JP2004323742A - ポリ乳酸系樹脂組成物、成形品及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた衝撃強度及び耐熱性を有する成形品が、成形性良く得られるポリ乳酸系樹脂組成物、該ポリ乳酸系樹脂組成物から得られる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及び該耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性ポリマー及び生分解性ポリマーから形成される成形品が求められており、脂肪族ポリエステル等の生分解性ポリマーの研究が活発に行われている。特に、乳酸系ポリマーは、融点が140〜180℃と十分に高く、しかも透明性に優れるため、包装材料や透明性を生かした成形品等として、大いに期待されている。
【0003】
しかしながら、乳酸系ポリマーの射出成形等により得られる容器は、剛性には優れているが、耐熱性が低く、あるいは耐熱性と耐衝撃性が共に低い場合もあり、例えば、包装容器とした場合には、熱湯や電子レンジを使用することができず、用途が限定されている。
【0004】
耐熱性を有する成形品を得るためには、成形加工時における金型冷却を長時間にするか、又は成形後に成形品をアニール処理して、樹脂を高度に結晶化させる必要があった。しかし、成形加工時における長時間の冷却工程は、実用的でなく且つ結晶化が不十分になり易く、また、成形後のアニール処理による結晶化は、成形品が結晶化する過程で変形しやすいという欠点がある。
【0005】
また、樹脂の結晶化速度を上げる方法として、例えば、下記特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート(PET)の結晶化を促進するため、結晶核剤として、テレフタル酸及びレゾルシンを主な構成単位とする全芳香族ポリエステル微粉末を添加することが記載されている。このように、樹脂の結晶化を促進させるために、結晶核剤を添加する方法が一般的に知られている。
【0006】
一方、下記特許文献2〜10には、生分解性を有するポリマーに、結晶核剤等の添加剤を加えることが記載されている。
【0007】
下記特許文献2には、ポリ−3−ヒドロキシブチレート/ポリ−3−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンあるいはポリ乳酸等の生分解性プラスチックに、平均粒径20μm以下の炭酸カルシウム又はタルクを重量比で10〜40%混合してなるプラスチック製容器の材料が開示されている。しかし、この技術は、多量の無機充填剤の添加により、廃棄後の生分解性プラスチックの分解を促進するものであり、生分解性ポリマーを結晶化させて成形品の耐熱性を向上させるものではない。
【0008】
下記特許文献3には、ラクチド熱可塑性プラスチックに、充填剤として、シリカ、カオリナイト等の無機化合物を添加することにより、硬度、強度、温度抵抗性の性質を変え得ることが記載されており、また、その実施例において、L、DL−ラクチド共重合体に、結晶核剤として乳酸カルシウム5重量%を添加し、170℃の加熱ロールで5分間ブレンドし、シートを得たところ、該シートは、剛性及び強度に優れ、且つ曇っていて、結晶化度が増加したことが記載されている。
【0009】
下記特許文献4には、乳酸又は乳酸オリゴマーが、ポリ乳酸の可塑剤として有用であり、ガラス転移温度を低下させ、柔軟性を付与できることが記載されている。
【0010】
下記特許文献5には、ポリ乳酸を含有する生分解性組成物に配合される結晶核剤として、乳酸塩及び安息香酸塩が記載されており、その実施例において、ポリラクチドコポリマーに1%の乳酸カルシウムを配合し、2分間の滞留時間で約85℃に保持した型で射出成形したが、結晶化度が不十分なため、更に型中において約110〜135℃でアニール処理したことが記載されている。
【0011】
しかし、下記特許文献6には、実際に、乳酸系ポリマーに、結晶核剤として、通常のタルク、シリカ、乳酸カルシウム等を添加し、射出成形を試みたところ、結晶化速度が遅く、また、成形物が脆いため、実用に耐えうる成形物を得ることができず、従って、乳酸系ポリマーは、通常のタルク、シリカ、乳酸カルシウム等を添加し、一般の射出成形、ブロー成形、圧縮成形等に使用しても、結晶化速度が遅く、且つ、得られる成形物の実用耐熱性が100℃以下と低く、耐衝撃性も強くないために、用途面に制約があると記載されている。
【0012】
また、下記特許文献7には、ポリL−ラクチド等に、結晶核剤として、ポリグリコール酸及び/又はその誘導体を加えて、結晶化速度を上昇させることにより、射出成形サイクル時間を短縮させることができ、且つ優れた力学的性質を有する成形品が得られることが記載されており、また、射出成形したところ、冷却時間60秒での結晶化度は、結晶核剤を添加しなかった場合は22.6%、結晶核剤を添加した場合は45.5%であったことが記載されている。しかし、下記特許文献6には、実際に乳酸系ポリマーに結晶核剤を入れないで射出成形を試みたところ、特許文献7に記載されているような、金型温度がガラス転移温度以上の条件では、成形することができなかったと記載されている。
【0013】
さらに、下記特許文献8〜10には、ポリ乳酸又は脂肪族ポリエステルに、芳香族又は脂肪族カルボン酸アミド化合物を混合することにより、結晶性、透明性及び耐熱性に優れた成形体が得られると記載されているが、実際に射出成形等を行うと、汎用樹脂並みの成形サイクルでは成形できず、実用化は困難である。
【0014】
【特許文献1】
特開昭60−86156号公報
【特許文献2】
特開平5−70696号公報
【特許文献3】
特表平4−604731号公報(国際公開第90/001521号パンフレット)
【特許文献4】
米国特許第5180765号明細書
【特許文献5】
特表平6−504799号公報
【特許文献6】
特開平8−193165号公報
【特許文献7】
特開平4−220456号公報
【特許文献8】
特開平9−278991号公報
【特許文献9】
特開平10−87975号公報
【特許文献10】
特開平11−5849号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、耐熱性及び衝撃強度に優れた成形品が成形性良く得られるポリ乳酸系樹脂組成物、該ポリ乳酸系樹脂組成物からなる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及び該耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ポリ乳酸100重量部に、下記一般式(I)で表される化合物0.01〜10重量部を配合したポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0017】
【化2】
【0018】
また、本発明は、含水珪酸マグネシウム(タルク)0.01〜40重量部を配合した上記ポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0019】
また、本発明は、上記含水珪酸マグネシウム(タルク)の平均粒子径が、10μm以下である上記ポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0020】
また、本発明は、上記ポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0021】
また、本発明は、上記ポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、溶融した該ポリ乳酸系樹脂組成物を、走査型示差熱量計(DSC)における結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の範囲に設定された成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物について、以下に詳述する。
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において用いられる上記ポリ乳酸(乳酸系ポリマー)としては、例えば、ポリ乳酸ホモポリマー、ポリ乳酸コポリマー、ポリ乳酸ホモポリマーとポリ乳酸コポリマーとのブレンドポリマーが挙げられる。また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物の特徴である結晶性を損なわない範囲であれば、ポリ乳酸を主体とするブレンドポリマーであっても良い。
【0023】
上記ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析によるポリスチレン換算値で、通常5万〜50万、好ましくは10万〜25万である。重量平均分子量が5万未満では、実用上必要な物性が得られにくく、一方、重量平均分子量が50万を超えると、成形性が悪くなり易い。
【0024】
上記ポリ乳酸におけるL−乳酸単位及びD−乳酸単位の構成モル比(L/D)は、特に制限されるものではなく、100/0〜0/100の範囲から選択することができるが、高い融点を有するポリ乳酸系樹脂組成物を得るには、L−乳酸単位及びD−乳酸単位のいずれかを75モル%以上、更に高い融点を有するポリ乳酸系樹脂組成物を得るには、L−乳酸単位及びD−乳酸単位のいずれかを90モル%以上含むことが好ましい。
【0025】
また、上記ポリ乳酸コポリマーは、乳酸モノマー又はラクチドと、共重合可能な他の成分とが共重合されたものである。他の成分としては、エステル結合形成性の官能基を2個以上持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、及びこれらを構成成分としてなる各種のポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0026】
上記ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0027】
上記多価アルコールとしては、ビスフェノールにエチレンオキサイドを付加反応させたもの等の芳香族多価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール等の脂肪族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテルグリコール等が挙げられる。
【0028】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、特開平6−184417号公報に記載されているヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
上記ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、ε−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0030】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に用いられる上記ポリ乳酸は、合成方法に特に制限はなく、従来公知の方法で合成することができ、例えば、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集第44巻、3198−3199頁等に記載されている乳酸モノマーからの直接脱水縮合、又は乳酸環状二量体ラクチドの開環重合によって合成することができる。
【0031】
直接脱水縮合を行う場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、及びこれらの混合物のいずれの乳酸を用いても良い。また、開環重合を行う場合は、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、meso−ラクチド、及びこれらの混合物のいずれのラクチドを用いても良い。
【0032】
開環重合に用いるラクチドの合成、精製及び重合操作は、例えば、米国特許第4057537号明細書、欧州特許出願公開第261572号明細書、Polymer Bulletin,14,491−495(1985)、及びMacromol.Chem.,187,1611−1628(1986)等に記載されている。
【0033】
上記ポリ乳酸を得る際の重合反応に用いる触媒は、特に限定されるものではないが、公知の乳酸重合用の触媒を用いることができる。該触媒としては、例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等のスズ系化合物、粉末スズ、酸化スズ、亜鉛末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物、酸化ビスマス(III)等のビスマス系化合物、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム系化合物等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、スズ又はスズ化合物からなる触媒が活性の点から特に好ましい。上記触媒の使用量は、例えば、開環重合を行う場合、ラクチドに対して0.001〜5重量%程度である。
【0035】
重合反応は、上記触媒の存在下で、触媒の種類によって異なるが、通常100〜220℃で行うことができる。また、例えば特開平7−247345号公報に記載されている2段階重合を行うことも好ましい。
【0036】
また、上記のポリ乳酸を主体としたブレンドポリマーは、例えば、ポリ乳酸ホモポリマー及び/又はポリ乳酸コポリマーと、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)とを混合、溶融して得られた混合物である。上記脂肪族ポリエステルをブレンドすると、成形品に柔軟性及び耐衝撃性を付与することができるため好ましい。上記ブレンドポリマーにおける混合割合は、通常、ポリ乳酸ホモポリマー及び/又はポリ乳酸コポリマー100重量部に対して、上記脂肪族ポリエステル10〜100重量部程度である。
【0037】
上記脂肪族ポリエステルは、1種のポリマーでも良く、又は2種以上のポリマーの複合でも良い。該ポリマーとしては、例えば、脂肪族カルボン酸と脂肪族アルコールとからなるポリマーや、ε−カプロラクトン等の環状無水物を開環重合して得られた脂肪族ヒドロキシカルボン酸ポリマー等が挙げられる。これらのポリマーを得る方法としては、直接重合して高分子量物を得る直接重合法、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤等で高分子量物を得る間接重合法等が挙げられる。また、上記脂肪族ポリエステルは、上記脂肪族モノマー成分を主として構成されるポリマーであれば、共重合体であってもよく、あるいは他の樹脂との混合物であってもよい。
【0038】
上記脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなるポリマーであることが好ましい。該脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、及びこれらの無水物や誘導体が挙げられ、該脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール系化合物、及びこれらの誘導体が挙げられる。上記脂肪族ジカルボン酸及び上記脂肪族ジオールは、いずれも、好ましくは炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基を持つモノマーである。これらの脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールそれぞれの中から選択されたモノマー成分の重縮合により、上記脂肪族ポリエステルが製造されるのが好ましい。上記脂肪族ジカルボン酸及び上記脂肪族ジオールのいずれも、2種以上を用いても構わない。
【0039】
また、溶融粘度の向上のために脂肪族ポリエステルとして用いる上記ポリマー中に分岐を設ける目的で、上記ポリマーを構成するモノマー成分として、3官能以上の多官能のカルボン酸、アルコールあるいはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。これらの多官能のモノマー成分は、多量に用いると得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性ではなくなる場合や熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造をもったミクロゲルを生じる場合がある。従って、これらの多官能のモノマー成分は、ポリマー中に含まれる割合が極僅かで、ポリマーの化学的性質及び物理的性質を大きく左右しない程度で用いられる。多官能のモノマー成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、あるいはペンタエリスリット、トリメチロールプロパン等を用いることができる。
【0040】
上記脂肪族ポリエステルとして用いられるポリマーの製造方法のうち、上記直接重合法は、モノマー成分を選択し、該モノマー成分中に含まれる或いは重合中に発生する水分を除去しながら、高分子量物を得る方法である。また、上記間接重合法は、モノマー成分を選択し、オリゴマー程度に重合した後、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアンート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物を使用して高分子量化する方法である。これらの方法の他に、カーボネート化合物を用いて脂肪族ポリエステルカーボネートを得る方法等を用いてもよい。
【0041】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、上記ポリ乳酸は、衝撃強度の改善等のために、必要に応じて、ポリ乳酸以外の汎用の樹脂とブレンドしてもよい。汎用の樹脂としては、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等の弾性を有する樹脂が好ましい。
【0042】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物においては、上述したポリ乳酸に、結晶核剤として、上記一般式(I)で表される化合物が配合される。上記一般式(I)で表される化合物は、芳香族ヒドロキシモノカルボン酸及びアミン化合物(ヒドラジンを含む)から構成されるアマイド化合物である。
【0043】
上記一般式(I)におけるR1及びR2で表される炭素原子数1〜8のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル等が挙げられる。R1及びR2で表される炭素原子数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、上記アルキル基に対応するアルコキシ基が挙げられる。
【0044】
上記一般式(I)におけるR1及びR2で表される炭素原子数6〜18のアリール基としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられる。
【0045】
上記一般式(I)におけるR1とR2とが結合した環状構造(炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18)としては、ナフチル等が挙げられる。
【0046】
上記一般式(I)におけるRで表されるn価の炭素原子数2〜30の炭化水素基及びR’で表されるn価の炭素原子数1〜30の炭化水素基を形成する炭化水素としては、例えば、直鎖又は分岐のエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等の脂肪族飽和炭化水素、エチレン、プロペン、ブテン、ブタジエン、ドデセン等の脂肪族不飽和炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0047】
R及びR’で表される複素環としては、下記〔化3〕に示されるもの等が挙げられる。
【0048】
【化3】
【0049】
上記一般式(I)において、Rは、好ましくは複素環又は下記〔化4〕に示される式で表される基であり、nは、好ましくは1又は2である。また、下記〔化4〕に示される式において、R’は、好ましくは炭素原子数2〜22のアルキレン基である。
【0050】
【化4】
【0051】
上記一般式(I)で表される化合物としては、より具体的には、以下の化合物No.1〜10等が挙げられる。ただし、本発明は、以下の化合物により何等制限されるものではない。
【0052】
【化5】
【0053】
【化6】
【0054】
【化7】
【0055】
【化8】
【0056】
【化9】
【0057】
【化10】
【0058】
【化11】
【0059】
【化12】
【0060】
【化13】
【0061】
【化14】
【0062】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、上記一般式(I)で表される化合物は、上記ポリ乳酸100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部配合される。0.01重量部より少ないと添加効果が不十分であり、10重量部より多いとポリ乳酸系樹脂組成物の表面に噴出する等の現象が発生するようになる。
【0063】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、さらに含水珪酸マグネシウム(タルク)を配合することが好ましい。該含水珪酸マグネシウム(タルク)の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。平均粒子径が10μmを超える含水珪酸マグネシウム(タルク)を用いても効果はあるが、10μm以下の場合は、結晶核の形成促進効果がより高く、成形品の耐熱性をより向上させることができる。
【0064】
上記含水珪酸マグネシウム(タルク)の配合量は、上記ポリ乳酸100重量部に対して、0.01〜40重量部とすることが好ましく、0.01〜30重量部とすることがより好ましい。0.01重量部未満の配合量では、添加の効果があまり得られず、40重量部を超えて配合するとポリ乳酸系樹脂組成物の比重が重くなるだけでなく、耐衝撃性も低下する惧れがある。
【0065】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤・抗カビ剤、上記一般式(I)で表される化合物以外の結晶核剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0066】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物において、上記ポリ乳酸に、上記一般式(I)で表される化合物、上記含水珪酸マグネシウム(タルク)等の添加剤を配合する方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、ポリ乳酸粉末あるいはペレットと添加剤とをドライブレンドで混合してもよく、添加剤の一部をプリブレンドした後、残りの成分とドライブレンドしてもよい。ドライブレンドの後に、例えば、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等を用いて混合し、単軸あるいは二軸押出機等を用いて混練してもよい。この混合混練は、通常120〜220℃程度の温度で行われる。また、ポリ乳酸の重合段階で、添加剤を添加する方法、添加剤を高濃度で含有するマスターバッチを作成し、該マスターバッチをポリ乳酸に添加する方法等を用いることもできる。
【0067】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、主として、一般のプラスチックと同様に、各種成形品の成形材料として用いられる。
【0068】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品、及びその好ましい製造方法である本発明の製造方法について、以下に説明する。
【0069】
ポリ乳酸系樹脂組成物を結晶化させる方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂組成物で成形品を形成した後、ポリ乳酸系樹脂組成物が結晶化可能な温度で該成形品をアニール処理する方法が挙げられるが、この方法においては、アニール処理における結晶化過程で成形品が変形しやすいという欠点がある。この欠点を解消するため、本発明の製造方法においては、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形するときに、成形機の金型を、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物が結晶化可能な温度に設定し、一定時間保持する。
【0070】
本発明の製造方法においては、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、該ポリ乳酸系樹脂組成物が結晶化可能な温度、即ちDSCにおける結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは結晶化開始温度以下結晶化終了温度以上の温度範囲に設定された成形機の金型に、溶融した上記ポリ乳酸系樹脂組成物を充填し、一定時間保持することにより、結晶化させながら成形する。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、上述したように、結晶核剤として上記一般式(I)で表される化合物を含んでいるので、本発明の製造方法によれば、金型内にて結晶化が完了し、耐熱性及び耐衝撃性に優れたポリ乳酸系樹脂成形品を得ることができる。
【0071】
適切な金型温度は、成形に用いられる本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に含まれるポリ乳酸や添加剤の種類等により異なるので、予めDSC法によりポリ乳酸系樹脂組成物の結晶化温度(結晶化ピーク温度、結晶化開始温度、ガラス転移温度、結晶化終了温度)を測定し、結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の温度範囲、好ましくは結晶化開始温度以下結晶化終了温度以上の温度範囲から選択する。この温度範囲であれば、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は容易に結晶化し、さらには寸法精度のよい成形品を得ることができる。上記温度範囲を外れると、結晶化が遅くなり、成形時の固化時間も長くなるため、実用上適さない。尚、上記結晶化温度は、例えば、DSCにより、ペレットサンプル5mgを50℃/分で室温から200℃まで昇温し、5分間保持した後、5℃/分の降温速度で測定することができる。
【0072】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を成形するに際しては、一般のプラスチックと同様の押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の成形を行うことができ、シート、棒、ビン、容器等の各種成形品を容易に得ることができる。
【0073】
本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品は、優れた耐熱性を有する。耐熱性の指標としては、例えば、JIS K 7207A法における低荷重たわみ温度を用いることができる。低荷重たわみ温度とは、加熱浴槽中の試験片に0.45MPaの曲げ応力を加えながら、一定速度で伝熱媒体を昇温させ、試験片が規定のたわみ量に達した時の伝熱媒体の温度をいう。本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の低荷重たわみ温度は、該成形品の用途に応じて結晶核剤の添加量等によって適宜調整することができ、例えば、家電用品の比較的高温に晒されないような部品として用いる場合においても、実用上80℃以上とすることが好ましく、90℃以上とすることがさらに好ましく、100℃以上とすることが最も好ましい。
【0074】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって制限されるものではない。
【0075】
[実施例1〜4及び比較例1〜2]
表1に示す配合成分をドライブレンドし、200℃の二軸混練押出機にて平均4分間溶融混合し、口金よりストランド状に押出し、水冷後、切断し、結晶核剤を含むポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
【0076】
得られたペレットについて、結晶化開始温度、結晶化ピーク温度、ガラス転移温度及び結晶化熱量を測定した。これらの測定は、DSC(パーキンエルマー社製、Diamond DSC)により、ペレットサンプル5mgを50℃/分で室温から200℃まで昇温し、5分間保持した後、5℃/分の降温速度で測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0077】
次いで、得られたペレットを80℃で真空乾燥して、絶乾状態にした後、金型温度を110℃、冷却時間を120秒に保ち、射出成形により、曲げ試験用、アイゾット衝撃試験用及び耐熱性試験用それぞれの試験片を作成し、各試験を行った。曲げ試験においては、JIS K 7203に準じて、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。アイゾット衝撃試験においては、JIS K 7110(1号A試験片)に準じて、アイゾット衝撃強度を測定した。耐熱性試験においては、JIS K 7207A法に準じて、低荷重たわみ温度を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0078】
また、上記試験片の作成における離型時に、離型性及び変形の評価を行った。評価においては、試験片作成の離型時における金型への付着の有無及び程度並びに変形の有無及び程度を目視により確認した。評価基準は、金型付着がなく、変形もないものを◎、金型へやや貼りつき気味で、変形のないものを○、金型へ貼りつき気味で、明らかに変形しているものを△、金型へ貼りつき離型が困難で大きく、変形しているものを×とした。これらの評価結果を表1に示す。
【0079】
尚、表1における配合成分は、それぞれ以下の通りである。
ポリ乳酸:トヨタ自動車(株)製、商品名「5400」、重量平均分子量160,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析によるポリスチレン換算値)
タルク:日本タルク(株)製、微粉末タルク、商品名「ミクロエースP−6」
化合物No.1:旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブCDA−1」
化合物No.2:旭電化工業(株)製、商品名「アデカスタブCDA−6」
ビスアミド:日本化成(株)製、商品名「スリパックスH」
【0080】
【表1】
【0081】
表1から明らかなように、結晶核剤として特定のアマイド化合物が配合された本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を用いて射出成形品を得た場合、成形性に優れ、離型時の変形もなく、且つ、得られた成形品は、耐熱性、曲げ強度、曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強度に優れていた(実施例1〜4)。これに対し、従来の結晶核剤であるビスアミドが配合されたポリ乳酸系樹脂組成物は、結晶核剤が配合されているものの成形性が悪く、得られた成形品は、耐熱性、曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強度が劣っていた(比較例1〜2)。
【0082】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリ乳酸に、結晶核剤として特定のアマイド化合物を配合することにより、結晶化速度が速いポリ乳酸系樹脂組成物を提供することができ、該ポリ乳酸系樹脂組成物からは、優れた曲げ強度及び衝撃強度を有する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品を成形性良く得ることができる。また、本発明によれば、上記ポリ乳酸系樹脂組成物を金型内にて結晶化させる、耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の簡便で生産効率の高い製造方法を提供することができる。
Claims (5)
- 含水珪酸マグネシウム(タルク)0.01〜40重量部を配合した請求項1記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
- 上記含水珪酸マグネシウム(タルク)の平均粒子径が、10μm以下である請求項2記載のポリ乳酸系樹脂組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなる耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のポリ乳酸系樹脂組成物を溶融した後、溶融した該ポリ乳酸系樹脂組成物を、走査型示差熱量計(DSC)における結晶化開始温度以下ガラス転移温度以上の範囲に設定された成形機の金型に充填し、結晶化させながら成形する耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品の製造方法。
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