JP2004328862A - 渦電流式減速装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】制動力の向上を図った渦電流式減速装置を提供するものである。
【解決手段】本発明に係る渦電流式減速装置10は、回転軸a1に取り付けられたドラム状のロータ11と、そのロータ11の円筒部内面11aに対向して固定系に設けられた環状ケーシング12と、その環状ケーシング12のロータ側外壁12aに軸方向に所定間隔を隔てて設けられた3つの強磁性体筒16a〜16cと、両端面に磁極面を有する2枚のリング状の永久磁石板13a,13b及びその永久磁石板13a,13bを挟持する3枚のリング状の強磁性体板14a〜14cで構成され、環状ケーシング12内に収容された可動ステータ15と、その可動ステータ15を軸方向に移動させる移動手段20とを備えたものであって、強磁性体筒16a〜16cの外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝31を複数形成したものである。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明に係る渦電流式減速装置10は、回転軸a1に取り付けられたドラム状のロータ11と、そのロータ11の円筒部内面11aに対向して固定系に設けられた環状ケーシング12と、その環状ケーシング12のロータ側外壁12aに軸方向に所定間隔を隔てて設けられた3つの強磁性体筒16a〜16cと、両端面に磁極面を有する2枚のリング状の永久磁石板13a,13b及びその永久磁石板13a,13bを挟持する3枚のリング状の強磁性体板14a〜14cで構成され、環状ケーシング12内に収容された可動ステータ15と、その可動ステータ15を軸方向に移動させる移動手段20とを備えたものであって、強磁性体筒16a〜16cの外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝31を複数形成したものである。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に減速制動を与える渦電流式減速装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の渦電流式減速装置として、ドラム状のロータが回転するもの(例えば、特許文献1参照)と、ドラム状のステータの内面側に設けられた環状ケーシングが回転するもの(例えば、特許文献2参照)とがある。
【0003】
特許文献1記載の渦電流式減速装置を、図13に示すように、回転軸(図13中では回転中心軸のみ図示)a2に取り付けられたドラム状の制動ロータbと、その制動ロータbの内面b1に対向して設けられ、固定系に支持された中空の環状ケーシングcと、その環状ケーシングcのロータ側外壁c1に軸方向に所定間隔を隔てて設けられた3つのリング状の強磁性体板(ポールピース)d1〜d3と、両端面に磁極面を有する2枚のリング状の永久磁石板e1,e2及び各永久磁石板e1,e2を挟持する3枚のリング状の強磁性体板f1〜f3で構成され、環状ケーシングc内に収容して設けられた可動ステータgと、その可動ステータgを軸方向に移動させるアクチュエータ(例えば、流体シリンダなど)hとで構成されている。
【0004】
この渦電流式減速装置において、アクチュエータhに流体iを供給し、可動ステータgを矢印Eの方向(軸方向)に駆動させることで、減速制動オンとなる。この時、可動ステータgの永久磁石板e1,e2とロータbとの間に磁気回路kが形成される。この磁気回路kによりロータbに渦電流が生じ(フレミングの左手の法則)、この渦電流により減速制動の制動力が生じる(フレミングの右手の法則)。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−199696号公報
【特許文献2】
特開2002−335667号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述した渦電流式減速装置におけるポールピースd1〜d3は、その外周側の磁極面(ロータ内面b1に対向する面)が同一極で、かつ、周方向に連続している。よって、減速制動オン時、ロータbの周方向において、磁極(N極、S極)の変化がないことから(ロータbに入る磁界に変化がないことから)、永久磁石板e1,e2の性能を活かした制動力を得ることができていなかった。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、制動力の向上を図った渦電流式減速装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係る渦電流式減速装置は、回転軸に取り付けられたドラム状のロータと、そのロータの円筒部内面に対向して固定系に設けられた環状ケーシングと、その環状ケーシングのロータ側外壁に軸方向に所定間隔を隔てて設けられた少なくとも2つの強磁性体筒と、両端面に磁極面を有する少なくとも1枚のリング状の永久磁石板及びその永久磁石板を挟持する複数枚のリング状の強磁性体板で構成され、上記環状ケーシング内に収容された可動ステータと、その可動ステータを軸方向に移動させる移動手段とを備えた渦電流式減速装置において、上記強磁性体筒の外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝を複数形成したものである。
【0009】
以上の構成によれば、移動手段により可動ステータを軸方向に移動させ、可動ステータの永久磁石板を環状ケーシングの強磁性体筒間に位置させると、永久磁石板とロータとに磁気回路が構成され、ロータに渦電流が生じ、車両が減速制動される。他方、可動ステータの永久磁石板を環状ケーシングの強磁性体筒に対向する位置に位置させると、永久磁石板と強磁性体筒とで磁気短絡して遮蔽磁気回路が構成され、ロータに渦電流が生じることはなく、減速制動が解除される。
【0010】
そして、強磁性体筒の外周面に溝を形成したことによって、減速制動オン時に、ロータの周方向において、ロータに入る磁界に変化が生じるようになり、その結果、制動力が向上する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0012】
本発明に係る渦電流式減速装置の、好適一実施の形態の側断面図(減速制動オン状態)を図1に、その装置の減速制動オフ状態の側断面図を図2に示す。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態に係る渦電流式減速装置10は、車両の動力伝達系の回転軸(図1中では回転中心軸のみ図示)a1に取り付けられたドラム状の制動ロータ11と、ロータ11の内面11aに対向して設けられ、変速機等の固定系に取り付けられたステータ(磁力源)とを有し、ステータから制動ロータ11へ磁気を供給することで制動ロータ11に渦電流を生じさせて車両を減速制動し、磁気をステータ内に遮蔽することで減速制動を解除するものである。
【0014】
ステータは、固定系に支持された中空の環状ケーシング12と、ケーシング12のロータ側外壁12aに軸方向に所定間隔を隔てて設けられた3つのポールピース(強磁性体筒)16a〜16cと、ケーシング12の内部にブッシュ18を介して軸方向移動自在に収容された可動ステータ15と、可動ステータ15を軸方向にスライド移動させるアクチュエータ(流体シリンダなど)20とを有する。ポールピース16a〜16c間には非磁性体板17が配置されており、各ポールピース16a〜16cと各非磁性体板17とが交互に直列配置された状態になっている。環状ケーシング12は、例えばアルミニウム、ステンレス等の非磁性体からなっている。
【0015】
ポールピース(電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材などで構成)16a〜16cは、図3に示すように、その外周面に、周方向に所定間隔を隔てて軸方向(図3中では左右方向)に延びる溝31を有する。つまり、周方向に溝31の部分と非溝形成部分32とが交互に形成されている。溝31の本数は数本〜数十本であれば特に限定するものではないが、加工のし易さ(加工性)を考慮すると8〜36本が好ましい。また、溝31の形状は、図4に示す断面が凹状の溝41、図5に示す断面がV字状の溝51、図6に示す断面が半円状(又はU字状、或いは楕円状)の溝61などが挙げられ、特に限定するものではないが、溝深さが深く、溝幅が狭い方が好ましい。また、溝31の本数及び形状は、加工性と制動性能との兼ね合いで適宜選択されるものであって、特にどの組み合わせが最も好ましいというものではない。非磁性体板17の配置間隔(離間距離)は、後述する永久磁石板13a,13bの離間距離と同じにされる。
【0016】
可動ステータ15は、軸方向に配列された3枚のリング状の強磁性体板(電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材などで構成)14a〜14c間に、2枚のリング状の永久磁石板13a,13bを挟み込んで一体化したものである。永久磁石板13a,13bは、両端面(図1中では左右面)に磁極面を有し、かつ、軸方向に向き合う磁極が同極に設定されている。強磁性体板14a〜14cと永久磁石板13a,13bとの一体化は、ボルトによる接合や接着剤による接着などのどのような方法であってもよい。なお、図1に示した2枚の永久磁石板13a,13b間に位置する強磁性体板14bは、一体ものとして説明を行ったが、14a(又は14c)を2枚重ね合わせたものであってもよい。
【0017】
アクチュエータ20は、ケーシング24と、ケーシング24の内部に軸方向移動自在に収容されたリング状のスライド部材(ピストン部材)22と、スライド部材22に接続され、可動ステータ15を支持するロッド部材21とを有する。ロッド部材21は、周方向に複数本設けられる。
【0018】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0019】
この渦電流式減速装置10の減速制動をオフにする時には、図2に示すように、ケーシング24の供給部24bから流体等23を供給し、スライド部材22を矢印Bの方向に移動させる。これによって、可動ステータ15の永久磁石板13a,13bを、ポールピース16a,16bに対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板13a,13bとポールピース16a,16bとで磁気短絡して遮蔽磁気回路27が構成される。よって、ロータ11に渦電流が生じることはなく、ロータ11に制動力が作用しないため、車両(図示せず)が減速制動されることはない。
【0020】
他方、この渦電流式減速装置10の減速制動をオンにする時には、図1に示すように、ケーシング24の供給部24aから流体等23を供給し、スライド部材22を矢印Aの方向に移動させる。これによって、可動ステータ15の永久磁石板13a,13bを、各ポールピース16a〜16c間の非磁性体板17に対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板13a,13bとロータ11とに磁気回路(磁束線による閉路)26が構成される。よって、ロータ11に渦電流が生じ、ロータ11に制動力が作用して、車両が減速制動される。
【0021】
この時、永久磁石板13a,13bとロータ11との間に構成される磁気回路26の磁束密度に、各ポールピース16a〜16cの周面に形成された溝31の部分と非溝形成部分32とで差異が生じる。具体的には、非溝形成部分32の磁気回路26の磁束密度と比べて、溝31の部分の磁気回路26の磁束密度は低くなる。つまり、永久磁石板13a,13bが、リング体の外周面に、周方向に所定間隔を隔てて複数の永久磁石が配置されているかのように作用する。それにより、ロータ11の周方向においてロータ11に入る磁界に強弱が生じる(ロータ11に入る磁界が変化する)。この磁界の変化により、ロータ11に生じる渦電流は、その周方向において強弱を有することになる。その結果、渦電流の強弱を解消するような作用が生じ、渦電流がトータルではより強くなり、溝31のない図13に示した各ポールピースd1〜d3と比較して、制動効率が向上し、制動力を2〜5%向上させることができる。
【0022】
以上、本実施の形態に係る渦電流式減速装置10によれば、ポールピース16a〜16cの外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝31を形成することで、減速制動オン時、ロータ11の周方向において、ロータ11に入る磁界に変化が生じるようになり、制動力が向上する。つまり、減速装置10によれば、永久磁石板13a,13bの性能をより活かした制動力を得ることができる。
【0023】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0024】
本発明に係る渦電流式減速装置の、他の好適一実施の形態の側断面図(減速制動オン状態)を図7に、その装置の減速制動オフ状態の側断面図を図8に示す。
【0025】
前実施の形態の渦電流式減速装置10では、ドラム体(ロータ11)が回転し、環状ケーシング12がステータとなるものであったが、これに限定されるものではなく、環状ケーシングが回転し、ドラム体がステータとなるものであってもよい。
【0026】
例えば、図7に示す渦電流減速装置70は、例えばトラックのプロペラシャフト等の回転軸72に、ベアリング73を介してステータ74が支持されている。ステータ74は円筒部75と複数のスポーク76とを有している。ステータ74の円筒部75におけるスポーク76とは反対側の端部(図7中では左端部)には、車体等の固定系としてのミッションケース77が接続されている。
【0027】
円筒部75の内部には、ステータ74を冷却する冷却媒体が流れる冷却流路となる空洞部98が形成されている。空洞部98は円筒部75に沿って筒状に形成されており、冷却媒体の流入口と流出口(共に図示せず)とが形成されている。冷却媒体には水等が用いられている。
【0028】
ステータ74の円筒部75の内側には、円筒部75に対向して、回転軸72に支持された環状ケーシング78が設けられている。環状ケーシング78は、回転軸72と一体に固定されており、回転軸72と共に回転する回転系となる。環状ケーシング78の内部には、後述する可動ステータ79を収容する収容部81が形成されている。環状ケーシング78は、例えばアルミニウム、ステンレス等の非磁性体からなっている。
【0029】
環状ケーシング78の外周壁をなす円筒部82は、所定の間隔を隔てた3つのポールピース(強磁性体筒)84a〜84cと、各ポールピース84a〜84c間に配置される非磁性体板87とで構成されており、各非磁性体板87と各ポールピース84a〜84cとが交互に直列配置された状態になっている。各ポールピース84a〜84cの両端面には、外周側で軸方向に延出する環状突起102と、内周側で軸方向に延出する環状突起103とが形成されている。非磁性体板87、特にその内面の配置間隔(離間距離)は、後述する永久磁石板88,88の離間距離と同じにされる。
【0030】
可動ステータ79は、軸方向に配列された2枚のリング状の強磁性体板(電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材などで構成)89,90間に、1枚のリング状の永久磁石板88を挟み込んで一体化したものを、軸方向に少なくとも1組(図7中では2組を図示)並べて構成される。永久磁石板88は、両端面(図7中では左右面)に磁極面を有し、かつ、隣接する永久磁石板88,88の磁極が同極となるように設けられている。永久磁石板88,88の離間距離は、各非磁性体板87の離間距離と同じとされる。強磁性体板89,90は、永久磁石板88と接していない方の端面と内面との角部が内面全面にわたって面取りされており、面取り面89a,90aを有している。
【0031】
強磁性体板89,90と永久磁石板88との一体化は、ボルトによる接合や接着剤による接着などのどのような方法であってもよい。永久磁石板88は、例えばネオジム等の希土類元素を用いたもので構成されており、強磁性体板89,90は、例えば電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材等で構成されている。なお、図7に示した2枚の永久磁石板88,88間に位置する2枚の強磁性体板90,89は、重ね合わせたものではなく、一体で形成したものであってもよい。永久磁石板88及び強磁性体板89,90の組の組数は、2組に限られるものではなく、環状ケーシング78に設けられる強磁性体筒の数に応じて決定される。可動ステータ79の強磁性体板89,90の厚さは永久磁石板88の厚さより厚く示されているが、これに限定されるものではない。
【0032】
ポールピース84a〜84cは、図9に示すように、その外周面に、周方向に所定間隔を隔てて軸方向(図9中では左右方向)に延びる溝91を有する。つまり、周方向に溝91の部分と非溝形成部分92とが交互に形成されている。溝91の本数は数本〜数十本であれば特に限定するものではないが、加工のし易さ(加工性)を考慮すると8〜36本が好ましい。また、溝91の形状は、図10に示す断面が凹状の溝101、図11に示す断面がV字状の溝111、図12に示す断面が半円状(又はU字状、或いは楕円状)の溝121などが挙げられ、特に限定するものではないが、溝深さが深く、溝幅が広い方が好ましい。また、溝91の本数及び形状は、加工性と制動性能との兼ね合いで適宜選択されるものであって、特にどの組み合わせが最も好ましいというものではない。ここで、溝91は回転系の部材であるポールピース84a〜84cに形成されていることから、溝幅があまり狭いと、後述する磁界の変化が生じにくくなる。よって、前実施の形態の溝31と異なり、溝幅が広い方が好ましい。
【0033】
可動ステータ79には、可動ステータ79とステータ74の円筒部75との間に磁気回路126が形成される制動位置と、可動ステータ79及びポールピース84a〜84cの間に遮蔽磁気回路127が形成される非制動位置との間で可動ステータ79を移動させるアクチュエータ94が取り付けられている。
【0034】
アクチュエータ94は、環状ケーシング78の収容部81内で回転軸72の軸方向に移動自在に収容された円筒部材112と、その円筒部材112に連結されたロッド113とを備えている。円筒部材112は、可動ステータ79の制動位置と非制動位置との間を軸方向にスライド移動する。ロッド113は、円筒部材112の可動ステータ79側の端面に軸方向に延びて複数設けられており、各ロッド113を可動ステータ79の各貫通穴107に挿入することで、可動ステータ79が支持される。
【0035】
また、アクチュエータ94は、円筒部材112の外周面に巻き付けられたコイル95と、このコイル95に給電するための送電装置(図示せず)と、環状ケーシング78の内面に設けられたリング状の永久磁石97とを備えており、リニヤモータ式のものとなっている。永久磁石97は、可動ステータ79が前述した非制動位置にある時にコイル95と対向する位置に設けられる。
【0036】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0037】
この渦電流式減速装置70の減速制動をオフにする時には、図8に示すように、コイル95に給電して永久磁石97と逆の極の磁力を発生させると、円筒部材112が永久磁石97に引っ張られて矢印Dの方向へ移動する。これによって、可動ステータ79の永久磁石板88,88を、ポールピース84a,84bに対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板88,88とポールピース84a,84bとで磁気短絡して遮蔽磁気回路127が構成される。よって、ステータ74の円筒部75に渦電流が生じることはなく、回転する環状ケーシング78及び可動ステータ79に制動力が作用しないため、車両(図示せず)が減速制動されることはない。
【0038】
この減速制動オフ時には、永久磁石板88,88からの磁束の一部が、環状ケーシング78のポールピース84a,84bに隣接する非磁性体板87から円筒部75側へ漏れようとする。しかし、この時、ポールピース84a〜84cの両端面に形成された環状突起102,103が庇の役目を果たし、磁束の一部が、円筒部75側へ漏れるのを防止し、回転軸72に不必要な引きずりトルクがかかるのを防止できる。
【0039】
他方、この渦電流式減速装置70の減速制動をオンにする時には、図7に示すように、コイル95に給電して永久磁石97と同じ極の磁力を発生させると、円筒部材112が永久磁石97に反発して矢印Cの方向へ移動する。これによって、可動ステータ79の永久磁石板88,88を、各ポールピース84a〜84c間の非磁性体板87に対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板88,88とステータ74の円筒部75とに磁気回路(磁束線による閉路)126が構成される。よって、円筒部75に渦電流が生じ、回転する環状ケーシング78及び可動ステータ79に制動力が作用して、車両が減速制動される。
【0040】
この時、永久磁石板88,88と円筒部75との間に構成される磁気回路126の磁束密度に、各ポールピース84a〜84cの周面に形成された溝91の部分と非溝形成部分92とで差異が生じる。具体的には、非溝形成部分92の磁気回路126の磁束密度と比べて、溝91の部分の磁気回路126の磁束密度は低くなる。それにより、円筒部75の周方向において円筒部75に入る磁界に強弱が生じる(円筒部75に入る磁界が変化する)。この磁界の変化により、円筒部75に生じる渦電流は、その周方向において強弱を有することになる。その結果、渦電流の強弱を解消するような作用が生じて渦電流がより強くなり、溝91のない図13に示した各ポールピースd1〜d3と比較して、制動効率が向上し、制動力を2〜5%向上させることができる。
【0041】
以上、本実施の形態に係る渦電流式減速装置70によれば、ポールピース84a〜84cの外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝91を形成することで、減速制動オン時、円筒部75の周方向において、円筒部75に入る磁界に変化が生じるようになり、制動力が向上する。つまり、減速装置70によれば、永久磁石板88,88の性能をより活かした制動力を得ることができる。
【0042】
また、可動ステータ79を移動させるアクチュエータ94を、リニヤモータ式のものとしたことによって、回転軸72と共に回転する環状ケーシング78内であっても、永久磁石88を含む可動ステータ79の移動のコントロールを確実で、かつ、容易に行うことができる。これによって、ステータ74を固定系とすることができるので、その円筒部75に冷却媒体が流れる空洞部98を形成できる。従って、円筒部75を確実で効率よく冷却することができ、制動能力を向上させることができる。また、水冷式としたことによって、円筒部75に冷却用の放熱フィン等を設ける必要がなくなり、渦電流減速装置70全体の小型化が達成される。
【0043】
また、強磁性体板89,90に面取り面89a,90aを形成しているため、強磁性体板90(又は89)の面90a(又は89a)から出ようとする磁束が、他の強磁性体板89(又は90)の面89a(又は90a)に到達するまでの磁路長が長くなると共に、面90aと面89aとが形成する角度が180度よりも大きくなる。よって、図7中に破線で示すような磁気回路136が形成されず、磁気ショートの発生を防止でき、制動効果を高めることができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る渦電流式減速装置70の場合においてのみ、ポールピース84a〜84cが環状突起102,103(図9参照)を有していると説明を行ったが、前実施の形態に係る渦電流式減速装置10のポールピース16a〜16cに対しても、これらの環状突起を設けてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0046】
【発明の効果】
以上要するに、本発明に係る渦電流式減速装置によれば、制動力を向上させることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る渦電流式減速装置の、好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オン状態)。
【図2】本発明に係る渦電流式減速装置の、好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オフ状態)。
【図3】図1におけるポールピースの斜視図である。
【図4】図3におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図5】図3におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図6】図3におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図7】本発明に係る渦電流式減速装置の、他の好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オン状態)。
【図8】本発明に係る渦電流式減速装置の、他の好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オフ状態)。
【図9】図8におけるポールピースの斜視図である。
【図10】図9におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図11】図9におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図12】図9におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図13】従来の渦電流式減速装置の側断面図である(減速制動オン状態)。
【符号の説明】
10 渦電流式減速装置
11 ロータ
11a 円筒部内面(ロータ)
12 環状ケーシング
12a ロータ側外壁(環状ケーシング)
13a,13b 永久磁石板
14a〜14c 強磁性体板
15 可動ステータ
16a〜16c ポールピース(強磁性体筒)
20 アクチュエータ(移動手段)
31 溝
a1 回転軸
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に減速制動を与える渦電流式減速装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の渦電流式減速装置として、ドラム状のロータが回転するもの(例えば、特許文献1参照)と、ドラム状のステータの内面側に設けられた環状ケーシングが回転するもの(例えば、特許文献2参照)とがある。
【0003】
特許文献1記載の渦電流式減速装置を、図13に示すように、回転軸(図13中では回転中心軸のみ図示)a2に取り付けられたドラム状の制動ロータbと、その制動ロータbの内面b1に対向して設けられ、固定系に支持された中空の環状ケーシングcと、その環状ケーシングcのロータ側外壁c1に軸方向に所定間隔を隔てて設けられた3つのリング状の強磁性体板(ポールピース)d1〜d3と、両端面に磁極面を有する2枚のリング状の永久磁石板e1,e2及び各永久磁石板e1,e2を挟持する3枚のリング状の強磁性体板f1〜f3で構成され、環状ケーシングc内に収容して設けられた可動ステータgと、その可動ステータgを軸方向に移動させるアクチュエータ(例えば、流体シリンダなど)hとで構成されている。
【0004】
この渦電流式減速装置において、アクチュエータhに流体iを供給し、可動ステータgを矢印Eの方向(軸方向)に駆動させることで、減速制動オンとなる。この時、可動ステータgの永久磁石板e1,e2とロータbとの間に磁気回路kが形成される。この磁気回路kによりロータbに渦電流が生じ(フレミングの左手の法則)、この渦電流により減速制動の制動力が生じる(フレミングの右手の法則)。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−199696号公報
【特許文献2】
特開2002−335667号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述した渦電流式減速装置におけるポールピースd1〜d3は、その外周側の磁極面(ロータ内面b1に対向する面)が同一極で、かつ、周方向に連続している。よって、減速制動オン時、ロータbの周方向において、磁極(N極、S極)の変化がないことから(ロータbに入る磁界に変化がないことから)、永久磁石板e1,e2の性能を活かした制動力を得ることができていなかった。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、制動力の向上を図った渦電流式減速装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係る渦電流式減速装置は、回転軸に取り付けられたドラム状のロータと、そのロータの円筒部内面に対向して固定系に設けられた環状ケーシングと、その環状ケーシングのロータ側外壁に軸方向に所定間隔を隔てて設けられた少なくとも2つの強磁性体筒と、両端面に磁極面を有する少なくとも1枚のリング状の永久磁石板及びその永久磁石板を挟持する複数枚のリング状の強磁性体板で構成され、上記環状ケーシング内に収容された可動ステータと、その可動ステータを軸方向に移動させる移動手段とを備えた渦電流式減速装置において、上記強磁性体筒の外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝を複数形成したものである。
【0009】
以上の構成によれば、移動手段により可動ステータを軸方向に移動させ、可動ステータの永久磁石板を環状ケーシングの強磁性体筒間に位置させると、永久磁石板とロータとに磁気回路が構成され、ロータに渦電流が生じ、車両が減速制動される。他方、可動ステータの永久磁石板を環状ケーシングの強磁性体筒に対向する位置に位置させると、永久磁石板と強磁性体筒とで磁気短絡して遮蔽磁気回路が構成され、ロータに渦電流が生じることはなく、減速制動が解除される。
【0010】
そして、強磁性体筒の外周面に溝を形成したことによって、減速制動オン時に、ロータの周方向において、ロータに入る磁界に変化が生じるようになり、その結果、制動力が向上する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0012】
本発明に係る渦電流式減速装置の、好適一実施の形態の側断面図(減速制動オン状態)を図1に、その装置の減速制動オフ状態の側断面図を図2に示す。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態に係る渦電流式減速装置10は、車両の動力伝達系の回転軸(図1中では回転中心軸のみ図示)a1に取り付けられたドラム状の制動ロータ11と、ロータ11の内面11aに対向して設けられ、変速機等の固定系に取り付けられたステータ(磁力源)とを有し、ステータから制動ロータ11へ磁気を供給することで制動ロータ11に渦電流を生じさせて車両を減速制動し、磁気をステータ内に遮蔽することで減速制動を解除するものである。
【0014】
ステータは、固定系に支持された中空の環状ケーシング12と、ケーシング12のロータ側外壁12aに軸方向に所定間隔を隔てて設けられた3つのポールピース(強磁性体筒)16a〜16cと、ケーシング12の内部にブッシュ18を介して軸方向移動自在に収容された可動ステータ15と、可動ステータ15を軸方向にスライド移動させるアクチュエータ(流体シリンダなど)20とを有する。ポールピース16a〜16c間には非磁性体板17が配置されており、各ポールピース16a〜16cと各非磁性体板17とが交互に直列配置された状態になっている。環状ケーシング12は、例えばアルミニウム、ステンレス等の非磁性体からなっている。
【0015】
ポールピース(電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材などで構成)16a〜16cは、図3に示すように、その外周面に、周方向に所定間隔を隔てて軸方向(図3中では左右方向)に延びる溝31を有する。つまり、周方向に溝31の部分と非溝形成部分32とが交互に形成されている。溝31の本数は数本〜数十本であれば特に限定するものではないが、加工のし易さ(加工性)を考慮すると8〜36本が好ましい。また、溝31の形状は、図4に示す断面が凹状の溝41、図5に示す断面がV字状の溝51、図6に示す断面が半円状(又はU字状、或いは楕円状)の溝61などが挙げられ、特に限定するものではないが、溝深さが深く、溝幅が狭い方が好ましい。また、溝31の本数及び形状は、加工性と制動性能との兼ね合いで適宜選択されるものであって、特にどの組み合わせが最も好ましいというものではない。非磁性体板17の配置間隔(離間距離)は、後述する永久磁石板13a,13bの離間距離と同じにされる。
【0016】
可動ステータ15は、軸方向に配列された3枚のリング状の強磁性体板(電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材などで構成)14a〜14c間に、2枚のリング状の永久磁石板13a,13bを挟み込んで一体化したものである。永久磁石板13a,13bは、両端面(図1中では左右面)に磁極面を有し、かつ、軸方向に向き合う磁極が同極に設定されている。強磁性体板14a〜14cと永久磁石板13a,13bとの一体化は、ボルトによる接合や接着剤による接着などのどのような方法であってもよい。なお、図1に示した2枚の永久磁石板13a,13b間に位置する強磁性体板14bは、一体ものとして説明を行ったが、14a(又は14c)を2枚重ね合わせたものであってもよい。
【0017】
アクチュエータ20は、ケーシング24と、ケーシング24の内部に軸方向移動自在に収容されたリング状のスライド部材(ピストン部材)22と、スライド部材22に接続され、可動ステータ15を支持するロッド部材21とを有する。ロッド部材21は、周方向に複数本設けられる。
【0018】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0019】
この渦電流式減速装置10の減速制動をオフにする時には、図2に示すように、ケーシング24の供給部24bから流体等23を供給し、スライド部材22を矢印Bの方向に移動させる。これによって、可動ステータ15の永久磁石板13a,13bを、ポールピース16a,16bに対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板13a,13bとポールピース16a,16bとで磁気短絡して遮蔽磁気回路27が構成される。よって、ロータ11に渦電流が生じることはなく、ロータ11に制動力が作用しないため、車両(図示せず)が減速制動されることはない。
【0020】
他方、この渦電流式減速装置10の減速制動をオンにする時には、図1に示すように、ケーシング24の供給部24aから流体等23を供給し、スライド部材22を矢印Aの方向に移動させる。これによって、可動ステータ15の永久磁石板13a,13bを、各ポールピース16a〜16c間の非磁性体板17に対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板13a,13bとロータ11とに磁気回路(磁束線による閉路)26が構成される。よって、ロータ11に渦電流が生じ、ロータ11に制動力が作用して、車両が減速制動される。
【0021】
この時、永久磁石板13a,13bとロータ11との間に構成される磁気回路26の磁束密度に、各ポールピース16a〜16cの周面に形成された溝31の部分と非溝形成部分32とで差異が生じる。具体的には、非溝形成部分32の磁気回路26の磁束密度と比べて、溝31の部分の磁気回路26の磁束密度は低くなる。つまり、永久磁石板13a,13bが、リング体の外周面に、周方向に所定間隔を隔てて複数の永久磁石が配置されているかのように作用する。それにより、ロータ11の周方向においてロータ11に入る磁界に強弱が生じる(ロータ11に入る磁界が変化する)。この磁界の変化により、ロータ11に生じる渦電流は、その周方向において強弱を有することになる。その結果、渦電流の強弱を解消するような作用が生じ、渦電流がトータルではより強くなり、溝31のない図13に示した各ポールピースd1〜d3と比較して、制動効率が向上し、制動力を2〜5%向上させることができる。
【0022】
以上、本実施の形態に係る渦電流式減速装置10によれば、ポールピース16a〜16cの外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝31を形成することで、減速制動オン時、ロータ11の周方向において、ロータ11に入る磁界に変化が生じるようになり、制動力が向上する。つまり、減速装置10によれば、永久磁石板13a,13bの性能をより活かした制動力を得ることができる。
【0023】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0024】
本発明に係る渦電流式減速装置の、他の好適一実施の形態の側断面図(減速制動オン状態)を図7に、その装置の減速制動オフ状態の側断面図を図8に示す。
【0025】
前実施の形態の渦電流式減速装置10では、ドラム体(ロータ11)が回転し、環状ケーシング12がステータとなるものであったが、これに限定されるものではなく、環状ケーシングが回転し、ドラム体がステータとなるものであってもよい。
【0026】
例えば、図7に示す渦電流減速装置70は、例えばトラックのプロペラシャフト等の回転軸72に、ベアリング73を介してステータ74が支持されている。ステータ74は円筒部75と複数のスポーク76とを有している。ステータ74の円筒部75におけるスポーク76とは反対側の端部(図7中では左端部)には、車体等の固定系としてのミッションケース77が接続されている。
【0027】
円筒部75の内部には、ステータ74を冷却する冷却媒体が流れる冷却流路となる空洞部98が形成されている。空洞部98は円筒部75に沿って筒状に形成されており、冷却媒体の流入口と流出口(共に図示せず)とが形成されている。冷却媒体には水等が用いられている。
【0028】
ステータ74の円筒部75の内側には、円筒部75に対向して、回転軸72に支持された環状ケーシング78が設けられている。環状ケーシング78は、回転軸72と一体に固定されており、回転軸72と共に回転する回転系となる。環状ケーシング78の内部には、後述する可動ステータ79を収容する収容部81が形成されている。環状ケーシング78は、例えばアルミニウム、ステンレス等の非磁性体からなっている。
【0029】
環状ケーシング78の外周壁をなす円筒部82は、所定の間隔を隔てた3つのポールピース(強磁性体筒)84a〜84cと、各ポールピース84a〜84c間に配置される非磁性体板87とで構成されており、各非磁性体板87と各ポールピース84a〜84cとが交互に直列配置された状態になっている。各ポールピース84a〜84cの両端面には、外周側で軸方向に延出する環状突起102と、内周側で軸方向に延出する環状突起103とが形成されている。非磁性体板87、特にその内面の配置間隔(離間距離)は、後述する永久磁石板88,88の離間距離と同じにされる。
【0030】
可動ステータ79は、軸方向に配列された2枚のリング状の強磁性体板(電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材などで構成)89,90間に、1枚のリング状の永久磁石板88を挟み込んで一体化したものを、軸方向に少なくとも1組(図7中では2組を図示)並べて構成される。永久磁石板88は、両端面(図7中では左右面)に磁極面を有し、かつ、隣接する永久磁石板88,88の磁極が同極となるように設けられている。永久磁石板88,88の離間距離は、各非磁性体板87の離間距離と同じとされる。強磁性体板89,90は、永久磁石板88と接していない方の端面と内面との角部が内面全面にわたって面取りされており、面取り面89a,90aを有している。
【0031】
強磁性体板89,90と永久磁石板88との一体化は、ボルトによる接合や接着剤による接着などのどのような方法であってもよい。永久磁石板88は、例えばネオジム等の希土類元素を用いたもので構成されており、強磁性体板89,90は、例えば電磁鋼板の積層体や鉄のブロック材等で構成されている。なお、図7に示した2枚の永久磁石板88,88間に位置する2枚の強磁性体板90,89は、重ね合わせたものではなく、一体で形成したものであってもよい。永久磁石板88及び強磁性体板89,90の組の組数は、2組に限られるものではなく、環状ケーシング78に設けられる強磁性体筒の数に応じて決定される。可動ステータ79の強磁性体板89,90の厚さは永久磁石板88の厚さより厚く示されているが、これに限定されるものではない。
【0032】
ポールピース84a〜84cは、図9に示すように、その外周面に、周方向に所定間隔を隔てて軸方向(図9中では左右方向)に延びる溝91を有する。つまり、周方向に溝91の部分と非溝形成部分92とが交互に形成されている。溝91の本数は数本〜数十本であれば特に限定するものではないが、加工のし易さ(加工性)を考慮すると8〜36本が好ましい。また、溝91の形状は、図10に示す断面が凹状の溝101、図11に示す断面がV字状の溝111、図12に示す断面が半円状(又はU字状、或いは楕円状)の溝121などが挙げられ、特に限定するものではないが、溝深さが深く、溝幅が広い方が好ましい。また、溝91の本数及び形状は、加工性と制動性能との兼ね合いで適宜選択されるものであって、特にどの組み合わせが最も好ましいというものではない。ここで、溝91は回転系の部材であるポールピース84a〜84cに形成されていることから、溝幅があまり狭いと、後述する磁界の変化が生じにくくなる。よって、前実施の形態の溝31と異なり、溝幅が広い方が好ましい。
【0033】
可動ステータ79には、可動ステータ79とステータ74の円筒部75との間に磁気回路126が形成される制動位置と、可動ステータ79及びポールピース84a〜84cの間に遮蔽磁気回路127が形成される非制動位置との間で可動ステータ79を移動させるアクチュエータ94が取り付けられている。
【0034】
アクチュエータ94は、環状ケーシング78の収容部81内で回転軸72の軸方向に移動自在に収容された円筒部材112と、その円筒部材112に連結されたロッド113とを備えている。円筒部材112は、可動ステータ79の制動位置と非制動位置との間を軸方向にスライド移動する。ロッド113は、円筒部材112の可動ステータ79側の端面に軸方向に延びて複数設けられており、各ロッド113を可動ステータ79の各貫通穴107に挿入することで、可動ステータ79が支持される。
【0035】
また、アクチュエータ94は、円筒部材112の外周面に巻き付けられたコイル95と、このコイル95に給電するための送電装置(図示せず)と、環状ケーシング78の内面に設けられたリング状の永久磁石97とを備えており、リニヤモータ式のものとなっている。永久磁石97は、可動ステータ79が前述した非制動位置にある時にコイル95と対向する位置に設けられる。
【0036】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0037】
この渦電流式減速装置70の減速制動をオフにする時には、図8に示すように、コイル95に給電して永久磁石97と逆の極の磁力を発生させると、円筒部材112が永久磁石97に引っ張られて矢印Dの方向へ移動する。これによって、可動ステータ79の永久磁石板88,88を、ポールピース84a,84bに対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板88,88とポールピース84a,84bとで磁気短絡して遮蔽磁気回路127が構成される。よって、ステータ74の円筒部75に渦電流が生じることはなく、回転する環状ケーシング78及び可動ステータ79に制動力が作用しないため、車両(図示せず)が減速制動されることはない。
【0038】
この減速制動オフ時には、永久磁石板88,88からの磁束の一部が、環状ケーシング78のポールピース84a,84bに隣接する非磁性体板87から円筒部75側へ漏れようとする。しかし、この時、ポールピース84a〜84cの両端面に形成された環状突起102,103が庇の役目を果たし、磁束の一部が、円筒部75側へ漏れるのを防止し、回転軸72に不必要な引きずりトルクがかかるのを防止できる。
【0039】
他方、この渦電流式減速装置70の減速制動をオンにする時には、図7に示すように、コイル95に給電して永久磁石97と同じ極の磁力を発生させると、円筒部材112が永久磁石97に反発して矢印Cの方向へ移動する。これによって、可動ステータ79の永久磁石板88,88を、各ポールピース84a〜84c間の非磁性体板87に対向する位置に移動させる。すると、永久磁石板88,88とステータ74の円筒部75とに磁気回路(磁束線による閉路)126が構成される。よって、円筒部75に渦電流が生じ、回転する環状ケーシング78及び可動ステータ79に制動力が作用して、車両が減速制動される。
【0040】
この時、永久磁石板88,88と円筒部75との間に構成される磁気回路126の磁束密度に、各ポールピース84a〜84cの周面に形成された溝91の部分と非溝形成部分92とで差異が生じる。具体的には、非溝形成部分92の磁気回路126の磁束密度と比べて、溝91の部分の磁気回路126の磁束密度は低くなる。それにより、円筒部75の周方向において円筒部75に入る磁界に強弱が生じる(円筒部75に入る磁界が変化する)。この磁界の変化により、円筒部75に生じる渦電流は、その周方向において強弱を有することになる。その結果、渦電流の強弱を解消するような作用が生じて渦電流がより強くなり、溝91のない図13に示した各ポールピースd1〜d3と比較して、制動効率が向上し、制動力を2〜5%向上させることができる。
【0041】
以上、本実施の形態に係る渦電流式減速装置70によれば、ポールピース84a〜84cの外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝91を形成することで、減速制動オン時、円筒部75の周方向において、円筒部75に入る磁界に変化が生じるようになり、制動力が向上する。つまり、減速装置70によれば、永久磁石板88,88の性能をより活かした制動力を得ることができる。
【0042】
また、可動ステータ79を移動させるアクチュエータ94を、リニヤモータ式のものとしたことによって、回転軸72と共に回転する環状ケーシング78内であっても、永久磁石88を含む可動ステータ79の移動のコントロールを確実で、かつ、容易に行うことができる。これによって、ステータ74を固定系とすることができるので、その円筒部75に冷却媒体が流れる空洞部98を形成できる。従って、円筒部75を確実で効率よく冷却することができ、制動能力を向上させることができる。また、水冷式としたことによって、円筒部75に冷却用の放熱フィン等を設ける必要がなくなり、渦電流減速装置70全体の小型化が達成される。
【0043】
また、強磁性体板89,90に面取り面89a,90aを形成しているため、強磁性体板90(又は89)の面90a(又は89a)から出ようとする磁束が、他の強磁性体板89(又は90)の面89a(又は90a)に到達するまでの磁路長が長くなると共に、面90aと面89aとが形成する角度が180度よりも大きくなる。よって、図7中に破線で示すような磁気回路136が形成されず、磁気ショートの発生を防止でき、制動効果を高めることができる。
【0044】
また、本実施の形態に係る渦電流式減速装置70の場合においてのみ、ポールピース84a〜84cが環状突起102,103(図9参照)を有していると説明を行ったが、前実施の形態に係る渦電流式減速装置10のポールピース16a〜16cに対しても、これらの環状突起を設けてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0046】
【発明の効果】
以上要するに、本発明に係る渦電流式減速装置によれば、制動力を向上させることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る渦電流式減速装置の、好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オン状態)。
【図2】本発明に係る渦電流式減速装置の、好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オフ状態)。
【図3】図1におけるポールピースの斜視図である。
【図4】図3におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図5】図3におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図6】図3におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図7】本発明に係る渦電流式減速装置の、他の好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オン状態)。
【図8】本発明に係る渦電流式減速装置の、他の好適一実施の形態の側断面図である(減速制動オフ状態)。
【図9】図8におけるポールピースの斜視図である。
【図10】図9におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図11】図9におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図12】図9におけるポールピースの溝形状の一例を示す平面図である。
【図13】従来の渦電流式減速装置の側断面図である(減速制動オン状態)。
【符号の説明】
10 渦電流式減速装置
11 ロータ
11a 円筒部内面(ロータ)
12 環状ケーシング
12a ロータ側外壁(環状ケーシング)
13a,13b 永久磁石板
14a〜14c 強磁性体板
15 可動ステータ
16a〜16c ポールピース(強磁性体筒)
20 アクチュエータ(移動手段)
31 溝
a1 回転軸
Claims (2)
- 回転軸に取り付けられたドラム状のロータと、そのロータの円筒部内面に対向して固定系に設けられた環状ケーシングと、その環状ケーシングのロータ側外壁に軸方向に所定間隔を隔てて設けられた少なくとも2つの強磁性体筒と、両端面に磁極面を有する少なくとも1枚のリング状の永久磁石板及びその永久磁石板を挟持する複数枚のリング状の強磁性体板で構成され、上記環状ケーシング内に収容された可動ステータと、その可動ステータを軸方向に移動させる移動手段とを備えた渦電流式減速装置において、上記強磁性体筒の外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝を複数形成したことを特徴とする渦電流式減速装置。
- 車体などの固定系に支持されたドラム状のステータと、そのステータの円筒部内面に対向して回転系に設けられた環状ケーシングと、その環状ケーシングのステータ側外壁に軸方向に所定間隔を隔てて設けられた少なくとも2つの強磁性体筒と、両端面に磁極面を有する少なくとも1枚のリング状の永久磁石板及びその永久磁石板を挟持する複数枚のリング状の強磁性体板で構成され、上記環状ケーシング内に収容された可動ステータと、その可動ステータを軸方向に移動させる移動手段とを備えた渦電流式減速装置において、上記強磁性体筒の外周面に、周方向に所定間隔を隔てて溝を複数形成したことを特徴とする渦電流式減速装置。
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- 2003-04-23 JP JP2003118429A patent/JP2004328862A/ja active Pending
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