JP2004321052A - エストロゲンの分解方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】エストロゲンを効率よく分解する新規な方法を提供する。
【解決手段】白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いるエストロゲンの分解方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いるエストロゲンの分解方法である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エストロゲンを効率よく分解し、無毒化することのできる新規な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、世界各地で生物の生殖異常が報告されているが、これには内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の関与が指摘されている。内分泌撹乱物質は生体内でホルモン様物質として作用することから、従来の環境汚染物質とは比較にならない程、極く微量で生物の発生・分化に多大な影響を及ぼしており、更には胎児期の極く短期間に作用するだけで永続的な生殖異常をもたらす為、次世代への影響が強く懸念されている。
【0003】
この様な背景のもと、環境省は、内分泌撹乱作用をもたらす疑いがある化学物質として、ビスフェノールAやノニルフェノールを含む合計65物質を挙げているが、その他に、人畜の尿を介して自然界に排出される17β−エストラジオール(天然女性ホルモン)、経口避妊薬(ピル)の主成分であるエチニルエストラジオール(合成女性ホルモン)、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン、17α−エストラジオール等のエストロゲンについても、水生生物等に及ぼす内分泌撹乱作用を無視できないと指摘している(環境庁内分泌撹乱物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPEED’98−)。また、これらエストロゲン自体によるエストロゲン活性を、ビスフェノールA及びノニルフェノールのエストロゲン様活性と比較した研究では、上記エストロゲンはいずれも、ビスフェノールAの約10万倍、ノニルフェノールの約1万倍ものエストロゲン活性を示すことが報告されている[中室ら, 水環学会誌, 25, 355−360 (2002)]。従って、今後、エストロゲンによる環境汚染は益々顕在化していくと考えられる。
【0004】
そこで、これらエストロゲンを分解する方法について研究が進められている。このうち17β−エストラジオール(天然女性ホルモン)の生分解性については幾つかの研究報告がなされており、例えば下水処理場の活性汚泥中に生育する微生物や、活性汚泥中から単離されたNovosphingobium属細菌によって分解されることが報告されている(Ternesら、Sci. Total Environ., 225, 91−99 (1999):Fujiiら, Appl. Environ. Microbiol., 68, 2057−2060 (2002))。ところがその一方で、活性汚泥処理による方法は、17β−エストラジオールそのものを分解するのではなく、当該化合物が活性汚泥に吸着して活性が減少するという報告(Pentreathら, Environment Agency, London, UK, 1997, p. 39:Routledgeら, Environ. Sci. Technol., 33, 371 (1999))もなされており、上記方法によって17β−エストラジオール自体が生分解され得るのか否かについて、議論が分かれている。
【0005】
また、経口避妊薬の主成分であるエチニルエストラジオールについては、前述のNovosphingobium属細菌による分解も認められず、活性汚泥処理では極めて分解され難いと考えられている。
【0006】
そこで本発明者らは、木材腐朽菌の一種である白色腐朽菌に着目して研究を進めてきた。白色腐朽菌については以下に記載する通り、ダイオキシン類等の芳香族ハロゲン化合物を分解することは報告されているが、エストロゲン分解能については、未だ検討されていないからである。
【0007】
木材腐朽菌は、様々な環境汚染物質に対する分解能を有する微生物として注目されており、木材腐朽菌の一種である白色腐朽菌は、菌体外に産生されるフェノール酸化酵素により、天然の難分解性物質であるリグニンの分解能に優れることが知られている。白色腐朽菌の中で最も研究されているのはファネロケーテ属(Phanerochaete)に属するファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)であり、上記微生物により、塩素置換数が4個以上のダイオキシン類を分解できることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、上記非特許文献1には、白色腐朽菌によるエストロゲン分解能については、全く記載されていない。
【0008】
一方、白色腐朽菌を用いた汚染土壌浄化方法として、樹木の木質材料(木材チッブ、おがくず、木粉等)に白色腐朽菌を接種して培養し、汚染土壌を浄化する方法が提案されている。
【0009】
例えば特許文献1には、白色腐朽菌等の微生物による有機化合物分解活性を高める目的で、木質物質を添加した基質の使用が提案されている。使用する木質物質としては、木材(木粉、木材チッブ等)や、木質性廃棄物(藁、木くず等)が例示されており、具体的には、ブナ木粉を添加した実施例が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、担子菌によってコンポスト化(堆肥化)された木材を用いたダイオキシン汚染土壌の浄化方法が提案されており、コンポスト化に用いられる木材として、スギ、ヒノキ、マツ、カシ、シイ等のほか、雑木、剪定枝葉、刈り草などが挙げられている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の方法は、あくまでも、これらの木材を堆肥化させて使用することを前提としている為、堆肥化に必要な飼料(消石灰、尿素等)を添加して長期間発酵させなければならない等、作業性等の点で問題がある。
【0012】
また、これらの特許文献を精査しても、上記方法によってエストロゲンを分解できることは開示も示唆もされていない。
【0013】
【非特許文献1】
バンパス(Bumpus)ら,白色腐朽菌ファネロケーテ・クリソスポリウムによる難分解性環境汚染物質の酸化(Oxidation of Persistent Environmental Pollutants by a White Rot Fungus Phanerochaete chrysosporium,サイエンス(Science),米国,1985年,第228号,p.1434
【特許文献1】
特開2000−186272号公報(特許請求の範囲、第3〜4頁)
【特許文献2】
特開2000−107742号公報(特許請求の範囲、第2〜3頁)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エストロゲンを効率良く分解し、無毒化することが可能な新規な方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決する為の手段】
上記課題を解決し得た本発明に係るエストロゲンの分解方法は、白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いるところに要旨を有するものである。
【0016】
ここで、培養基材として、葉を含有する木質材料(好ましくは葉を含有する剪定材)を、堆肥化させることなしに使用すれば、エストロゲンの分解率が一層向上する。また、白色腐朽菌の培養に当たっては、培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度のいずれか一方が、窒素濃度:0.02〜0.2g/L、炭素濃度:0.5〜5g/Lの範囲に制限された制限培地で培養することが推奨される。
【0017】
また、本発明に用いられるリグニン分解酵素としては、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、及び/又はリグニンペルオキシダーゼの使用が推奨される。尚、ラッカーゼを用いる場合は、分解促進作用を有するメディエーターの共存下でエストロゲンを処理すると、分解効率が更に上昇する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、エストロゲンを効率良く分解し、無毒化し得る方法について鋭意検討してきた。その結果、エストロゲンを、白色腐朽菌または該リグニン分解酵素で処理すれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明に用いられる白色腐朽菌は、リグニン分解能力を有する白色腐朽菌であれば全て使用可能であり、例えば、以下に列挙する属に属する微生物が例示される:ファネロケーテ属[ファネロケーテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida )YK−624 ATCC 90872、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium )ATCC 34541等]、トラメテス属[トラメテス・ベルシカラ(Trametes versicolor )IFO 30340等]、ポリポラス属[ポリポラス・ミカドイ(Polyporus mikadoi )IFO 6517等]、ステレウム属[ステレウム・フルスツロサム(Stereum frustulosum )IFO 4932等]、ガノデルマ属[ガノデルマ・アパラナツム(Ganoderma applanatum )IFO 6499等]、レンチテス属[レンチテス・ベツリナ(Lenzites betulina )IFO 8714等]、ホーメス属[ホーメス・ホメンタリウス(Fomes fomentarius )IFO 30371等]、ポロディスキュラス属[ポロディスキュラス・ペンデュラス(Porodisculus pendulus )IFO 4967等]、レンチヌス属[レンチヌス・エドデス(Lentinus edodes )IFO 31336、レンチヌス・レプリデウス(L. leprideus )IFO 7043等]、セルプラ属[セルプラ・ラクリムナス(Serpula lacrymnas )IFO 8697等]、プレイロータス属[プレイロータス・オスタレアヌス(Pleurotus ostreatus )IFO 8444等]等。上記白色腐朽菌は、単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても構わない。
【0020】
上記白色腐朽菌のなかでも、ファネロケーテ属及びトラメテス属に属する微生物の使用が好ましく、Phanerochaete sordida YK−624 ATCC 90872、Phanerochaete chrysosporium ATCC 34541(以上、ファネロケーテ属)、及びTrametes versicolor IFO 30340(トラメテス属)の使用が推奨される。
【0021】
また、本発明の分解対象となるエストロゲンは、アンドロスタンのC−19の核間メチル基が消失したC18ステロイドで、A環が芳香環であるホルモンを意味し、例えば、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン、17α−エストラジオール、メストラノール、ノルエチステロン、エストリオール、トランス−アンドステロン、シス−アンドステロン、エストロン−3−サルフェート、エストラジオール−3−サルフェート、エストリオール−3−サルフェート、エストロン−3−グルクロニド、エストラジオール−3−グルクロニド、エストリオール−3−グルクロニド、エストリオール−16α−グルクロニド等が挙げられる。本発明によれば、特に、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン、17α−エストラジオールを効率よく分解することができる。
【0022】
上記白色腐朽菌を用いてエストロゲンを分解処理するには、まず、白色腐朽菌を担子菌用培地に接種した後、所定時間培養する。使用する担子菌用培地は、エストロゲンの分解率向上という観点からすれば、培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度のいずれか一方が、窒素濃度:0.02〜0.2g/L、炭素濃度:0.5〜5g/Lの範囲に制限された制限培地で培養することが推奨され、例えばKirkの培地等といった低窒素合成培地の使用が好ましい。更に、培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度が上記範囲に低く制限されており、且つ、炭素濃度/窒素濃度が高められた培地を使用すれば、エストロゲンの分解効率は一層向上する。
【0023】
また、白色腐朽菌の接種濃度は、培地に対して0.01〜5%(好ましくは0.05〜0.5%)とすることが推奨される。
【0024】
培養条件は、使用する白色腐朽菌や培地の種類等によって異なるが、概ね、15〜40℃で約1〜14日間培養することが推奨される。
【0025】
この様にして得られた培養物(培地)に、分解対象であるエストロゲンを加えて分解処理する。添加するエストロゲンの濃度は、使用する白色腐朽菌やリグニン分解酵素の種類、白色腐朽菌の培養条件、分解対象であるエストロゲンの種類等によっても相違するが、概ね、最終濃度(培養物及びエストロゲンを加えた合計量に対する濃度)で、10−1〜10−20M(より好ましくは10−4〜10−10M)とすることが好ましい。
【0026】
本発明では、更にエストロゲンの分解効率を促進する目的で、培養基材として葉を含有する木質材料を用いることが推奨される。
【0027】
使用する木質材料の樹種は特に限定されず、街路樹、庭木、森林等に生育する一般的な樹木を使用すれば良い。具体的には、ケヤキ、クスノキ、ソメイヨシノ、シダレヤナギ、キンモクセイ、サザンカ、クロガネモチ、サンゴジュ、オオムラサキ、サツキ、イチョウ、アメリカフウ、ナンキンハゼ、マテバシ、イヌマキ等が挙げられる。
【0028】
使用に当たっては、これらの木質材料を微細に粉砕し、木粉、木材チッブ等とすることが推奨される。好ましいサイズは5cm以下、より好ましくは1cm以下、更により好ましくは0.5cm以下である。
【0029】
また、上記木質材料の廃棄物(例えば木くず等)も使用することができる。これらの廃棄物も上記の木と同じサイズに、微細粉砕したものを使用すれば良い。
【0030】
上記木質材料に添加する葉の種類は特に限定されず、上述した木等の葉を使用すれば良い。使用に当たっては、葉を微細に粉砕するが、好ましくは5cm以下、より好ましくは1cm以下、更により好ましくは0.5cm以下である。
【0031】
ここで、上記木質材料と葉の混合割合は、木質材料100質量部に対し、葉(乾燥質量)を0.1〜50質量部(好ましくは1〜20質量部)とすることが好ましい。0.1質量部以下では、所望の効果が得られない。一方、50質量部を超えて添加すると木質材料の割合が少なくなり、白色腐朽菌による分解能が低下する。尚、混合方法は特に限定されず、機械式ミキサー等を用いて混合すれば良い。
【0032】
本発明では、特に、葉も木質材料も含まれている剪定材の使用が推奨される。使用に当たっては、前述した比率になる様、適宜調整したものを用いれば良い。
【0033】
本発明において、葉の添加により、白色腐朽菌によるリグニン分解能が向上して結果的にエストロゲンが効率よく分解する理由は詳細には不明であるが、葉に含まれる成分により白色腐朽菌の生育が促進され、リグニン分解に関与する酵素の産生が促進されること等が考えられる。
【0034】
尚、培養基材として、葉を含有する木質材料(以下、葉を含有する木質材料を「培養基材」と呼ぶ場合がある)を用いてエストロゲンを処理する場合には、この培養基材に白色腐朽菌を接種して所定時間培養してから、エストロゲンを加えて分解処理しても良いし、或いは、予め、白色腐朽菌の培養物を上記培養基材に接種し、所定時間培養してから、エストロゲンを加えて分解処理してもよい。尚、白色腐朽菌によるエストロゲンの分解活性を長時間保持する目的で、培養中に、ポテト・グルコース培地やサブロー培地等の窒素源・炭素源が豊富な培地を適宜添加しても良い。
【0035】
ここで、白色腐朽菌の接種濃度は、培養基材に対し、0.01〜5質量%(好ましくは0.05〜0.5質量%)とすることが推奨される。
【0036】
また、培養条件は、使用する白色腐朽菌の種類;木質材料及び葉の種類や添加量等によっても相違するが、概ね、15〜40℃で約1〜4週間培養することが推奨される。これにより、所望の培養物が得られる。この培養物は、リグニン分解能に非常に優れており、エストロゲン分解能も高いものである。
【0037】
ここで特に重要なのは、本発明では、上記の木質材料と葉を含む培養基材を、堆肥化させる必要がないという点である。前述した特許文献2では、ブナ等の細破砕チップに、消石灰(0.6%)及び尿素(1%)を添加して水分を調整(含水率55%)し、堆肥化させており、堆肥化には少なくとも数ヶ月間かかると考えられるが、本発明では、木質材料に葉を添加した独特の培養基材を使用している為、この様な堆肥化工程は不要であり、僅かに約1〜4週間程度の短期間培養を行うだけで、リグニン分解能に極めて優れた前培養物が得られる。実際のところ、上記公報には、「この様にして得られる堆肥中には、ダイオキシンの前駆物質となり得るリグニンが残存している恐れがある」という理由で、「堆肥中に残存するリグニンを分解し、リグニンからのダイオキシン生成を防ぐことが好ましい」といった趣旨の記載がなされており、上記公報は、リグニンが完全に分解するまで、長期間堆肥化させる技術であることが認められる。これに対し、本発明では、リグニンの完全分解は不要であり、リグニンの分解能を活性化させる(リグニン分解代謝系の活性化)のに必要な程度の、短期間培養を行う技術であり、この点で、両者は明確に相違している。従って、本発明によれば、リグニン分解能の面でも、作業性(処理時間の短縮等)の面でも、非常に有用である。
【0038】
更に本発明では、上述した白色腐朽菌の培養物以外に、リグニン分解酵素も使用することができる。
【0039】
上記リグニン分解酵素としては、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)、ラッカーゼ(Lac)、及び/又はリグニンペルオキシダーゼ(LiP)が挙げられる。このリグニン分解酵素は、市販品を用いても良いし、上記白色腐朽菌が産生する酵素を用いてもよい。後者の場合、白色腐朽菌を液体培養し、リグニン分解酵素の産生が認められた培養液(粗酵素)をそのまま分離精製させることなく用いても良いし、或いは、当該培養液をイオン交換樹脂等により吸着させ、分離精製したものを用いてもよい。
【0040】
これらリグニン分解酵素のうち、1種または2種以上の酵素にエストロゲンを加え、15〜40℃で10分間〜12時間処理すると、エストロゲンを効率良く分解することができる。
【0041】
尚、上記リグニン分解酵素としてラッカーゼを用いる場合は、分解促進作用を有するメディエーターの共存下で処理すると、エストロゲンの分解能が促進される。その理由として、まず、ラッカーゼとメディエーターが反応し、メディエーターの酸化によって発生したラジカルがエストロゲンを酸化分解する為、エストロゲンの分解効率が上昇する為と考えられる。従って、上記メディエーターは、ラッカーゼと反応し、それ自身はラジカルとなる性質を備えた化合物であり、この様なメディエーターとして、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBT)、N−ヒドロキシ−N−フェニルアセトアミド、N−アセチル−N−フェニルヒドロキシアミン、ビオルル酸、N−ヒドロキシアセトアニリド、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォネート)、ベンゾトリアゾール、レマゾールブリリアントブルー、クロルプロマジン、1−ニトロソ−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、2−ニトロソ−1−ナフトール−4スルホン酸、3−ヒドロキアントラニル酸等が挙げられる。なかでも、分子内にN−ヒドロキシ、オキシム、N−オキシドの各構造を含有するメディエーターの使用が推奨され、特に、HBT若しくはその誘導体の使用が推奨される。
【0042】
ここで、酵素処理液中における上記メディエーターの濃度は、好ましくは0.05〜1mM(より好ましくは0.1〜0.5mM)とすることが推奨される。
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0044】
【実施例】
実施例1
本実施例では、培地中の窒素濃度若しくは炭素源濃度が、白色腐朽菌によるエストロゲンの分解能に及ぼす影響を調べる目的で、以下の実験を行なった。使用した培地A〜Dの組成は表1に示す通りである。このうち培地Aは、培地中の窒素濃度が0.03g/Lと低濃度に制限されているが、炭素濃度が約8.1g/Lと高濃度に高められた例;培地Bは、窒素濃度が0.03g/L、炭素濃度が約0.85g/Lと、いずれも低濃度に制限された例;培地Cは、窒素濃度が0.3g/L、炭素濃度が約8.5g/Lと、いずれも高濃度の例;培地Dは、窒素濃度は0.3g/Lと高いが、炭素濃度が1.3g/Lと低く制限されている例である。
【0045】
まず、200 ml容三角フラスコに上記の培地A〜Dを30mlずつ加え、120℃で15分間加熱滅菌した後、カワラタケ(Trametes versicolor IFO 30340)を接種し(接種濃度0.1%)、30℃で5日間培養した。この様にして得られた各培養液を二つに分け、17β−エストラジオール(10−5M)、若しくはエチニルエストラジオール(10−5M)を添加し、更に2日間静置培養した。培養後、各培養液をHPLC分析に供し、当該培養液中に残存する17β−エストラジオール又はエチニルエストラジオールの濃度を測定し、各エストロゲンの分解率を算出した。尚、HPLC分析は、カラムとしてWakosil−II 5C18HG(φ4.6 mm ×250 mm)を用い、溶離液:1%酢酸を含有する50%アセトニトリル溶液、流速:1.0 ml/分、検出波長は285 nmとした。
【0046】
これらの結果を表1に併記する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、各エストロゲンの分解率は、窒素濃度及び炭素濃度の双方が高い培地Cを用いた場合に最も低くなり、これらの濃度がいずれも低く制限された培地Bを用いると概ね10%高められたが、分解率の程度はせいぜい、70%程度に止まっていた。これに対し、窒素濃度が制限されて炭素濃度が高い制限培地A、及び炭素濃度が制限されて窒素濃度が高い制限培地Dを用いた場合には、17β−エストラジオール及びエチニルエストラジオールの分解率はいずれも90%以上と高められ、特に培地Aを用いると、いずれのエストロゲンをも完全に分解することができた。
【0049】
実施例2
本実施例では、培養基材として、葉を含有する木質材料を使用した場合における、白色腐朽菌によるエストロゲンの分解能を調べる目的で、以下の実験を行なった。
【0050】
まず、葉を含有する剪定材の粗粉砕物10 g(木質材料に対し、葉を乾燥重量で10%含むもの)に、実施例1で用いた表1の培地Aを25 ml加え、120℃で15分間加熱滅菌した後、Phanerochaete sordida YK−624株 (ATCC 90872)又はカワラタケ(Trametes versicolor IFO 30340)を接種し、30℃で14日間培養した。培養後、50 mMマロン酸緩衝液(pH 4.5) 250 mlを加え、高速ワーリングブレンダーで撹拌した。この様にして得られた各懸濁液中に、6種類のエストロゲン、即ち、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン及び17α−エストラジオールを最終濃度で10−5 Mとなる様に添加し、30℃で24時間、振盪培養(150 rpm)した。次に、実施例1と同じ方法で、処理液中に残存する各種エストロゲンをHPLCで定量し、分解率を算出した。尚、比較の為に、葉を含有しない剪定材の粗粉砕物を用い、上記と同じ実験を行ったときの各種エストロゲンの分解率を調べた。
【0051】
得られた結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2より、葉を含有する剪定材を用いた場合は、葉を含有しない剪定材に比べ、いずれの白色腐朽菌で処理しても、実施例に供したエストロゲンの分解率は全て、格段に向上することが分かる。特に葉を含有する剪定材を用い、Phanerochaete sordida YK−624株で処理した場合には、24時間の処理によって全てのエストロゲンを完全に分解できることが分かった。
【0054】
実施例3
本実施例では、前記実施例2におけるエストロゲン活性を調べた。エストロゲン活性が0になるということは、生体に及ぼすエストロゲンの影響がなくなって無毒化されることを意味している。
【0055】
具体的には、葉を含有する剪定材の粗砕物にP. sordidaYK−624株(ATCC 90872)を接種し、実施例2と同じ条件で6種のエストロゲンを添加して処理した後、処理液中の各種エストロゲン活性をTwo−Hybrid法により確認した。尚、対照群として、白色腐朽菌を接種していない剪定材の粉砕物にエストロゲンを添加して同様に処理した未処理液も用意した。具体的なアッセイ方法は以下の通りである。
【0056】
まず、組換え体酵母(Saccharomyces cerevisiae)を1 mlのSD培地[Minimal SD Base(クローンテック社製)2.67%にロイシン(−)/トリプトファン(−)DO Supplement(クローンテック社製)0.064%含有]に接種し、30℃で12時間前培養した。この様にして得られた前培養液50 μlに、SD培地200 μl、及び被験試料(上記のエストロゲン処理液および未処理液)2.5 μlを加え、50 rpmにて30℃で4時間回転培養した。この様にして得られた培養液のうち、150 μlを採取し、600 nmの吸光度から菌体量を測定した。残りの培養液100 μlは遠心分離(15000 rpm、5分間)にかけ、得られた菌体にZymolyase 20T溶液(200 μl)を加えて15分間静置し、細胞壁を溶解させた後、o−nitrophenyl−b−galactopyranoside溶液(40 μl)を加えて30分間反応させた。次いで、1 N のNa2CO3(100 μl)で反応を停止させた後、遠心分離(15000 rpm、5分間)し、420 nmおよび550 nmにおける吸光度を夫々、測定し、下式に基づいて、エストロゲン処理液中及び未処理液中のβ−ガラクトシダーゼ活性(U)を夫々、算出した。
【0057】
β−ガラクトシダーゼ活性(U)=(OD420−1.75OD550)×103/(t×v×OD600)
t=30 (min),v = 0.05 (ml)
エストロゲン処理前(エストロゲン未処理液)のβ−ガラクトシダーゼ活性を100%としたときの、エストロゲン処理後(エストロゲン処理液)のβ−ガラクトシダーゼ活性を%で表わすことにより、エストロゲン処理後のエストロゲン活性[相対エストロゲン活性(%)]を算出した。
【0058】
得られた結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3より、葉を含有する剪定材で処理すれば、各種エストロゲンを効率よく分解できるのみならず、当該エストロゲンのエストロゲン活性も完全に除去できることが分かる。
【0061】
実施例4
本実施例では、白色腐朽菌由来のリグニン分解酵素によるエストロゲンの分解能を調べた。
【0062】
リグニン分解酵素として、Phanerochaete chrysosporium ATCC 34541由来のマンガンペルオキシダーゼ(MnP)又はカワラタケ(Trametes versicolor IFO 30340)由来のラッカーゼ(Lac)を用い、表4に示す酵素処理条件下で、5種のエストロゲン(17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、エストロン及びヘキサステロール)を処理した。尚、ラッカーゼを用いる場合は、メディエーターとして1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBT)の共存効果を調べる目的で、HBTの共存系及び非共存系の2種類について、同じ実験を行った。尚、処理時間は、経時的変化を調べる目的で、15分、30分、60分、120分とした。
【0063】
上記の各処理後、実施例1と同じ方法により、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、エストロン及びヘキサストロールの分解率をHPLCで定量すると共に、実施例3と同じ方法により、エストロゲン活性も測定した。尚、本実施例では、処理時間を最大8時間として、経時的にβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。
【0064】
これらの結果を表5及び6、並びに図1〜5に示す。
【0065】
このうち表5には、ラッカーゼでエストロゲンを処理する際のメディエーターの影響を調べた結果を示し、表6には、MnP及びLac(HBT共存下)でエストロゲンを処理したときの分解率を示す。また、図1〜5に夫々、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、エストロン及びヘキサストロールの相対エストロゲン活性の経時的推移を示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
これらの結果より、以下の様に考察することができる。
【0070】
まず、表5より、リグニン分解酵素としてラッカーゼを用いる場合、HBTを共存させると、実験に供したエストロゲンの分解率はいずれも、HBTを共存させない場合に比べて著しく上昇した。
【0071】
また、表6より、MnP、若しくはHBT共存下でのラッカーゼ(Lac/HBT)で処理した場合はいずれも、少なくとも処理後60分で、全てのエストロゲンを完全に分解することができた。特にジエチルスチルベストロールは、いずれの酵素を用いた場合でも、処理後僅か15分間で完全に分解することができた。
【0072】
尚、上述したエストロゲンの分解結果は、相対エストロゲン活性の結果とも密接に相関している。即ち、図1〜2、図4〜5より、1時間のMnP処理、またはLac/HBT処理により、これらの相対エストロゲン活性は80%以上が失活しており、処理後2〜8時間で、完全に分解して無毒化されることが分かる。また、図3に示す通り、ジエチルスチルベストロールについては、処理1時間で相対エストロゲン活性は完全に消失している。
【0073】
これら一連の結果より、エストロゲンはリグニン分解酵素によって極めて効率的に分解し、無毒化されることが分かる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いることにより、エストロゲンを効率よく分解し、無毒化することができるので、人畜の尿を介して自然界に排出される難分解性エストロゲンで汚染された環境を浄化するうえで極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例4において、17β−エストラジオールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図2】実施例4において、エチニルエストラジオールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図3】実施例4において、ジエチルスチルベストロールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図4】実施例4において、エストロンを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図5】実施例4において、ヘキサストロールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、エストロゲンを効率よく分解し、無毒化することのできる新規な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、世界各地で生物の生殖異常が報告されているが、これには内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の関与が指摘されている。内分泌撹乱物質は生体内でホルモン様物質として作用することから、従来の環境汚染物質とは比較にならない程、極く微量で生物の発生・分化に多大な影響を及ぼしており、更には胎児期の極く短期間に作用するだけで永続的な生殖異常をもたらす為、次世代への影響が強く懸念されている。
【0003】
この様な背景のもと、環境省は、内分泌撹乱作用をもたらす疑いがある化学物質として、ビスフェノールAやノニルフェノールを含む合計65物質を挙げているが、その他に、人畜の尿を介して自然界に排出される17β−エストラジオール(天然女性ホルモン)、経口避妊薬(ピル)の主成分であるエチニルエストラジオール(合成女性ホルモン)、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン、17α−エストラジオール等のエストロゲンについても、水生生物等に及ぼす内分泌撹乱作用を無視できないと指摘している(環境庁内分泌撹乱物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画SPEED’98−)。また、これらエストロゲン自体によるエストロゲン活性を、ビスフェノールA及びノニルフェノールのエストロゲン様活性と比較した研究では、上記エストロゲンはいずれも、ビスフェノールAの約10万倍、ノニルフェノールの約1万倍ものエストロゲン活性を示すことが報告されている[中室ら, 水環学会誌, 25, 355−360 (2002)]。従って、今後、エストロゲンによる環境汚染は益々顕在化していくと考えられる。
【0004】
そこで、これらエストロゲンを分解する方法について研究が進められている。このうち17β−エストラジオール(天然女性ホルモン)の生分解性については幾つかの研究報告がなされており、例えば下水処理場の活性汚泥中に生育する微生物や、活性汚泥中から単離されたNovosphingobium属細菌によって分解されることが報告されている(Ternesら、Sci. Total Environ., 225, 91−99 (1999):Fujiiら, Appl. Environ. Microbiol., 68, 2057−2060 (2002))。ところがその一方で、活性汚泥処理による方法は、17β−エストラジオールそのものを分解するのではなく、当該化合物が活性汚泥に吸着して活性が減少するという報告(Pentreathら, Environment Agency, London, UK, 1997, p. 39:Routledgeら, Environ. Sci. Technol., 33, 371 (1999))もなされており、上記方法によって17β−エストラジオール自体が生分解され得るのか否かについて、議論が分かれている。
【0005】
また、経口避妊薬の主成分であるエチニルエストラジオールについては、前述のNovosphingobium属細菌による分解も認められず、活性汚泥処理では極めて分解され難いと考えられている。
【0006】
そこで本発明者らは、木材腐朽菌の一種である白色腐朽菌に着目して研究を進めてきた。白色腐朽菌については以下に記載する通り、ダイオキシン類等の芳香族ハロゲン化合物を分解することは報告されているが、エストロゲン分解能については、未だ検討されていないからである。
【0007】
木材腐朽菌は、様々な環境汚染物質に対する分解能を有する微生物として注目されており、木材腐朽菌の一種である白色腐朽菌は、菌体外に産生されるフェノール酸化酵素により、天然の難分解性物質であるリグニンの分解能に優れることが知られている。白色腐朽菌の中で最も研究されているのはファネロケーテ属(Phanerochaete)に属するファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)であり、上記微生物により、塩素置換数が4個以上のダイオキシン類を分解できることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、上記非特許文献1には、白色腐朽菌によるエストロゲン分解能については、全く記載されていない。
【0008】
一方、白色腐朽菌を用いた汚染土壌浄化方法として、樹木の木質材料(木材チッブ、おがくず、木粉等)に白色腐朽菌を接種して培養し、汚染土壌を浄化する方法が提案されている。
【0009】
例えば特許文献1には、白色腐朽菌等の微生物による有機化合物分解活性を高める目的で、木質物質を添加した基質の使用が提案されている。使用する木質物質としては、木材(木粉、木材チッブ等)や、木質性廃棄物(藁、木くず等)が例示されており、具体的には、ブナ木粉を添加した実施例が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、担子菌によってコンポスト化(堆肥化)された木材を用いたダイオキシン汚染土壌の浄化方法が提案されており、コンポスト化に用いられる木材として、スギ、ヒノキ、マツ、カシ、シイ等のほか、雑木、剪定枝葉、刈り草などが挙げられている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の方法は、あくまでも、これらの木材を堆肥化させて使用することを前提としている為、堆肥化に必要な飼料(消石灰、尿素等)を添加して長期間発酵させなければならない等、作業性等の点で問題がある。
【0012】
また、これらの特許文献を精査しても、上記方法によってエストロゲンを分解できることは開示も示唆もされていない。
【0013】
【非特許文献1】
バンパス(Bumpus)ら,白色腐朽菌ファネロケーテ・クリソスポリウムによる難分解性環境汚染物質の酸化(Oxidation of Persistent Environmental Pollutants by a White Rot Fungus Phanerochaete chrysosporium,サイエンス(Science),米国,1985年,第228号,p.1434
【特許文献1】
特開2000−186272号公報(特許請求の範囲、第3〜4頁)
【特許文献2】
特開2000−107742号公報(特許請求の範囲、第2〜3頁)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エストロゲンを効率良く分解し、無毒化することが可能な新規な方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決する為の手段】
上記課題を解決し得た本発明に係るエストロゲンの分解方法は、白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いるところに要旨を有するものである。
【0016】
ここで、培養基材として、葉を含有する木質材料(好ましくは葉を含有する剪定材)を、堆肥化させることなしに使用すれば、エストロゲンの分解率が一層向上する。また、白色腐朽菌の培養に当たっては、培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度のいずれか一方が、窒素濃度:0.02〜0.2g/L、炭素濃度:0.5〜5g/Lの範囲に制限された制限培地で培養することが推奨される。
【0017】
また、本発明に用いられるリグニン分解酵素としては、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、及び/又はリグニンペルオキシダーゼの使用が推奨される。尚、ラッカーゼを用いる場合は、分解促進作用を有するメディエーターの共存下でエストロゲンを処理すると、分解効率が更に上昇する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、エストロゲンを効率良く分解し、無毒化し得る方法について鋭意検討してきた。その結果、エストロゲンを、白色腐朽菌または該リグニン分解酵素で処理すれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明に用いられる白色腐朽菌は、リグニン分解能力を有する白色腐朽菌であれば全て使用可能であり、例えば、以下に列挙する属に属する微生物が例示される:ファネロケーテ属[ファネロケーテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida )YK−624 ATCC 90872、ファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium )ATCC 34541等]、トラメテス属[トラメテス・ベルシカラ(Trametes versicolor )IFO 30340等]、ポリポラス属[ポリポラス・ミカドイ(Polyporus mikadoi )IFO 6517等]、ステレウム属[ステレウム・フルスツロサム(Stereum frustulosum )IFO 4932等]、ガノデルマ属[ガノデルマ・アパラナツム(Ganoderma applanatum )IFO 6499等]、レンチテス属[レンチテス・ベツリナ(Lenzites betulina )IFO 8714等]、ホーメス属[ホーメス・ホメンタリウス(Fomes fomentarius )IFO 30371等]、ポロディスキュラス属[ポロディスキュラス・ペンデュラス(Porodisculus pendulus )IFO 4967等]、レンチヌス属[レンチヌス・エドデス(Lentinus edodes )IFO 31336、レンチヌス・レプリデウス(L. leprideus )IFO 7043等]、セルプラ属[セルプラ・ラクリムナス(Serpula lacrymnas )IFO 8697等]、プレイロータス属[プレイロータス・オスタレアヌス(Pleurotus ostreatus )IFO 8444等]等。上記白色腐朽菌は、単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても構わない。
【0020】
上記白色腐朽菌のなかでも、ファネロケーテ属及びトラメテス属に属する微生物の使用が好ましく、Phanerochaete sordida YK−624 ATCC 90872、Phanerochaete chrysosporium ATCC 34541(以上、ファネロケーテ属)、及びTrametes versicolor IFO 30340(トラメテス属)の使用が推奨される。
【0021】
また、本発明の分解対象となるエストロゲンは、アンドロスタンのC−19の核間メチル基が消失したC18ステロイドで、A環が芳香環であるホルモンを意味し、例えば、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン、17α−エストラジオール、メストラノール、ノルエチステロン、エストリオール、トランス−アンドステロン、シス−アンドステロン、エストロン−3−サルフェート、エストラジオール−3−サルフェート、エストリオール−3−サルフェート、エストロン−3−グルクロニド、エストラジオール−3−グルクロニド、エストリオール−3−グルクロニド、エストリオール−16α−グルクロニド等が挙げられる。本発明によれば、特に、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン、17α−エストラジオールを効率よく分解することができる。
【0022】
上記白色腐朽菌を用いてエストロゲンを分解処理するには、まず、白色腐朽菌を担子菌用培地に接種した後、所定時間培養する。使用する担子菌用培地は、エストロゲンの分解率向上という観点からすれば、培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度のいずれか一方が、窒素濃度:0.02〜0.2g/L、炭素濃度:0.5〜5g/Lの範囲に制限された制限培地で培養することが推奨され、例えばKirkの培地等といった低窒素合成培地の使用が好ましい。更に、培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度が上記範囲に低く制限されており、且つ、炭素濃度/窒素濃度が高められた培地を使用すれば、エストロゲンの分解効率は一層向上する。
【0023】
また、白色腐朽菌の接種濃度は、培地に対して0.01〜5%(好ましくは0.05〜0.5%)とすることが推奨される。
【0024】
培養条件は、使用する白色腐朽菌や培地の種類等によって異なるが、概ね、15〜40℃で約1〜14日間培養することが推奨される。
【0025】
この様にして得られた培養物(培地)に、分解対象であるエストロゲンを加えて分解処理する。添加するエストロゲンの濃度は、使用する白色腐朽菌やリグニン分解酵素の種類、白色腐朽菌の培養条件、分解対象であるエストロゲンの種類等によっても相違するが、概ね、最終濃度(培養物及びエストロゲンを加えた合計量に対する濃度)で、10−1〜10−20M(より好ましくは10−4〜10−10M)とすることが好ましい。
【0026】
本発明では、更にエストロゲンの分解効率を促進する目的で、培養基材として葉を含有する木質材料を用いることが推奨される。
【0027】
使用する木質材料の樹種は特に限定されず、街路樹、庭木、森林等に生育する一般的な樹木を使用すれば良い。具体的には、ケヤキ、クスノキ、ソメイヨシノ、シダレヤナギ、キンモクセイ、サザンカ、クロガネモチ、サンゴジュ、オオムラサキ、サツキ、イチョウ、アメリカフウ、ナンキンハゼ、マテバシ、イヌマキ等が挙げられる。
【0028】
使用に当たっては、これらの木質材料を微細に粉砕し、木粉、木材チッブ等とすることが推奨される。好ましいサイズは5cm以下、より好ましくは1cm以下、更により好ましくは0.5cm以下である。
【0029】
また、上記木質材料の廃棄物(例えば木くず等)も使用することができる。これらの廃棄物も上記の木と同じサイズに、微細粉砕したものを使用すれば良い。
【0030】
上記木質材料に添加する葉の種類は特に限定されず、上述した木等の葉を使用すれば良い。使用に当たっては、葉を微細に粉砕するが、好ましくは5cm以下、より好ましくは1cm以下、更により好ましくは0.5cm以下である。
【0031】
ここで、上記木質材料と葉の混合割合は、木質材料100質量部に対し、葉(乾燥質量)を0.1〜50質量部(好ましくは1〜20質量部)とすることが好ましい。0.1質量部以下では、所望の効果が得られない。一方、50質量部を超えて添加すると木質材料の割合が少なくなり、白色腐朽菌による分解能が低下する。尚、混合方法は特に限定されず、機械式ミキサー等を用いて混合すれば良い。
【0032】
本発明では、特に、葉も木質材料も含まれている剪定材の使用が推奨される。使用に当たっては、前述した比率になる様、適宜調整したものを用いれば良い。
【0033】
本発明において、葉の添加により、白色腐朽菌によるリグニン分解能が向上して結果的にエストロゲンが効率よく分解する理由は詳細には不明であるが、葉に含まれる成分により白色腐朽菌の生育が促進され、リグニン分解に関与する酵素の産生が促進されること等が考えられる。
【0034】
尚、培養基材として、葉を含有する木質材料(以下、葉を含有する木質材料を「培養基材」と呼ぶ場合がある)を用いてエストロゲンを処理する場合には、この培養基材に白色腐朽菌を接種して所定時間培養してから、エストロゲンを加えて分解処理しても良いし、或いは、予め、白色腐朽菌の培養物を上記培養基材に接種し、所定時間培養してから、エストロゲンを加えて分解処理してもよい。尚、白色腐朽菌によるエストロゲンの分解活性を長時間保持する目的で、培養中に、ポテト・グルコース培地やサブロー培地等の窒素源・炭素源が豊富な培地を適宜添加しても良い。
【0035】
ここで、白色腐朽菌の接種濃度は、培養基材に対し、0.01〜5質量%(好ましくは0.05〜0.5質量%)とすることが推奨される。
【0036】
また、培養条件は、使用する白色腐朽菌の種類;木質材料及び葉の種類や添加量等によっても相違するが、概ね、15〜40℃で約1〜4週間培養することが推奨される。これにより、所望の培養物が得られる。この培養物は、リグニン分解能に非常に優れており、エストロゲン分解能も高いものである。
【0037】
ここで特に重要なのは、本発明では、上記の木質材料と葉を含む培養基材を、堆肥化させる必要がないという点である。前述した特許文献2では、ブナ等の細破砕チップに、消石灰(0.6%)及び尿素(1%)を添加して水分を調整(含水率55%)し、堆肥化させており、堆肥化には少なくとも数ヶ月間かかると考えられるが、本発明では、木質材料に葉を添加した独特の培養基材を使用している為、この様な堆肥化工程は不要であり、僅かに約1〜4週間程度の短期間培養を行うだけで、リグニン分解能に極めて優れた前培養物が得られる。実際のところ、上記公報には、「この様にして得られる堆肥中には、ダイオキシンの前駆物質となり得るリグニンが残存している恐れがある」という理由で、「堆肥中に残存するリグニンを分解し、リグニンからのダイオキシン生成を防ぐことが好ましい」といった趣旨の記載がなされており、上記公報は、リグニンが完全に分解するまで、長期間堆肥化させる技術であることが認められる。これに対し、本発明では、リグニンの完全分解は不要であり、リグニンの分解能を活性化させる(リグニン分解代謝系の活性化)のに必要な程度の、短期間培養を行う技術であり、この点で、両者は明確に相違している。従って、本発明によれば、リグニン分解能の面でも、作業性(処理時間の短縮等)の面でも、非常に有用である。
【0038】
更に本発明では、上述した白色腐朽菌の培養物以外に、リグニン分解酵素も使用することができる。
【0039】
上記リグニン分解酵素としては、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)、ラッカーゼ(Lac)、及び/又はリグニンペルオキシダーゼ(LiP)が挙げられる。このリグニン分解酵素は、市販品を用いても良いし、上記白色腐朽菌が産生する酵素を用いてもよい。後者の場合、白色腐朽菌を液体培養し、リグニン分解酵素の産生が認められた培養液(粗酵素)をそのまま分離精製させることなく用いても良いし、或いは、当該培養液をイオン交換樹脂等により吸着させ、分離精製したものを用いてもよい。
【0040】
これらリグニン分解酵素のうち、1種または2種以上の酵素にエストロゲンを加え、15〜40℃で10分間〜12時間処理すると、エストロゲンを効率良く分解することができる。
【0041】
尚、上記リグニン分解酵素としてラッカーゼを用いる場合は、分解促進作用を有するメディエーターの共存下で処理すると、エストロゲンの分解能が促進される。その理由として、まず、ラッカーゼとメディエーターが反応し、メディエーターの酸化によって発生したラジカルがエストロゲンを酸化分解する為、エストロゲンの分解効率が上昇する為と考えられる。従って、上記メディエーターは、ラッカーゼと反応し、それ自身はラジカルとなる性質を備えた化合物であり、この様なメディエーターとして、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBT)、N−ヒドロキシ−N−フェニルアセトアミド、N−アセチル−N−フェニルヒドロキシアミン、ビオルル酸、N−ヒドロキシアセトアニリド、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルフォネート)、ベンゾトリアゾール、レマゾールブリリアントブルー、クロルプロマジン、1−ニトロソ−ナフトール−3,6−ジスルホン酸、2−ニトロソ−1−ナフトール−4スルホン酸、3−ヒドロキアントラニル酸等が挙げられる。なかでも、分子内にN−ヒドロキシ、オキシム、N−オキシドの各構造を含有するメディエーターの使用が推奨され、特に、HBT若しくはその誘導体の使用が推奨される。
【0042】
ここで、酵素処理液中における上記メディエーターの濃度は、好ましくは0.05〜1mM(より好ましくは0.1〜0.5mM)とすることが推奨される。
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0044】
【実施例】
実施例1
本実施例では、培地中の窒素濃度若しくは炭素源濃度が、白色腐朽菌によるエストロゲンの分解能に及ぼす影響を調べる目的で、以下の実験を行なった。使用した培地A〜Dの組成は表1に示す通りである。このうち培地Aは、培地中の窒素濃度が0.03g/Lと低濃度に制限されているが、炭素濃度が約8.1g/Lと高濃度に高められた例;培地Bは、窒素濃度が0.03g/L、炭素濃度が約0.85g/Lと、いずれも低濃度に制限された例;培地Cは、窒素濃度が0.3g/L、炭素濃度が約8.5g/Lと、いずれも高濃度の例;培地Dは、窒素濃度は0.3g/Lと高いが、炭素濃度が1.3g/Lと低く制限されている例である。
【0045】
まず、200 ml容三角フラスコに上記の培地A〜Dを30mlずつ加え、120℃で15分間加熱滅菌した後、カワラタケ(Trametes versicolor IFO 30340)を接種し(接種濃度0.1%)、30℃で5日間培養した。この様にして得られた各培養液を二つに分け、17β−エストラジオール(10−5M)、若しくはエチニルエストラジオール(10−5M)を添加し、更に2日間静置培養した。培養後、各培養液をHPLC分析に供し、当該培養液中に残存する17β−エストラジオール又はエチニルエストラジオールの濃度を測定し、各エストロゲンの分解率を算出した。尚、HPLC分析は、カラムとしてWakosil−II 5C18HG(φ4.6 mm ×250 mm)を用い、溶離液:1%酢酸を含有する50%アセトニトリル溶液、流速:1.0 ml/分、検出波長は285 nmとした。
【0046】
これらの結果を表1に併記する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、各エストロゲンの分解率は、窒素濃度及び炭素濃度の双方が高い培地Cを用いた場合に最も低くなり、これらの濃度がいずれも低く制限された培地Bを用いると概ね10%高められたが、分解率の程度はせいぜい、70%程度に止まっていた。これに対し、窒素濃度が制限されて炭素濃度が高い制限培地A、及び炭素濃度が制限されて窒素濃度が高い制限培地Dを用いた場合には、17β−エストラジオール及びエチニルエストラジオールの分解率はいずれも90%以上と高められ、特に培地Aを用いると、いずれのエストロゲンをも完全に分解することができた。
【0049】
実施例2
本実施例では、培養基材として、葉を含有する木質材料を使用した場合における、白色腐朽菌によるエストロゲンの分解能を調べる目的で、以下の実験を行なった。
【0050】
まず、葉を含有する剪定材の粗粉砕物10 g(木質材料に対し、葉を乾燥重量で10%含むもの)に、実施例1で用いた表1の培地Aを25 ml加え、120℃で15分間加熱滅菌した後、Phanerochaete sordida YK−624株 (ATCC 90872)又はカワラタケ(Trametes versicolor IFO 30340)を接種し、30℃で14日間培養した。培養後、50 mMマロン酸緩衝液(pH 4.5) 250 mlを加え、高速ワーリングブレンダーで撹拌した。この様にして得られた各懸濁液中に、6種類のエストロゲン、即ち、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ヘキセステロール、エストロン及び17α−エストラジオールを最終濃度で10−5 Mとなる様に添加し、30℃で24時間、振盪培養(150 rpm)した。次に、実施例1と同じ方法で、処理液中に残存する各種エストロゲンをHPLCで定量し、分解率を算出した。尚、比較の為に、葉を含有しない剪定材の粗粉砕物を用い、上記と同じ実験を行ったときの各種エストロゲンの分解率を調べた。
【0051】
得られた結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2より、葉を含有する剪定材を用いた場合は、葉を含有しない剪定材に比べ、いずれの白色腐朽菌で処理しても、実施例に供したエストロゲンの分解率は全て、格段に向上することが分かる。特に葉を含有する剪定材を用い、Phanerochaete sordida YK−624株で処理した場合には、24時間の処理によって全てのエストロゲンを完全に分解できることが分かった。
【0054】
実施例3
本実施例では、前記実施例2におけるエストロゲン活性を調べた。エストロゲン活性が0になるということは、生体に及ぼすエストロゲンの影響がなくなって無毒化されることを意味している。
【0055】
具体的には、葉を含有する剪定材の粗砕物にP. sordidaYK−624株(ATCC 90872)を接種し、実施例2と同じ条件で6種のエストロゲンを添加して処理した後、処理液中の各種エストロゲン活性をTwo−Hybrid法により確認した。尚、対照群として、白色腐朽菌を接種していない剪定材の粉砕物にエストロゲンを添加して同様に処理した未処理液も用意した。具体的なアッセイ方法は以下の通りである。
【0056】
まず、組換え体酵母(Saccharomyces cerevisiae)を1 mlのSD培地[Minimal SD Base(クローンテック社製)2.67%にロイシン(−)/トリプトファン(−)DO Supplement(クローンテック社製)0.064%含有]に接種し、30℃で12時間前培養した。この様にして得られた前培養液50 μlに、SD培地200 μl、及び被験試料(上記のエストロゲン処理液および未処理液)2.5 μlを加え、50 rpmにて30℃で4時間回転培養した。この様にして得られた培養液のうち、150 μlを採取し、600 nmの吸光度から菌体量を測定した。残りの培養液100 μlは遠心分離(15000 rpm、5分間)にかけ、得られた菌体にZymolyase 20T溶液(200 μl)を加えて15分間静置し、細胞壁を溶解させた後、o−nitrophenyl−b−galactopyranoside溶液(40 μl)を加えて30分間反応させた。次いで、1 N のNa2CO3(100 μl)で反応を停止させた後、遠心分離(15000 rpm、5分間)し、420 nmおよび550 nmにおける吸光度を夫々、測定し、下式に基づいて、エストロゲン処理液中及び未処理液中のβ−ガラクトシダーゼ活性(U)を夫々、算出した。
【0057】
β−ガラクトシダーゼ活性(U)=(OD420−1.75OD550)×103/(t×v×OD600)
t=30 (min),v = 0.05 (ml)
エストロゲン処理前(エストロゲン未処理液)のβ−ガラクトシダーゼ活性を100%としたときの、エストロゲン処理後(エストロゲン処理液)のβ−ガラクトシダーゼ活性を%で表わすことにより、エストロゲン処理後のエストロゲン活性[相対エストロゲン活性(%)]を算出した。
【0058】
得られた結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3より、葉を含有する剪定材で処理すれば、各種エストロゲンを効率よく分解できるのみならず、当該エストロゲンのエストロゲン活性も完全に除去できることが分かる。
【0061】
実施例4
本実施例では、白色腐朽菌由来のリグニン分解酵素によるエストロゲンの分解能を調べた。
【0062】
リグニン分解酵素として、Phanerochaete chrysosporium ATCC 34541由来のマンガンペルオキシダーゼ(MnP)又はカワラタケ(Trametes versicolor IFO 30340)由来のラッカーゼ(Lac)を用い、表4に示す酵素処理条件下で、5種のエストロゲン(17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、エストロン及びヘキサステロール)を処理した。尚、ラッカーゼを用いる場合は、メディエーターとして1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBT)の共存効果を調べる目的で、HBTの共存系及び非共存系の2種類について、同じ実験を行った。尚、処理時間は、経時的変化を調べる目的で、15分、30分、60分、120分とした。
【0063】
上記の各処理後、実施例1と同じ方法により、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、エストロン及びヘキサストロールの分解率をHPLCで定量すると共に、実施例3と同じ方法により、エストロゲン活性も測定した。尚、本実施例では、処理時間を最大8時間として、経時的にβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。
【0064】
これらの結果を表5及び6、並びに図1〜5に示す。
【0065】
このうち表5には、ラッカーゼでエストロゲンを処理する際のメディエーターの影響を調べた結果を示し、表6には、MnP及びLac(HBT共存下)でエストロゲンを処理したときの分解率を示す。また、図1〜5に夫々、17β−エストラジオール、エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、エストロン及びヘキサストロールの相対エストロゲン活性の経時的推移を示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
これらの結果より、以下の様に考察することができる。
【0070】
まず、表5より、リグニン分解酵素としてラッカーゼを用いる場合、HBTを共存させると、実験に供したエストロゲンの分解率はいずれも、HBTを共存させない場合に比べて著しく上昇した。
【0071】
また、表6より、MnP、若しくはHBT共存下でのラッカーゼ(Lac/HBT)で処理した場合はいずれも、少なくとも処理後60分で、全てのエストロゲンを完全に分解することができた。特にジエチルスチルベストロールは、いずれの酵素を用いた場合でも、処理後僅か15分間で完全に分解することができた。
【0072】
尚、上述したエストロゲンの分解結果は、相対エストロゲン活性の結果とも密接に相関している。即ち、図1〜2、図4〜5より、1時間のMnP処理、またはLac/HBT処理により、これらの相対エストロゲン活性は80%以上が失活しており、処理後2〜8時間で、完全に分解して無毒化されることが分かる。また、図3に示す通り、ジエチルスチルベストロールについては、処理1時間で相対エストロゲン活性は完全に消失している。
【0073】
これら一連の結果より、エストロゲンはリグニン分解酵素によって極めて効率的に分解し、無毒化されることが分かる。
【0074】
【発明の効果】
本発明によれば、白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いることにより、エストロゲンを効率よく分解し、無毒化することができるので、人畜の尿を介して自然界に排出される難分解性エストロゲンで汚染された環境を浄化するうえで極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例4において、17β−エストラジオールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図2】実施例4において、エチニルエストラジオールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図3】実施例4において、ジエチルスチルベストロールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図4】実施例4において、エストロンを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
【図5】実施例4において、ヘキサストロールを、MnPまたはLac/HBTで処理したときの相対エストロゲン活性の経時的推移を示すグラフである。
Claims (6)
- 白色腐朽菌、及び/又はリグニン分解酵素を用いることを特徴とするエストロゲンの分解方法。
- 培養基材として、葉を含有する木質材料を、堆肥化させることなしに使用するものである請求項1に記載の分解方法。
- 前記葉を含有する木質材料は、剪定材である請求項2に記載の分解方法。
- 培地中の窒素濃度若しくは炭素濃度のいずれか一方が、窒素濃度:0.02〜0.2g/L、炭素濃度:0.5〜5g/Lの範囲に制限された制限培地で白色腐朽菌を培養するものである請求項1〜3のいずれかに記載の分解方法。
- 前記リグニン分解酵素は、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、及び/又はリグニンペルオキシダーゼである請求項1〜4のいずれかに記載の分解方法。
- 前記ラッカーゼに、分解促進作用を有するメディエーターを共存させるものである請求項5に記載の分解方法。
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