有機溶媒の量は、シリカの嵩体積に対して通常0.5〜10容量倍である。この親水性有機溶媒による置換操作は、複数回繰り返して行なうと、水の置換がより確実となるので好ましい。
【0084】
親水性有機溶媒とシリカスラリーとの接触方法は任意であり、例えば攪拌槽でシリカスラリーを攪拌しながら親水性有機溶媒を添加する方法や、シリカスラリーから濾別したシリカを充填塔に詰めて、この充填塔に親水性有機溶媒を通液する方法、また、親水性有機溶媒中にシリカを入れて浸漬し、静置する方法などが挙げられる。
【0085】
親水性有機溶媒による置換操作の終了は、シリカスラリーの液体成分中の水分測定を行なって決定すればよい。例えば、定期的にシリカスラリーをサンプリングして水分測定を行ない、水分含有率が通常5%以下、好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下となった点を終点とすればよい。水分の測定方法は任意であり、例えばカールフィッシャー法が挙げられる。
【0086】
[1−2−4.アルコキシ化工程]
親水性有機溶媒による置換操作の後、シリカと親水性有機溶媒とを分離し、続いてシリカ中の水酸基をアルコキシ化する操作を行なう。
シリカの分離法としては、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカ粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、また二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
分離したシリカのアルコキシ化の手法は特に制限されず、目的とするアルコキシ基の種類に応じて適切な手法を選択すればよいが、具体例としては、親水性有機溶媒と分離したシリカにアルコールを加えて熱処理する方法が挙げられる。
【0087】
アルコールの種類は、目的とするアルコキシ基の種類に応じて、メタノール、エタノールなど、適切なものを適宜選択すれば良い。また、単一のアルコールのみならず、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0088】
熱処理の温度及び時間は、選択するアルコールの種類によっても異なるが、最終的に得られるシリカの全炭素濃度及び(Si−O−C)結合/(Si−O−H)結合の比率が上記規定範囲内となる様に、適宜調整することが好ましい。
一般的に、熱処理の温度は、通常30℃以上、好ましくは50℃以上、また、通常240℃以下、好ましくは200℃以下である。熱処理の温度が上記範囲よりも低いと、アルコキシ化反応が十分に進行しない虞がある一方、熱処理の温度が上記範囲よりも高いと、シリカの構造が変性してしまう虞がある。
また、熱処理の時間は、通常10分以上、好ましくは20分以上、また、通常120時間以下、好ましくは100時間以下である。熱処理の時間が上記範囲よりも短いと、アルコキシ化反応が十分に進行しない虞がある一方、熱処理の時間が上記範囲よりも長いと、アルコキシ化反応がそれ以上進行せず、却ってシリカの構造が変性してしまう虞がある。
【0089】
[1−2−5.乾燥工程]
アルコキシ化工程の後、反応液からシリカを分離し、乾燥することで、本発明のシリカを製造することが出来る。この際の分離法としては、上述と同様、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカ粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、また二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
【0090】
得られたシリカは、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは120℃以下で乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でもよく、且つ、常圧でも減圧下でも乾燥することができる。中でも、真空乾燥を行なうことで、乾燥が迅速に行なえるのみならず、得られるシリカの細孔容積が大きくなるので好ましい。
【0091】
更に、必要に応じて粉砕、分級することで、最終的に目的としていた本発明のシリカを得る。
シリカを粉砕する方法としては、公知のいかなる装置・器具を用いてもよい。具体的には、例えば粒径が10μm以下の微細なシリカを得るには、ボールミル(転動ミル、振動ボールミル、遊星ミル等)、攪拌ミル(塔式粉砕器、攪拌槽型ミル、流通管型ミル、アニュラー(環状)ミル等)、高速回転微粉砕器(スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級方ミル)、ジェット粉砕器(循環ジェットミル、衝突タイプミル、流動層ジェットミル)、せん断ミル(擂解機、オングミル)、コロイドミル、乳鉢などの装置・器具を用いることができる。これらの中でも、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得る際には、ボールミル、攪拌ミルが好ましい。また、粉砕時の状態としては、湿式法及び乾式法があり、いずれも選択可であるが、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得るためには湿式法がより好ましい。湿式法の場合、使用する分散媒としては、水、及び、アルコール等の有機溶媒のいずれを単独で用いてもよく、また、2種以上の分散媒を任意の組み合わせ及び比率で混合溶媒として用いてもよく、この分散媒の選択は目的に応じて行なえばよい。また、湿式法の場合には、必要に応じて粉砕後に乾燥を行なう。なお、粉砕時に不必要に強い圧力や剪断力を長時間かけ続けることは、シリカの細孔特性を損なうことがあり、好ましくない。
【0092】
[1−3.その他]
本発明の断熱材は、上述の様に、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカを用いることにより、不完全な防湿環境下でも高い断熱性を得ることができる上に、強度にも優れている。また、シリコンアルコキシドを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理し、生成したシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整した上で、アルコキシ化処理を行なった後、乾燥するという、比較的簡単な方法によって製造することができる。
【0093】
ここで、特に上述の特許文献2に記載された材料と比較しながら、本発明の断熱材の特徴についてより詳細に考察する。
【0094】
特許文献2に記載された材料は、原料としてアルコキシシランとアルキルアルコキシシランを併用することにより、シリカの骨格中にアルキル基を導入してシリカの疎水化を図っている。よって、シリカの全炭素濃度が極めて高くなるため、シリカの3次元構造の強度が低くなってしまう。また、疎水性基の殆どがアルキル基となるために、シリカの疎水性が高くなり過ぎて水分吸着性が低下してしまい、結果として水分子の移動性を上昇させてしまう。従って、不完全な防湿環境下では、却って熱伝導性が低くなってしまう。更に、その製造工程中にpH調整等の煩雑な操作を必要とするために、製造効率が悪く、また、原料として高価なアルキルアルコキシシランを使用するため、製造コストも高い。
【0095】
対して、本発明の断熱材は、全炭素濃度の値が一定の範囲内に存在するとともに、その疎水性基の殆どがアルコキシ基であるので、適度な疎水性を有し、水分の過度の吸収を防ぐことができるとともに、周囲に存在する水分が少量であればそれらを吸着して水滴の形成を防ぐことができるため、完全な防湿環境下でなくとも高い断熱性を保つことが可能となり、幅広い用途へ応用できる。また、その製造過程においてpH調整等の煩雑な操作を用いていないことから、製造効率に優れており、製造コストの面でも有利である。
【0096】
本発明の断熱材は、以上の利点を備えていることから、保冷や保温など断熱性が必要な各種の用途に用いることができる。例えば、冷蔵庫、冷凍庫、保冷車、車の天井部、バッテリー、冷凍又は冷蔵船、保温コンテナ、冷凍又は保冷用ショーケース、携帯用クーラー、料理用保温ケース、自動販売機、太陽熱温水器、床暖房、床下、壁又は壁内、天井部屋、屋根裏部屋等の建材、熱水又は冷却水の配管、低温流体を移送する導管その他プラント機器類、衣料、寝具等の断熱材として好適に用いることができる。また、特にシリカは透明度が高いため、例えば建材であればガラスで囲って断熱用窓ガラスとするなど、透明性を生かした用途に用いることもできる。
【0097】
[2.本発明の断熱体]
本発明の断熱材の使用形態は特に制限は無く、上述の用途にそのまま用いても良いが、その用途によっては、本発明の断熱材を外装材で密閉した断熱体(本発明の断熱体)として用いるのも好ましい。
【0098】
外装材は、本発明の断熱材を密閉できるものであれば、特に限定無く様々なものを用いることができるが、特に、外装材で密閉された内部を外気から遮断することが可能なものが好ましい。
【0099】
通常、外装材により断熱材を密閉する場合、断熱材の存在する外装材内部を、通常は減圧状態、好ましくは真空状態として、断熱材であるシリカの空隙の熱伝導度を低下させることが望まれる。
【0100】
ここで、外装材を通して内部に空気等のガスが進入してくると、シリカの空隙の熱伝導度が上昇し、断熱材の断熱性が低下してしまうので、好ましくない。よって、外装材としては、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたものが好ましい。
【0101】
また、外装材を通して内部に水が浸入してくると、断熱材であるシリカが水を吸収して断熱性が低下してしまう虞があるので、やはり好ましくない。よって、外装材は非透湿性を有する非透湿層を備えたものが好ましい。
【0102】
更に、目的とする断熱材の使用環境に応じて、外装材自体も優れた断熱性を有する素材で形成されていることが好ましい。更に、外装材は、筐体のように定形の形状を有するものでもよく、フィルムなど非定型のものであってもよい。
【0103】
好ましい外装材の具体例としては、ステンレススチール、アルミニウム、鉄などの金属の薄板や、アルミニウム箔などの金属箔などのほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂に、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコールフィルムや、アルミ等の金属やシリコンをラミネートしたラミネート材等が挙げられる。また、これらに表面保護層として、外装材の外表面にポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムの延伸加工品などの層を設けたり、ナイロンフィルムなどを設けると可撓性が向上し、耐折り曲げ性などが向上する。
【0104】
外装材により本発明の断熱材を密閉する際には、外装材の種類に応じて各種の手法を用いることができるが、上述の様に、断熱材の内部を減圧状態、好ましくは真空状態としながら密閉することが好ましい。
【0105】
なお、本発明の断熱材に加えて、その他の断熱材料や各種の物質を、一緒に外装材内に密閉しても良い。これらの物質の種類は、断熱材の使用形態及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0106】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0107】
(1)断熱材の製造:
・実施例1:
<加水分解・ゲル化反応>
ガラス製で、上部に大気開放の水冷コンデンサが取り付けてある5Lセバラブルフラスコ(ジャケット付き)に、純水1000gを仕込んだ。攪拌翼先端速度2.5m/sで攪拌しながら、これにテトラメトキシシラン1400gを3分間かけて仕込んだ。用いたテトラメトキシシラン1モルに対する水のモル数(水/テトラメトキシシランのモル比)は6である。セバラブルフラスコのジャケットには50℃の温水を通水した。引き続き攪拌を継続し、内容物が沸点に到達した時点で攪拌を停止した。引き続きジャケットに50℃の温水を0.5時間通水して、生成したゾルをゲル化させた。
【0108】
<粉砕>
ゲル化によって得られたゲルを速やかに取り出し、目開き600ミクロンのナイロン製網を通して粉砕することにより、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。
【0109】
<水熱処理>
このシリカヒドロゲル300gと水500gを、1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、200℃、3時間の密閉系水熱処理を実施した。
【0110】
<親水性有機溶媒との接触処理>
水熱処理によって得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、濾渣に無水メタノール600gを加え、攪拌翼を用いて室温で1時間ゆっくり攪拌した。得られたスラリーをデカンテーションによって固液分離し、分離された固体について、無水メタノール600gを用いて再度、上述と同様の液置換操作を行なった。初回を合わせ、この操作を合計3回行なった後、カールフィッシャー法によりシリカの水分含有率を求めたところ、2重量%以下であった。
【0111】
<アルコールとの熱処理>
親水性有機溶媒での接触処理で得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、得られた濾渣と無水メタノール600gを1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、130℃にて2時間の密閉系熱処理を実施した。熱処理後、得られたシリカを150℃で恒量となるまで減圧乾燥し、実施例1の断熱材とした。
【0112】
・比較例1:
<加水分解・ゲル化反応・粉砕>
実施例1と同様の手法により、加水分解・ゲル化反応及び粉砕を行ない、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。
<水熱処理工程>
このシリカヒドロゲル300gと水450gとを、1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、200℃で、3時間の密閉系水熱処理を実施した。
【0113】
<親水性有機溶媒での接触処理>
水熱処理によって得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、濾渣に無水メタノール400gを加え、攪拌翼を用いて室温で1時間ゆっくり攪拌した。得られたスラリーを濾紙(No.5A)で濾過し、濾渣として得られたシリカを100℃で恒量となるまで減圧乾燥し、比較例1の断熱材とした。
【0114】
(2)断熱材の分析:
実施例1及び比較例1の断熱材(シリカ)について、その諸物性を以下の手法で測定した。
【0115】
(2−1)細孔容積:
カンタクローム社製AS−1を用いて、シリカの窒素吸着等温線を測定し、その細孔容積を求めた。具体的には、相対圧P/P0=0.98のときの値を採用した。
【0116】
(2−2)水分含有率:
赤外水分測定機を用いて、シリカを160℃に昇温し、重量の減少量を測定した。恒量になった状態の重量減少量を減少前の重量で除した値を、シリカの水分含有率とした。
【0117】
(2−3)全炭素濃度:
全炭素測定装置を利用し、1450℃で発生するガス中の炭素量を分析することにより、シリカの全炭素濃度を測定した。
【0118】
(2−4)最頻細孔径:
レーザー式粒度分布測定装置(セイシン企業製LMS−30)を用いて、シリカの最頻細孔径を測定した。
【0119】
(2−5)熱伝導度:
断熱材(シリカ)1000mlを、金属箔層と熱可塑性ポリマー層とを有する容器に入れ、内部を真空100Paに減圧した後、開口部にヒートシールを行ない、断熱体とした。この断熱体の平均温度25℃における熱伝導度を、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製AUTO−∧)を用いて測定した。
【0120】
測定により得られた実施例1及び比較例1の断熱材の諸物性を表−1に示す。
【表1】
【0121】
表−1の結果より、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカからなる実施例1の断熱材は、全炭素濃度及び水分含有率が所定の値よりも高い比較例1の断熱材と比較して、外装材で密閉して断熱体とした場合の熱伝導度が低い。よって、実施例1の断熱材は、断熱性が要求される各種の用途に好適に用いることができるものと考えられる。また、実施例1の断熱材はその製造過程でpH調整等の煩雑な操作を必要としないことから、例えば特許文献1,2等の材料に比べて製造効率が良く、製造コストの面でも有利である。
【0122】
【発明の効果】
本発明によれば、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカを用いることによって、不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示し、高い強度を有し、且つ、比較的簡単な方法で製造可能な、優れた断熱材を提供することができる。また、この断熱材を外装材で密閉して断熱体とすることにより、各種用途に好適に用いることが可能となる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、電化製品や建材などに用いて好適な断熱材及びそれを用いた断熱体に関し、特に、シリカからなる断熱材と、それを外装材で密閉してなる断熱体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、居住環境の保冷や保温、及び、冷却や暖房のための機器などにおいて熱を効率的に利用するための断熱材の開発が行なわれてきた。また、近年ではノート型コンピュータやいわゆる情報家電など、内部に情報処理装置を備えた電化製品が多数提供されるようになったが、これらの機器は内部からの熱が外部に出ないようにしたり、また、外部の熱が内部の情報処理装置に悪影響を及ぼさないようにしたりする必要があるため、断熱材を使用する必要がある。このように、断熱材を使用する機会はますます多くなってきており、このため、優れた断熱材を開発するための研究が行なわれ、さまざまな断熱材が提案されている。
【0003】
特に、シリカは熱伝導度が低い上に、多孔体として構成できるため、高い断熱性を発揮することが可能であり、断熱材として非常に注目されている。
【0004】
シリカを用いた断熱材の具体例として、特許文献1には、水ガラスを原料としてゾルゲル法によりシリカヒドロゲルを製造し、このシリカヒドロゲルを乾燥させることによりシリカのエアロゲルを製造して、このエアロゲルを断熱材として用いることが提案されている。また、特許文献2には、原料として各種のアルコキシシランを用いて同様の手法でエアロゲルを作成することにより、疎水性が高く断熱性に優れた材料が得られる旨が記載されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−174140号公報
【特許文献2】
特開平6−191822号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の特許文献1及び特許文献2に記載の技術を始め、従来の技術では、未だ満足のゆくレベルの断熱性を備えた断熱材は提供されていなかった。特に、特許文献2の材料は、完全な防湿環境下で使用した場合には優れた断熱性が得られるものの、防湿が十分でないと断熱性が低下してしまう上に、強度が弱いという課題があり、その用途が限られていた。また、特許文献1及び特許文献2の何れの材料も、その製造工程中にpH調整等の煩雑な操作を必要とするために、製造効率が悪く、製造コストも高かった。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みたものであり、不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示し、高い強度を有し、且つ、比較的簡単な方法により製造可能な、優れた断熱材及びそれを用いた断熱体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカが、高い強度を有する上に、比較的簡単な方法で製造可能であり、且つ、断熱材として使用した場合に、不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示すことから、上記課題を効果的に解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下
(2)該シリカの(Si−O−H)結合に対する(Si−O−C)結合のモル比が、0.03以上であることを特徴とする、(1)の断熱材。
(3)該シリカの全空隙の容積と前記細孔容積との比(細孔容積/全空隙容積)が20%以上であることを特徴とする、(1)又は(2)の断熱材。
(4)該シリカの最頻細孔径Dmaxが、5nm以上であることを特徴とする、(1)〜(3)の何れかの断熱材。
(5)該シリカの全空隙率が、80%以上であることを特徴とする、(1)〜(4)の何れかの断熱材。
(6)固体Si−NMRにより測定した該シリカのQ4/Q3値が、1.2以上であることを特徴とする、(1)〜(5)の何れかの断熱材。
(7)該シリカが、非晶質であることを特徴とする、(1)〜(6)の何れかの断熱材。
(8)該シリカの有する細孔のうち、細孔径が最頻細孔径Dmaxの±20%の範囲に存在する細孔の容積が、全細孔の容積の50%以上であることを特徴とする、(1)〜(7)の何れかの断熱材。
(9)シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程と、該加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程と、該物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整する水分除去工程と、該水分除去工程により得られたシリカスラリーをアルコキシ化するアルコキシ化工程と、該アルコキシ化工程後のシリカスラリーを乾燥する乾燥工程とを備えた方法により製造されたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
(10)該アルコキシ化工程において、該シリカスラリーをアルコールの存在下で熱処理することにより、シリカスラリーをアルコキシ化することを特徴とする、(9)の断熱材。
(11)(1)〜(10)の何れかの断熱材を外装材で密閉してなることを特徴とする、断熱体。
(12)該外装材が、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたことを特徴とする、(11)の断熱体。
(13)該外装材が、非透湿性を有する非透湿層を備えたことを特徴とする、(11)又は(12)の断熱体。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨内において、変形して実施することも可能である。
【0011】
[1.本発明の断熱材]
本発明の断熱材は、以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下
【0012】
[1−1.本発明のシリカの物性]
以下、本発明の断熱材に用いられるシリカ(以下適宜、「本発明のシリカ」という)について説明する。
なお、本発明において「シリカ」とは含水ケイ酸のことを指す。含水ケイ酸は、SiO2・nH2O(nは0より大きい数を表わす)の示性式で表される。
【0013】
本発明のシリカは、細孔容積が通常の値よりも大きい範囲に存在することを特徴とする。具体的には、窒素ガス吸・脱着法で測定した細孔容積の値が、通常1.6ml/g以上、好ましくは1.8ml/g以上、より好ましくは2.0ml/g以上である。シリカの多孔構造において、その細孔により形成される空隙は、シリカのマトリックスと比べて断熱性が低い(常圧・空気存在下はもとより、減圧下や真空中では、その断熱性の差は更に大きくなる)。従って、細孔容積が大きな値を取るほど、シリカ中における空隙の割合が高まり、シリカの断熱性が向上する。但し、細孔容積があまりに大きいと、シリカの強度を保つことが困難となり、断熱材としての実用性が却って低下してしまうので、細孔容積の上限は通常3.4ml/g以下、好ましくは3.2ml/g以下、より好ましくは3.0ml/g以下である。なお、シリカの細孔容積は、吸着等温線の相対圧0.98における窒素ガスの吸着量から求めることができる。
【0014】
また、本発明のシリカは、その水分含有率が通常よりも低いことを特徴とする。シリカは吸湿性が比較的高く、大気中に保存すると水分を吸収して断熱性能が悪化する。本発明では、水分含有率を十分に低い値、具体的には通常15重量%以下に抑えることによって、高い断熱性能を達成している。中でも、好ましくは14重量%以下、より好ましくは12重量%以下である。水分含有率がこの範囲よりも高いと、水分の熱伝導性によってシリカの断熱性が悪化してしまう。一方、下限は特に制限はない。なお、シリカの水分含有率は、例えば赤外水分測定機を用いて求めることができる。
【0015】
更に、本発明のシリカは、その全炭素濃度に関しても特徴を有する。全炭素濃度はシリカの疎水化の程度を反映するパラメータであって、一般にシリカの全炭素濃度の値が高いほど、シリカの骨格中における水酸基等の親水性基に対するアルキル基やアルコキシ基等の疎水性基の比率が高くなり、牽いてはシリカ全体の疎水性も向上する傾向がある。本発明では、シリカの全炭素濃度の値が所定の範囲内に存在すること、即ち、シリカが適度に疎水化されていることが好ましい。具体的には、全炭素濃度の値が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは2重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは14重量%以下、より好ましくは13重量%以下である。全炭素濃度がこの範囲よりも低いと、水を過剰に吸収してしまい、水の熱伝導性によってシリカの断熱性が悪化してしまう。その一方で、全炭素濃度がこの範囲よりも高いと、熱伝導性の高い水分子が移動し易くなるために、却って断熱性の低下を招いてしまう。また、有機物によって細孔内が占領されてしまうため、シリカの3次元骨格の結合数が少なくなってシリカの構造が脆弱化し、断熱材としての強度が充分に得られない虞がある。本発明では、全炭素濃度の値を適切な範囲内とすることによって、水の過度の吸収を防ぐとともに、周囲に存在する水分子が少量であればそれらを吸着してその移動を防ぐことにより、完全な防湿環境下でなくとも高い断熱性を保つことができる。更に、シリカの3次元骨格中に十分な数の結合を確保して、シリカの構造の強度を保つことにより、各種用途への使用を可能としているのである。なお、シリカの全炭素濃度は、例えば全炭素測定装置を用いて求めることができる。
【0016】
なお、シリカによる水の吸収を効率的に抑えるために、後述するシリカの製造工程において、シリカの骨格中に疎水性基(アルコキシ基やアルキル基等)を導入することにより、シリカを疎水化することが好ましい。シリカ中に疎水性基を導入した場合、得られるシリカの全炭素濃度の下限値は、上述した値よりも通常は高い値となる。具体的には、全炭素濃度の値は通常5重量%以上、好ましくは5.5重量%以上、より好ましくは6重量%以上となる。一般に、全炭素濃度がこの範囲よりも低いと、疎水化による水吸収の抑制効果が十分に得られない虞がある。
【0017】
但し、周囲の水分子と接触するシリカの三次元構造体の表面のみに選択的に疎水性基を導入すれば、効率的に水の吸収が抑制されるので、全炭素濃度がより低い値であってもより確実に効果を得ることができる。シリカの三次元構造体の表面に疎水性基が局在している場合、シリカの全炭素濃度の具体的な下限値は通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。なお、シリカの三次元構造体の表面に疎水性基を局在させる手法としては、後述するシリカの製造工程において、原料としてシリコンアルコキシドとアルキルアルコキシシランを併用する手法が挙げられる。
【0018】
なお、シリカ中における疎水性基の分布(シリカの三次元構造体の表面に局在しているか否か)は、例えば、ベンゼン等の有機化合物の吸着等温線を測定し、これを比較することにより調べることができる。同濃度の疎水性基が導入されたシリカについて、有機化合物の吸着量とを縦軸に、圧力を横軸にとって吸着等温線を作成し、これを比較した場合、シリカの三次元構造体の表面に疎水性基が局在しているほど傾きの大きな曲線が得られる(即ち、有機化合物の吸着量が総じて高い値を示す)ことが知られているので、これを利用して判断すればよい。
【0019】
加えて、本発明のシリカは、シリカの骨格中に疎水性基としてアルキル基ではなくアルコキシ基を高い比率で有していることが好ましい。シリカ骨格中にアルコキシ基が存在することによって、その一部が周囲の水分子と反応して水酸基とアルコールとを生じるため、シリカに適度な水分吸着性を与えることが可能となる。水分子の代わりにアルコール分子が発生するものの、一般に分子量が大きい分子ほど熱伝導性が低いことから、アルコール分子は水分子よりも熱伝導性が低く、シリカ全体としての断熱性は向上する。よって、結果として不完全な防湿環境下でも高い断熱性を保つことができる。具体的には、シリカ骨格中のケイ素とアルコキシ基との結合(Si−O−C)と、同じくケイ素と水酸基との結合(Si−O−H)との存在比率を表わす値である、(Si−O−C)結合/(Si−O−H)結合のモル比が、通常0.03以上、好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。なお、上限は特に制限はない。なお、シリカの(Si−O−C)結合/(Si−O−H)結合のモル比は、例えば赤外分光分析法と全炭素測定装置を用いて求めることができる。
【0020】
なお、上述したシリカの全炭素濃度の好ましい範囲は、詳細には、シリカの骨格中に存在するアルコキシ基の種類によっても左右される。疎水化の程度が同程度であっても、炭素数の高いアルコキシ基によって疎水化されている場合は、炭素数の低いアルコキシ基によって疎水化されている場合と比較して、シリカの全炭素濃度は高い値となる。具体例として、シリカが有するアルコキシ基が全てメトキシ基(炭素数1)の場合、全炭素濃度の値は通常5重量%以上、好ましくは5.5重量%以上、より好ましくは6重量%以上、また、通常12重量%以下、好ましくは11.5重量%以下、より好ましくは11重量%以下である。一方、シリカが有するアルコキシ基が全てエトキシ基(炭素数2)の場合、全炭素濃度の値は通常7重量%以上、好ましくは7.5重量%以上、より好ましくは8重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは14.5重量%以下、より好ましくは14重量%以下である。シリカがメトキシ基とエトキシ基とを併せ持っている場合には、全炭素濃度はこれらの間の範囲となる。
【0021】
上述の特徴に加えて、本発明のシリカは、窒素ガス吸脱着法で測定した等温脱着曲線から、E.P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73,373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線、即ち、細孔径d(nm)に対して微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd);Vは窒素ガス吸着容積)をプロットした図上での最頻細孔径(Dmax)が、50nm以下であることが好ましい。詳しくは、最頻細孔径(Dmax)は通常5nm以上、50nm以下、好ましくは30nm以下である。最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも小さいと、シリカ中における空隙の割合が低くなり、シリカの断熱性が低下してしまう。一方、最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも大きいと、シリカの強度を保つことが困難となり、断熱材としての実用性が却って低下してしまう。
【0022】
かかる特徴に関連して、本発明のシリカは、上記のBJH法により算出された最頻細孔径(Dmax)における微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が、通常2ml/g以上、中でも3ml/g以上、特に5ml/g以上であることが好ましく、通常40ml/g以下、中でも30ml/g以下、特に25ml/g以下であることが好ましい(なお、上式において、dは細孔径(nm)であり、Vは窒素ガス吸着容積である)。微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が前記範囲に含まれるものは、最頻細孔径(Dmax)の付近に揃っている細孔の絶対量が極めて多いものと言える。
【0023】
また、本発明のシリカの全空隙率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、また、通常99.5%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは98%以下である。ここで「全空隙率」とは、シリカの占める全体積に対する、シリカの粒子内の細孔容積と粒子間の空隙の容積とを合わせた全空隙の容積の比率をいう。全空隙率がこの範囲よりも小さいと、シリカの断熱性が低くなってしまう一方で、この範囲よりも大きいと断熱材としての強度が充分に得られない虞がある。なお、シリカの全空隙率は、シリカのかさ密度を測定し、以下の式によって算出することができる。シリカのかさ密度は、例えばJISK6721等の手法により測定できる。また、シリカの粒子密度は2.0g/cm3である。
全空隙率=1−(かさ密度)/(シリカの粒子密度)
【0024】
加えて、本発明のシリカは、これを構成するシリカの構造に歪みが少ないことが好ましい。ここで、シリカの構造的な歪みは、固体Si−NMR測定におけるQ4ピークのケミカルシフトの値によって表わすことができる。以下、シリカの構造的な歪みと、前記のQ4ピークのケミカルシフトの値との関連について、詳しく説明する。
【0025】
本発明のシリカは、ケイ酸の水和物であり、SiO2・nH2Oの示性式で表されるが、構造的には、Siの四面体の各頂点にOが結合され、これらのOに更にSiが結合してネット状に広がった構造を有する。そして、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、Oの一部が他の成員(例えば上述のアルコキシ基、水酸基や、−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのSiに注目した場合、下記式(A)に示す様に4個の−OSiを有するSi(Q4)、下記式(B)に示す様に3個の−OSiを有するSi(Q3)等が存在する(下記式(A)及び(B)では、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を平面的に表わしている)。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各Siに基づくピークは、順にQ4ピーク、Q3ピーク、・・と呼ばれる。
【0026】
【化1】
【0027】
本発明のシリカが有する高い耐水性及び耐熱性と、上記の様な構造的歪みの関係については、必ずしも明らかではないが、次の様に推定される。すなわち、シリカは大きさの異なる球状粒子の集合体で構成されているが、上記の様な構造的に歪みの少ない状態においては、球状粒子全体のミクロ構造的な高度の均質性が維持されるので、その結果、高い耐熱性が発現されるものと考えられる。なお、Q3以下のピークは、Si−Oのネット構造の広がりに制限があるため、シリカの構造的な歪みが現れ難い。
【0028】
更に、上記の特徴に関連して、本発明のシリカは、固体Si−NMR測定によるQ4/Q3の値が、通常1.2以上、中でも1.4以上であることが好ましい。ここで、Q4/Q3の値とは、上述したシリカの繰り返し単位の中で、−OSiが3個結合したSi(Q3)に対する−OSiが4個結合したSi(Q4)のモル比を意味する。なお、上限値は特に制限されないが、通常は10以下である。一般にこの値が高い程、シリカの熱安定性が高いことが知られており、ここから本発明のシリカが熱安定性についても極めて優れていることが判る。
【0029】
なお、Q4/Q3の値は、固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0030】
また、本発明のシリカは、以上の細孔構造の特徴に加えて、その三次元構造を見るに、非晶質であること、即ち、結晶性構造が認められないことが好ましい。このことは、本発明のシリカをX線回折で分析した場合に、結晶性ピークが実質的に認められないことを意味する。なお、本明細書において非晶質でないシリカとは、X線回折パターンで6オングストローム(Å Units d−spacing)を越えた位置に、少なくとも一つの結晶構造のピークを示すものを指す。非晶質のシリカは、結晶性のシリカに較べて断熱性が高いことに加え、極めて生産性に優れている。非晶質のシリカとしては、例えばシリカゲルが挙げられる。
【0031】
加えて、本発明のシリカは、上記の最頻細孔径(Dmax)の値の±20%の範囲にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の通常50%以上、中でも60%以上、更には70%以上であることが好ましい。このことは、本発明のシリカが有する細孔の直径が、最頻細孔径(Dmax)付近の細孔で揃っていること、つまり細孔径の分布が極めて狭い(シャープである)ことを意味する。細孔径の分布が小さいほど、シリカの構造が均一となり、断熱材の構造中に強度のバラツキが生じないため、全体的に強度の高い断熱材を得ることができる。なお、この比の値の上限は特に制限されないが、通常は90%以下である。
【0032】
[1−2.本発明のシリカの製法]
本発明のシリカの製造方法は、上述した物性を有するシリカを製造することができる方法であれば特に制限はないが、特に、シリコンアルコキシドを加水分解する工程(加水分解・縮合工程)と、加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する工程(物性調節工程)と、物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下とする工程(水分除去工程)と、水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する工程(乾燥工程)とを有する方法により製造することが好ましい。
【0033】
上記の製造方法は、具体的には、シリコンアルコキシドを加水分解し、得られたシリカヒドロゲルを、好ましくは実質的に熟成することなしに水熱処理し、次いで水分除去工程として親水性有機溶媒と接触させ、シリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整した上で、乾燥させてシリカ中の水分を除去することを特徴とする。
【0034】
なお、上述したシリカの製造方法の何れかの段階で、シリカを疎水化するための操作を加えても良い。上述の様に、本発明では疎水性基としてアルコキシ基を導入することが好ましいことから、以下の説明では、水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する前に、シリカ中の水酸基をアルコキシ化する工程(アルコキシ化工程)を加えた場合について説明する。勿論、疎水化の有無やその種類は任意であるから、アルコキシ化以外の公知の疎水化手法(例えば、シリカの三次元構造体の表面に疎水性基を局在させたい場合には、原料としてシリコンアルコキシドとアルキルアルコキシシランを併用する手法など)を施すことも可能であるし、疎水化処理を省略して、水分除去工程により得られたシリカスラリーをそのまま乾燥工程に供しても良い。また、複数種の疎水化手法を併用(例えば、アルキルアルコキシシランを用いる手法とアルコキシ化工程とを併用)しても良い。
【0035】
[1−2−1.加水分解・縮合工程]
加水分解・縮合工程においては、シリコンアルコキシドを加水分解してシリカヒドロゲルを得る。得られるシリカヒドロゲルは、その原料であるシリコンアルコキシドの高純度化が可能であり、シリカヒドロゲルへの不純物の混入を容易に防止できるので好ましい。
【0036】
本発明のシリカの原料として使用されるシリコンアルコキシドとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリ又はテトラアルコキシシラン或いはそれらのオリゴマーが挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びそれらのオリゴマー、特にテトラメトキシシランやそのオリゴマーを用いると、良好な細孔物性を有するシリカが得られるので好ましい。その主な理由としては、シリコンアルコキシドは蒸留により容易に精製し、高純度品が得られるので、高純度のシリカの原料として好適であることが挙げられる。シリコンアルコキシド中の金属(金属不純物)の総含有率は、通常100ppm以下、中でも50ppm以下、更には10ppm以下、特に1ppm以下が好ましい。これらの金属不純物の含有率は、一般的なシリカ中の不純物含有率の測定法と同じ方法で測定できる。
【0037】
本発明では、先ず、加水分解・縮合工程において、触媒の不存在下にシリコンアルコキシドを加水分解すると共に得られたシリカヒドロゾルを縮合してシリカヒドロゲルを形成する。
【0038】
シリコンアルコキシドの加水分解は、シリコンアルコキシド1モルに対して、通常2モル倍以上、好ましくは3モル倍以上、特に好ましくは4モル倍以上、また、通常20モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、特に好ましくは8モル倍以下の水を用いて行なう。シリコンアルコキシドの加水分解により、シリカのヒドロゲルとアルコールとが生成し、生成したシリカヒドロゾルは逐次縮合してシリカヒドロゲルとなる。
【0039】
加水分解時の温度は、通常室温以上、100℃以下であるが、加圧下で液相を維持することで、より高い温度で行なうことも可能である。加水分解に要する反応時間は反応液組成(シリコンアルコキシドの種類や、水とのモル比)並びに反応温度に依存し、ゲル化するまでの時間が異なるので、一概には規定されない。この反応時間は、本発明のシリカのように細孔物性に優れたシリカを得る為には、ヒドロゲルの破壊応力が6MPaを越えない時間であることが好ましい。
【0040】
なお、この加水分解反応系に、触媒として、酸、アルカリ、塩類などを添加することで加水分解を促進させることができる。しかしながら、かかる添加物の使用は、後述のように、生成したヒドロゲルの熟成を引き起こす虞があるため、本発明のシリカゲルの製造においてはあまり好ましいことではない。
【0041】
上述したシリコンアルコキシドの加水分解に際しては、攪拌を充分に行なうことが重要となる。例えば、回転軸に攪拌翼を備えた攪拌装置を用いた場合、その攪拌速度(回転軸の回転数)としては、攪拌翼の形状・枚数・液との接触面積等にもよるが、通常は30rpm以上、好ましくは50rpm以上である。
【0042】
また、この攪拌速度は、一般的に速過ぎると、槽内で生じた飛沫が各種のガスラインを閉塞させたり、また反応器内壁に付着して熱伝導を悪化させ、物性制御に重要な温度管理に影響を及ぼしたりする場合がある。更に、この内壁の付着物が剥離し、製品に混入して品質を悪化させる場合もある。この様な理由から、攪拌速度は2000rpm以下、中でも1000rpm以下が好ましい。
【0043】
本発明に於いて、分液している二液相(水相、及びシリコンアルコキシド相)の攪拌方法は、反応を促進させる方法であれば任意の攪拌方法を用いることが出来る。中でも、この二液相をより混合させるような装置としては、例えば以下の▲1▼、▲2▼が挙げられる。
【0044】
▲1▼:回転軸が液面に対し垂直又は僅かに角度を持って挿入され、上下に液の流動が生じる攪拌翼を有する装置。
▲2▼:回転軸方向を二液相の界面と略平行に設け、二液相間に攪拌を生じさせる攪拌翼を有する攪拌装置。
【0045】
上述した▲1▼、▲2▼の様な装置を用いた際の攪拌翼の回転速度は、攪拌翼の周速度(攪拌翼先端速度)で、0.05〜10m/s、中でも0.1〜5m/s、更には0.1〜3m/sであることが好ましい。
【0046】
攪拌翼の形状や長さ等は任意であり、攪拌翼としては例えばプロペラ型、平羽根型、角度付平羽根型、ピッチ付平羽根型、平羽根ディスクタービン型、湾曲羽根型、ファウドラー型、ブルマージン型等が挙げられる。
【0047】
翼の幅、枚数、傾斜角等は反応器の形状、大きさ、目的とする攪拌動力に応じて適宜選定すればよい。たとえば反応器の槽内径(回転軸方向に対して垂直面を形成する液相面の最長径)に対する翼幅(回転軸方向の翼の長さ)の比率(b/D)は0.05〜0.2、傾斜角(θ)90゜±10゜、翼枚数3〜10枚の攪拌装置が好適な例として挙げられる。
【0048】
中でも、上述の回転軸を反応容器内の液面よりも上に設け、この回転軸から伸ばした軸の先端部分に攪拌翼を設ける構造が、攪拌効率及び設備メンテナンスの観点から好適に使用される。
【0049】
上記のシリコンアルコキシドの加水分解反応では、シリコンアルコキシドが加水分解してシリカヒドロゾルが生成するが、引き続いて該シリカヒドロゾルの縮合反応が起こり、反応液の粘度が上昇し、最終的にゲル化してシリカヒドロゲルとなる。
【0050】
[1−2−2.物性調節工程]
次いで、本発明では、物性調節工程として、実質的に熟成することなく、シリカヒドロゲルの水熱処理を行なう。シリコンアルコキシドを加水分解すると、軟弱なシリカヒドロゲルが生成する。なお、このヒドロゲルの物性を安定させるべく、熟成、或いは乾燥させ、次いで水熱処理を施すという、従来行なわれているような方法では、本発明のシリカを製造することは困難である。
【0051】
上記のように、加水分解により生成したシリカヒドロゲルを、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうということは、シリカヒドロゲルが生成した直後の軟弱な状態が維持されたままで、次の水熱処理に供するようにするということを意味する。
【0052】
具体的には、シリカヒドロゲルが生成した時点から、一般的には10時間以内に水熱処理することが好ましく、中でも8時間以内、更には6時間以内、特に4時間以内にシリカヒドロゲルを水熱処理することが好ましい。
【0053】
また、工業用プラント等に於いては、大量に生成したシリカヒドロゲルを一旦サイロ等に貯蔵し、その後水熱処理を行なう場合が考えられる。この様な場合、シリカヒドロゲルは、シリカヒドロゲルが生成してから水熱処理に供されるまでの時間、いわゆる放置時間が、上述の範囲を超える場合が考えられる。この様な場合には、熟成が実質的に生じないように、サイロ内での静置中に、例えばシリカヒドロゲル中の液体成分が乾燥しないようにすればよい。
【0054】
具体的には、例えば、サイロ内を密閉したり、湿度を調節したりすればよい。また、水やその他の溶媒にシリカヒドロゲルを浸した状態で、シリカヒドロゲルを静置してもよい。
【0055】
静置の際の温度は、できるだけ低くすることが好ましく、例えば50℃以下、中でも35℃以下、特に30℃以下で静置することが好ましい。また、熟成が実質的に生じないようにする別の方法としては、シリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御してシリカヒドロゲルを調製する方法が挙げられる。
【0056】
シリカヒドロゲルを実質的に熟成せずに水熱処理することにより奏する効果と、この効果が得られる理由を考察すると、以下のことが考えられる。
【0057】
まず、シリカヒドロゲルを熟成させると、−Si−O−Si−結合によるマクロ的網目構造が、シリカヒドロゲル全体に形成されると考えられる。この網目構造がシリカヒドロゲル全体に有ることで、水熱処理の際、この網目構造が障害となり、メソポーラスの形成が困難となることが考えられる。またシリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御して得られたシリカヒドロゲルは、静置中に生ずるシリカヒドロゲルにおける架橋の進行を抑制できる。その為、シリカヒドロゲルが熟成しないと考える。
【0058】
よって、本発明では、シリカヒドロゲルを熟成することなく、水熱処理を行なうことが重要である。
【0059】
シリコンアルコキシドの加水分解反応系に酸、アルカリ、塩類等を添加すること、又は該加水分解反応の温度を厳しくし過ぎることなどは、ヒドロゲルの熟成を進行させるという点からも好ましくない。また、加水分解後の後処理における水洗、乾燥、放置などにおいて、必要以上に温度や時間をかけるべきではない。
【0060】
更に、シリコンアルコキシドの加水分解で得られたシリカヒドロゲルは、水熱処理を行なう前に、これを平均粒径10mm以下、中でも5mm以下、更には1mm以下、特に0.5mm以下となるよう、粉砕処理等を施すことが好ましい。
【0061】
上述の通り、本発明のシリカの製造方法としては、シリカヒドロゲルの生成の直後に、直ちにこれを水熱処理する方法が重要である。但し、この製造方法に於いては、水熱処理するシリカヒドロゲルが熟成していなければよいので、例えば暫時低温下で静置した後に水熱処理するなど、必ずしもシリカヒドロゲルの生成直後、直ちにこれを水熱処理することを必要としない。
【0062】
このように、シリカヒドロゲルの生成の直後、直ちにこれを水熱処理しない場合には、例えばシリカヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認してから水熱処理を行なえばよい。ヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認する手段は任意であるが、例えば、測定したヒドロゲルの硬度を参考にする方法が挙げられる。即ち、先述したとおり、この破壊応力が通常6MPa以下の柔らかい状態のヒドロゲルを水熱処理することで、本発明で規定する物性範囲のシリカを得ることができる。この破壊応力は、中でも3MPa以下であることが好ましく、特に2MPa以下であることが好ましい。
【0063】
この水熱処理の条件としては、水の状態が液体、気体の何れでもよいが、中でも、液体の水を使い、シリカヒドロゲルに加えてスラリー状として、水熱処理を行なうことが好ましい。水熱処理においては、まず、処理するシリカヒドロゲルに、シリカヒドロゲルの重量に対して通常0.1重量倍以上、好ましくは0.5重量倍以上、特に好ましくは1重量倍以上、また、通常10重量倍以下、好ましくは5重量倍以下、特に好ましくは3重量倍以下の水を加えてスラリー状とする。そしてこのスラリーを、通常40℃以上、好ましくは100℃以上、中でも好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の温度で、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは10時間以下にわたって、水熱処理を行なう。水熱処理の温度が低過ぎると、細孔分布がシャープになり難く、また、細孔容積を大きくすることも困難となる場合がある。
【0064】
なお、水熱処理に使用される水には、溶媒が含まれていてもよい。溶媒として、具体的には、例えば、低級アルコール類であるメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。この溶媒は、例えばアルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、その原料であるアルコキシシランに由来するアルコール類であってもよい。
【0065】
熱処理に用いる水における、この様な溶媒の含有率は任意だが、少ない方が好ましい。例えば、上述した様な、アルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、このシリカヒドロゲルを水洗し、水洗されたものを水熱反応に供することにより、150℃程度まで温度を下げて水熱処理を行なった場合でも、細孔物性に優れ且つ細孔容積の大きいシリカを製造することが出来る。また、溶媒を含んでいる水で水熱処理を行なっても、200℃程度の温度での水熱処理を行なうことで、本発明のシリカを容易に得ることが出来る。
【0066】
なお、加水分解反応の反応器を用い、続けて温度条件変更により水熱処理を行なうことも可能であるが、加水分解反応とその後の水熱処理では最適条件が通常は異なっているため、この様に水を新たに加えないで行なう方法では、本発明のシリカを得ることは一般的には難しい。
【0067】
以上の水熱処理の条件において、温度を高くすると、得られるシリカの径、細孔容積が大きくなる傾向がある。水熱処理温度としては、100〜200℃の範囲であることが好ましい。また、処理時間とともに、得られるシリカの比表面積は、一度極大に達した後、緩やかに減少する傾向がある。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択する必要があるが、水熱処理は、シリカの物性を変化させる目的なので、通常、前記の加水分解の反応条件より高温条件とすることが好ましい。
【0068】
なお、ミクロ構造的な均質性に優れる本発明のシリカを製造するためには、水熱処理の際に、反応系内の温度が5時間以内に目的温度に達する様に、速い昇温速度条件とすることが好ましい。具体的には、槽に充填して処理される場合、昇温開始から目標温度到達までの平均昇温速度として、通常0.1℃/min以上、中でも0.2℃/min以上、また、通常100℃/min以下、中でも30℃/min以下、特に10℃/min以下の範囲の値を採用するのが好ましい。
【0069】
熱交換器などを利用した昇温方法や、あらかじめ作っておいた熱水を仕込む昇温方法なども、昇温速度を短縮することができて好ましい。また、昇温速度が上記範囲であれば、段階的に昇温を行なってもよい。反応系内の温度が目的温度に達するまでに長時間を要した場合には、昇温中にシリカヒドロゲルの熟成が進み、ミクロ構造的な均質性が低下する恐れがある。
【0070】
上記の目的温度に達するまでの昇温時間は、好ましくは4時間以内、更に好ましくは3時間以内である。昇温時間の短縮化のため、水熱処理に使用する水を予熱することもできる。
【0071】
水熱処理の温度、時間を上記範囲外に設定すると、本発明のシリカを得ることが困難となる。例えば、水熱処理の温度が高過ぎると、シリカの細孔径、細孔容積が大きくなりすぎ、また、細孔分布も広がる。逆に、水熱処理の温度が低過ぎると、生成するシリカは、架橋度が低く、熱安定性に乏しくなり、細孔分布にピークが発現しなくなったり、前述した固体Si−NMRにおけるQ4/Q3値が極端に小さくなったりする。
【0072】
なお、水熱処理をアンモニア水中で行なうと、純水中で行なう場合よりも低温で同様の効果が得られる。また、アンモニア水中で水熱処理すると、アンモニアを含まない水を用いた水熱処理と比較して、最終的に得られるシリカは一般に疎水性となる。この際、水熱処理の温度を30℃以上、好ましくは40℃以上、また、250℃以下、好ましくは200℃以下という比較的高温とすると、特に疎水性が高くなる。ここでのアンモニア水のアンモニア濃度としては、好ましくは0.001%以上、特に好ましくは0.005%以上、また、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%である。
【0073】
[1−2−3.水分除去工程]
上述した水熱処理を経て得られたシリカには、多量の水が含まれている。例えば、水熱処理後のシリカは、多量の水を含むシリカ(例えばシリカスラリー)として得られる。本発明のシリカの製造方法においては、この水を除去することが重要である。具体的には、このシリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させ、水を親水性溶媒で置換し、次いでシリカを乾燥するという操作が最も重要である。
【0074】
本発明に於いては、シリカに含まれる水を親水性有機溶媒と置換し、乾燥することによって、乾燥工程に於けるシリカの収縮を抑制し、シリカの細孔容積を大きく維持でき、細孔物性に優れ、且つ細孔容積の大きいシリカを得ることが出来るのである。この理由は定かではないが、以下のような現象によるものと考えられる。
【0075】
水熱処理後のシリカスラリー中の液体成分の多くは水である。この水は、シリカと互いに強く相互作用しあっている為に、シリカから完全に水を除去するには大きなエネルギーが必要と考える。
【0076】
多量の水分が存在する条件下で乾燥過程(例えば加熱乾燥)を行なうと、熱エネルギーを受けた水が未反応のシラノール基と反応し、シリカの構造が変化する。この構造変化のうち最も顕著な変化はシリカ骨格の縮合であり、縮合によってシリカが局所的に高密度化することが考えられる。シリカ骨格は3次元的構造を有するので、骨格の局所的な縮合(シリカ骨格の高密度化)はシリカ骨格により構成されているシリカ粒子全体の細孔物性に影響を及ぼし、結果的に粒子が収縮して、細孔容積や細孔径が収縮すると考えられる。
【0077】
そこで、例えばシリカスラリー中の(水を多量に含む)液体成分を親水性有機溶媒で置換することで、このシリカスラリー中の水を除去し、上述したようなシリカの収縮を抑えることが可能となる。
【0078】
本発明で用いる親水性有機溶媒とは、上述した考えに基づき、水を多く溶かすものであればよい。中でも、分子内分極の大きいものが好ましい。更に好ましくは、比誘電率が15以上のものがよい。
【0079】
本発明のシリカの製造方法に於いては、純度の高いシリカを得るために、親水性有機溶媒にて水を除去した後の乾燥工程で、この親水性有機溶媒を除去する必要がある。よって、親水性有機溶媒としては、乾燥(例えば加熱乾燥や真空・減圧乾燥等)により容易に除去可能な低沸点のものが好ましい。親水性有機溶媒の沸点としては、150℃以下、中でも120℃以下、特に100℃以下のものが好ましい。
【0080】
具体的な親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、アルデヒド類、エーテル類等が挙げられる。中でも、アルコール類やケトン類が好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類やアセトンが好ましい。本発明では、これら例示の親水性有機溶媒のうち、一種を単独で使用しても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び任意の割合で混合して使用してもよい。
【0081】
なお、水の除去が可能であれば、使用する親水性有機溶媒中に水が含まれていてもよい。もっとも、親水性有機溶媒における水分含有率は当然少ない方が好ましく、通常20%以下、中でも15%以下、更には10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0082】
本発明に於いて、上述の親水性有機溶媒による置換処理時の温度及び圧力は任意である。処理温度は、通常0℃以上、中でも10℃以上、通常100℃以下、中でも60℃以下とすることが好ましい。処理時の圧力は常圧、加圧、減圧の何れでもよい。
【0083】
シリカスラリーと接触させる親水性有機溶媒の量は任意である。但し、用いる親水性有機溶媒の量が少な過ぎると水との置換進行速度が充分でなく、逆に多過ぎると水との置換効率は高まるが、親水性有機溶媒の使用量増加に見合う効果が頭打ちとなり、経済的に好ましくない。よって、用いる親水性有機溶媒の量は、シリカの嵩体積に対して通常0.5〜10容量倍である。この親水性有機溶媒による置換操作は、複数回繰り返して行なうと、水の置換がより確実となるので好ましい。
【0084】
親水性有機溶媒とシリカスラリーとの接触方法は任意であり、例えば攪拌槽でシリカスラリーを攪拌しながら親水性有機溶媒を添加する方法や、シリカスラリーから濾別したシリカを充填塔に詰めて、この充填塔に親水性有機溶媒を通液する方法、また、親水性有機溶媒中にシリカを入れて浸漬し、静置する方法などが挙げられる。
【0085】
親水性有機溶媒による置換操作の終了は、シリカスラリーの液体成分中の水分測定を行なって決定すればよい。例えば、定期的にシリカスラリーをサンプリングして水分測定を行ない、水分含有率が通常5%以下、好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下となった点を終点とすればよい。水分の測定方法は任意であり、例えばカールフィッシャー法が挙げられる。
【0086】
[1−2−4.アルコキシ化工程]
親水性有機溶媒による置換操作の後、シリカと親水性有機溶媒とを分離し、続いてシリカ中の水酸基をアルコキシ化する操作を行なう。
シリカの分離法としては、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカ粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、また二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
分離したシリカのアルコキシ化の手法は特に制限されず、目的とするアルコキシ基の種類に応じて適切な手法を選択すればよいが、具体例としては、親水性有機溶媒と分離したシリカにアルコールを加えて熱処理する方法が挙げられる。
【0087】
アルコールの種類は、目的とするアルコキシ基の種類に応じて、メタノール、エタノールなど、適切なものを適宜選択すれば良い。また、単一のアルコールのみならず、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0088】
熱処理の温度及び時間は、選択するアルコールの種類によっても異なるが、最終的に得られるシリカの全炭素濃度及び(Si−O−C)結合/(Si−O−H)結合の比率が上記規定範囲内となる様に、適宜調整することが好ましい。
一般的に、熱処理の温度は、通常30℃以上、好ましくは50℃以上、また、通常240℃以下、好ましくは200℃以下である。熱処理の温度が上記範囲よりも低いと、アルコキシ化反応が十分に進行しない虞がある一方、熱処理の温度が上記範囲よりも高いと、シリカの構造が変性してしまう虞がある。
また、熱処理の時間は、通常10分以上、好ましくは20分以上、また、通常120時間以下、好ましくは100時間以下である。熱処理の時間が上記範囲よりも短いと、アルコキシ化反応が十分に進行しない虞がある一方、熱処理の時間が上記範囲よりも長いと、アルコキシ化反応がそれ以上進行せず、却ってシリカの構造が変性してしまう虞がある。
【0089】
[1−2−5.乾燥工程]
アルコキシ化工程の後、反応液からシリカを分離し、乾燥することで、本発明のシリカを製造することが出来る。この際の分離法としては、上述と同様、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカ粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、また二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
【0090】
得られたシリカは、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは120℃以下で乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でもよく、且つ、常圧でも減圧下でも乾燥することができる。中でも、真空乾燥を行なうことで、乾燥が迅速に行なえるのみならず、得られるシリカの細孔容積が大きくなるので好ましい。
【0091】
更に、必要に応じて粉砕、分級することで、最終的に目的としていた本発明のシリカを得る。
シリカを粉砕する方法としては、公知のいかなる装置・器具を用いてもよい。具体的には、例えば粒径が10μm以下の微細なシリカを得るには、ボールミル(転動ミル、振動ボールミル、遊星ミル等)、攪拌ミル(塔式粉砕器、攪拌槽型ミル、流通管型ミル、アニュラー(環状)ミル等)、高速回転微粉砕器(スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級方ミル)、ジェット粉砕器(循環ジェットミル、衝突タイプミル、流動層ジェットミル)、せん断ミル(擂解機、オングミル)、コロイドミル、乳鉢などの装置・器具を用いることができる。これらの中でも、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得る際には、ボールミル、攪拌ミルが好ましい。また、粉砕時の状態としては、湿式法及び乾式法があり、いずれも選択可であるが、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得るためには湿式法がより好ましい。湿式法の場合、使用する分散媒としては、水、及び、アルコール等の有機溶媒のいずれを単独で用いてもよく、また、2種以上の分散媒を任意の組み合わせ及び比率で混合溶媒として用いてもよく、この分散媒の選択は目的に応じて行なえばよい。また、湿式法の場合には、必要に応じて粉砕後に乾燥を行なう。なお、粉砕時に不必要に強い圧力や剪断力を長時間かけ続けることは、シリカの細孔特性を損なうことがあり、好ましくない。
【0092】
[1−3.その他]
本発明の断熱材は、上述の様に、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカを用いることにより、不完全な防湿環境下でも高い断熱性を得ることができる上に、強度にも優れている。また、シリコンアルコキシドを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理し、生成したシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整した上で、アルコキシ化処理を行なった後、乾燥するという、比較的簡単な方法によって製造することができる。
【0093】
ここで、特に上述の特許文献2に記載された材料と比較しながら、本発明の断熱材の特徴についてより詳細に考察する。
【0094】
特許文献2に記載された材料は、原料としてアルコキシシランとアルキルアルコキシシランを併用することにより、シリカの骨格中にアルキル基を導入してシリカの疎水化を図っている。よって、シリカの全炭素濃度が極めて高くなるため、シリカの3次元構造の強度が低くなってしまう。また、疎水性基の殆どがアルキル基となるために、シリカの疎水性が高くなり過ぎて水分吸着性が低下してしまい、結果として水分子の移動性を上昇させてしまう。従って、不完全な防湿環境下では、却って熱伝導性が低くなってしまう。更に、その製造工程中にpH調整等の煩雑な操作を必要とするために、製造効率が悪く、また、原料として高価なアルキルアルコキシシランを使用するため、製造コストも高い。
【0095】
対して、本発明の断熱材は、全炭素濃度の値が一定の範囲内に存在するとともに、その疎水性基の殆どがアルコキシ基であるので、適度な疎水性を有し、水分の過度の吸収を防ぐことができるとともに、周囲に存在する水分が少量であればそれらを吸着して水滴の形成を防ぐことができるため、完全な防湿環境下でなくとも高い断熱性を保つことが可能となり、幅広い用途へ応用できる。また、その製造過程においてpH調整等の煩雑な操作を用いていないことから、製造効率に優れており、製造コストの面でも有利である。
【0096】
本発明の断熱材は、以上の利点を備えていることから、保冷や保温など断熱性が必要な各種の用途に用いることができる。例えば、冷蔵庫、冷凍庫、保冷車、車の天井部、バッテリー、冷凍又は冷蔵船、保温コンテナ、冷凍又は保冷用ショーケース、携帯用クーラー、料理用保温ケース、自動販売機、太陽熱温水器、床暖房、床下、壁又は壁内、天井部屋、屋根裏部屋等の建材、熱水又は冷却水の配管、低温流体を移送する導管その他プラント機器類、衣料、寝具等の断熱材として好適に用いることができる。また、特にシリカは透明度が高いため、例えば建材であればガラスで囲って断熱用窓ガラスとするなど、透明性を生かした用途に用いることもできる。
【0097】
[2.本発明の断熱体]
本発明の断熱材の使用形態は特に制限は無く、上述の用途にそのまま用いても良いが、その用途によっては、本発明の断熱材を外装材で密閉した断熱体(本発明の断熱体)として用いるのも好ましい。
【0098】
外装材は、本発明の断熱材を密閉できるものであれば、特に限定無く様々なものを用いることができるが、特に、外装材で密閉された内部を外気から遮断することが可能なものが好ましい。
【0099】
通常、外装材により断熱材を密閉する場合、断熱材の存在する外装材内部を、通常は減圧状態、好ましくは真空状態として、断熱材であるシリカの空隙の熱伝導度を低下させることが望まれる。
【0100】
ここで、外装材を通して内部に空気等のガスが進入してくると、シリカの空隙の熱伝導度が上昇し、断熱材の断熱性が低下してしまうので、好ましくない。よって、外装材としては、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたものが好ましい。
【0101】
また、外装材を通して内部に水が浸入してくると、断熱材であるシリカが水を吸収して断熱性が低下してしまう虞があるので、やはり好ましくない。よって、外装材は非透湿性を有する非透湿層を備えたものが好ましい。
【0102】
更に、目的とする断熱材の使用環境に応じて、外装材自体も優れた断熱性を有する素材で形成されていることが好ましい。更に、外装材は、筐体のように定形の形状を有するものでもよく、フィルムなど非定型のものであってもよい。
【0103】
好ましい外装材の具体例としては、ステンレススチール、アルミニウム、鉄などの金属の薄板や、アルミニウム箔などの金属箔などのほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂に、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコールフィルムや、アルミ等の金属やシリコンをラミネートしたラミネート材等が挙げられる。また、これらに表面保護層として、外装材の外表面にポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムの延伸加工品などの層を設けたり、ナイロンフィルムなどを設けると可撓性が向上し、耐折り曲げ性などが向上する。
【0104】
外装材により本発明の断熱材を密閉する際には、外装材の種類に応じて各種の手法を用いることができるが、上述の様に、断熱材の内部を減圧状態、好ましくは真空状態としながら密閉することが好ましい。
【0105】
なお、本発明の断熱材に加えて、その他の断熱材料や各種の物質を、一緒に外装材内に密閉しても良い。これらの物質の種類は、断熱材の使用形態及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0106】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0107】
(1)断熱材の製造:
・実施例1:
<加水分解・ゲル化反応>
ガラス製で、上部に大気開放の水冷コンデンサが取り付けてある5Lセバラブルフラスコ(ジャケット付き)に、純水1000gを仕込んだ。攪拌翼先端速度2.5m/sで攪拌しながら、これにテトラメトキシシラン1400gを3分間かけて仕込んだ。用いたテトラメトキシシラン1モルに対する水のモル数(水/テトラメトキシシランのモル比)は6である。セバラブルフラスコのジャケットには50℃の温水を通水した。引き続き攪拌を継続し、内容物が沸点に到達した時点で攪拌を停止した。引き続きジャケットに50℃の温水を0.5時間通水して、生成したゾルをゲル化させた。
【0108】
<粉砕>
ゲル化によって得られたゲルを速やかに取り出し、目開き600ミクロンのナイロン製網を通して粉砕することにより、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。
【0109】
<水熱処理>
このシリカヒドロゲル300gと水500gを、1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、200℃、3時間の密閉系水熱処理を実施した。
【0110】
<親水性有機溶媒との接触処理>
水熱処理によって得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、濾渣に無水メタノール600gを加え、攪拌翼を用いて室温で1時間ゆっくり攪拌した。得られたスラリーをデカンテーションによって固液分離し、分離された固体について、無水メタノール600gを用いて再度、上述と同様の液置換操作を行なった。初回を合わせ、この操作を合計3回行なった後、カールフィッシャー法によりシリカの水分含有率を求めたところ、2重量%以下であった。
【0111】
<アルコールとの熱処理>
親水性有機溶媒での接触処理で得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、得られた濾渣と無水メタノール600gを1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、130℃にて2時間の密閉系熱処理を実施した。熱処理後、得られたシリカを150℃で恒量となるまで減圧乾燥し、実施例1の断熱材とした。
【0112】
・比較例1:
<加水分解・ゲル化反応・粉砕>
実施例1と同様の手法により、加水分解・ゲル化反応及び粉砕を行ない、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。
<水熱処理工程>
このシリカヒドロゲル300gと水450gとを、1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、200℃で、3時間の密閉系水熱処理を実施した。
【0113】
<親水性有機溶媒での接触処理>
水熱処理によって得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、濾渣に無水メタノール400gを加え、攪拌翼を用いて室温で1時間ゆっくり攪拌した。得られたスラリーを濾紙(No.5A)で濾過し、濾渣として得られたシリカを100℃で恒量となるまで減圧乾燥し、比較例1の断熱材とした。
【0114】
(2)断熱材の分析:
実施例1及び比較例1の断熱材(シリカ)について、その諸物性を以下の手法で測定した。
【0115】
(2−1)細孔容積:
カンタクローム社製AS−1を用いて、シリカの窒素吸着等温線を測定し、その細孔容積を求めた。具体的には、相対圧P/P0=0.98のときの値を採用した。
【0116】
(2−2)水分含有率:
赤外水分測定機を用いて、シリカを160℃に昇温し、重量の減少量を測定した。恒量になった状態の重量減少量を減少前の重量で除した値を、シリカの水分含有率とした。
【0117】
(2−3)全炭素濃度:
全炭素測定装置を利用し、1450℃で発生するガス中の炭素量を分析することにより、シリカの全炭素濃度を測定した。
【0118】
(2−4)最頻細孔径:
レーザー式粒度分布測定装置(セイシン企業製LMS−30)を用いて、シリカの最頻細孔径を測定した。
【0119】
(2−5)熱伝導度:
断熱材(シリカ)1000mlを、金属箔層と熱可塑性ポリマー層とを有する容器に入れ、内部を真空100Paに減圧した後、開口部にヒートシールを行ない、断熱体とした。この断熱体の平均温度25℃における熱伝導度を、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製AUTO−∧)を用いて測定した。
【0120】
測定により得られた実施例1及び比較例1の断熱材の諸物性を表−1に示す。
【表1】
【0121】
表−1の結果より、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカからなる実施例1の断熱材は、全炭素濃度及び水分含有率が所定の値よりも高い比較例1の断熱材と比較して、外装材で密閉して断熱体とした場合の熱伝導度が低い。よって、実施例1の断熱材は、断熱性が要求される各種の用途に好適に用いることができるものと考えられる。また、実施例1の断熱材はその製造過程でpH調整等の煩雑な操作を必要としないことから、例えば特許文献1,2等の材料に比べて製造効率が良く、製造コストの面でも有利である。
【0122】
【発明の効果】
本発明によれば、細孔容積が所定の値よりも大きく、水分含有率が所定の値よりも低く、且つ、全炭素濃度が一定の範囲内に存在するシリカを用いることによって、不完全な防湿環境下においても高い断熱性を示し、高い強度を有し、且つ、比較的簡単な方法で製造可能な、優れた断熱材を提供することができる。また、この断熱材を外装材で密閉して断熱体とすることにより、各種用途に好適に用いることが可能となる。
Claims (13)
- 以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
(a)細孔容積が、1.6ml/g以上
(b)水分含有率が、15重量%以下
(c)全炭素濃度が、0.1重量%以上、15重量%以下 - 該シリカの(Si−O−H)結合に対する(Si−O−C)結合のモル比が、0.03以上であることを特徴とする、請求項1記載の断熱材。
- 該シリカの全空隙の容積と前記細孔容積との比(細孔容積/全空隙容積)が20%以上であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の断熱材。
- 該シリカの全空隙率が、80%以上であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の断熱材。
- 該シリカの最頻細孔径Dmaxが、5nm以上であることを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の断熱材。
- 固体Si−NMRにより測定した該シリカのQ4/Q3値が、1.2以上であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の断熱材。
- 該シリカが、非晶質であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の断熱材。
- 該シリカの有する細孔のうち、細孔径が最頻細孔径Dmaxの±20%の範囲に存在する細孔の容積が、全細孔の容積の50%以上であることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の断熱材。
- シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程と、該加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程と、該物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下に調整する水分除去工程と、該水分除去工程により得られたシリカスラリーをアルコキシ化するアルコキシ化工程と、該アルコキシ化工程後のシリカスラリーを乾燥する乾燥工程とを備えた方法により製造されたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
- 該アルコキシ化工程において、該シリカスラリーをアルコールの存在下で熱処理することにより、シリカスラリーをアルコキシ化することを特徴とする、請求項9記載の断熱材。
- 請求項1〜10の何れか一項に記載の断熱材を外装材で密閉してなることを特徴とする、断熱体。
- 該外装材が、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたことを特徴とする、請求項11記載の断熱体。
- 該外装材が、非透湿性を有する非透湿層を備えたことを特徴とする、請求項11又は請求項12に記載の断熱体。
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-
2003
- 2003-05-26 JP JP2003147880A patent/JP2004347092A/ja active Pending
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