JP2004332065A - ステンレス鋼の表面処理方法および表面処理されたステンレス鋼 - Google Patents
ステンレス鋼の表面処理方法および表面処理されたステンレス鋼 Download PDFInfo
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Abstract
【目的】有機酸でステンレス鋼部材を洗浄することで、Cr主体の不動態皮膜を形成させFeの溶出を抑制した食品製造用及び食品貯蔵運搬用ステンレス鋼部材を提供する。
【構成】特定のステンレス鋼部材を有機酸で洗浄することにより、不動態皮膜内のFe濃度を20原子%以下に低下させる。本部材表面にはCr主体の皮膜を形成されるので耐Feイオン溶出性が向上する。有機酸としては酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸の7種の内1種又は2種以上が使用され、Feの選択溶解を更に加速するためにアスコルビン酸を併用する。尚、洗浄液の温度は20℃以上50℃以下が好ましい。
【構成】特定のステンレス鋼部材を有機酸で洗浄することにより、不動態皮膜内のFe濃度を20原子%以下に低下させる。本部材表面にはCr主体の皮膜を形成されるので耐Feイオン溶出性が向上する。有機酸としては酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸の7種の内1種又は2種以上が使用され、Feの選択溶解を更に加速するためにアスコルビン酸を併用する。尚、洗浄液の温度は20℃以上50℃以下が好ましい。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステンレス鋼の表面処理方法及び該表面処理を行うに適したステンレス鋼に関し、特に清酒、生酒、ビール、焼酎、ワイン等のアルコール飲料や、味噌、調味液、みりん、酢、マヨネーズ等の調味料を取り扱う食品工業分野において、それらを製造、貯蔵運搬用として使用するためのステンレス鋼の表面処理方法及び該表面処理に適したステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より食品製造プラントに用いる材料には、取り扱う食品の含有成分や温度などの操業条件によって、ステンレス鋼や無機または有機被覆鋼、あるいはFRP等が使い分けられている。しかし近年、メンテナンスのし易さや維持コストの低減、洗浄性、更にはリサイクル性と環境への負荷低減の観点からステンレス鋼の使用が増えつつある。
【0003】
各種食品中には腐食性を有する複数種の有機酸や添加剤が含まれていることから、プラント構成部材や貯蔵運搬容器としてステンレス鋼を使用する場合には、適正な表面処理を施さない限り鋼材表面の不動態体皮膜からの鉄イオンの溶出が生じ、変色や変質といった食品の品質を低下させることに繋がる。
【0004】
例えば酒類の製造用、貯蔵用容器としてステンレス鋼が最近使用されており、ステンレス鋼からのFeイオンの溶出を減少させる技術としていろいろの表面処理技術が開示されている。
SUS304やSUS444を液温とpHが調整された有機酸あるいは無機酸に浸漬させる方法(特許文献1、2参照)。
SUS304鋼を有機酸に浸漬させた後、酸化性溶液によって不動態化を促進させる方法(特許文献3参照)。
前者の方法はクエン酸等の有機酸に浸漬することで、不動態皮膜中のFe濃度を30原子%以下に減少させて耐Feイオン溶出性を向上させるものである。しかし、表面に形成された不動態皮膜はFeとCrが混合した水酸化物で主に構成されており、各種還元性環境において皮膜の安定性は不十分であることが多い。一方、後者の方法は有機酸で処理した後に硝酸等によって不動態化処理を施し、耐Feイオン溶出性を更に向上させる方法である。
洗浄処理が終了した時点での浸漬電位は前者の方法では±0V以下(飽和カロメル電極基準)である。その結果、後述する表3の比較例20〜23に示したように効果が十分となっていない。
また、後者の方法では+0.7Vから+0.8Vまで上昇する。結果として、皮膜厚さが倍増すると同時に皮膜中に取りこまれる結合水が低減され、安定性の高いCr酸化物主体の不動態皮膜が形成される。この改質効果は日本酒よりもpHの低い環境や液温の高い環境において特に顕著である。しかし、硝酸や過酸化水素を必要とするという欠点がある。
【0005】
コーティング剤を塗布し、加熱により酸化皮膜を形成させる方法(特許文献4参照)。
表面を電解研磨し、加熱処理後、着色酸化被膜を高温水等により溶解除去する方法(特許文献5参照)。
これらの方法は主に半導体製造装置用材料の洗浄処理として適用されているものであるが、食品容器として用いる場合、容器成形後の内面に上記各種の表面処理をしなければならず、工程及びコストの面で問題がある。
また、母材からのFeイオンの溶出を抑制する方法として、酒類用フェライト系ステンレス鋼製容器(特許文献6参照)も開示されている。しかし、合金組成だけでは解決出来ず、わずかながらもFeイオンの遊離溶出があり、長期間の保管に対しては不十分である。従って、酒用ステンレス容器には内面にライニング材を使用したりメッキを施してFeイオンの溶出を防止しているのが現状である。
【特許文献1】特開2001−131765号公報
【特許文献2】特開2001−342585号公報
【特許文献3】特開2001−115271号公報
【特許文献4】特開昭61−186483号公報
【特許文献5】特開平5−171479号公報
【特許文献6】特公昭62−151173号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ステンレス鋼製の食品製造用部材あるいは貯蔵運搬用部材の上述した欠点を解決しようとするものである。すなわちステンレス表面からのFeイオンの溶出を未然に防ぎ、食品の長期保存を可能にしたステンレス鋼の表面処理方法及び該表面処理に適したステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本願の第1発明の要旨はステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)が20原子%以下であることを特徴とするステンレス鋼部材の表面処理方法である。
【0008】
本願の第2の発明の要旨は、ステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)を[Fe]、Cr濃度を[Cr]とした場合 [Fe]≦20、[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5とすることを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法である。
【0009】
そして、第1の発明及び第2の発明において、有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることが好ましく、更に、これらの有機酸にアスコルビン酸を添加することが好ましい。
また、ステンレス鋼としては、15.0wt%≦Ni≦30.0wt%、20.0wt%≦Cr≦26.0wt%、2.0wt%≦Mo≦8.0wt%、N:0.30wt%以下で、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下式を満たすステンレス鋼であることが好ましい。
Cr+3.3Mo+20N≧38 (式中Cr、Mo、Nは各成分の含有量(wt%)を示す)
【0010】
本願の第3の発明の要旨は、ステンレス鋼を有機酸で表面処理を行うに際し、有機酸に併せてアスコルビン酸を添加することを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法であり、その際の有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることが好ましい。
本願の第4の発明の要旨は、有機酸で表面処理を行うステンレス鋼であって、該ステンレス鋼の組成が
15.0wt%≦Ni≦30.0wt%、20.0wt%≦Cr≦26.0wt%、2.0wt%≦Mo≦8.0wt%、N:0.30wt%以下で、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下式を満たすことを特徴とするステンレス鋼である。
Cr+3.3Mo+20N≧38 (式中Cr、Mo、Nは各成分の含有量(wt%)を示す)
【0011】
そして、第4の発明における有機酸は酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることが好ましく、更に、上記有機酸に加えてアスコルビン酸を添加することが好ましい。
そして、上記ステンレス鋼が貯蔵運搬などの食品製造用に供するものであることを特徴とする食品製造用ステンレス鋼である。
【0012】
即ち、本発明における有機酸の表面処理方法は、ステンレス鋼部材表面の鉄分を有機酸によって選択的に溶解処理し、表面にCr富化層を生成させるものである。また、本発明はステンレス鋼部材表面のCrが富化した不動態被膜を備えたステンレス鋼製部材である。
【0013】
そして、本発明によると、不動態皮膜中のFe濃度を20原子%以下にし、Cr酸化物および水酸化物を主体とした不動態皮膜を形成させることで、鉄イオンの溶出が抑制される。Fe濃度が20原子%を超えると不動態皮膜からのFeの溶出が生じやすく、食品の品質劣化に繋がる。不動態皮膜中のFe濃度を20原子%以下にするためには、0.01重量%以上の濃度を有する有機酸に浸漬処理することにより、不動態皮膜中の鉄分が選択溶解され、Cr主体の皮膜が形成される。Fe濃度は15原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であれば更に好ましい。
【0014】
また、好ましい実施の形態としては、ステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)を[Fe]、Cr(原子%)濃度を[Cr]とした場合 [Fe]≦20、[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5とすることを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法とすることが好ましい。この場合においてもFe濃度は15原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であれば更に好ましい。[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5としたのは、各種溶液に対する不動態皮膜の安定性はCr酸化物もしくは水酸化物の量によって決定づけられるからである。有機酸に浸漬することで皮膜中のFe濃度を下げ、同時にFeに対する皮膜中のCr量を相対的に増加させることで各種水溶液に対する安定性が増す。よって十分な効果を得るために[Cr]/([Fe]+[Cr])を0.5以上とした。[Cr]/([Fe]+[Cr])は0.6以上が好ましく、さらに0.8以上が好ましい。
【0015】
ここで、原子比はAES(オージェ電子分光分析装置)により測定する。
測定方法の条件を以下に示す。
機器名:アルバックファイ社製PHI610
真空度:7×10−10torr、加速電圧:5KeV、
ビーム電流:140nA、イオン銃のイオン種:Ar、
電流:25mA、ビーム電圧1kV
スパッタ毎の各スペクトルから元素の原子分率を算出し、不動態皮膜の厚さ方向の濃度変化を測定する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明について詳細に説明する。
本発明において適用する有機酸としては酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸、あるいはこれらを混合した有機酸を用いる。これらの有機酸はカルボニル基を有する有機酸であり、この酸中に部材を浸漬すると、部材表面の残留Fe及び皮膜内に存在するFeはキレート反応により、選択的に溶解される。またこれらの有機酸は部材表面のCa、Mgを主体とした非金属系介在物も溶解除去し、ステンレス鋼表面にCrに富む清浄でかつ均一な皮膜を形成させる効果がある。
【0017】
本発明の表面処理手段としてはステンレス鋼表面に有機酸溶液を塗布してもよいが、ステンレス鋼を有機酸溶液中に浸漬することが好ましい。具体的には、ステンレス鋼を有機酸溶液中に浸漬する場合、前述の有機酸の1種または2種以上の混合濃度が0.01〜10wt%の水溶液に調整する。濃度が0.01wt%より低い場合は、不動態皮膜中のFeを十分除去することができない。一方10wt%以上に調整しても効果は殆ど変わらず無意味である。よって有機酸の濃度は0.01から10wt%が望ましい。
【0018】
温度については20℃よりも低い場合は、Feを選択溶解させるのに時間を要する。好ましくは20℃以上が望ましい。一方50℃よりも高い場合は、溶解能力は上昇するが、有機酸が本来熱に弱いという特性上、使用早期において有機酸の洗浄効果を減少させる。よって処理液の温度は20℃から50℃の間に保持することが望ましい。
【0019】
本温度範囲に保持された有機酸は処理液の寿命を長くし、熱源を含めたトータル処理コストの低減に繋がる。また処理時間については3時間以上であれば十分であり、Feの選択溶解をより進行させるためには24時間程度が望ましい。
【0020】
Feの溶解速度を高めるための手段としては、処理液の温度を上げたり、攪拌したりすることが有効であるが、本発明においては酢酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸にアスコルビン酸を添加することでFeの溶解反応を促進可能であることが判明した。酢酸やクエン酸に長時間浸漬するだけでも十分効果はあるが、処理液の温度や時間に制約がある場合にはアスコルビン酸を適量添加することが有効である。
【0021】
一般にアスコルビン酸は還元性が強く自身は酸化されやすい性質を有している。本発明においてアスコルビン酸はクエン酸等でキレート化されたFeが表面に沈着するのを防止し、常に皮膜再表面からのFeの溶解除去を促進する役割を持つ。またアスコルビン酸は熱や光に弱い特性を有しているが、上記有機酸に適量添加することでその腐敗を抑制することができる。添加する量は、酢酸、クエン酸等の有機酸の重量に対して10wt%から50wt%添加することが望ましい。10wt%以下の場合はその添加効果が少なく、50wt%以上では処理液の寿命が短くなると共に薬剤コストの高騰を招く。
【0022】
次に本発明における鋼の化学組成の限定理由を述べる。
【0023】
Cr:20.0wt%≦Cr≦26.0wt%
Crはステンレス鋼表面からの耐Feイオン溶出性を向上させるのに最も有効な元素である。不動態皮膜中のCr濃度は母材のCr濃度に比例して増加し、結果として食品中へのFeイオンの溶出が抑制される。汎用材SUS304鋼のように、母材のCr濃度が20wt%よりも低い場合には、皮膜中のFe濃度を20原子%以下に下げるために硝酸や過酸化水素等の強力な酸化剤を高温で用いるか、もしくは特殊な熱処理を併用した洗浄処理が必要になる。本発明において所定の有機酸に浸漬することで、耐Feイオン溶出性の優れた不動態皮膜を得るためには、少なくとも20.0wt%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が26.0wt%を越えるとσ相やχ相等の金属間化合物の形成を助長し、均一な皮膜が得られない場合がある。したがってCrの含有量を20.0wt%〜26.0wt%とした。なおCrの含有量は23.0wt%以上であることが好ましい。
【0024】
Ni:15.0wt%≦Ni≦30.0wt%
Niはσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で有効な元素である。ステンレス鋼表面に金属間化合物が露出している場合、その周辺部においてミクロ偏析が生じ均一な不動態皮膜が得られない場合がある。またNiはオーステナイト組織の安定化に必須の元素である。その含有量が15wt%を下回ると、耐局部腐食性向上のために含有させるCrやMoを必要量添加した場合、二相組織になりオーステナイト組織を維持できなくなる。また30wt%を上回ると熱間変形抵抗が増大し製造上の負荷が大きくなる。よってNiの含有量は15wt%〜30.0wt%とした。なおNiの含有量は17wt%以上であることが好ましく、25.0wt%以上であればさらに好ましい。
【0025】
Mo:2.0wt%≦Mo≦8.0wt%
Moは不動態皮膜中においてCrとの相乗効果により耐イオン溶出性を向上させる元素である。2.0wt%以下ではその効果が得られず2.0wt%以上含有する必要がある。しかしながら、8.0wt%を超えて含有すると熱間加工や溶接時において金属間化合物の析出を助長し、均一な皮膜が得られないと共に機械的性質も劣化させる。従って2.0wt%〜8.0wt%とした。なお、Moの含有量は3.0wt%以上であることが好ましく、5.0wt%以上であればさらに好ましい.
【0026】
N:0.30wt%以下
NもCr、Moと同様に耐食性を向上させると共に、金属間化合物の析出を抑制するのに有効な元素である。不動態皮膜中の窒素は母材との界面に濃縮した形で存在し、表層部のCr、Moとともに不動態皮膜の安定性を高める効果がある。Nの含有量は溶解度の範囲内において高いほど効果的であるが、0.30wt%を超えて含有させるためには、真空溶解や加圧溶解が必要となり、併せて熱間変形抵抗が増大するなど製造上の負荷が極めて大きくなる。同時に過剰な含有は窒化物の析出による耐食性劣化も引き起こす。従ってNの含有量は0.30wt%以下とした。なお、Nの含有量は0.05wt%以上、0.10wt%以上であることが好ましく、0.20wt%以上であればさらに好ましい。
【0027】
Cr+3.3Mo+20N≧38
本発明において上式を規定した理由は、下記に示す表1〜表3の結果から明らかなように、Cr+3.3Mo+20Nが38を下回ると、不動態皮膜中のFe濃度が20原子%以上になり、皮膜表面からFeが溶出しやすくなる。この場合には更に硝酸、過酸化水素等の強力な不動態化剤を用いてFe濃度を下げる必要がある。しかしCr+3.3Mo+20Nが38を超えると、所定の有機酸に浸漬するだけで皮膜内のFe濃度が15原子%以下になり、不動態皮膜の安定性を飛躍的に向上させることが可能であることが判明した。なお、Cr+3.3Mo+20Nは40以上であることが好ましく、44以上であればさらに好ましい。
本発明においてCr+3.3Mo+20Nが38以上のステンレス鋼をクエン酸等の有機酸で処理すると、表面にはCr水酸化物を主体とした不動態皮膜が形成されており、皮膜中のモリブデンと窒素はキレート溶解の影響を受けずに皮膜中に残存し濃縮する。各種腐食環境に対してモリブデン及び窒素はインヒビターとして作用し皮膜欠陥部の補修能力を上げる効果があることから、Cr+3.3Mo+20Nが38以上のステンレス鋼の場合においては不動態化処理を施さなくても十分な耐Feイオン溶出性を確保できる。
【0028】
本発明において適切な表面処理を施したステンレス鋼部材は、極めてFeの溶出が抑制されCr主体の皮膜が形成されているので、日本酒等のアルコール飲料のみならず、食品製造工程において腐食性の有機酸を含有する環境では特に有効である。具体的には調味料の味噌、調味液、酢、みりんの製造用及び貯蔵運搬用材料として適する。
【0029】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例1
有機酸と不動態皮膜中のFeの溶解作用の関係について実験により確認した。表1に示す各種成分鋼を用いて表面処理後の不動態皮膜中のFe濃度を調査した。表面処理液には酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸の7種の有機酸とそれらにアスコルビン酸を添加した混合溶液を用いた。有機酸の温度は20〜40℃に保持し、濃度は0.01〜5wt%とした。ガラス製のフラスコに1000mlの洗浄液を入れ、30mm×30mmの試験片を浸漬した。比較としてTIG溶接試験片も試験に供し、試験片両面および端面は湿式#1000研磨紙にて研磨した。洗浄処理後の試験片表面のFe濃度を分析するために、AES(オージェ電子分光分析装置)を用いた。
【0030】
【表1】
【0031】
表2に各種ステンレス鋼の不動態皮膜中のFe濃度と洗浄処理条件の関係を示す。本発明の鋼種No.1及びNo.2においては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸に24時間浸漬することで、何れも皮膜内のFe濃度が20原子%以下のCr主体の皮膜が得られていた。またクエン酸にアスコルビン酸を添加して洗浄処理した場合は低温かつ短時間処理にも関わらず、更にFe濃度が減少し10原子%以下の皮膜が形成していた。これに対し、鋼種No.3,4を同一条件で洗浄した場合においては何れも十分にFeが除去されておらず、Fe主体の不動態皮膜が形成されていた。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例2
次に洗浄処理を行なった各供試材を用いて、1)日本酒および2)調味液に浸漬して溶出試験を実施した。日本酒は市販の吟醸清酒を使用した。試験条件は殺菌処理を想定し80℃まで上昇させた後1時間保持し、その後空冷して1週間放置させた。一方調味液は0.15wt%酢酸、1wt%乳酸、0.2wt%クエン酸、1wt%グルタミン酸、1wt%アスパラギン酸、2.5wt%グリセリン及び2.7wt%グルコースを含有した水溶液である。試験条件は35℃一定にして3日間保持した。常温では日本酒のpHは4.2、後者の調味液は2.5であった。ガラス製フラスコに500mlの日本酒及び調味液をいれ、30mm×30mmの洗浄後の試験片を浸漬した。比較としてTIG溶接試験片も試験に供し、試験片両面および端面は湿式#1000研磨紙にて研磨した。溶出した鉄イオン濃度の分析にはICP(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いた。
【0034】
表3に溶出試験結果を示す。鋼種No.3及びNo.4は不動態皮膜中にFeが25原子%以上存在するために、何れも30ppb以上のFeの溶出があり、日本酒は黄変し食品の品質を大きく劣化させた。本試験環境で示される高温あるいは低pHの溶液中では十分な耐溶出性は得られないことが判明した。一方本発明のNo.1およびNo.2のステンレス鋼は、Feの溶出量がいずれも20ppb以下と極めて低く、日本酒の変色はなく充填前の食品の品質を長期間安定して保持させることが可能である。
【0035】
【表3】
【0036】
実施例3
本発明の成分の影響を検討するため、以下のような比較実験を行った。
表4に示す各種成分鋼を用いて、30℃に保持した1wt%クエン酸中にて24時間洗浄処理を行ない、実施例2に示した調味液に浸漬して溶出試験を実施した。調味液は実施例2と同様に0.15wt%酢酸、1wt%乳酸、0.2wt%クエン酸、1wt%グルタミン酸、1wt%アスパラギン酸、2.5wt%グリセリン及び2.7wt%グルコースを混合させた水溶液である。試験条件は35℃一定にして3日間保持した。常温での調味液のpHは2.5であった。ガラス製フラスコに500mlの調味液をいれ、30mm×30mmの試験片を浸漬した。試験片両面および端面は洗浄処理前に予め湿式#1000研磨紙にて研磨した。溶出した鉄イオン濃度の分析にはICP(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いた。
表4に溶出試験結果を示す。本発明例1,2の鋼種は溶出したFe量が20ppb以下と極めて低いのに対し、比較例の鋼種は何れも20ppb以上のFeの溶出が認められた。尚、比較例2に関してはPREは38以上であるがNiが少ないことで不動態皮膜が不均一となり20ppb以上のFeが溶出した。以上の結果より本発明である洗浄処理条件下で十分な耐Feイオン溶出性を付与させるためには、Cr,Ni,Mo,Nの成分値が全て請求範囲内に収まり、かつPREが38以上であることが必要とされる。
【0037】
【表4】
【0038】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば特定のステンレス鋼を低温の有機酸で洗浄することで、不動態皮膜の安定性を極めて高いものにすることができるので、アルコール飲料のみならず調味料の食品製造用、貯蔵運搬用材料として適用することが可能である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステンレス鋼の表面処理方法及び該表面処理を行うに適したステンレス鋼に関し、特に清酒、生酒、ビール、焼酎、ワイン等のアルコール飲料や、味噌、調味液、みりん、酢、マヨネーズ等の調味料を取り扱う食品工業分野において、それらを製造、貯蔵運搬用として使用するためのステンレス鋼の表面処理方法及び該表面処理に適したステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より食品製造プラントに用いる材料には、取り扱う食品の含有成分や温度などの操業条件によって、ステンレス鋼や無機または有機被覆鋼、あるいはFRP等が使い分けられている。しかし近年、メンテナンスのし易さや維持コストの低減、洗浄性、更にはリサイクル性と環境への負荷低減の観点からステンレス鋼の使用が増えつつある。
【0003】
各種食品中には腐食性を有する複数種の有機酸や添加剤が含まれていることから、プラント構成部材や貯蔵運搬容器としてステンレス鋼を使用する場合には、適正な表面処理を施さない限り鋼材表面の不動態体皮膜からの鉄イオンの溶出が生じ、変色や変質といった食品の品質を低下させることに繋がる。
【0004】
例えば酒類の製造用、貯蔵用容器としてステンレス鋼が最近使用されており、ステンレス鋼からのFeイオンの溶出を減少させる技術としていろいろの表面処理技術が開示されている。
SUS304やSUS444を液温とpHが調整された有機酸あるいは無機酸に浸漬させる方法(特許文献1、2参照)。
SUS304鋼を有機酸に浸漬させた後、酸化性溶液によって不動態化を促進させる方法(特許文献3参照)。
前者の方法はクエン酸等の有機酸に浸漬することで、不動態皮膜中のFe濃度を30原子%以下に減少させて耐Feイオン溶出性を向上させるものである。しかし、表面に形成された不動態皮膜はFeとCrが混合した水酸化物で主に構成されており、各種還元性環境において皮膜の安定性は不十分であることが多い。一方、後者の方法は有機酸で処理した後に硝酸等によって不動態化処理を施し、耐Feイオン溶出性を更に向上させる方法である。
洗浄処理が終了した時点での浸漬電位は前者の方法では±0V以下(飽和カロメル電極基準)である。その結果、後述する表3の比較例20〜23に示したように効果が十分となっていない。
また、後者の方法では+0.7Vから+0.8Vまで上昇する。結果として、皮膜厚さが倍増すると同時に皮膜中に取りこまれる結合水が低減され、安定性の高いCr酸化物主体の不動態皮膜が形成される。この改質効果は日本酒よりもpHの低い環境や液温の高い環境において特に顕著である。しかし、硝酸や過酸化水素を必要とするという欠点がある。
【0005】
コーティング剤を塗布し、加熱により酸化皮膜を形成させる方法(特許文献4参照)。
表面を電解研磨し、加熱処理後、着色酸化被膜を高温水等により溶解除去する方法(特許文献5参照)。
これらの方法は主に半導体製造装置用材料の洗浄処理として適用されているものであるが、食品容器として用いる場合、容器成形後の内面に上記各種の表面処理をしなければならず、工程及びコストの面で問題がある。
また、母材からのFeイオンの溶出を抑制する方法として、酒類用フェライト系ステンレス鋼製容器(特許文献6参照)も開示されている。しかし、合金組成だけでは解決出来ず、わずかながらもFeイオンの遊離溶出があり、長期間の保管に対しては不十分である。従って、酒用ステンレス容器には内面にライニング材を使用したりメッキを施してFeイオンの溶出を防止しているのが現状である。
【特許文献1】特開2001−131765号公報
【特許文献2】特開2001−342585号公報
【特許文献3】特開2001−115271号公報
【特許文献4】特開昭61−186483号公報
【特許文献5】特開平5−171479号公報
【特許文献6】特公昭62−151173号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ステンレス鋼製の食品製造用部材あるいは貯蔵運搬用部材の上述した欠点を解決しようとするものである。すなわちステンレス表面からのFeイオンの溶出を未然に防ぎ、食品の長期保存を可能にしたステンレス鋼の表面処理方法及び該表面処理に適したステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本願の第1発明の要旨はステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)が20原子%以下であることを特徴とするステンレス鋼部材の表面処理方法である。
【0008】
本願の第2の発明の要旨は、ステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)を[Fe]、Cr濃度を[Cr]とした場合 [Fe]≦20、[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5とすることを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法である。
【0009】
そして、第1の発明及び第2の発明において、有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることが好ましく、更に、これらの有機酸にアスコルビン酸を添加することが好ましい。
また、ステンレス鋼としては、15.0wt%≦Ni≦30.0wt%、20.0wt%≦Cr≦26.0wt%、2.0wt%≦Mo≦8.0wt%、N:0.30wt%以下で、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下式を満たすステンレス鋼であることが好ましい。
Cr+3.3Mo+20N≧38 (式中Cr、Mo、Nは各成分の含有量(wt%)を示す)
【0010】
本願の第3の発明の要旨は、ステンレス鋼を有機酸で表面処理を行うに際し、有機酸に併せてアスコルビン酸を添加することを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法であり、その際の有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることが好ましい。
本願の第4の発明の要旨は、有機酸で表面処理を行うステンレス鋼であって、該ステンレス鋼の組成が
15.0wt%≦Ni≦30.0wt%、20.0wt%≦Cr≦26.0wt%、2.0wt%≦Mo≦8.0wt%、N:0.30wt%以下で、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下式を満たすことを特徴とするステンレス鋼である。
Cr+3.3Mo+20N≧38 (式中Cr、Mo、Nは各成分の含有量(wt%)を示す)
【0011】
そして、第4の発明における有機酸は酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることが好ましく、更に、上記有機酸に加えてアスコルビン酸を添加することが好ましい。
そして、上記ステンレス鋼が貯蔵運搬などの食品製造用に供するものであることを特徴とする食品製造用ステンレス鋼である。
【0012】
即ち、本発明における有機酸の表面処理方法は、ステンレス鋼部材表面の鉄分を有機酸によって選択的に溶解処理し、表面にCr富化層を生成させるものである。また、本発明はステンレス鋼部材表面のCrが富化した不動態被膜を備えたステンレス鋼製部材である。
【0013】
そして、本発明によると、不動態皮膜中のFe濃度を20原子%以下にし、Cr酸化物および水酸化物を主体とした不動態皮膜を形成させることで、鉄イオンの溶出が抑制される。Fe濃度が20原子%を超えると不動態皮膜からのFeの溶出が生じやすく、食品の品質劣化に繋がる。不動態皮膜中のFe濃度を20原子%以下にするためには、0.01重量%以上の濃度を有する有機酸に浸漬処理することにより、不動態皮膜中の鉄分が選択溶解され、Cr主体の皮膜が形成される。Fe濃度は15原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であれば更に好ましい。
【0014】
また、好ましい実施の形態としては、ステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)を[Fe]、Cr(原子%)濃度を[Cr]とした場合 [Fe]≦20、[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5とすることを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法とすることが好ましい。この場合においてもFe濃度は15原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であれば更に好ましい。[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5としたのは、各種溶液に対する不動態皮膜の安定性はCr酸化物もしくは水酸化物の量によって決定づけられるからである。有機酸に浸漬することで皮膜中のFe濃度を下げ、同時にFeに対する皮膜中のCr量を相対的に増加させることで各種水溶液に対する安定性が増す。よって十分な効果を得るために[Cr]/([Fe]+[Cr])を0.5以上とした。[Cr]/([Fe]+[Cr])は0.6以上が好ましく、さらに0.8以上が好ましい。
【0015】
ここで、原子比はAES(オージェ電子分光分析装置)により測定する。
測定方法の条件を以下に示す。
機器名:アルバックファイ社製PHI610
真空度:7×10−10torr、加速電圧:5KeV、
ビーム電流:140nA、イオン銃のイオン種:Ar、
電流:25mA、ビーム電圧1kV
スパッタ毎の各スペクトルから元素の原子分率を算出し、不動態皮膜の厚さ方向の濃度変化を測定する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明について詳細に説明する。
本発明において適用する有機酸としては酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸、あるいはこれらを混合した有機酸を用いる。これらの有機酸はカルボニル基を有する有機酸であり、この酸中に部材を浸漬すると、部材表面の残留Fe及び皮膜内に存在するFeはキレート反応により、選択的に溶解される。またこれらの有機酸は部材表面のCa、Mgを主体とした非金属系介在物も溶解除去し、ステンレス鋼表面にCrに富む清浄でかつ均一な皮膜を形成させる効果がある。
【0017】
本発明の表面処理手段としてはステンレス鋼表面に有機酸溶液を塗布してもよいが、ステンレス鋼を有機酸溶液中に浸漬することが好ましい。具体的には、ステンレス鋼を有機酸溶液中に浸漬する場合、前述の有機酸の1種または2種以上の混合濃度が0.01〜10wt%の水溶液に調整する。濃度が0.01wt%より低い場合は、不動態皮膜中のFeを十分除去することができない。一方10wt%以上に調整しても効果は殆ど変わらず無意味である。よって有機酸の濃度は0.01から10wt%が望ましい。
【0018】
温度については20℃よりも低い場合は、Feを選択溶解させるのに時間を要する。好ましくは20℃以上が望ましい。一方50℃よりも高い場合は、溶解能力は上昇するが、有機酸が本来熱に弱いという特性上、使用早期において有機酸の洗浄効果を減少させる。よって処理液の温度は20℃から50℃の間に保持することが望ましい。
【0019】
本温度範囲に保持された有機酸は処理液の寿命を長くし、熱源を含めたトータル処理コストの低減に繋がる。また処理時間については3時間以上であれば十分であり、Feの選択溶解をより進行させるためには24時間程度が望ましい。
【0020】
Feの溶解速度を高めるための手段としては、処理液の温度を上げたり、攪拌したりすることが有効であるが、本発明においては酢酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸にアスコルビン酸を添加することでFeの溶解反応を促進可能であることが判明した。酢酸やクエン酸に長時間浸漬するだけでも十分効果はあるが、処理液の温度や時間に制約がある場合にはアスコルビン酸を適量添加することが有効である。
【0021】
一般にアスコルビン酸は還元性が強く自身は酸化されやすい性質を有している。本発明においてアスコルビン酸はクエン酸等でキレート化されたFeが表面に沈着するのを防止し、常に皮膜再表面からのFeの溶解除去を促進する役割を持つ。またアスコルビン酸は熱や光に弱い特性を有しているが、上記有機酸に適量添加することでその腐敗を抑制することができる。添加する量は、酢酸、クエン酸等の有機酸の重量に対して10wt%から50wt%添加することが望ましい。10wt%以下の場合はその添加効果が少なく、50wt%以上では処理液の寿命が短くなると共に薬剤コストの高騰を招く。
【0022】
次に本発明における鋼の化学組成の限定理由を述べる。
【0023】
Cr:20.0wt%≦Cr≦26.0wt%
Crはステンレス鋼表面からの耐Feイオン溶出性を向上させるのに最も有効な元素である。不動態皮膜中のCr濃度は母材のCr濃度に比例して増加し、結果として食品中へのFeイオンの溶出が抑制される。汎用材SUS304鋼のように、母材のCr濃度が20wt%よりも低い場合には、皮膜中のFe濃度を20原子%以下に下げるために硝酸や過酸化水素等の強力な酸化剤を高温で用いるか、もしくは特殊な熱処理を併用した洗浄処理が必要になる。本発明において所定の有機酸に浸漬することで、耐Feイオン溶出性の優れた不動態皮膜を得るためには、少なくとも20.0wt%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が26.0wt%を越えるとσ相やχ相等の金属間化合物の形成を助長し、均一な皮膜が得られない場合がある。したがってCrの含有量を20.0wt%〜26.0wt%とした。なおCrの含有量は23.0wt%以上であることが好ましい。
【0024】
Ni:15.0wt%≦Ni≦30.0wt%
Niはσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制する上で有効な元素である。ステンレス鋼表面に金属間化合物が露出している場合、その周辺部においてミクロ偏析が生じ均一な不動態皮膜が得られない場合がある。またNiはオーステナイト組織の安定化に必須の元素である。その含有量が15wt%を下回ると、耐局部腐食性向上のために含有させるCrやMoを必要量添加した場合、二相組織になりオーステナイト組織を維持できなくなる。また30wt%を上回ると熱間変形抵抗が増大し製造上の負荷が大きくなる。よってNiの含有量は15wt%〜30.0wt%とした。なおNiの含有量は17wt%以上であることが好ましく、25.0wt%以上であればさらに好ましい。
【0025】
Mo:2.0wt%≦Mo≦8.0wt%
Moは不動態皮膜中においてCrとの相乗効果により耐イオン溶出性を向上させる元素である。2.0wt%以下ではその効果が得られず2.0wt%以上含有する必要がある。しかしながら、8.0wt%を超えて含有すると熱間加工や溶接時において金属間化合物の析出を助長し、均一な皮膜が得られないと共に機械的性質も劣化させる。従って2.0wt%〜8.0wt%とした。なお、Moの含有量は3.0wt%以上であることが好ましく、5.0wt%以上であればさらに好ましい.
【0026】
N:0.30wt%以下
NもCr、Moと同様に耐食性を向上させると共に、金属間化合物の析出を抑制するのに有効な元素である。不動態皮膜中の窒素は母材との界面に濃縮した形で存在し、表層部のCr、Moとともに不動態皮膜の安定性を高める効果がある。Nの含有量は溶解度の範囲内において高いほど効果的であるが、0.30wt%を超えて含有させるためには、真空溶解や加圧溶解が必要となり、併せて熱間変形抵抗が増大するなど製造上の負荷が極めて大きくなる。同時に過剰な含有は窒化物の析出による耐食性劣化も引き起こす。従ってNの含有量は0.30wt%以下とした。なお、Nの含有量は0.05wt%以上、0.10wt%以上であることが好ましく、0.20wt%以上であればさらに好ましい。
【0027】
Cr+3.3Mo+20N≧38
本発明において上式を規定した理由は、下記に示す表1〜表3の結果から明らかなように、Cr+3.3Mo+20Nが38を下回ると、不動態皮膜中のFe濃度が20原子%以上になり、皮膜表面からFeが溶出しやすくなる。この場合には更に硝酸、過酸化水素等の強力な不動態化剤を用いてFe濃度を下げる必要がある。しかしCr+3.3Mo+20Nが38を超えると、所定の有機酸に浸漬するだけで皮膜内のFe濃度が15原子%以下になり、不動態皮膜の安定性を飛躍的に向上させることが可能であることが判明した。なお、Cr+3.3Mo+20Nは40以上であることが好ましく、44以上であればさらに好ましい。
本発明においてCr+3.3Mo+20Nが38以上のステンレス鋼をクエン酸等の有機酸で処理すると、表面にはCr水酸化物を主体とした不動態皮膜が形成されており、皮膜中のモリブデンと窒素はキレート溶解の影響を受けずに皮膜中に残存し濃縮する。各種腐食環境に対してモリブデン及び窒素はインヒビターとして作用し皮膜欠陥部の補修能力を上げる効果があることから、Cr+3.3Mo+20Nが38以上のステンレス鋼の場合においては不動態化処理を施さなくても十分な耐Feイオン溶出性を確保できる。
【0028】
本発明において適切な表面処理を施したステンレス鋼部材は、極めてFeの溶出が抑制されCr主体の皮膜が形成されているので、日本酒等のアルコール飲料のみならず、食品製造工程において腐食性の有機酸を含有する環境では特に有効である。具体的には調味料の味噌、調味液、酢、みりんの製造用及び貯蔵運搬用材料として適する。
【0029】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例1
有機酸と不動態皮膜中のFeの溶解作用の関係について実験により確認した。表1に示す各種成分鋼を用いて表面処理後の不動態皮膜中のFe濃度を調査した。表面処理液には酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸の7種の有機酸とそれらにアスコルビン酸を添加した混合溶液を用いた。有機酸の温度は20〜40℃に保持し、濃度は0.01〜5wt%とした。ガラス製のフラスコに1000mlの洗浄液を入れ、30mm×30mmの試験片を浸漬した。比較としてTIG溶接試験片も試験に供し、試験片両面および端面は湿式#1000研磨紙にて研磨した。洗浄処理後の試験片表面のFe濃度を分析するために、AES(オージェ電子分光分析装置)を用いた。
【0030】
【表1】
【0031】
表2に各種ステンレス鋼の不動態皮膜中のFe濃度と洗浄処理条件の関係を示す。本発明の鋼種No.1及びNo.2においては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸に24時間浸漬することで、何れも皮膜内のFe濃度が20原子%以下のCr主体の皮膜が得られていた。またクエン酸にアスコルビン酸を添加して洗浄処理した場合は低温かつ短時間処理にも関わらず、更にFe濃度が減少し10原子%以下の皮膜が形成していた。これに対し、鋼種No.3,4を同一条件で洗浄した場合においては何れも十分にFeが除去されておらず、Fe主体の不動態皮膜が形成されていた。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例2
次に洗浄処理を行なった各供試材を用いて、1)日本酒および2)調味液に浸漬して溶出試験を実施した。日本酒は市販の吟醸清酒を使用した。試験条件は殺菌処理を想定し80℃まで上昇させた後1時間保持し、その後空冷して1週間放置させた。一方調味液は0.15wt%酢酸、1wt%乳酸、0.2wt%クエン酸、1wt%グルタミン酸、1wt%アスパラギン酸、2.5wt%グリセリン及び2.7wt%グルコースを含有した水溶液である。試験条件は35℃一定にして3日間保持した。常温では日本酒のpHは4.2、後者の調味液は2.5であった。ガラス製フラスコに500mlの日本酒及び調味液をいれ、30mm×30mmの洗浄後の試験片を浸漬した。比較としてTIG溶接試験片も試験に供し、試験片両面および端面は湿式#1000研磨紙にて研磨した。溶出した鉄イオン濃度の分析にはICP(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いた。
【0034】
表3に溶出試験結果を示す。鋼種No.3及びNo.4は不動態皮膜中にFeが25原子%以上存在するために、何れも30ppb以上のFeの溶出があり、日本酒は黄変し食品の品質を大きく劣化させた。本試験環境で示される高温あるいは低pHの溶液中では十分な耐溶出性は得られないことが判明した。一方本発明のNo.1およびNo.2のステンレス鋼は、Feの溶出量がいずれも20ppb以下と極めて低く、日本酒の変色はなく充填前の食品の品質を長期間安定して保持させることが可能である。
【0035】
【表3】
【0036】
実施例3
本発明の成分の影響を検討するため、以下のような比較実験を行った。
表4に示す各種成分鋼を用いて、30℃に保持した1wt%クエン酸中にて24時間洗浄処理を行ない、実施例2に示した調味液に浸漬して溶出試験を実施した。調味液は実施例2と同様に0.15wt%酢酸、1wt%乳酸、0.2wt%クエン酸、1wt%グルタミン酸、1wt%アスパラギン酸、2.5wt%グリセリン及び2.7wt%グルコースを混合させた水溶液である。試験条件は35℃一定にして3日間保持した。常温での調味液のpHは2.5であった。ガラス製フラスコに500mlの調味液をいれ、30mm×30mmの試験片を浸漬した。試験片両面および端面は洗浄処理前に予め湿式#1000研磨紙にて研磨した。溶出した鉄イオン濃度の分析にはICP(誘導結合プラズマ発光分光分析)を用いた。
表4に溶出試験結果を示す。本発明例1,2の鋼種は溶出したFe量が20ppb以下と極めて低いのに対し、比較例の鋼種は何れも20ppb以上のFeの溶出が認められた。尚、比較例2に関してはPREは38以上であるがNiが少ないことで不動態皮膜が不均一となり20ppb以上のFeが溶出した。以上の結果より本発明である洗浄処理条件下で十分な耐Feイオン溶出性を付与させるためには、Cr,Ni,Mo,Nの成分値が全て請求範囲内に収まり、かつPREが38以上であることが必要とされる。
【0037】
【表4】
【0038】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば特定のステンレス鋼を低温の有機酸で洗浄することで、不動態皮膜の安定性を極めて高いものにすることができるので、アルコール飲料のみならず調味料の食品製造用、貯蔵運搬用材料として適用することが可能である。
Claims (11)
- ステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)を20原子%以下とすることを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法。
- ステンレス鋼を有機酸で表面処理することにより、オージェ分析による不動態皮膜中のFe濃度(原子%)を[Fe]、Cr(原子%)濃度を[Cr]とした場合 [Fe]≦20、[Cr]/([Fe]+[Cr])≧0.5とすることを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法。
- 上記有機酸は、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることを特徴とする請求項1〜2記載のステンレス鋼の表面処理方法。
- 有機酸にアスコルビン酸を添加することを特徴とする請求項1〜3の何れかの項記載の表面処理方法。
- 上記ステンレス鋼は、15.0wt%≦Ni≦30.0wt%、20.0wt%≦Cr≦26.0wt%、2.0wt%≦Mo≦8.0wt%、N:0.30wt%以下で、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下式を満たすことを特徴とする請求項1〜4の何れかの項に記載のステンレス鋼の表面処理方法。
Cr+3.3Mo+20N≧38 (式中Cr、Mo、Nは各成分の含有量(wt%)を示す) - ステンレス鋼を有機酸で表面処理を行うに際し、有機酸に併せてアスコルビン酸を添加することを特徴とするステンレス鋼の表面処理方法。
- 上記有機酸は、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸であることを特徴とする請求項6記載のステンレス鋼の表面処理方法。
- 有機酸で表面処理を行うステンレス鋼であって、該ステンレス鋼の組成が
15.0wt%≦Ni≦30.0wt%、20.0wt%≦Cr≦26.0wt%、2.0wt%≦Mo≦8.0wt%、N:0.30wt%以下で、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下式を満たすことを特徴とするステンレス鋼。
Cr+3.3Mo+20N≧38 (式中Cr、Mo、Nは各成分の含有量(wt%)を示す) - 上記有機酸は、酢酸、シュウ酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、りんご酸、または酒石酸から選択した1種もしくは2種以上を混合した有機酸を用いることを特徴とする請求項8記載のステンレス鋼。
- 上記記載の有機酸に加えてアスコルビン酸を添加することを特徴とする請求項8又は9の何れかの項に記載のステンレス鋼。
- 上記ステンレス鋼は食品製造用であることを特徴とする請求項8〜10記載の食品製造用ステンレス鋼。
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