JP2004335005A - 磁気記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【課題】高記録密度の磁気記録媒体の走行性安定性及び走行耐久性の向上を図る。
【解決手段】非磁性支持体1の一主面上に強磁性金属薄膜よりなる磁性層2を有し、磁性層形成面側とは他の主面上にバック層4を有し、磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層5を有し、潤滑剤層5においては、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部5aが島状に点在してなり、潤滑剤層5における潤滑剤部5a以外の平滑領域5bには、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在している磁気記録媒体10を提供する。
【選択図】 図1
【解決手段】非磁性支持体1の一主面上に強磁性金属薄膜よりなる磁性層2を有し、磁性層形成面側とは他の主面上にバック層4を有し、磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層5を有し、潤滑剤層5においては、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部5aが島状に点在してなり、潤滑剤層5における潤滑剤部5a以外の平滑領域5bには、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在している磁気記録媒体10を提供する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜形成技術により形成された磁性層を有する、いわゆる金属薄膜型の磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からオーディオテープ、ビデオテープ等の磁気テープとしては、非磁性支持体上に、酸化物磁性粉末あるいは合金磁性粉末等の粉末磁性材料を塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂等の有機結合剤中に分散させた磁性塗料を塗布することにより作製される、いわゆる塗布型の磁気記録媒体が広く使用されていた。
【0003】
これに対して、高密度磁気記録への要求の高まりと共に、Co−Ni系合金、Co−Cr系合金、Co−O等の金属磁性材料を、メッキや真空薄膜形成手段(真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法等)によってポリエステルフィルムやポリアミド、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に直接被着した、いわゆる金属薄膜型の磁気記録媒体が提案され実用化されている。
【0004】
この金属磁性薄膜型の磁気記録媒体は、抗磁力や角形比等に優れ、短波長での電磁変換特性に優れるばかりでなく、磁性層をきわめて薄層に形成できるため、記録減磁や再生時の厚み損失が著しく小さいこと、磁性層中に非磁性材であるバインダー(結合剤)が混入することが無いため、磁性材料の充填密度を高めることが出来ること等、数々の利点を有している。
【0005】
また、この種の磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させ、より大きな出力を得ることが出来るようにするために、磁性層を斜めに蒸着するいわゆる斜方蒸着が提案され、実用化されている。
このような金属薄膜型の磁気記録媒体においては、通常、耐久性や走行性等の改善を目的として、磁性層上に保護層を形成し、最外層に潤滑剤層を形成し、非磁性支持体の磁性層が形成されている側とは反対側の面にバック層を形成する構成が採られている。
【0006】
金属薄膜型の磁気記録媒体においては、高密度化に対応してスペーシングロスの低減化を図るために表面を平滑化する方向にあるが、磁性層表面が平滑になると磁気ヘッドに対する接触面積が大きくなるために、摩擦力が増大し、磁性層に生ずるせん断応力が大きくなる。このような厳しい摺動条件から磁性層を保護するために、保護層を形成することが重要である。
【0007】
また、磁気記録媒体の最外層には、潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成し、磁気ヘッドやガイドロールとの摺動が滑らかにし、耐久性、走行性の向上を図ることが望ましい。
【0008】
また、バック層を形成することにより、非磁性支持体表面の電気抵抗を下げて帯電による走行不良を防止し、非磁性支持体の耐久性を向上させ、使用中の傷つき等の発生を防ぎ、また磁気テープ間の摩擦を小さくする等の効果を得、磁気テープの走行性、耐久性を向上が図られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
ところで、近年のハードディスクの飛躍的な記録密度の向上に対し、テープ媒体においては、これまで以上の高記録密度化やコストダウンが求められている。そこで、狭トラックピッチ等の技術向上を図ったり、高感度型の磁気抵抗効果型磁気ヘッドを適用したりしているが、これらは、磁気テープとヘッドとのインターフェースにおいては、非常に条件が厳しくなりつつある。
これに対応するべく保護層の硬度を高める等の手段を講じたりしているが、今後さらなる磁気テープの表面の保護を図るため、潤滑剤の物性のみならず、その界面での特性についての検討が必要となりつつある。
【0010】
従来においては、特に高感度磁気ヘッドの走行性の向上を図り、かつ貼り付きを防止するため、金属磁性薄膜の最表面において、潤滑剤が所定にピッチで島状に点在している構成の磁気記録媒体が提案されていた(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、これに開示されている磁気記録媒体は、最表面において潤滑剤が塗布されている島状部分以外の領域が露出しているものであるため、当該領域において磁気ヘッドが直接接触してしまい、摩擦により磁気ヘッドの感磁部が破壊するおそれがあるという問題を有している。
特に高密度記録型の磁気記録媒体に適用する高感度磁気ヘッドは、感磁部が薄膜の積層構造となっているため、わずかな磨耗によっても再生出力が著しく低下するおそれがあり、磁気ヘッドとの接触面においては、表面性についてさらなる改善が必要となってきている。
【0011】
【特許文献1】
特開平8−249645号公報
【特許文献2】
特開平5−298681号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明においては、強磁性金属或いはその合金の薄膜からなる磁性層が形成されてなる高記録密度型の磁気記録媒体において、最表面の潤滑剤層の設計を検討することにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における、ヘッドタッチを良好にし、表面の磨耗の低減化を図り、摩滅による耐久性の劣化を防止し、高耐久性と走行安定性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供することとした。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気記録媒体は、長尺状の非磁性支持体の一主面上に、強磁性金属薄膜よりなる磁性層を有し、磁性層形成面側とは他の主面上にバック層を有し、磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層が形成されてなる構成を有するものとし、この潤滑剤層においては、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部が、島状に点在してなり、この潤滑剤部以外の平滑領域には、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在しているものとする。
【0014】
本発明によれば、潤滑剤層を上記のように設計したことによって、磁気ヘッドと磁気記録媒体の接触時における低摩擦を維持し、保護層の摩滅による耐久性の劣化を回避し、高耐久性・走行安定性の向上が図られる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の磁気記録媒体の具体的な実施形態について説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明の磁気記録媒体10の一例の概略断面図を図1に示す。
磁気記録媒体10は、長尺状の非磁性支持体1上に強磁性金属薄膜よりなる磁性層2、及び保護層3が形成されてなり、磁性層形成面とは反対側の主面にバック層4が形成されてなり、磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層5が設けられている構成を有している。
【0016】
先ず、非磁性支持体1について説明する。
非磁性支持体(ベースフィルム)1形成用材料としては、ポリエステル系が主に用いられている。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタリンジカルボキシレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート等が挙げられる。特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が好適なものとされ、これらのポリエステルはホモポリエステルやコポリエステルも適用することができる。
本発明の磁気記録媒体においては、非磁性支持体1は、膜厚が2〜10μm、好ましくは4〜7μmであるものとする。
【0017】
非磁性支持体1の表面に、径が数nm〜数十nmのフィラーを分散させることによって微細凹凸を付したり、その他リソグラフィー技術によって人工的に凹凸を形成したり、メッキや真空薄膜形成技術によって金属、無機化合物または有機高分子によって島状構造を形成したりする方法を用いて、最終的に得られる磁気記録媒体の表面には所定の粗さを付与してもよい。
【0018】
次に、磁性層2について説明する。
磁性層2は、強磁性金属材料を直接被着することにより形成するものであり、この金属磁性材料としては、通常の蒸着テープに使用されるものであればいずれも適用できる。例えば、Fe、Co、Ni等の強磁性金属、Fe−Co、Co−Ni、Fe−Co−Ni、Fe−Cu 、Co−Cu、Cb−Au、Co−Pt、Mn−Bi、Mn−Al、Fe−Cr、Co−Cr、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Fe−Co−Ni−Cr等の強磁性合金が挙げられ、これらの単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。
【0019】
さらには、非磁性支持体と金属磁性薄膜間、あるいは多層膜の場合には各層間の付着力向上、並びに抗磁力の制御等のため、所定の下地層や中間層を設けてもよい。また、磁性層表面近傍が耐蝕性改善等のために酸化物となっていてもよい。
上記磁性層2の形成方法としては、真空下で強磁性材料を加熱蒸発させ非磁性支持体上に沈着させる真空蒸着法や、強磁性金属材料の蒸発を放電中で行うイオンプレーティング法、アルゴンを主成分とする雰囲気中でグロー放電を起こし生じたアルゴンイオンでターゲット表面の原子をたたき出すスパッタ法等の、いわゆるPVD技術が挙げられる。
【0020】
磁性層3の形成工程の一例として、図2に示すような連続巻き取り式の真空蒸着装置20を挙げ、真空蒸着によって磁性層を形成する場合について説明する。
この真空蒸着装置20においては、頭部と低部にそれぞれ設けられた排気口21から排気されて内部が真空状態となされた真空室22内に、送りロール23と、巻き取りロール24とが設けられ、これら送りロール23から巻き取りロール24に長尺状の非磁性支持体1が順次走行するようになされている。
【0021】
送りロール23から巻き取りロール24側に非磁性支持体1が走行する中途部には、冷却キャン25が設けられている。冷却キャン25は非磁性支持体1を図中下方に引き出すように設けられ定速回転する構成とされる。なお冷却キャン25には、内部に冷却装置(図示せず)が設けられ、非磁性支持体1の温度上昇よる変形等を抑制するようになされている。
また、送りロール23と冷却キャン25との間、及び冷却キャン25と巻き取りロール24との間には、それぞれガイドロール27、28が設けられ、送り走行する非磁性支持体1に所定のテンションをかけ、円滑に走行するようになされている。
【0022】
真空室22内には、冷却キャン25の下方にルツボ29が設けられ、このルツボ29内に金属磁性材料30が充填されている。一方、真空室22の側壁部には、ルツボ29内に充填された金属磁性材料30を加熱蒸発させるための電子銃31が取り付けられている。この電子銃31は、放出される電子線Xが上記ルツボ29内の金属磁性材料30に照射されるような位置に配設される。そして、電子銃31によって蒸発した金属磁性材料30が冷却キャン25の周面を走行する非磁性支持体1上に磁性層2として被着形成されるようになっている。
【0023】
また、冷却キャン25とルツボ29との間であって、冷却キャン25の近傍に、シャッタ32が配設されている。このシャッタ32は、冷却キャン25の周面を定速走行する非磁性支持体1の所定領域を覆う形で設けられており、シャッタ32により金属磁性材料30が非磁性支持体1に対して所定の角度範囲で斜めに蒸着されるようになっている。さらに真空室22の側壁部を貫通して設けられている酸素ガス導入口34を介して非磁性支持体1の表面に酸素ガスが供給され、磁気特性、耐久性及び耐候性の向上が図られている。
【0024】
次に、保護層3について説明する。
保護層3は、通常の磁気テープ用保護層として一般に使用されるものであればいずれも適用できる。
保護層形成用材料としては、例えば、カーボン、CrO2、Al2O3、BN、Co酸化物、MgO、SiO2、Si3O4、SiN4、SiC、ZrO2、TiO2、TiC、Zn、Sn等が挙げられ、これらの単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。保護層3は、CVD法やスパッタ法等、真空中で成膜できる方法によって形成することができる。
【0025】
次に、バック層4について説明する。
バック層4は、通常の磁気テープ用のバック層として一般に使用されているものであればいずれも適用できる。
バック層形成用材料としては、例えば、カーボン、CrO2、Al2O3、BN、Co酸化物、MgO、SiO2、Si3O4、SiN4、SiC、ZrO2、TiO2、TiC等が挙げられる。これらの単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。
バック層4は、上記材料を有機バインダーとともに混合した塗料を塗布することによって成膜してもよく、また、上記材料を用いてCVD法やスパッタ法等によって形成してもよい。
【0026】
また、非磁性支持体1とバック層4の間には、スティッフネスを向上させる目的、耐食性向上のため水分の透過を防止する目的、非磁性支持体1とバック層4の付着力を向上させる目的、バック層成膜時のCVD用電極など、様々な用途で下地層を設けても良い。この下地層は金属・酸化物など、通常の水分バリア層や保護層として用いているものであれば、いずれであってもよい。また、必要に応じて下塗層を形成したり、潤滑剤、防錆剤等の層を形成したりしてもよい。
【0027】
図3に保護層3、及びバック層4形成用の装置の一例としてCVD装置40を挙げ、これらの成膜工程について説明する。
CVD装置40は、頭部に設けられた真空排気系41によって内部が高真空状態となされた真空室42内に、定速度で回転する送りロール43と巻き取りロール44とが設けられ、これら送りロール43から巻き取りロール44に、被処理体45が順次走行するようになされている。
【0028】
これら送りロール43から巻き取りロール44に被処理体45が走行する途中部には、対向電極用キャン46が設けられている。この対向電極用キャン46は、被処理体45を図中下方に引き出すように設けられ、図中の矢印A方向に定速度で回転する構成となされている。また、対向電極用キャン46には、内部に冷却機構(図示せず)が設けられ、被処理体45の温度上昇による変形等を抑制している。
従って被処理体45は、送りロール43から順次送り出され、冷却キャン46の周面を通過し、巻き取りロール44に巻き取られるようになされている。なお、送りロール43と対向電極用キャン46との間、及び対向電極用キャン46と巻き取りロールとの間には、それぞれガイドロール47が設けられ、被処理体65に所定のテンションをかけ円滑に走行するようになされている。
【0029】
また、上記真空室42内には、対向電極用キャン46の下方にパイレックス(登録商標)ガラス、プラスチック等よりなる反応管48が設けられている。この反応管48は、一方の端部が真空室42の底部を貫通しており、この端部から成膜ガスが当該反応管48内に導入されるようになっている。
また、この反応管48内の中途部には、金属メッシュ等よりなる電極49が取り付けられている。この電極49は、外部に配設されたDC電源50と接続されており、500〜2000Vの電圧が印加されるようになっている。
このCVD装置では、この電極49に電圧が印加されることで、電極49と対向電極用キャン46との間にグロー放電が生じる。そして、反応管48内に導入された成膜ガスは、この生じたグロー放電によって分解し、被処理体45上に被着されることになる。
【0030】
次に、潤滑剤層5について説明する。図4(a)及び(b)に潤滑剤層5の模式的な平面図及び断面図を示す。
潤滑剤層5は、磁性層形成面側の最表面に設けられる。潤滑剤層5は、大きさaが10〜80μm径の潤滑剤部5aが島状に点在しているものとする。
潤滑剤部5aを島状に点在させるためには、例えば、表面に凹凸を付したグラビアロールに潤滑剤を保持させ、これを磁性層面側に転写させるようにして形成してもよいし、均一に塗布した潤滑剤溶液を乾燥させるプロセスを制御することによって、島状分布を形成するようにしてもよい。例えば所定の有機溶媒に潤滑剤を溶かした潤滑剤層形成用の塗料を塗布した後、低温下で緩やかに溶剤乾燥を行うことによって潤滑剤の凝集を起させ、島状分布を形成することができる。なお潤滑剤部5aの間隔bは、10〜200μmとすることが好適である。
潤滑剤層5を構成する潤滑剤部5aの大きさを10〜80μm径とし、潤滑剤部の間隔を10〜200μmに選定することにより、磁気ヘッドを摺動させて長時間信号再生を行った場合においても、潤滑剤切れを起さず、かつ磁気ヘッドへの潤滑剤の付着が回避でき、優れた走行安定性が維持され、高い再生出力が得られる。
【0031】
また、潤滑剤層5を二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS:Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectroscopy)を用いて定量化マッピングしたときの潤滑剤の標準偏差は、1〜10であることが望ましい。このように規定することによって、磁気ヘッドと磁気記録媒体10の接触時における低摩擦が長期に亘って維持でき、摩滅による耐久性の劣化が回避され、高耐久性・走行安定性の向上が図られる。
【0032】
また、潤滑剤層5における潤滑剤部5a以外の領域、すなわち平滑領域5bにおいては、厚さ方向cで1分子以上の潤滑剤分子が存在しているものとする。これにより、磁気ヘッドとの直接接触が回避され、摩擦による磁気ヘッドの破壊が防止できる。
なお、潤滑剤層5を構成する潤滑剤の量は、従来周知の磁気テープのように、平滑に潤滑剤を塗布して形成した場合の潤滑剤量と同程度であるものとする。
【0033】
また、潤滑剤層5の上層、下層の少なくともいずれかには、防錆剤が均一に分布してなる防錆剤層を設けることが望ましい。これにより磁性層2の耐食性の向上が図られる。
上述したような本発明の磁気記録媒体10は、膜厚が8μm以下であることが望ましい。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の磁気記録媒体の具体的な実施例について説明する。
下記の例に示す本発明の磁気記録媒体は、図1に示したように、非磁性支持体1の一主面上に強磁性金属よりなる磁性層2と、カーボン膜よりなる保護層3と、フルオロカーボンを主骨格とし第3アミンにより変成した潤滑剤よりなる潤滑剤層5とが積層形成されてなり、他の主面上にカーボン膜よりなるバック層4が形成されてなる構成を有している。
【0035】
〔実施例1〕
先ず、非磁性支持体1として、幅150mmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用意した。
次に、図2に示した真空蒸着装置20を用いて、非磁性支持体1の一の主面に下記の条件により、金属磁性薄膜よりなる磁性層2を形成した。
【0036】
(磁性層の蒸着条件)
金属磁性材料:Co100%
入射角:45°〜10°
導入ガス:酸素ガス
酸素導入量:3.3×10−6m3/sec
蒸着時真空度:2×10−2Pa
磁性層の膜厚:60nm
【0037】
次に、上述のようにして形成した磁性層上に、図3に示したCVD装置40を用いて、下記の成膜条件により、プラズマCVD法でダイヤモンドライクカーボン膜よりなる保護層3を形成した。
(保護層の成膜条件)
反応ガス:トルエン
反応ガス圧:10Pa
導入電力:DC1.5kV
カーボン保護層の膜厚:10nm
【0038】
次に、磁性層形成面とは反対側の主面に、マイクログラビア塗布法により、下記条件によりバック層4を形成した。
【0039】
次に、保護層3上に潤滑剤層5を形成した。潤滑剤としてフルオロカーボンを主骨格とし第3アミンにより変成したものを用い、これを溶剤に溶解させて塗料を作製し、これを塗布、乾燥させることによって潤滑剤層5とした。
フルオロカーボンとしては、コロネート社製商品名デムナムを適用し、第3アミンはジメチルデシルアミンを適用し、これらを塩構造をとるように合成した。
本発明においては、特に、潤滑剤層形成用の塗料中の溶剤を乾燥させるときの乾燥速度(温度、風量、塗布部からドライヤーまでの距離、塗布膜厚等)を制御し、潤滑剤層5において、島状に点在している潤滑剤部5aと、それ以外の平滑領域5bとが形成されるようにした。
この例において潤滑剤部5aは、大きさが10μm径であり10μmの間隔ごとに形成されているものとした。
【0040】
上述のようにして作製したテープ原反を6.35mmに裁断し、実施例1のサンプル磁気テープを作製した。
【0041】
〔実施例2〕〜〔実施例4〕、〔比較例1〕、〔比較例2〕
潤滑剤層5の形成工程において、潤滑剤層形成用の塗料の溶剤を乾燥させるときの乾燥速度(温度、風量、塗布部からドライヤーまでの距離、塗布膜厚等)を制御し、潤滑剤層5を構成している潤滑剤部5aの大きさと間隔を調整した。
なお、比較例1においては、島状の潤滑剤部5aを有さず平滑な潤滑剤層5を形成した。
その他の条件は上記実施例1と同様にしてサンプル磁気テープを作製した。
【0042】
上述のようにして作製した実施例1〜4、比較例1、2の磁気テープについて、潤滑剤量を測定した。測定は、SHIMADZU社製ESCAを用い、実施例1における潤滑剤量を1とし、これを基準値として表すこととし、0.8〜1.2の範囲であれば、潤滑剤量に実質的な差が無いものと定義した。
【0043】
また、潤滑剤層5における潤滑剤部5aのパターンは、ION−TOF社製の二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS−IV)を用い、Ga1.0pAで500×500μmの範囲でマッピングを取り、潤滑剤の分布を観測し、またそのASCIIデータ(Textデータ)から計算により標準偏差を算出した。
また、上記二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS−IV)で256回スキャンし、深さ方向における潤滑剤の分布を観察し、潤滑剤の分子層膜厚を測定した。
【0044】
次に、上述のようにして作製した実施例1〜4、比較例1、2のサンプル磁気テープについて、シャトル耐久性の評価を行った。
具体的には、テープ全長に0.3μmの信号を記録し、初期の出力を基準として、500pass走行中の最も出力の低い部分をレベルダウン量〔dB〕として評価した。これが−3dB以内であれば、実用上問題の無いものとした。なお、デッキは市販のソニー製デジタルビデオ(VX−1000)を用いた。
上記実施例1〜4、比較例1、2の磁気テープの、それぞれの潤滑層における潤滑剤分布(大きさ、周期、標準偏差)、潤滑剤量、及びシャトル耐久性の評価結果について下記表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、潤滑剤層5において、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部5aが島状に点在し、潤滑剤層5を二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS−IV)を用いて定量化マッピングしたときの潤滑剤の標準偏差が1〜10である実施例1〜4の磁気テープにおいては、いずれも長時間走行後におけるレベルダウン量の低減化が図られており、優れたシャトル耐久性の評価が得られた。
【0047】
一方、比較例1においては、潤滑剤を保護層3上に塗布し平滑な潤滑剤層5を形成したものであるため、長時間走行を行うことにより、潤滑剤切れを起してしまい、充分なレベルダウン量の低減化が図られず、シャトル耐久性が悪化した。
【0048】
比較例2においては、島状部である潤滑剤部5aの径が大きすぎ、かつ潤滑剤部5bの間隔が広すぎるため、長時間走行を行うと、潤滑剤が磁気ヘッドに付着してしまい、再生出力が低下し、シャトル耐久性が悪化した。
【0049】
【発明の効果】
上述したことから明らかなように、本発明の磁気記録媒体によれば、磁性層形成面側の最表面に潤滑剤層を設け、この潤滑剤層においては、所定の間隔で島状に潤滑剤が点在するようにし、かつこの島状部分以外においては、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在しているものとしたことによって、磁気ヘッドと磁気記録媒体の接触時における低摩擦を維持し、保護層の摩滅による耐久性の劣化を回避し、高耐久性・走行安定性の向上が図られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一例の概略構成図を示す。
【図2】磁性層を形成する真空蒸着装置の概略構成図を示す。
【図3】CVD装置の概略構成図を示す。
【図4】(a) 潤滑剤層の模式的概略平面図を示す。
(b) 潤滑剤層の模式的概略断面図を示す。
【符号の説明】
1……非磁性支持体、2……磁性層、3……保護層、4……バック層、5……潤滑剤層、5a……潤滑剤部、5b……平滑領域、10……磁気記録媒体、20……真空蒸着装置、21……排気口、22……真空室、23……送りロール、24……巻き取りロール、25……冷却キャン、27,28……ガイドロール、29……ルツボ、30……金属磁性材料、31……電子銃、32……シャッタ、34……酸素ガス導入管、40……CVD装置、41……排気手段、42……真空室、43……送りロール、45……被処理体、46……対向電極用キャン、47……ガイドロール、48……反応管、49……電極、50……DC電源
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜形成技術により形成された磁性層を有する、いわゆる金属薄膜型の磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からオーディオテープ、ビデオテープ等の磁気テープとしては、非磁性支持体上に、酸化物磁性粉末あるいは合金磁性粉末等の粉末磁性材料を塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂等の有機結合剤中に分散させた磁性塗料を塗布することにより作製される、いわゆる塗布型の磁気記録媒体が広く使用されていた。
【0003】
これに対して、高密度磁気記録への要求の高まりと共に、Co−Ni系合金、Co−Cr系合金、Co−O等の金属磁性材料を、メッキや真空薄膜形成手段(真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法等)によってポリエステルフィルムやポリアミド、ポリイミドフィルム等の非磁性支持体上に直接被着した、いわゆる金属薄膜型の磁気記録媒体が提案され実用化されている。
【0004】
この金属磁性薄膜型の磁気記録媒体は、抗磁力や角形比等に優れ、短波長での電磁変換特性に優れるばかりでなく、磁性層をきわめて薄層に形成できるため、記録減磁や再生時の厚み損失が著しく小さいこと、磁性層中に非磁性材であるバインダー(結合剤)が混入することが無いため、磁性材料の充填密度を高めることが出来ること等、数々の利点を有している。
【0005】
また、この種の磁気記録媒体の電磁変換特性を向上させ、より大きな出力を得ることが出来るようにするために、磁性層を斜めに蒸着するいわゆる斜方蒸着が提案され、実用化されている。
このような金属薄膜型の磁気記録媒体においては、通常、耐久性や走行性等の改善を目的として、磁性層上に保護層を形成し、最外層に潤滑剤層を形成し、非磁性支持体の磁性層が形成されている側とは反対側の面にバック層を形成する構成が採られている。
【0006】
金属薄膜型の磁気記録媒体においては、高密度化に対応してスペーシングロスの低減化を図るために表面を平滑化する方向にあるが、磁性層表面が平滑になると磁気ヘッドに対する接触面積が大きくなるために、摩擦力が増大し、磁性層に生ずるせん断応力が大きくなる。このような厳しい摺動条件から磁性層を保護するために、保護層を形成することが重要である。
【0007】
また、磁気記録媒体の最外層には、潤滑剤を塗布して潤滑剤層を形成し、磁気ヘッドやガイドロールとの摺動が滑らかにし、耐久性、走行性の向上を図ることが望ましい。
【0008】
また、バック層を形成することにより、非磁性支持体表面の電気抵抗を下げて帯電による走行不良を防止し、非磁性支持体の耐久性を向上させ、使用中の傷つき等の発生を防ぎ、また磁気テープ間の摩擦を小さくする等の効果を得、磁気テープの走行性、耐久性を向上が図られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
ところで、近年のハードディスクの飛躍的な記録密度の向上に対し、テープ媒体においては、これまで以上の高記録密度化やコストダウンが求められている。そこで、狭トラックピッチ等の技術向上を図ったり、高感度型の磁気抵抗効果型磁気ヘッドを適用したりしているが、これらは、磁気テープとヘッドとのインターフェースにおいては、非常に条件が厳しくなりつつある。
これに対応するべく保護層の硬度を高める等の手段を講じたりしているが、今後さらなる磁気テープの表面の保護を図るため、潤滑剤の物性のみならず、その界面での特性についての検討が必要となりつつある。
【0010】
従来においては、特に高感度磁気ヘッドの走行性の向上を図り、かつ貼り付きを防止するため、金属磁性薄膜の最表面において、潤滑剤が所定にピッチで島状に点在している構成の磁気記録媒体が提案されていた(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、これに開示されている磁気記録媒体は、最表面において潤滑剤が塗布されている島状部分以外の領域が露出しているものであるため、当該領域において磁気ヘッドが直接接触してしまい、摩擦により磁気ヘッドの感磁部が破壊するおそれがあるという問題を有している。
特に高密度記録型の磁気記録媒体に適用する高感度磁気ヘッドは、感磁部が薄膜の積層構造となっているため、わずかな磨耗によっても再生出力が著しく低下するおそれがあり、磁気ヘッドとの接触面においては、表面性についてさらなる改善が必要となってきている。
【0011】
【特許文献1】
特開平8−249645号公報
【特許文献2】
特開平5−298681号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明においては、強磁性金属或いはその合金の薄膜からなる磁性層が形成されてなる高記録密度型の磁気記録媒体において、最表面の潤滑剤層の設計を検討することにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体との接触時における、ヘッドタッチを良好にし、表面の磨耗の低減化を図り、摩滅による耐久性の劣化を防止し、高耐久性と走行安定性を兼ね備えた磁気記録媒体を提供することとした。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気記録媒体は、長尺状の非磁性支持体の一主面上に、強磁性金属薄膜よりなる磁性層を有し、磁性層形成面側とは他の主面上にバック層を有し、磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層が形成されてなる構成を有するものとし、この潤滑剤層においては、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部が、島状に点在してなり、この潤滑剤部以外の平滑領域には、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在しているものとする。
【0014】
本発明によれば、潤滑剤層を上記のように設計したことによって、磁気ヘッドと磁気記録媒体の接触時における低摩擦を維持し、保護層の摩滅による耐久性の劣化を回避し、高耐久性・走行安定性の向上が図られる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の磁気記録媒体の具体的な実施形態について説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明の磁気記録媒体10の一例の概略断面図を図1に示す。
磁気記録媒体10は、長尺状の非磁性支持体1上に強磁性金属薄膜よりなる磁性層2、及び保護層3が形成されてなり、磁性層形成面とは反対側の主面にバック層4が形成されてなり、磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層5が設けられている構成を有している。
【0016】
先ず、非磁性支持体1について説明する。
非磁性支持体(ベースフィルム)1形成用材料としては、ポリエステル系が主に用いられている。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタリンジカルボキシレート、ポリエチレン−p−オキシベンゾエート等が挙げられる。特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が好適なものとされ、これらのポリエステルはホモポリエステルやコポリエステルも適用することができる。
本発明の磁気記録媒体においては、非磁性支持体1は、膜厚が2〜10μm、好ましくは4〜7μmであるものとする。
【0017】
非磁性支持体1の表面に、径が数nm〜数十nmのフィラーを分散させることによって微細凹凸を付したり、その他リソグラフィー技術によって人工的に凹凸を形成したり、メッキや真空薄膜形成技術によって金属、無機化合物または有機高分子によって島状構造を形成したりする方法を用いて、最終的に得られる磁気記録媒体の表面には所定の粗さを付与してもよい。
【0018】
次に、磁性層2について説明する。
磁性層2は、強磁性金属材料を直接被着することにより形成するものであり、この金属磁性材料としては、通常の蒸着テープに使用されるものであればいずれも適用できる。例えば、Fe、Co、Ni等の強磁性金属、Fe−Co、Co−Ni、Fe−Co−Ni、Fe−Cu 、Co−Cu、Cb−Au、Co−Pt、Mn−Bi、Mn−Al、Fe−Cr、Co−Cr、Ni−Cr、Fe−Co−Cr、Co−Ni−Cr、Fe−Co−Ni−Cr等の強磁性合金が挙げられ、これらの単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。
【0019】
さらには、非磁性支持体と金属磁性薄膜間、あるいは多層膜の場合には各層間の付着力向上、並びに抗磁力の制御等のため、所定の下地層や中間層を設けてもよい。また、磁性層表面近傍が耐蝕性改善等のために酸化物となっていてもよい。
上記磁性層2の形成方法としては、真空下で強磁性材料を加熱蒸発させ非磁性支持体上に沈着させる真空蒸着法や、強磁性金属材料の蒸発を放電中で行うイオンプレーティング法、アルゴンを主成分とする雰囲気中でグロー放電を起こし生じたアルゴンイオンでターゲット表面の原子をたたき出すスパッタ法等の、いわゆるPVD技術が挙げられる。
【0020】
磁性層3の形成工程の一例として、図2に示すような連続巻き取り式の真空蒸着装置20を挙げ、真空蒸着によって磁性層を形成する場合について説明する。
この真空蒸着装置20においては、頭部と低部にそれぞれ設けられた排気口21から排気されて内部が真空状態となされた真空室22内に、送りロール23と、巻き取りロール24とが設けられ、これら送りロール23から巻き取りロール24に長尺状の非磁性支持体1が順次走行するようになされている。
【0021】
送りロール23から巻き取りロール24側に非磁性支持体1が走行する中途部には、冷却キャン25が設けられている。冷却キャン25は非磁性支持体1を図中下方に引き出すように設けられ定速回転する構成とされる。なお冷却キャン25には、内部に冷却装置(図示せず)が設けられ、非磁性支持体1の温度上昇よる変形等を抑制するようになされている。
また、送りロール23と冷却キャン25との間、及び冷却キャン25と巻き取りロール24との間には、それぞれガイドロール27、28が設けられ、送り走行する非磁性支持体1に所定のテンションをかけ、円滑に走行するようになされている。
【0022】
真空室22内には、冷却キャン25の下方にルツボ29が設けられ、このルツボ29内に金属磁性材料30が充填されている。一方、真空室22の側壁部には、ルツボ29内に充填された金属磁性材料30を加熱蒸発させるための電子銃31が取り付けられている。この電子銃31は、放出される電子線Xが上記ルツボ29内の金属磁性材料30に照射されるような位置に配設される。そして、電子銃31によって蒸発した金属磁性材料30が冷却キャン25の周面を走行する非磁性支持体1上に磁性層2として被着形成されるようになっている。
【0023】
また、冷却キャン25とルツボ29との間であって、冷却キャン25の近傍に、シャッタ32が配設されている。このシャッタ32は、冷却キャン25の周面を定速走行する非磁性支持体1の所定領域を覆う形で設けられており、シャッタ32により金属磁性材料30が非磁性支持体1に対して所定の角度範囲で斜めに蒸着されるようになっている。さらに真空室22の側壁部を貫通して設けられている酸素ガス導入口34を介して非磁性支持体1の表面に酸素ガスが供給され、磁気特性、耐久性及び耐候性の向上が図られている。
【0024】
次に、保護層3について説明する。
保護層3は、通常の磁気テープ用保護層として一般に使用されるものであればいずれも適用できる。
保護層形成用材料としては、例えば、カーボン、CrO2、Al2O3、BN、Co酸化物、MgO、SiO2、Si3O4、SiN4、SiC、ZrO2、TiO2、TiC、Zn、Sn等が挙げられ、これらの単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。保護層3は、CVD法やスパッタ法等、真空中で成膜できる方法によって形成することができる。
【0025】
次に、バック層4について説明する。
バック層4は、通常の磁気テープ用のバック層として一般に使用されているものであればいずれも適用できる。
バック層形成用材料としては、例えば、カーボン、CrO2、Al2O3、BN、Co酸化物、MgO、SiO2、Si3O4、SiN4、SiC、ZrO2、TiO2、TiC等が挙げられる。これらの単層膜であってもよいし多層膜であってもよい。
バック層4は、上記材料を有機バインダーとともに混合した塗料を塗布することによって成膜してもよく、また、上記材料を用いてCVD法やスパッタ法等によって形成してもよい。
【0026】
また、非磁性支持体1とバック層4の間には、スティッフネスを向上させる目的、耐食性向上のため水分の透過を防止する目的、非磁性支持体1とバック層4の付着力を向上させる目的、バック層成膜時のCVD用電極など、様々な用途で下地層を設けても良い。この下地層は金属・酸化物など、通常の水分バリア層や保護層として用いているものであれば、いずれであってもよい。また、必要に応じて下塗層を形成したり、潤滑剤、防錆剤等の層を形成したりしてもよい。
【0027】
図3に保護層3、及びバック層4形成用の装置の一例としてCVD装置40を挙げ、これらの成膜工程について説明する。
CVD装置40は、頭部に設けられた真空排気系41によって内部が高真空状態となされた真空室42内に、定速度で回転する送りロール43と巻き取りロール44とが設けられ、これら送りロール43から巻き取りロール44に、被処理体45が順次走行するようになされている。
【0028】
これら送りロール43から巻き取りロール44に被処理体45が走行する途中部には、対向電極用キャン46が設けられている。この対向電極用キャン46は、被処理体45を図中下方に引き出すように設けられ、図中の矢印A方向に定速度で回転する構成となされている。また、対向電極用キャン46には、内部に冷却機構(図示せず)が設けられ、被処理体45の温度上昇による変形等を抑制している。
従って被処理体45は、送りロール43から順次送り出され、冷却キャン46の周面を通過し、巻き取りロール44に巻き取られるようになされている。なお、送りロール43と対向電極用キャン46との間、及び対向電極用キャン46と巻き取りロールとの間には、それぞれガイドロール47が設けられ、被処理体65に所定のテンションをかけ円滑に走行するようになされている。
【0029】
また、上記真空室42内には、対向電極用キャン46の下方にパイレックス(登録商標)ガラス、プラスチック等よりなる反応管48が設けられている。この反応管48は、一方の端部が真空室42の底部を貫通しており、この端部から成膜ガスが当該反応管48内に導入されるようになっている。
また、この反応管48内の中途部には、金属メッシュ等よりなる電極49が取り付けられている。この電極49は、外部に配設されたDC電源50と接続されており、500〜2000Vの電圧が印加されるようになっている。
このCVD装置では、この電極49に電圧が印加されることで、電極49と対向電極用キャン46との間にグロー放電が生じる。そして、反応管48内に導入された成膜ガスは、この生じたグロー放電によって分解し、被処理体45上に被着されることになる。
【0030】
次に、潤滑剤層5について説明する。図4(a)及び(b)に潤滑剤層5の模式的な平面図及び断面図を示す。
潤滑剤層5は、磁性層形成面側の最表面に設けられる。潤滑剤層5は、大きさaが10〜80μm径の潤滑剤部5aが島状に点在しているものとする。
潤滑剤部5aを島状に点在させるためには、例えば、表面に凹凸を付したグラビアロールに潤滑剤を保持させ、これを磁性層面側に転写させるようにして形成してもよいし、均一に塗布した潤滑剤溶液を乾燥させるプロセスを制御することによって、島状分布を形成するようにしてもよい。例えば所定の有機溶媒に潤滑剤を溶かした潤滑剤層形成用の塗料を塗布した後、低温下で緩やかに溶剤乾燥を行うことによって潤滑剤の凝集を起させ、島状分布を形成することができる。なお潤滑剤部5aの間隔bは、10〜200μmとすることが好適である。
潤滑剤層5を構成する潤滑剤部5aの大きさを10〜80μm径とし、潤滑剤部の間隔を10〜200μmに選定することにより、磁気ヘッドを摺動させて長時間信号再生を行った場合においても、潤滑剤切れを起さず、かつ磁気ヘッドへの潤滑剤の付着が回避でき、優れた走行安定性が維持され、高い再生出力が得られる。
【0031】
また、潤滑剤層5を二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS:Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectroscopy)を用いて定量化マッピングしたときの潤滑剤の標準偏差は、1〜10であることが望ましい。このように規定することによって、磁気ヘッドと磁気記録媒体10の接触時における低摩擦が長期に亘って維持でき、摩滅による耐久性の劣化が回避され、高耐久性・走行安定性の向上が図られる。
【0032】
また、潤滑剤層5における潤滑剤部5a以外の領域、すなわち平滑領域5bにおいては、厚さ方向cで1分子以上の潤滑剤分子が存在しているものとする。これにより、磁気ヘッドとの直接接触が回避され、摩擦による磁気ヘッドの破壊が防止できる。
なお、潤滑剤層5を構成する潤滑剤の量は、従来周知の磁気テープのように、平滑に潤滑剤を塗布して形成した場合の潤滑剤量と同程度であるものとする。
【0033】
また、潤滑剤層5の上層、下層の少なくともいずれかには、防錆剤が均一に分布してなる防錆剤層を設けることが望ましい。これにより磁性層2の耐食性の向上が図られる。
上述したような本発明の磁気記録媒体10は、膜厚が8μm以下であることが望ましい。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の磁気記録媒体の具体的な実施例について説明する。
下記の例に示す本発明の磁気記録媒体は、図1に示したように、非磁性支持体1の一主面上に強磁性金属よりなる磁性層2と、カーボン膜よりなる保護層3と、フルオロカーボンを主骨格とし第3アミンにより変成した潤滑剤よりなる潤滑剤層5とが積層形成されてなり、他の主面上にカーボン膜よりなるバック層4が形成されてなる構成を有している。
【0035】
〔実施例1〕
先ず、非磁性支持体1として、幅150mmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用意した。
次に、図2に示した真空蒸着装置20を用いて、非磁性支持体1の一の主面に下記の条件により、金属磁性薄膜よりなる磁性層2を形成した。
【0036】
(磁性層の蒸着条件)
金属磁性材料:Co100%
入射角:45°〜10°
導入ガス:酸素ガス
酸素導入量:3.3×10−6m3/sec
蒸着時真空度:2×10−2Pa
磁性層の膜厚:60nm
【0037】
次に、上述のようにして形成した磁性層上に、図3に示したCVD装置40を用いて、下記の成膜条件により、プラズマCVD法でダイヤモンドライクカーボン膜よりなる保護層3を形成した。
(保護層の成膜条件)
反応ガス:トルエン
反応ガス圧:10Pa
導入電力:DC1.5kV
カーボン保護層の膜厚:10nm
【0038】
次に、磁性層形成面とは反対側の主面に、マイクログラビア塗布法により、下記条件によりバック層4を形成した。
【0039】
次に、保護層3上に潤滑剤層5を形成した。潤滑剤としてフルオロカーボンを主骨格とし第3アミンにより変成したものを用い、これを溶剤に溶解させて塗料を作製し、これを塗布、乾燥させることによって潤滑剤層5とした。
フルオロカーボンとしては、コロネート社製商品名デムナムを適用し、第3アミンはジメチルデシルアミンを適用し、これらを塩構造をとるように合成した。
本発明においては、特に、潤滑剤層形成用の塗料中の溶剤を乾燥させるときの乾燥速度(温度、風量、塗布部からドライヤーまでの距離、塗布膜厚等)を制御し、潤滑剤層5において、島状に点在している潤滑剤部5aと、それ以外の平滑領域5bとが形成されるようにした。
この例において潤滑剤部5aは、大きさが10μm径であり10μmの間隔ごとに形成されているものとした。
【0040】
上述のようにして作製したテープ原反を6.35mmに裁断し、実施例1のサンプル磁気テープを作製した。
【0041】
〔実施例2〕〜〔実施例4〕、〔比較例1〕、〔比較例2〕
潤滑剤層5の形成工程において、潤滑剤層形成用の塗料の溶剤を乾燥させるときの乾燥速度(温度、風量、塗布部からドライヤーまでの距離、塗布膜厚等)を制御し、潤滑剤層5を構成している潤滑剤部5aの大きさと間隔を調整した。
なお、比較例1においては、島状の潤滑剤部5aを有さず平滑な潤滑剤層5を形成した。
その他の条件は上記実施例1と同様にしてサンプル磁気テープを作製した。
【0042】
上述のようにして作製した実施例1〜4、比較例1、2の磁気テープについて、潤滑剤量を測定した。測定は、SHIMADZU社製ESCAを用い、実施例1における潤滑剤量を1とし、これを基準値として表すこととし、0.8〜1.2の範囲であれば、潤滑剤量に実質的な差が無いものと定義した。
【0043】
また、潤滑剤層5における潤滑剤部5aのパターンは、ION−TOF社製の二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS−IV)を用い、Ga1.0pAで500×500μmの範囲でマッピングを取り、潤滑剤の分布を観測し、またそのASCIIデータ(Textデータ)から計算により標準偏差を算出した。
また、上記二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS−IV)で256回スキャンし、深さ方向における潤滑剤の分布を観察し、潤滑剤の分子層膜厚を測定した。
【0044】
次に、上述のようにして作製した実施例1〜4、比較例1、2のサンプル磁気テープについて、シャトル耐久性の評価を行った。
具体的には、テープ全長に0.3μmの信号を記録し、初期の出力を基準として、500pass走行中の最も出力の低い部分をレベルダウン量〔dB〕として評価した。これが−3dB以内であれば、実用上問題の無いものとした。なお、デッキは市販のソニー製デジタルビデオ(VX−1000)を用いた。
上記実施例1〜4、比較例1、2の磁気テープの、それぞれの潤滑層における潤滑剤分布(大きさ、周期、標準偏差)、潤滑剤量、及びシャトル耐久性の評価結果について下記表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、潤滑剤層5において、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部5aが島状に点在し、潤滑剤層5を二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS−IV)を用いて定量化マッピングしたときの潤滑剤の標準偏差が1〜10である実施例1〜4の磁気テープにおいては、いずれも長時間走行後におけるレベルダウン量の低減化が図られており、優れたシャトル耐久性の評価が得られた。
【0047】
一方、比較例1においては、潤滑剤を保護層3上に塗布し平滑な潤滑剤層5を形成したものであるため、長時間走行を行うことにより、潤滑剤切れを起してしまい、充分なレベルダウン量の低減化が図られず、シャトル耐久性が悪化した。
【0048】
比較例2においては、島状部である潤滑剤部5aの径が大きすぎ、かつ潤滑剤部5bの間隔が広すぎるため、長時間走行を行うと、潤滑剤が磁気ヘッドに付着してしまい、再生出力が低下し、シャトル耐久性が悪化した。
【0049】
【発明の効果】
上述したことから明らかなように、本発明の磁気記録媒体によれば、磁性層形成面側の最表面に潤滑剤層を設け、この潤滑剤層においては、所定の間隔で島状に潤滑剤が点在するようにし、かつこの島状部分以外においては、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在しているものとしたことによって、磁気ヘッドと磁気記録媒体の接触時における低摩擦を維持し、保護層の摩滅による耐久性の劣化を回避し、高耐久性・走行安定性の向上が図られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一例の概略構成図を示す。
【図2】磁性層を形成する真空蒸着装置の概略構成図を示す。
【図3】CVD装置の概略構成図を示す。
【図4】(a) 潤滑剤層の模式的概略平面図を示す。
(b) 潤滑剤層の模式的概略断面図を示す。
【符号の説明】
1……非磁性支持体、2……磁性層、3……保護層、4……バック層、5……潤滑剤層、5a……潤滑剤部、5b……平滑領域、10……磁気記録媒体、20……真空蒸着装置、21……排気口、22……真空室、23……送りロール、24……巻き取りロール、25……冷却キャン、27,28……ガイドロール、29……ルツボ、30……金属磁性材料、31……電子銃、32……シャッタ、34……酸素ガス導入管、40……CVD装置、41……排気手段、42……真空室、43……送りロール、45……被処理体、46……対向電極用キャン、47……ガイドロール、48……反応管、49……電極、50……DC電源
Claims (4)
- 長尺状の非磁性支持体の一主面上に、強磁性金属薄膜よりなる磁性層を有し、上記磁性層形成面側とは他の主面上に、バック層を有する磁気記録媒体であって、
上記磁性層形成面側の最表面には潤滑剤層が形成されてなり、
当該潤滑剤層においては、大きさが10〜80μm径の潤滑剤部が、島状に点在してなり、上記潤滑剤層における上記潤滑剤部以外の平滑領域には、厚さ方向で1分子以上の潤滑剤分子が存在していることを特徴とする磁気記録媒体。 - 上記潤滑剤部は、10〜120μmの間隔ごとに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
- 上記潤滑剤層を、二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS:Time of Flight−Secondary Ion Mass Spectroscopy)を用いて定量化マッピングしたときの潤滑剤の標準偏差が、1〜10であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
- 上記潤滑剤層の上層、下層の少なくともいずれかに、防錆剤が均一に分布してなる防錆剤層が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気記録媒体。
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