JP2004347090A - 断熱材及びそれを用いた断熱体 - Google Patents
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Abstract
【課題】高い断熱性と充分な強度とを有するとともに、簡単な製造方法によって製造することができる、優れた断熱材を提供する。
【解決手段】以下の物性を備えたシリカを用いる。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径Dmaxが、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下
【選択図】 なし
【解決手段】以下の物性を備えたシリカを用いる。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径Dmaxが、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電化製品や建材などに用いて好適な断熱材及び断熱体に関し、特に、シリカからなる断熱材と、それを外装材で密閉してなる断熱体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、居住環境の保冷や保温、及び、冷却や暖房のための機器などにおいて熱を効率的に利用するための断熱材の開発が行なわれてきた。また、近年ではノート型コンピュータやいわゆる情報家電など、内部に情報処理装置を備えた電化製品が多数提供されるようになったが、これらの機器は内部からの熱が外部に出ないようにしたり、また、外部の熱が内部の情報処理装置に悪影響を及ぼさないようにしたりする必要があるため、断熱材を使用する必要がある。このように、断熱材を使用する機会はますます多くなってきており、このため、優れた断熱材を開発するための研究が行なわれ、さまざまな断熱材が提案されている。
【0003】
特に、シリカは熱伝導度が低い上に、多孔体として構成できるため、高い断熱性を発揮することが可能であり、断熱材として非常に注目されている。
【0004】
シリカを用いた断熱材の具体例として、特許文献1には、水ガラスを原料としてゾルゲル法によりシリカヒドロゲルを製造し、このシリカヒドロゲルを乾燥させることによりシリカのエアロゲルを製造して、このエアロゲルを断熱材として用いることが提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−174140号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常は水ガラスには多量の金属不純物が含まれているので、特許文献1のように水ガラスから製造したエアロゲルには多くの金属不純物が残留する。エアロゲル中の金属不純物が多いと、エアロゲル中のシリカの細孔分布が拡大し、多孔体としての構造制御が困難となって、多孔体の強度が低くなる。また、シリカの多孔体の粒子径を大きくするために塩基性条件下においてゲルを作成する場合には、ゲル中の細孔分布が拡大するために、金属不純物の影響とは別に多孔体としての構造制御が困難となり、多孔体の強度が低くなる。このように、高い強度を有するシリカの多孔体を断熱材とする技術はこれまで提案されていなかったため、断熱性及び強度がともに優れた断熱材の開発が望まれていた。
【0007】
また、上述したような金属不純物をエアロゲル中から除去しようとすれば、その製造段階において、シリカヒドロゲルを水により洗浄する工程、及び、洗浄に用いた水を除去する工程をエアロゲル製造工程に組み込む必要がある。このため、断熱材の製造に要する時間は長くなり、また、その製造方法も複雑になって、その結果、製造コストが上昇していた。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、充分な強度と高い断熱性とを有するとともに、簡単な製造方法によって製造することができる、優れた断熱材及びそれを用いた断熱体を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカからなる断熱材が、充分な強度及び断熱性を有し、しかも簡単な製造方法によって製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする、断熱材に存する(請求項1)。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径が、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下
【0011】
なお、全空隙率は80%以上であることが好ましい(請求項2)。ここで「全空隙率」とは、シリカの占める全体積に対する、シリカの粒子内の細孔容積と粒子間の空隙の容積とを合わせた全空隙の容積の比率をいう。
【0012】
また、上記シリカの全空隙の容積と細孔容積との比(細孔容積/全空隙容積)が1.5%以上であることが好ましい(請求項3)。
また、固体Si−NMRにより測定した上記シリカのQ4/Q3値は、1.2以上であることが好ましい(請求項4)。
【0013】
また、上記シリカは、非晶質であることが好ましい(請求項5)。
【0014】
また、上記シリカの有する細孔のうち、細孔直径が最頻細孔径Dmaxの±20%の範囲に存在する細孔の容積が、全細孔の容積の50%以上であることが好ましい(請求項6)。
【0015】
本発明の別の要旨は、シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程と、前記加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程と、前記物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下とする水分除去工程と、前記水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する乾燥工程とを備えた方法により製造されたシリカからなることを特徴とする、断熱材に存する(請求項7)。
【0016】
なお、上記水分除去工程においては、上記シリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させることにより水分含有量を5重量%以下とすることが好ましい(請求項8)。
また、上記シリコンアルコキシドの金属の含有率は、100重量ppm以下であることが好ましい(請求項9)。
【0017】
また、本発明の別の要旨は、上述した断熱材を外装材に密閉したことを特徴とする断熱体に存する(請求項10)。
なお、上記外装材は、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えることが好ましく(請求項11)、非透湿性を備えた非透湿層を有することが好ましい(請求項12)。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を超えない限りにおいて、変形して実施することも可能である。
【0019】
[1.本発明の断熱材]
本発明の断熱材は、以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径が、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下
【0020】
[1−1.本発明のシリカ]
以下、本発明の断熱材に用いられるシリカ(以下適宜、「本発明のシリカ」という)について説明する。
なお、本発明において「シリカ」とは含水ケイ酸のことを指す。含水ケイ酸は、SiO2・nH2Oの示性式(ここで、nは0より大きい数)で表される。
【0021】
本発明のシリカは、細孔容積が通常の値よりも大きい範囲に存在することを特徴とする。具体的には、窒素ガス吸・脱着法で測定した細孔容積の値が、1.8ml/g以上である。中でも好ましくは1.85ml/g以上、特に好ましくは1.9ml/g以上であり、また、通常3.4ml/g以下、中でも好ましくは3.2ml/g以下、特に好ましくは3.0ml/g以下である。細孔容積は、吸着等温線の相対圧0.98における窒素ガスの吸着量から求めることができる。
【0022】
また、本発明のシリカは、窒素ガス吸脱着法で測定した等温脱着曲線から、E.P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73,373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線、即ち、細孔直径d(nm)に対して微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd);Vは窒素ガス吸着容積)をプロットした図上での最頻細孔径(Dmax)が、50nm以下であることを特徴とする。詳しくは、最頻細孔径(Dmax)は通常5nm以上、50nm以下、好ましくは40nm以下である。最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも小さいと、シリカの細孔が小さくなり、断熱材中における空隙の割合が小さくなるために、断熱性が低下する。また、最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも大きいと、シリカの強度が小さくなり、断熱材の強度を高くすることが難しくなる。
【0023】
また、本発明のシリカにおいては、シリカ中に含まれる、シリカの骨格を構成するケイ素を除いた金属元素(金属不純物)の合計の含有率は、100重量ppm以下である。具体的には、100重量ppm以下、好ましくは50重量ppm以下、更に好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下、最も好ましくは1重量ppm以下である。
【0024】
シリカ中の金属不純物の存在は、その総含有率がたとえ数百重量ppm程度の微量であっても、シリカの性質に大きな影響を与える。例えば、1)これらの金属不純物の存在が、高温化ではシリカの結晶化を促進する、2)これらの金属不純物の存在が、水存在下ではシリカの意図しない水熱反応を促進して、細孔径や細孔容積の拡大、比表面積の低下、細孔分布の拡大をもたらす、3)これらの金属不純物は燃焼温度を低下させるので、これらの不燃物を含むシリカを加熱すると、比表面積の低下が促進される等の影響が挙げられる。即ち、金属不純物の存在は、シリカの構造の制御を困難にし、均一で強固な細孔構造を有するシリカを形成することを妨げる要因になる。そして、かかる影響は、アルカリ金属やアルカリ土類金属に属する金属を含む金属不純物において、特にその傾向が強い。
【0025】
かかる特徴に関連して、本発明のシリカは、上記のBJH法により算出された最頻細孔径(Dmax)における微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が、通常2ml/g以上、中でも3ml/g以上、特に5ml/g以上であることが好ましく、通常40ml/g以下、中でも30ml/g以下、特に25ml/g以下であることが好ましい(なお、上式において、dは細孔直径(nm)であり、Vは窒素ガス吸着容積である)。微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が前記範囲に含まれるものは、最頻細孔径(Dmax)の付近に揃っている細孔の絶対量が極めて多いものと言える。
【0026】
また、本発明のシリカの全空隙率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは87.5%以上、また、通常99.5%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは98.5%以下である。ここで「全空隙率」とは、シリカの占める全体積に対する、シリカの粒子内の細孔容積と粒子間の空隙の容積とを合わせた全空隙の容積の比率をいう。全空隙率がこの範囲よりも小さいと、本発明の断熱材の断熱性が低くなり、この範囲よりも大きいと断熱材としての強度が充分得られない虞がある。なお、シリカの全空隙率は、シリカのかさ密度を測定し、以下の式を用いることで算出することができる。また、かさ密度は、例えばJISK6721のような公知の任意の方法で測定すればよい。また、シリカの粒子密度は2.0g/cm3である。
全空隙率=1−(かさ密度)/(シリカの粒子密度)
【0027】
さらに、本発明のシリカは、全空隙の容積に対する細孔容積の比率が大きいことが好ましい。具体的には、細孔容積/全空隙容積で表わされる全空隙の容積と細孔容積との比が、通常1.5%以上、好ましくは3.5%以上、より好ましくは5.0%以上であることが望ましい。シリカの粒子間をつなぐ部分の強度は、一般に、シリカ粒子自体の強度よりも低い。そのため、断熱材の断熱性を高めるためにシリカの空隙の体積を大きくした場合、粒子間の空隙を増やそうとするとシリカの強度が大きく低下してしまうが、細孔容積を増やすことにより空隙を増やせば、比較的強度が強いシリカ粒子内の空隙が増えるわけであるからシリカの強度を高く保ったまま断熱性を向上させることができる。即ち、細孔容積/全空隙の容積で表わされる比が大きいことにより、本発明のシリカの強度を高めることができるのである。
【0028】
本発明のシリカは、これを構成するシリカの構造に歪みが少ないことを特徴とする。ここで、シリカの構造的な歪みは、固体Si−NMR測定におけるQ4ピークのケミカルシフトの値によって表わすことができる。以下、シリカの構造的な歪みと、前記のQ4ピークのケミカルシフトの値との関連について、詳しく説明する。
【0029】
本発明のシリカは、ケイ酸の水和物であり、SiO2・nH2Oの示性式で表されるが、構造的には、Siの四面体の各頂点にOが結合され、これらのOに更にSiが結合してネット状に広がった構造を有する。そして、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、Oの一部が他の成員(例えば−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのSiに注目した場合、下記式(A)に示す様に4個の−OSiを有するSi(Q4)、下記式(B)に示す様に3個の−OSiを有するSi(Q3)等が存在する(下記式(A)及び(B)では、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を平面的に表わしている)。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各Siに基づくピークは、順にQ4ピーク、Q3ピーク、・・と呼ばれる。
【0030】
【化1】
【0031】
本発明のシリカが有する高い耐水熱性及び耐熱性と、上記の様な構造的歪みの関係については、必ずしも明らかではないが、次の様に推定される。すなわち、シリカは大きさの異なる球状粒子の集合体で構成されているが、上記の様な構造的に歪みの少ない状態においては、球状粒子全体のミクロ構造的な高度の均質性が維持されるので、その結果、高い耐水熱性及び耐熱性が発現されるものと考えられる。なお、Q3以下のピークは、Si−Oのネット構造の広がりに制限があるため、シリカの構造的な歪みが現れ難い。
【0032】
更に、上記の特徴に関連して、本発明のシリカは、固体Si−NMR測定によるQ4/Q3の値が、通常1.2以上、中でも1.4以上であることが好ましい。ここで、Q4/Q3の値とは、上述したシリカの繰り返し単位の中で、−OSiが3個結合したSi(Q3)に対する−OSiが4個結合したSi(Q4)のモル比を意味する。なお、上限値は特に制限されないが、通常は10以下である。一般にこの値が高い程、シリカの熱安定性が高いことが知られており、ここから本発明のシリカが熱安定性についても極めて優れていることが判る。
【0033】
なお、Q4/Q3の値は、固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0034】
また、本発明のシリカは、以上の細孔構造の特徴に加えて、その三次元構造を見るに、非晶質であること、即ち、結晶性構造が認められないことが好ましい。このことは、本発明のシリカをX線回折で分析した場合に、結晶性ピークが実質的に認められないことを意味する。なお、本明細書において非晶質でないシリカとは、X線回折パターンで6オングストローム(Å Units d−spacing)を越えた位置に、少なくとも一つの結晶構造のピークを示すものを指す。非晶質のシリカは、結晶性のシリカに較べて、断熱性が高いことに加え、極めて生産性に優れている。
【0035】
加えて、本発明のシリカは、上記の最頻細孔径(Dmax)の値の±20%の範囲にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の通常50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上であることが好ましい。このことは、本発明のシリカが有する細孔の直径が、最頻細孔径(Dmax)付近の細孔で揃っていること、つまり細孔径の分布が極めて狭い(シャープである)ことを意味する。なお、この比の値の上限は特に制限されないが、通常は90%以下である。細孔径の分布が小さければ、本発明のシリカの構造は均一なものとなり、したがって、断熱材の一部が強固で一部がもろい、というような強度のバラツキが発生せず、全体として強度の高い断熱材を得ることができる。
【0036】
[1−2.本発明のシリカの製造方法]
次に、本発明のシリカの製造方法を説明する。
本発明のシリカの製造方法は、上述した物性を有するシリカを製造することができる方法であれば特に制限はないが、特に、シリコンアルコキシドを加水分解する工程(加水分解・縮合工程)と、加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する工程(物性調節工程)と、物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下とする工程(水分除去工程)と、水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する工程(乾燥工程)とを有する方法により製造することが好ましい。
【0037】
上記の製造方法は、具体的には、シリコンアルコキシドを加水分解し、得られたシリカヒドロゲルを、好ましくは実質的に熟成することなしに水熱処理し、次いで水分除去工程として親水性有機溶媒と接触させた後に、乾燥させることで、シリカ中の水分を除去することを特徴とする。
【0038】
[1−2−1.加水分解・縮合工程]
加水分解・縮合工程においては、シリコンアルコキシドを加水分解してシリカヒドロゲルを得る。得られるシリカヒドロゲルは、その原料であるシリコンアルコキシドの高純度化が可能であり、シリカヒドロゲルへの不純物の混入を容易に防止できるので好ましい。
【0039】
本発明のシリカの原料として使用されるシリコンアルコキシドとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリ又はテトラアルコキシシラン或いはそれらのオリゴマーが挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びそれらのオリゴマー、特にテトラメトキシシランやそのオリゴマーを用いると、良好な細孔特性を有するシリカが得られるので好ましい。その主な理由としては、シリコンアルコキシドは蒸留により容易に精製し、高純度品が得られるので、高純度のシリカの原料として好適であることが挙げられる。シリコンアルコキシド中の金属(金属不純物)の総含有量は、通常100重量ppm以下、中でも50重量ppm以下、更には10重量ppm以下、特に1重量ppm以下が好ましい。これらの金属不純物の含有率は、一般的なシリカ中の不純物含有率の測定法と同じ方法で測定できる。このように金属不純物の含有率が少ないシリコンアルコキシドを用いれば、製造されるシリカ中の金属不純物の含有率を小さくすることができる上、本願にかかるシリカの製造工程中において金属を除去する工程が不要となり、即ち、一般的に行なわれるような水による洗浄工程及び洗浄に用いた水を除去する工程が不要となるため、本発明のシリカを簡単に製造することができる。
【0040】
本発明では、先ず、加水分解・縮合工程において、触媒の不存在下にシリコンアルコキシドを加水分解すると共に得られたシリカヒドロゾルを縮合してシリカヒドロゲルを形成する。
【0041】
シリコンアルコキシドの加水分解は、シリコンアルコキシド1モルに対して、通常2モル倍以上、好ましくは3モル倍以上、特に好ましくは4モル倍以上、また、通常20モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、特に好ましくは8モル倍以下の水を用いて行なう。シリコンアルコキシドの加水分解により、シリカのヒドロゲルとアルコールとが生成し、生成したシリカヒドロゾルは逐次縮合してシリカヒドロゲルとなる。
【0042】
加水分解時の温度は、通常室温以上、100℃以下であるが、加圧下で液相を維持することで、より高い温度で行なうことも可能である。加水分解に要する反応時間は反応液組成(シリコンアルコキシドの種類や、水とのモル比)並びに反応温度に依存し、ゲル化するまでの時間が異なるので、一概には規定されない。この反応時間は、本発明のシリカのように細孔特性に優れたシリカを得る為には、ヒドロゲルの破壊応力が6MPaを越えない時間であることが好ましい。
【0043】
なお、この加水分解反応系に、触媒として、酸、アルカリ、塩類などを添加することで加水分解を促進させることができる。しかしながら、かかる添加物の使用は、後述のように、生成したヒドロゲルの熟成を引き起こすため、本発明のシリカゲルの製造においてはあまり好ましいことではない。また、もちろん、これらの酸、アルカリを用いる場合であっても、金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まないものを選択すべきであることは言うまでもない。さらに、塩類は金属不純物となる虞があるので、使用する場合でも極力少量とすべきである。
【0044】
上述したシリコンアルコキシドの加水分解に際しては、攪拌を充分に行なうことが重要となる。例えば、回転軸に攪拌翼を備えた攪拌装置を用いた場合、その攪拌速度(回転軸の回転数)としては、攪拌翼の形状・枚数・液との接触面積等にもよるが、通常は30rpm以上、好ましくは50rpm以上である。
【0045】
また、この攪拌速度は、一般的に速過ぎると、槽内で生じた飛沫が各種のガスラインを閉塞させたり、また反応器内壁に付着して熱伝導を悪化させ、物性制御に重要な温度管理に影響を及ぼしたりする場合がある。更に、この内壁の付着物が剥離し、製品に混入して品質を悪化させる場合もある。この様な理由から、攪拌速度は2000rpm以下、中でも1000rpm以下であることが好ましい。
【0046】
本発明に於いて、分液している二液相(水相、及びシリコンアルコキシド相)の攪拌方法は、反応を促進させる方法であれば任意の攪拌方法を用いることが出来る。中でも、この二液相をより混合させるような装置としては、例えば以下の▲1▼、▲2▼が挙げられる。
【0047】
▲1▼:回転軸が液面に対し垂直又は僅かに角度を持って挿入され、上下に液の流動が生じる攪拌翼を有する装置。
▲2▼:回転軸方向を二液相の界面と略平行に設け、二液相間に攪拌を生じさせる攪拌翼を有する攪拌装置。
【0048】
上述した▲1▼、▲2▼の様な装置を用いた際の攪拌翼の回転速度は、攪拌翼の周速度(攪拌翼先端速度)で、0.05〜10m/s、中でも0.1〜5m/s、さらには0.1〜3m/sであることが好ましい。
【0049】
攪拌翼の形状や長さ等は任意であり、攪拌翼としては例えばプロペラ型、平羽根型、角度付平羽根型、ピッチ付平羽根型、平羽根ディスクタービン型、湾曲羽根型、ファウドラー型、ブルマージン型等が挙げられる。
【0050】
翼の幅、枚数、傾斜角等は反応器の形状、大きさ、目的とする攪拌動力に応じて適宜選定すればよい。たとえば反応器の槽内径(回転軸方向に対して垂直面を形成する液相面の最長径)に対する翼幅(回転軸方向の翼の長さ)の比率(b/D)は0.05〜0.2、傾斜角(θ)90゜±10゜、翼枚数3〜10枚の攪拌装置が好適な例として挙げられる。
【0051】
中でも、上述の回転軸を反応容器内の液面よりも上に設け、この回転軸から伸ばした軸の先端部分に攪拌翼を設ける構造が、攪拌効率及び設備メンテナンスの観点から好適に使用される。
【0052】
上記のシリコンアルコキシドの加水分解反応では、シリコンアルコキシドが加水分解してシリカヒドロゾルが生成するが、引き続いて該シリカヒドロゾルの縮合反応が起こり、反応液の粘度が上昇し、最終的にゲル化してシリカヒドロゲルとなる。
【0053】
[1−2−2.物性調節工程]
次いで、本発明では、物性調節工程として、実質的に熟成することなく、シリカヒドロゲルの水熱処理を行なう。シリコンアルコキシドを加水分解すると、軟弱なシリカヒドロゲルが生成する。なお、このヒドロゲルの物性を安定させるべく、熟成、あるいは乾燥させ、次いで水熱処理を施すという、従来行なわれているような方法では、本発明のシリカを製造することは困難である。
【0054】
上記のように、加水分解により生成したシリカヒドロゲルを、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうということは、シリカヒドロゲルが生成した直後の軟弱な状態が維持されたままで、次の水熱処理に供するようにするということを意味する。
【0055】
具体的には、シリカヒドロゲルが生成した時点から、一般的には10時間以内に水熱処理することが好ましく、中でも8時間以内、更には6時間以内、特に4時間以内にシリカヒドロゲルを水熱処理することが好ましい。
【0056】
また、工業用プラント等に於いては、大量に生成したシリカヒドロゲルを一旦サイロ等に貯蔵し、その後水熱処理を行なう場合が考えられる。この様な場合、シリカヒドロゲルは、シリカヒドロゲルが生成してから水熱処理に供されるまでの時間、いわゆる放置時間が、上述の範囲を超える場合が考えられる。この様な場合には、熟成が実質的に生じないように、サイロ内での静置中に、例えばシリカヒドロゲル中の液体成分が乾燥しないようにすればよい。
【0057】
具体的には、例えば、サイロ内を密閉したり、湿度を調節したりすればよい。また、水やその他の溶媒にシリカヒドロゲルを浸した状態で、シリカヒドロゲルを静置してもよい。
【0058】
静置の際の温度は、できるだけ低くすることが好ましく、例えば50℃以下、中でも35℃以下、特に30℃以下で静置することが好ましい。また、熟成が実質的に生じないようにする別の方法としては、シリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御してシリカヒドロゲルを調製する方法が挙げられる。
【0059】
シリカヒドロゲルを実質的に熟成せずに水熱処理することにより奏する効果と、この効果が得られる理由を考察すると、以下のことが考えられる。
【0060】
まず、シリカヒドロゲルを熟成させると、−Si−O−Si−結合によるマクロ的網目構造が、シリカヒドロゲル全体に形成されると考えられる。この網目構造がシリカヒドロゲル全体に有ることで、水熱処理の際、この網目構造が障害となり、メソポーラスの形成が困難となることが考えられる。またシリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御して得られたシリカヒドロゲルは、静置中に生ずるシリカヒドロゲルにおける架橋の進行を抑制できる。その為、シリカヒドロゲルが熟成しないと考える。
【0061】
よって、本発明では、シリカヒドロゲルを熟成することなく、水熱処理を行なうことが重要である。
【0062】
シリコンアルコキシドの加水分解反応系に酸、塩類等を添加すること、又は該加水分解反応の温度を厳しくし過ぎることなどは、ヒドロゲルの熟成を進行させるという点から好ましくない。また、加水分解後の後処理における水洗、乾燥、放置などにおいて、必要以上に温度や時間をかけるべきではない。
【0063】
更に、シリコンアルコキシドの加水分解で得られたシリカヒドロゲルは、水熱処理を行なう前に、これを平均粒径10mm以下、中でも5mm以下、更には1mm以下、特に0.5mm以下となるよう、粉砕処理等を施すことが好ましい。特に、平均粒径を0.3mm以下とすれば、後述する水分除去工程において親水性有機溶媒による置換が容易となるため、好ましい。
【0064】
上述の通り、本発明のシリカの製造方法としては、シリカヒドロゲルの生成の直後に、直ちにこれを水熱処理する方法が重要である。但し、この製造方法に於いては、水熱処理するシリカヒドロゲルが熟成していなければよいので、例えば暫時低温下で静置した後に水熱処理するなど、必ずしもシリカヒドロゲルの生成直後、直ちにこれを水熱処理することを必要としない。
【0065】
このように、シリカヒドロゲルの生成の直後、直ちにこれを水熱処理しない場合には、例えばシリカヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認してから水熱処理を行なえばよい。ヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認する手段は任意であるが、例えば、測定したヒドロゲルの硬度を参考にする方法が挙げられる。即ち、先述したとおり、この破壊応力が通常6MPa以下の柔らかい状態のヒドロゲルを水熱処理することで、本発明で規定する物性範囲のシリカを得ることができる。この破壊応力は、中でも3MPa以下であることが好ましく、特に2MPa以下であることが好ましい。
【0066】
この水熱処理の条件としては、水の状態が液体、気体のいずれでもよいが、中でも、液体の水を使い、シリカヒドロゲルに加えてスラリー状として、水熱処理を行なうことが好ましい。水熱処理においては、まず、処理するシリカヒドロゲルに、シリカヒドロゲルの重量に対して通常0.1重量倍以上、好ましくは0.5重量倍以上、特に好ましくは1重量倍以上、また、通常10重量倍以下、好ましくは5重量倍以下、特に好ましくは3重量倍以下の水を加えてスラリー状とする。そしてこのスラリーを、通常40℃以上、好ましくは100℃以上、中でも好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の温度で、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは10時間以下にわたって、水熱処理を行なう。水熱処理の温度が低すぎると、細孔分布がシャープになり難く、また、細孔容積を大きくすることも困難となる場合がある。
【0067】
なお、水熱処理に使用される水には、溶媒が含まれていてもよい。溶媒として、具体的には、例えば、低級アルコール類であるメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。この溶媒は、例えばアルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、その原料であるアルコキシシランに由来するアルコール類であってもよい。もちろん、この溶媒としては金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まないものを選択すべきであることは言うまでもない。
【0068】
熱処理に用いる水における、この様な溶媒の含有量は任意だが、少ない方が好ましい。例えば、上述した様な、アルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、このシリカヒドロゲルを水洗し、水洗されたものを水熱反応に供することにより、150℃程度まで温度を下げて水熱処理を行なった場合でも、細孔特性に優れ且つ細孔容積の大きいシリカを製造することが出来る。また、溶媒を含んでいる水で水熱処理を行なっても、200℃程度の温度での水熱処理を行なうことで、本発明のシリカを容易に得ることが出来る。
【0069】
なお、加水分解反応の反応器を用い、続けて温度条件変更により水熱処理を行なうことも可能であるが、加水分解反応とその後の水熱処理では最適条件が通常は異なっているため、この様に水を新たに加えないで行なう方法では、本発明のシリカを得ることは一般的には難しい。
【0070】
以上の水熱処理の条件において、温度を高くすると、得られるシリカの径、細孔容積が大きくなる傾向がある。水熱処理温度としては、100〜200℃の範囲であることが好ましい。また、処理時間とともに、得られるシリカの比表面積は、一度極大に達した後、緩やかに減少する傾向がある。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択する必要があるが、水熱処理は、シリカの物性を変化させる目的なので、通常、前記の加水分解の反応条件より高温条件とすることが好ましい。
【0071】
なお、ミクロ構造的な均質性に優れる本発明のシリカを製造するためには、水熱処理の際に、反応系内の温度が5時間以内に目的温度に達する様に、速い昇温速度条件とすることが好ましい。具体的には、槽に充填して処理される場合、昇温開始から目標温度到達までの平均昇温速度として、通常0.1℃/min以上、中でも0.2℃/min以上、また、通常100℃/min以下、中でも30℃/min以下、特に10℃/min以下の範囲の値を採用するのが好ましい。
【0072】
熱交換器などを利用した昇温方法や、あらかじめ作っておいた熱水を仕込む昇温方法なども、昇温速度を短縮することができて好ましい。また、昇温速度が上記範囲であれば、段階的に昇温を行なってもよい。反応系内の温度が目的温度に達するまでに長時間を要した場合には、昇温中にシリカヒドロゲルの熟成が進み、ミクロ構造的な均質性が低下する恐れがある。
【0073】
上記の目的温度に達するまでの昇温時間は、好ましくは4時間以内、更に好ましくは3時間以内である。昇温時間の短縮化のため、水熱処理に使用する水を予熱することもできる。
【0074】
水熱処理の温度、時間を上記範囲外に設定すると、本発明のシリカを得ることが困難となる。例えば、水熱処理の温度が高すぎると、シリカの細孔径、細孔容積が大きくなりすぎ、また、細孔分布も広がる。逆に、水熱処理の温度が低過ぎると、生成するシリカは、架橋度が低く、熱安定性に乏しくなり、細孔分布にピークが発現しなくなったり、前述した固体Si−NMRにおけるQ4/Q3値が極端に小さくなったりする。
【0075】
なお、水熱処理をアンモニア水中で行なうと、純水中で行なう場合よりも低温で同様の効果が得られる。また、アンモニア水中で水熱処理すると、アンモニアを含まない水を用いた水熱処理と比較して、最終的に得られるシリカは一般に疎水性となる。この際、水熱処理の温度を30℃以上、好ましくは40℃以上、また、250℃以下、好ましくは200℃以下という比較的高温とすると、特に疎水性が高くなる。ここでのアンモニア水のアンモニア濃度としては、好ましくは0.001%以上、特に好ましくは0.005%以上、また、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%である。また、ここで使用するアンモニア水は金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まない高純度のものを使用することが好ましい。
【0076】
[1−2−3.水分除去工程]
上述した水熱処理を経て得られたシリカには、多量の水が含まれている。例えば、水熱処理後のシリカは、多量の水を含むシリカ(例えばシリカスラリー)として得られる。本発明のシリカの製造方法においては、この水を除去することが重要である。具体的には、このシリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させ、水を親水性溶媒で置換し、次いでシリカを乾燥するという操作が、最も重要である。
【0077】
本発明に於いては、シリカに含まれる水を親水性有機溶媒と置換し、乾燥することによって、乾燥工程に於けるシリカの収縮を抑制し、シリカの細孔容積を大きく維持でき、細孔特性に優れ、且つ細孔容積の大きいシリカを得ることが出来るのである。この理由は定かではないが、以下のような現象によるものと考えられる。
【0078】
水熱処理後のシリカスラリー中の液体成分の多くは水である。この水は、シリカと互いに強く相互作用しあっている為に、シリカから完全に水を除去するには大きなエネルギーが必要と考える。
【0079】
多量の水分が存在する条件下で乾燥過程(例えば加熱乾燥)を行なうと、熱エネルギーを受けた水が未反応のシラノール基と反応し、シリカの構造が変化する。この構造変化のうち最も顕著な変化はシリカ骨格の縮合であり、縮合によってシリカが局所的に高密度化することが考えられる。シリカ骨格は3次元的構造を有するので、骨格の局所的な縮合(シリカ骨格の高密度化)はシリカ骨格により構成されているシリカ粒子全体の細孔特性に影響を及ぼし、結果的に粒子が収縮して、細孔容積や細孔径が収縮すると考えられる。
【0080】
そこで、例えばシリカスラリー中の(水を多量に含む)液体成分を親水性有機溶媒で置換することで、このシリカスラリー中の水を除去し、上述したようなシリカの収縮を抑えることが可能となる。
【0081】
本発明で用いる親水性有機溶媒とは、上述した考えに基づき、水を多く溶かすものであればよい。中でも、分子内分極の大きいものが好ましい。さらに好ましくは、比誘電率が15以上のものがよい。
【0082】
本発明のシリカの製造方法に於いては、純度の高いシリカを得るために、親水性有機溶媒にて水を除去した後の乾燥工程で、この親水性有機溶媒を除去する必要がある。よって、親水性有機溶媒としては、乾燥(例えば加熱乾燥や真空・減圧乾燥等)により容易に除去可能な低沸点のものが好ましい。親水性有機溶媒の沸点としては、150℃以下、中でも120℃以下、特に100℃以下のものが好ましい。
【0083】
具体的な親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、アルデヒド類、エーテル類等が挙げられる。中でも、アルコール類やケトン類が好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類やアセトンが好ましい。本発明では、これら例示の親水性有機溶媒のうち、一種を単独で使用しても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び任意の割合で混合して使用してもよい。なお、親水性有機溶媒としては金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まないものを選択すべきであることは言うまでもない。
【0084】
なお、水の除去が可能であれば、使用する親水性有機溶媒中に水が含まれていてもよい。もっとも、親水性有機溶媒における水分含有量は当然少ない方が好ましく、通常20%以下、中でも15%以下、更には10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0085】
本発明に於いて、上述の親水性有機溶媒による置換処理時の温度及び圧力は任意である。処理温度は、通常0℃以上、中でも10℃以上、通常100℃以下、中でも60℃以下とすることが好ましい。処理時の圧力は常圧、加圧、減圧のいずれでもよい。
【0086】
シリカスラリーと接触させる親水性有機溶媒の量は任意である。但し、用いる親水性有機溶媒の量が少な過ぎると水との置換進行速度が充分でなく、逆に多過ぎると水との置換効率は高まるが、親水性有機溶媒の使用量増加に見合う効果が頭打ちとなり、経済的に好ましくない。よって、用いる親水性有機溶媒の量は、シリカの嵩体積に対して通常0.5〜10容量倍である。この親水性有機溶媒による置換操作は、複数回繰り返して行なうと、水の置換がより確実となるので好ましい。
【0087】
親水性有機溶媒とシリカスラリーとの接触方法は任意であり、例えば攪拌槽でシリカスラリーを攪拌しながら親水性有機溶媒を添加する方法や、シリカスラリーから濾別したシリカを充填塔に詰めて、この充填塔に親水性有機溶媒を通液する方法、また、親水性有機溶媒中にシリカを入れて浸漬し、静置する方法などが挙げられる。
【0088】
親水性有機溶媒による置換操作の終了は、シリカスラリーの液体成分中の水分測定を行なって決定すればよい。例えば、定期的にシリカスラリーをサンプリングして水分測定を行ない、水分含有量が通常5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下となった点を終点とすればよい。水分の測定方法は任意であり、例えばカールフィッシャー法が挙げられる。
【0089】
[1−2−4.乾燥工程]
親水性有機溶媒による置換操作の後、シリカと親水性有機溶媒とを分離し、乾燥することで、本発明のシリカを製造することが出来る。この際の分離法としては、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカ粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、また二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
【0090】
得られたシリカは、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは120℃以下で乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でもよく、且つ、常圧でも減圧下でも乾燥することができる。中でも、真空乾燥を行なうことで、乾燥が迅速に行なえるのみならず、得られるシリカの細孔容積が大きくなるので好ましい。
【0091】
必要に応じ、原料のシリコンアルコキシドに由来する炭素分が含まれている場合には、通常400〜600℃で焼成除去することができる。また、表面状態をコントロールするため最高900℃の温度で焼成することもある。更に、必要に応じて粉砕、分級することで、最終的に目的としていた本発明のシリカを得る。
【0092】
シリカを粉砕する方法としては、公知のいかなる装置・器具を用いてもよい。具体的には、例えば粒径が10μm以下の微細なシリカを得るには、ボールミル(転動ミル、振動ボールミル、遊星ミル等)、攪拌ミル(塔式粉砕器、攪拌槽型ミル、流通管型ミル、アニュラー(環状)ミル等)、高速回転微粉砕器(スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級方ミル)、ジェット粉砕器(循環ジェットミル、衝突タイプミル、流動層ジェットミル)、せん断ミル(擂解機、オングミル)、コロイドミル、乳鉢などの装置・器具を用いることができる。これらの中で、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得る際には、ボールミル、攪拌ミルがより好ましい。また、粉砕時の状態としては、湿式法及び乾式法があり、いずれも選択可であるが、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得るためには湿式法がより好ましい。湿式法の場合、使用する分散媒としては、水、及び、アルコール等の有機溶媒のいずれを単独で用いてもよく、また、2種以上の分散媒を任意の組み合わせ及び比率で混合溶媒として用いてもよく、この分散媒の選択は目的に応じて行なえばよい。また、湿式法の場合には、必要に応じて粉砕後に乾燥を行なう。なお、粉砕時に不必要に強い圧力や剪断力を長時間かけ続けることは、シリカの細孔特性を損なうことがあり、好ましくない。
【0093】
[1−3.その他]
本発明の断熱材は、上述の様に、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカからなるため、高い断熱性と充分な強度とを有する。また、シリコンアルコキシドを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理し、生成したシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下に調整した上で乾燥するという、比較的簡単な方法によって製造することができる。
【0094】
ここで、特に上述の特許文献1に記載されたエアロゲルと比較しながら、本発明の断熱材の優れた点について更に詳細に考察する。
特許文献1記載の技術では、水ガラスをイオン交換する工程、pHを塩基性としてゲル化させる工程、アセトンにより水分を除去する工程、及び、シリル化処理後に超臨界乾燥によりアセトンを抽出し乾燥ゲルを作成する工程によってエアロゲルを製造している。このため、原料が水ガラスのように金属不純物を多量に含むものである場合には、製造されるエアロゲルに金属不純物が残留する。また、金属不純物を除去しようとすれば、金属不純物除去のために長時間かけて洗浄を行なう必要があるため、製造に手間および時間が必要となり、製造コストの上昇を招く。さらに、金属不純物の課題を別としても、ゲル化を塩基性条件下で行なっているために構造制御が困難となり強固な多孔体構造を作ることができず、したがって、得られるエアロゲルの強度が低くなる。これにより、製造される断熱材は充分な強度を有さず、また、製造にも手間がかかってしまう。
【0095】
これに対し、本発明の断熱材に用いられるシリカは、通常、シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程、得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程、得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下とする水分除去工程、及び、該シリカスラリーを乾燥する乾燥工程によって製造される。即ち、金属不純物の含有率が小さい原料を用いており、しかも製造工程において金属不純物が混入する虞が無いので、金属不純物を除去する工程を設けなくとも金属不純物の含有率が小さいシリカを得ることができる。しかも、こうして製造されたシリカは大きな細孔容積を有するため、断熱材として用いることにより、十分な強度と優れた断熱性を発揮することができる。また、熟成を行なうことなく加水分解によりシリカを製造できるので、製造に要する時間及び手間が削減されて製造工程が効率化され、製品の低価格化を図ることが可能となる。
【0096】
本発明の断熱材は、以上の利点を備えていることから、保冷や保温など断熱性が必要な各種の用途に用いることができる。例えば、冷蔵庫、冷凍庫、保冷車、車の天井部、バッテリー、冷凍または冷蔵船、保温コンテナ、冷凍または保冷用ショーケース、携帯用クーラー、料理用保温ケース、自動販売機、太陽熱温水器、床暖房、床下、壁または壁内、天井部、屋根裏部屋等の建材、熱水または冷却水の配管、低温流体を移送する導管その他プラント機器類、衣料、寝具等の断熱材として好適に用いることができる。また、特にシリカは透明度が高いため、例えば建材であればガラスで囲って断熱用窓ガラスとするなど、透明性を生かした用途に用いることもできる。
【0097】
[2.本発明の断熱体]
本発明の断熱材の使用形態は特に制限は無く、上述の用途にそのまま用いても良いが、その用途によっては、本発明の断熱材を外装材で密閉した断熱体(本発明の断熱体)として用いるのも好ましい。
【0098】
外装材は、本発明の断熱材を密閉できるものであれば、特に限定無く様々なものを用いることができるが、特に、外装材で密閉された内部を外気から遮断することが可能なものが好ましい。
通常、外装材により断熱材を密閉する場合、断熱材の存在する外装材内部を、通常は減圧状態、好ましくは真空状態として、断熱材であるシリカの空隙の熱伝導度を低下させることが望まれる。
ここで、外装材を通して内部にガスが進入してくると、シリカの空隙の熱伝導度が上昇し、断熱材の断熱性が低下してしまうので、好ましくない。よって、外装材としては、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたものが好ましい。
また、外装材を通して内部に水が浸入してくると、断熱材であるシリカが水を吸収して断熱性が低下してしまう虞があるので、やはり好ましくない。よって、外装材は非透湿性を有する非透湿層を備えたものが好ましい。
【0099】
更に、外装材自体も優れた断熱性を有する素材で形成されていることが好ましい。さらに、外装材は、筐体のように定形の形状を有するものでもよく、フィルムなど非定型のものであってもよい。
【0100】
外装材の具体例としては、ステンレススチール、アルミニウム、鉄などの金属の薄板や、アルミニウム箔などの金属箔などのほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂に、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコールフィルムや、アルミ等の金属やシリコンをラミネートしたラミネート材等が挙げられる。また、これらに表面保護層として、外装材の外表面にポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムの延伸加工品などの層を設けたり、ナイロンフィルムなどを設けると可撓性が向上し、耐折り曲げ性などが向上する。
【0101】
外装材により本発明の断熱材を密閉する際には、外装材の種類に応じて各種の手法を用いることができるが、上述の様に、断熱材の内部を減圧状態、好ましくは真空状態としながら密閉することが好ましい。
【0102】
なお、本発明の断熱材に加えて、その他の断熱材料等の各種の物質を、一緒に外装材内に密閉しても良い。これらの物質の種類は、断熱材の使用形態及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0103】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0104】
(1)断熱材の製造:
・実施例1:
<加水分解・ゲル化反応>
ガラス製で、上部に大気開放の水冷コンデンサが取り付けてある5Lセパラブルフラスコ(ジャケット付き)に、純水1000gを仕込んだ。攪拌翼先端速度2.5m/sで撹拌しながら、これにテトラメトキシシラン1400gを3分間かけて仕込んだ。用いたテトラメトキシシラン1モルに対する水のモル数(水/テトラメトキシシランのモル比)は6である。セパラブルフラスコのジャケットには50℃の温水を通水した。引き続き撹拌を継続し、内容物が沸点に到達した時点で、撹拌を停止した。引き続き0.5時間、ジャケットに50℃の温水を通水して、生成したゾルをゲル化させた。
【0105】
<粉砕反応>
その後、速やかにゲルを取り出し、目開き400μmのナイロン製網を通してゲルを粉砕し、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。
【0106】
<水熱処理>
このシリカヒドロゲル300gと水450gとを、1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、200℃で、3時間の密閉系水熱処理を実施した。
【0107】
<親水性有機溶媒との接触処理>
水熱処理して得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、濾滓を別のセパラブルフラスコに無水メタノール600gと共に加え、攪拌翼を用いて室温で1時間ゆっくり攪拌した。このスラリーをデカンテーションによって固液分離し、得られた固体について、無水メタノール600gを用いて再度、上述と同様の液置換操作を行なった。
【0108】
初回を合わせ、この操作を合計3回行なった後、カールフィッシャー法によりシリカ中の水分含有量を求めたところ、2重量%以下であった。
この様にして得られたシリカを、100℃で恒量となるまで減圧乾燥し、実施例1の断熱材とした。
【0109】
(2)断熱材の分析:
実施例1の断熱材(シリカ)について、その諸物性を以下の手法で測定した。
2−1)細孔容積:
カンタクローム社製AS−1を用いて、断熱材であるシリカのBET窒素吸着等温線を測定し、その細孔容積を求めた。具体的には、相対圧P/P0=0.98のときの値を採用した。
【0110】
2−2)最頻細孔径:
レーザー式粒度分布測定装置(セイシン企業社製 LMS−30)を用いて、断熱材であるシリカの最頻細孔径を測定した。
【0111】
2−3)金属不純物の含有率:
断熱材であるシリカ2.5gにフッ酸を加えて加熱し、乾涸させたのち、水を加えて50mlとした。この水溶液を用いてICP発光分析を行ない、金属不純物の含有率を求めた。なお、ナトリウム及びカリウムの含有率については、フレーム炎光法で分析した。
【0112】
2−4)断熱体の熱伝導度の評価:
断熱材を、金属薄膜層と熱可塑性ポリマー層とを有する容器に入れ、内部を100Paに減圧した後、開口部にヒートシールを行ない、平板状の断熱体とした。この断熱体の熱伝導度を、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製 AUTO−∧)を用いて、平均温度25℃にて測定した。次いで、断熱体をW字型に折り曲げた後、再び平板状に戻して、再度熱伝導度を測定した。
【0113】
測定の結果得られた断熱材の諸物性を表−1に示す。
【表1】
【0114】
表−1に明らかな様に、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカからなる実施例1の断熱材は、外装材で密閉して断熱体とした場合の熱伝導度が極めて低いことから、断熱性が要求される各種の用途に好適に用いることができるものと考えられる。また、断熱体を折り曲げた前後で断熱体の熱伝導度に変化がないことから、実施例1の断熱材は、折り曲げ加工のような断熱体を変形させる大きな力が加わっても断熱材の構造が壊れて空隙が埋まってしまうことがない、即ち、高い強度を有することがわかる。したがって、強い力が加わる過酷な環境下であっても、本発明の断熱材は安定して高い断熱性を発揮できることが確認された。
【0115】
【発明の効果】
本発明によれば、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカを用いることにより、高い断熱性を有するとともに、簡単な製造方法によって製造可能な、優れた断熱材を提供することができる。また、この断熱材は、高い強度を有するため、折り曲げ加工のような強い力が加わる過酷な環境下であっても安定して高い断熱性を発揮することができる。また、この断熱材を外装材で密閉して断熱体とすることにより、各種用途に好適に用いることが可能となる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、電化製品や建材などに用いて好適な断熱材及び断熱体に関し、特に、シリカからなる断熱材と、それを外装材で密閉してなる断熱体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、居住環境の保冷や保温、及び、冷却や暖房のための機器などにおいて熱を効率的に利用するための断熱材の開発が行なわれてきた。また、近年ではノート型コンピュータやいわゆる情報家電など、内部に情報処理装置を備えた電化製品が多数提供されるようになったが、これらの機器は内部からの熱が外部に出ないようにしたり、また、外部の熱が内部の情報処理装置に悪影響を及ぼさないようにしたりする必要があるため、断熱材を使用する必要がある。このように、断熱材を使用する機会はますます多くなってきており、このため、優れた断熱材を開発するための研究が行なわれ、さまざまな断熱材が提案されている。
【0003】
特に、シリカは熱伝導度が低い上に、多孔体として構成できるため、高い断熱性を発揮することが可能であり、断熱材として非常に注目されている。
【0004】
シリカを用いた断熱材の具体例として、特許文献1には、水ガラスを原料としてゾルゲル法によりシリカヒドロゲルを製造し、このシリカヒドロゲルを乾燥させることによりシリカのエアロゲルを製造して、このエアロゲルを断熱材として用いることが提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−174140号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常は水ガラスには多量の金属不純物が含まれているので、特許文献1のように水ガラスから製造したエアロゲルには多くの金属不純物が残留する。エアロゲル中の金属不純物が多いと、エアロゲル中のシリカの細孔分布が拡大し、多孔体としての構造制御が困難となって、多孔体の強度が低くなる。また、シリカの多孔体の粒子径を大きくするために塩基性条件下においてゲルを作成する場合には、ゲル中の細孔分布が拡大するために、金属不純物の影響とは別に多孔体としての構造制御が困難となり、多孔体の強度が低くなる。このように、高い強度を有するシリカの多孔体を断熱材とする技術はこれまで提案されていなかったため、断熱性及び強度がともに優れた断熱材の開発が望まれていた。
【0007】
また、上述したような金属不純物をエアロゲル中から除去しようとすれば、その製造段階において、シリカヒドロゲルを水により洗浄する工程、及び、洗浄に用いた水を除去する工程をエアロゲル製造工程に組み込む必要がある。このため、断熱材の製造に要する時間は長くなり、また、その製造方法も複雑になって、その結果、製造コストが上昇していた。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、充分な強度と高い断熱性とを有するとともに、簡単な製造方法によって製造することができる、優れた断熱材及びそれを用いた断熱体を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカからなる断熱材が、充分な強度及び断熱性を有し、しかも簡単な製造方法によって製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする、断熱材に存する(請求項1)。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径が、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下
【0011】
なお、全空隙率は80%以上であることが好ましい(請求項2)。ここで「全空隙率」とは、シリカの占める全体積に対する、シリカの粒子内の細孔容積と粒子間の空隙の容積とを合わせた全空隙の容積の比率をいう。
【0012】
また、上記シリカの全空隙の容積と細孔容積との比(細孔容積/全空隙容積)が1.5%以上であることが好ましい(請求項3)。
また、固体Si−NMRにより測定した上記シリカのQ4/Q3値は、1.2以上であることが好ましい(請求項4)。
【0013】
また、上記シリカは、非晶質であることが好ましい(請求項5)。
【0014】
また、上記シリカの有する細孔のうち、細孔直径が最頻細孔径Dmaxの±20%の範囲に存在する細孔の容積が、全細孔の容積の50%以上であることが好ましい(請求項6)。
【0015】
本発明の別の要旨は、シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程と、前記加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程と、前記物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下とする水分除去工程と、前記水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する乾燥工程とを備えた方法により製造されたシリカからなることを特徴とする、断熱材に存する(請求項7)。
【0016】
なお、上記水分除去工程においては、上記シリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させることにより水分含有量を5重量%以下とすることが好ましい(請求項8)。
また、上記シリコンアルコキシドの金属の含有率は、100重量ppm以下であることが好ましい(請求項9)。
【0017】
また、本発明の別の要旨は、上述した断熱材を外装材に密閉したことを特徴とする断熱体に存する(請求項10)。
なお、上記外装材は、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えることが好ましく(請求項11)、非透湿性を備えた非透湿層を有することが好ましい(請求項12)。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨を超えない限りにおいて、変形して実施することも可能である。
【0019】
[1.本発明の断熱材]
本発明の断熱材は、以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径が、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下
【0020】
[1−1.本発明のシリカ]
以下、本発明の断熱材に用いられるシリカ(以下適宜、「本発明のシリカ」という)について説明する。
なお、本発明において「シリカ」とは含水ケイ酸のことを指す。含水ケイ酸は、SiO2・nH2Oの示性式(ここで、nは0より大きい数)で表される。
【0021】
本発明のシリカは、細孔容積が通常の値よりも大きい範囲に存在することを特徴とする。具体的には、窒素ガス吸・脱着法で測定した細孔容積の値が、1.8ml/g以上である。中でも好ましくは1.85ml/g以上、特に好ましくは1.9ml/g以上であり、また、通常3.4ml/g以下、中でも好ましくは3.2ml/g以下、特に好ましくは3.0ml/g以下である。細孔容積は、吸着等温線の相対圧0.98における窒素ガスの吸着量から求めることができる。
【0022】
また、本発明のシリカは、窒素ガス吸脱着法で測定した等温脱着曲線から、E.P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73,373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線、即ち、細孔直径d(nm)に対して微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd);Vは窒素ガス吸着容積)をプロットした図上での最頻細孔径(Dmax)が、50nm以下であることを特徴とする。詳しくは、最頻細孔径(Dmax)は通常5nm以上、50nm以下、好ましくは40nm以下である。最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも小さいと、シリカの細孔が小さくなり、断熱材中における空隙の割合が小さくなるために、断熱性が低下する。また、最頻細孔径(Dmax)がこの範囲よりも大きいと、シリカの強度が小さくなり、断熱材の強度を高くすることが難しくなる。
【0023】
また、本発明のシリカにおいては、シリカ中に含まれる、シリカの骨格を構成するケイ素を除いた金属元素(金属不純物)の合計の含有率は、100重量ppm以下である。具体的には、100重量ppm以下、好ましくは50重量ppm以下、更に好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下、最も好ましくは1重量ppm以下である。
【0024】
シリカ中の金属不純物の存在は、その総含有率がたとえ数百重量ppm程度の微量であっても、シリカの性質に大きな影響を与える。例えば、1)これらの金属不純物の存在が、高温化ではシリカの結晶化を促進する、2)これらの金属不純物の存在が、水存在下ではシリカの意図しない水熱反応を促進して、細孔径や細孔容積の拡大、比表面積の低下、細孔分布の拡大をもたらす、3)これらの金属不純物は燃焼温度を低下させるので、これらの不燃物を含むシリカを加熱すると、比表面積の低下が促進される等の影響が挙げられる。即ち、金属不純物の存在は、シリカの構造の制御を困難にし、均一で強固な細孔構造を有するシリカを形成することを妨げる要因になる。そして、かかる影響は、アルカリ金属やアルカリ土類金属に属する金属を含む金属不純物において、特にその傾向が強い。
【0025】
かかる特徴に関連して、本発明のシリカは、上記のBJH法により算出された最頻細孔径(Dmax)における微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が、通常2ml/g以上、中でも3ml/g以上、特に5ml/g以上であることが好ましく、通常40ml/g以下、中でも30ml/g以下、特に25ml/g以下であることが好ましい(なお、上式において、dは細孔直径(nm)であり、Vは窒素ガス吸着容積である)。微分細孔容積ΔV/Δ(logd)が前記範囲に含まれるものは、最頻細孔径(Dmax)の付近に揃っている細孔の絶対量が極めて多いものと言える。
【0026】
また、本発明のシリカの全空隙率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは87.5%以上、また、通常99.5%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは98.5%以下である。ここで「全空隙率」とは、シリカの占める全体積に対する、シリカの粒子内の細孔容積と粒子間の空隙の容積とを合わせた全空隙の容積の比率をいう。全空隙率がこの範囲よりも小さいと、本発明の断熱材の断熱性が低くなり、この範囲よりも大きいと断熱材としての強度が充分得られない虞がある。なお、シリカの全空隙率は、シリカのかさ密度を測定し、以下の式を用いることで算出することができる。また、かさ密度は、例えばJISK6721のような公知の任意の方法で測定すればよい。また、シリカの粒子密度は2.0g/cm3である。
全空隙率=1−(かさ密度)/(シリカの粒子密度)
【0027】
さらに、本発明のシリカは、全空隙の容積に対する細孔容積の比率が大きいことが好ましい。具体的には、細孔容積/全空隙容積で表わされる全空隙の容積と細孔容積との比が、通常1.5%以上、好ましくは3.5%以上、より好ましくは5.0%以上であることが望ましい。シリカの粒子間をつなぐ部分の強度は、一般に、シリカ粒子自体の強度よりも低い。そのため、断熱材の断熱性を高めるためにシリカの空隙の体積を大きくした場合、粒子間の空隙を増やそうとするとシリカの強度が大きく低下してしまうが、細孔容積を増やすことにより空隙を増やせば、比較的強度が強いシリカ粒子内の空隙が増えるわけであるからシリカの強度を高く保ったまま断熱性を向上させることができる。即ち、細孔容積/全空隙の容積で表わされる比が大きいことにより、本発明のシリカの強度を高めることができるのである。
【0028】
本発明のシリカは、これを構成するシリカの構造に歪みが少ないことを特徴とする。ここで、シリカの構造的な歪みは、固体Si−NMR測定におけるQ4ピークのケミカルシフトの値によって表わすことができる。以下、シリカの構造的な歪みと、前記のQ4ピークのケミカルシフトの値との関連について、詳しく説明する。
【0029】
本発明のシリカは、ケイ酸の水和物であり、SiO2・nH2Oの示性式で表されるが、構造的には、Siの四面体の各頂点にOが結合され、これらのOに更にSiが結合してネット状に広がった構造を有する。そして、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、Oの一部が他の成員(例えば−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのSiに注目した場合、下記式(A)に示す様に4個の−OSiを有するSi(Q4)、下記式(B)に示す様に3個の−OSiを有するSi(Q3)等が存在する(下記式(A)及び(B)では、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を平面的に表わしている)。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各Siに基づくピークは、順にQ4ピーク、Q3ピーク、・・と呼ばれる。
【0030】
【化1】
【0031】
本発明のシリカが有する高い耐水熱性及び耐熱性と、上記の様な構造的歪みの関係については、必ずしも明らかではないが、次の様に推定される。すなわち、シリカは大きさの異なる球状粒子の集合体で構成されているが、上記の様な構造的に歪みの少ない状態においては、球状粒子全体のミクロ構造的な高度の均質性が維持されるので、その結果、高い耐水熱性及び耐熱性が発現されるものと考えられる。なお、Q3以下のピークは、Si−Oのネット構造の広がりに制限があるため、シリカの構造的な歪みが現れ難い。
【0032】
更に、上記の特徴に関連して、本発明のシリカは、固体Si−NMR測定によるQ4/Q3の値が、通常1.2以上、中でも1.4以上であることが好ましい。ここで、Q4/Q3の値とは、上述したシリカの繰り返し単位の中で、−OSiが3個結合したSi(Q3)に対する−OSiが4個結合したSi(Q4)のモル比を意味する。なお、上限値は特に制限されないが、通常は10以下である。一般にこの値が高い程、シリカの熱安定性が高いことが知られており、ここから本発明のシリカが熱安定性についても極めて優れていることが判る。
【0033】
なお、Q4/Q3の値は、固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(ピーク位置の決定)は、例えば、ガウス関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
【0034】
また、本発明のシリカは、以上の細孔構造の特徴に加えて、その三次元構造を見るに、非晶質であること、即ち、結晶性構造が認められないことが好ましい。このことは、本発明のシリカをX線回折で分析した場合に、結晶性ピークが実質的に認められないことを意味する。なお、本明細書において非晶質でないシリカとは、X線回折パターンで6オングストローム(Å Units d−spacing)を越えた位置に、少なくとも一つの結晶構造のピークを示すものを指す。非晶質のシリカは、結晶性のシリカに較べて、断熱性が高いことに加え、極めて生産性に優れている。
【0035】
加えて、本発明のシリカは、上記の最頻細孔径(Dmax)の値の±20%の範囲にある細孔の総容積が、全細孔の総容積の通常50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上であることが好ましい。このことは、本発明のシリカが有する細孔の直径が、最頻細孔径(Dmax)付近の細孔で揃っていること、つまり細孔径の分布が極めて狭い(シャープである)ことを意味する。なお、この比の値の上限は特に制限されないが、通常は90%以下である。細孔径の分布が小さければ、本発明のシリカの構造は均一なものとなり、したがって、断熱材の一部が強固で一部がもろい、というような強度のバラツキが発生せず、全体として強度の高い断熱材を得ることができる。
【0036】
[1−2.本発明のシリカの製造方法]
次に、本発明のシリカの製造方法を説明する。
本発明のシリカの製造方法は、上述した物性を有するシリカを製造することができる方法であれば特に制限はないが、特に、シリコンアルコキシドを加水分解する工程(加水分解・縮合工程)と、加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する工程(物性調節工程)と、物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下とする工程(水分除去工程)と、水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する工程(乾燥工程)とを有する方法により製造することが好ましい。
【0037】
上記の製造方法は、具体的には、シリコンアルコキシドを加水分解し、得られたシリカヒドロゲルを、好ましくは実質的に熟成することなしに水熱処理し、次いで水分除去工程として親水性有機溶媒と接触させた後に、乾燥させることで、シリカ中の水分を除去することを特徴とする。
【0038】
[1−2−1.加水分解・縮合工程]
加水分解・縮合工程においては、シリコンアルコキシドを加水分解してシリカヒドロゲルを得る。得られるシリカヒドロゲルは、その原料であるシリコンアルコキシドの高純度化が可能であり、シリカヒドロゲルへの不純物の混入を容易に防止できるので好ましい。
【0039】
本発明のシリカの原料として使用されるシリコンアルコキシドとしては、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等の炭素数1〜4の低級アルキル基を有するトリ又はテトラアルコキシシラン或いはそれらのオリゴマーが挙げられる。中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン及びそれらのオリゴマー、特にテトラメトキシシランやそのオリゴマーを用いると、良好な細孔特性を有するシリカが得られるので好ましい。その主な理由としては、シリコンアルコキシドは蒸留により容易に精製し、高純度品が得られるので、高純度のシリカの原料として好適であることが挙げられる。シリコンアルコキシド中の金属(金属不純物)の総含有量は、通常100重量ppm以下、中でも50重量ppm以下、更には10重量ppm以下、特に1重量ppm以下が好ましい。これらの金属不純物の含有率は、一般的なシリカ中の不純物含有率の測定法と同じ方法で測定できる。このように金属不純物の含有率が少ないシリコンアルコキシドを用いれば、製造されるシリカ中の金属不純物の含有率を小さくすることができる上、本願にかかるシリカの製造工程中において金属を除去する工程が不要となり、即ち、一般的に行なわれるような水による洗浄工程及び洗浄に用いた水を除去する工程が不要となるため、本発明のシリカを簡単に製造することができる。
【0040】
本発明では、先ず、加水分解・縮合工程において、触媒の不存在下にシリコンアルコキシドを加水分解すると共に得られたシリカヒドロゾルを縮合してシリカヒドロゲルを形成する。
【0041】
シリコンアルコキシドの加水分解は、シリコンアルコキシド1モルに対して、通常2モル倍以上、好ましくは3モル倍以上、特に好ましくは4モル倍以上、また、通常20モル倍以下、好ましくは10モル倍以下、特に好ましくは8モル倍以下の水を用いて行なう。シリコンアルコキシドの加水分解により、シリカのヒドロゲルとアルコールとが生成し、生成したシリカヒドロゾルは逐次縮合してシリカヒドロゲルとなる。
【0042】
加水分解時の温度は、通常室温以上、100℃以下であるが、加圧下で液相を維持することで、より高い温度で行なうことも可能である。加水分解に要する反応時間は反応液組成(シリコンアルコキシドの種類や、水とのモル比)並びに反応温度に依存し、ゲル化するまでの時間が異なるので、一概には規定されない。この反応時間は、本発明のシリカのように細孔特性に優れたシリカを得る為には、ヒドロゲルの破壊応力が6MPaを越えない時間であることが好ましい。
【0043】
なお、この加水分解反応系に、触媒として、酸、アルカリ、塩類などを添加することで加水分解を促進させることができる。しかしながら、かかる添加物の使用は、後述のように、生成したヒドロゲルの熟成を引き起こすため、本発明のシリカゲルの製造においてはあまり好ましいことではない。また、もちろん、これらの酸、アルカリを用いる場合であっても、金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まないものを選択すべきであることは言うまでもない。さらに、塩類は金属不純物となる虞があるので、使用する場合でも極力少量とすべきである。
【0044】
上述したシリコンアルコキシドの加水分解に際しては、攪拌を充分に行なうことが重要となる。例えば、回転軸に攪拌翼を備えた攪拌装置を用いた場合、その攪拌速度(回転軸の回転数)としては、攪拌翼の形状・枚数・液との接触面積等にもよるが、通常は30rpm以上、好ましくは50rpm以上である。
【0045】
また、この攪拌速度は、一般的に速過ぎると、槽内で生じた飛沫が各種のガスラインを閉塞させたり、また反応器内壁に付着して熱伝導を悪化させ、物性制御に重要な温度管理に影響を及ぼしたりする場合がある。更に、この内壁の付着物が剥離し、製品に混入して品質を悪化させる場合もある。この様な理由から、攪拌速度は2000rpm以下、中でも1000rpm以下であることが好ましい。
【0046】
本発明に於いて、分液している二液相(水相、及びシリコンアルコキシド相)の攪拌方法は、反応を促進させる方法であれば任意の攪拌方法を用いることが出来る。中でも、この二液相をより混合させるような装置としては、例えば以下の▲1▼、▲2▼が挙げられる。
【0047】
▲1▼:回転軸が液面に対し垂直又は僅かに角度を持って挿入され、上下に液の流動が生じる攪拌翼を有する装置。
▲2▼:回転軸方向を二液相の界面と略平行に設け、二液相間に攪拌を生じさせる攪拌翼を有する攪拌装置。
【0048】
上述した▲1▼、▲2▼の様な装置を用いた際の攪拌翼の回転速度は、攪拌翼の周速度(攪拌翼先端速度)で、0.05〜10m/s、中でも0.1〜5m/s、さらには0.1〜3m/sであることが好ましい。
【0049】
攪拌翼の形状や長さ等は任意であり、攪拌翼としては例えばプロペラ型、平羽根型、角度付平羽根型、ピッチ付平羽根型、平羽根ディスクタービン型、湾曲羽根型、ファウドラー型、ブルマージン型等が挙げられる。
【0050】
翼の幅、枚数、傾斜角等は反応器の形状、大きさ、目的とする攪拌動力に応じて適宜選定すればよい。たとえば反応器の槽内径(回転軸方向に対して垂直面を形成する液相面の最長径)に対する翼幅(回転軸方向の翼の長さ)の比率(b/D)は0.05〜0.2、傾斜角(θ)90゜±10゜、翼枚数3〜10枚の攪拌装置が好適な例として挙げられる。
【0051】
中でも、上述の回転軸を反応容器内の液面よりも上に設け、この回転軸から伸ばした軸の先端部分に攪拌翼を設ける構造が、攪拌効率及び設備メンテナンスの観点から好適に使用される。
【0052】
上記のシリコンアルコキシドの加水分解反応では、シリコンアルコキシドが加水分解してシリカヒドロゾルが生成するが、引き続いて該シリカヒドロゾルの縮合反応が起こり、反応液の粘度が上昇し、最終的にゲル化してシリカヒドロゲルとなる。
【0053】
[1−2−2.物性調節工程]
次いで、本発明では、物性調節工程として、実質的に熟成することなく、シリカヒドロゲルの水熱処理を行なう。シリコンアルコキシドを加水分解すると、軟弱なシリカヒドロゲルが生成する。なお、このヒドロゲルの物性を安定させるべく、熟成、あるいは乾燥させ、次いで水熱処理を施すという、従来行なわれているような方法では、本発明のシリカを製造することは困難である。
【0054】
上記のように、加水分解により生成したシリカヒドロゲルを、実質的に熟成することなく、直ちに水熱処理を行なうということは、シリカヒドロゲルが生成した直後の軟弱な状態が維持されたままで、次の水熱処理に供するようにするということを意味する。
【0055】
具体的には、シリカヒドロゲルが生成した時点から、一般的には10時間以内に水熱処理することが好ましく、中でも8時間以内、更には6時間以内、特に4時間以内にシリカヒドロゲルを水熱処理することが好ましい。
【0056】
また、工業用プラント等に於いては、大量に生成したシリカヒドロゲルを一旦サイロ等に貯蔵し、その後水熱処理を行なう場合が考えられる。この様な場合、シリカヒドロゲルは、シリカヒドロゲルが生成してから水熱処理に供されるまでの時間、いわゆる放置時間が、上述の範囲を超える場合が考えられる。この様な場合には、熟成が実質的に生じないように、サイロ内での静置中に、例えばシリカヒドロゲル中の液体成分が乾燥しないようにすればよい。
【0057】
具体的には、例えば、サイロ内を密閉したり、湿度を調節したりすればよい。また、水やその他の溶媒にシリカヒドロゲルを浸した状態で、シリカヒドロゲルを静置してもよい。
【0058】
静置の際の温度は、できるだけ低くすることが好ましく、例えば50℃以下、中でも35℃以下、特に30℃以下で静置することが好ましい。また、熟成が実質的に生じないようにする別の方法としては、シリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御してシリカヒドロゲルを調製する方法が挙げられる。
【0059】
シリカヒドロゲルを実質的に熟成せずに水熱処理することにより奏する効果と、この効果が得られる理由を考察すると、以下のことが考えられる。
【0060】
まず、シリカヒドロゲルを熟成させると、−Si−O−Si−結合によるマクロ的網目構造が、シリカヒドロゲル全体に形成されると考えられる。この網目構造がシリカヒドロゲル全体に有ることで、水熱処理の際、この網目構造が障害となり、メソポーラスの形成が困難となることが考えられる。またシリカヒドロゲル中のシリカ濃度が低くなるように、予め原料組成を制御して得られたシリカヒドロゲルは、静置中に生ずるシリカヒドロゲルにおける架橋の進行を抑制できる。その為、シリカヒドロゲルが熟成しないと考える。
【0061】
よって、本発明では、シリカヒドロゲルを熟成することなく、水熱処理を行なうことが重要である。
【0062】
シリコンアルコキシドの加水分解反応系に酸、塩類等を添加すること、又は該加水分解反応の温度を厳しくし過ぎることなどは、ヒドロゲルの熟成を進行させるという点から好ましくない。また、加水分解後の後処理における水洗、乾燥、放置などにおいて、必要以上に温度や時間をかけるべきではない。
【0063】
更に、シリコンアルコキシドの加水分解で得られたシリカヒドロゲルは、水熱処理を行なう前に、これを平均粒径10mm以下、中でも5mm以下、更には1mm以下、特に0.5mm以下となるよう、粉砕処理等を施すことが好ましい。特に、平均粒径を0.3mm以下とすれば、後述する水分除去工程において親水性有機溶媒による置換が容易となるため、好ましい。
【0064】
上述の通り、本発明のシリカの製造方法としては、シリカヒドロゲルの生成の直後に、直ちにこれを水熱処理する方法が重要である。但し、この製造方法に於いては、水熱処理するシリカヒドロゲルが熟成していなければよいので、例えば暫時低温下で静置した後に水熱処理するなど、必ずしもシリカヒドロゲルの生成直後、直ちにこれを水熱処理することを必要としない。
【0065】
このように、シリカヒドロゲルの生成の直後、直ちにこれを水熱処理しない場合には、例えばシリカヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認してから水熱処理を行なえばよい。ヒドロゲルの熟成状態を具体的に確認する手段は任意であるが、例えば、測定したヒドロゲルの硬度を参考にする方法が挙げられる。即ち、先述したとおり、この破壊応力が通常6MPa以下の柔らかい状態のヒドロゲルを水熱処理することで、本発明で規定する物性範囲のシリカを得ることができる。この破壊応力は、中でも3MPa以下であることが好ましく、特に2MPa以下であることが好ましい。
【0066】
この水熱処理の条件としては、水の状態が液体、気体のいずれでもよいが、中でも、液体の水を使い、シリカヒドロゲルに加えてスラリー状として、水熱処理を行なうことが好ましい。水熱処理においては、まず、処理するシリカヒドロゲルに、シリカヒドロゲルの重量に対して通常0.1重量倍以上、好ましくは0.5重量倍以上、特に好ましくは1重量倍以上、また、通常10重量倍以下、好ましくは5重量倍以下、特に好ましくは3重量倍以下の水を加えてスラリー状とする。そしてこのスラリーを、通常40℃以上、好ましくは100℃以上、中でも好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の温度で、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは10時間以下にわたって、水熱処理を行なう。水熱処理の温度が低すぎると、細孔分布がシャープになり難く、また、細孔容積を大きくすることも困難となる場合がある。
【0067】
なお、水熱処理に使用される水には、溶媒が含まれていてもよい。溶媒として、具体的には、例えば、低級アルコール類であるメタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。この溶媒は、例えばアルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、その原料であるアルコキシシランに由来するアルコール類であってもよい。もちろん、この溶媒としては金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まないものを選択すべきであることは言うまでもない。
【0068】
熱処理に用いる水における、この様な溶媒の含有量は任意だが、少ない方が好ましい。例えば、上述した様な、アルコキシシランを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する際には、このシリカヒドロゲルを水洗し、水洗されたものを水熱反応に供することにより、150℃程度まで温度を下げて水熱処理を行なった場合でも、細孔特性に優れ且つ細孔容積の大きいシリカを製造することが出来る。また、溶媒を含んでいる水で水熱処理を行なっても、200℃程度の温度での水熱処理を行なうことで、本発明のシリカを容易に得ることが出来る。
【0069】
なお、加水分解反応の反応器を用い、続けて温度条件変更により水熱処理を行なうことも可能であるが、加水分解反応とその後の水熱処理では最適条件が通常は異なっているため、この様に水を新たに加えないで行なう方法では、本発明のシリカを得ることは一般的には難しい。
【0070】
以上の水熱処理の条件において、温度を高くすると、得られるシリカの径、細孔容積が大きくなる傾向がある。水熱処理温度としては、100〜200℃の範囲であることが好ましい。また、処理時間とともに、得られるシリカの比表面積は、一度極大に達した後、緩やかに減少する傾向がある。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択する必要があるが、水熱処理は、シリカの物性を変化させる目的なので、通常、前記の加水分解の反応条件より高温条件とすることが好ましい。
【0071】
なお、ミクロ構造的な均質性に優れる本発明のシリカを製造するためには、水熱処理の際に、反応系内の温度が5時間以内に目的温度に達する様に、速い昇温速度条件とすることが好ましい。具体的には、槽に充填して処理される場合、昇温開始から目標温度到達までの平均昇温速度として、通常0.1℃/min以上、中でも0.2℃/min以上、また、通常100℃/min以下、中でも30℃/min以下、特に10℃/min以下の範囲の値を採用するのが好ましい。
【0072】
熱交換器などを利用した昇温方法や、あらかじめ作っておいた熱水を仕込む昇温方法なども、昇温速度を短縮することができて好ましい。また、昇温速度が上記範囲であれば、段階的に昇温を行なってもよい。反応系内の温度が目的温度に達するまでに長時間を要した場合には、昇温中にシリカヒドロゲルの熟成が進み、ミクロ構造的な均質性が低下する恐れがある。
【0073】
上記の目的温度に達するまでの昇温時間は、好ましくは4時間以内、更に好ましくは3時間以内である。昇温時間の短縮化のため、水熱処理に使用する水を予熱することもできる。
【0074】
水熱処理の温度、時間を上記範囲外に設定すると、本発明のシリカを得ることが困難となる。例えば、水熱処理の温度が高すぎると、シリカの細孔径、細孔容積が大きくなりすぎ、また、細孔分布も広がる。逆に、水熱処理の温度が低過ぎると、生成するシリカは、架橋度が低く、熱安定性に乏しくなり、細孔分布にピークが発現しなくなったり、前述した固体Si−NMRにおけるQ4/Q3値が極端に小さくなったりする。
【0075】
なお、水熱処理をアンモニア水中で行なうと、純水中で行なう場合よりも低温で同様の効果が得られる。また、アンモニア水中で水熱処理すると、アンモニアを含まない水を用いた水熱処理と比較して、最終的に得られるシリカは一般に疎水性となる。この際、水熱処理の温度を30℃以上、好ましくは40℃以上、また、250℃以下、好ましくは200℃以下という比較的高温とすると、特に疎水性が高くなる。ここでのアンモニア水のアンモニア濃度としては、好ましくは0.001%以上、特に好ましくは0.005%以上、また、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%である。また、ここで使用するアンモニア水は金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まない高純度のものを使用することが好ましい。
【0076】
[1−2−3.水分除去工程]
上述した水熱処理を経て得られたシリカには、多量の水が含まれている。例えば、水熱処理後のシリカは、多量の水を含むシリカ(例えばシリカスラリー)として得られる。本発明のシリカの製造方法においては、この水を除去することが重要である。具体的には、このシリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させ、水を親水性溶媒で置換し、次いでシリカを乾燥するという操作が、最も重要である。
【0077】
本発明に於いては、シリカに含まれる水を親水性有機溶媒と置換し、乾燥することによって、乾燥工程に於けるシリカの収縮を抑制し、シリカの細孔容積を大きく維持でき、細孔特性に優れ、且つ細孔容積の大きいシリカを得ることが出来るのである。この理由は定かではないが、以下のような現象によるものと考えられる。
【0078】
水熱処理後のシリカスラリー中の液体成分の多くは水である。この水は、シリカと互いに強く相互作用しあっている為に、シリカから完全に水を除去するには大きなエネルギーが必要と考える。
【0079】
多量の水分が存在する条件下で乾燥過程(例えば加熱乾燥)を行なうと、熱エネルギーを受けた水が未反応のシラノール基と反応し、シリカの構造が変化する。この構造変化のうち最も顕著な変化はシリカ骨格の縮合であり、縮合によってシリカが局所的に高密度化することが考えられる。シリカ骨格は3次元的構造を有するので、骨格の局所的な縮合(シリカ骨格の高密度化)はシリカ骨格により構成されているシリカ粒子全体の細孔特性に影響を及ぼし、結果的に粒子が収縮して、細孔容積や細孔径が収縮すると考えられる。
【0080】
そこで、例えばシリカスラリー中の(水を多量に含む)液体成分を親水性有機溶媒で置換することで、このシリカスラリー中の水を除去し、上述したようなシリカの収縮を抑えることが可能となる。
【0081】
本発明で用いる親水性有機溶媒とは、上述した考えに基づき、水を多く溶かすものであればよい。中でも、分子内分極の大きいものが好ましい。さらに好ましくは、比誘電率が15以上のものがよい。
【0082】
本発明のシリカの製造方法に於いては、純度の高いシリカを得るために、親水性有機溶媒にて水を除去した後の乾燥工程で、この親水性有機溶媒を除去する必要がある。よって、親水性有機溶媒としては、乾燥(例えば加熱乾燥や真空・減圧乾燥等)により容易に除去可能な低沸点のものが好ましい。親水性有機溶媒の沸点としては、150℃以下、中でも120℃以下、特に100℃以下のものが好ましい。
【0083】
具体的な親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、アルデヒド類、エーテル類等が挙げられる。中でも、アルコール類やケトン類が好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類やアセトンが好ましい。本発明では、これら例示の親水性有機溶媒のうち、一種を単独で使用しても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び任意の割合で混合して使用してもよい。なお、親水性有機溶媒としては金属不純物を含まない、若しくはほとんど含まないものを選択すべきであることは言うまでもない。
【0084】
なお、水の除去が可能であれば、使用する親水性有機溶媒中に水が含まれていてもよい。もっとも、親水性有機溶媒における水分含有量は当然少ない方が好ましく、通常20%以下、中でも15%以下、更には10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0085】
本発明に於いて、上述の親水性有機溶媒による置換処理時の温度及び圧力は任意である。処理温度は、通常0℃以上、中でも10℃以上、通常100℃以下、中でも60℃以下とすることが好ましい。処理時の圧力は常圧、加圧、減圧のいずれでもよい。
【0086】
シリカスラリーと接触させる親水性有機溶媒の量は任意である。但し、用いる親水性有機溶媒の量が少な過ぎると水との置換進行速度が充分でなく、逆に多過ぎると水との置換効率は高まるが、親水性有機溶媒の使用量増加に見合う効果が頭打ちとなり、経済的に好ましくない。よって、用いる親水性有機溶媒の量は、シリカの嵩体積に対して通常0.5〜10容量倍である。この親水性有機溶媒による置換操作は、複数回繰り返して行なうと、水の置換がより確実となるので好ましい。
【0087】
親水性有機溶媒とシリカスラリーとの接触方法は任意であり、例えば攪拌槽でシリカスラリーを攪拌しながら親水性有機溶媒を添加する方法や、シリカスラリーから濾別したシリカを充填塔に詰めて、この充填塔に親水性有機溶媒を通液する方法、また、親水性有機溶媒中にシリカを入れて浸漬し、静置する方法などが挙げられる。
【0088】
親水性有機溶媒による置換操作の終了は、シリカスラリーの液体成分中の水分測定を行なって決定すればよい。例えば、定期的にシリカスラリーをサンプリングして水分測定を行ない、水分含有量が通常5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下となった点を終点とすればよい。水分の測定方法は任意であり、例えばカールフィッシャー法が挙げられる。
【0089】
[1−2−4.乾燥工程]
親水性有機溶媒による置換操作の後、シリカと親水性有機溶媒とを分離し、乾燥することで、本発明のシリカを製造することが出来る。この際の分離法としては、従来公知の任意の固液分離方法を用いればよい。即ち、シリカ粒子のサイズに応じて、例えばデカンテーション、遠心分離、濾過等の方法を選択して固液分離すれば良い。これらの分離方法は、一種を単独で用いても良く、また二種以上を任意の組み合わせで用いてもよい。
【0090】
得られたシリカは、通常40℃以上、好ましくは60℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは120℃以下で乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、バッチ式でも連続式でもよく、且つ、常圧でも減圧下でも乾燥することができる。中でも、真空乾燥を行なうことで、乾燥が迅速に行なえるのみならず、得られるシリカの細孔容積が大きくなるので好ましい。
【0091】
必要に応じ、原料のシリコンアルコキシドに由来する炭素分が含まれている場合には、通常400〜600℃で焼成除去することができる。また、表面状態をコントロールするため最高900℃の温度で焼成することもある。更に、必要に応じて粉砕、分級することで、最終的に目的としていた本発明のシリカを得る。
【0092】
シリカを粉砕する方法としては、公知のいかなる装置・器具を用いてもよい。具体的には、例えば粒径が10μm以下の微細なシリカを得るには、ボールミル(転動ミル、振動ボールミル、遊星ミル等)、攪拌ミル(塔式粉砕器、攪拌槽型ミル、流通管型ミル、アニュラー(環状)ミル等)、高速回転微粉砕器(スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級方ミル)、ジェット粉砕器(循環ジェットミル、衝突タイプミル、流動層ジェットミル)、せん断ミル(擂解機、オングミル)、コロイドミル、乳鉢などの装置・器具を用いることができる。これらの中で、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得る際には、ボールミル、攪拌ミルがより好ましい。また、粉砕時の状態としては、湿式法及び乾式法があり、いずれも選択可であるが、粒径が2μm以下の超微細なシリカを得るためには湿式法がより好ましい。湿式法の場合、使用する分散媒としては、水、及び、アルコール等の有機溶媒のいずれを単独で用いてもよく、また、2種以上の分散媒を任意の組み合わせ及び比率で混合溶媒として用いてもよく、この分散媒の選択は目的に応じて行なえばよい。また、湿式法の場合には、必要に応じて粉砕後に乾燥を行なう。なお、粉砕時に不必要に強い圧力や剪断力を長時間かけ続けることは、シリカの細孔特性を損なうことがあり、好ましくない。
【0093】
[1−3.その他]
本発明の断熱材は、上述の様に、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカからなるため、高い断熱性と充分な強度とを有する。また、シリコンアルコキシドを加水分解して得られたシリカヒドロゲルを水熱処理し、生成したシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下に調整した上で乾燥するという、比較的簡単な方法によって製造することができる。
【0094】
ここで、特に上述の特許文献1に記載されたエアロゲルと比較しながら、本発明の断熱材の優れた点について更に詳細に考察する。
特許文献1記載の技術では、水ガラスをイオン交換する工程、pHを塩基性としてゲル化させる工程、アセトンにより水分を除去する工程、及び、シリル化処理後に超臨界乾燥によりアセトンを抽出し乾燥ゲルを作成する工程によってエアロゲルを製造している。このため、原料が水ガラスのように金属不純物を多量に含むものである場合には、製造されるエアロゲルに金属不純物が残留する。また、金属不純物を除去しようとすれば、金属不純物除去のために長時間かけて洗浄を行なう必要があるため、製造に手間および時間が必要となり、製造コストの上昇を招く。さらに、金属不純物の課題を別としても、ゲル化を塩基性条件下で行なっているために構造制御が困難となり強固な多孔体構造を作ることができず、したがって、得られるエアロゲルの強度が低くなる。これにより、製造される断熱材は充分な強度を有さず、また、製造にも手間がかかってしまう。
【0095】
これに対し、本発明の断熱材に用いられるシリカは、通常、シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程、得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程、得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下とする水分除去工程、及び、該シリカスラリーを乾燥する乾燥工程によって製造される。即ち、金属不純物の含有率が小さい原料を用いており、しかも製造工程において金属不純物が混入する虞が無いので、金属不純物を除去する工程を設けなくとも金属不純物の含有率が小さいシリカを得ることができる。しかも、こうして製造されたシリカは大きな細孔容積を有するため、断熱材として用いることにより、十分な強度と優れた断熱性を発揮することができる。また、熟成を行なうことなく加水分解によりシリカを製造できるので、製造に要する時間及び手間が削減されて製造工程が効率化され、製品の低価格化を図ることが可能となる。
【0096】
本発明の断熱材は、以上の利点を備えていることから、保冷や保温など断熱性が必要な各種の用途に用いることができる。例えば、冷蔵庫、冷凍庫、保冷車、車の天井部、バッテリー、冷凍または冷蔵船、保温コンテナ、冷凍または保冷用ショーケース、携帯用クーラー、料理用保温ケース、自動販売機、太陽熱温水器、床暖房、床下、壁または壁内、天井部、屋根裏部屋等の建材、熱水または冷却水の配管、低温流体を移送する導管その他プラント機器類、衣料、寝具等の断熱材として好適に用いることができる。また、特にシリカは透明度が高いため、例えば建材であればガラスで囲って断熱用窓ガラスとするなど、透明性を生かした用途に用いることもできる。
【0097】
[2.本発明の断熱体]
本発明の断熱材の使用形態は特に制限は無く、上述の用途にそのまま用いても良いが、その用途によっては、本発明の断熱材を外装材で密閉した断熱体(本発明の断熱体)として用いるのも好ましい。
【0098】
外装材は、本発明の断熱材を密閉できるものであれば、特に限定無く様々なものを用いることができるが、特に、外装材で密閉された内部を外気から遮断することが可能なものが好ましい。
通常、外装材により断熱材を密閉する場合、断熱材の存在する外装材内部を、通常は減圧状態、好ましくは真空状態として、断熱材であるシリカの空隙の熱伝導度を低下させることが望まれる。
ここで、外装材を通して内部にガスが進入してくると、シリカの空隙の熱伝導度が上昇し、断熱材の断熱性が低下してしまうので、好ましくない。よって、外装材としては、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたものが好ましい。
また、外装材を通して内部に水が浸入してくると、断熱材であるシリカが水を吸収して断熱性が低下してしまう虞があるので、やはり好ましくない。よって、外装材は非透湿性を有する非透湿層を備えたものが好ましい。
【0099】
更に、外装材自体も優れた断熱性を有する素材で形成されていることが好ましい。さらに、外装材は、筐体のように定形の形状を有するものでもよく、フィルムなど非定型のものであってもよい。
【0100】
外装材の具体例としては、ステンレススチール、アルミニウム、鉄などの金属の薄板や、アルミニウム箔などの金属箔などのほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、スチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂に、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニルアルコールフィルムや、アルミ等の金属やシリコンをラミネートしたラミネート材等が挙げられる。また、これらに表面保護層として、外装材の外表面にポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムの延伸加工品などの層を設けたり、ナイロンフィルムなどを設けると可撓性が向上し、耐折り曲げ性などが向上する。
【0101】
外装材により本発明の断熱材を密閉する際には、外装材の種類に応じて各種の手法を用いることができるが、上述の様に、断熱材の内部を減圧状態、好ましくは真空状態としながら密閉することが好ましい。
【0102】
なお、本発明の断熱材に加えて、その他の断熱材料等の各種の物質を、一緒に外装材内に密閉しても良い。これらの物質の種類は、断熱材の使用形態及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0103】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
【0104】
(1)断熱材の製造:
・実施例1:
<加水分解・ゲル化反応>
ガラス製で、上部に大気開放の水冷コンデンサが取り付けてある5Lセパラブルフラスコ(ジャケット付き)に、純水1000gを仕込んだ。攪拌翼先端速度2.5m/sで撹拌しながら、これにテトラメトキシシラン1400gを3分間かけて仕込んだ。用いたテトラメトキシシラン1モルに対する水のモル数(水/テトラメトキシシランのモル比)は6である。セパラブルフラスコのジャケットには50℃の温水を通水した。引き続き撹拌を継続し、内容物が沸点に到達した時点で、撹拌を停止した。引き続き0.5時間、ジャケットに50℃の温水を通水して、生成したゾルをゲル化させた。
【0105】
<粉砕反応>
その後、速やかにゲルを取り出し、目開き400μmのナイロン製網を通してゲルを粉砕し、粉体状のウェットゲル(シリカヒドロゲル)を得た。
【0106】
<水熱処理>
このシリカヒドロゲル300gと水450gとを、1Lのガラス製オートクレーブに仕込み、200℃で、3時間の密閉系水熱処理を実施した。
【0107】
<親水性有機溶媒との接触処理>
水熱処理して得られたシリカを濾紙(No.5A)で濾過し、濾滓を別のセパラブルフラスコに無水メタノール600gと共に加え、攪拌翼を用いて室温で1時間ゆっくり攪拌した。このスラリーをデカンテーションによって固液分離し、得られた固体について、無水メタノール600gを用いて再度、上述と同様の液置換操作を行なった。
【0108】
初回を合わせ、この操作を合計3回行なった後、カールフィッシャー法によりシリカ中の水分含有量を求めたところ、2重量%以下であった。
この様にして得られたシリカを、100℃で恒量となるまで減圧乾燥し、実施例1の断熱材とした。
【0109】
(2)断熱材の分析:
実施例1の断熱材(シリカ)について、その諸物性を以下の手法で測定した。
2−1)細孔容積:
カンタクローム社製AS−1を用いて、断熱材であるシリカのBET窒素吸着等温線を測定し、その細孔容積を求めた。具体的には、相対圧P/P0=0.98のときの値を採用した。
【0110】
2−2)最頻細孔径:
レーザー式粒度分布測定装置(セイシン企業社製 LMS−30)を用いて、断熱材であるシリカの最頻細孔径を測定した。
【0111】
2−3)金属不純物の含有率:
断熱材であるシリカ2.5gにフッ酸を加えて加熱し、乾涸させたのち、水を加えて50mlとした。この水溶液を用いてICP発光分析を行ない、金属不純物の含有率を求めた。なお、ナトリウム及びカリウムの含有率については、フレーム炎光法で分析した。
【0112】
2−4)断熱体の熱伝導度の評価:
断熱材を、金属薄膜層と熱可塑性ポリマー層とを有する容器に入れ、内部を100Paに減圧した後、開口部にヒートシールを行ない、平板状の断熱体とした。この断熱体の熱伝導度を、熱伝導率測定装置(英弘精機株式会社製 AUTO−∧)を用いて、平均温度25℃にて測定した。次いで、断熱体をW字型に折り曲げた後、再び平板状に戻して、再度熱伝導度を測定した。
【0113】
測定の結果得られた断熱材の諸物性を表−1に示す。
【表1】
【0114】
表−1に明らかな様に、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカからなる実施例1の断熱材は、外装材で密閉して断熱体とした場合の熱伝導度が極めて低いことから、断熱性が要求される各種の用途に好適に用いることができるものと考えられる。また、断熱体を折り曲げた前後で断熱体の熱伝導度に変化がないことから、実施例1の断熱材は、折り曲げ加工のような断熱体を変形させる大きな力が加わっても断熱材の構造が壊れて空隙が埋まってしまうことがない、即ち、高い強度を有することがわかる。したがって、強い力が加わる過酷な環境下であっても、本発明の断熱材は安定して高い断熱性を発揮できることが確認された。
【0115】
【発明の効果】
本発明によれば、細孔容積が大きく、最頻細孔径が小さく、且つ、金属不純物の含有率が小さいシリカを用いることにより、高い断熱性を有するとともに、簡単な製造方法によって製造可能な、優れた断熱材を提供することができる。また、この断熱材は、高い強度を有するため、折り曲げ加工のような強い力が加わる過酷な環境下であっても安定して高い断熱性を発揮することができる。また、この断熱材を外装材で密閉して断熱体とすることにより、各種用途に好適に用いることが可能となる。
Claims (12)
- 以下の物性を備えたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
(a)細孔容積が、1.8ml/g以上
(b)最頻細孔径Dmaxが、50nm以下
(c)金属不純物の含有率が、100重量ppm以下 - 該シリカの全空隙率が、80%以上であることを特徴とする、請求項1記載の断熱材。
- 該シリカの全空隙の容積と前記細孔容積との比(細孔容積/全空隙容積)が1.5%以上であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の断熱材。
- 固体Si−NMRにより測定した該シリカのQ4/Q3値が、1.2以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱材。
- 該シリカが、非晶質であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の断熱材。
- 該シリカの有する細孔のうち、細孔径が最頻細孔径Dmaxの±20%の範囲に存在する細孔の容積が、全細孔の容積の50%以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の断熱材。
- シリコンアルコキシドを加水分解する加水分解・縮合工程と、該加水分解・縮合工程により得られたシリカヒドロゲルを水熱処理する物性調節工程と、該物性調節工程により得られたシリカスラリーの液体成分中の水分含有量を5重量%以下に調整する水分除去工程と、該水分除去工程により得られたシリカスラリーを乾燥する乾燥工程とを備えた方法により製造されたシリカからなることを特徴とする、断熱材。
- 該水分除去工程において、該シリカスラリーを親水性有機溶媒と接触させることにより、その水分含有量を5重量%以下とすることを特徴とする、請求項7記載の断熱材。
- 該シリコンアルコキシドの金属不純物の含有率が、100重量ppm以下であることを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の断熱材。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の断熱材を外装材で密閉してなることを特徴とする、断熱体。
- 該外装材が、ガスバリア性を有するガスバリア層を備えたことを特徴とする、請求項10記載の断熱体。
- 該外装材が、非透湿性を有する非透湿層を備えたことを特徴とする、請求項10又は請求項11に記載の断熱体。
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