JP2004329611A - 温度刺激装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】温度刺激装置は、刺激媒体が人間の皮膚に触れるように、該刺激媒体を人間の皮膚に印加する温度刺激源と、温度刺激源に接続された制御ユニットであって、刺激媒体が所定の刺激温度に達するよう該刺激媒体の温度を制御する制御ユニットとを備える。刺激温度は、温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の温度に対して、加温または冷却の少なくとも一方向に変化させた温度である。制御ユニットによって温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の温度と、刺激温度との差は、人間が識別可能な温度変化を規定するしきい値温度を超えないように設定される。該しきい値温度は、刺激媒体が前記皮膚に触れる面積に基づいて算出される。
【選択図】図3
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、人間の覚醒状態を持続させるように、人間の皮膚に温度刺激を与える装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、人間の身体に温度刺激を与えて、該人間の覚醒状態を維持する手法が提案されている。一手法によると、ヘッドホン状の頭部装着具にペルチエ素子を設け、該ペルチエ素子に対して冷却動作と加温動作とを交互に切り換える。ペルチエ素子を介して、人間の頭部には冷却刺激と加温刺激とが交互に与えられる。他の実施形態では、ペルチエ素子の代わりに、自動車のエアコンの流体が利用される。エアコンの流体の温度が低温と高温の間で切り替わるように、該流体の温度を制御する。こうして、人間の頭部に、冷却刺激と加温刺激が交互に与えられる(特許文献1を参照)。
【0003】
また、人の覚醒状態を維持するために、人の顔部分に冷却刺激を加える手法が提案されている。この手法によると、顔の額の表面温度を検出し、該検出温度に基づいて、与えるべき冷却刺激の形態を決定する(特許文献2を参照)。
【0004】
また、居眠り運転を防止するため、ドライバの頭部の周辺温度を最適に保つための装置が提案されている。この装置によると、居眠り運転防止スイッチがオンになっているとき、空気調和機を急冷運転させ、ドライバの頭部付近の温度を所定温度以下に制御する(特許文献3を参照)。
【0005】
また、車両の座席のヘッドレストにペルチエ素子と送風機を設け、該ペルチエ素子を冷却して送風機を作動させることにより、冷風を乗員の後頭部に向けて吹き出す手法がある(特許文献4を参照)。
【0006】
また、エア吹き出し孔を運転者シートに備え、運転者の居眠り状態を検出したとき、該孔から吹き出す空気の温度を変化させる手法がある(特許文献5を参照)。
【0007】
また、座席の背もたれ部に導入ダクトを設け、乗員の頭部から下方に向けて、温度調節された空気を吹き出し、着座部分を空調する手法がある(特許文献6を参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2002−125993号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平11−42282号公報
【0010】
【特許文献3】
特開平5−270243号公報
【0011】
【特許文献4】
特開平2−107353号公報
【0012】
【特許文献5】
特開平10−278541号公報
【0013】
【特許文献6】
特開平5−201236号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従来、温度刺激は、人間に自覚させるように与えられる。このような温度刺激を人間に継続して与えると、人間に不快感を与えることがある。温度刺激に慣れてくると、覚醒状態を維持しにくくなるおそれがある。
【0015】
この発明は、人間になるべく自覚させないように温度刺激を与えつつ、該人間の覚醒状態を維持することができる装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この発明の一つの側面によると、人間の皮膚に温度刺激を与える装置は、刺激媒体が人間の皮膚に触れるように、該刺激媒体を人間の皮膚に印加する温度刺激源と、温度刺激源に接続された制御ユニットであって、刺激媒体が所定の刺激温度に達するよう該刺激媒体の温度を制御する制御ユニットと、を備える。該刺激温度は、制御ユニットによって温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の温度に対して、加温または冷却の少なくとも一方向に変化させた温度である。
【0017】
この発明によれば、温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の温度に対して、加温または冷却の少なくとも一方向に変化させた温度の刺激が、人間の皮膚に与えられ、該人間の覚醒状態を促すことができる。
【0018】
この発明の一実施形態によると、刺激温度は、該刺激温度と、制御ユニットによって温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の温度との差が、人間が識別可能な温度変化を規定するしきい値温度を超えないように設定される。該しきい値温度は、刺激媒体が皮膚に触れる面積に基づいて算出される。この発明によれば、温度刺激の印加を人間に自覚させないようにすることができる。
【0019】
この発明の一実施形態によると、刺激温度は、人間の冷繊維と温繊維とが同程度発火する無感温度領域内に含まれるよう設定される。無感温度領域内に含まれる温度の刺激を与えることで、人間に温覚および冷覚を生じさせることなく、温度刺激を印加し続けることができる。
【0020】
この発明の一実施形態では、上記刺激温度は、温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の温度に対して、±5度の範囲内に設定される。このような刺激温度を用いることにより、温度刺激の印加をほとんど人間に自覚させないようにすることができる。
【0021】
この発明の一実施形態では、温度刺激源は人間の皮膚に接して設けられ、刺激媒体は温度刺激源に一体的に組み込まれる。刺激媒体として、例えばペルチエ素子が用いられる。
【0022】
この発明の他の実施形態では、温度刺激源は人間の皮膚に接しないように設けられ、刺激媒体は、該温度刺激源から該人間の皮膚に向けて送出される。刺激媒体として、例えば空気が用いられる。
【0023】
この発明の他の側面によると、制御ユニットは、さらに、上記刺激温度に達した刺激媒体を温度刺激源が人間の皮膚に印加するタイミングを制御する。一実施形態では、該刺激温度に達した刺激媒体の印加は、断続的に実施される。他の実施形態では、該刺激温度に達した刺激媒体の印加の周期は、可変に制御可能である。さらに他の実施形態では、刺激温度を、所定範囲内で可変に設定することができる。このように温度刺激の様々な印加形態を採用することができる。周期および刺激温度を可変にして温度刺激を印加することにより、人間の温度刺激の印加に対する慣れを防止することができる。
【0024】
この発明の他の側面によると、温度刺激装置は、さらに、刺激媒体の温度を検出する温度センサを備える。制御ユニットは、該検出された温度に基づいて、刺激温度を設定する。この発明によれば、より正確に、刺激媒体の温度を所望の刺激温度に制御することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。人間の温度感覚は、「温」および「冷」の2つの受容器系で伝搬される。人間の皮膚には温度を感じる部位があり、「温」を感じる点は温点、「冷」を感じる点は冷点と呼ばれる。皮膚に温度刺激を与えたとき、冷繊維および温繊維の神経繊維が働く。
【0026】
図1は、Kandel E.等らの「Principle of Neural Science 4th」に記載されている、皮膚温度に対する冷繊維および温繊維の平均発火頻度の一例を示す。曲線11によって示されるように、冷繊維は、約5度から40度の皮膚温度領域にわたって動作し、曲線12によって示されるように、温繊維は、約29度から45度の皮膚温度領域にわたって動作する。
【0027】
交点10は、冷繊維と温繊維がほぼ同じ頻度で発火するポイントを示す。交点10に対応する皮膚温度が、およそ32.5〜33.5度の範囲に含まれることが一般に知られている。この範囲に含まれる温度の刺激が人間の皮膚に加えられた場合、冷繊維と温繊維がほぼ同程度に発火するので、人間には冷覚も温覚も生じない。このように、冷繊維と温繊維がほぼ同程度に発火する温度領域は、無感温度(indifferent temperature)領域と呼ばれる。
【0028】
無感温度領域に含まれる温度の刺激が与えられても、人間は該温度刺激を感じない。しかしながら、該温度刺激により冷繊維と温繊維は共に発火しているので、この発火信号により視床下部が刺激される。視床下部は、発火した冷繊維と温繊維の情報を脳幹の自律中枢へ送る。これにより、脳幹の覚醒中枢が刺激される。すなわち、無感温度領域内の温度の刺激が人間の皮膚に与えられると、人間に冷覚および温覚を生じさせることなく、覚醒を促すことができる。
【0029】
一方、人間が温度変化を識別する能力は、該温度変化にさらされる皮膚面積に依存する。図2は、人間の前腕の皮膚の温覚について、温度変化を識別することのできるしきい値温度の一例を示す。温度変化にさらされる皮膚面積(刺激面積)が大きくなるほど、しきい値温度が減少する。たとえば、刺激面積が1cm2のとき、約9度以上の温度変化を弁別することができる。
【0030】
冷覚についてのしきい値温度も温覚と同様の傾向を示すが、図2に示される温覚よりも、より緩やかな傾きの曲線になることが知られている。たとえば、冷覚では、刺激面積が1cm2のとき、約1度以上の温度変化(すなわち、現在の温度からの1度以上の低下)を識別することができる。
【0031】
このように、人間の皮膚に触れている媒体の温度を、しきい値温度を超えないよう変化させても、人間には、該媒体の温度変化を識別することができない。さらに、該温度変化の結果として生じる皮膚温度が無感温度領域内にあれば、該人間に温覚も冷覚も生じさせることなく、温度刺激を与え続けることができる。この温度刺激により、人間の覚醒状態を維持することができる。
【0032】
一般に、皮膚温度が無感温度領域付近にあるとき、温覚も冷覚も生じないので、休息に快適な状態であることが知られている。このような快適な状態は、覚醒状態が低下させるおそれがある状態ともいえる。
【0033】
たとえば、皮膚の温度が34度である状態を仮定する。これは、上記の快適な状態に相当する。皮膚に触れる媒体の刺激面積が1cm2の場合、冷覚についてのしきい値温度は約1度である。該媒体の温度が1度下がっても、人間は該温度変化を識別できない。また、該媒体により皮膚の温度が1度下がっても、結果としての皮膚温度は33度であり、これは無感温度領域内に含まれる。該媒体により33度の温度刺激が皮膚に印加されても、人間には温覚も冷覚も生じない。
【0034】
本願発明では、しきい値温度を超えないような温度の刺激を皮膚に印加すれば、該温度刺激の印加を人間に自覚させないことができるという特性を利用して、温度刺激装置を構成する。本願発明の温度刺激装置は、好ましくは、温度刺激の結果生ずる皮膚温度が、無感温度領域に含まれる状態で使用される。代替的に、温度刺激の結果生ずる皮膚温度が無感温度領域に含まれるよう、適切な調整手段を備えることもでき、これについては、第1および第2の実施形態を説明した後に記述される。
【0035】
人間が自覚する温度刺激を与えることは、不快感を生じさせることがある。本願発明によれば、このような不快感をほとんど生じさせることなく、人間の覚醒状態を維持することができる。
【0036】
図3は、本願発明の第1の実施形態に従う、車両に設けられた温度刺激装置の機能ブロック図を示す。温度刺激源21には、刺激媒体20が一体的に組み込まれている。刺激媒体20は、所定の刺激温度に達するよう制御される。温度刺激源21は乗員の皮膚に接するよう配置され、これにより、所定の温度の刺激が、刺激媒体20を介して皮膚に印加される。温度刺激を印加すべき場所は、たとえば、頭部、顔、額、腕などの露出した皮膚である。温度刺激源21は、刺激媒体20の皮膚に触れる面積が1cm2になるよう設計される。
【0037】
制御ユニット22は、温度刺激源21に通電エネルギーを供給する。通電エネルギーの大きさは、刺激媒体20の温度が所定の刺激温度に達するよう設定される。この実施形態では、刺激温度は、通電エネルギーが供給される前の(すなわち、定常状態での)刺激媒体20の温度よりも1度低い温度である。制御ユニット22から温度刺激源21に通電エネルギーを供給すると、刺激媒体20の温度が1度下がり、これにより、該刺激媒体が接する皮膚の温度を1度下げる。制御ユニット22が通電エネルギーの供給を停止すると、刺激媒体20の温度は、定常状態の温度に復帰する。
【0038】
こうして、しきい値温度を超えない温度変化が皮膚に印加されるので、人間は該温度刺激を自覚しない。さらに、該温度刺激の結果生じる皮膚温度が無感温度領域に含まれれば、温覚も冷覚を生じさせることなく、温度刺激を印加しつづけることができる。
【0039】
図4は、第1の実施形態に従う、温度刺激源21の一例を示す。温度刺激源21は、ペルチエ素子を組み込んだペルチエモジュール30である。ペルチエ素子は、典型的には、2枚の接合用金属片32aおよび32bの間に熱伝素子31を配列することにより実現される。電流を印加することにより、一方の金属片32aの面は冷却され、他方の金属片32bの面は加熱される。電流を印加する極性を逆にすることにより、該一方の金属片の面を加熱し、該他方の金属片の面を冷却することができる。
【0040】
2枚の金属片32aおよび32bは、セラミック板33aおよび33bにより挟まれている。加熱面32bのセラミック板33bには、放熱フィン34が取り付けられている。冷却面32aのセラミック板33aには、ラバーカバー35が取り付けられており、該ラバーカバー35を介して、冷却面32aを皮膚に接触させ、定常状態よりも1度低い温度の冷刺激を与える。代替的に、加熱する面を皮膚に接触させ、温刺激を与えるようにしてもよい。または、冷刺激と温刺激とを交互に与えるようにしてもよい。刺激面積は、ペルチエ素子が皮膚に接する面積であり、前述したように1cm2に設計される。
【0041】
図5は、第1の実施形態に従う、車両の運転席40に設けられた温度刺激装置の一例を概略的に示す。ヘッドレスト41の左右両側には、フレキシブルステー42が、リンク43を介して取り付けられている。フレキシブルステー42は、リンク43に対して、矢印44および45の方向に可動である。温度刺激装置を運転手が使わない時は、フレキシブルステー42を矢印44の方向へ動かして、該フレキシブルステー42をヘッドレスト41に収容することができる。温度刺激装置を運転手が使う時は、フレキシブルステー42を、矢印45の方向に動かすことによって取り出す。
【0042】
フレキシブルステー42には、図4に示されるようなペルチエモジュール30が、温度刺激源21として取り付けられている。左右のフレキシブルステー42のそれぞれを運転手の首周りにセットすることにより、左右のペルチエモジュール30を、運転手の首に接触させる。こうして、ペルチエ素子からの温度刺激が、運転手の首の皮膚に印加される。
【0043】
ペルチエモジュール30は、シート40の内部を通る電気ライン45を介して制御ユニット22に接続される。制御ユニット22は、車両の電力供給系に接続されており、ペルチエ素子の温度を1度下げるようペルチエモジュール30に通電エネルギーを供給する。通電エネルギーの供給を停止すると、ペルチエ素子の温度は、定常状態の温度に復帰する。
【0044】
図6の(a)は、フレキシブルステー42の拡大図である。フレキシブルステー42にはバックル46が設けられており、矢印47の方向に、フレキシブルステー42の長さを調整することができる。
【0045】
図に示されるペルチエモジュール30の面は、放熱フィン34が取り付けられた加熱面である。図に示される面とは反対側の面が冷却面であり、該冷却面が、首の皮膚に接触する。
【0046】
図6の(b)は、ペルチエモジュール30が首の皮膚に接触されている様子を、上部から見た図である。フレキシブルステー42は、首の形状に適合するよう、外向きに少し反っている。
【0047】
図7は、制御ユニット22から温度刺激源21への通電エネルギーの供給タイミングの一例を示す。第1の実施形態(図3)では、温度刺激源21に通電エネルギーを供給すると、所望の刺激温度に達した(すなわち、1度低下した)刺激媒体20が皮膚に印加される。したがって、図7は、通電エネルギーの供給形態だけでなく、刺激温度に達した刺激媒体20の皮膚への印加タイミングをも同時に示している。
【0048】
温度刺激源21に通電エネルギーが供給される周期がTで表されており、周期Tには、所望の時間を設定することができる(たとえば、90秒)。1周期につき、通電エネルギーの供給は所定時間Te(たとえば、10秒)にわたって実施される。すなわち、所定時間Teにわたり、温度刺激が印加される。通電エネルギーの大きさは、刺激媒体20の温度が定常状態の温度よりも1度低くなるように調整される。
【0049】
フリッカーテストは、本願発明の効果を考察するためにのみ実施された。フリッカーテストは、光を断続的に発光させ、これが人間に連続光として見えるか、断続光として見えるかを検査する既知のテスト手法である。一例として、図では、フリッカーテストがt1およびt2の時点で開始されている。期間Tf1およびTf2は、フリッカーテストで発せられた光を、人間が断続光として認識するまでの反応時間の一例を示している。
【0050】
図8に、フリッカーテストの結果の一例を示す。該フリッカーテストでは、所定時間(たとえば、90秒)にわたってLEDの輝度を変化させ、運転手の反応時間を計測した。反応時間が長いほど、覚醒状態が低下していることを示す。
【0051】
波形52は、第1の実施形態に従って温度刺激を皮膚に与えた場合の結果を示す。該温度刺激は、額の皮膚にペルチエ素子を接触させて、該ペルチエ素子の温度を1度下げることにより行われた。さらに、該温度刺激は、該温度刺激の結果生じる皮膚温度が、ほぼ無感温度領域に含まれるような状況で行われた。一方、波形53は、温度刺激を皮膚に与えない場合の結果を示す。
【0052】
波形52と53を比較して明らかなように、温度刺激がある場合は、短い反応時間を維持することができるが、温度刺激がない場合は、反応時間が長くなる場合が度々起こる。このように、人間にほとんど自覚させない程度の温度刺激を与えることにより、人間の覚醒状態を持続させることができる。
【0053】
図9は、本願発明の第2の実施形態に従う、車両に設けられた温度刺激装置の機能ブロック図を示す。図3と異なる点についてのみ説明する。
【0054】
温度センサ23が、皮膚に接する刺激媒体20の温度を検出するために設けられる。検出された温度は、制御ユニット22にフィードバックされる。制御ユニット22は、検出された温度よりも1度低い温度を刺激温度に設定し、該刺激温度に達するよう刺激媒体20の温度を制御する。
【0055】
第2の実施形態において、刺激媒体20の一例は空気である。温度刺激源21は、所望の刺激温度に達した空気を搬送する系であり、該系には、該所望の刺激温度に達した空気を運転手の皮膚に送出する吹き出し口が含まれる。吹き出し口は、該吹き出し口からの空気が皮膚に当たる面積(すなわち、刺激面積)が約1cm2になるよう設計される。
【0056】
刺激媒体20が空気の場合、温度センサ23は、吹き出し口からの空気が当たる皮膚の近傍に設けられる。温度センサ23によって検出される温度は、該皮膚に接する空気の現在の温度である。
【0057】
制御ユニット22は、高温空気と低温空気を混合し、検出温度よりも1度低い温度の空気を生成する。制御ユニット22は、たとえば、車両に設けられたヒータによって生成された高温空気と、エアコンディショナー(以下、エアコンと呼ぶ)により生成された低温空気とを用いることができる。生成された空気は、吹き出し口に送られる。
【0058】
この実施形態では、すでに高温にされた空気と、すでに低温にされた空気の混合量を調節することにより、所望の刺激温度の空気を生成するので、制御ユニット22は、空気を高温および低温にするための通電エネルギーを供給しない。しかしながら、代替的に、制御ユニット22は、任意の適切なヒータおよび冷媒蒸発器に通電エネルギーを供給して高温空気および低温空気を生成し、該高温空気と低温空気を混合して所望の刺激温度の空気を生成してもよい。
【0059】
高温空気と低温空気の生成は、任意の既知の方法で実現されることができる。ペルチエ効果を利用して、高温空気および低温空気を生成してもよい。また、エアコンから、低温空気と高温空気の両方を取り出すようにしてもよい。
【0060】
図10に、制御ユニット22によって実施されるフィードバック制御のフローチャートを示す。ステップS61において、温度センサ23によって検出された温度T1を受け取る。ステップS62において、検出温度T1をしきい値(たとえば、5℃)と比較する。検出温度が低すぎる場合には、所望の刺激温度の空気を生成できないおそれがあるので、ステップS61に戻る。ステップS62において、検出温度T1がしきい値より大きければ、ステップS63に進む。
【0061】
ステップ63において、検出温度T1よりも1度低い温度が算出され、これが刺激温度T2に設定される。ステップS64において、高温空気と低温空気の混合割合を調節することにより、該刺激温度の空気を生成する。生成された空気を吹き出し口を介して皮膚に印加するタイミングは、図7に示される印加形態に基づくことができる。フィードバック制御を実施することにより、より良好な精度で、皮膚に印加する空気の温度を、所望の刺激温度に制御することができる。
【0062】
図11は、第2の実施形態に従う、車両に設けられた温度刺激装置の一例を概略的に示す。制御ユニット22には、エアコンからの低温空気用ダクト73およびヒータからの高温空気用ダクト74が連結される。制御ユニット22は、低温空気用ダクト73からの低温空気と、高温空気用ダクト74からの高温空気を混合し、温度センサ23によって検出された温度よりも1度低い温度の空気を生成する。制御ユニット22は、シート40の内部を通る空気通路75を介して吹き出し口71に連結されている。制御ユニット22によって温度調節された空気は、吹き出し口71に送られる。
【0063】
吹き出し口71は、ヘッドレスト41の左右両側に設けられる。制御ユニット22によって生成された空気は、吹き出し口71から、運転手の首のサイド部分に向けて送出される。より覚醒効果を高めるため、首の側面から後面にわたって空気が吹き付けるように、吹き出し口71を配置するのがよい。図12には、この空気の流れを上部から見た様子が示されている。
【0064】
ヘッドレスト41には吸入ファン72が設けられており、首に当たった空気は、吸入ファン72に吸い込まれる。空気の流路が形成されるので、首にあたる空気の温度が均一に保たれ、覚醒効果が増すことができる。ヘッドレスト41には、さらに温度センサ23が設けられており、吹き出し口71からの空気が印加される首周りの温度を検出する。
【0065】
温度センサ23を用いた上記形態は、ペルチエモジュールを温度刺激源として用いた第1の実施形態にも適用可能である。この場合、温度センサ23をペルチエモジュールに組み込み、ペルチエ素子の温度を制御ユニット22にフィードバック制御することができる。
【0066】
図13は、温度刺激の印加について他の形態を例示的に示す。図に示される印加形態1〜4は、第1および第2の両方の実施形態に適用可能である。第2の実施形態においては、検出された温度に応じて、適切な印加形態を選択するようにしてもよい。
【0067】
前述したように、刺激媒体20の温度は制御ユニット22によって調節される。所望の刺激温度に達した刺激媒体20の皮膚への印加の周期も、制御ユニット22によって決定される。ライン80は、刺激媒体20の温度が制御ユニット22によって制御されていない時の(すなわち定常状態における)、刺激媒体の温度レベルを示す。いずれの形態においても、制御ユニット22は、刺激媒体20の温度変化がしきい値温度を超えないように、温度刺激を印加する。
【0068】
形態1は、一定の刺激温度を一定の周期で印加する形態である。形態2は、一定の刺激温度を、「1/fゆらぎ」間隔で、または不定の周期で印加する形態である。
【0069】
形態3は、刺激温度を変化させて印加する形態である。刺激媒体20の温度を、定常状態の温度レベル80に対して下げる(冷却する)または上げる(加熱する)ことができる。形態4は、形態2および3を組み合わせた形態である。
【0070】
このように、温度刺激の印加は様々な形態をとることができ、制御ユニット22は、選択された印加形態に適合するよう、刺激媒体20の温度を設定することができる。第1の実施形態では、ペルチエモジュール30への通電エネルギーの供給を調節することにより、選択した印加形態に適合するよう刺激媒体20の温度を調節することができる。第2の実施形態では、高温空気および低温空気の混合量を調節することにより、選択した印加形態に適合するよう刺激媒体の温度を調節することができ、さらに、生成した空気を吹き出し口に送るタイミングを、選択した印加形態に適合するよう制御することができる。
【0071】
図14および図15は、温度刺激源21の様々な配置例を示す。図14は、人間の額部分に温度刺激を印加する形態を示す。図14(a)は接触型を示し、図14の(b)は非接触型を示す。接触型においては、ヘアーバンドや帽子81等に、ペルチエ素子のような刺激媒体20を組み込んだ温度刺激源21を設ける。ヘアーバンドや帽子81等を装着することにより、温度刺激が額に印加される。非接触型においては、額部分に空気流があたるように、吹き出し口82が配置される。
【0072】
図15は、人間の首部分に温度刺激が印加される形態を示す。図15の(a)は接触型を示し、図15の(b)は非接触型を示す。接触型においては、ヘッドレストの前面部に、ペルチエ素子のような刺激媒体20を備える温度刺激源83を組み込み、首の後ろ部分に該温度刺激源が接触するようにする。非接触型においては、図15の(b)に示されるように、耳下などの首の側面部分に空気流があたるように、吹き出し口84が配置される。首の側面部分にあたった空気は、ヘッドレストの側面の張り出し部に設けられた吸入ファン85により吸い込まれる。
【0073】
上記の実施形態においては、温度刺激装置を車両に設けた。しかしながら、本願発明の温度刺激装置は、車両の乗員に限定されず、任意の状態に適用することができる。例えば、何らかの作業に従事している人間に適用することができる。また、刺激媒体は、他の適切な媒体を用いてもよい。たとえば、水を用いて、または他の冷却/加熱素子を用いて、温度刺激を与えることができる。
【0074】
前述したように、温度刺激によって生じる皮膚温度が、無感温度領域に含まれれば、人間に自覚されないように温度刺激を印加し続けることができる。しかしながら、無感温度領域の温度は、個人差があり、また環境によっても変化する。温度刺激によって生じる皮膚温度が無感温度領域に含まれるように、刺激面積および/または刺激媒体の温度を調節する手段を、温度刺激装置に設けることができる。たとえば、テストモードを設定し、該テストモードで温度刺激装置を作動させる。ユーザは、「温」および「冷」を感じないように、刺激媒体への通電エネルギーおよび/または刺激面積を調整することができる。こうして、通電エネルギーが供給されている時の刺激媒体の温度を、無感温度領域内に収めるようにする。
【0075】
代替的に、テストモードで、段階的にユーザに温度刺激を与え、ユーザが「温」または「冷」を感じるかどうかを調べることができる。「温」も「冷」も感じない温度領域を、無感温度領域として記憶しておくことができる。温度センサにより検出された温度と、無感温度領域の温度とを比較して、刺激面積を調整することができる。たとえば、検出温度が無感温度領域の上限温度よりも1度以上高いときは、刺激面積を1cm2以下にし、温度刺激の結果生じる皮膚温度を無感温度領域内に収めるようにすることができる。
【0076】
刺激面積は、第1の実施形態では、電流を流すペルチエ素子の数によって調整することができ、第2の実施形態では、吹き出し口の開口面積によって調整することができる。
【0077】
【発明の効果】
この発明によれば、不快感を生じさせることなく、人間の覚醒状態を持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】皮膚温度に対する温繊維および冷繊維の平均発火頻度の一例を示す図。
【図2】温度刺激面積に対する、温覚についての温度弁別能力のしきい値温度の一例を示す図。
【図3】この発明の第1の実施形態に従う、温度刺激装置の機能ブロック図。
【図4】この発明の第1の実施形態に従う、温度刺激源の一例としてペルチエモジュールを示す図。
【図5】この発明の第1の実施形態に従う、車両に設けられた温度刺激装置を概略的に示す図。
【図6】この発明の第1の実施形態に従う、ペルチエモジュールの配置を示す図。
【図7】この発明の一実施形態に従う、温度刺激の印加タイミングを示す図。
【図8】この発明の一実施形態に従う、フリッカーテストの結果を示す図。
【図9】この発明の第2の実施形態に従う、温度刺激装置の機能ブロック図。
【図10】この発明の第2の実施形態に従う、刺激温度をフィードバック制御するフローチャート。
【図11】この発明の第2の実施形態に従う、車両に設けられた温度刺激装置を概略的に示す図。
【図12】この発明の第2の実施形態に従う、吹き出し口と吸入ファンの配置を示す図。
【図13】この発明の一実施形態に従う、温度刺激の印加タイミングの他の例を示す図。
【図14】この発明の一実施形態に従う、額に温度刺激を印加する形態の温度刺激源の他の配置を示す図。
【図15】この発明の一実施形態に従う、首に温度刺激を印加する形態の温度刺激源の他の配置を示す図。
【符号の説明】
20 刺激媒体
21 温度刺激源
22 制御ユニット
23 温度センサ
Claims (13)
- 人間の皮膚に温度刺激を与える装置であって、
刺激媒体が人間の皮膚に触れるように、該刺激媒体を人間の皮膚に印加する温度刺激源と、
前記温度刺激源に接続された制御ユニットであって、前記刺激媒体が所定の刺激温度に達するよう該刺激媒体の温度を制御する制御ユニットと、を備え、
前記刺激温度は、前記制御ユニットによって温度制御が実施されていない時に前記人間の皮膚に触れている前記刺激媒体の温度に対して、加温または冷却の少なくとも一方向に変化させた温度である、温度刺激装置。 - 前記刺激温度は、該刺激温度と、前記制御ユニットによって温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の前記温度との差が、人間が識別可能な温度変化を規定するしきい値温度を超えないように設定され、
前記しきい値温度は、前記刺激媒体が前記皮膚に触れる面積に基づいて算出される、請求項1の温度刺激装置。 - 前記刺激温度は、人間の冷繊維と温繊維とが同程度発火する無感温度領域内に含まれるよう設定される、請求項1または請求項2に記載の温度刺激装置。
- 前記刺激温度は、前記制御ユニットによって温度制御が実施されていない時に人間の皮膚に触れている刺激媒体の前記温度に対して、±5度の範囲内に設定される、請求項1の温度刺激装置。
- 前記温度刺激源は、人間の皮膚に接して設けられ、前記刺激媒体は該温度刺激源に一体的に組み込まれる、該請求項1の温度刺激装置。
- 前記温度刺激源は、人間の皮膚に接しないように設けられ、前記刺激媒体は、該温度刺激源から該人間の皮膚に向けて送出される、請求項1の温度刺激装置。
- 前記刺激媒体は、ペルチエ素子である、請求項5の温度刺激装置。
- 前記刺激媒体は、空気である、請求項6の温度刺激装置。
- 前記制御ユニットは、さらに、前記刺激温度に達した刺激媒体の前記温度刺激源による前記人間の皮膚への印加のタイミングを制御する、請求項1の温度刺激装置。
- 前記制御ユニットは、前記刺激温度に達した刺激媒体の前記印加を、断続的に実施する、請求項9の温度刺激装置。
- 前記制御ユニットは、前記刺激温度に達した刺激媒体の前記印加の周期を、可変に制御可能である、請求項9の温度刺激装置。
- 前記制御ユニットは、前記刺激温度を、所定範囲内で可変に設定することができる、請求項1の温度刺激装置。
- さらに、前記刺激媒体の温度を検出する温度センサを備え、
前記制御ユニットは、前記検出された温度に基づいて前記刺激温度を設定する、請求項1の温度刺激装置
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